(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】有機物処理装置、バイオガス生成システム及び汚水加熱装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/02 20230101AFI20240131BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20240131BHJP
【FI】
C02F1/02 B
C02F3/28 A
(21)【出願番号】P 2019232863
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】角吉 弘憲
(72)【発明者】
【氏名】飯野 浩成
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-195421(JP,A)
【文献】特開2004-290779(JP,A)
【文献】特開平09-187792(JP,A)
【文献】特開2003-117526(JP,A)
【文献】特開2008-055423(JP,A)
【文献】米国特許第04885094(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/02- 1/18
C02F 3/00- 3/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のコイルヒータを備える加熱室及び前記加熱室の後段の整流室を槽本体の内部に含む汚水加熱装置と、
前記汚水加熱装置の後段に接続され、微生物を用いて有機物を分解する汚泥可溶化装置
と、を備え、
前記加熱室へ汚水が供給される第1の流通口は、前記コイルヒータの下方に位置し、
前記加熱室から前記整流室へ汚水が供給される第2の流通口は、前記コイルヒータの上方に位置する、有機物処理装置。
【請求項2】
複数のコイルヒータを備える加熱室及び前記加熱室の後段の整流室を槽本体の内部に含む汚水加熱装置と、
前記汚水加熱装置の後段に接続され、微生物を用いて有機物を分解する汚泥可溶化装置と、を備え、
前記加熱室へ汚水が供給される第1の流通口は、前記コイルヒータの下方に位置し、
前記加熱室から前記整流室へ汚水が供給される第2の流通口は、前記コイルヒータの上方に位置し、
前記汚水加熱装置は、前記コイルヒータの内側における汚水の温度を55度以上90度以下に保持するとともに、前記槽本体に設けられた処理水放出口における汚水の温度を50度以下に保持する、有機物処理装置。
【請求項3】
前記汚水加熱装置は、平面視において、前記コイルヒータの外縁から前記槽本体までの距離Lが、前記コイルヒータの内径をDとしたとき、0.5×D≦L≦2.0×Dである、請求項1又は2に記載の有機物処理装置。
【請求項4】
前記汚水加熱装置は、前記槽本体の少なくとも一部が金属材料で構成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の有機物処理装置。
【請求項5】
前記汚水加熱装置は、前記処理水放出口から放出された処理水を前記槽本体の内側に戻す返送装置をさらに含む、請求項
2に記載の有機物処理装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項の有機物処理装置と、
前記有機物処理装置の後段に接続されたバイオガス生成装置と、
を備える、バイオガス生成システム。
【請求項7】
槽本体の内部に、複数のコイルヒータを備える加熱室及び前記加熱室の後段の整流室を備え、
前記加熱室へ汚水が供給される第1の流通口は、前記コイルヒータの下方に位置し、
前記加熱室から前記整流室へ汚水が供給される第2の流通口は、前記コイルヒータの上方に位置する、汚水加熱装置。
【請求項8】
槽本体の内部に、複数のコイルヒータを備える加熱室及び前記加熱室の後段の整流室を備え、
前記加熱室へ汚水が供給される第1の流通口は、前記コイルヒータの下方に位置し、
前記加熱室から前記整流室へ汚水が供給される第2の流通口は、前記コイルヒータの上方に位置し、
前記コイルヒータの内側における汚水の温度を55度以上90度以下に保持するとともに、前記槽本体に設けられた処理水放出口における汚水の温度を50度以下に保持する、汚水加熱装置。
【請求項9】
前記処理水放出口から放出された処理水を前記槽本体の内側に戻す返送装置をさらに備える、請求項8に記載の汚水加熱装置。
【請求項10】
平面視において、前記コイルヒータの外縁から前記槽本体までの距離Lは、前記コイルヒータの内径をDとしたとき、0.5×D≦L≦2.0×Dである、請求項7乃至9のいずれか一項に記載の汚水加熱装置。
【請求項11】
前記槽本体の少なくとも一部が金属材料で構成される、請求項7乃至10のいずれか一項に記載の汚水加熱装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一実施形態は、有機物処理装置、バイオガス生成システム及び汚水加熱装置に関する。特に、微生物を用いた活性汚泥処理の前処理に使用される有機物処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水、工場廃水等の有機性の汚水に含まれる有機物を微生物により分解し、余剰汚泥として排出する活性汚泥処理方法が知られている。活性汚泥処理方法を用いた施設からは大量の余剰汚泥が排出されるが、処分に要するコストの高騰及び最終処分地(埋立地)の減少が問題となっている。このような問題の解決策として、特許文献1には、曝気槽の処理により発生した余剰汚泥に対して、可溶化処理として超音波処理を行い、その後、汚泥を再び曝気槽に戻す技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された技術では、超音波処理の可溶化効率を上げるために、超音波処理の前に汚泥を加熱することが記載されている。具体的には、特許文献1には、可溶化処理の前に、予めヒータ付き熱交換器にて汚泥を加熱し、汚泥中のタンパク質を、超音波により破壊しやすい性状に変化させることが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、汚泥可溶化装置において、70度前後で加熱された汚泥に対して超音波処理を行うため、そのまま汚泥を曝気槽に戻すことができないという問題がある。つまり、曝気槽等で使用する微生物は、60度以上の温度には耐えられないため、曝気槽に汚泥を戻す際、微生物に影響を与えない汚泥の温度まで冷却する必要がある。特許文献1に記載された技術では、ヒータ付き熱交換器で汚泥を冷却している。
【0006】
また、特許文献1に記載された技術は、超音波を用いた可溶化処理に適用することしかできないという問題がある。つまり、約70度前後まで加熱した汚泥をそのまま汚泥可溶化装置に供給することから、特許文献1に記載された技術は、微生物を利用する可溶化処理には適用することができない。
【0007】
本発明の一実施形態の課題の一つは、微生物を用いた効率の良い可溶化処理を実行可能な有機物処理装置を提供することにある。
【0008】
本発明の一実施形態の課題の一つは、冷却装置を別途設ける必要なく、効率の良い可溶化処理を実行可能な有機物処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態における有機物処理装置は、槽本体の内部に設けられたコイルヒータを用いて汚水を加熱する汚水加熱装置と、前記汚水加熱装置の後段に接続され、微生物を用いて有機物を分解する汚泥可溶化装置と、を備え、前記汚水加熱装置は、前記コイルヒータの内側における汚水の温度を55度以上90度以下に保持するとともに、前記槽本体に設けられた処理水放出口における汚水の温度を50度以下に保持する。
【0010】
本発明の一実施形態におけるバイオガス生成システムは、前記有機物処理装置と、前記有機物処理装置の後段に接続されたバイオガス生成装置と、を備える。
【0011】
本発明の一実施形態における汚水加熱装置は、槽本体の内部に設けられたコイルヒータを備え、前記コイルヒータの内側における汚水の温度を55度以上90度以下に保持するとともに、前記槽本体に設けられた処理水放出口における汚水の温度を50度以下に保持する。
【0012】
前記汚水加熱装置は、平面視において、前記コイルヒータの外縁から前記槽本体までの距離Lは、前記コイルヒータの内径をDとしたとき、0.5×D≦L≦2.0×D(好ましくは、0.75×D≦L≦1.5×D)であってもよい。
【0013】
前記汚水加熱装置は、前記槽本体の少なくとも一部が金属材料で構成されていてもよい。
【0014】
前記汚水加熱装置は、前記処理水放出口から放出された処理水を前記槽本体の内側に戻す返送装置をさらに備えていてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1実施形態のバイオガス生成システムの構成を示す模式図である。
【
図2】第1実施形態の汚水加熱装置の構成を示す平面図である。
【
図3】
図2に示す汚水加熱装置を線分A-Aで切断した断面図である。
【
図4】
図2に示す汚水加熱装置を線分B-Bで切断した断面図である。
【
図5】第2実施形態の汚水加熱装置の構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面等を参照しつつ説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。本明細書と各図面において、既出の図面に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0017】
本明細書において、「バイオガス」とは、微生物を利用して有機物を分解することにより得られるガスを指す。バイオガスとしては、例えば、メタンガス、水素などエネルギー利用が可能なガスが挙げられる。
【0018】
<第1実施形態>
[バイオガス生成システムの構成]
図1は、第1実施形態のバイオガス生成システム100の構成を示す図である。本実施形態のバイオガス生成システム100は、少なくとも汚水加熱装置105、汚泥可溶化装置110及びバイオガス生成装置120を含む。そのほか、本実施形態のバイオガス生成システム100は、アルカリ溶液槽115、水封トラップ125及び洗浄トラップ130を含む。バイオガス生成システム100で生成されたバイオガスは、ガスバッファ135に蓄積される。ガスバッファ135に蓄積されたバイオガスは、温水ボイラ、マイクロガスタービン、ガスエンジン等の燃料として利用される。ただし、
図1に示す例は一例に過ぎず、この例に限られるものではない
【0019】
汚水加熱装置105は、下水、屎尿、生ごみ、工場廃液等の有機物を含む汚水(被処理水)を加熱する処理を行う装置である。汚水の加熱は、コイルヒータ106を用いて行われる。本実施形態では、汚水加熱装置105において、汚水を55度以上90度以下(好ましくは、65度以上70度以下)の温度まで加熱するとともに、最終的には50度以下(好ましくは、45度以下)の温度に下げてから装置外へ放出する。汚水加熱装置105による処理は、後段に接続された汚泥可溶化装置110の槽内温度を40度から50度に保持する目的のほか、汚水に含まれる有機物のうち、特にタンパク質を分解する目的も有している。
【0020】
汚泥可溶化装置110は、汚水に含まれる高分子の有機物を微生物(可溶化菌)により低分子の有機物に変性させる処理を行う装置である。汚水加熱装置105から45度前後で放出された汚水は、直接、汚泥可溶化装置110に供給される。汚泥可溶化装置110では、高分子の有機物が微生物により処理されて酢酸などの低級の有機酸に変性される。そのため、汚泥可溶化装置110は、酸生成装置とも呼ばれる。汚泥可溶化装置110についての詳細は、後述する。
【0021】
汚泥可溶化装置110で処理される汚水は、処理槽の内部で40度から50度に保持される。本実施形態では、汚水加熱装置105において、局所的に60度を超える温度で汚水を加熱するとともに、最終的に50度以下の温度で下流の汚泥可溶化装置110に供給する。そのため、汚泥可溶化装置110の中の汚水は、40度から50度に保持される。また、汚水加熱装置105における加熱処理により汚水中のタンパク質等の有機物が分解されるため、汚泥可溶化装置110における有機物の可溶化処理(低分子化処理)の効率を上げることができる。さらに、あらかじめ汚水加熱装置105において有機物を分解しておくことにより、汚泥可溶化装置110で有機物を可溶化した際の残渣物が減るなどの効果も得られる。
【0022】
本実施形態の汚泥可溶化装置110は、槽内の汚水を循環させるための循環ポンプ111及び汚水のPH値を測定するためのPH計112を備える。すなわち、汚泥可溶化装置110は、循環ポンプ111を用いて槽内の汚水を循環させつつ、PH値の経時変化を確認することができる。
【0023】
アルカリ溶液槽115は、汚泥可溶化装置110のPH調整を行うためのアルカリ溶液を保存する槽である。アルカリ溶液としては、例えば水酸化ナトリウムを用いることができるが、これに限られるものではない。上述のように、汚泥可溶化装置110では、PH値が定期的に測定される。測定されたPH値に基づいて汚泥可溶化装置110の内部が酸性に偏ったと判断された場合、アルカリ溶液槽115から適切な量のアルカリ溶液が汚泥可溶化装置110に供給される。アルカリ溶液の供給量は、流量調整ポンプ116を用いて調整される。
【0024】
本実施形態では、汚水加熱装置105、汚泥可溶化装置110及びアルカリ溶液槽115をまとめて有機物処理装置200と呼ぶ。有機物処理装置200は、バイオガス生成装置120に供給する汚水中の有機物を、バイオガス生成装置120で処理しやすい状態に変性させるための前処理装置である。なお、有機物処理装置200は、少なくとも汚水加熱装置105及び汚泥可溶化装置110を含むものであればよく、アルカリ溶液槽115は省略されてもよい。また、汚泥可溶化装置110に設けられた循環ポンプ111及びPH計112は、必須の構成ではなく、省略することも可能である。
【0025】
バイオガス生成装置120は、嫌気性微生物を用いて有機物の分解処理を行う処理槽である。汚泥可溶化装置110で有機物の可溶化処理がなされた汚水は、後段に接続されたバイオガス生成装置120に供給される。バイオガス生成装置120では、低級有機酸等の有機物が、嫌気性微生物により処理されて、メタンガス、二酸化炭素、水素等に分解される。本実施形態では、バイオガス生成装置120として、UASB(Upflow Anaerobic Sludge Bed)方式の嫌気性処理装置を用いる。バイオガス生成装置120は、メタン発酵能を有する嫌気性微生物を粒子化して高密度に保持した生物汚泥床121を有する。粒子化した嫌気性微生物は、グラニュールと呼ばれる黒い粒状体となって処理槽内に存在し、グラニュールの集合体が生物汚泥床121として機能する。なお、本実施形態では、嫌気性微生物を例示して説明するが、好気性微生物を用いることも可能である。
【0026】
バイオガス生成装置120から放出された処理水は、水封トラップ125に送られる。水封トラップ125では、処理水中に混入したガスが除去される。
【0027】
バイオガス生成装置120によって生成されたガスは、洗浄トラップ130に送られる。洗浄トラップ130では、消石灰を用いて二酸化炭素を炭酸カルシウムに変える処理が行われる。二酸化炭素の濃度の比率が低まると、相対的にメタンガスの濃度が高まるため、都市ガスレベルの高濃度のメタンガスを得ることができる。そのため、洗浄トラップ130は、改質装置とも呼ばれる。
【0028】
最後に、洗浄トラップ130で生成された高濃度のメタンガスは、ガスバッファ135に蓄積される。本実施形態のバイオガス生成システム100によって生成されたメタンガスは、都市ガスと同等の濃度を有するため、利用にあたってはバイオガス専用の設備を用いる必要がなく、一般的な都市ガス対応の設備を用いることができる。
【0029】
本実施形態では、有機廃棄物からメタンガスを生成するためのバイオガス生成システム100について例示したが、これはあくまで一例である。つまり、バイオガス生成システム100は、後述するバイオガス生成装置120の基本的な構造さえ変わらなければ、有機廃棄物から取り出すバイオガスの種類に応じて適宜構成を変更してもよい。例えば、近年では、パイナップルの皮などの残渣物を用いて水素発電を行う試みがなされている。本実施形態のバイオガス生成システム100は、有機廃棄物からバイオガスとして水素を取り出すシステムとしても利用することができる。
【0030】
[有機物処理装置の構成]
図2は、第1実施形態の汚水加熱装置105の構成を示す平面図である。
図3は、
図2に示す汚水加熱装置105を線分A-Aで切断した断面図である。
図4は、
図2に示す汚水加熱装置105を線分B-Bで切断した断面図である。
【0031】
汚水加熱装置105は、槽本体201、原水供給口202、処理水放出口203、第1整流室210、第2整流室220、調整室230、第3整流室240、加熱室250、第4整流室260、及び処理水室270を含む。ただし、汚水加熱装置105の構成は、
図2に示す例に限られるものではない。処理対象となる汚水の種類等に応じて適宜構成を変えることができる。
【0032】
槽本体201は、汚水加熱装置105の枠体として機能する部材であり、コンクリート、鉄筋、鉄骨、金属もしくは樹脂等の材料又はそれらを複合した構造体を用いて構成される。特に、本実施形態では、放熱効果の高い金属材料を用いて槽本体201を構成することが好ましい。槽本体201は、外枠21a及び仕切り枠21b~21gを含む。仕切り枠21b~21gは、外枠21aの内側に配置され、外枠21aの内部を各部屋に区分する。
【0033】
原水供給口202は、上流側に位置する施設(例えば、調整槽等)からの原水(加熱前の汚水)を供給する部位である。処理水放出口203は、下流側に位置する施設(本実施形態では、汚泥可溶化装置110)に処理水(加熱後の汚水)を放出する部位である。前述のとおり、本実施形態では、処理水放出口203における処理水の温度が50度以下となるように設計されている。
【0034】
原水供給口202から供給された汚水は、第1整流室210から第2整流室220へと仕切り枠21bを越えて移動する。
図3に示すように、仕切り枠21bの上端は、水面下に位置しており、実質的には堰として機能する。
図2及び
図3に示すように、第2整流室220に移動した汚水は、仕切り枠21cに設けられた流通穴21caを通過して調整室230に移動する。
【0035】
調整室230には、リターン管235が配置されている。リターン管235は、配管23aの端部に、上方向に開口端を有する筒状部材23bを設けた構造を有する。汚水の水位が筒状部材23bの開口端よりも高い場合、汚水は、リターン管235に流れ込む。このように、リターン管235は、調整室230の水位を調節する機能を有する。筒状部材23bは、上下方向にスライド可能である。筒状部材23bの位置により水位を調整することができる。リターン管235は、オーバーフロー管とも呼ばれる。
【0036】
調整室230で水位が調整された汚水は、仕切り枠21dを越えて第3整流室240に移動する。仕切り枠21dの上端には、Vノッチ21daが設けられている。汚水は、Vノッチ21daを介して第3整流室240に移動する。
【0037】
第3整流室240において、仕切り枠21eには、流通穴21eaが設けられている。第3整流室240の汚水は、流通穴21eaを介して加熱室250に移動する。
図2において図示は省略しているが、加熱室250の下方には、複数の貫通孔を有する整流板265(
図3及び
図4参照)が配置されている。整流板265は、例えば、金属板又はプラスチック板に貫通孔を空けたシート状部材(パンチングメタル等と呼ばれる)を用いることができる。
図2及び
図3では、外枠21a、仕切り枠21e及び21fを用いて整流板265を支持する例を示したが、この例に限らず、整流板265の下に設けた支持部材を用いて整流板265を支持してもよい。
図4に示すように、流通穴21eaは、加熱室250に配置された整流板265よりも下方に設けられている。そのため、流通穴21eaを通過した汚水は、整流板265の下方に流入する。
【0038】
整流板265の下方に流入した汚水は、整流板265に設けられた複数の貫通孔(図示せず)を通過して加熱室250の上方に向かって移動する。このように、整流板265は、整流作用を有しており、加熱室250の内側に上向流を形成する。また、
図2に示すように、本実施形態では、加熱室250を斜めに横切るように汚水が移動するように、流通穴21ea及び流通穴21faが設けられている。
【0039】
図1に示したとおり、加熱室250には、コイルヒータ106が配置されている。本実施形態の汚水加熱装置105は、加熱室250にコイルヒータ106a~106fが配置されている。なお、各コイルヒータを区別する必要がない場合は、コイルヒータ106と総称する。また、本実施形態では、コイルヒータ106を6つ設けた例を示したが、コイルヒータ106を配置する数は、この例に限られるものではない。
【0040】
加熱室250に移動した汚水は、上向流となって加熱室250の上方に移動する際、各コイルヒータ106a~106cの内側を通過する。コイルヒータ106は、コイル状の配管で構成され、配管の内部には、加熱されたガスが流れる。コイルヒータ106の内部に流れるガスは、ガス流入管255aを介して供給され、ガス流出管255bを介して外部に流出する。つまり、コイルヒータ106の内部には、常に加熱されたガスが循環するように構成されている。これにより、加熱室250では、コイルヒータ106によって汚水の加熱が行われる。
【0041】
本実施形態では、
図2に示すように、外縁が円形のコイルヒータ106を用いている。したがって、コイルヒータ106の内側(例えば、コイルヒータ106aにおいて、斜線で示される領域30)は、コイルヒータ106を構成する配管から放射される熱によって均等に加熱されるため、汚水の温度分布に偏りがない。ただし、コイルヒータ106の形状は、円形に限られるものではなく、平面視で多角形状になっていてもよい。
【0042】
コイルヒータ106の内側の汚水の温度は、コイルヒータ106の内部を流れるガスの温度を調整することにより55度以上90度以下(好ましくは、65度以上70度以下)に保持することができる。つまり、コイルヒータ106の内側の領域では汚水に含まれる有機物が55度以上90度以下の温度に加熱されるため、汚泥中のタンパク質が低級脂肪酸等に効率よく分解される。
【0043】
他方、コイルヒータ106の外側(例えば、コイルヒータ106aの周囲の領域)の汚水は、コイルヒータ106から離れるほどコイルヒータ106の内側の汚水よりも低い温度となる。特に、槽本体201に近い領域では、槽本体201の放熱効果の影響を受けて温度が下がりやすくなっている。この傾向は、特に槽本体201の少なくとも一部(具体的には、加熱室250を構成する部分)に金属材料を用いた場合に顕著である。そのため、コイルヒータ106の内側において60度以上の温度に加熱された汚水は、コイルヒータ106の周囲の汚水と混ざり合うことにより温度が下げられる。
【0044】
このように、本実施形態の加熱室250は、槽本体201とコイルヒータ106との間の距離を空け、室内に温度分布の偏りが生じるように構成されている。具体的な一例として、本実施形態では、
図2に示すように、コイルヒータ106の外縁から槽本体201(具体的には、外枠21a、仕切り枠21e~21gなど)までの距離Lが、コイルヒータ106の内径をDとしたとき、0.5×D≦L≦2.0×D(好ましくは、0.75×D≦L≦1.5×D)を満たすように設計されている。ただし、この数値範囲は一例であり、コイルヒータ106の内側の汚水の温度、槽本体201の材質等を考慮して適宜調整することができる。
【0045】
最終的に、本実施形態の汚水加熱装置105は、加熱室250において60度以上90度以下の温度で加熱された汚水が、特に冷却設備を要することなく、処理水放出口203において、50度以下(好ましくは、45度以下)の温度となるように設計されていればよい。
【0046】
加熱室250において加熱された汚水は、コイルヒータ106の周囲に流れる低い温度の汚水と混ざり合いながら第4整流室260へと移動する。加熱室250で加熱された汚水は、仕切り枠21fに設けられた流通穴21faを介して第4整流室260へ移動する。第4整流室260では、水温計等により汚水の温度を測定してもよい。その場合、水温計の測定結果をフィードバックしてコイルヒータ106の内部に流れるガスの温度を調整することができる。
【0047】
第4整流室260に移動した汚水は、仕切り枠21gに設けられた流通穴21gaを介して処理水室270へ移動する。処理水室270に移動した汚水(加熱処理後の処理水)は、処理水放出口203により装置外へ放出される。放出された処理水は、
図1に示すように、後段に接続された汚泥可溶化装置110に対して、そのまま供給される。前述のとおり、本実施形態の汚水加熱装置105は、汚水に対して60度以上の温度での加熱処理を行うものの、装置外に放出する際には、汚水の温度が50度以下になるよう設計されている。そのため、放出された処理水を汚泥可溶化装置110の内部に直接供給しても、汚泥可溶化装置110内の微生物に影響を与えることがない。
【0048】
以上のように、本実施形態の汚水加熱装置105では、意図的に、加熱室250の内側に温度ムラ(温度分布の偏り)を作ることにより、処理水放出口203に至るまでの間に汚水の温度が自然と下がる構成となっている。その結果、加熱室250では、コイルヒータ106の内側における汚水の温度を60度以上90度以下(好ましくは、65度以上70度以下)に保持するとともに、槽本体201に設けられた処理水放出口203における汚水の温度を50度以下(好ましくは、45度以下)にすることができる。
【0049】
(変形例)
本実施形態の汚水加熱装置105は、槽本体201のうち、加熱室250の外枠21aを構成する部分にフィンを設けてもよい。フィンとは、複数の突出部を並べて、伝熱面積を拡大させた放熱構造である。この場合、複雑な冷却装置を別途設けることなく、槽本体201の一部を加工してフィンを形成すればよい。これにより、加熱室250を構成する外枠21aの近傍における汚水の温度を、より低い温度にしやすくなる。そのため、コイルヒータ106の設定温度を高くして、汚水中の有機物の分解効率を上げることができる。
【0050】
<第2実施形態>
本実施形態では、第1実施形態で説明した汚水加熱装置105に対し、処理水放出口203から放出された処理水を、槽本体201の内側に戻す返送装置280をさらに備えた例について説明する。なお、第1実施形態の汚水加熱装置105と同じ要素については同じ符号を用いて表し、説明は省略する。
【0051】
図5は、第2実施形態の汚水加熱装置105aの構成を示す平面図である。汚水加熱装置105aは、処理水放出口203に連結され、放出された処理水を再び第1整流室210に戻す返送装置280を備えている。具体的には、返送装置280は、循環ポンプ281及び返送管282を含む。ただし、この例に限らず、返送装置280は、水温計又は流量計を含んでいてもよい。
【0052】
加熱室250では、コイルヒータ106の内側を通過した有機物については60度以上の温度で加熱されるが、コイルヒータ106の内側を通過しなかった有機物はそのまま処理水として放出される。本実施形態では、処理水を再び加熱室250よりも前の部屋(ここでは、第1整流室210)に戻すことにより、コイルヒータ106の内側を通過する確率を増加させる目的で返送装置280を設けている。
【0053】
本実施形態によれば、第1実施形態よりも多くの有機物を分解して下流の汚泥可溶化装置110に送ることができるため、汚泥可溶化装置110の処理負担を第1実施形態よりも低減することができる。
【0054】
本発明の実施形態及びその変形例は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。上述した実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略もしくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0055】
また、上述した実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【符号の説明】
【0056】
21a…外枠、21b~21g…仕切り枠、21ca、21ea、21fa、21ga…流通穴、21da…ノッチ、23a…配管、23b…筒状部材、100…バイオガス生成システム、105、105a…汚水加熱装置、106、106a~106f…コイルヒータ、110…汚泥可溶化装置、111…循環ポンプ、112…PH計、115…アルカリ溶液槽、116…流量調整ポンプ、120…バイオガス生成装置、121…生物汚泥床、125…水封トラップ、130…洗浄トラップ、135…ガスバッファ、200…有機物処理装置、201…槽本体、202…原水供給口、203…処理水放出口、210…第1整流室、220…第2整流室、230…調整室、235…リターン管、240…第3整流室、250…加熱室、255a…ガス流入管、255b…ガス流出管、260…第4整流室、265…整流板、270…処理水室、280…返送装置、281…循環ポンプ、282…返送管