(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】光学物品用重合性組成物および光学物品
(51)【国際特許分類】
G02B 5/23 20060101AFI20240131BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20240131BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20240131BHJP
G02C 7/10 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
G02B5/23
C08F220/10
C08F290/06
G02C7/10
(21)【出願番号】P 2019239790
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-12-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】509333807
【氏名又は名称】ホヤ レンズ タイランド リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HOYA Lens Thailand Ltd
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】島田 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】小林 敬
(72)【発明者】
【氏名】山下 照夫
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 強
【審査官】岩井 好子
(56)【参考文献】
【文献】特表2012-520383(JP,A)
【文献】国際公開第2014/136804(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第03418347(EP,A1)
【文献】国際公開第2019/189855(WO,A1)
【文献】特表2010-536983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/23
C08F 220/10
C08F 290/06
G02C 7/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フォトクロミック化合物と、
成分A:分子量
650以上
800以下の非環状のメタクリレートと、
成分B:分子量400以下であって、下記式1:
【化1】
[式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。]
で表される(メタ)アクリレートと、
を含む光学物品用重合性組成物であって、
前記非環状のメタクリレートはポリアルキレングリコールジメタクリレートであり、
組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Aを61.2質量%以上
75.0質量%以下含み、かつ成分Bを
15.0質量%以上30.0質量%以下含む、光学物品用重合性組成物。
【請求項2】
成分C:非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート、
を更に含む、請求項1に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項3】
成分D:粘度100cP以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物、
を更に含む、請求項1または2に記載の光学物品用重合性組成物。
【請求項4】
基材と、
請求項1~3のいずれか1項に記載の光学物品用重合性組成物を硬化させたフォトクロミック層と、
を有する光学物品。
【請求項5】
眼鏡レンズである、請求項4に記載の光学物品。
【請求項6】
ゴーグル用レンズである、請求項4に記載の光学物品。
【請求項7】
サンバイザーのバイザー部分である、請求項4に記載の光学物品。
【請求項8】
ヘルメットのシールド部材である、請求項4に記載の光学物品。
【請求項9】
請求項5に記載の眼鏡レンズを備えた眼鏡。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学物品用重合性組成物および光学物品に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック化合物は、光応答性を有する波長域の光の照射下で発色し、非照射下では退色する性質(フォトクロミック性)を有する化合物である。眼鏡レンズ等の光学物品にフォトクロミック性を付与する方法としては、フォトクロミック化合物と重合性化合物とを含むコーティングを基材上に設け、このコーティングを硬化させてフォトクロミック性を有する硬化層(フォトクロミック層)を形成する方法が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のようなフォトクロミック性を有する光学物品に望まれる性質としては、屋外等で光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、かつ屋内等の非照射下での可視光透過性に優れることが挙げられる。
【0005】
本発明の一態様は、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、かつ非照射下での可視光透過性に優れるフォトクロミック層を形成可能な光学物品用重合性組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、
フォトクロミック化合物と、
成分A:分子量500以上の非環状のメタクリレートと、
成分B:分子量400以下であって、下記式1:
【化1】
[式1中、R
1およびR
2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。]
で表される(メタ)アクリレートと、
を含む、光学物品用重合性組成物(以下、単に「組成物」とも記載する。)、
に関する。
【0007】
上記組成物は、上記の成分Aおよび成分Bを含む。これにより、この組成物を硬化させて形成されるフォトクロミック層において、光照射を受けたフォトクロミック化合物が高濃度で発色することができる。更に、かかるフォトクロミック層は、非照射下で優れた可視光透過性を示すことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、かつ非照射下での可視光透過性に優れるフォトクロミック層を形成可能な光学物品用組成物を提供することができる。また、本発明の一態様によれば、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、かつ非照射下での可視光透過性に優れるフォトクロミック層を有する光学物品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】成分Bの含有率に対して、発色濃度および半減期をそれぞれプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[光学物品用重合性組成物]
以下に、本発明の一態様にかかる光学物品用重合性組成物について、更に詳細に説明する。
【0011】
本発明および本明細書において、重合性組成物とは、重合性化合物を含む組成物をいうものとする。重合性化合物とは、重合性基を有する化合物である。本発明の一態様にかかる光学物品用重合性組成物は、光学物品の製造のために使用される重合性組成物であって、光学物品用コーティング組成物であることができ、より詳しくは光学物品のフォトクロミック層形成用コーティング組成物であることができる。光学物品用コーティング組成物とは、光学物品の製造のために基材等に塗布される組成物を意味する。光学物品としては、眼鏡レンズ、ゴーグル用レンズ等の各種レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることができる。例えば、上記組成物をレンズ基材に塗布して作製される眼鏡レンズは、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズとなり、フォトクロミック性を示すことができる。
【0012】
本発明および本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとを包含する意味で用いられる。「アクリレート」とは、1分子中にアクリロイル基を1つ以上有する化合物である。「メタクリレート」とは、1分子中にメタクリロイル基を1つ以上有する化合物である。(メタ)アクリレートについて、官能数は、1分子中に含まれるアクリロイル基およびメタクリロイル基からなる群から選ばれる基の数である。本発明および本明細書では、「メタクリレート」とは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むものをいうものとし、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基とメタクリロイル基の両方を含むものはアクリレートと呼ぶ。アクリロイル基はアクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよく、メタクリロイル基はメタクリロイルオキシ基の形態で含まれていてもよい。以下に記載の「(メタ)アクリロイル基」とは、アクリロイル基とメタクリロイル基とを包含する意味で用いられ、「(メタ)アクリロイルオキシ基」とは、アクリロイルオキシ基とメタクリロイルオキシ基とを包含する意味で用いられる。また、特記しない限り、記載されている基は置換基を有してもよく無置換であってもよい。ある基が置換基を有する場合、置換基としては、アルキル基(例えば炭素数1~6のアルキル基)、水酸基、アルコキシ基(例えば炭素数1~6のアルコキシ基)、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子)、シアノ基、アミノ基、ニトロ基、アシル基、カルボキシ基等を挙げることができる。また、置換基を有する基について「炭素数」とは、置換基を含まない部分の炭素数を意味するものとする。
【0013】
<重合性化合物>
上記組成物は、重合性化合物として、少なくとも成分Aおよび成分Bを含む。以下に、成分Aおよび成分Bについて説明する。
【0014】
(成分A)
成分Aは、分子量500以上の非環状のメタクリレートである。本発明および本明細書において、「非環状」とは、環状構造を含まないことを意味する。これに対し、「環状」とは、環状構造を含むことを意味する。非環状のメタクリレートとは、環状構造を含まない単官能以上のメタクリレートをいうものとする。
【0015】
成分Aは、単官能または2官能以上のメタクリレートであることができ、2官能または3官能メタクリレートであることが好ましく、2官能メタクリレートであることがより好ましい。成分Aとしては、ポリアルキレングリコールジメタクリレートを挙げることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートは、下記式2:
【化2】
により示すことができ、Rはアルキレン基を表し、nはROで表されるアルコキシ基の繰り返し数を示し、2以上である。Rで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基等が挙げられる。nは、2以上であり、例えば30以下、25以下または20以下であることができる。ポリアルキレングリコールジメタクリレートの具体例としては、ポリエチレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールジメタクリレート等を挙げることができる。
【0016】
成分Aの分子量は、500以上である。分子量が500以上の非環状の2官能メタクリレート(成分A)を、詳細を後述する成分Bとともに含むことが、上記組成物から形成されるフォトクロミック層において、光照射を受けたフォトクロミック化合物が高濃度で発色可能であり且つフォトクロミック層が非照射下で優れた可視光透過性を示すことができる理由と推察される。なお本発明および本明細書において、重合体についての分子量は、化合物の構造解析により決定された構造式または製造する際の原料仕込み比から算出した理論分子量を採用している。成分Aの分子量は、500以上であり、510以上であることが好ましく、520以上であることがより好ましく、550以上であることが好ましく、570以上であることがより好ましく、600以上であることが更に好ましく、630以上であることが一層好ましく、650以上であることがより一層好ましい。成分Aの分子量は、フォトクロミック層の高硬度化の観点からは、例えば2000以下、1500以下、1200以下、1000以下、または800以下であることが好ましい。
【0017】
(成分B)
成分Bは、分子量400以下であって、下記式1:
【化3】
で表される(メタ)アクリレートである。
【0018】
式1中、R1およびR2は、それぞれ独立に水素原子またはメチル基を表し、mは1以上の整数を表す。mは、1以上であって、例えば、10以下、9以下、8以下、7以下または6以下であることができる。
【0019】
成分Bの分子量は、400以下であり、フォトクロミック層の発色濃度をより高める観点からは、350以下であることが好ましく、300以下であることがより好ましく、250以下であることが更に好ましい。また、成分Bの分子量は、例えば、100以上、150以上または200以上であることができる。
【0020】
成分Bは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、成分Bは、(メタ)アクリロイル基としてアクリロイル基のみを含むことが好ましい。成分Bの具体例としては、1,9-ノナンジオールジアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、1,10-デカンジオールジアクリレート等を挙げることができる。
【0021】
上記組成物は、重合性化合物として、一形態では成分Aおよび成分Bのみを含むことができ、他の一形態では、成分Aおよび成分Bに加えて他の重合性化合物を1種以上含むことができる。以下に、上記組成物に含まれ得る他の重合性化合物を例示する。
【0022】
(他の重合性化合物)
以下に例示する成分Cおよび成分Dは、上記組成物から形成されるフォトクロミック層の光照射下での発色性および非照射下での可視光透過性に大きな影響を与えることなく、組成物の塗布適性、隣接層との密着性等の性能向上に寄与し得る点で、好ましい成分である。
【0023】
成分C
上記組成物は、一形態では、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレート(成分C)を含むことができる。成分Cは、3~5官能の(メタ)アクリレートであることが好ましく、3官能または4官能の(メタ)アクリレートであることがより好ましく、3官能(メタ)アクリレートであることが更に好ましい。成分Cの具体例としては、例えば、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート等を挙げることができる。成分Cの分子量は、例えば200~400の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Cは、(メタ)アクリロイル基として、アクリロイル基のみを含んでもよく、メタクリロイル基のみを含んでもよく、アクリロイル基およびメタクリロイル基を含んでもよい。一形態では、非環状の3官能以上の(メタ)アクリレートは、(メタ)アクリロイル基としてメタクリロイル基のみを含むこと、即ちメタクリレートであることが好ましい。
【0024】
成分D
上記組成物は、一形態では、粘度100cP(センチポアズ)以下であって、(メタ)アクリレートおよびビニルエーテルからなる群から選択される重合性化合物(成分D)を含むことができる。本発明および本明細書における「粘度」は、温度25℃の大気雰囲気中で振動式粘度計によって測定される値である。成分Dの粘度は、100cP以下であり、70cP以下であることが好ましく、50cP以下であることがより好ましい。また、成分Dの粘度は、例えば、5cP以上または10cP以上であることができる。成分Dの一形態である(メタ)アクリレートは、単官能~3官能であることができ、単官能~2官能であることが好ましい。また、成分Dの一形態である(メタ)アクリレートは、アリール基(例えばフェニル基)、アミド基等を含むことができる。本発明および本明細書において、「ビニルエーテル」とは、1分子中に1個以上のビニル基および1個以上のエーテル結合を有する化合物であり、1分子中にビニル基を2個以上有することが好ましく、2~4個有することがより好ましい。また、ビニルエーテルに含まれるエーテル結合の数は、1分子中、2~4 個であることが好ましい。成分Dの分子量は、例えば150~250の範囲であることができるが、この範囲に限定されるものではない。成分Dの具体例としては、2-フェノキシエチル(メタ)アクリレート、アクリルアミド、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エトキシ化(Ethoxylated)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールブチルエーテル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-(ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2-(ジエチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ノナメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノビニルエーテル、テトラメチレングリコールモノビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、2-プロペノイックアシッド(Propenoic acid),2-[2-(エテニロキシ)エトキシ]エチルエステル、2-(2-エテノキシエトキシ)エチル2-メチルプロプ-2-エノエート等を挙げることができる。
【0025】
上記組成物は、一形態では、重合性化合物として、上記成分以外の他の重合性化合物の1種以上を含むこともできる。上記組成物において、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、50.0質量%以上であることが好ましく、55.0質量%以上であることがより好ましく、60.0質量%以上であることが更に好ましい。成分Aは、一形態では、組成物に含まれる複数の重合性化合物の中で、最も多くを占める成分であることができる。また、成分Aの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、90.0質量%以下、85.0質量%以下、80.0質量%以下または75.0質量%以下であることができる。上記組成物は、成分Aを、一形態では1種のみ含むことができ、他の一形態では2種以上含むことができる。2種以上の成分Aが含まれる場合、上記の成分Aの含有率は、2種以上の合計含有率である。この点は、他の成分に関する含有率についても同様である。
【0026】
成分Bについては、本発明者の検討によれば、成分Bの含有率が高くなるほど、光照射下を受けて発色した際の発色濃度は高まる傾向が見られた。他方、本発明者の検討によれば、成分Bの含有率が高くなるほど、光応答性を示す指標の1つである退色速度が遅くなる傾向も見られた。発色濃度の観点からは、成分Bの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、5.0質量%以上であることが好ましく、10.0質量%以上であることがより好ましく、15.0質量%以上であることがより好ましい。また、光応答性の観点からは、成分Bの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量を100質量%として、30.0質量%以下であることが好ましく、25.0質量%以下であることがより好ましい。
【0027】
成分Cについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Cの含有率は、0質量%であってもよく、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5質量%以上または7質量%以上であることもできる。成分Cの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、例えば20.0質量%以下または15.0質量%以下であることができる。
【0028】
成分Dについては、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Dの含有率は、0質量%であってもよく、0質量%以上、0質量%超、1.0質量%以上、3.0質量%以上、5.0質量%以上または7.0質量%以上であることもできる。成分Dの含有率は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、例えば20.0質量%以下または15.0質量%以下であることができる。
【0029】
上記組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば80.0質量%以上、85.0質量%以上または90.0質量%以上であることができる。また、上記組成物における重合性化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば、99.0質量%以下、95.0質量%以下、90.0質量%以下または85.0質量%以下であることができる。本発明および本明細書において、含有率に関して、「組成物の全量」とは、溶剤を含む組成物については、溶剤を除く全成分の合計量をいうものとする。上記組成物は、溶剤を含んでもよく、含まなくてもよい。溶剤を含む場合、使用可能な溶剤としては、重合性組成物の重合反応の進行を阻害しないものであれば、任意の溶剤を任意の量で使用することができる。
【0030】
<フォトクロミック化合物>
上記組成物は、上記重合性化合物とともにフォトクロミック化合物を含む。上記組成物に含まれるフォトクロミック化合物としては、フォトクロミック性を示す公知の化合物を使用することができる。フォトクロミック化合物は、例えば紫外線に対してフォトクロミック性を示すことができる。例えば、フォトクロミック化合物としては、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、クロメン化合物、インデノ縮合ナフトピラン化合物等のフォトクロミック性を示す公知の骨格を有する化合物を例示できる。フォトクロミック化合物は、1種単独で使用することができ、2種以上を混合して使用することもできる。上記組成物のフォトクロミック化合物の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~15.0質量%程度とすることができるが、この範囲に限定されるものではない。
【0031】
<他の成分>
上記組成物は、重合性化合物およびフォトクロミック化合物に加えて、重合性組成物に通常含まれ得る各種添加剤の1種以上を任意の含有率で含むことができる。上記組成物に含まれ得る添加剤としては、例えば、重合反応を進行させるための重合開始剤を挙げることができる。
【0032】
例えば、重合開始剤としては、公知の重合開始剤を使用することができ、ラジカル重合開始剤が好ましく、重合開始剤としてラジカル重合開始剤のみを含むことがより好ましい。また、重合開始剤としては、光重合開始剤または熱重合開始剤を使用することができ、短時間で重合反応を進行させる観点から光重合開始剤が好ましい。光ラジカル重合開始剤としては、例えば2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン等のベンゾインケタール;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン等のα-ヒドロキシケトン;2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン等のα-アミノケトン;1-[(4-フェニルチオ)フェニル]-1,2-オクタジオン-2-(ベンゾイル)オキシム等のオキシムエステル;ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド等のホスフィンオキシド;2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-クロロフェニル)-4,5-ジ(メトキシフェニル)イミダゾール二量体、2-(o-フルオロフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(o-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体、2-(p-メトキシフェニル)-4,5-ジフェニルイミダゾール二量体等の2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体;ベンゾフェノン、N,N’-テトラメチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、N,N’-テトラエチル-4,4’-ジアミノベンゾフェノン、4-メトキシ-4’-ジメチルアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン化合物;2-エチルアントラキノン、フェナントレンキノン、2-tert-ブチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ベンズアントラキノン、2-フェニルアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-メチルアントラキノン、1,4-ナフトキノン、9,10-フェナントラキノン、2-メチル-1,4-ナフトキノン、2,3-ジメチルアントラキノン等のキノン化合物;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインフェニルエーテル等のベンゾインエーテル;ベンゾイン、メチルベンゾイン、エチルベンゾイン等のベンゾイン化合物;ベンジルジメチルケタール等のベンジル化合物;9-フェニルアクリジン、1,7-ビス(9、9’-アクリジニルヘプタン)等のアクリジン化合物:N-フェニルグリシン、クマリン等が挙げられる。 また、2,4,5-トリアリールイミダゾール二量体において、2つのトリアリールイミダゾール部位のアリール基の置換基は、同一で対称な化合物を与えてもよく、相違して非対称な化合物を与えてもよい。また、ジエチルチオキサントンとジメチルアミノ安息香酸の組み合わせのように、チオキサントン化合物と3級アミンとを組み合わせてもよい。 これらの中で、硬化性、透明性および耐熱性の観点から、α-ヒドロキシケトンおよびホスフィンオキシドが好ましい。重合開始剤の含有率は、組成物の全量を100質量%として、例えば0.1~5.0質量%の範囲であることができる。
【0033】
上記組成物には、更に、フォトクロミック化合物を含む組成物に通常添加され得る公知の添加剤、例えば、界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤、シランカップリング剤等の添加剤を任意の量で添加できる。これら添加剤としては、公知の化合物を使用することができる。
【0034】
上記組成物は、以上説明した各種成分を同時または任意の順序で順次混合して調製することができる。
【0035】
[光学物品]
本発明の一態様は、基材と、上記組成物を硬化させたフォトクロミック層と、を有する光学物品に関する。
以下、上記光学物品について、更に詳細に説明する。
【0036】
<基材>
上記光学物品は、光学物品の種類に応じて選択した基材上にフォトクロミック層を有することができる。基材の一例として、眼鏡レンズ基材は、プラスチックレンズ基材またはガラスレンズ基材であることができる。ガラスレンズ基材は、例えば無機ガラス製のレンズ基材であることができる。レンズ基材としては、軽量で割れ難く取扱いが容易であるという観点から、プラスチックレンズ基材が好ましい。プラスチックレンズ基材としては、(メタ)アクリル樹脂をはじめとするスチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アリル樹脂、ジエチレングリコールビスアリルカーボネート樹脂(CR-39)等のアリルカーボネート樹脂、ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、イソシアネート化合物とジエチレングリコールなどのヒドロキシ化合物との反応で得られたウレタン樹脂、イソシアネート化合物とポリチオール化合物とを反応させたチオウレタン樹脂、分子内に1つ以上のジスルフィド結合を有する(チオ)エポキシ化合物を含有する硬化性組成物を硬化した硬化物(一般に透明樹脂と呼ばれる。)を挙げることができる。レンズ基材としては、染色されていないもの(無色レンズ)を用いてもよく、染色されているもの(染色レンズ)を用いてもよい。レンズ基材の屈折率は、例えば、1.60~1.75程度であることができる。ただしレンズ基材の屈折率は、上記範囲に限定されるものではなく、上記の範囲内でも、上記の範囲から上下に離れていてもよい。本発明および本明細書において、屈折率とは、波長500nmの光に対する屈折率をいうものとする。また、レンズ基材は、屈折力を有するレンズ(いわゆる度付レンズ)であってもよく、屈折力なしのレンズ(いわゆる度なしレンズ)であってもよい。
【0037】
眼鏡レンズは、単焦点レンズ、多焦点レンズ、累進屈折力レンズ等の各種レンズであることができる。レンズの種類は、レンズ基材の両面の面形状により決定される。また、レンズ基材表面は、凸面、凹面、平面のいずれであってもよい。通常のレンズ基材および眼鏡レンズでは、物体側表面は凸面、眼球側表面は凹面である。ただし、本発明は、これに限定されるものではない。フォトクロミック層は、通常、レンズ基材の物体側表面上に設けることができるが、眼球側表面上に設けてもよい。
【0038】
<フォトクロミック層>
上記光学物品のフォトクロミック層は、基材の表面上に直接または一層以上の他の層を介して間接的に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによって形成することができる。他の層としては、フォトクロミック層と基材との密着性を向上させるためのプライマー層を挙げることができる。そのようなプライマー層は公知である。塗布方法としては、スピンコート法、ディップコート法等の公知の塗布方法を採用することができ、塗布の均一性の観点からはスピンコート法が好ましい。硬化処理は、光照射および/または加熱処理であることができ、短時間で硬化反応を進行させる観点からは光照射が好ましい。硬化処理条件は、上記組成物に含まれる各種成分(先に記載した重合性化合物、重合開始剤等)の種類や上記組成物の組成に応じて決定すればよい。こうして形成されるフォトクロミック層の厚さは、例えば5~80μmの範囲であることが好ましく、20~60μmの範囲であることがより好ましい。
【0039】
上記のフォトクロミック層を有する光学物品は、フォトクロミック層に加えて一層以上の機能性層を有してもよく、有さなくてもよい。機能性層としては、光学物品の耐久性向上のための保護層、反射防止層、撥水性または親水性の防汚層、防曇層等の光学物品の機能性層として公知の層を挙げることができる。
【0040】
上記光学物品の一形態は、眼鏡レンズである。また、上記光学物品の一形態としては、ゴーグル用レンズ、サンバイザーのバイザー(ひさし)部分、ヘルメットのシールド部材等を挙げることもできる。これら光学物品用の基材上に上記組成物を塗布し、塗布された組成物に硬化処理を施すことによりフォトクロミック層を形成することによって、防眩機能を有する光学物品を得ることがでる。
【0041】
[眼鏡]
本発明の一態様は、上記光学物品の一形態である眼鏡レンズを備えた眼鏡に関する。この眼鏡に含まれる眼鏡レンズの詳細については、先に記載した通りである。上記眼鏡は、かかる眼鏡レンズを備えることにより、例えば屋外ではフォトクロミック層に含まれるフォトクロミック化合物が太陽光の照射を受けて発色することでサングラスのように防眩効果を発揮することができ、屋内に戻るとフォトクロミック化合物が退色することで透過性を回復することができる。上記眼鏡について、フレーム等の構成については、公知技術を適用することができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0043】
[実施例1]
<光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)の調製>
プラスチック製容器内で、成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式2中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)68質量部、成分Bである1,9-ノナンジオールジアクリレート(式1中、R1およびR2は水素原子、m=9、分子量268)20質量部および成分Cであるトリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量296)12質量部を混合した。
こうして得られた重合性化合物の混合物に、フォトクロミック化合物(米国特許第5645767号明細書に記載の構造式で示されるインデノ縮合ナフトピラン化合物)、光ラジカル重合開始剤(ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド(IGM Resin B.V.社製Omnirad819))、酸化防止剤(ビス[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオン酸][エチレンビス(オキシエチレン)])、光安定化剤(セバシン酸ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル))を混合し十分に撹拌した。その後、自転公転方式撹拌脱泡装置で脱泡した。こうして、光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)を調製した。組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は94.90質量%、フォトクロミック化合物は3.00質量%、光ラジカル重合開始剤は0.30質量%、酸化防止剤は0.90質量%、光安定化剤は0.90質量%である。上記組成物において、重合性化合物の全量を100質量%として、成分Aの含有率は68.0質量%、成分Bの含有率は20.0質量%、成分Cの含有率は12.0質量%である。
【0044】
<眼鏡レンズの作製>
プラスチックレンズ基材(HOYA社製商品名EYAS;中心肉厚2.5mm、半径75mm、S-4.00)を10質量%水酸化ナトリウム水溶液(液温60℃)に5分間浸漬処理した後に純水で洗浄し乾燥させた。その後、このプラスチックレンズ基材の凸面(物体側表面)にプライマー層を形成した。詳しくは、水系ポリウレタン樹脂液(ポリカーボネートポリオール系ポリウレタンエマルジョン;固形分濃度38質量%)を温度25℃相対湿度50%の環境においてプラスチックレンズ基材の凸面にスピンコート法により塗布した後、15分間自然乾燥させることにより、厚さ5.5μmのプライマー層を形成した。
上記プライマー層の上に、上記で調製したフォトクロミック層形成用コーティング組成物をスピンコート法により塗布した。スピンコートは、特開2005-218994号公報に記載の方法により行った。その後、プライマー層上に塗布された上記組成物に対して窒素雰囲気中(酸素濃度500ppm以下)で紫外線(波長405nm)を照射し、この組成物を硬化させてフォトクロミック層を形成した。形成されたフォトクロミック層の厚さは45μmであった。
こうして、フォトクロミック層を有する眼鏡レンズを作製した。
【0045】
[比較例1]
成分Bの1,9-ノナンジオールジアクリレートに代えて、ネオペンチルグリコールジメタクリレート(分子量240、式1に非該当)20質量部を使用した点以外、実施例1と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。
【0046】
[評価方法]
(1)非照射下での可視光透過性
以下の発色濃度の測定を行う前の各眼鏡レンズの透過率(測定波長:550nm)を、大塚電子工業社製分光光度計により測定した。こうして測定される透過率(以下、「初期透過率」と記載する。)の値が大きいほど、非照射下での可視光透過性に優れることを意味する。
【0047】
(2)発色濃度
JIS T7333:2005に準じた以下の方法によって発色濃度の評価を行った。
実施例および比較例の各眼鏡レンズのフォトクロミック層に対し、キセノンランプを使用してエアロマスフィルターを介して15分間(900秒)、フォトクロミック層の表面に対して光照射し、フォトクロミック層中のフォトクロミック化合物を発色させた。この発色時の透過率(測定波長:550nm)を大塚電子工業社製分光光度計により測定した。上記光照射は、JIS T7333:2005に規定されているように放射照度および放射照度の許容差が下記表1に示す値となるように行った。
【0048】
【0049】
上記で測定される透過率(以下、「発色時透過率」と記載する。)の値が小さいほどフォトクロミック化合物が高濃度に発色していることを意味する。
【0050】
以上の結果を、表2に示す。
【0051】
【0052】
表2に示した結果から、実施例1の眼鏡レンズは、非照射下での可視光透過性に優れ、かつ比較例1と比べて発色濃度が高いことが確認できる。
【0053】
[実施例2]
光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)の調製において、組成物の全量を100質量%としたフォトクロミック化合物の含有率を11.27質量%に変更した点以外、実施例1と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。
組成物の全量を100質量%とした上記成分の含有率は、上記重合性化合物の混合物は86.73質量%、フォトクロミック化合物は11.27質量%、光ラジカル重合開始剤は0.26質量%、酸化防止剤は0.87質量%、光安定化剤は0.87質量%である。
【0054】
[実施例3]
プラスチック製容器内で、成分Aであるポリエチレングリコールジメタクリレート(上式2中、n=14、Rはエチレン基、分子量736)61.2質量部、成分Bである1,9-ノナンジオールジアクリレート(式1中、R1およびR2は水素原子、m=9、分子量268)18.0質量部、成分Cであるトリメチロールプロパントリメタクリレート(分子量296)10.8質量部および成分Dである2-フェノキシエチルアクリレート(粘度13cP)10.0質量部を混合した。こうして重合性化合物の混合物を調製した点以外、実施例2と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。
実施例3で調製したフォトクロミック層形成用コーティング組成物において、重合性化合物の全量を100質量%として、成分Aの含有率は61.2質量%、成分Bの含有率は18.0質量%、成分Cの含有率は10.8質量%、成分Dの含有率は10.0質量%である。
【0055】
実施例2および実施例3の各眼鏡レンズについても、上記と同様の評価を行った。結果を表3に示す。
【0056】
【0057】
表3に示したように、成分Dを含む実施例3と成分Dを含まない実施例2は、発色濃度も非照射下での可視光透過性も同様であった。この結果から、実施例3において、成分Dは発色濃度にも非照射下での可視光透過性にも影響を及ぼしていないと言うことができる。
【0058】
[発色濃度および光応答性に関する検討]
光学物品用重合性組成物(フォトクロミック層形成用コーティング組成物)の調製において、組成物の全量を100質量%としたフォトクロミック化合物の含有率を8.0質量%に増量し、先に記載した重合性化合物の混合物をフォトクロミック化合物を増量した分だけ減量した点以外、実施例1と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。ここでフォトクロミック層の形成に使用した組成物において、重合性化合物の全量を100質量%として、成分Bの含有率は、実施例1と同様に20.0質量%である。
更に、上記組成物から、成分Bを増量した分は成分Aを減量し、成分Bを減量した分は成分Aを増量した複数種の組成物を調製した。こうして調製した組成物を用いてフォトクロミック層を形成した点以外、実施例1と同様の方法で眼鏡レンズを作製した。
こうして作製した眼鏡レンズの初期透過率および発色時透過率を、先に記載の方法によって測定した。
発色時透過率の測定後、光照射を止めた時間から透過率(測定波長:550nm)が[(初期透過率-発色時透過率)/2]となるまでに要する時間(半減期)を測定した。実施例1の眼鏡レンズについても、同様に半減期を測定した。こうして測定される半減期の値が小さいほど、退色速度が速く光応答性に優れると判断することができる。
成分Bの含有率に対して、発色濃度および半減期をそれぞれプロットしたグラフを
図1に示す。
図1中、右側の縦軸の目盛りは発色濃度、左側の縦軸の目盛りは半減期を示している。
図1中の近似式は、最小二乗法により得た式である。
図1のグラフから、成分Bの含有率が高くなるほど発色濃度は高まり、成分Bの含有率が低くなるほど光応答性を示す指標の1つである退色速度は速くなると言うことができる。
【0059】
最後に、前述の各態様を総括する。
【0060】
一態様によれば、フォトクロミック化合物と、上記成分Aと、上記成分Bと、を含む、光学物品用重合性組成物が提供される。
【0061】
上記組成物によれば、光照射を受けて発色した際の発色濃度が高く、かつ非照射下での可視光透過性に優れる高いフォトクロミック層を形成することができる。
【0062】
一形態では、上記組成物は、上記成分Cを更に含むことができる。
【0063】
一形態では、上記組成物は、上記成分Dを更に含むことができる。
【0064】
一形態では、上記組成物は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Aを50.0質量%以上含むことができる。
【0065】
一形態では、上記組成物は、組成物に含まれる重合性化合物の全量に対して、成分Bを5.0質量%以上30.0質量%以下含むことができる。
【0066】
本発明の一態様によれば、基材と、上記組成物を硬化させたフォトクロミック層と、を有する光学物品が提供される。
【0067】
一形態では、上記光学物品は、眼鏡レンズであることができる。
【0068】
一形態では、上記光学物品は、ゴーグル用レンズであることができる。
【0069】
一形態では、上記光学物品は、サンバイザーのバイザー部分であることができる。
【0070】
一形態では、上記光学物品は、ヘルメットのシールド部材であることができる。
【0071】
一態様によれば、上記眼鏡レンズを備えた眼鏡が提供される。
【0072】
本明細書に記載の各種態様および形態は、任意の組み合わせで2つ以上を組み合わせることができる。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明は、眼鏡、ゴーグル、サンバイザー、ヘルメット等の技術分野において有用である。