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特許7429136走路推定装置、および走路推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】走路推定装置、および走路推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   B60W 40/00 20060101AFI20240131BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
B60W40/00
G08G1/16 C
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020047033
(22)【出願日】2020-03-17
(65)【公開番号】P2021146820
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 新
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】陳 騁
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-160064(JP,A)
【文献】特表2019-510674(JP,A)
【文献】叶 霞飛, 青島 縮次郎, 宿 良,Bスプライン関数を用いた鉄道縦断線設計の最適化モデル,土木学会論文集,日本,公益社団法人 土木学会,1994年04月,NO. 488/IV-23,pp.101-110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体に搭載され、前記移動体の走行する走路の画像である走路画像を撮像する撮像部と、
前記移動体の走行に伴う状態である走行状態を検知する検知部と、
前記走路画像に基づいて前記走路の境界に対応する境界情報を抽出する抽出部と、
予め定められた複数の関数の各々の二回積分の集合である関数群を記憶する記憶部と、
前記境界情報に基づいて前記関数群に予め定められた処理を施し、直線路および曲線路を含む走路の走路モデルを生成する生成部と、
前記走行状態、および前記走路モデルを用いて前記走路の走路パラメータを推定する推定部と、を含み、
前記予め定められた複数の関数が、次数0のB-スプラインの基底関数、または次数1のB-スプラインの基底関数である、
走路推定装置。
【請求項2】
前記予め定められた処理が、前記関数群の各々の関数の重み付き線形和を所定のモデル式に組み込む処理である
請求項に記載の走路推定装置。
【請求項3】
前記生成部は、前記直線路と前記曲線路との連結部を円弧形状またはクロソイド曲線形状で近似する
請求項1または請求項に記載の走路推定装置。
【請求項4】
前記走行状態が、前記移動体の速度およびヨーレイトである
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の走路推定装置。
【請求項5】
前記走路パラメータは、前記走路と交差する方向の前記移動体の横位置、ヨー角、ピッチ角、および前記走路の形状の少なくとも1つである
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の走路推定装置。
【請求項6】
移動体に搭載され、前記移動体の走行する走路の画像である走路画像を撮像する撮像部、および前記移動体の走行に伴う状態である走行状態を検知する検知部を含む走路推定装置を用いた走路推定プログラムであって、
コンピュータを、
前記走路画像に基づいて前記走路の境界に対応する境界情報を抽出する抽出手段と、
予め定められた複数の関数の各々の二回積分の集合である関数群を記憶する記憶手段と、
前記境界情報に基づいて前記関数群に予め定められた処理を施して、直線路および曲線路を含む走路の走路モデルを生成する生成手段と、
前記走行状態、および前記走路モデルを用いて前記走路の走路パラメータを推定する推定手段と、
として機能させ
前記予め定められた複数の関数が、次数0のB-スプラインの基底関数、または次数1のB-スプラインの基底関数である、
走路推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走路推定装置、および走路推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走路推定装置においては、まず走路のモデル化が必要になる。従来、走路のモデル化の一つの手法として、B-スプラインを用いた手法が知られている。B-スプライン、特に次数3のB-スプラインは、従来CG(Computer Graphics)の分野で曲線や曲面を表現するためによく利用されていた。近年、B-スプラインは、自動運転や運転支援の分野で、走路形状、移動経路、地図の道路線形の表現に利用されつつある。
【0003】
B-スプラインを用いた走路モデルについて開示した文献として、例えば非特許文献1が知られている。1次元の次数3のB-スプライン(以下、「3次B-スプライン」という場合がある)の基底関数の重ねあわせとして走路モデルを表現し、車載カメラ画像によって取得した車線境界データを用いて、モデルパラメータ(B-スプラインの基底関数の重み)を推定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】H.Loose, U Franke,”B-spline-based road model for 3d lane recognition,”13th International IEEE Conference on Intelligent Transportation System, 2010.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、1次元の3次B-スプラインを走路モデルに利用した場合、S字カーブなどの曲線はモデル表現しやすく推定精度や追従性能も良いが、カーブと直線の接続部で推定精度や追従性能が低下する傾向がある。
【0006】
これは、一次元の3次B-スプラインでは、1つの基底関数で角度のある直線を表現することは極めて困難であり、複数の基底関数の重ねあわせで近似表現しなければならないことに起因している。特に、カーブから直線に、あるいは直線からカーブに切り替わる接続箇所では、車載カメラで撮像される走路形状が見かけ上大きく変動するが、複数の基底関数の追従性能が揃っていないと追従遅れによる推定誤差が発生し、制御や運転支援の性能低下につながる。
【0007】
図7を参照して、3次B-スプラインを用いて走路をモデル化した場合の問題点についてより詳細に説明する。図7(a)は、車両(図7(a)では「車」と表記)の進行方向に沿ってカーブ、直線路が連続する走路(以下、「複合走路」という場合がある)を示している。図7では、Z方向を車両の進行方向としている。上記のように、3次B-スプラインを用いた走路モデルでは、複合走路をモデル化することが極めて困難であり、特に遠方(例えば、車両から100~200m程度前方に離れた領域)における推定誤差の増大が避けられない。
【0008】
図7(b)は、カーブから直線へと連続する複合走路について、3次B-スプラインでモデル化する場合の基底関数の配置を示している。図7(b)に示す例では、3次B-スプラインの基底関数1と基底関数2とを重み付け加算して、該複合走路のモデル化を試みている。しかしながら、3次B-スプラインの基底関数の重み付け加算では、特にカーブと直線の接続部分、および直線部分において曲線の和で表現することになり、走路に沿ったモデル化が十分にできず、大きな推定誤差が発生している。
【0009】
以上のように、近年の走路推定装置においては、あるB-スプラインを想定した場合に、1つの基底関数でカーブ路と直線路が組み合わされた複合走路を表現でき、複数の基底関数を組み合せることで様々な曲率、線分長のカーブ路と直線路を精度よく表現できる走路推定装置が求められていた。
【0010】
本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、3次のB-スプラインによる走路モデルを用いる場合と比較して、様々な形状を含む走路についての走路パラメータを推定する場合の、推定精度や追従性能の向上が図られた走路推定装置、および走路推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の走路推定装置は、移動体に搭載され、前記移動体の走行する走路の画像である走路画像を撮像する撮像部と、前記移動体の走行に伴う状態である走行状態を検知する検知部と、前記走路画像に基づいて前記走路の境界に対応する境界情報を抽出する抽出部と、予め定められた複数の関数の各々の二回積分の集合である関数群を記憶する記憶部と、前記境界情報に基づいて前記関数群に予め定められた処理を施し、直線路および曲線路を含む走路の走路モデルを生成する生成部と、前記走行状態、および前記走路モデルを用いて前記走路の走路パラメータを推定する推定部と、を含むものである。
【0012】
また、請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記予め定められた複数の関数が、次数0のB-スプラインの基底関数、または次数1のB-スプラインの基底関数であるものである。
【0013】
また、請求項3に記載の発明は、請求項1または請求項2に記載の発明において、前記予め定められた処理が、前記関数群の各々の関数の重み付き線形和を所定のモデル式に組み込む処理であるものである。
【0014】
また、請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の発明において、前記生成部は、前記直線路と前記曲線路との連結部を円弧形状またはクロソイド曲線形状で近似するものである。
【0015】
また、請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の発明において、前記走行状態が、前記移動体の速度およびヨーレイトであるものである。
【0016】
また、請求項6に記載の発明は、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の発明において、前記走路パラメータは、前記走路と交差する方向の前記移動体の横位置、ヨー角、ピッチ角、および前記走路の形状の少なくとも1つであるものである。
【0017】
上記の目的を達成するために、請求項7に記載の走路推定プログラムは、移動体に搭載され、前記移動体の走行する走路の画像である走路画像を撮像する撮像部、および前記移動体の走行に伴う状態である走行状態を検知する検知部を含む走路推定装置を用いた走路推定プログラムであって、コンピュータを、前記走路画像に基づいて前記走路の境界に対応する境界情報を抽出する抽出手段と、予め定められた複数の関数の各々の二回積分の集合である関数群を記憶する記憶手段と、前記境界情報に基づいて前記関数群に予め定められた処理を施して、直線路および曲線路を含む走路の走路モデルを生成する生成手段と、前記走行状態、および前記走路モデルを用いて前記走路の走路パラメータを推定する推定手段と、として機能させるためのものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、3次のB-スプラインによる走路モデルを用いる場合と比較して、様々な形状を含む走路についての走路パラメータを推定する場合の、推定精度や追従性能の向上が図られた走路推定装置、および走路推定プログラムを提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態に係る走路推定装置の構成の一例を示すブロック図である。
図2】実施の形態に係る走路モデルを説明する図である。
図3】(a)、(b)は0次B-スプラインによる走路のモデル化を説明する図、(c)(d)は1次B-スプラインによる走路のモデル化を説明する図である。
図4】(a)から(d)は1次B-スプラインを例にとって、各種走路の形状にフィッティングさせる基底関数の配列を説明する図、(e)は基底関数の他の形態を説明する図である。
図5】(a)は1次B-スプラインによる走路のモデル化の効果を説明する図、(b)は本実施の形態に係る走路推定装置の推定誤差を、3次関数、3次B-スプラインを用いた場合の推定誤差と比較したグラフである。
図6】実施の形態に係る走路推定装置が実行する走路推定プログラムの、処理の流れを示すフローチャートである。
図7】(a)はカーブと直線が組み合わされた複合走路の一例を示す図、(b)は3次B-スプラインを用いて走路をモデル化した場合の推定誤差を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。以下の説明では、本発明に係る走路推定装置、および走路推定プログラムを、車両等に搭載され、走行車線を含む領域の走路を推定する走路推定装置、および走路推定プログラムに適用した形態を例示して説明する。本実施の形態に係る走路推定装置、および走路推定プログラムは、車両に搭載された単眼カメラの画像から、白線レーンマーク等の境界情報を抽出し、走行車線を遠方まで精度よくモデル表現することが可能なように構成されている。そして、特にカーブ路と直線路の接続部でのモデル化誤差を低減させることが可能となっており、その結果、S字カーブとともに、カーブ路、直線路の接続部を精度よく表現できる走路推定装置、および走路推定プログラムが実現されている。ここで、本実施の形態でいう「遠方」とは、約100~200m先までを想定している。なお、以下の説明では、数式において斜体の文字を斜体でない文字で表す場合がある。
【0021】
図1に示すように、本実施の形態に係る走路推定装置10は、車線境界特徴抽出部11、パラメータ推定部12、関数記憶部13、カメラ14、車速センサ15、およびヨーレイトセンサ16を含んで構成されている。
【0022】
カメラ14は、一例として、車室内のリアビューミラーの位置に前向きに配置され、車両前方の走路の画像(以下、「走路画像」という場合がある)を撮像する撮像装置である。本実施の形態では、カメラ14の水平路面に対する高さ、俯角は予め既知の値に設定されているものとする。図1に示すように、カメラ14で撮像された画像は車線境界特徴抽出部11へ出力される。なお、本実施の形態では単眼カメラを想定しているが、これに限られずステレオカメラを用いてもよい。
【0023】
車速センサ15は、自車両の路面に対する速度を計測する部位、ヨーレイトセンサ16は、自車両のヨーレイトを計測する部位である。車速センサ15で計測された速度、およびヨーレイトセンサ16で計測されたヨーレイトは、例えば、図示しない車載CAN(Controller Area Network)等を経由してパラメータ推定部12へ出力される。なお、「車速センサ15」、および「ヨーレイトセンサ16」は、本発明に係る「検知部」の一例である。また、「車速」、および「ヨーレイト」は、本発明に係る「走行状態」の一例である。
【0024】
車線境界特徴抽出部11は、カメラ14によって撮像された走路画像に基づいて、自車両が走行中の走行車線の左右に敷設された白線や、縁石等の車線境界に対応する観測点(以下、「白線点」という場合がある)のカメラ画像上の座標値(カメラ座標値)(ixobs、iyobs)を取得する。ここで、車線境界は、走路面と車線境界との境には画像上の輝度差があると仮定し、Sobelフィルタ等のエッジ抽出フィルタにより抽出される。さらに、画像中の小領域内では、車線境界は直線と仮定して、ハフ変換等により直線に対応する白線が選択される。または、深層学習により車線境界特徴を学習して車線境界を抽出するように構成してもよい。
【0025】
関数記憶部13は、パラメータ推定部12で使用するB-スプラインに関連した関数(基底関数b、基底関数bの一回積分、基底関数bの二回積分g)を記憶している。基底関数bの二回積分gは、以下に示す(式1)で表現される。

後述するように、各車線境界点がZ軸上のどの区間に入るかに対応して、個々の添え字i(対応する基底関数の番号)が特定される。
【0026】
パラメータ推定部12は、左右の車線境界点のカメラ座標値を観測値とし、最小二乗法、RANSAC(Random Sample Consensus)、拡張カルマンフィルタ、パーティクルフィルタ等を用いて、以下に示す(式2)および(式3)で表現される走路モデルのパラメータ値を求める。このとき、車線境界点のZ座標値は平面路面仮定か、または車線幅一定仮定によって算出する。あるいは、ステレオカメラによる立体視に基づく視差から算出しても良い。


このとき、
G(Z):B-スプラインの二回積分gの線形和で表した平面線形(走路形状)、
:Z=0における車線中心のオフセット、
θ:Z=0におけるヨー角、
w:車線幅、
θα:Z=Zにおける走路の平面線形の接線傾き、すなわち、

:i番目のB-スプラインの基底関数の重み、すなわち、走路形状を表すパラメータ、
n:B-スプラインの基底関数の数
である。
【0027】
(式2)における±の符号については、正の符号は右車線境界の場合に用い、負の符号は左車線境界の場合に用いる。CGで利用されるB-スプラインは一般にベクトルであるが、本実施の形態では、カメラ画像の逆透視変換の処理しやすさを考慮して、Xを定義域、Zを値域とした1次元の関数と見なして、cを重みを表すスカラー値として扱う。ここで、「逆透視変換」とはカメラ座標の画像から世界座標の画像への変換をいう。これに対し、「透視変換」は世界座標の画像からカメラ座標の画像への変換をいう。
【0028】
図2は、上記(式2)、(式3)との対応を示した、走路の走行平面図である。図2に示すように、本実施の形態に係る走路モデルは、走路を、カメラ位置を原点とした二次元直交座標系XZ上の曲線として表現する。このとき、Z軸はカメラの光軸方向(車両の進行方向)を示し、X軸は横位置方向を示す。図2に示す座標系では、重力方向がY軸となっている。また、路面からカメラ14までのカメラの高さは既知であるとする。図2において、wは走路の幅(車線幅)を表し、XはZ=0における車両中心のオフセット、θ0はZ=0における車両のヨー角を表し、θαは走路の座標(X、Z)における接線の傾きを表している。1/cosθαの項は接線角度による車線幅の見かけ上の変動分を表している。また、G(Z)は平面線形(走路形状)を表し、重みcで重みづけされたB-スプラインの基底関数の二回積分gの線形和で表現されている。ここで、本実施の形態でいう基底関数の「平面線形」とは、ある直線から傾きの異なる直線に遷移する場合の遷移部および直線部をいう。また、車両のヨー角とは、所定の基準に対する平面視での移動体の角度をいう。ヨー角の変化する割合がヨーレイトである。これに対し、後述する「ピッチ角」は、所定の基準に対する断面視での移動体の角度をいう。
【0029】
再び図1を参照して、警報・制御部20では、パラメータ推定部12で推定したパラメータc、X、θに基づいて警報の報知、あるいは所定の対象の制御を実行する。
【0030】
ここで、上述したように、特に3次B-スプラインを走路モデルに適用した場合、S字カーブなどの曲線は表現しやすく推定精度や追従性能も良いが、カーブと直線の接続部で推定精度や追従性能が低下する傾向がある。これは、3次B-スプラインの1つの基底関数で角度のある直線を表現することは極めて困難であり、複数の基底関数の重ねあわせで近似表現しなければならないからである。
【0031】
そこで本発明では、次数0または次数1のB-スプライン(以下、各々「0次B-スプライン」、「1次B-スプライン」という場合がある)で走路の平面線形の傾きの変化(曲率が小さい場合には曲率の近似値)を表現し、その二回積分で平面線形(走路形状、オフセット成分)を表現する。このことにより、1つの基底関数で、任意の箇所の直線部(傾きの変化が0)を表現することができるため、従来の3次B-スプラインを用いた場合に比べ、推定精度や追従性能の向上を図ることが可能となった。
【0032】
次に、図3を参照して、本実施の形態で採用しているB-スプラインについて、より具体的に説明する。図3(a)、(b)は0次B-スプラインを説明する図であり、図3(c)、(d)は1次B-スプラインを説明する図である。図3(a)、(c)は各々のB-スプラインの基底関数の配置を示し、図3(b)、(d)は、各々の基底関数bとその一回積分、および二回積分gの関係を示している。
【0033】
図3(a)は、0次B-スプラインの基底関数を示している。図3(a)に示すように、0次B-スプラインの基底関数の形状は矩形であり、図3(a)では、b~bの6個の基底関数を例示している。この矩形の基底関数群を用いてZ軸上の走路の設定区間の傾きの変化(近似的に曲率成分)のパターンを表現する。すなわち、各車線境界点がZ軸上のどの区間に入るかに対応して、個々の添え字i(対応する基底関数の番号)を特定する。
【0034】
図3(b)は、0次B-スプラインの基底関数の形状(<1>)、一回積分の形状(<2>)、および二回積分の形状を表している。そして、基底関数は傾きの変化を表現し、一回積分は傾き(ヨー角)を表現し、二回積分は平面線形(走路形状)を表現している。
図3(b)に示すように、0次B-スプラインの場合は、走路を表現する基底関数の平面線形が2次曲線となり(<3>)、その傾きが直線となる(<2>)。図3(b)の例の場合、図3(b)<3>に示すように平面形状、すなわち走路形状は、I、II、IIIの3つの領域に分けられ、領域Iは直線、領域IIは2次曲線、領域IIIは直線となる。なお、図3(b)に示す縦軸は平面線形の縦軸をXで表現した場合を例示しており(<3>)、従って、傾きの縦軸はXのZに関する一階偏微分で表現され(<2>)、傾きの変化の縦軸はXのZに関する二階偏微分で表現される(<1>)。
【0035】
一方図3(c)は、1次B-スプラインの基底関数を示している。図3(b)に示すように、1次B-スプラインの基底関数の形状は三角形であり、図3(b)では、b~bの6個の基底関数を例示している。この三角形を用いてZ軸上の走路の設定区間の傾きの変化(近似的に曲率成分)のパターンを表現する。すなわち、各車線境界点がZ軸上のどの区間に入るかに対応して、個々の添え字i(対応する基底関数の番号)を特定する。
【0036】
図3(d)は、1次B-スプラインの基底関数の形状(<1>)、一回積分の形状(<2>)、および二回積分の形状を表している。そして、基底関数は傾きの変化を表現し、一回積分は傾き(ヨー角)を表現し、二回積分は平面線形(走路形状)を表現している。
図3(d)に示すように、1次B-スプラインの場合は、走路を表現する基底関数の平面線形が2つの3次曲線となり(<3>)、その傾きが2つの2次曲線となる(<2>)。
図3(d)の例の場合、図3(d)<3>に示すように、平面形状、すなわち走路形状は、I、II、III、IVの4つの領域に分けられ、領域Iは直線、領域II、IIIは3次曲線、領域IVは直線となる。なお、図3(d)に示す縦軸は平面線形の縦軸をXで表現した場合を例示しており(<3>)、従って、傾きの縦軸はXのZに関する一階偏微分で表現され(<2>)、傾きの変化の縦軸はXのZに関する二階偏微分で表現される(<1>)。
【0037】
図4(a)から(d)は、各平面線形(走路形状)をモデル化する場合の基底関数の重みづけの例を、1次B-スプラインを例にとって示している。図4(a)は円弧の、図4(b)はクロソイド曲線の、図4(c)は直線から円弧への接続部の、図4(d)は円弧から直線への接続部の、重みづけされた基底関数c(i=0~5)の配置を示している。このように、本実施の形態に係る走路推定装置10では、1つの基底関数でカーブ路とそれに接続する直線路を表現することが可能である。
【0038】
図4(e)は、矩形、三角形以外の形状の基底関数の例を示している。図4(e)は一例として台形形状の基底関数の例を示している。図4(e)に示すような台形形状の基底関数によれば、定常カーブ区間の推定精度を改善できる可能性がある。定常カーブでは曲率一定が一定区間継続することを反映し、クロソイド曲線区間も表現するという考え方に基づく。このように、本実施の形態では、基底関数の形状は矩形形状、三角形状に限られない。
【0039】
上述したように、図3に示す各関数は予め関数記憶部13に記憶されており、必要に応じてパラメータ推定部12が読み出して使用する。
【0040】
次に、図5を参照して、本実施の形態に係る走路推定装置10の効果について、より具体的に説明する。図5(a)は、1次B-スプラインの基底関数の二回積分を用いて、カーブ路と直線路を有する複合走路を平面線形(走路形状)表現したモデル化の例である。
図5(a)に示すように、基底関数の二回積分を重み付け加算することにより、複合走路を精度よく、かつ簡易にモデル化することができる。
【0041】
図5(b)は、3次関数を用いてモデル化した場合、3次B-スプラインを用いてモデル化した場合、そして本実施の形態によりモデル化した場合の180m先の推定誤差(m)のシミュレーション結果を示している。図5(b)では縦軸に180m先推定誤差(m)をとり、横軸に曲率半径をとり、曲率半径を1000m、500m、200m、100mとした場合の推定誤差を示している。図5(b)を参照して明らかなように、3次関数を用いてモデル化した場合の推定誤差は他の関数を用いた場合に比べて非常に大きい。本実施の形態によるモデル化は全体的に3次B-スプラインによるモデル化と遜色ないが、一般に推定誤差が増大すると考えられる走路の曲率半径が小さい領域において、3次B-スプラインに対する優位性が確認された。これは、本実施の形態に係る走路推定装置10では、1つの基底関数でカーブ路とそれに接続する直線路を表現でき、1つの基底関数を複数組み合せることで様々な曲率、線分長のカーブ路と直線路を精度よく表現できるからである。また、本実施の形態に係る走路推定装置10では矩形、あるいは三角形と比較的単純な形状の基底関数を用いているので、3次B-スプラインに比べて計算負荷が少なくできるという効果も奏する。
【0042】
次に、パラメータ推定部12で実行される、B-スプラインで規定された走路モデルを用いた走路パラメータの推定について、より詳細に説明する。
【0043】
上述したように、パラメータ推定部12は、左右の車線境界点のカメラ座標値(ixobs、iyobs)を観測値として、最小二乗法やRANSAC、あるいは拡張カルマンフィルタやパーティクルフィルタ等により走路モデルのパラメ一タ値(走路パラメータ)を求める。このとき、カメラ座標値(ixobs、iyobs)から対応する世界座標値(X、Z)への座標変換は、路面を平面と仮定して(平面路面仮定)、または、車線の幅を一定と仮定して(車線幅一定仮定)算出する。なお、本実施の形態に係る走路パラメータには、ピッチ角、ヨー角(図3(b)<2>、図3(d)<2>に示す傾きに相当)、移動体の横位置(走行車線等と自車両の相対的な位置、「オフセット」ともいう)、平面線形(走路形状、図3(b)<3>、図3(d)<3>参照)、車線幅、傾きの変化(図3(b)<1>、図3(d)<1>参照)が含まれる。パラメータ推定部12で推定された走路パラメータは、上述したように警報・制御部20に出力され、所定の警報の発出、あるいは所定の車両の制御に供される。
【0044】
平面路面仮定と透視変換により、走路モデル(世界座標)上のj番目の点(X、Y)は、カメラ画像(カメラ座標)上の点(ixj、iyj)へ、以下に示す(式4)、(式5)を用いて投影される。



【0045】
観測値として、車載単眼カメラで撮像した走路画像に基づいて、車線の左右の白線から各々m個の白線点の座標値(ixobsj、iyobsj)を取得した場合、カルマンフィルタの観測値ベクトルは、以下に示す(式6)で表される。



逆透視変換と平面路面仮定により、iyobsから以下に示す(式7)を用いて、白線点の進行方向距離Zを算出する。


【0046】
(式2)および(式4)に基づき、(式7)を用いて算出したZから、ixの予測値を算出し、該予測値と観測値との差分から、公知のカルマンフィルタを用いて推定値ベクトルxを更新する。
【0047】
以上から、カルマンフィルタの推定値ベクトルは以下に示す(式8)で表される。(式8)において、記号Tは転置記号を示す。
【0048】
なお、制御や警報などでZ(m)前方の曲率cdとして、近似値ではなくより正確な値が必要な場合は,既知の幾何学の知見により、以下に示す(式9)を用いて算出してもよい。

【0049】
次に、図6を参照して、本実施の形態に係る走路推定装置10において実行される、走路推定処理について説明する。図6は当該走路推定処理において実行される走路推定プログラムの処理の流れを示すフローチャートである。本走路推定プログラムは走路推定装置10の図示しないROM等の記憶手段に記憶されており、ユーザインタフェース等を介して実行開始の指示を受け付けると、図示しないCPUがROM等の記憶手段から本走路推定プログラムを読み込み、RAM等に展開して実行する。
【0050】
ステップS100で、カメラ14から走路画像を取得する。取得した走路画像は、車線境界特徴抽出部11に送られる。
【0051】
ステップS101で、センサ情報を取得する。すなわち、車速センサ15から車速を、ヨーレイトセンサ16からヨーレイトを取得する。取得した車速、およびヨーレイトは、パラメータ推定部12に送られる。
【0052】
ステップS102で、ステップS100で取得した走路画像から、車線境界候補(白線点)を抽出する。すなわち、車線境界候補を抽出するように、車線境界特徴抽出部11を制御する。
【0053】
ステップS103で、ステップS102で抽出した白線点を勘案して、関数記憶部13から適切な基底関数b、基底関数bの二回積分を読み込む。読み込んだ基底関数の二回積分を(式2)、(式3)に示すモデル式に組み込み、走路モデルを生成する。
【0054】
ステップS104で、ステップS103で生成した走路モデルを用いて走路パラメータを更新する。すなわち、車速、ヨーレイト、車線境界候補を入力とし、カルマンフィルタ等を用いて走路パラメータを更新するようにパラメータ推定部12を制御する。
【0055】
ステップS105で、走路パラメータを出力する。すなわち、更新された走路パラメータを、警報・制御部20に出力するようにパラメータ推定部12を制御する。
【0056】
ステップS106で、終了の指示があったか否か判定する。当該判定が否定判定となった場合にはステップS100に戻って走路推定処理を継続する。一方、当該判定が肯定判定となった場合には、本走路推定プログラムを終了する。終了の指示があったか否かの判定は、例えばユーザによって走路推定装置10の電源がオフにされたか否かを検出して判定してもよい。
【0057】
上述した、本実施の形態に係る走路推定装置10の動作をまとめると、以下のようになる。すなわち、走路推定装置10は、カメラ14による走路画像、車速センサ15による車速、ヨーレイトセンサ16によるヨーレイト等を入力とする。そして、車線境界特徴抽出部11が該走路画像に基づいて白線点(車線境界点)を求める。さらに、パラメータ推定部12が該白線点を勘案して関数記憶部13から適切な関数を読み出す。引き続きパラメータ推定部12は読みだした関数を走路のモデル式((式2)、(式3))に組み込むことにより走路モデルを生成し、生成された走路モデル、および車速、ヨーレイトを用いて、走路パラメータ、すなわち、自車両の横位置(オフセット)、ヨー角、ピッチ角、車線幅等を出力する。
【0058】
以上詳述したように、本実施の形態に係る走路推定装置、および走路推定プログラムによれば、カメラ画像やライダー(LiDAR)等の車載外界センサのデータを入力として走路形状や走路と車両との相対位置姿勢を推定する場合において、特にカーブ路と直線路との接続部における推定精度や追従性能がより向上した走路推定装置、および走路推定プログラムを提供することができるという効果を奏する。
【0059】
なお、上記実施の形態では、走路の両側の白線レーンマーク(白線点)を観測する形態を例示して説明したが、これに限られず、片側の白線レーンマークを観測する形態に適用してもよい。片側の白線レーンマークを観測する形態の場合、モデルパラメータとして車線幅wは使用しないか、または、車線幅wは固定値としてもよい。また、片側の白線レーンマークを観測する形態の場合は、路面の特徴点のSFM(Structure From Motion)に基づき、路面の高さや奥行き距離を算出して、その距離情報を走路推定に利用してもよい。一方、左右両側の白線レーンマークを観測する形態の場合、局所路面平面仮定と車線幅一定仮定に基づき、白線までの奥行き距離を算出するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0060】
10 走路推定装置
11 車線境界特徴抽出部
12 パラメータ推定部
13 関数記憶部
14 カメラ
15 車速センサ
16 ヨーレイトセンサ
20 警報・制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7