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特許7429162エンコーダ異常診断装置およびエンコーダ異常診断方法
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  • 特許-エンコーダ異常診断装置およびエンコーダ異常診断方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】エンコーダ異常診断装置およびエンコーダ異常診断方法
(51)【国際特許分類】
   G01D 5/244 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
G01D5/244 K
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020103343
(22)【出願日】2020-06-15
(65)【公開番号】P2021196279
(43)【公開日】2021-12-27
【審査請求日】2023-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000149066
【氏名又は名称】オークマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】惠木 快昌
【審査官】細見 斉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-210227(JP,A)
【文献】特開昭61-104220(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01D 5/00-5/38
G01B 7/00-7/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物の回転角度に応じてcos波形およびsin波形を出力するエンコーダの異常を診断するエンコーダ異常診断装置であって、
前記cos波形およびsin波形をパルス化したうえで、カウントしたカウント値の変化に基づいて、前記対象物が回転中か停止中かを判定する停止判定処理部と、
前記cos波形およびsin波形のリサージュ波形の半径が規定の基準範囲外の場合に前記エンコーダを異常と診断する診断処理部と、
前記停止判定処理部により停止中と判定された場合に用いる前記基準範囲が、前記停止判定処理部により回転中と判定された場合に用いる前記基準範囲よりも、狭くなるように前記基準範囲を設定する範囲変更処理部と、
を備えることを特徴とするエンコーダ異常診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載のエンコーダ異常診断装置であって、
前記範囲変更処理部は、前記停止中と判定された場合に用いる前記基準範囲を、前記リサージュ波形の半径値にLPFを適用した値を基準として設定している、ことを特徴とするエンコーダ異常診断装置。
【請求項3】
対象物の回転角度に応じて、cos波形およびsin波形を出力するエンコーダの異常を診断するエンコーダ異常診断方法であって、
前記cos波形およびsin波形をパルス化したうえで、カウントしたカウント値の変化に基づいて、前記対象物が回転中か停止中かを判定する停止判定処理ステップと、
前記cos波形およびsin波形のリサージュ波形の半径が規定の基準範囲外の場合に前記エンコーダを異常と診断する診断処理ステップと、
前記停止判定処理ステップおいて停止中と判定された場合に用いる前記基準範囲が、前記停止判定処理ステップにおいて回転中と判定された場合に用いる前記基準範囲よりも、狭くなるように前記基準範囲を設定する範囲変更処理ステップと、
を備えることを特徴とするエンコーダ異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、対象物の回転角度に応じてcos波形およびsin波形を出力するエンコーダの異常を診断するエンコーダ異常診断装置およびエンコーダ異常診断方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸については、国際規格によって速度制限監視機能が要求されている。例えば、旋盤の主軸については、ISO23125により安全カテゴリ3で速度制限監視を実現することが要求されている。
【0003】
一般的に工作機械の主軸用検出器としては、磁気式エンコーダ等のように、回転角度に応じて、1回転あたりN周期のsin波形とcos波形を出力するタイプが使用される(以下、sin/cos信号出力エンコーダと呼称する)。
【0004】
sin/cos信号出力エンコーダを用いて、速度監視を安全カテゴリ3で実現する方法については、例えば、非特許文献1に開示されている。非特許文献1には、1つのsin/cos信号出力エンコーダを用いる方法が開示されている。1つのsin/cos信号出力エンコーダを用いる場合、エンコーダ出力信号に高い診断率が要求される。そのため、sin^2+cos^2=1に基づいたcos波形およびsin波形の診断を行う必要があり、非特許文献1にはsin^2+cos^2=1の診断により診断率≧99%が達成できることが記載されている。
【0005】
図2は、1つのsin/cos信号出力エンコーダを用いて安全カテゴリ3で速度監視を行う場合のブロック図である。図2において、エンコーダ1は回転角度θに応じて、cos波形=A・cos(N・θ)およびsin波形=A・sin(N・θ)で構成されるsin/cos波形を出力する。Nは、エンコーダ1回転当たりに出力されるsin波形およびcos波形の周期数を表している。このNは、磁気式エンコーダでは、歯車の歯数、光学式エンコーダでは、スリットの個数によって決定される。レベル変換回路2は、cos波形を後段回路が利用可能な電圧レベルに変換して、Vcとして出力する。パルス化回路3は前記Vcをパルス信号に変換する。同様にレベル変換回路4は、sin波形を後段回路が利用可能な電圧レベルに変換して、Vsとして出力し、パルス化回路5は前記Vsをパルス信号に変換する。前記パルス化回路3,5が出力するパルス信号は、位相が90°ずれたパルス信号であり、既知の手法にてカウンタ6,8で4逓倍のパルスカウントを行う。速度監視部7は、前記カウンタ6のカウント値の変化量よりエンコーダの回転速度を演算し速度監視を行い、制限速度を超えた場合、異常処理部14に異常出力を行う。同様に、速度監視部9は、前記カウンタ8のカウント値の変化量よりエンコーダの回転速度を演算し、速度監視を行い、制限速度を超えた場合、異常処理部14に異常出力を行う。前記速度監視部7,9は、速度演算結果及び速度監視結果の相互監視を行い、両者の演算結果に差異が発生した場合、異常処理部14に異常出力を行う。AD変換器10,11は、レベル変換回路2,4の出力する信号Vcおよび信号VsのAD変換を行い、リサージュ半径演算処理部12に出力する。リサージュ半径演算処理部12は、AD変換器10,11が出力する信号Vcおよび信号VsのAD変換結果に対して、オフセット補正、振幅比補正、および位相補正などの各種補正を行った後、リサージュ半径を演算する。診断処理部21は、リサージュ半径が所定の基準範囲を逸脱した場合、異常処理部14に異常出力を行う。異常処理部14は、速度監視部7,9、診断処理部21の何れか1つでも異常出力を行った場合に、モータの通電をOFFするなどの異常処理を行う。
【0006】
診断処理部21は、図3に示す前記リサージュ半径演算処理部12が出力するリサージュ半径18が、リサージュ半径の上限閾値19を超過するか、または、下限閾値20を下回った場合に前記異常処理部14に異常出力を行う。なお、以下では、上限閾値19および下限閾値20で規定される範囲を「基準範囲」と呼ぶ。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】Apfeld, R.,”Do safe drive controls also require safe position encoders?”,[online],インターネット<URL:http://www.dguv.de/medien/ifa/en/pub/rep/pdf/reports2013/ifar0713e/safe_drive_controls.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エンコーダの出力するcos波形およびsin波形のリサージュ半径は、様々な要因により変動する。例えば、磁気式エンコーダの場合、エンコーダ取付時の歯車とのギャップによる変動、歯車の偏心によるエンコーダ1回転周期の変動、周囲温度による変動、エンコーダの回転周波数による変動などが考えられる。そのため、リサージュ半径の診断に使用する閾値は、こうした変動分を考慮した設定としなければ、正常であるにも関わらず、異常と誤検出する過剰検出が発生するおそれがある。
【0009】
しかし、エンコーダの故障モードによっては、図4に示すようなリサージュ波形となる場合がある。この場合、リサージュ波形は、第1象限と第4象限を往復し、カウンタがカウントアップとカウントダウンを繰り返すため、回転中にも関わらず停止状態と判定してしまう。さらに、リサージュ波形が、常に、基準範囲内となり、異常を検出できない。もちろん、基準範囲を狭めることで図4のリサージュ波形を異常として検出することができるが、基準範囲を狭めた場合、上述した温度変動等に起因するリサージュ半径の変動に対応できず、過剰検出が発生する。
【0010】
そこで、本明細書では、エンコーダの異常をより正確に検出できるエンコーダ異常診断装置およびエンコーダ異常診断方法を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本明細書で開示するエンコーダ異常診断装置は、対象物の回転角度に応じてcos波形およびsin波形を出力するエンコーダの異常を診断するエンコーダ異常診断装置であって、前記cos波形およびsin波形をパルス化したうえで、カウントしたカウント値の変化に基づいて、前記対象物が回転中か停止中かを判定する停止判定処理部と、前記cos波形およびsin波形のリサージュ波形の半径が規定の基準範囲外の場合に前記エンコーダを異常と診断する診断処理部と、前記停止判定処理部により停止中と判定された場合に用いる前記基準範囲が、前記停止判定処理部により回転中と判定された場合に用いる前記基準範囲よりも、狭くなるように前記基準範囲を設定する範囲変更処理部と、を備えることを特徴とする。
【0012】
この場合、前記範囲変更処理部は、前記停止中と判定された場合に用いる前記基準範囲を、前記リサージュ波形の半径値にLPFを適用した値を基準として設定してもよい。
【0013】
本明細書で開示するエンコーダ異常診断方法は、対象物の回転角度に応じて、cos波形およびsin波形を出力するエンコーダの異常を診断するエンコーダ異常診断方法であって、前記cos波形およびsin波形をパルス化したうえで、カウントしたカウント値の変化に基づいて、前記対象物が回転中か停止中かを判定する停止判定処理ステップと、前記cos波形およびsin波形のリサージュ波形の半径が規定の基準範囲外の場合に前記エンコーダを異常と診断する診断処理ステップと、前記停止判定処理ステップにおいて停止中と判定された場合に用いる前記基準範囲が、前記停止判定処理ステップにおいて回転中と判定された場合に用いる前記基準範囲よりも、狭くなるように前記基準範囲を設定する範囲変更処理ステップと、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本明細書で開示するエンコーダ異常診断装置およびエンコーダ異常診断方法によれば、回転中と停止中のリサージュ半径閾値を変更しているため、リサージュ半径の変動を考慮した異常検出マージンの確保と、エンコーダ故障による回転状態を停止状態と誤判定する故障モードの異常検出を両立することができる。結果として、エンコーダの異常をより正確に検出できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】エンコーダ異常診断装置の構成を示すブロック図である。
図2】従来のエンコーダ異常診断装置の構成を示すブロック図である。
図3】エンコーダが正常な場合のリサージュ波形の一例を示す図である。
図4】エンコーダの異常が発生した場合のリサージュ波形の一例を示す図である。
図5】停止判定処理の流れを示すフローチャートである。
図6】リサージュ半径判定閾値の変更処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
エンコーダ異常診断装置の構成について、図1図5図6を用いて説明する。図1に、エンコーダ異常診断装置のブロック図を示す。エンコーダ1は、回転角度θに応じて、cos波形=A・cos(N・θ)およびsin波形=A・sin(N・θ)で構成されるsin/cos信号を出力する。Nは、エンコーダ1回転当たりに出力されるsin波形およびcos波形の周期数を表している。Nは、磁気式エンコーダでは、歯車の歯数、光学式エンコーダでは、スリットの個数によって決定される。レベル変換回路2は、cos波形を後段回路が利用可能な電圧レベルに変換してVcとして出力する。パルス化回路3は、Vcをパルス信号に変換する。同様にレベル変換回路4は、sin波形を後段回路が利用可能な電圧レベルに変換してVsとして出力し、パルス化回路5は、Vsをパルス信号に変換する。パルス化回路3,5が出力するパルス信号は、位相が90°ずれたパルス信号であり、既知の手法にてカウンタ6,8で4逓倍のパルスカウントを行う。速度監視部7は、カウンタ6のカウンタ値の変化量よりエンコーダの回転速度を演算し速度監視を行い、制限速度を超えた場合、異常処理部14に異常出力を行う。同様に速度監視部9は、カウンタ8のカウンタ値の変化量よりエンコーダの回転速度を演算し速度監視を行い、制限速度を超えた場合、異常処理部14に異常出力を行う。速度監視部7,9は、速度演算結果及び速度監視結果の相互監視を行い、両者の演算結果に差異が発生した場合、異常処理部14に異常出力を行う。
【0017】
AD変換器10,11は、レベル変換回路2、4の出力する信号Vcおよび信号VsのAD変換を行い、リサージュ半径演算処理部12に出力する。リサージュ半径演算処理部12は、AD変換器10,11の出力する信号Vcおよび信号VsのAD変換結果に対して、オフセット補正、振幅比補正、および位相補正などの各種補正を行った後、リサージュ半径を演算する。診断処理部13は、リサージュ半径が所定の基準範囲を逸脱した場合、異常処理部14に異常出力を行う。
【0018】
停止判定処理部15は、カウンタ6から出力されるカウンタ値に基づき、対象物が回転中か停止中かを判定する。停止判定処理部15は、停止中と判定した場合、停止フラグのONを、回転中と判定した場合、停止フラグのOFFを、範囲変更処理部16に出力する。範囲変更処理部16は、停止判定処理部15の出力する停止フラグと、リサージュ半径演算処理部12が出力するリサージュ半径と、に基づいて、診断処理部13に、上限閾値19と下限閾値20で規定される基準範囲を出力する。異常処理部14は、速度監視部7,9、診断処理部13の何れか1つでも異常出力を行った場合に、モータの通電をOFFするなどの異常処理を行う。
【0019】
図5は、停止判定処理部15で行う処理の流れを示すフローチャートである。停止判定処理部15は、カウンタ6から出力されるカウンタ値を入力とし、現在のカウンタ値から前回のカウンタ値を減算した値を、カウンタ差分値として演算する(S10)。カウンタ差分値の絶対値が2以上の場合(S12でNoの場合)、停止判定処理部15は、対象物が回転中であると判定し、停止フラグをOFFする(S14)。一方、カウンタ差分値の絶対値が2より小さい場合(S12でYes)、ステップS16に進む。
【0020】
ステップS16において、停止判定処理部15は、現在の停止フラグの状態を確認する。確認の結果、停止フラグがOFFの場合(S16でNo)、停止判定処理部15は、カウンタ停止値の値として、現在のカウンタ値を設定したうえで(S18)、ステップS20に進む。カウンタ停止値は、停止フラグがOFFからONに変化した際のカウンタ値である。一方、停止フラグがONの場合(S16でYes)、停止判定処理部15は、カウンタ停止値を再設定することなく、そのまま、ステップS20に進む。
【0021】
ステップS20において、停止判定処理部15は、現在のカウンタ値からカウンタ停止値を減算した値を、カウンタ累積変化値として算出する。その後、停止判定処理部15は、このカウンタ累積変化値の絶対値が2以上の場合(S22でNo)、対象物が回転中である判定し、停止フラグをOFFする(S14)。一方、カウンタ累積変化値の絶対値が2未満の場合(S22でYes)、停止判定処理部15は、対象物が停止中であると判定し、停止フラグをONする(S24)。ステップS14またはステップS24において、停止フラグが設定されれば、停止判定処理部15は、現在のカウンタ値を、前回のカウンタ値として記録したうえで、ステップS10に戻る。そして、以降、同様の処理を、カウンタ値が出力されるたびに繰り返す。
【0022】
ここで、上述の説明から明らかなとおり、本例では、カウンタ差分値の絶対値に基づいて回転中か否かを判定している。そのため、エンコーダの故障により、図4に示すようなリサージュ波形が発生した場合には、カウンタがカウントアップとカウントダウンを繰り返すため、対象物が回転中であっても、停止判定処理部15は、停止中と判定し、停止フラグをONする。
【0023】
次に、範囲変更処理部16の処理について図6を参照して説明する。図6は、範囲変更処理部16の処理の流れを示すフローチャートである。範囲変更処理部16は、予め、回転中基準範囲と、停止中幅と、を記憶している。回転中基準範囲は、停止判定処理部15により回転中と判定された場合に用いられる基準範囲である。この回転中基準範囲は、回転中上限閾値と、回転中下限閾値と、で規定されるものであり、範囲変更処理部16は、この回転中上限閾値および回転中下限閾値を記憶している。この回転中基準範囲の幅、すなわち、回転中上限閾値と回転中下限閾値との差分値は、種々の要因によるリサージュ半径の変動分に対し、誤検出しないように十分なマージンを持った値を設定する。また、停止中幅は、停止判定処理部15により停止中と判定された場合に用いられる基準範囲の幅である。この停止中幅は、回転中基準範囲の幅よりも小さい。
【0024】
実際に基準範囲を設定する際、範囲変更処理部16は、まず、停止判定処理部15の出力する停止フラグを確認する(S30)。確認の結果、停止フラグがOFFの場合、すなわち、回転中と判定されている場合(S30でNo)、停止判定処理部15は、予め記憶されている回転中上限閾値および回転中下限閾値を、基準範囲の上限閾値および下限閾値として設定する(S32)。
【0025】
一方、前記停止フラグがONの場合、すなわち、停止中と判定されている場合(S30でYes)、停止判定処理部15は、前回の停止フラグを確認する(S34)。
【0026】
確認の結果、今回の停止フラグがONかつ前回の停止フラグがOFFの場合(S34でNo)、停止判定処理部15は、現在のリサージュ半径を、範囲基準値に設定する(S36)。一方、今回、前回ともに、停止フラグがONの場合(S34でYes)、停止判定処理部15は、現在のリサージュ半径にローパスフィルタを適用した値を、範囲基準値に設定する(S38)。
【0027】
ステップS36またはステップS38において、範囲基準値が設定できれば、続いて、停止判定処理部15は、範囲基準値に、(停止中幅×1/2)を加算した値を上限閾値として設定し、範囲基準値から(停止中幅×1/2)を減算した値を下限閾値として設定する(S40)。この場合、停止中に適用される基準範囲の幅は、停止中幅となり、これは、回転中に適用される基準範囲の幅よりも狭い。
【0028】
また、これまでの説明で明らかなとおり、範囲基準値は、停止フラグがOFFからONに変化した際には、リサージュ半径演算処理部12が出力するリサージュ半径を初期値とする。一方、停止フラグのONが継続している場合、範囲基準値は、リサージュ半径にLPF処理を施した値が設定される。このLPFの時定数は、図4に示すリサージュ波形の周期よりも十分に大きければ特に限定されない。例えば、LPFの時定数は、エンコーダの熱時定数に基づき設定してもよい。かかる構成とすることで、温度変動による変動を異常と誤検出することを防止できる。また、LPFの時定数を、図4に示すリサージュ波形の周期よりも十分に大きくすることで、図4に示すリサージュ波形が発生した場合に、異常と検出することができる。例えば、リサージュ波形の周期が数ミリ秒の場合、LPFの時定数は、数秒としてもよい。
【0029】
また、停止中幅は、固定値でもよいし、範囲基準値等に応じて変動する可変値でもよい。また、図1に示すリサージュ半径演算処理部12、診断処理部13、範囲変更処理部16は、リサージュ半径の代わりにリサージュ半径の二乗を用いて各種演算を行ってもよい。また、本例では、停止中に用いる基準範囲を、リサージュ半径を基準として設定している。停止中の基準範囲の幅が、回転中の基準範囲の幅より狭いのであれば、停止中に用いる基準範囲は、リサージュ半径とは無関係に設定されてもよい。例えば、aを1未満の数値、bを1超過の数値とした場合に、停止中に用いる上限閾値を、(回転中上限閾値×a)とし、停止中に用いる下限閾値を、(回転中下限閾値×b)としてもよい。
【符号の説明】
【0030】
1 エンコーダ、2,4 レベル変換回路、3,5 パルス化回路、6,8 カウンタ、7,9 速度監視部、10,11 AD変換器、12 リサージュ半径演算処理部、13 診断処理部、14 異常処理部、15 停止判定処理部、16 範囲変更処理部、18 リサージュ半径、19 上限閾値、20 下限閾値、21 診断処理部。
図1
図2
図3
図4
図5
図6