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  • 特許-電流センサおよび変圧器 図9B
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】電流センサおよび変圧器
(51)【国際特許分類】
   G01R 15/18 20060101AFI20240131BHJP
   H01F 38/30 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
G01R15/18 B
G01R15/18 D
H01F38/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020115572
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013185
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-01-23
(73)【特許権者】
【識別番号】502129933
【氏名又は名称】株式会社日立産機システム
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舘村 誠
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 孝平
(72)【発明者】
【氏名】中ノ上 賢治
(72)【発明者】
【氏名】今川 尊雄
(72)【発明者】
【氏名】城杉 孝敏
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-250351(JP,A)
【文献】特開昭61-040017(JP,A)
【文献】特開2009-002818(JP,A)
【文献】特開2017-112297(JP,A)
【文献】特開2011-029376(JP,A)
【文献】特開2017-098417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 15/18
H01F 38/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状に形成される筐体と、
巻き線により前記筐体の周囲の少なくとも一部を巻くことで構成されるコイルと、
前記筐体内に設けられ、アモルファス箔体が、積層され、前記筐体に沿った形状である鉄心とを有し、
前記鉄心は、
直線状に積層されたアモルファス箔体を、前記積層されたアモルファス箔体の積層上層面の何れかを支点とし、当該積層上層面が内側となる面外方向に略C形状に構成し、
前記略C形状に構成されたアモルファス箔体の積層における両端が、前記積層上層面および記積層されたアモルファス箔体の積層下層面の端が磁路方向にずれており、相対する前記積層上層面および前記積層下層面がオーバラップしている傾斜部を備え、
前記両端の間に一定の空隙ができるように構成することを特徴とする電流センサ。
【請求項2】
請求項1に記載の電流センサにおいて、
前記鉄心は、直線状に積層されたアモルファス箔体に対し、少なくとも一方に前記アモルファス箔体の積層方向に対する傾斜を設け、当該アモルファス箔体を、前記面外方向に曲げて変形させることで、前記積層上層面および前記積層下層面がオーバラップしている傾斜部を形成することを特徴とする電流センサ。
【請求項3】
請求項に記載の電流センサにおいて、
前記鉄心は、前記積層上層面が前記積層下層面よりも長さが短く、積層された前記アモルファス箔体を変形させることを特徴とする電流センサ。
【請求項4】
請求項に記載の電流センサにおいて、
前記筐体は、開閉可能なクランプ部を有し、
前記クランプ部は、前記傾斜部に応じた傾斜を有し、
当該傾斜は、前記鉄心における磁気回路上のエアギャップが前記磁路方向のギャップである鉄心端の距離に比べて小さくなるよう構成されることを特徴とする電流センサ。
【請求項5】
環状に形成される筐体と、巻き線により前記筐体の周囲の少なくとも一部を巻くことで構成されるコイルと、前記筐体内に設けられ、アモルファス箔体が、積層され、前記筐体に沿った形状である鉄心とを有し、
前記鉄心は、
直線状に積層されたアモルファス箔体を、前記積層されたアモルファス箔体の積層上層面の何れかを支点とし、当該積層上層面が内側となる面外方向に略C形状に構成し、
前記略C形状に構成されたアモルファス箔体の積層における両端が、前記積層上層面および記積層されたアモルファス箔体の積層下層面の端が磁路方向にずれており、相対する前記積層上層面および前記積層下層面がオーバラップしている傾斜部を備え、
前記両端の間に一定の空隙ができるように構成することを特徴とする電流センサを備えたことを特徴とする変圧器。
【請求項6】
請求項に記載の変圧器において、
前記鉄心は、直線状に積層されたアモルファス箔体に対し、少なくとも一方に前記アモルファス箔体の積層方向に対する傾斜を設け、当該アモルファス箔体を、前記面外方向に曲げて変形させることで、前記積層上層面および前記積層下層面がオーバラップしている傾斜部を形成することを特徴とする変圧器。
【請求項7】
請求項に記載の変圧器において、
前記鉄心は、前記積層上層面が前記積層下層面よりも長さが短く、積層された前記アモルファス箔体を変形させることを特徴とする変圧器。
【請求項8】
請求項に記載の変圧器において、
前記筐体は、開閉可能なクランプ部を有し、
前記クランプ部は、前記傾斜部に応じた傾斜を有し、
当該傾斜は、前記鉄心における磁気回路上のエアギャップが前記磁路方向のギャップである鉄心端の距離に比べて小さくなるよう構成されることを特徴とする変圧器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電流を検出する電流センサや、これを用いた変圧器及びアモルファス金属薄帯に関する。
【背景技術】
【0002】
電流センサとして、例えば特許文献1に記載の技術が存在する。特許文献1には、「非磁性体からなり両端部が厚さ方向に重ねられて円状に形成される補強体と、前記補強体上に設けられ、両端部が厚さ方向に重ねられて円状に形成される帯状磁性体と、を有し、円状の前記補強体の中心軸に平行な軸を中心に前記補強体を開閉自在とすることにより、前記帯状磁性体の両端部が接離自在となるセンサヘッドにおいて、前記軸は、前記帯状磁性体の両端部が重ねられた状態で、当該両端部と前記帯状磁性体の中心とを通る直線上からずれた位置に設けられていることを特徴とするセンサヘッド。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2019-168405号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電流センサは、変圧器など各種機器に設けられることがある。このため、電流センサにおいて、機器への設置について考慮する必要がある。つまり、製造や設置を含む取り扱いの容易さや電流の検出精度の確保が求められる。
【0005】
ここで、特許文献1は、クランプ部を閉じたときに鉄心両端同士を重ねる或いは金属端同士(帯状磁性体)を接触させて固定し測定する。また、特許文献1では、この帯状磁性体が上に補強体が設けられている構成である。
【0006】
このため、特許文献1では、帯状磁性体と補強体の組み立ての精度が求められる。つまり、帯状磁性体と補強体にずれが生じると、その大きさに応じて、検出精度が低下するためである。
【0007】
また、特許文献1で示される構造はその鉄心の素材である磁性体は少なくても接する面はむき出しであり、取り付け、取り外しの際には、一旦クランプ部を開くため鉄心両端(磁性体)の接触箇所は大気中に晒されることになる。そして、測定時においても励磁コア両端の接触面周辺は大気中に晒されている。この結果、特許文献1では、金属両端面には錆の発生と錆の進行が伴うことになる。
【0008】
以上のことから、特許文献1では、機器への設置において、取り扱いの容易さや検出精度について課題が残る。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明では、アモルファス箔体の弾性変形や磁気性能を活かし、機器への設置に好適な電流センサを提案する。なお、本明細書では、リボン状ないし板状の部材を箔体と称する。
【0010】
その代表的な一態様として、本発明は、電流センサを構成する鉄心を、アモルファス箔体を積層し、環状に構成する。より具体的には、環状に形成される筐体と、巻き線により前記筐体の周囲の少なくとも一部を巻くことで構成されるコイルと、前記筐体内に設けられ、アモルファス箔体が、積層され、前記筐体に沿った形状である鉄心とを有し、前記鉄心は、直線状に積層されたアモルファス箔体を、前記積層されたアモルファス箔体の積層上層面の何れかを支点とし、当該積層上層面が内側となる面外方向に略C形状に構成し、前記略C形状に構成されたアモルファス箔体の積層における両端が、前記積層上層面および記積層されたアモルファス箔体の積層下層面の端が磁路方向にずれており、相対する前記積層上層面および前記積層下層面がオーバラップしている傾斜部を備え、前記両端の間に一定の空隙ができるように構成する電流センサである。
【0011】
なお、本発明には、この電流センサを備える各種機器、例えば、変圧器が含まれる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、電流センサの機器への設置において、取り扱いの容易さや検出精度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施例1に係る電流センサの基本構造図である。
図2A】本発明の実施例に係るアモルファス箔体を直線状に積層した場合の上面図である。
図2B】本発明の実施例に係るアモルファス箔体を直線状に積層した場合の側面図である。
図2C】本発明の実施例に係る鉄心の構成図である。
図3】本発明の実施例に係るクランプ部の突合せの詳細を示す電流センサの構成図である。
図4】本発明の実施例1に係るクランプ部を開いたときの電流センサの状態を示す図である。
図5】本発明の実施例1に係るクランプ部における重ね合わせ量と磁路長さの関係を背説明するための図である。
図6】本発明の実施例1に係る磁路長変化量と検出電圧変動値の関係グラフである。
図7】本発明の実施例2に係る補償コイルを有する電流センサの構成図である。
図8A】本発明の実施例3に係る電流センサの正面図である。
図8B】本発明の実施例3に係る電流センサの側面図である。
図9A図2Aの変形例であるアモルファス箔体を直線状に積層した上面図である。
図9B図2Aの変形例であるアモルファス箔体を直線状に積層した側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施例を、図面を用いて説明する。
【実施例1】
【0015】
まず、実施例1について図1および図2A図2Cを用いて説明する。本実施例は変圧器の端子近傍の配線の電流を測定する電流センサ100に関するものである。まず、図1は、本実施例の電流センサ100の基本構造を表す。ここで、電流センサ100の主要構成として、鉄心1、ケース2およびコイル3の部位を有する。さらに、コイル3が巻き付けられるボビン4を有することが望ましい。また、コイル3で電流センサ100の中央部の配線を流れる電流の電圧値を検出電圧として検出可能である。
【0016】
ここで、ケース2は図示するように環状に構成される。そして、このケース2内に、鉄心1が環状に設けられている。また、鉄心1は後述のように、アモルファス箔体が積層して構成されている。つまり、ケース2は、その内部が中空である筐体として実現できる。
【0017】
また、ケース2は、大きくケース部位2-L-aとケース部位2-R-aに分けることができる。そして、ケース部位2-L-aとケース部位2-R-aは、ヒンジ部2-C-hを支点に、図面上左右に開くことが可能である。この様子は図4に示すが、この詳細は追って説明する。
【0018】
次に、図2A図2Cを用いて、鉄心1の構造を説明する。なお、鉄心1には、磁性材として、焼鈍前のアモルファス箔体を用いる。アモルファス箔体は、他の材料に比較して、飽和磁界が比較的大きく塑性変形が生じにくく且つ亀裂も生じにくいとの特性を有する。ここで、アモルファス箔体の単体での厚さは0.1mm以下の凡そ0.025mmと他の磁性材に比べ薄い。変圧器のような数百アンペア以上の高電流を測定する場合は、磁気飽和が生じにくい大きさの鉄心断面積が必要となり、アモルファス箔単体では鉄心機能が不十分であることも想定される。
【0019】
このため、本実施例の鉄心1には、例えば、数十枚以上積層したアモルファス箔体を用いる。このように構成するために、まず、図2Aおよび図2Bに示すように、直線状のアモルファス箔体を積層する。ここで、図2Aは、アモルファス箔体を直線状に積層した場合の上面図である。また、図2Bは、アモルファス箔体を直線状に積層した場合の側面図である。そして、図2Bに示す点のいずれかを支点に、面外方向(図での上向き)に略C形状になるように変形させることで、図2Cに示すようなケース2に沿った形状の鉄心1が構成される。
【0020】
ここで、図2Aおよび図2Bの変形例を、図9Aおよび図9Bに示す。図2Aおよび図2Bに示すアモルファス箔体を直線状に積層した例では、両端に傾斜を設けた。これに対して、図9Aおよび図9Bの変形例では、一方の端に傾斜を設けている。この変形例でも、図9Bに示す点のいずれかを支点に、面外方向(図での上向き)に略C形状になるように変形させることで、図2Cに示すようなケース2に沿った形状の鉄心1が構成される。このようにして構成される鉄心1でも、その両端に傾斜面を設けられる。また、図2Aおよび図2Bで示す例では、両端とも同じ角度の傾斜面を設けたが、互いに異なる角度の傾斜面としてもよい。いずれにしろ、略C形状になるように変形させることで、図2Cに示すように、鉄心1の両端が互いにオーバラップするように構成されればよい。
【0021】
前述のように、鉄心1を、アモルファス箔体を積層した構成にすることで、変圧器の容量に応じた鉄心1の断面積を、積層枚数の違いで調整することができる。このため、積層枚数を変えることで様々な変圧器容量を、実現できる。したがって、様々な容量に応じた鉄心1を容易に製造することでき、製造コストを小さくすることができる。
【0022】
例えば、電流計測に必要な鉄心断面積が50平方ミリメートルの場合、幅10mmのリボン状のアモルファス箔体を用いて、厚さ方向に約200枚積層(総厚5mm)することで実行断面積を達成する。電流計測に必要な鉄心断面積が100平方ミリメートルの場合も、同じ幅10mmのリボン状のアモルファス箔体を用いて、積層枚数を400枚積層(総厚10mm)することで鉄心断面積を調整することができる。
【0023】
ここで鉄心1の構造を、図2C用いて、説明する。前述のように構成された鉄心、つまり、電流の測定に用いられる鉄心1は、数十枚以上積層したアモルファス箔体を箔面の面外方向に曲げられており、磁気回路を形成して配線を囲む。
【0024】
鉄心1を構成する積層箔体の両端10-L-f、10-R-fは傾斜している。つまり、クランプ部10-Aに存在する両端10-L-f、10-R-fの傾斜面で互いに突合せる構造とした。尚、両端は互いに突合せしながらも、ケースの板が介在するため、一定のギャップG、つまり、空隙を有している。鉄心1は、傾斜面で突合せて固定されるため、鉄心端の積層上層面と下層面の端は磁路方向にずれており、相対する鉄心端の下層面と上層面がオーバラップした構造となる。このオーバラップした構造により、磁気回路上のエアギャップが小さくなり、取り付け精度のバラツキが小さくなる。ここで、アモルファス箔体の単体は0.1mm以下の0.025mmと薄く、特に焼鈍する前のアモルファス箔の機械的性質には塑性変形が生じにくく、弾性体のまま変形する。そして、焼鈍前のアモルファス箔は脆化していないため曲げ変形させても亀裂が発生する可能性が非常に低い。
【0025】
このように、鉄心1の磁性材の機能として該アモルファス箔体を用いることで、極端な曲げ変形(曲率半径0.5mm以下)をさせない限り弾性体のまま変形し、曲げ変形の箇所には残留応力が生じないもしくは微量である)。このことから、鉄心1として曲げ変形を繰り返しても、鉄心1の特性が維持される。鉄心1の特性を整理すると焼鈍前アモルファス箔体を積層した構造で、積層方向に曲げ・伸ばしを行う動作をさせても、該鉄心1は可撓性を有し、鉄心1の両端を含むクランプ部10-Aの開閉を繰り返しても該鉄心1そのものは特性が維持される。このため、鉄心1の開閉後の磁気回路にはほぼ影響しない。
【0026】
また、鉄心1は曲げ伸ばしに際して可撓性がある。このため、一度、クランプ部10-Aを開き、そしてクランプ部10-Aを所定の位置に戻して固定し、電流を測定した場合、その測定値は基本的に可逆性がある数値が得られる。また、アモルファス箔の積層箔体を用いた鉄心構造は可撓性があり、積層枚数を多くしてもその可撓性を維持する。
【0027】
ここで、一般の数百アンペア以上を測定できるクランプ開閉型の電流センサは、2個の鉄心を組み合わせて開閉する構造を採用し、磁気回路のエアギャップは2か所となる。一方、本実施例では鉄心1そのものが変形するため、磁気回路のエアギャップは1か所のみで済むことから、一般の電流センサに比べ、エアギャップのバラツキを小さくできる基本構造となる。
【0028】
このように、本実施例の電流センサ100は、製造コストの負担を小さくして実行断面積を大きくでき、可撓性と可逆性の特性を用いたものである。このことで、クランプ開閉型としながらエアギャップ部が1個の磁気回路を有することができる構造である。
【0029】
また、一般の電流センサは、鉄心そのものは曲げ変形しないため、鉄心を2分割にした構造が主流である。例えば、2分割した鉄心のそれぞれをコノ字形状で形成し、コノ字の両端同士を突き合せることで、2つのエアギャップがある磁気回路の鉄心構造である。このように、一般の電流センサは、磁路に対し2つのエアギャップがあるため、ギャップ精度にバラツキが生じ易い。一般のクランプ開閉型の電子センサでは、この課題の対処として、一定のエアギャップ精度を確保するために、鉄心端面同士を直接突合せし、接触させて固定する方法を採る。このように、接触させて固定させるため、クランプ開閉での繰り返し測定精度は安定させやすい。
【0030】
但し、この構造では、鉄心端同士を接触させるため、接触面は鉄心素材が露出しており露出面は錆が発生しやすい。変圧器のような長期間に渡り運用する装置に取り付けて測定するには錆への対策を施す必要があり、大きな課題となる。
【0031】
これに対して、本実施例は、エアギャップ部を1個としながらも鉄心そのものの曲げ変形によってクランプ部10-Aを開閉させる基本構造で、鉄心そのものは一体で構成される。このため、一体の鉄心1を一つのケース2に収め、ケース2全体を密閉することで、鉄心1を大気中に暴露させずに錆発生への対策を施す構造となる。つまり、図1に示すように、本実施例では、ケース2は鉄心1全体を覆っており、ケース2の周りを巻き線で巻いたコイル3で構成している。このことで、本実施例の電流センサの磁気回路が形成されている。
【0032】
また、前述のように、鉄心1のクランプ部10-Aに存在する両端10-L-f、10-R-fは傾斜している。つまり、両端には、傾斜面が存在する。そして、ケース2は、これら傾斜面を有するケース部位2-L-aとケース部位2-R-aで形成される(図3、4参照)。つまり、ケース2、つまり、電流センサ100のクランプ部10-Bは、ケース2の板面を介して突合せした構造である。
【0033】
図3に、この突合せの詳細を示す電流センサ100の構成を示す。前述のように、電流センサ100は、鉄心1の外周を、ケース2で覆い、鉄心1の両端面とケース2の板面が傾斜した面でクランプしている。つまり、ケース2は、板面が傾斜した面を含むクランプ10部を有する。本来、突合せ面が垂直で構成した場合は、磁路方向の鉄心端の距離(A:磁路方向のギャップ)が、磁気回路上のエアギャップとなる。
【0034】
しかし、本実施例のように、傾斜した面で突合せした場合は、図3に示すBが磁気回路上のエアギャップとなる。このため、本実施例では、Aで示される磁路方向のギャップに比べて小さくなる。また、そのエアギャップをより小さくするためには、ケース2の板面の厚さはより薄い方が良い。特に、その厚さは、オーバラップ長に比べ5分の1以下であることが望ましい。
【0035】
また、ケース2の必要な機能として、鉄心1の錆発生を防ぐ構造、鉄心の曲げ変形に応じてクランプが開閉できる構造、そして測定時は所定の位置でクランプを固定する構造が求められる。そこで、本実施例では図3に示す構造でとなるように、凡そ6個の部品を組み合わせて、鉄心1を覆うケース2とした。また、ケース2の主な素材は、非磁性体のプラスチックを用いることが望ましい。但し、測定器の磁気回路に影響しない範囲で、金属を用いても良い。
【0036】
ケース部位2-L-aは、図3の左側の鉄心1をクランプする部位、ケース部位2-R-aは、図の右側の鉄心1をクランプする部位である。ここで、ケース部位2-L-aの傾斜面2-L-fとケース部位2-R-aの傾斜面2-R-fで突き合せて固定する。また、これらケース部位2-L-aおよびケース部位2-R-aの材料として、例えば硬質プラスチック素材のABS樹脂或いはエポキシ系樹脂に代表される硬質素材を用いる。
【0037】
また、ケース部位2-L-b及びケース部位2-R-bは、鉄心1を覆う機能の他に、該ケース外周面には巻線コイルを要する部位とし、ボビン4に線を巻いたコイル3をケース部位2-L-b或いはケース部位2-R-bに取り付けても良い。もしくは、ケース部位2-L-b或いはケース部位2-R-bを、ボビン4の代わりに該ケース2に線を巻いてコイル3を形成しても良い。
【0038】
さらに、ケース部位2-L-c及びケース部位2-R-cは、鉄心1を覆う機能の他に、クランプ部10-Bの開閉に応じて曲げ変形ができる構造である。また、ケース2を、左右へ開閉できるようにケース部位2-L-c及びケース部位2-R-c部位には、それぞれヒンジ部位設けた。これらにより、ケース2には、ヒンジ部2-C-hが構成される。なお、ヒンジ部2-C-hを設ける場所によってはクランプ部10-Bの開閉に併せて、鉄心1が移動する。
【0039】
ここで、図4に、ヒンジ部2-C-hでケース2(電流センサ100)のクランプ部10-Bを開いたときの状態を示す。クランプ部10-Bを開くと、ヒンジ部2-C-hの位置を中心に左右にケース2及び内包の鉄心1が移動し、ヒンジ部2-C-hに近い鉄心1のコーナは伸ばされる曲げ変形が生じる。ここで、鉄心1の曲げ変形に合わせてヒンジ部2-C-hに近いケース2も、変形する必要がある。このため、ヒンジ部2-C-hに近いケース部位2-C-sは、曲げ変形しやすい、つまり、弾性構造とし、例えばシリコン樹脂に代表される柔らかい樹脂を用いた構造が望ましい。
【0040】
尚、ケース部位2-C-sの形状をジャバラ状にして硬質素材の樹脂を用いながら、曲げ変形ができる構造でも良い。或いは、ヒンジ部2-C-hの構造を用いずに、ケース部位2-L-cと2-R-c部位を一体にして、例えばシリコン樹脂のような柔らかい素材で構成し、鉄心1を覆う機能とクランプ部10-Bの開閉に応じて曲げ変形ができる構造にしても良い。
【0041】
次に、図5に、クランプ部10-Bにおけるケース部位2-L-aとケース部位2-R-aの重ね合わせ量と磁路長の関係を示す。ケース部位2-L-aとケース部位2-R-aの重ね合わせた場合のケース2の突合せ面は、斜面を形成しているが、一定間隔に凹凸を有し、両端のクランプ部10-Bの凹凸面が丁度嵌るように突き合せる構造である。この電流センサ100の製造過程では、鉄心長さの精度、鉄心の積層精度、鉄心1とケース2の組み立て精度など、それぞれの電流センサ100で個体差が生じる。このため、電流センサ100を製造後、図5(a)のように標準仕様で突合せた場合、電流センサ100毎に製造上のバラツキがあることから、鉄心1の磁路長には多かれ少なかれ違いが生じる。一般の電流センサはその計測個体差を無くすプロセスとして、検出電圧後の電気回路でチューニングを行い出荷する。
【0042】
ここで、図6に、本実施例のセンサを電流2000Aで測定したときの基準値に対する鉄心磁路長変化量と検出電圧変化量の一例を示す。磁路長が短い場合、検出電圧は基準値に対しプラスとなり、磁路長が長い場合、検出電圧は基準値に対してマイナスで、磁路長の変化量と検出電圧の変化量は直線の関係がある。
【0043】
そこで、本実施例では、図6のグラフの関係を用いて、図5(b)、(c)に示すように製造上で生じた磁路長の違いをクランプ部10-Bの重ね合わせ量を変えることで磁路長の差を小さくする。このことで、電気回路を極力用いなくとも計測個体差をより小さくことが可能になる。特に、変圧器のような高電圧、高電流の配線が近い場所で、電流センサ100の長期間運用を想定した場合、電気回路への影響を考慮することが重要である。このため、電流センサ100の運用においては、出来るだけ電気回路に依存しない構造が望ましい。本実施例の電流センサ100の構造は、電気回路を極力用いなくても測定個体差を減らすチューニングが可能である。
【0044】
以上で、実施例1についての説明を終了するが、図2A図2B図2C図9Aおよび図9Bに示す構成は、後述する実施例2、3でも共通である。
【実施例2】
【0045】
次に、補償コイルを有する本発明の実施例2について、説明する。図7に、実施例1に対し、補償コイル3-b1、3-b2が追加された電流センサ100の構成を示す。実施例1では製造上のバラツキに対する測定個体差を無くす構造として、クランプ部のオーバラップ量でチューニングする構造を述べた。本実施例では、測定個体差を無くす構造として、コイルの巻数を製造後に調整できる補償コイル3-b1、3-b2を設けている。
【0046】
ここで、本実施例では、補償コイル3-b1と補償コイル3-b2の巻き数は互いに異なる。電流センサ100においては、コイルの巻数を調整することで検出電圧の調整を図ることが出来る。このため、補償コイル3-b1、3-b2を電流センサ100に設けることにより、検出電圧のプラス方向とその大きさ、或いはマイナス方向とその大きさを、調整することができる。
【0047】
図7に示す例では、巻数の異なる2つの補償コイル3-b1、3-b2を、予め主コイル3-a1、3-a2の他に組み込んでおき、製造後の主コイル3-a1、3-a2で計測したときのバラツキを、補償コイル3-b1、3-b2を結線し、調整する。ここで、検出電圧がマイナス方向に生じた場合、主コイル3-a1、3-a2の巻数に対し、補償コイル3-b1、3-b2で巻数を増やすように調整する。このためには、主コイル3-a1、3-a2の巻く方向に対して補償コイル3-b1、3-b2も同じ順方向の巻く方向で結線する。検出電圧の大きさを調整する場合は、以下のとおり結線する。
【0048】
まず、チューニングを大きく調整する場合は、二つの補償コイル3-b1、3-b2を二つ用い、両方とも順方向に結線する。チューニングが大きくない場合は、巻数が異なる補償コイル3-b1、3-b2の二つのうちどちらかを用いて順方向に結線する。チューニングの大きさが僅かな場合(予め定めた値以下)は、巻数が異なる補償コイル3-b1、3-b2の二つのうち、大きい巻数を順方向に結線し、小さい巻数の補償コイルを逆方向に結線することで、プラス方向の僅かな検出電圧へと調整できる。
【0049】
検出電圧がプラス方向に生じた場合、主コイル3-a1、3-a2の巻数に対し、補償コイル3-b1、3-b2は巻数を減らすように調整する。このために、主コイル3-a1、3-a2の巻く方向に対して補償コイル3-b1、3-b2は逆方向に巻く方向で結線する。検出電圧の大きさの調整では、チューニングを大きく調整する場合は、二つの補償コイル3-b1、3-b2を二つ用い、両方とも逆方向に結線する。チューニングを小さく調整する場合は、巻数が異なる補償コイル3-b1、3-b2の二つのうちどちらかの補償コイル一つを用いて逆方向に結線する。チューニングの大きさが僅かな場合(予め定めた値以下)は、巻数が異なる補償コイル3-b1、3-b2の二つうち、大きい巻数を逆方向に結線し、小さい巻数の補償コイルを順方向に結線することで、プラス方向の僅かな検出電圧へと調整できる。
【0050】
巻数が異なる二つの補償コイルとして、例えば補償コイルの巻数を2と3のように、それぞれ2以上の素因数で構成した場合、検出電圧の調整を最大8種類の大きさでチューニングすることができる。又、本実施例の電流センサはクランプ開閉型のため、製造後の電流センサに後付けで補償コイルを組み入れても良い。
【0051】
以上のように、本実施例では、補償コイルを用いて、検出電圧のチューニングを行うことで、電気回路を極力用いなくても測定個体差を無くすチューニング構造とした。なお、本実施例では補償コイルでのチューニングを行う構造を述べたが、実施例1の磁路長の違いをクランプ部のオーバラップ量でチューニングする構造と本実施例の補償コイルによるチューニングする構造を組み合わせても良い。以上で、実施例2の説明を終了する。
【実施例3】
【0052】
次に、本発明の実施例3として、クランプ部10-Bの開閉機構に関する変形例を説明する。図8Aおよび図8Bは、実施例3におけるクランプ開閉機構を説明するための構成図である。このうち、図8Aは、実施例3に係る電流センサ100の正面図である。図8Bは、実施例3に係る電流センサ100の側面図である。ここで、クランプ部10-Bと対面のケース部位2-Cは、鉄心の軸周りの捩じり方向に曲がりやすい素材(例えばシリコン樹脂に代表されるプラスチック素材)を用いて構成される。クランプ部10-Bの開閉を図8Aの手前と奥行方向に開く動作をすると、ケース部位2-Cは捩じられ、その内包されている積層された薄いアモルファス金属箔の鉄心も箔の層間がずれながらケースに倣って捩じられる。このため、クランプ部10-Bの開閉が容易に成される。また、図8Bの側面図に示すように、ケース部位2-Cの鉄心軸周りで捩じられ、クランプ部10-Bは開閉を行うことができる。
【0053】
また、本実施例を用いた場合のクランプ部10-Bを閉じたときの固定方法では、ヒンジのようなリンク機構が不要となり、構造が簡略化できる。さらに、本実施例のクランプ部10-Bを閉じたときの固定方法は、図8Aに示すようにケース部位2-L-aとケース部位2-R-aにそれぞれを引っかけて物理的に開かない構造部20-L、20-Rを設ける。このように、本実施例では、クランプ部10-Bを捩じって開閉する構造を有し、電流を測定する配線の軸周りに対して物理的に開かない構造である。このことで、本実施例では、長期間の運用でもクランプ部10-Bが外れないようにすることができる。
【0054】
以上で、本発明の各実施例についての説明を終了する。なお、本発明の実施例として、以下の構成も含まれる。
【0055】
一塊の鉄心はケースで覆われ、大気に晒されないことを基本構造をとし、アモルファス金属箔を積層し、箔面の面外方向に曲げて構成された一塊の鉄心が特徴の構造とした電流センサである。この電流センサにおいては、アモルファス箔体の積層で構成される一塊の鉄心構造のため、面外曲げ方向の曲げ・伸ばしは可撓性を有し、曲げ変形による磁気性能への影響が生じないため、励磁鉄心特性としての可逆性を有することになる。
【0056】
また、一塊の鉄心は配線を囲むおおよそC形状の状態でケースに収納し大気中に暴露されにくい構成である電流センサも、本発明の実施例に含まれる。
【0057】
また、クランプ部の対面にあるケース部位にヒンジ構造を設け、クランプ部の開閉に伴いケースが開閉し、該ケース内包の該鉄心も該ケースの移動と一緒に動き、クランプ部の開閉を行うことができる構成である電流センサも実施例に含まれる。またさらに、該鉄心が大気中にさらされにくいように、C形状を有する鉄心の両端も、それぞれケースで覆われ、両端のケースを突き合せて固定する電流センサも本発明の実施例に含まれる。
【0058】
またさらに、鉄心の両端を覆うケースは互いの形状に合う斜めの傾斜面を有し、鉄心両端がオーバラップした状態でクランプ部を突き合せて固定する電流センサも本発明の実施例に含まれる。この構成により、磁気回路としたときのエアギャップ値が小さくなり、取り付け、取り外しの際のエアギャップばらつきも小さくできる。
【0059】
これらの各実施例により、変圧器で代表される高電圧、高電流が流れる端子近傍の配線周りの測定ができる。また、電流センサを数か月~数十年の運用でも安定した測定ができる。また、必要に応じて変圧器の配線を付けたまま、取り付け取り外しができる電流センサを提供できる。
【0060】
なお、本発明には、各実施例で説明した電流センサ100を備える変圧器を始めとする各種機器も含まれる。
【符号の説明】
【0061】
1…鉄心
2…ケース
2-C-h…ヒンジ部
2-L-f…ケース部位2-L-aの傾斜面
2-R-f…ケース部位2-R-aの傾斜面
3…コイル
100…電流センサ
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9A
図9B