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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】現像ローラ
(51)【国際特許分類】
   G03G 15/08 20060101AFI20240131BHJP
   F16C 13/00 20060101ALI20240131BHJP
   C08L 75/04 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
G03G15/08 235
F16C13/00 A
F16C13/00 B
C08L75/04
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020143581
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038877
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000190116
【氏名又は名称】信越ポリマー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002871
【氏名又は名称】弁理士法人坂本国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】大西 竜二
(72)【発明者】
【氏名】江川 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 欣志
【審査官】飯野 修司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-204875(JP,A)
【文献】特開2017-181546(JP,A)
【文献】特許第6629491(JP,B2)
【文献】特開2020-046467(JP,A)
【文献】特開2009-075382(JP,A)
【文献】特開2020-060749(JP,A)
【文献】特開2011-221442(JP,A)
【文献】特開2010-276899(JP,A)
【文献】特開2008-122952(JP,A)
【文献】米国特許第05810705(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/08
F16C 13/00
C08L 75/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸体と、前記軸体の外表面に設けられる弾性層と、前記弾性層より外側に設けられる被覆層とを備える現像ローラであって、
前記被覆層のナノインデンテーション法により求められる付着力が、4.0μN以下であり、下記測定方法で測定される、外部電圧210Vの場合の印字濃度が、1.4以上である現像ローラ。
<測定方法>
モノクロ画像形成装置(商品名「HL-L2360DN」、ブラザー工業株式会社製)において、カートリッジに現像ローラを装着し、低温低湿環境(10℃20%RH)にてカートリッジ電極を外部電源に接続し、電圧を変化させたときの、ベタ印字部の印字濃度をX-Rite社製のX-Rite504分光濃度計で測定する。
【請求項2】
前記被覆層の静電容量が、0.1Hzにおいて11nF以下である請求項1記載の現像ローラ。
【請求項3】
前記被覆層のMD-1硬度が、30°以上60°以下である請求項1又は2記載の現像ローラ。
【請求項4】
前記現像ローラの表面のヘキサデカン接触角が、30°以上である請求項1から3いずれか1項記載の現像ローラ。
【請求項5】
前記被覆層が、シリコーン変性ウレタン樹脂を含み、
前記現像ローラの表面の抵抗値が、1×10Ω以上9×10Ω以下である請求項1から4いずれか1項記載の現像ローラ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、現像ローラに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真方式を採用する複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置に用いられる現像ローラは、トナーに均一な摩擦電荷を付与し、かつ、所定量のトナーを現像領域に安定して搬送する機能を有する。近年の電子写真装置の高速化、長寿命化、高画質化の対応の過程でトナーの特性向上が図られており、それに伴い、現像ローラを構成する各種材料の電気的特性を調整して現像ローラの現像剤搬送性を向上させることも検討されている。
【0003】
電子写真方式の画像形成装置に用いられる現像ローラは、一般的に、軸体の外周に弾性層と被覆層を備えている。被覆層の材料としては、例えば、ポリカーボネート系、エーテル系、ポリエステル系のポリウレタン樹脂等の塗料用バインダーを主成分とするものが用いられている。その被覆層の材料中には、導電性付与のため、導電性カーボンブラックを分散させたものが広く知られている(特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-3032公報
【文献】特開2002-363426公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子写真方式の複写機における消費電力の抑制や高速印刷等を目的とし、その印刷に用いられるトナーの低融点化が進められている。しかしながら、このような低融点トナーは、現像ローラ、他の規制部材の押圧による摩擦熱で融解しやすく、高湿度環境においては、水分の影響により、トナー自体の帯電性が落ちる傾向がある。このため、高温高湿度環境下では、トナーが融解して現像ローラへ固着する、いわゆる、フィルミングと呼ばれる現象が生じる。フィルミングが生じると、現像ローラの帯電性能が低下し、トナーの帯電性低下を引き起こし、その結果、かぶり、がさつき等の画像不良が生じるという問題がある。そこで、トナーの固着を抑制するため、現像ローラの表面にトナー離型性を持たせる必要がある。
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、トナー離型性が良く、耐フィルミング性に優れる現像ローラを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、軸体と、軸体の外表面に設けられる弾性層と、弾性層より外側に設けられる被覆層とを備える現像ローラであって、被覆層のナノインデンテーション法により求められる付着力が、4.0μN以下である現像ローラである。
【0007】
被覆層の静電容量は、0.1Hzにおいて11nF以下であることが好ましい。
【0008】
被覆層のMD-1硬度は、30°以上60°以下であることが好ましい。
【0009】
現像ローラの表面のヘキサデカン接触角は、30°以上であることが好ましい。
【0010】
被覆層は、シリコーン変性ウレタン樹脂を含み、現像ローラの表面の抵抗値は、1×10Ω以上9×10Ω以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、トナー離型性が良く、耐フィルミング性に優れる現像ローラを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の現像ローラの一実施形態を示す斜視図である。
図2】現像ローラの表面の抵抗を測定する装置を示す概略正面図である。
図3】ナノインデンターによって求められる、一般的な荷重曲線及び除荷曲線を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
[現像ローラ]
図1に示すように、本発明の現像ローラ1は、軸体2と、軸体2の外表面に設けられる弾性層3と、弾性層3より外側に設けられる被覆層4とを備える。
以下、各構成の詳細を説明する。
【0014】
<軸体>
軸体2は、好ましくは、導電特性を有する、従来公知の現像ローラに用いられる軸体を用いることができる。軸体2は、例えば、鉄、アルミニウム、ステンレス鋼、及び真鍮からなる群より選択される少なくとも1種の金属で構成されていることが好ましい。なお、このような軸体2は、一般に、「芯金」の名称でも知られている。
【0015】
軸体2は、絶縁性樹脂を含むものであってもよい。絶縁性樹脂は、例えば、熱可塑性樹脂であってもよく、熱硬化性樹脂であってもよい。軸体2は、例えば、絶縁性樹脂からなる芯体と、この芯体上に設けられたメッキ層と、を備えるものであってよい。このような軸体2は、例えば、絶縁性樹脂からなる芯体にメッキを施して導電化することにより得ることができる。
軸体2は、良好な導電特性を得るために、芯金であることが好ましい。
【0016】
軸体2の形状は、例えば、棒状、管状等であることが好ましい。軸体2の断面形状は、例えば、円形、楕円形であってもよく、多角形等の非円形であってもよい。軸体2の外周面には、洗浄処理、脱脂処理、プライマー処理等の処理が施されていてもよい。
【0017】
軸体2の軸方向の長さは特に限定されず、設置される画像形成装置の形態に応じて適宜調整してもよい。また、軸体2の直径(外接円の直径)も特に限定されず、設置される画像形成装置の形態に応じて適宜調整すればよい。
【0018】
<弾性層>
弾性層3は、感光体の表面に形成された静電潜像にトナーを過不足なく供給することができるように、適切なニップ幅とニップ圧をもって感光体に押圧可能な硬度や弾性を現像ローラ1に付与するために設けられる。弾性層3は、シリコーンゴムを含む。シリコーンゴムは、押圧による圧縮応力歪みが小さいという利点がある。シリコーンゴムとしては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルトリフルオロプロピルシロキサン、ポリメチルビニルシロキサン、ポリフェニルビニルシロキサン、これらのシロキサンの共重合体が挙げられる。
【0019】
弾性層3の中には、電子導電性物質やイオン導電性物質のような導電性付与剤を配合することで、その導電性を適宜調整することができる。電子導電性物質としては、ケッチェンブラックEC、アセチレンブラック等の導電性カーボン、SAF、ISAF、HAF、FEF、GPF、SRF、FT、MT等のゴム用カーボン、酸化処理を施したカラー(インク)用カーボン、銅、銀、ゲルマニウム等の金属及びその金属酸化物が挙げられる。この中でも、少量で導電性を制御しやすいことからカーボンブラック(導電性カーボン、ゴム用カーボン、カラー(インク)用カーボン)が好ましい。また、イオン導電性物質としては、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸リチウム、過塩素酸カルシウム、塩化リチウム、リチウムビスイミド、カリウムビスイミド等の無機イオン導電性物質、変性脂肪族ジメチルアンモニウムエトサルフェート、ステアリルアンモニウムアセテート等の有機イオン導電性物質が挙げられる。弾性層3には、反応性のエーテル変性シリコーンオイルを添加してもよい。
【0020】
<被覆層>
被覆層4は、ベース樹脂は、シリコーン変性ウレタン樹脂であることが好ましい。被覆層4は、(A)シリコーン変性ポリオール、(B)イソシアネート化合物、及び(C)粗さ剤を含有する被覆層用組成物を加熱及び硬化させることにより形成することができる。なお、被覆層4は、ベース樹脂と粗さ剤とを含有するが、導電性付与剤は含有しないことが好ましい。
以下に、被覆層用組成物の詳細について説明する。
【0021】
(A)シリコーン変性ポリオール
シリコーン変性ポリオールとは、変性シリコーンオイル及びイソシアネート化合物からなる組成物を重合させてプレポリマー化したものである。
シリコーン変性ポリオールの合成に用いられる、変性シリコーンオイル及びイソシアネート化合物の詳細を以下に説明する。変性シリコーンオイルには、両末端変性シリコーンオイル及び片末端変性シリコーンオイルが挙げられる。
【0022】
-両末端変性シリコーンオイル-
両末端変性シリコーンオイルは、いわゆる、反応性シリコーンオイルの1種であり、イソシアネート化合物と重合する特性を有する。よって、両末端変性シリコーンオイルは、エーテル基、アミノ基(1級又は2級アミノ基)、メルカプト基、又はヒドロキシル基により、シリコーン鎖の両末端が変性されていることが好ましい。これらの両末端変性シリコーンオイルは、両末端エーテル変性シリコーンオイル、両末端アミノ変性シリコーンオイル、両末端メルカプト変性シリコーンオイル、両末端カルボキシル変性シリコーンオイル、両末端フェノール変性シリコーンオイル、両末端カルビノール変性シリコーンオイルとして市販されている。
【0023】
ここで、本発明で用いられる好ましい両末端変性シリコーンオイルとしては、以下の一般式(1)で示される両末端変性シリコーンオイルを挙げることができる。
【0024】
【化1】
【0025】
一般式(1)において、Rは、-COCOH、又は-COCH-C(CHOH)を示し、nは、20以下の整数を表す。
【0026】
一般式(1)で示される両末端変性シリコーンオイルの中でも、特に、両末端のRが、-COCOHであり、nが約10であるシリコーンオイルを用いることが好ましい。このようなシリコーンオイルについては、市販のものを適宜入手することができる。
【0027】
なお、一般式(1)においては、ケイ素原子に結合する官能基は、メチル基となっているが、このメチル基が水素原子で置換された両末端変性シリコーンオイルであってもよい。
【0028】
被覆層4を形成するための組成物に両末端変性シリコーンオイルを含有することにより、被覆層4に適度な弾性を付与することができるとともに、被覆層4の電気的特性を調整することができ、フィルミングの発生を有効に抑制することができる。
【0029】
-片末端ジオール変性シリコーンオイル-
片末端ジオール変性シリコーンオイルは、両末端変性シリコーンオイルと同様に、反応性シリコーンオイルであるが、シリコーン鎖の一方の末端に、2つのヒドロキシル基が結合しているものである。通常、両末端変性シリコーンオイルとイソシアネート化合物とを重合させた場合、直鎖状のポリウレタンが生成するが、片末端ジオール変性シリコーンオイルを併用することにより、ポリウレタンに分岐鎖が導入され、現像ローラ1のナノレベルの微細な粗さを向上させることができる。
【0030】
片末端ジオール変性シリコーンオイルとしては、以下の一般式(2)で示される片末端変性シリコーンオイルを挙げることができる。
【0031】
【化2】
【0032】
一般式(2)において、R’は、-COCH-C(CHOH)を示し、nは、20以下の整数を表す。
【0033】
一般式(2)で示される片末端ジオール変性シリコーンオイルの中でも、特に、nが約10であるシリコーンオイルを用いることが好ましい。なお、一般式(2)においては、ケイ素原子に結合する官能基は、メチル基となっているが、このメチル基が水素原子で置換されたシリコーンオイルであってもよい。
【0034】
本発明において、シリコーン変性ポリオールの調製のために使用する片末端ジオール変性シリコーンオイルは、両末端変性シリコーンオイル100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましく、2質量部以上8質量部以下であることがより好ましい。両末端変性シリコーンオイルに対する片末端ジオール変性シリコーンオイルの使用量を上記の範囲内のものとすることにより、被覆層4の表面粗さを調整することにより、現像性能を良好に維持ししつつ、フィルミングを効果的に防止することができる。
【0035】
-イソシアネート化合物-
本発明において、シリコーン変性ポリオールのプレポリマー化のために使用するイソシアネート化合物としては、シリコーンオイルに導入された反応性基との反応性を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、トリレンジイソシアネート(TDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)等のジイソシアネート、及びこれらのイソシアネートの変性体である、アダクト型、ビュレット型、イソシアヌレート型、アロファネート型等を挙げることができる。これらのイソシアネート化合物の中でも、2官能型イソシアネート化合物、イソシアヌレート型イソシアネート化合物とアダクト型イソシアネート化合物であることが好ましく、これらを単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。イソシアネート化合物は、その分子鎖が長いほど、より高い柔軟性を有するポリウレタンを生成することができる。
【0036】
(B)イソシアネート化合物
シリコーン変性ポリオールを硬化するためのイソシアネート化合物としては、ポリウレタンの調製に通常使用される各種イソシアネート化合物、例えば、芳香族イソシアネート化合物、脂肪族イソシアネート化合物、脂環式イソシアネート化合物を用いることができる。
芳香族イソシアネート化合物としては、例えば、2,4-トリレンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トリレンジイソシアネート(2,6-TDI)、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,4’-MDI)、1,4-フェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニレンポリイソシアネート、トリジンジイソシアネート(TODI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート(NDI)、3,3’-ジメチルビフェニル-4,4’-ジイソシアネート等を挙げることができる。
また、脂肪族イソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、リジンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアナートメチル(NBDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)等を挙げることができる。
さらに、脂環式ポリイソシアネートとしては、例えば、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、H6XDI(水添XDI)、H12MDI(水添MDI)、4,4’-ジシクロへキシルメタンジイソシアネート等を挙げることができる。
【0037】
本発明において、被覆層4を形成するために使用する組成物におけるイソシアネート化合物の使用量は、イソシアネート化合物の反応率が80%以上126%以下、好ましくは95%以上112%以下となるように使用されることが好ましい。
【0038】
(C)粗さ剤
被覆層4に用いられる粗さ剤は、シロキサン結合又はウレタン結合を有する粒子である。このような粗さ剤としては、シリコーンゴム粒子、ポリウレタン粒子、ウレタン結合を有するアクリル系粒子が挙げられる。耐熱性及び柔軟性のあるシリコーンゴム粒子、ポリウレタン粒子、ウレタン結合を有するアクリル粒子が好ましく、シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子がより好ましい。
【0039】
本発明において使用するシリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子は、100℃以上の温度でも変形又は溶融しない耐熱性を有することが好ましく、130℃から180℃での耐熱性を有することがより好ましい。これにより、被覆層4の架橋温度においても、これらのシリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子が、変形することを防止することができる。シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の耐熱性は、メルトフローインデクサーにおいて、圧力と熱を与えてもシリコーンゴム粒子やウレタン結合を有するアクリル粒子が溶けて流れ出すことがないことを確認することにより、評価することができる。
【0040】
シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の硬度は、デュロメータA(瞬時)(JIS K 6253:1997)により測定して20度以上80度以下であることが好ましく、50度以上75度以下であることがより好ましい。シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の硬度が、上記の範囲内のものであることにより、シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の破壊や変形による、被覆層4の摩擦係数の上昇や粘着の発生を効果的に防止できるとともに、被覆層4の硬度が上がりすぎることによる、被覆層4におけるクラックや割れの発生を防止することもでき、トナーに過剰なストレスを与えることも防止できる。
【0041】
シリコーンゴム粒子及びアクリル粒子は、被覆層4中に存在(埋没)していてもよく、また、被覆層4において不均一に分散していてもよく、被覆層4の表面側に偏在していてもよい。
【0042】
シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子のうち、シリコーンゴム粒子については、ジメチルポリシロキサン等、オルガノポリシロキサン、ポリオルガノシルセスオキサンを架橋した構造が好ましく、ウレタン結合を有するアクリル粒子としては、市販のアクリル粒子を使用することができる。
【0043】
なお、シリコーンゴム粒子については、有機基として、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基;β-フェニルエチル基、β-フェニルプロピル基等のアラルキル基;クロロメチル基、3,3,3-トリフルオロプロピル基等の1価ハロゲン化炭化水素基;エポキシ基、アミノ基、メルカプト基、アクリロキシ基、メタクリロキシ基等の反応性基含有有機基から選択される1種又は2種以上の炭素数1以上20以下の1価の有機基から選択される基を有するオルガノポリシロキサン又はオルガノポリシルセスキオキサンから調製することが好ましく、これら、オルガノポリシロキサン又はオルガノポリシルセスキオキサンから調製される粒子を、オルガノアルコキシシランで表面処理した粒子であってもよい。このようなシリコーンゴム粒子としては、例えば、信越化学工業株式会社製の「KMP-597」や、東レ・ダウコーニング株式会社製の「EP-5500」、「EP-2600」、「EP-2601」、「E-2720」、「DY 33-430M」、「EP-2720」、「EP-9215Cosmetic Powder」、「9701Cosmetic Powder」等を使用することができる。
【0044】
シリコーンゴム粒子及び/又はウレタン結合を有するアクリル粒子の使用量は、(A)シリコーン変性ポリオール100質量部に対して、15質量部以上50質量部以下であることが好ましく、20質量部以上45質量部以下であることがより好ましい。シリコーンゴム粒子及び/又はウレタン結合を有するアクリル粒子の使用量を、上記使用量の範囲内のものとすることにより、弾性ローラ1の表面粗さが適切に維持され、現像剤搬送性が良好に保たれる一方で、解像度を高い水準に維持して、画質の悪化を防止することができる。
粗さ剤は、被覆層4に、1種のみ含有してもよく、2種以上含んでもよい。
【0045】
シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の粒子径は、0.2μm以上10μm以下であることが好ましく、0.8μm以上5μm以下であることがより好ましい。シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の粒子径を上記の範囲内のものとすることにより、弾性ローラ1の表面粗さが適切に維持され、現像剤搬送性が良好に保たれる一方で、解像度を高い水準に維持して、画質の悪化を防止することができる。シリコーンゴム粒子及びウレタン結合を有するアクリル粒子の粒径は、弾性ローラ1を切断処理した後に、顕微鏡により断面を観察することにより測定することができる。
【0046】
被覆層4の厚さは、5μm以上13μm以下があることが好ましく、6μm以上11μm以下であることがより好ましい。
【0047】
本発明の現像ローラ1において、被覆層の電気的特性を調整することで現像性能を良好に調整することができる。具体的には、イソシアネート化合物のイソシアヌレートタイプとアダクトタイプの組み合わせにより、抵抗値やキャパシタンスを調整することが可能である。
【0048】
(被覆層の付着力)
本発明の現像ローラ1の被覆層4は、ナノインデンテーション法により求められる付着力が、4.0μN以下であり、3.7μN以下が好ましい。付着力が、4.0μN以下であることにより、トナーの離型性が良く、フィルミングを良好に防止することができる。
【0049】
ここで、ナノインデンテーション法とは、ナノインデンター測定装置を用いて、試料表面にダイヤモンド製圧子をある荷重まで押し込んだ後、その圧子を取り除くまでの荷重と変位の関係を測定する方法である。図3に、ナノインデンターによって測定された、一般的な荷重曲線と除荷曲線のグラフを示す。圧子を取り除く際、試料表面の付着力によって、除荷曲線の一部は負の荷重を示す。その除荷曲線における負の最小荷重の絶対値が、付着力である。
本発明において、ナノインデンテーション法による付着力は、後述の実施例の条件で測定した値をいう。
【0050】
(被覆層の表面の抵抗値)
本発明の現像ローラ1の被覆層4の表面の抵抗値は、1×10Ω以上9×10Ω以下であることが好ましく、1×10Ω以上3×10Ω以下であることがより好ましい。抵抗値が9×10Ω以下であることにより画質が良好である。抵抗値の下限値は、導電剤無しで実現できる限界の抵抗値である。
現像ローラ1の表面の抵抗値は、被覆層4のシリコーン変性ポリオールとイソシアネート化合物の種類の組み合わせで、調整することが可能である。必要であれば、反応性エーテル変性シリコーンオイルを添加することによって抵抗値をコントロールすることが可能である。
被覆層4の表面の抵抗値は、後述の実施例で説明する方法により測定する値とする。
【0051】
(被覆層の静電容量)
現像ローラの被覆層の静電容量は、0.1Hzにおいて11nF以下であることが好ましく、得られる画像濃度の諧調性を良好に維持する観点から、下限は、0.5nF程度であることが好ましい。すなわち、静電容量は、0.5nF以上11nF以下であることがより好ましい。静電容量が、上記範囲であることにより、トナーの離型性が良く、フィルミングを良好に抑制することができる。
被覆層4には、カーボンやイオン導電材などの導電性付与剤は、キャパシタンス上昇に起因するため、結果としてトナー離型性が劣ることとなり、使用しない。
【0052】
(MD-1硬度)
被覆層のMD-1硬度は、30°以上60°以下であることが好ましく、20°以上60°以下であることがより好ましく、30°以上50°以下であることがさらに好ましい。被覆層のMD-1硬度を上記の範囲に調整することにより、現像剤への負荷を軽減しつつ、現像剤の搬送量を保つことができる。
MD-1硬度の測定にはMD-1硬度計(高分子計器(株)製、「マイクロゴム硬度計MD-1)を用いることができる。本発明においては、ローラ表面にMD-1硬度計の押針を押し当て、ピークホールドモード、ホールド時間を3秒で読み取った値を、MD-1硬度とする。なお、MD-1硬度計は、原理的にはJIS K6253に記載のタイプAデュロメータに準じたものである。
【0053】
(被覆層の表面のヘキサデカン接触角)
現像ローラ1の被覆層4の表面のヘキサデカン接触角は、30°以上であることが好ましく、43°以上であることがより好ましく、50°以上であることが更に好ましい。30°以上であることにより、フィルミング発生を良好に抑制することができる。フィルミングを抑えることにより、現像ローラ1の寿命が延び画像品質の安定化に繋がる。また、フィルミングによるかぶり発生も抑制することができる。
ヘキサデカン接触角は、ポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学社製)を用いて測定することができる。
【0054】
(その他の構成)
本発明の現像ローラ1は、軸体2と弾性層3との間、及び弾性層3と被覆層4との間に、接着層を備えてもよい。弾性層3と被覆層4の間には、弾性層3の表面改質を、UV光等を照射し、プライマー処理することで接着剤層を設けてもよく、プラズマコートによって表面改質と接着剤層を同時に設けてもよい。
【実施例
【0055】
以下、本発明について、実施例を挙げて詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0056】
[実施例1]
以下の手順により、実施例1の現像ローラを作製した。
(プライマー層の形成)
無電解ニッケルメッキ処理が施された軸体(SUM23製、直径7.5mm、長さ274.1mm)をエタノールで洗浄し、その表面にシリコーン系プライマー(商品名「プライマーNo.16」、信越化学工業株式会社製)を塗布した。プライマー処理した軸体を、ギヤオーブンを用いて、150℃の温度にて10分焼成処理した後、常温にて30分以上冷却し、軸体の外周面にプライマー層を形成した。
【0057】
(弾性層の形成)
ミラブル型シリコーンゴム組成物を用いた押出成形により、軸体の外周面上にゴム材料からなる弾性体を成形した。なお、押出成形では、シリコーンゴム組成物を、正外線加熱炉(IR炉)を用いて270℃で5分間加熱し、更に、ギヤオーブンを用いて200℃で4時間加熱して硬化させた。これにより、プライマー処理された軸体の外周面上にゴム組成物の硬化物からなる弾性層を形成した。弾性層は中実な層であり、弾性層の厚さは、4.25mmであった。
【0058】
(被覆層の形成)
まず、以下に示す化合物を、表1に示す質量部数の配合で、100℃から120℃に4時間から6時間保持して、シリコーン変性ポリオールA、B及びCの3種類を合成した。
a1 両末端ヒドロキシル基変性ジメチルシリコーンオイル
a2 片末端ジオール変性シリコーンオイル
a3 イソシアネート化合物 イソシアヌレートタイプ
a4 イソシアネート化合物 アダクトタイプ
a5 イソシアネート化合物 2官能型タイプ
【0059】
【表1】
【0060】
以下の材料を用いて、表2に示す配合で被覆層用組成物を調製した。なお、ベース樹脂は、下記のシリコーン変性ポリオールとイソシアネートとで形成されるシリコーン変性ウレタン樹脂であった。
・上記シリコーン変性ポリオールA、B、C
・イソシアネート「TPA-100」(商品名、旭化成株式会社製)
「E402-80B」(商品名、旭化成株式会社製)
・粗さ剤(商品名「EP-2601」、東レ・ダウコーニング株式会社製)
上被覆層用組成物には、適宜触媒及びシンナーを加える。
【0061】
次に、弾性層の外周面をUV処理した。その後、UV処理された弾性層上に被覆層用組成物をスプレー法によって塗布した。塗布された組成物を150℃から160℃で30分間加熱し現像ローラを得た。
乾燥後の被覆層の厚さは9μmであった。
【0062】
[実施例2、3、4及び比較例1]
表2に示す配合で、被覆層を形成した以外は実施例1と同様に現像ローラを作製した。
【0063】
[評価]
上記実施例及び比較例について、以下の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0064】
(付着力の測定)
被覆層の付着力を以下のようにして測定した。
ナノインデンテーション法により、測定装置として、ナノインデンター測定装置(商品名:Hysitron TI Premier, Bruker社製)を用い、下記条件で、除荷曲線における負の最小荷重の絶対値を求め、これを被覆層の付着力とした。
測定圧子:コニカル圧子、公称半径4~6μm、円錐角60°、ヤング率1140GPa、ポアソン比0.07
測定環境:温度23℃、相対湿度50%RH
荷重印加速度:50μN/10秒
最大荷重保持時間:10秒
除荷速度:-50μN/10秒
【0065】
(静電容量)
被覆層の静電容量を、下記のようにして測定した。
LCRメーター(株式会社NF回路設計ブロック製)を用い、測定環境温度23℃、湿度55%RHで、被覆層を形成した現像ローラの表面に導電ペーストで電極を作製し、導電ペーストと芯金との間の静電容量をLCRメーターで測定した。
【0066】
(MD-1硬度)
MD-1硬度計(高分子計器(株)製、「マイクロゴム硬度計MD-1)を用い、現像ローラ表面にMD-1硬度計の押針を押し当て、ピークホールドモード、ホールド時間は3秒とし、MD-1硬度を測定した。
【0067】
(ヘキサデカン接触角)
ヘキサデカンを装置にセットし、現像ローラ上にヘキサデカンの液滴をたらし、ポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学社製)を用い、ヘキサデカン接触角を測定した。
【0068】
(抵抗値)
上記実施例及び比較例の被覆層の表面の抵抗値を測定した。図2に測定装置の正面概略図を示す。
図2に示すように、金メッキ板51上に、現像ローラ1を乗せ、両端部に重さ500gのおもり52を掛け、印加電圧100Vでシャフト53と金メッキ板51との抵抗値を、超高抵抗/微少電流計「5450」(株式会社エーディーシー製)54を用いて測定した。
【0069】
(フィルミング評価)
モノクロ画像形成装置(商品名「HL-L2360DN」、ブラザー工業株式会社製)で4000枚印刷後のフィルミング状況を評価した。
フィルミングは、現像剤の付着量により評価した。具体的には、4000枚印字した後の現像ローラの表面に付着している現像剤を吸引後、フィルミング重量測定ジグに転写した質量を測定した。フィルミング評価については、転写した現像剤の質量を以下の評価基準で評価した。フィルミング評価は、Aであると合格である。
A:0.00mg/cm以上0.03mg/cm以下
B:0.03mg/cmより多く0.06mg/cm以下
C:0.06mg/cmより多い
【0070】
(トナー離型性評価)
モノクロ画像形成装置(商品名「HL-L2360DN」、ブラザー工業株式会社製)でカートリッジに上記実施例及び比較例の現像ローラを装着し、低温低湿環境(10℃20%RH)にてカートリッジ電極を外部電源に接続し、電圧を変化させたときの印字濃度を測定した。印字濃度測定はベタ印字部をX-Rite社製のX-Rite504分光濃度計で測定した。
印字濃度を、以下の評価基準で判定した。トナー離型性は低い電圧においても濃度が濃く出るほどトナー離型性が良いと判断した。本発明においては、外部電圧210Vで、評価がAの場合を合格とした。
A:1.4以上
B:1.35以上
C:1.35未満
【0071】
【表2】
【0072】
表2に示すように、本発明の現像ローラは、被覆層のナノインデンテーション法により求められた付着力が、4.0μN以下であることにより、外部電圧210Vにおけるトナー離型性がA評価であり、フィルミングも良好に抑えることができる。したがって、本発明の現像ローラは、長期に亘って、高品質な画像の提供に寄与できる。
【符号の説明】
【0073】
1 現像ローラ
2 軸体
3 弾性層
4 被覆層
51 金メッキ板
52 おもり
53 シャフト
54 超高抵抗/微少電流計
図1
図2
図3