(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】宇宙航行体及び捕獲システム
(51)【国際特許分類】
B64G 1/64 20060101AFI20240131BHJP
B64G 4/00 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
B64G1/64 600
B64G4/00 105
(21)【出願番号】P 2020174312
(22)【出願日】2020-10-16
【審査請求日】2023-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】516041276
【氏名又は名称】株式会社アストロスケール
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【氏名又は名称】内藤 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100139066
【氏名又は名称】伊藤 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100140648
【氏名又は名称】佐藤 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】岩井 隆
(72)【発明者】
【氏名】相良 憲司
(72)【発明者】
【氏名】藤田 勝
【審査官】志水 裕司
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第105711859(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109466808(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0210212(US,A1)
【文献】特開昭58-142000(JP,A)
【文献】米国特許第05145227(US,A)
【文献】特開2020-165524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B64G 1/00
B64G 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
宇宙空間における対象物に取り付けられ磁力で吸着される板状体を、磁力発生部で発生させた磁力で吸着させることにより、前記対象物を捕獲するように構成された宇宙航行体であって、
本体と、前記本体に対して所定の軸方向に沿って往復移動するように構成された可動部と、前記可動部を移動させるための駆動部と、前記可動部の前記本体から遠い位置にある遠位端に取り付けられた前記磁力発生部と、を備え、
前記磁力発生部は、前記可動部の前記遠位端に緩衝弾性体を介して取り付けられた磁石支持部材と、前記磁石支持部材の先端部分に敷設されることにより面状の吸着領域を形成する複数の永久磁石と、を有し、
前記磁力発生部の前記吸着領域は、前記可動部を前記駆動部によって前記本体から遠ざけるように前記軸方向に沿って移動させた際に、前記軸方向に対して交差した一定の姿勢を維持したまま前記本体から突出するとともに、外力が作用した場合に前記緩衝弾性体による位置変化及び/又は姿勢変化を可能とし、
前記駆動部は、前記可動部を前記本体から遠ざけるように移動させるための所定の付勢力を前記可動部に加える駆動弾性体と、前記駆動弾性体の前記付勢力に抗する引張力を前記可動部に加える引張力生成部と、前記引張力生成部の前記引張力を制御する制御部と、を有し、前記制御部で前記引張力生成部の前記引張力を前記駆動弾性体の前記付勢力よりも小さくすることにより前記可動部を前記本体から遠ざけるように移動させる一方、前記制御部で前記引張力生成部の前記引張力を前記駆動弾性体の前記付勢力よりも大きくすることにより前記可動部を前記本体へ近付けるように移動させる
、宇宙航行体。
【請求項2】
前記可動部は、第一可動部であり、
前記駆動弾性体は、前記第一可動部に第一付勢力を加える第一駆動弾性体であり、
前記宇宙航行体は、前記磁力発生部が取り付けられておらず前記本体に対して前記軸方向に沿って往復移動するように構成された第二可動部と、前記第二可動部を前記本体から遠ざけるように移動させるための第二付勢力を前記第二可動部に加える第二駆動弾性体と、を備え、
前記第二付勢力は、前記第一付勢力よりも大きく、
前記制御部で前記引張力生成部の前記引張力を前記第一付勢力よりも小さくすることにより前記第一可動部及び前記第二可動部を前記本体から遠ざけるように移動させ、前記第一可動部に取り付けられた前記吸着領域を前記対象物に取り付けられた前記板状体に吸着させるとともに、前記第二可動部に連結されたカバー部材を前記板状体に当接させた後、前記制御部で前記引張力生成部の前記引張力を前記第一付勢力よりも大きくかつ前記第二付勢力よりも小さくすることにより前記第一可動部のみを前記本体に近付けるように移動させ、前記吸着領域を前記板状体から引き剥がして前記対象物からの前記宇宙航行体の離脱を実現させる、請求項
1に記載の宇宙航行体。
【請求項3】
前記カバー部材は、前記本体に対して前記第二可動部よりも遠い位置に配置されるとともに、板状部と、前記板状部の周に沿って複数設けられた筒状部と、を有し、
前記第二可動部の前記本体から遠い位置にある遠位端には、前記カバー部材側に突出する凸部が設けられており、
前記カバー部材の筒状部の前記第二可動部側にある近位端には、前記第二可動部の前記凸部を嵌合させる凹部が設けられており、
前記第二可動部を前記本体から遠ざけるように移動させたときに前記カバー部材の前記凹部に前記第二可動部の前記凸部が嵌合することにより、前記カバー部材が前記第二可動部に連結される、請求項
2に記載の宇宙航行体。
【請求項4】
前記カバー部材は、前記本体に対して前記第二可動部よりも遠い位置に配置されるとともに、板状部と、前記板状部の周に沿って複数設けられた筒状部と、を有し、
前記筒状部の前記第二可動部側にある近位端には、前記第二可動部側に突出する凸部が設けられており、
前記第二可動部の前記本体から遠い位置にある遠位端には、前記カバー部材の凸部を嵌合させる凹部が設けられており、
前記第二可動部を前記本体から遠ざけるように移動させたときに前記第二可動部の前記凹部に前記カバー部材の前記凸部が嵌合することにより、前記カバー部材が前記第二可動部に連結される、請求項
2に記載の宇宙航行体。
【請求項5】
前記磁
石支持部材は、前記第一可動部の前記遠位端に固定された支持板に前記緩衝弾性体を介して取り付けられており、
前記支持板の前記磁石支持部材側の面には、前記軸方向に沿って前記磁石支持部材側に突出する凸部が設けられており、
前記磁石支持部材の前記支持板側の部分には、前記支持板の前記凸部を嵌合させる凹部が設けられており、
前記磁石支持部材が前記支持板に近接したときに前記磁石支持部材の前記凹部に前記支持板の前記凸部が嵌合して、前記支持板に対する前記磁石支持部材の相対的な位置及び姿勢が固定される、請求項2から4の何れか一項に記載の宇宙航行体。
【請求項6】
前記磁
石支持部材は、前記第一可動部の前記遠位端に固定された支持板に前記緩衝弾性体を介して取り付けられており、
前記磁石支持部材の前記支持板側の部分には、前記支持板側に突出する凸部が設けられており、
前記支持板の前記磁石支持部材側の面には、前記磁石支持部材の前記凸部を嵌合させる凹部が設けられており、
前記磁石支持部材が前記支持板に近接したときに前記支持板の前記凹部に前記磁石支持部材の前記凸部が嵌合して、前記支持板に対する前記磁石支持部材の相対的な位置及び姿勢が固定される、請求項2から4の何れか一項に記載の宇宙航行体。
【請求項7】
宇宙空間における対象物に取り付けられ磁力で吸着される板状体を、磁力発生部で発生させた磁力で吸着させることにより、前記対象物を捕獲するように構成された宇宙航行体であって、
本体と、前記本体に対して所定の軸方向に沿って往復移動するように構成された可動部と、前記可動部を移動させるための駆動部と、前記可動部の前記本体から遠い位置にある遠位端に取り付けられた前記磁力発生部と、を備え、
前記磁力発生部は、前記可動部の前記遠位端に緩衝弾性体を介して取り付けられた磁石支持部材と、前記磁石支持部材の先端部分に敷設されることにより面状の吸着領域を形成する複数の永久磁石と、を有し、
前記磁力発生部の前記吸着領域は、前記可動部を前記駆動部によって前記本体から遠ざけるように前記軸方向に沿って移動させた際に、前記軸方向に対して交差した一定の姿勢を維持したまま前記本体から突出するとともに、外力が作用した場合に前記緩衝弾性体による位置変化及び/又は姿勢変化を可能とし、
前記宇宙航行体は、前記吸着領域内に前記板状体が吸着しているか否かを検出する吸着位置検出部をさらに備え、
前記吸着領域は、第一の径を有する内円と、前記第一の径よりも大きい第二の径を有する外円と、によって囲まれた環状領域であり、
前記吸着位置検出部は、前記内円に沿って複数配置された内円位置検出部を有し、
前記宇宙航行体は、前記板状体が前記内円の全周のうち特定割合を占める部分に吸着していることを前記内円位置検出部で検出した場合に、前記対象物の捕獲が成功したものと判定する判定部を備える
、宇宙航行体。
【請求項8】
前記吸着位置検出部は、前記外円に沿って複数配置された外円位置検出部を有し、
前記判定部は、前記板状体が前記内円の少なくとも一部に吸着していることを前記内円位置検出部で検出せず、かつ、前記板状体が前記外円の少なくとも一部に吸着していることを前記外円位置検出部で検出しない場合に、前記対象物の捕獲が失敗したものと判定する、請求項
7に記載の宇宙航行体。
【請求項9】
前記磁石支持部材は、平面視略円形状又は平面視略多角形状を呈する板状部材であり、
前記磁石支持部材の平面視略中央部には、前記軸方向に沿って貫通する孔が形成されており、
前記宇宙航行体は、前記孔を通して前記対象物を検出する対象物検出部を備える、請求項1から
8の何れか一項に記載の宇宙航行体。
【請求項10】
宇宙空間における対象物に取り付けられ磁力で吸着される板状体と、請求項1から
9の何れか一項に記載の宇宙航行体と、を備え、前記対象物を前記宇宙航行体によって捕獲するように構成された、捕獲システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙航行体及び捕獲システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、宇宙利用の脅威となりつつあるスペースデブリを除去するサービスの発展が予想されており、また、今後は軌道上サービスの発展も予想されることから、宇宙機同士を安全に結合させるための結合運用技術の開発が進められている。結合運用中に不具合が生じ宇宙機同士に衝突が生じると、宇宙機が破損し、破損部品が様々な軌道に飛び散る事故が発生し得る。宇宙における部品の除去に要するコストは地上の比ではなく、避けなくてはならない。
【0003】
宇宙機同士を結合させるための従来の技術としては、例えば、電磁石等を用いた磁気的方式(特許文献1)、ロボットアーム等を用いた高剛性な機械的方式(特許文献2)、網や布を用いた低剛性な機械的方式(非特許文献1)、接着剤を用いた化学的方式(特許文献3)、等が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第5145227号明細書
【文献】特許第5951026号公報
【文献】米国特許第7374134号明細書
【文献】Robert Axthelm他著、「Net Capture Mechanism for Debris Removal Demonstration Mission」、7th European Conference on Space Debris、the ESA Space Debris Office、https://conference.sdo.esoc.esa.int/proceedings/sdc7/paper/78、2017年6月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、宇宙機同士の結合運用は、(1)結合するまでのフェーズ、(2)結合を持続するフェーズ、(3)結合を解除するフェーズ、 の3つのフェーズから成り、結合技術にはそれぞれのフェーズにおいて継続して安全を確保することが求められるが、従来の結合技術は、次の点で問題がある。
【0006】
まず、特許文献1に開示されたような磁気的方式は、フェーズ(1)における問題を抱えている。すなわち、磁気的方式の結合技術においては、宇宙機同士の相対位置姿勢に要求される精度が高く、結合運用(ミッション)成功のためには、ミッションスタートの際は複雑な判断を強いられる(厳密なパラメータ制御・管理が求められる)。また、磁気的方式の結合技術は、フェーズ(2)における問題も抱えている。すなわち、磁気的方式では電磁石を用いるため、結合を維持するには常時通電が必要となり、電磁石への電力供給を得るために捕獲機の電源系機器の規模が大きくなるという問題がある。また、捕獲機の不具合により給電が停止した際、不測の結合解除が生じる。
【0007】
次に、特許文献2に開示されたような高剛性な機械的方式は、捕獲の際に、精度の高い位置計測及び姿勢計測と、正確な機構の位置合わせ及び姿勢合わせと、の双方が必要になり、システム構成が複雑になることが想定される。かかる方式を実現させるための装置は、センサの搭載が必要とされることに加え、6自由度制御用の機構/モータの搭載が必要とされるため、その機構自体が大きく重くなる。このため、かかる方式の装置を小型衛星に搭載することは困難になる。すなわち、小型軽量衛星に載せることができるほど、打上げの機会が拡がりかつ低コストでの打ち上げが実現するが、かかる方式を採用すると打ち上げの機会が拡がり難く、低コストでの打ち上げの実現が困難となる。
【0008】
続いて、非特許文献1に記載されたような低剛性な機械的方式や、特許文献3に記載されたような接着剤等の化学的方式は、フェーズ(3)における問題を抱えている。すなわち、低剛性な機械的方式の結合技術においては、捕獲のやり直しが効かず、接着剤等を用いた結合技術においては、接着後に剥がすことができないという問題がある。また、非特許文献1に記載された結合技術のように「銛」を使用すると、貫通時に破片が飛び散る可能性があることに加え、誤って燃料タンクやバッテリを貫くと爆発を生じる虞もある。
【0009】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、比較的簡素で小型化が可能な構成を有しながら、高精度な位置(姿勢)決めを必要とすることなく対象物の捕獲(及び捕獲のやり直し)を実現させることができる宇宙航行体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するため、本発明に係る宇宙航行体は、宇宙空間における対象物に取り付けられ磁力で吸着される板状体を、磁力発生部で発生させた磁力で吸着させることにより、対象物を捕獲するように構成されたものであって、本体と、本体に対して所定の軸方向に沿って往復移動するように構成された可動部と、可動部を移動させるための駆動部と、可動部の本体から遠い位置にある遠位端に取り付けられた磁力発生部と、を備え、磁力発生部は、可動部の遠位端に緩衝弾性体を介して取り付けられた磁石支持部材と、磁石支持部材の先端部分に敷設されることにより面状の吸着領域を形成する複数の永久磁石と、を有し、磁力発生部の吸着領域は、可動部を駆動部によって本体から遠ざけるように軸方向に沿って移動させた際に、軸方向に対して交差した一定の姿勢を維持したまま本体から突出するとともに、外力が作用した場合に緩衝弾性体による位置変化及び/又は姿勢変化を可能とするものである。
【0011】
また、本発明に係る捕獲システムは、宇宙空間における対象物に取り付けられ磁力で吸着される板状体と、本発明に係る宇宙航行体と、を備え、対象物を宇宙航行体によって捕獲するように構成されたものである。
【0012】
かかる構成を採用すると、磁石支持部材の先端部分に複数の永久磁石を敷設することにより形成した磁力発生部の面状の吸着領域を、可動部を駆動部によって本体から遠ざけるように軸方向に沿って移動させた際に、一定の姿勢(軸方向に対して交差した姿勢)を維持したまま本体から突出させることができる。また、この吸着領域は、外力が作用した場合に、可動部と磁石支持部材との間に介在した緩衝弾性体による位置変化や姿勢変化を可能としている。従って、対象物に取り付けられた板状体に対して、宇宙航行体の吸着領域が平行でない状態で接近した場合や、板状体に対する吸着領域の位置ずれがあった場合においても、吸着領域が板状体に対して平行になるように吸着領域の姿勢を変化させたりすることにより、吸着領域の特定範囲(吸着力の要求から設定される範囲であって例えば吸着領域全体の80%の範囲)を板状体に吸着させることができる。従って、対象物に取り付けられた板状体に対して宇宙航行体の吸着領域を高精度に位置決めしなくても、宇宙航行体による対象物の捕獲を実現させることができる。また、本宇宙航行体は、磁力発生部の吸着領域を対象物に取り付けられた板状体に対して吸着させることにより対象物を捕獲するように構成されているため、捕獲のやり直しが可能であり、その構成も比較的簡素で小型化が可能であるという利点がある。
【0013】
本発明に係る宇宙航行体において、可動部を本体から遠ざけるように移動させるための所定の付勢力を可動部に加える駆動弾性体と、駆動弾性体の付勢力に抗する引張力を可動部に加える引張力生成部と、引張力生成部の引張力を制御する制御部と、を有する駆動部を採用することができる。かかる場合において、制御部で引張力生成部の引張力を駆動弾性体の付勢力よりも小さくすることにより可動部を本体から遠ざけるように移動させる一方、制御部で引張力生成部の引張力を駆動弾性体の付勢力よりも大きくすることにより可動部を本体へ近付けるように移動させることができる。
【0014】
かかる構成を採用すると、制御部で引張力生成部の引張力を駆動弾性体の付勢力よりも小さくすることにより可動部を本体から遠ざけるように移動させることができる一方、制御部で引張力生成部の引張力を駆動弾性体の付勢力よりも大きくすることにより可動部を本体に近付けるように移動させることができる。すなわち、制御部で引張力生成部の引張力を制御するだけで可動部を容易に往復移動させることができる。
【0015】
本発明に係る宇宙航行体において、既に述べた可動部を、第一可動部とし、既に述べた駆動弾性体を、第一可動部に第一付勢力を加える第一駆動弾性体とすることができる。そして、本発明に係る宇宙航行体は、磁力発生部が取り付けられておらず本体に対して軸方向に沿って往復移動するように構成された第二可動部と、第二可動部を本体から遠ざけるように移動させるための第二付勢力を第二可動部に加える第二駆動弾性体と、を備え、第二付勢力を第一付勢力よりも大きくすることができる。かかる場合において、制御部で引張力生成部の引張力を第一付勢力よりも小さくすることにより第一可動部及び第二可動部を本体から遠ざけるように移動させ、第一可動部に取り付けられた吸着領域を対象物に取り付けられた板状体に吸着させるとともに、第二可動部に連結されたカバー部材を板状体に当接させた後、制御部で引張力生成部の引張力を第一付勢力よりも大きくかつ第二付勢力よりも小さくすることにより第一可動部のみを本体に近付けるように移動させ、吸着領域を板状体から引き剥がして対象物からの宇宙航行体の離脱を実現させることができる。
【0016】
かかる構成を採用すると、制御部で引張力生成部の引張力を第一付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部を本体から遠ざけるように移動させ、第一可動部に取り付けられた吸着領域を対象物に取り付けられた板状体に吸着させる(すなわち宇宙航行体によって対象物を捕獲する)ことができる。この際、第二可動部をも本体から遠ざけるように移動させて、第二可動部に連結されたカバー部材を板状体に当接させることができる。その後、制御部で引張力生成部の引張力を第一付勢力よりも大きくかつ第二付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部のみを本体に近付けるように移動させ、吸着領域を板状体から引き剥がして対象物からの宇宙航行体の静的な離脱を実現させることができる。従って、少なくとも以下の二つのメリットを得ることができる。まず、捕獲という本来の目的の成功率を高められる(第一のメリット)。すなわち、かかる構成によって達成される静的な結合解除機能により、想定外の磁力発生部と板状体の結合が万が一生じた場合においても、再捕獲の状態に移行することが可能となる。静的な離脱であれば、離脱時の相対速度や姿勢外乱は小さく、再接近・再捕獲の動作に要するエネルギは小さく、また、動作も簡易となる。次に、安全を確保することが容易になる(第二のメリット)。静的な離脱であれば、対象物に対するセンサ視野を確保することが容易であることから相対的な位置・姿勢の予測精度が上がり衝突の確率を低減することができ、また、万が一想定がずれ接触が発生する場合でも相対的なエネルギが小さいため、危険な衝突とはならない。
【0017】
本発明に係る宇宙航行体において、板状部と、板状部の周に沿って複数設けられた筒状部と、を有するカバー部材を、本体に対して第二可動部よりも遠い位置に配置することができる。かかる場合において、第二可動部の本体から遠い位置にある遠位端に、カバー部材側に突出する凸部を設ける一方、カバー部材の筒状部の第二可動部側にある近位端に、第二可動部の凸部を嵌合させる凹部を設けておき(又は、カバー部材の筒状部の近位端に第二可動部側に突出する凸部を設ける一方、第二可動部の遠位端にカバー部材の凸部を嵌合させる凹部を設けておき)、第二可動部を本体から遠ざけるように移動させたときに、カバー部材の凹部に第二可動部の凸部を嵌合させる(又は、第二可動部の凹部にカバー部材の凸部を嵌合させる)ことにより、カバー部材を第二可動部に連結することができる。
【0018】
かかる構成を採用すると、第二可動部を本体から遠ざけるように移動させたときに、カバー部材の凹部に第二可動部の凸部を嵌合させる(又は、第二可動部の凹部にカバー部材の凸部を嵌合させる)ことができるため、カバー部材を第二可動部に対して位置ずれなく連結することができる。
【0019】
本発明に係る宇宙航行体において、磁石支持部材を、第一可動部の遠位端に固定された支持板に緩衝弾性体を介して取り付けることができる。かかる場合において、支持板の磁石支持部材側の面に、軸方向に沿って磁石支持部材側に突出する凸部を設ける一方、磁石支持部材の支持板側の部分に、支持板の凸部を嵌合させる凹部を設けておき(又は、磁石支持部材の支持板側の部分に、支持板側に突出する凸部を設ける一方、支持板の磁石支持部材側の面に、磁石支持部材の凸部を嵌合させる凹部を設けておき)、磁石支持部材が支持板に近接したときに、磁石支持部材の凹部に支持板の凸部を嵌合させて(又は、支持板の凹部に磁石支持部材の凸部を嵌合させて)、支持板に対する磁石支持部材の相対的な位置及び姿勢を固定することができる。
【0020】
かかる構成を採用すると、宇宙航行体の吸着領域を、対象物に取り付けられた板状体に吸着させた後(宇宙航行体によって対象物を捕獲した後)に、宇宙航行体の磁石支持部材を、第一可動部の遠位端に固定された支持板に近接させ、磁石支持部材の凹部に支持板の凸部を嵌合させて(又は、支持板の凹部に磁石支持部材の凸部を嵌合させて)、支持板に対する磁石支持部材の相対的な位置及び姿勢を固定することができる。従って、宇宙航行体と対象物との結合状態が外力によって解除され両者が衝突する、というような事態を回避することができる。
【0021】
本発明に係る宇宙航行体において、吸着領域内に板状体が吸着しているか否かを検出する吸着位置検出部を備えることができる。
【0022】
かかる構成を採用すると、吸着領域内に板状体が吸着しているか否かを検出することができる。例えば、板状体が吸着領域の一部に吸着しているものの、吸着領域の中央部分に板状体が吸着していない場合には、その後の安全な結合維持を保証できないものと判断し、結合解除の動作を実施し、再度の捕獲動作に移行することができる。また、板状体が吸着領域のどの部分にも全く吸着していない場合には、捕獲直前における接近動作において不測の事態が発生している可能性が高く、ただちに安全が保証された軌道に退避(アボート)する判断を要する。すなわち、本構成を採用することにより、捕獲動作の成否判断や、退避判断を行うことが可能となる。
【0023】
本発明に係る宇宙航行体において、第一の径を有する内円と、第一の径よりも大きい第二の径を有する外円と、によって囲まれた環状領域を吸着領域として採用することができ、吸着位置検出部は、内円に沿って複数配置された内円位置検出部を有することができる。かかる場合において、本発明に係る宇宙航行体は、板状体が内円の全周にわたって吸着していることを内円位置検出部で検出した場合に、対象物の捕獲が成功したものと判定する判定部を備えることができる。なお、内円と外円(大小二つの円)に代えて、大小二つの多角形を採用することもできる。また、判定部は、対象物捕獲判定を別の方法で行うこともできる。例えば、板状体が内円の全周に吸着していない場合でも、内円の全周のうち特定割合(吸着力の要求から設定される値であって例えば80%)を占める部分に吸着していることを内円位置検出部で検出した場合に、対象物の捕獲が成功したものと判定することもできる。
【0024】
かかる構成を採用すると、対象物に取り付けられた板状体が宇宙航行体の吸着領域の内円の全周(若しくは全周のうち特定割合を占める部分)にわたって吸着していることを内円位置検出部で検出した場合に、宇宙航行体による対象物の捕獲が成功したものと判定することができる。
【0025】
本発明に係る宇宙航行体において、吸着位置検出部は、外円に沿って複数配置された外円位置検出部を有することができる。かかる場合において、判定部は、板状体が内円の少なくとも一部に吸着していることを内円位置検出部で検出せず、かつ、板状体が外円の少なくとも一部に吸着していることを外円位置検出部で検出しない場合に、対象物の捕獲が失敗したものと判定することができる。
【0026】
かかる構成を採用すると、対象物に取り付けられた板状体が宇宙航行体の吸着領域の内円の少なくとも一部に吸着していることを内円位置検出部で検出せず、かつ、対象物に取り付けられた板状体が宇宙航行体の吸着領域の外円の少なくとも一部に吸着していることを外円位置検出部で検出しない場合に、宇宙航行体による対象物の捕獲が失敗したものと判定することができる。
【0027】
本発明に係る宇宙航行体において、平面視略円形状又は平面視略多角形状を呈する板状部材を磁石支持部材として採用するとともに、磁石支持部材の平面視略中央部に、軸方向に沿って貫通する孔を形成することができる。かかる場合において、本発明に係る宇宙航行体は、孔を通して対象物を検出する対象物検出部を備えることができる。
【0028】
かかる構成を採用すると、宇宙航行体の磁石支持部材(板状部材)の平面視中央部に、軸方向に沿って貫通する孔を形成し、この孔を通して対象物を検出する対象物検出部を設けているため、磁石支持部材が軸方向に沿って往復移動している間に、平面視中央部の孔を通して、接近から結合の瞬間に至るまで、視差なく対象物(の板状体)を対象物検出部で捉え続けることができる。これにより高い成功率をもって結合を実現できる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、比較的簡素で小型化が可能な構成を有しながら、高精度な位置決めを必要とすることなく対象物の捕獲(及び捕獲のやり直し)を実現させることができる宇宙航行体を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の実施形態に係る捕獲システムの構成等を説明するための説明図であって、(A)は宇宙航行体を対象物に接近させた状態を示す図、(B)は対象物に取り付けられた板状体に宇宙航行体の磁力発生部の吸着領域を吸着させた状態を示す図、(C)は対象物を宇宙航行体側へと移動させて固定した状態を示す図、である。
【
図2】本発明の実施形態に係る宇宙航行体の可動部等の構成を説明するための概要構成図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る宇宙航行体の磁力発生部等の構成を説明するための斜視図(磁力発生部の永久磁石をカバー部材の挿通孔から露出させている状態を示す図)である。
【
図4】本発明の実施形態に係る宇宙航行体の磁力発生部等の構成を説明するための斜視図(磁力発生部を引き込んだ状態を示す図)である。
【
図5】本発明の実施形態に係る宇宙航行体の磁力発生部の永久磁石の構成を説明するための断面図である。
【
図6】本発明の実施形態に係る宇宙航行体のカバー部材等を本体側から見た場合の斜視図である。
【
図7】本発明の実施形態に係る宇宙航行体の可動部とそれを摺動可能に支持するリニアブッシュとを本体内部から見た場合の斜視図である。
【
図8】本発明の実施形態に係る宇宙航行体の吸着位置検出部を説明するための上面図である。
【
図9】(A)、(B)ともに、本発明の実施形態に係る宇宙航行体の吸着位置検出部を用いた対象物捕獲判定を行う際に捕獲が成功したか失敗したかの判断が困難なケースを説明するための説明図である。
【
図10】本発明の実施形態の宇宙航行体の対象物検出部を説明するための説明図であって、(A)は宇宙航行体が対象物から比較的遠い位置にある場合の図、(B)は宇宙航行体が対象物を捕獲する直前の図、(C)は宇宙航行体によって対象物を捕獲した直後の図、である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、図を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
【0032】
<捕獲システム>
まず、本発明の実施形態に係る捕獲システムSの構成について説明する。捕獲システムSは、宇宙空間における対象物Tを捕獲するように構成されたものであり、
図1(A)に示すように、宇宙航行体1と、対象物Tに取り付けられ磁力で吸着される板状体2と、を備えている。なお、宇宙航行体1による対象物Tの捕獲方法については、
図1(A)~(C)を用いて後に詳述することとする。
【0033】
板状体2は、所定の平面形状(例えば円形状や矩形状)を呈し所定の厚さを有する板状の部材であって、対象物Tの所定部位(例えば平坦な部位)に予め取り付けられている。板状体2は、少なくとも一部が強磁性材料(例えば鉄、ニッケル、パーマロイ、鋼等)で構成されており、宇宙航行体1の磁力発生部20(後述)に吸着されるようになっている。板状体2の表面(宇宙航行体1側の面)には、宇宙航行体1の接近ナビゲーション用のマーカーを設けてもよい。
【0034】
<宇宙航行体>
次に、
図1~
図10を用いて、本実施形態に係る宇宙航行体1の構成について説明する。
【0035】
宇宙航行体1は、板状体2を磁力で吸着させることにより対象物Tを捕獲するように構成されたものであって、本体10(
図1参照)と、第一可動部11(
図2等参照)と、第一可動部11の本体10から遠い位置にある遠位端部分に取り付けられた磁力発生部20(
図1等参照)と、磁力発生部20が取り付けられておらず本体10に対して軸方向に沿って往復移動するように構成された第二可動部12(
図2等参照)と、第一可動部11及び第二可動部12を移動させるための駆動部30(
図2等参照)と、磁力発生部20の永久磁石24によって形成される面状の吸着領域C(
図8参照)内に板状体2が吸着しているか否かを検出する吸着位置検出部40(
図8参照)と、対象物Tの捕獲が成功したか失敗したかを判定する図示されていない判定部と、対象物Tを検出する対象物検出部50(
図10参照)と、を備えている。
【0036】
宇宙航行体1の本体10は、各種構成部材を収納するための空間をその内部に有する筐体状部材である。本体10の立体形状は特に限定されるものではなく、例えば円筒状、角筒状、直方体状、立方体状等の形状を採用することができる。本体10のサイズは、ロケットに取り付けられて宇宙空間に打ち上げられるようなサイズであれば特に限定されるものではない。なお、宇宙航行体1は、宇宙空間に打ち上げられた後、ロケットから分離して宇宙空間を自律的に移動できるように構成されている。
【0037】
宇宙航行体1の第一可動部11は、本体10に対して所定の軸方向(
図3で符号Aで示す方向)に沿って往復移動するように構成されたものである。本実施形態においては、第一可動部11として、軸方向Aに沿って延在するように配置された複数の棒状部を採用している。第一可動部11としての複数の棒状部は、磁力発生部20の支持板21(後述)の周に沿って所定の間隔で配置されており、各棒状部の遠位端(本体10に対して遠い方に位置する端部)は、磁力発生部20の支持板21の裏面の所定の箇所にそれぞれ取り付けられている。本実施形態における第一可動部(棒状部)11は、金属等の剛性を有する材料で構成されており、その断面は円形でも多角形でもよい。本実施形態における第一可動部11の可動領域は、ストッパー等により制限されている。
【0038】
宇宙航行体1の磁力発生部20は、第一可動部11の遠位端に支持板21及び緩衝弾性体22を介して取り付けられた磁石支持部材23と、磁石支持部材23の表面に敷設されることにより面状の吸着領域C(
図8参照)を形成する複数の永久磁石24と、を有している。支持板21は、例えば金属等の剛性を有する材料で構成された板状部材であり、第一可動部11の遠位端に固定されている。なお、支持板21の平面視略中央部には、軸方向Aに沿って貫通する孔21aが設けられており、対象物検出部50(
図4参照)はこの孔21aを通して対象物Tを検出することができるようになっている。
【0039】
緩衝弾性体22は、支持板21に対して磁石支持部材23を移動可能に接続するための弾性部材(例えばコイルスプリング)である。緩衝弾性体22の近位端(本体10に対して近い方に位置する端部)は支持板21の表面に取り付けられており、緩衝弾性体22の遠位端(本体10に対して遠い方に位置する端部)は磁石支持部材23の裏面に取り付けられており、これにより、支持板21と磁石支持部材23とが緩衝弾性体22を介して相互に移動可能に接続されている。
【0040】
磁石支持部材23は、例えば金属等の剛性を有する材料で構成された板状部材である。磁石支持部材23の平面視略中央部には、
図3に示すように、軸方向Aに沿って貫通する孔23aが設けられており、対象物検出部50がこの孔23aを通して対象物Tを検出することができるようになっている。磁石支持部材23の表面には、
図3及び
図4に示すように複数の永久磁石24が敷設されており、これにより対象物Tを吸着させる面状の吸着領域C(
図8参照)を形成する。吸着領域Cは、
図5に示す吸着面25内に含まれる有限面積の領域である。本実施形態においては、
図8に示すように大小二つの円(内円C
1及び外円C
2)によって形成された環状領域を吸着領域Cとして採用している。各永久磁石24は、器型に形成されたヨーク24aに収納された状態で磁石支持部材23に敷設されている。このように各永久磁石24がヨーク24aに収納されているため、各永久磁石24からのフラックスが一方向(
図5で矢印Bで表す方向)に向くようになる。また、隣り合う永久磁石24で磁気極性(N/S)が逆になるように配置することにより、
図5の矢印Bの先の遠方から見た場合の磁場が相殺され、外部への磁気的影響が最小限に抑えられている。
【0041】
永久磁石24によって形成された面状の吸着領域Cは、第一可動部11を駆動部30によって本体10から遠ざけるように軸方向Aに沿って移動させた際に、軸方向Aに対して交差(直交)した一定の姿勢を維持したまま本体10から突出するとともに、外力が作用した場合に緩衝弾性体22による位置変化及び/又は姿勢変化を可能とする。このような構成を有することにより、例えば、
図1(A)に示されるように対象物Tに取り付けられた板状体2に対して宇宙航行体1の吸着領域Cが平行でない状態で接近した場合や、板状体2に対する吸着領域Cの位置ずれがあった場合においても、
図1(B)に示すように吸着領域Cが板状体2に対して平行になるように吸着領域Cの姿勢を変化させたりすることにより、吸着領域Cの特定範囲(吸着力の要求から設定される範囲であって例えば吸着領域C全体の80%の範囲)を板状体2に吸着させることができる。
【0042】
支持板21の表面(磁石支持部材23側の面)には、軸方向Aに沿って磁石支持部材23側に突出する凸部21bが設けられており、磁石支持部材23の裏面(支持板21側の面)には、支持板21に設けられた凸部21bを嵌合させる凹部23bが設けられている。かかる構成を採用することにより、磁石支持部材23が支持板21に近接したときに磁石支持部材23の凹部23bに支持板21の凸部21bが嵌合して、支持板21に対する磁石支持部材23の相対的な位置及び姿勢が固定されるようになっている。なお、凹凸を逆にする(支持板21側に凹部を設け、磁石支持部材23側に凸部を設ける)こともできる。
【0043】
宇宙航行体1の第二可動部12は、第一可動部11と同様に、本体10に対して所定の軸方向Aに沿って往復移動するように構成されたものである。本実施形態においては、第二可動部12として、軸方向Aに沿って延在するように配置された複数の棒状部を採用している。第二可動部12としての複数の棒状部は、後述するカバー部材13の周に沿って所定の間隔で配置されている。第二可動部12の各々の遠位端(本体10に対して遠い方に位置する端部)には、
図4に示すように、円錐状の凸部12aが設けられている。凸部12aは、カバー部材13の筒状部13b(後述)の近位端に設けられた凹部13bb(
図6参照)に各々嵌合するようになっている。本実施形態における第二可動部(棒状部)12は、金属等の剛性を有する材料で構成されており、その断面は円形でも多角形でもよい。なお、凹凸を逆にする(第二可動部12の遠位端に凹部を設け、カバー部材13の筒状部13bの近位端に凸部を設ける)こともできる。本実施形態における第二可動部12の可動領域は、ストッパー等により制限されている。
【0044】
カバー部材13は、磁力発生部20の磁石支持部材23を前後(表面側及び裏面側)から挟み込むように構成された部材であって、例えば金属等の剛性を有する材料で構成されている。カバー部材13は、
図3及び
図4に示すように、板状部13aと、板状部13aの周に沿って複数設けられた筒状部13bと、を有している。板状部13aの平面視略中央部には、軸方向Aに沿って貫通する中央孔13aaが設けられており、対象物検出部50はこの中央孔13aaを通して対象物Tを検出することができるようになっている。また、板状部13aには、その裏側に配置される磁石支持部材23の永久磁石24を挿通させるための挿通孔13abが複数設けられており(
図4参照)、永久磁石24はこれら挿通孔13abに挿通されて表面側に露出することができるようになっている(
図3参照)。筒状部13bの近位端付近には、
図4に示すように、宇宙航行体1の打ち上げの際に磁石支持部材23の裏面を当接させて支持するための突起13baが設けられている。また、筒状部13bの近位端には、
図6に示すように凹部13bbが設けられており、この凹部13bbには、既に述べたように第二可動部12の凸部12aが嵌合される。
【0045】
カバー部材13の裏面には、カバー部材13から本体10側へと延在する図示されていない所定長のロッドが、カバー部材13の周方向に沿って所定間隔で複数配置された状態で固定されており、各ロッドは、磁石支持部材23及び支持板21に各々設けられた挿通孔にカバー部材13側から本体10側に向けて挿通されている。カバー部材13は、各ロッド及び図示されていないリニアブッシュを介して磁石支持部材23に連結されており、カバー部材13と磁石支持部材23とからなるユニットは、緩衝弾性体22を介して支持板21に相互に移動可能に接続されている。このため、カバー部材13は、磁石支持部材23に対して略平行な姿勢を維持しつつ、支持板21に対して若干の姿勢変化(傾斜)が許容された状態で往復移動することができるようになっている。また、各ロッドの下端には、図示されていない鍔部材が取り付けられている。そして、各ロッドの磁石支持部材23と鍔部材との間には、
図3に示すような弾性部材13cが若干圧縮された状態で嵌め込まれており、弾性部材13cの下端は鍔部材に当接する一方、弾性部材13cの上端は磁石支持部材23の裏面に当接している。これにより、弾性部材13cの弾性力が磁石支持部材23に加えられるようになっており、後述する引張力生成部33による引張力が磁石支持部材23に加えられていない状態においては、弾性部材13cの弾性力により、磁石支持部材23がカバー部材13に押し付けられている。
【0046】
なお、第一可動部11及び第二可動部12は、
図2及び
図7に示すように、本体10の内部に固定された内部支持板14の周に沿って複数設けられたリニアブッシュ15によって摺動可能に支持されている。かかるリニアブッシュ15により、第一可動部11及び第二可動部12の軸方向Aに沿った安定的な往復移動が可能となっている。
【0047】
駆動部30は、
図2に示すように、第一可動部11を本体10から遠ざけるように移動させるための第一付勢力を第一可動部11に加える第一駆動弾性体31と、第二可動部12を本体10から遠ざけるように移動させるための第二付勢力を第二可動部12に加える第二駆動弾性体32と、第一駆動弾性体31及び第二駆動弾性体32の付勢力に抗する引張力を第一可動部11及び第二可動部12に加える引張力生成部33と、引張力生成部33の引張力を制御する図示されていない制御部と、を有している。
【0048】
第一駆動弾性体31及び第二駆動弾性体32としては、第一付勢力及び第二付勢力を各々発生させることができるような弾性体であればいかなるものでもよく、例えばドラム型の定荷重バネを採用することができる。本実施形態においては、第二駆動弾性体32によって加えられる第二付勢力は、第一駆動弾性体31によって加えられる第一付勢力よりも大きくなるように設定されている。
【0049】
引張力生成部33は、第一駆動弾性体31及び第二駆動弾性体32の付勢力に抗する引張力を第一可動部11及び第二可動部12に加えることができる構成であればよい。本実施形態における引張力生成部33は、
図2、
図3、
図6、
図7に示すように、磁石支持部材23に裏面に接続された複数本のロープ33aと、これらロープ33aを本体10側に引っ張るような力を発生させる第一アクチュエータユニット33bと、第二可動部12の先端に接続された複数本のロープ33cと、これらロープ33cを本体10側に引っ張るような力を発生させる第二アクチュエータユニット33dと、を有している。第一・第二アクチュエータユニット33b・33dは簡易なオープンループ制御によって駆動されており、不測の事態により電源が遮断された場合には動作を停止して安全を確保することができるようになっている。第一・第二アクチュエータユニット33b・33dのブレーキとしては、無励磁ブレーキを採用することができる。
【0050】
制御部で引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を第一駆動弾性体31の第一付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部11を本体10から遠ざけるように移動させ、第一可動部11に取り付けられた磁力発生部20の永久磁石24をカバー部材13の板状部13aの挿通孔13abに挿通させ、永久磁石24を板状体2側に露出させて、永久磁石24によって形成される吸着領域Cを、対象物Tに取り付けられた板状体2に吸着させて対象物Tを捕獲することができる。なお、本実施形態における制御部は、第一・第二アクチュエータユニット33b・33dのモータの回転量を制御してロープ33a・33cの繰り出し量を制御することにより、間接的に引張力を制御している。
【0051】
また、制御部で引張力生成部33の第二アクチュエータ33dによる引張力を第二駆動弾性体32の第二付勢力よりも小さくすることにより、第二可動部12もまた本体10から遠ざかるように移動し、第二可動部12の遠位端に設けられた凸部12aがカバー部材13の筒状部13bの凹部13bbに嵌合し、カバー部材13が第二可動部12によって押し上げられる。この結果、カバー部材13もまた本体10から遠ざかるように移動する。なお、本実施形態においては、制御部が、第一アクチュエータ33bよりも第二アクチュエータ33dを有意に遅れさせて作動させることにより、第一可動部11のみを本体10から遠ざけるように移動させ吸着領域Cを板状体2に吸着させて対象物Tを捕獲した後に、第二可動部12を本体10から遠ざけるように移動させてカバー部材13を押し上げるようにする。磁力発生部20の吸着領域Cが板状体2に吸着しているときは、カバー部材13の表面と板状体2との間に僅かな間隙が形成される。
【0052】
一方、制御部で引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を第一駆動弾性体31の第一付勢力及び吸着力よりも大きくすることにより、第一可動部11を本体10へ近付けるように移動させ、第一可動部11に取り付けられた磁力発生部20の永久磁石24によって形成される吸着面25を、対象物Tに取り付けられた板状体2から離隔させて引き剥がすことができる。この際、制御部で引張力生成部33の第二アクチュエータ33dを停止させ、繰り出し量を0としたままとし、第二付勢力を吸着力よりも大きくすることにより、第二可動部12については移動させずにカバー部材13の表面を板状体2に密着させ、第一可動部11のみを本体10に近付けるように移動させ、磁力発生部20の吸着領域Cを板状体2から引き剥がすことができる。このとき、第一可動部11に取り付けられた磁力発生部20の吸着領域Cは、板状体2に対して略平行な姿勢を維持したまま離隔するため、吸着領域C全体にわたって磁力を均一に減少させていくことができ、安全な剥離を達成することができる。
【0053】
吸着位置検出部40は、磁力発生部20の吸着領域C内に板状体2が吸着しているか否かを検出するものである。本実施形態においては、
図9に示すように、第一の径を有する内円C
1と、第一の径よりも大きい第二の径を有する外円C
2と、によって囲まれた環状領域を吸着領域Cとして採用している。吸着領域Cには、
図8に示すように、平面視において磁力発生部20の永久磁石24が敷設された領域が包含されるようになっている。本実施形態における吸着位置検出部40は、内円C
1に沿って複数配置された内円位置検出部41と、外円C
2に沿って複数配置された外円位置検出部42と、を有している。内円位置検出部41及び外円位置検出部42は、
図3及び
図4に示すように磁石支持部材23の表面に設けられており、
図3及び
図8に示すようにカバー部材13に設けられた対応する孔から対象物T側に露出するようになっている。なお、本実施形態においては、大小二つの円(内円C
1及び外円C
2)によって形成された環状領域を吸着領域Cとして採用した例を示したが、吸着領域Cの平面形状はこれに限られるものではない。例えば、相似な平面形状を有する大小二つの多角形によって形成された領域を吸着領域Cとして採用してもよい。
【0054】
判定部は、吸着位置検出部40による検出結果に基づき、対象物Tの捕獲が成功したか失敗したかを判定するものである。本実施形態における判定部は、板状体2が内円C1の全周にわたって吸着していることを内円位置検出部41で検出した場合に、対象物Tの捕獲が成功したものと判定する。なお、判定部は、対象物捕獲判定を別の方法で行うこともできる。例えば、板状体2が内円C1の全周に吸着していない場合でも、内円C1の全周のうち特定割合(吸着力の要求から設定される値であって例えば80%)を占める部分に吸着していることを内円位置検出部41で検出した場合に、対象物Tの捕獲が成功したものと判定することもできる。また、本実施形態における判定部は、板状体2が内円C1の少なくとも一部に吸着していることを内円位置検出部41で検出せず、かつ、板状体2が外円C2の少なくとも一部に吸着していることを外円位置検出部42で検出しない場合に、対象物Tの捕獲が失敗したものと判定する。
【0055】
一方、判定部は、既に述べた典型的な二つの状態とは異なる状態が検出された場合には、判定を保留する。例えば、
図9(A)に示すように板状体2が内円C
1及び外円C
2の双方に部分的に吸着していることを内円位置検出部41及び外円位置検出部42で検出した場合や、
図9(B)に示すように板状体2が外円C
2にのみ部分的に吸着していることを外円位置検出部42で検出した場合には、その検出結果を地上の作業員に送り、当該作業員に判定を委ねる。
【0056】
対象物検出部50は、
図4に示すように、支持板21の孔21a、磁石支持部材23の孔23a、及び、カバー部材13の板状部13aの中央孔3aaを通して対象物Tを検出するものである。
【0057】
宇宙航行体1が対象物Tに対して比較的遠い位置にある場合には、
図4及び
図10(A)に示すように、宇宙航行体1の磁石支持部材23及び永久磁石24は本体10側に引き寄せられているため、対象物検出部50の表面は磁石支持部材23の孔23aよりも対象物T側に位置している。このため、対象物Tを含む広い領域を広い視野角θαでセンシングすることができ、その広い視野角θαを維持したまま
図10(B)に示すように宇宙航行体1が対象物Tに対して近付くことができる。
【0058】
その後、宇宙航行体1の永久磁石24で対象物Tに取り付けられた板状体2を吸着させ、
図10(C)に示すように最終的に対象物Tを捕獲した場合には、対象物検出部50の表面は磁石支持部材23の孔23aよりも本体10側に位置することとなる。これにより対象物検出部50の視野角は比較的狭いものとなるが、既に対象物Tを捕獲しているため、対象物Tを検出できる視野角θβがあれば足りる。このように、磁石支持部材23が移動しても、磁石支持部材23の孔23aを通して、接近から結合の瞬間に至るまで対象物T(の板状体2)を対象物検出部50で捉え続けることができる。これにより高い成功率をもって結合を実現できる。
【0059】
<対象物捕獲方法>
次に、
図1等を用いて、本実施形態に係る宇宙航行体1を用いて、板状体2が取り付けられた対象物Tを捕獲する方法について説明する。
【0060】
まず、対象物Tに向けて宇宙航行体1を移動させる。この際、宇宙航行体1は、対象物検出部50等によるセンシングを行いながら、対象物Tに取り付けられた板状体2の探索を行う。板状体2の探索手法は特に限定されるものではないが、例えば、宇宙航行体1に取り付けた投光機から照射された光を、板状体2の表面に取り付けられた複数のマーカーの表面で反射させ、その光を対象物検出部50によりとらえ、演算部がそれを認識すること等を経て実現させることができる。板状体2の表面の複数のマーカーのパターンを認識することから得られる情報等により、対象物Tの相対位置及び相対姿勢を認識することで、宇宙航行体1は、対象物Tに接近するように移動することができる。なお、このように宇宙航行体1が対象物Tに接近している最中においては、
図4に示すように、宇宙航行体1の磁石支持部材23が、引張力生成部33の第一アクチュエータ33bで生成した引張力により本体10側に引き込まれており、磁石支持部材23の裏面がカバー部材13の筒状部13bの突起13baに当接した状態とされている。
【0061】
次いで、対象物Tと宇宙航行体1との間の距離が所定値以下になった時点で、宇宙航行体1の制御部で引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を第一駆動弾性体31の第一付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部11及びそれに取り付けられた磁力発生部20を本体10から遠ざけるように移動させる。そして、磁力発生部20の永久磁石24をカバー部材13の板状部13aの挿通孔13abに挿通させ、
図3に示すように永久磁石24を板状体2側に露出させた上で、
図1(A)に示すように、宇宙航行体1の永久磁石24からなる面状の吸着領域Cを対象物Tの板状体2に対して近付ける。このとき、
図1(A)に示すように吸着領域Cに対して板状体2が平行になっていなくても、宇宙航行体1の緩衝弾性体22により、
図1(B)に示すように吸着領域Cが板状体2に対して平行になるように吸着領域Cの姿勢を変化させることができ、吸着領域Cを板状体2に吸着させることができる。
【0062】
その後、宇宙航行体1の制御部で引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を第一駆動弾性体31よりも大きくすることにより、
図1(C)に示すように、第一可動部11及びそれに取り付けられた磁力発生部20と、磁力発生部20の永久磁石24に吸着した板状体2及び対象物Tと、を本体10に近付けるように移動させる。そして、磁力発生部20の磁石支持部材23を支持板21に近接させ、磁石支持部材23の凹部23bに支持板21の凸部21bを嵌合させて、支持板21に対する磁石支持部材23の相対的な位置及び姿勢を固定する。これにより、宇宙航行体1に対する対象物Tの相対的な位置及び姿勢も固定されることとなる。なお、宇宙航行体1の制御部は、凹部23bに凸部21bを嵌合させる位置まで磁力発生部20を引き込むように引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を制御するが、この際、それ以上は磁力発生部20を引き込まないように引張力を制御する。磁力発生部20をそれ以上引き込むと、宇宙航行体1と対象物Tとの干渉や接触が発生する虞があるためである。
【0063】
<対象物離脱方法>
次に、
図1等を用いて、捕獲した対象物Tを宇宙航行体1から離脱させる方法について説明する。
【0064】
まず、宇宙航行体1は、
図1(C)に示した状態から、制御部で引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を第一駆動弾性体31の第一付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部11及びそれに取り付けられた磁力発生部20と、磁力発生部20の永久磁石24に吸着した板状体2及び対象物Tと、を本体10から遠ざけるように移動させる。また、制御部で引張力生成部33の第二アクチュエータ33dによる引張力を第二駆動弾性体32の第二付勢力よりも小さくすることにより、第二可動部12もまた本体10から遠ざかるように移動し、第二可動部12の遠位端に設けられた凸部12aがカバー部材13の筒状部13bの凹部13bbに嵌合し、カバー部材13が第二可動部12によって押し上げられ、カバー部材13もまた本体10から遠ざかるように移動する。この際、制御部は、第二アクチュエータ33dを第一アクチュエータ33bよりも遅れて作動させ、かつ、追いつかないように速度調整することにより、第二可動部12を第一可動部11よりも遅れて移動させるようにする。
【0065】
その後、宇宙航行体1の制御部で引張力生成部33の第一アクチュエータ33bによる引張力を、第一駆動弾性体31の第一付勢力及び吸着力よりも大きくする一方、引張力生成部33の第二アクチュエータ33dを停止させ、繰り出し量を0とすることにより、第二可動部12については移動させずにカバー部材13の表面を板状体2に密着させ、第一可動部11のみを本体10に近付けるように移動させる。これにより、第一可動部11に取り付けられた磁力発生部20の吸着領域Cは、板状体2に対して略平行な姿勢を維持したまま離隔するため、吸着領域C全体にわたって磁力を均一に減少させていくことができ、吸着領域Cを板状体2から安全に引き剥がすことができる。
【0066】
<作用効果>
以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、磁石支持部材23の先端部分(本体10とは反対側の面)に複数の永久磁石24を敷設することにより形成した磁力発生部20の吸着領域Cを、第一可動部11を駆動部30によって本体10から遠ざけるように軸方向Aに沿って移動させた際に、一定の姿勢(軸方向Aに対して交差した姿勢)を維持したまま本体10から突出させることができる。また、この吸着領域Cは、外力が作用した場合に、第一可動部11と磁石支持部材23との間に介在した緩衝弾性体22による位置変化や姿勢変化を可能としている。従って、対象物Tに取り付けられた板状体2に対して、宇宙航行体1の吸着領域Cが平行でない状態で接近した場合や、板状体2に対する吸着領域Cの位置ずれがあった場合(但し宇宙航行体1と板状体2との位置ずれが所定範囲内である場合)においても、吸着領域Cが板状体2に対して平行になるように吸着領域Cの姿勢を変化させたりすることにより、吸着領域Cの特定範囲(吸着力の要求から設定される範囲であって例えば吸着領域全体の80%の範囲)を板状体2に吸着させることができる。従って、対象物Tに取り付けられた板状体2に対して宇宙航行体1の吸着領域Cを高精度に位置決めしなくても、宇宙航行体1による対象物Tの捕獲を実現させることができる。また、本実施形態に係る宇宙航行体1は、磁力発生部20の吸着領域Cを対象物Tに取り付けられた板状体2に対して吸着させることにより対象物Tを捕獲するように構成されているため、捕獲のやり直しが可能であり、その構成も比較的簡素で小型化が可能であるという利点がある。
【0067】
また、以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、制御部で引張力生成部33の引張力を第一駆動弾性体31の第一付勢力よりも小さくすることにより第一可動部11を本体10から遠ざけるように移動させることができる一方、制御部で引張力生成部33の引張力を第一駆動弾性体31の第一付勢力よりも大きくすることにより第一可動部11を本体10に近付けるように移動させることができる。すなわち、制御部で引張力生成部33の引張力を制御するだけで第一可動部11を容易に往復移動させることができる。
【0068】
また、以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、制御部で引張力生成部33の引張力を第一付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部11を本体10から遠ざけるように移動させ、第一可動部11に取り付けられた吸着領域Cを対象物Tに取り付けられた板状体2に吸着させる(すなわち宇宙航行体1によって対象物Tを捕獲する)ことができる。この際、第二可動部12をも本体10から遠ざけるように移動させて、第二可動部12に連結されたカバー部材13を板状体2に当接させることができる。その後、制御部で引張力生成部33の引張力を第一付勢力よりも大きくかつ第二付勢力よりも小さくすることにより、第一可動部11のみを本体10に近付けるように移動させ、吸着領域Cを板状体2から引き剥がして対象物Tからの宇宙航行体1の静的な離脱を実現させることができる。従って、少なくとも以下の二つのメリットを得ることができる。まず、捕獲という本来の目的の成功率を高められる(第一のメリット)。すなわち、かかる構成によって達成される静的な結合解除機能により、想定外の磁力発生部20と板状体2の結合が万が一生じた場合においても、再捕獲の状態に移行することが可能となる。静的な離脱であれば、離脱時の相対速度や姿勢外乱は小さく、再接近・再捕獲の動作に要するエネルギは小さく、また、動作も簡易となる。次に、安全を確保することが容易になる(第二のメリット)。静的な離脱であれば、対象物Tに対するセンサ視野を確保することが容易であることから相対的な位置・姿勢の予測精度が上がり衝突の確率を低減することができ、また、万が一想定がずれ接触が発生する場合でも相対的なエネルギが小さいため、危険な衝突とはならない。
【0069】
また、以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、第二可動部12を本体10から遠ざけるように移動させたときに、カバー部材13の凹部13bbに第二可動部12の凸部12aを嵌合させることができるため、カバー部材13を第二可動部12に対して位置ずれなく連結することができる。
【0070】
また、以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、その吸着領域Cを、対象物Tに取り付けられた板状体2に吸着させた後(宇宙航行体1によって対象物Tを捕獲した後)に、その磁石支持部材23を支持板21に近接させ、磁石支持部材23の凹部23bに支持板21の凸部21bを嵌合させて、支持板21に対する磁石支持部材23の相対的な位置及び姿勢を固定することができる。この結果、宇宙航行体1に対する対象物Tの相対的な位置及び姿勢を固定することができる。従って、宇宙航行体1と対象物Tとの結合状態が外力によって解除され両者が衝突する、というような事態を回避することができる。
【0071】
また、以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、吸着領域(第一の径を有する内円C1と、第一の径よりも大きい第二の径を有する外円C2と、によって囲まれた環状領域)C内に板状体2が吸着しているか否かを検出することができる。すなわち、宇宙航行体1の吸着位置検出部40の判定部は、板状体2が内円C1の全周(若しくは全周のうち特定割合を占める部分)にわたって吸着していることを内円位置検出部41で検出した場合に、対象物Tの捕獲が成功したものと判定することができる。また、判定部は、例えば、外円C2に板状体2が部分的に吸着しているものの、内円C1に板状体2が全く吸着していないことを内円位置検出部41及び外円位置検出部42で検出した場合には、捕獲が成功したか失敗したかの判定を地上の作業者に委ねることができる。かかる検出結果を参照した地上の作業者は、その後の安全な結合維持を保証できないものと判断し、結合解除の動作を実施し、再度の捕獲動作に移行することができる。また、判定部は、板状体2が内円C1の少なくとも一部に吸着していることを内円位置検出部41で検出せず、かつ、板状体2が外円C2の少なくとも一部に吸着していることを外円位置検出部42で検出しない場合に、宇宙航行体1による対象物Tの捕獲が失敗したものと判定することができる。このように吸着領域Cのどの部分にも板状体2が全く吸着していない場合には、捕獲直前における接近動作において不測の事態が発生している可能性が高く、ただちに安全が保証された軌道に退避(アボート)する判断を要する。すなわち、本構成を採用することにより、捕獲動作の成否判断や、退避判断を行うことが可能となる。
【0072】
また、以上説明した実施形態に係る宇宙航行体1においては、磁石支持部材23の平面視中央部に、軸方向Aに沿って貫通する孔23aを形成し、この孔23aを通して対象物Tを検出する対象物検出部50を設けているため、磁石支持部材23が軸方向Aに沿って往復移動している間に、平面視中央部の孔23aを通して、接近から結合の瞬間に至るまで、視差なく対象物T(の板状体2)を対象物検出部50で捉え続けることができる。これにより高い成功率をもって結合を実現できる。
【0073】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、この実施形態に当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。すなわち、前記実施形態が備える各要素及びその配置、材料、条件、形状、サイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。また、前記実施形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0074】
1…宇宙航行体
2…板状体
10…本体
11…第一可動部
12…第二可動部
12a…(第二可動部の)凸部
13…カバー部材
13a…板状部
13b…筒状部
13bb…(筒状部の)凹部
20…磁力発生部
21…支持板
21b…(支持板の)凸部
22…緩衝弾性体
23…磁石支持部材
23a…孔
23b…(磁石支持部材の)凹部
24…永久磁石
30…駆動部
31…第一駆動弾性体
32…第二駆動弾性体
33…引張力生成部
40…吸着位置検出部
41…内円位置検出部
42…外円位置検出部
50…対象物検出部
A…軸方向
C…吸着領域
C1…内円
C2…外円
S…捕獲システム
T…対象物