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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】不燃塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20240131BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 101/00 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240131BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/02
C09D101/00
C09D5/18
C09D7/61
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022090418
(22)【出願日】2022-06-02
(65)【公開番号】P2023177641
(43)【公開日】2023-12-14
【審査請求日】2023-01-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000204985
【氏名又は名称】大建工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】連 綾香
(72)【発明者】
【氏名】川邊 伸夫
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-099688(JP,A)
【文献】特開2020-203978(JP,A)
【文献】特開2016-222877(JP,A)
【文献】特表2020-525598(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106366373(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00-10/00
C09D 101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鱗片状膨潤性無機化合物、エマルジョン樹脂、及びセルロース系ナノファイバーを含有する不燃塗料組成物であって、
前記不燃塗料組成物中の前記セルロース系ナノファイバーの固形分比率は、0.6%以上かつ3.7%以下であることを特徴とする不燃塗料組成物。
【請求項2】
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記鱗片状膨潤性無機化合物の重量比率は、2.5重量%以上かつ7.5重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の不燃塗料組成物。
【請求項3】
前記鱗片状膨潤性無機化合物は、鉱物組成物であるベントナイトまたはスメクタイト系の粘化合物に含まれる化合物であり、
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記鉱物組成物の重量比率は、3.2重量%以上かつ7.5重量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の不燃塗料組成物。
【請求項4】
前記鉱物組成物中の前記鱗片状膨潤性無機化合物の含有率は80%以上であることを特徴とする請求項に記載の不燃塗料組成物。
【請求項5】
前記鱗片状膨潤性無機化合物は、モンモリロナイトであることを特徴とする請求項1または2に記載の不燃塗料組成物。
【請求項6】
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記エマルジョン樹脂の重量比率は、固形分比率として、42%以上かつ75%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の不燃塗料組成物。
【請求項7】
鱗片状膨潤性無機化合物、エマルジョン樹脂、及びセルロース系ナノファイバー含有する不燃塗料組成物であって
固形分比率として、前記不燃塗料組成物に含まれる前記セルロース系ナノファイバーの比率を1としたときに、前記鱗片状膨潤性無機化合物の比率は、7以上かつ14以下であり、かつ、前記エマルジョン樹脂の比率は10以上かつ25以下であることを特徴とする不燃塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い不燃性が付与された不燃塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不燃塗料組成物を難燃化するための難燃剤としてハロゲン系難燃剤が広く使われているが、このハロゲン系難燃剤から発生するダイオキシンやフロンの問題があり、環境保護上好ましいとはいえない。
【0003】
また、水酸化アルミニウム等の無機系難燃剤も使われているが、水酸化アルミニウムは塗料及びそれを塗布した基材の物理的性質や耐水性等の低下等が問題となっている。
【0004】
そこで、鱗片状膨潤性無機化合物であるモンモリロナイトを含むベントナイトとエマルジョン樹脂とを含む不燃塗料組成物が提案されている(例えば、特許文献1)。ベントナイトを添加することで塗膜のガスバリア性や不燃性を向上させることができると共に、ベントナイトは自然から採掘される粘度鉱物であるため環境に配慮した不燃塗料組成物を提供できる。一方、ベントナイトを含む不燃塗料組成物で形成された塗膜の強度は比較的低く、乾燥の際に塗膜がひび割れることがある。そこで、この不燃塗料組成物にエマルジョン樹脂をさらに加えることで、塗膜強度の低下を抑制でき、ひいては塗膜のひび割れを抑えることができる。また、エマルジョン樹脂により、塗膜の耐水性及び耐湿性を向上できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-117810号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ガスバリア性や不燃性を十分に確保するために塗膜中の鱗片状膨潤性無機化合物の含有量は高いほうが望ましい。しかし、ベントナイト中の鱗片状膨潤性無機化合物の純度が比較的低いと、ベントナイト中の不純物が塗膜の均一な形成を阻害してしまう。また、塗布量を増やすために塗装回数を増やす必要があるが、作業性や塗膜の乾燥負荷が増大する。
【0007】
そこで、特許文献1に記載の不燃塗料組成物には、モンモリロナイトの純度の高い精製ベントナイト(以下、高純度の精製ベントナイトという。)が使用される。このことにより、塗膜中の不純物が低減されて均一な塗膜を形成でき、ガスバリア性や不燃性を向上させることができる。
【0008】
しかし、例えば基材に塗布したときの不燃塗料組成物の粘度が比較的低いと、該基材に不燃塗料組成物が浸透してしまい、基材表面に安定して塗膜を形成できなくなる場合がある。また、高純度の精製ベントナイトは比較的高い吸湿性を有するため、透湿性にも課題がある。このように、特許文献1に記載の不燃塗料組成物は、不燃性や透湿性を十分に確保できているとは言えず、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物について改良の余地がある。
【0009】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物の不燃性及び透湿性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明では、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを含有させた。
【0011】
具体的には、第1の発明は、鱗片状膨潤性無機化合物を含む鉱物組成物、エマルジョン樹脂、及びセルロース系ナノファイバーが含有される不燃塗料組成物である。
【0012】
第1の発明では、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、不燃塗料組成物の不燃性が向上する効果が得られた。すなわち、セルロース系ナノファイバーにより、不燃塗料組成物の不燃性を向上させることができる。
【0013】
加えて、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、該不燃塗料組成物を含む塗料の粘度が上昇する効果が得られた。すなわち、セルロース系ナノファイバーにより、不燃塗料組成物の粘性を向上させることができる。このことで、塗料中の鱗片状膨潤性無機化合物が沈降したり凝集したりすることを抑えることができる。その結果、塗料の可使時間を長くすることができるため、塗料の塗布作業等の作業効率の改善を図ることができる。ここで、塗料は例えば水溶性溶媒に不燃塗料組成物が混合されたものを指す。
【0014】
加えて、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、該不燃塗料組成物を含む塗膜層の透湿性が向上する効果が得られた。すなわち、セルロース系ナノファイバーにより、塗膜層の透湿性を向上させることができる。
【0015】
加えて、鱗片状膨潤性無機化合物及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、該不燃塗料組成物を含む塗膜層の表面強度が向上する効果が得られた。すなわち、セルロース系ナノファイバーにより、塗膜の強度を向上させることができる。
【0016】
第2の発明は、第1の発明において、
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記セルロース系ナノファイバーの重量比率は、0.1重量%以上かつ0.5重量%以下である。
【0017】
第2の発明では、最適量のセルロース系ナノファイバーを不燃塗料組成物に含有させることで、第1の発明の効果を確実に得ることができる。
【0018】
第3の発明では、第1または第2の発明において、
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記鱗片状膨潤性無機化合物の重量比率は、2.5重量%以上かつ7.5重量%以下である。
【0019】
第3の発明では、最適量の鱗片状膨潤性無機化合物を不燃塗料組成物に含有させることで、第1の発明の効果を確実に得ることができる。
【0020】
加えて、高純度の鱗片状膨潤性無機化合物は、膨潤性(吸湿性)が比較的高いため、塗膜の耐水性及び耐湿性が低下する恐れがあるが、セルロース系ナノファイバーを不燃塗料組成物に加えることで不燃性や透湿性が向上することから、鱗片状膨潤性無機化合物の不燃塗料組成物中の含有量を抑えることができる。その結果、塗膜層の耐水性及び耐湿性の低下を抑制できる。
【0021】
第4の発明は、第1~第3のいずれか1つの発明において、
前記鱗片状膨潤性無機化合物は、所定の鉱物組成物に含まれる化合物であり、
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記鉱物組成物の重量比率は、3.2重量%以上かつ7.5重量%以下である。
【0022】
第4の発明では、最適量の鉱物組成物を不燃塗料組成物に含有させることで、第1の発明の効果を確実に得ることができる。
【0023】
第5の発明は、第4の発明において、
前記鉱物組成物中の前記鱗片状膨潤性無機化合物の含有率は80%以上である。
【0024】
第5の発明では、高純度の鱗片状膨潤性無機化合物を含有する鉱物組成物が使用される。このことにより、鉱物組成物中の不純物の濃度が低減されるため、塗膜を均一に形成できる。
【0025】
加えて、鱗片状膨潤性無機化合物が高純度であるため、鉱物組成物が比較的少量でも第1の発明と同じ効果を得ることができる。
【0026】
第6の発明は、第1~第5の発明のいずれか1つにおいて、
前記鱗片状膨潤性無機化合物は、モンモリロナイトである。
【0027】
第6の発明では、モンモリロナイトを用いて不燃塗料組成物を構成できる。
【0028】
第7の発明は、第1~第6の発明のいずれか1つにおいて、
前記不燃塗料組成物を含む塗料中の前記エマルジョン樹脂の重量比率は、13重量%以上かつ26重量%以下である。
【0029】
第7の発明では、セルロース系ナノファイバーにより塗膜の強固性が向上するため、エマルジョン樹脂の含有量を抑えても、塗膜の表面硬度や耐汚染性などの耐久性が損なわれることを抑制できる。また、エマルジョン樹脂の含有量を抑えても、第1の発明と同じ効果が得られる。
【0030】
第8の発明は、第1~第7の発明のいずれか1つにおいて、
固形分比率として、前記不燃塗料組成物に含まれる前記セルロース系ナノファイバーの比率を1としたときに、前記鱗片状膨潤性無機化合物の比率は、7以上かつ14以下であり、かつ、エマルジョン樹脂の比率は10以上かつ25以下である。
【0031】
第8の発明では、セルロース系ナノファイバー、鱗片状膨潤性無機化合物、及びエマルジョン樹脂の配合比率を設定することで、簡便に不燃塗料組成物を製造できる。
【発明の効果】
【0032】
以上に説明したように、本発明によれば、鱗片状膨潤性無機化合物とエマルジョン樹脂とを有する不燃塗料組成物の不燃性及び透湿性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の実施形態に係る不燃塗料組成物を用いた不燃性板材の構成を示す縦断面図である。
図2図2は、実験例に用いられた各種の塗料の構成を示す表である。
図3図3は、各種の不燃性板材の不燃性、透湿性、表面硬度、及び厚塗り特性を示すデータである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0035】
(1)不燃性板材
図1に示す不燃性板材1は、建物の耐力壁や下地材等の不燃性建築材として用いられ、耐火性構造を有する。不燃性板材1は、建築用基材10、シーラー層20、及び塗膜層30を備える。建築用基材10の表面または裏面にシーラー層20が形成される。塗膜層30はシーラー層20の上に形成される。建築用基材10は、本発明の木質基材の一例である。シーラー層20及び塗膜層30は、建築用基材10の両面に設けられてもよい。
【0036】
本実施形態において、不燃性板材1は、建築基準法の基準を満たした規格上の不燃材ではなく、建築基準法の規格上の難燃材、準不燃材、不燃材を含んでいて「燃え難い」という意味で用いる。また、「耐火性構造」とは、建築基準法上の基準を満たした規格上の耐火構造ではなく、建築基準法の規格上では防火構造、準耐火構造、耐火構造を含んでいて「燃え難い構造」という意味で用いる。
【0037】
(1-1)建築用基材
建築用基材10は、建築基準法に定める難燃性、準不燃性又は不燃性を有する板材が用いられる。建築用基材10は、例えば火山性ガラス質複層板、ケイカル板、石膏ボード等の無機系のものや、金属板、樹脂板等を材料として構成される。これらの材料は、本来燃え難い特性(難燃性や不燃性)を有している。本実施形態の不燃性板材1は、その表面に後述する不燃塗料組成物を有する塗膜層30が設けられることで、本来の特性に加えて燃え難さの程度がさらに高くなる。
【0038】
建築用基材10は、例えば輻射熱量で50kW/mの条件で加熱されて収縮や伸張等の変形が生じたときに、その変形の程度が、表面の塗膜層30が破壊される程度までにならないものが選択される。そのような変形が生じると、塗膜層30が破れることで、塗膜層30の不燃性の機能や効果が低下するためである。このような建築用基材10としては、例えば、厚さ6mm~12mmの火山性ガラス質複層板(JIS A 5440)(大建工業(株)の商品名「ダイライトMS」)、厚さ9mmの準不燃ケイカル板(ニチハ社(株)の商品名「あんしん」)や厚さ6mmの不燃ケイカル板((株)エーアンドエーマテリアル社の商品名「ハイラック」)等が好適に用いられる。
【0039】
また、建築用基材10の表面を平滑面にすることが好ましい。このことにより、塗膜層30を建築用基材10に密着させて均一で綺麗な不燃塗膜層に形成できるからである。
【0040】
(1-2)シーラー層
シーラー層20は、塗膜層30に含まれる不燃塗料組成物が建築用板剤10に不均一に染み込むことを抑制する。シーラー層20は、建築用基材10の表面を平滑化し、シーラー層40の上の塗膜層30を均一な層にする。
【0041】
シーラー層20の組成物の種類は特に指定されるものではなく、例えばアクリル樹脂やウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂等の各種合成樹脂、これらから任意に選択される混合物が指定される。また、シーラー層40には必要に応じて各種の無機顔料、助剤等を添加することができる。
【0042】
(1-3)塗膜層
塗膜層30は、本発明の不燃塗料組成物を有する。詳細は後述するが、塗膜層30は、不燃塗料組成物を含む塗料をシーラー層20上に塗布することで形成される。この塗料は、水溶性溶媒中に不燃塗料組成物を分散させることで調製される。不燃塗料組成物は、ベントナイト、エマルジョン樹脂、及びセルロース系ナノファイバーを含む。
【0043】
ベントナイトは、本発明の所定の鉱物組成物の一例である。ベントナイトは、モンモリロナイトを含む。モンモリロナイトは、本発明の鱗片状膨潤性無機化合物の一例である。本例のベントナイトは、モンモリロナイトの含有率が高い高純度の精製ベントナイトである。具体的に、高純度の精製ベントナイトの純度は、モンモリロナイト含有率が80重量%以上であり、85重量%以上が好ましく、95重量%以上が最も好ましい。本例のベントナイトの形態は微粉末である。
【0044】
不燃塗料組成物を含む塗料中のモンモリロナイトの重量比率は、2.5%以上かつ7.5%以下が好ましい。また、固形分比率として、不燃塗料組成物中のモンモリロナイトの重量比率は、18%以上かつ55%以下が好ましい。
【0045】
上記高純度の精製ベントナイト微粉末は、モンモリロナイトが上記重量比率となるように不燃塗料組成物に配合してもよい。具体的に、不燃塗料組成物を含む塗料中のベントナイトは、3.2%以上かつ7.5%以下が好ましい。また、固形分比率として、不燃塗料組成物中のモンモリロナイトの重量比率は、22%以上かつ55%以下が好ましい。
【0046】
エマルジョン樹脂は、合成樹脂の粒子が水中に均一に分散している液体である。エマルジョン樹脂の合成樹脂は、例えばアクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、またはこれらから任意に選択される混合物が用いられる。特に、アクリル樹脂は造膜性と硬度、ガラス透過性、フィラーの分散安定性のバランスに優れているため、アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0047】
エマルジョン樹脂は、乳化剤によって粒子(エマルジョン)が安定されたものであってもよいし、乳化剤を用いずに安定化させる、いわゆるソープフリータイプであってもよい。ソープフリーのエマルジョン樹脂は、エマルジョン重合時に用いる界面活性剤を反応性界面活性剤としたエマルジョン樹脂である。これにより、塗膜強度や耐水性を向上させることができる。
【0048】
不燃塗料組成物を含む塗料中のエマルジョン樹脂の重量比率は、13重量%以上かつ26重量%以下が好ましい。また、固形分比率として、不燃塗料組成物中のエマルジョン樹脂の重量比率は、42%以上かつ75%以下が好ましい。エマルジョン樹脂は固形分比率として40重量%未満であると、塗膜層30に十分な強度が得られず、80重量%を超えると、塗膜層30中の樹脂の成分が多くなって、その樹脂(塗膜層30)自体が燃えやすくなる。
【0049】
セルロース系ナノファイバーは、例えば、セルロースナノファイバー、及びキチンナノファイバーの少なくとも1つである。本例のセルロース系ナノファイバーの形態は、微粉末である。具体的に、セルロースナノファイバーは、例えばセルロース・キチン・キトサンを超高圧ウォータージェット技術で加工した極細繊維であり、その直径は約0.02~0.05μm、長さは数μm程度である。このセルロースナノファイバーは、その低線熱膨張性、高弾性、透明性、生体適合性、抗菌性、生理機能改善効果等の特長を有する。
【0050】
不燃塗料組成物を含む塗料中のセルロース系ナノファイバーの重量比率は、0.1重量%以上かつ0.5重量%以下であり、0.3重量%以上かつ0.5重量%以下が最も好ましい。セルロース系ナノファイバーの重量比率が1.0重量%以上であると、粘度が高くなり過ぎて塗膜層30の厚さが均一にならない。また、固形分比率として、不燃塗料組成物中のセルロース系ナノファイバーの重量比率は、0.6%以上かつ3.7%以下であり、1.8%以上かつ3.7%以下が好ましい。
【0051】
(2)不燃性板材の製造方法
不燃性板材1の製造方法は、建築用基材10の表面にシーラー層20を形成させる第1塗装工程、およびシーラー層20の表面に塗膜層30を形成させる第2塗装工程を含む。
【0052】
(2-1)第1塗装工程
第1塗装工程は、シーラー塗料を建築用基材10表面に塗布した後、これを乾燥させる工程である。これによりシーラー層20が形成される。シーラー塗料の塗布方法は、ロールコーター、フローコーター、スプレー等の公知の方法が採用される。シーラー塗料の塗布量は、例えば10~100g/mが好ましい。乾燥には、熱風ドライヤ等の公知の方法が採用される。
【0053】
(2-2)第2塗装工程
第2塗装工程は、シーラー層20の表面に不燃塗料組成物を含む塗料を塗布した後、これを乾燥させる工程である。これにより塗膜層30が形成される。塗料は、例えば高純度ベントナイト微粉末を水溶性溶媒(清水)に投入して撹拌機等で撹拌し、エマルジョン樹脂及びセルロース系ナノファイバーを撹拌しながら添加することで調製される。または、水溶性溶媒にエマルジョン樹脂及びセルロース系ナノファイバーを添加した後に、高純度ベントナイト微粉末を添加することで塗料を調製してもよい。塗料の調製について、高純度ベントナイト、エマルジョン樹脂、及びセルロース系ナノファイバーのそれぞれが水溶性溶媒中に均一に分散するように調製すればよく、これらの材料を投入する順番に限定はない。
【0054】
また、その他の添加剤として、消泡剤、分散剤、濡れ剤、防カビ剤等の助剤を添加してもよく、用途によって顔料を添加してもよい。
【0055】
塗装は、フローコーター、ロールコーター、スプレー等の公知の方法で建築用基材10の表面に塗料を塗布してもよい。塗布量は、塗料中の精製ベントナイトの含有率、精製ベントナイト中のモンモリロナイトの含有率、エマルジョン樹脂の含有率、及びセルロース系ナノファイバーの含有率に基づいて、適宜設定される。乾燥には、熱風ドライヤ等の公知の方法が採用される。
【0056】
(3)実験例
以下、本実施形態の不燃塗料組成物の各種の実験例について説明する。
【0057】
図2に示すように、本実験例では6種類の塗料(第1~第6塗料)を用いた。これらの塗料には、精製ベントナイトとして、モンモリロナイト含有率が98.5%重量%以上のクニピアF(クニミネ工業(株))を用いた。エマルジョン樹脂として、アクリル樹脂及びウレタン樹脂の混合物を用いた。
【0058】
各種の塗料について、概略を説明する。第1塗料は、水を水溶性溶媒とし、精製ベントナイト、エマルジョン樹脂、消泡剤、分散剤などで構成される。第2塗料は、第1塗料にセルロース系ナノファイバーを添加したものである。第2塗料に含まれるセルロース系ナノファイバーは、第2塗料全量を100重量%として、約5重量%となるように添加されている。第3塗料は、第1塗料に含まれるエマルジョン樹脂の固形分量(または投入量)を半分にしたものである。第4塗料は、第3塗料にセルロース系ナノファイバーを添加したものである。第4塗料に含まれるセルロース系ナノファイバーは、第4塗料全量を100重量%として、5重量%となるように添加されている。第5塗料は、第1塗料に含まれる精製ベントナイトの固形分量(または投入量)を半分にしたものである。第6塗料は、第5塗料にセルロース系ナノファイバーを添加したものである。第6塗料に含まれるセルロース系ナノファイバーは、第6塗料全量を100重量%として、5重量%となるように添加されている。
【0059】
表面にシーラー層20を設けた建築用基材10に、上記各種の塗料を塗布して塗膜層30を形成させた。具体的には、建築用基材として、表面をサンディングして平滑面とした火山性ガラス質複層板(JIS A 5440)の準不燃組成に準じた6mm試作品に対して、その表面にシーラー塗料を80g/m塗布してシーラー層を形成した。適宜乾燥した後、シーラー層の上に第1塗料~第6塗料をベントナイトのモンモリロナイト量が4.0g/mになるように塗布量100g/m~120g/m程度でそれぞれ塗布して塗膜層30を形成した。適宜乾燥して溶媒を揮発させて成膜化させた。
【0060】
このようにして、第1塗料で塗膜層30を形成させた不燃性板材A、第2塗料で塗膜層30を形成させた不燃性板材B、第3塗料で塗膜層30を形成させた不燃性板材C、第4塗料で塗膜層30を形成させた不燃性板材D、第5塗料で塗膜層30を形成させた不燃性板材E、および第6塗料で塗膜層30を形成させた不燃性板材Fのそれぞれについて、各種の試験を行った。
【0061】
(3-1)不燃性試験
各種の不燃性板材A~Fについて、コーンカロリメーターによる20分の発熱試験をそれぞれ2回行って、その発熱総量の平均を求めた。また、発熱総量の平均が8.0(MJ/m)以下を合格、それを超えると不合格とした。
【0062】
図3に示すように、不燃性板材B及びDでは、不燃性板材A及びCよりも発熱量平均が低いことが分かった。すなわち、高純度の精製ベントナイトとエマルジョン樹脂とを含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを加えることで、不燃性が向上することが確認できた。
【0063】
また、第4塗料は第2塗料よりも不燃塗料組成物に含まれるエマルジョン樹脂量が半分であることから、エマルジョン樹脂の含有量を抑えてもセルロース系ナノファイバーを加えることで、不燃性が向上することが確認できた。
【0064】
また、不燃性板材A及びEを比較すると、精製ベントナイトの含有量を第1塗料(不燃性板材A)の半分にした不燃性板材Eは、不燃性板材Aよりも発熱量平均が高く不合格となった。ところが、不燃性板材E及びFを比較すると、不燃性板材Fは、不燃性板材Eよりも発熱量平均が低く合格であった。すなわち、塗料中の精製ベントナイトの含有量を抑えた場合、不燃性板材の不燃性が低下するところ、セルロース系ナノファイバーを添加することで不燃性の低下が抑制されることが確認できた。また、セルロース系ナノファイバーは可燃性であるため、不燃性板材Fは不燃性板材Eよりも不燃性が低下することが予測されるところ、この試験により可燃物であるセルロース系ナノファイバーを添加することで、不燃性板材の不燃性を向上できることがわかった。
【0065】
(3-2)透湿性試験
透湿性試験は、JIS A 1324「建築材料の透湿性測定方法」に基づいて試験を行った。本試験では、カップ法により透湿性を確認した。具体的に、吸湿剤をカップ内に入れ、不燃性板材A及びBをそれぞれカップ入口に取り付けて、恒温恒湿(室温23℃、相対湿度50%)内に静置した後、カップの質量変化に基づいて各種の不燃性板材の透湿抵抗値(m2・s・Pa/ng)を求めた。
【0066】
図3に示すように、不燃性板材Bの方が、不燃性板材Aよりも透湿抵抗値が低いことが分かった。すなわち、高純度の精製ベントナイトとエマルジョン樹脂とを含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを加えることで、透湿性が向上することがわかった。
【0067】
(3-3)鉛筆硬度試験
鉛筆硬度試験機を用いて行った。具体的に、各種の硬度(6B~HB~6H)の鉛筆の芯を不燃性板材A及びBに押付けて動かし、鉛筆跡を消しゴムで消して、表面状態を確認した。傷の発生が確認できなかった最高硬度で評価した。
【0068】
図3に示すように、不燃性板材Bの方が、不燃性板材Aよりも鉛筆硬度が高いことが分かった。すなわち、高純度の精製ベントナイトとエマルジョン樹脂とを含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを加えることで、塗膜層30の強度が向上することがわかった。
【0069】
(3-4)厚塗り適性試験
本試験では、第1塗料及び第2塗料について試験を行った。具体的に、シーラー層20上に塗料を160g/mとなるようにスプレー塗装することで成膜化した。これを140℃で3分間乾燥させた後、各成膜(塗膜層30)の外観を観察した。
【0070】
図3に示すように、不燃性板材Aでは、クラック(ひび割れ)が発生したのに対して、不燃性板材Bでは、それが確認できなかった。このことから、高純度の精製ベントナイトとエマルジョン樹脂とを含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを加えることで、塗膜層30のひび割れを抑制できることがわかった。
【0071】
(4)実施形態の効果
(4-1)効果1
本実施形態の不燃塗料組成物には、モンモリロナイト、エマルジョン樹脂、及びセルロース系ナノファイバーが含有される。
【0072】
本実施形態では、ベントナイト及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、不燃塗料組成物の不燃性が向上させることができる。セルロース系ナノファイバーは、可燃物であるため不燃性は低下することが一般に予測されるが、本実施形態の不燃塗料組成物では、セルロース系ナノファイバーを含まないものよりも不燃性が高い。
【0073】
加えて、ベントナイト及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、該不燃塗料組成物を含む塗料の粘度を向上させることができる。このことで、塗料中のベントナイトが沈降したり凝集したりすることを抑えることができる。その結果、塗料の可使時間を長くすることができる。塗料の可使時間が長くなることで、例えば短時間で塗料の塗布作業を行う必要がなく、塗布作用の作用効率性を向上させることができる。
【0074】
加えて、ベントナイト及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、該不燃塗料組成物を含む塗膜層の透湿性を向上させることができる。塗膜内で積層されたモンモリロナイトの間にセルロース系ナノファイバーが介在することで、塗膜の透湿性が向上したと推測される。このように塗膜の透湿性の向上により、例えば、室内空間の壁にこの塗膜層を有する板材を用いることで、室内の湿気を外部に逃がすことが促進され、室内空間を快適にすることができる。
【0075】
加えて、ベントナイト及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、該不燃塗料組成物を含む塗膜層の表面強度を向上させることができる。このことで、塗膜層を有する板材の耐久性が向上する。
【0076】
加えて、ベントナイト及びエマルジョン樹脂を含む不燃塗料組成物にセルロース系ナノファイバーを添加することで、塗膜層を比較的厚く形成させてもひび割れを抑制することができる。
【0077】
(4-2)効果2
本実施形態では、不燃塗料組成物を含む塗料中のセルロース系ナノファイバーの重量比率は、0.1重量%以上かつ0.5重量%以下である。特に、本実施例では、セルロース系ナノファイバーを0.5重量%とすることで、上記効果1を確実に得ることができる。
【0078】
(4-3)効果3
本実施形態では、不燃塗料組成物を含む塗料中のモンモリロナイトの重量比率は、2.5重量%以上かつ7.5重量%以下である。このように、最適な量のモンモリロナイトを不燃塗料組成物に含有させることで、上記効果1を確実に得ることができる。
【0079】
加えて、モンモリロナイトは、膨潤性(吸湿性)が比較的高いため、高純度の精製ベントナイトを用いると、塗膜の耐水性及び耐湿性が低下する恐れがあるが、セルロース系ナノファイバーを不燃塗料組成物に加えることで塗膜の不燃性や透湿性が向上することから、モンモリロナイトの不燃塗料組成物中の含有量を抑えることができる。すなわち、不燃塗料組成物中のモンモリロナイトの含有量を低減させても、塗膜層の耐水性及び耐湿性の低下を抑制でき、上記効果1と同じ効果を得ることができる。
【0080】
(4-4)効果4
本実施形態では、不燃塗料組成物を含む塗料中の高純度の精製ベントナイトの重量比率は、3.2重量%以上かつ7.5重量%以下である。このように、最適な量のベントナイトを不燃塗料組成物に含有させることで、上記効果1を確実に得ることができる。
【0081】
(4-5)効果5
本実施形態では、ベントナイト中のモンモリロナイトの含有率は80%以上である。
【0082】
本実施形態によると、高純度のモンモリロナイトを含有するベントナイトを使用することで、ベントナイト中の不純物の濃度が低減されるため、塗膜を均一に形成できる。
【0083】
加えて、ベントナイトは高純度のモンモリロナイトを含むため、ベントナイトが比較的少量でも上記効果1を得ることができる。
【0084】
(4-6)効果6
本実施形態では、不燃塗料組成物を含む塗料中のエマルジョン樹脂の重量比率は、13重量%以上かつ25重量%以下である。
【0085】
本実施形態によると、セルロース系ナノファイバーにより塗膜の強固性が向上するため、不燃塗料組成物中のエマルジョン樹脂の含有量を抑えても、塗膜の表面硬度や耐汚染性などの耐久性が損なわれることを抑制できる。また、不燃塗料組成物中のエマルジョン樹脂の含有量を低減させても、上記効果1と同じ効果を得ることができる。
【0086】
(5)その他の実施形態
上記実施形態の不燃性板材1は、シーラー層20を有していなくてもよい。必要に応じて適宜行えばよく、他に建築用基材10の表面を平滑面にする平滑処理ができれば、それを採用することもできる。また、建築用基材10の表面が元々平滑な面であれば、シーラー層20を形成することなく、その表面に直接上記実施形態の不燃塗料組成物を塗布して塗膜層30を形成してもよい。
【0087】
鉱物組成物として、ベントナイトの他、スメクタイト系の粘度化合物が用いられてもよい。また、鱗片状膨潤性無機化合物として、マイカが用いられてもよい。
【0088】
固形分比率として、不燃塗料組成物に含まれるセルロース系ナノファイバーの比率を1としたときに、鱗片状膨潤性無機化合物の比率は、7以上かつ14以下であり、かつ、エマルジョン樹脂の比率は10以上かつ25以下、好ましくは、鱗片状膨潤性無機化合物の比率は、10以上かつ14以下であり、かつ、エマルジョン樹脂の比率は10以上かつ20以下、より好ましくは、鱗片状膨潤性無機化合物の比率は、11以上かつ13以下、かつ、エマルジョン樹脂の比率は15以上かつ20以下としてもよい。このように不燃塗料組成物中の配合比を予め設定しておくことで、簡便に不燃塗料組成物を調製できる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明は、不燃性及び透湿性が向上した不燃塗料組成物を提供できるため、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0090】
1 不燃性板材
10 建築用基材
20 シーラー層
30 塗膜層
図1
図2
図3