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  • 特許-炭素繊維用サイジング剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】炭素繊維用サイジング剤
(51)【国際特許分類】
   D06M 15/55 20060101AFI20240131BHJP
   D06M 15/27 20060101ALI20240131BHJP
   D06M 13/152 20060101ALI20240131BHJP
   D06M 101/40 20060101ALN20240131BHJP
【FI】
D06M15/55
D06M15/27
D06M13/152
D06M101:40
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022134820
(22)【出願日】2022-08-26
(65)【公開番号】P2023033242
(43)【公開日】2023-03-09
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】110131956
(32)【優先日】2021-08-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】518305565
【氏名又は名称】臺灣塑膠工業股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110003214
【氏名又は名称】弁理士法人服部国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鍾 淨成
(72)【発明者】
【氏名】李 育昇
(72)【発明者】
【氏名】周 政均
(72)【発明者】
【氏名】林 盛勳
(72)【発明者】
【氏名】張 怡娟
(72)【発明者】
【氏名】周 建旭
(72)【発明者】
【氏名】▲黄▼ 龍田
【審査官】中西 聡
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/027126(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/027708(WO,A1)
【文献】特開2002-088655(JP,A)
【文献】特開2006-124877(JP,A)
【文献】特開平10-077350(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第03832010(EP,A1)
【文献】特開2009-074229(JP,A)
【文献】特開2005-146431(JP,A)
【文献】特開2013-087396(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイジング剤の総重量100重量部に対して、
2~30重量部の少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)と、
2~30重量部の少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)と、
少なくとも1種のアクリレート化合物を有する樹脂主剤(B)の量は、界面活性剤(C)の量と同じである、0.5~15重量部の界面活性剤(C)と、
0.0~0.5重量部のヒンダードフェノール系試薬(D)と、
残部の溶剤と、を含み、
前記サイジング剤の粒径が0.01~0.5μmである炭素繊維用サイジング剤。
【請求項2】
前記少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを含む請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項3】
前記少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)は、10~25重量部を占める請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項4】
前記少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)は、分子内にオキシアルキレン基を有するアクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有するメタクリレート、分子内にオキシアルキル基を有するアクリレート、分子内にオキシアルキル基を有するメタクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有しないアクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有しないメタクリレート、分子内にオキシアルキル基を有しないアクリレート、分子内にオキシアルキル基を有しないメタクリレート、又はそれらの組み合わせを含む請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項5】
前記少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)は、10~25重量部を占める請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項6】
前記界面活性剤(C)は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又はそれらの組み合わせを含む請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項7】
前記界面活性剤(C)は、5~12.5重量部を占める請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項8】
前記ヒンダードフェノール系試薬(D)は、0.05~0.1重量部を占める請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤。
【請求項9】
サイジング率が0.1~5重量%である請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤を塗布した炭素繊維。
【請求項10】
14日間の経時変化が検出された後、硬度増加が100%未満である請求項1に記載の炭素繊維用サイジング剤を塗布した炭素繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、炭素繊維用サイジング剤に関し、特に、炭素繊維束の硬化時間を長くすることができるサイジング剤に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は、重要な補強材料であり、様々な分野に広く応用されている。炭素繊維は、比強度と比弾性率が高く、耐高温、耐化学、摩擦係数が小さく、及び良好な導電性等のメリットを有するため、材料特性の補強に用いられることができる。炭素繊維複合材料は、例えば、航空、宇宙、スポーツ用品、土木建築、電子製品、医療機器等の、様々な分野に応用されることができる。
【0003】
しかしながら、炭素繊維の加工性は、炭素繊維の伸縮率が低い且つ脆いため、影響を受けることがある。炭素繊維の加工過程中、機械的摩擦により毛羽や糸切れが発生し、炭素繊維の強度が低下することがある。また、炭素繊維の硬度は加工過程において機械的摩擦による毛羽や糸切れの発生を影響する要因の一つである。炭素繊維は、硬度が高いほど、加工過程において毛羽や糸切れが生じやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記に鑑みて、現在、上記問題を克服するように、炭素繊維の加工性を増加する方法の開発が急務になっている。
本開示は、上述に鑑みてなされたものであり、その目的は、炭素繊維の加工性を増加する炭素繊維用サイジング剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示の炭素繊維用サイジング剤は、サイジング剤の総重量100重量部に対して、2~30重量部の少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)と、2~30重量部の少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)と、少なくとも1種のアクリレート化合物を有する樹脂主剤(B)の量は、界面活性剤(C)の量と同じである、0.5~15重量部の界面活性剤(C)と、0.0~0.5重量部のヒンダードフェノール系試薬(D)と、残部の溶剤と、を含み、サイジング剤の粒径が0.01~0.5μmである。
【0006】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを含む。
【0007】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)は、10~25重量部を占める。
【0008】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)は、分子内にオキシアルキレン基を有するアクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有するメタクリレート、分子内にオキシアルキル基を有するアクリレート、分子内にオキシアルキル基を有するメタクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有しないアクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有しないメタクリレート、分子内にオキシアルキル基を有しないアクリレート、分子内にオキシアルキル基を有しないメタクリレート、又はそれらの組み合わせを含む。
【0009】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)は、10~25重量部を占める。
【0010】
幾つかの実施形態において、界面活性剤(C)は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又はそれらの組み合わせを含む。
【0011】
幾つかの実施形態において、界面活性剤(C)は、5~12.5重量部を占める。
【0012】
幾つかの実施形態において、ヒンダードフェノール系試薬(D)は、0.05~0.1重量部を占める。
【0013】
本開示の炭素繊維用サイジング剤を塗布した炭素繊維は、サイジング率が0.1~5重量%である。
【0014】
本開示の炭素繊維用サイジング剤を塗布した炭素繊維は、14日間の経時変化が検出された後、硬度増加が100%未満である。
【0015】
以下、実施形態で上記の説明を詳細に説明し、且つ本開示の技術案に対する更なる解釈を図る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
添付図面に併せて参照すると、本開示の詳細説明を十分に理解することができる。なお、業界の標準仕様によれば、種々の特徴は、比例どおりに描かれておらず、図示を目的とするだけである。実際には、説明を明確にするために、種々の特徴のサイズを任意に増加又は減少してよい。
図1】本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の毛羽を検出する装置を示す図である。
図2A】本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の硬度を検出する装置を示す図である。
図2B】本開示の幾つかの実施形態による炭素繊維の硬度を検出する装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書において、「1つの数値~別の数値」で表される範囲は、明細書においてその範囲内の全ての数値を一々列挙することを避けるための概略的な表現形態である。従って、ある特定の数値範囲の記載は、その数値範囲内の任意の数値、及びその数値範囲内の任意の数値によって定義される小さな数値範囲を包含し、その任意の数値及びその小さな数値範囲が明細書において明示的に記載されているのと同様である。
【0018】
本明細書で使用される「約」、「類似」、「本質的に」又は「実質的に」は、論じられる測定及び測定に関する誤差の特定の数(即ち、測定系の制約)を考慮すると、前記値及び当業者が確定する特定値の許容できる偏差範囲内の平均値を含む。例えば、「約」は、前記値の1つ又は複数の標準偏差内、又は±30%、±20%、±15%、±10%、±5%内にあることを表すことができる。また、本明細書において使用される「約」、「類似」、「本質的に」又は「実質的に」は、1つの標準偏差で全ての性質に適用せずに、計測性質、塗工性質又は他の性質に応じて、比較的許容できる偏差範囲又は標準偏差を選択してよい。
【0019】
炭素繊維にその本来の良好な性能を発揮させ、且つ炭素繊維の加工性を低下させることを回避するために、サイジング剤(sizing agent)を炭素繊維(carbon fiber)に塗布することで、炭素繊維の加工過程中の機械的摩擦による毛羽や糸切れの発生を低減して、良好な加工性を有するようにすることができる。サイジング剤の処理により、炭素繊維の加工性、作業性及びマトリックス樹脂との結合力を向上させ、炭素繊維複合材料に優れた機械的特性を持たせることができる。
【0020】
サイジング剤は、主に、下記の機能を改良することができる。(1)集束し、炭素繊維をロール状に巻き取ることができ、保存・搬送しやすく、複合材料の作製加工時に、炭素繊維を整列して操作に供することができる。(2)炭素繊維を保護し、炭素繊維の加工時に発生する機械的摩擦による毛羽や糸切れの状況を低減する。(3)炭素繊維と樹脂との間の界面カップリング剤として、炭素繊維と樹脂の含浸不良の問題を改善する。
【0021】
一般に、サイジング剤の主成分としては、エポキシ樹脂を含み、これはエポキシ樹脂自体が良好な成膜性を有し、繊維の表面に強固な薄膜を形成し、炭素繊維を保護する作用を達成することができ、且つ複数のマトリックス樹脂がエポキシ樹脂系であるからである。
【0022】
エポキシ樹脂は、反応性を有するエポキシ官能基を有するため、適切な触媒作用下で、異なる種類の硬化剤(例えば、アミン類又は酸無水物等の官能基)と互いに反応して結合し、三次元的な網目構造となることができる。エポキシ樹脂は、優れた熱硬化性材料である。幾つかの実施形態において、ビスフェノールA型エポキシ樹脂をサイジング剤の主成分として利用することができる。
【0023】
従来のサイジング剤組成物は、エポキシ樹脂、アクリレート(及び/又はメタクリレート)、並びにビスフェノールA型骨格及びポリオキシエチレン鎖を有するポリエステル樹脂を含む。しかしながら、そのエステル系構造は、空気中の水分を吸着しやすく、極性-極性(dipole-dipole)結合スタック配列を有し、炭素繊維束の間に接着性を発生させる。また、アクリル基の二重結合構造は、ラジカル反応により架橋する可能性もあり、これにより、炭素繊維の硬化を加速し、炭素繊維が複合材料の加工時に糸を伸ばしにくく、又は機械的摩擦により毛羽が発生しやすい等の問題を引き起こすため、炭素繊維の加工性が低下する。
【0024】
炭素繊維の硬化は、エポキシ樹脂の開環及びビニルエステル樹脂の二重結合構造が切断され、ラジカル重合反応が発生するためであることが判明される。例えば、二重結合は、太陽光及び酸素を受けてラジカル反応が発生する。また、反応後には、分子間に網目状の立体架橋が生じて固まり(硬化する)、その後の機械加工性が低下することになる。開始されたラジカル反応は、連鎖反応であり、常に循環反応しているので、ラジカル反応の発生を遅らせ(又は停止させ)ることで、炭素繊維の硬化を遅らせることができる。
【0025】
炭素繊維の硬化に関して、エポキシシステムは、エポキシ濃度([epoxy])及び開環速度のみによって影響されるため、速度が二重結合ラジカル反応より遥かに遅いことが判明される。そのため、二重結合で硬化要因を決定すると、反応速度=K*[VE]*[酸素ラジカル]、ここでKはアレニウス反応速度公式K=A*exp(-E/RT)であり、VEは樹脂濃度であり、樹脂濃度と開放系酸素ラジカル濃度は何れも定数であり、アクリル酸二重結合の活性化エネルギーは124KJ/molであり、25℃で保存し、10℃上昇するごとに、反応速度が5倍上昇するため、テスト温度Ttと加速日数は5^[(Tt-25)/10]である。
【0026】
上記のサイジングされた炭素繊維は、吸湿しやすく粘着性及び経時硬化が生じるという問題があることに鑑み、更に炭素繊維の結合力及び機械加工性の低下を招く。そこで、本開示は、上記課題を解決するために、炭素繊維用サイジング剤を提供する。本開示のサイジング剤は、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の結合力を強化し、炭素繊維が加工過程において毛羽や糸切れが発生することを防止し、経時硬化を抑制し、及び長期保存の安定性を増加させることができる。
【0027】
本開示のサイジング剤組成物は、ヒンダードフェノール系試薬(D)を含む。ヒンダードフェノール系試薬(D)の添加により、水素ラジカル(hydrogen radical)を提供し、高分子硬化過程における酸素ラジカルによる鎖反応を遮断する。本開示のサイジング剤を形成する過程において、ヒンダードフェノール系試薬(D)は比較的安定した芳香酸素ラジカルを生成するが、芳香酸素ラジカルは活性ラジカルをさらに捕捉する能力を有するため、ラジカル反応を停止し、炭素繊維の硬化を遅らせることを達成し得る。
【0028】
ラジカルを捕捉する阻害剤(例えば、ヒンダードフェノール系試薬(D))を添加すると、ラジカル反応の発生を遅らせることができる。ヒンダードフェノール系は、ラジカル反応抑制剤であり、下記の式(I)の反応式を参照すると、その作用原理として、ヒンダードフェノール系のベンゼン環上の水酸基(-OH)は、両側に空間障害の大きいアルキル基が置換しているため、その水素(H)原子が分子から脱落しやすく、更にラジカルと結合し、ラジカル連鎖反応を停止し、硬化を遅らせる効果を奏する。
【化1】
【0029】
本開示は、少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)と、少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)と、界面活性剤(C)と、ヒンダードフェノール系試薬(D)と、残部の溶剤と、を含み、サイジング剤の粒径が0.01~0.5μmである炭素繊維用サイジング剤を提供する。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)の含有量は、界面活性剤(C)の含有量と同じである。
【0030】
本開示のサイジング剤の少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)は、ビスフェノールA型エポキシ化合物、ビスフェノールF型エポキシ化合物、ビスフェノールS型エポキシ化合物、フェノールエポキシ樹脂、又はそれらの組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)のエポキシ当量は、約100g/eqと約1500g/eqの間、例えば、約130g/eqと約1000g/eqの間、或いは、約160g/eqと約900g/eqの間である。エポキシ当量が約100g/eq未満であると、繊維束(例えば、炭素繊維束)の経時的な硬化度合いが強化される。エポキシ当量が約1500g/eqより大きくなると、マトリックス樹脂との接合性が低下する。
【0031】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)の含有量は、サイジング剤の総重量100重量部に対して、約2~約30重量部である。他の実施形態において、少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)の含有量は、約10~約25重量部であり、例えば12.5、15、17.5、20、22.5重量部である。少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)の含有量が2重量部未満であると、繊維束がほぐれて柔らかくなる。少なくとも1つのエポキシ基化合物からなる樹脂主剤(A)の含有量が30重量部より大きくなると、マトリックス樹脂との接合性に影響を及ぼすおそれがある。
【0032】
ビスフェノールA型エポキシ化合物としては、市販品であってよく、例えば、南亜プラスチック工業社製のNPELTM 127、NPELTM 128、NPELTM 134、NPELTM 901、NPELTM 902、NPELTM 904;HEXION社製のEPONTM Resin 828、EPONTM Resin 830、EPONTM Resin 834、EPONTM Resin 1001F;長春人造樹脂廠製のBETM 114、BETM 186、BETM 188;アデカ株式会社製のADEKA Resin EP-4100、ADEKA Resin EP-4300、ADEKA Resin EP-4700等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0033】
ビスフェノールF型エポキシ化合物としては、市販品であってよく、例えば、南亜プラスチック工業社製のNPELTM 170;HEXION社製のEPONTM Resin 869;三菱化学社製のjERTM 806、jERTM 807;長春人造樹脂廠製のBETM 170、BETM 235、BETM 283等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0034】
ビスフェノールS型エポキシ化合物としては、市販品であってよく、例えば、コンプトン社製の185Sや300S等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0035】
フェノールエポキシ樹脂としては、市販品であってよく、例えば、南亜プラスチック工業社製のNPELTM 630、NPELTM 638、NPELTM 640;南亜プラスチック工業社製のNPCNTM 701、NPCNTM 702、NPCNTM 703、NPCNTM 704、NPCNTM 704L;明和化成株式会社製のH、HF-シリーズ;長春人造樹脂廠製のPNETM 171、PNETM 172、PNETM 174、PNETM 175、PNETM 176、PNETM 177等のエポキシ化合物が挙げられる。
【0036】
本開示のサイジング剤の少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)は、分子内にオキシアルキレン基を有するアクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有するメタクリレート、分子内にオキシアルキル基を有するアクリレート、分子内にオキシアルキル基を有するメタクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有しないアクリレート、分子内にオキシアルキレン基を有しないメタクリレート、分子内にオキシアルキル基を有しないアクリレート、分子内にオキシアルキル基を有しないメタクリレート、又はそれらの組み合わせを含む。
【0037】
幾つかの実施形態において、少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)の含有量は、サイジング剤の総重量100重量部に対して、約2~約30重量部である。他の実施形態において、少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)の含有量は、約10~約25重量部であり、例えば12.5、15、17.5、20、22.5重量部である。少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)の含有量が2重量部未満であると、マトリックス樹脂との接合性に影響を及ぼすおそれがある。少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)の含有量が30重量部より大きくなると、繊維束は、集束しにくく又は柔らかすぎる。
【0038】
少なくとも1つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)としては、市販品であってよく、例えば、国精化学社製のQualiCureTM GM62S70、QualiCureTM GM62V20、QualiCureTM GM62V40、QualiCureTM GM62V60等のアクリレート化合物が挙げられる。
【0039】
本開示のサイジング剤の界面活性剤(C)は、非イオン界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、又はそれらの組み合わせを含む。幾つかの実施形態において、ノニオン界面活性剤は、アニオン界面活性剤又はカチオン界面活性剤の何れかを併用することができる。
【0040】
幾つかの実施形態において、界面活性剤(C)の含有量は、サイジング剤の総重量100重量部に対して、約0.5~約15重量部である。また、他の実施形態において、界面活性剤(C)の含有量は、約5~約12.5重量部であり、例えば6.5、8、9.5、11重量部である。界面活性剤(C)の含有量が0.5重量部未満であると、乳化の効果がない。界面活性剤(C)の含有量が15重量部より大きくなると、繊維束の加工性が低下する。
【0041】
ノニオン界面活性剤は、例えば、脂肪族ノニオン界面活性剤又は芳香族ノニオン界面活性剤であってもよい。脂肪族非イオン界面活性剤の種類は、例えば、高級アルコールエチレンオキシド添加物、ポリオールポリオキシエチレンエーテル、炭素16-18のアルコールポリオキシエチレンエーテル、アルキルポリオキシエチレンエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル等であってよい。芳香族非イオン界面活性剤は、例えば、ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールノニルフェニルエーテル、ポリエチレングリコールビスフェノールA誘導体等であってよい。
【0042】
アニオン界面活性剤は、例えば、硫酸エステル類、スルホン酸塩類又はリン酸塩類等であってよい。硫酸エステル類としては、例えば、高級アルコール硫酸エステル塩、高級アルキルポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩、多環フェニルエーテルポリエチレングリコールエーテル硫酸エステル塩等が挙げられる。スルホン酸塩類としては、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸塩、多環フェニルエーテルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等が挙げられる。リン酸塩類としては、例えば、ポリエチレングリコールノニルフェニルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸エステルトリエタノールアミン塩、ポリエチレングリコールスチレン化アリールエーテルリン酸塩等が挙げられる。
【0043】
カチオン界面活性剤は、例えば、アルキルジメチルベンゼン四級アンモニウム塩、アルキルトリメチルアンモニウム四級アンモニウム塩、ジアルキルジメチル四級アンモニウム塩、エステル四級アンモニウム塩、イミダゾリン四級アンモニウム塩等の四級アンモニウム塩類あってよい。
【0044】
本開示のサイジング剤のヒンダードフェノール系試薬(D)は、式(II)(式中、Rは長炭素鎖エステル類である)で表される構造式を有してよい。
【化2】

ヒンダードフェノール系試薬(D)としては、市販品であってよく、例えば、Everlight Chemical製のEveraox(商標)101;AO-1135又はXP-690が挙げられる。具体的には、Everaox(商標)101は、式(II-1)で表される構造式(nが7~9である)を有する。AO-1135は、式(II-2)で表される構造式を有する。
【化3】

【化4】
【0045】
詳細には、ヒンダードフェノール類のベンゼン環上の水酸基(-OH)は、両側に立体障害の大きいアルキル基が置換しているため、その水素(H)原子が分子から脱落しやすく、更にラジカルと結合してラジカル連鎖反応を停止させ、硬化を遅らせる効果を奏する。
【0046】
幾つかの実施形態において、ヒンダードフェノール系試薬(D)の含有量は、サイジング剤の総重量100重量部に対して、約0.01~約0.5重量部であり、例えば、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45重量部である。また、他の実施形態において、ヒンダードフェノール系試薬(D)の含有量は、約0.05~約0.1重量部であり、例えば、0.06、0.07、0.08、0.09重量部である。ヒンダードフェノール系試薬(D)の含有量が0.01重量部未満であると、ラジカル連鎖反応を停止させにくくなるため、炭素繊維の硬化を遅らせる効果がない。ヒンダードフェノール系試薬(D)の含有量が0.5重量部より大きくなると、炭素繊維の硬化を遅らせることに、有益の効果がない。
【0047】
本開示のサイジング剤の溶媒は、脱イオン水であってよい。幾つかの実施形態において、サイジング剤の溶媒の含有量は、約25~約95.5重量部であり、例えば、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95重量部である。幾つかの実施形態において、本開示のサイジング剤は、水中に分散する分散液の形で炭素繊維に塗布され、如何なる有機溶剤も含まない。
【0048】
本開示のサイジング剤を製造する装置は、機械的せん断力によってエマルジョン型が均一に分散する炭素繊維用サイジング剤を製造するものである。幾つかの実施形態において、装置は、パドル型撹拌羽根であってよく、羽根の形状が溶解型、三葉型又は四葉型であってよい。また、他の実施形態において、装置には、アンカー式撹拌羽根が配合されている。幾つかの実施形態において、超音波破砕ホモジナイザー、高速ホモジナイザー、高速乳化機等の装置によって、炭素繊維用のサイジング剤を製造してよい。
【0049】
本開示のサイジング剤は、水中に自己乳化及び/又は乳化分散した水溶液であり、その平均粒径が1μm未満であり、例えば、約0.01~約0.5μmであり、例えば、0.05、0.1、0.15、0.2、0.25、0.3、0.35、0.4、0.45μmである。平均粒径が1μmより大きくなると、炭素繊維にサイジング剤が均一に付着できず、且つ、粒子の自由エネルギーがブラウン運動をするのに不足で沈降するおそれがあるため、保存安定性に劣る。
【0050】
<サイジング剤の粒径分析>
【0051】
サイジング剤の平均粒径は、レーザー光散乱原理により測定される。レーザー光が粒子溶液に照射されると、溶液中の粒子がレーザー光を散乱させ、サイズによっては粒子のブラウン運動の程度が異なるため、レーザー光の散乱の程度も異なり、更に集合的なサイズとサイズ分布が演算される。本開示の幾つかの実施形態において、Brookhaven Nanobrook Omni機器によって、サイジング剤の平均粒径の測定を行う。
【0052】
<炭素繊維へのサイジング剤の塗布>
【0053】
本開示のサイジング剤を、含浸形態で炭素繊維の表面にサイジングする。サイジング剤を塗布していない炭素繊維TC35R-24K(台湾プラスチック工業製、TARIFIL、単繊維合計24000本、単繊維強度約4000MPa、単繊維モジュール240GPa)をサイジング剤の入った浸漬槽に浸漬し、更に約100~250℃で熱乾燥処理を行い、乾燥時間は約2~10分間である。100℃未満であると、水分が完全に蒸発できない。250℃より高くなると、サイジング剤が熱反応して変質する。熱乾燥方法については、熱風形態、熱ロール接触形態、赤外線等の加熱形態を適宜に採用するか、或いは前記2種又は3種を併用してロール状に巻き取ってよい。
【0054】
上記のエマルジョン型炭素繊維用サイジング剤は、炭素繊維複合材料において、炭素繊維とマトリックス樹脂とを接続する界面層として用いることができる。幾つかの実施形態において、サイジング剤の重量は、炭素繊維の重量に対して、約0.1~約5重量%であり、例えば、約0.5~約3重量%、例えば1、1.5、2、2.5重量%である。サイジング量が0.1重量%未満であると、サイジング剤が炭素繊維に良好な集束性、マトリックス樹脂との界面結合力及び耐摩耗性を与えることができない。サイジング量が5重量%を超えると、炭素繊維が広がりにくく、その後の複合材料の加工成形において糸を伸ばしにくい。
【0055】
<炭素繊維のサイジング率の評価>
【0056】
サイジング剤で処理された長さ1メートル(m)の炭素繊維束を取り、その重量W1を秤量した後、それを約400℃のオーブンに置いてサイジング剤を焼いて除去し、約40分間後に取り出し、約10分間温度が取り戻された後にその重量W2を秤量し、その炭素繊維のサイジング率は(W2-W1)/W1*100%である。幾つかの実施形態において、炭素繊維のサイジング率は、約0.1~約5重量%であり、例えば約0.5~約3重量%である。なお、本明細書の比較例と実施例1~実施例5のサイジング率は、1.0±0.2重量%に固定される。
【0057】
<サイジング剤の吸湿性の評価>
【0058】
サイジング剤で処理されていない長さ5センチ(cm)の炭素繊維束(繊維束1)を取り、その重量W3を秤量する。更に、サイジング剤で処理された炭素繊維束(繊維束2)を5センチ取り、その前重量W4を秤量する。繊維束1及び繊維束2を約70℃、湿度約85%RHの恒温恒湿環境槽に入れ、少なくとも35日経過後に、繊維束1の後重量W5及び繊維束2の後重量W6を秤量する。サイジング剤の吸湿率%=[(W6-W4)-(W5-W3)]/W4*100%である。幾つかの実施形態において、サイジング剤の吸湿率は、約0.05%未満であり、例えば、0.01、0.02、0.03、0.04%である。
【0059】
<炭素繊維の毛羽検出>
【0060】
炭素繊維の毛羽を検出する装置100の概略図である図1を参照する。サイジング剤で処理された長さ100メートルの炭素繊維束110を取り、張力600cNで、7本の金属ローラ120(伝動なし、特殊な表面処理なし)で摩擦し、且つ金属ローラ120の後方にスポンジパッド130を設け、炭素繊維束110の摩耗による毛羽を収集する。最後に、毛羽を約105℃の温度で約40分間乾燥し、毛羽を秤量する(単位:mg)。
【0061】
<炭素繊維の硬度検出>
【0062】
炭素繊維の硬度を検出する装置200の概略図である図2A及び図2Bを参照する。詳細には、図2Aは、炭素繊維束が付勢源210によって付勢される前の概略図であり、図2Bは、炭素繊維束が付勢源210によって付勢された後の概略図である。サイジング剤で処理された炭素繊維束110を隙間230を有するプラットフォーム220に敷き、付勢源210の付勢力により炭素繊維束110を折り曲げ、所定の深さまで押し下げる時に必要な力は、炭素繊維の硬度(単位:g)である。本開示の炭素繊維の硬度を検出する装置の隙間230は、約5ミリメートル(mm)である。
【0063】
<炭素繊維の経時変化の検出>
【0064】
炭素繊維束を約70℃、湿度約85%RHの恒温恒湿環境箱に入れて加速硬化させ、1日おき、3日おき、7日おき及び14日おきに、炭素繊維束を取り出して炭素繊維の毛羽検出及び炭素繊維の硬度検出を行う。
【0065】
<比較例のサイジング剤の調製>
【0066】
少なくとも一つのエポキシ化合物からなる樹脂主剤(A)、少なくとも一つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)及び界面活性剤(C)を、樹脂主剤(A)及び樹脂主剤(B)の融点より高い温度で、IKAミキサーで均一に混合した後、混合状態を界面活性剤(C)の曇点温度まで降温した後、回転数約5000~約10000のrpmで6時間かけて水を滴下し、均一に乳化分散した溶液、すなわち比較例のサイジング剤を得ることができる。比較例のサイジング剤の粒径(Dv50;nm)は、約0.01~約0.5μmである。樹脂主剤(A)と樹脂主剤(B)の融点温度は、約60℃~約95℃である。界面活性剤(C)の曇点温度は、約60℃~約70℃である。
【0067】
<実施例のサイジング剤の調製>
【0068】
少なくとも一つのエポキシ化合物からなる樹脂主剤(A)、少なくとも一つのアクリレート化合物からなる樹脂主剤(B)及び界面活性剤(C)を、樹脂主剤(A)及び樹脂主剤(B)の融点より高い温度で、IKA撹拌機で均一に混合した後、混合状態を界面活性剤(C)の曇点温度まで降温した後、回転数約5000~約10000rpmで6時間かけて水を滴下し、均一に乳化分散した溶液を得ることができ、最後にヒンダードフェノール系試薬(D)を加え、実施例(実施例1~実施例5)のサイジング剤を得ることができる。実施例のサイジング剤の粒径(Dv50;nm)は、約0.01~約0.5μmである。樹脂主剤(A)と樹脂主剤(B)の融点温度は、約60℃~約95℃である。界面活性剤(C)の曇点温度は、約60℃~約70℃である。
【0069】
なお、幾つかの代替実施形態において、ヒンダードフェノール系試薬(D)は、樹脂主剤(A)、樹脂主剤(B)及び界面活性剤(C)とともに混合した後、上記と同様にして、実施例のサイジング剤を形成してもよい。
【0070】
試験例:炭素繊維の硬度と炭素繊維の経時変化の評価
【0071】
下記の表1の組成物のレシピに従い、上記の比較例及び実施例のサイジング剤の調製を参考して、比較例のサイジング剤の及び実施例1~実施例5のサイジング剤を調製した。
【0072】
【表1】
【0073】
上記の表1に基づいたサイジング剤は、炭素繊維の硬度試験及び炭素繊維の経時変化試験を経て、試験結果が下記の表2に示す。表2から明らかなように、比較例に比べて、ヒンダードフェノール系試薬(D)を含むサイジング剤を炭素繊維に付与することで、炭素繊維の毛羽量を減少し、炭素繊維の硬度も改善した。
【0074】
例えば、経時日数7日目及び14日目で、実施例1~実施例5の毛羽量は、何れも比較例の毛羽量よりも少ない。詳細には、実施例1~実施例5の毛羽増加量は、比較例の毛羽増加量よりも小さい。また、経時日数試験においても、実施例1~実施例5の炭素繊維の硬度の変化量は、比較例の炭素繊維の硬度の変化量よりも小さい。
【0075】
詳細には、下記の表2を参照する。比較例では、経時日数0日目の炭素繊維の硬度が約13gであるのに対し、経時日数14日目の炭素繊維の硬度が約39gであり、その硬度が約200%増加した。実施例2~実施例5では、経時日数0日目の炭素繊維の硬度が約13gであるのに対し、経時日数14日目の炭素繊維の硬度が約26gであり、その硬度が約100%増加した。
【0076】
【表2】
【0077】
本開示のサイジング剤は、ヒンダードフェノール系試薬(D)を含有するため、本来サイジングされた炭素繊維の吸湿性及び接着性の問題を解決し、従って経時硬化の問題が抑制され、炭素繊維束の硬化時間を延長する効果を奏する。本開示のサイジング剤は、炭素繊維とマトリックス樹脂との間の結合力を強化し、炭素繊維が加工過程において毛羽や糸切れが発生することを防止し、経時硬化を抑制して、機械的加工性の低下を防止することができる。
【0078】
以上、本開示を上記実施形態で開示したが、実施形態は本開示を限定するものではなく、当業者であれば、本開示の精神と範囲から逸脱しない限り、様々な変更及び修正を行うことができ、従って、本開示の保護範囲は、特許請求の範囲によって定義されたものを基準とすべきである。
【符号の説明】
【0079】
100 炭素繊維の毛羽を検出する装置
110 炭素繊維束
120 金属ローラ
130 ポンジパッド
200 炭素繊維の硬度を検出する装置
210 付勢源
220 プラットフォーム
230 隙間
図1
図2A
図2B