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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】歩行者保護用エアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/36 20110101AFI20240131BHJP
【FI】
B60R21/36 320
B60R21/36 351
B60R21/36 352
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022546261
(86)(22)【出願日】2021-08-25
(86)【国際出願番号】 JP2021031141
(87)【国際公開番号】W WO2022050145
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2020146862
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100124110
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100120400
【弁理士】
【氏名又は名称】飛田 高介
(72)【発明者】
【氏名】原田 知明
【審査官】飯島 尚郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-208513(JP,A)
【文献】特開2001-334895(JP,A)
【文献】特開平07-156749(JP,A)
【文献】特開2003-276537(JP,A)
【文献】特開2006-219116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/00-21/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションと、該エアバッグクッションにガスを供給する複数のインフレータとを備えた歩行者保護用エアバッグ装置において、
前記エアバッグクッションは、
少なくとも前記ウインドシールドの下部に沿って膨張展開して該フロントフードを持ち上げる第1展開部と、
前記第1展開部とは前記ガスの流通が無いよう独立して設けられ、前記ウインドシールドの所定範囲および該ウインドシールドの車幅方向両脇の一対のAピラーに沿って膨張展開する第2展開部と、
を含み、
前記第2展開部は、前記第1展開部の少なくとも一部と重なるオーバラップ部を有し、
前記複数のインフレータは、
前記第1展開部に前記ガスを供給する第1インフレータと、
前記第2展開部に前記ガスを供給する第2インフレータと、
を含み、
前記第1展開部は、前記第2展開部の内部の前端近傍に配置されていて、
前記第1展開部は、前記一対のAピラーの一方側から他方側にまでわたって膨張展開し、
当該歩行者保護用エアバッグ装置はさらに、
前記車両の所定箇所に設置されて衝撃を検知するセンサと、
前記センサが検知した衝撃に応じて前記第1インフレータおよび前記第2インフレータの作動を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記センサが検知した衝撃が所定値未満であった場合、前記第1インフレータのみ作動させて前記第1展開部によって前記フロントフードを持ち上げ、
前記センサが検知した衝撃が所定値以上であった場合、前記第1インフレータと前記第2インフレータとを共に作動させて前記第1展開部によって前記フロントフードを持ち上げると共に前記第2展開部によって前記ウインドシールドの所定範囲および前記一対のAピラーを覆うことを特徴とする歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項2】
前記第1展開部は、前記第2展開部に内包された状態で設けられていることを特徴とする請求項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項3】
前記第1展開部は、前記第2展開部の外部表面上に接した状態で設けられていることを特徴とする請求項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項4】
前記第2展開部のオーバラップ部は、非膨張部で形成されていることを特徴とする請求項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項5】
前記第1展開部は、前記第2展開部よりも早く膨張展開が完了することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項6】
前記エアバッグクッションは、前記第1展開部に設けられて該第1展開部からガスを排出する1または複数のベントホールを有することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項7】
前記1または複数のベントホールは、前記第1展開部のうち前記第2展開部に隣接する箇所に設けられて該第1展開部から該第2展開部の内部にガスを放出するベントホールを含むことを特徴とする請求項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項8】
前記1または複数のベントホールは、前記第1展開部から外部にガスを放出するベントホールを含むことを特徴とする請求項またはに記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【請求項9】
前記1または複数のベントホールは、前記第1展開部の内圧が所定の値以上になると開放されることを特徴とする請求項からのいずれか1項に記載の歩行者保護用エアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを備えた歩行者保護用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、車内の乗員を拘束するものとは異なるエアバッグ装置として、車外の歩行者を保護する歩行者保護用エアバッグ装置が開発されている。主な歩行者保護用エアバッグ装置は、車両の前部等に設けたセンサが歩行者との接触を検知すると、ウインドシールド等の歩行者の身体が接触するおそれのある部位にエアバッグクッションが膨張展開する構成となっている。
【0003】
歩行者保護用エアバッグ装置は、車両のうち歩行者が接触する可能性のある範囲を保護エリアとして迅速に覆う必要がある。例えば、特許文献1の歩行者等の保護バッグ装置では、エアバッグ10をなるべく均等に展開させるために、2つのガス発生器30を採用し、それぞれのガス発生器30をガス案内部材20に挿し込んで設置することで、ガス案内部材20を介してガスがエアバッグ10の広い範囲に均等に供給されるようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2003-276537号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、歩行者保護用エアバッグ装置が保護する対象は、歩いている歩行者のみならず、自転車に乗っているサイクリストなども含まれる。サイクリストは早いスピードで自転車ごと車両に接触するため、サイクリスト用としては歩行者用のものよりも範囲が広く内圧の高いエアバッグクッションが必要になる。このように、現在の歩行者保護用エアバッグ装置には、サイクリストを含めた条件の異なる歩行者等をより効率よく保護できる構成が望まれている。
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような課題に鑑み、条件の異なる歩行者等をより効率よく保護することが可能歩行者保護用エアバッグ装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にかかる歩行者保護用エアバッグ装置の代表的な構成は、車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションと、エアバッグクッションにガスを供給する複数のインフレータとを備えた歩行者保護用エアバッグ装置において、エアバッグクッションは、少なくともウインドシールドの下部に沿って膨張展開する第1展開部と、第1展開部とはガスの流通が無いよう独立して設けられ、ウインドシールドの所定範囲およびウインドシールドの車幅方向両脇の一対のAピラーに沿って膨張展開する第2展開部と、を含み、第2展開部は、第1展開部の少なくとも一部と重なるオーバラップ部を有し、複数のインフレータは、第1展開部にガスを供給する第1インフレータと、第2展開部にガスを供給する第2インフレータと、を含むことを特徴とする。
【0008】
上記構成のエアバッグクッションは、第1展開部および第2展開部が互いに独立して膨張展開する。この構成であれば、第1展開部および第2展開部それぞれの内圧を高くすることができ、また、例えば第1展開部および第2展開部の膨張展開を別々に制御すること等も可能になる。したがって、上記構成であれば、条件の異なる歩行者等をより効率よく保護することが可能になる。
【0009】
上記の第1展開部は、第2展開部の内部の前端近傍に配置されていてもよい。これによって、例えば第1展開部の内圧を利用してフロントフードを早期に持ち上げ、続いて第2展開部を歩行者の接触しやすいエリアに早期に膨張展開させることが可能になる。
【0010】
上記の第1展開部は、一対のAピラーの一方側から他方側にまでわたって膨張展開してもよい。この構成の第1展開部によって、例えばフロントフードを早期に持ち上げたり、歩行者の接触しやすいエリアを早期に覆ったりすることが可能になる。
【0011】
上記の第1展開部は、第2展開部に内包された状態で設けられていてもよい。この構成によっても、第1展開部および第2展開部が互いに独立して膨張展開可能なエアバッグクッションを実現することが可能である。
【0012】
上記の第1展開部は、第2展開部の外部表面上に接した状態で設けられていてもよい。この構成によっても、第1展開部および第2展開部が互いに独立して膨張展開可能なエアバッグクッションを実現することが可能である。
【0013】
上記の第2展開部のオーバラップ部は、非膨張部で形成されていてもよい。この構成によっても、第1展開部および第2展開部が互いに独立して膨張展開可能なエアバッグクッションを実現することが可能である。
【0014】
上記の第1展開部は、第2展開部よりも早く膨張展開が完了してもよい。この構成の第1展開部によっても、例えばフロントフードを早期に持ち上げたり、歩行者の接触しやすいエリアを早期に覆ったりすることが可能になる。
【0015】
当該歩行者保護用エアバッグ装置はさらに、車両の所定箇所に設置されて衝撃を検知するセンサと、センサが検知した衝撃に応じて第1インフレータおよび第2インフレータの作動を制御する制御部と、を備え、制御部は、センサが検知した衝撃が所定値未満であった場合、第1インフレータのみ作動させてもよい。
【0016】
この構成によって、例えば衝撃が弱い場合は保護対象が歩行者であると判断して第1展開部のみ膨張展開して保護し、衝撃が強い場合は保護対象がサイクリストであると判断して第2展開部まで膨張展開して保護する等、より状況に応じて保護対象を保護することが可能になる。
【0017】
上記のエアバッグクッションは、第1展開部に設けられて第1展開部からガスを排出する1または複数のベントホールを有してもよい。この構成によれば、第1展開部の圧力が高まり過ぎないよう制御することが可能になる。
【0018】
上記の1または複数のベントホールは、第1展開部のうち第2展開部に隣接する箇所に設けられて第1展開部から第2展開部の内部にガスを放出するベントホールを含んでいてもよい。
【0019】
上記構成によれば、第1展開部の内圧が高くなったとき、第1展開部から余剰分のガスが第2展開部に供給されることで、第2展開部の膨張展開を早めることが可能になる。
【0020】
上記の1または複数のベントホールは、第1展開部から外部にガスを放出するベントホールを含んでもよい。この構成によっても、第1展開部の圧力が高まり過ぎないよう制御することが可能になる。
【0021】
上記の1または複数のベントホールは、第1展開部の内圧が所定の値以上になると開放されてもよい。例えば、ベントホールに所定のテザーをつなぎ、テザーを引っ張っているときはベントホールが開かないようにし、内圧が所定の値に達したときにテザーを切り離すことで、ベントホールを開かせることができる。この構成によれば、ベントホールからのガスの排出を防いで第1展開部を迅速に膨張させつつ、第1展開部の圧力が高まり過ぎないよう制御することが可能になる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、条件の異なる歩行者等をより効率よく保護することが可能な歩行者保護用エアバッグ装置を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の第1実施形態にかかる歩行者保護用エアバッグ装置の概要を例示した図である。
図2図1(a)の歩行者保護用エアバッグ装置を上方から拡大して例示した図である。
図3図2のエアバッグクッションのA-A断面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る歩行者保護用エアバッグ装置の概要を例示した図である。
図5図4のエアバッグクッションのB-B断面図である。
図6図2のエアバッグクッションの変形例を例示した図である。
図7図4(b)のエアバッグクッションの変形例を例示した図である。
図8図6(a)のベントホールの変形例を例示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値などは、発明の理解を容易とするための例示に過ぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0025】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態にかかる歩行者保護用エアバッグ装置100の概要を例示した図である。図1(a)は歩行者保護用エアバッグ装置100の作動前の車両を例示した図であり、図1(b)は歩行者保護用エアバッグ装置100の作動時の車両を例示した図である。これら図1その他の各図においては、車両前後方向をそれぞれ矢印F(Forward)、B(Back)、車幅方向の左右をそれぞれ矢印L(Left)、R(Right)、車両上下方向をそれぞれ矢印U(up)、D(down)で例示する。
【0026】
図1(a)に例示するように、歩行者保護用エアバッグ装置100は、車両102のフロントフード104の下側に設置されている。歩行者保護用エアバッグ装置100は、例えばフロントバンパ106付近の内部など、歩行者の脚部等が接触しやすい箇所に衝撃を検知するセンサを備えている。センサが歩行者との接触を検知すると、制御部を介してガス発生装置であるインフレータ(図2の第1インフレータ112a、第2インフレータ112b)に稼動信号が送信され、図1(b)のようにエアバッグクッション114がフロントフード104の下方からウインドシールド108に向かって膨張展開する仕組みとなっている。
【0027】
図1(a)に例示するように、歩行者保護用エアバッグ装置100は、エアバッグクッション114を収容するハウジング116を備えている。ハウジング116は、主に樹脂で形成された長尺な箱状の容器であり、エアバッグクッション114(図2参照)やインフレータ(第1インフレータ112a、第2インフレータ112b)等を収納する。ハウジング116は、その長手方向を車幅方向に向けて、専用のブラケット等を介してフロントフード104の下面に取り付けられる。
【0028】
図1(b)に例示するように、本実施形態におけるエアバッグクッション114は、ウインドシールド108に沿って膨張展開し、このウインドシールド108に接触しようとする歩行者を受け止める。加えて、エアバッグクッション114はフロントフード104を持ち上げてわずかに浮かせる。この動作には、フロントフード104に接触する歩行者に与える衝撃を和らげる効果がある。
【0029】
図2は、図1(a)の歩行者保護用エアバッグ装置を上方から拡大して例示した図である。エアバッグクッション114は袋状であって、その表面を構成する複数の基布を重ねて縫製または接着することや、OPW(One-Piece Woven)を用いての紡織などによって形成されている。
【0030】
本実施形態では、第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bとして、複数のインフレータを設けている。これら第1インフレータ112a等は、エアバッグクッション114の前端側に車幅方向に沿って配置されている。第1インフレータ112a等は、ハウジング116の内部にスタッドボルト(図示省略)を使用して固定されていて、所定のセンサから送られる衝撃の検知信号に起因して作動し、エアバッグクッション114にガスを供給する。エアバッグクッション114は、第1インフレータ112a等からのガスによって膨張を始め、その膨張圧でハウジング116を開裂等してウインドシールド108に向かって膨張展開する。
【0031】
第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bは、本実施例ではシリンダ型(円筒型)のものを採用している。現在普及しているインフレータには、ガス発生剤が充填されていてこれを燃焼させてガスを発生させるタイプや、圧縮ガスが充填されていて熱を発生させることなくガスを供給するタイプ、または燃焼ガスと圧縮ガスとを両方利用するハイブリッドタイプのものなどがある。第1インフレータ112a、112bとしては、いずれのタイプのものも利用可能である。
【0032】
本実施形態では、エアバッグクッション114のうちガスが流入して膨張する膨張領域は、第1展開部118と、第2展開部120に分かれている。第2展開部120は当該エアバッグクッション114の外郭を形成し、第1展開部118は第2展開部120の内部で膨らんだ状態になっている。すなわち、当該エアバッグクッション114は、第2展開部120が第1展開部118を内包した二重構造になっている。
【0033】
第1展開部118は、第1インフレータ112aからガスを受給し、ウインドシールド108の下部を車幅方向の左右のAピラー110aからAピラー110bにわたるまで覆うよう膨張展開し、歩行者の身体を広く受け止める。
【0034】
第2展開部120は、第1展開部118とはガスの流通が無いよう、独立した構成となっている。第2展開部120は、第2インフレータ112bからガスを受給し、第1展開部118を内包した状態でウインドシールド108の所定範囲およびウインドシールド108の車幅方向両脇の一対のAピラー110a、110bに沿って膨張展開する。
【0035】
第2展開部120は、第1展開部118を内包してウインドシールド108に沿って膨張展開する主膨張領域122と、主膨張領域122の車幅方向の両端側からAピラー110a、110bに沿って突出して膨張する突出膨張領域124a、124bとを含んでいる。主膨張領域122は、内部の第1展開部118と共に、歩行者の身体を広く受け止める。突出膨張領域124a、124bは、歩行者の頭部などが剛性の高いAピラー110a、110bに接触することを防ぐ。
【0036】
図3は、図2のエアバッグクッション114のA-A断面図である。上述したように、本実施形態のエアバッグクッション114は、第1展開部118が第2展開部120に内包された二重構造になっている。第1展開部118と第2展開部120は、第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bを別々に使用して互いに独立して膨張するため、内圧をより高く保持することが可能になっている。
【0037】
第1展開部118は、第2展開部120の内部の前端近傍に配置されている。また、上述したように、第1展開部118は、Aピラー110aからAピラー110bにまでわたって膨張展開する形状になっている。これらによって、エアバッグクッション114は、例えば第1展開部118の内圧を利用してフロントフード104を早期に持ち上げ、続いて第2展開部120を歩行者の接触しやすいエリアに早期に膨張展開させたりすることが可能になる。
【0038】
また、第1展開部118は、第2展開部120よりも容量が小さいこと等によって、第2展開部120よりも早く膨張展開が完了する構成となっている。この構成によっても、第1展開部118は、フロントフード104を早期に持ち上げたり、歩行者の接触しやすいエリアを早期に覆ったりすることが可能になっている。
【0039】
第2展開部120は、第1展開部118の少なくとも一部と重なるオーバラップ部130を有している。本実施例では、オーバラップ部130は、第1展開部118の下方に形成されていて、第1展開部118との間に空間が保持されてガスが流入可能な領域になっているが、空間が無く第1展開部118と第2展開部120のパネルとか接触した領域になっていることもある。
【0040】
再び図2を参照する。当該歩行者保護用エアバッグ装置100では、センサ126a、126bおよび制御部128を利用して、第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bの作動を制御することが可能になっている。例えば、制御部128は、センサ126a、126bが検知した衝撃が所定値未満であった場合、第1インフレータ112aのみ作動させることができる。
【0041】
上記の制御によって、制御部128は、例えば衝撃が弱い場合は保護対象が歩行者であり、車両102もさほど速度が出ていない状況であると判断することができる。この場合、歩行者がウインドシールド108に衝突するおそれは少ない。そのため、制御部128は、第1展開部118のみ膨張展開させてフロントフード104を持ち上げることで、歩行者がフロントフード104に接触したときの衝撃緩和のみ行うことができる。
【0042】
センサ126a、126bが検知した衝撃が所定値以上の強い衝撃であった場合、制御部128は、保護対象がサイクリストであり、車両102も速度が出ている状況であると判断することができる。この場合、サイクリスト等がウインドシールド108に衝突するおそれがある。そのため、制御部128は、第1展開部118だけでなく第2展開部120まで膨張展開させて、サイクリスト等をより十全に保護することができる。このとき、仮に自転車の衝突によって第2展開部120が破損するようなことがあっても、第1展開部118が独立して存在するため、サイクリストに対する保護性能を保持することができる。このように、当該歩行者保護用エアバッグ装置100では、制御部128を利用することで、より状況に応じて保護対象を保護することが可能になっている。
【0043】
以上のように、本実施形態のエアバッグクッション114は、第1展開部118および第2展開部120が互いに独立して膨張展開する。そのため、例えば第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bを選択的に作動させることで、第1展開部118および第2展開部120の膨張展開を別々に制御することができ、条件の異なる歩行者等をより状況に応じて効率よく保護することができる。
【0044】
(第2実施形態)
以下、本発明の第2実施形態に係る上述した各構成要素の変形例について説明する。図4は、本発明の第2実施形態に係る歩行者保護用エアバッグ装置200の概要を例示した図である。図4以降では、既に説明した構成要素と同じものには同じ符号を付していて、これによって既出の構成要素については説明を省略する。また、以下の説明において、既に説明した構成要素と同じ名称のものについては、例え異なる符号を付していても、特に明記しない場合は同じ機能を有しているものとする。
【0045】
図4(a)は、歩行者保護用エアバッグ装置200を上方から例示した図である。当該歩行者保護用エアバッグ装置200においても、エアバッグクッション202のうちガスが流入して膨張する膨張領域が、第1展開部204と、第2展開部206に分かれている。しかしながら、エアバッグクッションは、第1展開部204と第2展開部206とが互いに隣接して設けられている点で、図2のエアバッグクッション114と構成が異なっている。
【0046】
第1展開部204は、第1インフレータ112aからガスを受給し、ウインドシールド108の下部をAピラー110aからAピラー110bにわたるまで車幅方向に覆うよう膨張展開し、歩行者の身体を広く受け止める。
【0047】
第2展開部206は、第1展開部204とはガスの流通が無いよう、独立して設けられている。第2展開部206は、第2インフレータ112bからガスを受給し、第1展開部204に隣接しつつ、第1展開部204とは独立してウインドシールド108の所定範囲およびウインドシールド108の車幅方向両脇の一対のAピラー110a、110bに沿って膨張展開する。第2展開部206は、第1展開部204の周囲に接続した状態で膨張展開する接続領域208と、接続領域208の車幅方向の両端側からAピラー110a、110bに沿って突出して膨張する突出膨張領域210a、210bとを含んでいる。
【0048】
図4(b)は、図4(a)のエアバッグクッション202のB-B断面図である。本実施形態のエアバッグクッション202は、第1展開部204は、第2展開部206の外表面上に接した状態で、第2展開部206とは独立して膨張展開する。第1展開部204は第2展開部206の車両前側に配置されていて、第2展開部206は第1展開部204の車両後側でAピラー110a、110bにまでわたって膨張展開する。
【0049】
第2展開部206は、第1展開部204の少なくとも一部と重なるオーバラップ部212を有している。本実施例では、オーバラップ部212は、第1展開部204の下方で膨張展開する領域として設けられている。
【0050】
第1展開部204は、第2展開部206よりも車両前側に配置されていることに加え、第2展開部206よりも容量が小さく設定されていて、第2展開部206よりも早く膨張展開が完了する。これらの構成によって、第1展開部204は、フロントフード104を早期に持ち上げたり、歩行者の接触しやすいエリアを早期に覆ったりすることが可能になっている。
【0051】
再び図4(a)を参照する。歩行者保護用エアバッグ装置200においても、センサ126a、126bおよび制御部128を利用して、第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bの作動を制御することが可能になっている。歩行者保護用エアバッグ装置200もまた、制御部128等を利用することで、例えば衝撃が弱い場合は第1展開部204のみ膨張展開させてフロントフード104を持ち上げることのみ行い、衝撃が強い場合は第2展開部206まで膨張展開してサイクリスト等を保護するなど、より状況に応じて保護対象を保護することが可能になっている。
【0052】
以上のように、本実施形態のエアバッグクッション202においても、第1展開部204および第2展開部206が互いに独立して膨張展開する。そのため、例えば第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112bを選択的に作動させることで、第1展開部204および第2展開部206の膨張展開を別々に制御することができ、条件の異なる歩行者等をより効率よく保護することができる。
【0053】
図5は、図4(b)のエアバッグクッション202の変形例(エアバッグクッション220)を例示した図である。当該エアバッグクッション220では、第2展開部222のうち、第1展開部204の少なくとも一部と重なるオーバラップ部224が、非膨張部として形成されている点で、上記エアバッグクッション202と異なっている。この構成の場合、第2展開部222内のガスは、インフレータ112bから第1展開部204を迂回するようにして突出膨張領域210a、210b(図4(a)参照)へと流れる。
【0054】
当該エアバッグクッション220においても、第1展開部204および第2展開部222が互いに独立して膨張展開する。そのため、例えば第1インフレータ112aおよび第2インフレータ112b(図4(a)参照)を選択的に作動させることで、第1展開部204および第2展開部222の膨張展開を別々に制御することができ、条件の異なる歩行者等をより効率よく保護することができる。
【0055】
図6は、図2のエアバッグクッション114の変形例(エアバッグクッション240)を例示した図である。図6(a)は、図2に対応してエアバッグクッション240を例示した図である。エアバッグクッション240は、2つのベントホール242a、242bを備えている点で、図2のエアバッグクッション114と構成が異なっている。
【0056】
ベントホール242a、242bは、第1展開部118のうち、第2展開部に隣接する箇所に設けられていて、第1展開部118から第2展開部120の内部にガスを放出する構成になっている。
【0057】
図6(b)は、図6(a)のエアバッグクッション240のC-C断面図である。ベントホール242aは、例えば第1展開部118のうち、第2展開部120の突出膨張領域124aにガスが供給できる箇所に設けることができる。ベントホール124aを設けることによって、第1展開部118の内圧が高くなったとき、第1展開部118から余剰分のガスが第2展開部120のうち特に突出膨張領域124aに向かって供給される。この構成によって、第1展開部118の圧力が高まり過ぎないよう制御すると共に、第2展開部120の膨張展開を早めることが可能になる。
【0058】
図7は、図4(b)のエアバッグクッション114の変形例(エアバッグクッション260)を例示した図である。エアバッグクッション260は、第1展開部204のうち、外部に面する箇所にベントホール262を備えている。ベントホール262は、第1展開部204からガスを外部に放出することができ、第1展開部204の圧力が高まり過ぎないよう制御することができる。
【0059】
なお、ベントホール262を設ける数に制限は無く、ベントホール262の数は第1展開部204の容量や内圧の程度に応じて適宜設定することができる。
【0060】
図8は、図6(a)のベントホール242aの変形例(ベントホール280)を例示した図である。図8(a)は、閉状態のベントホール280を例示した図である。ベントホール280は、いわゆるアクティブベントとして実施されていて、開口がスリット状に形成されていて、その開口を第1展開部118の内側からテザー282で引っ張ることで閉状態が保持される。
【0061】
テザー282は、二股になった先端側がベントホール280の両縁付近に接続されている。テザー282の根本側は、当該エアバッグクッション284から外部に露出して、テザーカッタ286に接続されている。
【0062】
テザーカッタ286は、テザー282を留める装置であって、制御部128から信号を受けると内部の刃が可動してテザー282を切断し脱落させる。テザーカッタ286は、インフレータ等と共に車両に設置することができる。
【0063】
図8(b)は、開状態のベントホール280を例示した図である。ベントホール280は、第1展開部118の内圧が所定の値以上になったとき、テザー282がテザーカッタ286から切り落とされて開放される構成になっている。例えば、第1展開部118の内圧は、制御部128によって第1インフレータ112a(図6(a)参照)の作動開始からの時間をもとに算出してもよいし、第1展開部118の内部に所定のセンサを設けて実測してもよい。これら構成のベントホール280であれば、第1展開部118の圧力が高まり過ぎないよう効率よく制御することができる。
【0064】
ベントホール280からのガスの放出先は、図6(b)のベントホール242aのように第1展開部118に隣接する第2展開部120の内部であっても、図7のベントホール262のようにエアバッグクッション284の外部であってもよい。また、ベントホール280を複数設けた場合、第2展開部120の内部にガスを放出するベントホールと、エアバッグクッション284の外部に放出するベントホールとを併設することも可能である。
【0065】
当該ベントホール280を有するエアバッグクッション284であれば、ピストンフードリフタの代替または補助として機能することができる。ピストンフードリフタは、緊急時にフロントフード104(図1(a)参照)を持ち上げて接触物に与える衝撃を和らげる機構である。
【0066】
第1展開部118は、図1(b)に例示したように、フロントフード104を下方から持ち上げる機能を有している。第1展開部118は、ベントホール280を備えることで、まずはガスの排出を抑えて迅速に膨張してフロントフード104を持ち上げ、内圧が所定値以上になったら第2展開部120にガスを供給して拘束領域を広く形成したり、または外部にガスを排気して破損を防いだりするなど、ピストンフードリフタとしての機能を好適に実現することができる。
【0067】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施例について説明したが、以上に述べた実施形態は、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施態様も、各種の方法で実施または遂行できる。特に本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさ、および構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書の中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0068】
したがって、当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、車両のフロントフードの下方からウインドシールドに向かって膨張展開するエアバッグクッションを備えた歩行者保護用エアバッグ装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
100…第1実施形態の歩行者保護用エアバッグ装置、102…車両、104…フロントフード、106…フロントバンパ、108…ウインドシールド、110a、110b…Aピラー、112a…第1インフレータ、112b…第2インフレータ、114…エアバッグクッション、116…ハウジング、118…第1展開部、120…第2展開部、122…主膨張領域、124a、124b…突出膨張領域、126a、126b…センサ、128…制御部、130…オーバラップ部、200…第2実施形態の歩行者保護用エアバッグ装置、202…エアバッグクッション、204…第1展開部、206…第2展開部、208…接続領域、210a、210b…突出膨張領域、212…オーバラップ部、220…変形例のエアバッグクッション、222…第2展開部、224…オーバラップ部、240…エアバッグクッション、242a、242b…ベントホール、260…エアバッグクッション、262…ベントホール、280…ベントホール、282…テザー、284…エアバッグクッション、286…テザーカッタ
図1
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図8