(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】計時器の自動式ムーブメントのための回転する装飾性要素を備えるワインド用振動錘
(51)【国際特許分類】
G04B 5/16 20060101AFI20240131BHJP
【FI】
G04B5/16
(21)【出願番号】P 2022547106
(86)(22)【出願日】2021-01-18
(86)【国際出願番号】 EP2021050898
(87)【国際公開番号】W WO2021164965
(87)【国際公開日】2021-08-26
【審査請求日】2022-08-02
(32)【優先日】2020-02-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ウィンクレ,イヴ
【審査官】吉田 久
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-38713(JP,A)
【文献】特開2018-57476(JP,A)
【文献】特開2013-185936(JP,A)
【文献】中国実用新案第208156430(CN,U)
【文献】特開2016-128799(JP,A)
【文献】スイス国特許発明第317534(CH,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00-99/00
A44C 7/00-27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
計時器のムーブメントのためのワインド用振動錘(1)であって、
前記ワインド用振動錘(1)は、前記ムーブメントの軸に回転可能に取り付けられるように意図されており、
前記ワインド用振動錘(1)には、メイン要素(2)と、ロゴや頭字語を表すもののような装飾性要素(10)があり、
前記ワインド
用振動錘(1)の一部が、前記計時器の運動と重力に応じて前記ワインド用振動錘(1)が振動することを可能にする重い部分(3)を形成し、
前記メイン要素(2)は、前記ワインド用振動錘(1)の全体的な形を与え、
前記装飾性要素(10)は、前記メイン要素(2)に機械的に連結しており、
前記装飾性要素(10)は、前記メイン要素(2)に回転可能に取り付けられ、
前記ワインド用振動錘(1)には、前記装飾性要素(10)が回転することを可能にするための、ボール(9)を用いるボールベアリング(8)があり、
前記メイン要素(2)には、前記装飾性要素(10)が配置される開口(6)があり、
前記ボール(9)が配置される前記装飾性要素又は前記メイン要素は、アモルファス金属によって作られる
ことを特徴とするワインド用振動錘(1)。
【請求項2】
前記ボールベアリング(8)は、前記メイン要素(2)に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項3】
前記ボールベアリング(8)は、前記開口(6)の内面(7)に配置される
ことを特徴とする請求項2に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項4】
前記開口(6)の前記内面(7)には、前記装飾性要素(10)を前記開口(6)内に保持するためのレール(13、14)があり、
前記装飾性要素(10)のこのレール(13、14)がある
部分は、斜めになった形となっている
ことを特徴とする請求項3に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項5】
前記ボール(9)は、前記開口(6)の前記内面(7)にて角度的に分布している
ことを特徴とする請求項3に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項6】
前記ボール
(9)は、前記メイン要素(2)の材料体の中に配置される
ことを特徴とする請求項5に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項7】
前記ボール(9)はそれぞれ、実質的に予め定められた位置に保持されていつつ、そのボール(9)が回転することができる寸法構成を有するハウジング内に保持される
ことを特徴とする請求項6に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項8】
前記ハウジングには、前記開口(6)内に通じているオリフィス(15)が形成されており、
前記装飾性要素(10)と接触することができるように、前記ボール
(9)の一部が前記ハウジングから前記開口(6)内へと突き出ている
ことを特徴とする請求項7に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項9】
前記ボール(9)は、ルビーによって作られている
ことを特徴とする請求項1に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項10】
前記装飾性要素(10)には、前記
ボールベアリング(8)の前記ボール(9)と接触するように意図された部分がある
ことを特徴とする請求項1に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項11】
前記装飾性要素(10)
は、セラミックスを含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項12】
前記メイン要素(2)は、アモルファス金属を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載のワインド用振動錘(1)。
【請求項13】
自動ワインド式計時器用ムーブメントが収容されるケースを備える計時器であって、
前記ケースは、風防と少なくとも部分的に光透過性の裏部によって閉じられるミドル部によって形成され、
前記ムーブメントは、請求項1に記載のワインド用振動錘(1)を備える
ことを特徴とする計時器。
【請求項14】
請求項1に記載のワインド用振動錘を製造する方法であって、
ルビー製のボール(9)を形成する第1のステップと、
前記ボール(9)を金属層で被覆する第2のステップと、
金属化された前記ボール(9)を前記メイン要素(2)のアモルファス金属の材料体の中にその形成中に埋め込む第3のステップと、及び
前記金属層を化学的手法によって溶解して前記ボールベアリング(8)を得る第4のステップとを備える
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、計時器用自動式ムーブメントのための回転要素を備えるワインド用振動錘に関する。特に、本発明は、光透過性の裏部がある腕時計に備えられるように意図された前記のようなワインド用振動錘に関する。本発明は、さらに、前記のようなワインド用振動錘を備える計時器に関する。
【背景技術】
【0002】
動きを観察できるように光透過性の裏部があるケースを備える腕時計がすでに知られている。しかし、このような腕時計が自動ワインド式ムーブメントを備える場合、ワインド用振動錘がムーブメントの部分を隠してしまう。
【0003】
また、このような振動錘を形成する材料を加工して魅力的にしようとしても、このような振動錘は必ずしも美的に優れているようにはならない。例として、腕時計のブランドを表すロゴのような装飾性要素を形成することができるが、このようなロゴは、一般的には、結果が美的に説得力を与えるほど十分に見えない。また、単にロゴに色を付けるだけでは、振動錘を美しくするためには十分ではなく、また、時間の経過とともに色は減退する。さらに、装飾性要素は、振動錘の残りに対して固定される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、特定の装飾性要素がある計時器用のワインド用振動錘を提供することによって、従来技術の課題を解決することを目的とする。
【0005】
このために、本発明の対象は、計時器のムーブメントのためのワインド用振動錘であり、前記ワインド用振動錘は、前記ムーブメントの軸に回転可能に取り付けられるように意図されている。
【0006】
本発明は、前記ワインド用振動錘には、メイン要素と、ロゴや頭字語のような装飾性要素があり、前記ワインド用振動錘の一部が、前記計時器の運動と重力に応じて前記ワインド用振動錘が振動することを可能にする重い部分を形成し、前記メイン要素が、前記ワインド用振動錘のおおまかな形を与え、前記装飾性要素が、前記メイン要素に機械的に連結しており、そして、前記装飾性要素が、前記メイン要素に回転可能に取り付けられるという点で、画期的である。
【0007】
この新しいワインド用振動錘の構造のおかげで、ワインド用振動錘のメイン要素に装飾性要素が回転可能に接続される。したがって、このワインド用振動錘は、従来技術によって知られている伝統的なワインド用振動錘よりも審美的に魅力的である。実際に、ブランドのロゴや頭字語を表すものであることができる回転する装飾性要素は、ワインド用振動錘、したがって計時器、に優れているものであるという威信をより多く与える。前記メイン要素と前記装飾性要素は、異なる速さで一緒に回転することができ、又は前記装飾性要素は前記メイン要素が止まった後すぐに回転することができる。したがって、メイン要素に対する装飾性要素の回転は、特定の美的効果を与える。
【0008】
本発明の特定の実施形態において、前記重い部分は、前記メイン要素の少なくとも一部によって形成される。
【0009】
本発明の特定の実施形態において、前記ワインド用振動錘には、前記装飾性要素が回転することを可能にするための、ボールベアリングがある。
【0010】
本発明の特定の実施形態において、前記ボールベアリングは、前記メイン要素に配置される。
【0011】
本発明の特定の実施形態において、前記メイン要素には、前記装飾性要素が配置される開口がある。
【0012】
本発明の特定の実施形態において、前記ボールベアリングは、前記開口の内面に配置される。
【0013】
本発明の特定の実施形態において、前記ボールは、前記メイン要素の材料体の中に配置される。
【0014】
本発明の特定の実施形態において、前記ボールは、前記開口の前記内面にて角度的に分布している。
【0015】
本発明の特定の実施形態において、前記ボールはそれぞれ、実質的に予め定められた位置に保持されていつつ、そのボールが回転することができる寸法構成を有するハウジング内に保持される。
【0016】
本発明の特定の実施形態において、前記ハウジングには、前記開口内に通じているオリフィスが形成されており、前記装飾性要素と接触することができるように、前記ボールの一部が前記ハウジングから前記開口内へと突き出ている。
【0017】
本発明の特定の実施形態において、前記装飾性要素には、前記ベアリングの前記ボールと接触するように意図された部分がある。
【0018】
本発明の特定の実施形態において、前記装飾性要素は、好ましくは全体的に、セラミックスを含有する。
【0019】
本発明の特定の実施形態において、前記メイン要素は、アモルファス金属を含有する。
【0020】
本発明の特定の実施形態において、前記開口の前記内面には、前記装飾性要素を前記開口内に保持するためのレールがあり、前記装飾性要素のこのレールがある部分は、好ましくは、斜めになった形となっている。
【0021】
本発明は、さらに、自動ワインド式計時器用ムーブメントが収容されるケースを備える計時器に関し、前記ケースは、風防と少なくとも部分的に光透過性の裏部によって閉じられるミドル部によって形成され、前記ムーブメントは、前記ワインド用振動錘を備える。
【0022】
添付の図面を参照しながら以下の説明を読むことによって、本発明の他の詳細を理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明に係るワインド用振動錘の1つの実施形態の斜視図である。
【
図2】振動錘の壁、装飾性要素及びボールベアリングの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1は、本発明の1つの実施形態に係るワインド用振動錘1を示している。この錘1は、伝統的な形態で計時器の自動ワインド式ムーブメントに備えられるように意図されている。この計時器は、特に、風防と少なくとも部分的に光透過性の裏部(図示せず)によって閉じられるミドル部によって形成されるケースを備え、これによって、裏部側からムーブメントを見ることができる。
【0025】
ワインド用振動錘1には、ワインド用振動錘1のおおまかな形を与えるメイン要素2がある。メイン要素2には、重い部分3と、計時器用ムーブメントと一体的となっている軸(図示せず)にこの重い部分3を接続するように意図された接続メンバー5がある。この軸に錘1が回転可能に取り付けられる。重い部分3のおかげで、計時器の運動及び重力に応じた錘1の振動が可能になる。
【0026】
接続メンバー5には、実質的に円形のリング4と、このリング4を錘1の重い部分3に接続する実質的に平坦な壁5がある。リング4は、ムーブメントの軸に配置されるように意図されている。したがって、振動錘1は、振動するときに、この軸のまわりの回転運動をする。重い部分3、及び接続メンバーのリング4と壁5は、実質的に同じ平面内に配置される。
【0027】
重い部分3は、実質的に180°である中心角を形成する円弧の形となっている。壁5は、実質的に円弧の中央における曲がりの内側にて、重い部分3に接続される。壁5の他方の端には、前記リング4がある。
【0028】
本発明によると、ワインド用振動錘1には、装飾性要素10があり、これは、例えば、ロゴや頭字語であり、装飾性要素10は、錘1のメイン要素2に機械的に連結している。ここで、装飾性要素10は、実質的にまっすぐな区画11及び曲がった区画12がある錨状のロゴであり、このまっすぐな区画11は、曲がった区画12の中央における曲がりの内側にて、曲がった区画12に接続されている。
【0029】
メイン要素2には開口6があり、その中に装飾性要素10が配置される。この開口6は、接続メンバーの壁5におけるこの壁5の平面内にて形成される。装飾性要素10は、開口6と壁5と同じ平面内に配置されている。好ましくは、開口6は、メイン要素2の壁5を貫通する。この開口6は、円の形をしており、この円には中心がある。開口6は、この開口6の輪郭を形成する内面7を境界としている。この内面7は円筒状であり、内面7の高さは、壁5の厚みに対応する。
【0030】
装飾性要素10は、メイン要素2に回転可能に取り付けられる。このために、ワインド用振動錘1には、ボール9を用いるボールベアリング8がある。
【0031】
図に示している第1の実施形態において、ボールベアリング8は、装飾性要素10がボール9上を滑ることによって回転することができるようにメイン要素2上に配置されている。ボールベアリング8は、開口6の内面7に配置されている。これによって、装飾性要素10は、実質的に開口6の中心を通り抜ける軸のまわりを回転することができる。
【0032】
ボール9は、開口6の内面7において角度的に分布している。ボール9は、メイン要素2の材料体の中に配置される。
図1において、ベアリングには12個のボール9がある。各ボール9は、そのボール9がそのハウジング内にて回転することができるように、そのボール9の寸法構成に実質的に対応する寸法構成を有するハウジング内に保持される。このために、ハウジングは、概して球形であり、ハウジングの直径はボール9の直径よりもわずかに大きい。このように、ハウジングは、ハウジング内でボール9が回転することができるように寸法構成的なクリアランスを確保しつつ、ボール9を保持するように構成している。
【0033】
各ハウジングには、さらに、開口6内に通じているオリフィス15が形成される。オリフィス15は、開口6の内面7に形成される。このようにして、ボール9は、ハウジングから開口6内へと突き出て、かつ、装飾性要素10と接触することができる。
【0034】
装飾性要素10には、ベアリング8のボール9と接触するように意図されている部分がある。錨の例において、曲がった区画12の外面が、ベアリング8のボール9に接触して摺動する。
【0035】
装飾性要素10を開口6内に保持するために、開口6の内面7には、装飾性要素10を保持するためのレール13、14がある。2つのレール13、14はそれぞれ、実質的に、内面7によって形成される円筒状の形のエッジに設けられる。
【0036】
装飾性要素の接触部分は、好ましくは、2つのレール13、14の間に導入され保持されることができるように斜めになった形(ベベル状の形)となっている。したがって、装飾性要素10は、レール13、14によって開口6内への保持が維持されつつ、ボール9に対して摺動することができる。
【0037】
ボール9は、例えば、多結晶タイプの合成ルビー材料によって形成される。
【0038】
装飾性要素10は、好ましくは不透明である、メイン要素2と区別することができる材料によって形成される。装飾性要素10の材料は、好ましくは全体的に、ZrO2タイプのジルコニアのようなセラミックスを含有する。この材料のおかげで、特定の色、例えば黒色、を得て、はっきりと見ることができる。
【0039】
第1の変異形態において、メイン要素2は、密度が15.4g/cm3であるPt85CuNiPタイプのアモルファス白金合金のような、密度が10g/cm3よりも大きい高密度の一体的なアモルファス金属材料によって形成されている。したがって、重い部分3は同じ材料によって作られる。高密度の材料であることによって、重い部分3に十分な慣性を与える。
【0040】
第2の変異形態において、メイン要素2は、密度が6.7g/cm3であるZrVit106aタイプのアモルファスジルコニウム合金のような、密度が10g/cm3未満の低密度のアモルファス金属によって部分的に形成されている。この重い部分3は、メイン要素2に組み付けられる、メイン要素2とは別個の要素である。重い部分3は、好ましくは密度が10g/cm3よりも大きい、高密度材料によって作られ、例えば、密度が19.3g/cm3であるタングステン又はタングステン合金によって作られている。
【0041】
壁5においてボール9とハウジングを形成する方法において、まず、ガルバニック成長によって堆積される金属層、例えば銅、で被覆されている、ルビー製のボールを形成する。次に、金属化されたボール9を、メイン要素2のアモルファス金属の材料体の中にその形成中に埋め込む。最後に、金属層を化学的技法によって溶解する。この金属層の溶解によって、ボールがメイン要素の材料から解放され、ハウジング内に保持されつつ、ハウジング内で回転することができるようになる。例えば、熱間成形やアモルファス金属の射出のような成形法を用いる。このような製造方法は、欧州特許EP2585238、特にその段落[0044]及び[0045]に記載されている。
【0042】
図示していない第2の実施形態において、装飾性要素にてボールベアリングが設けられる。このために、装飾性要素においてボールを形成すること以外は第1の実施形態と同様にボールを形成することができるように、装飾性要素は、アモルファス金属材料によって形成される。メイン要素は、好ましくは、十分な慣性が得られるように別の材料によって形成される。
【0043】
図示していない第3の実施形態において、ボールベアリングは、開口の内面に取り付けられる付加的な要素である。したがって、ボールは、前記付加的な要素の材料の中に埋め込まれるのではなく、この付加的な要素の一部である。この付加的な要素は、開口の内側に固定される。装飾性要素は、前に説明した
図1の実施形態のように、ボールベアリングのおかげで回転することが可能でありつつ、付加的な要素によって保持される。