(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】建設機械
(51)【国際特許分類】
E02F 9/20 20060101AFI20240131BHJP
B60W 10/06 20060101ALI20240131BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20240131BHJP
B60W 10/26 20060101ALI20240131BHJP
B60W 20/10 20160101ALI20240131BHJP
【FI】
E02F9/20 Z
B60W10/06 900
B60W10/08 900
B60W10/26 900
B60W20/10
(21)【出願番号】P 2022574064
(86)(22)【出願日】2022-01-06
(86)【国際出願番号】 JP2022000155
(87)【国際公開番号】W WO2022149586
(87)【国際公開日】2022-07-14
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2021000692
(32)【優先日】2021-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 明
(72)【発明者】
【氏名】太田 泰典
(72)【発明者】
【氏名】今井 勇佑
(72)【発明者】
【氏名】杉山 春樹
(72)【発明者】
【氏名】矢野 学
【審査官】彦田 克文
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-121659(JP,A)
【文献】特開2011-105125(JP,A)
【文献】特開2017-53212(JP,A)
【文献】特開2015-148237(JP,A)
【文献】特開2004-190541(JP,A)
【文献】特開2015-63147(JP,A)
【文献】特許第5085734(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02F 9/20
B60W 10/06
B60W 10/08
B60W 10/26
B60W 20/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンと、
前記エンジンによって駆動される可変容量式の油圧ポンプと、
前記油圧ポンプから供給される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、
前記油圧アクチュエータを操作する操作装置と、
前記エンジンからの動力を受けて発電する発電機と、
前記発電機で発電する電力を蓄える蓄電装置と、
前記エンジンの目標エンジン回転数を設定するエンジンコントロールダイヤルと、
前記発電機を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記操作装置の操作量と前記エンジンコントロールダイヤルに設定された目標エンジン回転数とに基づいて要求油圧出力値を算出し、算出した要求油圧出力値に基づいて要求エンジン回転数を求め、求めた要求エンジン回転数に達するために前記エンジンの回転数を上げる必要があると判断した場合、前記発電機を停止し又は前記発電機の発電量を減らして前記蓄電装置から電力を出力することを特徴とする建設機械。
【請求項2】
前記蓄電装置より電力供給を受けて前記エンジンの駆動をアシストする電動モータを更に備え、
前記コントローラは、前記エンジンの回転数を上げる必要があると判断した場合、前記発電機を停止し又は前記発電機の発電量を減らして前記蓄電装置から前記電動モータに電力を出力する請求項1に記載の建設機械。
【請求項3】
前記エンジンの回転数を上げる必要があると判断した場合において、前記コントローラは、前記蓄電装置の電池残量が第1閾値以上であるとき、前記発電機を停止するように制御する請求項1に記載の建設機械。
【請求項4】
前記エンジンの回転数を上げる必要があると判断した場合において、前記コントローラは、前記蓄電装置の電池残量が前記第1閾値よりも小さく且つ第2閾値以上であるとき、前記発電機の発電量を減らすように制御する請求項3に記載の建設機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械に関する。
本願は、2021年1月6日に出願された日本国特願2021-000692号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境への配慮や燃費の向上を目的に電動化された建設機械が開発され、メインポンプをエンジンと電動モータといった2種類の動力で駆動するハイブリッド式油圧ショベルが特に注目されている。
【0003】
ハイブリッド式油圧ショベルとして、例えば特許文献1に記載のように、エンジンと、エンジンにより駆動される発電機と、発電機によって充電されるバッテリと、バッテリの電力により駆動されるとともにエンジンの駆動をアシストする電動モータとを備えるものが知られている。このようなハイブリッド式油圧ショベルでは、コントローラの始動やエンジンの駆動をアシストする際に、バッテリから電力が出力されており、発電機はエンジンの動力を受けて発電し、バッテリを充電する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記特許文献1に記載のハイブリッド式油圧ショベルでは、以下の課題が生じる。すなわち、発電機が発電し続けたまま、電動モータでエンジンを加速するためにアシストすると、発電機がエンジンの動力を電気に変換したものを、電動モータがエンジンの動力に返すことになってしまい、電動モータと発電機の効率分の損失が発生し、油圧ショベルの燃料消費量が多くなる。また、発電機が発電を行う際にエンジンにブレーキングトルクをかけるので、エンジン回転数を上げようとする際の妨げになる。その結果、エンジンの回転数を上げる際の応答性が悪くなり、油圧ショベルの操作応答性を損なってしまう。
【0006】
本発明の目的は、燃料消費量を少なくすることができ、操作応答性を向上することができる建設機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る建設機械は、エンジンと、前記エンジンによって駆動される可変容量式の油圧ポンプと、前記油圧ポンプから供給される圧油によって駆動される油圧アクチュエータと、前記油圧アクチュエータを操作する操作装置と、前記エンジンからの動力を受けて発電する発電機と、前記発電機で発電する電力を蓄える蓄電装置と、前記エンジンの目標エンジン回転数を設定するエンジンコントロールダイヤルと、前記発電機を制御するコントローラと、を備え、前記コントローラは、前記操作装置の操作量と前記エンジンコントロールダイヤルに設定された目標エンジン回転数とに基づいて要求油圧出力値を算出し、算出した要求油圧出力値に基づいて要求エンジン回転数を求め、求めた要求エンジン回転数に達するために前記エンジンの回転数を上げる必要があると判断した場合、前記発電機を停止し又は前記発電機の発電量を減らして前記蓄電装置から電力を出力することを特徴としている。
【0008】
本発明に係る建設機械では、コントローラは、求めた要求エンジン回転数に達するためにエンジンの回転数を上げる必要があると判断した場合、発電機を停止し又は発電機の発電量を減らして蓄電装置から電力を出力するので、建設機械の燃料消費量を少なくすることができる。しかも、エンジンの回転数を上げる際の応答性が良くなるので、操作応答性を向上することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、燃料消費量を少なくすることができ、操作応答性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施形態に係る油圧ショベルを示す側面図である。
【
図2】実施形態に係る油圧ショベルを示す構成図である。
【
図3】エンジン起動前の電力の流れを説明するための図である。
【
図4】エンジン始動後(ロックレバーがロック状態)の電力の流れを説明するための図である。
【
図5】エンジン加速時の電力の流れを説明するための図である。
【
図8】油圧ショベルの車体コントローラの制御処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明に係る建設機械の実施形態について説明する。図面の説明において同一の要素には同一符号を付し、重複説明は省略する。また、以下では、建設機械として油圧ショベルの例を挙げて説明するが、本発明は油圧ショベルに限定されず、油圧ショベル以外の建設機械にも適用される。
【0012】
図1は実施形態に係る油圧ショベルを示す側面図であり、
図2は実施形態に係る油圧ショベルを示す構成図である。本実施形態に係る油圧ショベル1は、エンジン2及び電動モータ3で可変容量式のメインポンプ(油圧ポンプ)4を駆動し、エンジン可変速制御を行うハイブリッド式油圧ショベルである。油圧ショベル1では、メインポンプ4から供給される圧油がコントロールバルブ5によって分配され、分配された圧油が複数の油圧アクチュエータ(バケットシリンダ6、アームシリンダ7、ブームシリンダ8、旋回モータ9、走行モータ10)にそれぞれ供給されることで、掘削動作、旋回動作及び走行動作が行われる。
【0013】
コントロールバルブ5は、メインポンプ4から各油圧アクチュエータに供給される圧油の流量を制御する流量制御弁である。バケットシリンダ6は、バケット26を駆動するための油圧アクチュエータであり、メインポンプ4から供給される圧油によって駆動されている。アームシリンダ7は、アーム27を駆動するための油圧アクチュエータであり、メインポンプ4から供給される圧油によって駆動されている。ブームシリンダ8は、ブーム28を駆動するための油圧アクチュエータであり、メインポンプ4から供給される圧油によって駆動されている。
【0014】
旋回モータ9は、走行体30に対し旋回体29を旋回させるための油圧アクチュエータであり、メインポンプ4から供給される圧油によって駆動されている。走行モータ10は、走行体30を前進又は後進させるための油圧アクチュエータであり、メインポンプ4から供給される圧油によって駆動されている。そして、これらの油圧アクチュエータ、メインポンプ4及びコントロールバルブ5は後述の車体コントローラ13によってそれぞれ制御されている。
【0015】
また、油圧ショベル1は、車体の状態の監視及び制御、並びに各電気機器の動作等を制御する車体コントローラ13と、エンジン2の状態監視及び制御を行うECU(エンジンコントロールユニット)22とを備えている。車体コントローラ13及びECU22は、第1の電気系統17によって鉛電池14と電気的に接続されている。このため、車体コントローラ13及びECU22は、鉛電池14からの電力供給を受けて動作可能になっている。
【0016】
また、油圧ショベル1は、オペレータが搭乗するキャビン11を備えている。キャビン11には、操作装置12、ロックレバー23及びエンジンコントロールダイヤル24が設けられている。操作装置12は、オペレータが各油圧アクチュエータを操作するための装置であり、例えば操作レバーによって構成されている。操作レバーがオペレータに操作されると、コントロールバルブ5が駆動され、これによってバケットシリンダ6、アームシリンダ7、ブームシリンダ8、旋回モータ9及び走行モータ10内の圧油が制御されるので、バケット26、アーム27、ブーム28、旋回体29及び走行体30がそれぞれ駆動される。これによって、油圧ショベル1の掘削動作、旋回動作及び走行動作が実現される。
【0017】
ロックレバー23は、オペレータが油圧ショベル1を操作しない場合やキャビン11を離れる場合に操作装置12による操作をロック(禁止)することで、油圧ショベル1の動作を抑制させる機能を持つ装置である。エンジンコントロールダイヤル24は、エンジン2の目標回転数を設定するための装置である。
【0018】
電動モータ3は、蓄電装置であるハイブリッドバッテリ15より電力供給を受け、エンジン2の駆動をアシスト(補助)する。
図2に示すように、電動モータ3は、エンジン2及びメインポンプ4と同軸に接続されている。このようにすることで、メインポンプ4は、エンジン2と電動モータ3といった2種類の動力で駆動されることになる。なお、電動モータ3は、PCU(パワーコントロールユニット)31を介して車体コントローラ13によって制御されている。
【0019】
また、油圧ショベル1は、エンジン2の動力を受けて発電し、エアコンコンプレッサ20等の電気機器に電力を出力しつつハイブリッドバッテリ15への充電を行う発電機16を更に備えている。発電機16は、例えばPCU(インバータ)25で直流を3相交流に変換し、3相交流を制御することで稼働するモータであり、PCU25を介して車体コントローラ13によって制御されている。この発電機16は、第2の電気系統18を介して、ハイブリッドバッテリ15、エアコンコンプレッサ20、エンジンファン21とそれぞれ電気的に接続されている。
【0020】
また、第1の電気系統17と第2の電気系統18との間には、DC/DCコンバータ19が設けられている。DC/DCコンバータ19は、第2の電気系統18から第1の電気系統17に対して電圧変換を行い、第1の電気系統17に電力を出力する。このようにすることで、発電機16により発電された電力は、DC/DCコンバータ19に電圧変換された後に、第1の電気系統17に出力される。従って鉛電池14の充電、車体コントローラ13及びECU22への電力供給が行われる。
【0021】
車体コントローラ13は、請求の範囲に記載の「コントローラ」に相当するものであり、例えば演算を実行するCPU(Central Processing Unit)と、演算のためのプログラムを記憶した二次記憶装置としてのROM(Read Only Memory)と、演算経過の保存や一時的な制御変数を保存する一時記憶装置としてのRAM(Random Access Memory)とを組み合わせてなるマイクロコンピュータにより構成されており、記憶されたプログラムの実行によって車体の状態の監視及び制御、並びに各電気機器の動作等を制御する。
【0022】
例えば、車体コントローラ13は、操作装置12の操作量に基づいてメインポンプ4の圧油の吐出量とコントロールバルブ5の分配先を決定する。また、車体コントローラ13は、操作装置12の操作量とエンジンコントロールダイヤル24に設定された目標エンジン回転数とに基づいてエンジン2の要求油圧出力値を算出し、算出した要求油圧出力値に基づいて要求エンジン回転数を求める。更に、車体コントローラ13は、求めた要求エンジン回転数に達するためにエンジン2の回転数を上げる(言い換えれば、エンジン2を加速する)必要があるか否かを判断し、回転数を上げる必要があると判断した場合に、発電機16を停止し又は発電機16の発電量を減らして、ハイブリッドバッテリ15から電動モータ3などの電気機器に電力を出力する。
【0023】
以下、
図3~
図5を基にエンジン起動前からエンジン起動後までの電力の流れを説明する。
【0024】
まず、
図3を基にエンジン起動前の電力の流れを説明する。油圧ショベル1が起動指令を受信した場合、鉛電池14は、
図3の矢印F1に示すように、第1の電気系統17を介して車体コントローラ13、ECU22、及び該第1の電気系統17に接続された他の電気機器(図示せず)に電力を出力する(すなわち、電力供給)。また、このとき、ハイブリッドバッテリ15は、
図3の矢印F2に示すように、第2の電気系統18を介してエアコンコンプレッサ20、エンジンファン21、PCU25,31等に電力を出力する(すなわち、電力供給)。
【0025】
その後、油圧ショベル1がエンジン始動の指令を受信すると、車体コントローラ13は、PCU31を介して電動モータ3を作動させる。このとき、電動モータ3は、ハイブリッドバッテリ15からの電力供給を受けて回転し、エンジン2を始動させる。
【0026】
次に、
図4を基にエンジン始動後(ロックレバーがロック状態)の電力の流れを説明する。エンジン始動後、エンジン2の動力を受けて発電機16は発電する。発電された電力は、DC/DCコンバータ19により電圧変換された後に、第1の電気系統17を介して鉛電池14、車体コントローラ13及びECU22等に出力される(
図4中の矢印F3参照)。鉛電池14は、発電機16から出力された電力を受け、充電を行う。
【0027】
また、このとき、発電機16が発電した電力は、第2の電気系統18を介してエアコンコンプレッサ20、エンジンファン21及びハイブリッドバッテリ15に出力される(
図4中の矢印F4参照)。ハイブリッドバッテリ15は発電機16から出力された電力を受け、充電を行う。そして、エンジン2が稼働している場合、基本的に発電機16は発電し続ける。
【0028】
ロックレバー23がロック状態のように、すぐに油圧ショベル1を稼働させる状況にない場合では、エンジンコントロールダイヤル24に設定された目標エンジン回転数に関わらず、エンジン2はその効率が可能な限り良くなる回転数でアイドリング運転を行う。このとき、車体コントローラ13は、内部に記憶されたエンジンの等燃費線図(
図6参照)に基づいて、エンジン2の効率が可能な限り良くなるように実際に稼働させる回転数を決定する。
【0029】
図6はエンジン2の燃料消費量を縦軸トルクと横軸回転数で表した等燃費線図を模式的に表したものである。
図6において、等出力線は破線で示し、等燃費線は実線で示している。車体コントローラ13は、この等燃費線図を基にした効率のマップを用いる。そして、本実施形態では、エンジン2がメインポンプ4の軸と直結されているので、両者の回転数がほぼ同一となる。従って、縦軸で示すエンジントルクに電動モータ3のトルクを加えることで、メインポンプ4のトルクとほぼ同一となる。また、メインポンプ4のトルクから、その際のメインポンプ4の傾転角を求めることができる。
【0030】
図6では、アイドリング運転時のエンジン2の必要な出力を直線L1で示す。そして、直線L1上の最もエンジンの効率の良い回転数を探すと、より燃料消費量の少ない等燃費線に近い、回転数が1200rpmのときである。従って、車体コントローラ13は、アイドリング運転においてエンジンコントロールダイヤル24の設定に関わらず、エンジン2を回転数1200rpmで動作させることで、エンジン2の効率を高めることができる。
【0031】
次に、
図5を基にエンジン加速時の電力の流れを説明する。油圧ショベル1のオペレータが操作装置12を操作した場合、車体コントローラ13は、操作量検出センサ(図示せず)を介して操作装置12の操作量を取得し、操作装置12の操作内容に応じてエンジン2およびメインポンプ4を制御しつつ、必要な油圧出力を作るようにコントロールバルブ5を制御して各油圧アクチュエータに油圧出力を分配する。
【0032】
このとき、車体コントローラ13は、操作装置12の操作量とエンジンコントロールダイヤル24に設定された目標エンジン回転数とに基づいて、エンジン2の要求油圧出力値を算出する。更に、車体コントローラ13は、算出した要求油圧出力値に基づいて、上述のエンジン2の効率マップを用いてエンジン2の効率が最も良くなる回転数(すなわち、要求エンジン回転数)およびメインポンプ4の傾転角との組み合わせを求め、求めた結果に基づいてメインポンプ4、エンジン2、電動モータ3及び発電機16を制御する。
【0033】
また、本実施形態では、回転数を上げてエンジン2を加速する際に、車体コントローラ13は、電動モータ3でエンジン2の加速をアシストしつつ、発電機16の発電を停止し又は発電量を減らすように電動モータ3及び発電機16を制御する。発電機16を停止し又は発電量を減らす間において、車体コントローラ13は、ハイブリッドバッテリ15を利用し、PCU31、電動モータ3、エンジンファン21、エアコンコンプレッサ20に電力を出力しつつ、更にDC/DCコンバータ19及び第1の電気系統17を介して鉛電池14、車体コントローラ13及びECU22などに電力を出力する(
図5の矢印F5参照)。そして、エンジン2の加速が終了しエンジン2の回転数が安定すると、発電機16は、再び発電を開始する。
【0034】
以下、
図8を参照して車体コントローラ13の制御処理を説明する。
【0035】
まず、ステップS11では、車体コントローラ13は、要求油圧出力値を算出する。このとき、車体コントローラ13は、上述したように、操作装置12の操作量とエンジンコントロールダイヤル24に設定された目標エンジン回転数とに基づいて、要求油圧出力値を算出する。
【0036】
ステップS11に続くステップS12では、車体コントローラ13は、算出した要求油圧出力値に基づき、上述のエンジン2の効率マップを用いてエンジン2の最も効率が良くなる回転数(すなわち、要求エンジン回転数)およびメインポンプ4の傾転角との組み合わせを求める。具体的には、例えば
図7に示す95kwの等出力線L2の場合、要求油圧出力値が要求エンジン出力値となるため、車体コントローラ13は等出力線L2上で最もエンジン2の効率が良くなる点で、かつ油圧出力が高くなった際に回転数を加速させることが多いことから、車体コントローラ13は、エンジン2の効率が良く且つ回転数が高い点を選ぶ。これにより、要求エンジン回転数と要求エンジントルクとが求められる。更に、車体コントローラ13は、求められた要求エンジントルクに基づいて傾転角を求める。
【0037】
ステップS12に続くステップS13では、車体コントローラ13は、要求エンジン回転数が現在のエンジン回転数と既定の値αとの和よりも大きいか否かを判断する。既定の値αは、エンジン回転数が安定したと判断する際の誤差分を考慮して設定されるものである。現在のエンジン回転数は、例えば図示しない回転数検出センサによって検出され、車体コントローラ13に出力される。
【0038】
そして、要求エンジン回転数が現在のエンジン回転数と既定の値αとの和以下であると判断された場合、制御処理はステップS14に進む。ステップS14では、車体コントローラ13は、発電を開始するように発電機16を制御する。
【0039】
一方、要求エンジン回転数が現在のエンジン回転数と既定の値αとの和よりも大きいと判断された場合、制御処理はステップS15に進む。ステップS15では、車体コントローラ13は、ハイブリッドバッテリ15の電池残量が第1閾値以上か否かを判断する。ここでの第1閾値は、発電停止可能な容量を意味し、発電機16が停止してもハイブリッドバッテリ15の残量だけでPCU31、電動モータ3、エンジンファン21、エアコンコンプレッサ20、車体コントローラ13及びECU22への電力供給を保証できる容量である。なお、ハイブリッドバッテリ15の電池残量は、例えばハイブリッドバッテリ15内部の電池管理ユニットを介して取得することができる。
【0040】
そして、ハイブリッドバッテリ15の電池残量が第1閾値以上であると判断された場合、制御処理はステップS16に進む。ステップS16では、車体コントローラ13は、発電機16を停止させる。一方、ハイブリッドバッテリ15の電池残量が第1閾値よりも小さいと判断された場合、制御処理はステップS17に進む。
【0041】
ステップS17では、車体コントローラ13は、ハイブリッドバッテリ15の電池残量が第2閾値以上か否かを判断する。ここでの第2閾値は、動作維持可能な容量を意味し、上記第1閾値よりも小さく設定されている。動作維持可能な容量とは、発電機の発電量を減らしてもPCU31、電動モータ3、エンジンファン21、エアコンコンプレッサ20、車体コントローラ13及びECU22の動作を維持可能な容量である。この動作維持可能な容量は、要求エンジン回転数と現在のエンジン回転数との差から発電停止(又は発電量を減らす)時間が決まり、決まった時間内にPCU31、電動モータ3、エンジンファン21、エアコンコンプレッサ20、車体コントローラ13及びECU22の動作を維持可能な容量であり、実験の結果に基づいて決定されるものである。
【0042】
そして、ハイブリッドバッテリ15の電池残量が第2閾値より小さいと判断された場合、制御処理は上記ステップS14に進み、発電機16の発電が開始される。一方、ハイブリッドバッテリ15の電池残量が第2閾値以上と判断された場合、制御処理はステップS18に進む。ステップS18では、車体コントローラ13は、発電機16の発電量を減らすように発電機16を制御する。
【0043】
発電量を減らす方法としては、発電機がPCUとモータとで構成された場合、ブレーキトルクを減らすことが挙げられる。また、発電機を停止して発電量を無くす方法としては、発電機がPCUとモータとで構成された場合、ブレーキトルクを無くす(いわゆるフリーラン)ことが挙げられており、発電機がオルタネータである場合、電磁クラッチ等でエンジンの動力接続を切断することが挙げられる。
【0044】
上記ステップS14、ステップS16又はステップS18に続くステップS19では、車体コントローラ13は、エンジン2、メインポンプ4及び電動モータ3に対する指令を生成し、生成した指令をエンジン2、メインポンプ4及び電動モータ3にそれぞれ出力する。これによって、一連の制御処理は終了する。
【0045】
本実施形態に係る油圧ショベル1では、車体コントローラ13は、求めた要求エンジン回転数に達するためにエンジン2の回転数を上げる必要があると判断した場合、発電機16を停止し又は発電機16の発電量を減らしてハイブリッドバッテリ15から電力を出力する。すなわち、回転数を上げてエンジン2を加速する必要があると判断した場合に、車体コントローラ13は、発電機16の発電を停止し又は発電機16の発電量を減らす。これによって、従来のようにエンジンの動力が発電機により電気に変換されたものは、電動モータによってエンジンの動力に返されるのを防止できるので、電動モータ3の損失を減らすことができ、油圧ショベル1の燃料消費量を少なくすることができる。
【0046】
また、発電機16の発電を停止し又は発電機16の発電量を減らすことによって、発電に伴うエンジン2へのブレーキングトルクを減らすことができるので、エンジン2の回転数を上げる際の応答性が良くなる。その結果、操作応答性を向上することができる。
【0047】
なお、本実施形態において、発電機16はPCU(インバータ)で直流を3相交流に変換し、3相交流を制御することで稼働するモータであるのを述べたが、例えばエンジン2と電磁クラッチを介して接続されたオルタネータで構成されても良く、この場合、電磁クラッチを切り離すことで発電を停止することができる。
【0048】
また、本実施形態においてエンジン2の回転数を加速する際に電動モータ3でアシストする構成で説明したが、電動モータ3がない構成の油圧ショベルであっても、エンジン2の回転数を加速する際に発電機16を停止することで、発電機16がエンジン2に対して与えるブレーキングトルクがなくなるため、エンジン2の回転数の加速応答性が良くなり、操作応答性を向上する効果を期待できる。
【0049】
以上、本発明の実施形態について詳述したが、本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の精神を逸脱しない範囲で、種々の設計変更を行うことができるものである。
【符号の説明】
【0050】
1 油圧ショベル
2 エンジン
3 電動モータ
4 メインポンプ(油圧ポンプ)
5 コントロールバルブ
6 バケットシリンダ
7 アームシリンダ
8 ブームシリンダ
9 旋回モータ
10 走行モータ
11 キャビン
12 操作装置
13 車体コントローラ
14 鉛電池
15 ハイブリッドバッテリ
16 発電機
17 第1の電気系統
18 第2の電気系統
19 DC/DCコンバータ
20 エアコンコンプレッサ
21 エンジンファン
22 ECU
23 ロックレバー
24 エンジンコントロールダイヤル
25,31 PCU
26 バケット
27 アーム
28 ブーム
29 旋回体
30 走行体