(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】自動変速機、自動変速機の制御方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
F16H 61/12 20100101AFI20240131BHJP
F16H 59/74 20060101ALI20240131BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20240131BHJP
F16D 48/02 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
F16H61/12
F16H59/74
F16H61/662
F16D48/02 640K
F16D48/02 640H
(21)【出願番号】P 2022576606
(86)(22)【出願日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 JP2022000468
(87)【国際公開番号】W WO2022158325
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021007014
(32)【優先日】2021-01-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】下川原 一恵
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/066740(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135172(WO,A1)
【文献】特開昭63-67457(JP,A)
【文献】特開2019-19890(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/12
F16H 59/74
F16H 61/662
F16D 48/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動変速機であって、
駆動源の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機構と、
前記駆動源から前記駆動輪へのトルクの伝達を制御するクラッチと、
を備え、
選択された動作モードが前進モードで、前記駆動源の回転速度が上昇する変化速度が所定変化速度以上になると、前記クラッチのトルク伝達容量を低下させて前記駆動源から前記駆動輪に伝達される制動力を低減させる、
自動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載の自動変速機であって、
前記駆動源と前記変速機構との間に設けられ、入力要素が前記駆動源の出力軸と連結されたトルクコンバータと、
前記トルクコンバータに内蔵され、締結されると前記トルクコンバータの前記入力要素と出力要素とが直結するロックアップクラッチと、
をさらに備え、
前記ロックアップクラッチが締結された状態で前記出力要素の回転速度の変化速度が前記所定変化速度以上になると、前記クラッチのトルク伝達容量を低下させる、
自動変速機。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自動変速機であって、
前記変速機構の入力軸の回転速度の変化速度が前記所定変化速度以上になると、前記クラッチのトルク伝達容量を低下させる、
自動変速機。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1つに記載の自動変速機であって、
前記変速機構は、前記駆動源側に設けられたプライマリプーリと、前記駆動輪側に設けられセカンダリプーリと、前記プライマリプーリと前記セカンダリプーリとの間に掛け回された無端状部材と、を備えた無断変速機構である、
自動変速機。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1つに記載の自動変速機であって、
前記クラッチは、前進クラッチである、
自動変速機。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか1つに記載の自動変速機であって、
前記クラッチのトルク伝達容量を低下させる際は、前記クラッチが解放されるまでトルク伝達容量を低下させる、
自動変速機。
【請求項7】
駆動源の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機構と、前記駆動源から前記駆動輪へのトルクの伝達を制御するクラッチと、を備える自動変速機の制御方法であって、
選択された動作モードが前進モードで、前記駆動源の回転速度が上昇する変化速度が所定速度以上になると、前記クラッチのトルク伝達容量を低下させて前記駆動源から前記駆動輪に伝達される制動力を低減させる、
自動変速機の制御方法。
【請求項8】
駆動源の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機構と、前記駆動源から前記駆動輪へのトルクの伝達を制御するクラッチと、を備える自動変速機のコンピュータが実行可能なプログラムであって、
選択された動作モードが前進モードで、前記駆動源の回転速度が上昇する変化速度が所定速度以上になると、前記クラッチのトルク伝達容量を低下させて前記駆動源から前記駆動輪に伝達される制動力を低減させる手順を前記コンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動変速機、自動変速機の制御方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、フェールによってエンジンブレーキの効く低速側変速比への高速側変速比からの変速が生じたことを検出するフェールダウンシフト検出手段と、フェールダウンシフト検出手段が変速を検出した場合に走行用駆動力源による制動力を減少させる制動力減少手段と、を備える自動変速機付き車両の制御装置が開示されている。
【0003】
フェールダウンシフトは、ON状態であるべき第2ソレノイドバルブがOFF状態になっていること、あるいは自動変速機の入力回転数と出力軸回転数とから演算して求まる変速比が第2速の変速比とは異なっていることなどによって判断される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、変速比の算出に関係する回転速度センサの故障によって演算された実変速比が異常値になった場合は、目標変速比への変速により運転者が意図しないダウンシフトが発生することが考えられる。しかしながら、この場合は、上記のような技術ではフェール判定することができない。そのため、制動力減少手段が作動せず、ダウンシフトによる車両の減速が運転者に違和感を与える可能性がある。
【0006】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたもので、回転速度センサの故障等により発生する運転者が意図しないダウンシフトによる車両の減速が運転者に与える違和感を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のある態様によれば、自動変速機であって、駆動源の回転を変速して駆動輪に伝達する変速機構と、前記駆動源から前記駆動輪へのトルクの伝達を制御するクラッチと、を備え、前記駆動源の回転速度の変化速度が所定変化速度以上になると、前記クラッチのトルク伝達容量を低下させる、自動変速機が提供される。
【発明の効果】
【0008】
上記の態様によれば、駆動源の回転速度の変化速度が所定変化速度以上になると、クラッチのトルク伝達容量が低下される。よって、駆動源による制動力が緩和され、減速度を低減して運転者に与える違和感を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機を備える車両の概略構成図である。
【
図2】
図2は、変速機コントローラの機能ブロック図である。
【
図3】
図3は、変速機コントローラが行う制動力制御の処理をフローチャートで示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。以下において、変速比が大きい場合をLow、変速比が小さい場合をHighと言う。また、変速比がLow側に変更されることをダウンシフトと言い、High側に変更されることをアップシフトと言う。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る自動変速機20を備える車両100の概略構成図である。
図1に示すように、車両100は、駆動源としてのエンジン10と、自動変速機20と、エンジンコントローラ30と、変速機コントローラ40と、を備える。
【0012】
自動変速機20は、トルクコンバータ2と、動力伝達機構としての前後進切替機構3と、変速機構としてのバリエータ4と、油圧制御回路5と、オイルポンプ6と、を備える。
【0013】
車両100においては、エンジン10で発生した回転が、トルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4、歯車組7、ディファレンシャルギヤ装置8を経て駆動輪50に伝達される。
【0014】
トルクコンバータ2には、ロックアップクラッチ2aが設けられる。ロックアップクラッチ2aが締結されると、トルクコンバータ2の入力要素としての入力軸2bと出力要素としての出力軸2cとが直結し、入力軸2bと出力軸2cとが同速回転する。よって、ロックアップクラッチ2aが締結された状態では、エンジン1の出力軸10aの回転がそのままトルクコンバータ2の出力軸2cから前後進切替機構3に伝達される。
【0015】
前後進切替機構3は、ダブルピニオン遊星歯車組を主たる構成要素とし、そのサンギヤをトルクコンバータ2を介してエンジン10に結合し、キャリアをバリエータ4の入力軸4d(プライマリプーリ4a)に結合する。前後進切替機構3は更に、ダブルピニオン遊星歯車組のサンギヤ及びキャリア間を直結する前進クラッチ3a、及びリングギヤを固定する後進ブレーキ3bを備え、前進クラッチ3aの締結時にエンジン10からトルクコンバータ2を経由した入力回転をそのままプライマリプーリ4aに伝達し、後進ブレーキ3bの締結時にエンジン10からトルクコンバータ2を経由した入力回転を逆転減速してプライマリプーリ4aへ伝達する。
【0016】
バリエータ4は、入力軸4dに伝達されたエンジン10の回転を変速して出力軸4eから駆動輪50に伝達する無段変速機構である。バリエータ4は、動力伝達経路においてエンジン10側に設けられたプライマリプーリ4aと、駆動輪50側に設けられたセカンダリプーリ4bと、プライマリプーリ4aとセカンダリプーリ4bとに掛け回された無端状部材としてのベルト4cと、を備える。
【0017】
バリエータ4では、プライマリプーリ4aに供給される油圧とセカンダリプーリ4bに供給される油圧とが制御されることで、各プーリ4a、4bとベルト4cとの接触半径が変更され、変速比が変更される。
【0018】
オイルポンプ6は、エンジン10の回転が入力されエンジン10の動力の一部を利用して駆動される機械式のオイルポンプである。オイルポンプ6から吐出された油は、油圧制御回路5に供給される。
【0019】
油圧制御回路5は、オイルポンプ6から供給された作動油の圧力を調圧して必要な油圧を生成するレギュレータバルブ5a、プライマリプーリ4aに供給される油圧を調整するプライマリソレノイドバルブ5b、セカンダリプーリ4bに供給される油圧を調整するセカンダリソレノイドバルブ5c、ロックアップクラッチ2aに供給される油圧を調整するロックアップソレノイドバルブ5d、前進クラッチ3aに供給される油圧及び後進ブレーキ3bに供給される油圧を調整するセレクトソレノイドバルブ5e、前進クラッチ3a及び後進ブレーキ3bへの油圧の供給経路を切り換えるマニュアルバルブ5f、等を有する。
【0020】
油圧制御回路5は、変速機コントローラ40からの制御信号に基づき、調整された油圧をトルクコンバータ2、前後進切替機構3、バリエータ4の各部位に供給する。
【0021】
エンジンコントローラ30は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成される。エンジンコントローラ30は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。エンジンコントローラ30は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。
【0022】
エンジンコントローラ30は、車両100の各部位の状態を検出する各種センサからの信号に基づきエンジン10の回転速度及びトルク等を制御する。
【0023】
変速機コントローラ40は、CPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えたマイクロコンピュータで構成され、エンジンコントローラ30と通信可能に接続される。変速機コントローラ40は、CPUがROMに記憶されたプログラムを読み出して実行することで各種の処理を行う。変速機コントローラ40は、複数のマイクロコンピュータで構成することも可能である。変速機コントローラ40とエンジンコントローラ30とを統合して1つのコントローラとしてもよい。
【0024】
変速機コントローラ40は、車両100の各部位の状態を検出する各種センサからの信号に基づきロックアップクラッチ2aの締結状態、バリエータ4の変速比、前進クラッチ3ab及び後進ブレーキ3bの締結状態等を制御する。
【0025】
変速機コントローラ40には、アクセルペダル開度APOを検出するアクセルペダル開度センサ61からの信号、ブレーキペダルの操作量に対応したブレーキ液圧BRPを検出するブレーキ液圧センサ62からの信号、シフター63の位置を検出するインヒビタスイッチ64からの信号、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Nt(以下、タービン回転速度Ntという。)を検出するタービン回転速度センサ65からの信号、バリエータ4の入力軸4d(プライマリプーリ4a)の回転速度Np(以下、プライマリ回転速度Npという。)を検出するプライマリ回転速度センサ66からの信号、バリエータ4の出力軸4e(セカンダリプーリ4b)の回転速度Nsを検出するセカンダリ回転速度センサ67からの信号、プライマリプーリ4aに供給されるプライマリ油圧Ppを検出するプライマリ油圧センサ68からの信号、セカンダリプーリ4bに供給されるセカンダリ油圧Psを検出するセカンダリ油圧センサ69からの信号、等が入力される。
【0026】
ところで、上述したように、変速機コントローラ40は、バリエータ4の変速比を制御する。ここで、変速比の算出に関係するプライマリ回転速度センサ66の故障によって演算されたバリエータ4の実変速比が異常値になった場合や、変速機コントローラ40が故障した場合等においては、目標変速比への変速により運転者が意図しないダウンシフトが発生することが考えられる。この場合、ダウンシフトに伴って発生するエンジン10の制動力により車両100が減速して運転者に違和感を与える可能性がある。
【0027】
このような事情に鑑み、本実施形態の変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度センサ66の故障等により発生するダウンシフトを検知し、ダウンシフトに伴って発生するエンジン10の制動力を緩和する制動力制御を行う。
【0028】
以下、変速機コントローラ40について詳しく説明する。
【0029】
図2は、変速機コントローラ40の機能ブロック図である。
図2は、変速機コントローラ40の各機能を仮想的なユニットとして示したものであり、物理的な存在を意味しない。しかしながら、各機能に対応するマイクロコンピュータやデバイスが物理的に存在してもよい。
【0030】
図2に示すように、変速機コントローラ40は、入力部40aと、入力信号生成部40bと、目標変速比演算部40cと、目標Pp演算部40dと、目標Ps演算部40eと、目標Ip演算部40fと、目標Is演算部40gと、ソレノイド駆動部40hと、入力信号生成部40iと、ダウンシフト判定部40jと、ソレノイド駆動部40kと、を有する。
【0031】
入力部40aには、アクセルペダル開度センサ61からの信号、インヒビタスイッチ64からの信号、タービン回転速度センサ65からの信号、プライマリ回転速度センサ66からの信号、セカンダリ回転速度センサ67からの信号、等が入力される。
【0032】
入力信号生成部40bは、アクセルペダル開度センサ61から入力部40aに入力された信号に基づいて、アクセルペダル開度APOを示す信号を生成する。また、入力信号生成部40bは、セカンダリ回転速度センサ67から入力部40aに入力された信号に基づいて、車速VSPを示す信号を生成する。
【0033】
目標変速比演算部40cは、入力信号生成部40bで生成されたアクセルペダル開度APO及び車速VSPに基づいて、バリエータ4の目標変速比を演算する。なお、アクセルペダル開度APOに代えて、エンジンコントローラ30から入力されたスロットルバルブ開度TVOを用いてもよい。
【0034】
目標Pp演算部40dは、目標変速比演算部40cで演算された目標変速比に基づいて、目標変速比を実現するための目標プライマリ圧Ppを演算する。
【0035】
目標Ps演算部40eは、目標変速比演算部40cで演算された目標変速比に基づいて、目標変速比を実現するための目標セカンダリ圧Psを演算する。
【0036】
目標Ip演算部40fは、目標Pp演算部40dで演算された目標プライマリ圧Ppを実現するための目標プライマリソレノイド指示電流Ipを演算する。
【0037】
目標Is演算部40gは、目標Ps演算部40eで演算された目標セカンダリ圧Psを実現するための目標セカンダリソレノイド指示電流Isを演算する。
【0038】
ソレノイド駆動部40hは、目標Ip演算部40fで演算された目標プライマリソレノイド指示電流Ipに基づいて、プライマリソレノイドバルブ5bに指示電流を供給する。また、ソレノイド駆動部40hは、目標Is演算部40gで演算された目標セカンダリソレノイド指示電流Isに基づいて、セカンダリソレノイドバルブ5cに指示電流を供給する。
【0039】
入力信号生成部40iは、インヒビタスイッチ64から入力部40aに入力された信号に基づいて、シフター63で選択された自動変速機20の動作モードSELMODEを示す信号を生成する。また、入力信号生成部40iは、タービン回転速度センサ65から入力部40aに入力された信号に基づいて、タービン回転速度Ntを示す信号を生成する。また、入力信号生成部40iは、プライマリ回転速度センサ66から入力部40aに入力された信号に基づいて、プライマリ回転速度Npを示す信号を生成する。また、入力信号生成部40iは、セカンダリ回転速度センサ67から入力部40aに入力された信号に基づいて、車速VSPを示す信号を生成する。なお、本実施形態の自動変速機20は、動作モードとして、前進(D)モード、後進(R)モード、中立(N)モード、及び駐車(P)モードを有する。
【0040】
ダウンシフト判定部40jは、入力信号生成部40iで生成された動作モードSELMODE、タービン回転速度Nt、プライマリ回転速度Np、車速VSP等に基づいて、運転者が意図しないダウンシフトが発生したか判定する。
【0041】
なお、運転者が意図しないダウンシフトの発生要因としては、例えば、プライマリ回転速度センサ66の故障、プライマリソレノイドバルブ5bの故障、変速機コントローラ40の故障(実変速比演算異常、目標変速比演算異常、目標Pp演算異常、目標Ps演算異常、目標Ip演算異常、目標Is演算異常)等が考えられる。
【0042】
ダウンシフト判定部40jは、運転者が意図しないダウンシフトが発生したと判定すると、ダウンシフト検知信号をソレノイド駆動部40kに出力する。
【0043】
ソレノイド駆動部40kは、ダウンシフト判定部40jからダウンシフト検知信号が入力されると、セレクトソレノイドバルブ5eに供給するセレクトソレノイド指示電流を、前進クラッチ3aに供給される油圧が低下するように調整する。
【0044】
前進クラッチ3aは、供給される油圧が低下することでトルク伝達容量が低下する。その結果、前進クラッチ3aがスリップしてエンジン10から駆動輪50に伝達される制動力が低減される。よって、車両100の減速度が低減されるので、運転者に与える違和感を抑制できる。
【0045】
なお、前進クラッチ3aが解放されるまで前進クラッチ3aに供給する油圧を低下させてもよい。前進クラッチ3aのトルク伝達容量を減少させることには、前進クラッチ3aを解放状態としてトルク伝達容量をゼロにすることも含まれる。
【0046】
続いて、
図3を参照しながら変速機コントローラ40が行う制動力制御の処理について説明する。
図3は、変速機コントローラ40が行う制動力制御の処理をフローチャートで示す図である。制動力制御の処理は一定時間ごとに実行される。
【0047】
ステップS11では、変速機コントローラ40は、ダウンシフト判定を行うダウンシフト判定条件が成立したか判定する。
【0048】
ダウンシフト判定条件は、例えば、以下の条件である。
(a)前進クラッチ3aが締結状態である。
(b)車速VSPが所定車速(例えば、40km/h)以上である。
(c)自動変速機20の動作モードが前進(D)モードである。
(d)ロックアップクラッチ2aが締結状態である。
【0049】
変速機コントローラ40は、条件(a)~条件(d)が全て成立した場合に、ダウンシフト判定条件が成立したと判定する。
【0050】
変速機コントローラ40は、ダウンシフト判定条件が成立したと判定すると、処理をステップS12に進める。また、変速機コントローラ40は、ダウンシフト判定条件が成立していないと判定すると、処理を終了する。
【0051】
ステップS12では、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度に基づいて、ダウンシフト判定を行う。タービン回転速度Ntの変化速度は、単位時間当たりのタービン回転速度Ntの変化量[rpm/s]である。具体的には、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上であるか判定する。
【0052】
所定変化速度は、車両100の諸元や実験結果に基づいて、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上の場合にエンジン10の制動力が運転者に違和感を与える可能性がある値に設定される。一般的な車両では、所定変化速度は、例えば、5000[rpm/s]~6000[rpm/s]とされる。
【0053】
ステップS12のダウンシフト判定は、ロックアップクラッチ2aが締結状態で行われる。よって、言い換えると、ステップS12では、エンジン10の回転速度の変化速度が所定変化速度以上であるかを判定している。
【0054】
変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上であると判定すると、処理をステップS13に進める。また、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上でないと判定すると、処理をステップS15に進める。
【0055】
ステップS13では、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第1時間以上継続したか判定する。
【0056】
変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第1時間以上継続したと判定すると、処理をステップS14に進める。また、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第1時間以上継続していないと判定すると、処理を終了する。
【0057】
ステップS14では、変速機コントローラ40は、前進クラッチ3aに供給する油圧を低下させて前進クラッチ3aのトルク伝達容量を減少させる。
【0058】
タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第1時間以上継続した場合に前進クラッチ3aのトルク伝達容量を減少させるのは、タービン回転速度Ntの変化速度が所定変化速度以上になったとしても、短時間であれば運転者に違和感を与える可能性は低いからである。このような観点から、所定第1時間は、例えば、数十[ms]~数百[ms]とされる。
【0059】
ステップS15では、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntに基づいてダウンシフト判定を行う。具体的には、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上であるか判定する。
【0060】
ステップS12のダウンシフト判定では検知されないダウンシフトであっても、エンジン10の回転速度が高回転域になった場合は、エンジン10で発生する制動力が運転者に違和感を与える可能性がある。よって、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上になった場合も、ダウンシフトが発生したと判定する。
【0061】
所定速度は、車両100の諸元や実験結果に基づいて、タービン回転速度Ntが所定速度以上の場合にエンジン10の制動力が運転者に違和感を与える可能性がある値に設定される。一般的な車両では、所定速度は、例えば、6000[rpm]~7000[rpm]とされる。所定速度は、エンジン10のオーバーレブ設定値と同じ値としてもよい。
【0062】
ステップS15のダウンシフト判定は、ロックアップクラッチ2aが締結状態で行われる。よって、言い換えると、ステップS15では、エンジン10の回転速度が所定速度以上であるかを判定している。
【0063】
変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上であると判定すると、処理をステップS16に進める。また、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上でないと判定すると、処理をステップS17に進める。
【0064】
ステップS16では、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上の状態が所定第2時間以上継続したか判定する。
【0065】
変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上の状態が所定第2時間以上継続したと判定すると、処理をステップS14に進める。また、変速機コントローラ40は、タービン回転速度Ntが所定速度以上の状態が所定第2時間以上継続していないと判定すると、処理を終了する。
【0066】
ステップS16の処理を行う理由は、ステップS13の処理を行う理由と同じである。よって、所定第2時間は、例えば、数十[ms]~数百[ms]とされる。所定第2時間は、所定第1時間と同じ時間であってもよい。ただし、所定速度をエンジン10のオーバーレブ設定値と同じ値にした場合は、エンジン10を保護する観点から、より短い時間に設定することが好ましい。
【0067】
ステップS17では、変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度に基づいてダウンシフト判定を行う。具体的には、変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度が上述した所定変化速度以上であるか判定する。
【0068】
プライマリ回転速度センサ66が正常であっても、例えば、変速機コントローラ40が故障して各種演算を正常に行うことができない場合や、プライマリソレノイドバルブ5bが故障した場合等は、目標変速比への変速により運転者が意図しないダウンシフトが発生することが考えられる。ここで、タービン回転速度センサ65も故障していた場合は、ステップS12のダウンシフト判定及びステップS15のダウンシフト判定ではダウンシフトを正しく検知できない。
【0069】
よって、本実施形態の変速機コントローラ40は、ステップS12のダウンシフト判定及びステップS15のダウンシフト判定に加えて、プライマリ回転速度Npの変化速度に基づくダウンシフト判定を行う。
【0070】
ステップS17のダウンシフト判定は、ロックアップクラッチ2a及び前進クラッチ3aが締結状態で行われる。よって、言い換えると、ステップS17では、エンジン10の回転速度の変化速度が所定変化速度以上であるかを判定している。
【0071】
変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度が所定変化速度以上であると判定すると、処理をステップS18に進める。また、変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度が所定変化速度以上でないと判定すると、処理を終了する。
【0072】
ステップS18では、変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第3時間以上継続したか判定する。
【0073】
変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第3時間以上継続したと判定すると、処理をステップS14に進める。また、変速機コントローラ40は、プライマリ回転速度Npの変化速度が所定変化速度以上の状態が所定第3時間以上継続していないと判定すると、処理を終了する。
【0074】
ステップS18の処理を行う理由は、ステップS12の処理を行う理由と同じである。よって、所定第3時間は、例えば、数十[ms]~数百[ms]とされる。所定第3時間は、所定第1時間と同じ時間であってもよい。
【0075】
以上のように構成された自動変速機20の主な作用効果についてまとめて説明する。
【0076】
(1)(5)(7)(8)自動変速機20は、エンジン10の回転を変速して駆動輪50に伝達するバリエータ4と、エンジン10から駆動輪50へのトルクの伝達を制御するクラッチとしての前進クラッチ3aと、を備え、エンジン10の回転速度の変化速度が所定変化速度以上になると、前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる。
【0077】
これによれば、エンジン10の回転速度の変化速度が所定変化速度以上になると、前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる。よって、プライマリ回転速度センサ66の故障等により発生する運転者が意図しないダウンシフトが生じてもエンジン10から駆動輪50に伝達される制動力が低減され、車両100の減速度が低減されるので、運転者に与える違和感を抑制できる。より具体的には、エンジン10の回転速度の変化速度に基づいてダウンシフトが検知される。よって、プライマリ回転速度センサ66の故障等により発生する運転者が意図しないダウンシフトを検知できる。また、プライマリ回転速度センサ66の故障等による運転者が意図しないダウンシフトが検知された場合、エンジン10と駆動輪50との間に設けられた前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させるので、エンジン10から駆動輪50に伝達される制動力が低減される。これにより、車両100の減速度が低減されるので、運転者に与える違和感を抑制できる。
【0078】
(2)自動変速機20は、エンジン10とバリエータ4との間に設けられ、入力軸2bがエンジン10の出力軸10aと連結されたトルクコンバータ2と、トルクコンバータ2に内蔵され、締結されるとトルクコンバータ2の入力軸2bと出力軸2cとが直結するロックアップクラッチ2aと、をさらに備え、ロックアップクラッチ2aが締結された状態で出力軸2cの回転速度Nt(タービン回転速度Nt)の変化速度が所定変化速度以上になると、前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる。
【0079】
これによれば、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntが上昇したことにより前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる。よって、運転者が意図しないダウンシフトが生じてもエンジン10から駆動輪50に伝達される制動力が低減され、車両100の減速度が低減されるので、運転者に与える違和感を抑制できる。また、トルクコンバータ2の出力軸2cの回転速度Ntが上昇したことによりダウンシフトを検知できるので、プライマリ回転速度センサ66や変速機コントローラ40が故障した場合であっても、また、エンジン10の回転速度の情報がなくても、運転者が意図しないダウンシフトを検知できる。
【0080】
(3)自動変速機20は、バリエータ4の入力軸4dの回転速度Np(プライマリ回転速度Np)の変化速度が所定変化速度以上になると、前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる。
【0081】
これによれば、バリエータ4の入力軸4dの回転速度Npが上昇したことにより前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる。よって、運転者が意図しないダウンシフトが生じてもエンジン10から駆動輪50に伝達される制動力が低減され、車両100の減速度が低減されるので、運転者に与える違和感を抑制できる。また、バリエータ4の入力軸4dの回転速度Npが上昇したことによりダウンシフトを検知できるので、タービン回転速度センサ65が故障した場合であっても、運転者が意図しないダウンシフトを検知できる。
【0082】
(4)自動変速機20のバリエータ4は、エンジン10側に設けられたプライマリプーリ4aと、駆動輪50側に設けられセカンダリプーリ4bと、プライマリプーリ4aとセカンダリプーリ4bとの間に掛け回されたベルト4cと、を備えた無断変速機構である。
【0083】
無断変速機構においても、故障による運転者が意図しないダウンシフトが生じてもエンジン10から駆動輪50に伝達される制動力が低減され、車両100の減速度が低減されるので、運転者に与える違和感を抑制できる。
【0084】
(6)自動変速機20は、前進クラッチ3aのトルク伝達容量を低下させる際に、前進クラッチ3aが解放されるまでトルク伝達容量を低下させるようにしてもよい。
【0085】
これによれば、エンジン10と駆動輪50とを切り離すことができるので、運転者が意図しないダウンシフトによる車両100の減速をより抑制することができる。
【0086】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したものに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0087】
例えば、上記実施形態では、駆動源から駆動輪へのトルクの伝達を制御するクラッチが前進クラッチ3aである場合について説明した。しかしながら、駆動源から駆動輪へのトルクの伝達を制御するクラッチは、駆動源から駆動輪への動力伝達経路上に設けられた他のクラッチであってもよい。
【0088】
また、上記実施形態では、変速機構がバリエータ4である場合について説明した。しかしながら、変速機構は、他の無段変速機構であってもよいし、有段変速機構であってもよい。
【0089】
変速機コントローラ40が実行する各種プログラムは、例えばCD-ROM等の非一過性の記録媒体に記憶されたものを用いてもよい。
【符号の説明】
【0090】
10 エンジン(駆動源)
10a 出力軸
20 自動変速機
40 変速機コントローラ(コンピュータ)
50 駆動輪
2 トルクコンバータ
2a ロックアップクラッチ
2b 入力軸(入力要素)
2c 出力軸(出力要素)
3a 前進クラッチ(クラッチ)
4 バリエータ(変速機構、無段変速機構)
4a プライマリプーリ
4b セカンダリプーリ
4c ベルト(無端状部材)
4d 入力軸