(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】圧延機駆動装置のための伝動機構、伝動機構を有する圧延機駆動装置、並びに、圧延機駆動機構としての伝動機構の使用
(51)【国際特許分類】
F16H 55/08 20060101AFI20240131BHJP
B21B 35/14 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
F16H55/08 Z
B21B35/14 Z
(21)【出願番号】P 2022577505
(86)(22)【出願日】2021-06-16
(86)【国際出願番号】 EP2021066170
(87)【国際公開番号】W WO2021255059
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2023-01-10
(31)【優先権主張番号】102020207477.1
(32)【優先日】2020-06-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(31)【優先権主張番号】102021206054.4
(32)【優先日】2021-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035426
【氏名又は名称】エス・エム・エス・グループ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(74)【代理人】
【識別番号】100221981
【氏名又は名称】石田 大成
(72)【発明者】
【氏名】クラマー・マルクス
(72)【発明者】
【氏名】シュタインザイファー・ヤン
(72)【発明者】
【氏名】ラッツァーロ・クラウス
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-511469(JP,A)
【文献】特開2017-119462(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
B21B 35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧延機駆動装置のための伝動機構(6)であって、この伝動機構が、
非対称的な噛み合い部を有する、係合状態にある少なくとも2つの歯車(3)の間の、少なくとも1つのインボリュート曲線平歯噛み合い部を備える上記伝動機構において、
前記歯車(3)の負荷支持する歯面(5)の標準圧力角が、20°よりも大きく、且つ、30°より小さいかまたは同じであり、および、
前記歯車の後歯面(4)の標準圧力角が、14°より大きいかまたは同じであり、且つ、22°よりも小さい、
ことを特徴とする伝動機構。
【請求項2】
少なくとも、前記歯車(3)の歯溝プロフィルは、楕円形の歯元円形部(7)を有していることを特徴とする請求項1に記載の伝動機構。
【請求項3】
前記負荷支持する歯面(5)の前記標準圧力角は、25と28°との間であり、且つ、前記後歯面(4)の前記標準圧力角が15と21°との間であることを特徴とする請求項1または2に記載の伝動機構。
【請求項4】
前記歯車(3)の前記負荷支持する歯面(5)の基準プロフィルの歯末のたけ係数は、1と1.2との間であることを特徴とする請求項1から3のいずれか一つに記載の伝動機構。
【請求項5】
前記歯車(3)の前記負荷支持する歯面(5)の基準プロフィルの歯元のたけ係数は、1.2と1.4との間であることを特徴とする請求項1から4のいずれか一つに記載の伝動機構。
【請求項6】
前記歯車(3)の標準モジュールmは、16と40mmとの間であることを特徴とする請求項1から5のいずれか一つに記載の伝動機構。
【請求項7】
請求項1から6の少なくとも1つの特徴を有する伝動機構(6)を有する圧延機駆動装置。
【請求項8】
圧延機駆動機構としての、請求項1から7のいずれか一つの特徴を有する伝動機構(6)の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延機駆動装置のための伝動機構、伝動機構を有する圧延機駆動装置、並びに、圧延機駆動機構としての伝動機構の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延機内における多数の駆動構成要素、特に金属の平板製品のための駆動構成要素は、回転方向または負荷方向の変化無しに作動される。圧延機の動力伝達系統内における噛み合い部を対称的に構成することは公知である。この対称性は、歯の噛み合い歯面角度に関する。
通常、歯車の負荷支持する歯面(作業歯面)と同様に無負荷の歯面(後歯面)も、標準圧力角(αn、同じ20°)でもって構成される。
【0003】
ただ1つの回転方向だけにおいて作動される伝動機構における、そのような対称的な噛み合い部は、それぞれに、常に歯車の同じ作業歯面が回転の間じゅう負荷されることの欠点を引き起こす。ただ1つの歯面の、それぞれに片側での負荷によって、伝動機構の全ポテンシャルは、この伝動機構の出力密度を考慮してただ不十分にだけ利用される。
【0004】
基本的に、従来技術において、非対称的な噛み合い部を有する伝動機構を備えることは公知である。非対称的な噛み合い部の原理は、噛み合い部のそれぞれ1つの歯の異なる歯面圧力角に基づいている。この処置によって、負荷能力の増大と伝動機構のスムーズな動きとは、達成されるべきである。
歯の引張負荷される側での圧力角の合目的な増大に基づいて、この側で生じる歯元応力とヘルツ応力とは低減される。互いに係合状態にある歯面の間のこの接触応力は、それぞれの歯面の歯曲率半径に依存する。
【0005】
更に、従来技術から、インボリュート曲線噛み合い部を有する伝動機構を形成することは公知である。インボリュート曲線噛み合い部において、歯面によって相互に作用する力は、歯車プロフィルに対して法線方向に、且つ、両方の歯車の基礎円直径に対して接線方向に、いわゆるピッチ点を通って延びる。インボリュート曲線噛み合い部において、プロフィルシフトを有する噛み合い部とプロフィルシフトを有していない噛み合い部との間で相違がある。
プロフィルシフトを有するインボリュート曲線平歯噛み合い部は、例えば、特許文献1から公知である。この引用文献1は、互いに係合状態にある2つの歯車の間の、インボリュート曲線平歯噛み合い部を記載しており、その際、プロフィルシフトの大きさが、歯幅にわたって直線状に変化している。このことによって、特に、互いに係合状態にされる歯の歯面が急激に負荷されるのではなく、むしろ、次第に負荷されることは達成されるべきである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】独国特許出願公開第24 46 172 A1号明細書
【非特許文献】
【0007】
【文献】社団法人駆動技術研究会の研究プラン(FVAパンフレット 番号2141X 非対称的な噛み合い部の標準計算、2015年6月30)(Forschungsvorhaben der Forschungsvereinigung Antriebstechnik e V. (FVA-Heft Nr. 2141 X Normberechnung asymmetrischen Verzahnung, veroeffentlicht am 30.6.2015))
【文献】社団法人駆動技術研究会の研究プラン 番号484III(FVAパンフレット ナンバー1126、2015年2月28日刊行)(Forschungsvorhaben Nummer 484 III der Forschungsvereinigung Antriebstechnik e.V. (FVA-Heft Nummer 1126, veroeffentlicht am 28. Februar 2015))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の根底をなす課題は、スムーズな動きおよび負荷能力に関して従来技術に従う伝動機構に比して改善されている、圧延機駆動装置のための伝動機構を提供することである。特に、伝動機構の負荷能力の著しい増大は達成されるべきである。
このことは、歯車の相応して高い強度が、相応して高い回転トルク伝達の際に達成されるべきであることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、請求項1の特徴を有する伝動機構、請求項7の特徴を有する圧延機駆動装置、および、請求項8に従う伝動機構の使用によって解決される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の視点により、圧延機駆動装置のための伝動機構が提供され、この伝動機構が、
非対称的な噛み合い部を有する、係合状態にある少なくとも2つの歯車の間の、少なくとも1つのインボリュート曲線平歯噛み合い部を備え、
その際、前記歯車の負荷支持する歯面の標準圧力角αnが、20°よりも大きく、且つ、30°より小さいかまたは同じであり、および、
前記歯車の後歯面の標準圧力角αnが、14°より大きいかまたは同じであり、且つ、22°よりも小さい。
以下で同様に、作業歯面としても称される、この歯車の負荷支持する歯面は、駆動する歯車の歯において、回転方向において先行し、且つ、引張応力のもとにある歯面であり、他方、この歯の後歯面が、駆動する歯車において、歯車の回転方向において後行し、且つ、圧縮応力のもとにある歯面である。
駆動される歯車において、歯の負荷支持する歯面は、駆動する歯車の歯の負荷支持する歯面と係合状態にある歯面であり、即ち、この駆動する歯車に面している。この歯面は、係合の際に引張応力のもとにある。
【0011】
非特許文献1内において、非対称的な噛み合い部の幾何学的形状および負荷能力に対する標準計算案が提示されている。非特許文献2内において、非対称的な平歯車-噛み合い部のための設計方法論が提示されており、この設計方法論において、正面噛み合い率に対する非対称的な平歯車-噛み合い部の耐負荷能力の影響が示唆されている。
設計推奨事項は、非対称的な噛み合い部の正面噛み合い率を可能な限り対称的な参照噛み合い部に適合させることである。
両方の公開刊行物内において、並びに、同様にそこで言及されている参考文献内においても、歯元応力の低減に基づいての負荷能力の増大が記載されている。この処置方法は、但し、個々のパラメータ研究調査の数値的な強度の証明のために、ミーゼス仮説(GEH)による比較応力だけが使用されることの欠点を引き起こす。
【0012】
比較応力のこの様式において、作用方向、応力成分、および、同様にこれらの符号(引張応力または圧縮応力)の情報は失われる。純粋に静力学的な負荷の観点は、そこで説明されたモデル観察において遥かにより決定的に重要である。
この静力学的な観察の方法に基づいて、確かに値的に最大に生じる応力は検出され得るが、しかしながら、歯車の係合サイクルの間じゅう、最大に生じる応力振幅および中間応力の分配は検出され得ない。特にこの応力振幅は、重要な影響力を、サイクル的な曲げ応力に対して、およびこれに伴って、同様に構造部材強度に対しても有している。
【0013】
本願の発明者は、非対称的な噛み合い部プロフィルの最適化のために特に圧延機駆動機構内における利用のために使用される特別の幾何学的な影響パラメータを規定した。
最適化プロフィルの目標値範囲は、以下で8つの不等式によって規定されている:即ち、
【0014】
【0015】
目標値範囲は、正面噛み合い率の維持、最小の歯先厚さの維持、および、最小の頭部遊隙の維持を保障する。更に、非対称的な歯プロフィルの維持は要求され、且つ、係合障害の発生が排除される。
これら設定によって、非対称的な歯プロフィルは、最適に、連続的に作動される圧延機動力伝達系統内における負荷状況に対して適合される。
【0016】
このことから、本発明に従い、前記歯車の負荷支持する歯面の標準圧力角が、20°よりも大きく、且つ、30°より小さいかまたは同じであり、および、
前記歯車の後歯面の標準圧力角が、14°より大きいかまたは同じであり、且つ、22°よりも小さい、有利には、14°より大きいかまたは同じであり、且つ、20°よりも小さい場合、最適な非対称的な歯プロフィルが与えられる。
【0017】
本発明に従う伝動機構の特に有利な変形例において、歯溝プロフィルが、楕円形の歯元円形部を有していることは意図されている。歯面のインボリュート曲線と歯元領域との間の、楕円形の移行部によって、歯元負荷能力の更なる著しい増大が与えられる。
【0018】
本発明に従う伝動機構の更に有利な変形例において、前記負荷支持する歯面の前記標準圧力角αnが、25と28°との間であり、且つ、前記後歯面の前記標準圧力角αnが18と22°との間であることは意図されている。
【0019】
前記歯車の前記負荷支持する歯面の基準プロフィルの歯末のたけ係数が、1と1.2との間である場合、更に有利、且つ、合目的である。基準プロフィルの歯末のたけ係数は、標準モジュールの係数として、歯末のたけをミリメートルで与える。
【0020】
本発明の伝動機構の更に有利な変形例において、前記歯車の基準プロフィルの歯元のたけ係数は、1.2と1.4との間である。基準プロフィルの歯元のたけ係数は、噛み合い部の標準モジュールに乗じて、歯元のたけをミリメートルで与える。
【0021】
合目的に、前記歯車の標準モジュールは、16と40mmとの間である。
【0022】
本発明の更に別の視点は、前述された特徴のいずれか一つの特徴を有する伝動機構を有する圧延機駆動装置に関する。要するに、本発明は、圧延機駆動機構としての、前述された特徴の一つまたは複数の特徴を有する伝動機構の使用に関する。
【0023】
本発明を、以下で、図内において図示された実施例との関連のもとで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1a】対称的、および、非対称的な噛み合い部の、歯プロフィル形状の概略図である。
【
図1b】非対称的な噛み合い部の互いに係合している歯の応力挙動の概略図であり、その際、上側の図内において、歯2の位置Aにおける引張応力が、および、下側の図内において、同じ位置Aにおける圧縮応力が図示されている。
【
図1c】公知の理論的な計算の基礎に従う歯応力と、本願の発明者によって実施された固有の検査に従う実際の応力経過との間の相違を、対比して示している図である。
【
図2】圧延機駆動装置の伝動機構の、互いに係合状態にある2つの歯の間の、インボリュート曲線平歯噛み合い部の概略図である。
【
図3】本発明に従う非対称的なインボリュート曲線平歯噛み合い部の、係合状態にある2つの歯の概略図である。
【
図4】本発明に従う歯プロフィルの負荷支持する歯面の、楕円形の歯元円形部の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1aは、概略的に、歯車3の個々の歯2のプロフィルを示しており、その際、
図1aの左側の図が、対称的な歯プロフィルを、および、この
図1aの右側の図が、非対称的な歯プロフィルを示している。それぞれの左側の噛み合い歯面は、以下で、後歯面4と称され、右側の噛み合い歯面は、それとは反対に歯面5と称される。
【0026】
発明者による、非対称的な噛み合い部の幾何学的形状と負荷能力とに関する、研究プラン番号2141Xにおいて提示された標準計算案の分析は、従来公知の研究結果が、歯面の実際上の応力挙動を十分に再現していないことを明らかにした。相応する対比は、
図1bおよび1c内において示されている。
両方の図は、互いに係合状態にある歯車3と、細線において、歯1、2互いに係合状態にある噛み合い歯面の応力経過とを図示している。上側の図内において位置Aにおける歯2の引張応力が観察され、他方、下側の図内において、位置Aにおける歯の圧縮応力が観察される。
【0027】
図1c内において、左側のグラフは、理論的な応力経過を示しており、この応力経過が、研究プランに従う標準計算案から与えられ、他方、右側のグラフが、ミーゼス仮説による比較応力と実際に検出された歯面の応力挙動とを互いに対比している。実際上の応力挙動は、明色のグラフでもって図示されている。
図1b内における下側の図に従う位置Aにおける圧縮応力の最大と、
図1b内における上側の図に従う位置Aにおける引張応力の最大とは、本発明の基礎である検査に従う実際に生じる応力に相応する。このことから、ミーゼス応力の最大の専らの観察(
図1c内における左側のグラフ)が、強度評価のための如何なる十分な判断基準でもないということは判明した。
応力(引張/圧縮)の方向性の影響および作用、並びに、歯状の噛合いを介しての非定常の挙動は考慮されるべきである。小さな歯溝、即ち極限の圧力角組み合わせにおいて、歯状の噛合いを介しての隣接する歯の連結の影響は観察され得、これら連結の影響が歯元応力の二重振幅を増大し、且つ、これに伴って負荷能力を低減する。
【0028】
図3は、互いに係合状態にある2つの歯車3の、本発明に従う、最適化されたインボリュート曲線平歯車噛み合い部を示しており、その際、
図3内において上側に図示された歯車3が、駆動する歯車であり、且つ、
図3内において下側に図示された歯車が、駆動される歯車である。駆動する歯車の負荷支持する歯面5の標準圧力角αnは、この実施例において26°であり、他方、この歯車の後歯面4の圧力角αnが18°である。
本発明に従い、そのような幾何学的形状は、特に、圧延機駆動装置のための伝動機構6の非対称的なインボリュート曲線平歯噛み合い部において有利であることが判明した。16と40mmとの間の標準モジュールmを有する大きな伝動機構としてのそのような伝動機構6は、
図2内において図示されている。本発明に従う歯プロフィルによって、少なくとも12%の回転トルク増大は達成可能である。
【0029】
歯元円形部7の有利な実施形態は、
図4内において図示されている。これによって、歯元負荷能力の更なる増大は達成可能である。このことが、破線において示唆されているように、本発明に従い、歯プロフィルは、インボリュート曲線と歯元領域との間の楕円形の移行部を備えている。
【符号の説明】
【0030】
1 歯
2 歯
3 歯車
4 後歯面
5 負荷支持する歯面
6 伝動機構
7 歯元円形部