(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】滑り支承
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20240131BHJP
F16F 15/03 20060101ALI20240131BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/03 G
E04H9/02 331E
(21)【出願番号】P 2023002300
(22)【出願日】2023-01-11
(62)【分割の表示】P 2019054944の分割
【原出願日】2019-03-22
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】馮 徳民
(72)【発明者】
【氏名】田 啓祥
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-207544(JP,A)
【文献】特開2012-041782(JP,A)
【文献】特開平04-161575(JP,A)
【文献】特開平08-068234(JP,A)
【文献】特開平09-268800(JP,A)
【文献】特開平11-125308(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/00-15/36
E04H 9/00-9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部構造体に設けられ
磁石に吸着される磁性材料で形成された下向きの滑り面と、下部構造体に設けられた上向きの滑り面と、前記上向き滑り面に設けられた磁力発生部と、を備える滑り支承と、
前記磁力発生部により発生する磁力を制御する制御部と、
前記制御部に接続するセンサと、を有し、
前記センサは、前記上部構造体または前記下部構造体の振動量を検出し、
前記制御部は、前記センサの検出結果に基づいて発生する磁力を制御する、免震装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記センサが検出した振動量に応じて、前記磁力発生部において磁力を発生させるときと、磁力を発生させないときがある、請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記磁力発生部は、複数のコイルを有し、
前記磁力発生部は、第1コイル環状列と、前記第1コイル環状列よりも半径が大きい第2コイル環状列を有する、請求項1または請求項2に記載の免震装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記第1コイル環状列から発生する磁力よりも、前記第2コイル環状列から発生する磁力が大きくなるように磁力を制御する、請求項3に記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、滑り支承に関する。
【背景技術】
【0002】
滑り支承は様々な用途に用いられており、そのうちの1つとして、滑り支承は、地震時の建物の揺れを抑制する免震装置に用いられている。
このような免震装置は、例えば、建物である上部構造体と建物の基礎をなす下部構造体との間に配設された複数の積層ゴムと、複数の滑り支承と、エネルギー減衰手段とを備えている。
そして、複数の積層ゴムと複数の滑り支承とで上部構造体を水平方向に移動可能に支持し、上部構造体または下部構造体に水平方向の力が作用した場合、下部構造体に対して上部構造体を水平方向へ移動させ、風や地震などによる揺れが上部構造体に直接伝わらないようにしている。
また、積層ゴムは、上部構造体が水平方向に変位した際、水平方向の変位に対応した大きさの弾性力により上部構造体を水平方向で元の位置の方向に付勢している。
エネルギー減衰手段は、地震エネルギーを減衰するもので、エネルギー減衰手段として、積層ゴムの中央部に上下に挿通される鉛プラグや、上部構造体と下部構造体との間に架け渡されるオイルダンパーなどが用いられている。
鉛プラグは、上部構造体の水平方向へ移動により塑性変形することにより地震エネルギーを減衰するものであり、オイルダンパーは、ピストン装置が伸縮することによりオイルの粘性抵抗で地震エネルギーを減衰するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで従来の滑り支承に着目すると、従来の滑り支承は、免震装置に使用される場合に限らず、上部構造体を水平方向に移動可能に支持する機能しか奏していない。
本発明は前記事情に鑑み案出されたもので、本発明の目的は、上部構造体を水平方向に移動可能に支持する機能に加え、エネルギーを減衰する機能を持たせた滑り支承を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために、本発明は、上部構造体に設けられた下向きの滑り面と、下部構造体に設けられた上向きの滑り面とを備え、前記下向きの滑り面と前記上向きの滑り面のうちの一方の滑り面は、他方の滑り面の輪郭よりも小さく、前記一方の滑り面は、前記他方の滑り面の中央部に位置し、前記上部構造体または前記下部構造体に水平方向の力が作用したときに前記一方の滑り面は前記他方の滑り面の前記中央部からその周囲の外周部に滑動する滑り支承であって、前記一方の滑り面は、磁石に吸着される磁性材料で摩擦係数が小さく形成され、前記他方の滑り面は、磁力が透過する材料で摩擦係数が小さく形成され、前記他方の滑り面に、前記一方の滑り面に対して磁力を発生させる磁力発生部が設けられ、前記磁力発生部により発生する磁力を制御する制御部が設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記他方の滑り面の中央部の輪郭は、前記一方の滑り面の輪郭よりも大きく、前記磁力発生部は、前記他方の滑り面の前記外周部に設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記磁力発生部は、前記他方の滑り面から離れた箇所で前記外周部の前記中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルからなるコイル環状列によって構成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記コイル環状列は、前記中央部の中心からの半径を異ならせて複数設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記磁力発生部は、前記他方の滑り面の前記中央部に設けられていることを特徴とする。
また、本発明は、前記磁力発生部は、前記他方の滑り面から離れた箇所で前記中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルからなるコイル環状列によって構成されていることを特徴とする。
また、本発明は、前記外周部における前記制御部による前記磁力発生部の制御は、前記中央部の中心から距離が離れるほど前記磁力を大きくするようになされることを特徴とする。
また、本発明は、前記制御部による前記磁力発生部の制御は、前記上部構造体または前記下部構造体の振動量が大きくなるほど前記磁力を大きくするようになされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上部構造体または下部構造体に水平方向の小さい力が作用した場合、一方の滑り面が他方の滑り面の中央部で移動する。
また、上部構造体または下部構造体に水平方向の大きい力が作用した場合、磁力発生部から磁力を発生させる。この磁力は、一方の滑り面が他方の滑り面に向かって吸引される方向の力として作用するため、一方の滑り面が抵抗を受けることになり、滑り支承によってもエネルギーが減衰される。
すなわち、上部構造体または下部構造体に水平方向の小さい力が作用した場合、本発明の滑り支承は従来の滑り支承と同様に機能し、また、上部構造体または下部構造体に水平方向の大きい力が作用した場合、本発明の滑り支承は従来の滑り支承と同様に機能することに加え、エネルギー減衰機能も発揮する。
また、他方の滑り面の中央部の輪郭を、一方の滑り面の輪郭よりも大きく形成すると、上部構造体または下部構造体に水平方向の小さい力が作用した場合、従来の滑り支承と同様に、一方の滑り面が、他方の滑り面の中央部の輪郭内で円滑に速やかに移動する。
また、磁力発生部を、他方の滑り面から離れた箇所で外周部の中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルのからなるコイル環状列によって構成すると、上部構造体または下部構造体に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、他方の滑り面の外周部から一方の滑り面に安定して磁力を作用させることができるため、一方の滑り面が他方の滑り面の外周部からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承によってエネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、コイル環状列を、他方の滑り面の中央部の中心からの半径を異ならせて複数設けると、上部構造体または下部構造体の水平方向への変位量が大きくなっても確実に他方の滑り面の外周部から一方の滑り面に安定して磁力を作用させることができるため、一方の滑り面が他方の滑り面の外周部からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承によってエネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、磁力発生部を他方の滑り面の中央部に設けると、他方の滑り面の中央部および外周部の双方から一方の滑り面に磁力を作用させることができるため、一方の滑り面が他方の滑り面の中央部および外周部の双方から抵抗を受けることになり、滑り支承によってエネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、中央部に設けた磁力発生部を、他方の滑り面から離れた箇所で中央部の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイルからなるコイル環状列によって構成すると、上部構造体または下部構造体に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、他方の滑り面の中央部および外周部の双方から一方の滑り面により安定して磁力を作用させることができるため、一方の滑り面が他方の滑り面の中央部および外周部の双方からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承によってエネルギーを減衰させる上で有利となる。
また、他方の滑り面の外周部において、中央部の中心から距離が離れるほど磁力発生部から発生する磁力を大きくするように磁力発生部を制御すると、上部構造体または下部構造体の水平方向への変位量が大きくなればなるほど、一方の滑り面が他方の滑り面の外周部から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承によってエネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
また、上部構造体または下部構造体の振動量が大きくなるほど磁力発生部からから発生する磁力を大きくするように磁力発生部を制御すると、上部構造体または下部構造体の振動量が大きくなるほど、一方の滑り面が他方の滑り面から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承によってエネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】(A)は滑り部材が設けられた下部構造体を断面図で示した第1の実施の形態の滑り支承の側面図、(B)は滑り部材が設けられた下部構造体の平面図である。
【
図2】(A)は滑り部材が設けられた下部構造体を断面図で示した第2の実施の形態の滑り支承の側面図、(B)は滑り部材が設けられた下部構造体の平面図である。
【
図3】(A)は滑り部材が設けられた下部構造体を断面図で示した第3の実施の形態の滑り支承の側面図、(B)は滑り部材が設けられた下部構造体の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(第1の実施の形態)
以下、本発明の滑り支承を免震装置に適用した実施の形態について図面を参照して説明する。
まず、
図1を参照して第1の実施の形態から説明する。
免震装置10Aは、例えば、建物である上部構造体12と、建物の基礎をなす下部構造体14との間に配設された複数の滑り支承16Aと、不図示の複数の積層ゴムと、不図示のエネルギー減衰手段とを備えている。
各滑り支承16Aは、上部構造体12に設けられた下向きの滑り面18と、下部構造体14に設けられた上向きの滑り面20と、磁力発生部22と、制御部24とを含んで構成され、複数の滑り支承16Aはそれら滑り面18、20を介して上部構造体12の荷重を積層ゴムと共に支持し、また、上部構造体12を下部構造体14上で移動可能に支持している。
下向きの滑り面18は、上向きの滑り面20の輪郭よりも小さく、下向きの滑り面18は上向きの滑り面20の中央部2002に位置し、上部構造体12または下部構造体14に水平方向の力が作用したときに、下向きの滑り面18は上向きの滑り面20の中央部2002からその周囲の外周部2004に向かって滑動する。
【0009】
下向きの滑り面18は、上部構造体12の下面1202に取り付けられた脚部26の下面に設けられている。本実施の形態では、脚部26は磁石に吸着される磁性材料で構成され、下向きの滑り面18は摩擦係数が小さく形成されている。
このような磁性材料として、鉄やニッケル合金など磁石に吸着する従来公知の様々な金属材料が使用可能である。
脚部26は、上部構造体12の下面1202にボルトで取着されるフランジ2602と、フランジ2602の中央部から突設された柱部2604とを備えている。
そして、柱部2604の下端面が、平坦で平滑な下向きの滑り面18に形成されている。
【0010】
上向きの滑り面20は、下部構造体14の上面1402に設けられている。
下部構造体14はコンクリート製で、下部構造体14の上面1402に平面視円形の凹部1404が設けられ、上向きの滑り面20は、この凹部1404に取着された滑り部材28の上面で構成され、上向きの滑り面20は摩擦係数が小さく形成されている。
滑り部材28は、磁力を透過する低摩擦材料から形成され、このような磁力を透過する低摩擦材料として、例えば、ポリテトラフルオロチレンを主成分とする合成樹脂材料など従来公知の様々な合成樹脂材料が使用可能である。
上向きの滑り面20は、円形の中央部2002とその外周に位置する円環状の外周部2004とで構成され、上向きの滑り面20の中央部2002は、下向きの滑り面18の直径よりも大きい直径で形成されている。したがって、上向きの滑り面20の中央部2002の輪郭は、下向きの滑り面18の輪郭よりも大きい。
【0011】
磁力発生部22は、上向きの滑り面20に設けられ、下向きの滑り面18に対して磁力を発生させるものであり、本実施の形態では、磁力発生部22は、上向きの滑り面20の外周部2004に設けられている。
磁力発生部22により磁力を発生させると、この磁力により下向きの滑り面18は上向きの滑り面20に向かって吸引される。
磁力発生部22は、上向きの滑り面20から離れた箇所で外周部2004の中央部2002の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル30からなるコイル環状列32によって構成されている。各コイル30は、制御部24から電流が供給されることで磁力を発生させる電磁石である。また、複数のコイル30は、滑り部材28に埋め込まれて配置されている。
本実施の形態では、コイル環状列32は、中央部2002の中心からの半径を異ならせて複数設けられており、コイル環状列32は、第1コイル環状列32Aと、第1コイル環状列32Aよりも中央部2002の中心からの半径が大きい第2コイル環状列32Bの2つ設けられている。
なお、磁力発生部22を構成するコイル環状列32は、2列に限定されず、1列であっても、3列以上であっても良い。
【0012】
制御部24は、磁力発生部22により発生する磁力を制御するものである。
制御部24は、CPU、記憶部、インターフェース回路などを含むマイクロコンピュータを含んで構成されている。
記憶部にはCPUが実行する制御プログラムが格納されている。
また、インターフェース回路を介して複数のコイル30、センサ34が接続されている。
センサ34は、滑り支承16Aが設置された建物、すなわち、上部構造体12あるいは下部構造体14の振動量(例えば加速度)を検出するものである。
CPUが制御プログラムを実行することでセンサ34の検出結果に基づいてコイル30に対する通電量(電流)を制御し、下向きの滑り面18に対して発生する磁力を制御する。
具体的に説明すると、大きさの異なる振動を段階ごとに分けて、各段階の振動の大きさとコイル環状列32毎の複数のコイル30に通電する通電量とを対応付けたテーブルを予め記憶部に記憶しておく。
CPUは、センサ34によって検出された振動量からテーブルを参照して振動の大きさに対応する電気量によりコイル30に通電を行う。
【0013】
本実施の形態では、制御部24は、外周部2004において中央部2002の中心から距離が離れるほど磁力発生部22から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部22を制御する。言い換えると、制御部24は、中央部2002の中心から距離が離れるほどコイル環状列32毎に複数のコイル30から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部22を制御する。すなわち、第1コイル環状列32Aの磁力よりも第2コイル環状列32Bの磁力が大きくなるように制御する。
また、本実施の形態では、センサ34で検出された上部構造体12または下部構造体14の振動量が大きくなるほど磁力発生部22から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部22を制御する。
すなわち、外周部2004において中央部2002の中心から距離が離れるほど各コイル環状列32から発生する磁力を次第に大きくし、かつ、上部構造体12または下部構造体14の振動量が大きくなるほど各コイル環状列32から発生する磁力を次第に大きくするように磁力発生部22を制御する。
【0014】
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
風などにより小さい水平方向の力が建物に作用した場合には、不図示の積層ゴムが剪断変形すると共に、下向きの滑り面18が、上向きの滑り面20の中央部2002の輪郭内で移動する。
したがって、小さい水平方向の力が建物に作用した場合、小さい水平方向の力による建物の揺れが抑制される。
この場合、制御部24は、センサ34で検出された振動量が小さいので、まだ磁力発生部22から磁力を発生させない。
【0015】
また、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、不図示の積層ゴムが剪断変形すると共に、下向きの滑り面18が、上向きの滑り面20の中央部2002から外周部2004に移動し、その際に、不図示のエネルギー減衰手段によりエネルギーが減衰される。
さらに、制御部24がセンサ34により検出した振動量の大きさに応じて磁力発生部22、すなわち、上向きの滑り面20の外周部2004に設けられた各環状コイル列32の複数のコイル30から磁力を発生させる。
この磁力は、下向きの滑り面18を上向きの滑り面20に向かって吸引する力として作用するため、下向きの滑り面18が外周部2004から抵抗を受けることになり、滑り支承16Aによっても地震エネルギーが減衰され、地震による建物の揺れが抑制される。
したがって、大きい水平方向の力が建物に作用した場合、より大きな減衰力により建物の揺れを抑制する上で有利となる。
また、滑り支承16Aによっても地震エネルギーが減衰され、免震装置10Aの減衰力の一部を滑り支承16Aが負担することから、免震装置10Aに要求される減衰力を変えずに、鉛プラグやオイルダンパーなどのエネルギー減衰手段を小型化でき、したがって、免震装置10Aの小型化を図る上で有利となる。
【0016】
なお、上向きの滑り面20の中央部2002の輪郭と、下向きの滑り面18の輪郭とを同一に形成してもよいが、本実施の形態のように、上向きの滑り面20の中央部2002を、下向きの滑り面18の直径よりも大きい直径で形成し、言い換えると、上向きの滑り面20の中央部2002の輪郭を、下向きの滑り面18の輪郭よりも大きく形成すると、風などにより小さい水平方向の力が建物に作用した場合には、従来と同様に、下向きの滑り面18が、上向きの滑り面20の中央部2002の輪郭内で円滑に速やかに移動する。
したがって、風などによる小さい水平方向の力が建物に作用した場合、建物の揺れを速やかに効率的に抑制する上で有利となる。
【0017】
また、本実施の形態では上向きの滑り面20から離れた箇所で外周部2004の中央部2002の中心を中心とした仮想円周上に周方向に等間隔をおいて配置された複数のコイル30からなるコイル環状列32によって構成されているので、建物に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、外周部2004から下向きの滑り面18に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面18が外周部2004からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16Aによって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
また、本実施の形態では、複数の第1コイル環状列32A、第2コイル環状列32Bが中央部2002からの半径を異ならせて設けられているので、建物の水平方向への変位量が大きくなっても確実に外周部2004から下向きの滑り面18に安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面18が外周部2004からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16Aによって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上で有利となる。
【0018】
また、制御部24により、上向きの滑り面20の中央部2002の中心からの距離に拘わらず磁力発生部22から発生する磁力を同一となるように磁力発生部22を制御してもよいが、本実施の形態のように、制御部24により、外周部2004において上向きの滑り面20の中央部2002の中心から距離が離れるほど磁力が大きくなるように磁力発生部22を制御すると、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、下向きの滑り面18が、上向きの滑り面20の中央部2002から離れれば離れるほど、言い換えると、建物の水平方向への変位量が大きくなればなるほど、上向きの滑り面20が外周部2004から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承16Aによって地震エネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
したがって、大きい水平方向の力が建物に作用した場合、より大きな減衰力により建物の揺れを抑制する上でより有利となる。
【0019】
また、制御部24により、センサ34で検出された建物の振動量に拘わらず磁力発生部22から発生する磁力を変化させず同一となるように磁力発生部22を制御してもよいが、本実施の形態のように、制御部24により、センサ34で検出された建物の振動量が大きくなるほど磁力発生部22から発生する磁力を次第に大きくするよう磁力発生部22を制御すると、地震などにより大きい水平方向の力が建物に作用した場合には、建物に作用する力が大きくセンサ34で検出される振動量が大きくなればなるほど、上向きの滑り面20が外周部2004から受ける抵抗が大きくなり、滑り支承16Aによって地震エネルギーを大きく減衰させる上で有利となる。
したがって、大きい水平方向の力が建物に作用した場合、より大きな減衰力により建物の揺れを抑制する上でより有利となる。
【0020】
(第2の実施の形態)
次に、
図2を参照して第2の実施の形態について説明する。
なお、以下の実施の形態では第1の実施の形態と同様な箇所、部材に同一の符号を付してその説明を省略し、異なった箇所を重点的に説明する。
第2の実施の形態に係る免震装置10Bの滑り支承16Bは、第1の実施の形態に加え、磁力発生部22を上向きの滑り面20の中央部2002にも設けた点が請求項1と異なっている。
滑り面20の中央部2002に設けた磁力発生部22は、上向きの滑り面20から離れた箇所で中央部2002の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイル30からなる第3コイル環状列32Cによって構成されている。
また、制御部24による磁力発生部22の制御は第1の実施の形態と同様になされる。
【0021】
第2の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果が奏されることは無論のこと、磁力発生部22を上向きの滑り面20の中央部2002にも設けたので、上向きの滑り面20の中央部2002および外周部2004の双方から下向きの滑り面18に磁力が作用するため、下向きの滑り面18が上向きの滑り面20の中央部2002および外周部2004の双方から抵抗を受けるので、滑り支承16Bによって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上でより有利となる。
また、中央部2002に設けた磁力発生部22は、上向きの滑り面20から離れた箇所で中央部2002の中心を中心とした仮想円周上に周方向に間隔をおいて配置された複数のコイル30からなる第3コイル環状列32Cによって構成されているので、建物に作用する水平方向の力の方向に拘わらず、中央部2002から下向きの滑り面18により安定して磁力を作用させることができるので、下向きの滑り面18が中央部2002および外周部2004の双方からより安定して抵抗を受けることになり、滑り支承16Bによって地震エネルギーを減衰させ、地震による建物の揺れを抑制する上でより一層有利となる。
【0022】
(第3の実施の形態)
次に
図3を参照して第3の実施の形態について説明する。
第3の実施の形態は、第1の実施の形態の変形例であり、第3の実施の形態に係る免震装置10Cの滑り支承16Cは、磁力発生部22を構成する複数のコイル30(第1、第2コイル環状列32A、32B)が滑り部材28に埋め込まれて配置されるのではなく、滑り部材28の下方に位置する下部構造体14の箇所に配置されている点が第1の実施の形態と異なっている。
すなわち、凹部1404の底面に中央部2002の中心を中心とした円形の凹部1410が設けられている。
凹部1410は、コイル30の全長が収容される深さで形成されている。
凹部1410に円板状のコイル保持部材36が収容され、コイル保持部材36の上面は滑り部材28の下面に接触し、本実施の形態では、接着剤により取着されている。
コイル保持部材36は、滑り部材28とは別部材で形成され、言い換えると、滑り製を有しておらず磁力が透過する合成樹脂材料で形成され、このような合成樹脂材料として従来公知の様々な合成樹脂材料が使用可能である。
【0023】
複数のコイル30は、コイル保持部材36に埋め込まれ第1コイル環状列32A、第2コイル環状列32Bとして配置され、第1コイル環状列32Aと第2コイル環状列32Bはコイル保持部材36を介して下部構造体14に配置された状態で中央部2002の中心を中心とした半径の異なる2つの仮想円周上に並べて配置されている。
したがって、複数のコイル30は、凹部1404に取着された滑り部材28から下方に離れた箇所に配置され、言い換えると、第1の実施の形態と同様に、上向きの滑り面20から離れた箇所に配置されている。
このような第3の実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果が奏されることは無論のこと、複数のコイル30が、滑り部材28とは別のコイル保持部材36に埋め込まれているため、滑り部材28が摩耗した場合に滑り部材28の交換を簡単に行なう上で有利となる。
【0024】
なお、本実施の形態では、脚部26が上部構造体12から突設されている場合について説明したが、脚部26が下部構造体14から突設されている滑り支承にも本発明は適用され、また、本発明の滑り支承は、球面滑り支承などの各種構造の滑り支承にも広くて適用され、滑り支承の用途は免震装置に限定されず、様々の用途に広く適用される。
【符号の説明】
【0025】
12 上部構造体
14 下部構造体
16A、16B、16C 滑り支承
18 下向きの滑り面(一方の滑り面)
20 上向きの滑り面(他方の滑り面)
2002 中央部
2004 外周部
22 磁力発生部
24 制御部
30 コイル
32 コイル環状列
34 センサ