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特許7429332カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-30
(45)【発行日】2024-02-07
(54)【発明の名称】カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 163/00 20060101AFI20240131BHJP
   C09D 175/02 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 5/44 20060101ALI20240131BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20240131BHJP
   C09D 179/02 20060101ALI20240131BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D175/02
C09D5/44 A
C09D7/61
C09D179/02
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023536560
(86)(22)【出願日】2022-12-20
(86)【国際出願番号】 JP2022046966
(87)【国際公開番号】W WO2023120540
(87)【国際公開日】2023-06-29
【審査請求日】2023-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2021208151
(32)【優先日】2021-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】593135125
【氏名又は名称】日本ペイント・オートモーティブコーティングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132252
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 環
(74)【代理人】
【識別番号】100088801
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 宗雄
(72)【発明者】
【氏名】山下 雄大
(72)【発明者】
【氏名】シャラフ,マハ
(72)【発明者】
【氏名】中島 沙理
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 祐斗
(72)【発明者】
【氏名】印部 俊雄
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/262549(WO,A1)
【文献】特表2011-524934(JP,A)
【文献】特開2000-026530(JP,A)
【文献】特開2000-026790(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00- 10/00
C09D 101/00-201/00
B05D 1/00- 7/26
JSTPlus(JDreamIII)
JMEDPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、
顔料(C)と、
ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含み、
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式(I):
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、カチオン電着塗料組成物。
【請求項2】
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分質量の0.2ppm以上1,200ppm以下である、請求項に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項3】
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、5万以上である、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項4】
前記顔料(C)は、体質顔料を含む、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項5】
前記カチオン電着塗料組成物は、有機スズ化合物を含まないか、あるいは、有機スズ化合物の含有量が、0.25質量%以下である、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項6】
前記アミン化エポキシ樹脂(A)が、アミン化合物とエポキシ樹脂を反応させることで得られるアミン化エポキシ樹脂であり、
前記アミン化合物が、第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せであり、
前記第1アミンが、式:
NH-(CH)n-NR1112
(式中、R11およびR12は、同一または異なって、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
を有し、
前記第2アミンが式:
1314NH
(式中、R13およびR14は、同一または異なって、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
を有する、か、または
前記アミン化合物は、ケチミン化合物およびジケチミン化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、
請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物。
【請求項7】
被塗物と、
前記被塗物上に、請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する電着塗装物。
【請求項8】
請求項1または2に記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える、電着塗装物の製造方法。
【請求項9】
被塗物に電着前処理剤を付与する工程と、
カチオン電着塗料組成物に、前記電着前処理剤が付与された前記被塗物を浸漬し、次いで、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備え、
前記カチオン電着塗料組成物は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、顔料(C)と、を含み、
前記電着前処理剤は、ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含み、
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式:
【化2】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、電着塗装物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン電着塗料組成物、電着塗装物および電着塗装物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン電着塗料は、自動車などの工業製品に防錆性を付与するための下塗り塗料として多用されている。防錆性の観点から、塗膜は被塗物上に均一に形成されることが求められる。しかし、特にエッジ部を十分に厚い塗膜で覆うことは難しく、腐食が生じ易い。そこで、塗料の粘性を高めることが提案されている。これに関し、特許文献1は、カチオン電着塗料にポリビニルホルムアミドポリマーを添加することを教示している。特許文献2は、カチオン電着塗料にポリビニル化合物を添加することを教示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2011-524934号公報
【文献】国際公開第2020/262549号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような粘性剤を添加しても、エッジ部の腐食を抑制する効果は不十分である。さらに、エッジ部の腐食を抑制しようとすると、通常、塗膜の外観は低下する。本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、防錆性、特にエッジ部防錆性および外観に優れる塗膜が得られる、カチオン電着塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明は下記態様を提供する。
[1]
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、
顔料(C)と、
ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含み、
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式(I):
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、カチオン電着塗料組成物。
[2]
前記ポリアミジン化合物の疎水化変性体が、構成単位(I)に加えて、不飽和ニトリルに由来する環化構造単位または以下の一般式(X):
【化2】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Rは置換または非置換の直鎖状または分枝状の炭素数3~12のアルキル基、または、置換または非置換の炭素数6~12の芳香族基のいずれかを少なくとも含む、疎水性構成単位である。)
で表される構造単位を有する、[1]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[3]
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分質量の0.2ppm以上1,200ppm以下である、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[4]
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、5万以上である、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[5]
前記顔料(C)は、体質顔料を含む、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[6]
前記カチオン電着塗料組成物は、有機スズ化合物を含まないか、あるいは、有機スズ化合物の含有量が、0.25質量%以下である、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[7]
前記アミン化エポキシ樹脂(A)が、アミン化合物とエポキシ樹脂を反応させることで得られるアミン化エポキシ樹脂であり、
前記アミン化合物が、第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せであり、
前記第1アミンが、式:
NH-(CH)n-NR1112
(式中、R11およびR12は、同一または異なって、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
を有し、
前記第2アミンが式:
1314NH
(式中、R13およびR14は、同一または異なって、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
を有する、か、または
前記アミン化合物は、ケチミン化合物およびジケチミン化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、
[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[8]
被塗物と、
前記被塗物上に、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する電着塗装物。
[9]
[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える、電着塗装物の製造方法。
[10]
被塗物に電着前処理剤を付与する工程と、
カチオン電着塗料組成物に、前記電着前処理剤が付与された前記被塗物を浸漬し、次いで、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備え、
前記カチオン電着塗料組成物は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、顔料(C)と、ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含み、
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式:
【化3】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、電着塗装物の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、防錆性、特にエッジ部防錆性および外観に優れる塗膜が得られる、カチオン電着塗料組成物、ならびに、電着塗装物およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
高分子粘性剤は、塗膜形成樹脂や顔料と相互作用して、カチオン電着塗料組成物の粘性を高める。塗料組成物の粘性が高まることにより、加熱時に塗料組成物が流動することが抑制される。しかしながら、塗料組成物を、エッジ部を覆った状態で硬化させることは困難である。
【0008】
本実施形態では、塗料組成物に、環状のアミジン骨格を有するポリアミジン化合物(以下、環状ポリアミジン化合物と称する。)を添加する。これにより、エッジ部防錆性が著しく向上する。環状ポリアミジン化合物によってエッジ部防錆性が向上する理由は明確ではないが、ポリアミジン化合物は電荷を有するためであると考えられる。電荷を有するポリアミジン化合物は、エッジ部に析出し易い。加えて、環状構造によって塗料組成物の粘度が高められるため、塗料組成物は、エッジ部を覆った状態で硬化することができて、エッジ部防錆性が向上する。環状ポリアミジン化合物は、塗料安定性の観点から変性して疎水基を導入することがある。疎水基を導入したものを、本明細書中では「疎水化変性体」と呼ぶ。
【0009】
塗膜形成樹脂は加熱によってある程度流動するため、得られる硬化塗膜の表面はレベリングされて、良好な外観が得られる。
【0010】
[カチオン電着塗料組成物]
本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物(以下、単に塗料組成物と称する場合がある。)は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、顔料(C)と、ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含む。
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式:
【化4】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する。
【0011】
<アミン化エポキシ樹脂(A)>
アミン化エポキシ樹脂(A)は塗膜形成樹脂である。アミン化エポキシ樹脂は、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤とともに、樹脂エマルションの形態で塗料組成物に含まれる。アミン化エポキシ樹脂(A)において、エポキシ樹脂の少なくとも1つのオキシラン環(「エポキシ基」ともいう。)がアミン化されている。
【0012】
アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、例えば、1,000以上7,000以下である。数平均分子量が1,000以上であると、得られる硬化電着塗膜の防錆性および耐溶剤性が向上し易い。数平均分子量が7,000以下であると、アミン化エポキシ樹脂(A)の粘度調整が容易となって円滑な合成が可能となり、加えて、得られたアミン化エポキシ樹脂(A)の乳化分散が容易になる。アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、1,500以上4,000以下であってもよい。
【0013】
アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定される、スチレンホモポリマー換算値である。
【0014】
アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価は、例えば、20mgKOH/g以上100mgKOH/g以下である。アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価が20mgKOH/g以上であると、塗料組成物中におけるアミン化エポキシ樹脂(A)の乳化分散の安定性が良好となる。アミン価が100mgKOH/g以下であると、硬化電着塗膜中のアミノ基の量が適正となり、塗膜の耐水性の低下が抑制される。アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン価は、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であってもよい。
【0015】
アミン価は、ASTM D2073に準じ、以下の方法で求めることができる。
(1)200ml三角フラスコにアミン化エポキシ樹脂を500mg精秤する。
(2)氷酢酸約50mlを加え、均一に溶解する。
(3)指示薬(メチルバイオレット溶液)を5~6滴加え、均一に攪拌する。
(4)0.1N過塩素酸酢酸溶液で滴定していき、明緑色となった点を終点とする。
(上記(3)および(4)は電位差滴定に置き換えてもよい。)
【0016】
アミン化エポキシ樹脂(A)の水酸基価は、例えば、150mgKOH/g以上650mgKOH/g以下である。水酸基価が150mgKOH/g以上であると、塗料組成物の硬化性が高まるとともに、塗膜外観が向上する。水酸基価が650mgKOH/g以下であると、硬化電着塗中に残存する水酸基の量が適正となり、塗膜の耐水性が向上し易くなる。アミン化エポキシ樹脂の水酸基価は、150mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であってもよい。
【0017】
水酸基価は、JIS K 0070に記載されている水酸化カリウム水溶液を用いる中和滴定法により求めることができる。
【0018】
特に、アミン化エポキシ樹脂(A)の数平均分子量が1,000~7,000の範囲内であり、アミン価が20~100mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が150~650mgKOH/g(好ましくは150~400mgKOH/g)であると、被塗物の防錆性はさらに向上し易い。
【0019】
塗料組成物は、アミン価および/または水酸基価の異なる複数のアミン化エポキシ樹脂(A)を含んでもよい。この場合、複数のアミン化エポキシ樹脂(A)の質量比に基づいて算出される平均アミン価および平均水酸基価が、上記の範囲に含まれることが好ましい。なかでも、複数のアミン化エポキシ樹脂(A)は、アミン価が20~50mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が50~300mgKOH/gであるアミン化エポキシ樹脂と、アミン価が50~200mgKOH/gであり、かつ、水酸基価が200~500mgKOH/gであるアミン化エポキシ樹脂と、を含むことが好ましい。これにより、エマルションのコア部がより疎水性となり、シェル部がより親水性となるため、被塗物の防錆性はより向上し易くなる。
【0020】
上記アミン化エポキシ樹脂(A)は、例えば、上記エポキシ樹脂のオキシラン環とアミン化合物とを反応させることによって、アミン化エポキシ樹脂を調製することができる。アミン化合物としては、一般にアミン化エポキシ樹脂を製造する時に用いられているアミン化合物を用いる。一般的に使用するアミン化合物の例としては、ブチルアミン、オクチルアミン、モノエタノールアミンなどの一級アミン;ジエチルアミン、ジブチルアミン、メチルブチルアミン、ジエタノールアミン、N-メチルエタノールアミンなどの二級アミン;ジエチレントリアミンなどの複合アミンが挙げられる。上記一級アミンは、ケトン化合物を用いてケチミン基を形成して、いわゆるブロック化により反応を制御することが可能である。使用できるケチミン基またはジケチミン基を有するアミン化合物はアミノエチルエタノールアミンのケチミン、ジエチレントリアミンのジケチミンなどが挙げられる。ケチミン基を生成するケトン化合物は、メチルイソプロピルケトン(MIPK)、ジイソブチルケトン(DIBK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、ジエチルケトン(DEK)、エチルブチルケトン(EBK)、エチルプロピルケトン(EPK)、ジプロピルケトン(DPK)、メチルエチルケトン(MEK)などが挙げられるが、メチルイソブチルケトン(MIBK)が好ましく用いられる。アミン化合物としては、三級アミンを使用してもよく、その具体例として、例えば、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミン、N,N-ジメチルエタノールアミンなどが挙げられる。これらのアミン類は1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
アミン化の際、アミン化合物は、原料エポキシ樹脂が有するエポキシ基1当量に対して0.9当量以上1.2当量以下となる量で用いられることが好ましい。アミン化の反応条件は、反応スケールなどに応じて適宜選択することができる。例えば、80℃以上150℃以下で、0.1時間以上5時間以下、あるいは120℃以上150℃以下で、0.5時間以上3時間以下反応させればよい。
【0022】
本発明のある1態様において、エポキシ樹脂のオキシラン環(「エポキシ基」ともいう。)を変性するアミン化合物として、ケチミン(ジケチミンを含む)を除く、一級アミノ基、二級アミノ基および三級アミノ基の少なくとも1種を有するアミン化合物を用いる態様が挙げられる。
【0023】
アミン化エポキシ樹脂は分子量分布を狭く制御する必要がある場合、特に分子量分布を2.7以下に制御する必要がある場合には、上記アミン化合物を特定のものに選択すると、制御しやすくなるなどの利点がある。具体的には、例えば、アミン化合物は第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せであり、かつ
第1アミンが、式:
NH-(CH)n-NR1112 (1)
(式(1)中、R11およびR12が、同一または異なって、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
を有し、
第2アミンが式:
1314NH (2)
(式(2)中、R13およびR14が、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
を有するものを用いる態様が挙げられる。これらのアミン化合物を用いると、まず、第1アミンの一級アミノ基がエポキシ樹脂と反応して消費され、残るアミノ基は二級アミノ基だけになり、これがエポキシ樹脂のエポキシ基と反応するので、反応性に優劣が無く均等に反応が進んで、分子量分布を制御できると考えている。第1アミンに存在する三級アミノ基あるいは二級アミノ基の反応で生じた三級アミノ基も、エポキシ基と反応して4級アンモニウム基になることも考えられるが、この反応は少ないと考えられる。
【0024】
上記第1アミンは、上記式(1)を有するものであり、R11およびR12は、具体的にはメチル、エチル、プロピルまたはブチルであり、末端に水酸基を有していてもよい。また、nは2~4であり、好ましくは3である。第1アミンの具体例は、アミノプロピルジエタノールアミン、ジメチルアミノプロパンジアミン、ジエチルアミノプロパンジアミン、ジブチルアミノプロパンジアミン等が挙げられる。上記第2アミンは、上記式(2)を有する二級アミンであるが、窒素原子にR13およびR14が結合したものであり、RおよびRは、共に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を有するものである。第2アミンは具体的にはジメタノールアミンやジエタノールアミンが挙げられる。
【0025】
また本発明の他の1態様において、アミン化に用いるアミン化合物は、ケチミン基またはジケチミン基を有するアミン化合物を含んでもよい。
【0026】
(他の塗膜形成樹脂)
塗料組成物は、必要に応じて、アミン化エポキシ樹脂(A)以外のアミン化樹脂、例えば、アミン化アクリル樹脂、アミン化ポリエステル樹脂を含んでもよい。塗料組成物は、また、上記アミン化樹脂以外の他の塗膜形成樹脂を含んでもよい。他の塗膜形成樹脂としては、例えば、水酸基含有アクリル樹脂、水酸基含有ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ブタジエン系樹脂、フェノール樹脂、キシレン樹脂が挙げられる。塗料組成物に含まれるすべての硬化性化樹脂のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、アミン化エポキシ樹脂(A)であってよい。
【0027】
<ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)>
ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)(以下、単に硬化剤(B)と称する場合がある。)もまた、電着塗膜を構成する。ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)は、アミン化エポキシ樹脂(A)のアミン基と優先的に反応し、さらに水酸基と反応して、アミン化エポキシ樹脂(A)を硬化させる。ブロックイソシアネート硬化剤(B)は、ポリイソシアネートを、封止剤でブロック化することによって調製することができる。
【0028】
ポリイソシアネートの例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート(3量体を含む)、テトラメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)などの脂環式ポリイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0029】
封止剤の例としては、n-ブタノール、n-ヘキシルアルコール、2-エチルヘキサノール、ラウリルアルコール、フェノールカルビノール、メチルフェニルカルビノールなどの一価のアルキル(または芳香族)アルコール類;エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテルなどのセロソルブ類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールフェノールなどのポリエーテル型両末端ジオール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオールなどのジオール類と、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸などのジカルボン酸類から得られるポリエステル型両末端ポリオール類;パラ-t-ブチルフェノール、クレゾールなどのフェノール類;ジメチルケトオキシム、メチルエチルケトオキシム、メチルイソブチルケトオキシム、メチルアミルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシムなどのオキシム類;およびε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタムに代表されるラクタム類が好ましく用いられる。
【0030】
ブロックイソシアネート硬化剤(B)のブロック化率は100%であるのが好ましい。これにより、塗料組成物の貯蔵安定性が向上する。
【0031】
硬化剤(代表的には、硬化剤(B))の含有量は、塗膜形成樹脂(代表的には、アミン化エポキシ樹脂(A))の量、構造等を考慮して設定される。具体的には、塗膜形成樹脂が有する一級アミノ基、二級アミノ基および水酸基などの活性水素含有官能基と反応するのに十分な量の硬化剤が用いられる。硬化剤は、例えば、塗膜形成樹脂と硬化剤との固形分質量比(塗膜形成樹脂/硬化剤)が、90/10~50/50、より好ましくは80/20~65/35になるように配合される。塗膜形成樹脂と硬化剤との固形分質量比によって、塗料組成物の流動性および硬化速度が制御される。
【0032】
塗料組成物は、必要に応じて、ブロックイソシアネート硬化剤(B)以外の硬化剤を含んでいてよい。他の硬化剤としては、例えば、メラミン樹脂またはフェノール樹脂などの有機硬化剤、シランカップリング剤、金属硬化剤が挙げられる。塗料組成物に含まれるすべての硬化剤のうち、80質量%以上、さらには90質量%以上、特には100質量%が、ブロックイソシアネート硬化剤(B)であってよい。
【0033】
<顔料(C)>
顔料は、塗料組成物において一般的に用いられる顔料である。顔料としては、例えば、チタンホワイト(二酸化チタン)、カーボンブラックおよびベンガラなどの着色顔料;カオリン、タルク、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、マイカおよびクレーなどの体質顔料;リン酸鉄、リン酸アルミニウム、リン酸カルシウム、トリポリリン酸アルミニウム、およびリンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アルミニウム亜鉛などの防錆顔料が挙げられる。エッジ部防錆性がより向上し得る点で、塗料組成物は体質顔料を含んでいてよい。体質顔料は、環状ポリアミジン化合物と適度に相互作用し得る。
【0034】
塗料組成物の固形分とは、塗料組成物中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全てを意味する。塗料組成物の固形分とは、具体的には、塗料組成物中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、顔料(C)および環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)、ならびに必要に応じて含まれる顔料分散樹脂等の固形成分である。
【0035】
顔料は、通常、顔料分散樹脂および顔料を含む顔料分散ペーストとして、塗料組成物に添加される。
【0036】
(顔料分散樹脂)
顔料分散樹脂は、顔料を分散させるための樹脂である。顔料分散樹脂としては、例えば、四級アンモニウム基、三級スルホニウム基および一級アミノ基から選択される少なくとも1種を有する変性エポキシ樹脂などの、カチオン基を有する顔料分散樹脂が挙げられる。顔料分散樹脂の具体例としては、四級アンモニウム基含有エポキシ樹脂、三級スルホニウム基含有エポキシ樹脂が挙げられる。水性溶媒としては、例えば、イオン交換水、少量のアルコール類を含むイオン交換水が挙げられる。
【0037】
<環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)>
環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式:
【化5】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する。
【0038】
このような環状構造を有するポリアミジン化合物は、電荷を有するためエッジ部に析出し易く、さらに塗料組成物の粘度を高める。そのため、エッジ部防錆性が向上すると考えられる。
【0039】
およびRはそれぞれ独立して、水素原子であってよい。Xは、アニオンを表し、例えば、ハロゲンイオンである。ハロゲンイオンとしては、F、Cl、Br、Iが挙げられる。なかでも、入手し易い点で、ハロゲンイオンはClであってよい。
【0040】
環状ポリアミジン化合物(D)は、例えば、N-ビニルカルボン酸アミドと不飽和ニトリルとの共重合物を、酸の存在下で加水分解することにより合成することができる。酸の存在下における加水分解の際、N-ビニルカルボン酸アミドに由来するアミド基が加水分解するとともに、不飽和ニトリルのシアノ基との反応が生じて、環状のアミジン骨格が形成される。
【0041】
N-ビニルカルボン酸アミドとしては、例えば、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-N-メチルアセトアミド、N-ビニルホルムアミド、N-メチル-N-ビニルホルムアミド、N-ビニルプロピオン酸アミドおよびN-ビニル酪酸アミドが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0042】
不飽和ニトリルは、例えば、炭素数3~18であってよく、炭素数3~9であってよい。不飽和ニトリルとして、具体的には、アクリロニトリル;メタクリロニトリル、エタクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;フマロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリルが挙げられる。これらは、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いられる。
【0043】
加水分解に使用される酸は、例えば無機の強酸であり、具体的には塩酸、硝酸およびp-トルエンスルフォン酸が挙げられる。
【0044】
環状ポリアミジン化合物(D)は、N-ビニルカルボン酸アミドと不飽和ニトリルとの共重合物の部分加水分化物であってよい。化学式を用いて、説明すると以下のように説明することができる。
【0045】
例えば、N-ビニルカルボン酸アミドをCH=CR-NH-CO-Rと表し、不飽和ニトリルをCH=CR-CNと表すと、それらが共重合したポリマーは以下の一般式(II)として通常表される。尚、一般式(I)ではRやRとしているのに、R~Rを使用しているのは、一般式(I)と一般式(II)が共重合体の異なる部分を表しているからである。
【化6】


(上記一般式(II)中、R、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基である。)
この一般式の(II)の共重合体は、各モノマーが交互に重合した状態を表しているが、実際は以下のN-ビニルカルボン酸アミドからの構成単位(III)と、不飽和ニトリルからの構成単位(IV)と、がランダムに結合して構成されているものである:
【化7】

【化8】

(上記式(III)および(IV)中、R~Rは、前記と同意義。)
【0046】
このような、共重合体において、上記一般式(II)のように、構造体単位(III)と構造体単位(IV)が横に並ぶ構造を取った時、酸の存在下で加水分解すると、N-ビニルカルボン酸アミドに由来するアミド基(式(III)のアミド基)が加水分解するとともに、不飽和ニトリルのシアノ基(式(IV)のシアノ基)との反応が生じて、環状のアミジン骨格が形成されて、一般式(I)の環状アミジン構造が生じる。
【0047】
環状ポリアミジン化合物(D)1分子中の、構成単位(I)と構成単位(II)との合計数に対する、構成単位(I)数の割合:I/(I+II)は、5%以上であってよく、10%以上であってよく、20%以上であってよい。割合:I/(I+II)は、100%であってよく、90%以下であってよく、80%以下であってよい。
【0048】
本発明ではまた、上記環状ポリアミジン化合物を変性して、疎水性部分をポリアミジン化合物中に導入することが、好適な1態様である。疎水化すると、塗料(カチオン電着塗料組成物)を形成する時に、塗料の安定性が向上するなどの利点がある。より具体的には、ポリアミジン化合物を疎水化することにより、アミン化エポキシ樹脂(A)および硬化剤を含む樹脂エマルションとポリアミジン化合物とを混合する場合における保存安定性を良好なものとすることができる利点がある。疎水化変性は、主として以下の2つの方法で行われる。疎水化変性の第1の方法は、上記の不飽和ニトリル構成単位(IV)が隣同士に並んだ時に、ニトリル基同士の酸による環化反応が起こり、環化構造単位が生じる。
【0049】
アクリロニトリルを例に取って、ニトリル環化構造単位の形成を化学反応式で表すと、以下のようになると考えられる:
【化9】

この反応式から明らかなように、二つのニトリル基(CN)が環化して、上記のような窒素原子含有6員環構造(アミノピリジン構造または6員環ピリジン誘導体様構造)が形成され、このニトリル環化構造単位が他部分と比較して疎水性が高くなっているため、疎水化することができる。
【0050】
上記疎水化変性の第1の方法は、酸の存在下に加温で反応が行われる。酸は、例えば、酢酸、ギ酸、乳酸、リン酸、シュウ酸、硫化水素などの弱酸であり、加温条件は70~98℃であるのが好ましい。また、酸の添加量は、ポリアミジン化合物100質量部に対して5~40質量部であるのが好ましく、8~25質量部であるのがより好ましい。反応時間は、加温条件および酸添加量に応じて適宜選択することができ、例えば12~80時間、より好ましくは36~72時間の範囲で選択することができる。上記反応において、反応を加速するために、加圧条件を付加してもよい。
【0051】
疎水化変性の第2の方法は、上記式(I)で表されるアミジン環を更にハロゲン化アルキル化合物と反応して、アルキル基をアミジン環に結合して、疎水性を付与する方法である。これを反応式で表すと、以下のようになる:
【化10】
(上記反応式中、R~RおよびXは、前記と同意義であり、Halはハロゲン原子を表す。)
【0052】
上記疎水化変性の第2の方法は、アルカリの存在下に加温することにより反応が行われる。反応条件として、例えばpH4.0~6.5条件下で、アルカリ性物質として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水などを加える態様が挙げられる。加温条件は80℃~98℃であるのが好ましい。反応時間は、加温条件、pH条件および使用するアルカリ性物質の種類に応じて適宜選択することができ、例えば2~36時間、より好ましくは10~24時間の範囲で選択することができる。上記反応において反応を加速するために、加圧条件を付加してもよい。
【0053】
ハロゲン化アルキル(R-Hal)では、Rは置換または非置換の直鎖状または分枝状の炭素数3~12のアルキル基、または、置換または非置換の炭素数6~12の芳香族基のいずれかを少なくとも含むものである。より具体的には、Rは、アルキル基(例えば、n-プロピル基、sec-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、ヘキシル基、n-ペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、へプチル基、ペンチル基、オクチル基等);または芳香族基(例えば、ベンジル基、ナフタレン基等)が挙げられる。これらの基の置換基として、疎水化変性に影響を及ぼさない置換基を特に限定されることなく用いることができる。置換基として、例えば、炭素数3~6のアルケニル基、炭素数3~6のアルキルエーテル基などが挙げられる。上記アルキル基、芳香族基は、置換基を有しないのが好ましい。ハロゲン化アルキル中のハロゲン原子は塩素原子、臭素原子、フッ素原子が挙げられる。ハロゲン化アルキル(R-Hal)は、より具体的にクロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロペンタン、ブロモペンタン、ヨードヘキサン、ヨードペンタン、クロロヘプタン、ブロモヘプタン、ヨードヘプタン、クロロオクタン、ブロモオクタン、ヨードオクタン等である。
【0054】
環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、例えば、5万以上である。これにより、少量で、エッジ部防錆性向上の効果を得ることができる。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、8万以上であってよく、10万以上であってよく、30万以上であってよい。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、400万以下であってよく、350万以下であってよく、320万以下であってよく、300万以下であってよい。一態様において、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、5万以上400万以下であり、8万以上320万以下であり得る。
【0055】
本開示における、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、静的光散乱法による分子量測定器(大塚電子製DLS-7000など)によって測定される。
【0056】
環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、カチオン電着塗料組成物の固形分質量の0.2ppm以上であってよい。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、1,200ppm以下であってよい。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の添加量がこのように少量であっても、エッジ部防錆性向上の効果を得ることができる。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、1ppm以上であってよく、2ppm以上であってよく、50ppm以上であってよい。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、1,000ppm以下であってよく、700ppm以下であってよく、200ppm以下であってよい。一態様において、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の上記固形分質量は、20ppm以上1,200ppm以下であり、25ppm以上1,000ppm以下であり得、25ppm以上700ppm以下であり得、50ppm以上200ppm以下であり得る。
【0057】
<硬化触媒>
塗料組成物は、硬化触媒を含んでもよい。硬化触媒は特に限定されず、塗料分野において公知のものが使用できる。硬化触媒としては、例えば、有機スズ化合物、ビスマス化合物が挙げられる。有機スズ化合物としては、例えば、ジブチル錫オキサイド、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジラウレート、ジオクチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジブチル錫ジベンゾエート、ジオクチル錫ジベンゾエートが挙げられる。ビスマス化合物としては、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、次サリチル酸ビスマス、次硝酸ビスマスが挙げられる。
【0058】
環境負荷の観点から、硬化触媒(特に、有機スズ化合物)の含有量は、塗料組成物の固形分の0.5質量%以下であってよく、0.25質量%以下であってよい。
【0059】
<亜硝酸金属塩>
塗料組成物は、さらに亜硝酸金属塩を含んでもよい。亜硝酸金属塩によって、エッジ部防錆性がより向上し得る。亜硝酸金属塩としては、アルカリ金属の亜硝酸塩またはアルカリ土類金属の亜硝酸塩が好ましく、アルカリ土類金属の亜硝酸塩がより好ましい。亜硝酸金属塩としては、例えば、亜硝酸カルシウム、亜硝酸ナトリウム、亜硝酸カリウム、亜硝酸マグネシウム、亜硝酸ストロンチウム、亜硝酸バリウム、亜硝酸亜鉛が挙げられる。
【0060】
亜硝酸金属塩の含有量は、例えば、塗膜形成樹脂および硬化剤の合計質量に対して、金属成分の金属元素換算で0.001質量%以上0.2質量%以下である。
【0061】
(その他の成分)
塗料組成物は、必要に応じて、塗料分野において一般的に用いられている添加剤、例えば、有機溶媒、乾き防止剤、消泡剤などの界面活性剤、アクリル樹脂微粒子などの粘度調整剤、はじき防止剤、無機防錆剤を含んでよい。有機溶媒としては、例えば、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノエチルヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテルが挙げられる。無機防錆剤としては、例えば、バナジウム塩、銅、鉄、マンガン、マグネシウム、カルシウム塩が挙げられる。
【0062】
さらに、上記以外に、目的に応じて公知の補助錯化剤、緩衝剤、平滑剤、応力緩和剤、光沢剤、半光沢剤、酸化防止剤、および紫外線吸収剤などが含まれてもよい。
【0063】
<カチオン電着塗料組成物の調製>
塗料組成物は、塗膜形成樹脂(代表的には、アミン化エポキシ樹脂(A))および硬化剤(代表的には、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B))を含む樹脂エマルション、顔料(C)を含む顔料分散ペースト、および、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D:以下、単に「環状ポリアミジン化合物(D)」と表すと、「環状ポリアミジンまたはその疎水化変性体(D)」を表すこともある。)を、通常用いられる方法により混合することによって、調製される。
【0064】
環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)、その他の成分および添加剤は、樹脂エマルションに添加されてもよいし、顔料分散ペーストに添加されてもよいし、樹脂エマルションと顔料分散ペーストとの混合時または混合後に添加されてもよい。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)等は、例えば、水溶液の形態でこれらに添加される。
【0065】
(樹脂エマルションの調製)
樹脂エマルションは、アミン化エポキシ樹脂(A)およびさらにその他の塗膜形成樹脂、ならびに、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)およびさらにその他の硬化剤のそれぞれを、有機溶媒中に溶解させて溶液を調製し、これらの溶液を混合した後、中和酸を用いて中和することにより、調製することができる。
【0066】
中和酸としては、例えば、メタンスルホン酸、スルファミン酸、乳酸、ジメチロールプロピオン酸、ギ酸、酢酸などの有機酸が挙げられる。中和酸は、ギ酸、酢酸および乳酸よりなる群から選択される1種またはそれ以上であってよい。
【0067】
樹脂エマルションの固形分量は、例えば、樹脂エマルション全量に対して25質量%以上50質量%以下であり、35質量%以上45質量%以下であってよい。樹脂エマルションの固形分とは、樹脂エマルション中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全てを意味する。樹脂エマルションの固形分とは、具体的には、樹脂エマルション中に含まれる、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロックイソシアネート硬化剤(B)および必要に応じて添加される他の固形成分である。
【0068】
中和酸の使用量は、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率として、10%以上100%以下であってよく、20%以上70%以下であってよい。以下、アミン化エポキシ樹脂が有するアミノ基の当量に対する中和酸の当量比率を、中和率と称する。中和率が10%以上であることにより、水への親和性が確保され、水分散性が良好となる。
【0069】
(顔料分散ペーストの調製方法)
顔料分散ペーストは、顔料分散樹脂および顔料を混合して調製される。顔料分散ペースト中の顔料分散樹脂の固形分質量は特に限定されず、例えば、顔料100質量部に対して20質量部以上100質量部以下であってよい。
【0070】
顔料分散ペーストの固形分質量は、例えば、40質量%以上70質量%以下であり、50質量%以上60質量%以下であってよい。
【0071】
顔料分散ペーストの固形分とは、顔料分散ペースト中に含まれる成分であって、溶媒の除去によっても固形となって残存する成分全てを意味する。顔料分散ペーストの固形分とは、具体的には、顔料分散ペースト中に含まれる、顔料分散樹脂、顔料および必要に応じて添加される他の固形成分である。
【0072】
[電着塗装物の製造方法]
塗料組成物を用いて被塗物に対し電着塗装することによって、電着塗膜が形成される。
電着塗膜を有する電着塗装物は、本実施形態に係るカチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、被塗物と対極との間に電圧を印加して、被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える方法(製造方法1)により製造される。
【0073】
カチオン電着塗料組成物は、上記の通り、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、顔料(C)と、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含む。
【0074】
(1)未硬化の電着塗膜の形成
カチオン電着塗料組成物中に被塗物を浸漬した後、被塗物を陰極として、対極(陽極)との間に電圧を印加する。これにより、未硬化の電着塗膜が被塗物上に析出する。
【0075】
(印加条件)
電圧は、例えば、50V以上450V以下である。浴液温度は、例えば、10℃以上45℃以下である。電圧を印加する時間は特に限定されず、例えば、2分以上5分以下である。
【0076】
(被塗物)
被塗物の材質は特に限定されず、通電可能であればよい。被塗物の形状も特に限定されず、平板状であってよく、複雑な立体形状であってよい。被塗物としては、例えば、冷延鋼板、熱延鋼板、ステンレス、電気亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム合金系めっき鋼板、亜鉛-鉄合金系めっき鋼板、亜鉛-マグネシウム合金系めっき鋼板、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金系めっき鋼板、アルミニウム系めっき鋼板、アルミニウム-シリコン合金系めっき鋼板、錫系めっき鋼板、およびこれらに化成処理(例えば、リン酸塩、ジルコニウム塩などを用いた表面処理)を施したものが挙げられる。リン酸塩で化成処理する場合、化成処理の前に、被塗物を亜鉛系、チタン系、マンガン系の表面調整剤で表面調整処理してもよい。これにより、リン酸亜鉛皮膜の結晶がより緻密になる。
【0077】
(2)電着塗膜の硬化
形成された未硬化の電着塗膜を、必要に応じて水洗した後、75℃以上200℃以下の温度で加熱する。これにより、硬化反応が生じて、硬化した電着塗膜が得られる。
【0078】
(硬化条件)
硬化温度は、100℃以上であってよく、110℃以上であってよい。硬化温度は、例えば180℃以下であってよく、150℃以下であってよい。加熱時間は特に限定されず、例えば、10分から30分である。
【0079】
[電着塗装物]
電着塗装物は、被塗物と、被塗物上に、上記のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する。電着塗膜は硬化している。電着塗装物は、例えば、上記の方法により製造される。電着塗装物は、防錆性、特にエッジ部防錆性に優れる。電着塗装物は、さらに、良好な外観を有する。
【0080】
硬化後の電着塗膜の膜厚は、防錆性の観点から、5μm以上60μm以下であってよい。硬化後の電着塗膜の膜厚は、10μm以上であってよい。硬化後の電着塗膜の膜厚は、25μm以下であってよい。
【0081】
エッジ部防錆性は、例えば、膜厚25~50μmの硬化電着塗膜に対して行われる、JIS Z 2371(2000)に準拠した塩水噴霧試験(35℃×72時間)により評価される。塩水噴霧試験後、被塗物のエッジ部において、錆の発生個数が5個/cm2未満であれば、エッジ部防錆性に優れていると評価できる。
【0082】
[電着塗装物の製造方法2]
環状ポリアミジン化合物の作用効果を考慮すると、環状ポリアミジン化合物は、電着塗装の前処理剤(電着前処理剤)として用いられてもよい。環状ポリアミジン化合物を含む電着前処理層は、エッジ部にも析出するため、優れたエッジ部防錆性を有する塗膜が得られる。
【0083】
すなわち、電着塗膜を有する電着塗装物は、被塗物に環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含む電着前処理剤を付与する工程と、カチオン電着塗料組成物中に、電着前処理剤が付与された被塗物を浸漬し、次いで、被塗物と対極との間に電圧を印加して、被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える方法によっても製造される。
【0084】
製造方法2で用いられるカチオン電着塗料組成物は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、顔料(C)と、を含む。環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は電着前処理剤に含まれ、カチオン電着塗料組成物の前に被塗物に付与される。アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)、および、顔料(C)を含むカチオン電着塗料組成物と、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含む電着前処理剤とは、塗料セットとして組み合わせて使用される。
【0085】
(1)電着前処理剤の付与
被塗物に環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含む電着前処理剤を付与する。電着前処理剤は、例えば、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の水溶液である。環状ポリアミジン化合物の濃度は、例えば10質量%である。
【0086】
付与方法は特に限定されず、電着前処理剤に被塗物を浸漬してもよく、被塗物に電着前処理剤を塗布してもよい。塗布方法としては、コーティング法およびスプレー法が挙げられる。電着前処理剤が付与された後、被塗物に電圧を印加してもよい。電圧は、例えば、50V以上450V以下である。浴液温度は、例えば、10℃以上45℃以下である。電圧を印加する時間は特に限定されず、例えば、2分以上5分以下である。電着前処理剤が付与された後、電圧の印加を行わずに、被塗物を次の工程に供してもよい。
【0087】
被塗物としては、製造方法1と同様のものが挙げられる。電着前処理剤の付与は、上記の表面調整処理および化成処理の後であって、電着塗装の前に行われる。
【0088】
(2)未硬化の電着塗膜の形成
カチオン電着塗料組成物中に、電着前処理剤が付与された被塗物を浸漬した後、被塗物を陰極として、対極(陽極)との間に電圧を印加する。これにより、未硬化の電着塗膜が、環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含む膜を介して、被塗物上に析出する。印加条件は、製造方法1と同様であってよい。
【0089】
(3)電着塗膜の硬化
形成された未硬化の電着塗膜を、必要に応じて水洗し、75℃以上200℃以下の温度で加熱する。これにより、硬化反応が生じて、硬化した電着塗膜が得られる。硬化条件は、製造方法1と同様であってよい。
【0090】
硬化後の電着塗膜の膜厚は、防錆性の観点から、5μm以上60μm以下であってよい。硬化後の電着塗膜の膜厚は、10μm以上であってよい。硬化後の電着塗膜の膜厚は、25μm以下であってよい。
【0091】
[電着塗装物2]
製造方法2により、被塗物と、被塗物上に形成された環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含む電着前処理層と、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロックイソシアネート硬化剤(B)および顔料(C)を含むカチオン電着塗料組成物により形成される電着塗膜と、を含む電着塗装物が得られる。
【0092】
あるいは、製造方法2により、被塗物と、被塗物上に形成された電着塗膜と、を含む電着塗装物が得られる。電着塗膜は、アミン化エポキシ樹脂(A)、ブロックイソシアネート硬化剤(B)および顔料(C)を含むカチオン電着塗料組成物により形成され、さらに、電着前処理剤に含まれた少なくとも一部の環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)を含む。これらの電着塗膜は、優れたエッジ部防錆性および外観を有する。
【実施例
【0093】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、質量基準による。
【0094】
[製造例1]アミン化エポキシ樹脂(A)の製造
反応容器に、ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA380部、フェノール58部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、内部の温度を120℃に保持した。エポキシ当量が1100g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ジエタノールアミン(DETA)60部、N-メチルエタノールアミン(MMA)20部、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン:固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)85部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂を得た。
【0095】
[製造例2]ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の製造
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)1370部およびメチルイソブチルケトン(MIBK)732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、ブチルジグリコールエーテル300部、ブチルセロソルブ1330を60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認した。放冷後、MIBK27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を得た。
【0096】
[製造例3]顔料分散樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート2220部およびメチルイソブチルケトン342.1部を仕込んだ。50℃に昇温して、さらにジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃に昇温して、さらにメチルエチルケトンオキシム878.7部を投入した。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部をさらに投入した。さらに、60℃で1時間保温し、IRでNCOピークが消失していることを確認した。次いで、60℃を超えないよう冷却しながら、50%乳酸1872.6部および脱イオン水495部を投入して四級化剤を得た。
【0097】
異なる反応容器にトリレンジイソシアネート870部およびメチルイソブチルケトン49.5部を仕込んだ。50℃以上にならないように冷却しながら、反応容器に2-エチルヘキサノール667.2部を2.5時間かけて滴下した。滴下終了後、さらにメチルイソブチルケトン35.5部を投入し、30分保温した。その後、NCO当量が330~370になっていることを確認して、ハーフブロックポリイソシアネートを得た。
【0098】
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940.0部およびメタノール38.5部を仕込み、さらにジブチル錫ジラウレート0.1部を加えた。これを50℃に昇温した後、トリレンジイソシアネート87.1部投入した。さらに100℃に昇温してN,N-ジメチルベンジルアミン1.4部を投入し、その後、130℃で2時間保温した。このとき、分留管によりメタノールを分留した。これを115℃まで冷却し、メチルイソブチルケトンを固形分濃度90%になるまで仕込んだ。その後、ビスフェノールA270.3部および2-エチルヘキサン酸39.2部を仕込み、125℃で2時間加熱撹拌した。続いて、上記ハーフブロックポリイソシアネート516.4部を30分間かけて滴下し、その後、30分間加熱撹拌した。さらに、ポリオキシエチレンビスフェノールAエーテル1506部を徐々に加えて、これに溶解させた。90℃まで冷却後、上記四級化剤を加え、70~80℃に保持した。その後、酸価が2以下になったことを確認して、顔料分散樹脂(樹脂固形分30%)を得た。
【0099】
[調製例1]顔料分散ペーストAの調製
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂1,200部、カーボンブラック3部、カオリン620部、二酸化チタン500部、酸化ビスマス70部、脱イオン水1100を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストA(固形分50%)を得た。
【0100】
[調製例2]顔料分散ペーストBの調製
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂1,500部、カーボンブラック18部、カオリン680部、二酸化チタン590部、有機スズ90部、脱イオン水570部を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストB(固形分52%)を得た。
【0101】
[実施例1]
(1)カチオン電着塗料組成物A1の調製
ステンレス容器に、イオン交換水1394g、以下のようにして調製した樹脂エマルション560gおよび顔料分散ペーストA41gを添加した。その後、40℃で16時間エージングした。さらに、ポリアミジン化合物(D1)(ハイモ株式会社、ハイモロックZP-700、重量平均分子量300万、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物、構成単位(I)構成単位(I+II)の割合:I/I+II=30~40%)の2%水溶液を、その固形分量がカチオン電着塗料組成物の固形分質量の25ppmになるように、添加して、カチオン電着塗料組成物A1を得た。
【0102】
環状ポリアミジン化合物(D1)は、下記式の構成単位を有する。
【化11】
【0103】
(樹脂エマルションの調製)
製造例1で得たアミン化エポキシ樹脂(A)400g(固形分)と、製造例2で得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)160g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈して樹脂エマルションを得た。
【0104】
(2)電着塗装物の作製
被塗物として冷延鋼板(JIS G3141、SPCC-SD)を準備した。この鋼板を、サーフクリーナーEC90(日本ペイント・サーフケミカルズ社製)中に50℃で2分間浸漬して、脱脂処理した。続いて、サーフダインEC3200(日本ペイント・サーフケミカルズ社製、ジルコニウム化成処理剤)に35℃で90秒浸漬した。その後、脱イオン水による水洗を行った。
【0105】
カチオン電着塗料組成物A1に、硬化後の電着塗膜の膜厚が20μmとなるように2-エチルヘキシルグリコールを必要量添加した。得られた電着塗料に上記の鋼板を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始した。電圧は、30秒間昇圧し180Vに達してから150秒間保持する条件で印加した。これにより、被塗物上に未硬化の電着塗膜を析出させた。得られた未硬化の電着塗膜を、160℃で15分間加熱硬化させて、膜厚20μmの硬化電着塗膜を有する電着塗装物を得た。
【0106】
[実施例2]
ポリアミジン化合物(D1)の添加量を100ppmとしたこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物A2を調製し、電着塗装物を作製した。
【0107】
[実施例3]
ポリアミジン化合物(D1)に替えて、環状ポリアミジン化合物(D2)(ハイモ株式会社、ハイモロックPVAD、重量平均分子量10万、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物、構成単位(I)構成単位(I+II)の割合:I/I+II=30~40%)を100ppm添加したこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物A3を調製し、電着塗装物を作製した。
【0108】
環状ポリアミジン化合物(D2)は、下記式の構成単位を有する。
【化12】
【0109】
[実施例4]
ポリアミジン化合物(D2)を1,000ppm添加したこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物A4を調製し、電着塗装物を作製した。
【0110】
[比較例1]
顔料分散ペーストAに替えて顔料分散ペーストBを用いたこと、および、ポリアミジン化合物(D1)を添加しなかったこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物a1を得て、電着塗装物を作製した。
【0111】
[比較例2]
比較例1で調製されたカチオン電着塗料組成物a1に、ポリビニルホルムアミド(重量平均分子量300万)を、その固形分量がカチオン電着塗料組成物a2の固形分質量の100ppmになるように添加して、カチオン電着塗料組成物a2を得た。これを用いて、実施例1と同様にして、電着塗装物を作製した。
【0112】
[比較例3]
比較例1で調製されたカチオン電着塗料組成物a1に、ポリN-ビニルアセトアミド(重量平均分子量5万)を、その固形分量がカチオン電着塗料組成物a3の固形分質量の100ppmになるように添加して、カチオン電着塗料組成物a3を得た。これを用いて、実施例1と同様にして、電着塗装物を作製した。
【0113】
[塗膜の評価]
上記実施例1~4および比較例1~3で得られた電着塗装物の塗膜の外観(表面粗さRaでの評価)およびエッジ防錆性について、以下の方法で評価した。結果を表1に示す。表1には、ポリアミジン化合物、ポリビニルホルムアミドまたはポリN-ビニルアセトアミドの電着塗料中への配合量も記載している。
【0114】
(1)外観(表面粗さRa)
JIS-B0601に準拠した方法により、評価型表面粗さ測定機(Mitsutoyo社製、SURFTEST SJ-201P)を用いて、硬化電着塗膜の粗さ曲線の算術平均粗さ(Ra)を測定した。2.5mm幅カットオフ(区画数5)を入れたサンプルを用いて7回測定し、上下消去平均によりRa値(μm)を得た。Ra値が小さい程、凹凸が少なく、塗膜外観が良好である。
【0115】
(2)エッジ部防錆性
被塗物を、冷延鋼板(JIS G3141、SPCC-SD)からL型専用替刃(LB10K:オルファ株式会社製、長さ100mm、幅18mm、厚さ0.5mm)に変更したこと以外は、上記と同様の手順で、膜厚20μmの硬化電着塗膜を有する試験片を作製した。
この試験片に対して、JIS Z 2371(2000)に準拠した塩水噴霧試験(35℃×72時間)を行い、被塗物のエッジ部に発生した錆の個数を調べた。
【0116】
被塗物のエッジ部は、刃の頂点から替刃本体方向に向かって5mmまでの領域であり、替刃の表裏面にそれぞれ存在する。エッジ部の全面積は、替刃の長さ100mm×領域の幅(5mm×2)で10cmである。エッジ部(10cm)に発生した錆が50個未満である場合、エッジ部防錆性が良好であると評価できる。
【0117】
(評価基準)
最良:錆が10個未満
良:錆が10個以上20個未満
可:錆が20個以上50個未満
不良:錆が50個以上100個未満
不可:錆が100個以上
【0118】
【表1】
【0119】
実施例のカチオン電着塗料組成物を用いた場合はいずれも、エッジ部防錆性および塗膜外観ともに良好である。
比較例1は、本開示におけるポリアミジン化合物の添加剤を含まない例である。この例では、エッジ防錆性が劣ることが確認された。
比較例2、3は、エッジ防錆性向上用添加剤として知られる化合物(ポリビニルホルムアミド、ポリN-ビニルアセトアミド)を含む例である。この例では、エッジ防錆性は向上した一方で、表面粗さが顕著に高くなり、塗膜外観が劣ることとなった。
【0120】
[実施例5]
(1)電着前処理剤の調製
ポリアミジン化合物(D1)の100ppm水溶液を調製した。
【0121】
(2)カチオン電着塗料組成物Bの調製
ポリアミジン化合物(D1)を添加しなかったこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物Bを調製した。
【0122】
(3)電着前処理剤の付与
冷延鋼板に対して、実施例1と同様にして、ジルコニウム化成処理剤を用いた化成処理を行った。次いで、電着前処理剤に上記の鋼板を全て埋没させて、すぐに引き上げた。
【0123】
(4)電着塗膜の析出
続いて、電着前処理剤が付与された鋼板に、カチオン電着塗料組成物Bを用いたこと以外は実施例1と同様にして、膜厚20μmの硬化電着塗膜を形成し、電着塗装物を得た。
【0124】
[実施例6]
電着前処理剤を、以下のように電析により鋼板に付与したこと以外、実施例5と同様にして、膜厚20μmの硬化電着塗膜を有する電着塗装物を得た。
【0125】
(3)電着前処理剤の付与
電着前処理剤に鋼板を全て埋没させた後、直ちに電圧の印加を開始した。電圧は、30秒間昇圧し180Vに達してから30秒間保持する条件で印加した。これにより、被塗物上に電着前処理剤を含む膜を析出させた。
【0126】
[比較例4]
電着前処理剤として、ポリビニルホルムアミド(重量平均分子量300万)の100ppm水溶液を用いたこと以外、実施例5と同様にして、電着前処理剤を付与した後、硬化電着塗膜を形成し、電着塗装物を得た。
【0127】
[比較例5]
(1)電着前処理剤の調製
電着前処理剤として、ポリN-ビニルアセトアミド(重量平均分子量5万)の100ppm水溶液を用いたこと以外、実施例5と同様にして、電着前処理剤を付与した後、硬化電着塗膜を形成し、電着塗装物を得た。
【0128】
[塗膜の評価]
上記実施例5~6および比較例4~6で得られた電着塗装物の塗膜の外観(表面粗さRaでの評価)およびエッジ防錆性について、表1で測定した方法で評価した。結果を表2に示す。表2には、ポリアミジン化合物、ポリビニルホルムアミドまたはポリN-ビニルアセトアミドの電着塗料中への配合量も記載している。また、表2には、比較例1も比較のために乗せている。
【0129】
【表2】
【0130】
環状ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)が電着前処理剤として付与された場合にも、エッジ部防錆性および塗膜外観ともに良好である。比較例の電着前処理剤では、エッジ部防錆性能の向上は見られるものの、塗膜外観が低下した。
【0131】
[実施例7]
ポリアミジン化合物(D1)を2ppm添加したこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製し、電着塗装物を作製した。
【0132】
[実施例8]
ポリアミジン化合物(D1)を10ppm添加したこと以外、実施例1と同様にして、カチオン電着塗料組成物を調製し、電着塗装物を作製した。
【0133】
[塗膜の評価]
上記実施例7および8で得られた電着塗装物の塗膜の外観(表面粗さRaでの評価)およびエッジ防錆性について、表1で測定した方法で評価した。結果を表3に示す。表3には、ポリアミジン化合物、ポリビニルホルムアミドまたはポリN-ビニルアセトアミドの電着塗料中への配合量も記載している。
【0134】
【表3】
【0135】
表3の結果から明らかなように、環状ポリアミジン化合物(D)の配合量が、2ppm(実施例7)および10ppm(実施例8)のような低い場合にも、エッジ部防錆性および塗膜外観ともに良好である。
【0136】
製造例11-1 アミン化エポキシ樹脂(A1)の製造
反応容器に、ブチルセロソルブ26部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA380部、フェノール58部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、内部の温度を120℃に保持した。エポキシ当量が1100g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ジエタノールアミン(DETA)60部、N-メチルエタノールアミン(MMA)20部、ジエチレントリアミンジケチミン(ジケチミン:固形分73%のメチルイソブチルケトン溶液)85部を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(A1)を得た。
【0137】
製造例11-2 アミン化エポキシ樹脂(A2)の製造
ブチルセロソルブ12部、ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)940部、ビスフェノールA325部、フェノール4.2部、ジメチルベンジルアミン2部を加え、反応容器内の温度を120℃に保持し、エポキシ当量が620g/eqになるまで反応させた後、反応容器内の温度が110℃になるまで冷却した。ついでジエタノールアミン(DETA)110部、ジエチルアミノプロパンジアミン(DEAPA)70部の混合物を添加し、140℃で1時間反応させることにより、アミン化エポキシ樹脂(A2)を得た。
【0138】
製造例12 ブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)の製造
ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート(ポリメリックMDI)1370部およびメチルイソブチルケトン(MIBK)732部を反応容器に仕込み、これを60℃まで加熱した。ここに、ブチルジグリコールエーテル300部、ブチルセロソルブ1330を60℃で2時間かけて滴下した。さらに75℃で4時間加熱した後、IRスペクトルの測定において、イソシアネート基に基づく吸収が消失したことを確認した。放冷後、MIBK27部を加えてブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)を得た。
【0139】
製造例13-1 樹脂エマルション(1)の製造
アミン化エポキシ樹脂(A1)400g(固形分)と、製造例2で得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)160g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈して樹脂エマルション(1)を得た。
【0140】
製造例13-2 樹脂エマルション(2)の製造
アミン化エポキシ樹脂(A2)400g(固形分)と、製造例2で得たブロック化ポリイソシアネート硬化剤(B)160g(固形分)とを混合し、エチレングリコールモノ-2-エチルヘキシルエーテルを固形分に対して3%(15g)になるように添加した。次にギ酸を中和率40%になるように加えて中和し、イオン交換水を加えてゆっくり希釈して樹脂エマルション(2)を得た。
【0141】
製造例14 顔料分散樹脂の調製
撹拌装置、冷却管、窒素導入管及び温度計を装備した反応容器に、イソホロンジイソシアネート2220部およびメチルイソブチルケトン342.1部を仕込んだ。50℃に昇温して、さらにジブチル錫ラウレート2.2部を投入し、60℃に昇温して、さらにメチルエチルケトンオキシム878.7部を投入した。その後、60℃で1時間保温し、NCO当量が348となっていることを確認し、ジメチルエタノールアミン890部をさらに投入した。さらに、60℃で1時間保温し、IRでNCOピークが消失していることを確認した。次いで、60℃を超えないよう冷却しながら、50%乳酸1872.6部および脱イオン水495部を投入して四級化剤を得た。
【0142】
製造例15 顔料分散ペーストの調製
サンドグラインドミルに製造例3で得た顔料分散樹脂1,200部、カーボンブラック3部、カオリン620部、二酸化チタン500部、酸化ビスマス70部、脱イオン水1100を入れ、粒度10μm以下になるまで分散して、顔料分散ペーストA(固形分50%)を得た。
【0143】
製造例16-1 添加剤Aの調製
(1)アミン化剤の調製
反応容器にジエタノールアミン179部を加え、50度まで昇温しビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名DER-331J、ダウケミカル社製)320部を加えた。その後、110度に保持し、エポキシ当量が290g/eq になるまで反応させた後、80度まで冷却し、90%酢酸17部を加えた。10分間撹拌した後、脱イオン水420部を加えて、アミン基を導入したエポキシ樹脂を得た。
【0144】
(2)添加剤A(ニトリル基の環化によるポリアミジン化合物の疎水化)の調製
ポリアミジン(ハイモ株式会社、ハイモロックZP-700、重量平均分子量300万、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物、構成単位(I)構成単位(I+II)の割合:I/I+II=30~40%)1部、脱イオン水 499部を反応容器内に加えて撹拌し2%水溶液を調製した。その後、反応容器内の温度を90度に保持し、90%酢酸 1部、そしてアミン触媒として上記で調製したアミン基を導入したエポキシ樹脂 30部加えて60時間加温することで、不飽和ニトリル環化セグメント(二つのニトリル基(CN)が環化した)単位を有するポリアミジン化合物(ポリアミジン化合物の疎水化変性体)である添加剤Aを得た。
【0145】
製造例16-2 添加剤Bの調製(前記一般式(X)による疎水化)
ポリアミジン(ハイモ株式会社、ハイモロックZP-700、重量平均分子量300万、アクリロニトリル・N-ビニルホルムアミド共重合物の部分加水分解物、構成単位(I)構成単位(II)の割合:I/I+II=30~40%)35部、NaOH 1部、脱イオン水 2947部、クロロヘキサン40部を反応容器内に加えて30分撹拌した。その後、反応容器内の温度を90度に保持し15時間攪拌することで、前記一般式(X)の疎水性構成単位Rがヘキサニル基であるポリアミジン化合物(ポリアミジン化合物の疎水化変性体)である添加剤Bを得た。
【0146】
製造例16-3 添加剤Cの製造
エポキシ当量220g/当量である液状エポキシ樹脂33.6部を反応器に入れ、撹拌しながら50℃に加熱した後、ジアルキルアミン5.1部を加えてさらに1時間撹拌した。
別の容器で、メチルイソブチルケトン50部およびイソホロンジイソシアネート11.2部を混合し、混合物を撹拌しながら70℃に加熱した。
次いで、上記液状エポキシ樹脂およびジアルキルアミンの反応混合物を1.5時間かけて加え、70で1時間撹拌して反応させて、カチオン化剤を得た。
ポリビニルアルコール(クラレ社製、Mowiol)99部および上記カチオン化剤1部を混合して、ポリビニルアルコール(PVA)中間体を得た。
【0147】
別の容器で、エポキシ当量184g/当量である液状エポキシ樹脂13.3部、ビスフェノールA 6.1部、フェノキシプロパノール2.2部を混合し、150℃に加熱し、次いでトリフェニルホスフィン0.036部を加えた。反応器の温度を130℃まで冷却し、2時間撹拌した。
その後、撹拌混合物にイソブタノール9.4部を加えて、105℃に冷却した後、ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンとの反応物であるポリアミン2.2部を加え、カチオン化剤を調製した。
【0148】
上記で調製したカチオン化剤33.2部およびPVA中間体22部を撹拌し、酢酸0.4部を加えた後、脱イオン交換水44部を加えて撹拌し、PVA内包カチオン性マイクロゲルである添加剤Cを調製した。
【0149】
製造例16-4 添加剤Dの製造
アルコキシル化ポリエチレンイミン(Sokalan HP-20、BASF社製)を、添加剤Dとして用いた。
【0150】
製造例16-5 添加剤Eの製造
撹拌器、温度計、冷却管を有する反応装置を準備し、エポキシ当量475のビスフェノールA型エポキシ樹脂950部、プロピレングリコールメチルエーテルを588部を仕込み、撹拌下で110℃に加熱し、エポキシ樹脂を溶解させた。これを80℃に冷却し、ジケチミン化合物(メチルエチルケトン2モルとジエチレントリアミン1モルとを加熱し、脱水縮合によって得られたもの)422部を加え、80℃で2時間保持した後、酢酸12部と脱イオン水180部を加え、80℃で1時間反応させて固形分濃度70%で、1分子当たり4個の1級アミノ基を含有するエポキシ樹脂誘導体(e1)を得た。
【0151】
撹拌器、温度計、冷却管を有する反応装置を準備し、オキシラン酸素含有量6.5%、数平均分子量1800のエポキシ化ポリブタジエンを1000部、エチレングリコールモノブチルエーテルを377部、メチルエタノールアミンを131部仕込み、窒素ガス気流中撹拌下に170℃で6時間保持した。次いで、120℃に冷却し、アクリル酸81.4部、ハイドロキノン8.8部およびエチレングリコールモノブチルエーテル27.1部を投入し、120℃で4時間保持し、固形分濃度75%で1分子当たり2個のα、β-エチレン性不飽和基を含有するアクリル変性ポリブタジエン樹脂(e2)を得た。
【0152】
撹拌器、温度計、冷却管を有する反応装置を準備し、それに上記の(e2)成分の160部とイソプロピルアルコール13部を仕込み、撹拌を開始する。次いでギ酸88重量%水溶液2部と上記の(e1)成分の60部を投入し、50℃で2時間保温し、その後、脱イオン水600部を投入する。70℃まで昇温し、300~600mmHg(ゲージ圧)の減圧下で65~70℃を保持しながら、80部脱溶剤する。35℃以下に冷却し、カチオン性マイクロゲルである添加剤Eを得た(固形分濃度20%、平均粒子径100nm:レーザー散乱型粒径解析装置で測定)。
【0153】
製造例16-6 添加剤Fの製造
ポリビニルホルムアミド(三菱ケミカル社製、KP8040)1部を、脱イオン水99部に溶解し撹拌することにより、ポリビニルポリアミド/ポリアミン共重合体1%水溶液である添加剤Fを得た。
【0154】
実施例11 電着塗料組成物の製造
ステンレス容器に、イオン交換水1394部、製造例3-2で調製した樹脂エマルション(2)560部、製造例5で調製した顔料分散ペースト41部部を加え、その後40℃で16時間エージングした。
次いで、製造例16-1で調製した添加剤Aを、その固形分量がカチオン電着塗料組成物の固形分質量の10ppmとなる量で添加して、カチオン電着塗料組成物を調製した。
【0155】
実施例12~14および比較例11~14
樹脂エマルションおよび/または添加剤の種類などを下記表4に示すものに変更したこと以外は、実施例11と同様の手順により、カチオン電着塗料組成物を調製した。
【0156】
実施例および比較例で調製したカチオン電着塗料組成物を用いて、下記評価を行った。結果を表4に示した。
【0157】
[塗膜の評価]
外観(表面粗さRa)およびエッジ防錆性評価
上記実施例1~7および比較例1~5の評価で実施した「(1)外観評価」および「(2)エッジ部防錆性評価」と同様の手順および評価項目により、評価した。評価結果を下記表4に示す。
【0158】
樹脂エマルションに対する安定性評価
実施例11~14および比較例11~14のカチオン電着塗料組成物の調製で用いた樹脂エマルション10部に対して、各実施例または比較例で用いた添加剤A~Fいずれかを0.3部加えて混合した。得られた混合物を40℃で24時間静置した後、下記基準で目視評価を行った。
評価基準
〇:分離発生が確認されない
×:分離発生が確認される
【0159】
【表4】
【0160】
実施例11、12および14は、前記一般式(X)により疎水化したポリアミジン化合物を用いたカチオン電着塗料組成物を用いた例であり、実施例13はニトリル基の環化により疎水化したポリアミジン化合物を用いたカチオン電着塗料組成物を用いた例であり、共に表面粗さRaやエッジ部防錆性は優れている。このポリアミジン化合物の疎水化変性体は、樹脂エマルションの安定化も目指すもので、樹脂エマルションに対する安定性評価も行い、実施例11~14は安定性も優れている。
【0161】
比較例11~14は、添加剤C~Fを用いた例である。比較例11の添加剤Cは、WO2022/189111記載のポリビニルアルコール内包カチオン性マイクロゲルに相当する添加剤である。そして比較例11は、上記添加剤Cを、カチオン電着塗料組成物におけるエッジ保護剤として用いた例である。比較例12の添加剤Dは、WO2022/128359記載のアルコキシル化ポリエチレンイミンに相当する添加剤である。そして比較例12は、上記添加剤Dを、カチオン電着塗料組成物におけるエッジ部防錆剤として用いた例である。比較例13の添加剤Eはカチオン性マイクロゲルであり、そして比較例13は添加剤E(カチオン性マイクロゲル)をエッジ部防錆剤として用いた例である。比較例14の添加剤Fは、ポリビニルポリアミド/ポリアミン共重合体であり、そして比較例14は添加剤F(ポリビニルポリアミド/ポリアミン共重合体)をエッジ部防錆剤として用いた例である。比較例11~14は、いずれにおいても、エッジ部防錆性および表面平滑性の両立は達成できなかった。また、樹脂エマルション中における安定性が劣るものも多かった。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明のカチオン電着塗料組成物によれば、防錆性、特にエッジ部防錆性および外観に優れる塗膜が得られる。そのため、本発明のカチオン電着塗料組成物は、エッジ部を備える被塗物の塗装に適している。また、本発明のカチオン電着塗料組成物は、塗料の安定性も優れている。
【0163】
以下の態様も本発明に含まれる:
[1]
アミン化エポキシ樹脂(A)と、
ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、
顔料(C)と、
ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含み、
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式(I):
【化13】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、カチオン電着塗料組成物。
[2]
前記ポリアミジン化合物の疎水化変性体が、構成単位(I)に加えて、不飽和ニトリルに由来する環化構造単位または以下の一般式(X):
【化14】

(式中、RおよびRはそれぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Rは置換または非置換の直鎖状または分枝状の炭素数3~12のアルキル基、または、置換または非置換の炭素数6~12の芳香族基のいずれかを少なくとも含む、疎水性構成単位である。)
で表される構造単位を有する、[1]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[3]
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の固形分質量は、前記カチオン電着塗料組成物の固形分質量の0.2ppm以上1,200ppm以下である、[1]または[2]に記載のカチオン電着塗料組成物。
[4]
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)の重量平均分子量は、5万以上である、[1]~[3]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
[5]
前記顔料(C)は、体質顔料を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
[6]
前記カチオン電着塗料組成物は、有機スズ化合物を含まないか、あるいは、有機スズ化合物の含有量が、0.25質量%以下である、[1]~[5]のいずれかにに記載のカチオン電着塗料組成物。
[7]
前記アミン化エポキシ樹脂(A)が、アミン化合物とエポキシ樹脂を反応させることで得られるアミン化エポキシ樹脂であり、
前記アミン化合物が、第1アミンと第2アミンとの2種類の組合せであり、
前記第1アミンが、式:
NH-(CH)n-NR1112
(式中、R11およびR12は、同一または異なって、末端に水酸基を有してもよい炭素数1~6のアルキル基を表し、nは2~4の整数を表す。)
を有し、
前記第2アミンが式:
1314NH
(式中、R13およびR14は、同一または異なって、末端に水酸基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。)
を有する、か、または
前記アミン化合物は、ケチミン化合物およびジケチミン化合物からなる群から選択される1種または2種以上を含む、
[1]~[6]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物。
[8]
被塗物と、
前記被塗物上に、[1]~[7]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物により形成された電着塗膜と、を有する電着塗装物。
[9]
[1]~[7]のいずれかに記載のカチオン電着塗料組成物に被塗物を浸漬した後、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備える、電着塗装物の製造方法。
[10]
被塗物に電着前処理剤を付与する工程と、
カチオン電着塗料組成物に、前記電着前処理剤が付与された前記被塗物を浸漬し、次いで、前記被塗物と対極との間に電圧を印加して、前記被塗物に未硬化の電着塗膜を形成する工程と、
前記未硬化の電着塗膜を75℃以上200℃以下の温度で加熱して、硬化された電着塗膜を得る工程と、を備え、
前記カチオン電着塗料組成物は、アミン化エポキシ樹脂(A)と、ブロックイソシアネート硬化剤(B)と、顔料(C)と、ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)と、を含み、
前記ポリアミジン化合物またはその疎水化変性体(D)は、下記一般式:
【化15】
(式中、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子または炭素数1~3の炭化水素基であり、Xはアニオンである。)
で表される構成単位を有する、電着塗装物の製造方法。