(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】非同期測定を使用した、パラメータに依存しない進行波ベースの故障位置特定
(51)【国際特許分類】
G01R 31/08 20200101AFI20240201BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01R31/08
H02J13/00 301D
(21)【出願番号】P 2022546553
(86)(22)【出願日】2021-01-29
(86)【国際出願番号】 EP2021052221
(87)【国際公開番号】W WO2021152157
(87)【国際公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】202041004115
(32)【優先日】2020-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】523380173
【氏名又は名称】ヒタチ・エナジー・リミテッド
【氏名又は名称原語表記】HITACHI ENERGY LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ナイドゥ,オーディ
(72)【発明者】
【氏名】ヤッラー,プリーサム・ベンカット
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ,ニィートゥ
【審査官】越川 康弘
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/097311(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/122627(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/007857(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08
H02J 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の端子を第2の端子と接続する送電線における故障位置の特定のための方法であって、
前記第1および第2の端子の各々で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークの到着時間を取得することと、
前記第1および第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1のピークに関連する立上り時間を計算することと、
前記第1および第2の端子における前記進行波の前記第1のピークについて推定された前記立上り時間の比較に基づいて、前記送電線の第1の半分および第2の半分のうちの1つが故障を有すると識別することと、
前記第1および前記第2の半分のうちの1つが前記故障を有すると識別したことと、前記第1および第2の端子における前記進行波の前記第1、第2および第3のピークのうちの連続する2つのピークの前記到着時間の比較とに基づいて、前記送電線の第1のセグメント、第2のセグメント、第3のセグメント、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別することであって、前記送電線の前記第1の半分は、前記第1のセグメントおよび前記第2のセグメントに分割され、前記送電線の前記第2の半分は、前記第3のセグメントおよび前記第4のセグメントに分割される、識別することと、
前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別したことと、前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記第2の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間、ならびに前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記第1の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間の比較から求められる、
前記故障を有する
と識別されたセグメントに応じた到着時間の差とに基づいて、前記送電線の長さを推定することと、
前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別したことと、前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間と、前記送電線の推定された長さとに基づいて、前記故障位置を推定することと
を備
え、
前記送電線の長さを推定することは、
前記第1のセグメントが前記故障を有すると識別したことに応答して、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1および第2のピークの前記到着時間の間の差と、前記第2の端子から反射された前記進行波の前記第1のピークおよび前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2のピークの到着時間の間の差との和に比例する前記送電線の第1の推定長を計算することと、
前記第2のセグメントおよび前記第3のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別したことに応答して、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2および第3のピークの前記到着時間の和と、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記第1のピークの前記到着時間の2倍との間の差に比例する前記送電線の第2の推定長を計算することと、
前記第4のセグメントが前記故障を有すると識別したことに応答して、前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1および第2のピークの前記到着時間の間の差と、前記第1の端子から反射された前記進行波の前記第1のピークおよび前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2のピークの前記到着時間の間の差との和に比例する前記送電線の第3の推定長を計算することと
を備える、方法。
【請求項2】
前記故障はT
ARTがT
BRTよりも小さい場合に前記送電線の前記第1の半分で識別され、前記故障はT
ARTがT
BRTよりも大きい場合に前記送電線の前記第2の半分で識別され、T
ARTは前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1のピークの前記立上り時間であり、TBRTは前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1のピークの前記立上り時間である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記送電線の前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別することは、
前記送電線の前記第1の半分が前記故障を有すると識別したことに応答して、
前記到着時間の間の第1の差を決定することであって、前記第1の差は、前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークのうちの2つの連続するピークの到着時間の間の絶対差である、決定することと、
前記第1の差がゼロにほぼ等しいときに前記第1のセグメントが前記故障を有すると識別することであって、前記第1のセグメントは前記第1の端子から前記送電線の前記長さの3分の1までにわたる、識別することと、
前記第1の差が所定閾値よりも大きいときに前記第2のセグメントが前記故障を有すると識別することであって、前記第2のセグメントは前記送電線の前記長さの3分の1から前記送電線の前記長さの半分までにわたる、識別することと、
前記送電線の前記第2の半分が前記故障を有すると識別したことに応答して、
前記到着時間の間の第2の差を決定することであって、前記第2の差は、前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークのうちの2つの連続するピークの到着時間の間の絶対差である、決定することと、
前記第2の差が前記所定閾値よりも大きいときに前記第3のセグメントが前記故障を有すると識別することであって、前記第3のセグメントは前記送電線の前記長さの半分から前記送電線の前記長さの3分の2までにわたる、識別することと、
前記第2の差がゼロにほぼ等しいときに前記第4のセグメントが前記故障を有すると識別することであって、前記第4のセグメントは前記送電線の前記長さの3分の2から前記第2の端子までにわたる、識別することと
を備える、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記送電線の前記第1のセグメントにおける前記故障位置は、前記第1の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第2および第1のピークの前記到着時間の間の差の前記第1の推定長に対する比から推定され、単位長さ当たりの故障位置として表される、請求項
1に記載の方法。
【請求項5】
前記送電線の前記第2のセグメントにおける前記故障位置は、前記第1の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第2および第1のピークの前記到着時間の間の差の前記第2の推定長に対する比から推定され、単位長さ当たりの故障位置として表される、請求項
1に記載の方法。
【請求項6】
前記送電線の前記第3のセグメントにおける前記故障位置は、前記第1の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第3および第1のピークの前記到着時間の間の差の前記第2の推定長に対する比から推定され、単位長さ当たりの故障位置として表される、請求項
1に記載の方法。
【請求項7】
前記送電線の前記第4のセグメントにおける前記故障位置は、前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1および第2のピークの前記到着時間の間の前記差と前記第1の端子から反射された前記進行波の前記第1のピークおよび前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2のピークの前記到着時間の間の差との和の前記第3の推定長に対する比から推定され、単位長さ当たりの故障位置として表される、請求項
1に記載の方法。
【請求項8】
第1の端子を第2の端子と接続する送電線における故障位置の特定のための装置であって、前記装置は、
前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークを検出し、
前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第1のピーク、前記第2のピーク、および前記第3のピークの到着時間を取得し、
前記第1および第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1のピークに関連する立上り時間を計算する
ための進行波検出器と、
前記進行波の前記第1のピークに関連する前記計算された立上り時間の比較に基づいて、前記送電線の第1の半分および第2の半分のうちの1つが故障を有すると識別し、
前記第1および前記第2の半分のうちの1つが前記故障を有すると識別したことと、前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間の比較とに基づいて、前記送電線の第1のセグメント、第2のセグメント、第3のセグメント、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別する
ように構成された故障局所化モジュールとを備え、前記送電線の前記第1の半分は、前記第1のセグメントおよび前記第2のセグメントに分割され、前記送電線の前記第2の半分は、前記第3のセグメントおよび前記第4のセグメントに分割され、さらに、
前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが故障を有すると識別したことと、前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記第2の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間、ならびに前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記第1の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間の比較から求められる、
前記故障を有する
と識別されたセグメントに応じた到着時間の差とに基づいて、前記送電線の長さを推定し、
前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別したことと、前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間と、前記送電線の推定された長さとに基づいて、前記故障位置を推定する
ためのプロセッサに結合された故障位置特定モジュールと
を備
え、
前記送電線の長さを推定することは、
前記第1のセグメントが前記故障を有すると識別したことに応答して、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1および第2のピークの前記到着時間の間の差と、前記第2の端子から反射された前記進行波の前記第1のピークおよび前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2のピークの到着時間の間の差との和に比例する前記送電線の第1の推定長を計算することと、
前記第2のセグメントおよび前記第3のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別したことに応答して、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2および第3のピークの前記到着時間の和と、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記第1のピークの前記到着時間の2倍との間の差に比例する前記送電線の第2の推定長を計算することと、
前記第4のセグメントが前記故障を有すると識別したことに応答して、前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1および第2のピークの前記到着時間の間の差と、前記第1の端子から反射された前記進行波の前記第1のピークおよび前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第2のピークの前記到着時間の間の差との和に比例する前記送電線の第3の推定長を計算することと
を備える、装置。
【請求項9】
前記装置は前記第1および前記第2の端子のうちの1つに関連するインテリジェント電子装置であり、前記装置は、前記第1および第2の端子の各々に関連する測定機器および通信インタフェースのうちの少なくとも1つから前記第1および第2の端子の各々で行われた前記測定を受信する、請求項
8に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
技術分野
本発明は、一般に、送電線における故障位置特定に関する。特に、本発明は、ラインパラメータに依存せず、非同期測定を使用する進行波ベースの故障位置特定に関する。
【背景技術】
【0002】
背景
電力伝送システムは、送電線および配電線と、発電機、変圧器、リレー、インテリジェント電子デバイス(IED:Intelligent electronic device)などの多数の電気部品とから構成される大規模で複雑なネットワークである。送電線は、嵐、雷、雪、氷結雨、絶縁破壊、ならびに鳥、木の枝、および他の外部物体によって引き起こされる短絡故障にさらされることが多い。一般に、故障は、正常な電流の流れに乱れを引き起こす電気システムの異常状態として定義される。この逸脱した電流の流れは、電圧および/または電流の流れの変化を引き起こし、送電を遮断する。
【0003】
故障後の電力供給の復旧は、保守チームが故障によって引き起こされた損傷の修理を完了した後にのみ行うことができる。したがって、送電線の正確な故障位置特定が重要であり、その結果、保守員は故障位置に到達し、送電を復旧するための修理を行うことができる。故障位置の迅速な特定は、電力供給の信頼性、回復を改善し、公益事業体の収益損失を低減する。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
概要
本開示は、第1の端子を第2の端子と接続する送電線における故障位置の特定のための方法に関し、本方法は、前記第1および第2の端子の各々で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークの到着時間を取得することと、前記第1および第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1のピークに関連する立上り時間を計算することと、前記第1および第2の端子における前記進行波の前記第1のピークについて推定された前記立上り時間の比較に基づいて、前記送電線の第1の半分および第2の半分のうちの1つが故障を有すると識別することと、前記第1および前記第2の半分のうちの1つが前記故障を有するとの前記識別と、前記第1および第2の端子における前記進行波の前記第1、第2および第3のピークの前記到着時間の比較とに基づいて、前記送電線の第1のセグメント、第2のセグメント、第3のセグメント、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別することと、前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有するとの識別と、前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記第2の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間、ならびに前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記第1の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間の比較とに基づいて、前記送電線の長さを推定することと、前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有するとの前記識別と、前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間と、前記送電線の推定された長さとに基づいて、前記故障位置を推定することとを備える。
【0005】
本開示はまた、第1の端子を第2の端子と接続する送電線における故障位置の特定のための装置に関し、前記装置は、前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークを検出し、前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第1のピーク、前記第2のピーク、および前記第3のピークの到着時間を取得し、前記第1および第2の端子で行われた前記測定から検出された前記進行波の前記第1のピークに関連する立上り時間を計算するための進行波検出器と、前記進行波の前記第1のピークに関連する前記計算された立上り時間の比較に基づいて、前記送電線の第1の半分および第2の半分のうちの1つが故障を有すると識別し、前記第1および前記第2の半分のうちの1つが前記故障を有するとの前記識別と、前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間の比較とに基づいて、前記送電線の第1のセグメント、第2のセグメント、第3のセグメント、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有すると識別するように構成された故障局所化モジュールと、前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有するとの識別と、前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間、前記第1の端子で行われた前記測定から検出された前記第2の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間、ならびに前記第2の端子で行われた前記測定から検出された前記第1の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間の比較とに基づいて、前記送電線の長さを推定し、前記第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが前記故障を有するとの前記識別と、前記第1および第2の端子で行われた測定から検出された前記進行波の前記第1、第2、および第3のピークの前記到着時間と、前記送電線の推定された長さとに基づいて、前記故障位置を推定するためのプロセッサに結合された故障位置特定モジュールとを備える。
【0006】
以下の詳細な説明は、図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】一例による、故障位置特定のための2電源等価電気回路網のブロック図である。
【
図2a】一例による、送電線の第1のセグメントにおける故障のBewley格子図である。
【
図2b】一例による、送電線の第2のセグメントにおける故障のBewley格子図である。
【
図2c】一例による、送電線の第3のセグメントにおける故障のBewley格子図である。
【
図2d】一例による、送電線の第4のセグメントにおける故障のBewley格子図である。
【
図3a】一例による、送電線における故障位置特定のための方法を表す図である。
【
図3b】一例による、送電線における故障位置特定のための方法を表す図である。
【
図4a】一例による、故障位置特定のための従来の2端子法と様々な同期エラーのための本発明との表形式の比較を示す図である。
【
図4b】一例による、故障位置特定のための従来の2端子法と様々な同期エラーのための本発明との表形式の比較を示す図である。
【
図5a】一例による、故障位置特定のための従来の2端子法と、様々な波速(パラメータ)誤差に対する本発明の方法との表形式の比較を示す図である。
【
図5b】一例による、故障位置特定のための従来の2端子法と、様々な波速(パラメータ)誤差に対する本発明の方法との表形式の比較を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
詳細な説明
使用される信号に基づいて、故障位置特定技術は、2つの異なるカテゴリ、すなわち、電圧および電流の基本フェーザに依存する技術と、故障によって生成される進行波に依存する技術とに分類することができる。電圧および電流の基本フェーザに依存する技術は、一般に、インピーダンスベースの故障位置特定方法として知られている。インピーダンスベースの故障位置特定方法では、電流および電圧信号の基本フェーザ成分は、故障線のインピーダンスを計算するために故障ロケータによって使用される。計算されたインピーダンスは、故障の位置のおおよその尺度である。インピーダンスベースの方法は、その使いやすさ、低いサンプリングデータ、および低いハードウェアコストのために、電力公共事業体によって主に使用されている。
【0009】
しかしながら、インピーダンスベースの故障位置特定技術の精度は、故障のタイプ、アーク抵抗、ラインおよびソースインピーダンスの角度、フェーザ推定技術、測定変圧器の不正確さ、変流器(CT:current transformer)の飽和、電力の流れ方向、ならびにソース対ラインインピーダンス比(SIR:source to line impedance ratio)によって悪影響を受ける。さらに、インピーダンスベースの故障位置特定技術は、電圧および電流の基本フェーザを正確に推定する必要があり、このことは、3~5サイクルの故障後のデータセットおよび信頼性の高いフェーザ推定技術を必要とする。
【0010】
さらに、インピーダンスベースの故障位置特定方法は、相互結合、ラインおよびソースインピーダンスの不均一性、ソース対ラインインピーダンス比、故障抵抗および故障ループ情報などに依存する。データ取得および信号処理技術の最近の改善により、進行波故障ロケータは、より高い精度が重要であるところでより普及しつつある。進行波ベースの方法は、故障点を特定するために2~3ミリ秒(ms)のデータしか必要とせず、上述の要因に依存しない。入射波と反射波の到着時間と線路の波速との差を乗じることで、進行波を用いた故障位置を推定することができる。
【0011】
今日、主電力グリッドへの再生可能資源の追加は、特にグリッドへの太陽光発電の統合が高いため、全体的な慣性を減少させると予想されている。これは、システムの慣性定数および過渡安定性マージンを減少させ、その結果、グリッドの安定動作を維持するためのリレーの臨界クリア時間を減少させる。したがって、時間領域または進行波(TW:traveling wave)ベースの方法などのより高速な送電線保護方法が、現在、故障位置特定に使用されている。
【0012】
しかしながら、ダブルエンド(2端子)TWベースの方法の故障位置精度は、データ同期、インテリジェント電子装置(IED:Intelligent Electronic Device)ハードウェア、ソフトウェア処理遅延、および変電所ケーブル遅延などに依存する。TWベースの故障位置特定方法の精度は、波速(ラインパラメータ)の精度にも依存する。波速およびライン長は正確ではなく、天候、導体の経年、温度および垂れ下がりなどの多くの実際的な条件によって影響を受ける。したがって、従来のTWベースの技術の上記の故障位置精度は正確ではない可能性がある。
【0013】
ダブルエンドTWベースの方法の精度は、2つのタワー距離(約280~330メートル)として報告される。ダブルエンドTWベースの方法におけるデータ同期のために、全地球測位システム(GPS)ベースの同期システムは、時間分配のために原子時計を使用し、高い同期精度を提供する。しかしながら、それは、GPSにおける原子時計によってもたらされる誤差、または誤ったタイミング信号および誤った同期につながるオフセットなどのいくつかの問題を抱えている。GPSシステムは、環境の動的性質、ならびに地磁気嵐、無線妨害、他の装置からの電磁干渉、太陽電波バーストなどの外乱の影響を受け、機能に一時的または永続的な障害をもたらし、それによってダブルエンドTWベースの故障位置特定技術におけるデータ同期不良をもたらす。したがって、IEDの両端間の同期には有限の不正確さがある可能性があり、これは数十マイクロ秒(μs)程度であり得るため、その結果、故障位置の精度が低下する。
【0014】
さらに、測定装置からIEDパネルに電圧および/または電流信号を搬送するために敷設される銅製変電所ケーブルは、IEDごとに異なり、これらのケーブルは異なる特性および長さを有する。したがって、1つの変電所ケーブルの特性が別の変電所ケーブルの特性と異なり、その結果、伝搬速度が異なる。これは、送電線の2つの端子で実行される測定において3~5μs程度の有限の時間シフトを導入する可能性があり、それによって、ダブルエンドTWベースの技術を使用した故障位置に誤差成分を導入する。
【0015】
したがって、故障位置(IED)システム全体のデータ同期の全体的な不正確さは30~50μs程度であり、ダブルエンドTWベースの方法を使用する200km送電線の故障位置に3km~5kmの誤差をもたらす可能性がある。時には、この遅延は、実験を行うことによってアルゴリズムによって較正および補償され得る。しかしながら、この手法は、パラメータの合理的に正しい較正に到達するためにいくつかの現場実験を手動で実行する必要があり、物理的条件が経時的に変化するにつれて較正を定期的に実行する必要があるため、面倒で費用がかかる。したがって、ダブルエンドTWベースの故障位置特定技術におけるこれらの誤差の較正および補償は、高価であり、時間がかかり、非実用的である。
【0016】
加えて、TWベースの方法の故障位置精度は、波速(送電線の単位長さ当たりのインダクタンスおよびキャパシタンス)に大きく依存する。波速およびライン長は正確ではなく、天候、導体の経年、温度および垂れ下がりなどの多くの実際的な条件によって影響を受ける。既知の距離で故障を生成することによる波速調整を実行することができる。しかしながら、これには、波速を調整するための実験が必要であり、これは時間と費用のかかる手順である。いくつかの設定フリー故障位置特定方法では、空中モード信号と接地モード信号の両方が必要である。接地モード信号は、高度に減衰され、信頼性がなく、地絡故障に対してのみ利用可能である。したがって、そのような設定フリー故障位置特定方法は、地絡故障に対してのみ使用され得る。
【0017】
本発明は、ラインパラメータおよびデータ同期とは無関係の故障位置特定に関する。したがって、本発明の手法に基づく故障位置特定は、同期誤差と、天候、導体の経年、温度、垂れ下がりなどの実際の条件の変動に起因する波速およびライン長の変動に起因して導入される誤差とを排除する。さらに、本発明のシステムおよび方法は、故障位置特定解決策を展開するために波速を較正するための実験を必要としない。
【0018】
本発明の一例によれば、第1の端子を第2の端子と接続する送電線における故障位置を検出することができる。送電線の特定の場所に電気的故障(または外乱)がある可能性がある。故障は、第1の端子および第2の端子で行われた測定に基づく推定から識別することができる。これらの測定は、測定機器を用いて行われる電流/電圧測定を含む。例えば、測定機器は、変流器、変圧器、センサベースの測定機器(例えば、ロゴスキーコイル、非従来型機器変圧器など)などを含むことができ、送電線から感知された電流、電圧、または他の情報に対応する信号を提供する。
【0019】
送電線に故障があると進行波が発生する。進行波は、外乱となる一時的な波であり、送電線に沿って一定速度で移動する。このようなタイプの波は、短時間(数マイクロ秒)発生するが、ラインの乱れを引き起こす可能性がある。
【0020】
本発明の一例によれば、第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波に関連する複数のパラメータを取得することができる。進行波、およびそのパラメータ(例えば、到着時間、ピーク幅、立上り時間など)は、端子で行われた測定から(例えば、1つまたは複数の測定機器から受信された1つまたは複数の信号から)検出することができる。例えば、電流信号をデジタル化し、処理して進行波を検出することができる。
【0021】
進行波は、故障に起因して生成され、第1および第2の端子における測定値から検出することができる。第1の端子での測定から検出された進行波に関連する複数のパラメータが取得され、第2の端子での測定から検出された進行波に関連する複数のパラメータが取得される。一例では、第1の端子および第2の端子における測定は非同期であり得る。例えば、2つのIEDが測定値を取得した場合、2つのIED(および/または対応する測定機器)は時間的に非同期である。
【0022】
第1の端子で行われた測定から検出された進行波について、第1のピークの到着時間、第2のピークの到着時間、および第3のピークの到着時間が取得される。一例では、第1、第2、および第3のピークは、第1の端子で進行波を検出するためにデジタル化および処理された電流信号の第1、第2、および第3の山に対応する。同様に、第2の端子で行われた測定から検出された進行波について、第1のピークの到着時間、第2のピークの到着時間、および第3のピークの到着時間が取得される。一例では、第1、第2、および第3のピークは、第2の端子で進行波を検出するためにデジタル化および処理された電流信号の第1、第2、および第3の山に対応する。
【0023】
さらに、第1の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークに関連する立上り時間が推定される。同様に、第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークに関連する立上り時間が推定される。進行波の第1のピークに対する推定立上り時間の比較に基づいて、送電線の第1の半分および第2の半分のうちの1つが故障を有すると識別される。これにより、送電線の故障した半区間が識別される。
【0024】
故障した半区間を識別した後、第1および第2の半分のうちの1つが故障を有するとの識別と、進行波の第1、第2、および第3のピークの到着時間の比較とに基づいて、送電線の第1のセグメント、第2のセグメント、第3のセグメント、および第4のセグメントのうちの1つが故障を有すると識別される。さらに、第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが故障を有するとの識別と、進行波の第1、第2、および第3のピークの到着時間、第1の端子で行われた測定から検出された第2の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間、ならびに第2の端子で行われた測定から検出された第1の端子から反射された進行波の第1のピークの到着時間の比較とに基づいて、送電線の長さが推定される。本発明は、第1、第2、第3、および第4のセグメントのうちの1つが故障を有するとの識別と、第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1、第2、および第3のピークの到着時間と、送電線の推定された長さとに基づいて、故障位置を推定することを含む。
【0025】
したがって、本発明は、送電線の非同期測定を使用して正確な故障位置特定を可能にする。さらに、波速などのラインパラメータは、本発明の技術に基づいて故障位置を決定するために必要とされない。また、故障位置精度は、処理(ハードウェアおよびソフトウェア)遅延とは無関係である。さらに、システムの複雑さ、遅延、およびコストを低減する同期のためのGPSは必要とされない。さらに、本発明の技術は、伝送される進行波の3つのピークのみの到着時間のデータを必要とするので、本発明の技術は、従来の技術によって消費されるものよりも少ない通信帯域幅を消費し、それによって完全な外乱レコーダの要件を排除する。さらに、変電所ケーブル遅延、ソフトウェア/ハードウェア処理遅延、および波速の誤差を補正するために、実験データ/結果は使用されない。進行波の最初の3つのピークに関連する到着時間に基づいて送電線の長さを動的に推定することにより、2つの端子間のデータ同期への依存およびラインパラメータへの依存は、本発明の故障位置特定技術において排除され得る。
【0026】
以下の詳細な説明は、添付の図面を参照する。可能な限り、同じまたは類似の部分を指すために、図面および以下の説明において同じ参照番号が使用される。いくつかの例が説明に記載されているが、変更、適合、および他の実装も可能である。したがって、以下の詳細な説明は、開示された例を限定するものではない。代わりに、開示された例の適切な範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義され得る。
【0027】
図1は、一例による、故障位置特定のための2電源等価電気回路網100のブロック図を示す。電気回路網100は、単一の送電線102と、2電源、すなわち電源104および106とを備える。電気回路網100は、キロボルトの範囲内などの高電圧で、および数十または数百キロメートルなどの長距離にわたって電力を伝送することができる。
【0028】
送電線102は、
図1に示すように、2つのバスであるバスAとバスBとの間に接続されている。本発明の技術は、送電線に関連する1つまたは複数の装置で実施することができる。装置は、リレー、インテリジェント電子装置(IED)もしくは故障ロケータなどの電力システム装置、および/または電力システム装置に接続されたサーバを含むことができる。
図1に示すように、IED108が、第1の端子とも呼ばれるバスAに関連付けられ、IED110が、第2の端末とも呼ばれるバスBに関連付けられる。IED108および110は、直接または他の接続手段を介して送電線102と電気的に通信することができる。
図1に示すように、IED108は、バスA(第1の端子)に配置され、進行波を検出し、IED110などの他の電力システム装置から故障位置特定のための必要なパラメータを取得または推定し、あるいは故障位置特定のためのパラメータを受信する。IED110は、バスB(第2の端子)に配置され、進行波を検出し、IED108などの他の電力システム装置から故障位置特定のために必要なパラメータを取得または推定し、あるいは故障位置特定のためのパラメータを受信する。IED108および110は、動作中に、電気回路網100内に設置され得る1つまたは複数のセンサおよび変流器(CT)からデータを受信することができる。
【0029】
例えば、第1の端子におけるIED108は、第1の端子での測定値から進行波関連パラメータを取得し、第2の端子での進行波関連測定値をIED110から受信することができる。この例では、IED108は、第1の端子で変流器(CT)などの測定機器から信号を受信し、そこから測定値を取得することができるか、または測定機器がバス(例えばプロセスバス)を介して測定値をパブリッシュし、IED(例えば、そのようなバスからデータを受信するようにサブスクライブされる)がバスを介して測定値を受信する。進行波検出は、別の電力システム装置で交互に実行されてもよく、取得された測定値(またはパラメータ)は、IED108もしくは110に、または本方法を実施するサーバに通信されてもよい。
【0030】
一例では、本発明の方法のステップは、1つまたは複数のモジュールによって実行されてもよい。モジュールは、1つまたは複数のプロセッサによって実行可能な命令として実装されてもよい。例えば、IED108および110などのIEDが方法を実行する例では、モジュールは、IED108および110のプロセッサで実装される。サーバが方法を実行する他の例では、モジュールはサーバのプロセッサで実装されてもよい。本方法が部分的にIEDによって実施され、部分的にサーバによって実施される場合、モジュールは(ステップに応じて)、それに応じてIEDおよびサーバに分散される。
【0031】
IED108および110は、進行波検出器112および114をそれぞれ含む。進行波検出器112および114は、IED108および110内にインストールされたソフトウェアとして、または電子回路の形態のハードウェアとして実装されてもよい。一例では、進行波検出器112および114は、IED108および110のプロセッサと結合することができる。別の例では、進行波検出器は、(バスAのCTまたはバスBのCTなどの測定機器に接続された)スタンドアロン装置であってもよい。
【0032】
さらに、IED108および110は、それぞれ故障局所化モジュール116および118と、それぞれ故障位置特定モジュール120および122とを含む。故障局所化モジュール116および118ならびに故障位置特定モジュール120および122は、IED108および110のプロセッサ(複数可)によって実行可能な命令として、または電子回路の形態のハードウェアとして実装することができる。また、IED108および110は、通信インタフェース124および126を含む。通信インタフェース124および126は、進行波関連データが故障位置特定のためにIED108と110との間で交換されることを可能にする。
【0033】
動作時に、IED108の進行波検出器112は、第1の端子(バスA)で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークを検出する。同様に、IED110の進行波検出器114は、第2の端子(バスB)で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークを検出する。第1の端子および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークの到着時間が、それぞれ進行波検出器112および114で取得される。さらに、進行波検出器112および114は、第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークに関連する立上り時間を計算する。
【0034】
T
ARTは、第1の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークの立上り時間であり、T
BRTは、第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークの立上り時間であると考える。T
ARTがT
BRTよりも小さい場合、
図2aおよび
図2bに詳細に示すように、送電線の第1の半分に故障が発生したと識別される。T
ARTがT
BRTよりも大きい場合、
図2cおよび
図2dに詳細に示すように、送電線の第2の半分に故障が発生したと識別される。
【0035】
したがって、
TART<TBRT →故障がラインの第1の半分にある(1)
TART>TBRT →故障がラインの第2の半分にある(2)
したがって、第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークについて推定された立上り時間の比較に基づいて、送電線の第1の半分および第2の半分のうちの1つが故障を有すると識別される。
【0036】
以下の説明では、故障位置特定の機能を実施するためにIED108のモジュールおよびリソースを参照しているが、IED110のモジュールおよび他のリソースは、故障位置特定の機能を実施するために必要な変更を加えて使用することができる。送電線の第1の半分が故障を有すると識別したことに応答して、故障局所化モジュール116は、第1の端子(バスA)で行われた測定から検出された進行波のピークの到着時間の間の第1の差を決定する。第1の差(t1diff)は、進行波の第1、第2および第3のピークのうちの2つの連続するピークの到着時間の間の絶対差である。
【0037】
【0038】
故障局所化モジュール116は、第1の差がゼロにほぼ等しいときに、第1のセグメントが故障を有すると識別する。第1のセグメントは、第1の端子(バスA)から送電線の長さの3分の1までにわたる。故障局所化モジュール116は、第1の差が所定閾値よりも大きいときに、第2のセグメントが故障を有すると識別する。第2のセグメントは、送電線の長さの3分の1から送電線の長さの半分までにわたる。したがって、
【0039】
【0040】
送電線の第2の半分が故障を有すると識別したことに応答して、故障局所化モジュール116は、第2の端子(バスB)で行われた測定から検出された進行波のピークの到着時間の間の第2の差を決定する。一例では、故障局所化モジュール116は、通信インタフェース126を介してIED110から第2の端子で行われた測定から検出された進行波のピークの到着時間を取得することができる。第2の差(t2diff)は、第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1、第2および第3のピークのうちの2つの連続するピークの到着時間の間の絶対差である。
【0041】
【0042】
故障局所化モジュール116は、第2の差が所定閾値よりも大きいときに、第3のセグメントが故障を有すると識別する。第3のセグメントは、送電線の長さの半分から送電線の長さの3分の2までにわたる。故障局所化モジュール116は、第2の差がゼロにほぼ等しいときに、第4のセグメントが故障を有すると識別する。第4のセグメントは、送電線の長さの3分の2から第2の端子(バスB)までにわたる。したがって、
【0043】
【0044】
図2aは、送電線の第1のセグメント、すなわち、第1の端子(バスA側)と送電線の長さの3分の1との間で故障が発生した場合のシナリオのBewley格子図を示す。このシナリオでは、第1の端子(バスA側)において、故障点から発生した進行波は、第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークは故障点から(すなわち、バスB側からの反射としてではなく)到着した。図示のように、バスB側では、故障点から発生した進行波に対して、第1のピークは故障点から到着し、第2のピークは反射波の結果として遠端バスから(すなわち、バスA側から)到着した。同様に、バスA側では、故障点から発生した進行波に対して、時間t
A4
1の後に第1の反射波が受信される。
【0045】
故障位置は、以下のように計算することができる。
図2aのBewley格子図から、以下のように書くことができる。
【0046】
【0047】
故障位置は、式(9)の最初の2つの進行波到着時間を使用して、以下の式(10)のように計算することができる。
【0048】
【0049】
このシナリオでは、式(1)を使用してライン長を推定することはできない。なぜなら、遠隔反射がないか、またはいずれの波も送電線の全長を横切らないからである。これを克服するために、遠隔端子Bからの第1の端子(バスA側)における第1の遠隔反射到着時間が記録され得る。したがって、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された第2の端子(バスB側)から反射された進行波の第1のピークは、tA3
1と表される。
【0050】
【0051】
【0052】
第1のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、故障位置特定モジュール120は、式(12)に基づいて送電線の第1の推定長を計算する。式(12)から分かるように、第1の推定長は、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第1および第2のピークの到着時間の間の差と、第2の端子(バスB側)から反射された進行波の第1のピークおよび第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2のピークの到着時間の間の差との和に比例する。
【0053】
【0054】
したがって、故障位置特定モジュール120は、式(13)に示すように、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2および第1のピークの到着時間の間の差の第1の推定長に対する比から、送電線の第1のセグメントにおける故障位置を推定する。
【0055】
図2bは、送電線の第2のセグメント、すなわち、送電線の長さの3分の1と半分との間で故障が発生した場合のシナリオのBewley格子図を示す。故障位置は、以下のように計算することができる。
図2bのBewley格子図から、以下のように書くことができる。
【0056】
【0057】
故障位置は、式(14)の最初の2つの進行波到着時間を用いて、以下の式(15)のように計算できる。
【0058】
【0059】
第2のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、故障位置特定モジュール120は、式(16)に基づいて送電線の第2の推定長を推定する。式(16)から分かるように、第2の推定長は、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2および第3のピークの到着時間の和と、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された第1のピークの到着時間の2倍との差に比例する。
【0060】
【0061】
したがって、故障位置特定モジュール120は、式(17)に示すように、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2および第1のピークの到着時間の間の差の第2の推定長に対する比から、送電線の第2のセグメントにおける故障位置を推定する。
【0062】
図2cは、送電線の第3のセグメント、すなわち、送電線の長さの半分と3分の2との間で故障が発生した場合のシナリオのBewley格子図を示す。故障位置は、以下のように計算することができる。
図2cのBewley格子図から、以下のように書くことができる。
【0063】
【0064】
第3のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、故障位置特定モジュール120は、式(16)に基づいて送電線の第2の推定長を推定する。式(16)から分かるように、第2の推定長は、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2および第3のピークの到着時間の和と、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された第1のピークの到着時間の2倍との差に比例する。
【0065】
【0066】
したがって、故障位置特定モジュール120は、式(20)に示すように、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第3および第1のピークの到着時間の間の差の第2の推定長に対する比から、送電線の第2のセグメントにおける故障位置を推定する。
【0067】
図2dは、送電線の第4のセグメント、すなわち、送電線の長さの3分の2と第2の端子(バスB側)との間で故障が発生した場合のシナリオのBewley格子図を示す。
【0068】
故障位置は、以下のように計算することができる。
図2dのBewley格子図から、第1の端子から以下のように書くことができる。
【0069】
【0070】
故障位置は、式(21)の最初の2つの進行波到着時間を用いて、以下の式(22)のように計算できる。
【0071】
【0072】
このシナリオでは、式(21)を使用してライン長を推定することはできない。なぜなら、送電線の第1の端子(バスA側)からの遠隔反射がないからである。これを克服するために、遠隔の第1の端子(バスA側)からの第2の端子(バスB側)における第1の遠隔反射到着時間が記録され得る。したがって、第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された第1の端子(バスA側)から反射された進行波の第1のピークは、tB4
1と表される。
【0073】
【0074】
第4のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、故障位置特定モジュール120は、式(25)に基づいて送電線の第3の推定長を推定する。式(25)から分かるように、第3の推定長は、第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第1および第2のピークの到着時間の間の差と、第1の端子(バスA側)から反射された進行波の第1のピークおよび第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第2のピークの到着時間の間の差との和に比例する。
【0075】
【0076】
したがって、故障位置特定モジュール120は、式(26)に示すように、第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第1および第2のピークの到着時間の間の差と、第1の端子から反射された進行波の第1のピークおよび第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第2のピークの到着時間の間の差との和の第3の推定長に対する比から、送電線の第4のセグメントにおける故障位置を推定する。
【0077】
図3aおよび
図3bは、一例による、送電線における故障位置特定のための方法300を示す。方法300は、IED108または110などの装置によって実行することができる。方法300は、任意の適切なハードウェア、プログラム可能な命令、またはそれらの組合せを介して処理リソースまたは電気制御システムによって実施することができる。一例では、方法300のステップは、進行波検出器112または114の故障局所化モジュール116または118、および故障位置特定モジュール120または122などのハードウェアまたはプログラミングモジュールによって実行されてもよい。さらに、方法300は前述のIED108および110の文脈で説明されているが、方法300の実行にはサーバまたは他の適切なシステムが使用されてもよい。方法300に含まれるプロセスは、非一時的コンピュータ可読媒体に記憶された命令に基づいて実行することができることが理解されよう。非一時的コンピュータ可読媒体は、例えば、デジタルメモリ、磁気ディスクおよび磁気テープなどの磁気記憶媒体、ハードドライブ、または光学的に読み取り可能なデジタルデータ記憶媒体を含むことができる。
【0078】
図3Aを参照して、送電線の各端子(バスA側およびバスB側)における進行波に関連する測定値が受信される。一例では、端子は、
図1のバスAまたはBなどのバスであってもよく、送電線は、IED108または110などのIEDが結合された
図1に示す送電線102であってもよい。ブロック302において、第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークが検出される。
【0079】
ブロック304において、第1および第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピーク、第2のピーク、および第3のピークの到着時間が取得される。一例では、到着時間は、第1および第2の端子でCTまたはPTなどの測定機器によって測定されてもよく、それはIED 108および110に通信されてもよい。一例では、
図1を参照すると、IED108は、IED108と110との間の通信リンクを介して、第2の端子(バスB側)で実行された測定から検出された進行波の第1、第2、および第3のピークの到着時間の測定値を受信することができ、逆も同様である。したがって、第1および第2の端子のうちの一方に関連付けられたIED108または110などの各インテリジェント電子装置は、第1および第2の端子の各々に関連付けられた測定機器および通信インタフェースのうちの少なくとも1つから、第1および第2の端子の各々で行われた測定値を受信する。
【0080】
ブロック306において、第1の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークに関連する立上り時間(TART)を計算する。同様に、ブロック308において、第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1のピークに関連する立上り時間(TBRT)が計算される。TARTは、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第1のピークの立上り時間を表し、TBRTは、第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第1のピークの立上り時間である。
【0081】
ブロック310において、TARTとTBRTの比較が行われる。ブロック312において、TARTがTBRTよりも小さい場合(ブロック310からの「Yes」の分岐)、送電線の第1の半分で故障が識別される。ブロック314において、TARTがTBRTよりも大きい場合(ブロック310からの「No」の分岐)、送電線の第2の半分で故障が識別される。
【0082】
送電線の第1の半分が故障を有すると識別したことに応答して、ブロック316において、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波のピークの到着時間の間の第1の差が決定される。第1の差(t1diff)は、式(3)に示すように、進行波の第1、第2および第3のピークのうちの2つの連続するピークの到着時間の間の絶対差である。
【0083】
ブロック318において、第1の差(t1diff)がゼロにほぼ等しいかどうかがチェックされる。ブロック320において、第1の差がゼロにほぼ等しいとき(ブロック318からの「YES」の分岐)、第1のセグメントが故障を有すると識別される。第1のセグメントは、第1の端子(バスA)から送電線の長さの3分の1までにわたる。ブロック324において、第1の差が所定閾値よりも大きいとき、第2のセグメントが故障を有すると識別される。第2のセグメントは、送電線の長さの3分の1から送電線の長さの半分までにわたる。第1および第2のセグメントの識別は、式(4)および(5)に基づく。
【0084】
送電線の第2の半分が故障を有すると識別したことに応答して、ブロック326において、第2の端子(バスB)で行われた測定から検出された進行波のピークの到着時間の間の第2の差が検出される。第2の差(t2diff)は、式(6)に示すように、第2の端子で行われた測定から検出された進行波の第1、第2および第3のピークのうちの2つの連続するピークの到着時間の間の絶対差である。
【0085】
ブロック328において、第2の差がゼロにほぼ等しいかどうかがチェックされる。ブロック330において、第2の差がゼロにほぼ等しいとき、第3のセグメントが故障を有すると識別される。第3のセグメントは、送電線の長さの半分から送電線の長さの3分の2までにわたる。ブロック332において、第2の差が所定閾値よりも大きいとき、第4のセグメントが故障を有すると識別される。第4のセグメントは、送電線の長さの3分の2から第2の端子(バスB)までにわたる。第3および第4のセグメントの識別は、式(7)および(8)に基づく。
【0086】
第1のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、ブロック334において、式(12)に基づいて送電線の第1の推定長が計算される。式(12)から分かるように、第1の推定長は、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第1および第2のピークの到着時間の間の差と、第2の端子(バスB側)から反射された進行波の第1のピークおよび第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2のピークの到着時間の間の差との和に比例する。
【0087】
【0088】
ブロック324および330において第2のセグメントまたは第3のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、ブロック338において、式(16)に基づいて送電線の第2の推定長が計算される。式(16)から分かるように、第2の推定長は、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された進行波の第2および第3のピークの到着時間の和と、第1の端子(バスA側)で行われた測定から検出された第1のピークの到着時間の2倍との差に比例する。
【0089】
【0090】
【0091】
第4のセグメントが故障を有すると識別したことに応答して、ブロック344において、式(24)に基づいて送電線の第3の推定長が計算される。式(24)から分かるように、第3の推定長は、第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第1および第2のピークの到着時間の間の差と、第1の端子(バスA側)から反射された進行波の第1のピークおよび第2の端子(バスB側)で行われた測定から検出された進行波の第2のピークの到着時間の間の差との和に比例する。
【0092】
【0093】
本発明の方法および装置は、技術的実現可能性を確立するために試験される。一例では、本発明の技術を確立するために、長さ200kmの送電線からなるシステムのシミュレーション結果を以下に説明する。この例では、本発明の精度を試験するために、送電線のすべてのセグメント(第1、第2、第3、および第4)をカバーする4つのケースを考える。
【0094】
【0095】
テストケースは、第1の端子(バスA側)から50、90、110および150kmで、データ同期および波速誤差を伴う異なる故障位置を含む。これは、
図4aおよび
図4bに示す表Iから観察することができるように、時間同期の小さな誤差(例えば1μs)であっても、従来の故障位置特定技術の精度は大きく影響を受ける。しかしながら、本発明の方法および装置は、より高い同期誤差であってもその精度を維持する。
【0096】
本発明の方法はまた、0.5%から10%まで変化する波速変動について試験される。従来の方法を使用すると、第1および第4のセグメントの故障について誤差が大幅に増加したが、本発明の方法を使用すると精度は影響を受けないことが観察される。結果を
図5aおよび
図5bに示す表IIにまとめる。
【0097】
上記の結果に基づいて、非同期測定を使用した、パラメータに依存しない進行波ベースの故障位置特定に関する本発明は、従来の故障位置特定技術と比較してより正確であると結論付けることができる。本発明の方法はまた、異なる同期および波速誤差について検証される。従来の2端子法では、より高い同期誤差および波速誤差に対して故障位置誤差が増加するが、本発明の方法の精度は一貫しており、データ同期誤差および波速誤差とは無関係である。故障位置に関する試験結果は、本発明の方法が、故障、故障タイプ、アーク抵抗、故障開始角度、測定ノイズおよび非線形高インピーダンス故障の位置によって影響されないことを明らかにする。シミュレーション結果によれば、200kmラインを用いた試験システムでは、±150mの故障位置精度を達成することができる。AC送電線について導出およびシミュレーションが実行されるが、この概念はDC送電線にも拡張することができる。一例では、本発明はIEDで実施することができ、異なる構成要素および波速(ラインパラメータ)誤差を調整するためにGPSベースの同期も現場実験も必要とせず、実際の展開中のコスト削減をもたらす。
【0098】
本主題の実装形態は、構造的特徴および/または方法に固有の言語で説明されているが、本主題は必ずしも説明された特定の特徴または方法に限定されないことに留意されたい。むしろ、特定の特徴および方法は、本主題のいくつかの実施態様の文脈で開示および説明される。