IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 学校法人玉川学園の特許一覧

<>
  • 特許-好塩性微細藻類の回収方法 図1
  • 特許-好塩性微細藻類の回収方法 図2
  • 特許-好塩性微細藻類の回収方法 図3
  • 特許-好塩性微細藻類の回収方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】好塩性微細藻類の回収方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/12 20060101AFI20240201BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C12N1/12 Z
C12P1/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019204446
(22)【出願日】2019-11-12
(65)【公開番号】P2021073931
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-11-07
(73)【特許権者】
【識別番号】593171592
【氏名又は名称】学校法人玉川学園
(74)【代理人】
【識別番号】110002136
【氏名又は名称】弁理士法人たかはし国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】和辻 智郎
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 みどり
(72)【発明者】
【氏名】ナカ アンヘリカ
【審査官】西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】特表2004-521647(JP,A)
【文献】特開2015-053863(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2015-0014801(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第104593262(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第104232489(CN,A)
【文献】特開2003-325165(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-7/08
C12M 1/00-3/10
C12P 1/00-41/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程1、3、4及び5の全てを、この順に有し、好塩性微細藻類がデュナリエラ(Dunaliella)属に属する好塩性微細藻類である好塩性微細藻類の回収方法。
(1)池の水の中で好塩性微細藻類を培養する工程
(3)上記工程1で培養された好塩性微細藻類を、該池の水と共に回収して回収液を得る工程
(4)上記工程3で得られた回収液を容器に入れ、該容器の高さを該池の深さより大きく設定し、該容器の水深を該池の水深より大きくして、該容器内を遮光して、該好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させる工程
(5)上記工程4で沈降させた好塩性微細藻類を回収する工程
【請求項2】
上記工程1の池の水の体積が1m以上である請求項1に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項3】
上記工程1の池の面積が10m以上である請求項1又は請求項2に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項4】
上記工程1の水が、海水、海洋深層水、人工海水、又は、人工海洋深層水である請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項5】
上記工程3で得られる回収液中の好塩性微細藻類の含有割合が、10cell/mL以上1010cell/mL以下である請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項6】
上記工程4における「容器内を遮光」が、容器を遮光材料で作るか、遮光材料で容器を覆うか、土中に掘られた穴若しくは空間を利用するか、トンネル若しくは洞窟を利用するか、遮光された屋内を利用することによってなされる請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項7】
上記工程4において、容器内を遮光してから、好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させ、上記工程5において好塩性微細藻類を回収するまでの沈降時間が、30分以上1か月以下である請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項8】
上記工程4まで、好塩性微細藻類の回収に、遠心分離を用いない請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の好塩性微細藻類の回収方法。
【請求項9】
請求項1ないし請求項の何れかの請求項に記載の好塩性微細藻類の回収方法を使用して好塩性微細藻類を回収し、該好塩性微細藻類から有用有機物を獲得することを特徴とする有用有機物の製造方法。
【請求項10】
上記有用有機物が、炭水化物若しくは糖;オリゴペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質;ビタミン若しくはビタミン前駆体;油脂、糖脂質、リン脂質若しくはリポタンパク質;又は;炭化水素である請求項に記載の有用有機物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好塩性微細藻類の回収方法、及び、回収された好塩性微細藻類から有用有機物を得る方法に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽エネルギーや風力エネルギー等の再生可能エネルギーによってエネルギー需要の多くを賄うことが求められているが、再生可能エネルギーはエネルギー密度が低く、化石エネルギーからの早急な転換はハードルが高い。
そこで、微細藻類による燃料油生産によって、該ハードルを下げることが期待されている。
【0003】
微細藻類による燃料油生産というアイデアは、既に提案されている(例えば、特許文献1、2)。しかし、現状を鑑みると、一部を除き実用化に関しては、多くの問題点が解決できていない。
【0004】
また、培養・増殖した微細藻類から有用有機物を得ることも提案され、糖、ポリペプチド、ビタミン等、種々の有用物に関し、具体的な検討もなされている(例えば、特許文献3、4)。
特許文献3には、好塩性藍藻を、高塩濃度で定常期まで培養した後、低塩濃度で数時間~数日間培養して多糖類を生産させ、該多糖類を分離精製する方法が記載されている。
また、特許文献4には、水性藻類バイオマス懸濁液から、β-カロテンを溶媒抽出する方法が記載されている。
【0005】
一方、培養・増殖させた微細藻類を効率よく水中から回収する方法も検討されている(例えば、特許文献5~9)。
【0006】
特許文献5には、微細藻類が凝集しやすい表面ゼータ電位となるように、原水の塩類濃度を調整し、原水に無機凝集剤を添加して凝集反応を行わせる凝集工程と、該凝集工程で生成した凝集フロックを固液分離する加圧浮上分離工程とを有する、微細藻類の水からの分離回収方法が記載されている。
また、特許文献6には、原水に難溶性水酸化物を生成する金属塩を添加した後、該原水を難溶解性水酸化物が生成するpHに調整する水酸化物生成工程と、該難溶解性水酸化物によって微細藻類を凝集させる凝集工程と、生成した凝集フロックを固液分離する固液分離工程とを有する微細藻類の回収方法が記載されている。
【0007】
特許文献7には、微細藻類を透過させない分離膜を備えた多孔質フィルターを使用して、微細藻類を含む培養液から、濾過セル内に微細藻類を回収し、該微細藻類の成形体を作製し、逆洗を行って該成形体を排出させる微細藻類の回収・成形方法が記載されている。
また、特許文献8には、微細藻類の培養液の上方に気層が存在するようにしながら、該培養液で微細藻類を培養し、該培養液の液量を減らし、培養物を回収する、微細藻類の培養及び回収方法が記載されている。
【0008】
また、特許文献9には、好塩性微細藻類に属する藻類の藻体を、タンパク質の変性による沈殿を利用して取得する好塩性微細藻類の回収方法が記載され、培養液中に、タンパク質を含む有機物溶液を添加して混合して静置し、沈殿物と上澄みとに分離し、該沈殿物に含まれる藻体を回収する好塩性微細藻類の回収方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、これらの技術は、化学的・物理学的に、培養液(微細藻類を有する原水)から、物体としての微細藻類を回収する方法であり、微細藻類が有する生物としての性質を利用して生物学的に濃縮する方法ではなかった。
また、後述するように、従来知られている濃縮・回収技術では、微細藻類を有する原水中から微細藻類を濃縮する回収率や効率(コストパフォーマンス)が悪かったり、濃縮・回収に要するエネルギーが多過ぎたりして、実用化までには、程遠いものであった(表1参照)。
【0010】
そこで、石油や天然ガスに代わって、「微細藻類に含まれる燃料油を獲得すること」に関しては、コスト面、効率面等で十分ではなく、更なる改良が求められている。
また、「微細藻類から有用有機物を獲得すること」に関しても、消費必要エネルギー量の減少、微細藻類の回収率の向上等、コスト面(効率面)等から更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2015-231363号公報
【文献】特開2015-146785号公報
【文献】特開平5-049491号公報
【文献】特開平7-002761号公報
【文献】特開2012-179586号公報
【文献】国際公開第2013/024816号
【文献】特開2014-150768号公報
【文献】特開2016-208972号公報
【文献】特開2018-102158号公報
【0012】
【文献】Nyomi Uduman et al, Dewatering of microalgal cultures: A major bottleneck to algae-based fuels, Journal of Renewable and Sustainable Energy 2, Vol 2 (1), 2010
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記背景技術に鑑みてなされたものであり、その課題は、前記問題点を解決し、回収に必要なエネルギーが低く、回収率が高く、全体として効率の良い好塩性微細藻類の回収方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、池の水の中で好塩性微細藻類を培養し、該水を一旦回収容器に移し、その後、光を遮断することによって、該好塩性微細藻類が該容器の下に沈降することを見出して、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明は、以下の工程(1)(3)(4)(5)の全てをこの順に有することを特徴とする好塩性微細藻類の回収方法を提供するものである。
(1)池の水の中で好塩性微細藻類を培養する工程
(3)工程(1)で培養された好塩性微細藻類を、該池の水と共に回収して回収液を得る工程
(4)工程(3)で得られた回収液を容器に入れ、該容器内を遮光して、該好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させる工程
(5)工程(4)で沈降させた好塩性微細藻類を回収する工程
【0016】
また、本発明は、上記容器の高さを上記池の深さより大きく設定し、該容器の水深を該池の水深より大きくして、好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させる上記の好塩性微細藻類の回収方法を提供するものである。
【0017】
また、本発明は、上記の「好塩性微細藻類の回収方法」を使用して回収した好塩性微細藻類から有用有機物を獲得することを特徴とする有用有機物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、前記問題点や解決し、好塩性微細藻類を培養・増殖させた原水中での濃縮や、培養・増殖された該好塩性微細藻類の回収に際し、該回収に必要なエネルギー量が低く、回収率が高く、消耗品を必要としないので変動費が低く抑えられ、全体として効率・コストパフォーマンスの良い回収方法を提供できる。
【0019】
また、本発明によれば、濃縮・回収に際して、凝集剤、pH調整剤等の化学物質を必須とはせず、遠心分離、濾過(フィルター)、蒸発乾固、電圧印加等の物理的・機械的な操作や専用の装置も必須とはしないので、作業が簡便であり、種々の部材の交換が不要であるため変動費が抑制され、全体として極めて効率の良い好塩性微細藻類の回収方法を提供できる。
【0020】
本発明は、「培養された微細藻類を含有する原水」から、化学的・物理学的に、物体としての微細藻類を濃縮するのではなく、回収しようとする微細藻類が有する生物としての性質を利用して生物学的に濃縮をする。従って、濃縮に要するエネルギーが低く、大規模な装置も部材の交換作業も必要とせず、また、添加した化学物質による雑菌混入等のコンタミネーションのおそれもない。
【0021】
一般に、好塩性微細藻類を用いて、採算がとれるように、油脂(燃料)や有用有機物を得るためには、ある程度以上の生産規模が必要である。
本発明によれば、微細藻類を凝集させるための電力、遠心分離や濾過のための装置、浮上油回収装置等、生産規模が大きくなればなるほど大掛かりになる「エネルギーや装置」を必須とはせず、また、規模に比例して大量に必要になる凝集剤、pH調整剤等の化学物質の添加も必須としないので、コストパフォーマンスに優れ、公害を生じさせるおそれもない。また、初期投資も多くはかからないので、固定費も抑制される。
【0022】
従って、それら長所があることによって、低コストで大規模化でき、その結果、本発明によって初めて、商業的に採算がとれるようになる可能性がある。
【0023】
表1に、非特許文献1を参考にして(引用して)、従来技術に関し相互の比較を示す。
表1中、「TSS」は、総浮遊物質(total suspended solids)を示す。
【0024】
【表1】
【0025】
従来技術は、何れも重大な短所がある。
それに対し、本発明は、従来技術と比較して、必要エネルギーが少なく;化学物質が混入せず;静置による単なる重力沈降に比べて遥かにプロセスが速く;電極を必要とする方法に比べて、必要エネルギーが低く、電極のメンテナンスや交換の必要もない。
【0026】
本発明によれば、微細藻類に含まれる燃料油の獲得に関しては、コスト面、効率面等の点で十分である。
また、微細藻類から有用有機物の獲得に関しても、消費必要エネルギー量、微細藻類の回収率、コスト面、効率面等から十分である。
好塩性微細藻類から、採算がとれるように有用有機物や油脂(燃料)を得るためには、ある程度以上の生産規模が必要であるが、本発明によれば、大規模生産に好適に対応可能である(大規模生産にマッチングしている)。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】デュナリエラ(Dunaliella)属に属する好塩性微細藻類の沈降状態を示す写真である(実施例1)。 (左)静置前(遮光前) (右)遮光して7日間静置後
図2】遮光ありと遮光なしのデュナリエラの沈降速度の相違を示すグラフである(実施例2、比較例1)
図3】「培養液」及び「沈降させる容器中の液」の塩分濃度を12.5%と17.5%に振ったときの、デュナリエラの沈降程度の温度依存性を示すグラフである(実施例3)。
図4】窒素(N)を遮断したとき、「培養液」及び「沈降させる容器中の液」の塩分濃度を12.5%と17.5%に振ったときの、デュナリエラの沈降程度の温度依存性を示すグラフである(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明について説明するが、本発明は、以下の具体的形態に限定されるものではなく、技術的思想の範囲内で任意に変形することができる。
【0029】
本発明は、以下の工程1、3、4及び5の全てをこの順に有することを特徴とする好塩性微細藻類の回収方法である。
(1)池の水の中で好塩性微細藻類を培養する工程
(3)工程(1)で培養された好塩性微細藻類を、該池の水と共に回収して回収液を得る工程
(4)工程(3)で得られた回収液を容器に入れ、該容器内を遮光して、該好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させる工程
(5)工程(4)で沈降させた好塩性微細藻類を回収する工程
【0030】
<工程1>
<<池>>
工程1は、池の水の中で好塩性微細藻類を培養する工程である。
ここで、「池」とは、「狭い定義による池」には限定されず、自然界にあるもの若しくはそれを専用に加工・変更・手直し・区切り・補強等したもの、又は、人工的に作ったもの若しくは人工的に作ってあったものを専用に加工・変更・手直し・区切り・補強等したもの、等の何れでもよい。
【0031】
上記「自然界にあるもの若しくはそれを専用に加工等したもの」としては、例えば、海、川、湖沼、池等、又は、それらを専用に加工等したものが挙げられる。ここで、加工等(加工・変更・手直し・区切り・補強等)とは、具体的には、例えば、水を通さない仕切り等で小さく区切ったり、堰き止めたり、土手・縁等を補強したり、好塩性微細藻類を培養する際の好適な深さに埋め立てたり、内面を遮水加工したりすること等が挙げられる。
【0032】
上記「人工的に作ったもの若しくは人工的に作ってあったものを専用に加工・変更・手直し・区切り・補強等したもの」としては、具体的には、例えば、人工貯水池、プール、専用の培養容器、田圃・養殖池・人工池等;又は;それらを加工等(加工・変更・手直し・区切り・補強等)したもの等が挙げられる。ここでの「加工等」としては、具体的には、例えば、前記したもの等が挙げられる。以下、「加工等」と略記することがある。
日本では、休耕田が多いので、田圃等を加工等したものが、初期投資が抑制され、大きさ、深さ等が、本発明の「池」の条件にマッチングしている等の点から特に好ましい。
【0033】
工程1における1つの「池」の面積は、該池が人工的に作ったものの場合には、1m以上1×10以下であることが好ましく、100m以上2.5×10以下であることがより好ましい。
また、「池」が「自然界にあるもの若しくはそれを専用に加工等したもの」又は「人工的に作ってあったものを人工的に専用に加工等したもの」の場合には、10m以上10000m以下であることが好ましく、30m以上3000m以下であることがより好ましく、100m以上1000m以下であることが特に好ましい。
【0034】
1つの「池」の面積が上記下限以上であると、スケールメリットが得られる、作業性に優れる等の効果がある。
一方、1つの「池」の面積が上記上限以下であると、設備投資がかかり過ぎない、作業性が良い、無駄に広くない等の効果がある。
【0035】
「池」の水の体積又は/及び「池」の容積は、1m以上であることが好ましく、より好ましくは3m以上10000m以下であり、更に好ましくは10m以上3000m以下であり、特に好ましくは30m以上1000m以下である。
1つの「池」の体積が上記下限以上であったり、上記上限以下であったりすると、前記した「池」の面積の場合と同様の理由で望ましい。
【0036】
「池」の平均深さは、0.05m以上1.5m以下が好ましく、0.10m以上1m以下がより好ましい。
上記範囲であると、太陽光が好塩性微細藻類に当たり易い、干上がる恐れがない等の効果がある。
【0037】
<<水(培養のための原水)>>
培養は池の水の中で行われる。該水としては、好塩性微細藻類が増殖するようなものであれば、特に限定はないが、海水、海洋深層水、人工海水、又は、人工海洋深層水であることが好ましい。
海水は、平均的には塩分濃度が約3.5質量%であり、主に、ナトリウムイオン、マグネシウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン等の陽イオン;塩素イオン、硫酸イオン等の陰イオンを含む。
【0038】
海洋深層水は、人工的な汚染がなく、低温であったため雑菌が少なく、太陽光が当たらなかったために生存植物性プランクトンの混入がない等の好塩性微細藻類を培養する上で好適な条件が整っている。更に、それらに加え、硝酸塩等での窒素(N)やリン酸塩等でのリン(P)やケイ酸塩等でのケイ素(Si)等が豊富である。また、塩濃度が高いので、好塩性微細藻類の培養に障害となる菌等が生存し難い(少ない)。
そのため、海洋深層水は、本発明における好塩性微細藻類の培養のための水として特に好ましい。
【0039】
海水及び/又は海洋深層水は、太陽熱等を利用して水を蒸発させて濃縮させることによって、好塩性微細藻類の培養に必要な窒素(N)源やリン(P)源の濃度を上げることができる。水の蒸発と共に(同時に)、海水や海洋深層水の食塩(塩化ナトリウム)濃度も(例えば約15質量%まで)上がってしまうが、例えば、デュナリエラ(Dunaliella)属に属する微細藻類等の多くの(高度)好塩性微細藻類は、高い食塩(塩化ナトリウム)濃度(例えば約15質量%)でも培養可能である。
その点からも、太陽熱を利用して、窒素(N)源やリン(P)源の濃度を上げることは好ましい。
また、高い食塩(塩化ナトリウム)濃度(例えば約15質量%)になると、雑菌が繁殖し難くなり、コンタミネーション(汚染)が少なくなるので、好塩性微細藻類の増殖に好都合である。
【0040】
海水や海洋深層水、及び、それらを、太陽熱等を利用して水を蒸発させて濃縮させた培養のための原水は、コスト的に安価であり、本発明にスケールメリットがある場合には、それを生かすためには特に好適である。
【0041】
前記「人工海水や人工海洋深層水」は、最初から栄養分(必須元素等を含む)や塩(海水中の塩分を含む)を、全て人工的に加えて調製してもよいし、天然の海水や海洋深層水に、かかる栄養分や塩等を、人工的に追加配合して調製してもよい。
【0042】
<<好塩性微細藻類>>
本発明における好塩性微細藻類として、具体的には、例えば、デュナリエラ(Dunaliella)属に属する微細藻類等が挙げられる。1種又は2種以上の好塩性微細藻類を培養することができる。好塩性微細藻類としては、所謂「高度好塩性微細藻類」と言われているものも特に好ましい。
【0043】
好塩性微細藻類を、特に高塩分濃度の海水中で培養することで、コンタミネーション(雑菌混入)のリクス低減を低コストによって実現することが可能となる。
【0044】
培養の対象を「好塩性微細藻類」にする特徴としては、具体的には、例えば、以下が挙げられる。
好塩性微細藻類からは、炭水化物若しくは糖;オリゴペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質;ビタミン若しくはビタミン前駆体;又は;油脂、糖脂質、リン脂質、リポタンパク質若しくは炭化水素等の有用有機物を獲得できる;二酸化炭素以外の炭素源でも利用可能である;高度好塩性藻類(海洋性微細藻類)が多い;適応生育温度範囲が広い;強光阻害を受けない;等が挙げられる。また、好塩性微細藻類によって、大気中の二酸化炭素が資源化できる。
中でも、特に好ましい好塩性微細藻類として、上記の点等から、デュナリエラ(Dunaliella)属に属する微細藻類が挙げられる。
【0045】
デュナリエラ(Dunaliella)属は、細胞壁をもたないので、油の抽出が容易である。
また、デュナリエラ(Dunaliella)属は、グリセリンを浸透圧調整のために細胞中に貯蔵しているため、該グリセリンを回収して有効利用することができる。なお、該グリセリンは溶媒や触媒等を含まない純粋なグリセリンであるため、化粧品や飲食品への使用から発酵基質としての使用にも利用価値が高い。
【0046】
また、デュナリエラ(Dunaliella)属は、バブリング(二酸化炭素のエアレーション)が不要であり、培養コストを抑えることができる。
また、デュナリエラ(Dunaliella)属は、増殖しながら脂質蓄積が可能な数少ない微細藻類である。
また、β-カロテンを蓄積することで、強光阻害を起こさずに培養可能である。
また、適応生育温度範囲が広いため、人為的な温度コントロールを行わずに培養可能なため、大幅に培養コストを低減することが可能となる。
【0047】
デュナリエラ(Dunaliella)属に属する微細藻類として、例えば、Dunaliella salina、Dunaliella viridis、Dunaliella bioculata、Dunaliella primolecta、Dunaliella tertiolecta、Dunaliella bardawil等が挙げられる。
生存可能温度範囲が4~60℃と低温でも高温でも生存・生育することができる点、高浸透圧状況下で高温に耐えることができる点等から、デュナリエラ・サリナ(Dunaliella salina)を培養することが特に好ましい。本発明では、1種又は2種以上のデュナリエラ(Dunaliella)属に属する好塩性微細藻類を培養することができる。
【0048】
<工程2>
工程2は、本発明において、必須ではないが、上記工程(1)と下記工程(3)の間に行うことも好ましい。
工程2は、もし池の水が撹拌されていれば、該撹拌を停止して経時させ、上記好塩性微細藻類が、上記池の水の深さ方向の全体に亘って存在するか、又は、池の水の中の深さ方向の上側、中間若しくは下側の何れか1か所又は2か所に存在するかを確認する工程である。
【0049】
例えば、好塩性微細藻類が上層だけに多く存在すれば、上層だけを回収すればよいし、下層だけに多く存在すれば、上層だけを回収すればよいし、上層と下層に多く存在すれば、上層と下層だけを回収してもよいし、全部の層(全部の水)を回収してもよい。
そうすることによって、培養のための池にあった大量の水を減らして、すなわち、好塩性微細藻類の濃度を濃くした状態で容器に回収して回収液とすることができ、その後の回収コストを削減することができる。
【0050】
ただ、下記する工程3と工程4の主たる目的(効果)は、遮光し易くすることや;深さの大きい容器に回収して、沈降させ易くする、又は、沈降物だけを回収し易くすることなので、その目的を達成するためには、池の水は全部回収することが好ましい。
【0051】
<工程3>
工程3は、上記工程1で培養された好塩性微細藻類を、該池の水と共に回収して回収液を得る工程である。
好塩性微細藻類を池の水と共に回収する方法としては、特に限定はないが、汲み出し、ポンプによる吸引、重力を利用しての流し出し、浮上油回収装置等の専用の装置による回収、デカンテーション、サイホンの原理(大気圧の利用)による抜き出し等が挙げられる。
工程2で、池から取り出す部分(深さ等)を確認して、池の水の一部又は実質的に全量を回収するかどうかを決めることもできる。
【0052】
全量回収すれば、回収液中の好塩性微細藻類の含有割合は、培養液中の(「池」の水中の)含有割合と同一になるし、濃度の高い場所だけを回収すれば、含有割合は高くなるが、工程3で得られる回収液中の好塩性微細藻類の含有割合は、10cell/mL以上1010cell/mL以下であることが好ましい。すなわち、このようになるまで培養することが好ましく、結果として、回収液中の好塩性微細藻類の濃度が、このような範囲になるように回収することが好ましい。
【0053】
<工程4>
工程4は、上記工程3で得られた回収液を容器に入れ、該容器内を遮光して、該好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させる工程である。
工程4以降で用いる上記容器としては、特に限定はなく、「人工的に作ったもの若しくは人工的に作ってあったものを加工等したもの」、「自然界にあるもの若しくはそれを専用に加工等したもの」等が挙げられる。
【0054】
工程4では、上記容器内を遮光して好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させるので、該容器としては遮光し易いものが好ましい。
「容器内の遮光」は、容器を遮光材料で作るか、遮光材料で容器を覆うか、土中に掘られた穴若しくは空間を利用するか、トンネル若しくは洞窟を利用するか、遮光された屋内を利用することによってなされることが好ましい。
【0055】
大きなスケールで培養を行ったときには、上記容器も大きいものになるので、自然界のもの(又はそれを加工したもの)で遮光し易いものが好ましい。
一方、該容器に大きさを必要としないときは、容器を遮光材料で作るか、遮光材料で容器を覆うか、容器を遮光された屋内に収納すること等が好ましい。
【0056】
上記容器の高さを上記池の深さより大きく設定し、該容器の水深を該池の水深より大きくして、好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させることが、好塩性微細藻類が多く存在する液(深さ方向の場所)と殆ど存在しない液(深さ方向の場所)とに分け易い、特に濃度の高い底に近い場所から回収できる、遮光し易い、再撹拌され難い、光が届き難い等の点から好ましい。
【0057】
好ましい容器の深さ(高さ)は、池の深さ(高さ)の3倍以上300倍以下が好ましく、7倍以上120倍以下がより好ましく、20倍以上50倍以下が特に好ましい。
具体的には、0.5m以上20m以下が好ましく、1m以上10m以下が特に好ましい。
なお、「池」の平均深さは、前記した通り、好塩性微細藻類の好適な培養を第一に考えて決められ、0.05m~1.5mが好ましく、0.10m~1mがより好ましい。従って、回収液の高さは、それに比べて、上記倍数の範囲で高いことが、底に近い場所の濃度を高くできてそこから回収できる、深さ方向の濃度差が深さ方向に拡大される、過度に平たくないので遮光し易い、その他上記した点等から好ましい。
【0058】
工程4において、容器内を遮光して、好塩性微細藻類を容器に沈降させるための時間(以下、「静置時間」と略記することがある)は、30分以上1か月以下が好ましく、4時間以上20日以下がより好ましく、1日以上15日以下が更に好ましく、5日以上10日以下が特に好ましい。
静置時間が短過ぎると、沈降が十分でない、上層と下層で好塩性微細藻類の濃度に差が出ない、塩分濃度やpHによっては沈降の程度が水温に依存する等の場合がある。一方、静置時間が長過ぎると、単位時間当たりの好塩性微細藻類や有用有機物の生産効率が落ちる等の場合がある。
【0059】
すなわち、本発明は、上記工程4において、容器内を遮光してから、好塩性微細藻類を該容器の底に沈降させ、後記工程5において好塩性微細藻類を回収するまでの沈降時間が、30分以上1か月以下である上記の好塩性微細藻類の回収方法でもある。
【0060】
工程4では、沈降させた部分の水中の好塩性微細藻類の濃度は、沈降させる前の回収液の平均濃度の、10倍以上10000倍以下にすることが好ましく、100倍以上3000倍以下にすることが特に好ましい。
濃度の絶対値で言うと、前記した通り、工程3で得られる回収液中の好塩性微細藻類の含有割合は、10cell/mL以上1010cell/mL以下であることが好ましいので、それぞれ、その濃度に、上記倍率を掛け合わせた濃度になるまで沈降させて、濃縮することが望ましい。
【0061】
本発明は、好塩性微細藻類は、遮光することによって、すなわち、少なくとも太陽光を当てないことによって、容器の底に好適に沈降することを見出してなされたものである。
従って、工程4では、遮光が必須であるが、更に該遮光に加えて、pH調節、酸素(空気)の遮断、窒素(空気)の遮断等を行ってもよい。
【0062】
本発明は、上記工程4まで、好塩性微細藻類の回収に、遠心分離を用いない上記の好塩性微細藻類の回収方法でもある。遠心分離は、最も一般的な好塩性微細藻類の回収であるが、莫大なエネルギーを要する。本発明は、大量にある回収液に対して極めて不利な遠心分離法で好塩性微細藻類の回収を行わず、単に遮光するだけで好塩性微細藻類を濃縮できることを見出してなされたものである。
【0063】
従って、本発明は、更に好ましくは、少なくとも上記工程4までは、好塩性微細藻類の回収に、実質的に、凝集剤を使用しないことであり、濾過をしないことであり、電解をかけることをしないことである。
【0064】
本発明をするに当たっては、静置中の種々の条件を振って検討したところ、驚くべきことに遮光が最も効果があった。かかる条件とは、遮光、酸素の遮断、窒素の遮断、温度変化、pH変化等である。
【0065】
<工程5>
工程5は、上記工程4で沈降させた好塩性微細藻類を回収する工程である。
該回収の方法は、特に限定はされず、濾過;加熱、減圧、風乾等による水の蒸発乾固;遠心分離;凝集剤による凝集分離;容器下からの抜き取り;等が挙げられる。容器下から抜き取る場合は、工程4で使用する容器として、予め容器下方に抜取装置が具備されたものを使用することも好ましい。
【0066】
また、沈降させた部分(好塩性微細藻類を高濃度で含む水)は、脱塩を行ってもよいし、真水を加えてもよいし、加熱をしてもよいし、好塩性微細藻類を殺してもよい。
また、コスト的に問題なければ、別容器を使用する等して、工程4と工程5を繰り返してもよい。繰り返す場合は、繰り返す度に、好塩性微細藻類の濃度等に応じて容器や上記の回収方法を変えてもよい。
【0067】
表1等を含め前記した通り、濾過は消耗品であるフィルター(交換)の必要性、遠心分離はエネルギー大でコスト高、凝集剤使用は不純物の混入等から、容積の大きい工程4までは好ましくない。すなわち、本発明の工程1ないし4においては、必須ではないことは勿論のこと、むしろ好ましくない。
しかし、本発明によって工程4まで行って、容積が極めて少なくなった工程5の時点では、上記のような公知の回収方法を用いることもできる。処理体積が小さくなっているので、上記のような公知の回収方法の短所が重要ではなくなる。
【0068】
工程5で回収された好塩性微細藻類は、そこから有用物を獲得したり、燃料として使用したりできる。
【0069】
<回収した好塩性微細藻類の用途>
本発明は、上記の好塩性微細藻類の回収方法を使用して回収した好塩性微細藻類から有用有機物を獲得することを特徴とする有用有機物の製造方法でもある。
該有用有機物として、具体的には、例えば、炭水化物若しくは糖;オリゴペプチド、ポリペプチド若しくはタンパク質;ビタミン若しくはビタミン前駆体;油脂、糖脂質、リン脂質若しくはリポタンパク質;又は;炭化水素;等が挙げられる。
【0070】
β-カロテン等のカロテノイド等を含むビタミン前駆体、グルタチオン等のオリゴペプチド、グリセリン等が、例えば、デュナリエラ(Dunaliella)属等の好塩性微細藻類から好適に獲得できる。
【0071】
β-カロテンは、高い抗酸化作用を有し、例えば、医薬品、食品、食品添加物、サプリメント等に利用することができる。
グルタチオンは、高い抗酸化作用を有し、例えば、医薬品、食品、サプリメント、肥料、飼料等に利用することができる。
また、グリセリンは、例えば、化粧品、医薬品等の原料としても、燃料としても、好適に利用することができる。
油脂は、例えば、食料用油、飼料用油、燃料油等に利用することができる。
好塩性微細藻類には、良質なタンパク質が含まれているので、例えば、飼料、醗酵原料等として利用することができる。
【実施例
【0072】
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0073】
実施例1
図1(左)に示すように、高さ9cm、底面積10cm、容積70cmの容器に、海水を入れ、デュナリエラ(Dunaliella)属に属する好塩性微細藻類を、1.3×10 cells/mLとなるように入れた。
なお、通常、広大な池の中で培養されたデュナリエラは、該池の海水をデュナリエラごと全て回収したとして(又は均一になるように撹拌してから回収したとして)、平均で、約1.3×10 cells/mL程度となるので、それを勘案して、上記初期濃度に設定した。
【0074】
その後、容器の周囲を遮光して、7日間静置した。7日後の写真を図1(右)に示す。
次いで、容器の真ん中から、ピペットで、測定サンプルを抜き出して、濃度を測定したところ、2.1×10 cells/mLであった。容器の真ん中のデュナリエラの濃度は、約2桁下がったことになり、十分なデュナリエラの沈降が見られた。
【0075】
その後、容器の下から体積で(すなわち高さで)、1/30だけを残して、デカンテーションで上澄みを除去した。7日間、全く外からエネルギーを加えることなく、全体積を1/30にできた。
すなわち、海水中のデュナリエラの濃度を30倍にすることができたので、その後のデュナリエラのみの回収が極めて容易になった。
【0076】
デュナリエラを含め、殆ど全ての属の微細藻類が光合成を行うが、光合成には二酸化炭素と水と光が必要である。
デュナリエラは、遮光することで、光合成ができなくなり動かなった。そのことによって、沈降したと考えられた。
デュナリエラのような好塩性微細藻類の場合、暗くすることは、沈降、その後の微細藻類のみの回収等にとって極めて効果的であることが分かった。
【0077】
比較例1
実施例1と同様に、1.3×10 cells/mLの濃度の均一分散のデュナリエラ含有海水を用い、遮光はせず、酸素(O)を遮断して(空気を遮断して)、72日間(約2か月)静置した。
図2にその結果を示す。なお、図2の縦軸の「1.00E+05」等は、「1.00×10」等を示す。
【0078】
容器の真ん中でサンプリングし、その濃度が、6.7×10 cells/mLに下がったが、それには、72日間(約2か月)も要した(図2参照)。
【0079】
実施例2
比較例1において、酸素(O)を遮断して(空気を遮断して)、更に、遮光もして、静置した。図2に、その結果を比較例1と合わせて示す。
7日間、遮光して静置することで、2.0×10 cells/mLにまで下がったことが確認できた(図2参照)。
また、沈降には、酸素(O)の遮断より、遮光の方が有効であることが分かった。
【0080】
実施例3
海水の塩分濃度を、すなわち、培養液の塩分濃度及び回収液の塩分濃度を、共に、12.5質量%、及び、17.5質量%と振って、沈降の程度を観察した。
上記2種類の塩分濃度で、1週間、デュナリエラを培養した。その後、遮光して、沈降実験(4時間と18時間後)を行った。結果を図3に示す。
【0081】
遮光したので、遮光したことによって、塩分濃度によらずデュナリエラが沈降した(図3)。
ただし、12.5質量%の塩分濃度の場合、全ての温度(4℃~50℃)で同じように沈降したが(図3(上の棒グラフ))、塩分濃度が17.5質量%の場合は、「20℃~30℃、及び、40℃以上」では同じように沈降したが、それ以外の温度では沈降速度が遅くなった(図3(下の棒グラフ))。
なお、図3、4における「沈殿率(Deposition percentage)」は、最初と最後の濃度を常法に従って測定して、100×[final cell count]/[initial cell count] を計算して求めた。
【0082】
実施例4
デュナリエラから獲得できる有用有機物であるカロテノイドは、窒素(N)を遮断してデュナリエラを培養すると、デュナリエラ内に高い濃度で貯まることが知られている。
そこで、窒素(N)を遮断して、実施例3と同様にして、デュナリエラを培養し、遮光して静置させ、沈降の仕方を観察した。結果を図4に示す。
【0083】
窒素(N)を遮断していない、実施例3とほぼ同様の結果が得られた(図4)。
すなわち、遮光したことによって、塩分濃度によらず、デュナリエラが沈降した(図4)。
ただし、12.5質量%の塩分濃度の場合、全ての温度(4℃~50℃)で同じように沈降したが(図4(上の棒グラフ)、塩分濃度が17.5質量%の場合は、「20℃~30℃、及び、40℃以上」では同じように沈降したが、それ以外の温度では、沈降速度が遅くなった(図4(下の棒グラフ)。
【0084】
実施例5
縦20m、横20m、深さ0.20m(20cm)の屋外の田圃を利用した池に、海洋深層水(塩分濃度3.5質量%)を入れ、約15℃~約25℃に保ちつつ、デュナリエラ(Dunaliella)属に属する好塩性微細藻類を2週間培養する。
一般に、上層と下層の濃度が高くなり、中層の濃度が低くなるが、撹拌後に全体の濃度を測定すると、1.0×10 cells/mLとなる。又は、ほぼ該濃度となるように、培養日数等を調整して培養する。
【0085】
1.0×10 cells/mLでデュナリエラを含む海洋深層水60mを、縦4m、横4m、深さ4mの容器に移し替える。深さは、培養池の27倍(4m/0.20m≒20)になったことになる。
【0086】
3日間、酸素(O)(空気)あり、窒素(N)ありの通常の大気の状態で静置した。静置の間、該容器は完全に遮光する。
静置して、3日後、デュナリエラが沈降したので、上澄みを除去し、沈降したデュナリエラを回収する。
【0087】
回収したデュナリエラからは、β-カロテン等のカロテノイド、グルタチオン等の(オリゴ)ペプチド、グリセリン等の有用有機物が得られる。
また、油脂も獲得でき、燃料としても使用できる。
この方法では、得られる有用有機物や油脂に関し、従来法に比べて、回収率、必要エネルギー、それらの比(すなわち、コストパフォーマンス(効率))が、表1に示した従来法の何れに比べても優れている。
【0088】
実施例6
「従来法をまとめた前記表1」と同様の尺度(測定方法、基準)で、本発明の「好塩性微細藻類の回収方法」を比較した。結果を以下の表2に示す。
【0089】
【表2】
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の好塩性微細藻類の回収方法は、回収に必要なエネルギーが低く、回収率が高く、全体として低コストで、効率が良いので、本発明で回収された好塩性微細藻類から獲得された有用有機物や燃料等は、化学品製造分野、化学品使用分野、エネルギー産生分野等に広く利用されるものである。

図1
図2
図3
図4