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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】油圧ポンプ装置
(51)【国際特許分類】
   F04B 53/14 20060101AFI20240201BHJP
   F04B 23/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F04B53/14 Z
F04B23/06
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020114197
(22)【出願日】2020-07-01
(65)【公開番号】P2022012387
(43)【公開日】2022-01-17
【審査請求日】2023-06-01
(73)【特許権者】
【識別番号】303015505
【氏名又は名称】三央工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079359
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 進
(72)【発明者】
【氏名】加納 啓光
【審査官】山崎 孔徳
(56)【参考文献】
【文献】実開平02-018666(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 53/14
F04B 23/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の低圧多流量の作動油を吐出可能な低圧ピストンと、
前記低圧ピストンに対し高圧少流量の前記作動油を吐出可能な高圧ピストンと、
前記低圧ピストン及び前記高圧ピストンを同時に作動可能なモータと、
前記モータの回転運動を前記低圧ピストン及び前記高圧ピストンの直線往復運動に変換して作動させるカムと、
前記低圧ピストン及び前記高圧ピストンが前記モータにより作動状態にあり、前記高圧ピストンの吐出圧が前記低圧ピストンの最大吐出圧を超える前の所定圧に達した場合に、前記低圧ピストンを前記直線往復運動の下死点よりも下方で作動停止させて、前記カムと前記低圧ピストンとの接続を絶つ低圧ピストン停止機構と、
を備え
前記低圧ピストン及び前記高圧ピストンは、前記作動油を吸引する方向に常時付勢され、前記モータに駆動された前記カムに押圧されて、当該付勢に抗して前記作動油を吐出する方向に作動可能であることを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項2】
請求項1記載の油圧ポンプ装置において
前記低圧ピストン停止機構は、
前記高圧ピストンによる前記所定圧以上の吐出圧で作動する係止部と、
前記低圧ピストンに設けられた被係止部と、
を備え、
前記作動状態で前記直線往復運動の下死点に位置した前記低圧ピストンの前記被係止部に前記係止部を係合させて前記低圧ピストンの直線往復運動を停止させることを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項3】
請求項2記載の油圧ポンプ装置において、
前記低圧ピストン停止機構は、
前記係止部として、前記所定圧以上の吐出圧で作動して突出するピン部材を備え、
前記被係止部として、前記下死点に位置した前記低圧ピストンが前記突出したピン部材の先端部により係合する外周溝を備えたことを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項4】
請求項3記載の油圧ポンプ装置において、
前記ピン部材は、前記先端部が突出した場合に、前記低圧ピストンを前記直線往復運動の下死点よりも下方に押圧して移動可能な傾斜面を備えたことを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項5】
請求項3記載の油圧ポンプ装置において、
前記外周溝は、突出した前記ピン部材の先端部に押圧された場合に、前記低圧ピストンを前記直線往復運動の下死点よりも下方に移動可能な傾斜面を備えたことを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項6】
請求項1記載の油圧ポンプ装置において、
前記高圧ピストン及び前記低圧ピストンの作動方向が、前記カムの回転軸と交差することを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項7】
請求項記載の油圧ポンプ装置において、
前記高圧ピストン及び前記低圧ピストンは、前記カムの回転軸方向に直列に配置されたことを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項8】
請求項又は記載の油圧ポンプ装置において、
前記高圧ピストン及び前記低圧ピストンは、同一位相又は180°の位相差で作動することを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項9】
請求項又は記載の油圧ポンプ装置において、
前記カムは、前記高圧ピストン及び前記低圧ピストンに対応して複数配置されことを特徴とする油圧ポンプ装置。
【請求項10】
請求項9記載の油圧ポンプ装置において、
前記高圧ピストン及び前記低圧ピストンは、前記各々に対応するカムにより、同一又は異なるストロークで前記直線往復運動することを特徴とする油圧ポンプ装置
【請求項11】
請求項記載の油圧ポンプ装置において、
前記高圧ピストン及び前記低圧ピストンは、同軸に配置されたことを特徴とする油圧ポンプ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧シリンダ等の油圧アクチュエータに油圧を供給する油圧ポンプ装置に関し、特に、ピストンの往復運動で油圧を発生するピストンポンプを使用する油圧ポンプ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建設工事や様々な施工現場で使用される各種油圧機器及びそれらの油圧アクチュエータに油圧を供給する油圧ポンプ装置は、作業場所への可搬性や携帯性が重要であるために、小型でありながら高出力であることが要求される。
【0003】
このような油圧機器については、多くの場合、油圧が70Mpa近辺、あるいはそれ以上の、いわゆる超高圧と呼ばれる油圧を扱えるものが用いられ、超高圧を発生する油圧ポンプ装置においては、一般的に往復ピストンを有するピストンポンプ、特にラジアル形ピストンポンプが使用される。
【0004】
しかし、小径のピストンポンプは高圧を発生させることができる反面、大きな吐出量を得ることが難しく、例えば、油圧アクチュエータの全ストロークのうち高負荷が作用するまでのアプローチを迅速に作動させることができないため、作業性の低下を招くおそれがある。
【0005】
そのために、低負荷のアプローチ用に低圧ではあるが高吐出量のポンプ、例えばトロコイドポンプ等を別途付加して、高圧ではあるが低吐出量のピストンポンプを補完するようにした油圧ポンプ装置もある。
【0006】
しかし、高圧のピストンポンプに加え高吐出量のトロコイドポンプ等を設けるためには大きな設置スペースを必要とし、油圧ポンプ装置が大型化すると共にコスト上昇を招くことから、高圧と低圧のピストンポンプを同軸に構成した2段式のピストンポンプを用いることで、ポンプの大型化とコスト上昇を抑えた油圧ポンプ装置が提案されている(特許文献1)。
【0007】
[従来の油圧ポンプ装置の構成]
図8は、このような2段式のピストンポンプを用いた従来の油圧ポンプ装置の一例を模式的に示す説明図である。図8に示すように、油圧ポンプ装置410は、ポンプユニット412、モータ14及びオイルタンク16で構成されている。
【0008】
なお、図中の各要素に付加した符号は、後述の本発明の各実施形態と機能や構成が実質的に同じものについてはそれらの符号をそのまま使用している。また、以下の説明で使用している上下左右等の方向についての表記は、図示状態での方向を表している。
【0009】
図8に示すように、ポンプユニット412のベース418には、大径シリンダ420及び小径シリンダ422が連続且つ同軸に穿設され、大径シリンダ420及び小径シリンダ422には、下端側に、各々吸引ポート24、26及び吐出ポート28、30が設けられている。また、大径シリンダ420には、低圧ピストン432が摺動可能に嵌挿され、小径シリンダ422には、低圧ピストン432と別体に且つ同軸に配置された高圧ピストン434が摺動可能に嵌挿されている。
【0010】
低圧ピストン432の内周側且つ高圧ピストン434の外周側にはバネ436が配置され、低圧ピストン432及び高圧ピストン434は、このバネ436により、上方(オイルを吸引する方向)に常時付勢されている。図8においては、低圧ピストン432及び高圧ピストン434は、共に上死点(吸引方向のストロークエンド)に位置している。
【0011】
大径シリンダ420の吸引ポート24及び小径シリンダ422の吸引ポート26は、各々サクション弁46、48及びストレーナ50を介してオイルタンク16に連通し、大径シリンダ420の吐出ポート28は、チェック弁52を介して小径シリンダ422の吐出ポート30に接続され、吐出ポート30は、チェック弁54及び56を介して油圧アクチュエータ66に連通している。
【0012】
また、ベース418には、モータ14に接続された駆動軸340と、駆動軸340に偏心配置されたニードルベアリングがカム44として設けられ、カム44は、モータ14の回転運動を低圧ピストン432及び高圧ピストン434の直線往復運動に変換する。ここで、カム44の駆動軸340に対する偏心量の2倍が、低圧ピストン432及び高圧ピストン434の下死点(吐出方向のストロークエンド)から上死点まで又は上死点から下死点までのストロークになる。
【0013】
低圧ピストン432及び高圧ピストン434は、その往動(下から上への移動)により、オイルタンク16からオイルをサクション弁46及び48を開いて吸引ポート24及び26を介して大径シリンダ420及び小径シリンダ422に吸引し、復動(上から下への移動)によって、その吸引したオイルを大径シリンダ420の吐出ポート28及び小径シリンダ422の吐出ポート30から吐出する。
【0014】
モータ14に通電して油圧ポンプ装置410を作動させた場合、油圧アクチュエータ66に負荷のかからない低圧時には、大径シリンダ420及び小径シリンダ422に吸引されたオイルが、チェック弁52、54及び56を開いて、その全量が油圧アクチュエータ66に供給される。油圧アクチュエータ66に負荷がかかり始めるまでは、この低圧状態が持続される。
【0015】
油圧アクチュエータ66に負荷のかかる高圧時には、大径シリンダ420に吸引されたオイルは、高圧ピストン434側の吐出ポート30が高圧になっていることから、低圧ピストン432による吐出圧でチェック弁52を開けることができないため、低圧リリーフ弁58を開きドレイン64を介してオイルタンク16に戻され、小径シリンダ422に吸引されたオイルだけが、チェック弁54及び56を開いて油圧アクチュエータ66に供給される。
【0016】
油圧アクチュエータ66の作動がストロークエンドに達した場合や、油圧アクチュエータ66にモータ14及び高圧ピストン434により出力可能な所定圧以上の負荷がかかる場合には、小径シリンダ422に吸引されたオイルは、高圧ピストン434による吐出圧で高圧リリーフ弁60を開いて、ドレイン64を介してオイルタンク16に戻される。
【0017】
高圧リリーフ弁60が開いた場合や、油圧アクチュエータ66の作動途中にモータ14への通電を止めて油圧ポンプ装置410を停止した場合には、油圧アクチュエータ66は作動停止する。油圧アクチュエータ66に供給されたオイルは、油圧アクチュエータ66に留まることから、油圧アクチュエータ66はその状態を維持する。
【0018】
ストロークエンドに達したり作動途中に停止した油圧アクチュエータ66を初期状態に戻す場合は、チェック弁56と油圧アクチュエータ66の間に接続された切替弁(2位置2方向弁)62を閉鎖位置から開放位置へ切り替えることで、油圧アクチュエータ66内のオイルは、油圧アクチュエータ66のバネ等による初期位置への復帰に伴い、ドレイン64を介してオイルタンク16に戻される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】実開平4-44483号公報
【文献】特開昭63-131873号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
[従来の油圧ポンプ装置の問題]
しかしながら、このような従来の油圧ポンプ装置では、油圧アクチュエータ66に負荷のかかる高圧時に、オイルタンク16からサクション弁24を介して大径シリンダ420に吸引されたオイルは、低圧リリーフ弁58を介してオイルタンク16に戻されるが、このときに、通常は閉じている低圧リリーフ弁58をその閉止力(一般的にバネを用いる)に抗して開く必要がある。
【0021】
低圧リリーフ弁58を開くための開放力は、低圧ピストン432の吐出圧であることから、この吐出圧を発生させる分の仕事量が、高圧時に高圧ピストン434を駆動するモータ14のエネルギー損失となり、その分、高圧ピストン434から油圧アクチュエータ66へ供給されるオイルの吐出圧が低下することになる。
【0022】
このようなエネルギー損失を減少させ、高圧ピストン434から油圧アクチュエータ66へ供給されるオイルの吐出圧を低下させないために、低圧ピストン432の吐出圧で開く低圧リリーフ弁58に替えて、高圧ピストン434の吐出圧をパイロット圧とするアンロード弁を用いる方法がある(特許文献2)。
【0023】
しかし、アンロード弁を使用すると、低圧リリーフ弁58を使用する場合に比べて弁自体の構造や油圧回路の構成が複雑になることからコスト上昇を招く。また、低圧ピストン432が常に高圧ピストン434と共に作動することから、高圧時には、オイルタンク16からサクション弁46を介して大径シリンダ420に吸引され、大径シリンダ420からアンロード弁を介してオイルタンク16に戻されるというオイルの循環があり、このオイルの循環が油圧回路の管路損失を発生させる。
【0024】
この管路損失は、低圧リリーフ弁58を開く場合よりは小さいが、モータ14のエネルギー損失となるため、その分、高圧ピストン434から油圧アクチュエータ66へ供給されるオイルの吐出圧が低下することになる。
【0025】
このように、高圧と低圧のピストンを備えた従来の油圧ポンプ装置では、リリーフ弁を用いる場合であれアンロード弁を用いる場合であれ、高圧時に低圧ピストンが作動することによるエネルギーの損失が少なからず存在するという問題がある。
【0026】
[本発明の目的]
本発明は、低圧ピストン及び高圧ピストンを備えた油圧ポンプ装置において、高圧時に、低圧ピストンによるエネルギー損失を排除する油圧ポンプ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
[基本構成]
本発明は、油圧ポンプ装置であって、所定の低圧多流量の作動油を吐出可能な低圧ピストンと、
低圧ピストンに対し高圧少流量の作動油を吐出可能な高圧ピストンと、
低圧ピストン及び高圧ピストンを同時に作動可能なモータと、
モータの回転運動を低圧ピストン及び高圧ピストンの直線往復運動に変換して作動させるカムと、
低圧ピストン及び高圧ピストンがモータにより作動状態にあり、高圧ピストンの吐出圧が低圧ピストンの最大吐出圧を超える前の所定圧に達した場合に、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方で作動停止させて、カムと低圧ピストンとの接続を絶つ低圧ピストン停止機構と、
を備え
低圧ピストン及び高圧ピストンは、作動油を吸引する方向に常時付勢され、モータに駆動されたカムに押圧されて、当該付勢に抗して作動油を吐出する方向に作動可能であることを特徴とする。
【0028】
[低圧ピストン停止機構]
低圧ピストン停止機構は、
高圧ピストンによる所定圧以上の吐出圧で作動する係止部と、
低圧ピストンに設けられた被係止部と、
を備え、
作動状態で直線往復運動の下死点に位置した低圧ピストンの被係止部に係止部を係合させて低圧ピストンの直線往復運動を停止させる。

【0029】
[低圧ピストン停止機構の構成]
低圧ピストン停止機構は、
係止部として、所定圧以上の吐出圧で作動して突出するピン部材を備え、
被係止部として、下死点に位置した低圧ピストンが突出したピン部材の先端部により係合する外周溝を備える。
【0030】
[低圧ピストン停止機構の係止部]
ピン部材は、所定圧以上の吐出圧で作動して先端部が突出した場合に、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方に押圧して移動可能な傾斜面を備える。
【0031】
[低圧ピストン停止機構の被係止部]
外周溝は、所定圧以上の吐出圧で作動して突出したピン部材の先端部に押圧された場合に、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方に移動可能な傾斜面を備える。
【0032】
[低圧ピストンの作動停止位置]
低圧ピストン停止機構は、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方で作動停止させて、カムと低圧ピストンとの接続(接触)を絶つ。
【0033】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの作動方向]
本発明の油圧ポンプは、高圧ピストン及び低圧ピストンの作動方向が、カムの回転軸と交差する(ラジアルピストンポンプ)。
【0034】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの直列配置]
本発明の油圧ポンプは、高圧ピストン及び低圧ピストンが、カムの回転軸方向に直列に配置される。
【0035】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの位相]
また、高圧ピストン及び低圧ピストンは、同一位相又は180°の位相差で作動する。
【0036】
[高圧ピストン及び低圧ピストンのストローク]
カムは、高圧ピストン及び低圧ピストンに対応して複数配置され、
高圧ピストン及び低圧ピストンは、各々に対応するカムにより、同一又は異なるストロークで直線往復運動する。
【0037】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの同軸配置]
本発明の油圧ポンプは、高圧ピストン及び低圧ピストンが、同軸に配置される。
【発明の効果】
【0038】
[基本的な効果]
本発明の油圧ポンプ装置は、所定の低圧多流量の作動油を吐出可能な低圧ピストンと、低圧ピストンに対し高圧少流量の作動油を吐出可能な高圧ピストンと、低圧ピストン及び高圧ピストンを同時に作動可能なモータと、モータの回転運動を低圧ピストン及び高圧ピストンの直線往復運動に変換して作動させるカムと、低圧ピストン及び高圧ピストンがモータにより作動状態にあり、高圧ピストンの吐出圧が低圧ピストンの最大吐出圧を超える前の所定圧に達した場合に、低圧ピストンを直線往復運動の下死点以下の位置で作動停止させる低圧ピストン停止機構と、を備えるようにしたため、高圧時に低圧ピストンを停止させることで、低圧ピストンが作動することによるエネルギー損失を低減することができる。
【0039】
[低圧ピストン停止機構による効果]
また、低圧ピストン及び高圧ピストンは、作動油を吸引する方向に常時付勢され、モータに駆動されたカムに押圧されて、当該付勢に抗して作動油を吐出する方向に作動可能であり、低圧ピストン停止機構は、高圧ピストンによる所定圧以上の吐出圧で作動して突出するピン部材(係止部)と、低圧ピストンに設けられ、下死点に位置した低圧ピストンが突出したピン部材の先端部により係合する外周溝(被係止部)と、を備え、作動状態で直線往復運動の下死点に位置した低圧ピストンの被係止部に係止部を係合させて低圧ピストンの直線往復運動を停止させるようにしたため、高圧ピストンの吐出圧により低圧ピストンを作動停止させることで、低圧ピストンを確実に停止させることができる。
【0040】
[低圧ピストン停止機構の係止部及び被係止部の形状による効果]
また、ピン部材は、所定圧以上の吐出圧で作動して先端部が突出した場合に、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方に押圧して移動可能な傾斜面を備え、外周溝は、所定圧以上の吐出圧で作動して突出したピン部材の先端部に押圧された場合に、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方に移動可能な傾斜面を備えるようにしたため、高圧時に低圧ピストンを下死点よりも下方に停止させることで、カムと低圧ピストンとの接触を絶つことができる。
【0041】
[低圧ピストンの作動停止位置による効果]
また、低圧ピストン停止機構は、低圧ピストンを直線往復運動の下死点よりも下方で作動停止させて、カムと低圧ピストンとの接続(接触)を絶つようにしたため、高圧時に低圧ピストンを完全に停止させることで、低圧ピストンが作動することによるエネルギー損失を排除することができる。
【0042】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの作動方向による効果]
また、本発明の油圧ポンプは、高圧ピストン及び低圧ピストンの作動方向が、カムの回転軸と交差するようにしたため、従来の低圧と高圧の2段式ピストンを備えた場合の構成を大幅に変更することなく低圧ピストン停止機構を追加して、低圧ピストンが作動することによるエネルギー損失を排除できる油圧ポンプ装置を提供することができる。
【0043】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの直列配置による効果]
また、本発明の油圧ポンプは、高圧ピストン及び低圧ピストンが、カムの回転軸方向に直列に配置されるようにしたため、従来の低圧と高圧の2段式ピストンを備えた場合の構成に対し、低圧ピストンとそのカムに対応する小さな設置スペースが増加するだけで、低圧ピストンが作動することによるエネルギー損失を排除できる油圧ポンプ装置を提供することができる。
【0044】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの位相による効果]
ここで、高圧ピストン及び低圧ピストンは、同一位相又は180°の位相差で作動するようにしたため、同一位相で作動する場合は、油圧回路の構成が複雑にならず、180°の位相差で作動する場合は、低圧ピストンと高圧ピストンの両方が作動するときに、油圧アクチュエータに吐出するオイルの脈動を低減させることができる。
【0045】
[高圧ピストン及び低圧ピストンのストロークによる効果]
ここで、カムは、高圧ピストン及び低圧ピストンに対応して複数配置され、高圧ピストン及び低圧ピストンは、各々に対応するカムにより、同一又は異なるストロークで直線往復運動するようにしたため、同一ストロークで直線往復運動する場合は、高圧ピストンと低圧ピストンの両方のカムを同じ構成とすることができることから、コスト上昇を抑えることができ、異なるストローク、例えば、低圧ピストンのストロークを大きくして直線往復運動する場合は、低圧ピストンが吐出するオイルの量を増加させることができる。
【0046】
[高圧ピストン及び低圧ピストンの同軸配置による効果]
また、本発明の油圧ポンプは、高圧ピストン及び低圧ピストンが、同軸に配置されるようにしたため、従来の低圧と高圧の2段式ピストンを備えた場合の構成をほとんど変更することなく低圧ピストン停止機構を追加して、低圧ピストンが作動することによるエネルギー損失を排除できる油圧ポンプ装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】本発明による油圧ポンプ装置の第1実施形態を模式的に示す説明図
図2図1に示す低圧ピストン及び低圧ピストン停止機構を示す説明図
図3図2に示す低圧ピストン停止機構の動作を示す説明図
図4】本発明による油圧ポンプ装置の第2実施形態を模式的に示す説明図
図5】本発明による油圧ポンプ装置の第3実施形態を模式的に示す説明図
図6】本発明による油圧ポンプ装置の第4実施形態を模式的に示す説明図
図7図6に示す油圧ポンプ装置の低圧ピストン停止後の動作を示す説明図
図8】従来の油圧ポンプ装置の一例を模式的に示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下に、本発明による油圧ポンプ装置の実施形態について、その構成等を示す図面を参照して説明する。なお、以下の説明において使用している上下左右等の方向についての表記は、図示状態での方向を表している。また、図中の各要素に付加した符号は、本発明の各実施形態において、機能や構成が実質的に同じものについてはそれらの符号をそのまま使用している。
【0049】
[第1実施形態]
図1は、本発明による油圧ポンプ装置の第1実施形態を模式的に示す説明図である。図1に示すように、油圧ポンプ装置10は、ポンプユニット12、モータ14及びオイルタンク16で構成されている。
【0050】
図1に示すように、ポンプユニット12のベース18には、大径シリンダ20及び小径シリンダ22が隣接して穿設され、大径シリンダ20及び小径シリンダ22には、下端側に、各々吸引ポート24、26及び吐出ポート28、30が設けられ、更に、大径シリンダ20の側方に低圧ピストン停止機構70が設けられている。
【0051】
大径シリンダ20には、所定の低圧多流量のオイル(作動油)を吐出可能な低圧ピストン32が、小径シリンダ22には、低圧ピストン32に対し高圧少流量のオイルを吐出可能な高圧ピストン34が各々摺動可能に嵌挿され、低圧ピストン32の内周側にはバネ36が、高圧ピストン34の外周側にはバネ38が配置されている。低圧ピストン32及び高圧ピストン34の各々は、このバネ36及び38により、上方(オイルを吸引する方向)に常時付勢されている。図1においては、低圧ピストン32及び高圧ピストン34は、共に上死点に位置している。
【0052】
大径シリンダ20の吸引ポート24及び小径シリンダ22の吸引ポート26は、各々サクション弁46、48及びストレーナ50を介してオイルタンク16に連通し、大径シリンダ20の吐出ポート28は、チェック弁52を介して小径シリンダ22の吐出ポート30に合流した後にチェック弁56を介して油圧アクチュエータ66に連通している。
【0053】
また、ベース18には、モータ14に接続された駆動軸40と、駆動軸40に偏心配置されたニードルベアリングがカム42及び44として設けられ、モータ14の回転運動をカム42は低圧ピストン32の、カム44は高圧ピストン34の直線往復運動に変換する。ここで、カム42及び44の駆動軸40に対する偏心距離の2倍が、低圧ピストン32及び高圧ピストン34の下死点から上死点までのストロークになる。
【0054】
本実施形態では、低圧ピストン32と高圧ピストン34が駆動軸40の軸方向に直列に配置され、また、低圧ピストン32と高圧ピストン34が同一位相で作動するようにカム42及び44の駆動軸40に対する偏心方向は一致している。
【0055】
低圧ピストン32及び高圧ピストン34は、その往動(下から上への移動)により、オイルタンク16からオイルをサクション弁46及び48を開き吸引ポート24及び26を介して大径シリンダ20及び小径シリンダ22に吸引し、復動(上から下への移動)によって、その吸引したオイルを大径シリンダ20の吐出ポート28及び小径シリンダ22の吐出ポート30から吐出する。
【0056】
モータ14に通電して油圧ポンプ装置10を作動させた場合、油圧アクチュエータ66に負荷のかからない低圧時には、大径シリンダ20及び小径シリンダ22に吸引されたオイルがチェック弁52及び56を開き、その全量が油圧アクチュエータ66に供給される。油圧アクチュエータ66に負荷がかかり始めるまでは、この低圧状態が持続される。
【0057】
油圧アクチュエータ66に負荷のかかる高圧時には、高圧ピストン34による吐出圧をパイロット圧としてパイロットポート76を介して受けた低圧ピストン停止機構70が作動して、低圧ピストン32を直線往復運動の下死点以下の位置で作動停止するため、小径シリンダ22に吸引されたオイルだけが、チェック弁56を開いて油圧アクチュエータ66に供給される。
【0058】
図2は、図1に示す低圧ピストン及び低圧ピストン停止機構を示す説明図であり、図2(A)は低圧ピストン停止機構が作動していない状態、図2(B)は低圧ピストン停止機構が作動した状態である。
【0059】
図2(A)及び(B)に示すように、低圧ピストン停止機構70は、ベース18に穿設され、開口を封止栓74で閉塞したシリンダ72、シリンダ72に高圧ピストン34の吐出圧を導入するパイロットポート76、シリンダ72に摺動可能に嵌挿されたストッパピン78、ストッパピン78を退避位置側に付勢するバネ80、低圧ピストン32の外周に形成された外周溝82で構成されている。
【0060】
油圧ポンプ装置10が作動した後、油圧アクチュエータ66に負荷がかからない低圧時には、図2(A)に示すように、低圧ピストン32及び高圧ピストン34による大径シリンダ20及び小径シリンダ22からの吐出圧(例えば、1Mpa)が、パイロット圧P1としてパイロットポート76を介してシリンダ72に導入される。図2(A)においては、低圧ピストン32は下死点に位置している。
【0061】
パイロット圧P1は、ストッパピン78をバネ80の付勢力に抗して作動させる所定圧、例えば、高圧ピストン34による吐出圧が低圧ピストン32による最大吐出圧(例えば、3Mpa)を超えるような圧力に達していないため、ストッパピン78は、パイロット圧P1が作用しても退避位置(ストッパピン78の左端が封止栓74の右端に、バネ80の付勢力により当接した位置)から移動せず、低圧ピストン停止機構70は作動しない。
【0062】
このように、低圧ピストン停止機構70が作動していない状態では、低圧ピストン32は、バネ36による上方への付勢とカム42による下方への押圧により吸引と吐出を繰り返し、吸引ポート24から大径シリンダ20に吸引したオイルを吐出ポート28から油圧アクチュエータ66側へ吐出する工程Sを繰り返す。
【0063】
油圧アクチュエータ66に負荷がかかり、パイロットポート76に導入されるパイロット圧が、ストッパピン78をバネ80の付勢力に抗して作動させる力となる所定圧、すなわち高圧ピストン34による吐出圧が、低圧ピストン32による最大吐出圧を超える前の所定圧(例えば、2Mpa)に達した場合には、図2(B)に示すように、高圧ピストン34による小径シリンダ22からの吐出圧が、パイロット圧P2としてパイロットポート76を介してシリンダ72に導入される。
【0064】
パイロット圧P2がストッパピン78に作用すると、ストッパピン78は、バネ80の付勢力に抗して右方(封止栓74から離反して低圧ピストン32に接近する方向)に移動し、先端部(右端)が低圧ピストン32の外周溝82の溝底まで嵌入することで低圧ピストン32を係止し、低圧ピストン32はバネ36の付勢力に抗して作動を停止する。図2(B)においては、低圧ピストン32は下死点よりも下方に位置している。
【0065】
図3は、図2に示す低圧ピストン停止機構の動作を示す説明図であり、特に低圧ピストン停止機構に作用する力について、図3(A)は低圧ピストン停止機構が作動していない状態、図3(B)は低圧ピストン停止機構が作動開始した状態、図3(C)は低圧ピストン停止機構が作動した状態である。
【0066】
油圧ポンプ装置10が作動した後、油圧アクチュエータ66に負荷がかからない低圧時には、図3(A)に示すように(低圧ピストン32が上死点TDCに位置している状態)、低圧ピストン停止機構70のストッパピン78には、パイロット圧P1の作用による力F1が右方(低圧ピストン32に接近する方向)に作用するが、力F1は左方(低圧ピストン32から離反する方向)に作用するバネ80の付勢力T1より小さいため、ストッパピン78は退避位置から移動せず、低圧ピストン停止機構70は作動しない。
【0067】
その後、油圧アクチュエータ66に負荷がかかり、ストッパピン78にパイロット圧P2の作用による力F2が作用すると、図3(B)に示すように(低圧ピストン32が下死点BDCに位置している状態)、力F2はバネ80の付勢力T1より遥かに大きいため、ストッパピン78は退避位置から右方に移動し、低圧ピストン32が下死点BDCに達すると、ストッパピン78の先端部に形成された傾斜面84が低圧ピストン32の外周溝82の開口部に形成された傾斜面86に当接する。
【0068】
このとき、ストッパピン78の傾斜面84が低圧ピストン32の傾斜面86に作用する垂直抗力Nは、ストッパピン78の移動方向の力A(=F2-T1)と、低圧ピストン32を下方に移動させる方向の力Wとの合力となる(くさびの力学)。ここで、傾斜面86の傾斜角をθとすると、W=Atanθとなることから、本実施形態のように傾斜角θをC面取りの45°とした場合は、W=Aとなる。
【0069】
なお、図3では、ストッパピン78の先端部を低圧ピストン32の傾斜面86と同様な角度の傾斜面(C面取り)84として示しているが、ここを傾斜面ではなくR面としてもよく、また、ストッパピン78の先端部を傾斜面84とし、低圧ピストン32の外周溝82の開口部(傾斜面86に相当する部位)をR面としてもよい。すなわち、ストッパピン78の先端部と外周溝82の開口部との少なくとも何れか一方に傾斜面が設けられ、この傾斜面により力Aから力Wを発生させることができればよい。
【0070】
この力Wが、低圧ピストン32が上方に移動する力、すなわちバネ36の付勢力T2より大きければ、ストッパピン78は低圧ピストン32を下方に押圧して移動させることができ、低圧ピストン32が下方に移動すれば、図3(C)に示すように、ストッパピン78の先端部(右端)が低圧ピストン32の外周溝82の溝底まで嵌入し、低圧ピストン32を係止する。
【0071】
このとき、低圧ピストン32は、下死点BDCより隙間Cだけ下方に位置した状態で、バネ36による付勢力T2に抗して作動を停止する。低圧ピストン32が作動停止した高圧時には、カム42と低圧ピストン32との接続(接触)が絶たれるため、カム42は高圧側のカム44と共に回転するが、低圧ピストン32に対しては空回り状態となる(仕事をしない)。このように、高圧時に低圧ピストン32を完全に停止させることで、低圧ピストン32が作動することによるエネルギー損失を排除することができる。
【0072】
なお、低圧ピストン32をカム42との隙間Cがない位置、すなわち下死点BDCで停止させるようにすると、加工や組立の精度や摩耗等の経時変化に起因して、回転するカム42が下死点BDCに来たときに、低圧ピストン32に接触する打音が発生する場合がある。また、カム42が低圧ピストン32を押圧してしまうと、オイルを吐出ポート28から吐出させようとするが、合流先の高圧ピストン34側の吐出ポート30が高圧であるため、吐出ポート28からの低圧の吐出圧ではチェック弁52を開けることができずに、モータ14が停止してしまうことも想定される。
【0073】
再度図1を参照するに、油圧アクチュエータ66の作動がストロークエンドに達した場合や、油圧アクチュエータ66にモータ14及び高圧ピストン34により出力可能な最大吐出圧(例えば、72Mpa)以上の負荷がかかる場合には、吐出ポート30から吐出したオイルの吐出圧では、チェック弁56を開けることができないため、小径シリンダ22に吸引されて吐出ポート30から吐出したオイルは、その吐出圧で高圧リリーフ弁60を開いて、ドレイン64を介してオイルタンク16に戻される。
【0074】
高圧リリーフ弁60が開いた場合や、油圧アクチュエータ66の作動途中に、モータ14への通電を止めて油圧ポンプ装置10を停止した場合には、油圧アクチュエータ66は作動停止する。油圧アクチュエータ66に供給されたオイルは、油圧アクチュエータ66に留まることから、油圧アクチュエータ66はその状態を維持する。
【0075】
ストロークエンドに達したり作動途中に停止した油圧アクチュエータ66を初期状態に戻す場合は、チェック弁56と油圧アクチュエータ66の間に接続された切替弁(2位置2方向弁)62を閉鎖位置から開放位置へ切り替えることで、油圧アクチュエータ66内のオイルは、油圧アクチュエータ66のバネ等による初期位置への復帰に伴い、ドレイン64を介してオイルタンク16に戻される。
【0076】
このとき、パイロットポート76が無圧状態となるため、ストッパピン78には、バネ80の付勢力T1だけが作用する。バネ80の付勢力T1をバネ36の付勢力T2によりストッパピン78と低圧ピストン32の係止部位に作用する摩擦力より大きく設定してあるため、ストッパピン78はバネ80の付勢力T1により左方に移動して退避位置に復帰し(図1に示す状態)、低圧ピストン32の係止は解除される(低圧ピストン停止機構70の停止)。
【0077】
[第2実施形態]
図4は、本発明による油圧ポンプ装置の第2実施形態を模式的に示す説明図である。図4に示すように、油圧ポンプ装置110は、ポンプユニット112、モータ14及びオイルタンク16で構成されており、図1に示す第1実施形態に対し、駆動軸140が異なり、吐出ポート30にチェック弁54が追加されているが、低圧ピストン停止機構70を含む他の構成や作動は実質的に同一である。図4においては、低圧ピストン32は下死点に位置し、高圧ピストン34は上死点に位置している。
【0078】
図1に示す第1実施形態では、低圧ピストン32と高圧ピストン34を同一位相で作動させているのに対し、本実施形態では、低圧時に油圧アクチュエータ66に吐出するオイルの脈動を軽減させる目的で、低圧ピストン32と高圧ピストン34を180°の位相差で作動させている。そのために、駆動軸140のカム42及び44に対する偏心方向を相互に180°ずらしている。
【0079】
このように、低圧ピストン32と高圧ピストン34を180°の位相差で作動させると、低圧ピストン32が吐出工程にあるときに高圧ピストン34は吸引工程となるため、図1に示す第1実施形態の油圧回路では、吐出ポート28から吐出されたオイルの一部が高圧ピストン34側の吐出ポート30から小径シリンダ22に吸引されてしまい、低圧時の吐出性能が低下してしまう。
【0080】
そのため、図4に示すように、本実施形態では、吐出ポート30にチェック弁54を追加し、大径シリンダ20から小径シリンダ22へのオイルの逆流を回避している。このように、チェック弁54を追加して低圧ピストン32と高圧ピストン34を180°の位相差で作動させることで、低圧時(低圧ピストン32と高圧ピストン34の両方が作動するとき)に、油圧アクチュエータ66に吐出するオイルの脈動を、同位相で作動させる場合よりも低減させることができる。
【0081】
[第3実施形態]
図5は、本発明による油圧ポンプ装置の第3実施形態を模式的に示す説明図である。図5に示すように、油圧ポンプ装置210は、ポンプユニット212、モータ14及びオイルタンク16で構成されており、図1に示す第1実施形態に対し、ベース218、大径シリンダ220、低圧ピストン232、バネ236、駆動軸240及びカム242が異なるが、低圧ピストン停止機構70を含む他の構成や作動は実質的に同一である。図5おいては、低圧ピストン232及び高圧ピストン34は、共に上死点に位置している。
【0082】
図1に示す第1実施形態では、低圧ピストン32と高圧ピストン34を同一ストロークで作動させているのに対し、本実施形態では、低圧時に油圧アクチュエータ66に吐出するオイルの量を増加させる目的で、低圧ピストン232のストロークを高圧ピストン34よりも大きくして作動させている。そのために、図1に示す第1実施形態のカム42よりも外径の大きなカム242に変更し、同時に、駆動軸240のカム242の偏心量を、カム242の外径の増加分dの1/2だけカム44の偏心量より大きくしている。
【0083】
また、低圧ピストン232のストロークが、図1に示す第1実施形態の低圧ピストン32よりも大きくなるに伴い、大径シリンダ220、低圧ピストン232及びバネ236の形状を、この大きくなったストロークに対応させて変更している。また、低圧ピストン停止機構70の位置も、大径シリンダ220及び低圧ピストン232の変更に対応させているが、その機構や作動は第1実施形態と同一である。
【0084】
このように、低圧ピストン232のストロークを高圧ピストン234よりも大きくして作動させることで、低圧時(低圧ピストン232と高圧ピストン234の両方が作動するとき)に、油圧アクチュエータ66に吐出するオイルの量を、同一ストロークで作動させる場合よりも増加させることができる。
【0085】
[第4実施形態]
図6は、本発明による油圧ポンプ装置の第4実施形態を模式的に示す説明図である。図6に示すように、油圧ポンプ装置310は、ポンプユニット312、モータ14及びオイルタンク16で構成されており、図1に示す第1実施形態に対し、図8に示す従来の油圧ポンプ装置の実施形態と同様に低圧ピストン332と高圧ピストン334を同軸に配置した構成、及び低圧ピストン停止機構370の構成が異なるが、油圧回路の構成は実質的に同一である。
【0086】
図1に示す第1実施形態では、低圧ピストン32と高圧ピストン34を直列に配置しているのに対し、本実施形態では、従来の低圧と高圧の2段式ピストンを備えた場合の構成をほとんど変更することなく低圧ピストン停止機構を追加する目的で、図8に示す従来の油圧ポンプ装置の実施形態では、低圧ピストン432と高圧ピストン434でバネ436を共用している構成を、低圧時用のバネ336と高圧時用のバネ338を設け、低圧ピストン332が停止したときでも、高圧ピストン334は、バネ338によりオイルタンク16からオイルを吸引することができる構成になっている。
【0087】
図6に示すように、ポンプユニット312のベース318には、大径シリンダ320及び小径シリンダ322が連続且つ同軸に穿設され、大径シリンダ320及び小径シリンダ322には、下端側に、各々吸引ポート24、26及び吐出ポート28、30が設けられている。また、大径シリンダ320には、低圧ピストン332が摺動可能に嵌挿され、小径シリンダ322には、低圧ピストン332と別体に且つ同軸に配置された高圧ピストン334が摺動可能に嵌挿されている。
【0088】
低圧ピストン332の内周側且つ高圧ピストン334の外周側には、下側(大径シリンダ320と低圧ピストン332の間)にバネ336が、上側(低圧ピストン332と高圧ピストン334の間)にバネ336よりも付勢力の弱いバネ338が配置され、低圧ピストン332及び高圧ピストン334は、これらのバネ336及び338により、上方(オイルを吸引する方向)に常時付勢されている。図6においては、低圧ピストン332及び高圧ピストン334は、共に上死点に位置している。
【0089】
大径シリンダ320の吸引ポート24及び小径シリンダ322の吸引ポート26は、各々サクション弁46、48及びストレーナ50を介してオイルタンク16に連通し、大径シリンダ320の吐出ポート28は、チェック弁52を介して小径シリンダ322の吐出ポート30に合流した後にチェック弁56を介して油圧アクチュエータ66に連通している。
【0090】
また、ベース318には、モータ14に接続された駆動軸340と、駆動軸340に偏心配置されたニードルベアリングがカム44として設けられ、カム44は、モータ14の回転運動を低圧ピストン332及び高圧ピストン334の直線往復運動に変換する。ここで、カム44の駆動軸340に対する偏心量の2倍が、低圧ピストン332及び高圧ピストン334の下死点から上死点まで又は上死点から下死点までのストロークになる。
【0091】
低圧ピストン332及び高圧ピストン334は、その往動(下から上への移動)により、オイルタンク16からオイルをサクション弁46及び48を開いて吸引ポート24及び26を介して大径シリンダ320及び小径シリンダ322に吸引し、復動(上から下への移動)によって、その吸引したオイルを大径シリンダ320の吐出ポート28及び小径シリンダ322の吐出ポート30から吐出する。
【0092】
モータ14に通電して油圧ポンプ装置310を作動させた場合、油圧アクチュエータ66に負荷がかからない低圧時には、低圧ピストン332及び高圧ピストン334による大径シリンダ320及び小径シリンダ322からの吐出圧が、パイロット圧としてパイロットポート76を介して低圧ピストン停止機構370に導入されるが、高圧ピストン334による吐出圧が低圧ピストン332による最大吐出圧を超えるような圧力に達していないため、低圧ピストン停止機構370は作動しない。
【0093】
低圧ピストン停止機構370が作動していない状態では、低圧ピストン332及び高圧ピストン334は、バネ336による上方への付勢とカム44による下方への押圧により吸引と吐出を繰り返し、吸引ポート24及び26から大径シリンダ320及び小径シリンダ322に吸引したオイルを吐出ポート28及び30からチェック弁52及び56を開いて油圧アクチュエータ66側へ吐出する工程を繰り返す。
【0094】
その際に、バネ336の付勢力がバネ338の付勢力より小さいと、低圧ピストン332は、バネ338の付勢力により下死点に押圧されたままとなり、高圧ピストン334だけが作動することになる。そのため、バネ336の付勢力は、油圧アクチュエータ66に負荷がかからない低圧時には、低圧ピストン332の上端部が高圧ピストン334の上端鍔部に当接して押し上げることができる程度に、バネ338の付勢力よりも大きく設定されている。
【0095】
油圧アクチュエータ66に負荷がかかり、パイロットポート76に導入されるパイロット圧、すなわち高圧ピストン334による吐出圧が、低圧ピストン332による最大吐出圧を超える前の所定圧に達した場合には、高圧ピストン334による小径シリンダ322からの吐出圧がパイロット圧としてパイロットポート76を介して低圧ピストン停止機構370に導入され、低圧ピストン停止機構370が作動して低圧ピストン332を直線往復運動の下死点以下の位置で作動停止するため、小径シリンダ322に吸引されたオイルだけが、チェック弁56を開いて油圧アクチュエータ66に供給される。
【0096】
油圧アクチュエータ66の作動がストロークエンドに達した場合や、油圧アクチュエータ66に、モータ14及び高圧ピストン334により出力可能な最大吐出圧以上の負荷がかかる場合には、小径シリンダ322に吸引されたオイルは、高圧リリーフ弁60を開いて、ドレイン64を介してオイルタンク16に戻される。
【0097】
高圧リリーフ弁60が開いた場合や、油圧アクチュエータ66の作動途中にモータ14への通電を止めて油圧ポンプ装置310を停止した場合には、油圧アクチュエータ66は作動停止する。油圧アクチュエータ66に供給されたオイルは、油圧アクチュエータ66に留まることから、油圧アクチュエータ66はその状態を維持する。
【0098】
ストロークエンドに達したり作動途中に停止した油圧アクチュエータ66を初期状態に戻す場合は、チェック弁56と油圧アクチュエータ66の間に接続された切替弁(2位置2方向弁)62を閉鎖位置から開放位置へ切り替えることで、油圧アクチュエータ66内のオイルは、油圧アクチュエータ66のバネ等による初期位置への復帰に伴い、ドレイン64を介してオイルタンク16に戻される。
【0099】
図7は、図6に示す油圧ポンプ装置の低圧ピストン停止後の動作を示す説明図であり、図7(A)は、低圧ピストン停止機構が作動して低圧ピストンが下死点BDCよりも下方に位置する状態、図7(B)は、低圧ピストン停止機構が作動した後の高圧ピストンが上死点TDCに位置する状態である。
【0100】
図7(A)及び(B)に示すように、低圧ピストン停止機構370は、ベース318に固定されたプッシュピンホルダ388及びプッシュピンガイド390、ベース318に穿設され、開口をプッシュピンホルダ388及びプッシュピンガイド390で閉塞したシリンダ72、シリンダ72に摺動可能に嵌挿されたストッパピン78、ストッパピン78を退避位置側に付勢するバネ80、プッシュピンホルダ388及びプッシュピンガイド390に摺動可能に嵌挿されたプッシュピン392、プッシュピンホルダ388に穿設され、開口を封止栓374で閉塞したパイロット圧室394、パイロット圧室394に高圧ピストン334の吐出圧を導入するパイロットポート76、低圧ピストン332の外周に形成された外周溝382で構成されている。
【0101】
図7(A)に示すように、高圧ピストン334による小径シリンダ322からの吐出圧がパイロット圧P2としてパイロット圧室394に導入されると、パイロット圧P2がプッシュピン392の左端に作用し、プッシュピン392は、右端がストッパピン78を押圧してバネ80の付勢力に抗して右方(パイロット圧室394から離反して低圧ピストン332に接近する方向)に移動させる。
【0102】
右方に移動したストッパピン78は、先端部(右端)が低圧ピストン332の外周溝382の溝底まで嵌入することで低圧ピストン332を下方に押圧して係止し、低圧ピストン332は、下死点BDCより隙間Cだけ下方に位置した状態で、バネ336による付勢力に抗して作動を停止する。
【0103】
図7(B)に示すように、低圧ピストン332が作動停止した高圧時には、カム44と低圧ピストン332との接続が絶たれるため、カム44は、バネ338に付勢力に抗して高圧ピストン334を押圧して作動させるが、低圧ピストン332に対しては仕事を行わない状態となる。このように、高圧時に低圧ピストン332を完全に停止させることで、低圧ピストン332が作動することによるエネルギー損失を排除することができる。
【0104】
低圧ピストン停止機構370が作動している状態では、高圧ピストン334は、バネ338による上方への付勢とカム44による下方への押圧により吸引と吐出を繰り返し、吸引ポート26から小径シリンダ322に吸引したオイルを吐出ポート30から油圧アクチュエータ66側へ吐出する工程Sを繰り返す。
【0105】
モータ14への通電を止めて油圧ポンプ装置310を停止した後、切替弁62を閉鎖位置から開放位置へ切り替えるとパイロットポート76が無圧状態となるため、ストッパピン78は、バネ80の付勢力により左方に移動して退避位置に復帰し(図6に示す状態)、低圧ピストン332の係止は解除される(低圧ピストン停止機構370の停止)。
【0106】
本実施形態の低圧ピストン停止機構370は、パイロット圧の受圧面(プッシュピン392の左端)が、第1実施形態~第3実施形態(図1、4、5)の低圧ピストン停止機構70のパイロット圧の受圧面(ストッパピン78の左端)より小さいため、ストッパピン78を作動させるために必要なオイルの量が少なくてよいことから、より高速に作動させることができる。
【0107】
[その他]
第4実施形態(図6)の低圧ピストン停止機構370を第1実施形態~第3実施形態(図1、4、5)で使用することも可能であり、第1実施形態~第3実施形態の低圧ピストン停止機構70を第4実施形態で使用することも可能である。また、第1実施形態~第4実施形態では、モータ14を駆動軸40、140、240又は340に直接接続しているが、既知の減速機構を介して接続するようにしてもよい。
【0108】
また、本発明は、その目的と利点を損なうことのない適宜の変形を含み、更に、本発明
は、上記の実施形態の数値等による限定は受けない。
【符号の説明】
【0109】
10、110、210、310、410:油圧ポンプ装置
12、112、212、312、412:ポンプユニット
14:モータ
16:オイルタンク
18、218、318、418:ベース
20、220、320、420:大径シリンダ
22、322、422:小径シリンダ
24、26:吸引ポート
28、30:吐出ポート
32、232、332、432:低圧ピストン
34、334、434:高圧ピストン
36、38、80、236、336、338、436:バネ
40、140、240、340:駆動軸
42、44、242:カム
46、48:サクション弁
50:ストレーナ
52、54、56:チェック弁
60:高圧リリーフ弁
62:切替弁
64:ドレイン
66:油圧アクチュエータ
70、370:低圧ピストン停止機構
72:シリンダ
74、374:封止栓
76:パイロットポート
78:ストッパピン(係止部)
82、382:外周溝(被係止部)
84、86:傾斜面
388:プッシュピンホルダ
390:プッシュピンガイド
392:プッシュピン
394:パイロット圧室
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8