(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】締付式アンカー及びその施工方法
(51)【国際特許分類】
F16B 13/06 20060101AFI20240201BHJP
F16B 39/34 20060101ALI20240201BHJP
E04B 1/41 20060101ALI20240201BHJP
E02D 5/76 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16B13/06 A
F16B39/34 C
E04B1/41 503F
E02D5/76
(21)【出願番号】P 2020015365
(22)【出願日】2020-01-31
【審査請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000129758
【氏名又は名称】株式会社ケー・エフ・シー
(73)【特許権者】
【識別番号】396010188
【氏名又は名称】株式会社中外精工
(74)【代理人】
【識別番号】100109243
【氏名又は名称】元井 成幸
(72)【発明者】
【氏名】窪田 洋一
(72)【発明者】
【氏名】野村 展生
(72)【発明者】
【氏名】山田 正人
【審査官】松林 芳輝
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-171411(JP,U)
【文献】特開2008-185076(JP,A)
【文献】特開平09-303347(JP,A)
【文献】実開昭48-090064(JP,U)
【文献】特開2001-159415(JP,A)
【文献】特開2015-102207(JP,A)
【文献】実開昭51-118868(JP,U)
【文献】特開平06-042065(JP,A)
【文献】実開昭51-071478(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 13/00-13/14
F16B 39/284
F16B 39/34
F16B 39/38
E02D 5/22-5/80
E04B 1/38-1/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸部の前側に縮径部とテーパ部が順に設けられ、前記軸部の後側に雄ねじ部が設けられているテーパボルトと、
前記テーパ部の引き込みに応じて拡開する拡開羽根が複数の溝部で区分して形成され、非拡開状態において、前記溝部に入り込んで係合する係合突起が設けられていない前記縮径部に外嵌され且つ前記係合突起に係合されていない断面視略C字形の拡開部材と、
前記雄ねじ部に螺合され、前記雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられている緩み止めナットを備える締付式アンカーであって、
複数の前記溝部が、前記拡開部材の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝と、前記拡開部材を軸方向に分断する
1つの分断溝とで構成され、
前記テーパ部のテーパ面に、前記拡開部材への前記テーパ部の引き込みに応じて、前記スリット溝と前記分断溝のそれぞれに入り込んで係合する複数の前記係合突起が設けられ、
非拡開状態の前記拡開部材の半径方向の最外端に外接する外接円の径が、前記テーパ部の最大外径以上で且つアンカー設置対象のコンクリート躯体の削孔径と略同一に設定されていることを特徴とする締付式アンカー。
【請求項2】
前記係合突起が、前記テーパ部の最大外径より拡大しない高さで前記テーパ面に筋状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の締付式アンカー。
【請求項3】
前記拡開部材に半径方向外向きに突出する外向き突起が周方向に離間して複数箇所に形成され、
前記外向き突起の最外端に外接して前記外接円が規定されることを特徴とする請求項1又は2記載の締付式アンカー。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の締付式アンカーの施工方法であって、
前記外接円の径と略同一の径でアンカー設置対象のコンクリート躯体に削孔を形成する第1工程と、
前記縮径部に前記拡開部材が外嵌された前記テーパボルトを前記テーパ部を先端にして前記削孔に挿入し、前記テーパ部が孔奥近傍に配置されるまで前記テーパボルトを打ち込む第2工程と、
前記テーパボルトの前記雄ねじ部に螺合された前記緩み止めナットをさらに回転させ、前記テーパ部を前記拡開部材内に引き込み且つ前記係合突起を前記溝部に入り込ませて前記拡開羽根を拡開させる第3工程を備えることを特徴とする締付式アンカーの施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナット締めでテーパボルトのテーパ部を拡開部材に引き込んで拡開羽根を拡開させ、コンクリート躯体に設置される締付式アンカー及びその施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート躯体に設置されるあと施工式の拡張アンカーとして打込み式アンカーと締付式アンカーが知られている。打込み式アンカーは、コンクリート躯体の削孔にアンカーを挿入した後、筒状の本体、スリーブ或いは芯棒を打ち込んで拡開羽根を拡開させ、コンクリート躯体に圧着するものである。これに対して、締付式アンカーは、コンクリート躯体の削孔にアンカーを挿入した後、ナット締めでテーパボルトのテーパ部を拡開部材に引き込んで拡開羽根を拡開させ、コンクリート躯体に圧着するものである(特許文献1参照)。打込み式アンカーの設置は手ハンマーでの打込みが一般的であり、通常、施工確認は、打込みの手ごたえとアンカーの出代の長さを計測して行われるが、締付式アンカーは、締付トルク値によっての施工管理が可能であるため、施工の確実性に優れており、例えば天井部等の上向き施工でも確実な施工を行うことができる。
【0003】
また、別の公知技術として、ナット本体の内側に突出するようにフリクション片を設け、ボルトの雄ねじ部のねじ山にフリクション片を係合させて弾性変形させ、プリベリングトルクを発生させる緩み止めナットが知られている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-185076号公報
【文献】特開2001-159415号公報
【文献】特開2015-102207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コンクリート躯体に設置したアンカーとナットで取付物が取り付けられている場合、交通振動等に起因してナットが緩み、緩んだナットの脱落で取付物が落下する可能性がある。そのため、アンカー用のナットとして、特許文献2、3のようなねじ山にフリクション片を介在させる緩み止めナットを用いることが望まれている。
【0006】
しかしながら、この種の緩み止めナットはボルトへの螺入時にもプリベリングトルクが作用するため、締付式アンカーに適用すると、フリクション片がテーパボルトの雄ねじ山に噛んで緩み止めナットと共にテーパボルトが供回りしてしまい、緩み止めナットを締めてもテーパボルトのテーパ部が拡開部材に引き込まれず、所定の拡開羽根の拡開がなされないことになる。そのため、締付式アンカーに緩み止めナットを適用してナットの緩み止めを行うことは困難であった。
【0007】
本発明は上記課題に鑑み提案するものであって、緩み止めナットを適用しても適正に拡開部材を拡開してコンクリート躯体に確実に定着することができると共に、ナットの緩み止めを行うことができる締付式アンカー及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の締付式アンカーは、軸部の前側に縮径部とテーパ部が順に設けられ、前記軸部の後側に雄ねじ部が設けられているテーパボルトと、前記テーパ部の引き込みに応じて拡開する拡開羽根が溝部で区分して形成され、前記縮径部に外嵌されている拡開部材と、前記雄ねじ部に螺合され、前記雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられている緩み止めナットを備える締付式アンカーであって、前記テーパ部のテーパ面に、前記拡開部材への前記テーパ部の引き込みに応じて前記溝部の少なくとも1つに入り込んで係合する係合突起が設けられ、非拡開状態の前記拡開部材の半径方向の最外端に外接する外接円の径が、前記テーパ部の最大外径以上で且つアンカー設置対象のコンクリート躯体の削孔径と略同一に設定されていることを特徴とする。
これによれば、拡開部材へのテーパ部の引き込みに応じて係合突起が溝部に係合し、この係合で緩み止めナットとテーパボルトの供回りが防止された状態で、締付式アンカーの拡開羽根の拡開が適正に行なわれる。従って、緩み止めナットを適用しても適正に拡開部材を拡開して締付式アンカーをコンクリート躯体に確実に定着することができる。また、拡開部材の適正な拡開を妨げずに緩み止めナットを適用することが可能であることから、ナットの緩み止めを行うことができる。また、緩み止めナットのテーパボルトへの螺入では、拡開部材もテーパボルトと供回りすることが懸念されるが、拡開部材の半径方向の最外端に外接する外接円の径をコンクリート躯体の削孔径と略同一に設定することにより、締付式アンカーをコンクリート躯体の削孔内に挿入した時点で拡開部材の半径方向の最外端と孔壁との摩擦力を高め、拡開部材がテーパボルトと供回りしてしまうことを防ぎ、テーパ部の拡開部材への引き込みの当初から拡開部材を削孔に対して配置固定した状態で、拡開羽根の拡開動作を行うことができる。また、拡開部材の半径方向の最外端に外接する外接円の径をテーパボルトのテーパ部の最大外径以上とすることにより、上記の拡開部材の供回りを防止すると同時に、締付式アンカー或いはテーパボルトと拡開部材の削孔内への挿入をテーパ部が妨げることを無くし、挿入作業を確実且つスムーズに行うことが可能となる。
【0009】
本発明の締付式アンカーは、前記係合突起が、前記テーパ部の最大外径より拡大しない高さで前記テーパ面に筋状に形成されていることを特徴とする。
これによれば、コンクリート躯体の削孔へのテーパボルト挿入時に係合突起が孔壁と干渉することがなく、締付式アンカーの施工における作業性に優れる。また、節状に形成された係合突起は拡開部材へのテーパ部の引き込みに応じて円滑に溝部に入り込むことができる。
【0010】
本発明の締付式アンカーは、前記拡開部材が断面視略C字形で形成され、前記溝部が、前記拡開部材の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝と、前記拡開部材を軸方向に分断する分断溝で構成され、少なくとも、前記拡開部材への前記テーパ部の引き込みに応じて前記係合突起が前記分断溝に入り込んで係合されることを特徴とする。また、本発明の締付式アンカーは、軸部の前側に縮径部とテーパ部が順に設けられ、前記軸部の後側に雄ねじ部が設けられているテーパボルトと、前記テーパ部の引き込みに応じて拡開する拡開羽根が複数の溝部で区分して形成され、非拡開状態において、前記溝部に入り込んで係合する係合突起が設けられていない前記縮径部に外嵌され且つ前記係合突起に係合されていない断面視略C字形の拡開部材と、前記雄ねじ部に螺合され、前記雄ねじ部への係合で弾性変形するフリクション片が設けられている緩み止めナットを備える締付式アンカーであって、複数の前記溝部が、前記拡開部材の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝と、前記拡開部材を軸方向に分断する1つの分断溝とで構成され、前記テーパ部のテーパ面に、前記拡開部材への前記テーパ部の引き込みに応じて、前記スリット溝と前記分断溝のそれぞれに入り込んで係合する複数の前記係合突起が設けられ、非拡開状態の前記拡開部材の半径方向の最外端に外接する外接円の径が、前記テーパ部の最大外径以上で且つアンカー設置対象のコンクリート躯体の削孔径と略同一に設定されていることを特徴とする。
これによれば、拡開部材を断面視略C字形で形成することにより、拡開部材の縮径部への外嵌め、取付作業を容易化することができる。拡開部材は、所定形状にカットしたプレート材をプレス加工機でテーパボルトの縮径部に外嵌する加工が可能となる為、経済性に優れる。また、溝幅の可変性が高い分断溝に係合突起を係合することにより、拡開部材へのテーパ部の引き込みに応じて係合突起をより確実に溝部に係合することができ、拡開部材の適正拡開の確実性を一層高めることができる。
【0011】
本発明の締付式アンカーは、前記拡開部材に半径方向外向きに突出する外向き突起が周方向に離間して複数箇所に形成され、前記外向き突起の最外端に外接して前記外接円が規定されることを特徴とする。
これによれば、外接円を規定する拡開部材の最外端を局所的に設けられる外向き突起の最外端とすることにより、締付式アンカー或いはテーパボルトと拡開部材のコンクリート躯体の削孔内への挿入時に、拡開部材の外向き突起が過度に孔壁と干渉して無理やりコンクリートを削りながら強力に叩き込まないとならない事態を防止しつつ、拡開部材と孔壁との間の必要な摩擦抵抗を確保し、挿入作業をより適確に行うことが可能となる。
【0012】
本発明の締付式アンカーの施工方法は、本発明の締付式アンカーを施工する方法であって、前記外接円の径と略同一の径でアンカー設置対象のコンクリート躯体に削孔を形成する第1工程と、前記縮径部に前記拡開部材が外嵌された前記テーパボルトを前記テーパ部を先端にして前記削孔に挿入し、前記テーパ部が孔奥近傍に配置されるまで前記テーパボルトを打ち込む第2工程と、前記テーパボルトの前記雄ねじ部に螺合された前記緩み止めナットをさらに回転させ、前記テーパ部を前記拡開部材内に引き込み且つ前記係合突起を前記溝部に入り込ませて前記拡開羽根を拡開させる第3工程を備えることを特徴とする。
これによれば、テーパボルトの打ち込みにより、拡開部材の半径方向の最外端に外接する外接円の径がコンクリート躯体の削孔径と略同一に設定されている拡開部材が外嵌されたテーパボルトを削孔内の所望位置に確実に配置することができる。更に、本発明の締付式アンカーと同様の作用効果を発揮することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、緩み止めナットを適用しても適正に拡開部材を拡開してコンクリート躯体に確実に定着することができると共に、ナットの緩み止めを行うことができる。即ち、締付式アンカーの長所と緩み止めナットの長所を両立して発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】(a)は本発明による第1実施形態の締付式アンカーの正面図、(b)はその背面図、(c)はその左側面図、(d)は同締付式アンカーの拡開部材が外嵌されたテーパボルトの拡大右側面図、(e)は同図(a)のA-A矢視拡大断面図、(f)は同図(a)のB-B矢視拡大断面図、(g)は同図(a)のC-C矢視拡大断面図、(h)は同図(a)のD-D矢視拡大断面図。
【
図3】第1実施形態の締付式アンカーの拡開状態の説明図。
【
図4】(a)は第1実施形態の締付式アンカーにおけるテーパ部の係合突起を説明する断面説明図、(b)は第1実施形態の変形例の締付式アンカーにおけるテーパ部の係合突起を説明する断面説明図。
【
図5】(a)~(e)は第1実施形態の締付式アンカーの施工手順を説明する説明図。
【
図6】(a)~(d)は第1実施形態の締付式アンカーの施工工程における係合突起の溝部への導入過程を説明する説明図。
【
図7】(a)、(b)は本発明による第2実施形態の締付式アンカーの施工手順を説明する説明図、(c)は第2実施形態の締付式アンカーにおける緩み止めナットの脱落防止状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
〔第1実施形態の締付式アンカー〕
本発明による第1実施形態の締付式アンカー1は、
図1~
図3、
図4(a)に示すように、テーパボルト2と、テーパボルト2の先端寄りに嵌合して取り付けられる拡開部材3と、テーパボルト2の所定位置に螺合された緩み止めナット4を備える。
【0016】
テーパボルト2には、軸部21の前側に軸部21よりも縮径された縮径部22が段差23を介して形成され、その前側に先端に向かって漸次拡径するテーパ部24が形成されており、軸部21の前側に縮径部22、テーパ部24が順に設けられていると共に、軸部21の後側に雄ねじ部25が設けられている。テーパ部24のテーパ面241には、後述する拡開部材3へのテーパ部24の引き込みに応じて溝部に入り込んで係合する係合突起242が設けられている。本実施形態における係合突起242は、テーパ部24の最大外径より拡大しない高さ、換言すればテーパ部24の最大外径以内の高さでテーパ面241に筋状に形成されていると共に、周方向に離間して複数箇所(図示例では3箇所)に設けられ、各係合突起242の最外端が後述する外接円C1、C2の内側に収まるように形成されている。
【0017】
図4(a)の係合突起242は、例えば圧造加工によってテーパ面241を形成する為の雌金型の周方向に離間した3箇所に軸方向に延びる節状溝を形成しておき、そこにテーパボルトの鋼棒材を圧入することによって、テーパ部24の最大外径より拡大しない高さでテーパ面241に形成されている。なお、係合突起242は、他の加工形成方法として、テーパボルト2の材料からテーパ面241を削り出す切削加工によって筋状に削り残して形成することも可能である。さらに係合突起242は、例えば
図4(b)のように、溶接部で構成される係合突起242wをテーパ面241に設けることも可能である。溶接部242wで構成される係合突起242wを設ける場合にも、係合突起242wは、テーパ部24の最大外径より拡大しない高さでテーパ面241に筋状に形成されると共に、周方向に離間して3箇所等の複数箇所に設けられ、本実施例においては、各係合突起242wの最外端が外接円C1、C2の内側に収まるように形成される。
【0018】
拡開部材3は、テーパボルト2の縮径部22に外嵌され、非拡開状態では段差23とテーパ面241の内端近傍との間で定置されている。拡開部材3には、テーパ部24の引き込みに応じて拡開する拡開羽根31が溝部で区分して形成されている。本実施形態の拡開部材3は断面視略C字形で形成され、拡開部材3の前端から軸方向に切り込まれたスリット溝32と、拡開部材3を軸方向に分断する分断溝33が設けられており、スリット溝32と分断溝33で溝部が構成されている。分断溝33のテーパ部24寄りの前部分は後部分よりも幅広の溝で形成され、後述する係合突起242の分断溝33への入り込み易さが高められており、更に、本例では係合突起242の分断溝33への入り込み易さの向上に応じて、係合突起242のスリット溝32への入り込み易さも高められている。
【0019】
拡開部材3には、半径方向外向きに突出する外向き突起34、35が周方向に離間して複数箇所に形成されている。本実施形態では、拡開羽根31の略中央位置で半径方向外向きに突出し、周方向に離間して複数箇所(図示例では3箇所)されている前側の外向き突起34と、拡開部材3の後端近傍の位置で半径方向外向きに突出し、周方向に離間して複数箇所(図示例では3箇所)されている後側の外向き突起35が設けられ、前側の外向き突起34と後側の外向き突起35は軸方向で対応する位置に配置されている。図示例の拡開部材3は、所定形状にカットしたプレート材に、外向き突起34、35をプレス成型してから、テーパボルト2の縮径部22に丸め付けるように外装するよう加工される為、外向き突起34、35の位置や形状は、図示したものに限られない。
【0020】
拡開部材3では、非拡開状態の拡開部材3の半径方向の最外端に外接する外接円の径が、テーパボルト2のテーパ部24の最大外径以上で且つアンカー設置対象のコンクリート躯体10の削孔11の削孔径と略同一に設定されている(
図5参照)。本実施形態では、前側の外向き突起34の最外端に外接して外接円C1が規定され、又、後側の外向き突起35の最外端に外接して外接円C2が規定されており、外接円C1と外接円C2は中心軸を同じくし且つ同一の半径を有しており(
図1(d)、(e)、(g)参照)、外接円C1の径と外接円C2の径の双方とも、テーパボルト2のテーパ部24の最大外径以上で且つアンカー設置対象のコンクリート躯体10の削孔11の削孔径と略同一に設定されている、即ち、非拡開状態の拡開部材3では、半径方向外向きに突出した前側の外向き突起34の拡開部材3の中心軸からの高さと、半径方向外向きに突出した後側の外向き突起35の拡開部材3の中心軸からの高さは同一高さになっている。
【0021】
緩み止めナット4には、雌ねじ部41の頂部近傍で内方に突出するように一対のフリクション片42、42が内装されており、それぞれのフリクション片42は1/4円環形状をなす板バネからなる。緩み止めナット4は、雌ねじ部41がテーパボルト2の雄ねじ部25に螺合された際に、フリクション片42、42が雄ねじ部25への係合で弾性変形してねじ山に噛み付き、緩み止め機能を発揮するようになっている。緩み止めナット4は、その特性上、手指の力だけではテーパボルト2の雄ねじ部25にねじ込むことは出来ない為、予め工場で雄ねじ部25の所定位置にワッシャー5と共に螺合されている。従って、締付式アンカー1の搬送中や施工におけるアンカー挿入作業時に緩み止めナット4が分離してしまうことがない。
【0022】
締付式アンカー1では、雄ねじ部25の所定位置に予め螺合された緩み止めナット4を手動又は電動の締付具14によりさらに回転させると、テーパボルト2の各係合突起242が削孔11内で定置された拡開部材3のスリット溝32と分断溝33にそれぞれ入り込み、緩み止めナット4とテーパボルト2の供回りが防止された状態でテーパボルト2のテーパ部24が拡開部材3に引き込まれ、拡開羽根31を拡開させる。拡開された拡開羽根31及び前側の外向き突起34はコンクリート躯体10の削孔11の孔壁に食い込み、高強度の楔機能を発揮する(
図3、
図5、
図6参照)。
【0023】
第1実施形態の締付式アンカー1を施工する際には、
図5(a)に示すように、前側の外向き突起34の最外端に外接して規定される外接円C1の径、又は後側の外向き突起35の最外端に外接して規定される外接円C2の径と略同一の径でアンカー設置対象のコンクリート躯体10に削孔11を形成する。そして、取付物12の取付穴を削孔11に位置決めした状態で、予め緩み止めナット4が螺合された締付式アンカー1を、テーパ部24を先端にして削孔11にハンマー13で打ち込む(
図5(b)、
図6(a)参照)。テーパボルト2の打込み時には、拡開部材3の外向き突起34、35は削孔11の孔壁の摩擦抵抗に抗して孔奥側に移動する。
【0024】
その後、
図5(c)、(d)、
図6(b)、(c)の太線矢印のように、テーパボルト2の雄ねじ部25の所定位置に螺合された緩み止めナット4を手動又は電動の締付具14でさらに回転させていくと、ナット締めの当初はテーパボルト2が僅かに供回りしながら拡開部材3に引き込まれていくが、すぐに係合突起242が分断溝33、スリット溝32に入り込んで係合する。そして、拡開部材3の拡開羽根31が拡開して拡開された拡開羽根31及び前側の外向き突起34がコンクリート躯体10の削孔11の孔壁に食い込んで拡開部材3が高強度で回転不能に定置されると共に、係合突起242のス分断溝33、スリット溝32への係合で緩み止めナット4との供回りが防止されたテーパボルト2のテーパ部24が緩み止めナット4の螺入分だけ拡開部材3に引き込まれ(
図6(d)の太線矢印参照)、拡開羽根31の拡開が進行して拡開された拡開羽根31及び前側の外向き突起34が一層削孔11の孔壁に食い込む。
【0025】
規程のトルク値になるまで締付具14で緩み止めナット4を締め付けると、拡開部材3の拡開羽根31が完全拡開となり、完全拡開の拡開羽根31及びその拡開羽根31の外面で外向きに突出する前側の外向き突起34が削孔11の孔壁に食い込んで、締付式アンカー1の施工、コンクリート躯体10への設置が完了する(
図5(e)、
図6(d)参照)。
【0026】
第1実施形態によれば、拡開部材3へのテーパ部24の引き込みに応じて係合突起242が溝部に係合し、この係合で緩み止めナット4とテーパボルト2の供回りが防止された状態で、締付式アンカー1の拡開羽根31の拡開が適正に行なわれる。従って、緩み止めナット4を適用しても適正に拡開部材3を拡開して締付式アンカー1をコンクリート躯体10に確実に定着することができる。また、拡開部材3の適正な拡開を妨げずに緩み止めナット4を適用することが可能であることから、ナットの緩み止めを行うことができる。
【0027】
また、拡開部材3の半径方向の最外端に外接する外接円C1、C2の径をコンクリート躯体10の削孔径と略同一に設定することにより、締付式アンカー1をコンクリート躯体10の削孔11内に挿入した時点で拡開部材3の半径方向の最外端と孔壁との摩擦力を高め、拡開部材3がテーパボルト2と供回りしてしまうことを防ぎ、テーパ部24の拡開部材3への引き込みの当初から拡開部材3を削孔11に対して配置固定した状態で、拡開羽根31の拡開動作を行うことができる。また、拡開部材3の半径方向の最外端に外接する外接円C1、C2の径をテーパボルト2のテーパ部24の最大外径以上とすることにより、上記の拡開部材3の供回りを防止すると同時に、締付式アンカー1或いはテーパボルト2と拡開部材3の削孔11内への挿入をテーパ部24が妨げることを無くし、挿入作業を確実且つスムーズに行うことが可能となる。
【0028】
また、係合突起242を、テーパ部24の最大外径より拡大しない高さでテーパ面241に筋状に形成する場合には、コンクリート躯体10の削孔11へのテーパボルト2挿入時に係合突起242が孔壁と干渉することがなく、締付式アンカー1の施工における作業性に優れる。また、節状に形成された係合突起242は拡開部材3へのテーパ部24の引き込みに応じて円滑に溝部に入り込むことができる。
【0029】
また、拡開部材3を断面視略C字形で形成することにより、拡開部材3の縮径部22への外嵌め、取付作業を容易化することができる。拡開部材3は、所定形状にカットしたプレート材をプレス加工機でテーパボルト2の縮径部22に外嵌する加工が可能となる為、経済性に優れる。また、溝幅の可変性が高い分断溝33に係合突起242を係合することにより、拡開部材3へのテーパ部24の引き込みに応じて係合突起242をより確実に溝部に係合することができ、拡開部材3の適正拡開の確実性を一層高めることができる。
【0030】
また、外接円C1、C2を規定する拡開部材3の最外端を局所的に設けられる外向き突起34、35の最外端とすることにより、締付式アンカー1或いはテーパボルト2と拡開部材3のコンクリート躯体10の削孔11内への挿入時に、拡開部材3の外向き突起34、35が過度に孔壁と干渉して無理やりコンクリートを削りながら叩き込まないとならない事態を防止しつつ、拡開部材3と孔壁との間の必要な摩擦抵抗を確保し、挿入作業をより適確に行うことが可能となる。
【0031】
また、テーパボルト2を打ち込んで拡開部材3が外嵌されたテーパボルト2を削孔11の孔奥近傍に配置することにより、拡開部材3の半径方向の最外端に外接する外接円C1、C2の径がコンクリート躯体10の削孔11の削孔径と略同一に設定されている拡開部材3が外嵌されたテーパボルト2を、削孔11内の所望位置に確実に配置することができる。
【0032】
〔第2実施形態の締付式アンカー〕
本発明による第2実施形態の締付式アンカー1aには、
図7に示すように、テーパボルト2aの雄ねじ部25aの後端寄りの途中位置に雄ねじ部25aのねじ山より小径でねじ溝が形成されていない略円柱状の段落とし部26aが形成されている。テーパボルト2aのその他の構成は第1実施形態におけるテーパボルト2と同一である。また、第2実施形態の締付式アンカー1aは、第1実施形態の締付式アンカー1と同一構成の拡開部材3、緩み止めナット4を有し、第1実施形態と同一構成のワッシャー5が用いられる。
【0033】
第2実施形態の締付式アンカー1aは、第1実施形態の締付式アンカー1と基本的に同一の施工手順でコンクリート躯体10に設置され、取付物12が取り付けられる。即ち、締付式アンカー1aを削孔11に挿入後、予め工場で段落とし部26aより前方の雄ねじ部25aに螺合されている緩み止めナット4を、手動又は電動の締付具14でさらに回転させ、テーパ部24を拡開部材3に引き込み、更に、テーパボルト2aの係合突起242を分断溝33、スリット溝32に入り込ませて係合した状態でテーパ部24の拡開部材3への引き込みを継続し(
図7(b)の太線矢印参照)、拡開部材3の拡開羽根31を拡開させ、適正拡開した拡開羽根31及び前側の外向き突起34を削孔11の孔壁に食い込ませるようにして施工する。
【0034】
そして、第2実施形態では、万一、予見し難いような交通振動によって雄ねじ部25aに螺入した緩み止めナット4に緩みが発生した場合、緩み止めナット4が段落とし部26aに落ち込み、雄ねじ部25aから外れて落下することが防止される。従って、緩み止めナット4で螺着されていたワッシャー5、取付物12も、段落とし部26aに落下した緩み止めナット4よりも外側に移動することが妨げられ、ワッシャー5、取付物12の脱落も防止される。
【0035】
〔本明細書開示発明の包含範囲〕
本明細書開示の発明は、発明として列記した各発明、各実施形態の他に、適用可能な範囲で、これらの部分的な内容を本明細書開示の他の内容に変更して特定したもの、或いはこれらの内容に本明細書開示の他の内容を付加して特定したもの、或いはこれらの部分的な内容を部分的な作用効果が得られる限度で削除して上位概念化して特定したものを包含する。そして、本明細書開示の発明には下記内容や変形例も含まれる。
【0036】
例えば第1実施形態の締付式アンカー1の図示例では、拡開部材3の溝部を周方向に略等間隔で離間して形成した2つのスリット溝32と1つの分断溝33で構成すると共に、テーパ部24の係合突起242を周方向に略等間隔で離間して形成した3つの係合突起242を設け、緩み止めナット4のナット締めで1つの係合突起242が分断溝33に入り込んで係合し、残りの2つの係合突起242が2つのスリット溝32に入り込んで係合し、各々の溝部の全てに対応して係合突起242が係合する構成としたが、拡開部材3の全ての溝部のうち一部の溝部だけにテーパ部の係合突起を入り込ませてテーパボルトの供回りを防止する構成とすることも可能である。この場合、例えばスリット溝32に比べて分断溝33は幅が拡がる変形がし易く、またテーパボルト2に拡開部材3を組み付ける加工工程において、所定形状にカットした拡開部材用のプレート材をプレス機械によってテーパボルト2の縮径部22に丸め付けるように加工する場合には分断溝33は省略されることなく必然的に形成されるものであるところから、少なくとも分断溝33に係合突起を入り込ませて係合する構成とすると良好である。
【0037】
また、本発明における拡開部材は、拡開部材3のように断面視略C字形状にするとテーパボルト2への外嵌がし易くなって好適であるが、テーパボルト2の縮径部22に押圧外挿して外嵌可能であれば筒状とすることも可能であり、この場合には拡開部材の溝部を構成するスリット溝にテーパ部24の係合突起242等が入り込んで係合される。
【0038】
また、第1、第2実施形態では、外接円を規定する非拡開状態の拡開部材3の半径方向の最外端を周方向に複数配置される前型の外向き突起34と、周方向に複数配置される後側の外向き突起35の2組とし、これに対応して2つの外接円C1、C2を規定したが、外接円を規定する非拡開状態の拡開部材3の半径方向の最外端を周方向に複数配置される前側の外向き突起34と、周方向に複数配置される後側の外向き突起35のいずれか一組とし、これに対応して1つの外接円を規定し、この1つの外接円の径を、テーパ部24の最大外径以上で且つコンクリート躯体10の削孔11の削孔径と略同一に設定する構成とすることも可能である。この場合、非拡開状態の拡開部材3の半径方向の最外端を周方向に複数配置される前側の外向き突起34とし、これに対応して1つの外接円C1だけを規定する構成とすると、拡開部材3の拡開時に外向き突起34でより高強度の楔機能を得られるため好適である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明は、ナット締めでテーパボルトのテーパ部を拡開部材に引き込んで拡開羽根を拡開させる締付式アンカーに利用することができる。
【符号の説明】
【0040】
1、1a…締付式アンカー 2、2a…テーパボルト 21…軸部 22…縮径部 23…段差 24…テーパ部 241…テーパ面 242、242w…係合突起 25、25a…雄ねじ部 26a…段落とし部 3…拡開部材 31…拡開羽根 32…スリット溝 33…分断溝 34…前側の外向き突起 35…後側の外向き突起 4…緩み止めナット 41…雌ねじ部 42…フリクション片 5…ワッシャー 10…コンクリート躯体 11…削孔 12…取付物 13…ハンマー 14…締付具 C1、C2…外接円