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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】トライアスロン用ウェットスーツ
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/00 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A41D13/00 115
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022032202
(22)【出願日】2022-03-02
(65)【公開番号】P2023128096
(43)【公開日】2023-09-14
【審査請求日】2023-02-25
(73)【特許権者】
【識別番号】515065361
【氏名又は名称】西内 洋行
(74)【代理人】
【識別番号】100126310
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】西内 洋行
【審査官】山尾 宗弘
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3030075(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0042377(US,A1)
【文献】特開平06-312692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D 13/00
B63C 11/02-11/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の体表にフィットするように構成された袖付きのトライアスロン用ウェットスーツにおいて、
胴体部、腕部及び脚部を構成する複数のスーツ部材が発泡性ゴム弾性体の裏面又は発泡性ゴム弾性体の裏面及び表面に繊維層が粘着されてなる弾性素材にて形成され、
上半身部分を形成する前記スーツ部材が、
少なくとも着用者の腹部及び背中を覆う領域に配設される上半身部材と、
着用者の胸部を覆う領域に前記腹部を覆う上半身部材との連結箇所が上方に凸状となるように配設され、前記上半身部材と比べて伸長率が小さい素材にて形成される胸部用補強部材と、
少なくとも着用者の肩関節部位を覆う領域に前記上半身部材及び前記胸部用補強部材との連結箇所が襟口から着用者の肩甲骨の外側に沿って前後同形の湾曲状となるように配設され、前記上半身部材と比べて伸長率が大きく、かつ他の部材と比べて高い流体透過性を有する素材にて形成されるフロー部材と、
で形成されることを特徴とするトライアスロン用ウェットスーツ。
【請求項2】
前記フロー部材は、着用者の肩関節部位を覆う領域から前記腕部の袖口に至る全域に配設される請求項1に記載のトライアスロン用ウェットスーツ。
【請求項3】
前記フロー部材は、前記脚部の裾口の一部又は全部にも設けられる請求項1又は請求項2に記載のトライアスロン用ウェットスーツ。
【請求項4】
前記フロー部材は、前記弾性素材のうち発泡性ゴム弾性体に複数の流通孔が穿設された素材にて形成される請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のトライアスロン用ウェットスーツ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トライアスロン用ウェットスーツの技術に関し、より詳細には、着用者の体表にフィットするように構成された袖付きのトライアスロン用ウェットスーツに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ウェットスーツは、スキューバダイビング、ウインドサーフィン等のマリンスポーツを行う際に着用されおり、近年では、水泳を必須とするトライアスロン等の水中スポーツを行う際にも着用するようになっている。この種のウェットスーツは、一般的に、スーツ部材がクロロプレンゴム等の発泡性ゴム弾性体の裏面又は発泡ゴム弾性体の裏面及び表面に織編物からなる繊維層が粘着された弾性素材にて形成されている。
【0003】
トライアスロンの水泳種目では、海や湖等のオープンウォーターで一斉に行われるため、波があったり水温が低かったりする等の過酷な環境で競技を行う場合があり、また他の競技者との接触も生じ易いことから、競技時の安全性を保つ観点からも、多くの競技者にてウェットスーツが着用されている。特に、一定の泳力(競技力)を有する競技者においては、ウェットスーツの浮力作用や流水抵抗の低減作用に優れ、水中姿勢を維持して泳動作を安定して行うことができるように構成されたトライアスロン用のウェットスーツが好ましく用いられている。
【0004】
トライアスロン用ウェットスーツとしては、例えば、特許文献1に開示されるウェットスーツのように、発泡性ゴム弾性体に孔部を有する生地素材を所定の部位に配設した構成が提案されている。かかるウェットスーツの構成によれば、ウェットスーツの腕や脚を覆う領域に孔部を有する生地素材が配設されることで、身体とウェットスーツの間隙に湿潤された水を孔部から外部に排出して、ストロークの際に腕や脚の運動を抵抗なくスムーズに行えるようにしたものである。
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1に開示されるトライアスロン用ウェットスーツは、肩下部を覆う領域に孔部を有する生地素材が配設される構成であったため、ウェットスーツ本体の高フィット性とも相まって、泳動作(フロントクロール泳法)で特に重要となる肩関節の可動が制限されていた。すなわち、泳動作では、腕と肩の動きを連動させて全身を一体とした協調的な運動を行うことで推進力が生み出されるが、肩関節の可動が制限されて腕と肩の円滑な連動が妨げられると、泳動作のストローク(キャッチ、プル及びリカバリー)の各局面で上肢により生み出された力を軸骨格及び身体へと効率的に伝えることができず、着用者にて目的とする推進力を得るために疲労が増加し、本来の泳力を発揮できないというという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】実用新案登録第3030075号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明では、トライアスロン用ウェットスーツに関し、前記従来の課題を解決するもので、効率的な泳動作を可能にして着用者の疲労を軽減し、泳力を向上できるトライアスロン用ウェットスーツを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段を説明する。
【0009】
すなわち、請求項1においては、着用者の体表にフィットするように構成された袖付きのトライアスロン用ウェットスーツにおいて、胴体部、腕部及び脚部を構成する複数のスーツ部材が発泡性ゴム弾性体の裏面又は発泡性ゴム弾性体の裏面及び表面に繊維層が粘着されてなる弾性素材にて形成され、上半身部分を形成する前記スーツ部材が、少なくとも着用者の腹部及び背中を覆う領域に配設される上半身部材と、着用者の胸部を覆う領域に前記腹部を覆う上半身部材との連結箇所が上方に凸状となるように配設され、前記上半身部材と比べて伸長率が小さい素材にて形成される胸部用補強部材と、少なくとも着用者の肩関節部位を覆う領域に前記上半身部材及び前記胸部用補強部材との連結箇所が襟口から着用者の肩甲骨の外側に沿って前後同形の湾曲状となるように配設され、前記上半身部材と比べて伸長率が大きく、かつ他の部材と比べて高い流体透過性を有する素材にて形成されるフロー部材と、で形成されるものである。
【0011】
請求項2においては、前記フロー部材は、着用者の肩関節部位を覆う領域から前記腕部の袖口に至る全域に配設されるものである。
【0012】
請求項3においては、前記フロー部材は、前記脚部の裾口の一部又は全部にも設けられるものである。
【0013】
請求項4においては、前記フロー部材は、前記弾性素材のうち発泡性ゴム弾性体に複数の流通孔が穿設された素材にて形成されるものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明の効果として、効率的な泳動作を可能にして着用者の疲労を軽減し、泳力を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施例に係るトライアスロン用ウェットスーツの全体的な構成を示した正面図である。
図2】同じく図1の背面図である。
図3】肩関節部位を覆う領域に配設されたフロー部材の拡大正面図である。
図4】脚部の裾口に配設されたフロー部材の(a)拡大正面図及び(b)拡大側面図である。
図5】肩関節部位を説明するための人体の骨格の模式図である。
図6】肩関節部位を覆う領域に配設されたフロー部材の断面図である。
図7】脚部の裾口に配設されたフロー部材の断面図である。
図8】別実施例のトライアスロン用ウェットスーツの正面図である。
図9】別実施例のトライアスロン用ウェットスーツの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、発明を実施するための形態を説明する。
【0017】
図1及び図2に示すように、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、着用者の体表にフィットするように構成された袖付きのトライアスロン用のウェットスーツとして構成されている。具体的には、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、胴体部10、腕部11及び脚部12を有する袖付きフルスーツとして構成されており、主にトライアスロンの水泳種目で一定の泳力(競技力)を有する競技者に好ましく用いられるものである。
【0018】
トライアスロン用ウェットスーツ1は、胴体部10、腕部11及び脚部12が一体に形成された長袖長ズボンのワンピース型として着用者の体表にフィット(密着)した状態で着用される。胴体部10は、襟口13が開口されて主に着用者の胴体の体表に密着されている。腕部11は、胴体部10より連続した左右一対の袖を形成し、袖口14が開口されて着用者の左右の手首にまで到達して上肢の体表に密着されている。そして、脚部12は、胴体部10より連続し、裾口15が開口されて着用者の左右の足首上部(脹脛中部)にまで到達して下肢の体表に密着されている。
【0019】
図1乃至図4に示すように、トライアスロン用ウェットスーツ1は、上述した胴体部10、腕部11及び脚部12を構成し、着用者の所定の部位を覆う領域ごとにパーツ分けされた複数の部材よりなるスーツ部材2にて形成されている。具体的には、スーツ部材2は、上半身部材20、胸部用補強部材21及びフロー部材22、下半身部材23、膝用伸縮部材24及びフロー部材25等とで構成されている。トライアスロン用ウェットスーツ1は、スーツ部材2の上半身部材20、胸部用補強部材21及びフロー部材22にて上半身部分が形成され、スーツ部材2の下半身部材23、膝用伸縮部材24及びフロー部材25にて下半身部分が形成されている。
【0020】
上半身部材20は、胸部補強用部材21及びフロー部材22と連結されて、主に前後の身頃にて着用者の腹部及び背中を覆う領域に配設されており、換言すると、上半身部分にて胸部補強用部材21及びフロー部材22を除く領域に配設されている。また、上半身部材20の後身頃の中央部には、襟口13から背中に沿って腰部に至る箇所にウェットスーツ着脱用のファスナ式のチャック26が取り付けられている。
【0021】
胸部用補強部材21は、主に着用者の胸部を覆う領域に配設され、上述した上半身部材20(の前身頃)との連結箇所が上方に凸状となるようにして配設されている。トライアスロン用ウェットスーツ1は、上半身部分にて胸部用補強部材21が上方に凸状に配設されることで、着用者にて泳動作(フロントクロール泳法)の際に胸部用補強部材21にて腹部(腹筋群等)の動きが妨げられないように形成されている。
【0022】
フロー部材22は、少なくとも着用者の左右の肩関節部位を覆う領域にそれぞれ配設され、具体的には、肩関節部位を覆う領域から腕部11の袖口14に至る全域に配設され、上肢(上腕部・肘関節部・前腕部)を覆う袖(長袖)を形成している。フロー部位22は、上半身部材20(の後身頃)及び胸部用補強部材21との連結箇所が襟口13から着用者の肩甲骨の外側(身体の中心側)に沿って前後同形の湾曲状に切り欠くようにして配設されている。
【0023】
ここで、図5に示すように、本実施例の「肩関節部位」とは、肩関節を構成する関節(肩甲上腕関節、肩鎖関節、胸鎖関節、肩甲胸郭関節)及び骨(上腕骨、肩甲骨、鎖骨、肋骨、胸骨)により構成される複合関節部位のことであり、本実施例では、少なくとも泳動作にて重要となる肩甲胸郭関節及び肩甲骨の端に位置する肩甲上腕関節により構成される狭義の複合関節部位が含まれる。そして、この肩関節部位を覆う領域とは、かかる部位を構成する各関節(特に、肩甲上腕関節及び肩甲胸郭関節)及び各骨(特に、肩甲骨並びに上腕骨、肋骨及び鎖骨の一部)を覆う領域のことをいう。
【0024】
中でも、肩甲骨は、胸郭の背面に位置して、それ自体は体軸骨格とは連結されずに肩鎖関節を通じて鎖骨と連結されており、内転/外転、挙上/下制、上方回旋/下方回旋といった運動が可能である。泳動作のストローク(キャッチ、プル及びリカバリー)の各局面では、肩関節部位の各関節及び各骨に起始する筋群により腕と肩の動きが連動されることで全身を一体とした協調的な運動が行われ、上肢により生み出された力が上腕骨から肩甲上腕関節を通じて肩甲骨に伝わり、さらに胸鎖関節を通じて体軸骨格及び身体へと伝えられる。
【0025】
泳動作のストロークにおける肩関節部位の動きを概説すると、まず、キャッチ局面では、上腕骨(肩甲上腕関節)が内旋されるとともに肩甲骨が外転及び上方回旋されて、腕の挙上と胸椎の回旋で手を前方にリーチすることで推進が始まる。プル局面では、上腕骨が内旋されるとともに肩甲骨が下方回旋されて、胸椎の回旋と固定された手の上で主な推進力が生み出される。そして、リカバリー局面では、上腕骨が内旋から外旋に切り替わるのに伴って肩甲骨が内転及び上方回旋され、胸椎の回旋とともに腕がキャッチ姿勢に戻る。
【0026】
図1乃至図4に戻って、下半身部材23は、上述した上半身部材20及び胸部補強用部材21と連結されるとともに、膝用伸縮部材24及びフロー部材25と連結されて、主に着用者の腰部、大腿部及び下腿部を覆う領域に配設されており、換言すると、下半身部分にて膝用伸縮部材24及びフロー部材25を除く領域に配設されている。下半身部材23は、下肢を覆う裾(長ズボン)を形成しており、本実施例では着用者の下腿部の一部(足首)が露出する長さに形成されている。
【0027】
膝用伸縮部材24は、主に着用者の左右の膝を覆う領域に配設され、上述した下半身部材23の左右の大腿部を覆う領域と下腿部を覆う領域との間に配設されている。トライアスロン用ウェットスーツ1は、下半身部分にて膝用伸縮部材24が配設されることで、着用者にて泳動作の際に膝用伸縮部材24にて膝(膝関節)の動きが妨げられないように形成されている。
【0028】
フロー部材25は、着用者の脹脛の一部を覆う領域に配設され、具体的には、脚部12の裾口15の一部に配設されている。フロー部位25は、下半身部材23との連結箇所が脚部12の裾口15を逆U字状に切り欠くようにして配設されている。
【0029】
図6及び図7に示すように、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、上述したスーツ部材2の各部材(上半身部材20、胸部用補強部材21、フロー部材22、下半身部材23、膝用伸縮部材24及びフロー部材25)が発泡ゴム弾性体30の裏面に繊維層31が粘着されてなる弾性素材3にて形成されている。この内、フロー部材22・25は、弾性素材3のうち発泡性ゴム弾性体30に複数の流通孔32・32・・・が穿設されて、他の部材(上半身部材20等)と比べて高い流体透過性を有する素材にて形成されている。
【0030】
発泡性ゴム弾性体30は、その素材は特に限定されないが、公知のトライアスロン用のウェットスーツに用いられるゴム素材を用いることができ、例えば、クロロプレンゴム(商品名:ネオプレンゴム)やスチレンブタジエンゴムの他、ポリエチレン、ポリウレタン等の独立気泡系の発泡シート状部材が用いられる。
【0031】
発泡性ゴム弾性体30の厚みは、特に限定されないが、好ましくは2.0mm以上6.0mm以下のものが用いられる。特に、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、スーツ部材2の部材によって発泡性ゴム弾性体30の厚みが異なるように形成されており、浮力作用や流水抵抗の低減作用に優れ、水中姿勢を維持して泳動作を安定して行うことができるという観点から、下半身部材23、胸部用補強部材21及びフロー部材25は厚みが約5.0mm前後、その他の上半身部材20、膝用伸縮部材24及びフロー部材22は厚みが約3.0mm前後のものが用いられる(図6及び図7参照)。
【0032】
繊維層31は、その素材は特に限定されないが、公知のトライアスロン用のウェットスーツに用いられる繊維素材を用いることができ、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリウレタン繊維、アクリル繊維、レーヨン繊維、炭素繊維等の中から一種又は二種以上を適宜選択又は組み合わせて用いられる。
【0033】
繊維層31は、上述した繊維素材を編物又は織物として発泡性ゴム弾性体30に接着剤等で粘着して形成されてもよく、短繊維を発泡性ゴム弾性体30に直接粘着して形成されてもよい。繊維層31は、発泡性ゴム弾性体30の伸縮性を阻害しないという観点から編物であることが好ましく、特に、縦方向及び横方向の伸縮性や高通気性という観点からジャージ生地であることがより好ましい。
【0034】
流通孔32は、フロー部材22・25を形成する弾性素材3(の発泡性ゴム弾性体30)に設けられるものであり、発泡性ゴム弾性体30を貫通する断面円形の貫通孔として穿設され、発泡性ゴム弾性体30の全面に渡って平面視格子状に配設されている。なお、流通孔32は、弾性素材3において発泡性ゴム弾性体30にのみ穿設され、上述した繊維層31には設けられない。
【0035】
流通孔32の配列は、特に限定されず、本実施例では、一例として隣接する流通孔32の距離が均等である正方格子状に配設されているが、例えば、その他の平面視格子状として斜方格子状、矩形格子状、及び平行体格子状等の配列を採用することができる。
【0036】
流通孔32の孔径は、特に限定されないが、好ましくは1.0mm以上3.0mm以下となるように形成される。流通孔32が小さ過ぎると安定した流体透過性能を発揮することができず、一方、大き過ぎると弾性素材3の強度が低下して破損や破断が起こり易くなる等耐久性に劣るからである。
【0037】
流通孔32の配置は、特に限定されないが、好ましくは最も近接する流通孔32の離間が3.0mm以上8.0mm以下となるように配置され、上述した大きさの諸元を満たす流通孔32の場合、発泡性ゴム弾性体30に単位面積(1cm)あたり1~2個程度が配置されるのが好ましい。流通孔32の単位面積あたりの個数が少ないと安定した流体透過性能を発揮することができず、個数が多いと弾性素材3の強度が低下して破損や破断が起こり易くなる等耐久性に劣るからである。
【0038】
弾性素材3は、フィット性や着用感に応じて、公知のトライアスロン用のウェットスーツにて採用される伸長率(伸び率)となるように好適に設定される。特に、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、スーツ部材2の部材によって弾性素材3の伸長率が異なるように形成されており、浮力作用や流水抵抗の低減作用に優れ、水中姿勢を維持して泳動作を安定して行うことができるという観点から、下半身部材23の伸縮率が最も小さく、以下、下半身部材23<胸部用補強部材21<上半身部材20≒膝用伸縮部材24<フロー部材22・25の順に伸長率が大きくなるように形成される。また、フロー部材22を形成する弾性素材3は、横方向(幅方向)に対して縦方向(長さ方向)の伸長率が大きく、泳動作をよりスムーズに行えるように形成されている。
【0039】
本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、弾性素材3の発泡性ゴム弾性体30に複数の流通孔32・32・・・が穿設された素材が用いられることで、流通孔32のない他の部材(上半身部材20等)と比べて、流通孔32を有するフロー部材22・25が水や空気等の流体に対して高い透過性を有している。そのため、トライアスロンの水泳種目の際には、フロー部材22・25が配設された領域では流通孔32を介して身体とウェットスーツ1との隙間に流体が容易に流通(流入及び流出)される。特に、フロー部材22が配設された領域での流体の流通は、泳動作のストロークの各局面での肩関節部位の運動(腕と肩の動き)に伴って強制的に発現され、胸椎の旋回や上半身と連動する下半身の動き等により身体とウェットスーツの間隙に断続的に生じる陰圧の作用によって促進される。
【0040】
以上のように、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、着用者の体表にフィットするように構成された袖付きのトライアスロン用ウェットスーツ1において、胴体部10、腕部11及び脚部12を構成する複数のスーツ部材2が発泡性ゴム弾性体30の裏面に繊維層31が粘着されてなる弾性素材3にて形成され、スーツ部材2として少なくとも着用者の肩関節部位を覆う領域に他の部材と比べて高い流体透過性を有するフロー部材22が配設されるため、効率的な泳動作を可能にして着用者の疲労を軽減し、泳力を向上できるのである。
【0041】
すなわち、本実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、肩関節部位を覆う領域に高い流体透過性を有するフロー部材22が配設されることで、泳動作のストロークの各局面での肩関節部位の運動(腕と肩の動き)に伴って、肩関節部位を覆う領域にて身体とトライアスロン用ウェットスーツ1との隙間に流体を流通させて、肩関節の動きをスムーズにして腕と肩を円滑に連動させることができる。そのため、着用者にて上肢により生み出された力を軸骨格及び身体へと効率的に伝えることができ、疲労を軽減して本来の泳力を効率的に発揮できる。
【0042】
特に、本実施例のフロー部材22は、胴体部10にて襟口13から着用者の肩甲骨の外側に沿って前後同形の湾曲状に切り欠くようにして配設されるため、身体とトライアスロン用ウェットスーツ1との隙間へ流通される流体にて、肩関節部位を構成する肩甲骨(肩甲胸鎖関節)の運動(内転/外転、挙上/下制、上方回旋/下方回旋)がよりスムーズになり、腕と肩を効率的に連動させることができる。
【0043】
また、本実施例のフロー部材22は、着用者の肩関節部位を覆う領域から腕部11の袖口14に至る全域に配設されるため、身体とトライアスロン用ウェットスーツ1との隙間へ流通される流体にて、肩関節部位を構成する上腕骨(肩甲上腕関節)とともに上肢の運動がよりスムーズになり、腕と肩を効率的に連動させることができる。
【0044】
また、本実施例のフロー部材25は、脚部12の裾口15の一部にも設けられるため、泳動作中に身体とトライアスロン用ウェットスーツ1との隙間へ流入された流体を下肢(脚部12)から排出することができ、上半身とともに下半身の動きを円滑にして全身を一体としたより協調的な運動が可能となる。
【0045】
また、本実施例のフロー部材22・25は、弾性素材3のうち発泡性ゴム弾性体30に複数の流通孔32が穿設された素材にて形成されるものであるため、発泡性ゴム弾性体30によるウェットスーツ本体の高フィット性を維持しつつ、簡易な構成で高い流体透過性を発現できる。
【0046】
なお、トライアスロン用ウェットスーツ1の構成としては、上述した実施例に限定されず、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0047】
すなわち、上述した実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、胴体部10、腕部11及び脚部12が一体に形成された長袖長ズボンのワンピース型とした構成について説明したが、かかるトライアスロン用ウェットスーツ1の構成はこれに限定されず、公知の袖付きのトライスロン用のウェットスーツの構成を採用することができ、例えば、胴体部10を着用者の腹部を覆う領域で上下分離したツーピース型や、腕部11や脚部12を短く形成した半袖又は半ズボンに構成されてもよい。
【0048】
また、上述した実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、フロー部材22が着用者の肩関節部位を覆う領域から腕部11の袖口14に至る全域に配設される構成について説明したが、かかるフロー部材22の配置構成はこれに限定されず、少なくとも着用者の肩関節部位を覆う領域に配設されればよい。例えば、図8に示す実施例のフロー部材22のように、肩関節部位を覆う領域に配設されるフロー部材22aとは別に、腕部11の袖口14にフロー部材22bが配設されてもよく、図9に示す実施例のフロー部材22のように、さらに肘関節部位を覆う領域にフロー部材22cが配設されてもよい。
【0049】
また、上述した実施例のトライアスロン用ウェットスーツ1は、弾性素材3として発泡性ゴム弾性体30の裏面に繊維層31が粘着されてなる構成について説明したが、弾性素材3の構成としてはこれに限定されず、その他に、発泡性ゴム弾性体30の裏面及び表面に繊維層31が粘着されている構成であってもよい。このように、弾性素材3として発泡性ゴム弾性体30の表面に繊維層31が配設されることで弾性素材3の耐久性がより高まる。
【符号の説明】
【0050】
1 トライアスロン用ウェットスーツ
2 スーツ部材
3 弾性素材
10 胴体部
11 腕部
12 脚部
13 襟口
14 袖口
15 裾口
20 上半身部材
21 胸部用補強部材
22 フロー部材
23 下半身部材
24 膝用伸縮部材
25 フロー部材
26 チャック
30 発泡性ゴム弾性体
31 繊維層
32 流通孔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9