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特許7429397MR断層撮影装置の画質を解析および監視するための試験体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】MR断層撮影装置の画質を解析および監視するための試験体
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/055 20060101AFI20240201BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240201BHJP
   G01R 33/58 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61B5/055 390
G01N24/00 100Y
G01R33/58
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022514033
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-07-19
(86)【国際出願番号】 EP2020054932
(87)【国際公開番号】W WO2020229003
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2023-02-22
(31)【優先権主張番号】102019112313.5
(32)【優先日】2019-05-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】521493008
【氏名又は名称】エムアールアイ-スター - マグネティック レゾナンス インスティテュート フォー セイフティー テクノロジー アンド リサーチ ゲーエムベーハー
【氏名又は名称原語表記】MRI-STAR - MAGNETIC RESONANCE INSTITUTE FOR SAFETY,TECHNOLOGY AND RESEARCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100123652
【弁理士】
【氏名又は名称】坂野 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100175042
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 秀明
(72)【発明者】
【氏名】シェーファーズ,グレゴール
(72)【発明者】
【氏名】スプロンク,トビアス
【審査官】蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】中国実用新案第203720341(CN,U)
【文献】米国特許第05036280(US,A)
【文献】特開昭62-186853(JP,A)
【文献】特開2004-305745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00-24/14
G01R 33/28-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MR断層撮影装置において使用されるファントムであって、
前記ファントムは、ファントム本体(2)と、測定補助具(10,11,12,13)と、中間底面(14)とを有しており、前記中間底面(14)は上側と下側とを有しており、前記測定補助具(10,11,12,13)および前記中間底面(14)は、前記ファントム本体(2)内に、少なくとも4つの平面(6,7,8,9)に配置されており、
-第1の平面(6)は、前記測定補助具として測定流体(10)のみを含んでおり;
-第2の平面(7)は、前記測定補助具としてくさび形要素(11)を含んでおり;
-第3の平面(8)は、前記測定補助具として既知の相互距離のマーク(12)を含んでおり;かつ
-第4の平面(9)は、前記測定補助具として櫛形要素(13)を含んでいるファントムにおいて、
前記第2の平面(7)の前記測定補助具(11)は、前記中間底面(14)の一方の側に配置されており、前記第4の平面(9)の前記測定補助具(13)は、前記中間底面(14)の他方の側に配置されており、前記第3の平面(8)の前記測定補助具(12)は、前記中間底面(14)内に配置されている
ことを特徴とするファントム。
【請求項2】
前記ファントム本体(2)は、中空の円筒状基体要素(3)を含んでおり、前記中空の円筒状基体要素(3)の上方端部および下方端部は少なくともヘッドプレートおよびボトムプレート(4,5)によって閉じられている、請求項1記載のファントム。
【請求項3】
前記中間底面(14)は、前記ヘッドプレートおよび前記ボトムプレート(4,5)に対して平行に配置されている、請求項記載のファントム。
【請求項4】
測定補助具として設けられる、第2の平面(7)の前記くさび形要素(11)は対で配置されており、対の個々のくさび(11A,11B)は、相互に平行に配置されており、一方のくさび(11A)の先端部は他方のくさび(11B)の基部に向けて配置されており、他方のくさび(11B)の先端部は一方のくさび(11A)の基部に向けて配置されている、請求項2または3記載のファントム。
【請求項5】
測定補助具として設けられる、第3の平面(8)の前記マーク(12)は、前記中間底面(14)内の孔として設けられる、請求項から4までのいずれか1項記載のファントム。
【請求項6】
前記櫛形要素(13)は、複数のフィン(13B)を有する基部(13A)を含んでおり、前記フィン(13B)は前記基部(13A)の上に垂直に立ち、相互に平行に配向されており、
測定補助具として設けられる、第4の平面(9)の前記櫛形要素(13)のうちの少なくとも2つの櫛形要素(13)は、前記2つの櫛形要素(13)の前記フィン(13B)が相互に垂直に配向されるように相対的に配向されている、請求項から5までのいずれか1項記載のファントム。
【請求項7】
前記測定流体(10)は、硫酸銅および塩化ナトリウムを含む塩溶液を含んでいる、請求項から6までのいずれか1項記載のファントム。
【請求項8】
前記ファントム本体(2)は、アクリルガラスから製造されている、請求項から7までのいずれか1項記載のファントム。
【請求項9】
前記測定流体のための供給ラインおよび/または排出ライン(15)が、前記ヘッドプレートおよび/または前記ボトムプレート(4,5)に設けられている、請求項から8までのいずれか1項記載のファントム。
【請求項10】
前記供給ラインおよび/または前記排出ライン(15)に弁体(16)が設けられている、請求項9記載のファントム。
【請求項11】
前記ファントム(1)は、MR断層撮影装置に個別に適合させられるホルダ(17)を含んでいる、請求項から10までのいずれか1項記載のファントム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気共鳴断層撮影装置における較正、画質解析および/または品質保証のための、新規試験体、いわゆるファントムに関する。
【背景技術】
【0002】
しばしば核スピントモグラフィとも称される核磁気共鳴画像法(以下、略してMRI)は、医療診断における画像法である。これは核磁気共鳴の物理的効果に基づいており、組織を含んでいる身体構造の三次元可視化を可能にする。これによって、被検身体領域の複数の仮想断面画像を合成して三次元可視化像が得られる。
【0003】
簡単に言えば、種々の組織を可視化し、ひいては種々の身体構造および臓器を可視化するために、MRIは最終的に、特定の原子核、特に水素原子の原子核が磁性を有しており、さらにその固有の回転(いわゆる核スピン)によって磁化可能であるという事実を利用している。高周波交番磁場を印加することによって、いったん磁化が生じると、これらの原子核は、自身の静的平衡状態から「傾斜」し得る。これらの傾斜した原子核は、その後、測定可能な電流を誘導する。高周波交番磁場が除去されると、傾斜した原子核は自身の静的平衡状態に戻る傾向があり、これは緩和と称される。種々の構造および組織の可視化に必要なコントラストは、異なる組織が異なる緩和時間を有するという事実に基づく。
【0004】
したがって、MRIを実行するための磁気共鳴断層撮影装置(以下、略してMR断層撮影装置)は、極めて複雑な機器である。磁気共鳴断層撮影装置によって生成された画像は、被検対象の実際の解剖学的状態を、できるだけ正確に描写しなければならない。特に、技術的な理由によって生じる、データ生成および画像化におけるアーチファクトは、誤診、ひいては誤った治療につながる可能性があるため、何としても回避されなければならない。
【0005】
技術的な理由によって生じるそのようなアーチファクトのリスクを最小限に抑えるために、MR断層撮影装置は定期的な保守および任意の較正を受けるべきである。現在のところ、このような較正方法の最も重要な規格は、本質的な画質パラメータを決定するための規格IEC62464-1である。
【0006】
この規格に従って決定されるべき6つのパラメータには、信号対雑音比、均一性、層厚、ゴーストアーチファクト、幾何学歪および空間分解能が含まれている。
【0007】
これらのパラメータを試験し、任意に較正するために、試験体、いわゆるファントムがMR断層撮影装置内に導入される。相応するファントムは、従来技術において知られている。
【0008】
既知のファントムは通常、流体で満たされ、複数の測定補助具を有している、中空の円筒状基体を含んでいる。
【0009】
既知の測定補助具としては以下のものがある:
-特にパラメータである信号対雑音比、均一性およびゴーストアーチファクトを決定または較正するための、パラメータであるT(縦緩和時間)、T(横緩和時間)およびプロトン密度に関して規定された測定流体;
-特にパラメータである層厚を決定または較正するためのくさび形要素;
-特にパラメータである幾何学歪を決定または較正するための、既知の相互距離のマーク;
-特にパラメータである空間分解能を決定または較正するための櫛形要素
従来技術の欠点は、この規格によって要求される画質パラメータを完全に決定または較正するために、通常、複数の、すなわち6つまでの異なるファントムが必要とされることである。しかし、幾つかの理由から、できるだけ少ない数のファントムが望ましいだろう。
【0010】
第1の理由は、複数のファントムと対照的な、理想的には僅か1つのファントムの調達および保存に付随するコスト削減である。
【0011】
第2の理由は、効率である。なぜなら、較正において各ステップを省くことができるので、所要の作業時間が短くなるからである。
【0012】
当然、信頼性のため、較正において省略できる各ステップがエラーレートの低減にも役立つことも少なからぬ理由である。したがって、実行が容易な、本質的な画質パラメータの決定および較正によって、このプロセスにおけるエラーが少なくなり、ひいてはより正確な画像化、診断、最終的により良好な治療が得られる。
【0013】
したがって、より容易に使用でき、本質的な画質パラメータの決定および/または較正において時間の節約を生じさせるように使用可能なファントムを提供することによって、コストを節約することができ、エラーおよび作業時間を減らすことができ、したがってMR断層撮影装置の動作時間を長くすることができる。したがって、最終的に、MR断層撮影装置の信頼性も、その可能な使用時間とともに上昇する。
【0014】
既知のファントムが複数の個々のパーツから構成されていて、その組立ておよび較正が複雑であり、したがって、かかるコストおよび時間の両方が多いだけでなく、組立て中および製造中にエラーの影響を受けやすいことも、従来技術の欠点である。
【0015】
したがって、複数のパラメータの同時の決定および/または較正を可能にする既知のファントムは、通常、相応の測定補助具をモジュール形態で提供しており、ここで、各測定補助具はそれ自体のモジュール内に配置されている。したがって、この種の既知のファントムは、特定の数のモジュールを含んでおり、各モジュールは個別に製造されなければならない。これは時間および労力、ひいてはコストを必要とし、さらに、エラーの影響を受けやすい。
【0016】
特に、ファントムがMR断層撮影装置内に正しく配向して配置されていることが、本質的な画質パラメータの決定および/または較正を成功させるための必須の要件である。したがって、既知のファントムはアダプタを提供し、このアダプタは通常、異なるシステムに対して普遍的に使用され得る。しかし、このような普遍的なアダプタはしばしば、最終的に必要とされる精度を提供することができないという欠点を有している。これは妥協であり、このような解決策は、その普遍性の観点から、これを受け入れなければならない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
したがって本発明の課題は、可能な限り少ない数の、実行が容易なステップでの、1つのファントムにおける本質的な画像パラメータの必要な決定および/または較正を可能にするファントムを提供することである。
【0018】
本発明のさらなる課題は、可能な限り少ない数の個々の要素を含み、したがって安価であり、かつ製造においても組立て時にエラーの影響を受けにくいファントムを提供することである。
【0019】
本発明のさらなる課題は、本質的な画質パラメータの最適な決定および/または較正を可能にし、かつエラーに強い、使用が容易である測定および評価方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の課題は、請求項1の特徴を有する本発明の装置によって解決される。有利な各実施形態は、各従属請求項の対象である。特許請求の範囲において個別に言及された特徴は、任意の所望かつ技術的に適切な様式で互いに組み合わせることも可能であり、したがって本発明のさらなる実施形態を実施できることを指摘しておく。
【0021】
本発明のファントムは、内部に測定補助具が配置されているファントム本体を含んでいる。ファントム本体は、好適には、本体および測定補助具の両方に対する材料損傷の迅速な視覚的検出を可能にする材料から製造されている。適切な材料は、たとえばアクリルガラスである。ファントム本体は、好適には、中空の円筒状基体要素を含んでおり、中空の円筒状基体要素の上方端部および下方端部には、それぞれヘッドプレートとボトムプレートとが設けられており、これらは少なくとも流体密に基体要素を封止している。
【0022】
ファントムのサイズは、好適には、たとえばIEC62464-1の各標準要件に対応しており、ここで、原理的には、小さい重量と高い安定性とが同時に得られるべきである。当然、ファントム本体の寸法は、少なくとも、提供される測定補助具用のスペースが内部に存在するように選択されるべきである。
【0023】
測定補助具は、ファントムが、測定される各軸線に対して1回だけMR断層撮影装置内に導入されればよいようにファントム本体内に位置決めされるべきである。測定される各軸線に対してファントム本体を1回だけ導入すればよいことによって、時間を節約することができ、さらにはエラーの原因を最小限に抑えることができるため、これは有利である。したがって、本質的な画質パラメータの決定および/または較正の持続時間を短くし、ほぼ走査時間だけにすることができる。
【0024】
この目的で、種々の測定補助具が個々の平面に配置されており、ここで、これらの平面は、好適には、ヘッドプレートおよびボトムプレートに対して平行に、ファントム本体の内側に配置されている。
【0025】
この関連において、用語「平面」は、ファントム本体の長手方向部分であると解されるべきであり、ファントム本体自体は平面の一部であると解されず、各平面は実質的に測定補助具を1つだけ含んでいる。
【0026】
ファントム本体は、測定流体である塩水溶液で満たされており、この溶液は、その特定の組成のために、筋肉組織の電気的特性を模倣する。好適な塩溶液は、特に硫酸銅および塩化ナトリウムを含んでいる。この溶液は、種々の磁場強度、たとえば1.5Tの磁場強度を有するMR断層撮影装置用に設計可能である。
【0027】
測定流体を導入、排出または交換するために、相応の供給ラインおよび/または排出ラインを、ファントム本体、特にファントム本体のヘッドプレートおよび/またはボトムプレートに設けることができる。これに相応して、これらの供給ラインおよび/または排出ラインに適切な弁体を設けることができる。
【0028】
本発明のファントムはさらに、上側および下側を有している中間底面を含んでおり、中間底面上に、または中間底面内に、固定された測定補助具すべて、すなわち、測定流体ではない測定補助具すべてが配置されている。これらは、特にパラメータである層厚の決定または較正のためのくさび形要素、特にパラメータである幾何学歪の決定または較正のための既知の相互距離のマークおよび特にパラメータである空間分解能の決定または較正のための櫛形要素である。
【0029】
本発明では、くさび形要素は中間底面の一方の側に設けられており、櫛形要素は中間底面の他方の側に設けられている。中間底面自体内には、特に、中間底面の平面に対して垂直に穿設された孔の形態である、既知の相互距離のマークが設けられている。
【0030】
中間底面は、ファントム本体の内側に、好適にはヘッドプレートおよびボトムプレートに対して平行に配置されている。特に、測定補助具を備えた中間底面は付加的にファントム本体の内側に配置されているので、少なくとも、ファントム本体の1つの平面においては、測定流体のみが存在し、固定された測定補助具は存在していない。
【0031】
したがって、平面の上述の規定に従って、本発明のファントムは、少なくとも4つの平面を有するファントム本体を含んでいる。
【0032】
第1の平面は規定された測定流体を含んでおり、ここでは特にパラメータであるT(縦緩和時間)、T(横緩和時間)およびプロトン密度が既知である。測定流体は、好適には、硫酸銅および塩化ナトリウムを含んでいる塩溶液であり、これは、試験環境の特定の磁場強度に適合されなければならない。第1の平面は特に、信号対雑音比、均一性およびゴーストアーチファクトの決定または較正に用いられる。
【0033】
第2の平面は、層厚を決定または較正するためのくさび形要素を含んでいる。くさび形要素は、好適には対で配置されており、ここで対の個々のくさびは、いずれの場合にも相互に平行に配置されており、一方のくさびの先端部は他方のくさびの基部に向けて配置されており、他方のくさびの先端部は一方のくさびの基部に向けて配置されている。くさび形要素の対が2つ以上設けられている場合には、これらの対のうちの少なくとも2つの対は、相互に垂直な配置で設けられている。
【0034】
第3の平面は、幾何学歪の決定または較正のための既知の相互距離のマークを含んでいる。このマークは、好適には孔として設けられ、特に中間底面における孔または中間底面を貫通する孔として設けられる。
【0035】
第4の平面は、空間分解能の決定または較正のための少なくとも2つの櫛形要素を含んでいる。櫛形要素は、実質的に、複数のフィンを有する基部を含んでいる。これらのフィンは基部の上に垂直に立ち、相互に平行に配向されている。少なくとも2つの櫛形要素は、2つの要素のこれらのフィンが相互に垂直になるように、相対的に配向されている。
【0036】
本発明では、第2の平面、第3の平面および第4の平面の測定補助具は、上述のように、中間底面上に、もしくは中間底面内に配置されている、または中間底面に結合されている。したがって第3の平面は実質的に、既知の相互距離のマークを備えた中間底面に相当する。
【0037】
当然、固定された測定補助具を含んでいるすべての平面も測定流体によって満たされている。
【0038】
特に好適な実施形態では、ファントムは厳密に4つの平面を有しており、ここで、第1の平面は、信号対雑音比、均一性およびゴーストアーチファクトの決定または較正のために、測定補助具として、既知の密度の測定流体のみ、好適には硫酸銅および塩化ナトリウムを含んでいる塩溶液のみを含んでいる。
【0039】
第2の平面は、測定流体の他に、層厚を決定または較正するためのくさび形要素のみを含んでいる。くさび形要素は、好適には対で配置されており、ここで対の個々のくさびは、いずれの場合にも相互に平行に配置されており、一方のくさびの先端部は他方のくさびの基部に向けて配置されており、他方のくさびの先端部は一方のくさびの基部に向けて配置されている。好適には、相互に垂直に配置された2つの対のくさび形要素が設けられている。
【0040】
第3の平面は、測定流体の他に、幾何学歪の決定または較正のための既知の相互距離のマークを備えた中間底面のみを含んでいる。このマークは、中間底面を貫通する孔として設けられている。
【0041】
第4の平面は、測定流体の他に、空間分解能の決定または較正のための櫛形要素のみを含んでいる。櫛形要素は、実質的に、複数のフィンを有する基部を含んでいる。これらのフィンは基部の上に垂直に立ち、相互に平行に配向されている。好適には、2つの櫛形要素は、2つの要素のこれらのフィンが相互に垂直になるように、相対的に配向されている。
【0042】
この実施形態においても、当然、固定された測定補助具を含んでいるすべての平面も測定流体によって満たされている。
【0043】
特に、本発明のファントムは好適にはホルダを含んでおり、ホルダは、その内部でファントムが使用されるMR断層撮影装置に個別に適合させられる。このような個別に適合させられたホルダは、これによって、時間がかかり、かつエラーが発生しやすいファントムの位置決めおよび位置合わせをユーザが行わないで済むので、有利である。それどころか、個別に適合させられたホルダは、ファントムの迅速かつエラーのない位置決めおよび位置合わせを保証するだけでなく、測定の再現性の保証も行う。
【0044】
本発明および技術的なコンテキストを、図面を参照して以下でより詳細に説明する。図面は、本発明の特に好適な実施形態の変形例を示していることが指摘されるべきである。しかし、本発明は、示された実施形態の変形例に限定されない。特に、本発明は、技術的に適切である場合に、特許請求の範囲において言及されるか、または明細書において本発明に関連して説明される技術的特徴の任意の所望の組み合わせを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
図1】本発明のファントムの側面図である。
図2】くさび形測定要素の斜視図であり、その下方に、この平面におけるこれらの要素の配置の概略的な平面図が示されている。
図3】距離マークを備える第3の平面の斜視図であり、その下方に、この平面におけるマークの配置の概略的な平面図が示されている。
図4】櫛形測定要素を備える第4の平面の斜視図であり、その下方に、この平面におけるこれらの要素の配置の概略的な平面図が示されている。
図5】ホルダの斜視図であり、その下方に、MR断層撮影装置の筒状部内のホルダを伴うファントムの配置が示されている。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図1は本発明のファントム1を示しており、ファントム1は、ファントム本体2、測定補助具10、11、12、13および中間底面14を有している。ファントム本体2は、中空の円筒状基体3と、この中空の円筒状基体3の両端に配置されているヘッドプレート4とボトムプレート5とを備えている。ヘッドプレート4とボトムプレート5とは相互に平行に配置されており、かつ中空の円筒状基体3の長手方向中心軸線に対して垂直に配置されている。
【0047】
ヘッドプレート4およびボトムプレート5は、少なくとも流体密に中空の円筒状基体3を封止している。少なくとも、中空の円筒状基体3は、好適には、ファントム1の損傷を視認できるように、光学的に透明な材料、たとえばアクリルガラスから製造されている。
【0048】
測定補助具10、11、12、13および中間底面14は、ファントム本体2内に配置されている。測定流体10は、ファントム本体2をほぼ完全に満たしている。他の測定補助具11、12、13は、中間底面14上または中間底面14内に配置されている。
【0049】
全体として、測定補助具は4つの平面6、7、8、9に配置されており、これらの平面は、ファントム本体の中心長手方向軸線に沿って連続的にかつ平行に配置されている。当然、測定流体10は、すべての平面6、7、8、9を貫通する。
【0050】
第1の平面6は、測定補助具として測定流体10のみを含んでいる。第2の平面7は、測定補助具としてくさび形要素11を含んでいる。第3の平面8は、測定補助具としてマーク12を含んでおり、これらのマーク12は、好適には、中間底面14内または中間底面14上に配置されている。第4の平面9は、測定補助具として櫛形要素13を含んでいる。本発明では、くさび形要素11と、マーク12と、櫛形要素13とが、中間底面14上または中間底面14内に配置されている。
【0051】
測定流体10の交換を可能にするために、開口15が、任意選択的にヘッドプレート4および/またはボトムプレート5に設けられており、この開口を通じて、測定流体10の供給または排出が可能である。任意選択的に設けられる弁体16は、これらの箇所でファントム1の気密性を高めることができる。
【0052】
図2は、第2の平面7のくさび形要素11を詳細に示している。好適には、これらのくさび形要素11は同じサイズであり、第1のくさび形要素11Aと第2のくさび形要素11Bとから成る対で配置されている。対11の個々のくさび11A、11Bは、いずれの場合にも相互に平行に配置されており、ここで、一方のくさび11Aの先端部は他方のくさび11Bの基部に向けて配置されており、他方のくさび11Bの先端部は一方のくさび11Aの基部に向けて配置されている。特に、一方のくさび11Aの先端部は他方のくさび11Bの基部で終端しており、他方のくさび11Bの先端部は一方のくさび11Aの基部で終端している。くさび形要素11の2つの対が設けられている場合、これらは、好適には、相互に垂直に配置されている。くさび形要素11は、層厚の決定または較正に用いられる。
【0053】
図3は、中間底面14と、中間底面14に配置されているマーク12とを有している第3の平面8を詳細に示している。好適には、マーク12は、中間底面14を貫通する垂直孔として設けられている。既知の相互距離のマーク12は、幾何学歪の決定または較正に用いられる。図3に例として示されたこれらのマーク12の分布パターンを、特定のケースに適用される標準要件に適合させることができる。
【0054】
図4は、第4の平面9の櫛形要素13を、詳細に、平面図において、好適な配置で示している。櫛形要素13は、基部13Aと、基部上に垂直に配置され、相互に平行に配向されたフィン13Bとを有している。櫛形要素13は、空間分解能の決定または較正に用いられる。2つの櫛形要素13が第4の平面9に設けられている場合、これら2つの櫛形要素13のフィン13Bが相互に垂直に配置されるように、これらの櫛形要素13は相対的に配向されている。
【0055】
図5は、ファントム1を収容するためのホルダ17の概略図を示している。ファントム1が確実に保持されることを保証する他、ホルダ17は、実行されるべき保守作業の再現性も保証する。ホルダ17の嵌合の正確さは、特に、実行されるべき各新たな保守動作、すなわち本質的な画質パラメータの較正または決定に対して、ファントム1がMR断層撮影装置内に、その前の保守動作の場合と完全に同じ位置に配置されることを保証する。
以下、本発明の好ましい実施形態を項分け記載する。
実施形態1
MR断層撮影装置において使用されるファントムであって、
前記ファントムは、ファントム本体(2)と、測定補助具(10,11,12,13)と、中間底面(14)とを有しており、前記中間底面(14)は上側と下側とを有しており、前記測定補助具(10,11,12,13)および前記中間底面(14)は、前記ファントム本体(2)内に、少なくとも4つの平面(6,7,8,9)に配置されており、
-第1の平面(6)は、前記測定補助具として測定流体(10)のみを含んでおり;
-第2の平面(7)は、前記測定補助具としてくさび形要素(11)を含んでおり;
-第3の平面(8)は、前記測定補助具として既知の相互距離のマーク(12)を含んでおり;かつ
-第4の平面(9)は、前記測定補助具として櫛形要素(13)を含んでいるファントムにおいて、
前記第2の平面(7)の前記測定補助具(11)は、前記中間底面(14)の一方の側に配置されており、前記第4の平面(9)の前記測定補助具(13)は、前記中間底面(14)の他方の側に配置されており、前記第3の平面(8)の前記測定補助具(12)は、前記中間底面(14)内に配置されている
ことを特徴とするファントム。
実施形態2
前記ファントム本体(2)は、中空の円筒状基体要素(3)を含んでおり、前記中空の円筒状基体要素(3)の上方端部および下方端部は少なくともヘッドプレートおよびボトムプレート(4,5)によって閉じられている、実施形態1に記載のファントム。
実施形態3
前記中間底面(14)は、前記ヘッドプレートおよび前記ボトムプレート(4,5)に対して平行に配置されている、実施形態1または2に記載のファントム。
実施形態4
測定補助具として設けられる、第2の平面(7)の前記くさび形要素(11)は対で配置されており、対の個々のくさび(11A,11B)は、いずれの場合にも相互に平行に配置されており、一方のくさび(11A)の先端部は他方のくさび(11B)の基部に向けて配置されており、他方のくさび(11B)の先端部は一方のくさび(11A)の基部に向けて配置されている、実施形態1から3までのいずれか1つに記載のファントム。
実施形態5
測定補助具として設けられる、第3の平面(8)の前記マーク(12)は、前記中間底面(14)内の孔として設けられる、実施形態1から4までのいずれか1つに記載のファントム。
実施形態6
前記櫛形要素(13)は、複数のフィン(13B)を有する基部(13A)を含んでおり、前記フィン(13B)は前記基部(13A)の上に垂直に立ち、相互に平行に配向されており、
測定補助具として設けられる、第4の平面(9)の前記櫛形要素(13)のうちの少なくとも2つの櫛形要素(13)は、前記2つの櫛形要素(13)の前記フィン(13B)が相互に垂直に配向されるように相対的に配向されている、実施形態1から5までのいずれか1つに記載のファントム。
実施形態7
前記測定流体(10)は、硫酸銅および塩化ナトリウムを含む塩溶液を含んでいる、実施形態1から6までのいずれか1つに記載のファントム。
実施形態8
前記ファントム本体(2)は、実質的にアクリルガラスから製造されている、実施形態1から7までのいずれか1つに記載のファントム。
実施形態9
前記測定流体のための供給ラインおよび/または排出ライン(15)が、前記ファントム本体(2)に、特に前記ヘッドプレートおよび/または前記ボトムプレート(4,5)に設けられている、実施形態1から8までのいずれか1つに記載のファントム。
実施形態10
前記供給ラインおよび/または前記排出ライン(15)に弁体(16)が設けられている、実施形態9に記載のファントム。
実施形態11
前記ファントム(1)は、MR断層撮影装置に個別に適合させられるホルダ(17)を含んでいる、実施形態1から10までのいずれか1つに記載のファントム。
【符号の説明】
【0056】
1 ファントム
2 ファントム本体
3 基体要素
4 ヘッドプレート
5 ボトムプレート
6 第1の平面
7 第2の平面
8 第3の平面
9 第4の平面
10 測定流体
11 くさび形要素(A、B 個々のくさび)
12 マーク
13 櫛形要素(13A 基部、13B フィン)
14 中間底面
15 供給ラインまたは排出ライン
16 弁体
17 ホルダ
図1
図2
図3
図4
図5