(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】複合型モノフィラメント
(51)【国際特許分類】
D01F 8/04 20060101AFI20240201BHJP
D01F 8/14 20060101ALI20240201BHJP
A63B 51/02 20150101ALI20240201BHJP
【FI】
D01F8/04 B
D01F8/14 B
A63B51/02
(21)【出願番号】P 2018181236
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-09-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中谷 雄俊
(72)【発明者】
【氏名】金築 亮
(72)【発明者】
【氏名】西井 義尚
【審査官】伊藤 寿美
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-303260(JP,A)
【文献】特開2014-145143(JP,A)
【文献】特開2004-124335(JP,A)
【文献】実公昭47-005014(JP,Y1)
【文献】特開昭61-194221(JP,A)
【文献】国際公開第2012/029800(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 8/00- 8/18
A63B 49/00-51/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種の熱可塑性樹脂によって構成される複合型モノフィラメントであり、2種の熱可塑性樹脂が、一方がエラストマー樹脂、他方が非エラストマー樹脂であり、
非エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面全体を覆ってなる鞘部を形成し、エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面に露出しておらず芯部を形成し、
エラストマー樹脂のデュロメーター硬度は20Aから80Dの範囲にあり、
非エラストマー樹脂がポリアミド6であり、エラストマー樹脂がポリアミドエラストマー樹脂であり、
エラストマー樹脂と非エラストマー樹脂との構成比率が体積分率で50/50~95/5であり、 該複合型モノフィラメントは、引張試験時の最大点強力の1/8の荷重を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、締結時の荷重に対して0.3以下であることを特徴とする複合型モノフィラメント。
【請求項2】
2種の熱可塑性樹脂によって構成される複合型モノフィラメントであり、2種の熱可塑性樹脂が、一方がエラストマー樹脂、他方が非エラストマー樹脂であり、
非エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面全体を覆ってなる鞘部を形成し、エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面に露出しておらず芯部を形成し、エラストマー樹脂のデュロメーター硬度は20Aから80Dの範囲にあり、
非エラストマー樹脂がエチレンテレフタレートとブチレンテレフタレートとε-カプロラクトンとを共重合した共重合ポリエステルであり、エラストマー樹脂がポリエステルエラストマー樹脂であり、
エラストマー樹脂と非エラストマー樹脂との構成比率が体積分率で50/50~95/5であり、 該複合型モノフィラメントは、引張試験時の最大点強力の1/8の荷重を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、締結時の荷重に対して0.3以下であることを特徴とする複合型モノフィラメント。
【請求項3】
非エラストマー樹脂の融点が、エラストマー樹脂の融点よりも低いことを特徴とする請求項1または2記載の複合型モノフィラメント。
【請求項4】
請求項1または2記載の複合型モノフィラメントを構成繊維の一部に配してなることを特徴とする繊維構造体。
【請求項5】
請求項1または2記載の複合型モノフィラメントを構成繊維の一部に配してなる繊維構造体において、非エラストマー樹脂が、溶融または軟化することにより熱接着剤として機能してなり、繊維構造体を構成する繊維同士を非エラストマー樹脂が溶融または軟化してなる熱接着剤により接着一体化してなることを特徴とする繊維構造体。
【請求項6】
請求項1または2記載の複合型モノフィラメントを複数本集束させた集束体により構成されてなり、非エラストマー樹脂が溶融または軟化することにより、複合型モノフィラメント同士が接着一体化してなることを特徴とするラケット用ガット。
【請求項7】
請求項1または2記載の複合型モノフィラメントを複数本集束させた集束体により構成されてなり、非エラストマー樹脂が溶融または軟化することにより、複合型モノフィラメント同士が接着一体化してなることを特徴とする椅子の張り地用糸。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種の熱可塑性樹脂により構成される複合型モノフィラメントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性エラストマーを用いた弾性繊維は優れた弾性回復率を活かして衣料用途、産業資材用途などで利用されている。しかし熱可塑性エラストマーからなる弾性繊維はタック感が強く、紡糸延伸、撚糸、製織、製編などでの工程通過性や取扱い性が悪く、特に硬度の低い熱可塑性エラストマーを用いた際に顕著である。この問題に対し、特殊な油剤での表面処理(例えば、特許文献1)や、非弾性繊維での被覆(例えば、特許文献2)などの対策が行われるが、専用設備が必要になる、コストアップとなるといったデメリットがある。
【0003】
また、低融点成分で表面を被覆した熱融着性弾性繊維もあり、織地や編地に配して熱処理することで交点接着を行うことで、保形性向上や目ズレ防止効果といったメリットが得られる。例えば、特許文献3では芯に高融点の熱可塑性エラストマー、鞘に低融点の熱可塑性エラストマーを配した芯鞘モノフィラメントが使用されている。また、特許文献4では芯にポリトリメチレンテレフタレート、鞘には芯成分より融点の低い熱可塑性エラストマーを配した芯鞘型モノフィラメントが開示されている。いずれも鞘にエラストマーを使用しており、工程通過性や取扱い性が不十分である。
【文献】特開平04-352878号公報
【文献】特開2010-116641号公報
【文献】特開2001-159052号公報
【文献】特開2004-176228号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような問題に鑑み、本発明は、工程通過性に優れ、取扱いが良好であり、かつ弾性を有するモノフィラメントを得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記課題を達成するものであり、その要旨は次の通りである。
【0006】
すなわち、2種の熱可塑性樹脂によって構成される複合型モノフィラメントであり、2 種の熱可塑性樹脂が、一方がエラストマー樹脂、他方が非エラストマー樹脂であり、
非エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面全体を覆ってなる鞘部を形成し、エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面に露出しておらず芯部を形成し、エラストマー樹脂のデュロメーター硬度は20Aから80Dの範囲にあり、
非エラストマー樹脂がポリアミド6であり、エラストマー樹脂がポリアミドエラストマー樹脂であり、
エラストマー樹脂と非エラストマー樹脂との構成比率が体積分率で50/50~95/5であり、 該複合型モノフィラメントは、引張試験時の最大点強力の1/8の荷重を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、締結時の荷重に対して0.3以下であることを特徴とする複合型モノフィラメントを要旨とする。
また、2種の熱可塑性樹脂によって構成される複合型モノフィラメントであり、2種の熱可塑性樹脂が、一方がエラストマー樹脂、他方が非エラストマー樹脂であり、
非エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面全体を覆ってなる鞘部を形成し、エラストマー樹脂は、繊維の横断面において、繊維表面に露出しておらず芯部を形成し、エラストマー樹脂のデュロメーター硬度は20Aから80Dの範囲にあり、
非エラストマー樹脂がエチレンテレフタレートとブチレンテレフタレートとε-カプロラクトンとを共重合した共重合ポリエステルであり、エラストマー樹脂がポリエステルエラストマー樹脂であり、
エラストマー樹脂と非エラストマー樹脂との構成比率が体積分率で50/50~95/5であり、 該複合型モノフィラメントは、引張試験時の最大点強力の1/8の荷重を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、締結時の荷重に対して0.3以下であることを特徴とする複合型モノフィラメントを要旨とする。
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0008】
本発明は2種の熱可塑性樹脂によって構成される複合型モノフィラメントである。2種の熱可塑性樹脂は、エラストマー樹脂と非エラストマー樹脂である。
【0009】
エラストマー樹脂としては、ポリアミドエラストマー樹脂、ポリエステルエラストマー樹脂が挙げられ、これらを使用する。エラストマー樹脂の性能は、ポリマーや添加剤の混合により調整することもできる。本発明で用いるエラストマー樹脂の硬度は、用途に応じて適宜選択すればよいが、デュロメーター硬度で20Aから80Dの範囲とする。より好ましくは40Aから60D の範囲である。ポリマーを混合する場合は、ベースに用いるエラストマー樹脂との親和性が高いものが好ましく、例えば、ポリエステルエラストマー樹脂に対してはポリエステル樹脂を添加すること好ましく、また、ポリアミドエラストマーに対してはポリアミド樹脂を添加することが好ましい。エラストマー樹脂に添加する添加剤としては、可塑剤、艶消し剤、充填剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、相溶化剤、帯電防止剤等が本発明の効果を損なわない範囲内で使用できる。エラストマー樹脂に他のポリマーや添加剤等を混合する場合、混合してなる組成物中に、エラストマー樹脂が占める割合は、体積分率で70パーセント以上が好ましい。
【0010】
本発明において、エラストマー樹脂と複合する非エラストマー樹脂との組合せとしては、エラストマー樹脂との界面接着力の高いものを選択することが好ましく、また、強度や取扱い性等を考慮すると、非エラストマー樹脂がポリアミド6であり、エラストマー樹脂がポリアミドエラストマー樹脂、あるいは、非エラストマー樹脂がエチレンテレフタレートとブチレンテレフタレートとε-カプロラクトンとを共重合した共重合ポリエステルであり、エラストマー樹脂がポリエステルエラストマー樹脂の組合せを用いる。
【0011】
非エラストマー樹脂には、他の熱可塑性樹脂や添加剤の混合により、非エラストマー樹脂の性能を適宜調整することもできる。混合する熱可塑性樹脂はベースに用いる非エラストマー樹脂との親和性が高いものが好ましい。例えば、非エラストマー樹脂に対して、少量のエラストマー樹脂を添加して柔軟性を改善することが挙げられる。この場合、添加するエラストマー樹脂は、混合物である非エラストマー樹脂に弾性が発揮しない範囲で少量添加するものとし、混合物中に多くとも20%程度(体積分率)とする。また、非エラストマー樹脂中に添加する添加剤としては、可塑剤、艶消し剤、充填剤、顔料、紫外線吸収剤、光安定剤、熱安定剤、酸化防止剤、相溶化剤、帯電防止剤等が本発明の効果を損なわない範囲内で使用できる。
【0012】
本発明の複合型モノフィラメントは、上記のエラストマー樹脂と非エラストマー樹脂とが複合化してなるものあるが、繊維横断面において、エラストマー樹脂は、繊維表面に露出しておらず、非エラストマー樹脂は、繊維表面全体を覆ってなる鞘部を形成してなるように配してなり、エラストマー樹脂が芯部を形成し、その周囲を非エラストマー樹脂が覆ってなる鞘部を形成し、芯部が繊維表面に露出しない形態とである芯鞘型複合形態である。
【0013】
本発明においては、モノフィラメントの繊維表面に非エラストマー樹脂を配し、エラストマー樹脂を繊維表面に露出させない形態とすることで、タック感の強いエラストマー樹脂が表出せず、工程通過性や取扱い性が大幅に向上する。
【0014】
複合型モノフィラメントを構成するエラストマー樹脂と非エラストマー樹脂との構成比率は、エラストマー樹脂/非エラストマー樹脂=50/50~95/5(体積分率)である。エラストマー樹脂の比率が、50%以上占めることにより、所望の弾性と伸度に優れたモノフィラメントを得ることができる。一方、エラストマー樹脂の比率が、95%以下とすることにより、エラストマー樹脂が表面に表出することなく、非エラストマー樹脂により良好に覆うことができる。
【0015】
本発明の複合型モノフィラメントは、引張試験時の最大点強力の1/8の荷重(締結時の荷重)を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、締結時の荷重に対して0.3以下である。これは、実用的な強度を有し、また、繊径が大きく一般的に剛性を有するモノフィラメントによって、まずは結び目を形成することが可能であり、その形成した結び目を緩める際の摩擦力を示す。その際、摩擦力が高いと、タック感が強く、取扱い性が良好とはいえない。したがって、特定荷重を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、締結時の荷重に対して0.3以下であることにより、工程通過性が良好で、取扱い性が良好であるものといえる。また、この応力比が、0.25以下であることがより好ましい。特定荷重を付加して締結した蝶結びを解す際の応力が、小さくなるほど、摩擦力が小さく、取扱い性が良好であるが、この比は、下限は、0.005程度がよく、より好ましくは0.01である。0.005未満の場合、巻崩れ等が発生しやすい傾向となるためである。
【0016】
次に、一旦形成した結び目を解す際の応力は、下の測定方法に基づくものである。モノフィラメントを、
図1のごとく蝶結びの結び目を形成し、引張試験で得られる最大点強力の1/8の荷重(例えば、モノフィラメントの最大点強力が16Nの場合、2Nの荷重とする。)で二つのループ部(1)を引っ張って締め付けて、結び目を形成する。次いで、一旦形成した結び目の両端(2)を引っ張ることにより、結び目が緩ませ、初期ピーク応力を測定し、この初期ビーク応力を結び目を解す際の応力する。結び目を形成するときおよび一旦形成した蝶結びの結び目を緩めるときは、いずれも引張試験機を用いる。すなわち、結び目を形成する際は、二つのループ部(1)を引張試験機の2つのチャックにそれぞれ把持し、引張速度30cm/分の条件で引っ張ることにより結び目を締め付け、特定の締結時の荷重(引張試験で得られる最大点強力の1/8の荷重)に達したときに、ループ部への引張の動作を中止し、結び目を得る。次いで、一旦形成した結び目を緩める際は、形成した結び目の両端(2)を引張試験機の2つのチャックにそれぞれ把持し、引張速度30cm/分の条件で引っ張り、初期ピーク応力を測定する。初期ピーク応力とは、山谷を描く引張荷重曲線において、最初に山を現わしたときの荷重をいう。
【0017】
複合型モノフィラメントの断面形状としては、特に限定されるものではなく、最も一般的な円形のほか、例えば十字形、扁平形、菱形、T字形、Y字形、三角形、四型形等いずれの形状であってもよい。また、複合型モノフィラメントの線径は0.05から10mmの範囲であることが好ましい。
【0018】
複合型モノフィラメントは、外層に配する非エラストマー樹脂の融点が、エラストマー樹脂の融点よりも低くすることにより、熱接着性を付与することができる。融点の差は10℃以上が好ましく、より好ましくは30℃以上である。非エラストマー樹脂に熱接着性を機能させることにより、複合型モノフィラメントを少なくとも構成繊維の一部に配してなる繊維構造体において、繊維構造体に熱処理を施し、非エラストマー樹脂を溶融または軟化させて、熱接着剤として機能させ、複合型モノフィラメント同士や他の構成繊維同士を熱接着させることができ、繊維構造体の保形性が向上し、繊維同士の目ズレを防止することができる。
【0019】
本発明の複合型モノフィラメントは、以下の方法により製造して得ることができる。すなわち、溶融紡糸においては、複合紡糸を行い、ノズルから押し出された溶融樹脂は空冷、水冷などの手段で冷却して第1ローラーで引き取ったのち、必要に応じて複数のローラー間で加熱延伸や弛緩処理を施し、パーン、紙管、ボビンなどに巻き取られる。延伸や弛緩処理時の加熱方法は熱ローラー、温水槽、乾熱ヒーター、加熱蒸気の吹付け、赤外線照射などの中から選択できる。延伸倍率は特に限定されないが、必要となる物性によって1から10倍の範囲で延伸すればよい。延伸をかけた場合、巻き締まりへの対策として弛緩処理も施すことが好ましい。また紡糸延伸工程にて紡糸油剤や仕上げ油剤を付与してもよい。
【0020】
本発明の複合型モノフィラメントは、単体で使用してもよく、また、モノフィラメントを構成繊維の一部に配した繊維構造体として使用してもよい。繊維構造体の形態としては、撚糸、無撚糸、組紐、ロープ、織物、編物、ネットなどが挙げられる。繊維構造体には、染色加工、吸尽加工、樹脂コート、樹脂ラミネート、ガラスコート、金属蒸着などの附帯加工を施してもよい。
【0021】
繊維構造体において、本発明の複合型モノフィラメントの含有率は特に限定されず、一部への使用でもよく、また、複合型モノフィラメントのみによって繊維構造体を構成してもよい。複合型モノフィラメント以外の他の繊維を併用する場合、その繊維としては、特に限定されず、合成繊維(ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、アラミド繊維、超高分子量ポリエチレン繊維等)、無機繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)を適宜用いるとよい。ただし、複合型モノフィラメントの非エラストマー樹脂を熱接着剤として機能させる場合、熱接着剤となる非エラストマー樹脂と親和性の高い素材からなる構成繊維を用いることにより、接着力が向上するため好ましい。熱接着加工の際の温度で溶融しない繊維を配すれば、強度保持や形態保持の観点で有利であり、また加工時の温度で少なくとも一部が溶融する繊維を配すれば交点接着が促進される効果が得られるため、目的に応じて構成繊維を選択すればよい。
【0022】
繊維構造体を得るにあたり、仕上げや熱接着加工などの目的で熱処理を施してもよい。熱処理の方法は特に限定されるものではないが、アイロン、熱風溶接機、熱風乾燥機、テンターマシン、加熱蒸気の吹付、温水槽への浸漬または導通、赤外線照射などが挙げられる。熱接着加工の際は、複合型モノフィラメントの非エラストマー樹脂(熱接着成分)が溶融し、エラストマー樹脂が溶融しない温度に設定とすることで繊維構造体の形態を良好に維持した状態で、繊維同士の熱接着を行うことができる。なお、熱接着加工時に熱接着成分となる非エラストマー樹脂が溶融して表出し、繊維構造体同士が接触している場合には繊維構造体同士の熱接着が生じることや、繊維構造体と加工設備等と望ましくない不要な熱接着が生じることが懸念される場合は、熱接着加工による熱の影響を受けない素材、例えば、加工温度よりも高い融点を持つ素材で繊維構造体の表面を被覆しておくことが望ましく、繊維構造体の表面をモノフィラメント以外の高融点繊維で構成する、高融点樹脂でコーティングするなどを行うことが好ましい。
【0023】
本発明の複合型モノフィラメントは、ラケット用ガットに用いることが好ましい。このようなラケット用ガットは、例えば、複数本の複合型モノフィラメントを引き揃えや、加撚により集束させた集束体を得、その集束体に、非エラストマー樹脂が溶融または軟化し、かつエラストマー樹脂が熱の影響を受けない温度を加熱することにより、非エラストマー樹脂を溶融または軟化させて、複合型モノフィラメント同士を接着一体化させて得ることができる。
【0024】
本発明の複合型モノフィラメントは、椅子の張り地用糸に用いることが好ましい。椅子の張り地用糸は、複合型モノフィラメント1本を用いても、複数本を引き揃えや加撚により集束させた形態で用いてもよい。また、他の糸を併用して、張地用糸としてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、エラストマー樹脂を低弾性の非エラストマー樹脂で被覆した構成の複合型モノフィラメントとすることにより、優れた弾性を有しながら、工程通過性や取扱い性が良好であるモノフィラメントを得ることができる。また、外層を構成する非エラストマー樹脂を熱接着成分として機能させることにより、保形性や目ズレ防止効果を得ることもできる。したがって、本発明の複合型モノフィラメントは、衣料品、スポーツ用品、オムツ、各種のクッション材などの各種用途に好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】モノフィラメントにて形成する蝶結びの結び目を示す模式図である。
【実施例】
【0027】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例における各種の特性は、次のようにして測定又は評価した。
(a)強伸度
JIS L-1013に準じ、試料長25cm、引張速度30cm/分で測定した。引張試験機としては、島津製作所製オートグラフAG-I500Nを用いた。
(b)締結時の荷重に対する蝶結びを解す際の応力比
モノフィラメントを
図1のごとく蝶結びの結び目を形成する。次いで、引張試験機の2つのチャックに、結び目の二つのループ部をそれぞれ把持し、二つのループ部を引張速度30cm/分の条件で引っ張り締め付け、上記(a)の強伸度の測定で得られた最大点強力の1/8の荷重に達したときにループへの引張の動作を中止し、結び目を得る。次いで、形成した結び目の両端を、引張試験機の2つのチャックにそれぞれ把持し、引張速度30cm/分の条件で引っ張り、初期ピーク応力を測定する。この初期ビーク応力について、試験片5点の平均値を蝶結びを解す際の応力とし、得られた蝶結びを解す際の応力を締結時の荷重(強伸度の測定で得られた最大点強力の1/8の荷重)で除した値を算出し、応力比を求めた。なお、引張試験機としては、島津製作所製オートグラフAG-I500Nを用いた。また、モノフィラメントは90cmのものを用いて測定した。
【0028】
実施例1
芯部にポリエステル系熱可塑性エラストマー(東レデュポン社製ハイトレル4777、融点200℃)を配し、鞘部に、エチレンテレフタレートとブチレンテレフタレート(モル比1/1)のアルキレンテレフタレート単位全体とε-カプロラクトンの総モル数に対し、ε-カプロラクトンを12モル%共重合した共重合ポリエステル(融点160℃)を配されるように、芯部と鞘部の体積比を3/1として複合紡糸して、延伸倍率5倍、弛緩率25%にて直径0.5mmの同芯型の円形断面芯鞘複合型モノフィラメントを得た。
【0029】
実施例2
実施例1において、鞘部に、エチレンテレフタレートとエチレンイソフタレート(モル比2/1) の共重合ポリエステル(融点130℃)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0030】
実施例3
実施例1において、溶融紡糸時の吐出量を変更し、芯部と鞘部の体積比を5/1としたこと、得られるモノフィラメントの線径を0.35mmとしたこと以外は実施例1と同様にしてモノフィラメントを得た。
【0031】
実施例4
芯部にポリアミド系熱可塑性エラストマー(宇部興産社製エクスパ9040F1、融点135℃)を配し、鞘部にポリアミド6(融点220℃)を配されるように、芯部と鞘部の体積比を1/1として複合紡糸して、延伸倍率4.2倍、弛緩率4%にて直径0.4mmの同芯型の丸断面芯鞘複合形態のモノフィラメントを得た。
【0032】
比較例1
ポリエチレンテレフタレートのみを用い、溶融紡糸し、延伸倍率5.3倍、弛緩率2%にて直径0.3mmの円形断面の単相のモノフィラメントを得た。
【0033】
比較例2
実施例1で用いたポリエステル系熱可塑性エラストマーのみを用い、溶融紡糸し、延伸倍率5倍、弛緩率25%にて直径0.3mmの円形断面の単相のモノフィラメントを得た。
【0034】
比較例3
実施例4で用いたポリアミド6のみを用い、溶融紡糸し、延伸倍率4.2倍、弛緩率4%にて直径0.4mmの円形断面の単相のモノフィラメントを得た。
【0035】
比較例4
芯部に実施例4で使用したポリアミド6を配し、鞘部に実施例4で使用したポリアミド系エラストマーを配するようにして、芯部と鞘部の体積比を1/1として複合紡糸した。延伸を試みたがローラーやガイドの通過性が悪く、モノフィラメントを採取することができなかった。
【0036】
上記の実施例1~4及び比較例1~3で得られたモノフィラメントの評価結果を表1、表2に示す。
【0037】
【0038】
【0039】
実施例5
実施例3のモノフィラメントを用いて8本打ちの組紐を作製した。これを10グラム荷重下で熱風乾燥機に投入し、180℃で10分間の熱処理を施した。処理後の組紐はモノフィラメント間が融着しており、ハサミでカットしても組紐の組織は解れなかった。
【0040】
比較例5
比較例1のモノフィラメントを用いて8本打ちの組紐を作製した。これを10グラム荷重下で熱風乾燥機に投入し、180℃で10分間の熱処理を施した。処理後の組紐はモノフィラメント間の融着がないため、ハサミでカットした端面から組紐の組織を手で解すことができた。