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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】高周波基板用積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240201BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20240201BHJP
   B32B 15/088 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B32B15/08 J
H05K1/03 630D
H05K1/03 610N
B32B15/088
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019200790
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2020075500
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2022-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2018209176
(32)【優先日】2018-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】繁田 朗
(72)【発明者】
【氏名】吉田 猛
(72)【発明者】
【氏名】山田 祐己
(72)【発明者】
【氏名】竹内 耕
(72)【発明者】
【氏名】杉本 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】越後 良彰
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/114287(WO,A1)
【文献】特開2015-127118(JP,A)
【文献】特開2018-165346(JP,A)
【文献】特開2018-016793(JP,A)
【文献】特開2018-115156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C08J 5/00
H05K 1/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅箔上に形成されたポリイミド(PI)層の表面に未硬化のビスマレイミド(BMI)層が形成された積層体であって、PIは、熱膨張係数(CTE)が30ppm/K以下、誘電率が3.2以下の非熱可塑性芳香族PIであり、BMIは、脂肪族ジアミンをジアミン成分として用いたBMIであることを特徴とする高周波基板用積層体。
【請求項2】
脂肪族ジアミンが、炭素数10以上のアルキレン基を有するジアミンであることを特徴とする請求項1記載の高周波基板用積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電特性(誘電率)、耐熱性、寸法安定性、電気的特性等に優れた高周波基板用積層体に関するものである。この積層体から得られる基板は、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等に用いられる。
【背景技術】
【0002】
高周波帯域用のプリント回路やアンテナ等に用いられる高周波基板においては、例えば、非特許文献1に記載されているように、絶縁層の誘電特性を向上させることが有効である。このような高周波基板用積層体として、特許文献1には、ジアミン成分として、脂肪族ジアミンを用いたビスマレイミド(BMI)フィルムが銅箔上に形成された高周波基板用積層体が開示されている。しかしながら、ここに開示された基板を構成する絶縁層の熱膨張係数(CTE)は、100ppm/K程度と高いため、良好な寸法安定性が得られにくいという問題があった。また、特許文献2には、銅箔、脂肪族ジアミンを用いたBMIフィルム、ポリイミド(PI)フィルムがこの順に積層された積層体が開示されているが、PIフィルムの誘電特性(誘電率)が良好でないため、結果として、絶縁層全体の誘電特性が劣るという問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】日立化成テクニカルレポート No.59(2016-12月)18~19頁
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-131244号公報
【文献】国際公開2016-114287号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するものであり、誘電特性に優れ、かつ寸法安定性に優れた高周波基板が得られる積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、高周波基板において、銅箔上に、特定のPI層とBMI層とが特定の順に積層された絶縁層を形成することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に至った。
【0007】
本発明は、以下を趣旨とするものである。
<1> 銅箔上に形成されたPI層の表面に未硬化のBMI層が形成された積層体であって、PIは、CTEが30ppm/K以下、誘電率が3.2以下の非熱可塑性芳香族ポリイミド(以下、「A-PI」と略記することがある)であり、BMIは、脂肪族ジアミンをジアミン成分として用いたビスマレイミド(以下、「D-BMI」と略記することがある)であることを特徴とする高周波基板用積層体。
<2> 脂肪族ジアミンが、炭素数10以上のアルキレン基を有するジアミンであることを特徴とする前記高周波基板用積層体。
この積層体のD-BMI層どうしを熱圧着することにより、D-BMIが熱硬化され、銅箔が絶縁層の両面に配置された高周波基板(以下、「FCCL」と略記することがある)とすることができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明の積層体を用いて得られるFCCLは、誘電特性に優れ、かつ寸法安定性に優れる。従い、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等の基板として好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0010】
本発明の高周波基板用積層体は、非熱可塑性であり、CTEが30ppm/K以下、誘電率が3.2以下であるA-PI層が銅箔上に形成されていることが必要である。A-PIは非熱可塑性PIであることが必要である。ここで、非熱可塑性のPIとは、250℃以下の温度では、加熱しても溶融または軟化しないPIをいう。A-PI層のCTEは、25ppm/K以下とすることが好ましく、20ppm/K以下とすることがより好ましい。また、A-PI層の誘電率は、3.1以下とすることが好ましい。ここで、CTEは、例えば、下記のような条件で、TMAを測定することにより、確認することができる。すなわち、充分に乾燥させた積層フィルムを試料とし、熱機械特性分析装置(TMA、TAインスツルメント社製TMA2940)を用い、5℃/minの定速昇温、30mNの引張りモードにて窒素中20℃から昇温させ、100℃~250℃の間での寸法変化量を測定することにより、確認することができる。また、誘電率は、例えば、下記のような方法で、確認することができる。すなわち、充分に乾燥させた積層フィルムを試料とし、片面に円盤共振器を作成し、ネットワークアナライザ(アジレントテクノロジー社製)を用い、10GHzで、誘電率を測定することにより確認することができる。なお、誘電率の測定において、得られた数値の小数点2桁目以下は四捨五入する。
【0011】
A-PI層は、銅箔上に、A-PI前駆体であるポリアミック酸(以下、「A-PAA」と略記することがある)溶液を塗布、乾燥、熱硬化(熱イミド化)することにより形成することができる。
【0012】
A-PAA溶液は、例えば、含窒素極性溶媒中、芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとを略等モルになるように配合し、10~70℃で重合反応させ、均一溶液として得ることができる。ここで略等モルとは、例えば、芳香族テトラカルボン酸二無水物1モルに対し、芳香族ジアミンが0.95~1.05モルであることをいう。
【0013】
A-PAAは、例えば、無水フタル酸、シクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-メチルシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸無水物、シクロヘキサン-1,3-ジカルボン酸無水物、1,2,3,6-テトラヒドロ無水フタル酸、無水マレイン酸、無水こはく酸等のジカルボン酸無水物系末端封止剤を用いて末端封止することができる。
【0014】
A-PAAは、また、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、メチルシクロヘキシルアミン等のモノアミン系末端封止剤を用いて末端封止することができる。
【0015】
含窒素極性溶媒としては、アミド系溶媒、尿素系溶媒が好ましい。アミド系溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)を挙げることができる。尿素系溶媒としては、例えば、テトラメチル尿素、ジメチルエチレン尿素を挙げることができる。含窒素極性溶媒は、これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、DMAcおよびNMPが好ましい。
【0016】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、4,4′-オキシジフタル酸二無水物、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等のテトラカルボン酸二無水物を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、BPDAが好ましい。
【0017】
芳香族ジアミンの具体例としては、4,4′-ジアミノ-2,2′-ビス(トリフルオロメチル)ビフェニル(TFMB)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン(F-BAPP)、p-フェニレンジアミン(PDA)、4,4′-ジアミノジフェニルエーテル(ODA)、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、m-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、4,4′-ジアミノビフェニル、3,3′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフォン、4,4′-ジアミノジフェニルスルフィド、4,4′-ジアミノジフェニルメタン、3,4′-ジアミノジフェニルエーテル、3,3′-ジアミノジフェニルエーテル、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4′-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルフォン等のジアミンを挙げることができる。 これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、TFMB、F-BAPP、BAPP、PDAが好ましい。
【0018】
前記した芳香族テトラカルボン酸二無水物と芳香族ジアミンとの組み合わせを選択することにより、A-PI層のA-PIを非熱可塑性とし、そのCTEを30ppm/K以下、誘電率を3.2以下とすることができる。なお、前記した芳香族ジアミンの1~30モル%は、後述する脂肪族ジアミンで置換されていてもよい。このようにすることにより、より低誘電率のA-PIとすることができる。
【0019】
本発明の高周波基板用積層体は、前記のようにして銅箔上に形成されたA-PI層上に、未硬化のD-BMI層が形成されたものである。D-BMI層は、D-BMI溶液をA-PI層上に塗布、乾燥することにより形成することができる。
【0020】
D-BMIは、溶媒中で、酸触媒下、脂肪族ジアミンまたは「イミド延長された脂肪族ジアミン」と、無水マレイン酸とを反応させて、D-BMI溶液を得た後、これを精製、必要に応じ単離することにより得ることができる。ここで「イミド延長されたジアミン」とは、テトラカルボン酸二無水物と、過剰量の脂肪族ジアミンとを反応させて脱水閉環した「両末端にアミノ基を有するポリイミドまたはオリゴイミド」のことである。テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、ピロメリット酸二無水物(PMDA)、3,3′,4,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、2,3,3′,4′-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3′,4,4′-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4′-オキシジフタル酸二無水物(ODPA)、 2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物(BDCP)、3,3′,4,4′-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物等を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、PMDA、BPDAが好ましい。
【0021】
ここで用いられる脂肪族ジアミンとしては、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(アミノメチル)ノルボルナン、3(4),8(9)-ビス(アミノメチル)トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン)、1,4-ジアミノブタン、1,10-ジアミノデカン(10-DA)、1,12-ジアミノドデカン(12-DA)、1,7-ジアミノヘプタン、1,6-ジアミノヘキサン、1,5-ジアミノペンタン、1,8-ジアミノオクタン、1,3-ジアミノプロパン、1,11-ジアミノウンデカン、1,16-ヘキサデカメチレンジアミン、2-メチル-1,5-ジアミノペンタン、ダイマジアミン(DDA)を挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中で、10-DA、12-DA、DDAが好ましい。
なお、DDAは、炭素数24~48のダイマ酸から誘導される脂肪族ジアミンであり、「プリアミン1074、同1075」(クローダジャパン社製の商品名)、「バーサミン551、同552」(コグニスジャパン社製の商品名)等の市販品を用いることができる。
【0022】
DDAを用いたD-BMIは、例えば、米国法定発明登録H424号、特表平10-505599号公報等に開示されている。また、「イミド延長されたDDA」を用いたD-BMIは特開2012-117070号公報等に開示されている。
これらD-BMIは、Designer Molecules Inc.(以下、「DMI社」と略記することがある)から、BMI-689、BMI-1500、BMI-1700、BMI-3000等の品番で市販されており、これらの市販品を用いることもできる。
【0023】
D-BMI溶液には、D-BMIの硬化を促進するための触媒を、D-BMIの質量に対して0.05~5質量%配合することが好ましい。このような硬化促進剤としては、ラジカル重合開始剤またはアニオン重合開始剤を用いることができる。 ラジカル重合開始剤の具体例としては、ジクミルパーオキサイド、ジベンゾイルパーオキサイド、2-ブタノンパーオキサイド、tert-ブチルパーベンゾエイト、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルパーオキシ)ヘキサン、ビス(tert-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、tert-ブチルヒドロパーオキシド、2,2′-アゾビス(2-メチルプロパンニトリル)、2,2′-アゾビス(2-メチルブタンニトリル)、1,1′-アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)等を挙げることができる。アニオン重合開始剤の具体例としては、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、l-ベンジル-2-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウム-トリメリテート、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン等を挙げることができる。
【0024】
D-BMI溶液には、D-BMIの耐熱性、剛性等の特性を向上させるため、フィラを配合することができる。フィラとしては、粒子状のフィラやコロイダル状のフィラを用いることができる。粒子状のフィラは、その平均粒径を0.1μm以上、10μm以下とすることが好ましい。また、コロイダル状のフィラは、その平均粒径を5nm以上、100nm以下とすることが好ましい。ここで、平均粒径は、粒子状のフィラの場合はレーザー回折散乱法で、コロイダル状のフィラの場合は窒素吸着法で測定して確認することができる。このようなフィラとしては、シリカ、アルミナ、酸化チタン、マイカ、ベリリア、チタン酸バリウム、チタン酸カリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、炭酸アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素、焼成クレー、タルク、ホウ酸アルミニウム、炭化ケイ素等を挙げることができる。これらは1種類を単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。これらの中では、誘電特性にすぐれたシリカが好ましい。フィラは、D-BMIとの密着性を向上させるため、その表面をシランカップリング剤で処理してもよい。フィラの配合量としては、D-BMI溶液中の固形分全量に対し、10~80質量%とすることが好ましい。
【0025】
本発明の高周波基板用積層体は、例えば、以下のような方法で得ることができる。
すなわち、先ず、銅箔上に、A-PAA溶液を塗布、100~150℃で乾燥後、形成されたA-PAA被膜を200℃以上の温度で熱硬化(熱イミド化)する。しかる後、形成されたA-PI被膜上に、前記したD-BMI溶液を塗布、130~150℃で乾燥することにより、未硬化のD-BMI層が銅箔上のA-PI層の表面に形成された、本発明の高周波基板用積層体を得ることができる。
【0026】
銅箔の厚みは、特に限定されるものではないが、5μm以上、20μm以下のものが好ましい。
銅箔は、化学的あるいは機械的な表面処理が施されていてもよい。化学的な表面処理としては、ニッケルメッキ、銅-亜鉛合金メッキ等のメッキ処理、アルミニウムアルコラート、アルミニウムキレート、シランカップリング剤等の表面処理剤による処理などが挙げられ、シランカップリング剤による表面処理が好ましい。シランカップリング剤としては、アミノ基を有するシランカップリング剤が好適に使用できる。一方、機械的な表面処理としては、粗面化処理などが挙げることができる。
【0027】
本発明の高周波基板用積層体において、D-BMI層とA-PI層との合計厚みは、特に限定されるものではないが、3μm以上、100μm以下とすることが好ましい。
また、D-BMI層とA-PI層との厚み比率は、D-BMI層の厚みを、両層の合計厚みの1~60%とすることが好ましく、5~40%とすることがより好ましい。
【0028】
本発明の高周波基板用積層体のD-BMI層どうしを熱圧着することにより、D-BMIが熱硬化され、銅箔が絶縁層の両面に配置されたFCCLとすることができる。 熱圧着の条件としては、温度180~220℃、圧力2~6MPaとすることが好ましい。
【0029】
熱硬化したD-BMI層の誘電率は、3.1以下とすることが好ましく、2.9以下とすることがより好ましい。本発明の高周波基板用積層体においては、BMIを、DDAを用いたBMI(D-BMI)としているので、容易にこのような低誘電率とすることができる。また、A-PI層は、前記したように、誘電率が3.2以下という低誘電率のA-PIとしているので、A-PI層とD-BMI層とからなる積層体とした際、絶縁層全体の誘電率を低減することができ、良好な誘電特性を確保することができる。FCCLにおける絶縁層全体の誘電率は、3.1以下とすることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。
【0030】
このFCCLは、また、絶縁層を形成するA-PIが、CTEが30ppm/K以下という低CTEのA-PIとしているので、FCCLとした際に良好な寸法安定性を確保することができる。FCCLにおける絶縁層全体のCTEは、30ppm/K以下とすることが好ましく、25ppm/K以下とすることがより好ましい。
【実施例
【0031】
以下、実施例に基づき本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0032】
<参考例1>
(A-PI層の作成-1)
ガラス製反応容器に、窒素ガス雰囲気下、ジアミン成分としてTFMB:0.6モル、テトラカルボン酸二無水物成分としてBPDA:0.6モル、溶媒としてNMPを仕込み、攪拌下、40℃で10時間反応させることにより、固形分濃度が18質量%の均一なA-PAA溶液を得た。
厚み18μmの電解銅箔(古河電工社製F2WS)上に、硬化後のA-PI層の厚みが17μmとなるようにA-PAA溶液を塗布し、しかる後、窒素ガス雰囲気下、130℃で20分乾燥することにより、銅箔上にA-PAA被膜を形成した。次に、窒素ガス雰囲気下、徐々に昇温後、350℃で60分処理して、熱硬化することによりA-PAAをA-PIに転換し、銅箔上にA-PI層(A-1)が形成された積層体を得た。この積層体から銅をエッチングして除去することにより得られたA-PI層のCTEは13.6ppm/K、誘電率は、3.1であり、非熱可塑性であった。
【0033】
<参考例2>
(A-PI層の作成-2)
ジアミン成分を「FBAPP:0.1モルとTFMB:0.5モルとからなる混合物」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-2)を得た。
このA-PI層のCTEは19.2ppm/K、誘電率は、3.0であり、非熱可塑性であった。
【0034】
<参考例3>
(A-PI層の作成-3)
ジアミン成分を「DBDA:0.56モルとDDA:0.04モルの混合物」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-3)を得た。
このA-PI層のCTEは22.6ppm/K、誘電率は、3.2であり、非熱可塑性であった。
【0035】
<参考例4>
(A-PI層の作成-4)
ジアミン成分を「PDA:0.6モル」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-4)を得た。
このA-PI層のCTEは9.5ppm/K、誘電率は、3.7であり、非熱可塑性であった。
【0036】
<参考例5>
(A-PI層の作成-5)
ジアミン成分を「ODA:0.6モル」としたこと以外は、参考例1と同様にして、A-PI層(A-5)を得た。
このA-PI層のCTEは35.4ppm/K、誘電率は、3.6であり、非熱可塑性であった。
【0037】
<参考例6>
(D-BMI溶液の作成-1)
D-BMI溶液として、DMI社から市販されているBMI-3000を準備した。このBMIはジアミン成分として、PMDAによりイミド延長されたDDAを用いたD-BMIである。これをソルベントナフサ(沸点:150~185℃)に溶解して、攪拌下、155℃で30分加熱後、トルエンで希釈することにより、固形分濃度が50質量%のD-BMI溶液を得た。この溶液にジクミルパーオキサイドを、BMIに対し、1.5質量%配合することにより、均一な塗布用D-BMI溶液(D-1)を得た。
【0038】
<参考例7>
(D-BMI溶液の作成-2)
特開2012-117070号公報、実施例1の記載に基づき、以下のようにして、D-BMI溶液を調製した。 すなわち、反応容器に、250mlのトルエン、0.35モルのトリエチルアミン、0.36モルのメタンスルホン酸を加えて混合した。 次に、0.11モルのプリアミン1075(クローダジャパン社製のDDAで分子量は550)および0.05モルのPMDAを、撹拌しつつ加えた。ディーンスタークトラップとコンデンサとを反応容器に取り付け、混合物を2時間還流して、イミド化による生成する水を系外に除去することにより得られた反応混合物を、室温に冷却し、0.13モルの無水マレイン酸を反応容器に加え、続いて0.05モルのメタンスルホン酸を加えた。混合物を、さらに15時間還流し、マレイミド化による生成する水を反応系外に除去した。 得られた溶液を大量のメタノールに加え、濾過、洗浄、乾燥することにより、D-BMIを固形物として単離した。しかる後、トルエンとNMPとからなる混合溶媒(混合比率は、質量比で、トルエン/NMP=20/80)に再溶解し、この溶液を、攪拌下、160℃で2時間加熱することにより、固形分濃度が50質量%の均一な塗布用D-BMI溶液(D-2)を得た。
【0039】
<参考例8>
(D-BMI溶液の作成-3)
DDAをDA-12とし、PMDAをBPDAとしたこと以外は、参考例7と同様にして、固形分濃度が50質量%の均一な塗布用D-BMI溶液(D-3)を得た。
【0040】
<参考例9>
(D-BMI溶液の作成-4)
DDAをDA-10とし、PMDAをBPDAとしたこと以外は、参考例7と同様にして、固形分濃度が50質量%の均一な塗布用D-BMI溶液(D-4)を得た。
【0041】
<実施例1>
参考例1で作成したA-1層上に、D-1溶液を、A-PI層に塗布し、130℃で15分乾燥することにより未硬化のD-BMI層(厚み:3μm)がA-PI層上に積層された積層フィルムを得た。
このフィルムのD-BMI層面どうしを180℃、4MPa、60分の条件で熱圧着することにより、銅箔/A-1層/D-1層/A-1層/銅箔がこの順に積層されたFCCL(両面板)を得た。このFCCLから銅箔をエッチングにより除去した後、積層フィルム(L-1)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0042】
<実施例2>
D-BMI層をD-2層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-2)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0043】
<実施例3>
D-BMI層をD-3層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-3)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0044】
<実施例4>
D-BMI層をD-4層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-4)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0045】
<実施例5>
A-PI層をA-2層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-5)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0046】
<実施例6>
A-PI層をA-3層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-6)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0047】
<比較例1>
A-PI層をA-4層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-7)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0048】
<比較例2>
A-PI層をA-5層としたこと以外は、実施例1と同様にして、D-BMI層とA-PI層とからなる積層フィルム(L-8)を得た。この積層フィルムの誘電率、CTEを表1に示した。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例で示したように、本発明の積層体から得られたFCCLを構成する絶縁フィルムは、誘電率が低く.かつCTEも低いことが判る。 これに対し、比較例で得られた絶縁フィルムは、誘電率またはCTEの少なくとも一方が、良好な特性を有していないことが判る。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の積層体を用いて得られるFCCLは、誘電特性、寸法安定性に優れる。従い、高周波帯域用のプリント回路やアンテナ基板等の基板として好適に用いることができる。