(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】密封部材用ゴム組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 21/00 20060101AFI20240201BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20240201BHJP
C08K 5/1545 20060101ALI20240201BHJP
C08K 5/353 20060101ALI20240201BHJP
C08J 3/20 20060101ALI20240201BHJP
F16J 15/10 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/04
C08K5/1545
C08K5/353
C08J3/20 C CEQ
F16J15/10 Y
(21)【出願番号】P 2020002676
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000225359
【氏名又は名称】内山工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】河合 涼
(72)【発明者】
【氏名】戸田 大介
(72)【発明者】
【氏名】片山 竜雄
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-162778(JP,A)
【文献】特開平06-025497(JP,A)
【文献】特開2008-095100(JP,A)
【文献】特開2011-138985(JP,A)
【文献】特開平11-087784(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C08J 3/00-3/28
F16J 15/00-15/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム(A)100質量部に対して、
紫外線照射により発光する蛍光色素を含む発光剤(B)を0.2~3質量部、及びカーボンブラック(C)を1~200質量部含み、機械内部に組み付けられる密封部材に用いられる
密封部材用ゴム組成物であって、前記密封部材が組み付けられる機械内部において、紫外線照射して前記密封部材が発光することを特徴とする密封部材用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ゴム(A)が、アクリルゴム(ACM)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレンアクリルゴム(AEM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)及びフッ素ゴム(FKM)からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1に記載の密封部材用ゴム組成物。
【請求項3】
前記発光剤(B)が、
クマリン系化合物及びオキサゾール系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光色素を含む請求項1又は2に記載の密封部材用ゴム組成物。
【請求項4】
エンジン回りに組み付けられる請求項1~3のいずれかに記載の密封部材用ゴム組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載のゴム組成物を加硫成形してなる密封部材。
【請求項6】
密封部材用ゴム組成物の製造方法であって、
発光剤(B)と有機溶剤(D)とを混合して混合液(E)を得る混合工程と、
ゴム(A)に対して、カーボンブラック(C)及び混合液(E)をゴム(A)100質量部に対して発光剤(B)が0.2~3質量部含まれるように混練する混練工程とを有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の密封部材用ゴム組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項5に記載の密封部材の組み付けを確認する品質管理方法であって、
前記密封部材が組み付けられる機械内部において、紫外線照射して前記密封部材が発光することにより組み付けの有無を確認することを特徴とする品質管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封部材用ゴム組成物及びその製造方法に関する。また、当該ゴム組成物を加硫成形してなる密封部材、さらに当該密封部材の組み付けを確認する品質管理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄光顔料や蛍光色素を配合したゴム組成物が知られている。特許文献1には、ゴム成分および畜光顔料を含む畜光性ゴム組成物であって、前記ゴム成分がブタジエンゴムを少なくとも20重量%含み、前記畜光顔料が、SrAl2O4:Eu,Dy、Sr4Al14O25:Eu,Dy、CaAl2O4:Eu,Nd、およびこれらの組み合わせからなる群から選択され、前記ゴム成分100重量部に対して15~28重量部の前記畜光顔料を含む、畜光性ゴム組成物が記載されている。これによれば、弾性、安定性、耐久性、耐候性などの物理的特性に加えて、優れた発光輝度および残光特性を有する畜光性ゴム製品を提供することができるとされており、また、当該畜光性ゴム組成物において、ゴム成分は少なくとも20重量%のブタジエンゴムを含み、畜光性ゴム製品に透明性を付与することができ、畜光性ゴム製品を白色とすることができ、しかも発光輝度および残光特性をさらに高めることができるとされている。特許文献2には、タイヤのサイドウォール部の表面の少なくとも一部に、クマリン系化合物を含む非黒色ゴムシートを配置したことを特徴とする空気入りタイヤが記載されている。これによれば、該非黒色ゴムシートにクマリン系化合物を配合したので、意匠性に優れ、サイドウォール部と非黒色ゴムシートとの強固な接着が可能となり、耐劣化性に優れ、ホワイトゴムの削りすぎを防止できるとともに、香気も発散可能な空気入りタイヤを提供することができるとされている。また、特許文献3には、ゴム成分に対して、蛍光増白剤、カーボンブラック、及び老化防止剤を配合したタイヤ用ゴム組成物であって、前記蛍光増白剤が2,5-ビス(5-tert-ブチル-2-ベンゾオキサゾリル)チオフェンであり、前記ゴム成分100質量部に対する前記カーボンブラックの含有量が10~100質量部であるタイヤ用ゴム組成物が記載されている。これによれば、良好な耐オゾン性を得ながら、タイヤ表面の変色を抑制できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-31114号公報
【文献】特開2015-105084号公報
【文献】特許第6068951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のように、蓄光顔料を含む畜光性ゴム組成物は、優れた発光輝度を有するとされているが、同時に残光特性を有するため任意のタイミングで発光させたり消光させたりすることが困難であり、このような蓄光性ゴム組成物では不必要な場面で発光が生じる場合があった。特許文献2には、タイヤのサイドウォール部の表面にクマリン系化合物を含む非黒色ゴムシートを配置することが記載されているが、前記非黒色とは、カーボンブラックのような黒色充填剤を含まないことを意味すると定義されていることから、カーボンブラックが含まれる構成を排除したものである。そして、特許文献2に記載のタイヤは、優れた意匠性、サイドウォール部と非黒色ゴムシートとの強固な接着、優れた耐劣化性等を付与することを目的とするものであった。一方、特許文献3には、タイヤのゴム成分に、蛍光増白剤、カーボンブラック及び老化防止剤を配合することが記載されているが、耐オゾン性を得ながらタイヤ表面の変色を抑制することを目的とするものであった。
【0005】
このように、特許文献1~3には、カーボンブラックと発光剤とが配合されたゴム組成物を機械内部に組み付けられる密封部材に用い、任意のタイミングで発光させ組み付け確認するという技術思想はなかった。エンジン周り等の機械内部で使用される密封部材には、通常、カーボンブラックが含まれるゴム成形品が使用されるが、黒色の密封部材が他の部品の影となって組み付け確認を行う際の視認性に課題があり、かかる課題を解決することのできる密封部材用ゴム組成物が求められていた。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、機械内部に組み付けられる密封部材を任意のタイミングで視認性良く発光させることが可能となり、発光ムラがなく均一に発光するため、組み付け確認が容易となる密封部材用ゴム組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題は、ゴム(A)100質量部に対して、発光剤(B)を0.2~3質量部、及びカーボンブラック(C)を1~200質量部含み、機械内部に組み付けられる密封部材に用いられることを特徴とする密封部材用ゴム組成物を提供することによって解決される。
【0008】
このとき、前記ゴム(A)が、アクリルゴム(ACM)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレンアクリルゴム(AEM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)及びフッ素ゴム(FKM)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好適であり、前記発光剤(B)が、紫外線照射により発光する蛍光色素を含むことが好適である。エンジン回りに組み付けられる密封部材用ゴム組成物であることが好適な実施態様であり、前記ゴム組成物を加硫成形してなる密封部材も好適な実施態様である。
【0009】
また、上記課題は、密封部材用ゴム組成物の製造方法であって、発光剤(B)と有機溶剤(D)とを混合して混合液(E)を得る混合工程と、ゴム(A)に対して、カーボンブラック(C)及び混合液(E)をゴム(A)100質量部に対して発光剤(B)が0.2~3質量部含まれるように混練する混練工程とを有することを特徴とする密封部材用ゴム組成物の製造方法を提供することによって解決される。
【0010】
さらに、上記課題は、密封部材の組み付けを確認する品質管理方法であって、前記密封部材が組み付けられる機械内部において、紫外線照射して前記密封部材が発光することにより組み付けの有無を確認することを特徴とする品質管理方法を提供することによっても解決される。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、機械内部に組み付けられる密封部材を任意のタイミングで視認性良く発光させることが可能となり、発光ムラがなく均一に発光するため、組み付け確認が容易となる密封部材用ゴム組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の密封部材用ゴム組成物は、ゴム(A)100質量部に対して、発光剤(B)を0.2~3質量部、及びカーボンブラック(C)を1~200質量部含み、機械内部に組み付けられる密封部材に用いられることを特徴とする。そして、本発明の密封部材は、前記ゴム組成物を加硫成形してなるものである。
【0013】
本発明者らは、黒色の密封部材が他の部品の影となって組み付け確認を行う際の視認性に課題があることが分かり、かかる課題を鋭意検討したところ、発光剤(B)とカーボンブラック(C)をそれぞれ一定量含むゴム組成物とすることにより、機械内部に組み付けられる密封部材を任意のタイミングで視認性良く発光させることが可能となり、発光ムラがなく均一に発光するため、組み付け確認が容易となることが明らかとなった。後述する実施例から分かるように、ゴム(A)100質量部に対して、発光剤(B)の配合量が0.1質量部である比較例2では、目視で発光が微弱であり、組み付け確認が困難となる。また、ゴム(A)100質量部に対して、発光剤(B)の配合量が5質量部である比較例1では、目視で局所的に発光が強い部分があり、発光ムラがあるため、密封部材製品として使用できないことになる。このことは本発明者の検討によって明らかになったことであり、本発明の構成を採用する意義が大きいことが分かる。
【0014】
[ゴム(A)]
本発明で用いられるゴム(A)としては特に限定されないが、アクリルゴム(ACM)、エチレンアクリルゴム(AEM)等のアクリルゴム;ニトリルゴム(NBR)と水素化ニトリルゴム(HNBR)のニトリルゴム;クロロプレンゴム(CR);エチレンプロピレンゴム(EPDM);フッ素ゴム(FKM);等が挙げられる。中でも、アクリルゴム(ACM)、ニトリルゴム(NBR)、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレンアクリルゴム(AEM)、クロロプレンゴム(CR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)及びフッ素ゴム(FKM)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。耐熱性、耐薬品性、耐久性等の観点から、アクリルゴム(ACM)、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)及びフッ素ゴム(FKM)からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0015】
ゴム(A)に用いられるアクリルゴムとしては特に限定されず、アクリル酸エステルを主成分とするゴムであればよい。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチルなどが好適に用いられる。アクリル酸エステルと共重合させる単量体としては、アクリロニトリル、エチレンなどが例示される。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル及びアクリル酸メトキシエチルから選択される2種以上のアクリル酸エステル及び架橋性モノマーを共重合してなるアクリルゴム(ACM)や、アクリル酸メチル、エチレン及び架橋性モノマーを共重合してなるアクリルゴム(AEM)などが好適に用いられる。AEMとしては、デュポン社の「VAMAC」(登録商標)などが入手可能である。本発明の趣旨を阻害しない範囲であれば、他の共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいても構わないが、通常その含有量は10質量%以下であり、好適には5質量%以下である。
【0016】
ゴム(A)に用いられるニトリルゴムは特に限定されず、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンの共重合体を用いることができる。重合後の1,3-ブタジエン単位に残存する二重結合への水素添加は任意である。水素添加されていないニトリルゴム(NBR)と水素添加されたニトリルゴム(HNBR)を好適に用いることができる。ニトリルゴム中のアクリロニトリル単位の含有量は、15~50質量%であることが好ましい。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、他の共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいても構わないが、通常その含有量は10質量%以下であり、好適には5質量%以下である。
【0017】
ゴム(A)に用いられるクロロプレンゴム(CR)は特に限定されず、2-クロロ-1,3-ブタジエンを主成分とするゴムであればよい。2-クロロ-1,3-ブタジエンは単独で重合しても、2-クロロ-1,3-ブタジエンと他の単量体とが共重合していてもよい。他の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸メトキシエチルなどのアクリル酸エステルが好適に用いられる。他の単量体の含有量は、通常、10質量%以下であり、好適には5質量%以下である。
【0018】
ゴム(A)に用いられるエチレンプロピレンゴム(EPDM)は特に限定されず、エチレンとプロピレンとジエン化合物との共重合体を用いることができる。EPDMに含まれるジエン化合物としては、エチリデンノルボルネン(ENB)、1,4-ヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等が挙げられる。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、他の共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいても構わないが、通常その含有量は10質量%以下であり、好適には5質量%以下である。
【0019】
ゴム(A)に用いられるフッ素ゴム(FKM)は特に限定されず、フッ化ビニリデン(VDF)とヘキサフルオロプロピレン(HFP)との共重合体、VDFとトリクロロフルオロエチレン(CTFE)との共重合体、VDFとHFPとテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体、TFEとプロピレンとの共重合体、TFEと含フッ素ビニルエーテルとの共重合体、炭化水素系ジエン単量体と含フッ素単量体との共重合体などが例示される。中でも、VDFとHFPとテトラフルオロエチレン(TFE)との共重合体である三元系フッ素ゴムが好適に用いられる。本発明の効果を阻害しない範囲であれば、他の共重合可能な単量体由来の構成単位を含んでいても構わないが、通常その含有量は10質量%以下であり、好適には5質量%以下である。
【0020】
[発光剤(B)]
本発明で用いられる発光剤(B)としては、紫外線領域又は可視光領域の光を吸収して発光する蛍光色素であれば特に限定されないが、蓄光顔料を除くものである。残光特性を有する蓄光顔料は任意のタイミングで発光させたり消光させたりすることが困難であるため好ましくない。中でも、紫外線照射により発光する蛍光色素が好ましい。発光剤(B)に用いられる前記蛍光色素としては、クマリン系化合物、オキサゾール系化合物、アゾ系化合物、アントラキノン系化合物、アントラセン系化合物、オキサジン系化合物、キサンテン系化合物、キナクリドン系化合物、シアニン系化合物、スチルベン系化合物、チアゾール系化合物、ピリジン系化合物、ピレン系化合物、フタロシアニン系化合物、ペリレン系化合物、フルオレセイン系化合物、ローダミン系化合物等が挙げられる。中でも、有機溶剤(D)に溶けやすい観点から、クマリン系化合物、及びオキサゾール系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の蛍光色素が好適に用いられる。
【0021】
本発明で用いられる発光剤(B)の配合量は、ゴム(A)100質量部に対して、発光剤(B)が0.2~3質量部である。発光剤(B)の配合量が前記範囲であることにより、機械内部に組み付けられる密封部材を任意のタイミングで視認性良く発光させることが可能となり、発光ムラがなく均一に発光するため、組み付け確認が容易となることが明らかとなった。発光剤(B)の配合量が0.2質量部未満の場合、発光が弱く、目視で組み付け確認が困難であり、0.3質量部以上であることが好ましく、0.4質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。一方、発光剤(B)の配合量が3質量部を超える場合、ゴム組成物における分散性が良くなく発光ムラが生じてしまい、2.8質量部以下であることが好ましく、2.5質量部以下であることがより好ましく、2.2質量部以下であることがさらに好ましく、1.8質量部以下であることが特に好ましく、1.5質量部以下であることが最も好ましい。
【0022】
[カーボンブラック(C)]
本発明で用いられるカーボンブラック(C)としては、特に限定されず、FEF、SRF、SAF、ISAF、HAF、MAF、GPF、FT、MT等を用いることができる。中でも、性能とコストのバランスの点から、MAF及びMTからなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。
【0023】
本発明で用いられるカーボンブラック(C)の配合量は、ゴム(A)100質量部に対して、カーボンブラック(C)が1~200質量部である。カーボンブラック(C)の配合量が前記範囲であることにより、発光剤(B)と組み合わせて視認性の良好な密封部材用ゴム組成物を得ることができる。カーボンブラック(C)の配合量が1質量部未満の場合、硬度が不十分となり、10質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、25質量部以上であることがさらに好ましい。一方、カーボンブラック(C)の配合量が200質量部を超える場合、視認性良く発光させることが困難となり、成形性も悪くなり、180質量部以下であることが好ましく、160質量部以下であることがより好ましく、150質量部以下であることがさらに好ましく、130質量部以下であることが特に好ましい。
【0024】
また、本発明の密封部材用ゴム組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、ゴム(A)、発光剤(B)及びカーボンブラック(C)以外の成分を含んでいても構わない。ゴム組成物において通常使用される、加硫剤、加硫促進剤、加硫助剤、老化防止剤、加工助剤、受酸剤、着色剤、フィラー、可塑剤などの各種添加剤を含むことができる。
【0025】
本発明の密封部材用ゴム組成物の製造方法としては特に限定されないが、発光剤(B)と有機溶剤(D)とを混合して混合液(E)を得る混合工程と、ゴム(A)に対して、カーボンブラック(C)及び混合液(E)をゴム(A)100質量部に対して発光剤(B)が0.2~3質量部含まれるように混練する混練工程とを有することが好適な実施態様である。発光剤(B)と有機溶剤(D)とを混合して混合液(E)を得る混合工程を行ってから、前記混合液(E)とカーボンブラック(C)をゴム(A)100質量部に対して発光剤(B)が0.2~3質量部含まれるように混練する混練工程を行うことにより、機械内部に組み付けられる密封部材を任意のタイミングで視認性良く発光させることが可能となり、発光ムラがなく均一に発光するため、組み付け確認が容易となる密封部材用ゴム組成物を好適に製造することができる。
【0026】
用いられる有機溶剤(D)としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;クロロベンゼン、o-ジクロロベンゼン、m-ジクロロベンゼン、ジクロロメタン、1,2-ジクロロエタン、1,1-ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒;ジエチルエーテル、メチルt-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;n-ペンタン、n-ヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、o-キシレン、m-キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン等のカーボナート系溶媒;ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。これらは1種を単独で、または2種以上を併用できる。中でも、ケトン系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、及び脂肪族炭化水素系溶媒からなる群から選択される少なくとも1種が好適に用いられる。クマリン系化合物等を容易に溶解させることが可能なため、メチルエチルケトン(MEK)からなる有機溶剤(D)とクマリン系化合物からなる発光剤(B)との組み合わせが本発明の好適な実施態様である。
【0027】
有機溶剤(D)の配合量としては特に限定されず、ゴム(A)100質量部に対して、有機溶剤(D)が0.01~20質量部であることが好ましい。有機溶剤(D)の配合量が0.01質量部未満の場合、ゴム組成物における発光剤(B)の分散性が良くなく発光ムラが生じてしまうおそれがあり、0.1質量部以上であることがより好ましく、0.5質量部以上であることがさらに好ましい。一方、有機溶剤(D)の配合量が20質量部を超える場合、ゴム物性が低下するおそれがあり、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましく、5質量部以下であることが特に好ましい。
【0028】
前記混練工程において、ゴム(A)に対して、カーボンブラック(C)と前記混合液(E)とを混練する方法は特に限定されないが、ロール、ニーダ、バンバリーミキサ、インターミキサ、押出機などを用いて混練することができる。中でも、ロール又はニーダを用いて混練することが好ましい。混練時のゴム組成物の温度は20~120℃とすることが好ましい。
【0029】
このようにして得られた密封部材用ゴム組成物を加硫成形することにより、密封部材を好適に得ることができる。加硫成形としては、予め成形した後に加硫させてもよいし、成形と同時に加硫させてもよい。また、成形と同時に加硫させ、その後さらに二次加硫させてもよい。成形方法としては、射出成形、押出成形、圧縮成形、トランスファー成形、ロール成形などが挙げられ、中でも、射出成形、圧縮成形、トランスファー成形が好適である。
【0030】
加硫方法としては特に限定されず、ゴム(A)に適した加硫方法を選択することができる。加硫方法としては、硫黄加硫、過酸化物加硫、アミン加硫などが挙げられる。硫黄加硫する際の加硫剤としては、硫黄や硫黄含有化合物が用いられる。また、過酸化物加硫する際の加硫剤としては有機過酸化物が用いられる。用いられる加硫剤の配合量としては、ゴム(A)100質量部に対して、加硫剤が0.1~10質量部であることが好ましい。
【0031】
機械内部に組み付けられる密封部材が他の部品の影となって組み付け確認を行う際の視認性に課題があるところ、本発明の密封部材用ゴム組成物により、任意のタイミングで視認性良く発光させることが可能となり、発光ムラがなく均一に発光するため、組み付け確認が容易となることが明らかとなった。したがって、他の部品の影となる、エンジン周りに組み付けられる密封部材用ゴム組成物に用いられることが好適な実施態様である。また、本発明の密封部材用ゴム組成物を加硫成形してなる密封部材は、上記説明したように組み付け確認が容易となるため、組み付けの有無を確認する品質管理に利用できる。したがって、密封部材の組み付けを確認する品質管理方法であって、前記密封部材が組み付けられる機械内部において、紫外線照射して前記密封部材が発光することにより組み付けの有無を確認する品質管理方法が好適な実施態様である。
【実施例】
【0032】
以下の実施例で使用した原料は以下の通りである。
【0033】
[原料]
・アクリルゴム(ACM):日本ゼオン株式会社製「NipolAR12」
・ニトリルゴム(NBR):アクリロニトリル/1,3-ブタジエン共重合体、JSR株式会社製「N237」
・エチレンプロピレンゴム(EPDM):JSR株式会社製「EP33」
・フッ素ゴム(FKM):ビニリデンフルオライド/テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体の三元系フッ素ゴム、ソルベイスペシャルティポリマーズジャパン株式会社製「TecnoflonP459」
・カーボンブラック:Cancarb社製「ThermaxN990」
・可塑剤:出光興産株式会社製「ダイアナプロセスオイルPW-380」
・クマリン系UV発光剤:日化株式会社製「ニッカフローMCT」
・オキサゾール系UV発光剤:日化株式会社製「ニッカフローEFS」
・加硫剤a:6-アミノヘキシルカルバミン酸、Dupont社製「Diak-1」
・加硫剤b:細井化学工業株式会社製「硫黄」
・加硫剤c:1,3‐ジ(t-ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、日油株式会社製「パーブチルP」
・加硫促進剤a:1,3-ジ-o-トリルグアニジン、大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーDT」
・加硫促進剤b:ジメチルジチオカルバミン酸亜鉛、大内新興化学工業株式会社製「ノクセラーPZ」
・共架橋剤:トリアリルイソシアヌレート、日本化成株式会社製「TAIC」
・有機溶剤a:出光興産株式会社製「MEK(メチルエチルケトン)」
・有機溶剤b:出光興産株式会社製「トルエン」
【0034】
本実施例で行った評価方法は以下の通りである。
[発光評価及び分散評価]
各実施例及び比較例で得られた加硫ゴムシートを縦15cm×横15cm×厚さ2mmのサイズに調整して暗室内に設置し、ブラックライト(日亜化学工業株式会社製「PW-UV343H-03L、ピーク波長375nm」)を用いて紫外線照射して、発光評価及び分散評価を下記の判定基準により行った。
・発光評価
〇:目視で発光が十分に確認できる
×:目視で発光が微弱である
・分散評価
〇:目視で全体的に均一な発光が確認できる
×:目視で局所的に発光が強い部分がある(発光ムラがある)
【0035】
実施例1
クマリン系UV発光剤1質量部と有機溶剤a1質量部とを混合して混合液を得て、アクリルゴム(ACM)100質量部に対して、前記混合液をカーボンブラック120質量部、可塑剤10質量部、加硫剤a1.5質量部及び加硫促進剤a1質量部とともに70℃でロールを用いて混練し、厚さ3mmの未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートをプレスを用いて180℃で5分間プレス加硫し、厚さ2mmの加硫ゴムシートを得た。得られた加硫ゴムシートを用いて、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0036】
実施例2
実施例1において、クマリン系UV発光剤を0.5質量部配合した以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0037】
実施例3
実施例1において、クマリン系UV発光剤の代わりにオキサゾール系UV発光剤を1質量部配合し、有機溶剤aの代わりに有機溶剤bを1質量部配合した以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0038】
実施例4
クマリン系UV発光剤1質量部と有機溶剤a1質量部とを混合して混合液を得て、ニトリルゴム(NBR)100質量部に対して、前記混合液をカーボンブラック90質量部、可塑剤10質量部、加硫剤b1質量部及び加硫促進剤b2質量部とともに70℃でロールを用いて混練し、厚さ3mmの未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0039】
実施例5
実施例4において、クマリン系UV発光剤を0.5質量部配合した以外は実施例4と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0040】
実施例6
クマリン系UV発光剤1質量部と有機溶剤a1質量部とを混合して混合液を得て、エチレンプロピレンゴム(EPDM)100質量部に対して、前記混合液をカーボンブラック100質量部、可塑剤10質量部、加硫剤c2質量部及び共架橋剤2質量部とともに70℃でロールを用いて混練し、厚さ3mmの未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0041】
実施例7
実施例6において、クマリン系UV発光剤を0.5質量部配合した以外は実施例6と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0042】
実施例8
クマリン系UV発光剤1質量部と有機溶剤a1質量部とを混合して混合液を得て、フッ素ゴム(FKM)100質量部に対して、前記混合液をカーボンブラック30質量部、加硫剤c1.5質量部及び共架橋剤3質量部とともに70℃でロールを用いて混練し、厚さ3mmの未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0043】
実施例9
実施例8において、クマリン系UV発光剤を0.5質量部配合した以外は実施例8と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0044】
比較例1
実施例1において、アクリルゴム(ACM)100質量部に対して、クマリン系UV発光剤を5質量部配合した以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0045】
比較例2
実施例1において、有機溶剤aを使用せず、アクリルゴム(ACM)100質量部に対して、クマリン系UV発光剤を0.1質量部配合した以外は実施例1と同様にして、未加硫ゴムシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを用いて、実施例1と同様にして加硫ゴムシートを作製し、発光評価及び分散評価を行った。得られた結果を表1に示す。
【0046】