(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】引戸装置
(51)【国際特許分類】
E05D 15/06 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
E05D15/06 125C
E05D15/06 119
(21)【出願番号】P 2020004024
(22)【出願日】2020-01-14
【審査請求日】2022-12-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000137959
【氏名又は名称】株式会社ムラコシ精工
(74)【代理人】
【識別番号】100167863
【氏名又は名称】大久保 恵
(72)【発明者】
【氏名】横山 辰朗
【審査官】秋山 斉昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平4-166582(JP,A)
【文献】実開昭50-69441(JP,U)
【文献】特開2003-278432(JP,A)
【文献】特開2002-339649(JP,A)
【文献】実開平4-108770(JP,U)
【文献】実開昭57-183363(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 15/00-15/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビネット本体に取り付けられた上ガイドレールと、前記上ガイドレールよりも手前側にオフセットした位置に配置された開閉扉とを備え、前記開閉扉は、前記上ガイドレールに向かって後方へ延びる上側取付部と、この上側取付部に取り付けられ、前記上ガイドレール上を開閉方向へ走行する移動ローラーとを有する引戸装置であって、
前記移動ローラーの位置で、前記上側取付部の上面と接触して前記上側取付部を引き上げる際の支点になるとともに、前記開閉扉と前記移動ローラーとの間の位置で、前記上側取付部を上側に引き上げ
て前記支点を中心に回動させることにより前記開閉扉の傾きを修正する引き上げ手段を設けたことを特徴とする引戸装置。
【請求項2】
前記引き上げ手段には、前記支点となる位置に引き上げ代調整ねじを設け、前記上側取付部の上面と前記引き上げ代調整ねじを接触させたことを特徴とする請求項1に記載の引戸装置。
【請求項3】
前記引き上げ手段は、前記上側取付部の上方に位置する引き上げ部と、前記開閉扉の走行に伴って移動する引き上げ用移動ローラーとを有し、前記引き上げ用移動ローラーの上下が規制されていることを特徴とする
請求項1または請求項2に記載の引戸装置。
【請求項4】
前記引き上げ用移動ローラーは、前記上ガイドレールよりも後側に配置され、前記上ガイドレールとは別体の補助ガイドレール上を開閉方向に移動することを特徴とする
請求項3に記載の引戸装置。
【請求項5】
前後方向において、前記引き上げ用移動ローラーから前記移動ローラーまでの距離が、前記開閉扉から前記移動ローラーまでの距離と同等かそれ以上であることを特徴とする
請求項4に記載の引戸装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビネット等に使用される引戸装置であって、特に、この引戸装置の開閉扉が上ガイドレールよりも利用者側にずらして配置されるものに関する。
【背景技術】
【0002】
建屋などに設けられるキャビネットは、その前面の開口に引戸装置が設けられ、この引戸装置の開閉扉を開閉方向(利用者から見て左右方向)に移動させることで、内部に物を収納または取り出すことができるものである。この開閉扉には、その上縁部に移動ローラーが設けられており、キャビネットの開口の上辺に配置された上ガイドレール上をこの移動ローラーが走行することによって開閉方向へ移動する。また、この開閉扉は、一般的には、上ガイドレールの真下に配置され、移動ローラーを介して上ガイドレールに吊り下げられる態様で取り付けられる。
【0003】
このような一般的な引戸装置では、開閉扉を開こうとする利用者側から上ガイドレールが見えてしまい、美観を損ねる。そのため、開閉扉を上ガイドレールの位置よりも利用者側(手前側)にずらして配置するとともに、開閉扉の上縁部を上側に延ばすことで、利用者側から上ガイドレール(または、キャビネットの天井部)が見えないように隠す構造の引戸装置もある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
引戸装置の開閉扉を利用者側にずらして配置した場合、開閉扉の自重と、移動ローラーから開閉扉までの距離とによってモーメントが発生し、このモーメントは開閉扉を傾けるように作用する。そのため、上記特許文献1の技術では、利用者側から見て奥行き方向に移動ローラーを2列に配置するとともに、この移動ローラーの下側および上側を上ガイドレールで受けるようにすることで、モーメントに抗して開閉扉が傾くのを防止している。
【0006】
しかしながら、特許文献1の技術では、上ガイドレールと移動ローラーの組立寸法や製造誤差に起因して、開閉扉が傾いて組み付けられてしまうことがあり、この傾きを修正したり、微調整することができない。この傾きがある状態のままでは、開閉動作が重くなったり、開閉動作時に異音が発生することもある。
【0007】
本発明は、上述した事情を鑑みてなされたものであり、その目的は、利用者側にずらして配置された開閉扉の傾きを微調整することができる引戸装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述課題を解決するため、本発明の引戸装置は、キャビネット本体に取り付けられた上ガイドレールと、前記上ガイドレールよりも手前側にオフセットした位置に配置された開閉扉とを備え、前記開閉扉は、前記上ガイドレールに向かって後方へ延びる上側取付部と、この上側取付部に取り付けられ、前記上ガイドレール上を開閉方向へ走行する移動ローラーとを有するものであって、前記移動ローラーの位置で、前記上側取付部の上面と接触して前記上側取付部を引き上げる際の支点になるとともに、前記開閉扉と前記移動ローラーとの間の位置で、前記上側取付部を上側に引き上げて前記支点を中心に回動させることにより前記開閉扉の傾きを修正する引き上げ手段を設けたことを特徴ことを特徴とする。
【0009】
また、前記引き上げ手段には、前記支点となる位置に引き上げ代調整ねじを設け、前記上側取付部の上面と前記引き上げ代調整ねじを接触させてもよい。
【0010】
さらに、前記引き上げ手段は、前記上側取付部の上方に位置する引き上げ部と、前記開閉扉の走行に伴って移動する引き上げ用移動ローラーとを有し、前記引き上げ用移動ローラーの上下が規制されるようにしてもよい。
【0011】
また、前記引き上げ用移動ローラーは、前記上ガイドレールよりも後側に配置され、前記上ガイドレールとは別体の補助ガイドレール上を開閉方向に移動するようにしてもよい。
【0012】
さらにまた、前後方向において、前記引き上げ用移動ローラーから前記移動ローラーまでの距離が、前記開閉扉から前記移動ローラーまでの距離と同等かそれ以上であってもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る引戸装置は、開閉扉と移動ローラーとの間の位置で、上側取付部を上側に引き上げる引き上げ手段を備えているので、開閉扉が傾いた状態のときであっても、上側取付部を引き上げることで、この傾きを修正または微調整することができる。これにより、開閉扉の開閉が重くなったり、開閉時の異音の発生などを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る引戸装置を具備するキャビネットであって、キャビネットの上部を斜め上側から見た拡大斜視図である。
【
図4】右側開閉扉を単体で示すものであって、開閉扉の上部を前斜め上側から見た拡大斜視図である。
【
図5】
図4の右側開閉扉を後斜め下側から見た拡大斜視図である。
【
図6】(A)は引き上げ手段を前斜め上側から見た斜視図、(B)は、前斜め下側から見た斜視図である。
【
図7】下ガイドレール部分を右側から見た拡大断面図である。
【
図8】開閉扉の傾きを調整していない状態を示す側部断面図である。
【
図9】
図8の状態から、傾き調整ねじを締めて調整した後の状態を示す側部断面図である。
【
図10】
図8の状態から傾き調整ねじを締めても、開閉扉の傾きがまだある状態を示す側部断面図である。
【
図11】
図8の状態から、引き上げ代調整ねじを用いて引き上げ代を長く確保した状態を示す側部断面図である。
【
図12】
図11の状態から、傾き調整ねじを締めて調整した後の状態を示す側部断面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る引戸装置Hについて、図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る引戸装置Hを具備するキャビネット1であって、キャビネット1の上部を斜め上側から見た拡大斜視図である。また、
図2は、
図1のX-X断面図、
図3は、
図1の状態から、補助ガイドレール20と引き上げ手段30とを分解した分解斜視図である。
【0016】
なお、本実施の形態で使用する前後、左右、上下方向とは、利用者が引戸装置Hを正面から見たときの方向をいい、
図1~
図3で示す方向をいうものとする。また、開閉扉3の開閉方向とは、左右方向をいうものとする。
【0017】
キャビネット1は、
図1~
図3に示すように、前面が開口する箱形状になっており、その前面の開口部に引戸装置Hが取り付けられている。この引戸装置Hは、主に
図2に示すように、2つの開閉扉3(左側開閉扉3a、右側開閉扉3b)と、この開閉扉3a、3bの上部の後側に配置され、この開閉扉3の上部を支持する上ガイドレール4と、この上ガイドレール4のさらに後側に取り付けられる補助ガイドレール20および引き上げ手段30とで構成されている。
【0018】
このキャビネット1の引戸装置Hは、一般的な引戸のように上ガイドレールの真下に開閉扉が配置されるものとは異なり、上ガイドレール4よりも手前側(利用者側)に開閉扉3bがオフセットした位置に配置されるものである。より詳細には、開閉扉3bの重心が上ガイドレール4よりも前側に位置し、上ガイドレール4の上を走行する移動ローラー12(詳細は後述する)に斜め方向に荷重が作用するタイプの引戸装置Hである。
【0019】
開閉扉3a、3bは、キャビネット1の前面の開口を2枚で覆うように取り付けられている。左側開閉扉3aは後側に位置し、右側開閉扉3bは左側開閉扉3aよりも前側に位置することで、左右に引き違いで開閉できるようになっている。
【0020】
左側開閉扉3aは、
図2に示すように、前後方向において上ガイドレール4と近い位置で取り付けることができるので、左側開閉扉3aに作用するモーメントは小さく、ほぼ傾きがない状態で取り付けることができる。一方、右側開閉扉3bは、上ガイドレール4から離れた位置で取り付けられるので、傾きが大きくなってしまう場合がある。本実施形態では、右側開閉扉3bにのみ、この傾きを調整可能な引き上げ手段30を設置している(詳細は後述する)。以下の説明では、右側開閉扉3bについて説明する。
【0021】
図4は、右側開閉扉3bを単体で示すものであって、右側開閉扉3bの上部を前斜め上側から見た拡大斜視図であり、
図5は、
図4の右側開閉扉3bを後斜め下側から見た拡大斜視図である。
【0022】
右側開閉扉3bは、その前面に位置するガラス等の透明板部材8と、この透明板部材8の周縁部が固定される枠部材9と、この枠部材9の上縁部から後側に向けて上ガイドレールの上部まで延在する上側取付部10とで構成されている。この上側取付部10は、
図4および
図5に示すように、右側開閉扉3bの左右方向の全長に亘って設けられている。
【0023】
上側取付部10の後側の端部には、下側段差部10aが形成されている。詳細には、上側取付部10の後側端部を下側に折り曲げると共に、さらにその先端部が略水平になるように折り返すことで、一段下側に水平な面が形成されている。
【0024】
この下側段差部10aには、
図5に示すように、3つのローラー部材11が左右の両端部および中央部に取り付けられている。また、このローラー部材11には、開閉扉3の開閉方向に回転可能な移動ローラー12がそれぞれ設けられている。
【0025】
ローラー部材11は、
図2(および、
図8~
図12参照)に示すように、移動ローラー調整ねじ11aを回すことで、移動ローラー12の高さを微調整できるようになっている。また、移動ローラー12の転動面には、円周方向の全周に亘って円弧状溝12aが連続して設けられている。
【0026】
また、上側取付部10の左右の両端部であって、下側段差部10aよりも前側には、
図4に示すように、2つのねじ穴10b、10bが設けられている。このねじ穴10bには、詳細は後述する傾き調整ねじ35が螺合するようになる。
【0027】
上ガイドレール4は、
図1および
図3に示すように、キャビネット本体2の天板2aの上に取り付けられており、キャビネット本体2の左右の側板2b、2b間に亘って連続して設けられている。なお、左右の側板2b、2bは、上ガイドレール4などがキャビネット1の側面側から見えないようにするために、天板2aよりも上側に延ばしてある。
【0028】
上ガイドレール4には、
図2(および、
図8~
図12参照)に示すように、ローラー部材11が載せられて転動する部分と、クローザー5が取り付けられる部分とが1対になって構成されており、左側開閉扉3a用の1対が上ガイドレール4の前側部分に設けられ、右側開閉扉3b用の1対が後側部分に設けられている。
【0029】
なお、上述したクローザー5は、開閉扉3a、3bを閉じた状態まで強制的に移動させる装置であり、ガイドレール上の所定の位置で被捕捉部材を補足し、ばねの付勢力によって開閉扉を強制的に移動させるものである。このクローザー5を設けることで、開閉扉3a、3bが半開きの状態のままで放置されるのを防止することができる。なお、このクローザー5は、従来から使用されている技術であるため、その詳細な構造についての説明は省略する。
【0030】
このクローザー5は、上述した被捕捉部材を捕捉する際に、開閉扉3a、3bが傾いた状態で開閉されると、動作が不安定になる場合がある。そのため、クローザー5を安定して動作させるために、開閉扉3a、3bが傾いていない状態を維持することが好ましい。なお、引戸装置Hでは、クローザー5の機能を必要としない場合には、当然に、このクローザー5を設けないで構成することもできる。
【0031】
上ガイドレール4のローラー部材11が載せられて転動する部分には、
図2(および、
図8~
図12参照)に示すように、上側に向けて突出する円弧状突部4aが形成されている。この円弧状突部4aには、移動ローラー12の円弧状溝12aが円周面上で接するようにして取り付けられる。これにより、移動ローラー12が開閉方向へ移動するときに開閉扉3を傾ける荷重が作用したとしても、移動ローラー12が傾いた姿勢のままで円弧状突部4aと円弧状溝12aが円周面上で接するため、移動ローラー12が傾いていない場合と同等に、移動ローラー12が開閉方向に向けてスムーズに回転することができる。また、円弧状突部4aと円弧状溝12aが円周面で接することによって、開閉扉3の前後方向の位置が規制される。
【0032】
補助ガイドレール20は、
図2(および、
図8~
図12参照)に示すように、上ガイドレール4と同様に、天板2aの上に取り付けられる。また、補助ガイドレール20は、左右の側板2b、2b間に亘って連続しており、上ガイドレール4の後側に平行になるようにして配置されている。
【0033】
また、補助ガイドレール20には、
図2(および、
図8~
図12参照)に示すように、下側円弧状突部21と、上側円弧状突部23とが設けられている。この上側円弧状突部23は、補助ガイドレール20の下側から上側に延びる起立部22を介して設けられている。これらの下側円弧状突部21および上側円弧状突部23には、引き上げ用移動ローラー34(詳細は後述する)の円弧状溝34aが下側および上側から円周面で接するように取り付けられる。
【0034】
図6(A)は引き上げ手段30を前斜め上側から見た斜視図、
図6(B)は、引き上げ手段30を前斜め下側から見た斜視図である。
【0035】
引き上げ手段30は、側面から見てL字状に折り曲げられたものであり、上側に位置する引き上げ部31と、この引き上げ部31の後端から下側に延びる垂直面部32とを備えている。
【0036】
引き上げ部31は、水平面を有する板状のものである。この引き上げ部31には、左右方向の中央部分の前側に、前後方向に延びる前後方向長穴31aと、この前後方向長穴31aの後側にねじ穴31bが設けられている。また、引き上げ部31の左右の両端部には、下側にコ字形状に折り曲げられ、引き上げ部31よりも下側に突き出た下側折り曲げ部33がそれぞれ設けられている。
【0037】
垂直面部32には、この垂直面部32の後側に向けて延在する2つの回転軸34b、34bが設けられている。この2つの回転軸34b、34bは、左右方向に間隔を空けて配置されており、この回転軸34b、34bに引き上げ用移動ローラー34、34がそれぞれ取り付けられている。この引き上げ用移動ローラー34、34の転動面には、上述した移動ローラー12と同様に、円周方向の全周に亘って円弧状溝34aが連続して設けられており、これらの円弧状溝34a、34aは、開閉方向に平行に移動できるように直線上に揃えて配置される。
【0038】
引き上げ手段30の引き上げ用移動ローラー34、34は、補助ガイドレール20の左右のいずれか一方の端部から挿入され、円弧状溝34aが、下側円弧状突部21と上側円弧状突部23とにそれぞれ円周面上で接する状態(上下が規制された状態)で予め仮組される。この状態では、引き上げ用移動ローラー34、34に作用する荷重は、下側円弧状突部21または上側円弧状突部23によって受けられるようになる。
【0039】
そして、
図3に示すように、上ガイドレール4に開閉扉3bの移動ローラー12を載せた後に、上ガイドレール4の後側に、引き上げ手段30を仮組した補助ガイドレール20が取り付けられる。仮組した補助ガイドレール20が取り付けられた状態では、
図2(および
図8参照)に示すように、引き上げ手段30の下側折り曲げ部33および引き上げ代調整ねじ36が開閉扉3bの下側段差部10aの上側に位置するようになる。
【0040】
また、傾き調整ねじ35が上側取付部10のねじ穴10bに螺合される。これにより、引き上げ手段30は、開閉扉3bが開閉方向に移動するのに追従して、補助ガイドレール20に沿って開閉方向へ移動する。
【0041】
一方、開閉扉3bの下側の構成は、
図7に示すように、下ガイドレール6を利用者側から見えないように下側へ延ばすと共に、その下端部を後側に延ばして下側取付部13を設け、この下側取付部13にローラー部材11を取り付けている。また、下ガイドレール6は、キャビネット本体2の底板2cに取り付けられ、上ガイドレール4と同様に、移動ローラー12の円弧状溝12aを円弧状突起6aで上側から受けるようにしている。
【0042】
次に、本発明の実施の形態に係る引戸装置Hの作用について
図8~
図12を用いて詳細に説明する。
図8は、開閉扉3bの傾きを調整していない状態を示し、
図9は
図8の状態から、傾き調整ねじ35を締めて調整した後の状態を示す側部断面図である。
また、
図10は、
図8の状態から傾き調整ねじ35を締めても、開閉扉3bの傾きがまだある状態を示す側部断面図である。
図11は、
図8の状態から、引き上げ代調整ねじ36を用いて引き上げ代を長く確保した状態を示し、
図12は、
図11の状態から、傾き調整ねじ35を締めて調整した後の状態を示す側部断面図である。
【0043】
なお、
図8~
図12では、説明を容易にするために、クローザー5および左側開閉扉3aを省略して示している。
【0044】
引戸装置Hを普通に組み立てた状態では、
図8に示すように、開閉扉3bはモーメントによって前方斜め下側に傾いた状態になる。このとき、引き上げ手段30の下側折り曲げ部33は、開閉扉3bの下側段差部10aの上面と接している。
【0045】
この状態から、傾き調整ねじ35を締めると、
図9に示すように、下側折り曲げ部33を支点として開閉扉3bの上側取付部10が上側へと引き上げられる。より詳細には、傾き調整ねじ35の前後方向の位置が開閉扉3bと移動ローラー12(下側折り曲げ部33)との間にあるため、傾き調整ねじ35を締めることで、下側折り曲げ部33は持ち上げられず、下側折り曲げ部33を中心に開閉扉3b側が
図8の紙面時計回りに引き上げられる。これにより、開閉扉3bの傾きを調整することができる。また、傾き調整ねじ35の締め量を調整することで、例えば、上ガイドレール4や開閉扉3bの製造誤差等に起因する傾きを微調整することができる。
【0046】
この傾きの調整は、開閉扉3bの自重によって生じるモーメントを、引き上げ手段30が受けることによって行なわれる。詳細には、引き上げ手段30の引き上げ用移動ローラー34が補助ガイドレール20内で上下に規制されていることによって荷重を支えており、傾き調整ねじ35から引き上げ用移動ローラー34までの距離によって、反対方向の回転モーメントを作用させていることによる。
【0047】
この引き上げ手段30の傾き調整ねじ35から引き上げ用移動ローラー34までの距離を長く確保することで、引き上げ用移動ローラー34が受ける荷重を小さくすることができる。試作で確認した結果、引き上げ用移動ローラー34から移動ローラー12までの距離が、開閉扉3bから移動ローラー12までの距離と同等(約1:1)かそれ以上(1:1以上)であれば、引き上げ用移動ローラー34が受ける荷重を小さくすることができ、
図2で示す取付スペース内で納まる程度の大きさ(直径)のローラーで構成することができる。
【0048】
一方、
図8の状態から傾き調整ねじ35を締めたとしても、
図10に示すように、引き上げ代が不十分で傾きが修正されない場合がある。このような場合には、傾き調整ねじ35を一旦緩めて
図8の状態に戻した後に、
図11に示すように、引き上げ代調整ねじ36の下端を下側折り曲げ部33の下端よりも下側に突出させ、この引き上げ代調整ねじ36が下側段差部10aの上面と接するようにする。
【0049】
すなわち、引き上げ代調整ねじ36の下端を下側折り曲げ部33の下端よりも下側に突出させることで、引き上げ手段30の引き上げ部31が上側に持ち上げられ、傾き調整ねじ35の引き上げ代が長く確保されるようになる。これにより、
図12に示すように、傾き調整ねじ35を締めたときに、引き上げ代調整ねじ36の下端を支点として開閉扉3bの上側取付部10が
図10の状態よりもさらに上側へと引き上げられる。その結果、
図12に示すように、開閉扉3bの傾きを十分に修正・微調整することができるようになる。
【0050】
本発明の実施の形態に係る引戸装置Hによれば、キャビネット本体2に取り付けられた上ガイドレール4と、上ガイドレール4よりも手前側にオフセットした位置に配置された開閉扉3bとを備え、開閉扉3bは、上ガイドレール4に向かって後方へ延びる上側取付部10と、この上側取付部10に取り付けられ、上ガイドレール4上を開閉方向へ走行する移動ローラー12とを有しており、開閉扉3bと移動ローラー12との間の位置で、上側取付部10を上側に引き上げる引き上げ手段30を備えているので、開閉扉3bが傾いた状態のときであっても、上側取付部10を引き上げることで、この傾きを修正または微調整することができる。これにより、開閉扉3bの開閉が重くなったり、開閉時の異音の発生などを防止することができる。
【0051】
また、引き上げ手段30は、上側取付部10の上方に位置する引き上げ部31と、開閉扉3bの走行に伴って移動する引き上げ用移動ローラー34とを有し、引き上げ用移動ローラー34の上下が規制されているので、開閉扉3bの自重によって生じるモーメントに対し、引き上げ用移動ローラー34がその荷重を受けることで、反対方向の回転モーメントを作用させて打ち消している。これにより、開閉扉3bの傾きを修正または微調整することができる。
【0052】
さらに、引き上げ用移動ローラー34は、上ガイドレール4よりも後側に配置され、上ガイドレール4とは別体の補助ガイドレール20上を開閉方向に移動するので、開閉扉3bを予め組み立てた後に、補助ガイドレール20を取り付けることができる。そのため、上ガイドレール4を取り外すことなく、引き上げ手段30のメンテナンスを容易に行なえるようになる。
【0053】
また、引き上げ手段30には、移動ローラー12の上側に配置され、引き上げ部31の上下方向の引き上げ代を調整するための引き上げ代調整ねじ36が設けられているので、開閉扉3bの傾きをより確実に修正または微調整することができる。
【0054】
さらにまた、前後方向において、引き上げ用移動ローラー34から移動ローラー12までの距離が、開閉扉3bから移動ローラー12までの距離よりも長くなっているので、上述した反対方向の回転モーメントを作用させる際に、引き上げ用移動ローラー34が受ける荷重をより小さくすることができる。そのため、引き上げ用移動ローラー34の径を小さく抑えることができ、補助ガイドレール20および引き上げ手段30をよりコンパクトに構成することができる。
【0055】
以上、本発明の実施の形態に係る引戸装置Hについて述べたが、本発明は既述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術思想に基づいて各種の変形および変更が可能である。
【0056】
例えば、本実施の形態では、右側開閉扉3bに引き上げ手段30を取り付けて傾きを調整しているが、左側開閉扉3aにも同様にして引き上げ手段30を取り付けて、傾きを調整するようにしてもよい。
また、引き上げ手段30として、引き上げ用移動ローラー34を用いて荷重を受けるようにしているが、これに限定されない。すなわち、開閉扉3a、3bの上側取付部10を上側に引き上げることができる構造であれば、例えば、ばねなどの付勢力を利用して引き上げ部31を引き上げる構造でもよい。また、引き上げ部31の後端部分に重りを取り付けて、開閉扉3a、3bの自重によって生じるモーメントを打ち消すような反対方向のモーメントを作用させる構造にすることもできる。
【0057】
また、本実施形態では、開閉扉3bの下側を下ガイドレール6で受けるようにしているが、これに限定されない。すなわち、本発明では、開閉扉3bの上側の構成で開閉扉3bの傾きを調整するものであるため、例えば、開閉扉3bの下側を受けずに上側から吊り下げるタイプの開閉扉(吊り戸)にも適用することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 キャビネット
2 キャビネット本体
2a 天板
2b 側板
2c 底板
3 開閉扉
3a 左側開閉扉
3b 右側開閉扉
4 上ガイドレール
4a,6a 円弧状突部
5 クローザー
6 下ガイドレール
8 透明板部材
9 枠部材
10 上側取付部
10a 下側段差部
10b ねじ穴
11 ローラー部材
11a 移動ローラー調整ねじ
12 移動ローラー
12a 円弧状溝
13 下側取付部
20 補助ガイドレール
21 下側円弧状突部
22 起立部
23 上側円弧状突部
30 引き上げ手段
31 引き上げ部
31a 前後方向長穴
31b ねじ穴
32 垂直面部
33 下側折り曲げ部
34 引き上げ用移動ローラー
34a 円弧状溝
34b 回転軸
35 傾き調整ねじ
36 引き上げ代調整ねじ