(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 5/055 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
A61B5/055 380
(21)【出願番号】P 2020094164
(22)【出願日】2020-05-29
【審査請求日】2023-04-05
(73)【特許権者】
【識別番号】517407501
【氏名又は名称】株式会社PixSpace
(74)【代理人】
【識別番号】100097984
【氏名又は名称】川野 宏
(72)【発明者】
【氏名】佐谷 望
(72)【発明者】
【氏名】松浦 智徳
(72)【発明者】
【氏名】阪本 剛
(72)【発明者】
【氏名】三宅 徳朗
【審査官】亀澤 智博
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-223723(JP,A)
【文献】特開2012-066129(JP,A)
【文献】特表2015-517375(JP,A)
【文献】特開2002-306441(JP,A)
【文献】国際公開第2014/125876(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0230960(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/055
G01N 24/00 -24/14
G01R 33/20 -33/64
G06T 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る差分画像演算部と、
該差分画像演算部により演算された該差分画像データの各画素値に基づいて統計情報を算出する統計情報算出部と、
該統計情報算出部により算出された該統計情報に基づき、差分画像の各画素を2つのグループに区分するしきい値を算出するしきい値算出部と、
該しきい値算出部から算出されたしきい値に基づき、該差分画像の各画素を2つのグループに区分する画素グループ区分部と、
区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素に該グループ固有の値を画素値として付与し、画素値置換画像を得る画素値置換え部と、
前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する被検体部位状態判別部と、
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記所定の医用画像データは、拡散強調画像データまたは拡散強調画像により特定された領域情報であることを特徴とする請求項
1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記2種類のMRI画像データが、MRI脂肪抑制法である水/脂肪信号相殺法におけるin Phase、およびout of Phaseの画像データであることを特徴とする請求項1
または2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得、
得られた該差分画像データの各画素値に基づいて統計情報を算出し、
算出された該統計情報に基づき、差分画像の各画素を2つのグループに区分するしきい値を算出し、
算出された該しきい値に基づき、該差分画像の各画素を2つのグループに区分し、
区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有の値を画素値として付与し、画素値置換画像を得、
前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項5】
コンピュータに、
同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る機能と、
得られた該差分画像データの各画素値に基づいて統計情報を算出する機能と、
算出された該統計情報に基づき、差分画像の各画素値を2つのグループに区分するしきい値を算出する機能と、
算出された該しきい値に基づき、該差分画像の各画素値を2つのグループに区分する機能と、
区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有の値を画素値として付与し、画素値置換画像を得る機能と、
前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する機能と、
を実行せしめることを特徴とする画像処理プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核磁気共鳴画像撮影装置(以下、MRI装置と称する)等の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムに関し、詳しくは、被検体のMRI画像の画像領域を区分する手法およびそれにより注目される部位における状態評価の支援を行う手法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
MRI画像においてはT1強調画像やT2強調画像等に代表されるように様々なコントラストの画像を得ることができる。近年では水素原子(プロトン)の拡散制限に着目した「拡散強調画像(Diffusion Weighted Image:DWIとも称する)」を撮影することが可能になり、脳梗塞の描出や腫瘍の検出に利用されている。特に全身を撮影する拡散強調画像(Body DWIまたはDWIBS)は全身の腫瘍を検索する目的で開発され、前立腺癌や乳癌で生じる転移性骨腫瘍の描出や評価に用いられるようになった。また傾斜磁場強度(b値)を変調させ、得られる2つの拡散強調画像から拡散係数(ADC)を計算可能であり、この強度が細胞密度に関連するとされ、腫瘍の悪性度判断が可能とされている。
【0003】
このようなMRI画像を用いて診断に資する手法において、部位や状態の特定においていくつかの課題があった。例えば、高い傾斜磁場強度で撮影された拡散強調画像では、一般に腫瘍の信号が高く、それ以外の領域は信号が消去されるため低く表示される。この時、高い信号値を持つ領域において腫瘍は拡散係数(ADC)が低いレベルであることが多い。しかし、正常組織である赤色髄(幼児に見られる正常な造血組織であり、通常は、大人になるに連れて脂質に富む黄色髄に変化するが、種々の要因で大人になってから黄色髄から赤色髄に変化することがある。黄色髄は完全なる脂肪組織で、赤色髄は脂肪組織と水が混在する。)は腫瘍と同程度の高い信号を持ち、かつADCも腫瘍と同程度に低いレベルであることが知られている。
このため拡散強調画像により腫瘍の検索を行おうとしても、正常組織である赤色髄と腫瘍の判別、特定が難しい。
【0004】
これに対してMRIの脂肪抑制法である「水/脂肪信号相殺法(位相差法、WFS法、DIXON法等)」による判別法が提案されている(下記非特許文献1を参照)。これは組織中の微量な脂肪分を判別する手法で、画像診断分野では副腎腫瘍と副腎腺腫の鑑別に用いられる事が多い。これは一般的に腫瘍は組織中に脂肪を含まないため「脂肪分を検出できれば副腎腫瘍を否定できる」という概念に基づいて利用されていることによる。この用法を転移性骨腫瘍で行うことで、腫瘍と赤色髄の鑑別が可能になると言われている。
【0005】
MRI装置は一度の検査撮影で種類の異なる複数のコントラスト画像を同時に取得できることが利点であり、近年の画像診断技術の進歩に大きく貢献するものとなっている(下記非特許文献2を参照)。例えば、一般的には脂肪分と水分の両者を強調するT2強調画像、脂肪分のみを強調するT1強調画像、さらにそれぞれの画像から脂肪分や水分の信号を低減させた脂肪抑制画像や水抑制画像等を一度の撮影によって得ることができ、被検者の関心領域についてのこれらの複数の画像を用いて診断を支援する手法が知られている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】副腎腺腫のCT値とMRI信号評価の検討:埼玉医科大学雑誌 第33巻 第2号 平成18年4月
【文献】Tsushima Y, Ishizaka H, Matsumoto M. Adrenal masses: differentiation with chemical shift, fast low- angle shot MR imaging. Radiology 1993;186:705 - 9.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、上述した「水/脂肪信号相殺法」は、水素原子であるプロトンが周囲の状態(一様性)によって信号が変化することを利用しており、例えば、あるピクセルの周囲組織が「水のみ」あるいは「脂肪のみ」という一様な状態と、「水と脂肪が混ざっている」という不一様な状態では信号値が互いに異なることを利用している。すなわち、腫瘍は「周囲が水のみの状態」と解釈することができ、赤色髄は「水と脂肪が混ざっている状態」と解釈することができるため、両者の間の信号状態が互いに異なることで両者を判別することができる。
【0008】
上記「水/脂肪信号相殺法」においては、水と脂肪の原子スピン回転周期が一致する瞬間である「in phase(イン・フェイズ)」の画像と、回転周期が真逆の瞬間で、最も不一致な瞬間である「out of Phase(アウト・オブ・フェイズ)」の画像とで信号値が互いに異なる。すなわち、in phaseでは水と脂肪のスピンが一致するためどちらも信号値が強調されるのに対して、out of Phaseではスピンが不一致なので同じピクセル内に水と脂肪が混在した場合は互いの信号が打ち消されて低下する。これらを比較することで脂肪の存在が明らかになり腫瘍と赤色髄の判定を行うことが可能となると考えられる。この状態を判別するために、MRI装置では、同じ関心領域の「in phase画像」と「out of Phase画像」の2種類の画像データを一度の撮影で取得する。
【0009】
しかしながら、これまでは前述のように、in phase画像とout of Phase画像の信号状態が互いに異なることから、注目部位が腫瘍と赤色髄のいずれであるかを判別することはできても、視覚的に客観的な指標がないため、どの範囲まで腫瘍が拡がっているか等の診断は、どうしても医師の主観による視覚的判断に委ねられていた。このため、正確な診断が難しくなるという虞があった。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、医師の主観による視覚的判断のみに頼ることなく、画像データに基づき明確で客観的な診断を可能にし得る、画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
また、本発明の画像処理装置は、
同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る差分画像演算部と、
該差分画像演算部により演算された該差分画像データの各画素値に基づいて統計情報を算出する統計情報算出部と、
該統計情報算出部により算出された該統計情報に基づき、差分画像の各画素を2つのグループに区分するしきい値を算出するしきい値算出部と、
該しきい値算出部から算出されたしきい値に基づき、該差分画像の各画素を2つのグループに区分する画素グループ区分部と、
区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素に該グループ固有の値を画素値として付与し、画素値置換画像を得る画素値置換え部と、
前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する被検体部位状態判別部と、
を備えたことを特徴とするものである。
なお、上記および下述する「領域情報」とは、種々の定義に係る画像領域とすることが可能であり、任意に特定された画像領域を称するものとする。
【0012】
この場合において、前記所定の医用画像データは、拡散強調画像データまたは拡散強調画像により特定された領域情報とすることができる。
また、上記いずれかの画像処理装置において、前記2種類のMRI画像データが、MRI脂肪抑制法である水/脂肪信号相殺法におけるin Phase、およびout of Phaseの画像データとすることができる。
【0013】
また、本発明の画像処理方法は、
同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得、
得られた該差分画像データの各画素値に基づいて統計情報を算出し、
算出された該統計情報に基づき、差分画像の各画素を2つのグループに区分するしきい値を算出し、
算出された該しきい値に基づき、該差分画像の各画素を2つのグループに区分し、
区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有の値を画素値として付与し、画素値置換画像を得、
前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する、
ことを特徴とするものである。
【0014】
さらに、本発明の画像処理プログラムは、
コンピュータに、
同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る機能と、
得られた該差分画像データの各画素値に基づいて統計情報を算出する機能と、
算出された該統計情報に基づき、差分画像の各画素値を2つのグループに区分するしきい値を算出する機能と、
算出された該しきい値に基づき、該差分画像の各画素値を2つのグループに区分する機能と、
区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有の値を画素値として付与し、画素値置換画像を得る機能と、
前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する機能と、
を実行せしめることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムによれば、同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る差分画像演算部を設けており、2つの画像データ間でほとんど変化がなければ、その差分値は0に近い値となり、一方、変化が大きければ、その差分値は0から大きく外れた値とすることができる。
【0016】
ただし、この差分値は、2つの画像の位置ずれ等によって若干ばらつくことになるので、統計情報算出部と、しきい値算出部を用いて、各画素値毎の差分値を、統計情報によるしきい値に基づき、差分値が0に近い「範囲内」と、差分値が0から大きく外れた「範囲外」の2つのグループに区分することで、2つの画像の間で、信号変化がない画素を正確にかつ客観的に特定することができる。
【0017】
さらに、画素値置換え部により、上記2つのグループの各画素の画素値をそのグループ固有の値に置き換えて、差分画像を2値化した画素値置換画像を得ることにより、信号変化の有り、無しを、より正確、かつ客観的に区分することができる。また、この差分画像を他の医用画像の信号値と対比させる場合等にも、その対比が容易となる。
【0018】
また、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムによれば、上記2種類のMRI画像データとは異なる医用画像のデータから得られる信号値または領域情報と、上記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、被検体部位の画素毎に被検体部位の状態を判別することにより、被検者の撮影部位(関心領域)の状態を明確かつ客観的に判別することができ、例えば、赤色髄の部位と腫瘍の部位の拡がり等も明確に判定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例1に係る画像処理装置を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る画像処理方法を示すフロ―チャートである。
【
図3】
図2におけるステップS1のin phase画像((A)(a))およびout of Phase画像((A)(b))と、in phase画像の模式図((B)(a))およびout of Phase画像の模式図((B)(b))である。
【
図4】
図2におけるステップS2の差分画像(A)、および差分画像の模式図(B)である。
【
図5】
図2におけるステップS4の、差分値の範囲を決定するためのグラフである。
【
図6】
図2におけるステップS5の、画素値置換画像(A)、および画素値置換画像の模式図(B)である。
【
図7】本発明の実施例2に係る画像処理装置を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施例2に係る画像処理方法を示すフロ―チャートである。
【
図9】
図8におけるステップS6の、画素値置換画像((A)(a))および拡散強調画像((A)(b))と、画素値置換画像の模式図((B)(a))および拡散強調画像の模式図((B)(b))である。
【
図10】
図8におけるステップS6の他の画素値置換画像(a)および拡散強調画像(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態に係る画像処理装置、画像処理方法、および画像処理プログラムについて説明する。
<実施例1>
まず、
図1のブロック図を用いて、本発明の実施例1に係る画像処理装置の主要構成を説明する。
この画像処理装置50は、磁気共鳴画像撮影装置(以下、MRI装置と称する)により被検体の関心領域を撮影した2種類のMRI画像データを読み込むメモリ手段100と、このメモリ手段100に格納された2種類のMRI画像データ(本実施例においては、水/脂肪信号相殺法(位相差法、WFS法、DIXON法等)によるin phase画像データおよびout of Phase画像データ)を読み出し、該MRI画像データに演算処理を施す演算処理手段200と、この演算処理手段200において、演算処理が施されたMRI画像データを表示するモニタ手段300とを備えている。
【0021】
また、演算処理手段200は、CPUやハードディスクメモリ等のハードウエアと、プログラムからなるソフトウエアとにより構成されており、同一の被検体の関心領域(部位)を撮影し、メモリ手段100に格納された2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る差分画像演算部201と、演算された差分画像データの各画素値(以下、ピクセル値とも称する)の平均値や標準偏差値等の統計情報を算出する統計情報算出部202と、この統計情報に基づき、差分画像の各ピクセル値を2つのグループに区分するしきい値を算出するしきい値算出部203と、算出されたしきい値に基づき、差分画像の各ピクセル値を2つのグループに区分する画素グループ区分部204と、区分されたグループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有の画素値を付与して画素値置換画像を得る画素値置換え部205を備えている。
【0022】
なお、画像処理装置50の一般的な装置としてのハードウエア概略構成(必ずしも図面に記載されてはいない)は、CPUや、上述したハードディスクメモリ等のメモリ手段100、表示メモリ、表示装置、マウス、マウスに接続されたコントローラ、キーボード、ネットワークアダプタ等が、バスケーブルによって信号の送受をし得るように接続されており、ネットワークを介してMRI装置や医用画像データベースとの信号の送受信が可能となるように接続されている。
【0023】
CPUは、ハードディスクメモリや光ディスクメモリ等の記憶装置に格納されるプログラムやプログラムの実行に必要な医用画像情報等のデータをメモリ手段100や主メモリに送信し実行する。
医用画像情報は、LAN等のネットワークを介し、医用画像データベースや、MRI装置から取得される。一方、表示メモリは、液晶ディスプレイやEL等のモニタ手段300に表示するための表示データを一時格納する。
【0024】
マウスやキーボードは、オペレータが画像処理装置50に対して操作して指示を行うものであり、コントローラは、マウスの状態を検出して、表示モニタ上のマウスポインタの位置を取得し、取得した位置情報等をCPUへ出力する。また、ネットワークアダプタは、画像処理装置50をLAN、電話回線、インターネット等のネットワークに接続するためのものである。
【0025】
本実施例においては、MRI装置にて、被検体の関心領域の画像データを抽出するために必要なin phase画像データ(第1のMRI画像データ)、およびout of Phase画像データ(第2のMRI画像データ)を一度の撮影で取得し、そのディジタル画像データがメモリ手段100に格納され、所定のタイミングで、演算処理手段200に出力されるようになっている。
ここで、in phase画像データおよびout of Phase画像データとは、MRI脂肪抑制法である水/脂肪信号相殺法におけるin Phase画像データおよびout of Phase画像データを意味する。
【0026】
次に、
図2のフローチャートを用いて、本発明の実施例1に係る画像処理方法について説明する。なお、本実施例に係る画像処理方法の各処理は、
図1に示す画像処理装置50を用いて行われる。
上述したように、本実施例方法ではin phase画像データとout of Phase画像データが用いられる。
【0027】
まず、概略について説明すると、MRI装置により被検者の身体の関心領域を撮影して得られた、in phase画像データとout of Phase画像データをメモリ手段100に入力させる(S1)。メモリ手段100に入力されたin phase画像データとout of Phase画像データを、スライスの各画素毎に差分し、差分画像を得る(S2)。
【0028】
次に、撮影範囲である差分画像全体のピクセル値を集計し、その集計したピクセル値における平均値と標準偏差値を計算し統計情報を算出する。さらに、算出された平均値と標準偏差値により、平均値Aから標準偏差値σを引き算した値A-σと、足し算した値A+σを求め、上記差分値に対するしきい値を決定する(S3)。
このしきい値によって平均値に近い(0に近い)範囲(範囲内に属する画素)と、平均値から遠い(0付近から外れた)範囲(範囲外に属する画素)を決定する(S4)。
【0029】
この後、範囲内に属する画素のピクセル値を、特定のピクセル値pに置換え、一方、範囲外に属する画素のピクセル値を、ピクセル値pとは異なる、特定のピクセル値qに置換え、画素値置換画像を得る画素値置換え処理を施す(S5)。
以下、上記各ステップS1~S5について、適宜図面を用いて、より具体的に説明する。ステップS1は、
図3(A)の写真によって表され、ステップS2は、
図4(A)の写真によって表され、ステップS3は、しきい値の計算式(1)によって表され、ステップS4は、
図5のグラフによって表され、ステップS5は
図6(A)の写真によって表される。ただし、
図3(A)、
図4(A)および
図6(A)の写真は、出願用図面として表した場合、必ずしも明瞭に視認されないことから、その写真の内容のエッセンスのみを表した模式図を、それぞれ
図3(B)、
図4(B)および
図6(B)に表す。
【0030】
まず、ステップS1を、
図3(A)および
図3(B)を用いて説明する。
図3(A)は、被検者の腰部MRI画像であって(a)はin phase画像を示すものであり、(b)はout of Phase画像を示すものである。
図3(B)(a)は
図3(A)(a)の模式図であり、
図3(B)(b)は
図3(A)(b)の模式図である。
図3(B)(a)および
図3(B)(b)に示すように、被検者10の関心領域において、仙骨部3の画像左部分に赤色髄1の領域が、仙骨部3の画像右部分に腫瘍2の領域が存在している。このような2つの画像をメモリ手段100に格納(アップロード)する。
【0031】
ここで、in phase画像データとは、水と脂肪の原子スピン回転周期が一致する瞬間のデータであり、一方、out of Phase画像データとは、in phaseと回転周期が真逆で、最も不一致な瞬間であるout of Phaseにおける画像データである。in phaseでは水と脂肪のスピンが一致することで、いずれも信号値が強調されるが、out of Phaseではスピンが不一致なので、水と脂肪が混在するピクセルにおいて互いの信号を打ち消し合って、信号値は減少するとされる。
【0032】
次に、ステップS2を、
図4(A)および
図4(B)を用いて説明する。
図4(A)は、
図3(A)(a)に示すin phase画像と、
図3(A)(b)に示すout of Phase画像をスライス画像毎に減算して得た差分画像を示すものである。また、
図4(B)は
図4(A)の模式図である。
図4(B)から明らかなように、赤色髄1においては、仙骨部3や腫瘍2の領域と比べて、白(または黒)のレベルが極端に高くなる。
すなわち、赤色髄1においては、脂肪と水が混在しているため、in phase画像とout of Phase画像との信号変化が大きく、これらの差分画像において信号値が高くなる。
その一方、腫瘍2においては、周囲が水のみとみなすことができるため、in phase画像とout of Phase画像との信号変化が小さく、これらの差分画像において信号値は0付近となる。
これにより、赤色髄1の領域の信号レベルが極端に高くなり、腫瘍2と区別することが可能である。
なお、被検者10の輪郭は、差分画像では必ずしも定かではなくなるので、
図4(B)の模式図面上では破線で表すようにしている。
図4以降の対応図面についても同様である。
【0033】
次に、ステップS3について説明する。
ステップS2によって得られた、各スライス画像における、差分画像全体の各ピクセル値を集計し、集計したピクセル値の平均値と標準偏差値を計算し統計情報を算出する。
ここで、平均値をA、標準偏差値をσとおくと、平均値Aから標準偏差値σを引き算した値A-σと、足し算した値A+σを上記差分値に対するしきい値Dとして得る。
例えば、平均値Aが14.28、標準偏差値σが31.12とすると、しきい値Dは下式(1)にて得られる。
D=14.28±31.12 (1)
すなわち、この場合のしきい値Dは、-16.84および45.40となる。
【0034】
次に、ステップS4を、
図5を用いて説明する。この
図5は、各スライス画像における、差分画像全体の各画素のピクセル値を集計し、その集計に係る各画素を、横軸を差分ピクセル値(差分信号値)、縦軸をピクセル数とした2軸平面上にプロットしたものである。このように各画素をプロットすると、一般に、平均値付近に急峻なピークが現れる。次に、
図5に示すように、このグラフ上で、横軸のしきい値Dに相当する差分ピクセル値、すなわち、-16.84および45.40の値で、縦の区切り線を引き、-16.8以上、かつ45.4以下の区分を「範囲内」、-16.84未満および45.40より大きい区分を「範囲外」として、範囲を決定する。
【0035】
次に、ステップS5を、
図6(A)および
図6(B)を用いて説明する。
図6(A)は、ステップ4で得られた区分(グループ)に基づき、各区分毎に、各ピクセル値(差分画素値)をグループ固有の値に置換して得られた画素値置換画像を示すものである。また、
図6(B)は
図6(A)の模式図である。
置換するグループ固有の値としては任意の値とすることが可能であるが、例えば、「範囲内」の区分においては各画素値(差分画素値)を0の値で置き換えるようにし、「範囲外」の区分においては各画素値(差分画素値)を100の値で置き換えるようにする。
【0036】
このようにして得られた画素値置換画像は、
図6(A)に示すように、白と黒に2値化され、2つの区分に明確に分けられる。すなわち、
図6(B)に示すように、赤色髄1の領域のみを白(100の値)に設定することができ、腫瘍2の領域(0の値)と明確に判別することが可能であり、種々の診断に応用することが可能である。
【0037】
上記実施例においては、統計情報として平均値と標準偏差値を用いてしきい値を算出しているが、この統計情報として、その他の情報を用いてしきい値を計算してもよい。例えば、平均値に替えて中央値や最頻値を用いてもよいし、標準偏差値に替えて四分位範囲(25パーセンタイルと75パーセンタイルの距離値)を用いてもよい。またそれらの統計情報に任意の係数をかけることで重み付けして計算された値をしきい値としてもよい。
【0038】
<実施例2>
次に、
図7のブロック図に、本発明の実施例2に係る画像処理装置50aの主要構成を示す。この実施例2に係る画像処理装置50aについては、上述した実施例1に係る画像処理装置50と類似した構成とされているが、主に、演算処理手段200aが被検体部位状態判別部206aを有している点において異なっている。したがって、説明の重複、繁雑化を避けるため、実施例2においては、演算処理手段200aの被検体部位状態判別部206aのみについて詳しく説明し、その余は、基本的に実施例1に係る画像処理装置50において説明した内容を適用するものとする。また、実施例2において実施例1と共通する部材については、実施例1の部材の符号にaを付した符号を付して表すものとする(ただし、被検体部位状態判別部についてもaを付した符号にて表している)。
【0039】
実施例2における演算処理手段200aは、実施例1と同様に、同一の被検体の関心領域(部位)を撮影し、メモリ手段100aに格納された、in phase画像とout of Phase画像からなる2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る差分画像演算部201aと、演算された差分画像データの各ピクセル値の平均値や標準偏差値等の統計情報を算出する統計情報算出部202aと、この統計情報に基づき、差分画像の各ピクセル値を2つのグループに区分するしきい値を算出するしきい値算出部203aと、算出されたしきい値に基づき、差分画像の各ピクセル値を2つのグループに区分する画素グループ区分部204aと、区分されたグループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有のピクセル値を付与して画素値置換画像を得る画素値置換え部205aを備えている。
【0040】
そして、実施例1とは異なり、画素値置換え部205aにおいて、上述した「範囲内」と「範囲外」の2つの区分に分けられ、2値化画像に置き換えられた画素値置換画像のデータ、および、第3の医療画像(本実施例においてはMRI画像である拡散強調画像)の情報に基づいて、被検体の部位(関心領域)の状態を判別する被検体部位状態判別部206aが設けられている。
【0041】
すなわち、被検体部位状態判別部206aにおいては、
図6(A)、
図6(B)に示された、画素値置換画像のデータ、およびMRI装置にて取得された、この被検体の部位(関心領域)の拡散強調画像(以下、DWIと称する)のデータに基づき、この被検体の部位における赤色髄1と腫瘍2の判定を自動的に行い、診断支援に資する処理が行われる。
上記DWIは、MRI装置にて、上述したin phase画像データおよびout of Phase画像データと同一部位、かつ同時刻における被検体の画像データとして取得されたものであり、メモリ手段100aに一旦、格納されたものである。
【0042】
そもそも、DWIとは、分子のブラウン運動の程度を画像化したものであって、運動の大きなもの程、低信号で表わされる。撮像法としては、パルスシーケンスと交差するように互いに逆方向となる大きな傾斜磁場(MPG)を印可し、それにより動いていたスピンがリフェーズできなくなった際のMPGの影響の強さの値(b値)を測定する。基本的にはDWIもT2強調画像であるため、T2強調画像で高信号な自由度の高い病変は、DWIでも高信号となる。
【0043】
このように、画素値置換え部205aから得られた画素値置換画像と、腫瘍2および赤色髄1等を他の部位よりも高い信号値として表すDWIとに基づいて被検体部位状態判別部206aにおいて、腫瘍2と赤色髄1の判別が自動的に行われ、診断を支援する内容が出力される。
【0044】
次に、
図8のフローチャートを用いて、本発明の実施例2に係る画像処理方法について説明する。なお、本実施例に係る画像処理方法の各処理は、
図7に示す画像処理装置50aを用いて行われる。
この実施例2に係る画像処理方法については、上述した実施例1に係る画像処理方法と類似したステップを有しているが、本実施例においては、ステップS6における処理のみが追加されている。
【0045】
このステップS6を、
図9(A)および
図9(B)、および
図10を用いて説明する。
図9(A)および
図10は、被検者の腰部MRI画像であって(a)は画素値置換画像を示すものであり、(b)はDWI(拡散強調画像)を示すものである。
図9(B)(a)は
図9(A)(a)の模式図であり、
図9(B)(b)は
図9(A)(b)の模式図である。
図9(A)(b)および
図9(B)(b)に示すように、拡散強調画像において高信号(矢印部分)であり、かつ
図9(A)(a)および
図9(B)(a)に示すように、画素値置換画像において「範囲内(ピクセル値が0に置き換えられている)」である領域(矢印部分)は腫瘍2と判定することが可能である。
【0046】
一方、
図10(b)に示すように、拡散強調画像において高信号である領域(矢印部分)であり、かつ
図10(a)に示すように、画素値置換画像において「範囲外(ピクセル値が100に置き換えられている)」である領域(矢印部分)は赤色髄1と判定することが可能である。
【0047】
したがって、本実施例においては、ステップS6の処理を施すことにより、被検者10の部位(関心領域)における状態を判別することでき、特に、赤色髄1の部位と腫瘍2の部位を明確に区別することができるともに各部位の拡がり等についても明瞭、かつ客観的に判別可能である。
【0048】
また、前述したin phase画像、out of Phase画像、これら2つの差分画像、および拡散強調画像からなる4つの画像は、DICOM規格に含まれる情報(Slice location)であることから、同一検査であれば、同一部位(臓器)はそれぞれ同一位置(同一座標)の画素に存在するため、特別な位置合わせ技術を用いることなく、画像間で同一位置(同一座標)の画素を容易に特定することが可能である。
【0049】
また、in phase画像とout of Phase画像の差分画像を得る際に、不要な領域(被検者10の体外の空気領域等)をマスクした状態(削除した状態)にした上で、画像間で対応する画素のピクセル値の差分演算を行うことも考えられる。不要な領域を予め削除した状態で本実施例手法の処理を行うことで、より精度の高い範囲の特定が可能になる。
【0050】
なお、本発明の実施例に係る画像処理プログラムは、上記実施例1および実施例2に係る画像処理装置50、50aにおいて使用されるプログラムであり下記のように構成されている。
すなわち、コンピュータに、同一の被検体部位を撮影した、2種類のMRI画像データについて、対応する画素同士の差分値を演算して差分画像データを得る機能と、得られた該差分画像データの各ピクセル値に基づいて統計情報を算出する機能と、算出された該統計情報に基づき、前記差分画像の各ピクセル値を2つのグループに区分するしきい値を算出する機能と、算出された該しきい値に基づき、前記差分画像の各ピクセル値を2つのグループに区分する機能と、区分された前記グループ毎に、そのグループに含まれる各画素にそのグループ固有の値をピクセル値として付与し、画素値置換画像を得る機能と、前記2種類のMRI画像データとは異なる種類の所定の医用画像データから得られる信号値または領域情報と、前記画素値置換画像のデータから得られる信号値または領域情報に基づいて、前記被検体部位の画素毎に該被検体部位の状態を判別する機能と、を実行せしめる、ように構成されている。
【0051】
なお、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムとしては、上記実施形態のものに限られるものではなく、その他の種々の態様の変更が可能である。
例えば、上記各実施例においては、2種類のMRI画像データとして、水/脂肪信号相殺法によるin phase画像データおよびout of Phase画像データを用いているが、これに替えてT1強調画像データおよびT2強調画像データとすることができる。その他、上記とは異なる脂肪抑制法である非選択的脂肪抑制(STIR)や周波数選択的脂肪抑制(CHESS)における脂肪抑制前後の2つの画像としたり、異なるb値による2つの拡散強調画像やADC画像とすることも可能である。
【0052】
また、上述した実施例2においては所定の医用画像データとしてMRI画像である拡散強調画像を用いているが、これに替えて造影MRI画像を用いてもよいし、MRI画像以外のCT画像やPET画像を用いてもよい。
【0053】
また、上記各実施例においては、被検体の関心領域における、赤色髄と腫瘍を区別あるいは判別する装置、方法およびプログラムについて説明しているが、本発明の画像処理装置、画像処理方法および画像処理プログラムは、これら両者を区別あるいは判別する場合に限られるものではなく、被検体における、その他の種々の組織を区別あるいは判別する場合に用いることが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1 赤色髄
2 腫瘍
3 仙骨部
10 被検者
50、50a 画像処理装置
100、100a メモリ手段
200、200a 演算処理手段
201、201a 差分画像演算部
202、202a 統計情報算出部
203、203a しきい値算出部
204、204a 画素グループ区分部
205、205a 画素値置換え部
206a 被検体部位状態判別部
300、300a モニタ手段