(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】水中探知装置
(51)【国際特許分類】
G01S 15/96 20060101AFI20240201BHJP
G01S 7/527 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01S15/96
G01S7/527
(21)【出願番号】P 2021128744
(22)【出願日】2021-08-05
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】517302413
【氏名又は名称】株式会社AquaFusion
(74)【代理人】
【識別番号】110003236
【氏名又は名称】弁理士法人杉浦特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100123973
【氏名又は名称】杉浦 拓真
(74)【代理人】
【識別番号】100082762
【氏名又は名称】杉浦 正知
(72)【発明者】
【氏名】松尾 行雄
【審査官】▲高▼場 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-261883(JP,A)
【文献】特開2015-165245(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72-G01S 1/82
G01S 3/80-G01S 3/86
G01S 5/18-G01S 5/30
G01S 7/52-G01S 7/64
G01S 15/00-G01S 15/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定時間間隔の各ピングで送信信号を発生し、受信信号を受信する超音波送受波器を有し、
送信信号と受信信号の相関解析によって求められた相関値又は受信信号から
前記超音波送受波器から対象物までの距離を推定し、
時間的に連続するピング間
でそれぞれ推定された距離の差分距離が閾値以下の場合に連結を行い、前記
差分距離が前記閾値より大の場合に連結を終了する
連結処理と、
前記連結処理によって
連結された連結数が所定の範囲内にあるかどうかを判定する判定処理と、
前記判定処理によって
前記所定の範囲内に
前記連結数があると判定された場合に、連結された
受信信号レベルからTSを計算する処理と、
計算されたTS
が前記所定の範囲内の場合に対象物として検出する処理とを有し、
前記判定処理において、観測点の速度と深度に応じて
前記所定の範囲を変化させるようにした水中探知装置。
【請求項2】
前記判定処理において、観測点の速度が速い場合、
前記所定の範囲の上限が小さく設定され、深度が浅い場合、
前記所定の範囲の上限が小さく設定されるようにした請求項1に記載の水中探知装置。
【請求項3】
前記TSを計算する処理では、最大値を含む複数ピングの
受信信号レベルの調和平均から前記TSが計算される請求項1又は2に記載の水中探知装置。
【請求項4】
連結された各ピングの
受信信号レベルの振幅変
化によって対象物らしさを評価する請求項1から3のいずれかに記載の水中探知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波を使用する計量魚群探知機に適用される水中探知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から音響手法を利用した計量魚群探知機が知られている。この計量魚群探知機では、送受波器から送波された超音波の音圧レベルと、魚で反射して戻るエコーの音圧レベルとの比(TS(TargetStrength):反射強度)を求め、反射強度TSから魚の体長Lが計算される。反射強度TSと魚体長Lとの間には、次式の関係が成立する。
TS=20logL+20logA
ここで、Aは信号周波数と魚種により決まる係数である。
【0003】
例えば特許文献1には、反射強度TSの値を正確に測定することができる技術として、スプリットビーム方式を採用し、エコーの到来角θを算出し、算出された到来角θに応じて、送受波器の指向特性によってエコーの反射強度を補正して正確な反射強度TSを求めることが記載されている。さらに、特許文献1には、FM(周波数変調)信号からなる時間幅T1の送信信号を生成するようにしている。
【0004】
また、特許文献2には、第1判定部と、第2判定部と、第3判定部を有し、第1判定、第2判定、および第3判定を満たした場合に、前記ピークが単体魚のエコーによるものであると判定する魚群探知機が記載されている。第1判定部は、エコー信号の振幅がピークとなる時間軸上でのピーク位置および該ピーク位置の振幅値を検出し、エコー信号におけるピーク位置を含み振幅が第1判定用基準値よりも大きな第1範囲を検出し、該第1範囲の時間幅に基づいて、単体魚のエコーであるかを判定する。第2判定部は、エコー信号におけるピーク位置を含み振幅が第2判定用基準値よりも大きな第2範囲を設定し、該第2範囲内での複数方向のエコー信号の位相差に基づいて、単体魚のエコーであるかを判定する。第3判定部は、ピーク位置における前記各チャンネルのエコー信号の振幅の比較結果に基づいて、単体魚のエコーであるかを判定する。
【0005】
さらに、単体エコーの個数を計数し、観測体積で割れば分布密度(以下、単に密度と適宜称する)が得られる。特許文献3には、魚群の密度を求めることが記載されている。受信信号の出力信号を積分処理して魚群の1立方メートル当りの平均体積散乱強度(Sv)を含む群体推定信号GESを生成し、平均体積散乱強度(Sv)を平均ターゲットストレングス(Ts)で除算して魚群の分布密度(n)を算出することが記載されている。
【0006】
送信信号のパルス幅が広い場合には、個々の魚からの反射による基本成分の他に、他の魚による干渉成分が現れて、これら基本成分及び干渉成分共大きく変化し(あばれが大)、かつ干渉成分が無視できなくなって、正確な単体魚データ(TS等)が得られなくなる。従って、単体魚データの取得には、送波パルス(送信信号TX)のパルス幅が短い方が有利である。一方、魚群の分布が密の場合には、一様ランダムと見なすことができ、干渉成分を無視することができるので、群体エコーのデータ取得には送波パルスのパルス幅が長い方が有利である。特許文献3では、予め定められた短いパルス幅の送信信号と、長いパルス幅の送信信号を交互に送信するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-249398号公報
【文献】特開2015-210142号公報
【文献】特開2000-147118号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
水中探知装置は、多くの場合、調査船に搭載されるのが普通である。従来の特許文献1及び特許文献2に記載されている魚単体の検出では、調査船の速度に対して考慮が払われていなかったために、魚単体を検出の精度が低下し、魚の尾数の検出の精度も低下する問題があった。
【0009】
また、漁業者には魚群密度の情報が重要であるが、特許文献3に記載されているような従来技術では、精確な密度情報を得ることができなかった。第1の問題点は、深度が深い場合、距離減衰によりエコーレベルが小さくなり、指向特性通りの魚を検出できないことである。第2の問題点は、体積計算において観測点が動いた場合を考慮する必要が従来ではされていなかった。第3の問題点は、深度が浅い場合、円錐形の体積が小さいため、密度を過大評価することである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、例えば魚の尾数を計測し、精確に魚群密度を計測することができる水中探知装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、所定時間間隔の各ピングで送信信号を発生し、受信信号を受信する超音波送受波器を有し、
送信信号と受信信号の相関解析によって求められた相関値又は受信信号から超音波送受波器から対象物までの距離を推定し、
時間的に連続するピング間でそれぞれ推定された距離の差分距離が閾値以下の場合に連結を行い、差分距離が閾値より大の場合に連結を終了する連結処理と、
連結処理によって連結された連結数が所定の範囲内にあるかどうかを判定する判定処理と、
判定処理によって所定の範囲内に連結数があると判定された場合に、連結された受信信号レベルからTSを計算する処理と、
計算されたTSが所定の範囲内の場合に対象物として検出する処理とを有し、
判定処理において、観測点の速度と深度に応じて所定の範囲を変化させるようにした水中探知装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、魚単体検出を精確に行うことができる。また、本発明によれば、密度計算の精度を向上できる。なお、ここに記載された効果は必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であっても良い。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、従来の単体魚検出方法を説明するためのフローチャートである。
【
図2】
図2は、エコーの連結処理を説明するための略線図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施形態のシステム構成を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施形態における単体魚検出部の処理を説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、単体魚に対して超音波が入射する時の入射角を説明するための略線図である。
【
図6】
図6は、入射角度と反射率の一例を示すグラフである。
【
図7】
図7は、複数の魚が同じ深度で直線上に遊泳している場合を説明するための略線図である。
【
図8】
図8Aは、連続するピングのエコー振幅の変化を示すグラフであり、
図8Bは、を示す。
図8Bは、連続するピングの深度の変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、送受波器の指向角度θから計算される円錐形の体積の計算を説明するための略線図である。
【
図10】
図10は、本発明の密度計算の第1の方法について説明するための略線図である。
【
図11】
図11は、指向角度θ' を計算した結果の一例を示すグラフである。
【
図12】
図12は、密度計算の第2の問題点を説明するための略線図である。
【
図13】
図13A及び
図13Bは、密度計算の第3の問題点とこの問題点を解決する第3の方法を説明するための略線図である。
【
図14】
図14は、本発明の一実施形態の密度計算の説明に用いるフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の好適な具体例であり、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において、特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの実施形態に限定されないものとする。
【0015】
本発明の説明に先立って従来の単体魚検出方法について
図1のフローチャートを参照して説明する。送信信号を所定時間間隔で発信し、エコーが受信され、計測される。初期状態では、カウントが0とされる(ステップS1)。
【0016】
送信信号と受信信号の相関解析によって相関値が求められる(ステップS2)。深度毎に相関値が計算される。相関値から局所ピークが検出され、距離が推定される(ステップS3)。なお、相関値でなくても、短い送信信号なら受信信号をそのまま利用するようにしてもよい。
【0017】
推定された距離と1回前の送信に対する局所ピークの距離が比較される(ステップS4)。ノイズ等の影響で局所ピークがなくなる場合があるので、2回前までを比較してもよい。差分距離が閾値内であるか否かがステップS5において判定される。ステップS5において、差分距離が閾値内であると判定されれば連結し、ステップS6においてCount を1増やす。
【0018】
ステップS5において、差分距離が閾値内でないと判定されれば連結を終わらせ、そのCount の数がある閾値内であるかどうかが判定される(ステップS7)。ステップS7において、Count の数がある閾値内であると判定されれば、魚として検出する(ステップS8)。
【0019】
ステップS4及びステップS5においてなされる処理について
図2を参照して説明する。
図2は、エコーの波形の一例を示し、縦軸が時間(s)を示し、横軸が距離(m)を示す。例えば1秒間に20回の送信を行なうので、時間間隔(ピング間隔)が0.05秒となる。一つ前の同じ距離でピークが存在する場合、破線で示すように、一尾の魚として連結する。すなわち、連続してピークをとらえることができた連続送信回数がある閾値の場合、一尾の魚として検出する。このような処理でノイズの除去を行なうことができる。すなわち、魚からのエコーの場合、連続してエコーが計測されるが、ノイズの場合には一度のみエコーが存在している可能性が高いからである。
【0020】
上述した従来技術では、連結が終了した時点で連結数(Count )を計算し、その数が範囲内(閾値)なら魚として検出している。しかしながら、水中探知装置が搭載されている調査船の速度(船速)が考慮されていなかった。船速が速い場合、エコーが計測できる時間が短くなるので、固定の閾値では、魚の検出の精確性が低下するおそれがあった。
【0021】
図3は、本発明の一実施形態のシステム構成を示す。超音波の送受波器を含むエコー信号受信部11からのエコーが単体魚検出部13及び密度計算部14からなる演算部12に供給される。演算部12において求められた結果が表示部15によって表示される。なお、演算部12は、デジタルデータを処理するデータ処理装置と関連するソフトウェアによって実現される。表示部15は、受信された単体エコー及び群体エコー、TSの分布、密度などを海図上に表示する表示画面を提示する。
【0022】
図4のフローチャートを参照して本発明の一実施形態における単体魚検出部13の処理ついて説明する。ステップS11からステップS16までの処理は、上述の従来の単体魚検出方法と同様の処理である。最初に、送信信号を所定時間間隔で発信し、エコーが受信され、計測される。初期状態では、カウントが0とされる(ステップS11)。送信信号と受信信号の相関解析によって相関値が求められ(ステップS12)、深度毎に相関値が計算される。相関値から局所ピークが検出され、距離が推定される(ステップS13)。なお、相関値でなくても、短い送信信号なら受信信号をそのまま利用するようにしてもよいし、受信信号にバンドパスフィルタ等でノイズ除去した値を利用してもよい。
【0023】
推定された距離と1回前の送信に対する局所ピークの距離が比較され(ステップS14)、差分距離が閾値内であるか否かが判定される(ステップS15)。差分距離が閾値内であると判定されれば連結し、連結数を示すCount を1増やす(ステップS16)。差分距離が閾値内でないと判定されれば連結を終わらせ、そのCount の値(連結数)がある範囲内(上限値及び下限値で決まる範囲内)であるかどうかが判定される(ステップS17)。ステップS17において、連結数が範囲内ではないと判定されると、処理がステップS12(相関値を求める処理)に戻る。
【0024】
ステップS17の判定において、観測点の速度例えば船速及び深度から連結数の範囲(上限値及び下限値)が変化される(ステップS18)。船速が速い場合、連結数は少なく設定してもよい。深度が浅い場合、指向特性から魚を検出できるエリアが狭いため、連結数の下限値・上限値を少なく設定してもよい。または、深度に応じて連結数の下限値・上限値を設定してもよい。
【0025】
ステップS17において、連結数が範囲内であると判定されると、ステップS19において、連結されたエコーレベルからTSが計算される。従来では最大値を利用してTSが計算されるが、一実施形態では、最大値を含む複数ピングの平均(平均の仕方としては、通常の平均だけでなく、調和平均)からも計算する。これにより、ノイズや干渉などの影響を受けづらくできる。
【0026】
すなわち、連結された最大値の場合、複数のエコーが重なった場合、過大評価する可能性がある。最大値だけでなく、調和平均を行うことで外れ値の影響が少ないエコーレベルを計算し、魚体長を計算することができる。例えば4ピングのエコーレベルをA1,A2,A3,A4とすると調和平均の式は以下になる。調和平均の数も深度に合わせて設定してもよい。
A=(1/A1)+(1/A2)+(1/A3)+(1/A4)
【0027】
調和平均は、1ピングのみ外れ値(ノイズの影響によって値が増大)があってもその影響が少ない計算方法となる。数学的に、調和平均は相加平均(通常の平均)以上であることが示されており、小さい値として収束される。
【0028】
ステップS20において、連結された最大値、平均値、調和平均値のいずれか代表値から計算されるTSが上限と下限の範囲内であるかどうかが判定される。このTSが指定された魚のTS範囲内かどうかのチェックを行う。
【0029】
ステップS20の判定においてTSが範囲内と判定されると、次のステップS21の判定処理を行う。ステップS21において、連結された各ピングのエコーの振幅変化または深度変化によって魚らしさを評価する。ステップS22において、魚らしさがある基準内かどうかが判定される。魚らしさが基準内であれば、魚として検出する(ステップS23)。
【0030】
図5に示すように、送受波器21から単体魚に対して超音波が入射すると、単体魚の主として鰾(ウキブクロ)によって超音波が反射される。この場合の反射率は、送受波器21からの超音波の単体魚に対する入射角度に依存している。
図6は、入射角度と反射率の一例を示す。
図6の例では、例えば入射角が-17度付近で最大の反射率となる。連続するエコーレベルは位置ならびに姿勢角度に依存した変化となる。
【0031】
魚らしさの評価基準として、連続するピング間のエコー振幅の変化がある基準範囲内であることが使用される。上述したように、魚の反射は鰾がメインで、鰾への超音波の入射角度に依存してTSが変化する。したがって、連続するエコーレベルは位置ならびに姿勢角度に依存した変化となる。連続ピングでのエコー振幅はある一定の法則に従って変化する。例えば、鰾がメインの反射となる魚の場合、連続するピングで増加、減少、最大をもつパターンのいずれかとなる。また、鰾と魚眼などの場合、連続するピングで2つの振幅のピークを持つパターンになる。例えば、連続するピングでのエコーレベルの変化が一様に上昇、下降、ピークをもつパターンに近いかで魚らしさが評価可能である。
【0032】
図7に示すように、複数の魚が同じ深度で直線上(矢印方向)に遊泳している場合、深度変化の規則性によって魚らしさを検出するようになされる。
図8Aは、横軸が連続するピングを示し、縦軸がエコー振幅を示す。
図8Bは、横軸が
図8Aと同様の連続するピングを示し、縦軸が深度を示す。連続するピングでの深度変化がある基準範囲内であることを魚らしさと評価する。魚が直進で泳いでいる場合には、連続するピングでの深度変化が双曲線上になっている。したがって、深度変化が双曲線に近いかを評価し、魚らしさの指標とする。また、深度変化を魚かどうかの判定指標として使用する場合には、動揺補正を行った後の深度を使用してもよい。
【0033】
次に、本発明の密度計算について説明する。本発明の説明に先立って従来の密度計算について説明する。密度はエコー積分法で得られた値を体積で割り算し、密度を計算するようになされる。
図9に示すように、送受波器の指向角度θから計算される円錐形の例えば1mごとにその体積が計算される。(底面積S1×深度D×(1/3))によって体積が計算される。1m深い位置の体積は、(底面積S2×深度(D+1)×(1/3))によって体積が計算される。両者の差が体積vとなる。底面積は、指向角θで決まる半径によって計算される。
【0034】
エコー積分法は、単位深度ごとに魚群からの反射強度を平均的なTS(一個体の魚の反射強度)で割ることによって分布密度を計算する方法である。魚単体を検出する場合でも、単位深度ごとに検出された魚単体数を体積で割り算することで密度が計算される。円錐形は振動子の形状が円形の場合であり、振動子の形状が四角の場合は四角錐となる。体積は、振動子の形状によってあらわされる指向角度から計算される。
【0035】
従来の密度計算方法は、深度が深い場合、距離減衰によりエコーレベルが小さくなり、指向特性通りの魚を検出できない問題があった。第2の問題点として、船などの移動体による調査の場合、魚の動きに対して船速が速い場合、その速度分の体積を換算する必要がある。しかしながら、従来の方法は、その点を考慮していなかった。第3の問題点として、深度が浅い場合、円錐形の体積が小さいため、密度を過大評価する。魚からのエコーの主は鰾(例えば90%)であるが、体表等の反射も寄与している。従来では、魚の位置は点の反射体として計算しており、魚の大きさが考慮されていなかった。
【0036】
本発明は、これらの問題点を解消するものである。
図10を参照して、第1の問題点を解決することができる本発明の第1の方法について説明する。第1の方法は、エコーレベル、ノイズレベル、距離減衰を使って、魚として検出できる指向角度を深度ごとに計算し、その指向角度に基づいて体積を計算し、密度を計算するもので、精度が向上するものである。
【0037】
従来手法は、送受波器の指向角度θから計算される円錐形で、例えば1mごとにその体積が計算される(
図10A)。エコーレベルELは、次のソナー方程式で表される。
EL=SL-2TL+TS
検出閾値をDT、ノイズレベルをNL、指向特性をDIとしたときに以下の式を満たすときに検出が可能となる。
DT≦SL-2TL+TS-(NL-DI)
EL:エコーレベル
DT:検出閾値
SL:送信レベル
TL:海中の伝搬損失(距離に依存して減衰)
TS:目標のターゲット・ストレングス
DI:指向特性→円形の場合はベッセル関数で近似
NL:雑音レベル
魚検出できる最小のエコーレベルEL0は以下の式で計算される。
EL0=NL-DI+DT
【0038】
上式からエコーレベルEL(=SL―2TL+TS)が魚検出できる最小のエコーレベルEL0より大きい場合、魚として検出可能である。しかしながら、深い深度の場合、伝搬損失TL、指向特性DI、雑音レベルNLによりエコーレベルELがEL0より小さい場合、検出できない。体積はその深度に存在する魚のTS、海中の伝搬損失TL,そして雑音レベルNLにより決定される。本発明の第1の方法は、その深度における魚のTS、海中の伝搬損失TL、雑音レベルNL、検出閾値DTに基づいて、魚として検出できる各深度における指向特性DIの値を計算し、指向角度θ’を計算する。
図10Bに示すように、深度ごとに指向角度θ’によって計算された体積に基づいて密度を計算する。
【0039】
図11は、指向角度θ' の一例である。縦軸が深度を示し、横軸が指向角度θ' を示す。深度が0の位置(すなわち、観測点(振動子)の位置)の指向角度θ' が例えば5度とされており、深くなるほど指向角度θ' が小となる。
【0040】
図12は、第2の問題点を説明するための図である。調査船が移動することによって、調査エリアは時間とともに変化する。特に対象生物の動きに比べて、船速が速い場合、移動距離分を含めて体積換算しないと過大評価になる可能性がある。例えば、単位時間ごとに検出された魚体数から密度を計算する場合を考える。ここで、単位時間を1秒として、船速10ノット(5.14m/s)とすると、単位時間当たりで5.14m動いたことになる。したがって、円錐形に船速分から計算される立方体の体積を追加した体積に基づいて密度を計算し、密度を計算する。
【0041】
図13A及び
図13Bは、第3の問題点とこの問題点を解決する第3の方法を説明するための図である。
図13Aに示す従来の方法において、送受波器の指向角度θから計算される円錐形で、例えば1mごとにその体積を計算する場合、魚の位置は点の反射体として計算しており、魚の大きさは考慮されていない。実際には、体表等の反射も寄与している。したがって、深度が浅くて円錐形の体積が小さい場合には、密度を過大評価する問題が生じる。本発明の第3の方法は、
図13Bに示すように、魚の大きさを考慮して体積を増やし、補正した体積によって、密度を計算する。すなわち、魚体長分Lだけ、各深度における半径を追加し、体積を計算し、検出された魚体数を体積で割り算し密度を計算する。第3の方法によって、精度を向上することができる。
【0042】
上述した本発明の第1の方法、第2の方法及び第3の方法を組み合わせてもよい。例えば第1の方法と第3の方法を組み合わせたり、第2の方法と第3の方法を組み合わせたりしてもよい。
【0043】
密度計算部14は、例えば第1の方法によって密度を求めるものである。密度計算部14の処理について
図14のフローチャートを参照して説明する。単体魚検出部13の上述した処理によって、検出された魚単体ことに時間、深度、TS、魚体長の情報が付与される(ステップS31)。次のステップS32において、単位時間、単位深度ごとに、検出された魚の尾数がカウントされる。加えて、ここの魚のTSを用いて平均TSを計算する。単位時間、例えば10秒とし、単位深度を例えば1mとする。この値は適宜変更してよい。
【0044】
ステップS33において、各深度範囲で指向角度(体積)が評価される。そして、ステップS34において、各深度範囲で尾数と指向角度から密度が計算される。すなわち、上述したように、雑音レベルNLから魚検出できる最小のエコーレベルELが計算され、各深度における指向特性DIの値が計算され、指向角度θ’が計算される。
【0045】
ステップS34において、計算された指向角度θ’によって各深度における体積が計算され、尾数を体積で割り算することで、深度ごとの密度が計算される。
【0046】
上述した本発明の第2の方法を実施するためには、観測点の動き分だけ体積を増やすようになされる。また、本発明の第3の方法を実施するためには、魚の大きさ分だけ体積を増やすようになされる。
【0047】
以上、本発明の実施形態について具体的に説明したが、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づく各種の変形が可能である。例えば、上述の実施形態において挙げた構成、方法、工程、形状、材料及び数値などはあくまでも例に過ぎず、必要に応じてこれと異なる構成、方法、工程、形状、材料及び数値などを用いてもよい。例えば本発明は、魚に限らず水中内の探知の対象物例えばマイクロプラスティックの検出及び密度計算に対しても適用することができる。
【符号の説明】
【0048】
11・・・エコー信号受信部、12・・・演算部、13・・・単体魚検出部、
14・・・密度計算部、15・・・表示部