(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ペプチド及びその使用
(51)【国際特許分類】
C07K 14/00 20060101AFI20240201BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240201BHJP
A61K 45/00 20060101ALI20240201BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20240201BHJP
A61K 49/14 20060101ALI20240201BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20240201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240201BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20240201BHJP
G01N 33/574 20060101ALI20240201BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240201BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
C07K14/00
C12N15/63 Z
A61K45/00
A61K49/00
A61K49/14
A61K51/08
A61P35/00
A61K47/42
G01N33/574 D
G01N33/53 U
C12N15/11 Z ZNA
(21)【出願番号】P 2021508848
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 JP2020007917
(87)【国際公開番号】W WO2020195504
(87)【国際公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-11-24
(31)【優先権主張番号】P 2019057966
(32)【優先日】2019-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、次世代がん医療創生研究事業、「残存病変、転移・再発巣を掃討する腫瘍高度集積性PDC(peptide drug conjugate)の開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】304027279
【氏名又は名称】国立大学法人 新潟大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】近藤 英作
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 憲
【審査官】大西 隆史
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/086090(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/034356(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
C12N 15/00-15/90
A61K 38/00-51/12
A61P 1/00-43/00
G01N 33/48-33/98
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
【数1】
(一般式(I)中、X
11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である。
(a)配列番号
1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号
1に示されるアミノ酸配列において、
N末端から1番目のリシンがグリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、セリン又はトレオニンへ置換されたアミノ酸配列;
Y
11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である。
X
12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
n11は0以上9以下の整数であ
り、n11が2以上の場合、複数の(Y
11
-X
12
)はタンデムに連結される。)
【請求項2】
前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基又はセリン残基である、請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
Y
11
はアミノ酸数1以上5以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーである、請求項2に記載のペプチド。
【請求項4】
前記Y
11がアミノ酸数1以上10以下のグリシン残基からなるペプチドリンカーである、請求項1に記載のペプチド。
【請求項5】
前記n11が
0以上8以下の整数である、請求項
1~4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項6】
前記X
11及び前記X
12が同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基である、請求項1~
4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項7】
配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる、請求項1~4のいずれか一項に記載のペプチド。
【請求項8】
配列番号2、配列番号3、配列番号4、又は配列番号6に示されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
【請求項9】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のペプチドをコードする、核酸。
【請求項10】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のペプチド及び生理活性物質を含む、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート。
【請求項11】
請求項
10に記載のペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む、医薬組成物。
【請求項12】
スキルス癌治療用である、請求項
11に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記生理活性物質が抗がん剤である、請求項
11又は12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
請求項1~
4のいずれか一項に記載のペプチド及び標識物質を含む、標識ペプチド。
【請求項15】
前記標識物質がビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質である、請求項
14に記載の標識ペプチド。
【請求項16】
請求項
14又は15に記載の標識ペプチドを含む、イメージング組成物。
【請求項17】
スキルス癌用である、請求項
16に記載のイメージング組成物。
【請求項18】
スキルス癌診断用である、請求項
16又は17に記載のイメージング組成物。
【請求項19】
請求項
9に記載の核酸及び生理活性物質をコードする核酸を有する、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター。
【請求項20】
請求項
9に記載の核酸及び標識物質をコードする核酸を有する、標識ペプチド発現ベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペプチド及びその使用に関する。具体的には、本発明は、スキルスがんに含まれるがん関連線維芽細胞及び間葉系幹細胞のうち少なくともいずれかの細胞への高度の集積性を有するペプチド、前記ペプチドをコードする核酸、前記ペプチドを含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート、前記ペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む医薬組成物、前記ペプチドを含む標識ペプチド、前記標識ペプチドを含むイメージング組成物、並びに、前記核酸を有する、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター及び標識ペプチド発現ベクターに関する。本願は、2019年3月26日に、日本に出願された特願2019-057966号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
超高齢化社会が到来した本邦で現在悪性新生物は主要死因の第一位を占め、成人の2人に1人が罹患している。その悪性腫瘍の中でも現行の抗がん剤治療に抵抗性を示し、難治がんとして解決が切望されているのが「スキルスがん(硬癌)」である。腫瘍組織の病理像から、膵がん、胃がん、大腸がん、乳がんの亜型等がこの予後不良を示すスキルスタイプの癌の代表として認識されている。
【0003】
スキルス癌は、現在もなお治療が困難で生存率が最も低い難治タイプのがんとしてがん臨床医にはよく認識されている。日本では年間約1万8000人が膵臓がん、約4万5000人が胃がん(うち10%がスキルスタイプ)と診断され、膵臓がんによる死者は年間1万9000人以上、スキルス胃がんの5年生存率は10%以上20%以下程度と予後不良である。全国膵癌登録調査報告(1999年度)によると、膵癌の切除できた症例は全症例の39%で、その5年生存率は13%という厳しい現実がある。即ち、スキルス癌は、世界的に見ても現行医療の中で早急に解決を希求される高悪性度腫瘍といえる。
【0004】
スキルス癌の治療が困難な理由の一つに、膵がんや胃がんでは早期発見が現行の臨床技術上難しく、大多数の症例で発見時には手術適応外又は転移巣を形成した進行例となっていることが挙げられる。治療が困難な別の理由としては、スキルス癌は治療学的に抵抗性の性質を有する点にある。これは高度に発達した線維性のがん間質(ストローマ)が抗がん剤浸透や放射線治療に対する物理的なバリアとなっていることが挙げられる。また、この豊富ながん間質が癌細胞との生物学的相互反応を起こし、癌細胞の増殖や浸潤及び転移を促進するためにスキルス癌の体内での進展は速く、生物学的高悪性度を示す所以である。このがん間質の構成主成分は、がん関連線維芽細胞(Cancer-associated fibroblast;CAF)とされており、現在までの研究により、CAFの重要なソース(細胞起源)は少なくとも一部はがん組織に混入する間葉系幹細胞(Mesencymal stem cell; MSC)であることが知られている。また、膵がん等ではがん細胞周囲を取り巻く豊富な間質部分における血管の発達が未熟であり、抗がん剤の血管を介した腫瘍組織内での拡散効果(Enhanced permeation and retention; EPR効果)が十分に期待できないことから薬剤投与における治療効果が希薄であり、この厚く発達するがん間質の制御が同タイプのがんでの大きな解決課題となっている。
【0005】
ところで、ペプチドをバイオマテリアルとして活用した医療分野での動向において、Tat、Penetratin、poly-arginin等の細胞膜透過性(細胞吸収性)ペプチドが着目されている。しかしながら、これらのペプチドは、正常細胞又は正常組織と腫瘍細胞又は腫瘍組織との区別なく広汎且つ非選択的に吸収される。そのため、標的選択的な薬剤輸送を要求する、固形がんをはじめとする患者悪性腫瘍の治療DDS(Drug delivery system)ツールに応用することは、重篤な副作用を惹起する点で利用困難である。特に、世界的に実験系で汎用されているTat等の細胞膜透過性(細胞吸収性)ペプチドは、肝臓に集積を引き起こす性質が知られている(例えば、非特許文献1参照)。
【0006】
これに対して、cyclic RGDは、唯一医薬化されているペプチドである。cyclic RGDは、新生血管又は既存血管を構成する血管内皮細胞(及び一部の腫瘍細胞)で高発現することが報告されているαvβ3インテグリンを標的としており、血管透過性亢進にその作用点を持っており、EPR効果(血管を介する物質の拡散効果)の増強による薬剤輸送効果を期待できる。そのため、cyclic RGD単独ではなく、他の医薬との同時併用の形でイメージング剤やDDS剤として応用されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、cyclic RGDのがん細胞自身への浸透性及び作用は非常に低く、あくまでも血管を介する薬剤の拡散効果を主としており、腫瘍組織の構築(血管の発達及び分布)に大きく依存するシステムである。これらのことから、がん細胞自身の直接的な殺傷による制がん治療を目的とした場合には十分な効果が期待できない。
【0007】
以上のような課題を解決するために、発明者らは、これまで、膵癌細胞又は膵癌組織に直接作用し、高度にシフトした吸収性により直接腫瘍に作用する(取り込まれる)ペプチドを開発している(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
しかしながら、正常細胞及び正常組織への吸収を最小限化し、同時に多量のCAFが増殖するスキルス癌組織に高度にシフトした吸収性を発揮する短鎖型ペプチドは未だ開発されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第5721140号公報
【文献】国際公開第2017/086090号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Vives E., et al., A Truncated HIV-1 Tat Protein Basic Domain Rapidly Translocates through the Plasma Membrane and Accumulates in the Cell Nucleus, J. Biol. Chem., 272, 16010-16017, 1997.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、CAFに選択的に集積する新規のペプチド、前記ペプチドをコードする核酸、前記ペプチドを含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート、前記ペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む医薬組成物、前記ペプチドを含む標識ペプチド、前記標識ペプチドを含むイメージング組成物、並びに、前記核酸を有する、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター及び標識ペプチド発現ベクターを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、がん組織に移動し腫瘍内でCAFに分化を遂げる間葉系幹細胞に高度にシフトした吸収性を有するペプチドを同定し、当該ペプチドが正常細胞及び正常組織への吸収性を抑えながら、腫瘍組織内でMSCから分化を遂げるCAFに選択的に高度集積性を発揮することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係るペプチドは、以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなる。
【0014】
【0015】
(一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である。
(a)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である。
X12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
n11は0以上9以下の整数である。)
【0016】
前記Y11がアミノ酸数1以上10以下のグリシン残基からなるペプチドリンカーであってもよい。
前記n11が1以上4以下の整数であってもよい。
前記X11及び前記X12が同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基であってもよい。
上記第1態様に係るペプチドは、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなってもよい。
【0017】
本発明の第2態様に係る核酸は、上記第1態様に係るペプチドをコードする。
【0018】
本発明の第3態様に係るペプチド-ドラッグ-コンジュゲートは、上記第1態様に係るペプチド及び生理活性物質を含む。
【0019】
本発明の第4態様に係る医薬組成物は、上記第3態様に係るペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む。
上記第4態様に係る医薬組成物は、スキルス癌治療用であってもよい。
前記生理活性物質が抗がん剤であってもよい。
【0020】
本発明の第5態様に係る標識ペプチドは、上記第1態様に係るペプチド及び標識物質を含む。
前記標識物質がビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質であってもよい。
【0021】
本発明の第6態様に係るイメージング組成物は、上記第5態様に係る標識ペプチドを含む。
上記第6態様に係るイメージング組成物は、スキルス癌用であってもよい。
上記第6態様に係るイメージング組成物は、スキルス癌診断用であってもよい。
【0022】
本発明の第7態様に係るペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクターは、上記第2態様に係る核酸及び生理活性物質をコードする核酸を有する。
【0023】
本発明の第8態様に係る標識ペプチド発現ベクターは、上記第2態様に係る核酸及び標識物質をコードする核酸を有する。
【0024】
また、本発明の他の態様は、以下のとおりである。
(1) 以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなる、ペプチド。
【0025】
【0026】
(一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である。
(a)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である。
X12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
n11は0以上9以下の整数である。)
【0027】
(2) 前記Y11がアミノ酸数1以上10以下のグリシン残基からなるペプチドリンカーである、(1)に記載のペプチド。
(3) 前記n11が1以上4以下の整数である、(1)又は(2)に記載のペプチド。
(4) 前記X11及び前記X12が同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基である、(1)~(3)のいずれか一つに記載のペプチド。
(5) 配列番号5に示されるアミノ酸配列からなる、(1)~(4)のいずれか一つに記載のペプチド。
(6) (1)~(5)のいずれか一つに記載のペプチドをコードする、核酸。
(7) (1)~(5)のいずれか一つに記載のペプチド及び生理活性物質を含む、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート。
(8) (7)に記載のペプチド-ドラッグ-コンジュゲートを含む、医薬組成物。
(9) スキルス癌治療用である、(8)に記載の医薬組成物。
(10) 前記生理活性物質が抗がん剤である、(8)又は(9)に記載の医薬組成物。
(11) (1)~(5)のいずれか一つに記載のペプチド及び標識物質を含む、標識ペプチド。
(12) 前記標識物質がビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質である、(11)に記載の標識ペプチド。
(13) (11)又は(12)に記載の標識ペプチドを含む、イメージング組成物。
(14) スキルス癌用である、(13)に記載のイメージング組成物。
(15) スキルス癌診断用である、(13)又は(14)に記載のイメージング組成物。
(16) (6)に記載の核酸及び生理活性物質をコードする核酸を有する、ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート発現ベクター。
(17) (6)に記載の核酸及び標識物質をコードする核酸を有する、標識ペプチド発現ベクター。
【発明の効果】
【0028】
上記態様のペプチドによれば、CAFに選択的に集積する新規のペプチドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】実施例1における各ペプチドを添加したヒト間葉系幹細胞(hMSC)の蛍光像である。スケールバーは20μmである。
【
図2】実施例2における各ペプチドを添加した各細胞の蛍光像(左)、並びに蛍光像及び位相差顕微鏡像を重ね合わせた画像(右)である。スケールバーは50μmである。
【
図3】実施例3におけるFITC-MSCPP106を添加した各細胞の蛍光像及び位相差顕微鏡像である。スケールバーは50μmである。
【
図4】実施例4における各ペプチドの分解耐性を比較したグラフである。
【
図5A】実施例5における[FAM]-tandem MSCPP106を添加したBxPC3細胞及びhMSCの共培養物の位相差顕微鏡像及び蛍光像である。
【
図5B】実施例5における[FAM]-tandem MSCPP106を添加したCapan-2細胞及びhMSCの共培養物の位相差顕微鏡像及び蛍光像である。
【
図6】実施例6における[FAM]-tandem MSCPP106を添加したhMSCの位相差顕微鏡像及び蛍光像である。
【
図7A】実施例7におけるスキルス癌モデルマウスの全身画像である。
【
図7B】実施例7におけるスキルス癌モデルマウスから摘出された各組織及び各腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
【
図7C】実施例7におけるスキルス癌モデルマウスから摘出された各腫瘍組織のヘマトキシリン-エオジン(HE)染色像、明視野像及び蛍光像である。
【
図8A】実施例8におけるマウスの皮下腫瘍のHE染色像である。
【
図8B】実施例8におけるマウスの皮下腫瘍の抗ヒトFAPα抗体及び抗ヒトαSMA抗体を用いた蛍光免疫染色像である。
【
図8C】実施例8におけるマウスの皮下腫瘍の位相差顕微鏡像及び蛍光像である。
【
図9A】実施例9におけるマウスの皮下腫瘍のHE染色像である。
【
図9B】実施例9における各ペプチドを投与したマウスの皮下腫瘍の蛍光像である。
【
図9C】実施例9における[FAM]-tandem MSCPP106を投与したマウスの皮下腫瘍の蛍光像である。
【
図9D】実施例9におけるマウスの皮下腫瘍の抗ヒトCD73抗体を用いた蛍光免疫染色像である。
【
図9E】実施例9におけるマウスの皮下腫瘍の抗PD-L1抗体、抗PD-L2抗体及び抗SMAα抗体を用いた蛍光免疫染色像である。
【
図10A】実施例10における腹腔腫瘍のHE染色像である。
【
図10B】実施例10における腹腔腫瘍の蛍光像である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
≪CAFへの集積性を有するペプチド≫
本実施形態のペプチドは、以下の一般式(I)に示されるアミノ酸配列からなる。
【0031】
【0032】
(一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列(以下、「アミノ酸配列(I)」と称する場合がある)からなるペプチド残基である。
(a)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列;
Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基は、それぞれ独立して、グリシン残基、プロリン残基、セリン残基、システイン残基又はリシン残基である。
X12は、前記(a)若しくは前記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
n11は0以上9以下の整数である。)
【0033】
スキルス癌の一つである膵がん組織はがん細胞による浸潤性胞巣と厚く発達する間質により構成されており、この間質を駆逐すると腫瘍は崩壊する。このことから、がん間質を標的とした治療が検討されている。発明者らは、がん間質に含まれるがん関連線維芽細胞(CAF)に着目し、後述する実施例に示すように、癌組織内でCAFに分化することが知られている間葉系幹細胞(MSC)に集積性を有するペプチドを同定し、当該ペプチドが正常細胞及び正常組織への吸収性を抑えながら、スキルス癌組織中のCAFに選択的に集積することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0034】
本明細書において、「スキルス癌」とは、悪性腫瘍にみられる線維芽細胞を主成分とする間質細胞に富んだ組織形態を示す癌の一種で、豊富な間質を背景に伴いながら癌細胞が瀰漫(びまん)性に浸潤していくものを指す。硬癌(こうがん)ともいう。
スキルス癌として具体的には、例えば、浸潤性膵管癌、胃低分化型腺癌、浸潤性乳管癌、びまん性浸潤型大腸癌等が挙げられる。
CAFの発達が顕著な癌腫としてスキルス癌が挙げられるが、CAFはヒト生体に発生するあらゆる癌腫の組織中にその多寡にかかわらず必ず内包される細胞成分である。そのため、本実施形態のペプチドは、スキルス癌への適用を主眼としているが、実際にはすべての癌腫に対し汎用的に適用可能なペプチドである。
【0035】
本明細書において、「CAFへの高度の集積性」とは、生体内の正常組織及び他の系統の悪性腫瘍細胞と比較して、CAF又はがん間質内に高度に吸収され、集積する性質を意味する。また、本実施形態のペプチドは、後述する実施例に示すように、CAFの細胞起源となるMSCにも高度に吸収され、集積する。そのため、本実施形態のペプチドは、CAF、MSC及びこれらを含むがん間質内に高度に吸収され、集積するペプチドといえる。
【0036】
<アミノ酸配列(I)>
アミノ酸配列(I)は、以下の一般式(I)に示される配列である。
【0037】
【0038】
[X11]
一般式(I)中、X11は以下の(a)又は(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基である。
(a)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【0039】
上記(a)における配列番号1、2、3又は4に示されるアミノ酸配列は、下記のアミノ酸配列である。
KCAELFRHL(配列番号1)
WPPLQRWRN(配列番号2)
RTHPVWSRT(配列番号3)
RRWMQWPWH(配列番号4)
【0040】
一般式(I)中、X11は、上記(a)のアミノ酸配列からなるペプチド残基と機能的に同等なペプチド残基として、下記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基であってもよい。
(b)配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列において、1又は2個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列
【0041】
なお、本明細書中において、「置換」とは、化学的に同様な側鎖を有する他のアミノ酸残基で置換することを意味する。化学的に同様なアミノ酸側鎖を有するアミノ酸残基のグループは、本実施形態の製造方法で得られるポリペプチドの属する技術分野でよく知られている。例えば、酸性アミノ酸(アスパラギン酸及びグルタミン酸)、塩基性アミノ酸(リシン、アルギニン及びヒスチジン)、中性アミノ酸においては、炭化水素鎖を持つアミノ酸(グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン及びプロリン)、ヒドロキシ基を持つアミノ酸(セリン及びスレオニン)、硫黄を含むアミノ酸(システイン及びメチオニン)、アミド基を持つアミノ酸(アスパラギン及びグルタミン)、イミノ基を持つアミノ酸(プロリン)、芳香族基を持つアミノ酸(フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファン)等で分類することができる。一般的に起こり得るアミノ酸の置換としては、例えば、アラニン/セリン、バリン/イソロイシン、アスパラギン酸/グルタミン酸、トレオニン/セリン、アラニン/グリシン、アラニン/トレオニン、セリン/アスパラギン、アラニン/バリン、セリン/グリシン、チロシン/フェニルアラニン、アラニン/プロリン、リシン/アルギニン、アスパラギン酸/アスパラギン、ロイシン/イソロイシン、ロイシン/バリン、アラニン/グルタミン酸、アスパラギン酸/グリシン等が挙げられる。
【0042】
より具体的には、例えば、配列番号1に示されるアミノ酸配列において、N末端から1番目のリシンがグリシン、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、セリン又はトレオニン、C末端から1番目のロイシンがグリシン、アラニン、イソロイシン、プロリン又はバリン等への置換が想定される。
【0043】
また、上記(a)又は上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基は、L-アミノ酸、D-アミノ酸、又は、これらの組み合わせからなるものであってもよい。中でも、X11はL-アミノ酸からなるペプチド残基であることが好ましい。
L-アミノ酸は、天然に存在するアミノ酸であり、D-アミノ酸は、L-アミノ酸残基のキラリティーが反転しているものである。また、CAF又はMSCを含むがん間質への高度の集積性を高めるために、又は、他の物性を最適化するために上記(a)又は上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基を構成するアミノ酸残基は、メチル化や糖鎖の付加等の化学的修飾を受けていてもよい。
【0044】
[X12]
一般式(I)中、X12は、上記(a)若しくは上記(b)のアミノ酸配列からなるペプチド残基、又は、それらのレトロインバーソ型ペプチド残基である。
本明細書において、「レトロインバーソ型ペプチド残基」とは、アミノ酸配列が逆転し、且つ、鏡像異性体アミノ酸残基によって置換されているペプチド残基を意味する。
【0045】
中でも、CAF又はMSCを含むがん間質への高度の集積性をより高める観点から、X12は、X11と同一のアミノ酸配列からなるペプチド残基であることが好ましい。又は、生体内でのより優れた分解耐性を発揮する観点から、X12は、X11のレトロインバーソ型ペプチド残基であることが好ましい。
【0046】
[Y11]
一般式(I)中、Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーである。Y11におけるアミノ酸数は、1以上5以下であり、1以上3以下が好ましく、1がより好ましい。
中でも、Y11はアミノ酸数1以上10以下のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基はそれぞれ独立して、グリシン残基、システイン残基又はリシン残基であることが好ましく、アミノ酸数1のアミノ酸残基からなるペプチドリンカーであって、前記アミノ酸残基はグリシン残基、システイン残基又はリシン残基であることがより好ましい。Y11を構成する前記アミノ酸残基がシステイン残基又はリシン残基である場合には、システイン残基のチオール基(-SH)又はリシン残基の側鎖を介して、後述する目的物質を共有結合により本実施形態のペプチドに結合させることができる。
【0047】
[n11]
一般式(I)中、n11は0以上9以下の整数であり、0以上8以下の整数が好ましく、0以上6以下の整数がより好ましく、1以上4以下の整数がさらに好ましく、1以上3以下の整数が特に好ましく、1以上2以下の整数が最も好ましい。
n11が2以上である場合に、複数存在するY11及びX12はそれぞれ同一であってもよく、異なっていてもよいが、合成しやすいことから、同一であることが好ましい。
【0048】
本実施形態のペプチドにおいて、好ましいアミノ酸配列(I)として具体的には、例えば、上記配列番号1~4のいずれかに示されるアミノ酸配列、下記配列番号5又は6に示されるアミノ酸配列等が挙げられる。なお、これらのアミノ酸配列は、好ましいアミノ酸配列(I)の一例に過ぎず、好ましいアミノ酸配列(I)はこれらに限定されない。配列番号6に示されるアミノ酸配列において、N末端から2番目及び12番目の「mC」とは、メチル化システイン残基を示す。
【0049】
KCAELFRHL-G-KCAELFRHL(配列番号5)
KmCAELFRHL-G-KmCAELFRHL(配列番号6)
【0050】
中でも、本実施形態のペプチドとしては、後述する実施例に示すとおり、N末端から2番目及び12番目のシステイン残基がCAFへの集積性に重要であることから、配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドであることが好ましい。
【0051】
<ペプチドの製造方法>
本実施形態のペプチドは、化学合成法によって製造してもよく、或いは生物学的方法によって製造してもよい。化学合成法としては、例えば、ペプチド固相合成法(Boc固相合成法、Fmoc固相合成法等)等が挙げられる。生物学的方法としては、例えば、上記ペプチドをコードする核酸を有する発現ベクターによる無細胞ペプチド合成系や生細胞ペプチド合成系を用いた方法等が挙げられる。無細胞ペプチド合成系及び生細胞ペプチド合成系についての詳細は後述する。
【0052】
<核酸>
本実施形態の核酸は、上記実施形態に係るペプチドをコードする核酸である。
【0053】
本実施形態の核酸によれば、CAF又はMSCを含むがん間質への高度の集積性を有するペプチドを得られる。
【0054】
上記のペプチドをコードする核酸としては、例えば、配列番号7~11のいずれかに示される塩基配列からなる核酸、又は、配列番号7~11のいずれかに示される塩基配列と80%以上、例えば85%以上、例えば90%以上、例えば95%以上の同一性を有し、CAF又はMSCを含むがん間質への高度の集積性を有するペプチドの構成分となる各アミノ酸をコードする組み合わせの塩基配列のいかなるものも含めた核酸等が挙げられる。なお、配列番号7に示される塩基配列は、上記の配列番号1に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。配列番号8に示される塩基配列は、上記の配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。配列番号9に示される塩基配列は、上記の配列番号3に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。配列番号10に示される塩基配列は、上記の配列番号4に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。配列番号11に示される塩基配列は、上記の配列番号5に示されるアミノ酸配列からなるペプチドをコードする核酸の塩基配列である。
【0055】
ここで、基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式にしたがって、配列同一性を求めることができる。
【0056】
「配列同一性(%)」 = [一致した塩基数]/[対象塩基配列の総塩基数]×100
【0057】
本実施形態の核酸は、ベクターに含まれる形であってもよい。
ベクターとしては、タンパク質発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に限定されず、例えば、大腸菌由来のプラスミド、枯草菌由来のプラスミド、酵母由来プラスミド、バクテリオファージ、ウイルスベクター及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。大腸菌由来のプラスミドとしては、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等が挙げられる。枯草菌由来のプラスミドとしては、例えば、pUB110、pTP5、pC194等が挙げられる。酵母由来プラスミドとしては、例えば、pSH19、pSH15等が挙げられる。バクテリオファージとしては、例えば、λファージ等が挙げられる。ウイルスベクターの由来となるウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等が挙げられる。
【0058】
上記発現ベクターにおいて、上記ペプチド発現用プロモーターとしては特に限定されず、動物細胞を宿主とした発現用のプロモーターであってもよく、植物細胞を宿主とした発現用のプロモーターであってもよく、昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーターであってもよい。動物細胞を宿主とした発現用のプロモーターとしては、例えば、EF1αプロモーター、SRαプロモーター、SV40プロモーター、LTRプロモーター、CMV(サイトメガロウイルス)プロモーター、HSV-tkプロモーター、CAGプロモーター等が挙げられる。植物細胞を宿主とした発現用のプロモーターとしては、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)の35Sプロモーター、REF(rubber elongation factor)プロモーター等が挙げられる。昆虫細胞を宿主とした発現用のプロモーターとしては、例えば、ポリヘドリンプロモーター、p10プロモーター等が挙げられる。これらプロモーターは、上記ペプチドを発現する宿主の種類に応じて、適宜選択することができる。
【0059】
上記発現ベクターは、さらに、マルチクローニングサイト、エンハンサー、スプライシングシグナル、ポリA付加シグナル、選択マーカー、複製起点等を有していてもよい。
【0060】
上記発現ベクターにおいて、上記ペプチドをコードする核酸の上流又は下流にgreen fluorescent protein(GFP)やグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)等のスタッファータンパク質(当該タンパク質自身は毒性が低く、また固有の機能を発揮しない)をコードする核酸や個別の目的遺伝子を付加することが好ましい。これにより、上記ペプチドがスタッファータンパク質融合した形の融合タンパク質をより効率的に生成することができる。また、細胞外へのタンパク質分泌型シグナルを持つ発現ベクターに組み込んだ場合には、上記ペプチドのアミノ酸配列が付加された形の融合タンパクを培養液中で生成させて、回収することができる。また、細胞内発現型ベクターの場合であっても同様のペプチド付加融合タンパク質を生成することができる。
【0061】
本実施形態の核酸を有する発現ベクターと、適当な宿主細胞を用いることにより、上記ペプチドを発現させることができる。
【0062】
<修飾物質>
本実施形態のペプチドは、後述する目的物質とは別に、修飾物質で修飾された形態であってもよい。修飾物質としては、例えば、糖鎖、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。また、修飾物質としては、例えば、リポソーム、ウイルス、デンドリマー、抗体(イムノグロブリン)、エクソソーム、ポリマーミセル等を用いてもよい。すなわち、本実施形態のペプチドは、リポソーム、ウイルス、エクソソーム、ポリマーミセルの表現に結合した形で、或いは、デンドリマーの側鎖部分に上記ペプチドが1個又は2個以上の複数個結合した形で、或いは、抗体(イムノグロブリン)と上記ペプチドとが結合した形で、用いることができる。
【0063】
デンドリマーとしては、例えば、ポリ(アミドアミン)(PAMAM)デンドリマー、ポリプロピレンイミンデンドリマー、ポリリシンデンドリマー、ポリフェニルエーテルデンドリマー、ポリフェニレンデンドリマー等が挙げられる。これらのデンドリマーを用いることで、上記ポリペプチドを数十価から百数十価まで一度にCAF又はがん間質内に送達することができる。
【0064】
また、本実施形態のペプチドは、上記修飾物質で修飾されていることで、目的物質(例えば、生理活性物質や標識物質)がCAF又はがん間質内に簡便且つ効率よく吸収されやすくなる。修飾物質で修飾された上記ペプチド(以下、「修飾ペプチド」と略記する場合がある)は、例えば、修飾物質と上記ペプチドとを直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製することができる。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、修飾物質の結合位置は、上記ペプチドのN末端又はC末端のいずれでもよい。また、上記ペプチドがリシン残基を含む場合、該リシン残基の側鎖部位に修飾物質を結合させてもよい。
【0065】
<目的物質>
対象となる目的物質としては、用途に応じて適宜選択することができ、例えば、CAF又はがん間質のイメージングのために使用する場合においては、後述するとおり、標識物質を目的物質として用いることができる。また、例えば、スキルス癌の治療用途で使用する場合においては、後述するとおり、生理活性物質(特に、抗がん剤)を目的物質として用いることができる。本実施形態のペプチドは、これら目的物質を1種単独で送達させることもでき、2種以上組み合わせて送達させることもできる。
目的物質は、上記ペプチドと、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合されていてよい。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。また、目的物質と本実施形態のペプチドとの結合位置は、必要に応じて適宜選択できる。さらに、物理的又は化学的な結合がない場合であっても、立体構造により他方がもう他方の動きを制限し共に動きうる状態にあるものも本実施形態においては結合された状態に含まれる。
【0066】
また、目的物質がタンパク質である場合、目的物質と上記ペプチドとを含む融合タンパク質は、例えば次のような方法により作製することができる。まず、融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを用いて、宿主を形質転換する。続いて、当該宿主を培養して融合タンパク質を発現させる。培地の組成、培養の温度、時間、誘導物質の添加等の条件は、形質転換体が生育し、融合タンパク質が効率よく産生されるよう、公知の方法に従って当業者が決定できる。また、例えば、選択マーカーとして抗生物質抵抗性遺伝子を発現ベクターに組み込んだ場合、培地に抗生物質を加えることにより、形質転換体を選択することができる。続いて、宿主が発現した融合タンパク質を適宜の方法により精製することにより、融合タンパク質が得られる。
【0067】
宿主としては、融合タンパク質をコードする核酸を含む発現ベクターを発現させることができる生細胞であれば特に制限されず、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株や、ウイルス(例えば、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス等)、細菌(例えば、大腸菌等)等の微生物、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等の生細胞が挙げられる。
【0068】
次いで、本実施形態のペプチドを含むペプチド-ドラッグ-コンジュゲート(PDC)、医薬組成物、標識ペプチド及びイメージング組成物について、以下に詳細を説明する。
【0069】
≪ペプチド-ドラッグ-コンジュゲート(PDC)≫
本実施形態のPDCは、上記ペプチド及び生理活性物質を含む。
【0070】
本実施形態のPDCによれば、がん(特に、スキルス癌)を選択的に治療することができる。
【0071】
本明細書において、「生理活性物質」としては、ヒト癌の治療に有効なものであれば、特別な限定はなく、例えば、抗がん剤等の薬剤、核酸、細胞増殖抑制又は細胞殺傷効果を有するタンパク質、癌細胞に特異的に結合する抗体又はその抗体断片、アプタマー等が挙げられる。
【0072】
例えば、上記抗体又はその抗体断片を、リンカー等の介在物質又はアミノ酸配列をスペーサーとして介在させて、上記ペプチドのN末端若しくはC末端に結合させる、又は、上記ペプチドを上記抗体又はその抗体断片のFcドメインのいずれかの部位若しくは複数の部位に結合させることで、抗体-ペプチド複合体を形成させることができる。この抗体-ペプチド複合体は、抗体の認識する細胞膜表面抗原への結合に加えて、上記ペプチドの認識する細胞膜表面受容体への結合を同時に可能とすることによって、目的とする細胞(本実施形態ではCAF)への送達機能を増強することができる。また、上記抗体又はその抗体断片が細胞内抗原に反応可能な短鎖抗体(ScFv;single-chain antibody)である場合は、ScFvをコードする核酸に、上記ペプチドをコードする配列を付加した発現ベクターを作製することで、目的とする細胞(本実施形態ではCAF)への送達機能を有する短鎖抗体の作成を可能とすることができる。
【0073】
「生理活性物質」としては、抗がん剤である細胞障害薬又は分子標的薬が好ましい。上記ペプチドは正常細胞又は正常組織と比較して、CAF又はがん間質に対して高度にシフトして吸収されるため、生理活性物質として、従来の抗がん剤として用いられている細胞障害薬を用いたPDCとした場合、かかる細胞障害薬を効率よくスキルス癌を構成する癌細胞又はがん間質に送達することができる。
【0074】
本実施形態のPDCは、スキルス癌の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドを更に含んでもよい。スキルス癌の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドを更に含むことで、例えば、抗がん作用を有する生理活性物質と共に投与される場合には、スキルス癌を構成する癌細胞及びがん間質の両者を掃討することができ、相乗的治療効果が得られる。スキルス癌の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドとしては、例えば、膵癌細胞又は膵癌組織への高度な集積性を有するペプチドである、特許文献2に記載のペプチド等が挙げられる。スキルス癌の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドは、上記修飾物質で修飾されていてもよい。
【0075】
生理活性物質と上記ペプチドとはコンジュゲートを形成して結合していることが好ましい。ここでいう「コンジュゲート」とは、2つ以上の物質が同時に動きうる状態を表し、その物質間が共有結合により結合しているもの、イオン結合により静電的に結合しているもの、又は、かかる結合が存在しない場合であっても立体構造により他方がもう他方の動きを制限し共に動きうる状態にあるものも含まれる。例えば上記ペプチドを表面に修飾したリポソーム、ウイルス、エクソソーム、ポリマーミセル等の中に生理活性物質が封入されているものも「コンジュゲート」を形成していることに含まれる。中でも、生理活性物質と上記ペプチドとの結合は、その作用部位に到達する前に生理活性物質が解離することを抑制するために、共有結合からなることが好ましい。
また、上記スキルス癌の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドも、生理活性物質、又は、上記ペプチド及び生理活性物質とコンジュゲートを形成していてもよい。
【0076】
生理活性物質と上記ペプチドとの共有結合の形成方法として具体的には、例えば、-OH、-SH、-CO2H、-NH2、-SO3H又は-PO2H等の官能基を有する又は導入された上記ペプチドの任意の部位で、生理活性物質と直接又はリンカーを介すことで、カップリング反応させる方法等が挙げられる。より具体的には、例えば、ペプチドには、SH基(チオール基)を導入し、生理活性物質には、マレイミド基(maleimide group)を導入した後、ペプチドのSH基と、生理活性物質のマレイミド基とを結合させることによって、ペプチドと生理活性物質とを結合させることができる。
【0077】
リンカーとしては、生理活性物質と上記ペプチドとの機能を保持し、上記ペプチドとともに細胞膜を透過し得るものであれば特に制限されない。リンカーとしては、具体的には、例えば、その長さが、通常1残基以上5残基以下、好ましくは1残基以上3残基以下程度のペプチド鎖や、同等の長さのポリエチレングリコール(PEG)鎖等が挙げられる。
【0078】
上記ペプチドと生理活性物質とのコンジュゲートに使用されるペプチドリンカーを構成するアミノ酸残基としては、電荷がなく、小分子のもの、例えばグリシン残基が好ましい。また、リンカー配列の端部、好ましくは両端部には、結合する両ドメイン(生理活性物質と上記ペプチド)に回転の自由度を与えるための配列を設けることが好ましい。具体的には、回転の自由度を与えるためにはグリシン(G)、リンカーとしてはプロリン(P)を含む配列が好ましく、さらに具体的には、グリシン残基とプロリン残基よりなるもの、例えば、グリシン(G)-プロリン(P)-グリシン(G)からなるものが特に好ましい。かかる構成とすることで、両ドメインの機能が発揮可能となる。或いは、共有結合を形成しやすいことから、リンカー配列の端部は、システイン(C)又はリシン(K)を含む配列が好ましい。システイン残基のチオール基(-SH)又はリシン残基の側鎖を介して、生理活性物質を上記ペプチドに結合させることができる。
【0079】
生理活性物質がタンパク質である場合に、当該生理活性物質と上記ペプチドとをコンジュゲートとする場合には、融合タンパク質として作製してもよい。上記ペプチドを付与する位置としては特に場所は限定されないが、上記ペプチドがタンパク質の外側に提示されており、かつ融合させたタンパク質の活性、機能への影響が低いことが好ましく、生理活性物質であるタンパク質のN末端又はC末端に融合させることが好ましい。融合させるタンパク質の種類としては特に限定されるものでは無いが、細胞膜を通過するために分子量が大きすぎる薬物は障害となるため、分子量は例えば500,000以下程度とすることができ、30,000以下程度とすることができる。
【0080】
生理活性物質として用いられるタンパク質は、抗体であってもよい。かかる抗体は、例えば、マウス等のげっ歯類の動物にがん(特に、スキルス癌)由来のペプチド等を抗原として免疫することによって作製することができる。また、例えば、ファージライブラリーのスクリーニングにより作製することができる。抗体は、抗体断片であってもよく、抗体断片としては、Fv、Fab、scFv等が挙げられる。
【0081】
生理活性物質として用いられる核酸としては、例えば、siRNA、miRNA、antisense、又は、それらの機能を代償する人工核酸等が挙げられる。
【0082】
生理活性物質として用いられるアプタマーとは、CAF又はがん間質に対する特異的結合能を有する物質である。アプタマーとしては、核酸アプタマー、ペプチドアプタマー等が挙げられる。CAF又はがん間質に特異的結合能を有する核酸アプタマーは、例えば、systematic evolution of ligand by exponential enrichment(SELEX)法等により選別することができる。また、CAF又はがん間質に対する特異的結合能を有するペプチドアプタマーは、例えば酵母を用いたTwo-hybrid法等により選別することができる。
【0083】
また、本実施形態のPDCにおいて、上記ペプチドは上述したように修飾物質で修飾されていてもよく、さらに標識物質を備えていてもよい。
【0084】
≪医薬組成物≫
本実施形態の医薬組成物は、上記PDCを含む。
【0085】
本実施形態の医薬組成物によれば、浸潤性膵管癌や胃低分化型腺癌等に豊富に発達するがん間質を標的としてスキルス癌を選択的に治療することができる。
【0086】
<組成成分>
本実施形態の医薬組成物は、治療的に有効量の上記PDC、及び薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む。薬学的に許容される担体又は希釈剤は、賦形剤、増量剤、崩壊剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、乳化剤、芳香剤、着色剤、甘味料、粘稠剤、矯味剤、溶解補助剤等が挙げられる。これら担体又は希釈剤の1種以上を用いることにより、注射剤、液剤、カプセル剤、懸濁剤、乳剤、又は、シロップ剤等の形態の医薬組成物を調製することができる。
【0087】
また、担体としてコロイド分散系を用いることもできる。コロイド分散系は、上記ペプチド又はPDCの生体内安定性を高める効果や、CAF又はがん間質へ、上記ペプチド又はPDCの移行性を高める効果が期待される。コロイド分散系としては、ポリエチレングリコール、高分子複合体、高分子凝集体、ナノカプセル、ミクロスフェア、ビーズ、水中油系の乳化剤、ミセル、混合ミセル、リポソームを包含する脂質を挙げることができ、CAF又はがん間質へ、上記ペプチド又はPDCを効率的に輸送する効果のある、リポソームや人工膜の小胞が好ましい。
【0088】
本実施形態の医薬組成物における製剤化の例としては、必要に応じて糖衣を施した錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤として経口的に使用されるものが挙げられる。
又は、水若しくはそれ以外の薬学的に許容される液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用されるものが挙げられる。
さらには、薬学的に許容される担体又は希釈剤、具体的には、ベヒクル(例えば、滅菌水や生理食塩水、植物油)、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、防腐剤、結合剤等と適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化されたものが挙げられる。
【0089】
錠剤又はカプセル剤に混和することができる担体又は希釈剤としては、例えば、結合剤、賦形剤、膨化剤、潤滑剤、甘味剤、香味剤等が用いられる。結合剤としては、例えば、ゼラチン、コーンスターチ、トラガントガム、アラビアゴム等が挙げられる。賦形剤としては、例えば、結晶性セルロース等が挙げられる。膨化剤としては、例えば、コーンスターチ、ゼラチン、アルギン酸等が挙げられる。潤滑剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム等が挙げられる。甘味剤としては、例えば、ショ糖、乳糖、サッカリン等が挙げられる。香味剤としては、例えば、ペパーミント精油、アカモノ油、チェリー香料等が挙げられる。調剤単位形態がカプセルである場合には、上記材料にさらに油脂のような液状担体を含有することができる。
【0090】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
注射用の水溶液ベヒクルとしては、例えば、生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬を含む等張液等が挙げられ、適当な溶解補助剤、非イオン性界面活性剤等と併用してもよい。その他の補助薬としては、例えば、D-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム等が挙げられる。溶解補助剤としては、例えば、アルコール等が挙げられる。アルコールとしては、例えば、エタノール、ポリアルコール等が挙げられる。ポリアルコールとしては、例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等が挙げられる。非イオン性界面活性剤としては、例えば、ポリソルベート80(登録商標)、HCO-50等が挙げられる。
【0091】
注射用の非水溶液のベヒクルとしてはゴマ油、大豆油等が挙げられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールと併用してもよい。また、注射用の油性液は、緩衝剤、無痛化剤、安定剤、酸化防止剤等をさらに配合してもよい。緩衝剤としては、例えば、リン酸塩緩衝液、酢酸ナトリウム緩衝液等が挙げられる。無痛化剤としては、例えば、塩酸プロカイン等が挙げられる。安定剤としては、例えば、ベンジルアルコール、フェノール等が挙げられる。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填させる。
【0092】
注射剤である場合、上記のような水性又は非水性の溶液剤、懸濁剤、又は、乳濁剤として調製することもできる。このような注射剤の無菌化は、フィルターによる濾過滅菌、殺菌剤等の配合により行うことができる。注射剤は、用時調製の形態として製造することができる。即ち、凍結乾燥法等によって、無菌の固体組成物とし、使用前に注射用蒸留水又は他のベヒクルに溶解して使用することができる。
【0093】
<投与量>
本実施形態の医薬組成物は、PDCに含まれる生理活性物質の種類、被検動物(ヒト又は非ヒト動物を含む各種哺乳動物、好ましくはヒト)の年齢、性別、体重、症状、治療方法、投与方法、処理時間等を勘案して適宜調節される。
例えば、本実施形態の医薬組成物を注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、例えば0.1mg以上1000mg以下程度の量のPDCを投与することができる。
【0094】
投与形態としては、例えば、動脈内注射、静脈内注射、皮下注射、鼻腔内的、腹腔内的、経気管支的、筋内的、経皮的、又は、経口的に当業者に公知の方法が挙げられ、静脈内注射又は腹腔内的投与が好ましい。
【0095】
<治療方法>
一実施形態において、本発明は、がん(特に、スキルス癌)の治療又は予防のための上記PDCを含む医薬組成物を提供する。上記PDCに含まれる上記ペプチドは、CAF又はMSCへ薬剤を集積させることができるため、スキルス癌に対する効果が最も期待されるが、CAFを含むあらゆる癌腫を対象に適用することができる。
【0096】
また、一実施形態において、本発明は、治療的に有効量の上記PDC、及び、薬学的に許容される担体又は希釈剤を含む医薬組成物を提供する。
【0097】
また、一実施形態において、本発明は、がん(特に、スキルス癌)の治療又は予防のための医薬組成物を製造するための上記PDCの使用を提供する。
【0098】
また、一実施形態において、本発明は、上記PDCの有効量を、治療を必要とする患者に投与することを含む、がん(特に、スキルス癌)の治療方法又は予防方法を提供する。
【0099】
≪標識ペプチド≫
本実施形態の標識ペプチドは、上記ペプチド及び標識物質を含む。
【0100】
標識物質としては、例えばビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、安定同位体、放射性同位体、蛍光物質、陽電子放射断層撮影(Positron Emission Tomography:PET)用核種、単一光子放射断層撮影(Single photon emission computed tomography:SPECT)用核種、核磁気共鳴画像法(Magnetic resonance imaging:MRI)造影剤、コンピューター断層撮影法(Computed Tomography:CT)造影剤、磁性体等が挙げられる。また、標識物質がタンパク質である場合、これらをコードする核酸を用いてもよい。中でも、安定同位体、放射性同位体又は蛍光物質が好ましい。上記標識物質を備えることで、目的物質がCAF又はMSCを含むがん間質まで送達されたか否かを簡便且つ高感度に確かめることができる。
【0101】
安定同位体としては、例えば13C(炭素13)、15N(窒素15)、2H(水素2)、17O(酸素17)、18O(酸素18)等が挙げられる。放射性同位体としては、例えば3H(水素3)、14C(炭素14)、13N(窒素13)、18F(フッ素18)、32P(リン32)、33P(リン33)、35S(硫黄35)、67Cu(銅67)、99mTc(テクネチウム99m)、123I(ヨウ素123)、131I(ヨウ素131)、133Xe(キセノン133)、201Tl(タリウム201)、67Ga(ガリウム67)等が挙げられる。標識物質が安定同位体又は放射性同位体である場合、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を用いて、上記ペプチドを作製してもよい。安定同位体又は放射性同位体で標識されるアミノ酸としては、20種類のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、バリン、トリプトファン、システイン、アスパラギン、グルタミン)であって、上記ペプチドに含まれるアミノ酸であれば特に限定されない。また、アミノ酸はL体であってもD体であってもよく、必要に応じて適宜選択することができる。
【0102】
標識物質が安定同位体又は放射性同位体である場合、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を用いて、上記標識ペプチドを作製してもよい。すなわち、本実施形態の標識ペプチドにおいて、「上記ペプチド及び標識物質を含む」という表現には、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸から構成された上記ペプチドの形態が包含される。
【0103】
安定同位体又は放射性同位体で標識されるアミノ酸としては、20種類のアミノ酸(アラニン、アルギニン、アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、リシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、スレオニン、チロシン、バリン、トリプトファン、システイン、アスパラギン、グルタミン)であって、上記ペプチドに含まれるアミノ酸であれば特に限定されない。また、アミノ酸はL体であってもよく、D体であってもよく、必要に応じて適宜選択することができる。
【0104】
安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を用いた、本実施形態の標識ペプチドの作製方法としては、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する系で発現させることにより調製することができる。安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する系としては、例えば安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の存在する無細胞ペプチド合成系や生細胞ペプチド合成系等が挙げられる。すなわち、無細胞ペプチド合成系において安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸に加えて安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸を材料としてペプチドを合成させることや、生細胞ペプチド合成系において、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターで形質転換した細胞を安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸存在下で培養することにより、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターから安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドを調製することができる。
【0105】
無細胞ペプチド合成系を用いた、本実施形態の標識ペプチドの作製方法としては、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターや上記の安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸の他に、安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドの合成のために必要な安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸、無細胞ペプチド合成用細胞抽出液、エネルギー源(ATP、GTP、クレアチンホスフェート等の高エネルギーリン酸結合含有物)等を用いて行うことができる。温度、時間等の反応条件は、適宜最適な条件を選択して行うことができ、例えば温度は20℃以上40℃以下とすることができ、23℃以上37℃以下が好ましい。また反応時間は1時間以上24時間以下とすることができ、10時間以上20時間以下が好ましい。
【0106】
本明細書において、「無細胞ペプチド合成用細胞抽出液」とは、リボソーム、tRNA等のタンパク質合成に関与する翻訳系、又は、転写系及び翻訳系に必要な成分を含む植物細胞、動物細胞、真菌細胞、細菌細胞からの抽出液を意味する。具体的には、大腸菌、小麦胚芽、ウサギ網赤血球、マウスL-細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞、出芽酵母等の細胞抽出液が挙げられる。かかる細胞抽出液の調製は、例えばPratt,J.M.ら、Transcription and trasnlation-a practical approach(1984)、pp.179-209に記載の方法に従い、上記の細胞をフレンチプレス、グラスビーズ、超音波破砕装置等を用いて破砕処理し、タンパク質成分やリボソームを可溶化するための数種類の塩を含有する緩衝液を加えてホモジナイズし、遠心分離にて不溶成分を沈殿させることによって行うことができる。
【0107】
また、無細胞ペプチド合成系を用いた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上述のペプチドの発現は、例えば、小麦胚芽抽出液を備えたPremium Expression Kit(セルフリーサイエンス社製)、大腸菌抽出液を備えたRTS 100,E.coli HY Kit(Roche Applied Science社製)、無細胞くんQuick(大陽日酸社製)等市販のキットを適宜使用して行ってもよい。発現させた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドが不溶性の場合、グアニジン塩酸塩、尿素等のタンパク質変性剤を用いて適宜可溶化させてもよい。安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドは、さらに分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理や、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー等を用いた精製処理により調製することもできる。
【0108】
生細胞ペプチド合成系を用いた、本実施形態の標識ペプチドの作製方法としては、生細胞に上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを導入し、かかる生細胞を栄養分や抗生物質等の他、上記安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸、安定同位体標識ペプチド又は放射性同位体標識ペプチドの合成のために必要な安定同位体非標識アミノ酸又は放射性同位体非標識アミノ酸等を含む培養液中で培養することにより行うことができる。ここで生細胞としては、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを発現させることができる生細胞であれば特に限定されず、例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞等の哺乳類細胞株や、大腸菌、酵母細胞、昆虫細胞、植物細胞等の生細胞が挙げられ、簡便性や費用対効果の面から考慮すると、大腸菌が好ましい。上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターの発現は、遺伝子組換え技術により、それぞれの生細胞で発現できるように設計された発現ベクターへ組み込み、かかる発現ベクターを生細胞へ導入することにより行うことができる。また、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターの生細胞への導入は、使用する生細胞に適した方法で行うことができ、例えば、エレクトロポレーション法、ヒートショック法、リン酸カルシウム法、リポフェクション法、DEAEデキストラン法、マイクロインジェクション法、パーティクル・ガン法、ウイルスを用いた方法や、FuGENE(登録商標) 6 Transfection Reagent(ロシュ社製)、Lipofectamine 2000 Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine LTX Reagent(インビトロジェン社製)、Lipofectamine 3000 Reagent(インビトロジェン社製)等の市販のトランスフェクション試薬を用いた方法等が挙げられる。
【0109】
生細胞ペプチド合成系により発現させた安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドは、安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドを含む生細胞を破砕処理や抽出処理することにより調製することができる。破砕処理としては、例えば凍結融解法、フレンチプレス、グラスビーズ、ホモジナイザー、超音波破砕装置等を用いた物理的破砕処理等が挙げられる。また抽出処理としては、例えばグアニジン塩酸塩、尿素等のタンパク質変性剤を用いた抽出処理等が挙げられる。安定同位体標識又は放射性同位体標識された上記ペプチドは、さらに分画遠心法、ショ糖密度勾配遠心法等による分画処理や、アフィニティーカラム、イオン交換クロマトグラフィー等を用いた精製処理等により調製することもできる。
【0110】
蛍光物質としては、例えば公知の量子ドット、インドシアニングリーン、5-アミノレブリン酸(5-ALA;代謝産物プロトポルフィリンIX(PP IX)、近赤外蛍光色素(Near-Infrared (NIR) dyes)(例えば、Cy5.5、Cy7、AlexaFluoro等)、その他公知の蛍光色素(例えば、GFP、FITC(Fluorescein)、FAM、TAMRA等)等が挙げられる。蛍光物質標識された上記ペプチドは、蛍光物質がタンパク質である場合、蛍光物質をコードする核酸及び上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを、安定同位体標識アミノ酸又は放射性同位体標識アミノ酸を使用せずに、上記無細胞ペプチド合成系又は生細胞ペプチド合成系により調製すればよい。
【0111】
PET用核種、SPECT用核種として好ましくは、例えば11C、13N、15O、18F、66Ga、67Ga、68Ga、60Cu、61Cu、62Cu、67Cu、64Cu、48V、Tc-99m、241Am、55Co、57Co、153Gd、111In、133Ba、82Rb、139Ce、Te-123m、137Cs、86Y、90Y、185/187Re、186/188Re、125I、又はそれらの錯体、或いはそれらの組み合わせ等が挙げられる。PET用核種又はSPECT用核種で標識された上記ペプチドは、上記ペプチドをコードする核酸を含むベクターを、上記無細胞ペプチド合成系又は上記生細胞ペプチド合成系により調製すればよい。
【0112】
MRI造影剤、CT造影剤及び磁性体としては、例えばガドリニウム、Gd-DTPA、Gd-DTPA-BMA、Gd-HP-DO3A、ヨード、鉄、酸化鉄、クロム、マンガン、又は、その錯体若しくはそのキレート錯体等が挙げられる。MRI造影剤、CT造影剤又は磁性体で標識された上記ペプチドは、MRI造影剤、CT造影剤又は磁性体と上記ペプチドとを、直接又はリンカーを介すことで、物理的又は化学的に結合させて調製すればよい。具体的な結合方法としては、例えば、配位結合、共有結合、水素結合、疎水性相互作用、物理吸着等が挙げられ、何れの公知の結合、リンカー及び結合方法を採用することができる。
【0113】
<がん間質をイメージングするための方法>
本実施形態の方法は、CAF又はMSCを含むがん間質をイメージングするための方法であって、上記標識ペプチドを用いる方法である。
【0114】
また、本実施形態のイメージング組成物は、上記標識ペプチドを含む。すなわち、本実施形態のイメージング組成物は、CAF又はMSCを含むがん間質のイメージング剤として利用することができる。
【0115】
本実施形態の方法及びイメージング組成物によれば、CAF又はMSCを含むがん間質を簡便、高感度且つ選択的に検出することができる。
【0116】
<組成成分>
本実施形態のイメージング組成物は、上記標識ペプチドに加えて、必要に応じて、薬学的に許容される担体又は希釈剤を含むことができる。薬学的に許容される担体又は希釈剤としては、上記医薬組成物において例示されたもののうち、イメージング組成物に通常使用される公知の成分が挙げられる。
【0117】
本実施形態の方法及びイメージング組成物は、上記標識ペプチドに加えて、スキルス癌を主体とする多様な癌腫の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドを併用してもよい。スキルス癌を主体とする多様な癌腫の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドを併用することで、例えば、スキルス癌を構成する癌細胞及びがん間質の両方を一度にイメージングすることができる。スキルス癌を主体とする多様な癌腫の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドは、修飾物質により修飾されていてもよい。スキルス癌を主体とする多様な癌腫の癌細胞又は癌組織への高度な集積性を有するペプチドが標識物質を備える場合には、CAFへの高度な集積性を有するペプチドの標識物質と、互いに異なる種類の標識物質であることが好ましい。異なる種類の標識物質を用いることで、癌細胞とCAFとを区別しながら同時にイメージングすることができる。
【0118】
例えば、上記標識ペプチドをCAFに添加する場合において、上記標識ペプチドの添加量は培養液中1μM以上10μM以下が好ましい。また、添加後、15分以上3時間以下後にはCAF内に吸収及び集積されているか否かについて評価することができる。
【0119】
また、例えば、標識物質として蛍光物質を備える上記標識ペプチドを注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、被検動物(好ましくはヒト)に対し、1回の投与において1kg体重当たり、例えば0.1mg以上1000mg以下程度の量の標識ペプチドを投与することができ、3mg以上1000mg以下の量の標識ペプチドを投与することが好ましく、3mg以上20mg以下の量の標識ペプチドを投与することがより好ましく、5mg以上15mg以下の量の標識ペプチドを投与することがさらに好ましい。
【0120】
また、例えば、標識物質として安定同位体、PET用核種又はSPECT用核種を備える上記標識ペプチドを注射剤により静脈内(Intravenous:i.v.)注射する場合、使用する安定同位体、PET用核種又はSPECT用核種の種類に応じた放射線量から投与量を決定すればよい。
【0121】
本実施形態の方法において、上記標識ペプチドの検出方法としては、例えばPET、SPECT、CT、MRI、内視鏡による検出、蛍光検出器による検出等が挙げられる。
【0122】
本実施形態の方法及びイメージング組成物は、スキルス癌又はスキルス癌を伴う疾患の診断、病態解析、治療又は治療効果診断のために用いることができる。
【実施例】
【0123】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0124】
[実施例1]
(ヒト間葉系幹細胞に対する透過性を有するペプチドの同定)
独自に作製した、ピューロマイシン(puromycin)を介在して表現型としての9アミノ酸残基ペプチドとそれに対応する遺伝子型としてのmRNAコード配列を有するprotein-RNAキメラ型ランダムペプチドライブラリー(in vitro virus library;IVVL)を用いて、公知のIVV(in vitro virus)法に準じて、吸収標的細胞としてヒト間葉系幹細胞(human Mesenchymal stem cells;hMSC)と培養系で反応させるサイクルを繰り返して、81種類の間葉系幹細胞に対する透過性を有するペプチド(Mesenchymal stem cell Penetrating Peptide;MSCPP)を分離した。
【0125】
次いで、分離された81種類の各MSCPPとEGFP(励起波長:488nm、蛍光波長:509nm)との融合ペプチド(融合ペプチドC末端に6個のヒスチジン残基からなるHisタグを有する)(MSCPP-EGFP
HIS)を作製した。各MSCPP-EGFP
HISのhMSCに対する透過性を評価した。hMSCとしては、株化hMSCであるUE6E7T-3細胞を用いた。培地は、10%FBS含有のRPMI1640培地を用いた。96ウェルプレートにUE6E7T-3細胞を播種し、各MSCPP-EGFP
HISを含む培地(1ウェルあたり5μLの融合ペプチド溶液/50μLの培地)を添加し、4時間培養した。培養後の細胞を蛍光顕微鏡で観察した。代表的な結果を
図1に示す。
図1において、「EGFP
HIS」は、MCPPペプチドと融合しておらず、C末端に6個のヒスチジン残基からなるHisタグを有するEGFPである。「Poly-r9」(9残基連続D-アルギニン)は、現在汎用されている非選択的膜透過性ペプチドである。
また、
図1に示した各MSCPPのアミノ酸配列を下記表1に示す。
【0126】
【0127】
図1から、MCPP33、48、49及び106の4種において、ヒト骨髄由来間葉系幹細胞(hMSC)に対する透過性が確認された。MCPP106において、特に強い蛍光が観察された。
【0128】
[実施例2]
(ペプチドの細胞選択性)
実施例1で同定されたペプチドのうち、MCPP33、48、49及び106の4種と、ポジティブコントロールとしてPoly-r9、ネガティブコントロールとしてMSCPP22について、FITC(Fluorescein isothiocyanate)(励起波長:495nm、蛍光波長:520nm)ラベルで合成し、塩酸塩処理を施したものを作製した。これらは、いずれもシグマアルドリッチジャパン(ジェノシス事業部)への委託合成により入手した。MCPP33は20%DMSOで溶解した。MCPP48は凍結融解後に沈殿が生じるため、使用前にソニケーション処理を行なった。MCPP49、MCPP106は水に溶解して用いた。
【0129】
次いで、hMSC、正常ヒト皮膚線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblasts;NHDF)及びヒト膵臓腺癌由来の株化細胞であるBxPC3細胞に対する各ペプチドの透過性を確認した。hMSCは4×10
4cells/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種し、MSC培地で予め24時間培養したものを用いた。NHDF及びBxPC3細胞は4×10
4cells/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種し、10%FBS含有のRPMI1640培地で予め24時間培養したものを用いた。4μMの各ペプチドを含む培地(10%FBS含有のRPMI1640培地)を各細胞に添加し、4時間培養した。培養後の各細胞についてHoechst33342(励起波長:352nm、蛍光波長:461nm)を用いて核染色し、位相差/蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図2に示す。
図2において、左側に示す画像がFITC蛍光像であり、右側に示す画像が蛍光像及び位相差顕微鏡像を重ね合わせた画像である。
【0130】
図2から、MCPP33、48、49及び106の4種において、いずれもhMSCに対する高吸収性と一定の選択的吸収性が確認された。実施例1と同様に、以下の3点、すなわち、hMSCへ効率的な吸収が起き、且つ膵がん細胞BxPC3への吸収が低く、またNHDFへの吸収性がhMSCと比較して低い性質を同時にかなえる最適なペプチドとして、MSCPP106が挙げられた。従って、以降の試験においては、MCPP106を用いた。
【0131】
[実施例3]
(MCPP106のCAFに対する吸収性)
実施例2で作製したFITC-MSCPP106を用いて、CAFに対する吸収性を膵がん細胞とMSCの共培養系で確認した。具体的には、BxPC3細胞、hMSC(DsRed2を発現する細胞株)を、それぞれ4×10
4cells/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種し、播種から4時間後に、10%FBS含有のRPMI培地に培地交換して60時間培養した。BxPC3細胞及びhMSCの共培養物は、各細胞を1:1の割合で、合計細胞数が4×10
4cells/ウェル(各細胞:2×10
4cells/ウェルずつ)となるように24ウェルプレートに播種し、播種から4時間後に、10%FBS含有のRPMI培地に培地交換して60時間培養した。hMSCについては、4×10
4cells/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種し、播種から4時間後に、MSC培地に培地交換して60時間培養したものも準備した。培養後、4μMのFITC-MSCPP106を含む培地(10%FBS含有のRPMI1640培地)を各細胞に添加し、4時間培養した。培養後の各細胞についてHoechst33342(励起波長:352nm、蛍光波長:461nm)を用いて核染色し、位相差/蛍光顕微鏡で観察した。結果を
図3に示す。
図3において、「Merge」は、FITCの蛍光像とDsRed2の蛍光像とを重ね合わせた画像であり、「Phase」は位相差顕微鏡像である。以降の試験においても、同様に「Phase」は位相差顕微鏡像を表す。
【0132】
図3から、FITC-MSCPP106は、10%FBS含有のRPMI1640培地で培養したhMSC、及びMSC培地で培養したhMSCのいずれに対しても吸収性を示した。さらに、BxPC3細胞及びhMSCの混合培養物において、hMSCは細長く線維芽細胞様の形状に変更していることから、CAFに分化している可能性が示唆された。FITC-MSCPP106は、このBxPC3細胞及びhMSCの混合培養物においても、hMSCにのみ選択的に吸収されることが明らかとなった。なお、hMSCは膵がん細胞との共培養で約48時間後には、CAFの選択的細胞マーカーであるFAPα(Fibroblast activating protein α)を強発現し、ウシ胎仔血清存在下の培養で分化が起こり、CAFの免疫形質を発現するようになることが確認された(図示せず)。
【0133】
[実施例4]
(MCPP106の血漿分解耐性)
下記表2に示すMCPP106のシングルペプチド、タンデムペプチド及びタンデム変異ペプチドについて、ヒト血漿に対する分解耐性を検討した。表2において、「tandem MSCPP106」とはグリシン残基をスペーサーとしてMCPP106のアミノ酸配列を2回反復した配列からなるペプチドである。「tandem mut MSCPP106」とは、tandem MSCPP106のアミノ酸配列のうちシステイン残基がメチル化(mC)された配列からなるペプチドである。
【0134】
【0135】
上記各種ペプチドを50質量%の濃度のヒト血漿に添加し、分解試験開始直後(0分後)、5分後、10分後、20分後、30分後、60分後及び120分後と経時的にサンプリングして、MALDI-TOFMS(Matrix Assisted Laser Desorption/Ionization-Time of Flight Mass Spectrometry)法により、試料を分析した。試験開始時におけるペプチドの質量(100%)に対する、試験開始から各サンプリング時点における分解されずに保持されたペプチドの質量の割合を算出し、グラフ化した(
図4参照)。
【0136】
図4から、tandem MSCPP106及びtandem mut MSCPP106はsingle MSCPP106と比較して、優れた分解耐性を有することが確かめられた。
この結果から、以降の試験では、tandem MSCPP106を用いた。
【0137】
[実施例5]
([FAM]-tandem MSCPP106のインビトロ系でのhMSCに対する吸収性)
tandem MSCPP106を膵がん細胞とhMSCとの共培養物に対して添加し、hMSCに対する吸収性を検討した。tandem MSCPP106としては、N末端をcarboxyfluorescein(FAM)で標識したもの([FAM]-tandem MSCPP106)を用いた。膵がん細胞として、BxPC3細胞及びヒト膵管腺癌細胞株であるCapan-2細胞を用いた。hMSCとしてDsRed2を発現している細胞株を用いた。具体的には、各膵がん細胞とhMSCとを1:1の割合で、4×10
4cells/ウェル(各細胞:2×10
4cells/ウェルずつ)となるように24ウェルプレートに播種し、播種から4時間後に、10%FBS含有のRPMI培地に培地交換して60時間培養した。培養後、4μMの[FAM]-tandem MSCPP106を含む培地(10%FBS含有のRPMI1640培地)を各共培養物に添加し、4時間培養した。培養後の各細胞についてHoechst33342(励起波長:352nm、蛍光波長:461nm)を用いて核染色し、位相差/蛍光顕微鏡(倍率:40倍)で観察した。結果を
図5A(BxPC3細胞及びhMSCの共培養物)及び
図5B(Capan-2細胞及びhMSCの共培養物)に示す。
図5A及び
図5Bにおいて、「Merge」は、FAMの蛍光像とDsRed2の蛍光像とを重ね合わせた画像である。
【0138】
図5A及び
図5Bから、[FAM]-tandem MSCPP106は、各膵がん細胞及びhMSCの共培養物中において膵がん細胞には吸収されず、hMSCにのみ選択的に吸収されることが確認された。
【0139】
[実施例6]
([FAM]-tandem MSCPP106の細胞内局在)
次いで、[FAM]-tandem MSCPP106の細胞内局在を確認した。具体的には、hMSCを、4×10
4cells/ウェルとなるように24ウェルプレートに播種し、播種から4時間後に、10%FBS含有のRPMI培地に培地交換して60時間培養した。培養後、4μMの[FAM]-tandem MSCPP106を含む培地(10%FBS含有のRPMI1640培地)をhMSCに添加し、24時間培養した。培養後、Hoechst33342(励起波長:352nm、蛍光波長:461nm)を用いて核染色し、さらに、LysoTracker(登録商標) RED DND-99(リソソーム内容物マーカー、励起波長:555nm、蛍光波長:584nm)を用いてリソソームを染色し、位相差/蛍光顕微鏡(倍率:60倍)で観察した。結果を
図6に示す。
図6において、「Merge」は、FAMの蛍光像とLysoTracker(登録商標) RED DND-99の蛍光像とを重ね合わせた画像である。
【0140】
図6から、tandem MSCPP106は、投与後24時間でその大部分が主に細胞内のリソソーム内部に局在していることが確かめられた。さらにリソソームに局在するペプチドの蛍光が十分に維持された状態で検出されていることから、tandem MSCPP106は、少なくとも24時間は細胞内消化(degradation)に対する有意な耐性を有することが示された。
【0141】
[実施例7]
([FAM]-tandem MSCPP106のインビボ系での選択的吸収性)
スキルス癌としての膵がんモデルマウスに[FAM]-tandem MSCPP106を投与し、マウスの各種組織での[FAM]-tandem MSCPP106の選択的吸収性を確認した。豊富ながん間質を形成するスキルス癌としてのスキルス膵癌モデルマウスは、参考文献1(Saito K et al., “Stromal mesenchymal stem cells facilitate pancreatic cancer progression by regulating specific secretory molecules through mutual cellular interaction.”, Journal of Cancer, Vol. 9, No. 16, p2916-2929, 2018.)に記載の方法に従い、作製した。具体的には、6週齢のNOD / SCID(CLEA Japan Inc、Japan)を無病原体条件下で飼育した。BxPC3細胞(1×10
5 cells)とhMSC(1×10
5 cells)との混合細胞をマウスに皮下及びマウス腹腔内にそれぞれ注射した。細胞注射から6週間飼育することで、ヒト膵がん患者組織を模倣する豊富ながん間質の発達したスキルス膵癌モデルマウスを得た(
図7A参照)。
【0142】
得られたスキルス癌モデルマウスに[FAM]-tandem MSCPP106(200μg)を静脈注射した。次いで、静脈注射から30分後のペプチドの体内動態を、ペプチド投与マウス新鮮解剖検体で組織解析した。結果を
図7B~
図7Cに示す。
図7Bは、スキルス癌モデルマウスから摘出された各組織及び腫瘍組織の明視野像(左)及び蛍光像(右)である。
図7Bにおいて、「abd tumor」とはabdominal tumorの略であり、腹腔内に形成された腫瘍である。「sc tumor」とはsubcutaneous tumorの略であり、皮下腫瘍である。「liver meta」はliver metastatic tumorの略であり、肝臓に転移した腫瘍である。「mesenteric LN meta」は、mesenteric lymph nodes metastatic tumorの略であり、腸間膜リンパ節に転移した腫瘍である。
図7Cは、各腫瘍組織のヘマトキシリン-エオジン(HE)染色像、明視野像及び蛍光像である。
図7Cにおいて、subcutaneous tumor 1及びsubcutaneous tumor 2は同一の解剖検体から摘出された腫瘍である。
【0143】
図7B~
図7Cから、[FAM]-tandem MSCPP106は、腫瘍組織内に発達するがん間質(線維性間質)部分に強い吸収が見られた。
【0144】
[実施例8]
([FAM]-tandem MSCPP106のインビボ系でのCAFに対する吸収性)
次いで、[FAM]-tandem MSCPP106が、がん間質のCAFに選択的に吸収されていることを確認した。実施例7と同様の方法を用いて、スキルス癌モデルマウスを得た。次いで、得られたスキルス癌モデルマウスに[FAM]-tandem MSCPP106(300μg)を静脈注射した。次いで、静脈注射から30分後のペプチドの体内動態を、ペプチド投与マウス新鮮解剖検体で組織解析した。結果を
図8A~
図8Cに示す。
図8Aは、皮下腫瘍のHE染色像(倍率:2、10、20及び40倍)である。
図8Bは、皮下腫瘍の抗ヒト線維芽細胞活性化タンパク質α(Fibroblast activation protein-α;FAPα)抗体及び抗ヒト平滑筋アクチンα(smooth muscle actin-α;SMAα)抗体を用いた蛍光免疫染色像である。
図8Bにおいて、「Merge」は抗FAPα抗体を用いた蛍光免疫染色像及び抗SMAα抗体を用いた蛍光免疫染色像を重ね合わせた画像である。FAPα及びSMAαはCAF陽性マーカーとして知られている。なお、下段の各拡大図写真の中央部に存在する核の高密度に集積した塊は癌細胞自身により構成される癌胞巣部分で、がん間質はこの癌胞巣を取り巻いて周囲に発達する線維芽細胞群の増殖帯である。
図8Cは、皮下腫瘍の位相差顕微鏡像及び蛍光像である。上側2段は倍率20倍であり、下側2段は倍率40倍の画像である。「Merge」は各位相差顕微鏡像及び各蛍光像を重ね合わせた画像である。
【0145】
図8Aから、皮下腫瘍はがん間質を豊富に含むスキルス型のがん(硬癌)であることが組織学的に確かめられた。
図8Bから、がん間質に存在する細胞はCAFであることが確認された。
図8Cから、投与ペプチド由来の蛍光は癌胞巣間に介在し発達する線維性間質部分にのみ認められ、tandem MSCPP106は、がん間質のCAFに選択的な吸収能を有することが確かめられた。
【0146】
[実施例9]
([FAM]-tandem MSCPP106及び[FAM]-tandem mut MSCPP106のインビボ系でのがん間質に対する吸収性)
次いで、MSCPP106のペプチド配列内(N末端から第二番目に位置するCystineの持つ機能的重要性を検証するために、[FAM]-tandem MSCPP106及び[FAM]-tandem mut MSCPP106(N末端がFAMで標識された[FAM]-tandem mut MSCPP106。N末端側第二番目のシステインの側鎖-SH基をメチル化した変異体を構成配列とする)のがん間質に対する吸収能を比較した。DsRed2を恒常的に発現したクローン化hMSC細胞を用いた以外は、実施例7と同様の方法を用いて、スキルス膵癌モデルマウスを得た。次いで、得られたスキルス膵癌モデルマウスに[FAM]-tandem MSCPP106又は[FAM]-tandem mut MSCPP106(各300μg)を静脈注射した。次いで、静脈注射から60分後のペプチドの体内動態を、ペプチド投与マウス新鮮解剖検体で組織解析した。結果を
図9A~
図9Eに示す。
図9Aは、投与モデルとした皮下移植腫瘍のHE染色像(倍率:2、10、20及び40倍)である。
図9Bは、[FAM]-tandem MSCPP106又は[FAM]-tandem mut MSCPP106を投与したマウスの皮下腫瘍の蛍光像(倍率:4倍)である。
【0147】
図9Cは、tandem MSCPP106を投与したマウスの皮下移植腫瘍の蛍光像(倍率:4、20及び40倍)である。
図9Cにおいて、左側の列は、膵がん細胞BxPC3と混合して移植したhMSCに由来する蛍光(DsRed2)の蛍光像であり、真ん中の列は、静脈投与したペプチド(tdMSCPP106)に由来する蛍光(FAM)の蛍光像であり、右側の列は、DsRed2の蛍光像及びFAMの蛍光像を重ね合わせた画像(Merge)である。
図9Cにおいて、「ca」はcancerの略であり、膵がん胞巣部分を表す。CAFはがん間質に集積するhMSCの辺縁部分から発達・増生している。
【0148】
図9Dは、皮下腫瘍の抗ヒトCD73抗体を用いた蛍光免疫染色像である。現在、がん医療研究分野では、がん間質の標的化に抗ヒト化CD73抗体医薬の開発が世界的に進行中である。
図9Dにおいて、「ca」はcancerの略であり、がん胞巣部分を表す。「Str.」はストローマの略であり、がん間質を表す。CD73は、hMSC及びhCAFの陽性マーカーであり(MSCやCAFの一部の集団が発現している)、がん組織中の間質に存在するCAFの検出のための細胞マーカーとして一般的に用いられている。
【0149】
図9Eは、マウス移植モデル皮下腫瘍の抗ヒトPD-L1抗体、抗ヒトPD-L2抗体及び抗ヒトSMAα抗体を用いた蛍光免疫染色像(倍率:40及び60倍)である。
図9Eにおいて、「Merge」はそれぞれ左側の画像(抗ヒトPD-L1抗体又は抗ヒトPD-L2抗体を用いた蛍光免疫染色像)と真ん中の画像(抗ヒトSMAα抗体を用いた蛍光免疫染色像)を重ね合わせた画像である。
【0150】
図9Aから、マウスの皮下腫瘍がBxPC3細胞由来の細胞が島状に存在する間質細胞に富んだ組織形態を示す腫瘍であることが確認された。
【0151】
図9Bから、tandem MSCPP106は、tandem mut MSCPP106よりも優れたがん間質に対する吸収能を有することが確かめられた。このことから、システインの側鎖としてのSH基がペプチドの環状化或いは多量体化に寄与し、本ペプチドのがん間質への吸収効率を大きく増強していると考えられ、ペプチド配列中にあるシステイン残基の重要性が示唆された。
【0152】
図9Cから、がん間質は、投与したhMSCから分化誘導されたヒト細胞由来CAF(hCAF)及びマウス体内のMSCから分化誘導されたCAFの両者を含み、tandem MSCPP106は、いずれのCAFに対しても優れた吸収能を有することが確かめられた。また、
図9Dに示す抗ヒトCD73特異抗体の染色像からも、当マウス移植腫瘍モデルにおけるがん間質は、hMSCから分化誘導されたhCAFを混在する構成分としていることが確かめられた。
図9Cと
図9Dとを比較した結果、tandem MSCPP106は抗CD73抗体の反応領域を大きく上回る間質吸収性を示しており、がん間質を対象とした場合、抗CD73抗体を凌駕する網羅的な標的性能を有することが予測される。
【0153】
図9Eから、BxPC3細胞及びhMSCを投与したマウスの皮下膵がんモデル腫瘍では、ヒト浸潤性膵管癌患者の膵がん組織のがん間質と同様に、CAFの一部にPD-L1及びPD-L2が有意に発現していることが確かめられた。すなわち、膵がん細胞自身のみならず、膵がん間質も生体防御機構として重要なリンパ球系免疫細胞による攻撃を回避する機構を使用している免疫耐性組織であることが判明した。膵がん組織は前述のように組織学的にはがん細胞による浸潤性胞巣とそれを取り巻き厚く発達する間質により構成されるが、この多様な耐性を持つ間質を駆逐すると腫瘍は弱体化或いは崩壊する。そのため、がん間質を標的する手段の構築はがん駆逐のために非常に重要な手段となる。よって、このスキルス癌モデルマウスに対して、tandem MSCPP106等のがん間質に対する吸収能を有するペプチドに抗がん剤を結合させた組成物を投与することで、CAFを広汎に掃討することによる制がん治療の開発が期待できる。さらに、ニボルマブやペンブロリズマブ等の免疫チェックポイント阻害剤との併用で、がん間質のより強固な駆逐効果や、癌細胞とがん間質両者の同時駆逐による相乗的な抗腫瘍効果の可能性を期待できる。
【0154】
[実施例10]
([FAM]-tandem MSCPP106のインビボ系でのスキルス胃癌のがん間質に対する吸収性)
代表的なスキルス癌としての胃低分化スキルス腺癌は肉眼分類で4型胃がんに分類され、4型胃がんの5年生存率は4%以上16%以下程度と極めて予後不良である。そこで、[FAM]-tandem MSCPP106の膵がん以外のスキルス間質に発達するCAFへの適用を検証するため、スキルス胃癌マウス移植モデルを作成し、膵がん以外のスキルスがん間質に対する吸収能を検討した。BxPC3細胞に代えてヒト胃低分化腺癌であるHSC58細胞を用いて、細胞注射から40日間飼育した以外は、実施例7と同様の方法を用いて、スキルス胃癌マウスモデルを得た。HSC58細胞は、低転移ヒトスキルス胃癌細胞株である。得られたスキルス癌マウスモデルに[FAM]-tandem MSCPP106(300μg)を静脈注射し、次いで、静脈注射から60分後のペプチドの体内吸収動態を、ペプチド投与マウス新鮮解剖検体で組織解析した。結果を
図10A~
図10Bに示す。
図10Aは、腹腔腫瘍のHE染色像(倍率:10、20及び40倍)である。
図10Bは、腹腔腫瘍の蛍光像(倍率:2、10及び40倍)である。左側の列の画像は、投与ぺプチド由来のFAMの蛍光像であり、真ん中の列の画像は、混合移植したhMSC由来のDsRed2の蛍光像であり、右側の列の画像は、FAMの蛍光像及びDsRed2の蛍光像を重ね合わせた画像(Merge)である。
【0155】
図10Aから、腹腔移植腫瘍は癌胞巣間に間質を豊富に含むスキルス型のがん(硬癌)で、ヒトのスキルス胃癌組織を模倣していることが確かめられた。
【0156】
図10Bから、[FAM]-tandem MSCPP106は膵がんのがん間質と同様に、胃スキルス癌のがん間質にも選択的且つ高吸収を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本実施形態のペプチドによれば、CAFに集積する新規のペプチドを提供することができる。本実施形態のキャリアは、前記ペプチドを含み、目的物質をCAF又はMSCを含むがん間質へ簡便且つ効率よく送達することができる。
【配列表】