(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】SSX2抗原の短いペプチドを識別するT細胞受容体
(51)【国際特許分類】
C07K 14/725 20060101AFI20240201BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240201BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240201BHJP
C12N 15/867 20060101ALI20240201BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240201BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240201BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240201BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240201BHJP
C12N 5/0783 20100101ALI20240201BHJP
C12N 5/0789 20100101ALI20240201BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240201BHJP
A61P 37/06 20060101ALI20240201BHJP
A61K 35/12 20150101ALI20240201BHJP
A61K 35/17 20150101ALI20240201BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C07K14/725 ZNA
C12N15/12
C12N15/62 Z
C12N15/867 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12N5/0783
C12N5/0789
A61P35/00
A61P37/06
A61K35/12
A61K35/17
A61K38/17
(21)【出願番号】P 2022506517
(86)(22)【出願日】2019-07-30
(86)【国際出願番号】 CN2019098439
(87)【国際公開番号】W WO2021016887
(87)【国際公開日】2021-02-04
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】521121053
【氏名又は名称】エックスライフエスシー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】リ,イ
(72)【発明者】
【氏名】フ,ジン
(72)【発明者】
【氏名】スン,ハンリ
【審査官】福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-500002(JP,A)
【文献】特表2016-525537(JP,A)
【文献】特表2016-523268(JP,A)
【文献】ABATA-DAGA D. et al.,Development of a T Cell Receptor Targeting an HLA-A*0201 Restricted Epitope from the Cancer-Testis Antigen SSX2 for Adoptive Immunotherapy of Cancer,PLOS ONE, 2014, vol. 9, no. 3, e93321
【文献】CHINNASAMY N. et al.,Development of a T Cell Receptor Targeting the HLA-A*0201 Restricted Epitope SSX2: 41-49 for Adoptive Immunotherapy of Cancer,Molecular Therapy, 2011, vol. 19, Suppl. 1, p. S89-S90
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
T細胞受容体(TCR)であって、
前記TCRは、KASEKIFYV
(SEQ ID NO:9)―HLA A0201複合体に結合することができ
、前記TCRは、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、
前記TCRα鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1―DSSSTY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2―IFSNMDM(SEQ ID NO:11)、
α CDR3―AEPNQAGTALI(SEQ ID NO:12)であり、および
前記TCRβ鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域は、
β CDR1―MNHEY(SEQ ID NO:13)、
β CDR2―SVGEGT(SEQ ID NO:14)、
β CDR3―ASSSLEDPYEQY(SEQ ID NO:15)であることを特徴とする、前記TCR。
【請求項2】
TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であることを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項3】
前記TCRは、α鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:1を含むことを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項4】
前記TCRは、β鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:5を含むことを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項5】
前記TCRは、TCRα鎖定常領域TRAC*01およびTCRβ鎖定常領域TRBC1*01またはTRBC2*01を含む、αβヘテロダイマーであることを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項6】
前記TCRのα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:3であり、および/または前記TCRのβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:7であることを特徴とする
請求項
5に記載のTCR。
【請求項7】
前記TCRは、可溶性であることを特徴とする
請求項1~
4のいずれか1項に記載のTCR。
【請求項8】
前記TCRは、一本鎖であることを特徴とする
請求項
7に記載のTCR。
【請求項9】
前記TCRは、ペプチドリンカー配列を介してα鎖可変ドメインとβ鎖可変ドメインとを結合することによって形成されることを特徴とする
請求項
8に記載のTCR。
【請求項10】
前記TCRは、α鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目のアミノ酸位置、および/またはα鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から3番目、最後から5番目または最後から7番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異を有し、および/または前記TCRは、β鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目のアミノ酸位置、および/またはβ鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から2番目、最後から4番目または最後から6番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異を有し、ここで、アミノ酸の位置番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム)に記載された位置番号によることを特徴とする
請求項
9に記載のTCR。
【請求項11】
前記TCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:32を含み、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34を含むことを特徴とする
請求項
10に記載のTCR。
【請求項12】
前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:30であることを特徴とする
請求項
11に記載のTCR。
【請求項13】
システイン残基は、前記TCRのα鎖定常ドメインとβ鎖定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成
し、且つ
前記TCRにおいて人工的なジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、および
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20から選択される一つまたは複数の部位を置換することを特徴とする
請求項
7に記載のTCR。
【請求項14】
前記TCRα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:26であり、および/または前記TCRβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:28であることを特徴とする
請求項
13に記載のTCR。
【請求項15】
前記TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間には、人工的な鎖間ジスルフィド結合が含まれることを特徴とする
請求項
7に記載のTCR。
【請求項16】
前記TCRにおいて人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸から選択される1つの群または複数の群の部位を置換することを特徴とする
請求項
15に記載のTCR。
【請求項17】
前記TCRのα鎖および/またはβ鎖のC―末端またはN―末端にコンジュゲートが結合されることを特徴とする
請求項1に記載のTCR。
【請求項18】
前記T細胞受容体に結合するコンジュゲートは、検出可能なマーカー、治療剤、PK修飾部分またはこれらの物質のいずれかの組み合わせで
あることを特徴とする
請求項
17に記載のTCR。
【請求項19】
前記治療剤は、抗CD3抗体であることを特徴とする
請求項18に記載のTCR。
【請求項20】
多価TCR複合体であって、
少なくとも二つのTCR分子を含み、またそのうちの少なくとも一つのTCR分子は
、請求項
1~19のいずれか1項に記載のTCRであることを特徴とする、前記多価TCR複合体。
【請求項21】
核酸分子であって、
前記核酸分子は
、請求項
1~19のいずれか1項に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補的配列を含むことを特徴とする、前記核酸分子。
【請求項22】
TCRα鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:33を含むことを特徴とする
請求項
21に記載の核酸分子。
【請求項23】
TCRβ鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:6またはSEQ ID NO:35を含むことを特徴とする
請求項
21または
22に記載の核酸分子。
【請求項24】
TCRα鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:4を含み、および/またはTCRβ鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:8を含むことを特徴とする
請求項
21に記載の核酸分子。
【請求項25】
請求項
21~
24のいずれか1項に記載の核酸分子を含
むことを特徴とする
、ベクター。
【請求項26】
前記ベクターは、ウイルスベクターであることを特徴とする
請求項25に記載のベクター。
【請求項27】
前記ベクターは、レンチウイルスベクターであることを特徴とする
請求項26に記載のベクター。
【請求項28】
単離された宿主細胞であって、
前記宿主細胞は、請求項25
~27のいずれか1項に記載のベクターを含むか、または染色体には外因性の請求項
21~
24のいずれか1項に記載の核酸分子が組み込まれたことを特徴とする、前記単離された宿主細胞。
【請求項29】
細胞であって、
前記細胞は、請求項
21~
24のいずれか1項に記載の核酸分子
、または請求項
25~27のいずれか1項に記載のベクターで形質導入さ
れることを特徴とする、前記細胞。
【請求項30】
前記細胞は、T細胞または幹細胞であることを特徴とする
請求項29に記載の細胞。
【請求項31】
医薬組成物であって、
前記組成物は、薬学的に許容される担体および請求項1~
19のいずれか1項に記載のTCR、請求項
20に記載のTCR複合体、または請求項
29または30に記載の細胞を含むことを特徴とする、前記医薬組成物。
【請求項32】
請求項1~
19のいずれか1項に記載のT細胞受容体、または請求項
20に記載のTCR複合体
、または請求項
29または30に記載の細胞
を含む、
腫瘍または自己免疫疾患を治療する
ための薬
物。
【請求項33】
前記腫瘍は、SSX2抗原陽性腫瘍であることを特徴とする
請求項32に記載の薬物。
【請求項34】
前記腫瘍は、黒色腫、頭頸部がん、リンパ腫、様々な骨髄腫、膵臓がん、前立腺がん、肉腫、肝細胞がん、または結腸がんであることを特徴とする
請求項32に記載の薬物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SSX2抗原に由来する短いペプチドを識別することができるTCRに関し、本発明は、上記TCRを形質導入することによって得られるSSX2特異的T細胞、ならびにSSX2関連疾患の予防および治療におけるそれらの用途にさらに関する。
【背景技術】
【0002】
SSX2は、HOM―MEL―40としても知られている、滑膜肉腫Xブレークポイントである。SSX2は、SSX2ファミリーの10種の相同性の高い核酸タンパク質の一つである。SSXタンパク質は、腫瘍精巣抗原であり、腫瘍細胞およびMHC発現なしの精巣芽細胞でのみ発現される。SSX2は、黒色腫、頭頸部がん、リンパ腫、様々な骨髄腫、膵臓がん、前立腺がん、肉腫、肝細胞がんおよび結腸がんを含むがこれらに限定されない、様々なヒト癌細胞で発現される。KASEKIFYV(SEQ ID NO:9)は、SSX2抗原に由来する短いペプチドであり、SSX2関連疾患の治療の標的である。上記疾患の治療には、化学療法および放射線療法等の方法を使用することができるが、自身の正常な細胞に損傷を与える。
【0003】
T細胞養子免疫療法は、標的細胞抗原に特異的な反応性T細胞を患者の体内に移して、標的細胞に対して役割を果たすことができるようにすることである。T細胞受容体(TCR)は、T細胞表面の膜タンパク質であり、対応する標的細胞表面の抗原の短いペプチドを識別することができる。免疫系において、抗原の短いペプチド特異的TCRが短いペプチド―主要組織適合性複合体(pMHC複合体)に結合することによって、T細胞と抗原提示細胞(APC)との間の直接的な物理的接触を引き起こし、次に、T細胞およびAPCの両者の他の細胞膜表面分子が相互作用して、一連の後続の細胞シグナル伝達および他の生理学的応答を引き起こすことにより、異なる抗原特異的T細胞がその標的細胞に免疫効果を発揮できるようにする。従って、当業者は、SSX2抗原の短いペプチドに対して特異性を有するTCRを単離し、および当該TCRをT細胞に形質導入することによって、SSX2抗原の短いペプチドに対して特異性を有するT細胞を得ることにより、それらが細胞免疫治療で役割を発揮できるようにすることに専念している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、SSX2抗原の短いペプチドを識別するT細胞受容体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様は、T細胞受容体(TCR)を提供し、前記TCRは、KASEKIFYV―HLA A0201複合体に結合することができる。
別の好ましい例において、前記TCRは、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、AEPNQAGTALI(SEQ ID NO:12)であり、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインのCDR3のアミノ酸配列は、ASSSLEDPYEQY(SEQ ID NO:15)である。
【0006】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域(CDR)は、
α CDR1―DSSSTY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2―IFSNMDM(SEQ ID NO:11)、
α CDR3―AEPNQAGTALI(SEQ ID NO:12)であり、および/または
前記TCRβ鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域は、
β CDR1―MNHEY(SEQ ID NO:13)、
β CDR2―SVGEGT(SEQ ID NO:14)、
β CDR3―ASSSLEDPYEQY(SEQ ID NO:15)である。
【0007】
別の好ましい例において、前記TCRは、TCRα鎖可変ドメインおよびTCRβ鎖可変ドメインを含み、前記TCRα鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0008】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:1を含む。
別の好ましい例において、前記TCRは、β鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:5を含む。
別の好ましい例において、前記TCRは、TCRα鎖定常領域TRAC*01およびTCRβ鎖定常領域TRBC1*01またはTRBC2*01を含む、αβヘテロダイマーである。
【0009】
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:3であり、および/または前記TCRのβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:7である。
別の好ましい例において、前記TCRは、可溶性である。
別の好ましい例において、前記TCRは、一本鎖である。
別の好ましい例において、前記TCRは、ペプチドリンカー配列を介してα鎖可変ドメインとβ鎖可変ドメインとを結合することによって形成される。
【0010】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目のアミノ酸位置、および/またはα鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から3番目、最後から5番目または最後から7番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異を有し、および/または前記TCRは、β鎖可変領域の11、13、19、21、53、76、89、91、または94番目のアミノ酸位置、および/またはβ鎖J遺伝子の短いペプチドの最後から2番目、最後から4番目または最後から6番目のアミノ酸位置に一つまたは複数の突然変異を有し、ここで、アミノ酸の位置番号は、IMGT(国際免疫遺伝学情報システム)に記載された位置番号による。
【0011】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:32を含み、および/または前記TCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34を含む。
別の好ましい例において、前記TCRのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:30である。
別の好ましい例において、前記TCRは、(a)膜貫通ドメインを除くTCRα鎖の全部または一部、および(b)膜貫通ドメインを除くTCRβ鎖の全部または一部を含み、
【0012】
また(a)および(b)は、それぞれ機能的可変ドメインを含むか、または機能的可変ドメインおよび前記TCR鎖定常ドメインの少なくとも一部を含む。
別の好ましい例において、システイン残基は、前記TCRのα鎖定常ドメインとβ鎖定常ドメインとの間に人工的なジスルフィド結合を形成する。
別の好ましい例において、前記TCRにおいて人工的なジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
【0013】
TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、
TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、
TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、
TRAC*01エクソン1のArg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、
TRAC*01エクソン1のPro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、および
TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20から選択される1つの群または複数の群の部位を置換する。
【0014】
別の好ましい例において、前記TCRα鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:26であり、および/または前記TCRβ鎖アミノ酸配列は、SEQ ID NO:28である。
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間には、人工的な鎖間ジスルフィド結合が含まれる。
【0015】
別の好ましい例において、前記TCRにおいて人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、
TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、または
TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸から選択される1つの群または複数の群の部位を置換することを特徴とする。
【0016】
別の好ましい例において、前記TCRは、α鎖可変ドメイン、β鎖可変ドメインおよび膜貫通ドメインを除くβ鎖定常ドメインの全部または一部を含むが、α鎖定常ドメインを含まず、前記TCRα鎖可変ドメインとβ鎖とは、ヘテロダイマーを形成する。
別の好ましい例において、前記TCRのα鎖および/またはβ鎖のC―末端またはN―末端にコンジュゲートが結合される。
別の好ましい例において、前記T細胞受容体に結合するコンジュゲートは、検出可能なマーカー、治療剤、PK修飾部分またはこれらの物質のいずれかの組み合わせであり、好ましくは、前記治療剤は、抗―CD3抗体である。
【0017】
本発明の第2の態様は、少なくとも二つのTCR分子を含み、またそのうちの少なくとも一つのTCR分子が本発明の第1の態様に記載のTCRである、多価TCR複合体を提供する。
【0018】
本発明の第3の態様は、核酸分子を提供し、前記核酸分子は、本発明の第1の態様に記載のTCR分子をコードする核酸配列またはその相補的配列を含む。
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRα鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:2またはSEQ ID NO:33を含む。
【0019】
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRβ鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:6またはSEQ ID NO:35を含む。
別の好ましい例において、前記核酸分子は、TCRα鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:4を含み、および/またはTCRβ鎖をコードするヌクレオチド配列SEQ ID NO:8を含む。
【0020】
本発明の第4の態様は、ベクターを提供し、前記ベクターは、本発明の第3の態様に記載の核酸分子を含み、好ましくは、前記ベクターは、ウイルスベクターであり、より好ましくは、前記ベクターは、レンチウイルスベクターである。
【0021】
本発明の第5の態様は、単離された宿主細胞を提供し、前記宿主細胞は、本発明の第4の態様に記載のベクターを含むか、またはゲノムには外因性の本発明の第3の態様に記載の核酸分子が組み込まれた。
【0022】
本発明の第6の態様は、細胞を提供し、前記細胞は、本発明の第3の態様に記載の核酸分子または本発明の第4の態様に記載のベクターで形質導入され、好ましくは、前記細胞は、T細胞または幹細胞である。
【0023】
本発明の第7の態様は、医薬組成物を提供し、前記組成物は、薬学的に許容される担体および本発明の第1の態様に記載のTCR、本発明の第2の態様に記載のTCR複合体、本発明の第3の態様に記載の核酸分子、本発明の第4の態様に記載のベクター、または本発明の第6の態様に記載の細胞を含む。
【0024】
本発明の第8の態様は、腫瘍または自己免疫疾患を治療する薬物の調製に使用される、本発明の第1の態様に記載のT細胞受容体、または本発明の第2の態様に記載のTCR複合体、本発明の第3の態様に記載の核酸分子、本発明の第4の態様に記載のベクター、または本発明の第6の態様に記載の細胞の用途を提供する。
【0025】
本発明の第9の態様は、治療を必要とする対象に適切な量の本発明の第1の態様に記載のT細胞受容体、または本発明の第2の態様に記載のTCR複合体、本発明の第3の態様に記載の核酸分子、本発明の第4の態様に記載のベクター、または本発明の第6の態様に記載の細胞、または本発明の第7の態様に記載の医薬組成物を投与する段階を含む、疾患を治療する方法を提供し、
好ましくは、前記疾患は、腫瘍であり、好ましくは、前記腫瘍は、肝細胞がんである。
【発明の効果】
【0026】
本発明の範囲内で、本発明の上記の各技術的特徴と以下(例えば、実施例)に具体的に説明される各技術的特徴との間を、互いに組み合わせることにより、新しいまたは好ましい技術的解決策を構成することができることに理解されたい。スペースに限りがあるため、ここでは繰り返さない。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1a-1f】それぞれTCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列、TCRα鎖可変ドメインヌクレオチド配列、TCRα鎖アミノ酸配列、TCRα鎖ヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRα鎖アミノ酸配列およびリーダー配列を有するTCRα鎖ヌクレオチド配列を示す。
【0028】
【
図2a-2f】それぞれTCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列、TCRβ鎖可変ドメインヌクレオチド配列、TCRβ鎖アミノ酸配列、TCRβ鎖ヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRβ鎖アミノ酸配列およびリーダー配列を有するTCRβ鎖ヌクレオチド配列を示す。
【0029】
【
図3】モノクローナル細胞のCD8
+およびテトラマー―PE二重陽性染色結果を示す。
【
図4a-4b】それぞれ可溶性TCRα鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す。
【
図5a-5b】それぞれ可溶性TCRβ鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す。
【0030】
【
図6】精製後に得られた可溶性TCRのゲル図を示す。最左端のレーンは還元性接着剤であり、中央のレーンは、分子量マーカー(marker)であり、最右端レーンは、非還元性接着剤である。
【
図7a-7b】それぞれ一本鎖TCRのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す。
【0031】
【
図8a-8b】それぞれ一本鎖TCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す。
【
図9a-9b】それぞれ一本鎖TCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す。
【0032】
【
図10a-10b】それぞれ一本鎖TCRリンカー配列(linker)のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を示す。
【
図11】精製後に得られた可溶性一本鎖TCRのゲル図を示す。左側のレーンは、分子量マーカー(marker)であり、右側のレーンは、非還元性接着剤である。
【0033】
【
図12】本発明の可溶性TCRとKASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合のBIAcore動態学マップを示す。
【
図13】本発明の可溶性一本鎖TCRとKASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合のBIAcore動態学マップを示す。
【0034】
【
図14】得られたT細胞クローンのELISPOT活性化機能検証の結果を示す。
【
図15】T2負荷標的細胞に対する本発明のTCRで形質導入されたエフェクター細胞のELISPOT活性化機能検証の結果を示す。
【
図16】腫瘍細胞株に対する本発明のTCRで形質導入されたT細胞のElispot活性化実験の結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明者らは、広範囲にわたる詳細な研究の結果、SSX2抗原の短いペプチドKASEKIFYV(SEQ ID NO:9)に特異的に結合することができるTCRを発見し、前記抗原の短いペプチドKASEKIFYVは、HLA A0201と複合体を形成し、かつ一緒に細胞表面に提示されることができる。本発明は、前記TCRをコードする核酸分子および前記核酸分子を含むベクターをさらに提供する。さらに、本発明は、本発明のTCRで形質導入された細胞を提供する。
【0036】
用語
MHC分子は、免疫グロブリンスーパーファミリーのタンパク質であり、クラスIまたはクラスIIのMHC分子であり得る。従って、抗原の提示に対して特異性を有し、異なる個体は、異なるMHCを有し、タンパク質抗原の異なる短いペプチドをそれぞれのAPC細胞表面に提示することができる。ヒトMHCは、通常HLA遺伝子またはHLA複合体と呼ばれる。
【0037】
T細胞受容体(TCR)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)に提示する特異性抗原ペプチドの唯一の受容体である。免疫システムにおいて、抗原の特異的TCRとpMHC複合体との結合は、T細胞と抗原提示細胞(APC)との間の直接的な物理的接触を引き起こした後、T細胞とAPCとの他の細胞膜表面分子が相互作用し、一連の後続の細胞信号伝達および他の生理学的反応を引き起こすことにより、異なる抗原特異的T細胞が標的細胞に対して免疫効果を発揮することができる。
【0038】
TCRは、α鎖/β鎖またはγ鎖/δ鎖がヘテロダイマーの形式で存在する細胞膜表面の糖タンパク質である。T細胞の95%において、TCRヘテロダイマーは、α鎖とβとで構成され、T細胞の5%は、γ鎖とδ鎖とで構成されるTCRを有する。天然のαβヘテロ二量体化TCRは、α鎖とβ鎖とを有し、α鎖とβ鎖とは、αβヘテロ二量体化TCRのサブユニットを構成する。大まかに言って、αとβとの各鎖は、可変領域、結合領域および定常領域を含み、β鎖は、通常可変領域と結合領域との間に短い多変領域をさらに含むが、当該多変領域は、通常結合領域の一部としてみなされる。各可変領域は、フレームワーク領域(framework regions)に埋め込まれた三つのCDR(相補性決定領域)であるCDR1、CDR2およびCDR3を含む。CDR領域は、TCRとpMHC複合体との結合を決定し、ここで、CDR3は、超可変領域と呼ばれる可変領域と結合領域とから再結合される。TCRのα鎖とβ鎖とは、一般にそれぞれ二つの「ドメイン」、つまり可変ドメインと定常ドメインとを有すると見なされ、可変ドメインは、結合された可変領域と結合領域とで構成される。TCRの定常ドメインの配列は、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)の公開データベースで見つかることができ、例えば、TCR分子のα鎖の定常ドメイン配列は、「TRAC*01」であり、TCR分子のβ鎖の定常ドメイン配列は、「TRBC1*01」または「TRBC2*01」である。加えて、TCRのα鎖とβ鎖とは、膜貫通領域と細胞質領域とを含み、細胞質領域は、非常に短い。
【0039】
本発明において、「本発明のポリペプチド」、「本発明のTCR」、「本発明のT細胞受容体」という用語は、交換可能に使用される。
【0040】
天然の鎖間ジスルフィド結合および人工的な鎖間ジスルフィド結合
天然のTCRの膜近位領域のCα鎖とCβ鎖との間には、一つのグループのジスルフィド結合が存在し、本発明では、「天然の鎖間ジスルフィド結合」と呼ばれる。本発明において、天然の鎖間ジスルフィド結合とは位置が異なる人工的に導入された鎖間共有ジスルフィド結合は、「人工鎖間ジスルフィド結合」と呼ばれる。
【0041】
ジスルフィド結合の位置を容易に説明するために、本発明におけるTRAC*01およびTRBC1*01またはTRBC2*01アミノ酸配列の位置番号は、N端からC末端まで順番に位置番号を付け、例えば、TRBC1*01またはTRBC2*01において、N端からC末端までの順番の順序の60番目のアミノ酸は、P(プロリン)であると、本発明では、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のPro60と表現することができ、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸と表現することもでき、例えば、TRBC1*01またはTRBC2*01において、N端からC末端までの順次的順序の61番目のアミノ酸は、Q(グルタミン)であると、本発明では、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGln61と表現することができ、TRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸と表現することもでき、他は、類推によって推測することができる。本発明において、可変領域のTRAVとTRBVとのアミノ酸配列の位置番号は、IMGTに記載の位置番号に従って番号が付けられる。例えば、TRAVの特定のアミノ酸について、IMGTに記載された位置番号が46であると、本発明においてTRAVの46番目のアミノ酸と表現され、他は、類推によって推測することができる。本発明において、他のアミノ酸の配列位置番号について特別な指示がある場合、特別な指示に従う。
【0042】
発明の詳細な説明
TCR分子
抗原プロセシングの過程において、抗原は、細胞内で分解され、次にMHC分子によって細胞表面に運ばれる。T細胞受容体は、抗原提示細胞表面のペプチド―MHC複合体を識別することができる。従って、本発明の第1の態様は、KASEKIFYV―HLA A0201複合体に結合することができるTCR分子を提供する。好ましくは、前記TCR分子は、単離または精製される。当該TCRのα鎖およびβ鎖は、それぞれ三つの相補性決定領域(CDR)を有する。
【0043】
本発明の好ましい実施形態において、前記TCRのα鎖は、
α CDR1―DSSSTY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2―IFSNMDM(SEQ ID NO:11)、
α CDR3―AEPNQAGTALI(SEQ ID NO:12)のアミノ酸配列を有するCDRを含み、および/または
前記TCRβ鎖可変ドメインの三つの相補性決定領域は、
β CDR1―MNHEY(SEQ ID NO:13)、
β CDR2―SVGEGT(SEQ ID NO:14)、
β CDR3―ASSSLEDPYEQY(SEQ ID NO:15)である。
【0044】
本発明のCDR領域の上記アミノ酸配列は、任意の適切なフレームワーク領域に札乳されて、キメラTCRを調製することができる。フレームワーク領域が本発明のTCRのCDR領域と交換性がある限り、当業者は、本発明に開示されたCDR領域に基づいて対応する機能を有するTCR分子を設計または合成することができる。従って、本発明のTCR分子は、上記α鎖および/またはβ鎖のCDR領域配列および任意の適切なフレームワーク領域を含むTCR分子を指す。本発明のTCRα鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:1と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%の配列同一性を有するアミノ酸配列であり、および/または本発明のTCRβ鎖可変ドメインは、SEQ ID NO:5と少なくとも90%、好ましくは95%、より好ましくは98%の配列同一性を有するアミノ酸配列である。
【0045】
本発明の好ましい例において、本発明のTCR分子は、α鎖とβ鎖とから構成されるヘテロダイマーである。具体的には、一方で、前記ヘテロ二量体化TCR分子のα鎖は、可変ドメインと定常ドメインとを含み、前記α鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、上記α鎖のCDR1(SEQ ID NO:10)、CDR2(SEQ ID NO:11)およびCDR3(SEQ ID NO:12)を含む。好ましくは、前記TCR分子は、α鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:1を含む。より好ましくは、前記TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1である。一方で、前記ヘテロ二量体化TCR分子のβ鎖は、可変ドメインと定常ドメインとを含み、前記β鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、上記β鎖のCDR1(SEQ ID NO:13)、CDR2(SEQ ID NO:14)およびCDR3(SEQ ID NO:15)を含む。好ましくは、前記TCR分子は、β鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:5を含む。より好ましくは、前記TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5である。
【0046】
本発明の好ましい例において、本発明のTCR分子は、α鎖の一部または全部および/またはβ鎖の一部または全部から構成される一本鎖TCR分子である。一本鎖TCR分子の説明しついては、Chung et al(1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91,12654-12658を参照することができる。文献によると、当業者は、本発明のCDRs領域を含む一本鎖TCR分子を容易に構築することができる。具体的には、前記一本鎖TCR分子は、Vα、VβおよびCβを含み、好ましくは、N端からC末端までの順序に従って結合される。
【0047】
前記一本鎖TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、上記α鎖のCDR1(SEQ ID NO:10)、CDR2(SEQ ID NO:11)およびCDR3(SEQ ID NO :12)を含む。好ましくは、前記一本鎖TCR分子は、α鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:1を含む。より好ましくは、前記一本鎖TCR分子のα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:1である。前記一本鎖TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、上記β鎖のCDR1(SEQ ID NO:13)、CDR2(SEQ ID NO:14)およびCDR3(SEQ ID NO:15)を含む。好ましくは、前記一本鎖TCR分子は、β鎖可変ドメインのアミノ酸配列SEQ ID NO:5を含む。より好ましくは、前記一本鎖TCR分子のβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:5である。
【0048】
本発明の好ましい例において、本発明のTCR分子の定常ドメインは、ヒト定常ドメインである。当業者は、関連する本またはIMGT(国際免疫遺伝学情報システム)の公開データベースを参照することにより、ヒト定常ドメインのアミノ酸配列を知るか、または得ることができる。例えば、本発明のTCR分子のα鎖の定常ドメイン配列は、「TRAC*01」であり得、TCR分子のβ鎖の定常ドメイン配列は、「TRBC1*01」または「TRBC2*01」であり得る。IMGTのTRAC*01に記載されたアミノ酸配列の53番目の位置は、Argであり、ここでは、TRAC*01エクソン1のArg53を表示し、他は、類推によって推測することができる。好ましくは、本発明のTCR分子のα鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:3であり、および/またはβ鎖のアミノ酸配列は、SEQ ID NO:7である。
【0049】
天然に存在するTCRは、膜貫通領域によって安定化された膜タンパク質である。抗原同定分子としての免疫グロブリン(抗体)と同様に、TCRも、診断や治療のために開発されることができ、この場合、可溶性TCR分子を得る必要がある。可溶性TCR分子は、膜貫通領域を含まない。可溶性TCRは、幅広い用途を有し、TCRとpMHCとの相互作用を研究するだけでなく、感染症を検出するための診断ツールや自身免疫疾患のマーカーとしても使用することができる。類似的に、可溶性TCRを使用して、特異的抗原を提示する細胞に治療薬(例えば、細胞毒素化合物または免疫刺激性化合物)を送達することができ、また、可溶性TCRを他の分子(例えば、抗-CD3-抗体)と結合して、T細胞を特定の抗原を提示する標的細胞にリダイレクトすることもできる。本発明は、SSX2抗原の短いペプチドに対して特異性を有する可溶性TCRも得る。
【0050】
可溶性TCRを得るために、一方で、本発明のTCRは、そのα鎖とβ鎖との定常ドメインの残基の間に人工的なジスルフィド結合を導入するTCRであり得る。システイン残基は、前記TCRのα鎖とβ鎖との定常ドメインの間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成する。システイン残基は、天然のTCRの適切な部位の他のアミノ酸残基を置換して、人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成することができる。例えば、TRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer57のシステイン残基を置換してジスルフィド結合を形成する。システイン残基を導入してジスルフィド結合を形成する他の部位は、TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer77、TRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer17、TRAC*01エクソン1のThr45およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAsp59、TRAC*01エクソン1のSer15およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu15、TRAC*01エクソン1の Arg53およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のSer54、 TRAC*01エクソン1の Pro89およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のAla19、またはTRAC*01エクソン1のTyr10およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1のGlu20であり得る。つまり、システイン残基は、上記α鎖とβ鎖との定常ドメインの任意の部位のグループを置換する。天然のジスルフィド結合を失う目的を達成するためのシステイン残基を含まないように、本発明のTCR定常ドメインの一つまたは複数のC末端で、最大50個、または最大30個、または最大15個、または最大10個、または最大8個またはもっと少ないアミノ酸を切り詰めることができ、天然のジスルフィド結合を形成するシステイン残基を別のアミノ酸へ突然変異させることによっても上記目的を達成することができる。
【0051】
上記のように、本発明のTCRは、そのα鎖とβ鎖との定常ドメインの残基の間に導入された人工的なジスルフィド結合を含むことができる。定常ドメインの間に上記導入された人工的なジスルフィド結合を含むか、または含まないことにかかわらず、本発明のTCRは、すべてTRAC定常ドメイン配列およびTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列を含むことができることに留意されたい。TCRのTRAC定常ドメイン配列およびTRBC1またはTRBC2定常ドメイン配列は、TCRに存在する天然のジスルフィド結合によって結合されることができる。
【0052】
可溶性TCRを得るために、一方で、本発明のTCRは、その疎水性コア領域に突然変異が発生するTCRを含み、これらの疎水性コア領域の突然変異は、好ましくは、例えば、公開番号WO2014/206304の特許文書に記載されたように、本発明の可溶性TCRの安定性を改善することができる突然変異である。このようなTCRは、(α鎖および/またはβ鎖)可変領域アミノ酸の11、13、19、21、53、76、89、91、94番目、および/またはα鎖J遺伝子(TRAJ)の短いペプチドアミノ酸の最後から3番目、最後から5番目、最後から7番目、および/またはβ鎖J遺伝子(TRBJ)の短いペプチドアミノ酸の最後から2番目、4番目、6番目の可変ドメイン疎水性コア位置で突然変異させることができ、ここで、アミノ酸配列の位置番号は、国際免疫遺伝学情報システム(IMGT)に記載された位置番号による。当業者は、上記国際免疫遺伝学情報システムを知り、当該データベースに従って、IMGTにおける異なるTCRのアミノ酸残基の位置番号を得ることができる。
【0053】
本発明において、疎水性コア領域で突然変異が発生するTCRは、TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを結合する柔軟なペプチド鎖から構成される安定的な可溶性一本鎖TCRであり得る。本発明における柔軟なペプチド鎖は、TCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを結合するのに適した任意のペプチド鎖であり得ることに留意されたい。本発明の実施例4で構築された一本鎖可溶性TCRの場合、そのα鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:32であり、コードされたヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:33であり、β鎖可変ドメインのアミノ酸配列は、SEQ ID NO:34であり、コードされたヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:35である。
【0054】
さらに、安定性の観点から、特許文書201510260322.4は、TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を導入することにより、TCRの安定性を顕著に向上させることができる。従って、本発明の高親和性TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を含むことができる。具体的に、前記TCRのα鎖可変領域とβ鎖定常領域との間に人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成するシステイン残基は、TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸、TRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、TRAVの46番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の61番目のアミノ酸、またはTRAVの47番目のアミノ酸およびTRBC1*01またはTRBC2*01エクソン1の60番目のアミノ酸を置換する。好ましくは、このようなTCRは、(i)膜貫通ドメインを除くTCRα鎖の全部または一部、および(ii)膜貫通ドメインを除くTCRβ鎖の全部または一部を含むことができ、ここで、(i)および(ii)は、それぞれTCR鎖の可変ドメインおよび定常ドメインの少なくとも一部を含み、α鎖とβ鎖とは、ヘテロダイマーする。より好ましくは、このようなTCRは、α鎖可変ドメインおよびβ鎖可変ドメインならびに膜貫通ドメインを除くβ鎖定常ドメインの全部または一部を含むが、α鎖定常ドメインを含まず、前記TCRα鎖可変ドメインとβ鎖とは、ヘテロダイマーを形成する。
【0055】
本発明のTCRは、多価複合体の形態で提供されることもできる。本発明の多価TCR複合体は、例えば、p53の四量体かドメインを使用してテトラマーを生成することができる、二つ、三つ、四つまたはそれ以上の本発明のTCRを結合させることによって形成されるポリマーを含むか、または本発明の複数のTCRを別の分子に結合させることによって形成される複合体を含むことができる。本発明のTCR複合体は、インビトロまたはインビボで特定の抗原を提示する細胞を追跡または標的化するために使用されることができ、そのような用途を有する他の多価TCR複合体の中間体を形成するために使用されることもできる。
【0056】
本発明のTCRは、単独で使用されることができ、共有結合または他の方法で、好ましくは、共有結合でコンジュゲートに結合させることができる。前記コンジュゲートは、検出可能なマーカー(診断の目的とし、ここで、前記TCRは、KASEKIFYV―HLA A0201複合体を提示する細胞の存在を検出するために使用される)、治療剤、PK(プロテインキナーゼ)修飾部分あるいはこれらの物質の任意の組み合わせの結合またはカップリングを含む。
【0057】
診断の目的で使用される検出可能なマーカーは、蛍光または発光マーカー、放射性マーカー、MRI(磁気共鳴画像)またはCT(電子コンピューターX線断層撮影技術)造影剤、または検出可能な生成物を生成することができる酵素を含むが、これらに限定されない。
【0058】
本発明のTCRに結合またはカップリングされることができる治療剤は、(1)放射性核種(Koppeら、2005、癌転移レビュー(Cancer metastasis reviews)24、539)、(2)生物学的毒性(Chaudharyら、1989、自然(Nature)339、394、Epelら、2002、癌免疫学および免疫治療(Cancer ImMunology and ImMunotherapy)51、565)、(3)IL―2等のサイトカイン(Gilliesら、1992、米国国立科学アカデミーの学術誌(PNAS)89、1428、Cardら、2004、癌免疫学および免疫治療(Cancer ImMunology and ImMunotherapy)53、345、Halinら、2003、癌研究(Cancer Research)63、3202)、(4)抗体Fcフラグメント(Mosqueraら、2005、免疫学ジャーナル(The Journal Of ImMunology)174、4381)、(5)抗体scFvフラグメント(Zhuら、1995、癌国際ジャーナル(International Journal of Cancer)62、319)、(6)金ナノ粒子/ナノロッド(Lapotkoら、2005、癌コミュニケーション(CancerLetters)239、36、Huangら、2006、米国化学会誌(Journal of the American Chemical Society)128、2115)、(7)ウイルス粒子(Pengら、2004、遺伝子治療(Gene therapy)11、1234)、(8)リポソーム(Mamotら、2005、癌研究(Cancer research)65、11631)、(9)ナノ磁性粒子、(10)プロドラッグ活性化酵素(例えば、DT―ジアホラーゼ(DTD)またはビフェニル加水分解酵素様タンパク質(BPHL))、(11)化学療法剤(例えば、シスプラチン)または任意の形態のナノ粒子等を含むが、これらに限定されない。
【0059】
さらに、本発明のTCRは、一つを超える種に由来する配列を含むハイブリッドTCRであり得る。例えば、研究によると、マウスTCRは、ヒトTよりも細胞でより効果的に発現されることができることが示される。従って、本発明のTCRは、ヒト可変ドメインおよびマウス定常ドメインを含むことができる。この方法の欠点は、免疫応答を引き起こす可能性があることである。従って、養子T細胞治療に使用される場合、マウスT細胞を発現する移植を可能にする免疫抑制の調節スキームが必要される。
【0060】
本明細書におけるアミノ酸の名称は、国際的に使用される単一の英字または三つの英字で表され、単一の英字および三つの英字のアミノ酸の名称の対応関係は、Ala(A)、Arg(R)、Asn(N)、Asp(D)、Cys(C)、Gln(Q)、Glu(E)、Gly(G)、His(H)、Ile(I)、Leu(L)、Lys(K)、Met(M)、Phe(F)、Pro(P)、Ser(S)、Thr(T)、Trp(W)、Tyr(Y)、Val(V)のとおりである。
【0061】
核酸分子
本発明の第2の態様は、本発明の第1の態様のTCR分子またはその一部コードする核酸分子を提供し、前記一部は、一つまたは複数のCDR、α鎖および/またはβ鎖の可変ドメイン、およびα鎖および/またはβ鎖であり得る。
【0062】
本発明の第1の態様のTCR分子のα鎖CDR領域をコードするヌクレオチド配列は、
α CDR1―gacagctcctccacctac(SEQ ID NO:16)、
α CDR2―attttttcaaatatggacatg(SEQ ID NO:17)、
α CDR3―gcagaacctaaccaggcaggaactgctctgatc(SEQ ID NO:18)であり、
本発明の第1の態様のTCR分子のβ鎖CDR領域をコードするヌクレオチド配列は、
β CDR1―atgaaccatgaatac(SEQ ID NO:19)、
β CDR2―tcagttggtgagggtaca(SEQ ID NO:20)、
β CDR3―gccagcagttccctggaggacccctacgagcagtac(SEQ ID NO:21)である。
【0063】
従って、本発明のTCRα鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:16、SEQ ID NO:17およびSEQ ID NO:18を含み、および/または本発明のTCRβ鎖をコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:19、SEQ ID NO:20およびSEQ ID NO:21を含む。
【0064】
本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、一本鎖または二本鎖であり得、当該核酸分子は、RNA またはDNAであり得、またイントロンを含むか、または含まないことができる。好ましくは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、イントロンを含まないが、本発明のポリペプチドをコードすることができ、例えば、本発明のTCRα鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:2を含み、および/または本発明のTCRβ鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:6を含む。または、本発明のTCRα鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:33を含み、および/または本発明のTCRβ鎖可変ドメインをコードする本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:35を含む。より好ましくは、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:4および/またはSEQ ID NO:8を含む。または、本発明の核酸分子のヌクレオチド配列は、SEQ ID NO:31である。
【0065】
遺伝暗号の縮重により、異なるヌクレオチド配列は、同じポリペプチドをコードすることができることを理解されたい。従って、本発明のTCRをコードする核酸配列は、本発明の図面に示される核酸配列と同じであるか、または縮重された変異体であり得る。本発明の一つの例を説明すると、「縮重された変異体」とは、SEQ ID NO:1を有するタンパク質配列をコードするが、SEQ ID NO:2の配列とは異なる核酸配列を指す。
【0066】
ヌクレオチド配列は、コドン最適化されることができる。異なる細胞によって具体的なコドンの使い方が異なり、細胞の種類に応じて、配列のコドンを変更して発現量を増やすことができる。哺乳動物の細胞および他の多くの生物のコドン選択リストは、当業者によく知られている。
【0067】
本発明の核酸分子の全長配列またはそのフラグメントは、通常、PCR増幅法、組換え法または人工的合成法によって得られることができるが、これらに限定されない。現在、本発明のTCR(またはそのフラグメント、またはその誘導体)をコードするDNA配列は、化学合成によって完全に得られることができる。次に、当該DNA配列は、当技術分野で知られている様々な既存のDNA分子(またはベクター)および細胞に導入されることができる。DNAは、コード鎖または非コード鎖であり得る。
【0068】
ベクター
本発明は、発現ベクター、即ち、インビボまたはインビトロで発現することができる構築物を含む、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。一般に使用されるベクターは、細菌プラスミド、バクテリオファージおよび動植物ウイルスを含む。
【0069】
ウイルス送達システムは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、ヘルペスウイルスベクター、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、バキュロウイルスベクターを含むが、これらに限定されない。
好ましくは、ベクターは、本発明のヌクレオチドをT細胞等の細胞に移して、当該細胞がSSX2抗原に特異的なTCRを発現させることができる。理想的には、当該ベクターは、T細胞で高レベルで持続的に発現されることができる。
【0070】
細胞
本発明は、本発明のベクターまたはコード配列を使用して遺伝子工学によって作成された宿主細胞に関する。前記宿主細胞は、本発明のベクターを含むか、または染色体には本発明の核酸分子が組み込まれた。宿主細胞は、大腸菌、酵母細胞、CHO細胞等の原核細胞および真核細胞から選択される。
【0071】
さらに、本発明は、本発明のTCRを発現する単離された細胞、特にT細胞をさらに含む。当該T細胞は、被験者から単離されたT細胞に由来することができるか、または末梢血リンパ球(PBL)グループの一部等の被験者から単離された混合細胞グループであり得る。例えば、当該細胞は、末梢血単核細胞(PBMC)から単離されることができ、CD4+ヘルパーT細胞またはCD8+細胞毒性T細胞であり得る。当該細胞は、CD4+ヘルパーT細胞/CD8+細胞毒性T細胞の混合グループに存在することができる。一般に、当該細胞は、抗体(例えば、抗―CD3または抗―CD28の抗体)で活性化されて、トランスフェクションをより受け入れやすくすることができ、例えば、本発明のTCR分子をコードするヌクレオチド配列を含むベクターを用いてトランスフェクションを行う。
【0072】
選択的に、本発明の細胞は、幹細胞であるか、または造血幹細胞(HSC)等の幹細胞に由来することができる。幹細胞の表面はCD3分子を発現しないため、HSCへの遺伝子導入は、細胞表面でのTCRの発現を引き起こさない。しかしながら、幹細胞が胸腺に移動するリンパ球前駆細胞(lymphoid precursor)に分化する場合、CD3分子の発現により、胸腺細胞表面に導入された当該TCR分子の発現が開始される。
【0073】
本発明のTCRをコードするDNAまたはRNAによるT細胞トランスフェクション(例えば、Robbinsら、(2008)J.ImMunol.180:6116―6131)に適した多くの方法がある。本発明のTCRを発現するT細胞は、養子免疫療法に使用されることができる。当業者は、養子治療に適した多くの方法を知ることができる(例えば、Rosenbergら、(2008)Nat Rev Cancer8(4):299―308)。
【0074】
SSX2抗原関連疾患
本発明は、SSX2特異的T細胞を被験者に養子移入する段階を含む、被験者におけるSSX2関連疾患を治療および/または予防する方法に関する。当該SSX2特異的T細胞は、KASEKIFYV―HLA A0201複合体を識別することができる。
本発明のSSX2特異的T細胞は、SSX2抗原の短いペプチドKASEKIFYV―HLA A0201複合体を提示する任意のSSX2関連疾患を治療するために使用されることができる。例えば、黒色腫、頭頸部がん、リンパ腫、様々な骨髄腫、膵臓がん、前立腺がん、肉腫、肝細胞がんおよび結腸がん等の腫瘍を含むが、これらに限定されない。
【0075】
治療方法
治療は、SSX2抗原関連疾患に罹患している患者またはボランティアからT細胞を単離し、本発明のTCRを上記T細胞に導入し、次にこれらの遺伝子操作された細胞を治療のために患者の体内に注入することによって実施されることができる。従って、本発明は、本発明のTCRを発現する単離されたT細胞を含む、SSX2関連疾患を治療する方法を提供し、好ましくは、当該T細胞は、患者自身に裕頼氏、患者の体内に移される。一般に、(1)患者のT細胞の単離、(2)本発明の核酸分子または本発明のTCR分子をコードすることができる核酸分子によるT細胞のインビトロ形質導入、(3)患者の体内に注入された遺伝子操作されたT細胞を含む。単離、トランスフェクションおよび再注入される細胞の数は、医師によって決定されることができる。
【0076】
本発明の主な利点は次のとおりである。
(1)本発明のTCRは、SSX2抗原の短いペプチド複合体KASEKIFYV―HLA A0201に結合することができ、同時に、本発明のTCRで形質導入された細胞は、特異的に活性化され、かつ標的細胞に対して強い殺傷効果を有することができる。
【0077】
以下、本発明は、具体的実施例と併せてさらに説明される。これらの実施例は、本発明を説明するためにのみ使用され、本発明の範囲を限定するものではないことを理解されたい。以下の実施例における具体的な条件を示さない実験方法は、通常、一般的な条件、例えば、(SambrookおよびRussellら,分子クローニング:実験マニュアル(Molecular Cloning-A Laboratory Manual)(第3版)(2001)CSHL出版社)に記載の条件、メーカーよって提案された条件に従う。特に明記されない限り、パーセンテージと部数とは、重量で計算される。以下の実施例で使用される実験材料および試薬は、特に明記しない限り、商業チャネルから入手することができる。
【0078】
実施例1.SSX2抗原の短いペプチド特異的T細胞のクローニング
合成短いペプチドKASEKIFYV(SEQ ID NO.:9、北京サイバーソン遺伝子技術株式会社)を使用して、遺伝子型がHLA―A0201である健康なボランティアの末梢血リンパ球(PBL)を刺激する。KASEKIFYV短いペプチドを、ビオチンマーカーを有するHLA―A0201で再生し、pHLA半数体を調製する。これらの半数体は、PEマーカーのストレプトアビジン(BD会社)と組み合わせてPEマーカーのテトラマーを形成し、当該テトラマーおよび抗―CD8―APC二重陽性細胞が選択される。選択された細胞を増幅し、上記方法に従って二次選択を行い、次に限界希釈法を使用してものクローニングを行う。モノクローナル細胞は、テトラマーで染色され、スクリーニングされた二重陽性クローンは、
図3に示されたとおりである。
【0079】
ELISPOT実験を通じて、当該T細胞クローンの機能および特異性をさらに検出する。当業者は、ELISPOT実験を使用して細胞機能を検出する方法をよく知っている。本実施例のIFN―γELISPOT実験で使用されるエフェクター細胞は、本発明で得られたT細胞クローンであり、標的細胞は、本発明の短いペプチドをロードしたT2細胞であり、対照グループは、他の短いペプチドをロードしたT2細胞および任意の短いペプチドをロードしないT2細胞である。
【0080】
まず、ELISPOTプレートを準備し、ELISPOT実験の段階は次のとおりである。次の順序で、40μlのT2細胞5×10
5個の細胞/mL(即ち、20000個のT2細胞/ウェル)、40μlのエフェクター細胞(2000個のT細胞クローン/ウェル)等の試験の各成分をELISPOTプレートに加え、20μlの特異的な短いペプチドを実験グループに加え、20μlの非特異的な短いペプチドを対照グループに加え、20μlの培地(試験培地)を空白グループに加え、二つのデュープリケートウェルを設置する。次に、一晩インキュベートする(37℃、5%CO
2)。その後、プレートを洗浄し、かつ二次検出および発色を行い、プレートを1時間乾燥させ、イムノスポットプレートリーダー(ELISPOT READER system、AID会社)を使用して、メンブレンに形成されたスポットを数える。実験結果は、
図14に示されるように、得られた特定の抗原特異的T細胞クローンが、本発明の短いペプチドをロードしたT2細胞に対して特異的な反応を有し、他の無関係なペプチドおよび短いペプチドをロードしないT2細胞に対してほぼ反応がない。
【0081】
実施例2.SSX2抗原の短いペプチド特異的T細胞クローンを得るためのTCR遺伝子およびベクターの構築
用Quick―RNA(商標)miniPrep(ZYMO research)を使用して、実施例1でスクリーニングされた抗原の短いペプチドKASEKIFYV特異性、HLA―A0201限制性T細胞クローンのトータルRNAを抽出する。cDNAの合成は、clontechのSMART RACE cDNA増幅キットを使用し、使用されるプライマーは、ヒトTCR遺伝子のC末端保存領域で設計される。配列をTベクター(TAKARA)にクローンしてシーケンシングする。当該配列は、イントロンを含まない相補的配列であることに注意されたい。シーケンシング後、当該二重陽性クローンによって発現されたTCRのα鎖およびβ鎖の配列構造は、それぞれ
図1および
図2示されたとおりであり、
図1a、
図1b、
図1c、
図1d、
図1eおよび
図1fは、それぞれTCRα鎖可変ドメインのアミノ酸配列、TCRα鎖可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRα鎖アミノ酸配列、TCRα鎖ヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRα鎖アミノ酸配列およびリーダー配列を有するTCRα鎖ヌクレオチド配列であり、
図2a、
図2b、
図2c、
図2d、
図2eおよび
図2fは、それぞれTCRβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列、TCRβ鎖可変ドメインのヌクレオチド配列、TCRβ鎖アミノ酸配列、TCRβ鎖ヌクレオチド配列、リーダー配列を有するTCRβ鎖アミノ酸配列およびリーダー配列を有するTCRβ鎖ヌクレオチド配列である。
【0082】
同定によると、α鎖は、
α CDR1―DSSSTY(SEQ ID NO:10)、
α CDR2―IFSNMDM(SEQ ID NO:11)、
α CDR3―AEPNQAGTALI(SEQ ID NO:12)のアミノ酸配列を有するCDRを含み、
β鎖は、
β CDR1―MNHEY(SEQ ID NO:13)、
β CDR2―SVGEGT(SEQ ID NO:14)、
β CDR3―ASSSLEDPYEQY(SEQ ID NO:15)のアミノ酸配列を有するCDRを含む。
【0083】
オーバーラップ(overlap)PCRによって、それぞれTCRのα鎖およびβ鎖の全長遺伝子をレンチウイルス発現ベクターpLenti(addgene)にクローンする。具体的には、オーバーラップPCRを使用して、TCRのα鎖およびTCRβ鎖の全長遺伝子を結合して、TCRα―2A―TCRβフラグメントを得る。レンチウイルス発現ベクターおよびTCRα―2A―TCRβを消化し、結合して、pLenti―TRA―2A―TRB―IRES―NGFRプラスミドを得る。対照として、同時にeGFPを発現するレンチウイルスベクターpLenti―eGFPも構築する。その後、293T/17を使用して、偽ウイルスをパッケージ化する。
【0084】
実施例3.SSX2抗原の短いペプチド特異的な可溶性TCRの発現、リフォールディングおよび精製
可溶性TCR分子を得るために、本発明のTCR分子のα鎖およびβ鎖は、それぞれその可変ドメインおよび定常ドメインの一部のみを含むことができ、またα鎖およびβ鎖の定常ドメインにそれぞれ一つのシステイン残基を導入して、人工的な鎖間ジスルフィド結合を形成し、システイン残基を導入した位置は、それぞれTRAC*01エクソン1のThr48およびTRBC2*01エクソン1のSer57であり、そのα鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図4aおよび
図4bに示されたとおりであり、そのβ鎖のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図5aおよび
図5bに示されたとおりである。「分子クローニング:実験マニュアル」(Molecular Cloning aLaboratory Manual)(第3版、SambrookおよびRussell)に記載の標準的な方法を通じて、上記TCRのα鎖およびβ鎖の標的遺伝子配列を合成した後、それぞれ発現ベクターpET28a+(Novagene)に插入し、上流と下流とのクローニング部位は、それぞれNcoIおよびNotIである。插入されたフラグメントは、シーケンシングによって確認される。
【0085】
TCRα鎖およびβ鎖の発現ベクターは、それぞれ化学形質転換法により発現細菌BL21(DE3)に形質転換され、細菌は、LB培養液で増殖し、OD600=0.6で最終濃度0.5mMのIPTGで誘導され、TCRα鎖およびβ鎖の発現後に形成された封入体を、BugBuster Mix(Novagene)で抽出し、またBugBuster溶液で繰り返し洗浄し、最後に、封入体を6Mの塩酸グアニジン、10mMのジチオスレイトール(DTT)、10mMのエチレンジアミン四酢酸(EDTA)、20mMのトリス(Tris)(pH8.1)に溶解する。
【0086】
溶解後のTCRα鎖およびβ鎖は、5Mの尿素、0.4Mのアルギニン、20mMのトリス(pH8.1)、3.7mMのシスタミン(cystamine)、6.6mMのβ―メルかポエチルアミン(β―mercapoethylamine)(4℃)に1:1の質量比ですばやく混合され、最終濃度は、60mg/mLである。混合後、溶液を10倍量の脱イオン水に入れて透析し(4℃)、12時間後、脱イオン水を緩衝液(20mMのトリス、pH8.0)に変え、4℃で12時間透析を続ける。透析完了後の溶液を0.45μmのフィルターメンプレンでろ過した後、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、5ml、GE Healthcare)で精製する。溶出されたピークに正常に再生されたαおよびβダイマーが含まれたTCRは、SDS―PAGEゲルによって確認される。次に、TCRは、ゲルろ過クロマトグラフィー(HiPrep 16/60、Sephacryl S―100 HR、GE Healthcare)によってさらに精製される。精製後のTCRの純度は、SDS―PAGEによって90%を超えることが確認され、濃度は、BCA法によって確認される。本発明によって得られた可溶性TCRのSDS―PAGEゲル図は、
図6に示されたとおりである。
【0087】
実施例4.SSX2抗原の短いペプチド特異性的な可溶性一本鎖TCRの生成
特許文書WO2014/206304の記載によると、部位特異的突然変異の方法を使用して、実施例2のTCRのα鎖およびβ鎖の可変ドメインを、一つの柔軟な短いペプチド(リンカー(linker))によって結合された安定的で可溶性の一本鎖TCR分子に構築した。当該一本鎖TCR分子のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図7aおよび
図7bに示されたとおりである。そのα鎖可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図8aおよび
図8bに示されたとおりであり、そのβ鎖可変ドメインのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図9aおよび
図9bに示されたとおりであり、そのリンカー配列のアミノ酸配列およびヌクレオチド配列は、それぞれ
図10aおよび
図10bに示されたとおりである。
【0088】
標的遺伝子をNcoiおよびNotiで二重消化した後、NcoiおよびNotiで二重消化されたpET28aベクターに結合する。結合生成物をE.coli DH5αに形質転換し、カナマイシンを含むLBプレートにコーティングし、37℃で一晩逆さにして培養し、PCRスクリーニング用の陽性クローンを選択し、陽性組換え単位に対してシーケンシングし、配列が正しいかどうかを確認した後、組換えプラスミドを抽出し、発現のためにE.coli BL21(DE3)に形質転換した。
【0089】
実施例5.SSX2抗原の短いペプチド特異的な可溶性の一本鎖TCRの発現、再生および精製
実施例4で調製された組換えプラスミドpET28a―テンプレート鎖を含むすべてのBL21(DE 3)コロニーを、カナマイシンを含むLB培地に接種し、37℃でOD600が0.6~0.8になるまで培養し、最終濃度が0.5mMになるようにIPTGを加え、37℃で4時間インキュベートし続ける。5000rpmで15分間遠心分離して細胞ペレットを溶解し、Bugbuster Master Mix(Merck)で細胞ペレットを溶解し、6000rpmで15分間遠心分離して封入体を回収し、再びBugbuster(Merck)で洗浄して細胞破片および膜成分を除去し、6000rpmで15分間遠心分離して、封入体を収集する。封入体を緩衝液(20mMのトリス―HCl、pH8.0、8Mの尿素)に溶解し、高速で遠心分離して不溶性物質を除去し、上清液をBCA法で定量した後、分注して―80℃で保存する。
【0090】
溶解した5mgの一本鎖TCR封入体タンパク質に、2.5mLの緩衝液(6MGua―HCl、50mMのトリス―HCl、pH8.1、100mMのNaCl、10mMのEDTA)を加え、最終濃度が10mMになるまでDTTを加え、37℃で30分間処理する。注射器を使用して、125mLの再生緩衝液(100mMのトリス―HCl、pH8.1、0.4MLの―アルギニン、5Mの尿素、2mMのEDTA、6.5mMのβ―メルカプトエチルアミン、1.87mMのシスタミン)に、上記処理後の一本鎖TCRを滴下し、4℃で10分間撹拌し、次に再生溶液をカットオフが4kDaであるセルロース膜透析バッグに入れ、透析バッグを1Lの予冷水に入れ、4℃で一晩ゆうっくりと攪拌する。17時間後、透析溶液を1Lの予冷緩衝液(20mMのトリス―HCl、pH8.0)に変更し、4℃で8時間透析を続け、次に透析溶液を同じ新鮮な緩衝液に変更して、一晩透析を続ける。17時間後、サンプルを0.45μmのフィルターメンプレンでろ過し、真空脱気した後、陰イオン交換カラム(HiTrap Q HP、GE Healthcare)に通過し、20mMのトリス―HCl、pH8.0で調製した0―1MのNaCl線形勾配溶出液でタンパク質を精製し、収集された溶出成分をSDS―PAGEで分析し、一本鎖TCRを含む成分を濃縮した後、ゲルろ過カラム(Superdex 75 10/300、GE Healthcare)によって精製し、ターゲット成分もSDS―PAGEで分析する。
【0091】
BIAcore分析に使用される溶出成分は、ゲルろ過法によって純度がさらに試験される。条件は次のとおりである。クロマトグラフィーカラムAgilent Bio SEC―3(300A、φ7.8×300mM)、移動相は、150mMのリン酸塩緩衝液であり、流速は、0.5mL/minであり、カラム温度は、25℃であり、UV検出波長は、214nmである。
本発明で得られた可溶性一本鎖TCRのSDS―PAGEゲル図は、
図11に示されたとおりである。
【0092】
実施例6.結合特性化
BIAcore分析
本実施例は、本発明の可溶性TCR分子がKASEKIFYV―HLA A0201複合体に特異的に結合されることができることを証明する。
【0093】
BIAcore T200リアルタイム分析システムを使用して、実施例3および実施例5で得られたTCR分子とKASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合活性を検出する。抗ストレプトアビジン抗体(GenScript)をカップリング緩衝液(10mMの酢酸ナトリウム緩衝液、pH4.77)に加え、次に抗体を事前にEDCとNHSとで活性化したCM5チップを流して、抗体をチップ表面に固定し、最後にエタノールアミン塩酸溶液で反応していない活性化表面を密閉して、カップリングプロセスを完了し、カップリングレベルは、約15000RUである。
【0094】
抗体でコーティングされたチップの表面に低濃度のストレプトアビジンを流し、次にKASEKIFYV―HLA A0201複合体を検出チャネルに流し、別のチャネルを参照チャネルとして流し、0.05mMのビオチンを10μL/minの流速で2分間チップに流し、ストレプトアビジンの残りの結合部位を密閉する。
【0095】
上記KASEKIFYV―HLA A0201複合体の調製プロセスは、次のとおりである。
a.精製
重鎖または軽鎖の発現を誘導するE.coli菌溶液を100mL収集し、4℃、8000gで10分間遠心分離した後、10mLのPBSで細菌を1回洗浄し、その後5mLのBugBuster Master Mix Extraction Reagents(Merck)で激しく振とうして細菌を再懸濁し、室温下で回転させながら20分間インキュベートし、その後4℃、6000gで15分間遠心分離し、上清を捨て、封入体を収集する。
【0096】
上記封入体を5mLのBugBuster Master Mixに再懸濁し、室温下で回転させながら5分間インキュベートし、10倍希釈した30mLのBugBusterを加え、均等に混合し、4℃、6000gで15分間遠心分離し、上清を捨て、10倍希釈した30mLのBugBusterを加えて封入体を再懸濁し、均等に混合し、4℃、6000gで15分間遠心分離し、2回繰り返し、30mLの20mMトリス―HCl、pH8.0を加えて封入体を再懸濁し、均等に混合し、4℃、6000gで15分間遠心分離し、最後に20mMトリス―HCl、8M尿素で封入体を溶解し、SDS―PAGEで封入体の純度を検出し、BCAキットで濃度を測定する。
【0097】
b.再生
合成された短いペプチドKASEKIFYV(北京サイバーソン遺伝子技術株式会社)を20mg/mlの濃度になるまでDMSOに溶解する。軽鎖および重鎖の封入体を、8M尿素、20mMのトリス、pH8.0、10mMDTTで溶解し、再生前に、3M塩酸グアニジン、10mM酢酸ナトリウム、10mMEDTAを加えてさらに変性する。KASEKIFYVペプチドを25mg/L(最終濃度)で再生緩衝液(0.4ML―アルギニン、100mMトリス、pH8.3、2mMEDTA、0.5mM酸化型グルタチオンペプチド、5mM還元型グルタチオンペプチド、0.2mMPMSF、4℃に冷却する)に加え、次に順次に20mg/Lの軽鎖および90mg/Lの重鎖を加え(最終濃度、重鎖は、8時間/回で3回分けて加える)、再生は、4℃で少なくとも3日で完了し、SDS―PAGEで再生が成功したかどうかを検出する。
【0098】
c.再生後の精製
透析用として10倍量の20mMトリス、pH8.0を使用して、再生緩衝液を交換し、緩衝液を少なくとも2回交換して、溶液のイオン強度を十分に低下させる。透析後、タンパク質溶液を0.45μmの酢酸セルロースフィルターメンプレンでろ過し、次にHiTrap Q HP(GEゼネラルエレクトリックカンパニー(GE General Electric Company))陰イオン交換カラム(5mLのベッドボリューム)にロードする。Akta精製器(GEゼネラルエレクトリックカンパニー)を使用して、20mMトリスpH8.0で配制した0~400mMNaCl線形勾配溶液でタンパク質を溶出し、pMHCは、約250mMNaClで溶出され、各ピーク成分を収集し、SDS―PAGEで純度を検出する。
【0099】
d.ビオチン化
精製したpMHC分子をMillipore限外ろ過チューブで濃縮し、同時に緩衝液を20mMトリスpH8.0に変換し、次にビオチン化試薬0.05MBicine、pH8.3、10mMATP、10mMMgOAc、50μmのD―ビオチン、100μg/mlのBirA酵素(GST―BirA)を加え、室温下で混合物を一晩インキュベートし、SDS―PAGEでビオチン化が完了したかどうかを検出する。
【0100】
e.ビオチン化後の複合体の精製
Millipore限外ろ過チューブでマーカー後のビオチン化pMHC分子を1mLに濃縮し、ゲルろ過クロマトグラフィーを使用してビオチン化pMHCを精製し、Akta精製器(GEゼネラルエレクトリックカンパニー)を使用して、ろ過したPBSを使用して、HiPrepTM 16/60 S200 HRカラム(GEゼネラルエレクトリックカンパニー)を事前に平衡化し、1mLの濃縮後のビオチン化pMHC分子をロードし、次にPBSで1mL/minの流速で溶出する。ビオチン化pMHC分子は、約55mLで単一のピークとして溶出される。タンパク質を含む成分を合併し、Millipore限外ろ過チューブで濃縮し、BCA法(Thermo)でタンパク質濃度を測定し、プロテアーゼ阻害剤cocktail(Roche)を加えて、ビオチン化pMHC分子を分注して、―80℃で保存する。
【0101】
BIAcore Evaluationソフトウェアを使用して、ダイナミクスパラメーターを計算することにより、得られた本発明の可溶性TCR分子および本発明で構築された可溶性一本鎖TCR分子と、KASEKIFYV―HLA A0201複合体との結合の動態学マップは、それぞれ
図12および
図13に示されたとおりである。マップによると、本発明でえられた可溶性TCR分子および可溶性一本鎖TCR分子の両方は、KASEKIFYV―HLA A0201複合体に結合されることができることを示す。同時に、上記方法を使用して、本発明の可溶性TCR分子および他のいくつかの無関係な抗原の短いペプチドおよびHLA複合体との結合活性を検出し、結果は、本発明のTCR分子が他の無関係な抗原に結合しなかったことを示す。
【0102】
実施例7.本発明のTCRで形質導入されたT細胞の活性化実験(T2負荷)
本発明のTCR標的遺伝子を含むレンチウイルスベクターを構築し、T細胞を形質導入し、ELISPOT機能検証試験を実施する。
ELISPOTスキーム
以下の試験を実施して、標的細胞特異性に対する本発明のTCRで形質導入されたT細胞の活性化反応を証明する。ELISPOT試験で検出されたIFN―γ生成量をT細胞活性化の読み出し値として使用する。
【0103】
試薬
試験培地:10%FBS(ギブコ会社(Gibco)、カタログ番号16000―044)、RPMI 1640(ギブコ会社(Gibco)、カタログ番号C11875500bt)
洗浄緩衝液(PBST):0.01MPBS/0.05%トゥイーン(Tween)20
PBS(ギブコ会社(Gibco)、カタログ番号C10010500BT)
PVDF ELISPOT 96ウェルプレート(メルクミリポア(Merck Millipore)、カタログ番号MSIPS4510)
ヒトIFN―γ ELISPOT PVDF―酵素キット(BDは、必要とする他のすべての試薬(捕捉および検出抗体、ストレプトアビジン―アルカリホスファターゼおよびBCIP/NBT溶液)を含む
【0104】
方法
標的細胞の調製
本実験で使用される標的細胞は、特異的短いペプチドをロードするT2細胞である。実験培地で標的細胞を調製する。標的細胞の濃度を2.0×105細胞/mLに調整し、ウェルあたり100μLを摂取することにより、2.0×104細胞/ウェルを得る。
【0105】
エフェクター細胞の調製
本実験におけるエフェクター細胞(T細胞)は、本発明のSSX2抗原の短いペプチドの特異的なTCRを発現するCD8+ T細胞であり、同じボランティアからの本発明のTCRでトランスフェクトされたCD8+ T細胞を対照グループとして使用する。抗CD3/CD28コーティングビーズ(T細胞増幅産物、ライフテクノロジー(life technologies))でT細胞を刺激し、SSX2抗原の短いペプチド特異的なTCR遺伝子を保有するレンチウイルスで形質導入し、形質導入後9~12日まで50IU/mlのIL―2および10ng/mlのIL―7を含む10%FBSを含む1640培地で増幅し、次にこれらの細胞を試験培地に入れ、室温下で300gで10分間遠心分離して洗浄する。次に細胞を、所望の最終濃度の2倍で試験培地に再懸濁する。陰性対照エフェクター細胞も同様に処理する。
【0106】
短いペプチド溶液の調製
ELISPOTウェルプレートにおける短いペプチドの最終濃度が1μg/mlにするために、対応する短いペプチドを対応する標的細胞(T2)実験グループに加える。
【0107】
ELISPOT
製造業者の説明書に従って、ウェルプレートを次のように準備する。抗ヒトIFN―γ捕捉抗体をプレートあたり10mLの滅菌PBSで1:200に希釈し、次に、100μLの希釈捕捉抗体を各ウェルに均等に加える。4℃下でウェルプレートを一晩インキュベートする。インキュベートした後、ウェルプレートを洗浄して、過剰な捕捉抗体を除去する。10%FBSを含む100μL/ウェルのRPMI 1640培地を加え、ウェルプレートを密閉するために、室温下でウェルプレートを2時間インキュベートする。次にウェルプレートから培地を洗い流し、ELISPOTウェルプレートを紙上でフリックして軽くたたくことにより、残りの洗浄緩衝液をすべて除去する。
【0108】
次に、次の順序で試験の各成分をELISPOTウェルプレートに加える。
100μLの標的細胞2*105細胞/mL(合計で約2*104標的細胞/ウェルを得る)。
100μLのエフェクター細胞(1*104対照エフェクター細胞/ウェルおよびSSX2 TCR陽性T細胞/ウェル)。
すべてのウェルは、2回重複して調製され追加される。
【0109】
次に、ウェルプレート一晩インキュベートし(37℃/5% CO2)、翌日、培地を捨て、再蒸留水でウェルプレートを2回洗浄し、洗浄緩衝液で3回洗浄し、ペーパータオルに置いて、軽くたたいて、残りの洗浄緩衝液を除去する。次に検出抗体を10%FBSを含むPBSで1:200に希釈し、100μL/ウェルで各ウェルに加える。室温下でウェルプレートを2時間インキュベートし、洗浄緩衝液で3回洗浄し、ウェルプレートをペーパータオルで軽くたたいて、過剰な洗浄緩衝液を除去する。
【0110】
ストレプトアビジン―アルカリホスファターゼを10%FBSを含むPBSで1:100に希釈し、100μLの希釈したストレプトアビジン―アルカリホスファターゼを各ウェルに加え、かつ室温下でウェルプレートを1時間インキュベートする。次に洗浄緩衝液で4回洗浄し、PBSで2回洗浄し、ウェルプレートをペーパータオルで軽くたたいて過剰な洗浄緩衝液およびPBSを除去する。洗浄完了後、キットによって提供されるBCIP/NBT溶液を100μL/ウェルで加えて現像する。現像期間中に、光から保護するために錫箔でウェルプレートを覆い、5~15分間静置する。この期間中に、反応が終了する最適な時間を確認するために、現像ウェルプレートのスポットを定期的に検出する。BCIP/NBT溶液を除去し、かつウェルプレートを再蒸留水で洗い流して、現像反応を停止し、スピンドライし、次にウェルプレートの底部を除去し、各ウェルが完全に乾くまで室温下でウェルプレートを乾燥し、イムノスポットプレートリーダー(CTL、細胞技術株式会社(Cellular TechnologyLimited))を使用して、ウェルプレートの底膜に形成されたスポット数える。
【0111】
結果
ELISPOT実験(上記のように)を使用して、SSX2抗原の短いペプチドKASEKIFYVをロードする標的細胞に反応する、本発明のTCRで形質導入されたT細胞のIFN―γ放出を試験する。graphpad prism6を使用して、各ウェルで観察されたELSPOTスポットの数を製図する。
【0112】
実験結果は、
図15に示されたとおりであり、本発明のTCRで形質導入されたT細胞は、その特異的な短いペプチドをロードする標的細胞に対して要綱な活性化反応を有するが、本発明のTCRで形質導入されていないT細胞は、対応する標的細胞に対して活性化反応をほとんど有さない。
【0113】
実施例8.腫瘍細胞株に対する本発明のTCRで形質導入されたT細胞のElispot活性化実験
本実施例は、本発明のTCRでトランスフェクトされたエフェクター細胞が、標的細胞に対して良好な特異的活性化効果を有することを検証する。細胞における本発明のTCRの機能および特異性をELISPOT実験によって検出される。
【0114】
当業者は、ELISPOT実験を使用して細胞機能を検出するための方法に精通している。本発明のTCRは、エフェクター細胞として健康なボランティアの血液から単離されたCD3陽性T細胞をトランスフェクトする。対照グループは、他のTCRでトランスフェクされた細胞である。本実施例で使用される腫瘍細胞株は、A375、K562―A2(HLA A0201過剰発現)、SW620―SSX2(抗原SSX2を過剰発現する)、NCI―H1299―SSX2、K562―A11、SW620である。ここで、A375、K562―A2およびSW620―SSX2は、陽性腫瘍細胞株であり、NCI―H1299―SSX2、K562―A11およびSW620は、陰性腫瘍細胞株である。
【0115】
まず、ELISPOTプレートを準備する。ELISPOTプレートをエタノールで活性化およびコーティングし、4℃下で一晩置く。実験の初日に、コーティング溶液を除去し、洗浄して密閉し、室温下で2時間インキュベートし、密閉溶液を除去し、試験の各成分をELISPOTプレートに加え、標的細胞は、20000細胞/ウェルであり、エフェクター細胞は、1000細胞/ウェルであり(トランスフェクションの陽性率に従って計算する)、二つのデュープリケートウェルを設置する。一晩インキュベートする(37℃、5% CO2)。実験の2日目に、プレートを洗浄し、かつ二次検出および発色を実施し、プレートを乾燥させ、イムノスポットプレートリーダー(ELISPOT READER system、AID20会社)を使用して、膜に形成されたスポットをカウントする。
【0116】
実験結果は、
図16に示されたとおりであり、本発明のTCRでトランスフェクされたエフェクター細胞は、標的細胞に対して非常に良好な特異的活性化効果を有するが、他のTCRでトランスフェクされた細胞は、陽性標的細胞に対してほとんど活性化効果を有さない。
【0117】
本発明で言及されたすべての文書は、あたかも各文書が個別に参照として引用されたかのように、本出願における参照として引用される。さらに、本発明の上記の教示内容を読んだ後、当業者は本発明に様々な変更または修正を加えることができ、これらの同等の形態も、本出願の添付の請求範囲によって定義される範囲に含まれる。
【配列表】