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特許7429464流体制御装置、流体供給システムおよび流体供給方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】流体制御装置、流体供給システムおよび流体供給方法
(51)【国際特許分類】
   G05D 7/06 20060101AFI20240201BHJP
   F16K 31/02 20060101ALI20240201BHJP
   F16K 31/122 20060101ALI20240201BHJP
   F16K 51/02 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
G05D7/06 Z
F16K31/02 A
F16K31/122
F16K51/02 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2022533812
(86)(22)【出願日】2021-06-15
(86)【国際出願番号】 JP2021022624
(87)【国際公開番号】W WO2022004349
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-09-02
(31)【優先権主張番号】P 2020111466
(32)【優先日】2020-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390033857
【氏名又は名称】株式会社フジキン
(74)【代理人】
【識別番号】100129540
【弁理士】
【氏名又は名称】谷田 龍一
(74)【代理人】
【識別番号】100137648
【弁理士】
【氏名又は名称】吉武 賢一
(72)【発明者】
【氏名】滝本 昌彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 俊英
(72)【発明者】
【氏名】篠原 努
(72)【発明者】
【氏名】西野 功二
【審査官】藤崎 詔夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/124492(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/100968(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/180745(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021327(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/102882(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/171593(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 7/06
F16K 31/02
F16K 31/122
F16K 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路の開閉及び前記流路流れる流体の制御を行うためのバルブ装置と、
前記バルブ装置の上流側に設けられた圧力センサと、
前記バルブ装置および前記圧力センサに接続された制御回路と
を備える流体制御装置であって、
前記バルブ装置は、駆動流体によって動作する主アクチュエータと、電気的な駆動により伸長可能な副アクチュエータと、前記主アクチュエータおよび副アクチュエータによって動作可能な弁体と、前記主アクチュエータおよび前記副アクチュエータによって移動する操作部材と、前記副アクチュエータを前記弁体の方向に付勢する弾性部材とを備え、前記主アクチュエータが前記弾性部材の付勢力に抗して前記操作部材を移動させ、かつ、前記副アクチュエータの伸長によって前記弾性部材の付勢力を増加させて前記操作部材を移動させるように構成されており、
前記制御回路は、前記流体制御装置の上流側が閉鎖されかつ前記アクチュエータを用いて前記バルブ装置を開放している状態において、前記圧力センサによって測定された圧力と基準圧力降下曲線とに基づき、前記アクチュエータの動作を制御することによって流体を制御するように構成されている、流体制御装置。
【請求項2】
流路の開閉及び前記流路を流れる流体の制御を行うためのバルブ装置と、
前記バルブ装置の上流側に設けられた圧力センサと、
前記バルブ装置および前記圧力センサに接続された制御回路と
を備える流体制御装置であって、
前記バルブ装置は、駆動流体によって動作する主アクチュエータおよび弁体を備える主バルブと、電気的な駆動により伸長可能な副アクチュエータおよび弁体を備える副バルブとによって構成されており、
前記圧力センサの下流で分岐流路が形成されており、前記主バルブが分岐流路の一方に配置され、前記副バルブが分岐流路の他方に配置されており、
前記制御回路は、前記流体制御装置の上流側が閉鎖されかつ前記主アクチュエータを用いて前記主バルブを開放している状態において、前記圧力センサによって測定された圧力と基準圧力降下曲線とに基づき、前記副バルブの前記副アクチュエータの動作を制御することによって流体を制御するように構成されている、流体制御装置。
【請求項3】
前記バルブ装置の開閉を判断するための開閉検知装置をさらに備える、請求項1または2に記載の流体制御装置。
【請求項4】
前記開閉検知装置は、リミットスイッチを含む、請求項に記載の流体制御装置。
【請求項5】
記開閉検知装置は、前記アクチュエータに供給される電圧の変化によって前記バルブ装置の開閉を検知する、請求項に記載の流体制御装置。
【請求項6】
前記制御回路は、基準流れが生じているときに前記圧力センサを用いて前記基準圧力降下曲線を測定により得るように構成されており、
前記基準圧力降下曲線に基づく近似多項式を求めるとともに、求めた近似多項式に従う所定時刻での圧力値と、前記圧力センサによって測定された前記所定時刻での圧力値との差に基づいて、前記アクチュエータの動作を制御するように構成されている、請求項1から5のいずれかに記載の流体制御装置。
【請求項7】
前記制御回路は、前記近似多項式に従う所定時刻での圧力値と、前記圧力センサによって測定された前記所定時刻での圧力値との差に基づいて、前記基準圧力降下曲線に基づく前記アクチュエータの制御指令値を補正し、補正した制御指令値に基づいて前記アクチュエータの動作を制御するように構成されている、請求項に記載の流体制御装置。
【請求項8】
流体供給源と、
前記流体供給源の下流側に設けられた上流開閉弁と、
前記上流開閉弁の下流側に設けられたタンクと、
前記タンクの下流側に設けられた請求項1から7のいずれかに記載の流体制御装置と
を備える流体供給システム。
【請求項9】
前記流体制御装置の前記制御回路は、前記上流開閉弁が閉じられた状態で、前記タンクに貯留されたガスを前記流体制御装置を介して供給するときに、前記基準圧力降下曲線に基づいて前記アクチュエータの動作を制御する、請求項に記載の流体供給システム。
【請求項10】
請求項に記載の流体供給システムを用いて行う流体供給方法であって、
前記上流開閉弁を開くとともに前記流体制御装置の前記バルブ装置を閉じた状態で、前記タンクに前記流体供給源からのガスを貯留する工程と、
前記ガスが貯留された後、前記上流開閉弁を閉じる工程と、
前記上流開閉弁を閉じた後に、前記流体制御装置の前記バルブ装置を開いて前記タンクに貯留されたガスを供給する工程と
を含み、
前記タンクに貯留されたガスを供給する工程は、前記圧力センサによって測定された圧力と基準圧力降下曲線とに基づき、前記アクチュエータの動作を制御する工程を含む、流体供給方法。
【請求項11】
前記ガスを供給する工程の後に前記流体制御装置の前記バルブ装置を閉じて第1プロセスを終了する工程と、
前記流体制御装置の前記バルブ装置を閉じた後に前記上流開閉弁を開いて前記ガスを前記タンクに貯留し、その後、前記上流開閉弁を閉じて前記流体制御装置の前記バルブ装置を開くことによって、次の第2プロセスにおけるガス供給を行う工程と
を含み、
前記第1プロセスのガス供給時に前記圧力センサを用いて前記基準圧力降下曲線を求め、前記第1プロセスより後のプロセスにおいて、前記第1プロセスで求めた基準圧力降下曲線を用いて前記アクチュエータの動作が制御される、請求項10に記載の流体供給方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体制御装置、流体供給システムおよび流体供給方法に関し、特に、タンク内のガスをプロセスチャンバに供給するときなどに用いられ、一次側の流体圧力変動を伴うときにも安定して流体を供給することができる流体制御装置、流体供給システムおよび流体供給方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造設備又は化学プラント等においては、所望流量でガスをプロセスチャンバに供給する必要がある。このための流量制御装置としては、マスフローコントローラ(熱式質量流量制御器)や圧力式流量制御装置が知られている。
【0003】
圧力式流量制御装置は、コントロール弁と絞り部(例えばオリフィスプレートや臨界ノズル)とを組み合せた比較的簡単な機構によって、各種流体の質量流量を高精度に制御することができるので、広く利用されている。圧力式流量制御装置には、コントロール弁の開度調整によって絞り部の上流側の流体圧力(すなわち上流圧力)を制御し、この上流圧力に応じた流量で絞り部の下流側に流体を流すものがある。圧力式流量制御装置は、一次側供給圧、すなわち、コントロール弁の上流側の流体圧力が大きく変動する状況にあっても、安定した流量制御が行えるという、優れた流量制御特性を有している。
【0004】
圧力式流量制御装置のコントロール弁として、圧電素子駆動装置(ピエゾアクチュエータとも呼ばれる)によって金属ダイヤフラム弁体を開閉させるように構成された圧電素子駆動式バルブ(ピエゾバルブとも呼ばれる)が知られている(例えば特許文献1)。圧電素子駆動式バルブは、高い応答性を有しており、圧力センサの出力に基づいてピエゾアクチュエータをフィードバック制御することによって、上流圧力および流量を制御することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-120832号公報
【文献】国際公開第2019/171593号
【文献】国際公開第2018/021327号
【文献】特許第3890138号公報
【文献】国際公開第2018/180745号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した圧電素子駆動式バルブは、小流量のガスを精度よく流量制御するために好適に用いられるが、その一方で、大流量のガスを流すことが困難な場合がある。これは、圧電素子(ピエゾ素子とも言われる)の伸長によって制御できる弁開閉の範囲には限界があるためである。また、圧力式流量制御装置では、絞り部を介してガスの供給を行うので、どうしてもガスの流れが制限され、大流量でガスを流しにくいという問題もある。
【0007】
このため、大流量が求められる用途においては、別のタイプのバルブや流量制御装置の使用が検討されている。例えば、本出願人による特許文献2には、空気圧によって開閉動作を行う主アクチュエータと、開度調整用のピエゾアクチュエータとを組み合わせて構成されたバルブ装置が開示されている。特許文献2に記載のバルブ装置では、主アクチュエータを用いてバルブを大きく開くとともに、開度の微調整をピエゾアクチュエータによって行うことができ、比較的大流量のガスであっても流量を制御して供給することができる。
【0008】
ただし、特許文献2に記載のバルブ装置は、マスフローコントローラ等を備える流体制御装置の下流側に配置され、流量微調整も可能な開閉弁として機能するものである。このため、流体制御装置による流量制御のもと、バルブ装置の一次側流体圧力はおおむね一定の状況で使用されており、一次側の流体圧力が大幅に変動するような用途は想定されていない。
【0009】
したがって、比較的大流量の流体を流せるだけでなく、タンク内流体の供給を行うときなど、一次側の流体圧力変動を伴いながら流体供給を行うときにも、流体を下流側に安定的に供給することが可能な流体制御装置に対する要求があった。
【0010】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、圧力変動を伴う流体を安定して供給するために好適に用いられる流体制御装置、流体供給システムおよび流体供給方法に提供することをその主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態による流体制御装置は、流路の開閉及び前記流路に流れる流体の流量の調整を行うためのアクチュエータを含むバルブ装置と、前記バルブ装置の上流側に設けられた圧力センサと、前記バルブ装置および前記圧力センサに接続された制御回路とを備え、前記制御回路は、前記流体制御装置の上流側が閉鎖されかつ前記アクチュエータを用いて前記バルブ装置を開放している状態において、前記圧力センサによって測定された圧力と基準圧力降下曲線とに基づき、前記アクチュエータの動作を制御する。
【0012】
ある実施形態において、前記バルブ装置は、駆動流体によって動作する主アクチュエータと、電気的な駆動により伸長可能な副アクチュエータと、前記主アクチュエータおよび副アクチュエータによって動作可能な弁体とを備える。
【0013】
ある実施形態において、前記バルブ装置は、前記主アクチュエータおよび前記副アクチュエータによって移動する操作部材と、前記副アクチュエータを前記弁体の方向に付勢する弾性部材とをさらに備え、前記主アクチュエータが前記弾性部材の付勢力に抗して前記操作部材を移動させ、かつ、前記副アクチュエータの伸長によって前記弾性部材の付勢力を増加させて前記操作部材を移動させるように構成されている。
【0014】
ある実施形態において、前記バルブ装置は、駆動流体によって動作するアクチュエータおよび弁体を備える主バルブと、電気的な駆動により伸長可能なアクチュエータおよび弁体を備える副バルブとによって構成されている。
【0015】
ある実施形態において、前記圧力センサの下流で分岐流路が形成されており、前記主バルブが分岐流路の一方に配置され、前記副バルブが分岐流路の他方に配置されている。
【0016】
ある実施形態において、上記の流体制御装置は、前記バルブ装置の開閉を判断するための開閉検知装置をさらに備える。
【0017】
ある実施形態において、前記開閉検知装置は、リミットスイッチを含む。
【0018】
ある実施形態において、前記アクチュエータは、電気的な駆動により伸長可能なアクチュエータを含み、前記開閉検知装置は、前記アクチュエータに供給される電圧の変化によって前記弁体の開閉を検知する。
【0019】
ある実施形態において、前記制御回路は、基準流れが生じているときに前記圧力センサを用いて前記基準圧力降下曲線を測定により得るように構成されており、前記基準圧力降下曲線に基づく近似多項式を求めるとともに、求めた近似多項式に従う所定時刻での圧力値と、前記圧力センサによって測定された前記所定時刻での圧力値との差に基づいて、前記アクチュエータの動作を制御するように構成されている。
【0020】
ある実施形態において、前記制御回路は、前記近似多項式に従う所定時刻での圧力値と、前記圧力センサによって測定された前記所定時刻での圧力値との差に基づいて、前記基準圧力降下曲線に基づく前記アクチュエータの制御指令値を補正し、補正した制御指令値に基づいて前記アクチュエータの動作を制御するように構成されている。
【0021】
本発明の実施形態による流体供給システムは、流体供給源と、前記流体供給源の下流側に設けられた上流開閉弁と、前記上流開閉弁の下流側に設けられたタンクと、前記タンクの下流側に設けられた上記のいずれかに記載の流体制御装置とを備える。
【0022】
ある実施形態において、前記流体制御装置の前記制御回路は、前記上流開閉弁が閉じられた状態で、前記タンクに貯留されたガスを前記流体制御装置を介して供給するときに、前記基準圧力降下曲線に基づいて前記アクチュエータの動作を制御する。
【0023】
本発明の実施形態による流体供給方法は、上記の流体供給システムを用いて行われ、前記上流開閉弁を開くとともに前記流体制御装置の前記バルブ装置を閉じた状態で、前記タンクに前記流体供給源からのガスを貯留する工程と、前記ガスが貯留された後、前記上流開閉弁を閉じる工程と、前記上流開閉弁を閉じた後に、前記流体制御装置の前記バルブ装置を開いて前記タンクに貯留されたガスを供給する工程とを含み、前記タンクに貯留されたガスを供給する工程は、前記圧力センサによって測定された圧力と基準圧力降下曲線とに基づき、前記アクチュエータの動作を制御する工程を含む。
【0024】
ある実施形態において、上記の流体供給方法は、前記ガスを供給する工程の後に前記流体制御装置の前記バルブ装置を閉じて第1プロセスを終了する工程と、前記流体制御装置の前記バルブ装置を閉じた後に前記上流開閉弁を開いて前記ガスを前記タンクに貯留し、その後、前記上流開閉弁を閉じて前記流体制御装置の前記バルブ装置を開くことによって、次の第2プロセスにおけるガス供給を行う工程とを含み、前記第1プロセスのガス供給時に前記圧力センサを用いて前記基準圧力降下曲線を求め、前記第1プロセスより後のプロセスにおいて、前記第1プロセスで求めた基準圧力降下曲線を用いて前記アクチュエータの動作が制御される。
【発明の効果】
【0025】
本発明の実施形態に係る流体制御装置によれば、タンク内のガスの供給等、一時側圧力変動を伴う流体の供給を安定して行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の実施形態による流体制御装置が組み込まれた流体供給システムを示す図である。
図2】本発明の実施形態による流体制御装置のより詳細な構成を示す図である。
図3】本発明の実施形態による流体制御装置が備える開度調整可能バルブの具体例を示す図である。
図4】本発明の別の実施形態による流体制御装置の構成を示す図である。
図5】開度調整可能バルブを開いた後の圧力降下(タンク内ガス圧力の降下)を示すグラフである。
図6】基準圧力降下曲線およびその近似式を求める手順を示すフローチャートである。
図7】基準圧力降下曲線に基づき、ピエゾアクチュエータの駆動電圧を制御する手順を示すフローチャートである。
図8】6次の近似多項式を用いた場合における、圧力サンプリングデータと近似曲線とを示すグラフである。
図9】本発明の実施形態による圧力測定に基づく弁動作制御に従う圧力降下およびピエゾ駆動電圧の変化を示すグラフである。
図10】制御指令値の補正を説明するためのグラフである。
図11】基準圧力降下曲線に基づき、ピエゾアクチュエータの駆動電圧を制御する別の実施形態による手順を示すフローチャートである。
図12】本発明の別の実施形態による圧力測定に基づく弁動作制御に従う圧力降下およびピエゾ駆動電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0028】
図1は、本発明の実施形態による流体制御装置10が組み込まれた流体供給システム100を示す。流体供給システム100は、ガス供給源2と、ガス供給源2の下流側に設けられた上流開閉弁V1と、上流開閉弁V1の下流側に接続されたタンク4と、タンク4の下流側に設けられた流体制御装置10とを有している。
【0029】
流体制御装置10の下流側には、ガスGが使用されるプロセスチャンバ6が接続されている。プロセスチャンバ6には、真空ポンプ8が接続されている。真空ポンプ8は、プロセスチャンバ6の内部や流路を真空引きするために用いられる。
【0030】
流体供給システム100は、ガス供給源2から供給され、タンク4に貯留されたガスGを、流体制御装置10を用いて流れを制御してプロセスチャンバ6に供給する。この目的のために、流体制御装置10は、開度微調整可能なバルブ装置V2と、バルブ装置V2の上流側に設けられた圧力センサPTと、バルブ装置V2に設けられた温度センサTとを備えており、圧力センサPT(および温度センサT)の出力に応じてバルブ装置V2の開度を制御することができるように構成されている。
【0031】
上流開閉弁V1としては、AOV(Air Operated Valve)などの流体駆動弁や、電磁弁、電動弁といった、応答性および遮断性に優れたバルブ(オンオフ弁)が好適に用いられる。一方、開度調整可能なバルブ装置V2としては、ピエゾアクチュエータなどを用いて開度の微調整が可能であるバルブが好適に用いられる。ただし、本実施形態では、後述するように、ピエゾアクチュエータと流体駆動弁とを組み合わせた一体構成を有するバルブ装置V2が用いられる。
【0032】
なお、バルブ装置V2は、単数のバルブを用いて構成される他、複数のバルブを用いて構成されていてもよく、例えば、ピエゾバルブと流体駆動弁とが直列または並列に配置されたものであってもよい。以下、本明細書において、バルブ装置V2が閉じていると言う場合、少なくとも1つのバルブが閉じられて流体制御装置10の流路が閉じられている状態を意味し、バルブ装置が開いていると言う場合、少なくとも1つのバルブが開かれて流体制御装置10の流路が開いている状態を意味する。
【0033】
流体供給システム100は、まず、流体制御装置10のバルブ装置V2が閉じられた状態で、上流開閉弁V1を開き、ガス供給源2からタンク4内にガスを充填する。その後、上流開閉弁V1を閉じることによってタンク4を含む流路を封鎖する。そして、流体制御装置10のバルブ装置V2を開くことによって、タンク4内のガスをプロセスチャンバ6に供給する。このとき、流体制御装置10のバルブ装置V2の開度の調整を行うことによって、タンク4から流出するガスの流れを制御することが可能である。
【0034】
また、タンク4内のガスをプロセスチャンバ6に所望量だけ供給した後は、流体制御装置10のバルブ装置V2を閉じることによって供給をストップする。これにより、1つのプロセスが終了する。その後、上流開閉弁V1を開くことによって、タンク4内にガスを再度充填し、上記と同様にして、次のプロセスを実行することができる。このようにして、流体供給システム100では、タンク4に供給されたガスのプロセスチャンバ6への供給を、繰り返して行うことができる。
【0035】
図2は、流体制御装置10のより詳細な構成を示し、図3は、流体制御装置10が備えるバルブ装置V2の詳細な構成を示す。
【0036】
図2に示すように、流体制御装置10は、圧力センサPTと、温度センサTと、開度調整可能なバルブ装置V2と、圧力センサPTの出力に基づいてバルブ装置V2の動作を制御するための制御回路12とを有している。
【0037】
本実施形態において、バルブ装置V2は、圧縮空気を駆動流体として用いて弁機構20の開閉動作を行うための主アクチュエータ22と、ピエゾ素子を用いて電気的に弁機構20の開閉動作を行う副アクチュエータ24とを備えている。バルブ装置V2は、圧縮空気14の供給により大きく開閉させることが可能であるとともに、ピエゾ素子への印加電圧(ピエゾ駆動信号Spz)の制御により、開度をより精密に調整することが可能である。なお、このようなバルブは、特許文献2や、本出願人による特開2021-32391号公報に開示されている。参考のため、特開2021-32391号公報の開示内容の全てを本明細書に援用する。
【0038】
また、バルブ装置V2には、弁体の開閉を検知するための開閉検知装置26が設けられている。開閉検知装置26としては、主にリミットスイッチが用いられる。リミットスイッチは、主アクチュエータ22によって移動する操作部材の上端と当接可能に配置された電気接点によって構成されており、接点の通電状態に基づいて弁の実際の開閉を示す信号(開閉検知信号Ssw)を生成することができる。リミットスイッチを備えた流体駆動弁は、例えば、特許文献3(国際公開第2018/021327号)に開示されている。
【0039】
制御回路12は、圧力センサPTが測定した流体圧力を示す圧力信号Sprおよび温度センサTが測定した温度を示す温度信号StmをADコンバータ15を介して受け取ることができるとともに、開閉検知装置26からの開閉検知信号Sswを入力回路16を介して受け取ることができる。また、制御回路12は、バルブ装置V2の副アクチュエータ(ピエゾアクチュエータ)に対して、昇圧回路17を用いて駆動電圧を付与することができる。昇圧回路17は、制御回路12からの制御信号をピエゾ素子に印加する駆動電圧に変換するために用いられる。
【0040】
開閉検知装置26は、弁体の開閉を検知することが出来ればどのようなものでも良く、例えば、リミットスイッチの他に、ピエゾ電圧の変化から開閉状態を検知するものでも良く、あるいは、レーザや近接センサ等を用いてピストン22a等の高さを測定することで開閉状態を検知するものでも良い。
【0041】
本実施形態では、制御回路12、ADコンバータ15、入力回路16、昇圧回路17が、流体制御装置10に内蔵された回路基板11に設けられている。ただし、これに限られず、少なくともいずれかは、流体制御装置10の外部に配置されていてもよい。また、制御回路12は、典型的には、CPU、メモリ等を備えるデジタル信号処理回路であり、後述する動作を実行するためのコンピュータプログラムを含む。制御回路12は、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせによって実現され得る。
【0042】
図3は、バルブ装置V2のより具体的な構成例(ただし、開閉検知装置26は省略)を示す。図示するように、バルブ装置V2は、ダイヤフラム弁体20aを開閉動作させるための操作部材28と、操作部材28を比較的大きく移動させるための主アクチュエータ22と、操作部材28を比較的小さく移動させるための副アクチュエータ24とを備えている。
【0043】
本実施形態において、バルブ装置V2は、ノーマルクローズ型のバルブであり、主アクチュエータ22および副アクチュエータ24が駆動されていないとき、ダイヤフラム弁体20aは、操作部材28およびその先端に固定された弁体押さえ28aを介して主弾性部材(ここではコイルばね)などから受ける付勢力によって弁座(図示せず)に押し付けられている。弁座は、通常、ダイヤフラム弁体20aの中央部に配置された環状の突出面として設けられる。
【0044】
主アクチュエータ22としては、駆動流体としての圧縮空気を用いて操作部材28を上下動させる空気駆動式のアクチュエータが用いられている。主アクチュエータ22は、複数の環状のピストン22aを含んでおり、供給パイプ22bを介した圧縮空気の供給によって、操作部材28を上下動させることができる。
【0045】
なお、供給パイプ22bには、ピストン22aに任意の圧力の圧縮空気が供給するための圧力調整器(電空レギュレータなど)が接続されていてもよい。圧力調整器を用いれば、主アクチュエータ22の操作圧力を任意の大きさに調整することによって弁開度を段階的に調節することができる。ただし、圧力調整器を設けることなく、主アクチュエータ22は、電磁弁などを用いた高圧空気の供給/停止の制御によるバルブ装置V2の開閉動作だけを行うように構成されていてもよい。
【0046】
副アクチュエータ24としては、ピエゾアクチュエータが用いられている。副アクチュエータ24は、操作部材28の内側において操作部材28に対して摺動可能に配置されている。副アクチュエータ24では、ピエゾ素子への印加電圧を制御することによって自身の伸長度が制御される。
【0047】
また、バルブ装置V2は、操作部材28のフランジ部28bに当接する下部弾性部材30(ここではコイルばね)と、副アクチュエータ24の上方に位置する上部弾性部材(ここでは皿バネ)32とを有している。下部弾性部材30および上部弾性部材32の上端は、それぞれ、不動部分であるボディ34およびキャップ36によって規制されており、下部弾性部材30は、操作部材28を下方向に付勢することができ、上部弾性部材32は、副アクチュエータ24を下方向に付勢することができる。
【0048】
以上の構成を有するバルブ装置V2において、主アクチュエータ22および副アクチュエータ24を駆動していない状態では、ダイヤフラム弁体20aは、操作部材28のフランジ部28bを下側に押し付ける下部弾性部材30の付勢力と、副アクチュエータ24を下側に押し付ける上部弾性部材32の付勢力とによって、弁座に押し付けられている。
【0049】
一方、開弁するときには、主アクチュエータ22に圧縮空気が供給され、主アクチュエータ22は、下部弾性部材30および上部弾性部材32の付勢力に抗して、ピストン22aによって操作部材28を上側に持ち上げる。このとき、荷重のバランスがとられているので、操作部材28の移動は比較的滑らかに行われ、操作圧力に対応した開度に調整しやすい。また、主アクチュエータ22を用いて弁を開放するとともに、副アクチュエータ24に印加する電圧を制御することによって、弁開度をより精密に調整することができる。
【0050】
このように、主アクチュエータ22による開閉動作と、副アクチュエータ24による開度微調整とを行うことができるバルブ装置V2を用いれば、大流量のガスを応答性高く流すことが可能であるとともに、その開度を精密に調整してガスの流れを正確に制御することが可能である。
【0051】
なお、主アクチュエータまたは副アクチュエータのいずれか1つのみで開閉動作と開度微調整との両方が実現可能であれば、バルブ装置V2として、1つのアクチュエータおよび1つのバルブだけを使用することも可能である。
【0052】
また、主アクチュエータと副アクチュエータとは必ずしも1つのバルブに設けられている必要はなく、それぞれ別々のバルブに設けられていても良い。その場合、各バルブを同一流路に設置する構造でも良く、または、流路を分岐し、分岐流路に各バルブを設置する構造でも良い。
【0053】
図4は、分岐流路のそれぞれにバルブを設けた態様の流体制御装置10Aを示す。流体制御装置10Aでは、バルブ装置V2が、主アクチュエータ22および対応する弁体を備えるバルブV2a(主バルブと呼ぶことがある)と、副アクチュエータ24および対応する弁体を備えるバルブV2b(副バルブと呼ぶことがある)とによって構成されている。バルブ装置V2を構成する主バルブV2aと副バルブV2bとは、圧力センサPTの下流側において分岐した流路にそれぞれ設置されており、主バルブV2aを用いて流路の迅速な開閉を行うとともに、副バルブV2bを用いて流体制御装置10Aの下流側に流れるガスの流量等を微調整することが可能である。
【0054】
なお、流体制御装置10Aでは、温度センサTが、主バルブV2aの本体温度を測定するように設けられているが、これに限られない。温度センサTは、主バルブV2aおよび副バルブV2bのそれぞれに設けられていても良いし、あるいは、圧力センサPTの近傍の共通流路において設けられていてもよい。温度センサは、バルブ装置V2の温度またはガス温度を適切に測定できる限り任意の態様で設けられ得る。
【0055】
再び図1を参照して、流体制御装置10の動作を説明する。流体制御装置10は、上流開閉弁V1を閉じた後、バルブ装置V2を開いてタンク内のガスを流出させるときに、圧力センサPTを用いて圧力の降下を測定するように構成されている。そして、測定された圧力降下が、予め与えられた基準圧力降下曲線と異なるときには、基準圧力降下曲線に適合する圧力となるように、副アクチュエータ24の駆動を制御する。
【0056】
これによって、毎回のプロセスで、基準圧力降下曲線に従うようにタンク内ガスの供給を行うことができる。このため、プロセスごとのばらつきが低減された、安定したガス供給を行うことが可能になる。
【0057】
基準圧力降下曲線としては、典型的には、最初に行うプロセス(第1プロセスと称することがある)において、圧力センサPTを用いて測定により求めた圧力降下曲線が用いられる。このようにして基準圧力降下曲線を決定することにより、2番目以降のプロセスも、第1プロセスと同様のガスの流れで、ガス供給を行うことが可能になる。これによって、一次側圧力が変動するようなガス供給形態においても、毎回、同様の圧力変動でのガス供給を行うことが可能になり、安定したガス供給を実現することができる。
【0058】
ただし、基準圧力降下曲線は、必ずしも第1プロセスにおいて求める必要はなく、途中のプロセスにおいて求め、それ以降のプロセスに反映させてもよい。また、基準圧力降下曲線は、プロセス時の測定によって求めたものに限られず、予め理想的な環境下で測定によって得たものであってもよいし、さらに、測定によらず理想曲線として設定されたものであってもよい。
【0059】
以下、基準圧力降下曲線を用いてガス供給時の流れの制御を行う理由について説明する。図5は、比較例における、バルブ装置V2を開いた後の圧力降下曲線を示し、特に、初期タンク内圧力が90~110kPa absで異なる場合の各圧力降下曲線P90~P110を示している。ここでは、初期圧力が100kPa abs(P100)のときのグラフが、基準圧力降下曲線として設定されている。また、図5には、ピエゾ素子の駆動電圧Pz90~Pz110も示されており、この比較例においては、初期圧力にかかわらずピエゾ素子の駆動電圧は、50%で一定に固定されている。
【0060】
なお、グラフP90、P95、P100、P105、P110は、それぞれ、初期圧力90kPa、95kPa、100kPa、105kPa、110kPaのときの圧力降下曲線を示し、グラフPz90、Pz95、Pz100、Pz105、Pz110は、それぞれ、初期圧力90kPa、95kPa、100kPa、105kPa、110kPaのときのピエゾ駆動電圧を示す。
【0061】
図5からわかるように、主アクチュエータを用いてバルブ装置V2を開いた後、タンク内の初期圧力にかかわらず、時間の経過とともにガスは流出し、圧力は低下する。このとき、バルブ装置V2の下流側の圧力は、真空ポンプを用いて例えば真空圧(100torr以下)に維持されている。
【0062】
ただし、初期圧力の違いによって、圧力降下曲線P90~P110はわずかに異なるものとなっており、供給中のガスの流れに差が生じていることがわかる。このようにガスの流れに差が生じていると、プロセスチャンバに供給されるガスの流量や、一定期間に供給されるガスの全体供給量が、初期圧力ごとに異なるものとなってしまう。このことによって、安定したプロセスを継続して行えないおそれがある。
【0063】
初期圧力によるガスの流れの変化を抑制するためには、タンク内へのガスの貯留時に、圧力センサによる測定に基づいて、初期圧力が一定となるようにタンク内ガス圧力を制御することが考えられる。初期圧力は、上流開閉弁V1を閉じるタイミングを調整することによって制御することが可能である。
【0064】
しかしながら、現実的には、ガス貯留時の環境等によって、プロセスごとにタンク内ガス圧力を一定にすることが困難な場合もある。また、仮に初期圧力を一定にできたとしても、バルブ装置V2の機差や、タンクの容積、流体や環境の温度等によって、バルブ装置V2を開放した時の圧力降下曲線は異なるものとなる。また、バルブ装置V2が有する流量特性が経年的に変化することも考えられる。したがって、安定したガス供給を行うためには、基準圧力降下曲線をあらかじめ設定しておき、プロセスごとに基準圧力降下曲線に基づいてバルブ装置V2の開度調整を行うことが好適である。
【0065】
なお、特許文献4には、圧力式流量制御装置において、絞り部上流側の圧力降下特性を用いて絞り部の異常を検知する技術が開示されている。また、特許文献5には、流量立ち下げ時において、基準となる圧力降下特性を参照して、ピエゾバルブの駆動制御を行うことが開示されている。ただし、いずれの文献も、本実施形態の流体制御装置のように、上流側の開閉弁が閉じられた状態で、一次側の圧力降下を伴いながらバルブを介して流体の供給を行う際に、基準圧力降下特性を参照して流れ制御を行うことを開示も示唆もするものではない。
【0066】
以下、バルブ装置V2の具体的な制御手順を説明する。図6および図7は、基準圧力降下曲線に従うようにバルブ装置V2の開度調整を行うための例示的なフローチャートを示す。図6は、基準圧力降下曲線に対応する近似多項式を、多項式回帰によって求めるフローを示し、図7は、求めた近似多項式(基準式)と、測定圧力とに基づいて、バルブ装置V2の動作制御を行うフローを示す。
【0067】
まず、図6のステップS1に示すように、基準圧力降下曲線を得るために、タンク内にガスが貯留されて封止された状態から、バルブ装置V2の主アクチュエータにバルブ操作圧を供給することにより、バルブ装置V2を開放し、基準流れを生じさせる。これにより、封止状態(上流開閉弁V1は閉)でタンク内に貯蔵されていたガスが、バルブ装置V2を介して下流側に急速に流出し、タンク内圧力も低下する。このとき、ステップS2~S3に示すように、圧力センサを用いて、バルブ上流側の圧力(タンク圧力に対応)がサンプリングされる。サンプリングは、例えば、圧力センサの出力が、予め設定した下限設定値に到達するまで、あるいは、所定時間が経過するまで、続けられる。
【0068】
なお、ステップS1においてバルブ装置V2が開放された時刻は、前述の開閉検知装置26を用いて正確に特定することが可能である。これによって、実際に弁が開いた時刻から所定期間が経過した時刻までの圧力降下をより正確に測定することができる。
【0069】
サンプリングにより圧力降下データが取得できた後は、ステップS4に示すように、取得したデータから、ソフトウェア処理(多項式回帰)によって近似多項式を導出する。多項式の次数は適宜設定されてよいが、例えば、6次式に設定される。この場合、近似式はy=a16+a25+a34+a43+a52+a6x+a7のような形式で表され、ここで、yは圧力対応値、xは時間、a1~a7は近似曲線に対応する係数であり圧力降下データに基づいて決定される係数である。
【0070】
図8は、測定により得られた圧力降下データ(サンプリングデータ)Dpと、圧力降下データから得られた近似多項式に対応する関数グラフCpとを示す。この例では、サンプリング周期が100msに設定されており、6次の多項式を用いて十分な近似曲線が得られることがわかる。
【0071】
このようにして基準圧力降下曲線に対応する近似多項式が得られた後は、以降のプロセスにおいて、基準圧力降下曲線に適合するようなバルブ制御動作を行う。
【0072】
この以降のプロセスのフローにおいて、タンク内にガスが貯留されて封止された状態から、図7のステップS5に示すように、バルブ装置V2を開放してタンク内のガスを流出させる。このとき、圧力センサPTを用いてバルブ上流側の圧力の測定が行われ、同様に、温度センサTを用いてガスの温度の測定も行われている。
【0073】
次にステップS6に示すように、予め求められていた上記の近似多項式を用いて、現在の時間xに対する制御指令値y(基準圧力降下曲線に基づく目標圧力値)が演算により求められる。また、ステップS7に示すように、圧力センサを用いて測定された現在の実際の圧力値が取得される。制御指令値yの算出(ステップS6)と現在圧力値の取得(ステップS7)とは逆の順序で行われてもよいし、同時に行われてもよい。
【0074】
また、ステップS7において、さらに、温度センサTを用いて測定された温度に基づいて、現在の圧力値の温度補正を行うようにしても良い。これは、圧力センサPTの出力の温度依存性を低減するためであり、例えば、制御回路12のメモリに予め格納された温度依存情報(温度-圧力係数テーブルなど)に基づいて測定圧力を温度に応じて補正すればよい。このようにすれば、温度によらずより正確な圧力値を得ることができ、流れの制御をより適切に行い得る。
【0075】
次に、ステップS8に示すように、現在圧力値に基づくフィードバック制御が行われ、具体的には、現在圧力値と制御指令値yとが比較され、ピエゾアクチュエータがPID制御される。これによって、制御指令値yに近づくように弁の開閉動作が行われる。
【0076】
ここで、バルブ装置V2の副アクチュエータ(ピエゾアクチュエータ)24の基準駆動電圧は、定格電圧(設定最大開度に対応する電圧)の50%に設定されている。この場合、上記のステップS8において、現在圧力値が制御指令値yを下回るときには、ピエゾ駆動電圧を基準より増加させ、バルブ開度をわずかに減少させて、圧力値を制御指令値yに近づけるように動作させることができる。また、現在圧力値が制御指令値yを上回るときには、ピエゾ駆動電圧を基準より減少させ、バルブ開度をわずかに増加させて、圧力値を制御指令値yに近づけるように動作させることができる。
【0077】
上記の基準圧力降下曲線(ここでは多項式)に基づくピエゾアクチュエータのPID制御は、ステップS9において終了時が確認されるまで継続される。終了時は、現在圧力値が所定値を下回ったときでもよいし、所定時間が経過したときでもよい。
【0078】
図9は、上記の弁動作制御を行った結果の圧力降下曲線(実線)P90~P110と、ピエゾ駆動電圧(破線)Pz90~Pz110とを示すグラフである。基準初期圧力を100kPa(P100)として、初期圧力がそれよりも大きい場合(P105、P110)と、それよりも小さい場合(P90、P95)とを示している。
【0079】
図9からわかるように、初期圧力が基準値(100kPa)より小さい場合(90KPa、95KPa)は、ピエゾ駆動電圧(Pz90、Pz95)を50%よりも増加させることによって弁開度をわずかに小さくし、これによって圧力を増加させ、基準圧力降下曲線に近づくように弁開度の制御が行われる。時間の経過とともに、圧力降下曲線は、基準圧力降下曲線に近づき、これとともに、ピエゾ駆動電圧(Pz90、Pz95)も基準値の50%に戻る動きを見せている。
【0080】
また、初期圧力が基準値より大きい場合(105KPa、110KPa)は、ピエゾ駆動電圧(Pz105、Pz110)を50%よりも減少させることによって弁開度をわずかに大きくし、これによって圧力を減少させ、基準圧力降下曲線に近づくように弁開度の制御が行われる。時間の経過とともに、圧力降下曲線は、基準圧力降下曲線に近づき、これとともに、ピエゾ駆動電圧も基準値の50%に戻る動きを見せている。
【0081】
なお、本実施形態のバルブ装置V2では、閉鎖時には主アクチュエータに駆動流体が供給されないとともに、副アクチュエータの駆動電圧は0に設定されている。このため、初期圧力が基準値のとき(100kPa)のときにも、弁解放後にPID制御により、ピエゾアクチュエータの駆動電圧Pz100が基準の50%まで増加する動作が確認できる。
【0082】
次に、より迅速に基準圧力に移行させるための他の実施形態について説明する。本実施形態においては、圧力センサPT及び温度センサTの出力に基づいて制御指令値yを補正し、補正後の制御指令値y’に基づいてバルブ装置V2の副アクチュエータ(ピエゾアクチュエータ)の駆動電圧が制御される。
【0083】
図10に示すように、本実施形態では、制御指令値yと現在圧力値FBとの偏差がリアルタイムに求められ、この偏差を制御指令値yに追加することによって補正後の制御指令値y’が生成される。図に示す例では、制御指令値yよりも、実際の圧力値FBの方が小さかったため、制御指令値yを上回る補正後制御指令値y’が生成されている。この状態は、例えば、初期圧力が基準初期圧力よりも小さかったため、基準圧力降下曲線に適合させるためには、弁開度をより小さくする必要がある状態に対応している。
【0084】
このようにして補正された制御指令値y’(補正指令値y’と呼ぶことがある)によれば、PID制御において、ピエゾアクチュエータの駆動電圧はより大きく減少させられ、弁開度をより迅速に小さくする動作が行われる。このことによって、基準圧力降下曲線に適合する圧力により早く調整することができる。
【0085】
図11は、本実施形態において、基準圧力降下曲線に従うようにバルブ装置V2の開度調整を行うための例示的なフローチャートを示す。
【0086】
まず、図7に示したフローチャートと同様に、タンク内にガスが貯留された状態からステップS10においてバルブ装置V2が開かれ、ステップS11において多項式(基準圧力降下曲線の近似式)を用いて制御指令値yが算出され、ステップS12において、圧力センサを用いて測定された現在の実際の圧力値が取得される。
【0087】
次に、本実施形態では、ステップS13に示すように、制御指令値yを補正する動作が行われる。この動作は、ステップS12で求めた現在圧力値FBと、ステップS11で求めた制御指令値yとの偏差(FB-y)を求め、この偏差を、制御指令値yから減算することによって行われる。
【0088】
ここで、制御指令値yよりも現在圧力値FBが小さいときには、偏差(FB-y)は負の値をとるので、補正後の制御指令値y’は、制御指令値yよりも偏差分だけ大きいものとなる。逆に、制御指令値yよりも現在圧力値FBが大きいときには、偏差(FB-y)は正の値をとるので、補正後の制御指令値y’は、制御指令値yよりも偏差分だけ小さいものとなる。
【0089】
その後は、ステップS14に示すように、補正指令値y’(および現在圧力値FB)に基づいて、ピエゾアクチュエータのPID制御が行われる。これにより、補正前の制御指令値yを用いる場合に比べて、より迅速に、制御指令値yに合わせ込む動作を行い得る。この動作は、ステップS15において終了時が確認されるまで継続される。
【0090】
図12は、上記の他の実施形態の弁動作制御を行った結果の圧力降下のグラフ(実線)と、ピエゾ駆動電圧(破線)とを示すグラフである。基準初期圧力を100kPaとして、初期圧力がそれよりも大きい場合と、それよりも小さい場合とを示している。
【0091】
図12に示すように、本実施形態では、図9に示した実施形態の場合と比べて、より迅速に基準圧力降下曲線に合わせ込む動作が実現できていることがわかる。
【0092】
以上、本発明の実施形態を説明したが、種々の改変が可能である。例えば、上記には副アクチュエータとしてピエゾアクチュエータを用いる態様を説明したが、これに限られず、電気駆動型高分子材料または電気活性高分子材料などの電気的な駆動により変形可能な材料を含むアクチュエータを用いることもできる。なお、電気的な駆動とは、素子に電圧を印加することや、素子に電流を流すこと、あるいは、素子の周囲に電界を形成することなどを含む。また、ピエゾアクチュエータの代わりに、磁力を利用するソレノイドを含むアクチュエータを用いることもできる。
【0093】
また、上記にはノーマルクローズ型のバルブ装置を説明したが、ノーマルオープン型のバルブ装置であってもよい。また、ピエゾ素子の下端部とダイヤフラム押さえとの間にエクステンション(隔離部材、図示無し)を挿入可能な構造とすることによって、ピエゾ素子に温度(高温または低温)の影響が及ばないようにすることもできる。
【0094】
また、上記には、流体駆動弁とピエゾアクチュエータとを組み合わせたタイプのバルブ装置V2を用いる態様を説明したが、ピエゾバルブなどの一般的な開度調整可能な弁を用いて流体制御装置を構成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の実施形態にかかる流体制御装置、流体供給システムおよび流体供給方法は、例えば、半導体製造のために好適に利用される。
【符号の説明】
【0096】
2 ガス供給源
4 タンク
6 プロセスチャンバ
8 真空ポンプ
10 流体制御装置
12 制御回路
20 弁機構
22 主アクチュエータ
24 副アクチュエータ
26 開閉検知装置
100 流体供給システム
PT 圧力センサ
T 温度センサ
V1 上流開閉弁
V2 バルブ装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12