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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】波力エンジン
(51)【国際特許分類】
   F03B 13/16 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
F03B13/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2023135050
(22)【出願日】2023-08-22
【審査請求日】2023-09-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521132598
【氏名又は名称】進藤 大司
(74)【代理人】
【識別番号】100211719
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 和真
(72)【発明者】
【氏名】進藤 大司
【審査官】高吉 統久
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-509715(JP,A)
【文献】特開2022-161137(JP,A)
【文献】特開2004-150274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0308583(US,A1)
【文献】国際公開第2006/108602(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F03B 13/14-13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自力又は牽引により海上を移動可能に構成された海上移動体に設置され、該海上移動体の動揺を所定のエネルギに変換する波力エンジンであって、
前記海上移動体に固設され、該海上移動体の動揺に合わせて動揺する第1コンテナ部と、
前記第1コンテナ部の内部に収容され、該第1コンテナ部の内部で移動可能に構成されることで、該第1コンテナ部に対して相対運動を行うウェイト部と、
前記ウェイト部の前記相対運動に基づく運動エネルギを利用して、所定の流体に圧力を付加する加圧部と、
前記加圧部によって加圧された前記流体を密閉することで、該流体の圧力を蓄圧する蓄圧部と、
を備え、
前記加圧部は、シリンダ及びピストンを有する油圧ポンプによって構成され、
前記ウェイト部が、前記相対運動に伴って、前記ピストンを押し込むことで、前記油圧ポンプにおいて該ピストンが前記シリンダ内を摺動し前記流体に圧力が付加され、
前記加圧部は、4つの油圧ポンプによって構成され、且つ前記油圧ポンプの夫々が直方体に形成された前記第1コンテナ部の四隅に設置され、
前記第1コンテナ部は、所定の第1方向に延在する第1レール及び該第1方向と直交する第2方向に延在する第2レールを含んで構成され、
前記海上移動体の動揺に伴って、前記ウェイト部が前記第1コンテナ部に対して前記第1方向に相対運動を行うと、前記4つの油圧ポンプのうち該第1方向に対向する2組の前記油圧ポンプについて、一方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが押し込まれ、他方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが引き出され、
前記海上移動体の動揺に伴って、前記ウェイト部が前記第1コンテナ部に対して前記第2方向に相対運動を行うと、前記4つの油圧ポンプのうち該第2方向に対向する2組の前記油圧ポンプについて、一方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが押し込まれ、他方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが引き出される、
波力エンジン。
【請求項2】
前記加圧部が設置される前記第1コンテナ部の四隅には、該加圧部を支持する軸部が設けられ、
前記加圧部は、前記シリンダにおける前記ピストン側とは反対側の端部に形成された孔であって前記軸部が挿入される挿入孔を介して、前記軸部に対して回動可能に支持される、
請求項1に記載の波力エンジン。
【請求項3】
前記ウェイト部は、前記ピストンと接続するためのカップリングを有し、
前記油圧ポンプは、前記ピストンを前記カップリングに向かって付勢する付勢手段を有し、
前記油圧ポンプの夫々が前記第1コンテナ部の四隅に設置された状態において、前記カップリングと前記ピストンとが非締結状態で当接することで、その当接面において該ピストンが該カップリングに対して摺動可能に構成される、
請求項2に記載の波力エンジン。
【請求項4】
前記第1コンテナ部に対して、鉛直上向きに積載された第2コンテナ部と、
前記第2コンテナ部に充填された前記流体を前記油圧ポンプの前記シリンダ内に供給するチューブと、を更に備える、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の波力エンジン。
【請求項5】
前記第1コンテナ部に対して、鉛直上向きに積載された第2コンテナ部と、
前記第2コンテナ部に充填された前記流体を前記第1コンテナ部に供給する流路と、を更に備える、
請求項1から請求項3の何れか1項に記載の波力エンジン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海上移動体の動揺を所定のエネルギに変換する波力エンジンに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、波のエネルギを利用して発電する波力発電が実用化されている。そして、波力発電の方式として、波の流体エネルギを直接利用する方式、例えば、水流によりタービンを駆動させることで発電する方式や、水流を波受部材の揺動運動に変換して発電する方式が知られている。また、波力発電の別の方式として、波による作用を利用する方式、例えば、波の動きに合わせて動揺する浮体構造物の運動エネルギを用いて発電する方式が知られている。
【0003】
ここで、水流を波受部材の揺動運動に変換して発電する方式として、例えば、特許文献1には、波の力を受けて揺動する波受部材を備え、該波受部材の揺動運動に基づいて生成される油圧によって作動する油圧モータを用いて発電する技術が開示されている。
【0004】
また、波の動きに合わせて動揺する浮体構造物の運動エネルギを用いて発電する方式として、例えば、特許文献2には、浮体構造物の内部に取り付けられて水面の変動に応じて運動するウェイトの運動エネルギを利用して発電する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-108344号公報
【文献】特開2012-215120号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来から知られている波の流体エネルギを直接利用する方式において、例えば、水流によりタービンを駆動させることで発電する方式では、船体に水路とタービンを設置することで比較的簡単に発電装置を構成できるものの、これらが該船体の移動抵抗となり易い。また、特許文献1に記載の技術では、波受部材が水流を直接受けて揺動するという構造上、その波受部材の耐久性能が問題となり易い。
【0007】
一方、波の動きに合わせて動揺する浮体構造物の運動エネルギを用いて発電する方式では、発電装置の構成部品が直接水流を受けることがないため、該水流の影響で該構成部品の耐久性能に問題が生じる虞は少ない。ここで、特許文献2に記載の技術によれば、水面の変動に応じて運動するウェイトの往復直線運動に基づいて発電機が駆動されることで発電可能となるものの、発電量を大きくするためには、大型の発電機を用いたり複数の発電機を用いたりする必要があり、波力発電のために用いられる装置のコストが高くなる傾向にある。このように、波のエネルギを利用して発電する波力発電には未だ種々の課題が残されており、波のエネルギを変換してそのエネルギを好適に保存する技術については、未だ改良の余地を残すものである。
【0008】
本開示の目的は、波のエネルギを変換してそのエネルギを好適に保存する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の波力エンジンは、自力又は牽引により海上を移動可能に構成された海上移動体に設置され、該海上移動体の動揺を所定のエネルギに変換する波力エンジンである。そして、この波力エンジンは、前記海上移動体に固設され、該海上移動体の動揺に合わせて動揺する第1コンテナ部と、前記第1コンテナ部の内部に収容され、該第1コンテナ部の内部で移動可能に構成されることで、該第1コンテナ部に対して相対運動を行うウェイト部と、前記ウェイト部の前記相対運動に基づく運動エネルギを利用して、所定の流体に圧力を付加する加圧部と、前記加圧部によって加圧された前記流体を密閉することで、該流体の圧力を蓄圧する蓄圧部と、を備え、前記加圧部は、シリンダ及びピストンを有する油圧ポンプによって構成され、前記ウェイト部が、前記相対運動に伴って、前記ピストンを押し込むことで、前記油圧ポンプにおいて該ピストンが前記シリンダ内を摺動し前記流体に圧力が付加される。
【0010】
上記の波力エンジンは、海上移動体の動揺を所定のエネルギに変換する装置である。ここで、海上移動体とは、自力又は牽引により海上を移動可能に構成された移動体であって、例えば、船舶や、メガフロート等の海上浮体構造物である。そして、このような波力エンジンにおいて、波による海上移動体の動揺に合わせて第1コンテナ部が動揺すると、ウェイト部が第1コンテナ部に対して相対的に移動し、その運動エネルギを利用して加圧部が所定の流体に圧力を付加する。なお、上記の流体とは、例えば、油圧モータ等の油圧装置に利用可能な作動油である。そして、加圧部によって加圧された流体が蓄圧部に導かれることで、該流体の圧力が蓄圧される。これにより、流体の圧力エネルギを蓄圧部に保存することができる。つまり、本開示によれば、波による海上移動体の動揺に伴って第1コンテナ部に対して相対運動するウェイト部の運動エネルギを、流体の圧力エネルギに好適に変換することができる。そして、この圧力エネルギを蓄圧部に保存することができる。
【0011】
なお、上記の波力エンジンでは、ウェイト部が、相対運動に伴って油圧ポンプのピストンを押し込むことで、流体に圧力が付加される。これにより、波のエネルギを好適に変換することができる。また、本開示の波力エンジンでは、上記の構成において、ウェイト部は、その内部に流体を密閉可能に構成された所定のタンクによって構成され、該タンクに、加圧部によって加圧された流体が密閉されることで、蓄圧部がウェイト部に設けられてもよい。これによれば、流体の圧力を蓄圧するための構成であるタンクの重量、および該タンクに密閉された流体の重量を、該流体を加圧するためのエネルギとして利用することができ、波のエネルギを利用するために用いられる装置の低コスト化と省スペース化が図られる。
【0012】
また、以上に述べた波力エンジンにおいて、前記加圧部は、4つの油圧ポンプによって構成され、且つ前記油圧ポンプの夫々が直方体に形成された前記第1コンテナ部の四隅に設置され、前記第1コンテナ部は、所定の第1方向に延在する第1レール及び該第1方向と直交する第2方向に延在する第2レールを含んで構成されてもよい。そして、この場合、前記海上移動体の動揺に伴って、前記ウェイト部が前記第1コンテナ部に対して前記第1方向に相対運動を行うと、前記4つの油圧ポンプのうち該第1方向に対向する2組の前記油圧ポンプについて、一方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが押し込まれ、他方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが引き出され得る。また、前記海上移動体の動揺に伴って、前記ウェイト部が前記第1コンテナ部に対して前記第2方向に相対運動を行うと、前記4つの油圧ポンプのうち該第2方向に対向する2組の前記油圧ポンプについて、一方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが押し込まれ、他方の前記油圧ポンプの組においては、該相対運動に伴って前記ピストンが引き出され得る。
【0013】
更に、この場合、前記加圧部が設置される前記第1コンテナ部の四隅には、該加圧部を支持する軸部が設けられ、前記加圧部は、前記シリンダにおける前記ピストン側とは反対側の端部に形成された孔であって前記軸部が挿入される挿入孔を介して、前記軸部に対して回動可能に支持され得る。ここで、前記ウェイト部は、前記ピストンと接続するためのカップリングを有し、前記油圧ポンプは、前記ピストンを前記カップリングに向かって付勢する付勢手段を有し、前記油圧ポンプの夫々が前記第1コンテナ部の四隅に設置された状態において、前記カップリングと前記ピストンとが非締結状態で当接することで、その当接面において該ピストンが該カップリングに対して摺動可能に構成されてもよい。
【0014】
そして、このような波力エンジンは、前記第1コンテナ部に対して、鉛直上向きに積載された第2コンテナ部を備えることができる。そして、この場合、前記第2コンテナ部に充填された前記流体を前記油圧ポンプの前記シリンダ内に供給するチューブを更に備えてもよいし、前記第2コンテナ部に充填された前記流体を前記第1コンテナ部に供給する流路を更に備えてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、波のエネルギを変換してそのエネルギを好適に保存することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】第1実施形態における波力エンジンの概略構成を示す図である。
図2】第1実施形態において、波のエネルギを変換してそのエネルギを保存する態様を説明するための図である。
図3】蓄圧タンクの構造を説明するための図である。
図4】第2実施形態における波力エンジンの概略構成を、第1実施形態に係る波力エンジンと比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0018】
<第1実施形態>
第1実施形態における波力エンジンの概要について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態における波力エンジンの概略構成を示す図である。本実施形態に係る波力エンジン1は、海上移動体の動揺を所定のエネルギに変換する装置である。ここで、海上移動体とは、自力又は牽引により海上を移動可能に構成された移動体であって、例えば、船舶や、メガフロート等の海上浮体構造物である。そして、波力エンジン1は、図1に示すように、コンテナ2に所定の構成が内蔵されることで実現される。なお、コンテナ2には、周知の海上コンテナを用いることができ、本実施形態におけるコンテナ2は、ドライコンテナ(汎用コンテナ)である。また、図1(a)は波力エンジン1の正面図、図1(b)は波力エンジン1の平面図であって、コンテナ2の内部を図示するため、図1(a)では第1コンテナ部21および第2コンテナ部22の一側面の図示を、図1(b)では第2コンテナ部22および第1コンテナ部21の上面の図示を省略している。
【0019】
図1に示すように、波力エンジン1は、海上移動体に固設され、該海上移動体の動揺に合わせて動揺する第1コンテナ部21と、第1コンテナ部21の内部に収容され、該第1コンテナ部21の内部で移動可能に構成されたウェイト部3と、ウェイト部3の運動エネルギを利用して、所定の流体に圧力を付加する油圧ポンプ4(本開示の加圧部)と、油圧ポンプ4によって加圧された流体を密閉することで、該流体の圧力を蓄圧する蓄圧タンク31(本開示の蓄圧部)と、を備える。ここで、本実施形態における上記の流体とは、油圧モータ等の油圧装置に利用可能な作動油である。ただし、これに限定する意図はなく、上記の流体は、例えば、水などの液体であってもよい。
【0020】
そして、本実施形態では、第1コンテナ部21に対して、鉛直上向きに第2コンテナ部22が積載される。そして、第2コンテナ部22の内部空間に作動油が充填されるとともに、第2コンテナ部22に充填された作動油を油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給するためのチューブ23が設けられる。これによれば、第2コンテナ部22に充填された作動油が、チューブ23を介して油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給されることになる。
【0021】
ウェイト部3は、図1に示すように、蓄圧タンク31と、該蓄圧タンク31を包囲する筐体であるハウジング32と、を含んで構成される。本実施形態では、複数の蓄圧タンク31がハウジング32に収納される。ここで、上述したように、蓄圧タンク31は、油圧ポンプ4によって加圧された作動油を密閉するタンクである。つまり、本実施形態では、ウェイト部3は、その内部に作動油を密閉可能に構成された蓄圧タンク31によって構成され、該蓄圧タンク31に、油圧ポンプ4によって加圧された作動油が密閉されることで、蓄圧部がウェイト部に設けられることになる。これによれば、作動油の圧力を蓄圧するための構成である蓄圧タンク31の重量、および該蓄圧タンク31に密閉された作動油の重量を、該作動油を加圧するためのエネルギとして利用することができ、波のエネルギを利用するために用いられる装置の低コスト化と省スペース化が図られる。
【0022】
そして、このようなウェイト部3は、第1コンテナ部21の内部で移動可能に構成されることで、該第1コンテナ部21に対して相対運動を行う。図1に示すように、本実施形態では、ウェイト部3が第1配置部213の上に配置される。ここで、第1配置部213は、所定の第1方向に延在する第1レール2131を含んで構成される。なお、上記の第1方向とは、例えば、第1コンテナ部21の長手方向である。また、ウェイト部3は、該ウェイト部3が第1コンテナ部21に収容された状態において第1レール2131と対向する位置に固定され、該第1レール2131に沿って水平移動可能に構成された第1移動子321を有する。この第1移動子321は、ハウジング32の底面に固定されたローラーであって、このような第1移動子321が、海上移動体の動揺に伴って第1レール2131上を摺動することで、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して相対運動を行うことになる。
【0023】
更に、本実施形態では、図1に示すように、第1コンテナ部21の内部の底面に、上記の第1方向と直交する第2方向に延在する第2レール2141が設けられる。そして、第1配置部213は、第2レール2141と対向する位置に固定され該第2レール2141に沿って水平移動可能に構成された第2移動子2132を含んで構成される。この第2移動子2132は、第1配置部213に固定されたローラーであって、このような第2移動子2132が、海上移動体の動揺に伴って第2レール2141上を摺動することで、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して相対運動を行う。このような構成によれば、海上移動体の動揺に伴って、ウェイト部3(ハウジング32の底面)に固定された第1移動子321が第1配置部213の第1レール2131上を摺動することで、又は/及びウェイト部3が配置された第1配置部213に固定された第2移動子2132が第2レール2141上を摺動することで、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して相対運動を行うことになる。
【0024】
そして、ハウジング32には、蓄圧タンク31に密閉される作動油が一時的に封入され、該作動油を蓄圧タンク31に導入するための封入部33が形成され、該封入部33を介して、油圧ポンプ4からの作動油が蓄圧タンク31に導かれることになる。なお、油圧ポンプ4と封入部33とは、チューブ34によって接続されている。
【0025】
また、油圧ポンプ4は、シリンダ41およびピストン42を有する周知のピストンポンプであって、本実施形態では、このような油圧ポンプ4が、第1コンテナ部21の四隅(図1(b)のC211~C214)に設置される。そして、第1コンテナ部21に対するウェイト部3の相対運動に伴って、該ウェイト部3がピストン42を押し込むことで、該ピストン42がシリンダ41内を摺動し作動油に圧力が付加されることになる。ここで、第1コンテナ部21の四隅(図1(b)のC211~C214)には、油圧ポンプ4を支持する軸部210が設けられる。そして、油圧ポンプ4は、シリンダ41におけるピストン42の側とは反対側の端部411に形成された孔であって軸部210が挿入される挿入孔412を介して、軸部210に対して回動可能に支持される。なお、ピストン42は、ハウジング32の側面に固定されたカップリング322を介して、ウェイト部3と接続されている。
【0026】
次に、波のエネルギを変換してそのエネルギを保存する態様、つまり、波による海上移動体の動揺に伴って生じる運動エネルギを作動油の圧力として保存する態様について、図2に基づいて説明する。図2は、本実施形態において、波のエネルギを変換してそのエネルギを保存する態様を説明するための図である。なお、図2(a)は、波による海上移動体の動揺に合わせて第1コンテナ部21も動揺し、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して第1方向に相対運動を行う場合を示し、図2(b)は、波による海上移動体の動揺に合わせて第1コンテナ部21も動揺し、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して第2方向に相対運動を行う場合を示している。
【0027】
海上移動体の動揺に伴って、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して第1方向に相対運動を行うと、4つの油圧ポンプ4のうち該第1方向に対向する2組の油圧ポンプについて、図2(a)に示すように、一方の油圧ポンプ4の組(C211およびC214に配置された油圧ポンプ4)である第1組においては、該相対運動に伴ってピストン42が押し込まれ、他方の油圧ポンプ4の組(C212およびC213に配置された油圧ポンプ4)である第2組においては、該相対運動に伴ってピストン42が引き出される。
【0028】
なお、このとき、油圧ポンプ4は、ウェイト部3の移動に伴って、軸部210に対して回動する。ここで、上述したように、油圧ポンプ4には、シリンダ41におけるピストン42の側とは反対側の端部411に挿入孔412が形成されていて、該挿入孔412と軸部210とが、転がり軸受けを介して接続されている。そうすると、ウェイト部3の移動に伴って、ハウジング32の側面に固定されたカップリング322がC211に配置された油圧ポンプ4のピストン42を押圧すると、該油圧ポンプ4は、該ピストン42が押し込まれながらC214の側に向かって回動することになる。同様に、C214に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が押し込まれながらC211の側に向かって回動する。ここで、油圧ポンプ4の夫々が第1コンテナ部21の四隅に設置された状態において、カップリング322とピストン42とが非締結状態で当接することで、その当接面において該ピストン42がカップリング322に対して摺動可能に構成される。これにより、油圧ポンプ4において、シリンダ41に対するピストン42の摺動と、該油圧ポンプ4自体の回動と、が、可能になる。なお、上記のカップリング322とピストン42との当接面の夫々には、例えば、シリコンのような潤滑剤が塗布されてもよい。
【0029】
一方で、このとき、C212およびC213に配置された油圧ポンプ4では、ウェイト部3の移動に伴って、ピストン42が引き出される。ここで、油圧ポンプ4は、ピストン42を引き出す方向に付勢するバネを有していて、上記の如くウェイト部3が移動すると、該バネがピストン42をカップリング322に向かって付勢することになる。そうすると、C212に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が引き出されながらC211の側に向かって回動し、C213に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が引き出されながらC214の側に向かって回動することになる。
【0030】
また、海上移動体の動揺に伴って、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して第2方向に相対運動を行うと、4つの油圧ポンプ4のうち該第2方向に対向する2組の油圧ポンプについて、図2(b)に示すように、一方の油圧ポンプ4の組(C211およびC212に配置された油圧ポンプ4)である第3組においては、該相対運動に伴ってピストン42が押し込まれ、他方の油圧ポンプ4の組(C213およびC214に配置された油圧ポンプ4)である第4組においては、該相対運動に伴ってピストン42が引き出される。
【0031】
詳しくは、C211に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が押し込まれながらC212の側に向かって回動し、C212に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が押し込まれながらC211の側に向かって回動することになる。一方で、C213に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が引き出されながらC212の側に向かって回動し、C214に配置された油圧ポンプ4は、ピストン42が引き出されながらC211の側に向かって回動することになる。
【0032】
そして、上述したように、波による海上移動体の動揺に合わせて第1コンテナ部21も動揺し、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して第1方向に相対運動を行うと、例えば、C211およびC214に配置された油圧ポンプ4の第1組や、C211およびC212に配置された油圧ポンプ4の第3組において、該相対運動に伴ってピストン42が押し込まれる。そうすると、ウェイト部3の相対運動に基づく運動エネルギを利用して、作動油に圧力を付加することができ、以て、波による海上移動体の動揺に伴って第1コンテナ部21に対して相対運動するウェイト部3の運動エネルギを、作動油の圧力エネルギに好適に変換することができる。
【0033】
ここで、油圧ポンプ4によって加圧された作動油は、チューブ34を介して封入部33に導かれる。なお、シリンダ41とチューブ34との接続部には逆止弁が設けられており、チューブ34を流通する作動油の流れがシリンダ41から封入部33への一方向に制限される。そして、封入部33を介して、油圧ポンプ4からの作動油が蓄圧タンク31に導かれる。これについて、図3に基づいて説明する。図3は、蓄圧タンク31の構造を説明するための図である。図3(a)に示すように、蓄圧タンク31内に作動油が供給されていない状態においては、該蓄圧タンク31内を窒素等のガスが充填されたガスバッグ313が占めている。そして、チューブ311を介して封入部33の作動油が蓄圧タンク31に導かれると、図3(b)に示すように、ガスバッグ313を圧縮するように作動油が充填されることになる。ここで、チューブ311と蓄圧タンク31との接続部には逆止弁312が設けられており、図3(c)に示すように蓄圧タンク31への作動油の充填が完了した状態においても、チューブ311への作動油の逆流が防止される。これにより、作動油の圧力エネルギを蓄圧タンク31に保存することができる。
【0034】
一方で、ウェイト部3が第1コンテナ部21に対して第1方向に相対運動を行うと、例えば、C212およびC213に配置された油圧ポンプ4の第2組や、C213およびC214に配置された油圧ポンプ4の第4組において、該相対運動に伴ってピストン42が引き出される。そうすると、シリンダ41内の容積が増加することになり、第2コンテナ部22に充填された作動油が、チューブ23を介して油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給されることになる。なお、シリンダ41とチューブ23との接続部には逆止弁が設けられており、チューブ23を流通する作動油の流れが第2コンテナ部22からシリンダ41への一方向に制限される。
【0035】
なお、上記の説明では、第1コンテナ部21に対して鉛直上向きに第2コンテナ部22が積載される例について述べたが、第1コンテナ部21と第2コンテナ部22とが離間して配置されてもよい。この場合、例えば、ウェイト部3を備える第1コンテナ部21が、海上移動体の底部に配置され得る。そうすると、比較的重量が大きな第1コンテナ部21がバラストとなって、海上移動体の重心を下げることができる。このとき、第2コンテナ部22は、任意の場所に配置されてもよく、上述したように、チューブ23を介して、第2コンテナ部22に充填された作動油が油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給され得る。
【0036】
以上に述べた波力エンジン1によれば、波による海上移動体の動揺に伴って第1コンテナ部21に対して相対運動するウェイト部3の運動エネルギを、作動油の圧力エネルギに好適に変換することができる。そして、この圧力エネルギを蓄圧タンク31に保存することができる。つまり、本開示によれば、波のエネルギを変換してそのエネルギを好適に保存することができる。
【0037】
ここで、本実施形態では、蓄圧タンク31に保存された圧力エネルギを利用して発電を行ってもよい。例えば、蓄圧タンク31に蓄えられた作動油を周知の油圧モータに供給することで軸出力を取り出し、該軸出力を周知の発電機に入力することで発電を行うことができる。また、蓄圧タンク31に保存された圧力エネルギを利用して油圧機械を駆動させてもよい。蓄圧タンク31に蓄えられた高圧の作動油を機械の駆動源として用いると、該機械から比較的高い速度で大きな出力を取り出すことができる。
【0038】
そして、上述した波力エンジンをメガフロート等の海上浮体構造物に設置することで、海上の資源工場を実現することができる。海水には、塩化ナトリウムや塩化マグネシウムが含まれているため、海水を電気分解することで塩酸やマグネシウムを生成することができる。そこで、波力エンジンによるエネルギを利用して発電を行い、その電力によって海水を電気分解することで塩酸やマグネシウムを生成する。そして、生成された塩酸やマグネシウムを地上に輸送すれば、これらを燃料電池やガスエンジンの燃料として利用することができる。例えば、塩酸とマグネシウムとを燃料とするガスエンジンシステムによれば、粒状にしたマグネシウムを塩酸へ注入することで水素を発生させ、その水素を燃焼させることでガスエンジンを駆動させることができる。このようなガスエンジンシステムは、例えば、電気自動車のレンジエクステンダーとして用いられ得る。塩酸とマグネシウムとを燃料とするガスエンジンシステムでは、比較的低い出力が継続して取り出される傾向にあるため、この出力を用いて発電機により発電を行い、その電力でバッテリを充電することで、電気自動車の航続距離を延ばすことができる。なお、波力エンジンが設置された船舶に上記の塩酸やマグネシウムの生成装置が更に搭載されることで、生成された塩酸やマグネシウムを該船舶の動力源の燃料として利用することもできる。
【0039】
更に、上記の工場では、波力エンジンによるエネルギを利用して海水の淡水化装置が稼働されてもよい。ここで、海水の淡水化装置に逆浸透膜方式が用いられる場合には、波力エンジンの蓄圧部に蓄圧された流体の圧力を利用して(例えば、該圧力によりピストンを駆動して)海水に高圧を付加することで、海水中の純水だけを浸透膜を通過させて淡水を得ることができる。この場合、波のエネルギから変換された圧力エネルギを利用して海水の淡水化装置が稼働されるため、淡水化装置を半永久的に稼働させることができる。そして、これと同様にして、波力エンジンによるエネルギを利用して、海水に含まれる汚染物質を濾過する濾過装置が稼働されてもよい。
【0040】
また、上述した波力エンジンを浮防波堤に設置することで、波のエネルギを変換してそのエネルギを保存可能な防波堤を実現してもよい。このような浮防波堤によれば、波浪が激しい岸壁付近の防波ができるとともに、激しい波浪から多くのエネルギを保存することができる。
【0041】
また、波力エンジンの蓄圧部を陸に輸送し、該蓄圧部に蓄圧された流体の圧力を利用して、陸上の資源工場を実現してもよい。このような資源工場では、例えば、バイオコークスやアンモニアが生産される。バイオコークスの生産では、原料となる植物を高温高圧下におく必要があるが、上記の蓄圧部に蓄圧された流体の圧力による高圧と、上記の蓄圧部に蓄圧された流体の圧力を用いて発電した電力により実現され得る高温と、を用いることで、再生可能エネルギからゼロエミッション燃料を生産することができる。また、アンモニアの生産では、窒素と水素を酸化鉄触媒とともに高温高圧で反応させる必要があるが、上記と同様にして波力エンジンの蓄圧部から高温高圧が得られることで、再生可能エネルギからアンモニアを生産することができる。そして、このようにして生産されたアンモニアは、例えば、ガスタービンや燃料電池の燃料として用いることができる。
【0042】
また、上述した波力エンジンをメガフロート等の海上浮体構造物に設置するとともに、ネットワークに接続された複数のコンピュータを更に該海上浮体構造物に設置することで、海上の情報処理施設を実現することもできる。このような情報処理施設では、波力エンジンによるエネルギを利用して発電を行い、その電力によってコンピュータが稼働され得る。そして、このような情報処理施設では、例えば、仮想通過のマイニングが行われてもよい。
【0043】
<第2実施形態>
上述した第1実施形態では、第2コンテナ部22に充填された作動油が、チューブ23を介して油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給される例について、説明した。これに対して、本実施形態では、第2コンテナ部22に充填された作動油は、一旦第1コンテナ部21に供給される。そして、液密状態にされた第1コンテナ部21内の作動油が、油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給される。これについて、図4に基づいて説明する。
【0044】
図4は、本実施形態における波力エンジンの概略構成を、第1実施形態に係る波力エンジンと比較して示す図である。ここで、図4においては、作動油が斜線によって表される。
【0045】
図4(a)に示すように、第1実施形態に係る波力エンジン1では、第2コンテナ部22に充填された作動油が、チューブ23を介して油圧ポンプ4のシリンダ41内に供給される。これに対して、本実施形態に係る波力エンジン1では、図4(b)に示すように、第2コンテナ部22に充填された作動油を第1コンテナ部21に供給するための流路24が設けられ、第2コンテナ部22に充填された作動油が、重力によって該流路24を介して第1コンテナ部21に供給されることになる。そうすると、第1コンテナ部21の内部空間が、作動油で液密状態に維持される液室となり得る。
【0046】
そして、第1コンテナ部21の内部空間が作動油で液密状態にされると、例えば、シリンダ41に形成された供給孔を介して、該シリンダ41の周囲の作動油がシリンダ内に供給されることになる。
【0047】
なお、作動油が油圧ポンプ4から蓄圧タンク31に導かれると、第1コンテナ部21内の作動油が減少する。そこで、本実施形態では、第1コンテナ部21内を作動油で液密状態に維持できるように、電磁弁241の開閉が制御される。
【0048】
<その他の変形例>
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施しうる。例えば、本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0049】
1・・・・・波力エンジン
2・・・・・コンテナ
21・・・・第1コンテナ部
22・・・・第2コンテナ部
3・・・・・ウェイト部
31・・・・蓄圧タンク
32・・・・ハウジング
4・・・・・油圧ポンプ
41・・・・シリンダ
42・・・・ピストン
【要約】
【課題】波のエネルギを変換してそのエネルギを好適に保存する技術を提供する。
【解決手段】本開示の波力エンジン1は、海上移動体の動揺を所定のエネルギに変換する。そして、この波力エンジン1は、海上移動体に固設され、該海上移動体の動揺に合わせて動揺する第1コンテナ部21と、第1コンテナ部21の内部に収容され、該第1コンテナ部の内部で移動可能に構成されることで、該第1コンテナ部に対して相対運動を行うウェイト部3と、ウェイト部3の相対運動に基づく運動エネルギを利用して、所定の流体に圧力を付加する油圧ポンプ4と、油圧ポンプ4によって加圧された流体を密閉することで、該流体の圧力を蓄圧する蓄圧タンク31と、を備え、ウェイト部3が、相対運動に伴って、ピストン42を押し込むことで、油圧ポンプ4において該ピストン42がシリンダ41内を摺動し流体に圧力が付加される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4