IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社エフ・シー・シーの特許一覧

<>
  • 特許-クラッチ装置 図1
  • 特許-クラッチ装置 図2
  • 特許-クラッチ装置 図3
  • 特許-クラッチ装置 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】クラッチ装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 13/52 20060101AFI20240201BHJP
   F16F 15/134 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
F16D13/52 C
F16F15/134 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019181225
(22)【出願日】2019-10-01
(65)【公開番号】P2021055792
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000128175
【氏名又は名称】株式会社エフ・シー・シー
(74)【代理人】
【識別番号】100136674
【弁理士】
【氏名又は名称】居藤 洋之
(72)【発明者】
【氏名】小林 佑樹
【審査官】中野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-172653(JP,A)
【文献】特開2000-227127(JP,A)
【文献】特開2010-151232(JP,A)
【文献】特開2013-137039(JP,A)
【文献】特開2006-10011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 13/52
F16F 15/134
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、
前記原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、
前記従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて前記入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、
前記入力回転体と前記クラッチアウタとの相対回転を許容しつつ前記入力回転体の回転駆動力を前記クラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、
前記ダンパ機構は、
平板環状に形成されて前記入力回転体と前記クラッチアウタとの間に配置されたアウタサイドプレートと、
平板環状に形成されて前記アウタサイドプレートに対して前記入力回転体を介して対向配置される入力側サイドプレートと、
前記入力側サイドプレート、前記入力回転体および前記アウタサイドプレートをそれぞれ貫通するピン状に形成されて前記入力回転体と前記クラッチアウタとを連結させる連結ピンと、
平板環状に形成されて前記入力側サイドプレートと前記クラッチアウタとの間に配置されて前記アウタサイドプレートを前記入力回転体に押し付けるリングスプリングと、
前記入力側サイドプレートおよび前記アウタサイドプレートのうちの少なくとも一方と前記入力回転体とを弾性的に連結するダンパ部材とを有し、
前記リングスプリングは、
前記アウタサイドプレートの径方向における内周側と外周側とにそれぞれ設けられており、
前記アウタサイドプレートは、
前記内周側のリングスプリングに対向する位置に前記入力回転体および前記クラッチアウタにそれぞれに押し付けられる内周側押圧部と、
前記外周側のリングスプリングに対向する位置に前記入力回転体および前記クラッチアウタにそれぞれに押し付けられる外周側押圧部とをそれぞれ有することを特徴とするクラッチ装置。
【請求項2】
請求項1に記載したクラッチ装置において、
前記アウタサイドプレートは、
前記内周側押圧部および前記外周側押圧部の合算の面積が前記アウタサイドプレートが前記入力回転体および前記クラッチアウタにそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも40%以上であることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載したクラッチ装置において、
前記アウタサイドプレートは、
前記内周側押圧部と前記外周側押圧部とが前記アウタサイドプレートの径方向に連続的に繋がった径方向押圧部を有している特徴とするクラッチ装置。
【請求項4】
請求項3に記載したクラッチ装置において、
前記アウタサイドプレートは、
前記内周側押圧部、前記外周側押圧部および前記径方向押圧部の合算の面積が前記アウタサイドプレートが前記入力回転体および前記クラッチアウタにそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも70%以上であることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項5】
請求項3または請求項4に記載したクラッチ装置において、
前記径方向押圧部は、
前記内周側押圧部および前記外周側押圧部の各幅よりも幅広に形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項6】
請求項3ないし請求項5のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記径方向押圧部は、
前記アウタサイドプレートの径方向に沿って断続的に複数形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項7】
請求項6に記載したクラッチ装置において、
前記径方向押圧部は、
前記アウタサイドプレートの周方向において互いに隣接する2つの前記径方向押圧部における前記周方向の各幅が互いに異なっていることを特徴とするクラッチ装置。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のうちのいずれか1つに記載したクラッチ装置において、
前記連結ピンは、
前記アウタサイドプレートの周方向に沿って複数設けられており、
前記径方向押圧部は、
前記アウタサイドプレートの周方向に沿って複数設けられた前記連結ピンの各間を単位として各間ごとに同じ位置および同じ形状で形成されていることを特徴とするクラッチ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原動機によって回転駆動する原動軸の回転駆動力を被動体を駆動させる従動軸に伝達および遮断するクラッチ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、二輪自動車や四輪自動車などの車両においては、エンジンなどの原動機と車輪などの被動体との間に配置されて原動機の回転駆動力を被動体に伝達または遮断するためにクラッチ装置が用いられている。一般に、クラッチ装置は、原動機の回転駆動力によって回転する複数の第1摩擦板と被動体に連結された複数の第2摩擦板とを互いに対向配置するとともに、これらの第1摩擦板と第2摩擦板とを密着および離隔させることにより回転駆動力の伝達または遮断を任意に行なうことができる。
【0003】
例えば、下記特許文献1には、原動機の回転駆動力を入力する入力回転体としてのドリブンギアと複数の第1摩擦板を保持するクラッチアウタとの間に原動機の回転駆動力を弾性的にクラッチアウタに伝達するダンパ機構を備えたクラッチ装置が開示されている。ここで、ダンパ機構は、主として、ダンパスプリング、滑り板、保持板、リベットおよびダイヤフラムばねをそれぞれ備えて構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-151232号公報
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載したクラッチ装置においては、原動機からの回転駆動力の伝達時に不可避的に振動が生じるためこの振動の低減は常に求められるものである。そこで、本発明者らは、原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減するために鋭意試験研究を行ったところ、上記ダンパ機構の改良によって振動の低減効果があるとの知見を得た。
【0006】
本発明は上記問題に対処するためなされたもので、その目的は、原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができるクラッチ装置を提供することにある。
【発明の概要】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達または遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって同原動軸とともに回転駆動する入力回転体と、従動軸とともに回転駆動する第2摩擦板に対向配置されて入力回転体の回転駆動によって回転駆動する第1摩擦板を保持する有底筒状に形成されたクラッチアウタと、入力回転体とクラッチアウタとの相対回転を許容しつつ入力回転体の回転駆動力をクラッチアウタに伝達するダンパ機構とを備え、ダンパ機構は、平板環状に形成されて入力回転体とクラッチアウタとの間に配置されたアウタサイドプレートと、平板環状に形成されてアウタサイドプレートに対して入力回転体を介して対向配置される入力側サイドプレートと、入力側サイドプレート、入力回転体およびアウタサイドプレートをそれぞれ貫通するピン状に形成されて入力回転体と前記クラッチアウタとを連結させる連結ピンと、平板環状に形成されて入力側サイドプレートとクラッチアウタとの間に配置されてアウタサイドプレートを入力回転体に押し付けるリングスプリングと、入力側サイドプレートおよびアウタサイドプレートのうちの少なくとも一方と入力回転体とを弾性的に連結するダンパ部材とを有し、リングスプリングは、アウタサイドプレートの径方向における内周側と外周側とにそれぞれ設けられており、アウタサイドプレートは、前記内周側のリングスプリングに対向する位置に入力回転体およびクラッチアウタにそれぞれに押し付けられる内周側押圧部と、前記外周側のリングスプリングに対向する位置に入力回転体およびクラッチアウタにそれぞれに押し付けられる外周側押圧部とをそれぞれ有することにある。
【0008】
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、アウタサイドプレートを入力回転体に押し付けるリングスプリングをアウタサイドプレートの径方向における内周側および外周側にそれぞれ設けるとともに、これらの各リングスプリングに対向する位置に入力回転体およびクラッチアウタにそれぞれに押し付けられる内周側押圧部および外周側押圧部を有したアウタサイドプレートを備えている。これにより、クラッチ装置は、入力回転体とアウタサイドプレートとがアウタサイドプレートの径方向における内周側および外周側で各リングスプリングによって両者間の密着度が向上して内周側と外周側との間におけるリングスプリングからの荷重の不均一さおよびアウタサイドプレートにおける径方向における摩擦係数の不均一さが軽減される。この結果、クラッチ装置は、入力回転体の回転駆動力が円滑にクラッチアウタに伝達されることで原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができる。
【0009】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、アウタサイドプレートは、内周側押圧部および外周側押圧部の合算の面積がアウタサイドプレートが入力回転体およびクラッチアウタにそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも40%以上であることにある。
【0010】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、アウタサイドプレートの入力回転体およびクラッチアウタへの接触面における接触面圧の均等化を図ることができ、リングスプリングからの荷重の不均一さが軽減されて原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができる。
【0011】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、アウタサイドプレートは、内周側押圧部と外周側押圧部とがアウタサイドプレートの径方向に連続的に繋がった径方向押圧部を有していることにある。
【0012】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、アウタサイドプレートが内周側押圧部と外周側押圧部とがアウタサイドプレートの径方向に連続的に繋がった径方向押圧部を有しているため、リングスプリングからの荷重をアウタサイドプレートの径方向に沿って加えることができリングスプリングからの荷重の不均一さをより効果的に軽減することができる。
【0013】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、アウタサイドプレートは、内周側押圧部、外周側押圧部および径方向押圧部の合算の面積がアウタサイドプレートが入力回転体およびクラッチアウタにそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも70%以上であることにある。
【0014】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、アウタサイドプレートの入力回転体およびクラッチアウタへの接触面における接触面圧の均等化をより一層図ることができ、リングスプリングからの荷重の不均一さが軽減されて原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができる。
【0015】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、径方向押圧部は、内周側押圧部および外周側押圧部の各幅よりも幅広に形成されていることにある。
【0016】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、径方向押圧部がアウタサイドプレートの径方向に沿って断続的に複数形成されているため、リングスプリングからの荷重のアウタサイドプレートの径方向における不均一さを軽減することができる。
【0017】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、径方向押圧部は、アウタサイドプレートの周方向において互いに隣接する2つの径方向押圧部における周方向の各幅が互いに異なっていることにある。
【0018】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、径方向押圧部がアウタサイドプレートの周方向において互いに隣接する2つの径方向押圧部における周方向の各幅が互いに異なっているため、周方向における各径方向押圧部ごとの摩擦特性および潤滑油の挙動に変化を与えてアウタサイドプレートの摺動時または静止時における摩擦特性の単調なまたは偏った作用を抑えて摩擦特性をアウタサイドプレート全体として向上させることができる。
【0019】
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、連結ピンは、アウタサイドプレートの周方向に沿って複数設けられており、径方向押圧部は、アウタサイドプレートの周方向に沿って複数設けられた連結ピンの各間を単位として各間ごとに同じ位置および同じ形状で形成されていることにある。
【0020】
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、径方向押圧部がアウタサイドプレートの周方向に沿って複数設けられた連結ピンの各間を単位として各間ごとに同じ位置および同じ形状で形成されているため、周方向における各連結ピン間内の摩擦特性および潤滑油の挙動に変化を与えてアウタサイドプレートの摺動時または静止時における摩擦特性の単調なまたは偏った作用を抑えつつアウタサイドプレート全体として摩擦特性を均一化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の一実施形態に係るクラッチ装置の全体構成の概略をクラッチONの状態で示す断面図である。
図2図1に示すクラッチ装置内に組み込まれるアウタサイドプレートの外観構成を概略的に示す正面図である。
図3図2に示すアウタサイドプレートにおける内周側押圧部、外周側押圧部、径方向押圧部および補助押圧部を濃淡ハッチングで示した側面図である。
図4図1に示すクラッチ装置における入力回転体の回転駆動力をアウタサイドプレートを介してクラッチアウタに伝達する際の押圧力の作用を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成の概略を示す断面図である。このクラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達および遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
【0023】
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、クラッチアウタ101を備えている。クラッチアウタ101は、第1摩擦板114を保持するとともにこの第1摩擦板114にエンジンからの駆動力を伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を有底円筒状に成形して構成されている。より具体的には、クラッチアウタ101の筒状部には、内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインに複数枚(本実施形態においては10枚)の第1摩擦板114がクラッチアウタ101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチアウタ101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合して保持されている。
【0024】
このクラッチアウタ101は、上記有底円筒状における底部に相当する図示左側の側面101aがダンパ機構105を介して入力回転体102に連結されている。入力回転体102は、エンジンなどの原動機の駆動により回転駆動するクランク軸などの原動軸(図示せず)に連結された駆動ギアと噛合って回転駆動する金属製の歯車部品であり、スリーブ103およびニードルベアリング104を介してそれぞれ後述するシャフト118に回転自在に支持されている。すなわち、クラッチアウタ101は、シャフト118と同心位置でシャフト118と独立して入力回転体102と一体的に回転駆動する。この入力回転体102は、主として、歯部102a,ボス部102bおよび張出部102cを有して構成されている。
【0025】
歯部102aは、前記駆動ギアに噛み合って回転駆動力を受ける部分であり、円周方向に沿って凹凸を繰り返す形状に形成されている。ボス部102bは、入力回転体102をシャフト118上で支持するとともにクラッチアウタ101を支持する部分であり、歯部102aの円周方向に直交する方向に延びる円筒状に形成されている。このボス部102bは、内周側がニードルベアリング104を介してスリーブ103に嵌合しているとともに、外周側にクラッチアウタ101が摺動自在な状態で嵌合している。
【0026】
張出部102cは、ボス部102bの径方向外側で歯部102aを支持するとともにクラッチアウタ101に連結される部分であり、ボス部102bの径方向外側に平板円環状に形成されている。この張出部102cには、連結ピン貫通部102dおよびスプリング収容部102eがそれぞれ形成されている。
【0027】
連結ピン貫通部102dは、後述する連結ピン108が貫通する部分であり、連結ピン108の周方向への揺動を許容する長孔状に形成されている。この連結ピン貫通部102dは、本実施形態においては、入力回転体102の周方向に沿って均等な間隔を介して3つ形成されているが、3つ未満または4つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0028】
スプリング収容部102eは、後述するダンパ部材113を収容する部分であり、入力回転体102の周方向の延びる長孔状に形成されている。この場合、スプリング収容部102eの両端部は、ダンパ部材113の両端部が弾性的に突き当てられている。このスプリング収容部102eは、本実施形態においては、入力回転体102の周方向に沿って3つの連結ピン貫通部102dの各間にそれぞれ2つずつ形成されているが、2つ未満または3つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0029】
スリーブ103は、シャフト118上で入力回転体102をニードルベアリング104を介して支持するための部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。ニードルベアリング104は、スリーブ103の外周面上で入力回転体102を回転自在な状態で支持するための部品であり、スリーブ103の外周面上を周方向に転動する多数の細長い円柱体を備えて円筒状に形成されている。
【0030】
ダンパ機構105は、入力回転体102の回転駆動力を弾性的にクラッチアウタ101に伝達するための部品群であり、主として、アウタサイドプレート106、入力側サイドプレート107、連結ピン108、内側リングスプリング111、外側リングスプリング112およびダンパ部材113をそれぞれ備えて構成されている。
【0031】
アウタサイドプレート106は、図1に示すように、入力回転体102に摩擦摺動するとともにクラッチアウタ101に対して連結ピン108によって固定されることで入力回転体102の回転駆動力をクラッチアウタ101に伝達するための部品であり、金属材を平板円環状に形成して構成されている。この場合、アウタサイドプレート106は、入力回転体102に押圧される後述する内側リングスプリング111および外側リングスプリング112にそれぞれ対向する内径および外径に形成される。本実施形態においては、アウタサイドプレート106は、入力回転体102に押圧される内側リングスプリング111の板面における外周部分および外側リングスプリング112の板面における内周部分にそれぞれ対向する内径および外径に形成されている。
【0032】
これにより、アウタサイドプレート106の両面の板面における内周部分には、図3に示すように、内側リングスプリング111の板面における外周部分に対向する部分に入力回転体102の張出部102cおよびクラッチアウタ101の側面101aにそれぞれ押圧される内周側押圧部106aが円環状に形成されている。また、アウタサイドプレート106の両面の板面における外周部分には、外側リングスプリング112の板面における内周部分に対向する部分に入力回転体102の張出部102cおよびクラッチアウタ101の側面101aにそれぞれ押圧される外周側押圧部106bが円環状に形成されている。
【0033】
また、アウタサイドプレート106の両面の板面には、内周側押圧部106aと外周側押圧部106bとを径方向に欠けることなく連続的に繋げて入力回転体102の張出部102cおよびクラッチアウタ101の側面101aにそれぞれ押圧される径方向押圧部106cが形成されている。この場合、径方向押圧部106cは、内周側押圧部106aと外周側押圧部106bとを径方向に連続的に繋げる領域であるため、アウタサイドプレート106の径方向内側から外側に向かって周方向の幅が広がる扇状に形成される。
【0034】
また、径方向押圧部106cは、後述する連結ピン貫通部106eおよびスプリング収容部106fによって断続的に複数(本実施形態においては9つ)形成されている。この場合、各径方向押圧部106cは、周方向に並んだ9つの径方向押圧部106cのうちの一部に周方向の幅が異なる径方向押圧部106cが含まれている。具体的には、各径方向押圧部106cは、周方向の幅が広い6つの径方向押圧部106cの間に周方向の幅が狭い3つの径方向押圧部106cが周方向に均等に配置されている。
【0035】
また、各径方向押圧部106cは、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bの各周方向の最も狭い部分の幅よりも幅広に形成されている。また、径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106の周方向に沿って設けられた3つの連結ピン貫通部106eの各間を単位として各間ごとに同じ位置および同じ形状で形成されている。
【0036】
また、アウタサイドプレート106の両面の板面における内周側押圧部106a、外周側押圧部106bおよび径方向押圧部106c以外の部分には、入力回転体102の張出部102cおよびクラッチアウタ101の側面101aにそれぞれ押圧される補助押圧部106dが形成されている。
【0037】
なお、図1においては、補助押圧部106dの図示を省略している。また、図2においては、内周側押圧部106a、外周側押圧部106b、径方向押圧部106cおよび補助押圧部106dの各図示を省略している。また、図3においては、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bを濃いハッチングで示し、径方向押圧部106cを中程度の濃さのハッチングで示し、補助押圧部106dを薄いハッチングで示している。
【0038】
これらの内周側押圧部106a、外周側押圧部106b、径方向押圧部106cおよび補助押圧部106dは、アウタサイドプレート106の両面にそれぞれ同一平面上に形成されている。また、内周側押圧部106a、外周側押圧部106bおよび径方向押圧部106cは、これらの総面積が後述する連結ピン貫通部106eおよびスプリング収容部106fの各開口部の総面積よりも大きく形成されている。
【0039】
また、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bは、アウタサイドプレート106が入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれ接触する総面積、すなわち、内周側押圧部106a、外周側押圧部106b、径方向押圧部106cおよび補助押圧部106dの総面積に対して少なくとも40%以上の大きさになるように形成されている。また、内周側押圧部106a、外周側押圧部106bおよび径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106が入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれ接触する総面積、すなわち、内周側押圧部106a、外周側押圧部106b、径方向押圧部106cおよび補助押圧部106dの総面積に対して少なくとも70%以上の大きさになるように形成されている。
【0040】
このアウタサイドプレート106には、連結ピン貫通部106eおよびスプリング収容部106fがそれぞれ形成されている。連結ピン貫通部106eは、連結ピン108が貫通する部分であり、連結ピン108の外径と略同一の円形の貫通孔で構成されている。この連結ピン貫通部106eは、本実施形態においては、アウタサイドプレート106の周方向に沿って均等な間隔を介して3つ形成されているが、3つ未満または4つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0041】
スプリング収容部106fは、スプリング収容部102eに収容されているダンパ部材113を収容する部分であり、ダンパ部材113の一部を覆いつつアウタサイドプレート106の周方向の延びるカバー付きの長孔状に形成されている。この場合、スプリング収容部106fの両端部は、ダンパ部材113の両端部が弾性的に突き当てられている。このスプリング収容部106fは、本実施形態においては、アウタサイドプレート106の周方向に沿って3つの連結ピン貫通部106eの各間にそれぞれ2つずつ形成されているが、2つ未満または3つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0042】
入力側サイドプレート107は、入力回転体102のアウタサイドプレート106とは反対側(図示左側)への変位を規制するための部品であり、金属材を平板円環状に形成して構成されている。この場合、入力側サイドプレート107は、内側リングスプリング111の板面における外周部分および外側リングスプリング112の板面における内周部分をそれぞれ押さえることができる内径および外径に形成されている。すなわち、入力側サイドプレート107には、板面の最内周部に内側リングスプリング111を押圧する内側リング押圧部107aが形成されるとともに、最外周部に外側リングスプリング112を押圧する外側リング押圧部107bが形成されている。
【0043】
また、入力側サイドプレート107の板面には、連結ピン貫通部107cおよびスプリング収容部107dがそれぞれ形成されている。連結ピン貫通部107cは、連結ピン108が貫通する部分であり、連結ピン108の外径と略同一の円形の貫通孔で構成されている。この連結ピン貫通部107cは、本実施形態においては、入力側サイドプレート107の周方向に沿って均等な間隔を介して3つ形成されているが、3つ未満または4つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0044】
スプリング収容部107dは、スプリング収容部102eに収容されているダンパ部材113を収容する部分であり、ダンパ部材113の一部を覆いつつ入力側サイドプレート107の周方向の延びるカバー付きの長孔状に形成されている。この場合、スプリング収容部107dの両端部は、ダンパ部材113の両端部が弾性的に突き当てられている。このスプリング収容部107dは、本実施形態においては、入力側サイドプレート107の周方向に沿って3つの連結ピン貫通部107cの各間にそれぞれ2つずつ形成されているが、2つ未満または3つ以上設けられていてもよいことは当然である。
【0045】
連結ピン108は、入力回転体102とクラッチアウタ101とをアウタサイドプレート106、入力側サイドプレート107、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112を介して一体的に連結するための部品であり、金属材を棒状に形成して構成されている。本実施形態においては、連結ピン108は、入力側サイドプレート107とクラッチアウタ101とを貫通する3つのリベットで構成されている。この場合、3つの各連結ピン108は、入力回転体102の連結ピン貫通部107cに対して金属材を円筒状に形成したカラー108aを介して貫通している。
【0046】
内側リングスプリング111および外側リングスプリング112は、入力側サイドプレート107とクラッチアウタ101との間に配置されてアウタサイドプレート106を入力回転体102に押し付けるための部品であり、平板環状に形成して複数のばね鋼を複数枚重ねてそれぞれ構成されている。内側リングスプリング111は、入力回転体102の張出部102cと入力側サイドプレート107の内側リング押圧部107aとの間に圧縮変形した状態で配置されている。
【0047】
この場合、内側リングスプリング111は、クラッチアウタ101の側面101aにおける外周側端部と略同じ径方向位置に設けられている。また、外側リングスプリング112は、入力回転体102の張出部102cと入力側サイドプレート107の外側リング押圧部107bとの間に圧縮変形した状態で配置されている。この場合、外側リングスプリング112は、クラッチアウタ101の側面101aにおける内周側端部と略同じ径方向位置に設けられている。
【0048】
また、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112は、互いに同じ強さの押圧力を発揮するバネで構成してもよいし互いに異なる強さの押圧力を発揮するバネで構成してもよいが、アウタサイドプレート106における内周側押圧部106aから外周側押圧部106bまでの領域で押圧力が略一定となるように各スプリングの強さが調整される。これらの内側リングスプリング111および外側リングスプリング112が、本発明に係るリングスプリングに相当する。
【0049】
ダンパ部材113は、入力回転体102の回転駆動力(トルク)の変動を減衰しながらクラッチアウタ101に伝達する部品であり、鋼製のコイルスプリングによって構成されている。このダンパ部材113は、入力回転体102、アウタサイドプレート106および入力側サイドプレート107の各周方向の同じ位置にそれぞれ6つずつ形成されたスプリング収容部102e,106f,107d内にそれぞれ配置されている。なお、ダンパ部材113は、コイルスプリングの他にゴム材などからなる弾性体で構成してもよいことは当然である。
【0050】
第1摩擦板114は、第2摩擦板115に押し当てられる平板環状の部品であり、アルミニウム材からなる薄板材を環状に成形して構成されている。この場合、各第1摩擦板114の外周部には、クラッチアウタ101の前記内歯状のスプラインに噛み合う外歯が形成されている。これらの第1摩擦板114における各両側面(表裏面)には、図示しない複数の紙片からなる摩擦材が貼り付けられているとともに各摩擦材間に図示しない油溝が形成されて構成されている。また、これらの第1摩擦板114は、クラッチアウタ101の内側に設けられるセンタークラッチ116およびプレッシャークラッチ117ごとにそれぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。
【0051】
クラッチアウタ101の内側には、複数枚(本実施形態においては9枚)の第2摩擦板115が前記第1摩擦板114で挟まれた状態でセンタークラッチ116およびプレッシャークラッチ117にそれぞれ保持されている。第2摩擦板115は、前記第1摩擦板114に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらの第2摩擦板115における各両側面(表裏面)には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm~数十μmの図示しない油溝が形成されているとともに、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。
【0052】
また、各第2摩擦板115の内周部には、センタークラッチ116に形成されたプレート保持部116dおよびプレッシャークラッチ117に形成されたプレートサブ保持部117cにそれぞれスプライン嵌合する内歯歯車状のスプラインがそれぞれ形成されている。これらの第2摩擦板115は、センタークラッチ116およびプレッシャークラッチ117ごとにそれぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。なお、前記摩擦材は、前記第1摩擦板114に代えてこの第2摩擦板115に設けられていてもよいことは当然である。
【0053】
センタークラッチ116は、第2摩擦板115を第1摩擦板114とともにそれぞれ収容してエンジンの駆動力を変速機側に伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を略円筒状に成形して構成されている。より具体的には、センタークラッチ116は、主として、シャフト連結部116a、リング状中間部116bおよびプレート保持部116dを一体的に形成して構成されている。
【0054】
シャフト連結部116aは、プレッシャークラッチ117が嵌合しつつシャフト118に連結される部分であり、センタークラッチ116の中心部に軸方向に延びる円筒状に形成されている。このシャフト連結部116aの内周面には、センタークラッチ116の軸線方向に沿って内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインにシャフト118がスプライン嵌合している。すなわち、センタークラッチ116は、クラッチアウタ101およびシャフト118と同心位置でシャフト118とともに一体的に回転する。
【0055】
リング状中間部116bは、シャフト連結部116aとプレート保持部116dとの間に形成されたフランジ状の部分である。このリング状中間部116bには、周方向に沿って3つの貫通孔が形成されており、これらの貫通孔に後述する3つの筒状支柱117bがそれぞれ貫通している。
【0056】
なお、リング状中間部116bには、第1摩擦板114と第2摩擦板115との圧接力を増強する力であるアシストトルクまたは第1摩擦板114と第2摩擦板115とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させる力であるスリッパートルクを生じさせるA&S(登録商標)機構を構成する傾斜面からなるカム面を有した台状のカム体116cが形成されているが、このカム体116cを含むA&S(登録商標)機構は本発明に直接関わらないため、その説明は省略する。また、リング状中間部116bは、このA&S(登録商標)機構を省略して構成することもできる。
【0057】
プレート保持部116dは、前記複数枚の第2摩擦板115の一部を第1摩擦板114とともに保持する部分であり、センタークラッチ116の外縁部に軸方向に延びる円筒状に形成されている。このプレート保持部116dは、外周部が外歯歯車状のスプラインで構成されており、第2摩擦板115と第1摩擦板114とを交互に配置した状態でセンタークラッチ116の軸線方向に沿って変位可能かつ同センタークラッチ116と一体回転可能な状態で保持している。
【0058】
このプレート保持部116dには、図示右側の先端部にプレート受け部116eが形成されている。プレート受け部116eは、プレッシャークラッチ117に押圧された第2摩擦板115および第1摩擦板114を受け止めてこれらをプレッシャークラッチ117とで挟む部分であり、円筒状に形成されたプレート保持部116dの先端部が径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。
【0059】
プレッシャークラッチ117は、第1摩擦板114を押圧することによってこの第1摩擦板114と第2摩擦板115とを互いに密着させるための部品であり、アルミニウム合金材を第2摩擦板115の外径と略同じ大きさの外径の略円盤状に成形して構成されている。より具体的には、プレッシャークラッチ117は、主として、リング状中間部117aおよびプレートサブ保持部117cを一体的に形成して構成されている。
【0060】
リング状中間部117aは、プレッシャークラッチ117の内周部分を構成する円環状の部分である。このリング状中間部117aは、周方向に沿って3つの筒状支柱117bがそれぞれ形成されており、最内周部がセンタークラッチ116におけるシャフト連結部116aの外周面上に摺動自在な状態で嵌合している。これにより、プレッシャークラッチ117は、クラッチアウタ101、センタークラッチ116およびシャフト118と同心位置でセンタークラッチ116およびシャフト118とは独立して回転可能に設けられている。
【0061】
3つの筒状支柱117bは、リフタープレート120を支持するためにセンタークラッチ116の軸方向に柱状に延びた円筒状の部分であり、その内周部に雌ネジが形成されている。これら3つの筒状支柱117bは、プレッシャークラッチ117の周方向に沿って均等に形成されている。
【0062】
プレートサブ保持部117cは、前記複数枚の第2摩擦板115の他の一部を第1摩擦板114とともに保持する部分であり、プレッシャークラッチ117の外縁部の軸方向に延びる円筒状に形成されている。このプレートサブ保持部117cは、外周部が外歯歯車状のスプラインで構成されており、第2摩擦板115と第1摩擦板114とを交互に配置した状態でプレッシャークラッチ117の軸線方向に沿って変位可能かつ同プレッシャークラッチ117と一体回転可能な状態で保持している。このプレートサブ保持部117cには、先端部にプレート押し部117dが形成されている。
【0063】
プレート押し部117dは、プレートサブ保持部117cに保持された第2摩擦板115および第1摩擦板114をプレート受け部116e側に押圧して第2摩擦板115と第1摩擦板114とを高い圧力で互いに密着させるための部分であり、円筒状に形成されたプレートサブ保持部117cの根元部分が径方向外側にフランジ状に張り出して形成されている。なお、このリング状中間部117aには、3つの筒状支柱117bの各間に前記A&S(登録商標)機構を構成するカム体117eが形成されている。
【0064】
シャフト118は、中空状に形成された軸体であり、一方(図示右側)の端部側がスリーブ103を介して入力回転体102およびクラッチアウタ101を回転自在に支持するとともに、前記スプライン嵌合するセンタークラッチ116をナット(図示せず)を介して固定的に支持する。このシャフト118における他方(図示左側)の端部は、二輪自動車における変速機(図示せず)に連結されている。すなわち、シャフト118は、本発明における従動軸に相当する。なお、図1において、シャフト118を二点鎖線で示している。
【0065】
リフタープレート120は、プレッシャークラッチ117を軸方向に往復変位させるための部品であり、金属材を円筒状に形成して構成されている。このリフタープレート120は、外周部がプレート保持部116dの内周面に摺動自在に嵌合した状態で前記3つの筒状支柱117bの先端部にボルトを介して固定されている。この場合、リフタープレート120は、クラッチスプリング122を圧縮変形させた状態で筒状支柱117b上に取り付けられている。
【0066】
そして、このリフタープレート120は、クラッチレリーズ機構を構成するレリーズピン121にベアリングを介して押圧されることでプレッシャークラッチ117を入力回転体102側に変位させる。ここで、クラッチレリーズ機構とは、クラッチ装置100が搭載される自走式車両の運転者のクラッチ操作レバー(図示しない)の操作によってレリーズピン121をシャフト118側に押圧する機械装置である。なお、図1において、レリーズピン121を二点鎖線で示している。
【0067】
クラッチスプリング122は、プレッシャークラッチ117をセンタークラッチ116側に押圧することによってプレッシャークラッチ117のプレート押し部117dを第1摩擦板114に押圧するための弾性体であり、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングによって構成されている。このクラッチスプリング122は、3つの筒状支柱117bの各間にそれぞれ配置されている。
【0068】
そして、このクラッチ装置100内には、所定量のクラッチオイル(図示しない)が充填されている。クラッチオイルは、主として、第1摩擦板114と第2摩擦板115との間に供給されてこれらの間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗を防止する。すなわち、このクラッチ装置100は、所謂湿式多板摩擦クラッチ装置である。
【0069】
(クラッチ装置100の作動)
次に、上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものであり、車両の運転者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断を行なう。
【0070】
具体的には、クラッチ装置100は、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作しない場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン121を押圧しないため、プレッシャークラッチ117がクラッチスプリング122の弾性力によって第1摩擦板114を押圧する。これにより、センタークラッチ116は、第1摩擦板114と第2摩擦板115とが互いに押し当てられて摩擦連結されたクラッチONの状態となって回転駆動する。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ116に伝達されてシャフト118が回転駆動する。
【0071】
このようなクラッチON状態においては、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力は、アウタサイドプレート106を介してクラッチアウタ101に伝達される。この場合、アウタサイドプレート106は、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112の各押圧力F,Fが作用する直線上に内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bが形成されているため、同直線上における入力回転体102とアウタサイドプレート106との密着力およびアウタサイドプレート106とクラッチアウタ101との密着力MF,MFを高めて伝達される回転駆動力の径方向における大きさのムラを抑えることができる。特に、アウタサイドプレート106は、アウタサイドプレート106における最も内側の摩擦接触部分と最も外側の摩擦接触部分とにおける回転駆動力の伝達量の差を抑えることができる。
【0072】
また、アウタサイドプレート106は、内周側押圧部106aと外周側押圧部106bとを径方向に連続的に繋ぐ径方向押圧部106cを有しているため、内周側押圧部106aと外周側押圧部106bとの間の密着力MFを均一化して伝達される回転駆動力の径方向における大きさのムラを抑えることができる。特に、アウタサイドプレート106は、アウタサイドプレート106における最も内側の摩擦接触部分と最も外側の摩擦接触部分との間の領域における回転駆動力の伝達量の差を抑えることができる。これにより、クラッチ装置100は、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力を円滑にクラッチアウタ101に伝達することができる。なお、図4においては、密着力MF,MF,MFの大きさを誇張して示している。また、図4は、クラッチ装置100における連結ピン108が存在しない部分の断面の一部を示している。
【0073】
また、このクラッチON状態においては、原動機側の回転数よりも駆動輪側の回転数が下回った場合には、クラッチスプリング122が圧縮変形することにより、入力回転体102に対してクラッチアウタ101がアウタサイドプレート106を介して相対回転する。この場合においても、クラッチ装置100は、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力を円滑にクラッチアウタ101に伝達することができる。
【0074】
一方、クラッチ装置100は、クラッチON状態において車両の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン121を押圧するため、プレッシャークラッチ117がクラッチスプリング122の弾性力に抗してセンタークラッチ116から離隔する方向に変位する。これにより、センタークラッチ116は、第1摩擦板114と第2摩擦板115との摩擦連結が解消されたクラッチOFFの状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ116に対して遮断される。このクラッチOFF状態においても、クラッチ装置100は、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力を円滑にクラッチアウタ101に伝達することができる。
【0075】
そして、このクラッチOFF状態において運転者クラッチ操作レバーを解除した場合には、クラッチレリーズ機構(図示せず)によるレリーズピン121を介したリフタープレート120の押圧が解除されるため、プレッシャークラッチ117がクラッチスプリング122の弾性力によってセンタークラッチ116に接近する方向に変位する。また、このクラッチOFF状態からクラッチON状態に移行する過程においても、クラッチ装置100は、入力回転体102に伝達された原動機からの回転駆動力を円滑にクラッチアウタ101に伝達することができる。
【0076】
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、クラッチ装置100は、アウタサイドプレート106を入力回転体102に押し付ける内側リングスプリング111および外側リングスプリング112をアウタサイドプレート106の径方向における内周側および外周側にそれぞれ設けるとともに、これらの各リングスプリング111,112に対向する位置に入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれに押し付けられる内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bを有したアウタサイドプレート106を備えている。これにより、クラッチ装置100は、入力回転体102とアウタサイドプレート106とがアウタサイドプレート106の径方向における内周側および外周側で各リングスプリング111,112によって密着して両者間の密着度が向上して内周側と外周側との間における各リングスプリング111,112からの荷重の不均一さおよびアウタサイドプレート106における径方向における摩擦係数の不均一さが軽減される。この結果、クラッチ装置100は、入力回転体102の回転駆動力が円滑にクラッチアウタ101に伝達されることで原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができる。
【0077】
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0078】
例えば、上記実施形態においては、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bは、アウタサイドプレート106が入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも40%以上の大きさになるように形成されている。これにより、クラッチ装置100は、アウタサイドプレート106の入力回転体102およびクラッチアウタ101への接触面における接触面圧の均等化を図ることができ、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112からの荷重の不均一さが軽減されて原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができる。しかし、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bは、アウタサイドプレート106が入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれ接触する総面積に対して40%未満の大きさになるように形成することができ、前記接触面圧の不均一さを低減することはできる。
【0079】
また、上記実施形態においては、内周側押圧部106a、外周側押圧部106bおよび径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106が入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも70%以上の大きさになるように形成されている。これにより、クラッチ装置100は、アウタサイドプレート106の入力回転体102およびクラッチアウタ101への接触面における接触面圧の均等化をより一層図ることができ、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112からの荷重の不均一さが軽減されて原動機からの回転駆動力の伝達時に生じる振動を低減することができる。しかし、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bは、アウタサイドプレート106が入力回転体102およびクラッチアウタ101にそれぞれ接触する総面積に対して少なくとも70%未満の大きさになるように形成することができ、前記接触面圧の不均一さを低減することはできる。
【0080】
また、上記実施形態においては、アウタサイドプレート106は、径方向押圧部106cを設けて構成した。しかし、アウタサイドプレート106は、径方向押圧部106cを省略して構成することもできる。この場合、アウタサイドプレート106は、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bをアウタサイドプレート106の板面から突出させて形成することで径方向押圧部106cを省略して構成することができる。なお、アウタサイドプレート106は、補助押圧部106dについても同様に省略して構成することができる。
【0081】
また、上記実施形態においては、径方向押圧部106cは、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bの各周方向の幅よりも幅広に形成されている。これにより、アウタサイドプレート106は、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bとの間における内側リングスプリング111および外側リングスプリング112の押圧力が作用する線状にない部分の面圧力を向上させて接触面圧の不均一さを低減することはできる。しかし、径方向押圧部106cは、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bの各周方向の幅よりも狭い幅で形成することもできる。
【0082】
また、上記実施形態においては、径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106の周方向に沿って設けられた3つの連結ピン108の各間を単位として各間ごとに同じ位置および同じ形状で形成されている。これにより、クラッチ装置100は、周方向における各連結ピン108間内の摩擦特性および潤滑油の挙動に変化を与えてアウタサイドプレート106の摺動時または静止時における摩擦特性の単調なまたは偏った作用を抑えつつアウタサイドプレート106全体として摩擦特性を均一化することができる。しかし、径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106の周方向に沿って連結ピン108とは無関係に規則的または不規則に形成してもよい。
【0083】
また、上記実施形態においては、径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106の径方向に沿って断続的に複数形成した。しかし、径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106の径方向に沿って一部分に1つだけ形成することもできる。
【0084】
また、上記実施形態においては、一部の径方向押圧部106cについて、アウタサイドプレート106の周方向において互いに隣接する2つの径方向押圧部106cにおける周方向の各幅が互いに異なるように構成した。しかし、径方向押圧部106cは、アウタサイドプレート106の周方向において周方向の幅を同一の径方向位置で一定、すなわち、同じ大きさ同じ形状で形成することもできる。
【0085】
また、上記実施形態においては、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bは、アウタサイドプレート106の周方向に沿って連続的な環状に形成した。しかし、内周側押圧部106aおよび外周側押圧部106bは、アウタサイドプレート106の周方向に沿って断続的な環状に形成することもできる。
【0086】
また、上記実施形態においては、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112は、入力回転体102と入力側サイドプレート107との間に設けた。しかし、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112は、入力側サイドプレート107とクラッチアウタ101との間に配置されてアウタサイドプレート106を入力回転体102に押し付けることができればよい。したがって、内側リングスプリング111および外側リングスプリング112は、例えば、アウタサイドプレート106とクラッチアウタ101との間に配置することもできる。すなわち、アウタサイドプレート106は、入力回転体102およびクラッチアウタ101に対して直接的または間接的に押付けられるように設けられていればよい。
【符号の説明】
【0087】
…内側リングスプリングの押圧力、F…外側リングスプリングの押圧力、MF…アウタサイドプレートの内周側部分に対する入力回転体およびクラッチアウタの各密着力、MF…アウタサイドプレートの外周側部分に対する入力回転体およびクラッチアウタの各密着力、MFM…アウタサイドプレートの中間部分に対する入力回転体およびクラッチアウタの各密着力、
100…クラッチ装置、101…クラッチアウタ、101a…側面、102…入力回転体、102a…歯部、102b…ボス部、102c…張出部、102d…連結ピン貫通部、102e…スプリング収容部、103…スリーブ、104…ニードルベアリング、105…ダンパ機構、106…アウタサイドプレート、106a…内周側押圧部、106b…外周側押圧部、106c…径方向押圧部、106d…補助押圧部、106e…連結ピン貫通部、106f…スプリング収容部、107…入力側サイドプレート、107a…内側リング押圧部、107b…外側リング押圧部、107c…連結ピン貫通部、107d…スプリング収容部、108…連結ピン、108a…カラー、111…内側リングスプリング、112…外側リングスプリング、113…ダンパ部材、114…第1摩擦板、115…第2摩擦板、116…センタークラッチ、116a…シャフト連結部、116b…リング状中間部、116c…カム体、116d…プレート保持部、116e…プレート受け部、117…プレッシャークラッチ、117a…リング状中間部、117b…筒状支柱、117c…プレートサブ保持部、117d…プレート押し部、117e…カム体、118…シャフト、120…リフタープレート、121…レリーズピン、122…クラッチスプリング。
図1
図2
図3
図4