(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】噴射装置、組成物の噴射方法、及び、噴射用の組成物
(51)【国際特許分類】
B05B 11/00 20230101AFI20240201BHJP
B65D 83/14 20060101ALI20240201BHJP
B65D 83/00 20060101ALI20240201BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20240201BHJP
B05D 1/02 20060101ALI20240201BHJP
C09D 101/02 20060101ALI20240201BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240201BHJP
C09D 101/00 20060101ALI20240201BHJP
C09D 191/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
B05B11/00 102Z
B65D83/14 100
B65D83/00 K
B05D7/24 301F
B05D7/24 302C
B05D7/24 303L
B05D7/24 303E
B05D1/02 Z
C09D101/02
C09D7/20
C09D101/00
C09D191/06
(21)【出願番号】P 2019122023
(22)【出願日】2019-06-28
【審査請求日】2022-05-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000102980
【氏名又は名称】リンテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大高 翔
(72)【発明者】
【氏名】上村 和恵
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/076191(WO,A1)
【文献】特開平10-121099(JP,A)
【文献】特表2010-527332(JP,A)
【文献】特開平10-024258(JP,A)
【文献】特表2017-512628(JP,A)
【文献】特開2006-305565(JP,A)
【文献】特開平11-349917(JP,A)
【文献】特開2004-041831(JP,A)
【文献】特開2019-104833(JP,A)
【文献】特開2007-262350(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B 1/00-3/18
7/00-11/10
B05D 1/00-7/26
B65D 3/00-83/00
83/08-83/76
C09D 1/00-10/00
101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成物と、該記組成物を収容するための収容部と、該収容部に収容されている前記組成物を噴射する噴射口とを備える噴射装置であって、
前記組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物であり、
物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含
み、
前記セルロースナノファイバー(A)が、前記組成物の全量(100質量%)に対して、0.7質量%以上、10質量%以下含まれ、
前記組成物中の界面活性剤の含有量が、セルロースナノファイバー(A)の全量100質量部に対して、1質量部未満である、噴射装置。
【請求項2】
液体分散媒(B)が水性溶媒を含む、請求項1に記載の噴射装置。
【請求項3】
前記組成物中の固形分率が、当該組成物の全量に対して、80~100質量%であり、前記固形分率は、テトロンメッシュ(#200メッシュ)上に前記組成物10[g]を塗布して1分間静置した後に、前記テトロンメッシュから落下した液体の質量w[g]を測定し、下記式から算出される値である、請求項1又は2に記載の噴射装置。
固形分率[質量%]=100-(w[g]/10[g]×100)
【請求項4】
前記噴射口から噴射される前の、前記組成物の23℃、50rpmにおける粘度が、500~20,000mPa・sである、請求項1~3のいずれか1項に記載の噴射装置。
【請求項5】
前記噴射口から噴射される前の、前記組成物の23℃でのTI値(回転数5rpmにおける粘度/回転数50rpmにおける粘度)が、1.2~20である、請求項1~4のいずれか1項に記載の噴射装置。
【請求項6】
前記物質内包カプセル(X)の平均粒子径が1~60μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載の噴射装置。
【請求項7】
組成物の噴射方法であって、
前記組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物であり、
物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含むものであり、
前記セルロースナノファイバー(A)が、前記組成物の全量(100質量%)に対して、0.7質量%以上、10質量%以下含まれ、
前記組成物中の界面活性剤の含有量が、セルロースナノファイバー(A)の全量100質量部に対して、1質量部未満であり、
前記組成物を加圧して噴射口から噴射する、組成物の噴射方法。
【請求項8】
噴射装置の噴射口から噴射される、噴射用の組成物であって、
前記組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物であり、
物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含み、
前記セルロースナノファイバー(A)が、前記組成物の全量(100質量%)に対して、0.7質量%以上、10質量%以下含まれ、
前記組成物中の界面活性剤の含有量が、セルロースナノファイバー(A)の全量100質量部に対して、1質量部未満である、噴射用の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、噴射装置、組成物の噴射方法、及び、噴射用の組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
流動パラフィンやワックスなどの油分を、液だれやべたつきを生じることなく均一に噴射できる噴射装置及び噴射方法が求められている。また、これに適した組成物も求められている。
【0003】
例えば、果物等の農産物に対して、水分保持や汚れからの保護等を目的として、被覆剤を用いて植物の表面のコーティングが行われている。そして、多数の農産物を短時間で処理できるように、被覆剤を噴霧することでコーティングが行われている。
特許文献1には、溶質としてシェラック、ロジンその他の添加剤を加え、溶媒として水及びアルコ─ルを用いて溶解せしめた果実用緩速乾性ワックスが記載されている。
【0004】
特許文献2には、容器内に噴射剤と共に整髪剤組成物が充填されたエアゾールスプレーが記載されている。上記整髪剤組成物は、親水性シリカと、軽質イソパラフィン等の油分とを含んでおり、噴射物の舞い散りが少なく、付着性に優れたものであるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開昭49-117641号公報
【文献】特開2018-154571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の噴霧装置やそれに用いる組成物には、作業性、展着性、安全性等の面でまだ改善の余地があり、さらなる性能向上が求められている。例えば、特許文献1に記載される果実用緩速乾性ワックスは、手に触れるとべたつきを生じたり、噴射口から液だれを生じたりするため、作業性に問題がある。また、特許文献2に記載されるエアゾールスプレー用の整髪剤組成物には、界面活性剤やシリカが用いられているため、例えば、食品への噴霧に適しておらず、用途が限られるという問題もある。
したがって、良好な安全性及び作業性を確保しつつ目的物質を噴射することができ、噴射された組成物の展着性が良好で、しかも様々な用途に利用可能な、噴射装置、組成物の噴射方法、及び、噴射用の組成物が求められている。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、良好な安全性及び作業性を確保しつつ目的物質を噴射することができ、噴射された組成物の展着性が良好で、しかも様々な用途に利用可能な、噴射装置、組成物の噴射方法、及び、噴射用の組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、セルロースナノファイバーを含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質を含む物質内包カプセルを含む噴射用の組成物を噴射することによって、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[8]を提供するものである。
[1]組成物と、該組成物を収容するための収容部と、該収容部に収容されている前記組成物を噴射する噴射口とを備える噴射装置であって、
前記組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物であり、
物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含む、噴射装置。
[2]液体分散媒(B)が水性溶媒を含む、上記[1]に記載の噴射装置。
[3]前記組成物中の固形分率が、当該組成物の全量に対して、80~100質量%である、上記[1]又は[2]に記載の噴射装置。
[4]前記噴射口から噴射される前の、前記組成物の23℃、50rpmにおける粘度が、500~20,000mPa・sである、上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の噴射装置。
[5]前記噴射口から噴射される前の、前記組成物の23℃でのTI値(回転数5rpmにおける粘度/回転数50rpmにおける粘度)が、1.2~20である、上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の噴射装置。
[6]前記物質内包カプセル(X)の平均粒子径が1~60μmである、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の噴射装置。
[7]組成物の噴射方法であって、
前記組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物であり、
物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含むものであり、
前記組成物を加圧して噴射口から噴射する、組成物の噴射方法。
[8]噴射装置の噴射口から噴射される、噴射用の組成物であって、
前記組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物であり、
物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含む、噴射用の組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、良好な安全性及び作業性を確保しつつ目的物質を噴射することができ、噴射された組成物の展着性が良好で、しかも様々な用途に利用可能な、噴射装置、組成物の噴射方法、及び、噴射用の組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の実施形態に係る噴射装置の構成を示す概略図である。
【
図2】噴射装置の収容部に収容される組成物の構成を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
本明細書において、「セルロースナノファイバー」を「CNF」と略することがある。
【0012】
[噴射装置]
本発明の実施態様に係る噴射装置は、組成物と、該組成物を収容するための収容部と、該収容部に収容されている前記組成物を噴射する噴射口とを備えている。そして、収容部に収容されている組成物が、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含む組成物である。更に、物質内包カプセル(X)が、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含んでいる。物質(C)は噴射対象物に供給されるべき目的物質である。以下、図面を用いて噴射装置の具体例を説明する。なお、以下の説明において、収容部に収容され噴射に供される組成物を「噴射用組成物」ということがある。
【0013】
図1は、本発明の一態様の噴射装置の構成を示す概略図である。
図1に示すように、噴射装置20は、組成物10と、組成物10を収容する収容部21と、トリガー26及びチューブ27を備えるトリガー式噴霧器23と、収容部21をトリガー式噴霧器23に接続するためのキャップ22と、を備える携帯型の噴射装置である。理解を容易にするため、収容部21内に収容されている組成物10とチューブ27とを、収容部21を通して透視した状態で示している。組成物10は薄く着色して示し、チューブ27は破線で示している。
トリガー式噴霧器23は、噴射口25を備えるノズル24と、図示しないポンプ機構とを備えている。ポンプ機構は従来公知のものであり、本明細書では詳細な説明を省略する。
【0014】
噴射装置20の使用者が、収容部21やキャップ22とトリガー26とを片手で持ち、トリガー26を強く握って収容部21側へ傾かせると、トリガー式噴霧器23内のポンプ機構が作動し、チューブ27から組成物10が吸い上げられ、ノズル24の噴射口25から加圧されて組成物10が噴射される。
噴射口25は、組成物10を液状に噴射するものでもよいし、組成物10を霧状に噴射(噴霧)するものでもよい。両者を切り替えられるようにした噴射口であってもよい。
なお、
図1に示す噴射装置20は、トリガー式噴霧器を備えたものであるが、ボタンを押下することによって組成物を噴射する、プッシュ式噴霧器を備えた噴射装置であってもよい。また、容器内に噴射剤としての圧縮ガスを封入し、細管と噴射口との間に設けた弁を開放することで、ガスの圧力によって組成物を加圧して噴射するタイプの噴射装置でもよい。更に、組成物に細管を立てて、その上部に高速で気体を吹き付けることで、ベンチュリ効果による負圧を発生させて細管から吸い上げられた組成物を上記気体によって押圧して霧状に噴射するタイプの噴射装置であってもよい。
また、
図1に示すような携帯型のものに限らず、施設に設置されて、大面積や、同時に複数の物品に対して組成物を散布し得る大型の噴射装置であってもよい。
【0015】
図2は、噴射用組成物の一例を示す断面模式図である。
図2に示す噴射用組成物10は、物質内包カプセル(X)及び液体分散媒(B)を含有する。物質内包カプセル(X)は、CNF(A)を含む外殻2から構成されている。噴射用組成物の詳細については後述する。
【0016】
[組成物の噴射方法]
本発明の一実施形態に係る組成物の噴射方法においては、上述したように、ポンプの吸引力、圧縮ガスの押圧力、チューブの上部に発生させた負圧等によって、チューブから組成物が吸い上げられ、噴射口から噴射されることにより、組成物が噴射対象物に供給される。
後述するように、噴射用組成物はチキソ性を有しており、静止状態では高粘度で全体の形状を塊状に保ち得るものである。しかし、剪断応力を噴射用組成物に加えることにより、噴射用組成物の粘度が急激に低下するので、流動性の高い液体と同様に、噴射口から問題なく噴射用組成物を噴射することができる。
また、噴射装置の噴射口の口径を、噴射用組成物に含まれる物質内包カプセルが通過できる大きさ以上としておくことにより、物質内包カプセルが形状を維持したまま、噴射用組成物が噴射口から吐出されて対象物へと供給される。
更に、後述する噴射用組成物は、噴射口の径や形状が、噴射用組成物を液状に噴射する噴射装置、及び、噴射用組成物を霧状に噴射する噴射装置(以下、噴霧装置ということがある)のどちらにも対応できる。つまり、噴射用組成物を霧状に吐出させることもできるし、液状に吐出させることもできる。
【0017】
噴射対象物に特に制限はなく、様々な種類の物体が噴射対象物となり得る。噴射対象物は、例えば、植物、動物、人体等の生物、生鮮食品、加工食品、毛髪、皮革、木材、石材等の天然素材やその加工品、衣服、家屋、車、工業製品、日用品、家具等の工業製品である。噴射用組成物は噴射対象物の様々な部位に噴射することができ、噴射対象物全体に噴射してもよいし、特定の部位のみに噴射してもよい。例えば、噴射用組成物が植物に供給される場合、噴射用組成物が供給される植物の部位に特に制限はなく、果実、葉、茎、花など様々な部位に適用できる。また、噴射用組成物が植物である場合、当該植物は果物や野菜など食用のものであってもよいし、観葉植物であってもよい。
【0018】
図3は、噴射装置20を傾けたときの様子を示す図である。本実施形態に係る噴射用組成物は適度なチキソ性を有しているため、
図3に示すように噴射装置20を傾けても、噴射用組成物10の全体形状は塊状に保たれ得る。したがって、噴射装置20の姿勢が変化しても、噴射用組成物10の噴射を安定させやすい。また、収容部21内の噴射用組成物10の残量が少ない場合も、噴射用組成物10の噴射が途切れにくい。
また、噴射用組成物を噴霧する場合、噴射用組成物が適度なチキソ性を有するので、噴霧に最適なレオロジーが得られる。したがって、噴射用組成物が噴霧口から垂れることが防止される。また、噴霧後に対象物から噴射用組成物が落下してしまうことも抑制できる。また、CNF(A)が存在しないオイルミストには着火性の問題があるが、上記噴射用組成物においては、物質(C)を内包したカプセルの周囲が液体分散媒(B)で覆われている。このため、液体分散媒(B)として水性溶媒を含むものを使用すれば、物質(C)として油分を用いていても、噴射用組成物を噴霧した場合も着火性が低く、安全に噴射することができる。
外殻で囲まれた空間に物質(C)を内包する物質内包カプセル(X)は液体分散媒(B)に分散しているので、物質内包カプセル(X)を噴射対象物の表面に均一に配置させやすい。
なお、噴射用組成物を噴射対象物に供給した時点では、物質内包カプセル(X)が液体分散媒(B)と共に噴射対象物の表面に存在する。
【0019】
液体分散媒(B)として、例えば水などの、揮発させやすい物質を用いる場合、自然乾燥や乾燥機による乾燥などによって、液体分散媒(B)が蒸発していくと、液体分散媒(B)が少なくなった部位等から物質内包カプセル(X)が開裂する。そして、開裂部から物質(C)が物質内包カプセル(X)の外部へ流出すると共に、外殻が崩壊してゆく。
そして、最終的に、外殻を構成していたCNF(A)が解けて、噴射対象物の表面を覆うように膜状に広がり、物質(C)が更にそれを覆うように広がる。液体分散媒(B)は蒸発してほぼ消失する。
こうして、噴射用組成物に含まれる物質内包カプセル(X)は、噴射対象物の表面に供給された後、液体分散媒(B)の蒸発と共に、物質(C)を外部へ放出し、それ自身を構成していたCNF(A)と物質(C)とで噴射対象物の表面を覆う。このため、例えば物質(C)として油分を用いている場合は、一般的なワックスの塗布と同様に、外部からの水気、日光、汚れ等からの噴射対象物の保護、噴射対象物からの水分の気化を抑制することによる保湿性や鮮度の維持、及び、断熱効果による冷害の防止等の効果が得られる。加えて、CNFが膜状に噴射対象物の表面を覆うことにより、噴射対象物が植物や衣服である場合において、虫害の予防にも寄与し得る。
植物に対して噴射用組成物を供給する場合、植物への噴射用組成物の供給は、植物の育成中に行ってもよいし、収穫後のものに行ってもよい。CNF(A)によって植物の表面に形成される膜はポーラスであると考えられ、植物の呼吸を阻害しにくい。このため、収穫前の植物にあってはその育成を妨げにくく、収穫後の植物においてはその鮮度を保ちやすくなる。
【0020】
また、携帯型の噴射装置によって、作業者が噴射用組成物を噴射する作業を行う場合、噴射用組成物が作業者の手や体に触れてしまうことがある。この場合、液体分散媒が乾燥して物質内包カプセル(X)が開裂する前に手や体を洗浄することにより、物質(C)が手や体に直接付着する前に噴射用組成物を取り除くことができるため、べたつきを生じにくい。
更に、後述するように噴射用組成物は、界面活性剤を含まないようにすることができる。したがって、噴射用組成物が泡立つのを抑制することができ、泡立ちによる噴射の途切れを低減することができる。
【0021】
なお、物質(C)にCNF(A)を添加して撹拌するだけでは、エマルションが形成されない。したがって、そのような混合物を用いても、物質(C)及びCNF(A)を噴射対象物の表面に適切に散布することができない。したがって、噴射対象物の保護や保湿等が不十分になりやすく、また、噴射対象物が植物や衣服である場合における虫害の防止効果も不十分になりやすい。
【0022】
[噴射用組成物]
本発明の実施形態に係る噴射用組成物は、噴射対象物の表面に供給される噴射用組成物であって、物質内包カプセル(X)と液体分散媒(B)とを含み、物質内包カプセル(X)が、CNF(A)を含む外殻、及び、当該外殻で囲まれた空間に内包される固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質(C)を含む。以下、CNF(A)、液体分散媒(B)及び物質(C)をまとめて、成分(A)~(C)と称することがある。
【0023】
上述したように、噴射用組成物は、物質内包カプセル(X)及び液体分散媒(B)を含有する。そして、物質内包カプセル(X)は、CNF(A)を含む外殻から構成されている。
本発明の実施形態に係る噴射用組成物において、物質(C)の少なくとも一部は、CNF(A)を含む外殻に内包されている。
ここで、「物質(C)がCNF(A)を含む外殻に内包されている状態」とは、CNF(A)を含む外殻が中空粒子を形成しており、当該中空粒子の中空部分に物質(C)が取り込まれた状態を意味する。この際、中空粒子を構成する外殻によって、物質(C)は、中空粒子の外側とは隔てられた状態となっている。このCNF(A)を含む外殻により物質(C)が内包されたものを物質内包カプセル(X)と呼ぶ。
【0024】
本発明の一態様の噴射用組成物において、物質内包カプセル(X)は、物質(C)を内包しつつ、且つ、物質内包カプセル(X)の外殻を構成するCNF(A)が、物質(C)を吸着している状態であってもよい。本明細書において、「CNF(A)によって構成される外殻が物質(C)を吸着する」とは、CNF(A)によって構成される外殻の網目構造内に物質(C)が存在することを意味する。
【0025】
物質内包カプセル(X)の外殻に含まれるCNF(A)は、パルプ等の一般的なセルロース原繊維に比べて、微細な構造を有しているため、単位質量当たりの表面積が大きく、結果として、CNF(A)の表面に引きつけられる物質(C)の量も多くなる。
更に、CNF(A)は、複数の繊維が互いに絡み合って外殻を形成するため、CNF(A)によって構成される外殻の網目構造内に物質(C)を取り込んだ状態(つまり、物質(C)を吸着した状態)を保ち易い。
そのため、物質内包カプセル(X)の形成時及び形成からしばらくの間は、意図的に一定の圧力を負荷しない限り、物質(C)の当該物質内包カプセルへの取り込み(すなわち、外殻の網目構造内、及び、外殻より内側の空間に物質(C)が存在する状態)が保たれ、物質(C)が外部へ放出され難くなる。また、物質内包カプセル(X)の存在により、物質(C)が噴射用組成物中に沈降することが抑制され、噴射用組成物の保存安定性が良好に保たれる。
【0026】
なお、本発明の一態様の噴射用組成物において、物質内包カプセル(X)に取り込まれない物質(C)が存在していてもよい。
また、物質内包カプセル(X)には、物質(C)と共に、液体分散媒(B)が取り込まれていてもよい。
更に、物質内包カプセル(X)には、空気等の気体も取り込まれていてもよい。物質内包カプセル(X)の形成時の撹拌工程にて、噴射用組成物中には空気等の気体が混入するが、物質内包カプセル(X)を構成する外殻の内部に、空気等の気体が取り込まれることも考えられる。
【0027】
ところで、液体分散媒(B)が水性溶媒を含む場合、CNF(A)は、液体分散媒(B)と水素結合を形成するため、液体分散媒(B)との親和性が高い性質を有する。
そのため、物質内包カプセル(X)のCNF(A)を含む外殻は、液体分散媒(B)を吸着した状態であってもよい。つまり、物質内包カプセル(X)は、物質(C)を内包し、あるいは加えて外殻に物質(C)を吸着しつつ、且つ、液体分散媒(B)が外殻に保持された状態であってもよい。
【0028】
本発明の噴射用組成物中において、物質(C)が物質内包カプセル(X)に取り込まれる量が多くなるほど、物質内包カプセル(X)とは分離して存在する物質(C)の量は少なくなる。
また、液体分散媒(B)が水性溶媒を含む場合、CNF(A)を含む外殻を備える物質内包カプセル(X)や、物質内包カプセル(X)を形成しておらず液体分散媒(B)に分散しているCNF(A)が、液体分散媒(B)に含まれる水分子と多く相互作用する程、液体分散媒を保持するため、CNF(A)とは分離して存在する液体分散媒(B)から構成される液体の量は少なくなると考えられる。そのため、当該噴射用組成物中の固形分率は、多いほど好ましい。
本発明の一態様の噴射用組成物中の固形分率としては、当該噴射用組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは80~100質量%、より好ましくは90~100質量%、更に好ましくは95~100質量%、より更に好ましくは98~100質量%である。
【0029】
本明細書において、噴射用組成物中の「固形分率」とは、テトロンメッシュ(#200メッシュ)上に噴射用組成物を塗布して静置した後に、テトロンメッシュ上に残存している固形分の割合を指し、具体的には、実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
なお、上述のテトロンメッシュ上に残存している固形分には、CNF(A)だけでなく、物質内包カプセル(X)に取り込まれた物質(C)、物質内包カプセル(X)の外殻に保持された液体分散媒(B)、及び、物質内包カプセル(X)の外殻の形成には関与していないCNF(A)に保持された液体分散媒(B)等の質量も含まれる。
【0030】
本発明の一態様において、噴射用組成物に含まれる物質内包カプセル(X)の平均粒子径は、噴射用組成物中で物質内包カプセル(X)同士の凝集を抑制する観点から、好ましくは1μm以上、より好ましくは5μm以上、更に好ましくは7μm以上、より更に好ましくは10μm以上、特に好ましくは15μm以上であり、また、噴射対象物の表面に対して均一に供給する観点から、好ましくは60μm以下、より好ましくは50μm以下、更に好ましくは40μm以下、より更に好ましくは35μm以下、特に好ましくは30μm以下である。
物質内包カプセル(X)の平均粒子径が1μm以上であれば、噴射用組成物中で、物質内包カプセル(X)が互いに凝集しづらくなり、均一に噴射対象物へ供給しやすくなる。
また、物質内包カプセル(X)の平均粒子径が60μm以下であると、噴射用組成物中で物質内包カプセル(X)が密に噴射対象物に供給されるため、噴射対象物の表面をより均一に被覆しやすくなる。
【0031】
本発明の噴射用組成物に含まれる物質内包カプセル(X)の平均粒子径に対する標準偏差は、好ましくは25μm以下、より好ましくは20μm以下、更に好ましくは15μm以下であり、また、通常1μm以上である。
物質内包カプセル(X)の平均粒子径に対する標準偏差が25μm以下であれば、物質内包カプセル(X)ごとの取り込まれている有機溶剤の量の違いが大きくなりすぎず、均一に噴射対象物へ供給しやすくなる。
【0032】
上述の構成を有する噴射用組成物は、CNF(A)の存在によって、噴射用組成物に適度なチキソ性が付与される。このため、噴射用組成物が展着性を有することになり、噴射対象物の表面に付着させやすくなる。
また、噴射用組成物を噴射対象物の表面に供給した後、物質内包カプセルが開裂し、内包されていた物質及びCNFが噴射対象物の表面に膜状に広がることによって、例えば物質(C)として油分を用いている場合は、上述したように、噴射対象物の保護、保湿性や鮮度の維持、及び、断熱等の効果が得られる。加えて、CNFが膜状に噴射対象物の表面を覆うことにより、噴射対象物に対する虫害の予防にも寄与し得る。
更に、CNF(A)によって形成される膜はポーラスであると考えらえるため、噴射対象物が植物である場合は、植物の呼吸を阻害しにくい。
更に、CNF(A)自体が人体に対して安全な物質であり、液体分散媒(B)や物質(C)も安全なものを選択できるので、噴射用組成物全体を安全なものとしやすい。したがって、収穫前の生育段階の植物に散布したり、食品に散布したりすることもできる。
また、CNF(A)は親水基と疎水性部位とを有する両親媒性材料であることから、界面活性剤の役割を果たす。このため、濡れ広がりやすさが確保され、噴射用組成物に拡展性を与えることができる。
【0033】
なお、本明細書において、物質内包カプセル(X)の平均粒子径、及び、平均粒子径に対する標準偏差は、対象となる噴射用組成物を、デジタル顕微鏡を用いて倍率500~1,000倍にて観察した際に取得した画像から算出することができる。
つまり、当該画像に写し出された粒子のうち、任意に選択した36個の粒子の粒径(物質内包カプセル(X)を構成する外殻の外径)の平均値を上記の「平均粒子径」とすることができる。また、36個の各粒子の粒径の値から、「平均粒子径に対する標準偏差」も算出することができる。上記標準偏差は母集団の標準偏差であり、上記計算においては、36個の粒径の値の全てを対象として標準偏差を算出する。
【0034】
本発明の一態様の噴射用組成物の、噴射口から噴射される前の、23℃、回転数50rpmにおける粘度は、貯蔵安定性を良好とし、容器内に保存した際に沈降を抑制する観点から、好ましくは500mPa・s以上、より好ましくは1,000mPa・s以上、更に好ましくは1,200mPa・s以上であり、また、撹拌容易性及び容器からの取り出し性を良好とする観点から、好ましくは20,000mPa・s以下、より好ましくは15,000mPa・s以下、更に好ましくは12,000mPa・s以下である。
【0035】
また、本発明の一態様の噴射用組成物の23℃でのTI値(回転数5rpmにおける粘度/回転数50rpmにおける粘度)は、貯蔵安定性を良好とし、容器内に保存した際に沈降を抑制する観点から、好ましくは1.2以上、より好ましくは2以上、更に好ましくは3以上、より更に好ましくは4以上であり、また、容器からの取り出し性を良好とする観点から、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下、より更に好ましくは8以下である。
また、本明細書において、噴射用組成物の粘度は、JIS Z 8803:2011に準拠して、B型粘度計を用いて測定した値を意味する。
【0036】
本発明の一態様の噴射用組成物のpHは、形成される粒子が安定し、噴射用組成物中で分散状態を維持し易いという観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは8以下である。
なお、本明細書において、噴射用組成物のpHは、23℃、相対湿度50%の環境下にて、実施例に記載の方法に基づき測定した値を意味する。
【0037】
本発明の一態様の噴射用組成物は、CNF(A)、液体分散媒(B)及び物質(C)以外の成分を含有してもよい。
ただし、本発明の一態様の噴射用組成物において、CNF(A)、液体分散媒(B)及び物質(C)の合計含有量は、前記噴射用組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは60~100質量%、より好ましくは65~100質量%、更に好ましくは70~100質量%、より更に好ましくは80~100質量%である。
【0038】
本発明の一態様の噴射用組成物の有効成分濃度としては、前記噴射用組成物の全量(100質量%)に対して、本発明の効果を発揮させやすくする観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは0.7質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.5質量%以上であり、また、容易に噴射できるようにする観点から、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下、より更に好ましくは20質量%以下である。
なお、本明細書において、「有効成分」とは、噴射用組成物に含まれる成分のうち、液体分散媒(B)を除いた成分を意味し、具体的には、CNF(A)、物質(C)、CNF(A)以外の多糖類、及び各種添加剤等を指す。つまり、CNF(A)に取り込まれた液体分散媒(B)の質量は含まれない点で、上述の「固形分率」とは異なる。
【0039】
CNF(A)を含む外殻を備え、物質(C)を取り込んでいる物質内包カプセル(X)は、配合するCNF(A)の形状(直径、繊維長、アスペクト比)、成分(A)~(C)のそれぞれの配合量、CNF(A)と物質(C)との配合量比、液体分散媒(B)と物質(C)との配合量比、並びに物質(C)の種類等を適宜調整することで、形成し易くすることができる。
次に、噴射用組成物を構成する各成分の詳細について説明する。
【0040】
<セルロースナノファイバー(A)>
本発明の一態様で用いるCNF(A)の原料としては、例えば、木材由来のクラフトパルプ又はサルファイトパルプ;クラフトパルプ又はサルファイトパルプを高圧ホモジナイザーやミル等で粉砕した粉末セルロース;粉末セルロースを酸加水分解などの化学処理により精製した微結晶セルロース粉末;コウゾ、雁皮、三椏等の靭皮繊維パルプ;コットンパルプ、ケナフ、麻、イネ、バカス、竹等の植物由来のセルロース系原料;等のセルロース系原料が挙げられる。
【0041】
なお、これらの原料中にリグニンが多く残留してしまうと、当該原料の酸化反応を阻害するおそれがあるため、これらの原料に対して、リグニンの除去を施した、セルロース系原料が好ましい。
また、上述のセルロース系原料を高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式などの分散装置、湿式の高圧または超高圧ホモジナイザー等で微細化したものを使用することもできる。
【0042】
また、これらのセルロース系原料は、化学修飾及び/又は物理修飾して機能性を高めたものであってもよい。ここで、化学修飾としては、アセチル化、カルボキシ化、カルボキシナトリウム化、エステル化、シアノエチル化、アセタール化、エーテル化、アリール化、アルキル化、アクリロイル化、イソシアネート化等によって官能基を付加させること、及び、シリケートやチタネート等の無機物を化学反応やゾルゲル法等によって複合化や被覆化させること等が挙げられる。
また、物理修飾としては、金属やセラミック原料を、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD法)、化学蒸着法(CVD法)、無電解メッキや電解メッキ等のメッキ法等によって表面被覆させることが挙げられる。
なお、これらの変性処理は、セルロース系原料を解繊時もしくは解繊する前後のいずれに行ってもよい。
【0043】
上述のセルロース系原料は、解繊してナノファイバー化することで、CNFとすることができる。
具体的な方法としては、セルロース系原料が水等の分散媒に分散している分散液を調製した後、セルロース系原料にせん断力を印加することで、CNFを含む分散液とすることができる。
セルロース系原料にせん断力を印加する方法としては、水等の分散媒にセルロース系原料を添加した後、高速回転式、コロイドミル式、高圧式、ロールミル式、超音波式等の装置を用いて調製することが好ましい。
この際、分散液にかかる圧力としては、好ましくは50MPa以上、より好ましくは100MPa以上、更に好ましくは140MPa以上である。
このような高圧下で、セルロース系原料に強力なせん断力を印加する観点から、高圧式の装置を用いてせん断力を印加することが好ましく、湿式の高圧又は超高圧ホモジナイザーを用いることが好ましい。
【0044】
本発明の一態様で用いる、CNF(A)の直径(太さ)の平均としては、形状及び大きさのばらつきが小さい物質内包カプセル(X)を形成し易くすると共に、形成された物質内包カプセル(X)の膜強度を向上させる観点から、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.5nm以上、更に好ましくは2.0nm以上、より更に好ましくは2.5nm以上であり、また、また、好ましくは1,000nm以下、より好ましくは500nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは100nm以下である。
【0045】
本発明の一態様で用いる、CNF(A)の繊維長の平均としては、物質内包カプセル(X)を形成し易くすると共に、形成された物質内包カプセル(X)の膜強度を向上させる観点から、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.1μm以上、更に好ましくは0.2μm以上、より更に好ましくは0.3μm以上であり、また、好ましくは10μm以下、より好ましくは7.0μm以下、更に好ましくは5.0μm以下、より更に好ましくは2.5μm以下である。
【0046】
本発明の一態様で用いる、CNF(A)の平均アスペクト比としては、物質内包カプセル(X)を形成し易くすると共に、形成された物質内包カプセル(X)の膜強度を向上させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上であり、また、好ましくは10,000以下であり、より好ましくは5,000以下であり、更に好ましくは、3,000以下、より更に好ましくは1,000以下、特に好ましくは500以下である。
【0047】
なお、「アスペクト比」とは、対象であるCNFの太さに対する長さの割合〔長さ/太さ〕であり、CNFの「長さ」とは、当該CNFの最も離れた2点間の距離を指す。
また、対象となるCNFの一部分が、他のCNFと接触して「長さ」の認定が難しい場合には、対象のCNFのうち、太さの測定が可能な部分のみの長さを測定し、当該部分のアスペクト比が上記範囲であればよい。
【0048】
本発明の一態様の噴射用組成物において、CNF(A)の配合量は、当該噴射用組成物の全量(100質量%)に対して、形状及び大きさのばらつきが小さい物質内包カプセル(X)を形成し易くすると共に、形成された物質内包カプセル(X)の膜強度を向上させる観点から、好ましくは0.7質量%以上、より好ましくは0.8質量%以上、更に好ましくは1.0質量%以上、より更に好ましくは1.2質量%以上であり、また、物質内包カプセル(X)を形成し易くするように、噴射用組成物の粘度を適切に調整する観点から、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは7質量%以下、より更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
【0049】
<液体分散媒(B)>
本発明の一態様の噴射用組成物において、液体分散媒(B)は、そのほとんどが、物質内包カプセル(X)が備える外殻に吸着されているか、又は、物質内包カプセル(X)の外側に存在している。
ただし、液体分散媒(B)の一部が、物質内包カプセル(X)の内部で物質(C)と共に内包されていてもよい。
液体分散媒としては、水や有機溶媒を用いることができる。特に、CNF(A)との親和性の観点から水性分散媒が好ましい。具体的には、水、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ジエチレングリコール、グリセリン、ピロリドン系溶媒、及び、これらのうち2つ以上の混合物等が挙げられる。特に、物質内包カプセル(X)の分散性がよいことから、水が好ましい。
なお、後述するように、物質(C)として、水や水性溶媒を用いる場合は、液体分散媒(B)として、水や水性溶媒と相溶しにくい有機溶剤を用いることも可能である。
いずれにしても、液体分散媒(B)及び物質(C)は、液体分散媒(B)に物質(C)を混ぜた際に、物質(C)とは独立した相を形成し、かつ、撹拌することで一時的に乳化状態をとり得る組合せとすることが好ましい。この組み合わせとすることで、界面活性剤等の分散剤を用いることなく、CNFを含む外殻を備える粒子を生成させることができる。
【0050】
本発明の一態様の噴射用組成物において、適度な粘度を有する噴射用組成物を調製すると共に、形状及び大きさのばらつきが小さい物質内包カプセル(X)を形成し易くする観点から、液体分散媒(B)の配合量は、当該噴射用組成物の全量(100質量%)に対して、好ましくは15質量%以上、より好ましくは30質量%以上、更に好ましくは50質量%以上、より更に好ましくは60質量%以上であり、また、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98.7質量%以下、更に好ましくは98.5質量%以下である。
【0051】
本発明の一態様の噴射用組成物において、適度な粘度を有する噴射用組成物を調製すると共に、CNF(A)の凝集を抑え、形状及び大きさのばらつきが小さい物質内包カプセル(X)を形成し易くする観点から、CNF(A)100質量部に対する、液体分散媒(B)の配合割合としては、好ましくは500質量部以上、より好ましくは1,000質量部以上、更に好ましくは2,000質量部以上、より更に好ましくは3,000質量部以上であり、また、好ましくは20,000質量部以下、より好ましくは15,000質量部以下、更に好ましくは10,000質量部以下である。
【0052】
なお、本発明の一態様の噴射用組成物は、CNF(A)及び液体分散媒(B)を含む分散液に物質(C)を配合して調製される。
予め、前記分散液を調製した後、物質(C)を配合することで、CNF(A)が物質(C)を取り込み易くなり、形状及び大きさのばらつきが小さい物質内包カプセル(X)を形成され易くなる。
当該分散液は、CNF(A)と液体分散媒(B)との配合量比が上記範囲となるように、各成分を配合して調製することが好ましい。
また、当該分散液には、CNF(A)及び液体分散媒(B)と共に、成分(A)~(C)以外の他の成分を含有してもよい。
【0053】
<物質(C)>
本発明の一態様で用いる物質(C)は、セルロースナノファイバー(A)を含む外殻で囲まれた空間内に、固体及び液体の少なくとも一方の状態で存在する物質であり、噴射用組成物の用途や噴射対象物の種類等に応じて適宜選択することができる。上述したように、物質(C)は噴射対象物に供給されるべき目的物質であり、例えば、噴射対象物を外部環境から保護したり、噴射対象物から水分等の発散を抑制したりするための主たる成分として噴射対象物に供給される。物質(C)は、例えば、油分や有機溶剤を含む。物質(C)が油分であると、噴射対象物上で油分がCNF(A)とともに膜状に広がり、噴射対象物の表面を覆うように噴射対象物に付着させることができ、噴射対象物の外部環境からの保護や、噴射対象物からの水分等の発散の抑制をさせやすいため、特に好ましい。
有機溶剤としては、ヘプタン、n-ヘキサデカン、トルエン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン、n-ドデカン、テトラヒドロフラン、キシレン、酢酸ブチル、シクロヘキサン、1,4-ジオキサン、スチレン、ノルマルヘキサン、ガソリン、テレビン油、フェノール等が挙げられる。
なお、有機溶剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用した混合溶剤としてもよい。
油分としては、例えば、炭化水素系油性成分、天然動植物油脂類、半合成油脂類、潤滑油及び潤滑剤組成物が挙げられる。
炭化水素系油性成分としては、流動パラフィン、軽質流動イソパラフィン、重質流動イソパラフィン、ワセリン、n-パラフィン、イソパラフィン、イソドデカン、イソヘキサデカン、ポリイソブチレン、水素化ポリイソブチレン、ポリブテン、オゾケライト、セレシン、マイクロクリスタリンワックス、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ポリエチレン・ポリピロピレンワックス、スクワラン、スクワレン、プリスタン、ポリイソプレン、ロウ等が例示される。
天然動植物油脂類及び半合成油脂類としては、アボガド油、アマニ油、アーモンド油、イボタロウ、エノ油、オリーブ油、カカオ脂、カポックロウ、カヤ油、カルナウバロウ、肝油、キャンデリラロウ、牛脂、牛脚脂、牛骨脂、硬化牛脂、キョウニン油、鯨ロウ、硬化油、小麦胚芽油、ゴマ油、コメ胚芽油、コメヌカ油、サトウキビロウ、サザンカ油、サフラワー油、シアバター、シナギリ油、シナモン油、ジョジョバロウ、オリーブスクワラン、セラック樹脂、タートル油、大豆油、茶実油、ツバキ油、月見草油、トウモロコシ油、豚脂、ナタネ油、日本キリ油、ヌカロウ、胚芽油、馬脂、パーシック油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油、ヒマシ油脂肪酸メチルエステル、ヒマワリ油、ブドウ油、ベイベリーロウ、ホホバ油、水添ホホバエステル、マカデミアナッツ油、ミツロウ、ミンク油、綿実油、綿ロウ、モクロウ、モクロウ核油、モンタンロウ、ヤシ油、硬化ヤシ油、トリヤシ油脂肪酸グリセライド、羊脂、落花生油、ラノリン、液状ラノリン、還元ラノリン、ラノリンアルコール、硬質ラノリン、酢酸ラノリン、ラノリン脂肪酸イソプロピル、POE(ポリオキシエチレン)ラノリンアルコールエーテル、POEラノリンアルコールアセテート、ラノリン脂肪酸ポリエチレングリコール、POE水素添加ラノリンアルコールエーテル、卵黄油等が挙げられる。
セラック樹脂は、ラックカイガラ虫の体を覆っている樹脂状の分泌物質を原料として、ソーダー法等の公知の溶液抽出法等により精製した樹脂成分である。
この精製後の樹脂成分の主成分は、アレウリチン酸等の直鎖状樹脂酸と、ジャラール酸、ラクシジャラール酸、及びこれらの誘導体等のセスキテルペン系樹脂酸とのエステル化合物である。
使用できるセラック樹脂としては、例えば、精製セラック樹脂、漂白セラック樹脂、脱色セラック樹脂等が挙げられる。
【0054】
潤滑油としては、エンジン油、駆動系油、油圧作動油、タービン油、圧縮機油、工作機械用潤滑油、切削油、歯車油、流体軸受け油、転がり軸受け油等に用いられる、潤滑剤組成物に用いられるベースオイル(基油)を用いることができる。
基油としては、原油から得られる鉱物油、化学合成されるエステル系油、フッ素油、ポリαオレフィン系油、これらの混合物などが挙げられる。
潤滑剤組成物としては、上記基油又はそれらの混合物と、流動点降下剤、粘度指数向上剤、金属系清浄剤、分散剤、耐摩耗剤、極圧剤、酸化防止剤、消泡剤、摩擦調整剤、防錆剤、金属不活性化剤等の各種の添加剤とを含むものが挙げられる。エンジン油として市販されている潤滑剤組成物を用いることもできる。
油分は、単独で用いてもよいし、複数種類を併用してもよい。また、常温で固体の油分を常温で液体の油分に溶解したものを用いてもよい。また、上述した有機溶剤に油分を溶解したものを物質(C)として用いてもよい。なお、本明細書においては、有機溶剤に油分が溶解されている場合、その溶液全体を油分という。
【0055】
物質(C)として、水性溶媒や親水性物質を用いることも可能である。水性溶媒としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、ジエチレングリコール、グリセリン、ピロリドン系溶媒等が挙げられる。親水性物質としては、ポリビニルピロリドン(PVP)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルブチラール(PVB)、ポリアクリルアミド、ポリ(N-イソプロピルアミド)、でん粉、これらのうちの少なくとも1つと水との混合物、又は、これらのうち2種類以上の混合物等が挙げられる。
【0056】
物質(C)として、液体分散媒(B)の融点より高く液体分散媒(B)の沸点より低い温度の間で、液状になるものを用いることで、噴射用組成物を製造する際に、物質(C)が組成物全体に均一に分散しやすくなり、また、物質内包カプセル(X)に内包されやすくなる。したがって、物質(C)は、使用する液体分散媒(B)の融点及び沸点を考慮して選択することが好ましい。換言すれば、液体分散媒(B)は、使用する物質(C)の温度特性を考慮して、物質(C)が液状になる温度が液体分散媒(B)の融点より高く液体分散媒(B)の沸点より低い温度の間になるものを選択することが好ましい。
【0057】
物質(C)と液体分散媒(B)との含有比率は、質量比で、(C):(B)が、好ましくは1:0.1~1:1,000、より好ましくは1:1~1:500、更に好ましくは1:2.5~1:100、特に好ましくは1:4~1:50である。換言すれば、質量比で、(B)/(C)が、好ましくは0.1以上、より好ましくは1以上、更に好ましくは2.5以上、特に好ましくは4以上であり、また、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下、更に好ましくは100以下、特に好ましくは50以下である。(C):(B)又は(B)/(C)が上記範囲にあると、水分が比較的少ないので乾きやすく、乾くとCNF(A)や物質(C)が膜状に広がりやすい。
【0058】
噴射用組成物の全質量に対する物質(C)の含有量は、好ましくは0.05質量%、より好ましくは0.1質量%以上であり、更に好ましくは1.0質量%以上であり、また、好ましくは80質量%以下、より好ましくは50質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。物質(C)の含有量が上記範囲にあると噴射対象物の被覆面積、被覆量が多くなるので、保湿、防汚などの効果が発現しやすい。
【0059】
<成分(A)~(C)以外の他の成分>
本発明の一態様の噴射用組成物において、本発明の効果を損なわない範囲で、成分(A)~(C)以外の他の成分を含有してもよい。
このような他の成分としては、前記噴射用組成物の用途に応じて適宜選択されるが、例えば、着色剤、酸化防止剤、pH調整剤、甘味料、香料、防腐剤、紫外線吸収剤、重合禁止剤、防菌剤、殺虫剤、消泡剤、気泡剤、凝集剤、増粘剤、可塑剤、改質剤、防炎剤、難燃剤等が挙げられる。
【0060】
本発明の一態様の噴射用組成物において、界面活性剤を含有してもよい。
ただし、界面活性剤を含む噴射用組成物を人体に触れる用途に使用する場合、特に、敏感肌の使用者にとって、当該界面活性剤は浸透剤及び刺激的な刺激物ともなる。また、界面活性剤を含む噴射用組成物は、当該噴射用組成物の物性の安定性に影響を与える懸念もある。
また、界面活性剤を含まないようにすることで、組成物が泡立つのを抑制することができる。
そのため、本発明一態様の噴射用組成物において、界面活性剤の含有量は少ないほど好ましい。
上記観点から、本発明の一態様の噴射用組成物において、界面活性剤の含有量は、CNF(A)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、更に好ましくは0.1質量部未満、より更に好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0.001質量部未満、最も好ましくは0質量部である。
なお、本実施形態に係る噴射用組成物においては、CNF(A)を含む外殻によって物質(C)が被覆されているため、組成物を噴霧した場合でもオイルミストが発生せず、オイルミストに起因する着火を抑制することができる。
【0061】
また、本発明の一態様の噴射用組成物において、CNF(A)以外の多糖類を含有してもよいが、物質内包カプセル(X)の熱的安定性を向上させると共に、物質内包カプセル(X)を形成し易くする観点から、当該多糖類の含有量は少ないほど好ましい。
上記観点から、本発明の一態様の噴射用組成物において、CNF(A)以外の多糖類の含有量は、CNF(A)の全量100質量部に対して、好ましくは10質量部未満、より好ましくは1質量部未満、更に好ましくは0.1質量部未満、より更に好ましくは0.01質量部未満、特に好ましくは0質量部である。
【0062】
[噴射用組成物の製造方法]
噴射用組成物の製造方法としては、特に制限はないが、下記工程(1)~(2)を有する方法が好ましい。
・工程(1):CNF(A)及び液体分散媒(B)を含む分散液を調製する工程。
・工程(2):工程(1)で得た分散液に、物質(C)を添加する工程。
なお、工程(1)及び(2)で用いる、成分(A)~(C)の詳細は、上述のとおりである。
【0063】
<工程(1)>
工程(1)は、CNF(A)及び液体分散媒(B)を含む分散液を調製する工程である。
本工程において、市販の水性分散液を用いる場合には、当該工程は省略してもよく、また、市販の水性分散液に、CNF(A)又液体分散媒(B)を加え、所望の配合量とした水性分散液に調製してもよい。
【0064】
また、成分(A)~(C)以外の他の成分を配合する場合には、工程(1)の水性分散液の調製の際に配合してもよく、工程(2)の後に配合してもよい。
【0065】
工程(1)で得られた分散液のpHは、分散液中でCNF(A)の凝集を抑え、形成される物質内包カプセル(X)の形状及び大きさのばらつきを小さくする観点から、好ましくは4以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、更に好ましくは8以下である。
【0066】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得た分散液に、物質(C)を添加する工程である。
本工程において、ホモディスパー、ミキサー、パドル翼等の撹拌翼を取り付けた撹拌装置を用いて、分散液を撹拌しながら、物質(C)を添加することが好ましい。
【0067】
分散液を撹拌する際の撹拌速度(回転数)は、CNF(A)の凝集を抑え、形成される物質内包カプセル(X)の形状及び大きさのばらつきを小さくする観点から、好ましくは500rpm以上、より好ましくは1,000rpm以上、更に好ましくは1,500rpm以上、より更に好ましくは2,000rpm以上であり、また、好ましくは5,000rpm以下、より好ましくは4,500rpm以下、より好ましくは4,000rpm以下、更に好ましくは3,500rpm以下、より更に好ましくは3,000rpm以下である。
【0068】
また、物質(C)が常温で固体の成分である固形油分を含む場合、この固形油分を常温で液体の有機材料に溶解した上で、この固形油分が溶解している有機材料を分散液に添加し、更に撹拌を行うことで、物質(C)に含まれる固形油分の少なくとも一部が、CNF(A)の外殻で囲まれる空間内に取り込まれた物質内包カプセル(X)を生成させることが好ましい。
常温で液体の有機材料としては、液体分散媒(B)の融点より高く液体分散媒(B)の沸点より低い温度の間で液体であって、固形油分を溶解できるものであれば特に制限はなく、固形油分の種類に合わせて任意の有機材料を用いることができる。常温で液体の油分を、常温で液体の有機材料として用いることもできる。この場合、物質内包カプセル(X)に内包される物質(C)の量を多くさせやすくなる。
【0069】
分散液を撹拌する際の液体分散媒(B)の温度は、使用する液体分散媒(B)の種類や、圧力等の周囲の環境条件等によっても異なるが、内包させようとする物質(C)が液体状態を保ち得る温度とすることが望ましい。例えば、液体分散媒(B)として水を用いる場合は、0℃より高く100℃以下の温度とすることが好ましい。また、CNF(A)の凝集を抑え、形成される物質内包カプセル(X)の形状及び大きさのばらつきを小さくする観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上であり、また、添加した物質(C)の揮発を抑制する観点、及び、物質(C)が均一に分散されるようにする観点から、好ましくは95℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは50℃以下であり、より更に好ましくは40℃以下である。
【0070】
物質(C)の添加方法としては、物質内包カプセル(X)の粒径を揃いやすくする観点から、一定時間ごとに一定量ずつ添加することが好ましい。
具体的には、分散液の全量100質量部に対する、10秒ごとの物質(C)の添加量としては、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは3質量部以上、より更に好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下、より更に好ましくは7質量部以下である。
【0071】
物質(C)の添加開始からの撹拌時間としては、物質内包カプセル(X)の粒径を揃いやすくする観点から、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは10分以上であり、また、好ましくは180分以下、より好ましくは120分以下、更に好ましくは60分以下、より更に好ましくは40分以下、特に好ましくは20分以下である。
【実施例】
【0072】
本発明について、以下の実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の合成例、製造例及び実施例における物性値は、以下の方法により測定した値である。
【0073】
[CNFの直径(太さ)の平均、長さの平均、平均アスペクト比]
透過型電子顕微鏡(カールツァイス社製、製品名「LEO912」)を用いて、任意に選択した10本のCNFの直径(太さ)及び長さを測定し、10本の平均値を、対象となるCNFの「直径(太さ)の平均」及び「長さの平均」とした。また、「長さの平均/直径(太さ)の平均」を平均アスペクト比とした。
【0074】
[実施例1]
噴射用組成物E1の調製に際し、下記の市販品のCNFを含む水分散液(1)と市販の流動パラフィン(1)とを使用した。
・水分散液(1):製品名「BiNFi-s AMa10002」、株式会社スギノマシン製。直径(太さ)の平均=76.8nm、長さの平均=1.4μm、平均アスペクト比=18.2である、機械処理型のCNFを2質量%含む水分散液。CNF100質量部に対して、水を4,900質量部含有するものであり、pH=7.0であった。
・流動パラフィン(1):製品名「モレスコホワイトP-350」、株式会社MORESCO製。
水分散液(1)5,000質量部(CNF100質量部)を容器に投入し、超高速マルチ撹拌システム(プライミクス株式会社製、製品名「ラボ・リューション(登録商標)」、撹拌羽:ホモディスパー(同社製、羽の直径35mm))を用いて、水分散液を、回転数3,000rpmで撹拌した。撹拌開始後、流動パラフィン(1)を、水分散液の全量100質量部に対して、10秒毎に5質量部の速さで添加した。上記水分散液5,000質量部(CNF100質量部)に対して、流動パラフィン(1)が500質量部(固形分比でCNF:流動パラフィン=1:5)となるまで流動パラフィン(1)の添加を続け、撹拌開始から20分経過後に撹拌を終了し、CNFを含む外殻を備える物質内包カプセル(X)を含む噴射用組成物E1を調製した。なお、全ての操作を常温(23℃)で行った。
噴射用組成物E1を調製するのに用いた材料や配合量を表1に示す。なお、以下で説明する各実施例及び各比較例の材料や配合量も表1に示す。
【0075】
[実施例2]
水分散液(1)に代えて、下記の市販品のCNFを含む水分散液(2)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、噴射用組成物E2を調製した。
・水分散液(2):製品名「CM化CNF 粉末品」、日本製紙株式会社製のカルボキシメチル化CNF(CM化CNF)を2質量%含むように調整した水分散液。直径(太さ)の平均=約50nm、長さの平均=約2μm、平均アスペクト比=約40であり、CNF100質量部に対して、水を4,900質量部含有するものであり、pH=7であった。
【0076】
[実施例3]
水分散液(1)に代えて、下記の市販品のCNFを含む水分散液(3)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、噴射用組成物E3を調製した。
・水分散液(3):製品名「TEMPO酸化CNF」、日本製紙株式会社製。直径(太さ)の平均=3.8nm、長さの平均=0.7μm、平均アスペクト比=184である、化学処理型のCNFを1質量%含む水分散液。CNF100質量部に対して、水を9,900質量部含有するものであり、pH=7.0であった。
【0077】
[実施例4]
物質(C)として、流動パラフィン(1)500質量部にカルナウバロウ(製品名「粉末 カルナバ蝋」、山桂産業株式会社製)100質量部を溶解したものを用いたこと以外は実施例2と同様にして、噴射用組成物E4を調製した。
【0078】
[実施例5]
物質(C)として、流動パラフィン(1)500質量部にカルナウバロウ(製品名「粉末 カルナバ蝋」、山桂産業株式会社製)500質量部を溶解したものを用いた以外は、実施例2と同様にして、噴射用組成物E5を調製した。
【0079】
[比較例1]
流動パラフィン(1)を配合しなかったこと以外は実施例1と同様にして、比較組成物CE1を調製した。
【0080】
[比較例2]
水4,900質量部を準備して比較組成物CE2とした。
【0081】
[比較例3]
流動パラフィン(1)500質量部を準備して比較組成物CE3とした。
【0082】
[比較例4]
撹拌装置を使用せず、薬匙を用いて手混ぜで各成分を混合する方法に変更した以外は実施例1と同様にして、比較組成物CE4を調製した。
【0083】
次に各実施例及び比較例で作製した組成物について下記の評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0084】
[組成物のカプセル有無]
各実施例及び比較例の組成物を、それぞれ、デジタル顕微鏡を用いて倍率500倍で観察することにより、組成物中のカプセルの有無を確認した。
【0085】
[物質内包カプセルの平均粒子径及び標準偏差]
各実施例及び比較例で調製した組成物を、デジタル顕微鏡を用いて倍率500~1,000倍にて観察した際に取得した画像において、ランダムに選択した36個の粒子の粒径(物質内包カプセル(X)を構成する外殻の外径)を測定し、それらの平均値をカプセル径の平均粒子径とした。また、上記36個の粒径の値の全てを対象として標準偏差を算出した。
【0086】
[噴射用組成物の粘度及びTI値]
JIS Z 8803:2011に準拠して、B型粘度計を用いて、23℃、回転数5rpm及び50rpmにおける各組成物の粘度を測定した。また、〔回転数5rpmにおける粘度〕/〔回転数50rpmにおける粘度〕の比をTI値とした。
【0087】
[噴射用組成物中の固形分率の測定]
上底面の直径7.2cm、下底面の直径6.8cm、高さ8cmの円錐台形のコップを用いて、コップの上底面に、一辺10cmの正方形に切断したテトロンメッシュ(#200メッシュ)を載せて、クリップでコップの淵とテトロンメッシュを固定し、測定用容器を作製した。
実施例及び比較例で調製した組成物10gを、この測定用容器のテトロンメッシュ上に薄く広げるように塗布し1分間静置した。そして、測定用容器内に落下した組成物中の液体の質量w[g]を測定し、下記式から、組成物中の固形分率を算出した。
・固形分率[質量%]=100-(w[g]/10[g]×100)
【0088】
[噴射用組成物のpH]
23℃、相対湿度50%の環境下、コンパクトpHメータ(株式会社堀場アドバンスドテクノ製、製品名「LAQUAtwin pH-22B」)を用いて、pH4.01標準液とpH6.86標準液の2点校正を行った後、平面センサ全体を覆うように試料を滴下して測定した。
【0089】
[噴霧後のカプセル有無]
各実施例及び比較例の組成物を、それぞれ、市販のフィンガースプレー容器を用いてPETフィルムに噴霧し、直後にデジタル顕微鏡を用いて倍率500倍で観察することにより、噴霧後のカプセルの有無を確認した。
【0090】
[内包物の放出]
各実施例及び比較例の組成物を、それぞれ、市販のフィンガースプレー容器を用いてPETフィルムに噴霧した後、表面をデジタル顕微鏡を用いて倍率500倍で観察することにより、水の乾燥と共に内包物が放出されるかどうかを確認した。
【0091】
【0092】
【0093】
表1、2から、実施例1~5の組成物は、物質内包カプセルを含んでおり、また、これらの組成物を含む噴射装置から噴射された組成物にも、物質内包カプセルが含まれていることが分かる。したがって、実施例1~5の組成物を収容する噴射装置を用いると、物質(C)がカプセル化された状態で噴霧されてオイルミストが生じないので着火性が抑制されることが理解できる。また、液体分散媒(B)に覆われた状態でカプセルが噴射対象物に付着するので良好な展着性が確保できることが分かる。さらに、CNF(A)の外殻で物質(C)が覆われているので、べたつきや油分に特有の液だれを生じにくいことが分かる。
また、実施例1~5の組成物を噴射装置から噴射した後、噴射対象物であるPETフィルム上で、内包されていた物質がいずれもカプセルから放出されている。よって、組成物が噴射対象物に付着した後に、内包されていた物質とCNFとが噴射対象物上で膜状に広がることが理解できる。
一方、比較例1~4の組成物にはカプセルが含まれておらず、比較例1、2については目的物質を噴射対象物に供給することができないこと、及び、比較例3、4については、良好な安全性や作業性を確保することができないことが分かる。また、比較例2~4の組成物は展着性も実施例のものより劣っていることが分かる。
【符号の説明】
【0094】
2 外殻
10 組成物
20 噴射装置
21 収容部
22 キャップ
23 トリガー式噴霧器
24 ノズル
25 噴射口
26 トリガー
27 チューブ