(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに化粧料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 21/064 20060101AFI20240201BHJP
A61K 8/19 20060101ALI20240201BHJP
A61Q 1/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C01B21/064 H
C01B21/064 M
A61K8/19
A61Q1/02
(21)【出願番号】P 2019234709
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【氏名又は名称】中塚 岳
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆貴
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-056818(JP,A)
【文献】特開2019-043792(JP,A)
【文献】国際公開第2013/065556(WO,A1)
【文献】特開平11-035308(JP,A)
【文献】特開2003-104841(JP,A)
【文献】国際公開第2021/039586(WO,A1)
【文献】米国特許第04749556(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
A61K 8/19
A61Q 1/00 ー 1/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶窒化ホウ素の一次粒子が立体的に結合した二次構造を有し、
内径90mm及び高さ120mmであるポリエチレンテレフタレート製の容器に六方晶窒化ホウ素粉末を10g収容し、ポリテトラフルオロエチレン製の4枚羽根を有する直径60mmの攪拌翼を用いて、300rpmで5分間攪拌したときの帯電量の絶対値が0.7nc/g以下である、化粧料の原料用の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項2】
前記帯電量が-0.1nc/g未満である、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末。
【請求項3】
ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、600~1300℃で焼成して、六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得る仮焼工程と、
前記仮焼物と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900~2100℃の温度で、10~50時間加熱して焼成する焼成工程と、を有する、請求項1に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項4】
前記帯電量が-0.1nc/g未満である、請求項3に記載の六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末を原料として用いて化粧料を製造する、化粧料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法、並びに化粧料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ホウ素は、潤滑性、高熱伝導性、及び絶縁性等を有しており、固体潤滑剤、離型剤、樹脂及びゴムの充填材、化粧料(化粧品ともいう)の原料、並びに耐熱性を有する絶縁性焼結体等、幅広い用途に利用されている。化粧料に配合される六方晶窒化ホウ素粉末の機能としては、化粧料への滑り性、伸び性、隠ぺい性の向上、及び、光沢性の付与等が挙げられる。特に、六方晶窒化ホウ素粉末は、同様の機能を有するタルク粉末及びマイカ粉末に比べて滑り性に優れているため、優れた滑り性が求められる化粧料に汎用されている。特許文献1では、滑り性を改善するために、せん断応力と加圧力の比を所定の数値範囲にすることが提案されている。
【0003】
ところで、粉末には摩擦等の要因によって静電気が生じる場合がある。静電気は粉末の特性に影響を及ぼすことが考えられる。そこで、微粒体等の帯電量を測定する方法として、ファラデーケージの電圧を測定して、「帯電量=静電容量×電圧」の式によって帯電量を求める技術が知られている。特許文献2では、ファラデーケージを用いた粉粒体の帯電量の測定において、帯電量を高感度に測定することが可能な測定装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-43792号公報
【文献】特開2010-210385号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
六方晶窒化フッ素粉末は、粒子同士又は容器の内壁との摩擦によって生じる静電気が凝集ダマを形成する場合がある。凝集すると流動性が低下し、滑り性及びハンドリング性が損なわれることが懸念される。そこで、本開示では、静電気による凝集を抑制することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供する。また、本開示では、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって静電気による凝集を抑制し、伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一側面に係る六方晶窒化ホウ素粉末は、内径90mm及び高さ120mmであるポリエチレンテレフタレート製の容器に六方晶窒化ホウ素粉末を10g収容し、ポリテトラフルオロエチレン製の4枚羽根を有する直径60mmの攪拌翼を用いて、300rpmで5分間攪拌したときの帯電量の絶対値が0.7nc/g以下である。六方晶窒化ホウ素粉末は、例えば、粒子同士の摩擦、及び収容容器の内壁との摩擦等の要因によって帯電する場合がある。ここで、静電気が発生して帯電量が大きくなると、静電引力によって粉体同士が凝集してしまう。しかしながら、上記六方晶窒化ホウ素粉末は、帯電量の絶対値が小さいため、粒子同士又は容器の内壁との摩擦によって発生する静電気を十分に抑制することができる。したがって、静電気による凝集を抑制することができる。
【0007】
六方晶窒化ホウ素粉末は、上記帯電量が-0.1nc/g未満であってよい。通常、セラミックス粉末は静電気を帯びると凝集しやすくなる。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、帯電量が-0.1nc/g未満であることから静電気による凝集を抑制することができる。
【0008】
上記六方晶窒化ホウ素粉末は、化粧料の原料用であってよい。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集が抑制されているため、伸び性に優れる。したがって、化粧料の原料用に好適である。
【0009】
本開示の一側面に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、600~1300℃で焼成して、六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得る仮焼工程と、仮焼物と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス、アンモニアガス又はこれらの混合ガスの雰囲気中、1900~2100℃の温度で、10~50時間加熱して焼成する焼成工程と、を有する。
【0010】
上記製造方法は、焼成工程よりも低い温度で焼成する仮焼工程を有することによって、粒径が小さく結晶性の低い六方晶窒化ホウ素を形成することができる。焼成工程では、助剤を用いて1900~2100℃で焼成している。これによって、六方晶窒化ホウ素の結晶性が高くなるとともに、一次粒子が立体的に結合した二次構造が形成される。これによって、帯電し難い六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。このような六方晶窒化ホウ素粉末は、静電気による凝集を抑制することができる。
【0011】
上記製造方法では、焼成工程で得られる焼成物を粉砕、洗浄及び乾燥し、内径90mm及び高さ120mmであるポリエチレンテレフタレート製の容器に六方晶窒化ホウ素粉末を10g収容し、ポリテトラフルオロエチレン製の4枚羽根を有する直径60mmの攪拌翼を用いて、300rpmで5分間攪拌したときの帯電量の絶対値が0.7nc/g以下である六方晶窒化ホウ素粉末を得てもよい。上記六方晶窒化ホウ素粉末は、帯電量の絶対値が小さいため、粒子同士又は容器の内壁との摩擦によって発生する静電気を十分に抑制することができる。上記帯電量は、-0.1nc/g未満であってよい。これによって、大気中の水分の影響による凝集を抑制することができる。
【0012】
本開示の一側面に係る化粧料は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含む。上述の六方晶窒化ホウ素粉末は、粒子同士の摩擦、及び収容容器の内壁との摩擦等によって発生する静電気を十分に抑制することができる。したがって、静電気による凝集を抑制することができる。このような六方晶窒化ホウ素粉末を含む化粧料は、優れた伸び性を有する。
【0013】
本開示の一側面に係る化粧料の製造方法は、上述のいずれかの製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末を原料として用いて化粧料を製造する。上述の製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、静電気による凝集を抑制することができる。このため、このような六方晶窒化ホウ素粉末を原料として用いて製造された化粧料は、優れた伸び性を有する。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、静電気による凝集を抑制することが可能な六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法を提供することができる。また、本開示によれば、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって静電気による凝集を抑制し、伸び性に優れる化粧料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、六方晶窒化ホウ素粉末の攪拌条件を説明する図である。
【
図2】
図2は、六方晶窒化ホウ素粉末の攪拌に用いる攪拌翼の下面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本開示の実施形態を説明する。ただし、以下の実施形態は、本開示を説明するための例示であり、本開示を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0017】
本実施形態の六方晶窒化ホウ素粉末は、
図1に示す攪拌装置を用いて、300rpmで5分間攪拌したときの帯電量の絶対値が0.7nc/g以下である。これによって、例えば輸送の際、粒子同士又は容器の内壁との摩擦によって発生する静電気を十分に抑制することができる。したがって、静電気による凝集を抑制することができる。同様の観点から、上記帯電量の絶対値は、0.6nc/g以下であってよく、0.5nc/g以下であってもよい。
【0018】
上記帯電量は、-0.1nc/g未満であってよく、-0.3nc/g未満であってもよい。水分子を構成する酸素原子が正の極性を有することから、上記帯電量が負の値であれば、大気中の水分の影響によって凝集することを抑制できる。
【0019】
図1の攪拌装置100は、円筒部とその一端側を覆う底部とを有する有底円筒状のポリエチレンテレフタレート(PET)製の容器10と、シャフト22及びその先端に取り付けられた攪拌翼24を有する攪拌機20と、シャフト22の上端側に回転モータ(不図示)と、を備える。回転モータは、例えばスリーワンモータであってよい。容器10の内径Dは90mmであり、高さHは120mmである。容器10の底部に10gの六方晶窒化ホウ素粉末30が収容され層状に堆積している。攪拌機20の一部は、シャフト22の長手方向が円筒部の中心軸方向に沿うようにして容器10の内部に挿入されている。攪拌翼24の下端と容器10の底面との間隔hは5mmである。
【0020】
図2は、攪拌翼24の下面図である。シャフトの下端に取り付けられた攪拌翼24は、容器10の円筒部に向かって放射状に拡がるポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製の4つの羽根26(4枚羽根)を有する。攪拌翼24の直径dは、60mmである。したがって、4つの羽根26の各先端と容器10との間隔は15mmである。
【0021】
図1に示すように、攪拌翼24を六方晶窒化ホウ素粉末30内に配置した状態で攪拌機20を起動し、300rpmの回転数で5分間攪拌する。攪拌後、帯電量を、ファラデーケージを備える市販の粉体摩擦帯電量測定装置を用いて測定する。そのような測定装置としては、例えば、株式会社ナノシーズ製のNS-K100(製品名)が挙げられる。帯電量の正負及び大きさは、六方晶窒化ホウ素粉末の表面状態に依存すると考えられる。例えば、水酸基等の官能基が多くなると、帯電し易くなると考えられる。帯電量は、六方晶窒化ホウ素粉末を製造する際の焼成条件を変えることによって調整することができる。
【0022】
本実施形態に係る六方晶窒化ホウ素は、凝集ダマを形成し難いため、滑り性及びハンドリング性に優れる。このため、種々の用途に好適に用いることができる。例えば、離型剤及び敷き粉等に用いられる。また、この六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集が抑制されることによって、媒体(人肌等)に塗布したときに優れた伸び性を有する。このため、例えば化粧料の原料用に好適である。すなわち、本開示は、六方晶窒化ホウ素を化粧料の原料として使用する使用方法も提供することができる。
【0023】
一実施形態に係る化粧料は、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を含有する。この六方晶窒化ホウ素粉末は、表面に発生した静電気のうち、負電荷よりも正電荷を速やかに低減することができる。このため、六方晶窒化ホウ素粉末は水分による凝集が抑制され、優れた伸び性を有する。
【0024】
化粧料としては、例えば、ファンデーション(パウダーファンデーション、リキッドファンデーション、クリームファンデーション)、フェイスパウダー、ポイントメイク、アイシャドー、アイライナー、マニュキュア、口紅、頬紅、及びマスカラ等が挙げられる。これらのうち、ファンデーション及びアイシャドーには、六方晶窒化ホウ素粉末が特に良く適合する。化粧料における六方晶窒化ホウ素粉末の含有量は、例えば0.1~70質量%である。化粧料は公知の方法によって製造することができる。化粧料の製造方法は、例えば、六方晶窒化ホウ素粉末と他の原料とを配合して混合する工程を有する。
【0025】
一実施形態に係る六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末を、不活性ガス雰囲気中、アンモニアガス雰囲気中、又はこれらの混合ガス雰囲気中、600~1300℃で焼成して、低結晶性の六方晶窒化ホウ素、及び非晶質の六方晶窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む仮焼物を得る仮焼工程と、仮焼物と助剤とを含む混合粉末を、不活性ガス及び/又はアンモニアガスの雰囲気中、1900~2100℃の温度で、10~50時間加熱して焼成物を得る焼成工程と、焼成物を粉砕、洗浄、及び乾燥し、乾燥粉末を得る精製工程と、を有する。
【0026】
ホウ素を含む化合物としては、ホウ酸、酸化ホウ素及びホウ砂等が挙げられる。窒素を含む化合物としては、ジシアンジアミド、メラミン、及び尿素が挙げられる。ホウ素を含む化合物の粉末と窒素を含む化合物の粉末を含有する原料粉末におけるホウ素原子と窒素原子のモル比は、ホウ素原子:窒素原子=2:8~8:2であってよく、3:7~7:3であってもよい。原料粉末は、上記化合物以外の成分を含んでもよい。例えば、助剤として炭酸リチウム及び炭酸ナトリウムなどの炭酸塩を含んでよい。また、炭素等の還元性物質を含んでよい。
【0027】
上述の成分を含有する原料粉末を、例えば電気炉を用いて、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを混合した混合ガス雰囲気中で仮焼する。仮焼温度は、600~1300℃であってよく、800~1200℃であってよく、900~1100℃であってもよい。仮焼時間は、例えば0.5~5時間であってよく、1~4時間であってもよい。
【0028】
仮焼によって得られる仮焼物は、低結晶性の六方晶窒化ホウ素、及び非晶質の六方晶窒化ホウ素からなる群より選ばれる少なくとも一方を含む。仮焼工程は、後述の焼成工程よりも低温で窒化ホウ素の反応を進行させる。このため、粒成長を抑制し、最終的に得られる窒化ホウ素粉末の粒径を小さくすることができる。また、六方晶窒化ホウ素粉末の比表面積を大きくすることができる。
【0029】
次に、得られた仮焼物と助剤とを配合して混合し、混合粉末を得る。助剤としては、ホウ酸ナトリウム等のホウ酸塩、並びに、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム及び炭酸リチウム等の炭酸塩が挙げられる。六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物100質量部に対する、助剤の配合量は2~20質量部であってよく、2~8質量部であってもよい。このような混合粉末を、例えば電気炉中、窒素ガス、ヘリウムガス、又はアルゴンガス等の不活性雰囲気中、アンモニア雰囲気中、或いはこれらを含む混合ガス雰囲気中で焼成する。
【0030】
焼成工程では、助剤の存在下、窒化ホウ素の生成及び結晶化が進行する。これによって、仮焼物に含まれる窒化ホウ素の結晶性を高めることができる。焼成温度は、1900~2100℃であり、1950~2050℃であってもよい。焼成時間は、例えば10~50時間であってよく、15~30時間であってもよい。このような条件で焼成することによって、粒子の表面に存在する官能基(水酸基)を低減し、静電気を帯び難い六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。
【0031】
焼成温度が低くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の表面における官能基の量が増加する傾向にある。六方晶窒化ホウ素の官能基の量が増加すると、静電気を帯びやすくなり凝集し易くなる傾向にある。焼成時間が短くなり過ぎたときも同様の傾向にある。一方、焼成温度が高くなり過ぎると、六方晶窒化ホウ素の結晶成長が進み過ぎて、一次粒子が凝集する傾向にある。焼成時間が長くなり過ぎたときも同様の傾向にある。
【0032】
焼成工程で得られた焼成物は、通常の粉砕装置で粉砕してよい。粉砕した粉砕粉の中には、六方晶窒化ホウ素以外に不純物が含まれる場合がある。不純物としては、残存する助剤、及び水溶性ホウ素化合物等が挙げられる。精製工程では、このような不純物を、洗浄によって低減する。洗浄後、固液分離して乾燥し、乾燥粉末を得る。洗浄に用いる洗浄液としては、水、酸性物質を含む水溶液、有機溶媒、有機溶媒と水との混合液等が挙げられる。不純物の二次的な混入を避ける観点から、電気伝導度が1mS/m以下の水を使用してよい。酸性物質としては、例えば塩酸、硝酸等の無機酸が挙げられる。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール及びアセトン等の水溶性の有機溶媒が挙げられる。洗浄方法に特に制限はなく、例えば、粉砕粉を洗浄液中に浸漬し撹拌して洗浄してよく、粉砕粉に洗浄液をスプレーして洗浄してもよい。
【0033】
洗浄終了後、デカンテーション、吸引ろ過機、加圧ろ過機、回転式ろ過機、沈降分離機又はこれらを組み合わせた装置を用いて洗浄液を固液分離してよい。分離した固形分を通常の乾燥機で乾燥して乾燥粉末を得てもよい。乾燥機は、例えば、棚式乾燥機、流動層乾燥機、噴霧乾燥機、回転型乾燥機、ベルト式乾燥機、及びこれらの組み合わせが挙げられる。乾燥後に、粗大粒子を除去するために、例えば篩による分級を行ってもよい。
【0034】
このようにして、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を得ることができる。ただし、精製工程を行うことは必ずしも必須ではない。上記製造方法で得られる六方晶窒化ホウ素粉末は、
図1及び
図2に示す攪拌装置を用いて、300rpmで5分間攪拌したときの帯電量の絶対値が0.7nc/g以下である。上記帯電量の絶対値は、0.6nc/g以下であってよく、0.5nc/g以下であってもよい。上記帯電量は、水分による凝集を抑制する観点から、-0.1nc/g未満であってよく、-0.3nc/g未満であってもよい。
【0035】
上述の六方晶窒化ホウ素粉末の実施形態に係る説明は、六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法にも適用することができる。六方晶窒化ホウ素粉末の製造方法は、上述の実施形態に限定されない。例えば、焼成工程の後に、超音波振動を与えるホモジナイザー等を用いて、六方晶窒化ホウ素粉末を解砕する解砕工程を行ってもよい。
【0036】
以上、本開示の幾つかの実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0037】
実施例及び比較例を参照して本開示の内容をより詳細に説明するが、本開示は下記の実施例に限定されるものではない。
【0038】
(実施例1)
[六方晶窒化ホウ素粉末の調製]
<仮焼工程>
ホウ酸粉末(純度99.8質量%以上、関東化学社製)100.0g、及びメラミン粉末(純度99.0質量%以上、和光純薬社製)90.0gを、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合し混合原料を得た。乾燥後の混合原料を、六方晶窒化ホウ素製の容器に入れ、電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から1000℃に昇温した。1000℃で2時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。このようにして、低結晶性の六方晶窒化ホウ素を含む仮焼物を得た。
【0039】
<焼成工程>
仮焼物100.0gに、炭酸ナトリウム(純度99.5質量%以上)を3.0g添加し、アルミナ製乳鉢を用いて10分間混合した。混合物を、上述の電気炉内に配置した。電気炉内に窒素ガスを流通させながら、10℃/分の速度で室温から2000℃に昇温した。2000℃で20時間保持した後、加熱を止めて自然冷却した。温度が100℃以下になった時点で電気炉を開放した。得られた焼成物を回収し、アルミナ製乳鉢で3分間粉砕して、六方晶窒化ホウ素の粗粉を得た。
【0040】
<精製工程>
六方晶窒化ホウ素の粗粉中に含まれる不純物を除くため、希硝酸500g(硝酸濃度:5質量%)に、粗粉を30g投入し、室温で60分間攪拌した。攪拌後、吸引ろ過によって固液分離し、ろ液が中性になるまで水(電気伝導度1mS/m)を入れ替えて洗浄した。洗浄後、乾燥機を用いて120℃で24時間乾燥して乾燥粉末を得た。得られた乾燥粉末を、実施例1の六方晶窒化ホウ素粉末とした。
【0041】
[六方晶窒化ホウ素粉末の評価]
<外観の評価>
得られた六方晶窒化ホウ素粉末の外観を観察した。その結果、六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集しておらず、流動性に優れることが確認された。
【0042】
<帯電減衰性の評価>
実施例1で作製した六方晶窒化ホウ素粉末の帯電量を、粉体摩擦帯電量測定装置(株式会社ナノシーズ製、製品名:NS-K100)を用いて測定した。具体的には、内径90mm、及び、高さ120mmのPET製の容器に10gの六方晶窒化ホウ素粉末を入れた。六方晶窒化ホウ素粉末の層の内部にPEFE製の攪拌羽根を配置し、
図1に示す状態とした(h=5mm)。そして、300rpmの回転数で5分間攪拌した。攪拌機としては、HEDON スリーワンモータの汎用攪拌機を用いた。この攪拌機のシャフトに、ポリテトラフルオロエチレン製の4枚羽根を有する1段の攪拌翼((株)サンプラテック製の「PTFE4枚羽根スクリュー攪拌棒」、型番:23707、ロッド径:9.5mm、長さ:650mm、回転羽根径(直径d):60mm)を取り付けて攪拌した。攪拌直後の六方晶窒化ホウ素粉末の帯電量を上述の粉体摩擦帯電量測定装置を用いて測定した。帯電量の測定結果は表2のとおりであった。
【0043】
<伸び性の評価>
人工皮膚(縦×横=10mm×50mm)の一端に、六方晶窒化ホウ素粉末0.2gを載せた。人工皮膚の表面に六方晶窒化ホウ素粉末を塗り付けるように、ヘラを用いて六方晶窒化ホウ素粉末を縦方向に沿って伸ばした。市販の画像解析ソフトウェア(WinROOF)を用いて画像解析を行って、人工皮膚の全面積に対する、六方晶窒化ホウ素粉末の塗布面積の割合を求めた。この面積割合が大きいほど伸び性が優れている。伸び性の評価基準は、面積割合に応じて表1に示すとおりとした。伸び性の評価結果は表2に示すとおりであった。
【0044】
(実施例2)
焼成工程の保持時間を25時間にしたこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。そして、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の評価を行った。評価結果は表2に示すとおりであった。得られた六方晶窒化ホウ素粉末の外観を観察した。その結果、六方晶窒化ホウ素粉末は、殆ど凝集しておらず、流動性に優れることが確認された。
【0045】
(実施例3)
焼成工程の保持温度を1950℃にしたこと以外は、実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。そして、実施例1と同様にして、六方晶窒化ホウ素粉末の評価を行った。評価結果は表2に示すとおりであった。得られた六方晶窒化ホウ素粉末の外観を観察した。その結果、六方晶窒化ホウ素粉末は、殆ど凝集しておらず、流動性に優れることが確認された。
【0046】
(比較例1)
焼成工程における焼成温度を1700℃としたこと以外は実施例1と同様にして六方晶窒化ホウ素粉末を調製した。実施例1と同様にして、評価を行った。結果は表2に示すとおりであった。得られた六方晶窒化ホウ素粉末の外観を観察した。その結果、六方晶窒化ホウ素粉末は、凝集していた。
【0047】
【0048】
【0049】
実施例1~3の六方晶窒化ホウ素粉末は、帯電量の絶対値が0.7nc/g以下であった。外観を観察すると、比較例1は、凝集ダマを形成しているのに対し、実施例1~3では、凝集ダマが比較例1よりも明らかに少なかった。また、実施例1~3の方が、比較例1よりも、優れた伸び性を有していた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示によれば、静電気による凝集が抑制された六方晶窒化ホウ素粉末及びその製造方法が提供される。また、上述の六方晶窒化ホウ素粉末を用いることによって凝集が抑制され伸び性に優れる化粧料が提供される。
【符号の説明】
【0051】
10…容器、20…攪拌機、22…シャフト、24…攪拌翼、26…羽根、30…六方晶窒化ホウ素粉末、100…攪拌装置。