IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧 ▶ ナノシータ株式会社の特許一覧

特許7429537カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜
<>
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図1
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図2
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図3
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図4
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図5
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図6
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図7
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図8
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図9
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図10
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図11
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図12
  • 特許-カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】カルボン酸型脂質並びに該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜
(51)【国際特許分類】
   C07K 5/00 20060101AFI20240201BHJP
   A61P 7/04 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 31/225 20060101ALI20240201BHJP
   A61K 38/05 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C07K5/00
A61P7/04
A61K31/225
A61K38/05
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019557516
(86)(22)【出願日】2019-10-17
(86)【国際出願番号】 JP2019040984
(87)【国際公開番号】W WO2020080495
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2022-10-04
(31)【優先権主張番号】P 2018196222
(32)【優先日】2018-10-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509071242
【氏名又は名称】ナノシータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】武岡 真司
(72)【発明者】
【氏名】中原 景子
(72)【発明者】
【氏名】西浦 衛
(72)【発明者】
【氏名】大坪 真也
(72)【発明者】
【氏名】車谷 元
(72)【発明者】
【氏名】荒金 徹
【審査官】吉森 晃
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104356196(CN,A)
【文献】国際公開第2008/062911(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/008523(WO,A1)
【文献】国際公開第98/007752(WO,A1)
【文献】SUN, Qiong,Journal of the American Chemical Society,2015年,Vol.137,Pages 6000-6010
【文献】WAYBRANT, Brett,Langmuir,2014年,Vol.30,Pages 7465-7474
【文献】SHROFF, Kamlesh,Langmuir,2012年,Vol.28,Pages 1858-1865
【文献】ANANTHANARAYANAN, Badriprasad,Biomaterials,2010年,Vol.31,Pages 8706-8715
【文献】OBATA, Yosuke,Biochimica et Biophysica Acta,2009年,Vol.1788,Pages 1148-1158
【文献】GARG, Ashish,International Journal of Pharmaceutics,2009年,Vol.366,Pages 201-210
【文献】CRAIG, Jennifer A.,Langmuir,2008年,Vol.24,Pages 10282-10292
【文献】WANG, Kewei,Bioconjugate Chem.,2007年,Vol.18,Pages 1735-1738
【文献】OCHSENHIRT, Sarah E.,Biomaterials,2006年,Vol.27,Pages 3863-3874
【文献】MARQUES, Bruno F.,Langmuir,2005年,Vol.21,Pages 2488-2494
【文献】SCHNEIDER, James,Langmuir,2002年,Vol.18,Pages 3923-3931
【文献】GORE, Tushar,Langmuir,2001年,Vol.17,Pages 5352-5360
【文献】PAKALNS, Teika,Biomaterials,1999年,Vol.20,Pages 2265-2279
【文献】HABERMANN, Jorg,Tetrahedron Letters,1998年,Vol.39,Pages 4797-4800
【文献】BERNDT, Peter,J. Am. Chem. Soc.,1995年,Vol.117,Pages 9515-9522
【文献】HAVERSTICK, Kraig,Polymeric Materials Science and Engineering,1997年,Vol.77,Pages 584-585
【文献】Chem. Lett.,1990年,pp.29-32
【文献】Bioconjugate chem.,2005年,16,1589-1596
【文献】J. Am. Chem. Soc.,2000年,122,7927-7935
【文献】Bioconjugate Chem.,2009年,Vol.20, No.8,pp.1419-1440
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 5/00
A61P 7/04
A61K 31/225
A61K 38/05
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式(III)
【化1】
[式(III)中、
Mは、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基から選択される酸性アミノ酸残基、又は、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基から選択される2~5個の酸性アミノ酸残基で構成されるペプチド残基を表し
は、同一又は異なって、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、又は-NH-CO-を表し、
Xは、同一又は異なって、炭素数1~6のアルキレン基を表し、
pは、同一又は異なって、0以上4以下の整数を表し、
qは、同一又は異なって、0以上8以下の整数を表し、
Yは、同一又は異なって、以下の式(VII):
【化2】
で表される1個以上の単位Y1で構成される分岐鎖本体部と、前記分岐鎖本体部に結合した、以下の式(VIII):
【化3】
で表される1個以上の基Y2とで構成される分岐鎖を表すか、又は、1個の基Y2で構成される直鎖を表し、
式(VII)及び(VIII)中、
Rは、同一又は異なって、炭素数12~22のアルキル基を表し、
、X、p及びqは、前記と同義であり、
(*b1)、(*b2)及び(*b3)は、それぞれの単位Y1の結合手を表し、
(*b4)は、それぞれの基Y2の結合手を表し、
それぞれの単位Y1の結合手(*b1)は、式(III)における(CHと結合しているか、又は、前記分岐鎖本体部を構成する別の単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)と結合しており、
それぞれの基Y2の結合手(*b4)は、式(III)における(CHと結合しているか、又は、前記分岐鎖本体部を構成するいずれかの単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)と結合している。
で表されるカルボン酸型脂質。
【請求項2】
Mで表される前記ペプチド残基が、以下の式(XII):
【化4】
[式中、mは、同一又は異なって、1又は2を表す。]
で表されるペプチド残基である、請求項に記載のカルボン酸型脂質。
【請求項3】
Yが、以下の式(XIII)、(XIV)、(XV)及び(XVI):
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
[式(XIII)~(XVI)中、
Y1は、1個の単位Y1を表し、
Y2は、1個の基Y2を表し、
(*b)は、式(III)における(CHと結合する単位Y1の結合手を表す。]
で表される直鎖及び分岐鎖から選択される、請求項1又は2に記載のカルボン酸型脂質。
【請求項4】
請求項1~のいずれか一項に記載のカルボン酸型脂質を含んでなる、脂質粒子又は脂質膜。
【請求項5】
請求項1~のいずれか一項に記載のカルボン酸型脂質又は請求項に記載の脂質粒子若しくは脂質膜を含んでなる、血小板凝集促進剤。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載のカルボン酸型脂質又は請求項に記載の脂質粒子若しくは脂質膜を含んでなる、血小板粘着促進剤。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載のカルボン酸型脂質又は請求項に記載の脂質粒子若しくは脂質膜を含んでなる、止血剤。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載のカルボン酸型脂質又は請求項に記載の脂質粒子若しくは脂質膜を含んでなる、血小板代替物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カルボン酸型脂質、該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜、並びに、該カルボン酸型脂質、該脂質粒子又は該脂質膜を含んでなる血小板凝集促進剤、血小板粘着促進剤、止血剤及び血小板代替物に関する。
【背景技術】
【0002】
血小板は止血において中心的な役割を担っており、血液中の血小板の血管への粘着又は血液中の血小板の凝集は止血の重要なきっかけとなる。血小板数の減少又は血小板の機能障害を補なったり、大量の出血に備えるために、疑似的な血小板(血小板代替物)を人工的に作製する試みが多くなされている。このような血小板代替物としては、例えば、血小板膜表面に存在する、血管壁への粘着又は血小板同士の凝集に関わるタンパク質、血小板同士の凝集の際にその仲介をするタンパク質、又は、それらのタンパク質の活性部位であるペプチドを担持させた脂質微粒子の作製が試みられてきた。血小板の粘着又は凝集の中心的な役割を果たしているのは、膜表面に存在する糖タンパク質GPIbと血漿タンパク質であるフォン・ヴィレブランド因子(vWF)系、又は、GPIIb/IIIとフィブリノーゲン系であることから、GPIbを表面に有する脂質粒子(特許文献1)、フィブリノーゲン由来ドデカペプチド(H12)を表面に担持させた脂質粒子(特許文献2、非特許文献1及び非特許文献2)等が、血小板の代替として使用できることが知られている。
【0003】
一方、カルボン酸型脂質、リン脂質及びコレステロールを含み、H12ペプチドを表面に有しない脂質粒子、並びに、カルボン酸型脂質、リン脂質及びコレステロールを含み、H12ペプチドを表面に有する脂質粒子はともに、血小板凝集促進作用を有するが、H12ペプチドを表面に有しない脂質粒子は、H12ペプチドを表面に有する脂質粒子と比較して、血小板凝集促進作用が小さいことが知られている(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第01/064743号公報
【文献】特開2005-239549号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】第32回バイオマテリアル学会大会予稿集、324ページ
【文献】第33回バイオマテリアル学会大会予稿集、319ページ
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、GPIb、H12等の、血小板の粘着又は凝集に関与するタンパク質又はその活性部位であるペプチドを担持させなくても、血小板の粘着又は凝集を促進することができるカルボン酸型脂質、該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜、並びに、該カルボン酸型脂質、該脂質粒子又は該脂質膜を含んでなる血小板凝集促進剤、血小板粘着促進剤、止血剤及び血小板代替物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、以下の発明を提供する。
【0008】
[1]以下の式(I)~(VI):
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
[式(I)~(VI)中、
Mは、生理的pHにおいて負に帯電し得る、アミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基、ペプチド残基又はそれらの塩を表し、
Rは、炭化水素基を表し、
Lは、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CO-S-、-S-CO-又は-S-S-を表し、
Xは、炭化水素基、中性アミノ酸残基又はポリアルキレングリコール残基を表し、
pは、0以上の整数を表し、
qは、0以上の整数を表し、
Yは、以下の式(VII):
【化7】
で表される1個以上の単位Y1で構成される分岐鎖本体部と、前記分岐鎖本体部に結合した、以下の式(VIII):
【化8】
で表される1個以上の基Y2とで構成される分岐鎖を表すか、又は、1個の基Y2で構成される直鎖を表し、
式(VII)及び(VIII)中、
R、L、X、p及びqは、前記と同義であり、
(*b1)、(*b2)及び(*b3)は、それぞれの単位Y1の結合手を表し、
(*b4)は、それぞれの基Y2の結合手を表し、
それぞれの単位Y1の結合手(*b1)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合しているか、又は、前記分岐鎖本体部を構成する別の単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)と結合しており、
それぞれの基Y2の結合手(*b4)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合しているか、又は、前記分岐鎖本体部を構成するいずれかの単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)と結合しており、
Zは、以下の式(IX):
【化9】
で表される1個以上の単位Z1で構成される分岐鎖本体部と、前記分岐鎖本体部に結合した、以下の式(X)及び(XI):
【化10】
【化11】
で表される基から選択される1個以上の基Z2とで構成される分岐鎖を表すか、又は、1個の基Z2で構成される直鎖を表し、
式(IX)、(X)及び(XI)中、
M、L、X、p及びqは、前記と同義であり、
(*c1)、(*c2)及び(*c3)は、それぞれの単位Z1の結合手を表し、
(*c4)及び(*c5)は、それぞれの基Z2の結合手を表し、
それぞれの単位Z1の結合手(*c1)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合しているか、又は、前記分岐鎖本体部を構成する別の単位Z1の結合手(*c2)又は(*c3)と結合しており、
それぞれの基Z2の結合手(*c4)又は(*c5)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合しているか、又は、前記分岐鎖本体部を構成するいずれかの単位Z1の結合手(*c2)又は(*c3)と結合している。]
で表されるカルボン酸型脂質から選択されるカルボン酸型脂質。
[2]Mで表される前記アミノ酸残基が、酸性アミノ酸残基又は中性アミノ酸残基である、[1]に記載のカルボン酸型脂質。
[3]前記酸性アミノ酸残基が、アスパラギン酸残基又はグルタミン酸残基である、[2]に記載のカルボン酸型脂質。
[4]Mで表される前記アミノ酸誘導体の残基が、塩基性アミノ酸誘導体の残基であり、
前記塩基性アミノ酸誘導体に導入されている誘導体化が、塩基性アミノ酸の側鎖のアミノ基の、次式:-NH-CO-R[式中、-NH-は、前記塩基性アミノ酸の側鎖のアミノ基に由来し、Rは、炭化水素基を表す。]で表される基へのアミド化である、[1]に記載のカルボン酸型脂質。
[5]Mで表される前記ペプチド残基が、2~7個のアミノ酸残基で構成されるペプチド残基である、[1]に記載のカルボン酸型脂質。
[6]Mで表される前記ペプチド残基が、1個又は2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基である、[1]又は[5]に記載のカルボン酸型脂質。
[7]Mで表される前記ペプチド残基が、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基から選択される2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基である、[6]に記載のカルボン酸型脂質。
[8]Mで表される前記ペプチド残基が、以下の式(XII):
【化12】
[式中、mは、同一又は異なって、1又は2を表す。]
で表されるペプチド残基である、[7]に記載のカルボン酸型脂質。
[9]前記塩が、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及びマグネシウム塩から選択される、[1]~[8]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質。
[10]Lが、同一又は異なって、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-又は-NH-CO-を表す、[1]~[9]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質。
[11]Yが、以下の式(XIII)、(XIV)、(XV)及び(XVI):
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
[式(XIII)~(XVI)中、
Y1は、1個の単位Y1を表し、
Y2は、1個の基Y2を表し、
(*b)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合する単位Y1の結合手を表す。]
で表される直鎖及び分岐鎖から選択される、[1]~[10]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質。
[12]Zが、以下の式(XVII)、(XVIII)、(XIX)及び(XX):
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
[式(XVII)~(XX)中、
Z1は、1個の単位Z1を表し、
Z2は、1個の基Z2を表し、
(*c)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合する単位Z1の結合手を表す。]
で表される直鎖及び分岐鎖から選択される、[1]~[11]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質。
[13][1]~[12]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質を含んでなる、脂質粒子。
[14]前記脂質粒子が、リン脂質及びステロールから選択される1種又は2種以上の脂質をさらに含んでなる、[13]に記載の脂質粒子。
[15]前記脂質粒子の表面が、生理的pHにおいて負に帯電する、[13]又は[14]に記載の脂質粒子。
[16]前記脂質粒子が、生理的条件において-12mV以下のゼータ電位を有する、[15]に記載の脂質粒子。
[17]前記脂質粒子が、30~5000nmの平均粒子径を有する、[13]~[16]のいずれか一つに記載の脂質粒子。
[18]前記脂質粒子が、リポソーム、ミセル、ナノスフェア、マイクロスフェア、ナノクリスタル及びマイクロクリスタルから選択される形態を有する、[13]~[17]のいずれか一つに記載の脂質粒子。
[19][1]~[12]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質を含んでなる、脂質膜。
[20]前記脂質膜が、リン脂質及びステロールから選択される1種又は2種以上の脂質をさらに含んでなる、[19]に記載の脂質粒子。
[21]前記脂質膜の表面が、生理的pHにおいて負に帯電する、[19]又は[20]に記載の脂質膜。
[22]前記脂質膜が、10~1000nmの厚みを有する、[19]~[21]のいずれか一つに記載の脂質膜。
[23][1]~[12]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質、[13]~[18]のいずれか一つに記載の脂質粒子又は[19]~[22]のいずれか一つに記載の脂質膜を含んでなる、血小板凝集促進剤。
[24][1]~[12]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質、[13]~[18]のいずれか一つに記載の脂質粒子又は[19]~[22]のいずれか一つに記載の脂質膜を含んでなる、血小板粘着促進剤。
[25][1]~[12]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質、[13]~[18]のいずれか一つに記載の脂質粒子又は[19]~[22]のいずれか一つに記載の脂質膜を含んでなる、止血剤。
[26][1]~[12]のいずれか一つに記載のカルボン酸型脂質、[13]~[18]のいずれか一つに記載の脂質粒子又は[19]~[22]のいずれか一つに記載の脂質膜を含んでなる、血小板代替物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、GPIb、H12等の、血小板の粘着又は凝集に関与するタンパク質又はその活性部位であるペプチドを担持させなくても、血小板の粘着及び/又は凝集を促進することができ、ひいては、血小板代替物(人工血小板)として使用することができるカルボン酸型脂質、該カルボン酸型脂質を含んでなる脂質粒子及び脂質膜、並びに、該カルボン酸型脂質、該脂質粒子又は該脂質膜を含んでなる血小板凝集促進剤、血小板粘着促進剤、止血剤及び血小板代替物(人工血小板)が提供される。本発明のカルボン酸型脂質は、生理的pHにおいて負に帯電するアニオン性脂質である。本発明の脂質粒子及び脂質膜は、本発明のカルボン酸型脂質を含んでなり、本発明の脂質粒子及び脂質膜の表面は、生理的pHにおいて負に帯電する。本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜は、従来知られていた、GPIb-vWF系又はGPIIb/III-フィブリノーゲン系を構成するタンパク質又はその活性部位であるペプチドを担持することなく、複数の血小板と結合することによって血小板の粘着及び/又は凝集を促進することができる。特に、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜は、活性化した血小板をより選択的に凝集させることができるため、静脈内投与等の全身投与の場合であっても、静止状態の血小板を必要以上に活性化することがなく、血小板代替物として好ましい特性を示す。したがって、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜は、止血剤及び血小板代替物(人工血小板)として特に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、血小板凝集塊中における蛍光標識リポソームの観察結果を示す図(図1の上段:DiOで標識したリポソーム分散液を使用して得られた血小板凝集塊の蛍光顕微鏡写真,図1の下段:DiDで標識したリポソーム分散液を使用して得られた血小板凝集塊の蛍光顕微鏡写真)である。
図2図2は、血小板凝集塊中における蛍光標識リポソームの観察結果を示す図(DiDで標識したリポソーム分散液を使用して得られた血小板凝集塊の蛍光顕微鏡写真)である。
図3図3は、止血材の血小板凝集能評価(in vitro)に関する結果を示す図である。
図4図4は、止血材の血小板凝集能評価(in vitro)に関する結果を示す図である。
図5図5は、基材のSEM観察像を示す図である。
図6図6は、基材に担持させたAsp-DHSGのSEM観察像を示す図である。
図7図7は、基材に担持させたGlu-DHSGのSEM観察像を示す図である。
図8図8は、基材に担持させたAG-DHSGのSEM観察像を示す図である。
図9図9は、基材に担持させたDHSGのSEM観察像を示す図である。
図10図10は、基材に担持させたAsp-DHSGのSEM観察像を示す図(図6の拡大図)である。
図11図11は、基材に担持させたGlu-DHSGのSEM観察像を示す図(図7の拡大図)である。
図12図12は、基材に担持させたAG-DHSGのSEM観察像を示す図(図8の拡大図)である。
図13図13は、基材に担持させたDHSGのSEM観察像を示す図(図9の拡大図)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、本明細書において、「数値A~数値B」は、数値A以上数値B以下を意味する。
【0012】
≪脂質粒子及び脂質膜≫
本発明の脂質粒子は、脂質を含んでなる粒子である。本発明の脂質膜は、脂質を含んでなる膜である。脂質は、親水性部分と疎水性部分とを有する有機分子であり、脂質には、単純脂質、複合脂質、誘導脂質等が包含される。脂質は、親水性高分子等で修飾されていてもよい。親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、合成ポリアミノ酸等が挙げられる。
【0013】
本発明の脂質粒子及び脂質膜は、カルボン酸型脂質(I)~(VI)から選択される1種又は2種以上のカルボン酸型脂質を含んでなる。カルボン酸型脂質(I)~(VI)については後述する。カルボン酸型脂質(I)~(VI)は、生理pHにおいて負に帯電するアニオン性脂質である。したがって、カルボン酸型脂質(I)~(VI)は、血液と接触して血液中の水分で水和された時、負に帯電した状態となる。
【0014】
本発明の脂質粒子及び脂質膜が血液と接触すると、本発明の脂質粒子及び脂質膜に含まれるカルボン酸型脂質は負に帯電した状態となる。負に帯電したカルボン酸型脂質は、複数の血小板(特に、活性化した血小板)と結合し、血小板の粘着及び/又は凝集を促進することができ、ひいては、血液の凝固を促進することができる。これにより、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、血液の止血作用を促進することができる。本発明の脂質粒子及び脂質膜の止血作用は、カルボン酸型脂質の血小板粘着促進作用及び/又は血小板凝集促進作用によって発揮される。
【0015】
本発明の脂質粒子は、脂質粒子の凝集体を形成していてもよい。本明細書における脂質粒子に関する説明は、別段規定される場合を除き、脂質粒子の凝集体を構成する脂質粒子にも適用される。
【0016】
本発明の脂質膜の表面には凹凸が形成されていてもよい。例えば、本発明の脂質膜は、表面が平坦な脂質膜と、該脂質膜の平坦な表面に担持された脂質粒子及び/又は脂質粒子の凝集体とで構成されていてもよく、このような脂質膜は、表面に凹凸が形成された脂質膜に該当する。
【0017】
本発明の脂質膜は、血液と接触した後、膜の形態を維持してもよいし、維持しなくてもよい。脂質膜が、血液と接触した後、膜の形態を維持する場合、脂質膜に含まれるカルボン酸型脂質によって上述の作用効果が発揮される。脂質膜が、血液と接触した後、膜の形態を維持しない場合としては、例えば、脂質膜の一部又は全部が血液中の水分で水和されて脂質粒子が形成され、形成された脂質粒子が基材から遊離する場合が挙げられる。脂質膜の一部が血液中の水分で水和されて脂質粒子が形成され、形成された脂質粒子が基材から遊離する場合、脂質粒子に含まれるカルボン酸型脂質及び残存する脂質膜に含まれるカルボン酸型脂質によって上述の作用効果が発揮される。脂質膜の全部が血液中の水分で水和されて脂質粒子が形成され、形成された脂質粒子が基材から遊離する場合、脂質粒子に含まれるカルボン酸型脂質によって上述の作用効果が発揮される。脂質膜の一部又は全部から脂質粒子が形成され、形成された脂質粒子が基材から遊離することにより、カルボン酸型脂質が血小板に作用する機会が増加するため、上述の作用効果がより効果的に発揮される。なお、本発明の脂質粒子には、本発明の脂質膜から形成された脂質粒子も包含され、本明細書における脂質粒子に関する説明は、別段規定される場合を除き、本発明の脂質膜から形成された脂質粒子にも適用される。
【0018】
本発明の脂質粒子及び脂質膜は、1種又は2種以上のその他のアニオン性脂質を含んでもよい。アニオン性脂質は、生理pHにおいて負に帯電する基を親水性部分の一部として有する。したがって、アニオン性脂質は、血液と接触して血液中の水分で水和された時、負に帯電した状態となる。生理pHにおいて負に帯電する基としては、例えば、リン酸基、カルボキシル基、スルホ基、ニトロ基、それらの塩等が挙げられる。生理的pHは、通常pH5.5~9.0、好ましくはpH6.5~8.0、さらに好ましくはpH7.0~7.8である。アニオン性脂質としては、例えば、カルボン酸型脂質(I)~(VI)以外のカルボン酸型脂質、酸性リン脂質、脂肪酸、ガングリオシド、酸性アミノ酸系界面活性剤等が挙げられる。
【0019】
本発明の脂質粒子の形状は、特に限定されない。本発明の脂質粒子の形状としては、例えば、球状(真球状、楕円球状等)、不定形等が挙げられる。脂質粒子がナノクリスタル、マイクロクリスタル等の微結晶である場合、微結晶は定形の結晶形状を有する。
【0020】
本発明の脂質粒子の平均粒子径は、特に限定されない。本発明の脂質粒子の平均粒子径は、好ましくは30~5000nm、さらに好ましくは50~1000nm、さらに一層好ましくは70~400nmである。ここでの平均粒子径は、動的光散乱法により測定した場合の数値である。動的光散乱法は、Zetasizer nano(Malvern Panalytical Ltd.製)を使用して行うことができる。その際、分散媒としてPBSを使用して調製した、脂質粒子の濃度が0.1mg/mLである分散液を使用することができる。測定温度は、例えば、25℃である。散乱角度は、例えば、90度である。粒子径の調整は、例えば、エクストルージョン法、フレンチプレス法等を使用して行うことができる。
【0021】
本発明の脂質粒子は、単分散粒子であっても多分散粒子であってもいが、単分散粒子であることが好ましい。単分散の脂質粒子を得るために、均質化、エクストルージョン等の処理により脂質粒子の粒子径を一定の範囲に調整することが好ましい。
【0022】
本発明の脂質粒子の形態は、特に限定されない。本発明の脂質粒子が有する形態としては、例えば、リポソーム、ミセル、ナノスフェア、マイクロスフェア(例えば、リピドマイクロスフェア)、ナノクリスタル、マイクロクリスタル等が挙げられる。これらの形態のうち、リポソームが好ましい。リポソームとしては、例えば、多重リポソーム(MLV)、小さな一枚膜リポソーム(SUV)、巨大一枚膜リポソーム等が挙げられる。本発明の脂質粒子には、リポソームのような脂質二分子膜構造(ラメラ構造)を有さず、粒子内部が中実である(すなわち、粒子内部に構成成分が充填されている)脂質粒子も包含される。このような形態としては、例えば、疎水性ポリマー(好ましくは、疎水性の生分解性ポリマー)をコアと、該コアを被覆する脂質層とを有する形態が挙げられる。
【0023】
本発明の脂質粒子の形態は、電子顕微鏡観察(例えば、Cryo透過型電子顕微鏡観察(CryoTEM法))、エックス線を使用した構造解析(例えば、エックス線小角散乱(SAXS)測定)等により確認することができる。
【0024】
リポソームは、脂質分子を含む脂質二重膜から形成される脂質小胞体、具体的には、脂質分子の疎水性基及び親水性基の極性に基づいて生じる脂質二重膜により外界から隔てられた空間(内相)を有する閉鎖小胞体である。リポソームの内相には、リポソームの製造の際に使用された分散媒(例えば、水等の水性媒体)が含まれる。脂質二重膜を1層とした場合、リポソームが有する脂質二重膜の層数は、好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2である。
【0025】
脂質二重膜の層数は、フィルターの孔径、小胞体の分散媒(pH、温度、イオン強度)によって制御することができる。層数の測定方法としては、例えば、凍結割断法、小角X線散乱法、スピンラベル脂質を使用した電子スピン共鳴(ESR)、31P-NMRを使用した測定方法、6-p-トルイジノ-2-ナフタレンスルホン酸(TNS)を使用した測定方法等が挙げられる。
【0026】
リポソームの内相には、薬物が含まれていてもよい。リポソームの内相に含まれる薬物は、血管損傷部位に集積させることにより、生理学的又は薬理学的に有効である薬物が好ましく、例えば、血小板凝集惹起剤、血液凝固剤、血栓溶解剤、抗血小板剤、抗凝固剤、血管収縮剤、抗炎症剤等が挙げられる。本発明の脂質粒子は、活性化した血小板が集積している生体内の場所、すなわち、血栓が形成される部位に集積する特性を有することから、その部位における血栓形成を増強する薬剤(例えば、血小板凝集惹起剤、血液凝固剤等)、逆に、血栓を溶解させたりその程度を弱めたりする薬剤(例えば、血栓溶解剤、抗血小板剤、抗凝固剤等)が特に好ましく使用される。水溶性薬物の内包は、例えば、水和法、エクストルージョン法、エタノール注入法、逆相蒸発法、凍結融解法等を使用して行うことができる。脂溶性薬物の内包は、例えば、バンガム法、メカノケミカル法、超臨界二酸化炭素法、フィルムローディング法等を使用して行うことができる。解離性薬物の内包は、例えば、pH勾配(リモートローディング)法、対イオン濃度勾配法等を使用して行うことができる。
【0027】
血小板凝集惹起剤としては、例えば、アデノシン二リン酸(ADP)、コラーゲン、コラーゲン由来ペプチド、コンバルキシン、セロトニン、エピネフリン、バソプレシン、カルバゾクロム、血液凝固因子(例えば、FVIII、FIX)、トロンビン、抗プラスミン剤(例えば、イプシロン-アミノカプロン酸、トラネキサム酸)、エタンシラート、フィトナジオン、結合型エストロゲン(例えば、エストロン硫酸ナトリウム、エクイリン硫酸ナトリウム)等が挙げられる。
【0028】
血液凝固促進剤としては、例えば、フィブリノ-ゲン、トロンビン、血液凝固因子(例えばFXa)、硫酸プロタミン等が挙げられる。
【0029】
血栓溶解剤としては、例えば、ウロキナーゼ、プラスミン、プラスミノゲンアクティベータ等が挙げられる。
【0030】
抗血小板薬としては、例えば、シロスタゾール、サルポグレラート、エパデール、ペルサンチン、プラビックス、チクロピジン、プラスグレル、リマプロスト、PGE1及びその誘導体、プロスタサイクリン及びその誘導体等が挙げられる。
【0031】
抗凝固薬としては、例えば、ヘパリン、低分子ヘパリン、ワーファリン、NOAC(non-vitamin K antagonist oral anticoagulants)等が挙げられる。
【0032】
血管収縮剤としては、例えば、ノルアドレナリン、ノルフェネフリン、フェニレフリン、メタラミノール、メトキサミン、プロスタグランジンFα、プロスタグランジンFα、トロンボキサンA等が挙げられる。
【0033】
抗炎症剤としては、例えば、ステロイド系抗炎症剤(例えば、デキサメサゾン、ヒドロコルチゾン、プレドニゾロン、ベタメサゾン、トリアムシノロン、メチルプレドニゾロン)、非ステロイド系抗炎症剤(例えば、インドメタシン、アセメタシン、フルルビプロフェン、アスピリン、イブプロフェン、フルフェナム酸、ケトプロフェン)等が挙げられる。
【0034】
本発明の脂質膜の厚みは、好ましくは10~1000nm、さらに好ましくは30~500nm、さらに一層好ましくは60~240nmである。脂質膜の測定方法は次の通りである。脂質膜を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、SEM観察像において任意に選択された5箇所の厚みを測定し、その平均値を脂質膜の厚みとする。
【0035】
本発明の脂質粒子及び脂質膜は、脂質以外の1種又は2種以上の成分を含んでいてもよい。その他の成分としては、例えば、界面活性剤、タンパク質、ペプチド、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤、トリグリセリド、ポリ乳酸等の生分解性ポリマー、脂質粒子又は脂質膜の製造に使用した分散媒等が挙げられる。
【0036】
界面活性剤としては、例えば、陰イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0037】
陰イオン性界面活性剤としては、例えば、カルボン酸型、スルホン酸型、硫酸エステル型、リン酸エステル型等が挙げられる。具体的には、例えば、α-アシルスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、アルキル硫酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルキルアミド硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルアミドエーテル硫酸塩、アルキルリン酸塩、アルキルアミドリン酸塩、アルキロイルアルキルタウリン塩、N-アシルアミノ酸塩、スルホコハク酸塩、パーフルオロアルキルリン酸エステル等が挙げられる。
【0038】
両イオン性界面活性剤としては、例えば、グリシン型、アミノプロピオン酸型、カルボキシベタイン型、スルホベタイン型、ホスフォコリン型等が挙げられる。具体的には、例えば、2-アルキル-N-カルボキシメチル-N-ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン、ヤシ油脂肪酸アミドプロピルベタイン等が挙げられる。
【0039】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、エステル型、エーテル型、エステルエーテル型、アルカノールアミド型等が挙げられる。具体的には、例えば、脂肪酸アルカノールアミド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0040】
タンパク質としては、例えば、細胞、組織等における標的分子に対する指向性を有するリガンド、レセプター、抗体等が挙げられる。これらのタンパク質は、脂質二重膜内に存在していてもよく、脂質粒子及び脂質膜の表面に存在していてもよい。また、これらのタンパク質は、いわゆるスペーサー、リンカー等を介して脂質粒子及び脂質膜と結合していてもよい。
【0041】
このようなタンパク質としては、例えば、活性化血小板、血管損傷部位及び/又は炎症組織を認識するタンパク質が挙げられる。活性化血小板、血管損傷部位及び/又は炎症組織を認識する物質は、例えば、活性化血小板、血管損傷部位及び/又は炎症組織を認識して、本発明の脂質粒子及び脂質膜を活性化血小板、血管損傷部位及び/又は炎症組織に指向させ、これらの場所に本発明の脂質粒子及び脂質膜を集積させるように働く物質である。認識物質としては、例えば、活性化血小板に露出しているインテグリン又はセレクチン、血管損傷部位に露出しているコラーゲン、血管損傷部位に露出しているコラーゲンに結合しているフォンビレブランド因子、炎症組織に露出しているセレクチン及び/又は白血球に露出しているセレクチンリガンドを認識し、活性化血小板及び/又は白血球の凝集塊に取り込まれる物質、血管損傷部位及び/又は炎症組織に集積する物質等が挙げられる。認識物質の具体例としては、H12(HHLGGAKQAGDV)、GPIbα、GPIa/IIa(インテグリンα2β1)、GPVI、MAC-1、フィブリノーゲン、P-セレクチン、PSGL-1等が挙げられる。但し、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、GPIb、H12等の、血小板の粘着又は凝集に関与するタンパク質又はその活性部位であるペプチドを担持させなくても、血小板の凝集を促進することができる。したがって、製造工程、製造コスト等を減少させる点から、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、GPIb、H12等による化学修飾が表面に施されていないことが好ましい。
【0042】
認識物質は、本発明の脂質粒子及び脂質膜の目的が達成される限り、天然の認識物質のアミノ酸配列において1個又は複数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入又は付加された天然の認識物質の変異体であってもよく、このような変異体としては、例えば、天然の認識物質の置換体、類似体、変異体、修飾体、誘導体、糖鎖付加物等が挙げられる。
【0043】
酸化防止剤としては、例えば、アスコルビン酸、尿酸、ビタミンE等のトコフェロール同族体等が挙げられる。トコフェロールには、α、β、γ、σの4種の異性体が存在するが、脂質粒子及び脂質膜にはいずれも含まれ得る。
【0044】
防腐剤としては、例えば、p-ヒドロキシ安息香酸プロピル、p-ヒドロキシ安息香酸エチル、p-ヒドロキシ安息香酸メチル、ブロノポール等が挙げられる。
【0045】
pH調整剤としては、例えば、リン酸塩緩衝剤等が挙げられる。
【0046】
本発明の脂質粒子、脂質粒子の凝集体及び脂質膜の表面は、生理的pHにおいて負に帯電することが好ましい。これにより、脂質粒子、脂質粒子の凝集体及び脂質膜の表面は、血液と接触して血液中の水分で水和された時、負に帯電した状態となる。
【0047】
血液と接触する前の脂質粒子において、カルボン酸型脂質の親水性部分は、脂質粒子の表面側に位置してもよいし、位置しなくてもよい。血液と接触する前の脂質粒子において、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置する場合、血液と接触した後の脂質粒子においても、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置する。血液と接触する前の脂質粒子において、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置しない場合であっても、血液と接触した後、脂質粒子が再構成されることにより、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置し得る。カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置することにより、脂質粒子の表面は、生理的pHにおいて負に帯電しやすくなる(すなわち、血液と接触して血液中の水分で水和された時、負に帯電しやすくなる。)。
【0048】
血液と接触する前の脂質膜において、カルボン酸型脂質の親水性部分は、脂質膜の表面側に位置してもよいし、位置しなくてもよい。血液と接触する前の脂質膜において、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質膜の表面側に位置する場合、血液と接触した後に残存する脂質膜においても、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置する。血液と接触する前の脂質膜において、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置しない場合であっても、血液と接触した後、脂質膜が再構成されることにより、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質膜の表面側に位置し得る。カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質膜の表面側に位置することにより、脂質膜の表面が、生理的pHにおいて負に帯電しやすくなる(すなわち、血液と接触して血液中の水分で水和された時、負に帯電しやすくなる。)。なお、血液と接触する前の脂質膜において、カルボン酸型脂質の親水性部分が、脂質膜の表面側に位置する場合であっても、位置しない場合であっても、脂質膜から形成される脂質粒子において、カルボン酸型脂質の親水性部分が脂質粒子の表面側に位置し得る。
【0049】
本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体の表面が、生理的pHにおいて負に帯電している程度は、生理的条件における本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体のゼータ電位(表面電位)に基づいて評価することができる。生理的条件は、通常pH5.5~9.0、好ましくはpH6.5~8.0、さらに好ましくはpH7.0~7.8であり、イオン強度が通常0.05~0.30、好ましくは0.10~0.20、さらに好ましくは0.14~0.16である条件である。
【0050】
生理的条件における本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体のゼータ電位(表面電位)は、好ましくは-12mV以下、さらに好ましくは-15mV以下、さらに一層好ましくは-18mV以下である。生理的条件における本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体のゼータ電位の下限値は特に限定されない。生理的条件における本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体のゼータ電位は、好ましくは-80mV以上、さらに好ましくは-50mV以上、さらに一層好ましくは-45mV以上である。ここに記載された上限値及び下限値は適宜組み合わせることができる。ここでのゼータ電位は、電気泳動光散乱法により測定した場合の数値である。電気泳動光散乱法は、Zetasizer nano(Malvern Panalytical Ltd.製)を使用して行うことができる。その際、分散媒としてPBSを使用して調製した、脂質粒子の濃度が0.1mg/mLである分散液を使用することができる。測定条件は、例えば、pHが7.4、イオン強度が0.153、温度が25℃である条件である。
【0051】
本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体の製造方法は、本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体の形態に応じて適宜選択することができる。本発明の脂質粒子及び脂質粒子の凝集体の製造方法としては、例えば、薄膜法、逆相蒸発法、エタノール注入法、エーテル注入法、脱水-再水和法、界面活性剤透析法、界面活性剤除去法、水和法、凍結融解法、超音波法、押し出し法、高圧乳化法等が挙げられる。
【0052】
本発明の脂質粒子を製造する際、脂質粒子を分散させる分散媒としては、例えば、水性媒体等が挙げられる。水性媒体としては、水の他、水に塩等のその他の成分を添加したもの、例えば、リン酸塩緩衝液、クエン酸塩緩衝液、リン酸塩緩衝化生理食塩水等の緩衝液、生理食塩水、細胞培養用の培地等が挙げられる。
【0053】
脂質膜は、適当な濃度の脂質の溶液を適当量、基材に付着させて乾燥させることにより、基材の表面に形成することができる。基材は、脂質膜を形成し得る限り特に限定されない。脂質を溶解させる溶媒としては、例えば、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、tert-ブチルアルコール、ジエチルエーテル等の有機溶媒を用いることができる。溶液を基材に付着させる方法としては、例えば、噴霧法、滴下法、浸漬法、塗布法等を用いることができる。乾燥方法としては、例えば、凍結乾燥、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等を用いることができる。脂質の濃度は、0.1mg/mLから100mg/mLの範囲で溶媒への溶解度や得られる脂質膜の膜厚に応じて選択することができる。基材に付着させる溶液量は、脂質膜の膜厚等に応じて適宜調整することができる。通常、アニオン性脂質を有機溶媒に溶解させる場合には、酸型として溶解させる。ただし、アニオン性脂質がナトリウム塩等の塩型である場合には、有機溶媒に対する溶解度が大きく低下しているために、溶け切らない脂質は、無定形の微粉末又は微結晶の形態の脂質粒子として分散している。これを上記の方法と同様に基材に担持させると、基材の表面に脂質粒子が担持されるが、有機溶媒に溶けている脂質に由来する脂質膜が共存した状態で担持されてもよいし、さらに脂質粒子の凝集体が共存された状態で担持されてもよい。
【0054】
本発明の脂質粒子及び脂質膜の表面は、親水性高分子等で修飾されていてもよい。親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、合成ポリアミノ酸等が挙げられる。これらの親水性高分子は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
≪カルボン酸型脂質≫
本発明の脂質粒子及び脂質膜は、カルボン酸型脂質(I)~(VI)から選択される1種又は2種以上のカルボン酸型脂質を含んでなる。以下、カルボン酸型脂質(I)~(VI)を包括して「本発明のカルボン酸型脂質」という場合がある。以下、本発明のカルボン酸型脂質が、脂質粒子又は脂質膜に含まれる場合を主として説明するが、本発明のカルボン酸型脂質は、その他の形態の脂質構造体に含まれていてもよく、以下の説明は、本発明のカルボン酸型脂質が、その他の形態の脂質構造体に含まれている場合にも適用可能である。
【0056】
本発明のカルボン酸型脂質は、親水性部分と疎水性部分とを有し、親水性部分にカルボキシル基又はその塩を有する。本発明のカルボン酸型脂質は、アニオン性脂質であり、その親水性部分に存在するカルボキシル基又はその塩は、生理的pHにおいて電離し、負に帯電する。したがって、本発明の脂質粒子及び脂質膜が血液と接触して血液中の水分で水和されると、本発明の脂質粒子及び脂質膜の表面は、負に帯電する。これにより、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、少なくともその一部において、静電相互作用を通じて複数の血小板(特に、活性化した血小板)と結合し、血小板の凝集を促進することができ、ひいては、血液の凝固を促進することができる。ただし、この記載は、本発明の脂質粒子及び脂質膜が惹起する血小板粘着促進作用及び/又は血小板凝集促進作用に、ファンデルワールス力等の静電相互作用以外の相互作用が関与し得ることを否定するものではない。
【0057】
本発明の脂質粒子及び脂質膜において、本発明のカルボン酸型脂質の含有量は、本発明の脂質粒子及び脂質膜の表面が生理的pHにおいて負に帯電する限り特に限定されない。本発明のカルボン酸型脂質の含有量は、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる総脂質量を基準として、好ましくは5モル%以上、さらに好ましくは10モル%以上、さらに一層好ましくは30モル%以上、さらに一層好ましくは50モル%以上、さらに一層好ましくは60モル%以上、さらに一層好ましくは70モル%以上である。本発明のカルボン酸型脂質の含有量の上限値は、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる総脂質量を基準として100モル%である(この場合、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる全ての脂質が本発明のカルボン酸型脂質である)。
【0058】
本発明の脂質粒子及び脂質膜における本発明のカルボン酸型脂質以外の脂質の含有の有無、含有量等は、有機溶媒への溶解性、粒子形成性、保存安定性の観点から適宜決定することができる。例えば、本発明の脂質粒子及び脂質膜における本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質の含有の有無、含有量等は、有機溶媒への溶解性、粒子形成性、膜形成性、保存安定性の観点から適宜決定することができる。しかしながら、本発明のカルボン酸型脂質の脂質粒子形成性(例えば、リポソームの形成しやすさ、形成されたリポソームの安定性等)及び脂質膜形成性は、DHSG(1,5-ジヘキサデシル-N-スクシニル-L-グルタメート)等の公知のカルボン酸型脂質よりも優れている。また、DHSG等の公知のカルボン酸型脂質を使用してリポソームを形成する場合、安定なリポソームを形成するための含有量には上限がある。また、本発明のカルボン酸型脂質の1分子あたりのカルボキシル基の数は、DHSG等の公知のカルボン酸型脂質と同一又はそれよりも多く、本発明のカルボン酸型脂質の生理的pHにおける負帯電性は、DHSG等の公知のカルボン酸型脂質と同程度又はそれよりも高い。これらの点を考慮すると、カルボン酸型脂質として、本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質を使用する利点は少ない。したがって、一実施形態において、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質を含まない。本発明の脂質粒子及び脂質膜が本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質を含む場合、本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質の含有量は、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる総脂質量を基準として、好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下、さらに一層好ましくは7モル%以下、さらに一層好ましくは5モル%以下である。なお、本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質の含有量の下限値は特に限定されないが、小さいほど好ましく、例えば、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる総脂質量を基準として1モル%である。本発明のカルボン酸型脂質以外のカルボン酸型脂質としては、例えば、本発明のカルボン酸型脂質において、M-NH-の部分がヒドロキシル基に置換されているカルボン酸型脂質等が挙げられる。
【0059】
以下、カルボン酸型脂質(I)~(VI)について説明する。
【0060】
<カルボン酸型脂質(I)>
カルボン酸型脂質(I)は、以下の式(I)で表される。なお、式(I)において、2以上の同一の記号(例えば、L、X等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0061】
【化21】
【0062】
式(I)において、Mは、生理的pHにおいて負に帯電し得る、アミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基、ペプチド残基又はそれらの塩を表す。
【0063】
生理的pHは、通常pH5.5~9.0、好ましくはpH6.5~8.0、さらに好ましくはpH7.0~7.8である。
【0064】
Mで表されるアミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基、ペプチド残基又はそれらの塩が生理的pHにおいて負に帯電し得ることは、Mで表されるアミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基、ペプチド残基又はそれらの塩が、血液と接触すると、負に帯電し得ることを意味する。
【0065】
Mで表されるアミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基、ペプチド残基又はそれらの塩は、生理的pHにおいて全体として負に帯電し得る限り、生理的pHにおいて負に帯電し得る官能基に加えて、生理的pHにおいて正に帯電し得る官能基を有していてもよい。例えば、生理的pHにおいて負に帯電し得る官能基(例えば、カルボキシル基又はその塩)の数が、生理的pHにおいて正に帯電し得る官能基(例えば、アミノ基)の数よりも多い場合、Mで表されるアミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基、ペプチド残基又はそれらの塩は、生理的pHにおいて全体として負に帯電することができる。
【0066】
アミノ酸は、同一分子内にカルボキシル基及びアミノ基を有する有機化合物である。アミノ酸は、好ましくは、脂肪族アミノ酸である。脂肪族アミノ酸は、α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸及びε-アミノ酸のいずれであってもよいが、好ましくは、α-アミノ酸である。α-アミノ酸は、D型及びL型のいずれであってもよいが、好ましくは、L型である。アミノ酸は、天然型アミノ酸であってもよいし、非天然型アミノ酸であってもよいが、好ましくは、天然型アミノ酸である。天然型アミノ酸は、好ましくは、タンパク質に含まれる20種のアミノ酸のいずれかである。その他のアミノ酸としては、例えば、シスチン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、サイロキシン、O-ホスホセリン、デスモシン、β-アラニン、δ-アミノ吉草酸、サルコシン(N-メチルグリシン)、γ-アミノ酪酸(GABA)、トリコロミン酸、カイニン酸、オパイン等が挙げられる。
【0067】
α-アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン等が挙げられ、β-アミノ酸としては、例えば、β-アラニン等が挙げられ、γ-アミノ酸としては、例えば、γ-アミノ-n-酪酸(GABA)、カルニチン等が挙げられ、δ-アミノ酸としては、例えば、5-アミノレブリン酸、5-アミノ吉草酸等が挙げられ、ε-アミノ酸としては、例えば、6-アミノヘキサン酸等が挙げられる。
【0068】
非天然型アミノ酸としては、例えば、主鎖の構造が天然型アミノ酸と異なるアミノ酸(例えば、α,α-二置換アミノ酸(例えば、α-メチルアラニン等)、N-アルキル-α-アミノ酸、D-アミノ酸、β-アミノ酸、α-ヒドロキシ酸等)、側鎖の構造が天然型アミノ酸と異なるアミノ酸(例えば、ノルロイシン、ホモヒスチジン等)、側鎖に余分なメチレンを有するアミノ酸(例えば、ホモアミノ酸等)、側鎖中の官能基(例えば、チオール基)がスルホン酸基で置換されたアミノ酸(例えば、システイン酸等)が挙げられる。この他、同一分子内にスルホン酸基とアミノ基を有するアミノアルカンスルホン酸(例えば、アミノエタンスルホン酸(タウリン)等)も非天然型アミノ酸に含まれる。
【0069】
Mで表されるアミノ酸残基は、別段規定される場合を除き、アミノ酸からアミノ基を除いた部分を意味する。α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸及びε-アミノ酸から除かれるアミノ基は、それぞれ、α炭素、β炭素、γ炭素、δ炭素及びε炭素に結合したアミノ基であってもよいし、側鎖に含まれるアミノ基であってもよいが、好ましくは、α炭素、β炭素、γ炭素、δ炭素及びε炭素に結合したアミノ基である。なお、Mがアミノ酸残基を表す場合、M-NH-CO-で表される構造のうち-NH-は、アミノ酸のアミノ基に由来する。このため、Mで表されるアミノ酸残基は、アミノ酸からアミノ基を除いた部分と定義されている。
【0070】
Mで表されるアミノ酸残基又はその塩は、生理的pHにおいて全体として負に帯電し得る限り特に限定されない。Mで表されるアミノ酸残基又はその塩は、好ましくは、酸性アミノ酸残基、中性アミノ酸残基又はそれらの塩であり、さらに好ましくは、酸性アミノ酸残基又はその塩である。
【0071】
酸性アミノ酸残基又はその塩は、2個のカルボキシル基又はその塩を有し、これらのカルボキシル基又はその塩は、生理的pHにおいて電離して負に帯電することができる。したがって、酸性アミノ酸残基又はその塩は、生理的pHにおいて全体として負に帯電することができる。酸性アミノ酸残基又はその塩は、好ましくは、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基又はそれらの塩である。
【0072】
中性アミノ酸残基又はその塩は、1個のカルボキシル基又はその塩を有し、このカルボキシル基又はその塩は、生理的pHにおいて電離して負に帯電することができる。一方、中性アミノ酸残基又はその塩の側鎖に含まれる官能基は生理的pHにおいて無電荷である。したがって、中性アミノ酸残基又はその塩は、生理的pHにおいて全体として負に帯電することができる。中性アミノ酸残基としては、例えば、グリシン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、メチオニン残基、バリン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等が挙げられる。好ましい中性アミノ酸残基としては、例えば、グリシン残基、アラニン残基等が挙げられる。
【0073】
Mで表されるアミノ酸誘導体は、アミノ酸の側鎖に化学修飾を導入することにより製造され、側鎖に化学修飾が導入されている点を除き、アミノ酸と同一の構造を有する。Mで表されるアミノ酸誘導体の残基は、別段規定される場合を除き、アミノ酸誘導体からアミノ基を除いた部分を意味する。α-アミノ酸、β-アミノ酸、γ-アミノ酸、δ-アミノ酸及びε-アミノ酸の誘導体から除かれるアミノ基は、それぞれ、α炭素、β炭素、γ炭素、δ炭素及びε炭素に結合したアミノ基であってもよいし、側鎖に含まれるアミノ基であってもよいが、それぞれ、α炭素、β炭素、γ炭素、δ炭素及びε炭素に結合したアミノ基であることが好ましい。なお、Mがアミノ酸誘導体の残基を表す場合、M-NH-CO-で表される構造のうち-NH-は、アミノ酸誘導体のアミノ基に由来する。このため、Mで表されるアミノ酸誘導体の残基は、アミノ酸誘導体からアミノ基を除いた部分と定義されている。
【0074】
Mで表されるアミノ酸誘導体の残基は、生理的pHにおいて全体として負に帯電し得る限り特に限定されない。Mで表されるアミノ酸誘導体の残基としては、例えば、塩基性アミノ酸誘導体の残基が挙げられる。塩基性アミノ酸誘導体に導入されている誘導体化としては、例えば、塩基性アミノ酸の側鎖のアミノ基の、次式:-NH-CO-R[式中、-NH-は、前記塩基性アミノ酸の側鎖のアミノ基に由来し、Rは、炭化水素基を表す。]で表される基へのアミド化等が挙げられる。塩基性アミノ酸は、α炭素に結合したカルボキシル基と、α炭素に結合したアミノ基と、α炭素に結合した側鎖に含まれるアミノ基とを有する。側鎖のアミノ基が、-NH-CO-Rに誘導体化されることにより、塩基性アミノ酸誘導体の残基は、生理的pHにおいて全体として負に帯電することができる。
【0075】
塩基性アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。
【0076】
塩基性アミノ酸の側鎖のアミノ基をアミド化するために使用されるカルボン酸としては、例えば、式:R-COOH(式中、Rは、上記と同義である。)で表される脂肪族カルボン酸を使用することができる。
【0077】
で表される炭化水素基は、好ましくは、脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよいが、好ましくは飽和である。脂肪族炭化水素基の炭素数は、通常1~10個、好ましくは1~6個、さらに好ましくは1~4個、さらに一層好ましくは1~2個である。不飽和結合は、炭素-炭素二重結合であってもよいし、炭素-炭素三重結合であってもよいが、好ましくは炭素-炭素二重結合である。
【0078】
で表される脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル等が挙げられるが、好ましくは、アルキル基又はアルケニル基であり、さらに好ましくは、アルキル基である。Rで表される脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、tert-ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、エチレン基、プロピレン基、ブテン基、イソブテン基、イソプレン基、ペンテン基、ヘキセン基、ヘプテン基、オクテン基、ノネン基、デセン基等が挙げられる。Rで表される脂肪族炭化水素基の好ましい具体例としては、メチル基、エチル基等が挙げられる。
【0079】
Mで表されるペプチド残基は、別段規定される場合を除き、ペプチドからアミノ基を除いた部分を意味する。ペプチドから除かれるアミノ基は、α炭素、β炭素、γ炭素、δ炭素又はε炭素に結合したアミノ基であってもよいし、側鎖に含まれるアミノ基であってもよいが、好ましくは、α炭素、β炭素、γ炭素、δ炭素又はε炭素に結合したアミノ基である。なお、Mがペプチド残基を表す場合、M-NH-CO-で表される構造のうち-NH-は、ペプチドのアミノ基に由来する。このため、Mで表されるペプチド残基は、ペプチドからアミノ基を除いた部分と定義されている。
【0080】
Mで表されるペプチド残基を構成するアミノ酸残基の種類及び個数は、生理的pHにおいてペプチド残基が全体として負に帯電し得る限り特に限定されない。なお、ここでのアミノ酸残基は、通常の意味(アミノ酸から、アミノ基のH及び/又はカルボキシル基のOHを除いた部分)であり、上記意味(アミノ酸からアミノ基を除いた部分)とは異なる。
【0081】
Mで表されるペプチド残基は、酸性アミノ酸残基、中性アミノ酸残基及び塩基性アミノ酸残基から選択される1種又は2種以上のアミノ酸残基で構成され得るが、酸性アミノ酸残基及び中性アミノ酸残基から選択される1種又は2種以上のアミノ酸残基で構成されることが好ましく、酸性アミノ酸残基から選択される1種又は2種以上のアミノ酸残基で構成されることがさらに好ましく、アスパラギン酸及びグルタミン酸から選択される1種又は2種のアミノ酸残基で構成されることがさらに一層好ましい。
【0082】
Mで表されるペプチド残基において、生理的pHにおいて負に帯電し得る官能基(例えば、カルボキシル基又はその塩)の数と、生理的pHにおいて正に帯電し得る官能基(例えば、アミノ基)の数との差(生理的pHにおいて負に帯電し得る官能基の数-生理的pHにおいて正に帯電し得る官能基の数)は、好ましくは1以上、さらに好ましくは2以上、さらに一層好ましくは3以上である。当該差の上限値は特に限定されないが、好ましくは10、さらに一層好ましくは8、さらに一層好ましくは4である。Mで表されるペプチド残基において、生理的pHにおいて正に帯電し得る官能基(例えば、アミノ基)の数は、好ましくは4以下、さらに好ましくは2以下、さらに一層好ましくはゼロである。
【0083】
Mで表されるペプチド残基を構成するアミノ酸残基の個数は、通常2~12個、好ましくは2~7個、さらに好ましくは2~5個、さらに一層好ましくは2~4個である。
【0084】
Mで表されるペプチド残基は、好ましくは、1個又は2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基であり、さらに好ましくは、2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基であり、さらに一層好ましくは、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基から選択される2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基である。1個又は2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基は、中性アミノ酸残基を含んでもよいし、含まなくてもよい。1個又は2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基は、塩基性アミノ酸残基を含んでもよいし、含まなくてもよいが、塩基性アミノ酸残基を含まないことが好ましい。すなわち、1個又は2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基は、酸性アミノ酸残基及び中性アミノ酸残基で構成されることが好ましく、酸性アミノ酸残基で構成されることがさらに好ましい。
【0085】
アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基から選択される2個以上の酸性アミノ酸残基を含むペプチド残基としては、例えば、以下の式(XII)で表されるペプチド残基(以下「AG残基」という場合がある)が挙げられる。AG残基は、アスパラギン酸残基及びグルタミン酸残基から選択される3個の酸性アミノ酸残基で構成されるペプチド残基である。
【0086】
【化22】
【0087】
式(XII)において、mは、1又は2を表す。式(XII)に存在する複数のmが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0088】
Mで表されるアミノ酸残基、アミノ酸誘導体の残基又はペプチド残基の塩は、通常、カルボキシル基が形成する塩であり、その具体例としては、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩等が挙げられる。
【0089】
式(I)において、Rは、炭化水素基を表す。なお、Rは、一価の官能基である。
【0090】
Rで表される炭化水素基の炭素数は、通常8~30個、好ましくは10~24個、さらに好ましくは12~22個、さらに一層好ましくは14~18個である。
【0091】
Rで表される炭化水素基は、好ましくは、脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよいが、好ましくは飽和である。脂肪族炭化水素基の炭素数は、好ましくは10~24個、さらに好ましくは12~22個、さらに一層好ましくは14~18個である。脂肪族炭化水素基が不飽和結合を有する場合、不飽和結合の数は、通常1~6個、好ましくは1~4個、さらに好ましくは1~3個、さらに一層好ましくは1~2個である。不飽和結合は、炭素-炭素二重結合であってもよいし、炭素-炭素三重結合であってもよいが、好ましくは炭素-炭素二重結合である。
【0092】
Rで表される脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル等が挙げられるが、好ましくは、アルキル基又はアルケニル基であり、さらに好ましくは、アルキル基である。Rで表される脂肪族炭化水素基の具体例としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基、ヘンイコシル基、ドコシル基、ドデセニル基、トリコシル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、ノナデセニル基、イコセニル基、ヘンイコセニル基、ドコセニル基、トリコセニル基、トリデカジエニル基、テトラデカジエニル基、ペンタデカジエニル基、ヘキサデカジエニル基、ヘプタデカジエニル基、オクタデカジエニル基、ノナデカジエニル基、イコサジエニル基、ヘンイコサジエニル基、ドコサジエニル基、オクタデカトリエニル基、イコサトリエニル基、イコサテトラエニル基、イコサペンタエニル基、ドコサヘキサエニル基、メチルドデシル基、メチルトリデシル基、メチルテトラデシル基、メチルペンタデシル基、メチルヘプタデシル基、メチルオクタデシル基、メチルノナデシル基、メチルイコシル基、メチルヘンイコシル基、メチルドコシル基、エチルウンデシル基、エチルドデシル基、エチルトリデシル基、エチルテトラデシル基、エチルペンタデシル基、エチルヘプタデシル基、エチルオクタデシル基、エチルノナデシル基、エチルイコシル基、エチルヘンイコシル基、ヘキシルヘプチル基、ヘキシルノニル基、ヘプチルオクチル基、ヘプチルデシル基、オクチルノニル基、オクチルウンデシル基、ノニルデシル基、デシルウンデシル基、ウンデシルドデシル基、ヘキサメチルウンデシル基等が挙げられる。好ましい脂肪族炭化水素基としては、例えば、テトラデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。
【0093】
式(I)において、Lは、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-、-NH-CO-、-CO-S-、-S-CO-又は-S-S-を表す。Lは、好ましくは、-CO-O-、-O-CO-、-CO-NH-又は-NH-CO-を表す。式(I)に複数のLが存在する場合(pが1以上である場合)、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、Lは二価の官能基であり、Lの左右は、式(I)の左右に対応する。すなわち、(*a1)-L-(*a2)は、左側の結合手(*a1)を介して、式(I)においてLの左側に存在する基と結合し、右側の結合手(*a2)を介して、式(I)においてLの右側に存在する基と結合する。したがって、-CO-O-及び-O-CO-は区別され、-CO-NH-及び-NH-CO-は区別され、-CO-S-及び-S-CO-は区別される。
【0094】
式(I)において、Xは、炭化水素基、中性アミノ酸残基又はポリアルキレングリコール残基を表す。式(I)に複数のXが存在する場合(pが1以上である場合)、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、Xは、二価の官能基である。
【0095】
Xで表される炭化水素基の炭素数は、通常1~6個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに一層好ましくは1~2個である。
【0096】
Xで表される炭化水素基は、好ましくは脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよいが、好ましくは直鎖状である。脂肪族炭化水素基は、飽和であってもよいし、不飽和であってもよいが、好ましくは飽和である。不飽和結合は、炭素-炭素二重結合であってもよいし、炭素-炭素三重結合であってもよいが、好ましくは炭素-炭素二重結合である。Xで表される脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等が挙げられるが、好ましくは、アルキレン基又はアルケニレン基であり、さらに好ましくは、アルキレン基である。アルキレン基の炭素数は、通常1~6個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1~4個、さらに一層好ましくは1~2個である。アルケニレン基の炭素数は、通常2~6個、好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~4個、さらに一層好ましくは2~3個である。アルキニレン基の炭素数は、通常2~6個、好ましくは2~5個、さらに好ましくは2~4個、さらに一層好ましくは2~3個である。
【0097】
アルキレン基として、例えば、-CH-、-(CH-、-(CH-、-CH(CH)CH-、-CHCH(CH)-、-(CH-、-CH(CH)(CH-、-(CHCH(CH)-、-C(CHCH-、-CHC(CH-、-(CH-、-CH(CH)(CH-、-(CHCH(CH)-、-CH(C)(CH-、-(CHCH(C)-、-CHCH(CH)(CH-、-(CHCH(CH)CH-、-CHCH(C)CH-、-C(CH(CH-、-(CHC(CH-、-CHC(CHCH-、-(CH-、-CH(CH)(CH-、-(CHCH(CH)-、-CH(C)(CH-、-CHCH(CH)(CH-、-(CHCH(CH)CH-、-(CHCH(CH)(CH-、-(CHCH(C)-、-C(CH(CH-、-(CHC(CH-、-CHC(CH(CH-、-(CHC(CHCH-、-C(CHC(CH-等が挙げられる。好ましいアルキレン基としては、例えば、-CH-、-(CH-等が挙げられる。
【0098】
アルケニレン基としては、例えば、-CH=CH-、-CH=CH-CH-、-CH-CH=CH-、-CH=CH-CH-CH-、-CH-CH=CH-CH-、-CH-CH-CH=CH-、-CH=CH-CH=CH-、-C(CH)=CH-CH-、-CH=C(CH)-CH-、-CH=CH-CH(CH)-、-CH(CH)-CH=CH-、-CH-C(CH)=CH-、-CH-CH=C(CH)-、-CH=CH-CH-CH-CH-、-CH-CH=CH-CH-CH-、-CH-CH-CH=CH-CH-、-CH-CH-CH-CH=CH-、-CH=CH-CH-CH-CH-CH-、-CH-CH=CH-CH-CH-CH-、-CH-CH-CH=CH-CH-CH-、-CH-CH-CH-CH=CH-CH-、-CH-CH-CH-CH-CH=CH-等が挙げられる。好ましいアルケニレン基としては、例えば、-CH=CH-、-CH=CH-CH-等が挙げられる。
【0099】
アルキニレン基としては、例えば、-C≡C-、-C≡C-CH-、-CH-C≡C-、-C≡C-CH-CH-、-CH-C≡C-CH-、-CH-CH-C≡C-、-C≡C-CH-CH-CH-、-CH-C≡C-CH-CH-、-CH-CH-C≡C-CH-、-CH-CH-CH-C≡C-、-C≡C-CH-CH-CH-CH-、-CH-C≡C-CH-CH-CH-、-CH-CH-C≡C-CH-CH-、-CH-CH-CH-C≡C-CH-、-CH-CH-CH-CH-C≡C-等が挙げられる。好ましいアルキニレン基としては、例えば、-C≡C-、-C≡C-CH-等が挙げられる。
【0100】
Xで表される中性アミノ酸残基は、別段規定される場合を除き、中性アミノ酸からカルボキシル基及びアミノ基を除いた部分を意味する。中性アミノ酸のカルボキシル基及びアミノ基は、式(I)のうちXの隣接部分(-CO-又は-L-)の形成に使用される。例えば、カルボン酸型脂質(I)が-CO-X-L-の構造を有する場合(例えば、pが0である場合)、中性アミノ酸残基のカルボキシル基は、-CO-X-L-の構造のうち-CO-の形成に使用され、中性アミノ酸のアミノ基は、-CO-X-L-の構造のうち-L-の形成に使用される。カルボン酸型脂質(I)が-L-X-L-の構造を有する場合(例えば、pが1以上の整数である場合)、中性アミノ酸残基のカルボキシル基は、-L-X-L-の構造のうち一方の-L-の形成に使用され、中性アミノ酸のアミノ基は、-L-X-L-の構造のうち他方の-L-の形成に使用される。このため、Xで表される中性アミノ酸残基は、中性アミノ酸からカルボキシル基及びアミノ基を除いた部分と定義されている。
【0101】
Xで表される中性アミノ酸残基は、側鎖に反応性官能基(例えば、ヒドロキシル基、チオール基等)を有しない中性アミノ酸残基であることが好ましい。好ましい中性アミノ酸残基としては、例えば、グリシン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、バリン残基、メチオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等が挙げられ、さらに好ましい中性アミノ酸残基としては、例えば、グリシン残基、アラニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等が挙げられる。Xで表される中性アミノ酸残基が、側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸残基である場合、Xが炭化水素基である場合と重なる。Xが炭化水素基である場合との重なりを排除する点から、Xで表される中性アミノ酸残基は、好ましくは、側鎖が炭化水素基でない中性アミノ酸残基である。側鎖が炭化水素基でない中性アミノ酸残基としては、例えば、メチオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等が挙げられる。
【0102】
Xで表されるポリアルキレングリコール残基は、別段規定される場合を除き、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール誘導体から両末端の官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基等)を除いた部分を意味する。なお、ポリアルキレングリコール誘導体は、ポリアルキレングリコールの両末端のヒドロキシル基のうち一方又は両方をその他の官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、チオール基等)に置換したものである。ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール誘導体の両末端の官能基(例えば、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、チオール基等)は、式(I)のうちXの隣接部分(-CO-又は-L-)の形成に使用される。例えば、ポリアルキレングリコール誘導体の両末端の官能基がカルボキシル基及びヒドロキシル基であり、カルボン酸型脂質(I)が-CO-X-L-の構造を有する場合(例えば、pが0である場合)、ポリアルキレングリコール誘導体のカルボキシル基は、-CO-X-L-の構造のうち-CO-の形成に使用され、ポリアルキレングリコール誘導体のヒドロキシル基は、-CO-X-L-の構造のうち-L-の形成に使用される。カルボン酸型脂質(I)が-L-X-L-の構造を有する場合(例えば、pが1以上の整数である場合)、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール誘導体の一方の末端の官能基は、-L-X-L-の構造のうち一方の-L-の形成に使用され、他方の末端の官能基は、-L-X-L-の構造のうち他方の-L-の形成に使用される。このため、Xで表されるポリアルキレングリコール残基は、ポリアルキレングリコール又はポリアルキレングリコール誘導体から両末端の官能基を除いた部分と定義されている。
【0103】
ポリアルキレングリコールを構成するアルキレングリコール単位としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等が挙げられる。ポリアルキレングリコールを構成するアルキレングリコール単位は、1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0104】
ポリアルキレングリコールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリブチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリオキシエチレンオキシプロピレングリコール等が挙げられる。また、ポリアルキレングリコールの分子量は、好ましくは400~40000、さらに好ましくは1000~10000、さらに一層好ましくは2000~5000である。
【0105】
式(I)において、pは、0以上の整数を表す。pは、通常0~4の整数、好ましくは0~3の整数、さらに好ましくは0~2の整数、さらに一層好ましくは0~1の整数である。
【0106】
<カルボン酸型脂質(II)>
カルボン酸型脂質(II)は、以下の式(II)で表される。
【0107】
【化23】
【0108】
式(II)において、M及びRは、上記と同義である。
【0109】
<カルボン酸型脂質(III)>
カルボン酸型脂質(III)は、以下の式(III)で表される。なお、式(III)に存在する複数の同一の記号(例えば、L、X、q、Y等)の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0110】
【化24】
【0111】
式(III)において、M、L、X及びpは、上記と同義である。Yの意義は後述する。式(III)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(III)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0112】
式(III)において、qは、0以上の整数を表す。qは、通常0~8の整数、好ましくは0~6の整数、さらに好ましくは0~4の整数、さらに一層好ましくは0~2の整数である。式(III)に存在する複数のqが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。他の式に存在する複数のqが表す整数も同様である。
【0113】
<カルボン酸型脂質(IV)>
カルボン酸型脂質(IV)は、以下の式(IV)で表される。なお、式(IV)に存在する複数の同一の記号(例えば、q、Y等)の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0114】
【化25】
【0115】
式(IV)において、M及びqは、上記と同義である。Yの意義は後述する。式(IV)に存在する複数のqが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0116】
<カルボン酸型脂質(V)>
カルボン酸型脂質(V)は、以下の式(V)で表される。なお、式(V)に存在する複数の同一の記号(例えば、L、X、q、Z等)の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0117】
【化26】
【0118】
式(V)において、R、L、X、p及びqは、上記と同義である。Zの意義は後述する。式(V)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(V)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(V)に存在する複数のqが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0119】
<カルボン酸型脂質(VI)>
カルボン酸型脂質(VI)は、以下の式(VI)で表される。なお、式(VI)に存在する複数の同一の記号(例えば、L、X、q、Y、Z等)の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0120】
【化27】
【0121】
式(VI)において、L、X、p及びqは、上記と同義である。Y及びZの意義は後述する。式(VI)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(VI)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(VI)に存在する複数のqが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0122】
<分岐部分>
式(III)、(IV)、(V)及び(VI)において、以下の式(BP)で表される分岐部分は、例えば、三官能性化合物に由来する(すなわち、三官能性化合物の残基である)。三官能性化合物の残基は、別段規定される場合を除き、三官能性化合物から3個の反応性官能基を除いた部分を意味する。なお、三官能性化合物の3個の反応性官能基は、分岐部分に隣接する部分(-CO-又は-L-)の形成に使用される。このため、三官能性化合物の残基は、三官能性化合物から3個の反応性官能基を除いた部分と定義されている。
【0123】
【化28】
【0124】
三官能性化合物は、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から独立して選択される第1、第2及び第3の官能基を有する。第1及び第2の官能基は、同一であってもよいし、異なっていてもよいが、異なることが好ましい。第3の官能基は、第1及び第2の官能基の一方又は両方と同一であってもよいし、異なっていてもよいが、第1及び第2の官能基の一方又は両方と異なることが好ましい。三官能性化合物としては、例えば、三官能性アミノ酸等が挙げられる。三官能性アミノ酸は、カルボキシル基である第1の官能基と、アミノ基である第2の官能基と、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される第3の官能基とを有するアミノ酸である。第3の官能基は、第1及び第2の官能基の一方又は両方と異なることが好ましい。三官能性アミノ酸としては、例えば、α炭素に結合したカルボキシル基及びアミノ基を有するとともに、側鎖にカルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を有するアミノ酸が挙げられる。このようなアミノ酸としては、例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸、リシン、セリン等が挙げられる。
【0125】
一実施形態において、分岐部分における3個のqは全て0である。別の実施形態において、分岐部分における3個のqのうち、1個のqは、1以上の整数、例えば、1、2、3又は4であり、残りの2個のqは0である。さらに別の実施形態において、分岐部分における3個のqのうち、2個のqは、同一又は異なって、1以上の整数、例えば、1、2、3又は4であり、残りの1個のqは0である。さらに別の実施形態において、分岐部分における3個のqは、同一又は異なって、1以上の整数、例えば、1、2、3又は4である。
【0126】
分岐部分がアスパラギン酸に由来する場合、3個のqのうち、1個のqは1であり、残りの2個のqは0である。
【0127】
分岐部分がグルタミン酸に由来する場合、3個のqのうち、1個のqは2であり、残りの2個のqは0である。
【0128】
分岐部分がリシンに由来する場合、3個のqのうち、1個のqは4であり、残りの2個のqは0である。
【0129】
分岐部分がセリンに由来する場合、3個のqのうち、1個のqは1であり、残りの2個のqは0である。
【0130】
<Yの意義>
式(III)、(IV)及び(VI)において、Yは、1個以上の単位Y1で構成される分岐鎖本体部と、該分岐鎖本体部に結合した1個以上の基Y2とで構成される分岐鎖を表すか、又は、1個の基Y2で構成される直鎖を表す。式(III)、(IV)及び(VI)のそれぞれに存在する複数のYの意義は、Yの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、それぞれのYの構造式に複数の同一の記号(例えば、R、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0131】
それぞれの単位Y1は、以下の式(VII)で表される。Yが2個以上の単位Y1を含む場合、これらの単位Y1の意義は、Y1の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、それぞれのY1の構造式に複数の同一の記号(例えば、L、X、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0132】
【化29】
【0133】
式(VII)において、L、X、p及びqは、上記と同義である。式(VII)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(VII)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(VII)に存在する複数のqが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0134】
式(VII)において、(*b1)、(*b2)及び(*b3)は、それぞれの単位Y1の結合手を表す。
【0135】
それぞれの基Y2は、以下の式(VIII)で表される。Yが2個以上の基Y2を含む場合、これらの基Y2の意義は、Y2の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、それぞれのY2の構造式に複数の同一の記号(例えば、L、X等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0136】
【化30】
【0137】
式(VIII)において、R、L、X及びpは、上記と同義である。式(VIII)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(VIII)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。本発明のカルボン酸型脂質が複数の基Y2を有する場合、複数の基Y2に含まれるR(式(VIII)におけるR)の意義は、Rの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0138】
式(VIII)において、(*b4)は、それぞれの基Y2の結合手を表す。
【0139】
一実施形態において、Yは、1個以上の単位Y1で構成される分岐鎖本体部と、該分岐鎖本体部に結合した1個以上の基Y2とで構成される分岐鎖を表す。
【0140】
分岐鎖本体部が1個の単位Y1で構成される場合、単位Y1の結合手(*b1)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合している。分岐鎖本体部が1個の単位Y1で構成される場合、分岐鎖本体部には2個の基Y2が結合している。それぞれの基Y2の結合手(*b4)は、分岐鎖本体部を構成する単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)に結合しており、それぞれの基Y2は、Yの末端部を構成している。
【0141】
分岐鎖本体部が2個以上の単位Y1で構成される場合、それぞれの単位Y1の結合手(*b1)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合しているか、あるいは、分岐鎖本体部を構成する別の単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)と結合している。すなわち、分岐鎖本体部が2個以上の単位Y1で構成される場合、分岐鎖本体部は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合している1個の単位Y1に加えて、別の単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)に結合手(*b1)が結合している1個以上の単位Y1を含む。分岐鎖本体部が2個以上の単位Y1で構成される場合、分岐鎖本体部には(単位Y1の個数+1)個の基Y2が結合している。それぞれの基Y2の結合手(*b4)は、分岐鎖本体部を構成するいずれかの単位Y1の結合手(*b2)又は(*b3)に結合しており、それぞれの基Y2は、Yの末端部を構成している。
【0142】
Yが、1個以上の単位Y1で構成される分岐鎖本体部と、該分岐鎖本体部に結合した1個以上の基Y2とで構成される分岐鎖を表す実施形態において、Yに含まれる単位Y1の個数は、1個以上である限り特に限定されない。Yに含まれる単位Y1の個数は、通常1~4個、好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、さらに一層好ましくは1個である。Yに含まれる基Y2の個数は、Yに含まれる単位Y1の個数によって決まる。単位Y1の個数が1個以上である場合、分岐鎖本体部に結合する基Y2の個数は(単位Y1の個数+1)個である。
【0143】
別の実施形態において、Yは、1個の基Y2で構成される直鎖を表す。この実施形態において、基Y2の結合手(*b4)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合している。
【0144】
Yが、基Y2で構成される直鎖を表す実施形態において、Yは単位Y1を含まず(単位Y1の個数はゼロ)、Yに含まれる基Y2の個数は1個である。
【0145】
それぞれのYは、例えば、以下の式(XIII)、(XIV)、(XV)及び(XVI)で表される直鎖及び分岐鎖から選択することができる。
【0146】
【化31】
【0147】
【化32】
【0148】
【化33】
【0149】
【化34】
【0150】
式(XIII)~(XVI)において、Y1は、1個の単位Y1を表し、Y2は、1個の基Y2を表し、(*b)は、式(III)、(IV)又は(VI)における(CHと結合する単位Y1の結合手を表す。
【0151】
<Zの意義>
式(V)及び(VI)において、Zは、1個以上の単位Z1で構成される分岐鎖本体部と、該分岐鎖本体部に結合した1個以上の基Z2とで構成される分岐鎖を表すか、又は、1個の基Z2で構成される直鎖を表す。式(V)及び(VI)のそれぞれに存在する複数のZの意義は、Zの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、それぞれのZの構造式に複数の同一の記号(例えば、M、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0152】
それぞれの単位Z1は、以下の式(IX)で表される。Zが2個以上の単位Z1を含む場合、これらの単位Z1の意義は、Z1の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、それぞれのZ1の構造式に複数の同一の記号(例えば、L、X、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0153】
【化35】
【0154】
式(IX)において、L、X、p及びqは、上記と同義である。式(IX)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(IX)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(IX)に存在する複数のqが表す整数は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0155】
式(IX)において、(*c1)、(*c2)及び(*c3)は、それぞれの単位Z1の結合手を表す。
【0156】
それぞれの基Z2は、以下の式(X)及び(XI)で表される基から選択される。
【0157】
【化36】
【0158】
【化37】
【0159】
式(X)において、M、L、X及びpは、上記と同義であり、(*c4)は、それぞれの基Z2の結合手を表す。式(XI)において、Mは、上記と同義であり、(*c5)は、それぞれの基Z2の結合手を表す。式(X)に複数のLが存在する場合、これらの複数のLの意義は、Lの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。式(X)に複数のXが存在する場合、これらの複数のXの意義は、Xの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。本発明のカルボン酸型脂質が複数の基Z2を有する場合、複数の基Z2に含まれるR(式(X)又は(XI)におけるR)の意義は、Rの定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0160】
一実施形態において、Zは、1個以上の単位Z1で構成される分岐鎖本体部と、該分岐鎖本体部に結合した1個以上の基Z2とで構成される分岐鎖を表す。
【0161】
分岐鎖本体部が1個の単位Z1で構成される場合、単位Z1の結合手(*c1)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合している。分岐鎖本体部が1個の単位Z1で構成される場合、分岐鎖本体部には2個の基Z2が結合している。それぞれの基Z2の結合手(*c4)又は(*c5)は、分岐鎖本体部を構成する単位Z1の結合手(*c2)又は(*c3)に結合しており、それぞれの基Z2は、Zの末端部を構成している。
【0162】
分岐鎖本体部が2個以上の単位Z1で構成される場合、それぞれの単位Z1の結合手(*c1)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合しているか、あるいは、分岐鎖本体部を構成する別の単位Z1の結合手(*c2)又は(*c3)と結合している。すなわち、分岐鎖本体部が2個以上の単位Z1で構成される場合、分岐鎖本体部は、式(V)又は(VI)における(CHと結合している1個の単位Z1に加えて、別の単位Z1の結合手(*c2)又は(*c3)に結合手(*c1)が結合している1個以上の単位Z1を含む。分岐鎖本体部が2個以上の単位Z1で構成される場合、分岐鎖本体部には(単位Z1の個数+1)個の基Z2が結合している。それぞれの基Z2の結合手(*c4)又は(*c5)は、分岐鎖本体部を構成するいずれかの単位Z1の結合手(*c2)又は(*c3)に結合しており、それぞれの基Z2は、Zの末端部を構成している。
【0163】
Zが、1個以上の単位Z1で構成される分岐鎖本体部と、該分岐鎖本体部に結合した1個以上の基Z2とで構成される分岐鎖を表す実施形態において、Zに含まれる単位Z1の個数は、1個以上である限り特に限定されない。Zに含まれる単位Z1の個数は、通常1~4個、好ましくは1~3個、さらに好ましくは1~2個、さらに一層好ましくは1個である。Zに含まれる基Z2の個数は、Zに含まれる単位Z1の個数によって決まる。単位Z1の個数が1個以上である場合、分岐鎖本体部に結合する基Z2の個数は(単位Z1の個数+1)個である。
【0164】
別の実施形態において、Zは、1個の基Z2で構成される直鎖を表す。この実施形態において、基Z2の結合手(*c4)又は(*c5)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合している。
【0165】
Zが、基Z2で構成される直鎖を表す実施形態において、Zは単位Z1を含まず(単位Z1の個数はゼロ)、Zに含まれる基Z2の個数は1個である。
【0166】
それぞれのZは、例えば、以下の式(XVII)、(XVIII)、(XIX)及び(XX)で表される直鎖及び分岐鎖から選択することができる。
【0167】
【化38】
【0168】
【化39】
【0169】
【化40】
【0170】
【化41】
【0171】
式(XVII)~(XX)において、Z1は、1個の単位Z1を表し、Z2は、1個の基Z2を表し、(*c)は、式(V)又は(VI)における(CHと結合する単位Z1の結合手を表す。
【0172】
<カルボン酸型脂質(I)の製造方法>
以下、カルボン酸型脂質(I)の製造方法の一実施形態について説明する。なお、ある1個の化合物の構造式に複数の同一の記号(例えば、L、X等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、2個以上の化合物の構造式に同一の記号(例えば、L、X等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0173】
(工程1A)
以下の式(1):
M-NH (1)
[式中、Mは、上記と同義である。]
で表される化合物(1)を準備する。
【0174】
化合物(1)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(1)は、市販品であってもよい。
【0175】
(工程2A)
以下の式(2):
HOOC-X-A (2)
[式中、Xは、上記と同義であり、Aは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(2)を準備する。
【0176】
化合物(2)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(2)は、市販品であってもよい。
【0177】
Xが炭化水素基である場合、Aは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。
【0178】
Xが炭化水素基であり、Aがカルボキシル基である場合、化合物(2)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、2-メチルグルタル酸、3-メチルグルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、2-ペンテン二酸、イタコン酸、アリルマロン酸、イソプロピリデンコハク酸、2,2,4-トリメチルアジピン酸、2,4,4-トリメチルアジピン酸、2,4-ヘキサジエン二酸、アセチレンジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸は、酸無水物であってもよい。
【0179】
Xが炭化水素基であり、Aがアミノ基である場合、化合物(2)としては、例えば、側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸等が挙げられる。側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸としては、例えば、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、バリン等が挙げられる。
【0180】
Xが炭化水素基であり、Aがヒドロキシル基である場合、化合物(2)としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、乳酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシカプリン酸等が挙げられる。
【0181】
Xが炭化水素基であり、Aがチオール基である場合、化合物(2)としては、例えば、脂肪族カルボン酸チオール等が挙げられる。脂肪族カルボン酸チオールとしては、例えば、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトブタン酸、2-メルカプトイソ酪酸、3-メルカプトイソ酪酸、3-メルカプト-3-メチル酪酸、2-メルカプト吉草酸、3-メルカプトイソ吉草酸、4-メルカプト吉草酸、3-フェニル-3メルカプトプロピオン酸等が挙げられる。
【0182】
Xが中性アミノ酸残基である場合、Aはアミノ基であり、化合物(2)は、中性アミノ酸である。中性アミノ酸としては、例えば、グリシン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、バリン残基、メチオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等が挙げられる。Xが炭化水素基である場合との重なりを排除する点から、中性アミノ酸は、好ましくは、側鎖が炭化水素基でない中性アミノ酸である。側鎖が炭化水素基でない中性アミノ酸としては、例えば、メチオニン、アスパラギン、グルタミン等が挙げられる。
【0183】
Xがポリアルキレングリコール残基である場合、Aは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基であり、化合物(2)は、一方の末端にカルボキシル基を有し、他方の末端にカルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基又はチオール基を有するポリアルキレングリコール誘導体である。一方又は両方の末端に様々な官能基が導入されたポリアルキレングリコール誘導体が市販されている。
【0184】
(工程3A)
必要に応じて、以下の式(3):
-X-[L-X]p-1-E (3)
[式中、L及びXは、上記と同義であり、pは1以上の整数を表し、D及びEは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(3)を準備する。
【0185】
官能基Dは、化合物(2)の官能基Aと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。Aがカルボキシル基である場合、Dはアミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基である。Aがアミノ基である場合、Dはカルボキシル基である。Aがヒドロキシル基である場合、Dはカルボキシル基である。Aがチオール基である場合、Dはカルボキシル基又はチオール基である。
【0186】
化合物(3)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(3)は、市販品であってもよい。
【0187】
以下、化合物(3)の製造方法の一実施形態について説明する。
【0188】
pが表す整数に応じて、式:D-X-Eで表される化合物(3-1)、式:D-X-Eで表される化合物(3-2)、式:D-X-Eで表される化合物(3-3)、・・・・、式:D-X-Eで表される化合物(3-p)を準備する。例えば、pが1である場合、化合物(3-1)を準備し、pが2である場合、化合物(3-1)及び化合物(3-2)を準備し、pが3である場合、化合物(3-1)、化合物(3-2)及び化合物(3-3)を準備する。
【0189】
官能基D及び官能基Eは、上記と同義である。
【0190】
官能基E~Ep-1は、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。
【0191】
官能基D~Dは、それぞれ、官能基E~Ep-1と反応し得る官能基であり、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。例えば、官能基Dは、官能基Eと反応し得る官能基であり、官能基Dは、官能基Eと反応し得る官能基であり、官能基Dは、官能基Ep-1と反応し得る官能基である。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0192】
以下、化合物(3-1)~(3-p)を、式:D-X-Eで表される化合物(3-k)で一般化し(k=1、2、・・・、p)、化合物(3-k)について説明する。
【0193】
Xが炭化水素基である場合、D及びEは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。
【0194】
Xが炭化水素基であり、Dがカルボキシル基であり、Eがカルボキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸の具体例は上記と同様である。脂肪族ジカルボン酸は、酸無水物であってもよい。
【0195】
Xが炭化水素基であり、Dがカルボキシル基であり、Eがアミノ基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸等が挙げられる。側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸の具体例は上記と同様である。
【0196】
Xが炭化水素基であり、Dがカルボキシル基であり、Eがヒドロキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例は上記と同様である。
【0197】
Xが炭化水素基であり、Dがカルボキシル基であり、Eがチオール基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族カルボン酸チオール等が挙げられる。脂肪族カルボン酸チオールの具体例は上記と同様である。
【0198】
Xが炭化水素基であり、Dがアミノ基であり、Eがカルボキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸等が挙げられる。側鎖が炭化水素基である中性アミノ酸の具体例は上記と同様である。
【0199】
Xが炭化水素基であり、Dがアミノ基であり、Eがアミノ基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ジアミン等が挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、例えば、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,2-エタンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン等が挙げられる。
【0200】
Xが炭化水素基であり、Dがアミノ基であり、Eがヒドロキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ヒドロキシアミン等が挙げられる。脂肪族ヒドロキシアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、トリプロパノールアミン、モノブタノールアミン、ジブタノールアミン、トリブタノールアミン、N-メチル-ジエタノールアミン、N,N-ジメチルモノエタノールアミン、アミノメチルプロパノール等が挙げられる。
【0201】
Xが炭化水素基であり、Dがアミノ基であり、Eがチオール基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、チオール基を有する脂肪族アミン等が挙げられる。チオール基を有する脂肪族アミンとしては、例えば、システアミン、N-アルキルシステアミン、3-アミノプロパンチオール、4-アミノブタンチオール等が挙げられる。
【0202】
Xが炭化水素基であり、Dがヒドロキシル基であり、Eがカルボキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ヒドロキシカルボン酸の具体例は上記と同様である。
【0203】
Xが炭化水素基であり、Dがヒドロキシル基であり、Eがアミノ基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ヒドロキシアミン等が挙げられる。脂肪族ヒドロキシアミンの具体例は上記と同様である。
【0204】
Xが炭化水素基であり、Dがヒドロキシル基であり、Eがヒドロキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ジオール等が挙げられる。脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,2-ブチレングリコール、1,4-ブチレングリコール、イソペンタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,3-ヘキサンジオール、1,4-ヘキサンジオール、1,5-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘプタンジオール、1,3-ヘプタンジオール、1,4-ヘプタンジオール、1,5-ヘプタンジオール、1,6-ヘプタンジオール、1,7-ヘプタンジオール、2,4-ヘプタンジオール、3,4-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、2,3-オクタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,5-ジメチル-2,5-ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0205】
Xが炭化水素基であり、Dがヒドロキシル基であり、Eがチオール基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、チオール基を有する脂肪族アルコール等が挙げられる。チオール基を有する脂肪族アルコールとしては、例えば、2-メルカプトエタノール、3-メルカプト-1-プロパノール、3-メルカプト-2-プロパノール、4-メルカプト-1-ブタノール、4-メルカプト-2-ブタノール、4-メルカプト-3-ブタノール、1-メルカプト-1,1-メタンジオール、1-メルカプト-1,1-エタンジオール、3-メルカプト-1,2-プロパンジオール(α-チオグリセロール)、2-メルカプト-1,2-プロパンジオール、2-メルカプト-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メルカプト-2-エチル-1,3-プロパンジオール、1-メルカプト-2,2-プロパンジオール、2-メルカプトエチル-2-メチル-1,3-プロパンジオール、2-メルカプトエチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール等が挙げられる。
【0206】
Xが炭化水素基であり、Dがチオール基であり、Eがカルボキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族カルボン酸チオール等が挙げられる。脂肪族カルボン酸チオールの具体例は上記と同様である。
【0207】
Xが炭化水素基であり、Dがチオール基であり、Eがアミノ基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、チオール基を有する脂肪族アミン等が挙げられる。チオール基を有する脂肪族アミンの具体例は上記と同様である。
【0208】
Xが炭化水素基であり、Dがチオール基であり、Eがヒドロキシル基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、チオール基を有する脂肪族アルコール等が挙げられる。チオール基を有する脂肪族アルコールの具体例は上記と同様である。
【0209】
Xが炭化水素基であり、Dがチオール基であり、Eがチオール基である場合、化合物(3-k)としては、例えば、脂肪族ジチオール等が挙げられる。脂肪族ジチオールとしては、例えば、1,4-ブタンジチオール、エタンジチオール等が挙げられる。
【0210】
Xが中性アミノ酸残基である場合、D及びEの一方はカルボキシル基であり、他方はアミノ基であり、化合物(3-k)は、中性アミノ酸である。中性アミノ酸としては、例えば、グリシン残基、アラニン残基、フェニルアラニン残基、ロイシン残基、イソロイシン残基、バリン残基、メチオニン残基、アスパラギン残基、グルタミン残基等が挙げられる。Xが炭化水素基である場合との重なりを排除する点から、中性アミノ酸は、好ましくは、側鎖が炭化水素基でない中性アミノ酸である。側鎖が炭化水素基でない中性アミノ酸としては、例えば、メチオニン、アスパラギン、グルタミン等が挙げられる。
【0211】
Xがポリアルキレングリコール残基である場合、D及びEは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択され、化合物(3-k)は、両末端にヒドロキシル基を有するポリアルキレングリコール、一方の末端にヒドロキシル基を有し、他方の末端にカルボキシル基、アミノ基又はチオール基を有するポリアルキレングリコール誘導体、あるいは、両末端にそれぞれ独立してカルボキシル基、アミノ基又はチオール基を有するポリアルキレングリコール誘導体である。一方又は両方の末端に様々な官能基が導入されたポリアルキレングリコール誘導体が市販されている。
【0212】
化合物(3-1)の官能基Eと、化合物(3-2)の官能基Dと常法に従って反応させ、式:D-X-L-X-Eで表される化合物を製造し、次いで、製造された化合物の官能基Eと、化合物(3-3)の官能基Dとを常法に従って反応させ、式:D-X-L-X-L-X-Eで表される化合物を製造する。同様の工程を繰り返して、式:D-X-[L-X]p-2-Ep-1で表される化合物を製造し、製造された化合物の官能基Ep-1と、化合物(3-p)の官能基Dとを常法に従って反応させ、式:D-X-[L-X]p-1-Eで表される化合物(3)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。
【0213】
がカルボキシル基であり、Dがアミノ基である場合、両者の反応により形成されるLは、-CO-NH-である。Eがカルボキシル基であり、Dがヒドロキシル基である場合、両者の反応により形成されるLは、-CO-O-である。Eがカルボキシル基であり、Dがチオール基である場合、両者の反応により形成されるLは、-CO-S-である。Eがアミノ基であり、Dがカルボキシル基である場合、両者の反応により形成されるLは、-NH-CO-である。Eがヒドロキシル基であり、Dがカルボキシル基である場合、両者の反応により形成されるLは、-O-CO-である。Eがチオール基であり、Dがカルボキシル基である場合、両者の反応により形成されるLは、-S-CO-である。Eがチオール基であり、Dがチオール基である場合、両者の反応により形成されるLは、-S-S-である。その他の2個の官能基の反応により形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0214】
(工程4A)
以下の式(4):
-R (4)
[式中、Rは、上記と同義であり、Aは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(4)を準備する。
【0215】
官能基Aは、化合物(2)の官能基A又は化合物(3)の官能基Eと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0216】
化合物(4)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(4)は、市販品であってもよい。
【0217】
がカルボキシル基である場合、化合物(4)としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族カルボン酸等が挙げられる。脂肪族カルボン酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ウンデカン酸、ラウリル酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アラキドン酸等が挙げられる。
【0218】
がアミノ基である場合、化合物(4)としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アミン等が挙げられる。脂肪族アミンは、第一級脂肪族アミン及び第二級脂肪族アミンのいずれであってもよいが、好ましくは第一級脂肪族アミンである。脂肪族アミンとしては、例えば、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ドコシルアミン、オレイルアミン、N-メチル-ドデシルアミン、N-メチル-テトラデシルアミン、N-メチル-ヘキサデシルアミン、N-エチル-ドデシルアミン、N-エチル-テトラデシルアミン、N-エチル-ヘキサデシルアミン、N-プロピル-ドデシルアミン、N-プロピル-テトラデシルアミン、N-プロピル-ヘキサデシルアミン、ジオレイルアミン等が挙げられる。
【0219】
がヒドロキシル基である場合、化合物(4)としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族アルコール等が挙げられる。脂肪族アルコールは、第一級脂肪族アルコール、第二級脂肪族アルコール及び第三級脂肪族アルコールのいずれであってもよいが、好ましくは第一級脂肪族アルコールである。脂肪族アルコールとしては、例えば、ラウリルアルコール、セチルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、1,1-ドデセノール、1-オレイアルコール、リノレニルアルコール等が挙げられる。また、化合物(4)は、脂肪族アルコールをグリセリンの1位及び3位又は1位及び2位にエーテル結合させたジアルキルグリセロールであってもよい。
【0220】
がチオール基である場合、化合物(4)としては、例えば、直鎖状又は分岐鎖状の飽和又は不飽和の脂肪族チオール等が挙げられる。脂肪族チオールとしては、例えば、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオール、ブタンチオール、ペンタンチオール、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール、ノナンチオール、デカンチオール、ウンデカンチオール、ヘキサデカンチオール、オクタデカンチオール等が挙げられる。
【0221】
(工程5A)
式(I)におけるpが0である場合、化合物(2)の官能基Aと、化合物(4)の官能基Aとを常法に従って反応させ、式:HOOC-X-L-Rで表される化合物を製造し、次いで、製造された化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、式:M-NH-CO-X-Aで表される化合物を製造し、次いで、製造された化合物の官能基Aと、化合物(4)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(I)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0222】
式(I)におけるpが1以上である場合、化合物(3)の官能基Eと、化合物(4)の官能基Aとを常法に従って反応させ、式:D-X-[L-X]p-1-L-Rで表される化合物を製造し、次いで、製造された化合物の官能基Dと、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(2)の官能基Aと、化合物(3)の官能基Dとを常法に従って反応させ、式:HOOC-X-[L-X]-Eで表される化合物を製造し、次いで、製造された化合物の官能基Eと、化合物(4)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、式:HOOC-X-[L-X]-L-Rで表される化合物を製造する。次いで、式:HOOC-X-[L-X]-L-Rで表される化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを反応させることにより、カルボン酸型脂質(I)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0223】
以上のように、カルボン酸型脂質(I)は、工程1A~工程5Aを含む方法により製造することができる。各工程において、所望の化合物を製造し得る限り、反応の順序は適宜変更可能である。
【0224】
<カルボン酸型脂質(II)の製造方法>
以下、カルボン酸型脂質(II)の製造方法の一実施形態について説明する。
【0225】
(工程1B)
化合物(1)を準備する。
【0226】
(工程2B)
がカルボキシル基である化合物(4)を準備する。
【0227】
(工程3B)
化合物(1)のアミノ基と、Aがカルボキシル基である化合物(4)のカルボキシル基とを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(II)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。
【0228】
以上のように、カルボン酸型脂質(II)は、工程1B~工程3Bを含む方法により製造することができる。各工程において、所望の化合物を製造し得る限り、反応の順序は適宜変更可能である。
【0229】
<カルボン酸型脂質(III)の製造方法>
以下、カルボン酸型脂質(III)の製造方法の一実施形態について説明する。なお、ある1個の化合物の構造式に2個以上の同一の記号(例えば、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、2個以上の化合物の構造式に同一の記号(例えば、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0230】
(工程1C)
化合物(1)を準備する。
【0231】
(工程2C)
化合物(2)を準備する。
【0232】
(工程3C)
必要に応じて、化合物(3)を準備する。
【0233】
(工程4C)
以下の式(5)で表される化合物(5)を準備する。
【0234】
【化42】
【0235】
式(5)において、qは、上記と同義である。式(5)に存在する複数のqは、同一の整数を表してもよいし、異なる整数を表してもよい。
【0236】
式(5)において、Qは、化合物(2)の官能基A又は化合物(3)の官能基Eと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0237】
式(5)において、Q及びQは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。Q及びQは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0238】
式(5)において、Qは、Q及びQの一方又は両方と同一であってもよいし、異なっていてもよい。QがQ及びQの一方又は両方と異なる場合、Qを保護するための保護基の選択が容易となる。かかる点から、Qは、Q及びQの一方又は両方と異なっていることが好ましい。
【0239】
化合物(5)は、三官能性化合物である限り、特に限定されない。化合物(5)は、好ましくは、三官能性アミノ酸である。三官能性アミノ酸は、カルボキシル基である第1の官能基と、アミノ基である第2の官能基と、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される第3の官能基とを有するアミノ酸である。第3の官能基は、第1及び第2の官能基の一方又は両方と異なっていることが好ましい。三官能性アミノ酸としては、例えば、α炭素に結合したカルボキシル基及びアミノ基を有するとともに、側鎖にカルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を有するアミノ酸が挙げられる。このようなアミノ酸としては、例えば、リシン、アスパラギン酸、グルタミン酸、セリン等が挙げられる。
【0240】
(工程5C)
必要に応じて、以下の式(6)で表される化合物(6)を準備する。
【0241】
【化43】
【0242】
式(6)において、qは、上記と同義である。式(6)に存在する複数のqは、同一の整数を表してもよいし、異なる整数を表してもよい。
【0243】
式(6)において、Qは、化合物(5)のQ又はQ、別の化合物(6)のQ又はQ、あるいは、後述する化合物(7)の官能基Gと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0244】
式(6)において、Q及びQは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。Q及びQは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0245】
式(6)において、Qは、Q及びQの一方又は両方と同一であってもよいし、異なっていてもよい。QがQ及びQの一方又は両方と異なる場合、Qを保護するための保護基の選択が容易となる。かかる点から、Qは、Q及びQの一方又は両方と異なっていることが好ましい。
【0246】
化合物(6)は、三官能性化合物である限り、特に限定されない。化合物(6)は、好ましくは、三官能性アミノ酸である。三官能性アミノ酸に関する説明は、上記と同様である。
【0247】
(工程6C)
必要に応じて、以下の式(7):
-X-[L-X]p-1-G (7)
[式中、L及びXは、上記と同義であり、pは1以上の整数を表し、F及びGは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(7)を準備する。
【0248】
官能基Fは、化合物(5)の官能基Q又はQ、あるいは、化合物(6)の官能基Q又はQと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0249】
化合物(7)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(7)は、市販品であってもよい。
【0250】
化合物(7)の製造方法の一実施形態は、化合物(3)の製造方法の一実施形態と同様である。
【0251】
(工程7C)
必要に応じて、以下の式(8):
-X-[L-X]p-1-I (8)
[式中、L及びXは、上記と同義であり、pは1以上の整数を表し、H及びIは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(8)を準備する。
【0252】
官能基Hは、化合物(5)の官能基Q又はQ、あるいは、化合物(6)の官能基Q又はQと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0253】
化合物(8)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(8)は、市販品であってもよい。
【0254】
化合物(8)の製造方法の一実施形態は、化合物(3)の製造方法の一実施形態と同様である。
【0255】
(工程8C)
以下の式(9):
-R (9)
[式中、Rは、上記と同義であり、Aは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(9)を準備する。
【0256】
官能基Aは、化合物(5)の官能基Q又はQ、化合物(6)の官能基Q又はQ、あるいは、化合物(8)の官能基Iと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0257】
化合物(9)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(9)は、市販品であってもよい。化合物(9)の具体例は、化合物(4)の具体例と同様である。
【0258】
(工程9C)
化合物(5)の官能基Q及びQに直鎖又は分岐鎖を導入することにより、以下の式(5-Y)で表される化合物(5-Y)を製造する。式(5-Y)中、Yは上記と同義である。
【0259】
【化44】
【0260】
以下、化合物(5)の官能基Qに直鎖又は分岐鎖を導入する場合について説明するが、化合物(5)の官能基Qにも同様にして直鎖又は分岐鎖を導入することができる。
【0261】
化合物(5)の官能基Qに直鎖を導入する場合、以下の式(10)で表される化合物(10)を製造する。
【0262】
【化45】
【0263】
式(10)におけるpが0である場合、化合物(5)の官能基Qと、化合物(9)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、化合物(10)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0264】
式(10)におけるpが1以上である場合、化合物(5)の官能基Qと、化合物(8)の官能基Hとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Iと、化合物(9)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(8)の官能基Iと、化合物(9)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Hと、化合物(5)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(10)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0265】
化合物(5)の官能基Qに分岐鎖を導入する場合、以下の式(11)で表される化合物(11)を製造する。
【0266】
【化46】
【0267】
式(11)におけるpが0である場合、化合物(5)の官能基Qと、化合物(6)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(11)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0268】
式(11)におけるpが1以上である場合、化合物(5)の官能基Qと、化合物(7)の官能基Fとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Gと、化合物(6)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(7)の官能基Gと、化合物(6)の官能基Qとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Fと、化合物(5)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(11)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0269】
化合物(5)の官能基Qに分岐鎖を導入する場合、化合物(11)の製造後、化合物(11)の官能基Q及びQに直鎖又は分岐鎖を導入する。
【0270】
以下、化合物(11)の官能基Qに直鎖又は分岐鎖を導入する場合について説明するが、化合物(11)の官能基Qにも同様にして直鎖又は分岐鎖を導入することができる。
【0271】
化合物(11)の官能基Qに直鎖を導入する場合、以下の式(12)で表される化合物(12)を製造する。
【0272】
【化47】
【0273】
式(12)におけるp(-(CH-[L-X]-L-Rにおけるp)が0である場合、化合物(11)の官能基Qと、化合物(9)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、化合物(12)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0274】
式(12)におけるp(-(CH-[L-X]-L-Rにおけるp)が1以上である場合、化合物(11)の官能基Qと、化合物(8)の官能基Hとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Iと、化合物(9)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(8)の官能基Iと、化合物(9)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Hと、化合物(11)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(12)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0275】
化合物(11)の官能基Qに分岐鎖を導入する場合、以下の式(13)で表される化合物(13)を製造する。
【0276】
【化48】
【0277】
式(13)におけるp(-(CH-[L-X]-L-(CH-CH(-(CH-Q)(-(CH-Q)におけるp)pが0である場合、化合物(11)の官能基Qと、化合物(6)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(13)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0278】
式(13)におけるp(-(CH-[L-X]-L-(CH-CH(-(CH-Q)(-(CH-Q)におけるp)が1以上である場合、化合物(11)の官能基Qと、化合物(7)の官能基Fとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Gと、化合物(6)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(7)の官能基Gと、化合物(6)の官能基Qとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Fと、化合物(11)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(13)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0279】
新たに導入された官能基Q及びQには、上記と同様にして、直鎖又は分岐鎖を導入する。これを所望の回数繰り返すことにより、化合物(5)の官能基Qに、所望の分岐数を有する分岐鎖を導入する。最後に導入された官能基Q及びQには、上記と同様にして、直鎖を導入する。こうして、化合物(5-Y)が製造される。
【0280】
(工程10C)
式(III)におけるpが0である場合、化合物(5-Y)の官能基Qと、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Aと、化合物(5-Y)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(III)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0281】
式(III)におけるpが1以上である場合、化合物(5-Y)の官能基Qと、化合物(3)の官能基Eとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Dと、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Aと、化合物(3)の官能基Dとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Eと、化合物(5-Y)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(III)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0282】
以上のように、カルボン酸型脂質(III)は、工程1C~工程10Cを含む方法により製造することができる。各工程において、所望の化合物を製造し得る限り、反応の順序は適宜変更可能である。
【0283】
<カルボン酸型脂質(IV)の製造方法>
以下、カルボン酸型脂質(IV)の製造方法の一実施形態について説明する。
【0284】
(工程1D)
化合物(1)を準備する。
【0285】
(工程2D)
がカルボキシル基である化合物(5)を準備する。
【0286】
(工程3D)
工程9Cと同様にして化合物(5)の官能基Q及びQに直鎖又は分岐鎖を導入することにより製造された化合物(5-Y)の官能基Q(カルボキシル基)と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(IV)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。
【0287】
以上のように、カルボン酸型脂質(IV)は、工程1D~工程3Dを含む方法により製造することができる。各工程において、所望の化合物を製造し得る限り、反応の順序は適宜変更可能である。
【0288】
<カルボン酸型脂質(V)の製造方法>
以下、カルボン酸型脂質(V)の製造方法の一実施形態について説明する。なお、ある1個の化合物の構造式に2個以上の同一の記号(例えば、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、2個以上の化合物の構造式に同一の記号(例えば、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0289】
(工程1E)
化合物(1)を準備する。
【0290】
(工程2E)
化合物(2)を準備する。
【0291】
(工程3E)
必要に応じて、化合物(3)を準備する。
【0292】
(工程4E)
以下の式(14)で表される化合物(14)を準備する。
【0293】
【化49】
【0294】
式(14)において、qは、上記と同義である。式(14)に存在する複数のqは、同一の整数を表してもよいし、異なる整数を表してもよい。
【0295】
式(14)において、Q及びQは、それぞれ独立して、化合物(1)のアミノ基、化合物(2)の官能基A、化合物(3)の官能基E、後述する化合物(15)の官能基Q12、又は、後述する化合物(16)の官能基Kと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。Q及びQは、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0296】
式(14)において、Qは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。
【0297】
式(14)において、Qは、Q及びQの一方又は両方と同一であってもよいし、異なっていてもよい。QがQ及びQの一方又は両方と異なる場合、Qを保護するための保護基の選択が容易となる。かかる点から、Qは、Q及びQの一方又は両方と異なっていることが好ましい。
【0298】
化合物(14)は、三官能性化合物である限り、特に限定されない。化合物(14)は、好ましくは、三官能性アミノ酸である。三官能性アミノ酸に関する説明は、上記と同様である。
【0299】
(工程5E)
必要に応じて、以下の式(15)で表される化合物(15)を準備する。
【0300】
【化50】
【0301】
式(15)において、qは、上記と同義である。式(15)に存在する複数のqは、同一の整数を表してもよいし、異なる整数を表してもよい。
【0302】
式(15)において、Q10及びQ11は、それぞれ独立して、化合物(1)のアミノ基、化合物(2)の官能基A、化合物(3)の官能基E、別の化合物(15)の官能基Q12、又は、後述する化合物(16)の官能基Kと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。Q10及びQ11は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0303】
式(15)において、Q12は、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。
【0304】
式(15)において、Q12は、Q10及びQ11の一方又は両方と同一であってもよいし、異なっていてもよい。Q12がQ10及びQ11の一方又は両方と異なる場合、Q12を保護するための保護基の選択が容易となる。かかる点から、Q12は、Q10及びQ11の一方又は両方と異なっていることが好ましい。
【0305】
化合物(15)は、三官能性化合物である限り、特に限定されない。化合物(15)は、好ましくは、三官能性アミノ酸である。三官能性アミノ酸に関する説明は、上記と同様である。
【0306】
(工程6E)
必要に応じて、以下の式(16):
-X-[L-X]p-1-K (16)
[式中、L及びXは、上記と同義であり、pは1以上の整数を表し、J及びKは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(16)を準備する。
【0307】
官能基Jは、化合物(15)の官能基Q12と反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0308】
化合物(16)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(16)は、市販品であってもよい。
【0309】
化合物(16)の製造方法の一実施形態は、化合物(3)の製造方法の一実施形態と同様である。
【0310】
(工程7E)
必要に応じて、以下の式(17):
-X-[L-X]p-1-U (17)
[式中、L及びXは、上記と同義であり、pは1以上の整数を表し、T及びUは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(17)を準備する。
【0311】
官能基Tは、化合物(14)の官能基Qと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0312】
化合物(17)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(17)は、市販品であってもよい。
【0313】
化合物(17)の製造方法の一実施形態は、化合物(3)の製造方法の一実施形態と同様である。
【0314】
(工程8E)
以下の式(18):
-R (18)
[式中、Rは、上記と同義であり、Aは、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(18)を準備する。
【0315】
官能基Aは、化合物(14)の官能基Q、又は、化合物(17)の官能基Uと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0316】
化合物(18)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(18)は、市販品であってもよい。化合物(18)の具体例は、化合物(4)の具体例と同様である。
【0317】
(工程9E)
化合物(14)の官能基Q及びQに直鎖又は分岐鎖を導入することにより、以下の式(14-Z)で表される化合物(14-Z)を製造する。式(14-Z)中、Zは上記と同義である。
【0318】
【化51】
【0319】
以下、化合物(14)の官能基Qに直鎖又は分岐鎖を導入する場合について説明するが、化合物(14)の官能基Qにも同様にして直鎖又は分岐鎖を導入することができる。
【0320】
化合物(14)の官能基Qに式(X)で表される直鎖を導入する場合、以下の式(19)で表される化合物(19)を製造する。
【0321】
【化52】
【0322】
式(19)におけるpが0である場合、化合物(14)の官能基Qと、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Aと、化合物(14)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(19)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0323】
式(19)におけるpが1以上である場合、化合物(14)の官能基Qと、化合物(3)の官能基Eとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Dと、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Aと、化合物(3)の官能基Dとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Eと、化合物(14)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、化合物(19)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0324】
化合物(14)の官能基Qに式(XI)で表される直鎖を導入する場合、以下の式(20)で表される化合物(20)を製造する。
【0325】
【化53】
【0326】
化合物(14)の官能基Qに式(XI)で表される直鎖を導入する場合、化合物(14)の官能基Qはカルボキシル基である。なお、化合物(14)の官能基Qに式(XI)で表される直鎖を導入する場合、化合物(14)の官能基Qはカルボキシル基である。化合物(14)の官能基Q(カルボキシル基)と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、化合物(20)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。
【0327】
化合物(14)の官能基Qに分岐鎖を導入する場合、以下の式(21)で表される化合物(21)を製造する。
【0328】
【化54】
【0329】
式(21)におけるpが0である場合、化合物(14)の官能基Qと、化合物(15)の官能基Q12とを反応させることにより、化合物(21)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0330】
式(21)におけるpが1以上である場合、化合物(14)の官能基Qと、化合物(16)の官能基Kとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Jと、化合物(15)の官能基Q12とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(16)の官能基Jと、化合物(15)の官能基Q12とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Kと、化合物(14)の官能基Qとを反応させることにより、化合物(21)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0331】
化合物(14)の官能基Qに分岐鎖を導入する場合、化合物(21)の製造後、化合物(21)の官能基Q10及びQ11に直鎖又は分岐鎖を導入する。
【0332】
以下、化合物(21)の官能基Q10に直鎖又は分岐鎖を導入する場合について説明するが、化合物(21)の官能基Q11にも同様にして直鎖又は分岐鎖を導入することができる。
【0333】
化合物(21)の官能基Q10に式(X)で表される直鎖を導入する場合、以下の式(22)で表される化合物(22)を製造する。
【0334】
【化55】
【0335】
式(22)におけるp(M-NH-CO-X-[L-X]-L-におけるp)が0である場合、化合物(21)の官能基Q10と、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Aと、化合物(21)の官能基Q10とを常法に従って反応させることにより、化合物(22)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0336】
式(22)におけるp(M-NH-CO-X-[L-X]-L-におけるp)が1以上である場合、化合物(21)の官能基Q10と、化合物(3)の官能基Eとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Dと、化合物(2)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物のカルボキシル基と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(1)のアミノ基と、化合物(2)のカルボキシル基とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Aと、化合物(3)の官能基Dとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Eと、化合物(21)の官能基Q10とを常法に従って反応させることにより、化合物(22)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0337】
化合物(21)の官能基Q10に式(XI)で表される直鎖を導入する場合、以下の式(23)で表される化合物(23)を製造する。
【0338】
【化56】
【0339】
化合物(21)の官能基Q10に式(XI)で表される直鎖を導入する場合、化合物(21)の官能基Q10はカルボキシル基である。なお、化合物(21)の官能基Q11に式(XI)で表される直鎖を導入する場合、化合物(21)の官能基Q11はカルボキシル基である。化合物(21)の官能基Q10(カルボキシル基)と、化合物(1)のアミノ基とを常法に従って反応させることにより、化合物(23)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。
【0340】
化合物(21)の官能基Q10に分岐鎖を導入する場合、以下の式(24)で表される化合物(24)を製造する。
【0341】
【化57】
【0342】
式(24)におけるp((Q10-(CH-)(Q11-(CH-)CH-(CH-[L-X]-L-におけるp)が0である場合、化合物(21)の官能基Q10と、化合物(15)の官能基Q12とを反応させることにより、化合物(24)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0343】
式(24)におけるp((Q10-(CH-)(Q11-(CH-)CH-(CH-[L-X]-L-におけるp)が1以上である場合、化合物(21)の官能基Q10と、化合物(16)の官能基Kとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Jと、化合物(15)の官能基Q12とを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(16)の官能基Jと、化合物(15)の官能基Q12とを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Kと、化合物(21)の官能基Q10とを反応させることにより、化合物(24)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0344】
新たに導入された官能基Q10及びQ11には、上記と同様にして、直鎖又は分岐鎖を導入する。これを所望の回数繰り返すことにより、化合物(14)の官能基Qに、所望の分岐数を有する分岐鎖を導入することができる。最後に導入された官能基Q10及びQ11には、上記と同様にして、直鎖を導入する。こうして、化合物(14-Z)が製造される。
【0345】
(工程10E)
式(V)におけるpが0である場合、化合物(14-Z)の官能基Qと、化合物(18)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(V)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0346】
式(V)におけるpが1以上である場合、化合物(14-Z)の官能基Qと、化合物(17)の官能基Tとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Uと、化合物(18)の官能基Aとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(17)の官能基Uと、化合物(18)の官能基Aとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Tと、化合物(14-Z)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(V)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0347】
以上のように、カルボン酸型脂質(V)は、工程1E~工程10Eを含む方法により製造することができる。各工程において、所望の化合物を製造し得る限り、反応の順序は適宜変更可能である。
【0348】
<カルボン酸型脂質(VI)の製造方法>
以下、カルボン酸型脂質(VI)の製造方法の一実施形態について説明する。なお、ある1個の化合物の構造式に2個以上の同一の記号(例えば、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。また、2個以上の化合物の構造式に同一の記号(例えば、L、X、p、q等)が存在する場合、これらの同一の記号の意義は、当該記号の定義の範囲内にある限り、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0349】
(工程1F)
工程9Cと同様にして、化合物(5)の官能基Q及びQに直鎖又は分岐鎖を導入することにより、化合物(5-Y)を製造する。
【0350】
工程1Fで製造される化合物(5-Y)において、Qは、工程2Fで製造される化合物(14-Z)のQ、又は、工程3Fで準備される化合物(25)の官能基Wと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0351】
(工程2F)
工程9Eと同様にして、化合物(14)の官能基Q又はQに直鎖又は分岐鎖を導入することにより、化合物(14-Z)を製造する。
【0352】
(工程3F)
必要に応じて、以下の式(25):
-X-[L-X]p-1-W (25)
[式中、L及びXは、上記と同義であり、pは1以上の整数を表し、V及びWは、それぞれ独立して、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基又はチオール基を表す。]
で表される化合物(25)を準備する。
【0353】
官能基Vは、化合物(14-Z)の官能基Qと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0354】
官能基Wは、化合物(5-Y)の官能基Qと反応し得る官能基であり、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基及びチオール基から選択される。反応し得る官能基の組み合わせの具体例は、官能基Aと官能基Dとの組み合わせの具体例と同様である。
【0355】
化合物(25)は、常法に従って製造することができる。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。化合物(25)は、市販品であってもよい。
【0356】
化合物(25)の製造方法の一実施形態は、化合物(3)の製造方法の一実施形態と同様である。
【0357】
(工程4F)
式(VI)におけるpが0である場合、化合物(14-Z)の官能基Qと、化合物(5-Y)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(VI)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0358】
式(VI)におけるpが1以上である場合、化合物(14-Z)の官能基Qと、化合物(25)の官能基Vとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Wと、化合物(5-Y)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、あるいは、化合物(25)の官能基Wと、化合物(5-Y)の官能基Qとを常法に従って反応させ、次いで、得られた化合物の官能基Vと、化合物(14-Z)の官能基Qとを常法に従って反応させることにより、カルボン酸型脂質(VI)を製造する。この際、反応に関与しない官能基は、必要に応じて、保護基によって保護し、反応に関与する官能基同士を反応させた後、脱保護することができる。保護基による保護及び脱保護は、常法に従って行うことができる。2個の官能基の反応によって形成されるLの具体例は、官能基E及び官能基Dの反応により形成されるLの具体例と同様である。
【0359】
以上のように、カルボン酸型脂質(VI)は、工程1F~工程4Fを含む方法により製造することができる。各工程において、所望の化合物を製造し得る限り、反応の順序は適宜変更可能である。
【0360】
≪その他の脂質≫
本発明の脂質粒子及び脂質膜は、カルボン酸型脂質以外の1種又は2種以上の脂質を含んでいてもよい。カルボン酸型脂質以外の脂質としては、例えば、リン脂質、糖脂質、ステロール等が挙げられる。以下、リン脂質、糖脂質及びステロールについて説明する。
【0361】
<リン脂質>
リン脂質としては、例えば、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質、カルジオリピン等が挙げられる。リン脂質は、生理的pHにおいて負に帯電するリン脂質であってもよいし、生理的pHにおいて両イオン性である(すなわち、負に帯電する部分と正に帯電する部分とを有し、全体として電気的に中性である)リン脂質であってもよい。リン脂質には、リン脂質が有するリン酸基が形成する塩も含まれ、リン酸基の塩としては、例えば、カルシウム塩、マグネシウム塩、カリウム塩等が挙げられる。リン脂質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。以下、グリセロリン脂質、スフィンゴリン脂質及びカルジオリピンについて説明する。
【0362】
(グリセロリン脂質)
グリセロリン脂質としては、例えば、以下の式(i)で表される構造を有する脂質が挙げられる。グリセロリン脂質は、生理的pHにおいて負に帯電するグリセロリン脂質であってもよいし、生理的pHにおいて両イオン性であるグリセロリン脂質であってもよい。生理的pHにおいて負に帯電するグリセロリン脂質としては、例えば、以下の式(i)において、Xで表される基が、カチオン性基以外の基(アニオン性基又は電気的に中性な基)であるグリセロリン脂質が挙げられる。生理的pHにおいて両イオン性であるグリセロリン脂質としては、例えば、以下の式(i)において、Xで表される基が、カチオン性基であるグリセロリン脂質が挙げられる。
【0363】
【化58】
【0364】
式(i)において、Xは、水素、コリン残基、セリン残基、イノシトール残基、グリセロール残基又はエタノールアミン残基を表す。Xで表される基は、カチオン性基であってもよいし、カチオン性基以外の基(アニオン性基又は電気的に中性な基)であってもよい。コリン残基は、カチオン性基であり、セリン残基、イノシトール残基及びグリセロール残基は、カチオン性基以外の基である。
【0365】
式(i)において、X及びXは、それぞれ独立して、水素、飽和又は不飽和のアシル基(-CO-R,Rは炭化水素基)、あるいは、炭化水素基を表す。X又はXで表されるアシル基に含まれる炭化水素基の具体例、及び、X又はXで表される炭化水素基の具体例は、上記と同様である。X又はXの少なくとも一方は、飽和又は不飽和のアシル基であることが好ましく、X又はXの両方が、飽和又は不飽和のアシル基であることがさらに好ましい。X又はXの両方がアシル基である場合、2個のアシル基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0366】
グリセロリン脂質としては、例えば、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。これらのうち、ホスファチジルセリン及びホスファチジルグリセロールが好ましい。
【0367】
ホスファチジン酸としては、例えば、ジパルミトイルホスファチジン酸、ジステアロイルホスファチジン酸、ジミリストイルホスファチジン酸、ジオレイルホスファチジン酸等が挙げられる。
【0368】
ホスファチジルコリンとしては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジステアロイルホスファチジルコリン、ジミリストリルホスファチジルコリン、ジオレオイルホスファチジルコリン、ジラウロイルホスファチジルコリン、ジデカノイルホスファチジルコリン、ジオクタノイルホスファチジルコリン、ジヘキサノイルホスファチジルコリン、ジブチリルホスファチジルコリン、ジエライドイルホスファチジルコリン、ジリノレオイルホスファチジルコリン、ジアラキドノイルホスファチジルコリン、ジイコセノイルホスファチジルコリン、ジヘプタノイルホスファチジルコリン、ジカプロイルホスファチジルコリン、ジヘプタデカノイルホスファチジルコリン、ジベヘノイルホスファチジルコリン、エレオステアロイルホスファチジルコリン、水素化卵ホスファチジルコリン、水素化大豆ホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-アラキドノイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-オレオイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-リノレオイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ミリストイルホスファチジルコリン、1-パルミトイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、1-ステアロイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1,2-ジミリストイルアミド-1,2-デオキシホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-パルミトイルホスファチジルコリン、1-ミリストイル-2-ステアロイルホスファチジルコリン、ジ-O-ヘキサデシルホスファチジルコリン、トランスジエライドイルホスファチジルコリン、ジパルミテライドイル-ホスファチジルコリン、n-オクタデシル-2-メチルホスファチジルコリン、n-オクタデシルホスファチジルコリン、1-ラウリルプロパンジオール-3-ホスフォコリン、エリスロ-N-リグノセロイルスフィンゴホスファチジルコリン、パルミトイル-(9-cis-オクタデセノイル)-3-sn-ホスファチジルコリン等が挙げられる。
【0369】
ホスファチジルセリンとしては、例えば、ジステアロイルホスファチジルセリン、ジミリストイルホスファチジルセリン、ジラウロイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジオレオイルホスファチジルセリン、エレオステアロイルホスファチジルセリン、1,2-ジ-(9-cis-オクタデセノイル)-3-sn-ホスファチジルセリン等が挙げられる。
【0370】
ホスファチジルイノシトールとしては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルイノシトール、ジステアロイルホスファチジルイノシトール、ジラウロイルホスファチジルイノシトール等が挙げられる。
【0371】
ホスファチジルグリセロールとしては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジステアロイルホスファチジルグリセロール、ジオレオイルホスファチジルグリセロール、ジラウロイルホスファチジルグリセロール、ジミリストイルホスファチジルグリセロール、水素化大豆ホスファチジルグリセロール、水素化卵ホスファチジルグリセロール等が挙げられる。
【0372】
ホスファチジルエタノールアミンとしては、例えば、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン、ジステアロイルホスファチジルエタノールアミン、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、ジラウロイルホスファチジルエタノールアミン、ジミリストイルホスファチジルエタノールアミン、ジデカノイルホスファチジルエタノールアミン、N-グルタリルホスファチジルエタノールアミン、N-(7-ニトロ-2,1,3-ベンゾキシジアゾール-4-イル)-1,2-ジオレオイル-sn-ホスファチジルエタノールアミン、エレオステアロイルホスファチジルエタノールアミン、N-スクシニルジオレオイルホスファチジルエタノールアミン、1-ヘキサデシル-2-パルミトイルグリセロホスファチジルエタノールアミン等が挙げられる。
【0373】
ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール及びホスファチジルエタノールアミンにおいて、X又はXで表されるアシル基に含まれる炭化水素基の炭素数、及び、X又はXで表される炭化水素基の炭素数は、好ましくは10~24、さらに好ましくは12~22、さらに一層好ましくは14~18である。
【0374】
グリセロリン脂質は、好ましくは、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール、ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミン等である。
【0375】
(スフィンゴリン脂質)
スフィンゴリン脂質としては、例えば、以下の式(ii)で表される構造を有する脂質が挙げられる。スフィンゴリン脂質は、生理的pHにおいて負に帯電するスフィンゴリン脂質であってもよいし、生理的pHにおいて両イオン性であるスフィンゴリン脂質であってもよい。生理的pHにおいて負に帯電するスフィンゴリン脂質としては、例えば、以下の式(ii)において、Xで表される基が、カチオン性基以外の基(アニオン性基又は電気的に中性な基)であるスフィンゴリン脂質が挙げられる。生理的pHにおいて両イオン性であるスフィンゴリン脂質としては、例えば、以下の式(ii)において、Xで表される基が、カチオン性基であるスフィンゴリン脂質が挙げられる。
【0376】
【化59】
【0377】
式(ii)において、Xは、水素、コリン残基、セリン残基、イノシトール残基、グリセロール残基又はエタノールアミン残基を表す。Xで表される基は、カチオン性基であってもよいし、カチオン性基以外の基(アニオン性基又は電気的に中性な基)であってもよい。コリン残基は、カチオン性基であり、セリン残基、イノシトール残基及びグリセロール残基は、カチオン性基以外の基である。
【0378】
式(ii)において、Xは、水素、あるいは、飽和又は不飽和のアシル基を表す。Xは、好ましくは、飽和又は不飽和のアシル基を表す。アシル基に含まれる炭化水素基の具体例は、上記と同様である。アシル基に含まれる炭化水素基の炭素数は、好ましくは10~24、さらに好ましくは12~22、さらに一層好ましくは14~18である。
【0379】
スフィンゴリン脂質としては、例えば、スフィンゴミエリン、ジパルミトイルスフィンゴミエリン、ジステアロイルスフィンゴミエリン、セラミドシリアチン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等が挙げられる。
【0380】
(カルジオリピン)
カルジオリピンとしては、例えば、以下の式(iii)で表される構造を有する脂質が挙げられる。カルジオリピンは、生理的pHにおいて負に帯電するカルジオリピンであってもよいし、生理的pHにおいて両イオン性であるカルジオリピンであってもよい。
【0381】
【化60】
【0382】
式(iii)において、R~Rは、それぞれ独立して、水素、あるいは、飽和又は不飽和アシル基を表し、R~Rの少なくとも1つは、飽和又は不飽和アシル基である。R~Rのうち2~4個がアシル基であることが好ましく、R~Rのうち3~4個がアシル基であることがさらに好ましく、R~Rの全てがアシル基であることがさらに一層好ましい。R~Rのうち2個以上がアシル基である場合、2個以上のアシル基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。アシル基に含まれる炭化水素基の具体例は、上記と同様である。アシル基に含まれる炭化水素基の炭素数は、好ましくは10~24、さらに好ましくは12~22、さらに一層好ましくは14~18である。
【0383】
<糖脂質>
糖脂質としては、例えば、グリセロ糖脂質、スフィンゴ糖脂質等が挙げられる。糖脂質に2個以上のアシル基が含まれる場合、2個以上のアシル基は同一であってもよいし、異なっていてもよい。アシル基に含まれる炭化水素基の具体例は、上記と同様である。アシル基に含まれる炭化水素基の炭素数は、好ましくは1~4、さらに好ましくは1~2、さらに一層好ましくは2である。糖脂質は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0384】
グリセロ糖脂質としては、例えば、ジグリコシルジグリセリド、グリコシルジグリセリド、ジガラクトシルジグリセリド、ガラクトシルジグリセリド、スルホキシリボシルジグリセリド、(1,3)-D-マンノシル(1,3)ジグリセリド、ジガラクトシルグリセリド、ジガラクトシルジラウロイルグリセリド、ジガラクトシルジミリストイルグリセリド、ジガラクトシルジパルミトイルグリセリド、ジガラクトシルジステアロイルグリセリド、ガラクトシルグリセリド、ガラクトシルジラウロイルグリセリド、ガラクトシルジミリストイルグリセリド、ガラクトシルジパルミトイルグリセリド、ガラクトシルジステアロイルグリセリド、ジガラクトシルジアシルグリセロール等が挙げられる。
【0385】
スフィンゴ糖脂質としては、例えば、セラミド(セレブロシド)、ガラクトシルセラミド、ラクトシルセラミド、ジガラクトシルセラミド、ガングリオシドGM1、ガングリオシドGM2、ガングリオシドGM3、スルファチド、セラミドオリゴヘキソシド、グロボシド等が挙げられる。
【0386】
<ステロール>
ステロールとしては、例えば、コレステロール、コレステロールコハク酸、ジヒドロコレステロール、ラノステロール、ジヒドロラノステロール、デスモステロール、スチグマステロール、シトステロール、カンペステロール、ブラシカステロール、チモステロール、エルゴステロール、キャンペステロール、フコステロール、22-ケトステロール、20-ヒドロキシステロール、7-ヒドロキシコレステロール、19-ヒドロキシコレステロール、22-ヒドロキシコレステロール、25-ヒドロキシコレステロール、7-デヒドロコレステロール、5α-コレスト-7-エン-3β-オール、エピコレステロール、デヒドロエルゴステロール、硫酸コレステロール、ヘミコハク酸コレステロール、フタル酸コレステロール、リン酸コレステロール、吉草酸コレステロール、コレステロールヘミサクシネート、3βN-(N’,N’-ジメチルアミノエタン)-カルバモイルコレステロール、コレステロールアセテート、コレステリルオレート、コレステリルリノレート、コレステリルミリステート、コレステリルパルミテート、コレステリルアラキデート、コプロスタノール、コレステロールエステル、コレステリルフォスフォリルコリン、3,6,9-トリオキサオクタン-1-オール-コレステリル-3e-オール等が挙げられる。ステロールは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0387】
<脂肪酸>
本発明の脂質粒子及び脂質膜は、脂肪酸を含んでいてもよい。脂肪酸は、飽和脂肪酸であってもよいし、不飽和脂肪酸であってもよい。脂肪酸の炭素数は、特に限定されないが、10~24、さらに好ましくは12~22、さらに一層好ましくは14~18である。脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、ペラルガン酸、カプリン酸、ウンデシレン酸、ラウリン酸、トリデシレン酸、ミリスチン酸、ペンタデシレン酸、パルミチン酸、マーガリン酸、ステアリン酸、ノナデシレン酸、アラキジン酸、ドデセン酸、テトラデセン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸、アイコセン酸、エルシン酸、ドコサペンタエン酸等が挙げられる。脂肪酸は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0388】
リン脂質、糖脂質、ステロール等は、親水性高分子等で修飾されていてもよい。親水性高分子としては、例えば、ポリエチレングリコール(PEG)、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール、ポリビニルアルコール、スチレン-無水マレイン酸交互共重合体、ポリビニルピロリドン、合成ポリアミノ酸等が挙げられる。これらの親水性高分子は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0389】
好ましい実施形態において、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、本発明のカルボン酸型脂質と、リン脂質及びステロールからなる群から選択される少なくとも1種とを含んでなる。
【0390】
本発明の脂質粒子及び脂質膜において、リン脂質の含有量は、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる総脂質量を基準として、好ましくは0~95モル%、さらに好ましくは0~50モル%、さらに一層好ましくは0~30モル%である。本発明の脂質粒子及び脂質膜において、リン脂質の含有量の、本発明のカルボン酸型脂質の含有量に対するモル比(リン脂質の含有量:本発明のカルボン酸型脂質の含有量)は、好ましくは0:1~19:1、さらに好ましくは0:1~10:1、さらに一層好ましくは0:1~1:1である。
【0391】
本発明の脂質粒子及び脂質膜において、ステロールの含有量は、本発明の脂質粒子又は脂質膜に含まれる総脂質量を基準として、好ましくは0~50モル%、さらに好ましくは0~40モル%、さらに一層好ましくは0~30モル%である。本発明の脂質粒子及び脂質膜において、ステロールの含有量の、本発明のカルボン酸型脂質の含有量に対するモル比(ステロールの含有量:本発明のカルボン酸型脂質の含有量)は、好ましくは0:1~9:1、さらに好ましくは0:1~5:1、さらに一層好ましくは0:1~1:1である。
【0392】
カルボン酸型脂質、リン脂質及びステロールの具体的な組み合わせは、上述したカルボン酸型脂質、リン脂質及びステロールの中から適宜選択することができる。
【0393】
本発明の脂質粒子及び脂質膜が、本発明のカルボン酸型脂質とリン脂質とを含んでなる場合、好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は、式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種のグリセロリン脂質である。さらに好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は、式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、リン脂質はジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン及びジパルミトイルホスファチジルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種のグリセロリン脂質である。さらに一層好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は、式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルセリン及びジパルミトイルホスファチジルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種のグリセロリン脂質である。
【0394】
本発明の脂質粒子及び脂質膜が、本発明のカルボン酸型脂質とステロールとを含んでなる場合、好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、ステロールはコレステロールである。
【0395】
本発明の脂質粒子及び脂質膜が、本発明のカルボン酸型脂質とリン脂質とステロールとを含んでなる場合、好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は、式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン、ジパルミトイルホスファチジルグリセロール及びジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンからなる群から選択される少なくとも1種のグリセロリン脂質であり、ステロールはコレステロールである。さらに好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は、式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルコリン、ジパルミトイルホスファチジルセリン及びジパルミトイルホスファチジルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種のグリセロリン脂質であり、ステロールはコレステロールである。さらに一層好ましくは、本発明のカルボン酸型脂質は、式(I)~(VI)におけるMがアスパラギン酸残基、グルタミン酸残基、AG残基又はそれらの塩であるカルボン酸型脂質であり、リン脂質は、ジパルミトイルホスファチジルセリン及びジパルミトイルホスファチジルグリセロールからなる群から選択される少なくとも1種のグリセロリン脂質であり、ステロールはコレステロールである。
【0396】
≪用途≫
本発明のカルボン酸型脂質は、生理的pHにおいて負に帯電するため、本発明の脂質粒子及び脂質膜の表面は、生理的pHにおいて負に帯電する。したがって、本発明の脂質粒子及び脂質膜が血液と接触して血液中の水分で水和されると、本発明の脂質粒子及び脂質膜の表面は負に帯電し、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、少なくともその一部において、静電相互作用を通じて複数の血小板(特に、活性化した血小板)と結合することができる。これにより、本発明の脂質粒子及び脂質膜は、血小板の粘着及び/又は凝集を促進することができ、ひいては、血液の凝固を促進することができる。ただし、この記載は、本発明の脂質粒子及び脂質膜が惹起する血小板粘着促進作用及び/又は血小板凝集促進作用に、ファンデルワールス力等の静電相互作用以外の相互作用が関与し得ることを否定するものではない。
【0397】
本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜は、血小板粘着促進作用及び/又は血小板凝集促進作用を有することから、血小板粘着促進剤、血小板凝集促進剤及び血小板代替物(人工血小板)として有用である。また、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜は、血小板粘着惹起剤、血小板凝集惹起剤、血液凝固促進剤、血管塞栓剤、血管収縮剤、止血剤、創傷治癒剤、抗炎症剤等としても有用である。
【0398】
本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜は、血管損傷部位等の、血小板が活性化した部位へ集積し得ることから、そのような部位に薬物を運搬する薬物運搬体として使用することもできる。本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜に含まれる薬物としては、血管損傷部位に集積させることによって生理学的、薬理学的に有効であるものであれば特に限定されず、例えば、血小板凝集惹起薬、血管収縮薬、抗炎症薬等が挙げられる。
【0399】
他方、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子及び脂質膜が、血小板が集積し、血栓を形成している部位を認識することを利用して、血栓溶解剤、抗血小板剤、抗凝固剤等をデリバリーする際の担体として利用することも、もちろん可能である。
【0400】
本発明の一態様によれば、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を含んでなる、血小板凝集促進剤が提供される。
【0401】
本発明の別の態様によれば、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を含んでなる、血小板粘着促進剤が提供される。
【0402】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を含んでなる、止血剤が提供される。
【0403】
本発明のさらに別の態様によれば、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を含んでなる、血小板代替物が提供される。
【0404】
本発明のさらに別の態様によれば、血小板粘着促進及び/又は血小板凝集促進のための本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の使用が提供される。
【0405】
本発明のさらに別の態様によれば、止血のための本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の使用が提供される。
【0406】
本発明のさらに別の態様によれば、血小板代替物としての本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の使用が提供される。
【0407】
本発明のさらに別の態様によれば、血小板粘着促進剤及び/又は血小板凝集促進剤の製造における本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の使用が提供される。
【0408】
本発明のさらに別の態様によれば、止血剤の製造における本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の使用が提供される。
【0409】
本発明のさらに別の態様によれば、血小板代替物の製造における本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の使用が提供される。
【0410】
血小板粘着促進作用は、任意の部位又は部材(例えば、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を担持させる基材)への血小板の粘着を促進させる作用である。すなわち、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜は、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜が存在する部位又は部材における血小板の粘着を促進させることができる。血小板凝集促進作用は、血小板同士の接着(凝集)を促進させる作用である。すなわち、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜は、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜が存在する部位又は部材における血小板同士の接着(凝集)を促進させることができる。但し、実際の血栓形成において、血小板の粘着と凝集とはほぼ同時に起こり、区別できない場合も多い。
【0411】
本発明の血小板凝集促進剤、血小板粘着促進剤、止血剤及び血小板代替物は、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜単独で構成されていてもよいし、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜と、薬学的に許容可能な担体、添加剤等のその他の成分とを含んでなる組成物の形態であってもよいが、組成物の形態であることが好ましい。以下、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を含んでなる組成物を「本発明の組成物」という。
【0412】
薬学的に許容可能な担体としては、特に限定されないが、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液、HEPES緩衝液等が挙げられる。
【0413】
薬学的に許容可能な添加剤としては、特に限定されないが、例えば、等張化剤、安定化剤、酸化防止剤、pH調整剤、賦形剤、希釈剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、分散剤、懸濁剤、浸透圧調整剤、防腐剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、保存剤、矯味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0414】
本発明の組成物における本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の含有量は、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の所望の作用が発揮され得る限り特に限定されず、適宜決定することができる。本発明の組成物に含まれる本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の量は、本発明の組成物の用途等に応じて適宜調整することができる。
【0415】
本発明の組成物の剤形は、特に限定されず、投与方法等に応じて適宜選択することができる。本発明の組成物の剤形としては、例えば、貼付剤、塗布剤、液剤、吸入剤、ネブライザー、スプレー剤、ゲル剤、クリーム剤、噴霧剤、点鼻剤、点眼剤、注射剤、ペレット、懸濁剤、粉末剤等が挙げられる。製剤化は、医薬品製造の分野において公知の方法に準じて行うことができる。
【0416】
貼付剤としては、例えば、基材を有し、該基材表面に本発明の組成物が付着した貼付剤が挙げられる。基材は、好ましくは、皮膚に密着し得る粘着層を備える。
【0417】
塗布剤としては、例えば、ゲル剤(水性ゲル剤、油性ゲル剤)、クリーム剤、軟膏剤、液剤(ローション剤、リニメント剤)等が挙げられる。
【0418】
液剤又はペレット懸濁剤の製造においては、例えば、カルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を生理的に許容可能な水溶液と共に混合し、所望により除菌濾過、分注、凍結乾燥等を行ってもよい。
【0419】
本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜は、血管損傷部等において、活性化した血小板と結合し、血小板の凝集を促進することができ、これにより、血液凝固を促進することができる。したがって、本発明の別の態様によれば、血小板の凝集促進方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を投与することを含んでなる方法が提供される。また、本発明のさらに別の好ましい態様によれば、止血方法であって、それを必要とする対象に有効量の本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を投与することを含んでなる方法が提供される。本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜の有効量は、対象の性別、年齢、症状等に応じて適宜増減することができる。対象は、特に限定されないが、好ましくは哺乳動物であり、さらに好ましくはヒトである。本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜は、経口的に投与されてもよいし、非経口的に投与されてもよいが、通常、非経口的に投与される。非経口的な投与方法は、本発明のカルボン酸型脂質、脂質粒子又は脂質膜を目的部位へ送達し得る限り特に限定されず、例えば、患部(出血部位)への塗布、静脈内投与等が挙げられる。その他の非経口的な投与方法としては、例えば、動脈内投与、筋肉内投与、皮下投与、腹腔内投与、経粘膜投与、経皮投与等が挙げられる。
【実施例
【0420】
以下、実施例に基づいて本発明についてさらに詳細に説明する。
【0421】
〔脂質の合成〕
以下の脂質の合成し、実施例で使用した。
【0422】
(1)式(a2)で表されるカルボン酸型脂質(DHSG:1,5-ジヘキサデシル-N-スクシニル-L-グルタメート)の合成
以下の手順に従って、DHSGを合成した。なお、DHSGは、本発明例のカルボン酸型脂質(Glu-DHSG、Asp-DHSG及びAG-DHSG)を合成する際、出発物質として使用される。
【0423】
グルタミン酸(2.96g、20mmol)、p-トルエンスルホン酸(4.56g、24mmol)及びヘキサデシルアルコール(10.65g、44mmol)をベンゼン(150mL)に溶解して混合し、混合物を、脱水しながら、100℃で14時間還流した。次いで、溶媒を減圧除去し、得られた残留物をクロロホルムに再溶解し、炭酸水素ナトリウム飽和水溶液で3回洗浄し、さらに水で3回洗浄した。次いで、クロロホルム層を硫酸ナトリウムを使用して脱水し、濾過後、得られた溶液の溶媒を減圧除去した。得られた残留物を、60℃でメタノール(400mL)に溶解し、得られた溶液を4℃に冷却して再結晶した後、結晶を濾別し、乾燥し、以下の式(a1)で表されるグルタミン酸誘導体(Glu2C16)を白色固体として得た(9.5g、収率80%)。
【0424】
【化61】
【0425】
得られたGlu2C16(1.49g、2.5mmol)を、50mL容量のナス型フラスコ中で、クロロホルム(7.5mL)とTHF(7.5mL)との混合溶液(混合比1:1(v/v))に溶解して混合し、混合物に無水コハク酸(0.374g、3.74mmol)を添加し、23℃で12時間撹拌して反応液を得た。得られた反応液の溶媒を減圧除去し、残留物をエタノールとアセトンとの混合溶液(混合比1:5(v/v))に溶解し、得られた溶液を4℃で3時間冷却して再結晶した。得られた結晶をガラスフィルター(G4)で濾別し、濾物をクロロホルムに溶解した。得られた溶液の溶媒を減圧除去した後、残留物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(a2)で表されるDHSGを白色粉末として得た(1376mg、1.98mmol、収率79%)。
【0426】
【化62】
【0427】
(2)式(b2)で表されるカルボン酸型脂質(Asp-DHSG)の合成
以下の手順に従って、DHSGの親水性部分(カルボキシル基)にアスパラギン酸残基を導入し、本発明例のカルボン酸型脂質(Asp-DHSG)を合成した。
【0428】
50mL容量のナス型フラスコ中で、ジクロロメタン(4mL)に、DHSG(197mg、0.28mmol)、Asp(-OtBu)(-OtBu)・HCl(L-アスパラギン酸ジ-tert-ブチルエステル塩酸塩)(120mg、0.42mmol)、PyBOP(1H-ベンゾトリアゾール-1-イルオキシトリス(ピロリジン-1-イル]ホスホニウム・ヘキサフルオロホスファート)(177mg、0.34mmol)及びTEA(トリエチルアミン)(57.4μL、0.42mmol)を溶解し、23℃で24時間撹拌して反応液を得た。得られた反応液を、ジクロロメタンと飽和炭酸ナトリウム水溶液とを使用して2回分液を行い、さらにジクロロメタンと飽和塩化ナトリウム水溶液とを使用して2回分液を行うことにより、水溶性の不純物と酸性の不純物とを除去し、粗生成物を得た。硫酸ナトリウムを使用して粗生成物を脱水した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製した。得られた精製物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(b1)で表されるAsp(-OtBu)(-OtBu)-DHSGを白色粉末として得た(160mg、0.17mmol、収率61.8%)。
【0429】
【化63】
【0430】
得られたAsp(-OtBu)(-OtBu)-DHSG(40mg、0.044mmol)を、50mL容量のナス型フラスコ中で、トリフルオロ酢酸(4mL)とジクロロメタン(2mL)との混合物に溶解し、23℃で3時間撹拌し、得られた反応液を耐酸ポンプで減圧濾過した。濾物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(b2)で表されるAsp-DHSGを白色粉末として得た(32mg、0.040mmol、収率92.4%)。
【0431】
【化64】
【0432】
(3)式(c2)で表されるカルボン酸型脂質(Glu-DHSG)の合成
以下の手順に従って、DHSGの親水性部分(カルボキシル基)にグルタミン酸残基を導入し、本発明例のカルボン酸型脂質(Glu-DHSG)を合成した。
【0433】
50mL容量のナス型フラスコ中で、ジクロロメタン(4mL)に、DHSG(197mg、0.28mmol)、Glu(-OtBu)(-OtBu)・HCl(L-グルタミン酸ジ-tert-ブチルエステル塩酸塩)(127mg、0.43mmol)、PyBOP(182mg、0.35mmol)及びTEA(58.8μL、0.43mmol)を溶解し、23℃で24時間撹拌して反応液を得た。得られた反応液を、ジクロロメタンと飽和炭酸ナトリウム水溶液とを使用して2回分液を行い、さらにジクロロメタンと飽和塩化ナトリウム水溶液とを使用して2回分液を行うことにより、水溶性の不純物と酸性の不純物とを除去し、粗生成物を得た。硫酸ナトリウムを使用して粗生成物を脱水した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/1)で精製した。得られた精製物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(c1)で表されるGlu(-OtBu)(-OtBu)-DHSGを白色粉末として得た(216,4mg、0.23mmol、収率79.8%)。
【0434】
【化65】
【0435】
得られたGlu(-OtBu)(-OtBu)-DHSG(40mg、0.043mmol)を、50mL容量のナス型フラスコ中で、トリフルオロ酢酸(4mL)とジクロロメタン(2mL)との混合物に溶解し、23℃で3時間撹拌し、得られた反応液を耐酸ポンプで減圧濾過した。濾物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(c2)で表されるGlu-DHSGを白色粉末として得た(35mg、0.042mmol、収率87.6%)。
【0436】
【化66】
【0437】
(4)式(d2)で表されるカルボン酸型脂質(AG-DHSG)の合成
以下の手順に従って、DHSGの親水性部分(カルボキシル基)に2個のアスパラギン酸残基と1個のグルタミン酸残基とで構成されるペプチド残基(AG残基)を導入し、本発明例のカルボン酸型脂質(AG-DHSG)を合成した。
【0438】
50mL容量のナス型フラスコ中で、ジクロロメタン(4mL)に、Glu-DHSG(57.4mg、0.069mmol)、Asp(-OtBu)(-OtBu)・HCl(58.9mg、0.209mmol)、PyBOP(86.9mg、0.167mmol)及びTEA(30μL、0.209mmol)を溶解し、23℃で72時間撹拌して反応液を得た。得られた反応液を、ジクロロメタンと飽和炭酸ナトリウム水溶液とを使用して2回分液を行い、さらにジクロロメタンと飽和塩化ナトリウム水溶液とを使用して2回分液を行うことにより、水溶性の不純物と酸性の不純物とを除去し、粗生成物を得た。硫酸ナトリウムを使用して粗生成物を脱水した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:ヘキサン/酢酸エチル=1/2)で精製した。得られた精製物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(d1)で表されるAsp(-OtBu)(-OtBu)-Glu-DHSGを白色粉末として得た(38.9mg、0.03mmol、収率44.0%)。
【0439】
【化67】
【0440】
得られたAsp(-OtBu)(-OtBu)-Glu-DHSG(35mg、0.027mmol)を、50mL容量のナス型フラスコ中で、トリフルオロ酢酸(4mL)とジクロロメタン(2mL)との混合物に溶解し、23℃で3時間撹拌し、得られた反応液を耐酸ポンプで減圧濾過した。濾物をtert-ブチルアルコールに再溶解し、得られた溶液を凍結乾燥し、以下の式(d2)で表されるAG-DHSGを白色粉末として得た(23mg、0.021mmol、収率80.0%)。
【0441】
【化68】
【0442】
(5)式(e2)で表されるカルボン酸型脂質の合成
以下の手順に従って、式(e2)で表される参考例のカルボン酸型脂質を合成した。なお、このカルボン酸型脂質は、本発明のカルボン酸型脂質を合成する際、出発物質として使用することができる。すなわち、このカルボン酸型脂質の親水性部分(カルボキシル基)に、上記と同様にして、アスパラギン酸残基、グルタミン酸残基等のアミノ酸残基、AG残基等のペプチド残基等を導入することにより、本発明のカルボン酸型脂質を合成することができる。
【0443】
L-グルタミン酸(1.47g、10mmol)と無水t-ブトキシカルボニル(2.62g、12mmol)とを、ジオキサン(20mL)、水(10mL)及び1N NaOH(10mL)の混合溶液に溶解し、25℃で6時間撹拌して反応液を得た。得られた反応液を減圧下で10mLまで濃縮し、5%硫酸水素カリウム水溶液をpH2.4になるまで添加した後、酢酸エチルで3回洗浄し、さらに水で3回洗浄した。酢酸エチル層を硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を減圧除去し、残留物をヘキサンに溶解し、得られた溶液を4℃で冷却して再結晶した。得られた結晶を濾別し、濾物を乾燥し、アミノ基が保護基(t-ブトキシカルボニル基(Boc基))で保護された分岐鎖状化合物1を白色固体として得た(1.85g、収量75%)。
【0444】
得られた分岐鎖状化合物1(0.49g、2mmol)とN,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(0.82g、4mmol)とをクロロホルムに溶解し、4℃で1時間撹拌して混合物を得た。得られた混合物を、グルタミン酸誘導体(Glu2C16)(2.98g、5mmol)とトリエチルアミン(0.20g、2mmol)とを溶解したクロロホルム溶液に滴下して反応液を得た。得られた反応液を25℃で6時間撹拌した後、ガラスフィルター(G4)で濾過し、濾液を減圧濃縮して、メタノールを使用して再沈殿させて精製した。沈殿物を濾別した後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(展開溶媒:クロロホルム/メタノール=6/1(v/v))で精製して、分岐鎖状化合物2(1.40g、収量50%)を得た。
【0445】
得られた分岐鎖状化合物2(1.40g、1mmol)をトリフルオロ酢酸(TFA)に溶解し、1時間撹拌して保護基(Boc基)を除去した。得られた溶液をメタノールに溶解し、4℃で冷却して再結晶した。得られた結晶を濾別し、濾物を乾燥し、以下の式(e1)で表される分岐鎖状化合物3を得た(1.17g、収量90%)。
【0446】
【化69】
【0447】
得られた分岐鎖状化合物3(1.17g、0.9mmol)を、クロロホルムとテトラヒドロフランとの混合溶液(混合比1:1(v/v))に溶解、混合し、混合物に無水コハク酸(130g、1.35mmol)を添加して5時間撹拌して反応液を得た。得られた反応液の溶媒を減圧除去し、残留物をエタノールとアセトンとの混合溶液(混合比1:5(v/v))に溶解し、得られた溶液を4℃で冷却して再結晶した。得られた結晶を濾別し、濾物を乾燥して、以下の式(e2)で表されるカルボン酸型脂質(参考例)を白色固体として得た(0.95g、収率75%)。
【0448】
【化70】
【0449】
〔実施例1~5及び比較例1〕
(1)リポソームの調製
以下の手順に従ってリポソームを調製した。その際、上述の合成方法により得られたカルボン酸型脂質とともに、以下の脂質(市販品)を使用した。なお、以下、コレステロールを「Chol」と表記する場合がある。
DPPC(1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン,日本精化株式会社製)
コレステロール(日本精化株式会社製)
PEG-DSPE(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルエタノールアミン-N-[モノメトキシポリ(エチレングリコール)],日油株式会社製)
【0450】
脂質を表1に示すモル比で混合して脂質混合物を得た。得られた脂質混合物を、tert-ブチルアルコールに溶解し、得られた溶液を12時間凍結乾燥し、脂質粉末を得た。実施例1~3及び比較例1では、得られた脂質粉末を、DPBS(ダルベッコPBS、3wt%)を使用して、25℃で12時間水和し、エクストルージョン法(孔径450nm×2、孔径220nm×2、孔径200nm×1)によりリポソームの粒子径を制御し、リポソーム分散液を得た。実施例4及び5では、得られた脂質粉末を、HEPES buffer(20mM)を使用して、50℃で1時間超音波処理を行い、リポソーム分散液を得た。
【0451】
実施例1では、DPPC、コレステロール、Asp-DHSG及びPEG-DSPEを使用して(DPPC:コレステロール:Asp-DHSG:PEG-DSPE=5:5:5:0.045(モル比))、本発明例のリポソーム(L555Asp-DHSG)を得た。実施例2では、DPPC、コレステロール、Glu-DHSG及びPEG-DSPEを使用して(DPPC:コレステロール:Glu-DHSG:PEG-DSPE=5:5:5:0.045(モル比))、本発明例のリポソーム(L555Glu-DHSG)を得た。実施例3では、DPPC、コレステロール、AG-DHSG及びPEG-DSPEを使用して(DPPC:コレステロール:AG-DHSG:PEG-DSPE=5:5:5:0.045(モル比))、本発明例のリポソーム(L555AG-DHSG)を得た。実施例4では、コレステロール及びAsp-DHSGを使用して(コレステロール:Asp-DHSG=5:5(モル比))、本発明例のリポソーム(L055(Asp))を得た。実施例5では、コレステロール及びAG-DHSGを使用して(DPPC:コレステロール:AG-DHSG=5:10(モル比))、本発明例のリポソーム(L05[10](AG))を得た。比較例1では、DPPC、コレステロール及びPEG-DSPEを使用して(DPPC:コレステロール:PEG-DSPE=5:5:5:0.045(モル比))、カルボン酸型脂質を含まない比較例のリポソーム(L555DHSG)を得た。
【0452】
【表1】
【0453】
(2)リポソームの平均粒子径の測定
以下の手順に従って、リポソームの平均粒子径を測定した。
0.2μmフィルターで濾過した0.1mg/mLのリポソーム分散液1mLを、エアダスターでほこり等を除去したディスポセルに入れ、Zetasizer nano(Malvern Panalytical Ltd.製)を使用して、平均粒子径の測定を行った(25℃,n=3)。リポソームの平均粒子径を表2に示す。
【0454】
(3)リポソームのゼータ電位の測定
以下の手順に従って、リポソームのゼータ電位を測定した。
ゼータ電位測定用セル(Folded capillary cells)(DTS1061、Malvern Panalytical Ltd.製)に、2.5mLシリンジを使用して0.1mg/mLのリポソーム分散液を1mL入れ、セル内の気泡を除去した後、Zetasizer nano(Malvern Panalytical Ltd.製)を使用して、pH7.4、25℃でゼータ電位の測定を行った(n=3)。リポソームのゼータ電位の平均値を表2に示す。
【0455】
【表2】
【0456】
(4)活性化血小板凝集能の評価
以下の手順に従って、活性化血小板凝集能の評価に使用する血小板サンプルを調製した。
18Gの翼状針と20mLシリンジとを使用して、心臓穿刺法によりモルモット(Hartley、オス、8週齢、体重450g、日本SLC株式会社製)から約15mLの血液を採取し、14mLチューブ2本に同量ずつ移した。次いで、全血の体積に対して1/10となるように3.8%クエン酸ナトリウムを添加、混合し、ポリスポイトを使用して2回ゆっくりと撹拌して混合物を得た。次いで、得られた混合物を遠心分離(600rpm、室温、15分)し、上清の多血小板血漿(PRP)を回収した。次に、PRP回収後の血液を再度遠心分離(2000rpm、室温、10分)し、上清の乏血小板血漿(PPP)を回収した。多項目自動血球計測装置を使用して、回収したPRP及びPPPの血小板数を測定し、PRP、PPP及びHEPES-Tyrodeバッファーを、血小板濃度が2.0×10/μLとなるように混合して、血小板サンプル得た。
【0457】
得られた血小板サンプルとリポソーム分散液とを使用して、以下の手順に従って、血小板凝集塊中の蛍光標識リポソームの観察及び蛍光定量を行った。
96ウェルガラスボトムプレートに、上記の方法により調製されたモルモット由来の血小板サンプル(血小板濃度:2.0×10/μL)50μLと、蛍光物質DiO(3,3’-ジオクタデシルオキサカルボシアニンパークロレート)又はDiD(1,1’-ジオクタデシル-3,3,3’,3’-テトラメチルインドジカルボシアニンパークロレート)で標識したリポソームを含有するリポソーム分散液(200μM、5μL)とを混合し、室温で2分間静置した。必要に応じ、血小板を活性化するADP(1μM、5μL)を添加し、室温で4分間静置した後、8%ホルマリン(60μL、最終濃度4%)を使用して室温で30分間固定し、固定完了後、HEPES-Tyrodeバッファー(100μL)で3回洗浄して、血小板凝集塊を得た。リポソーム分散液を使用して得られた血小板凝集塊の観察結果(蛍光顕微鏡写真)を図1及び図2に示す。実施例1(L555Asp-DHSG)では、DiOで標識したリポソームを含有するリポソーム分散液を使用して血小板凝集塊を得た(図1の上段)。実施例2(L555Glu-DHSG)、実施例3(L555AG-DHSG)、実施例4(L055(Asp))及び実施例5(L05[10](AG))では、DiDで標識したリポソームを含有するリポソーム分散液を使用して血小板凝集塊を得た(図1の下段及び図2)。比較例1(L555DHSG)では、DiO又はDiDで標識した2種類のリポソーム分散液を準備し、それぞれのリポソーム分散液を使用して血小板凝集塊を得た(図1の上段及び下段)。蛍光顕微鏡(20倍又は60倍)を使用して、得られた血小板凝集塊中の蛍光標識リポソームの観察を行った。また、ImageJを使用して、図1及び図2に示された各血小板凝集塊中の蛍光標識リポソームの蛍光強度の測定を行った。蛍光強度の測定結果を表3に示す。なお、表3における蛍光強度の値は、比較例1(L555DHSG)を使用した場合の蛍光強度を1としたときの相対値である。
【0458】
【表3】
【0459】
表3に示すように、実施例1~5のリポソームは、比較例1のリポソームと比較して、血小板凝集塊中の蛍光強度が高かった。このことは、実施例1~5のリポソームが、比較例1のリポソームと比較して、優れた血小板凝集促進能を有することを示す。特に、実施例1のリポソームは、比較例1のリポソームと比較して、血小板凝集塊中の蛍光強度が有意に高かった。このことは、実施例1のリポソームが、比較例1のリポソームと比較して、有意に優れた血小板凝集促進能を有することを示す。
【0460】
(5)止血材の作製及び該止血材の止血能の評価
以下の手順に従って、リポソームを使用して止血材を作製し、止血材の止血能を評価した。
【0461】
(基材の作製)
リポソームを担持させるための基材を、以下の手順に従って作製した
80℃で24時間真空乾燥したポリ-L-乳酸樹脂(PLLA樹脂、重量平均分子量(Mw):80000、融点(Tm):169℃、メルトフローレート(MFR):78g/10分)80質量%、ポリエチレングリコール(和光純薬工業製、重量平均分子量(Mw):6000)20質量%を含む熱可塑性樹脂組成物を、電気的に接地されている押出機に供給し、300℃の紡糸温度で溶融混練し、紡糸ノズルから押出した。この時に、紡糸ノズルから吐出された樹脂流体に向けて380℃のアシストエアーを吹き付けるとともに、ノズルの側面から独立した電極により10kVの電圧を印加させ、上記熱可塑性樹脂組成物の溶融物をセルロースポンジ(東レ・ファインケミカル株式会社製、厚さ0.5mm)に10秒間吹き付けて、セルローススポンジと、セルローススポンジ上に形成された繊維シートとを有する基材を得た。
【0462】
(止血材の作製)
上述した手順に従って作製した基材複合体を金属製ポンチで型抜きし、13mm径の円柱状の基材複合体を得た。得られた円柱状の基材複合体の基材部分(繊維シート部分)に、濃度30mg/mLの実施例1~4及び7~8のtert-ブチルアルコール溶液をそれぞれ66.7μL噴霧し、-40℃で12時間凍結乾燥させることにより止血材を作製した。以下、実施例1~4及び7~8のtert-ブチルアルコール溶液を使用して作製した止血材をそれぞれ本発明例の止血材A1~A4、A7及びA8という。また、tert-ブチルアルコール溶液に代えてtert-ブチルアルコールを66.7μL噴霧する点を除き、上記と同様にして作製した止血材を対照の止血材という。
【0463】
(止血能の評価)
3%イソフルラン麻酔下のモルモット(Slc:Hartley、8週齢、雄、日本SLC株式会社製)を背位に固定し、腹壁を正中切開し、肝臓左葉を露出させた。切断面の幅が10mmになるように切開辺縁部をハサミで一部切除し、創面全体から出血させた。創面を被覆するように止血材を貼付し、指で圧迫止血した。2分毎に止血材を剥離し、創面からの湧血状況を確認した。剥離後5秒以内に湧血が見られた場合には、剥離した止血材を再度創面に貼付した。剥離後5秒間湧血が見られなかった時点で止血とし、止血材貼付から止血までの時間(止血時間)を計測した。また、肝臓切除前に肝臓周辺に不織布を敷き、止血中に湧出した血液を吸収させ、血液を吸収した止血材及び不織布の術前後の重量差から出血量を算出した。止血時間(分)を表4に、出血量(mg)を表5に示す。なお、止血材ごとに止血を3回ずつ行い、3回の止血時間及び出血量の平均値を、各止血材の止血時間及び出血量とした。
【0464】
【表4】
【0465】
表4に示されるように、本発明例の止血材を使用した場合には、対照の止血材を使用した場合と比較して、止血時間が有意に短縮された(p<0.01,t検定)。このことは、本発明例の止血材が、対照の止血材と比較して、優れた止血能を有することを示す。
【0466】
【表5】
【0467】
表5に示されるように、本発明例の止血材を使用した場合には、対照の止血材を使用した場合と比較して、出血量が有意に抑制された(p<0.05,t検定)。これに対して、比較例の止血材を使用した場合には、対照の止血材を使用した場合と比較して、出血量に有意差がなかった。このことは、本発明例の止血材が、対照の止血材及び比較例の止血材と比較して、優れた止血能を有することを示す。
【0468】
〔実施例6~9〕
(1)脂質の合成
上記と同様にしてDHSGを合成し、合成されたDHSGを使用して上記と同様にしてAsp-DHSG、Glu-DHSG及びAG-DHSGを合成した。
【0469】
(2)止血材の作製
DHSG、Asp-DHSG、Glu-DHSG及びAG-DHSGを、上記と同様にして作製した。上記と同様にして、セルローススポンジと、セルローススポンジ上に形成されたポリ-L-乳酸樹脂製繊維シートとを有する基材複合体を作製し、作製された基材複合体を金属製ポンチで型抜きし、13mm径の円柱状の基材複合体を得た。得られた円柱状の基材複合体の基材部分(繊維シート部分)に、30mg/mLのDHSG、Asp-DHSG、Glu-DHSG及びAG-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を、それぞれ66.7μL噴霧し、乾燥させることにより、止血材を作製した。実施例6では、DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して止血材(以下「止血材D1」という)を作製し、実施例7では、Asp-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して止血材(以下「止血材D2」という)を作製し、実施例8では、Glu-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して止血材(以下「止血材D3」という)を作製し、実施例9では、AG-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して止血材(以下「止血材D4」という)を作製した。
【0470】
(3)止血材の血小板凝集能評価(in vitro)
止血材D1、D2、D3及びD4から、それぞれ、DHSG、Asp-DHSG、Glu-DHSG及びAG-DHSGを担持させた基材部分(繊維シート部分)を取り出した。12ウェルプレートに、取り出した基材部分(繊維シート部分)と、上記の方法により調製されたモルモット由来PRP(2.0×10/μL) 1mLを添加した。その後、血小板を活性化するADP(1μM、100μL)を添加し、室温で5分間静置した後、DPBS 1mLで2回洗浄した。その後、基材部分(繊維シート部分)に付着した血小板を溶解するために、0.5%Triton X 500μLを添加し、室温で1時間静置することにより、血小板溶解溶液を得た。96ウェルプレートに上記の方法により調製された血小板溶解溶液 10μLと、Pierce(商標) 660nm Protein Assay Kit 150μLを添加し、5分間静置した。マイクロプレートリーダーを用いて660nmの吸光度を測定することにより、タンパク質を定量し、洗浄されずに繊維シートに付着した血小板数の指標とした。結果を図3及び図4に示す。なお、図4における結果は、止血材D1を使用した場合の血小板数を1としたときの相対値である。図3及び図4中、「DHSG」は止血材D1に関する結果を、「Asp-DHSG」は止血材D2に関する結果を、「Glu-DHSG」は止血材D3に関する結果を、「AG-DHSG」は止血材D4に関する結果を示す。
【0471】
図3及び図4に示すように、Asp-DHSGを担持させた止血材D2、Glu-DHSGを担持させた止血材D3及びAG-DHSGを担持させた止血材D4はそれぞれ、DHSGを担持させた止血材D1と比較して、強固に付着した血小板数が多いことが示された。
【0472】
なお、脂質を担持させる前の基材部分(繊維シート部分)にモルモット由来PRPを添加した場合、及び、脂質を担持させる前の基材部分(繊維シート部分)にモルモット由来PRPを添加しなかった場合のいずれの場合も、タンパク質は検出されず、洗浄の結果血小板は検出されなかった。また、DHSG、Asp-DHSG、Glu-DHSG及びAG-DHSGに代えてDPPCを基材部分(繊維シート部分)に担持させた場合、洗浄の結果血小板は検出されなかった。これは、DPPCが生体内で負電荷を示さないことに起因すると考えられる。
【0473】
(4)モルモットを用いたin vivo止血試験
上記と同様にして、モルモットを用いたin vivo止血試験を行い、止血時間及び出血量を定量することにより、止血材D2、D3及びD4の止血能を評価した。なお、対照として、脂質を担持させる前の基材複合体の止血時間及び出血量も定量した。結果を表6及び表7に示す。表6及び表7に示すように、止血材D2、D3及びD4の止血時間は脂質を担持させる前の基材複合体の止血時間よりも有意に短く、止血材D2、D3及びD4の出血量は、脂質を担持させる前の基材複合体の出血量よりも少なかった。
【0474】
【表6】
【0475】
【表7】
【0476】
〔実施例10~12〕
上記と同様にして、セルローススポンジと、セルローススポンジ上に形成されたポリ-L-乳酸樹脂製繊維シートとを有する基材複合体を作製し、作製された基材複合体を金属製ポンチで型抜きし、13mm径の円柱状の基材複合体を得た。得られ円柱状の基材複合体の基材部分(繊維シート部分)に、30mg/mLの脂質溶液を66.7μL噴霧し、乾燥させることにより、止血材を作製した。脂質溶液としては、Asp-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液(実施例10)、Glu-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液(実施例11)及びAG-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液(実施例12)を使用した。また、対照として、DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用した。DHSG、Asp-DHSG、Glu-DHSG及びAG-DHSGは、上記と同様にして調製した。以下、Asp-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して作製した止血材を「止血材E1」、Glu-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して作製した止血材を「止血材E2」、AG-DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して作製した止血材を「止血材E3」、DHSGのtert-ブチルアルコール溶液を使用して作製した止血材を「止血材E4」という。
【0477】
脂質を担持させる前の基材複合体及び止血材E1~E4の基材部分(繊維シート部分)をイオンスパッタリング処理(ターゲット:Au)し、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、止血材E1~E4において、脂質の大部分は、繊維と繊維との間に跨がる膜状の形態をとっていた。脂質を担持させる前の基材複合体のSEM観察像(×1000)を図5に示し、止血材E1~E4のSEM観察像(×1000)をそれぞれ図6図9に示す。また、止血材E1~E4のSEM観察像(×5000)をそれぞれ図10図13に示す。図10図13に示すSEM観察像は、それぞれ、図6図9に示すSEM観察像の一部の拡大図である。図10に示すSEM観察像から算出される脂質膜(Asp-DHSG)の厚みは153nmであった。図11に示すSEM観察像から算出される脂質膜(Glu-DHSG)の厚みは187nmであった。図12に示すSEM観察像から算出される脂質膜(AG-DHSG)の厚みは124nmであった。図13に示すSEM観察像から算出される脂質膜(DHSG)の厚みは131nmであった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13