(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】タイヤ成型用金型および空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20240201BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20240201BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20240201BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
(21)【出願番号】P 2020007630
(22)【出願日】2020-01-21
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 倫一
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-107791(JP,A)
【文献】特開昭61-084211(JP,A)
【文献】特開2006-300649(JP,A)
【文献】特開2006-027115(JP,A)
【文献】実開昭60-145009(JP,U)
【文献】特開2003-211459(JP,A)
【文献】特開2021-104615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
B29C 35/00-35/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部とを備えた未加硫の生タイヤを加硫するタイヤ成型用金型であって、
前記トレッド部に圧接可能なトレッド型部を少なくとも備え、
前記トレッド型部は、周方向に分割されて、前記生タイヤの径方向に移動可能な複数のセグメントを有し、
前記セグメントの少なくとも一つは、温度測定プローブの外周面側端を固定する固定手段と、前記固定手段から内周面側に向かって延びる温度測定プローブ挿入穴と、前記固定手段により外周面側端が固定され、前記温度測定プローブ挿入穴内を内周面側に向かって延び、内周面側端が前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側端を超えて前記トレッド部のショルダー部内に埋設可能な姿勢で取り付けられた温度測定プローブとを備え、
前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側側面に形成された凸部と前記温度測定プローブ表面とが接触することにより、前記温度測定プローブが固定されて
おり、
前記凸
部の頂部と前記温度測定プローブ表面とが接触することにより、前記温度測定プローブが固定されて
おり、隣り合う凸部と温度測定プローブ表面との間には空気層が形成されたものであることを特徴とするタイヤ成型用金型。
【請求項2】
前記凸部が、前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側端から深さ方向にL1の範囲に形成されており、前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側端から外周面側端までの前記温度測定プローブ挿入穴の深さLに対し、0.02≦L1/L≦0.05である請求項
1に記載のタイヤ成型用金型。
【請求項3】
前記L1の長さが少なくとも5mm以上である請求項
2に記載のタイヤ成型用金型。
【請求項4】
前記温度測定プローブの外径が1~10mmである請求項1~
3のいずれかに記載のタイヤ成型用金型。
【請求項5】
前記温度測定プローブが、プラチナ測温抵抗体である請求項1~
4のいずれかに記載のタイヤ成型用金型。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれかに記載のタイヤ成型用金型内で加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法であって、
前記加硫工程が、一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部とを備えた未加硫の生タイヤのトレッド部に含まれるショルダー部に温度測定プローブを埋設することにより、前記ショルダー部の温度を測定する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部とを備えた未加硫の生タイヤを加硫するタイヤ成型用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
ゴム製品である空気入りタイヤを製造する場合、その加硫工程はもっとも時間を要する工程となるため、加硫工程の時間短縮の努力が現在でも行われている。その一方で、加硫工程においてゴム部の加硫が不十分であると、ゴムの加硫反応により発生したエアが加硫ゴム内に残存し、かかる残存エアは製品段階でのタイヤ故障の原因となる場合がある。したがって、通常のタイヤ生産の現場では、季節要因などにより、例えば原料である未加硫の生タイヤの温度、金型内温度、雰囲気温度などがばらつく点を考慮し、加硫工程での全ばらつきを加味した余裕時間を加算して加硫工程に要する時間を設定している。
【0003】
しかしながら、余裕時間の設定はタイヤの生産性向上の観点からは好ましくなく、タイヤ毎に加硫終了時を決定し、効率良く加硫工程を実行することが望まれていた。
【0004】
下記特許文献1には、加硫工程が進行している間に加硫試料のインピーダンスを測定し、加硫試料の高分子抵抗値Rpの増加速度が急激に緩慢になる時点を最適の加硫停止時間とする、加硫試料の実時間加硫調節方法が記載されている。しかしながら、この方法では、加硫試料に対するインピーダンス測定を、2個の電極の間に加硫試料を挟んで測定する必要があり、しかもタイヤは通常、複合材料の積層体であるため、この方法をタイヤ加硫時のタイヤに応用することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、タイヤ毎に加硫工程の終了時点を確実に決定するために、加硫中の空気入りタイヤの温度を正確に測定可能であり、かつ温度測定プローブの耐久性に優れたタイヤ成型用金型および該タイヤ成型用金型を使用した空気入りタイヤの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的は、下記の如き本発明により達成できる。即ち本発明は、一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部とを備えた未加硫の生タイヤを加硫するタイヤ成型用金型であって、前記トレッド部に圧接可能なトレッド型部を少なくとも備え、前記トレッド型部は、周方向に分割されて、前記生タイヤの径方向に移動可能な複数のセグメントを有し、前記セグメントの少なくとも一つは、温度測定プローブの外周面側端を固定する固定手段と、前記固定手段から内周面側に向かって延びる温度測定プローブ挿入穴と、前記固定手段により外周面側端が固定され、前記温度測定プローブ挿入穴内を内周面側に向かって延び、内周面側端が前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側端を超えて前記トレッド部のショルダー部内に埋設可能な姿勢で取り付けられた温度測定プローブとを備え、前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側側面に形成された凸部と前記温度測定プローブ表面とが接触することにより、前記温度測定プローブが固定されていることを特徴とするタイヤ成型用金型に関する。
【0008】
上記タイヤ成型用金型において、前記凸部の頂部と前記温度測定プローブ表面とが接触することにより、前記温度測定プローブが固定されていることが好ましい。
【0009】
上記タイヤ成型用金型において、前記凸部が、前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側端から深さ方向にL1の範囲に形成されており、前記温度測定プローブ挿入穴の内周面側端から外周面側端までの前記温度測定プローブ挿入穴の深さLに対し、0.02≦L1/L≦0.05であることが好ましい。
【0010】
前記L1の長さが少なくとも5mm以上であることが好ましい。
【0011】
上記タイヤ成型用金型において、前記温度測定プローブの外径が1~10mmであることが好ましい。
【0012】
上記タイヤ成型用金型において、前記温度測定プローブが、プラチナ測温抵抗体であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、前記いずれかに記載のタイヤ成型用金型内で加硫する加硫工程を含む空気入りタイヤの製造方法であって、前記加硫工程が、一対のビード部と、前記ビード部の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部と、前記サイドウォール部の各々のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部とを備えた未加硫の生タイヤのトレッド部に含まれるショルダー部に温度測定プローブを埋設することにより、前記ショルダー部の温度を測定する工程を含むことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係るタイヤ成型用金型は、少なくともトレッド型部が周方向に分割された、所謂「セグメンタルモールド」であり、セグメントの少なくとも1つに、上記特定の温度測定プローブを備える。これにより、加硫中の空気入りタイヤの温度、特にはタイヤの加硫が最も進行し難いトレッド部のショルダー部の温度を正確に測定することができる。
【0015】
本発明に係るタイヤ成型用金型では、生タイヤのトレッド部のショルダー部に、温度測定プローブが押し込まれつつ埋設される。一般的には、ショルダー部を構成するゴム部が未加硫状態であっても、ゴム中に温度測定プローブが押し込まれる際、温度測定プローブには大きな負荷が掛かり、場合によっては温度測定プローブが湾曲してしまう虞がある。しかしながら、本発明に係るタイヤ成型用金型では、温度測定プローブ挿入穴の内周面側側面に形成された凸部と温度測定プローブ表面とが接触することにより、温度測定プローブが固定されている。これにより、固定手段のみによって温度測定プローブの外周面側端を固定する構成に比して、温度測定プローブがより安定的に保持されるため、温度測定プローブの湾曲などの変形を防止し、温度測定プローブの耐久性を向上することができる。
【0016】
特に、本発明に係るタイヤ成型用金型において、凸部の頂部と温度測定プローブ表面とが接触することにより、温度測定プローブが固定されている場合、複数の凸部の頂部で温度測定プローブをより安定的に保持することができる。加えて、隣り合う凸部と温度測定プローブ表面との間には空気層が形成されるため、金型から温度測定プローブへの熱伝導をより小さくすることができる。その結果、加硫中の空気入りタイヤの温度をより正確に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明において製造可能なタイヤの一例を示すタイヤ子午線断面図
【
図2】本発明のタイヤ成型用金型を概念的に示す断面図
【
図3】本発明の金型のトレッド型部を構成するセグメントにおいて、ショルダー部に温度測定プローブを埋設する状態を概念的に示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示した生タイヤ9は、一対のビード部1と、ビード部1の各々からタイヤ径方向外側に延びるサイドウォール部2と、サイドウォール部2の各々のタイヤ径方向外側端に連なって踏面を構成するトレッド部3とを備えた空気入りタイヤである。ビード部1には、環状のビードコア1aが配されている。
【0019】
カーカス層4は、トレッド部3からサイドウォール部2を経てビード部1に至り、その端部がビードコア1aを介して折り返されている。カーカス層4は、少なくとも一枚のカーカスプライによって構成される。カーカスプライは、タイヤ周方向に対して略90°の角度で延びるカーカスコードをトッピングゴムで被覆して形成されている。
【0020】
ベルト層5は、トレッド部3でカーカス層4の外側に貼り合わされ、トレッドゴム6により外側から覆われている。ベルト層5は、複数枚(本実施形態では二枚)のベルトプライによって構成される。各ベルトプライは、タイヤ周方向に対して傾斜して延びるベルトコードをトッピングゴムで被覆して形成され、該ベルトコードがプライ間で互いに逆向きに交差するように積層されている。
【0021】
トレッドゴム6は、1層のみで構成しても良く、タイヤ径方向内側のベーストレッドと、その外周側に位置するキャップトレッドとを有する、所謂キャップベース構造で構成してもよい。
【0022】
図1に示した生タイヤ9は、未加硫状態の生タイヤであり、後述する加硫工程において、製品タイヤの形状にシェーピングされる(
図2参照)とともに、そのトレッド表面には種々のトレッドパターンが形成される。
【0023】
生タイヤ9の加硫成形では、本発明に係るタイヤ成型用金型(以下、単に「金型」ともいう)が使用される。
図2に本発明のタイヤ成型用金型を概念的に表した断面図を示す。この金型10には、生タイヤ9が未加硫状態のままセットされ、その金型10内の生タイヤ9に加熱加圧を施すことで加硫工程が行われる。
【0024】
金型10は、生タイヤ9のトレッド部3に圧接可能なトレッド型部11を少なくとも備える。本実施形態では、金型10は、生タイヤ9の踏面に接するトレッド型部11と、下方を向いたタイヤ外面に接する下型部12と、上方を向いたタイヤ外面に接する上型部13とを備える。これらは、周囲に設置された開閉機構(不図示)によって、型締め状態と金型開放状態との間で変位自在に構成され、かかる開閉機構の構造は周知である。トレッド型部11はさらに周方向に複数個のセグメントに分割されており、金型10内に配設される生タイヤ9の径方向に移動可能となっている。また、金型10には、電気ヒータや蒸気ジャケットなどの熱源を有するプラテン板(不図示)が設けられており、これによって各型部の加熱が行われる。
【0025】
金型10の中心部には、タイヤと同軸状に中心機構14が設けられ、これの周囲にトレッド型部11、下型部12および上型部13が設置されている。中心機構14は、ゴム袋状のブラダー15と、タイヤ軸方向に延びるセンターポスト16とを有し、センターポスト16には、ブラダー15の端部を把持する上部クランプ17と下部クランプ18が設けられている。
【0026】
中心機構14には、ブラダー15内への加熱媒体の供給を行うための媒体供給路21が上下に延設され、その媒体供給路21の上端に噴出し口22が形成されている。媒体供給路21には、加熱媒体供給源23から供給された加熱媒体や、加圧媒体供給源26から供給された加圧媒体が流れる供給配管24が接続されている。加熱媒体は、バルブ25の開閉操作に応じて供給され、加圧媒体は、バルブ28の開閉操作に応じて供給される。
【0027】
また、中心機構14には、ブラダー15内の加熱媒体と加圧媒体とが混合された高温高圧流体を排出するための媒体排出路31が上下に延設され、その媒体排出路31の上端に回収口32が形成されている。媒体排出路31には、高温高圧流体が流れる排出配管34が接続され、その開閉を操作するブローバルブ33を排出配管34に設けている。ポンプ35は、媒体排出路31を通る高温高圧流体が媒体供給路21を経由してブラダー15の内部に再供給されるように、高温高圧流体を強制循環させる手法を用いても構わない。
【0028】
以下、本発明の金型10が備えるトレッド型部11を構成するセグメント41について説明する。
図3は、本発明の金型のトレッド型部を構成するセグメントにおいて、ショルダー部3Sに温度測定プローブ44を埋設する状態を概念的に示す断面図を示す。
図3において、「内周面側」とは生タイヤ9が金型10にセットされる際、生タイヤ9に近い側を意味する。セグメント41は、トレッド型部11が、例えば周方向に6~12分割されたものの一つであり、その各々が生タイヤ9の径方向に移動することにより、生タイヤ9のトレッド部3に圧接可能となっている。セグメント41の分割数は、6~12の範囲内で奇数であることがより好ましい。
【0029】
セグメント41の少なくとも一つは、温度測定プローブ44を固定する固定手段42と、固定手段42から内周面側に向かって延びる温度測定プローブ挿入穴43と、固定手段42により固定され、温度測定プローブ挿入穴43内を内周面側に向かって延び、内周面側端が温度測定プローブ挿入穴43の内周面側端Iを超えてトレッド部3のショルダー部3S内に埋設可能な姿勢で取り付けられた温度測定プローブ44とを備える。かかる温度測定プローブ44は、複数のセグメント41のうちの一つに取り付けてもよく、複数のセグメント41に取り付けてもよく、全部のセグメント41に取り付けてもよい。
【0030】
温度測定プローブ44を固定する固定手段42は、例えば外周面側をダブルナットなどで構成し、内周面側をネジ構造で構成することにより、温度測定プローブ穴43からの温度測定プローブ44の突出高さを調製可能となるように設計可能である。
【0031】
固定手段42の内周面側には、温度測定プローブ挿入穴43が形成されている。温度測定プローブ挿入穴43の配設方向としては後述のとおり、生タイヤ9の径方向とすることが好ましい。温度測定プローブ挿入穴43の内周面側は開口しており、温度測定プローブ44が金型10のキャビティ内に突出し、トレッド部3のショルダー部3S内に埋設可能となるように設計されている。
【0032】
温度測定プローブ44は、外周面側の端部が固定手段42により固定され、温度測定プローブ挿入穴43内を内周面側に向かって延び、内周面側端が温度測定プローブ挿入穴43の内周面側端Iを超えてトレッド部3のショルダー部3S内に埋設可能な姿勢で取り付けられている。温度測定プローブ44の配設方向としては後述のとおり、生タイヤ9の径方向とすることが好ましい。また、温度測定プローブ44の断面形状は特に限定されないが、円形状であることが好ましい。
【0033】
前記のとおり、セグメント41は生タイヤ9の径方向に移動するため、温度測定プローブ44の配設方向も生タイヤ9の径方向とした場合、温度測定プローブ44をショルダー部3S内に埋設する際、負荷が最も少なくなるため好ましい。温度測定プローブ44への負荷軽減を考慮した場合、セグメント41が径方向に移動する際の進行方向と、温度測定プローブ44の径方向への配設方向とのズレは、3°以下であることが好ましく、1°以下であることがより好ましい。
【0034】
図3に記載のとおり、本実施形態では温度測定プローブ挿入穴43の内周面側側面には、凸
部4Mが形成され、
凸部4Mの頂部と温度測定プローブ44表面とが接触することにより、温度測定プローブ44が固定されている。かかる構成によれば、温度測定プローブ44が温度測定プローブ挿入穴43内で安定的に保持されるため、温度測定プローブ44の湾曲などの変形を防止し、温度測定プローブ44の耐久性を向上することができる。また、隣り合う
凸部4Mと温度測定プローブ44表面との間には空気層が形成されるため、金型から温度測定プローブへの熱伝導をより小さくすることができる。
【0035】
温度測定プローブ挿入穴43の内周面側側面に形成された凸部4Mは、温度測定プローブ挿入穴43の内周面側側面のいずれの場所に形成されてもよいが、温度測定プローブ挿入穴43の内周面側端Iから外周面側に向かって形成されることが好ましい。また、凸部4Mは、温度測定プローブ挿入穴43の内周面側端Iから深さ方向にL1の範囲に形成されており、温度測定プローブ挿入穴43の内周面側端Iから外周面側端Oまでの温度測定プローブ挿入穴43の深さLに対し、0.02≦L1/L≦0.05であることが好ましい。かかる構成によれば、温度測定プローブ44が温度測定プローブ挿入穴43内でより安定的に保持されるため、温度測定プローブ44の湾曲などの変形をより確実に防止し、温度測定プローブ44の耐久性をさらに向上することができる。L1の長さは温度測定プローブ44の長さに応じて任意に設計可能であるが、例えば5mm以上であることが好ましい。
【0036】
本実施形態では、温度測定プローブ挿入穴43の内周面側端Iでの内径D1よりも外周面側端Oでの内径D2が大きく設計されている。かかる構成よれば、外周面側において、温度測定プローブ44と温度測定プローブ穴43との間の隙間部分をより大きく確保できるため、温度測定プローブ44によってトレッド部3のショルダー部3S内の温度を測定する際、金型10からの温度測定プローブ44への熱伝導をより少なくすることが可能となり、トレッド部3のショルダー部3S内の温度をより正確に測定することができる。温度測定プローブ挿入穴43において、内径がD1よりも大きくなる部分の深さ方向長さをL2としたとき、L2/L≦0.9であることが好ましい。温度測定プローブ44の外径としては、例えば1~10mm程度が好ましい。
【0037】
本発明において、加硫温度を測定する際に使用する温度測定プローブとして、金属の電気抵抗が温度変化に対して変化する性質を利用した測温抵抗体を使用することができる。かかる金属としては、プラチナ、ニッケル、および銅などが例示可能であるが、本発明においては、温度変化に対する抵抗値変化(感度)が大きく、その結果、温度変化に対する感度が非常に高い白金測温抵抗体を特に好適に使用することができる。
【0038】
次に、本発明の空気入りタイヤの製造方法における加硫工程について具体的に説明する。
【0039】
まず、
図2のように金型10内に生タイヤ9をセットし、膨張させたブラダー15によって生タイヤ9を金型10の内面形状近くまでシェーピングする。これにより、生タイヤ9は、ブラダー15によって保持され、トレッド型部11、下型部12および上型部13の各々に宛がわれる。この時点で、生タイヤ9の加硫最遅部に温度測定プローブを埋設する。加硫最遅部とは、タイヤの加硫が最も進行し難い部位を意味し、通常はトレッド部3のショルダー部を意味する。特にショルダー部の中でも、加硫後のトレッド部3の内表面の法線に沿って測定される、トレッド部3の厚みが最大になる位置を加硫最遅部とすることが好ましい。いずれにせよ、本発明においては、加硫最遅部における加硫温度を測定するため、温度測定プローブを生タイヤ9の加硫最遅部に埋設する。埋設方法としては、例えば温度測定プローブ44をトレッド型部11のショルダー部に対応する位置に配設し、トレッド型部11が生タイヤ9の径方向に移動して生タイヤ9が宛がわれる際、温度測定プローブ44が生タイヤ9内に押し込まれつつ埋設されるように設計することが考えられる。このように生タイヤ9内に埋設された温度測定プローブ44により、加硫工程時には生タイヤ9の温度を測定し、加硫工程終了時にはトレッド型部11を含む金型10からタイヤを脱型する際に加硫最遅部から温度測定プローブを同時に抜き取ればよい。
【0040】
続いて、金型10を加熱してタイヤ9をタイヤ外面側から加熱する外側加熱と、金型10内のブラダー15に高温の加熱媒体を供給してタイヤ9をタイヤ内面側から加熱する内側加熱とからなる加熱を行い、生タイヤ9の加硫を実行する。金型10は、上記の蒸気ジャケットなどにより予め加熱されていて、これにより外側加熱が行われる。内側加熱は、タイヤ9のシェーピング後に、媒体供給路21を通じてブラダー15内に加熱媒体を供給することで行われる。加熱媒体を所定時間供給した後、引き続いてブラダー15内に加圧媒体を供給し、タイヤ9を高圧で加圧する。加熱媒体としては、例えばスチームや高温水が使用され、加圧媒体としては、例えば窒素ガスなどの不活性ガスやスチームが使用される。
【0041】
温度測定プローブ44により、加硫中の生タイヤの温度の時系列データを取得することができる。かかる時系列データの取得には、市場において一般に流通する高精度デジタルデータロガー(温度分解能0.001℃程度、精度±0.005℃程度、温度値の最小取得間隔1秒)を使用可能である。取得した時系列データを解析することにより、タイヤ毎に加硫工程の終了時点を確実に決定することができる。
【0042】
加硫工程終了後は、金型10を開放状態としつつ、金型10内に配設した温度測定プローブを加硫済タイヤから抜き取る。その結果、タイヤ毎に加硫終点を見極め、加硫時間を短縮しつつ空気入りタイヤを製造することができる。
【0043】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。