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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】建物
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20240201BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20240201BHJP
   F16F 9/18 20060101ALI20240201BHJP
   F16F 7/09 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
E04H9/02 321F
E04H9/02 301
F16F15/02 L
F16F15/02 Q
F16F9/18
F16F7/09
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020010087
(22)【出願日】2020-01-24
(65)【公開番号】P2021116577
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 麻由美
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
【審査官】兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-232324(JP,A)
【文献】特開2008-144486(JP,A)
【文献】特開平09-310530(JP,A)
【文献】特開2006-316573(JP,A)
【文献】特許第7052953(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02
F16F 9/18
F16F 7/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基礎と、
前記基礎上に構築された柱梁架構の一階層と、
前記一階層の上部に構築され、柱梁架構の層剛性が前記一階層の前記柱梁架構より高い上階層と、
縦鉄筋の下端部が埋設されて前記基礎に固定され、前記一階層の柱梁架構の構面内に配置された鉄筋コンクリート製の反力壁と、
前記反力壁の上端から上方へ突出した突出部と、前記反力壁に埋設された埋設部と、を備えた受け部材と、
一端部が前記突出部に連結され、他端部が前記一階層の柱梁架構に連結された粘性ダンパーと、
前記反力壁を正面視したときに、上端部が前記埋設部と重なる位置に配置、又は、前記埋設部と接合されて前記反力壁に埋設されると共に、下端部が前記基礎に埋設され、前記粘性ダンパーから前記受け部材を介して前記反力壁に作用するせん断力に抵抗する引張材と、
を有し、
前記引張材は、前記上端部から前記下端部へ向けて、前記反力壁の面内に沿う異なる2方向へ延出する一対の鉄筋又は鉄骨である、
建物。
【請求項2】
前記一階層の階高は、前記上階層における各階層の階高より高い、請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記引張材は鉄筋である、
請求項1又は請求項2に記載の建物。
【請求項4】
前記引張材は鉄骨である、
請求項1又は請求項2に記載の建物。
【請求項5】
前記一階層の前記柱梁架構における柱の側面には、前記反力壁の側面と対向する位置に、前記反力壁と前記柱との相対変位を制限するストッパーが取り付けられている、
請求項1~4の何れか1項に記載の建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、多層建物に制振階を設けた制振構造が示されている。この制振構造においては、制振階の層剛性を、他の各層の層剛性よりも低下させた柔層としている。このため、地震時における建物の変形が制振階に集中する。そして制振階には、制振装置を配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2014-156707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように、層剛性が他の階より低い制振層を設けた建物においては、建物の変形に追随させて制振装置を十分に変形させ、制振装置による制振効果を十分に発揮させることが好ましい。
【0005】
ところが、制振装置が十分に変形する前に、建物と制振装置との連結部分が変形し、制振装置による制振効果が十分に発揮され難い場合がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮して、上層部の層剛性が下層部より大きいソフトファーストストーリー型の建物において、制振装置による制振効果を十分に発揮させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の建物は、基礎と、前記基礎上に構築された柱梁架構の一階層と、前記一階層の上部に構築され、柱梁架構の層剛性が前記一階層の前記柱梁架構より高い上階層と、縦鉄筋の下端部が埋設されて前記基礎に固定され、前記一階層の柱梁架構の構面内に配置された鉄筋コンクリート製の反力壁と、前記反力壁の上端から上方へ突出した突出部と、前記反力壁に埋設された埋設部と、を備えた受け部材と、一端部が前記突出部に連結され、他端部が前記一階層の柱梁架構に連結された粘性ダンパーと、前記反力壁を正面視したときに、上端部が前記埋設部と重なる位置に配置、又は、前記埋設部と接合されて前記反力壁に埋設されると共に、下端部が前記基礎に埋設され、前記粘性ダンパーから前記受け部材を介して前記反力壁に作用するせん断力に抵抗する引張材と、を有し、前記引張材は、前記上端部から前記下端部へ向けて、前記反力壁の面内に沿う異なる2方向へ延出する一対の鉄筋又は鉄骨である
【0008】
請求項1に記載の建物は、上階層の層剛性が、一階層の層剛性より高い。すなわちこの建物は、一階層の剛性が上階層の層剛性より低い、ソフトファーストストーリーの建物である。このため地震時における変形が一階層に集中し易い。
【0009】
一階層の柱梁架構面内には反力壁が配置され、反力壁と一階層の柱梁架構の間には粘性ダンパーが設けられている。粘性ダンパーは振動エネルギーを吸収し、一階層及び上階層の揺れの増幅を抑制することができる。
【0010】
粘性ダンパーが変形すると、反力が反力壁に作用する。この反力壁はコンクリート製とされている。かつ、反力壁には、基礎に亘る引張材が埋設されている。これにより反力壁は、粘性ダンパーから作用する反力によって変形及び損傷し難い。このため、粘性ダンパーによる制振効果を十分に発揮できる。
【0011】
このように、本態様では、ソフトファーストストーリー型の架構において、制振装置の制振効果を十分に発揮することができる。
【0012】
請求項2の建物は、請求項1の建物において、前記一階層の階高は、前記上階層における各階層の階高より高い。
【0013】
請求項2の建物では、一階層の階高を、他の階層の階高より高くすることによって、剛性が低くされている。一階層の階高を高くすることにより、例えば一階層に機械式駐車場等を設置できる。これにより、建物が都心部等の狭小敷地に構築される場合において、この建物に駐車場を確保することができる。
【0014】
請求項3の建物は、請求項1又は請求項2の建物において、前記引張材は鉄筋である。
【0015】
請求項3の建物では、反力壁の内部において引張材が2方向に埋設されている。これにより、異なる方向からのダンパーの反力を効率的に直接下部構造体に伝達することができる。
請求項4の建物は、請求項1又は請求項2の建物において、前記引張材は鉄骨である。
請求項5の建物は、請求項1~4の何れか1項に記載の建物において、前記一階層の前記柱梁架構における柱の側面には、前記反力壁の側面と対向する位置に、前記反力壁と前記柱との相対変位を制限するストッパーが取り付けられている。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る建物によると、上層部の層剛性が下層部より大きいソフトファーストストーリー型の建物において、制振装置による制振効果を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態に係る建物を示す立面図である。
図2】本発明の実施形態に係る建物の下層部を示す正面図である。
図3】(A)は本発明の実施形態に係る建物の下層部に設置された粘性ダンパー付近を示す上面図であり、(B)は反力壁の上端付近を示す水平方向断面図であり、(C)は反力壁の上端付近の縦断面図である。
図4】(A)は本発明の実施形態に係る建物の反力壁に接合された壁側ブラケットを示す斜視図であり、(B)は側面図である。
図5】本発明の実施形態に係る建物において下層部の柱をブレース状に形成した変形例を示す立面図である。
図6】本発明の実施形態に係る建物において下層部をピロティ状に形成した変形例を示す立面図である。
図7】本発明の実施形態に係る建物において下層部を複数階で形成した変形例を示す立面図である。
図8】本発明の実施形態に係る建物において下層部と上層部の柱梁架構の剛性を等しく形成した変形例を示す立面図である。
図9】本発明の実施形態に係る建物において引張材を溝形鋼で形成した変形例を示す正面図である。
図10】本発明の実施形態に係る建物において引張材を溝形鋼で形成した変形例を示す斜視図である。
図11】本発明の実施形態に係る建物において躯体側ブラケットを梁に接合した変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の第1実施形態に係る建物12Aについて、図面を参照しながら説明する。各図面において同一の符号を用いて示される構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。また、各図面において重複する構成及び符号については、説明を省略する場合がある。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において構成を省略する又は異なる構成と入れ替える等、適宜変更を加えて実施することができる。
【0019】
<建物の全体構成>
図1には、本発明の実施形態に係る建物12Aの架構の概略を示す立面図が示されている。建物12Aは、鉄骨製の柱18及び柱18に架け渡された鉄骨製の梁20で形成されたラーメン構造の多層建築物である。また、建物12Aは、下部構造体としての鉄筋コンクリート造の基礎16によって支持されている。基礎16の上側には、柱18と梁20で囲まれる開口部である構面22が設けられている。なお、柱18及び梁20は鉄筋コンクリート製としてもよい。
【0020】
建物12Aにおける1階の階高H1は、2階以上の各階の階高H2より高く形成されている。また、柱18の太さは、1階(柱18A)と2階以上の各階(柱18B)とで等しく形成されている。これにより、1階の柱18Aの細長比が2階以上の各階における柱18Bの細長比より大きい。このため、1階の層剛性が、2階以上の各階の層剛性より小さい。これにより、1階の層間変位が、2階以上の各階の層間変位より大きい。
【0021】
なお、柱18Bは柱18Aより細く形成してもよいが、この場合、2階以上の各階の層剛性が1階の層剛性を下回らないように形成するものとする。
【0022】
なお、1階は本発明における一階層の一例であり、2階以上の各階は本発明における上階層の一例である。以下の説明においては、建物12Aの1階を下層部12Gと称し、2階以上の階を総称して上層部12Hと称す場合がある。
【0023】
(下層部)
詳しくは後述するが、下層部12Gには粘性ダンパー30が設置されている。粘性ダンパー30は、一例として粘性流体を密閉封入したシリンダー及びピストンで構成された制振装置(オイルダンパー)であり、建物12Aに伝わる地震の揺れを、粘性流体の摩擦抵抗により低減する。
【0024】
下層部12Gにおける粘性ダンパー30の配置は特に限定されるものではないが、下層部12Gの剛性に偏りが少ない場合は、下層部12Gの平面上に偏り無く配置することが好ましい。例えば、粘性ダンパー30は平面視で四角形状とされている建物12Aの各外周面の中央部にそれぞれ設けることができる。
【0025】
また、下層部12Gの剛性に偏りがある場合は、粘性ダンパー30は下層部12Gの平面上において、剛心から離れた位置(すなわち、揺れが大きい位置)に配置することが好ましい。
【0026】
(上層部)
上層部12Hには粘弾性ダンパー31が設置されている。粘弾性ダンパー31は、一例として粘弾性体と鋼板とを積層配置した制振装置である。粘弾性ダンパー31は、粘弾性体の粘性によって発揮される減衰力及び弾性によって発揮される復元力により、建物12Aに伝わる地震の揺れを低減する。
【0027】
上層部12Hにおける粘弾性ダンパー31の配置は特に限定されるものではないが、上層部12Hの剛性に偏りが少ない場合は、上層部12Hの平面上に偏り無く配置することが好ましい。例えば、粘弾性ダンパー31は平面視で四角形状とされている建物12Aの各外周面の中央部にそれぞれ設けられる。
【0028】
また、上層部12Hの剛性に偏りがある場合は、粘弾性ダンパー31は、上層部12Hの平面上において、剛心の近傍(揺れの小さい位置)に設置してもよいが、剛心から離れた位置(すなわち、揺れが大きい位置)に配置すると好適である。
【0029】
<下層部の詳細構成>
(反力壁)
図2に示すように、構面22では、台座としての鉄筋コンクリート造の反力壁24が、基礎16に立設されている。基礎16には、反力壁24の内部において縦方向に配筋された縦鉄筋24Aの下端部が埋設されて定着されている。これにより、反力壁24が基礎16と一体化されている。より詳しくは、縦鉄筋24Aの下端部が基礎16と一体化している。また、反力壁24の内部には、縦鉄筋24Aと交差して横鉄筋24Cが配筋されている。
【0030】
反力壁24の周囲には、柱梁架構14を構成する左右の柱18との間、及び上側の梁20との間に隙間Sが設けられている。
【0031】
反力壁24の上部には、幅方向中央部に、受け部材としての壁側ブラケット26が設けられている。また、柱梁架構14における一方側(図2における紙面左側)の柱18には、架構側ブラケット28が設けられている。
【0032】
(粘性ダンパー)
図2及び図3(A)に示すように、反力壁24の壁側ブラケット26と柱18の梁20の架構側ブラケット28との間には、粘性ダンパー30が水平方向に配置されている。粘性ダンパー30は、一端がボルト、ナット等の締結部材を用いて壁側ブラケット26に連結され、他端がボルト、ナット等の締結部材を用いて架構側ブラケット28に連結されている。
【0033】
(壁側ブラケット)
図4(A)、(B)に示すように、壁側ブラケット26は、反力壁24の上端から上方へ突出し粘性ダンパー30が取り付けられる突出部26Aと、反力壁24に埋設される鋼製の埋設部26Bとを備えている。
【0034】
突出部26Aは軸方向が水平方向に沿って配置されたH型鋼からなり、一端部には、鋼板からなるダンパー取付部材32が溶接等で接合されている。また、突出部26Aの他端部には、鋼板からなる補強板33が溶接等で接合されている。ダンパー取付部材32には、粘性ダンパー30を取り付ける際に用いるボルト孔34が形成されている。
【0035】
突出部26Aのウエブ26Aaには、面内方向が水平方向に沿って配置された鋼板からなる補強リブ36が溶接等で接合されている。補強リブ36の一端はダンパー取付部材32に溶接等で接合されている。
【0036】
埋設部26Bは、突出部26Aの長手方向に沿って配置された鉛直壁部38を備えている。鉛直壁部38は鋼板によって形成され、突出部26Aの下側のフランジ26Abの幅方向中央から下方へ延設されている。鉛直壁部38の上端は、突出部26Aの下側のフランジ26Abの下面に溶接等で接合されている。
【0037】
鉛直壁部38の両端部には、面内方向が鉛直壁部38の面内方向に対して直角となるように配置された鋼板からなる端部フランジ40が溶接等で接合されている。また、鉛直壁部38の両側面には、面内方向が鉛直壁部38の面内方向に対して直角に配置された鋼板からなる複数のリブ42が溶接等で接合されている。なお、端部フランジ40、及びリブ42の上端は、突出部26Aの下側のフランジ26Abに溶接等で接合されている。
【0038】
(引張材)
図2、及び図3(B)、(C)に示すように、反力壁24の内部には、引張材44L、44Rが埋設されている。引張材44L、44Rは、反力壁24の内部に配筋された縦鉄筋24A及び横鉄筋24Cよりも引張強度の高い鉄筋を用いることが望ましい。
【0039】
図2に示すように、壁側ブラケット26の一方側(図2における左側)に配置される引張材44Lは、水平部44Lhと、斜行部44Lsと、を備えている。
【0040】
水平部44Lhは、反力壁24の幅方向に沿って直線状に延設されている。また、水平部44Lhは、壁側ブラケット26の埋設部26Bにおける鉛直壁部38と平行に、かつ反力壁24を正面視したときに、埋設部26Bと重なり合う位置に配置されている。
【0041】
斜行部44Lsは、水平部44Lhの一端(図2における左側の端部)から壁側ブラケット26から離れる方向(図2における左方向)で、かつ、下側へ傾斜して基礎16へ向けて直線状に延設されている。斜行部44Lsの下端側にはフック部43が形成されている。フック部43は、基礎16の内部に埋設されて基礎16のコンクリートに定着されている。なお、斜行部44Lsにはフック部43を設けず、先端を基礎16に埋設されている鉄筋(図示せず)に溶接等で接合してもよい。
【0042】
一方、壁側ブラケット26の他方側(図2における右側)に配置される引張材44Rは、水平部44Rhと、斜行部44Rsと、を備えている。
【0043】
水平部44Rhは、反力壁24の幅方向に沿って直線状に延設されている。また、水平部44Rhは、壁側ブラケット26の埋設部26Bにおける鉛直壁部38と平行に、かつ反力壁24を正面視したときに、埋設部26Bと重なり合う位置に配置されている。
【0044】
斜行部44Rsは、水平部44Rhの一端(図2における右側の端部)から壁側ブラケット26から離れる方向(図2における右方向)で、かつ、下側へ傾斜して基礎16へ向けて直線状に延設されている。斜行部44Rsの下端側には、フック部43が形成されている。フック部43は、基礎16の内部に埋設されて基礎16のコンクリートに定着されている。なお、斜行部44Rsにはフック部43を設けず、先端を基礎16に埋設されている鉄筋(図示せず)に溶接等で接合してもよい。
【0045】
なお、引張材44Lと引張材44Rとは、反力壁24を正面視した際に略左右対称に配置されている。また、壁側ブラケット26は、引張材44Lと引張材44Rとの上部に設けられ、かつ引張材44Lと引張材44R間の中央部(略対称)に配置されている。壁側ブラケット26が、引張材44Lと引張材44Rとの中央部に配置されることで、制振ダンパーの反力をバランス良く下部構造体へ伝達できる。
【0046】
図3(B)、(C)に示すように、本実施形態では、引張材44Lの水平部44Lhと壁側ブラケット26の埋設部26Bとは離間しているが、引張材44Lの水平部44Lhと壁側ブラケット26の埋設部26Bとは反力壁24を構成するコンクリートを介して互いに定着(応力伝達)されている。なお、引張材44Rについても同様に、水平部44Rhと壁側ブラケット26の埋設部26Bとは離間しているが、反力壁24を構成するコンクリートで互いに定着されている。
【0047】
なお、引張材44Lの水平部44Lhと壁側ブラケット26の埋設部26Bとは、溶接等で接合してもよく、同じく、引張材44Rの水平部44Rhと壁側ブラケット26の埋設部26Bとは、溶接等で接合してもよい。
【0048】
柱18の側面には、反力壁24の上端付近の側面と対向する位置に、反力壁24と柱18との相対変位を制限するストッパー48が取り付けられている。ストッパー48の先端には、衝撃吸収用のゴム板48Aが固定されている。
【0049】
<作用及び効果>
(建物の全体構成に係る作用及び効果)
本発明の実施形態に係る建物12Aにおいては、下層部12Gの層剛性が、上層部12Hの層剛性より小さい(所謂ソフトファーストストーリー)。ここで、下層部12Gの層剛性は、粘性ダンパー30が設置されていない状態で、粘弾性ダンパー31が設置されていない上層部12Hの層剛性より小さい。
【0050】
図1に示すように、下層部12Gには粘性ダンパー30が設置され、上層部12Hには粘弾性ダンパー31が設置されている。粘弾性ダンパー31は設置箇所の剛性を高める一方、粘性ダンパー30は粘弾性ダンパー31と比較して、設置箇所の剛性を高め難い。これにより、建物12Aにおいては、粘性ダンパー30及び粘弾性ダンパー31の設置前の状態と比較して、下層部12Gと上層部12Hの層剛性差が大きくなる。
【0051】
これにより、地震時における下層部12Gへ変形が集中する。この変形に対して粘性ダンパー30が機能することで振動を効率よく低減できる。
【0052】
また、上層部12Hに設置されている粘弾性ダンパー31は変形及び速度の双方に依存して地震エネルギーを吸収できるため、微小変形においても制振性能を発揮できる。このため、上層部12Hに生じる振動を低減することができる。これにより、建物12A全体の制振効果を高めることができる。
【0053】
なお、上層部12Hに設置するダンパーは、変位依存型の履歴系ダンパーとしてもよい。または、上層部12Hには、下層部12Gと同様の粘性ダンパーを設置することもできる。あるいは、上層部12Hには、ダンパーを設けなくてもよい。
【0054】
(下層部の詳細構成に係る作用及び効果)
地震等で建物12Aの柱梁架構14が水平方向(図2の矢印L方向、及び矢印R方向)に変形すると、図2に示す反力壁24に設けられた壁側ブラケット26と柱18に設けられた架構側ブラケット28とに連結された粘性ダンパー30が伸縮してエネルギーを吸収し、建物12Aを制振する。
【0055】
ここで、粘性ダンパー30は、反力壁24の上部に設けられた壁側ブラケット26に連結されているので、粘性ダンパー30の反力は、壁側ブラケット26、及び反力壁24を介して基礎16に伝達される。
【0056】
例えば、反力壁24に対して柱梁架構14が矢印L方向に変位した場合、粘性ダンパー30には引張力が作用し、壁側ブラケット26は粘性ダンパー30によって矢印L方向に引っ張られ、反力壁24は、上端側が基礎16に対して矢印L方向へ変位するようにせん断変形しようとする。
【0057】
しかしながら、反力壁24は、剛性が高い鉄筋コンクリート造とされているため、せん断変形が抑制される。さらに、反力壁24の内部に配筋された引張材44Rによって、壁側ブラケット26から入力されるせん断力が基礎16に直接伝達される。
【0058】
具体的には、反力壁24が矢印L方向へ変位しようとすると、引張材44Rが緊張(張力を負担)し、壁側ブラケット26から入力されるせん断力が基礎16に直接伝達される。
【0059】
一方、反力壁24に対して柱梁架構14が矢印R方向に変位した場合、粘性ダンパー30には圧縮力が作用し、壁側ブラケット26は粘性ダンパー30によって矢印R方向に引っ張られ、反力壁24は、上端側が基礎16に対して矢印R方向へ変位するようにせん断変形しようとする。
【0060】
しかしながら、反力壁24は、剛性が高い鉄筋コンクリート造とされているため、せん断変形が抑制される。さらに、反力壁24の内部に配筋された引張材44Lによって、壁側ブラケット26から入力されるせん断力が基礎16に直接伝達される。
【0061】
具体的には、反力壁24が矢印R方向へ変位しようとすると、引張材44Lが緊張(張力を負担)し、壁側ブラケット26から入力されるせん断力が基礎16に直接伝達される。
【0062】
このようにして、粘性ダンパー30の反力による反力壁24のせん断変形が抑制されることで、反力壁24の変形に起因する粘性ダンパー30の伸縮量(変形量)の減少が抑制され、制振効果が向上する。また、粘性ダンパー30の反力が引張材44L又は引張材44Rにより効率的に下部構造体に伝達する。
【0063】
換言すると、剛性を有しせん断変形が抑制された反力壁24と柱梁架構14との間に介在する粘性ダンパー30に、柱梁架構14から圧縮力または張力が作用する場合に、粘性ダンパー30が軸方向に十分に変形(伸縮)することで制振効果を十分に発揮することができる。
【0064】
なお、壁側ブラケット26は、埋設部26Bに、反力壁24のせん断変形方向(矢印L,R方向)に直角なリブ42、端部フランジ40が接合されているので、反力壁24のコンクリートに対して壁側ブラケット26が強固に定着され、端部フランジ40およびリブ42が、粘性ダンパー30の反力を支圧で反力壁24へ伝達している。
【0065】
ここで、反力壁24と柱梁架構14とが過度に相対変位した場合には、ストッパー48が反力壁24に当接し、反力壁24と柱梁架構14との過度な相対変位を抑制することができる。また、粘性ダンパー30に入力する過度の変位を制限することもでき、粘性ダンパー30の損傷を抑制することもできる。なお、ストッパー48は、反力壁24の柱側の側部に設けてもよい。
【0066】
(建物の全体構成と下層部の詳細構成との組み合わせに係る作用及び効果)
図1に示す本実施形態に係る建物12Aは、上述したように、下層部12Gの剛性が上層部12Hの層剛性より低い、ソフトファーストストーリーの建物である。このため地震時における変形が下層部12Gに集中し易い。そして、本実施形態に係る建物12Aの下層部12Gには、上述したように、せん断変形が抑制された反力壁24が設けられている。
【0067】
すなわち、下層部12Gにおいては、柱梁架構14が大きく変形する一方で、反力壁24は変形し難い。このため、柱梁架構14及び反力壁24に連結された粘性ダンパー30が大きく変形することができる。
【0068】
この「大きく変形」とは、ソフトファーストストーリーではない建物と比較して、大きく変形することを意味している。ソフトファーストストーリーの建物12Aにおいて、下層部12Gの詳細構成を適用したことにより、ソフトファーストストーリーではない建物と比較して、粘性ダンパー30の制振効果を十分に発揮している。
【0069】
また、本実施形態に係る建物12Aでは、下層部12Gの階高H1を、他の階層の階高H2より高くすることによって、剛性が低くされている。下層部12Gの階高H1を高くすることにより、例えば下層部12Gに機械式駐車場等を設置できる。これにより、建物12Aが都心部等の狭小敷地に構築される場合において、この建物12Aに駐車場を確保することができる。
【0070】
<その他の実施形態>
以下に、本実施形態の各種変形例について説明する。なお、これらの変形例において、上述した実施形態と同一構成には同一符号を付し、その説明は適宜省略するものとする。
【0071】
(建物の全体構成に係る変形例)
本実施形態において、下層部12G(1階)の柱18Aを上層部12H(2階以上の各階)における柱18Bより長く形成することによって、下層部12Gの層剛性を上層部12Hの層剛性より小さくしているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0072】
例えば下層部12Gの層剛性を上層部12Hの層剛性より小さくするために、1階の柱18Aを、2階以上の各階における柱18Bより細く形成してもよい。又は、例えば図5に示す建物12Bのように、1階の柱の一部(柱18C)をブレース状に形成し、間口Wを広くしてもよい。
【0073】
または、下層部12Gの層剛性を上層部12Hの層剛性より小さくするために、図6に示す建物12Cのように、1階の柱18Aを適宜省略し、1階をピロティ状に形成してもよい。なお、1階の柱18Aを省略する場合、必要な構造強度に応じて、適宜1階の梁20Aの梁せいを大きく形成することが好適である。
【0074】
また、本実施形態においては、1階のみを層剛性を小さく形成する下層部12Gとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。すなわち、その他の階(上層部12H)と比較して層剛性を小さくする階は、1階に「加えて」、例えば図7に示す建物12Dのように、1階及び2階としてもよい。又は、1階、2階及び3階以上の複数階に亘ってその他の階と比較して層剛性を小さくしてもよい。なお、この「1階」とは、基礎上に構築された階層のことを指し、基礎が地下にある場合(例えば地下2階の直下にある場合)は、地下階(例えば基礎の直上の地下2階)のことを指す。
【0075】
このように、層剛性が小さい階を複数階に亘って形成することにより、粘性ダンパー30による振動低減効果を大きくすることができる。
【0076】
また、図7においては、粘性ダンパー30を下層部12Gにおける全ての階に設置し、粘弾性ダンパー31を上層部12Hにおける全ての階に設置しているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば粘性ダンパー30を下層部12Gにおける少なくとも1階に設置し、粘弾性ダンパー31を上層部12Hにおける一部の階に設置してもよい。
【0077】
また、上層部12Hに設置するダンパーは、粘弾性ダンパー31のみに限定されるものではなく、粘弾性ダンパー31に加えて粘性ダンパー30、履歴系ダンパー等を併設してもよい。各種のダンパーを設置した状態において、上層部12Hの剛性が下層部12Gの剛性より高ければよい。
【0078】
また、本実施形態において、粘性ダンパー30及び粘弾性ダンパー31が設置されていない状態で、下層部12Gの層剛性を上層部12Hの層剛性より小さくしているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、粘性ダンパー30及び粘弾性ダンパー31が設置されていない状態で、下層部12Gの層剛性と上層部12Hの層剛性とを等しくしてもよい。
【0079】
一例として、図8に示す建物12Eのように、1階の階高を、2階以上の各階の階高と等しくする(階高H2)ことで、各階における柱梁架構14の剛性を等しくすることができる。このように、下層部12Gと上層部12Hの柱梁架構14の剛性が等しい建物においては、上層部12Hに粘弾性ダンパー31を設置することにより、上層部12Hの層剛性を下層部12Gより大きくし、下層部12Gに配置した粘性ダンパー30の振動低減効果を高めることができる。
【0080】
このように、本発明における「粘弾性ダンパーが設置された上層部と、粘性ダンパーが設置され、前記上層部より層剛性が小さい下層部」とは、粘弾性ダンパー31及び粘性ダンパー30を設置する前の状態における上層部12Hと下層部12Gとの間に剛性差がある場合と、無い場合と、の双方を含む。
【0081】
(下層部の詳細構成に係る変形例)
まず、壁側ブラケット及び引張材の変形例について説明する。変形例に係る壁側ブラケット50は、図10に示すように、矩形部54及び一対の脚部56を一体的に備えた本体部58を有している。一対の脚部56は、それぞれ矩形部54の幅方向の両側部の下方から互いに離間するように斜め下方に延出されている。
【0082】
本体部58の両側の外側縁には、本体部58と直角に配置された外フランジ60が溶接等で接合されている。また、本体部58の内側縁には、本体部58と直角に配置された内フランジ62が溶接等で接合されている。さらに、本体部58の側面には、水平方向に配置された鋼板からなる補強リブ59が溶接等で接合されており、補強リブ59の一端は、粘性ダンパー30が取り付けられる外フランジ60に溶接等で接合されている。
【0083】
図面左側の脚部56と外フランジ60と内フランジ62とで囲まれる部分には、溝形鋼からなる引張材52Lの一端部が配置されている。壁側ブラケット50と引張材52Lとは、締結部材としてのボルト、及びナット(図示省略)を用いて接合されている。
【0084】
また、図面右側の脚部56と外フランジ60と内フランジ62とで囲まれる部分には、溝形鋼からなる引張材52Rの一端部が配置されている。壁側ブラケット50と引張材52Rとは、締結部材としてのボルト、及びナット(図示省略)を用いて接合されている。
【0085】
なお、壁側ブラケット50にはボルトを挿通する孔64が形成され、引張材52にはボルトを挿通する孔66が形成されている。
【0086】
図9に示すように、一方(図9における左側)の引張材52Lは、基礎16へ向けて壁側ブラケット50から離れる方向で、かつ下方向(図9における左斜め下側)へ傾斜している。また、引張材52Lの下端側は、一部分が基礎16の内部に埋設されて基礎16のコンクリートと接合されている。なお、引張材52Lの下端には、定着部材68が溶接等で接合されている。
【0087】
また、他方(図9における右側)の引張材52Rは、基礎16へ向けて壁側ブラケット50から離れる方向で、かつ下方向(図9における右斜め下側)へ傾斜している。また、引張材52Rの下端側は、一部分が基礎16の内部に埋設されて基礎16のコンクリートと接合されている。なお、引張材52Rの下端には、定着部材68が溶接等で接合されている。
【0088】
反力壁24に対して柱梁架構14が矢印L方向に変位した場合、一端が壁側ブラケット50に接合され、他端が基礎16に接合された引張材52Rが緊張するので、壁側ブラケット50から入力されるせん断力が基礎16に直接伝達される。
【0089】
一方、反力壁24に対して柱梁架構14が矢印R方向に変位した場合、一端が壁側ブラケット50に接合され、他端が基礎16に接合された引張材52Lが緊張し、壁側ブラケット50から入力されるせん断力が基礎16に直接伝達される。
【0090】
この変形例においては、引張材44L、44R(図2参照)よりも引張強度および剛性の高い溝形鋼(鉄骨)からなる引張材52L、及び引張材52Rを用いている。このため、第1実施形態よりも反力壁24の剛性を上げることができ、反力壁24のせん断変形抑制効果を向上することが可能となる。したがって、粘性ダンパー30の反力をより効果的に基礎16へ伝達できる。
【0091】
次に、架構側ブラケットの変形例について説明する。図11に示す架構側ブラケット70のように、架構側ブラケットは梁20の下面に連結してもよい。架構側ブラケット70を介して梁20の下面に連結された粘性ダンパー30により、梁20と反力壁24との相対変位を抑制することで、建物12Aが制振される。
【0092】
なお、制振ダンパーは、柱梁架構のうちで、地震時等において、下部構造体との相対変位が大きい箇所、例えば、柱梁架構の上端側に連結することが好ましい。このように、本発明は様々な態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0093】
12A 建物
12B 建物
12C 建物
12D 建物
12E 建物
12G 下層部(一階層)
12H 上層部(上階層)
14 柱梁架構
16 基礎
24 反力壁
30 粘性ダンパー
44L 引張材
44R 引張材
52L 引張材
52R 引張材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11