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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】抵抗器及び抵抗器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01C 1/034 20060101AFI20240201BHJP
   H01C 7/00 20060101ALI20240201BHJP
   H01C 17/00 20060101ALI20240201BHJP
   H01C 1/144 20060101ALI20240201BHJP
   H01C 13/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
H01C1/034
H01C7/00 400
H01C17/00 100
H01C1/144
H01C13/00 J
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020011196
(22)【出願日】2020-01-27
(65)【公開番号】P2021118280
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000105350
【氏名又は名称】KOA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江藤 航児
(72)【発明者】
【氏名】常盤 陽平
(72)【発明者】
【氏名】金子 玲那
(72)【発明者】
【氏名】山本 純平
【審査官】小林 大介
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-089664(JP,A)
【文献】特開2015-065197(JP,A)
【文献】特開2002-075714(JP,A)
【文献】特開2004-071692(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 1/034
H01C 7/00
H01C 17/00
H01C 1/144
H01C 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抵抗体と、前記抵抗体に接続された一対の電極と、を備え、基板に実装した場合に少なくとも前記抵抗体が前記基板から離間して配置される抵抗器であって、
抵抗器の実装面の前記抵抗体と前記電極との境界部位のうち、前記抵抗体及び前記電極の少なくとも一方の表面に、それぞれの材料の酸化による酸化膜を有し、
前記抵抗器の前記実装面において、前記抵抗体及び前記電極の少なくとも一方に形成された前記酸化膜の部位を除き、前記抵抗体の表面が露出している、
抵抗器。
【請求項2】
請求項1に記載の抵抗器であって、
前記酸化膜は、少なくとも前記抵抗体に形成されている抵抗器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抵抗器において、
前記電極は、前記抵抗体に接続する胴体部と、前記基板の方向に突出した脚部と、を有するとともに前記抵抗体と前記胴体部により前記境界部位が形成され、
前記酸化膜は、前記抵抗体と前記胴体部との前記境界部位のうち、少なくとも前記胴体部に形成されている抵抗器。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の抵抗器であって、
前記境界部位において、凹部を有し、
前記酸化膜は前記凹部に形成されている抵抗器。
【請求項5】
請求項3に記載の抵抗器であって、
前記境界部位において、凹部を有し、
前記酸化膜は前記凹部に形成され、前記凹部は、前記胴体部と前記抵抗体の双方に亘って形成されている抵抗器。
【請求項6】
抵抗体と、前記抵抗体に接続された一対の電極と、を備え、基板に実装した時に少なくとも前記抵抗体が前記基板から離間して配置される抵抗器の製造方法であって、
抵抗器の実装面における前記抵抗体と前記電極との境界部位のうち前記抵抗体及び前記電極の少なくとも一方の表面にレーザを照射して、それぞれの材料の酸化による酸化膜を形成する工程を有し、
前記抵抗器の前記実装面において、前記抵抗体及び前記電極の少なくとも一方に形成された前記酸化膜の部位を除き、前記抵抗体の表面が露出している前記酸化膜を形成する、
抵抗器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抵抗器及び抵抗器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、電流検出用の抵抗器として、抵抗体の両端面に一対の電極を溶接した抵抗器を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-071123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に係るタイプの抵抗器では、抵抗体と基板との間隔が狭くなると、リフロー工程において半田が電極を伝って抵抗体にまで這い上がり、電流の検出精度が低下する虞が顕著となる。もちろん、抵抗体表面を樹脂で覆うことで半田が抵抗体に接触しないようにすることも可能であるが、製造歩留まりの低下及び製造コストの上昇を引き起こす。
【0005】
そこで本発明は、簡易な構成で抵抗体への半田の這い上がりを阻止可能な抵抗器、及び抵抗器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の1つの態様によれば、抵抗体と、前記抵抗体に接続された一対の電極と、を備え、基板に実装した場合に少なくとも前記抵抗体が前記基板から離間して配置される抵抗器であって、抵抗器の実装面の前記抵抗体と前記電極との境界部位のうち、前記抵抗体及び前記電極の少なくとも一方の表面に、それぞれの材料の酸化による酸化膜を有し、前記抵抗器の前記実装面において、前記抵抗体及び前記電極の少なくとも一方に形成された前記酸化膜の部位を除き、前記抵抗体の表面が露出している、抵抗器が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明の1つの態様によれば、酸化膜は半田に対する濡れ性が低い。よって、抵抗体と基板との間隔が狭くなっても半田が酸化膜に這い上がりにくくなるので、半田が酸化膜を超えて抵抗体まで這い上がることを阻止できる。したがって、抵抗体を樹脂で覆う場合に比べて、製造歩留まりを高め、且つ製造コストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本実施形態の抵抗器の斜視図である。
図2図2は、本実施形態の抵抗器を回路基板への実装面側から見た斜視図である。
図3図3は、本実施形態の抵抗器に形成された酸化膜を示す図である。
図4図4は、本実施形態の抵抗器に形成された酸化膜の第1変形例を示す図である。
図5図5は、本実施形態の抵抗器に形成された酸化膜の第2変形例を示す図である。
図6図6は、本実施形態の抵抗器に形成された酸化膜の第3変形例を示す図である。
図7図7は、本実施形態の抵抗器を半田実装したときの断面写真である。
図8図8は、本実施形態の抵抗器にトリミングを行う場合の模式図である。
図9図9は、トリミング後の抵抗器の実装面を示す図である。
図10図10は、トリミング後の抵抗器の側面図である。
図11図11は、本実施形態の抵抗器の変形例を示す図である。
図12図12は、本実施形態の抵抗器の製造方法を説明する模式図である。
図13図13は、図12に示す工程(c)に用いられるダイスを引き抜き方向Fの上流側から見た正面図である。
図14図14は、図13のB-B線断面図であって、本実施形態の抵抗器の製造方法における形状を加工する工程を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[抵抗器の説明]
本発明の本実施形態の抵抗器1について、図1図2を用いて詳細に説明する。図1は、本実施形態の抵抗器1の斜視図である。図2は、本実施形態の抵抗器1を回路基板への実装面側から見た斜視図である。
【0010】
抵抗器1は、抵抗体10と、第1電極体11(電極)と、第2電極体12(電極)とを備え、第1電極体11と抵抗体10と第2電極体12とが、この順に接合されたものである。抵抗器1は、図1には示されていない回路基板等に実装される。例えば、抵抗器1は、回路基板のランドパターン上に形成された一対の電極の上に配置される。本実施形態では、抵抗器1は、電流検出用抵抗器(シャント抵抗器)として用いられる。
【0011】
なお、本実施形態では、第1電極体11と第2電極体12が並ぶ方向(抵抗器1の長手方向)をX方向(第1電極体11側を+X方向、第2電極体12側を-X方向)とし、抵抗器1の幅方向をY方向(図1の紙面手前側を+Y方向、図1の紙面奥側を-Y方向)とし、抵抗器1の厚み方向をZ方向(回路基板に向かう方向を-Z方向、回路基板から離れる方向を+Z方向)とし、X方向、Y方向、Z方向は互いに直交するものとする。また、抵抗器1の実装面とは、回路基板に抵抗器1を実装する際に抵抗器1が回路基板に対向する面を意味し、第1電極体11、抵抗体10、第2電極体12の回路基板に対向する面を含む。
【0012】
本実施形態においては、抵抗体10は、直方体(又は立方体)形状に形成されている。
【0013】
抵抗体10は、用途に合わせて低抵抗から高抵抗の材料を用いることが可能である。本実施形態において、抵抗体10は、大電流を精度よく検出する観点から、比抵抗が小さく、且つ抵抗温度係数(TCR)が小さい抵抗体材料であることが好ましい。一例として、銅・マンガン・ニッケル系合金、銅・マンガン・スズ系合金、ニッケル・クロム系合金、銅・ニッケル系合金等を使用することができる。
【0014】
第1電極体11は、抵抗体10に接合する胴体部21と、胴体部21と一体に形成され回路基板側に延びる脚部22とを備える。また、第2電極体12は、抵抗体10に接合する胴体部31と、胴体部31と一体に形成され回路基板側に延びる脚部32と、を備える。
【0015】
第1電極体11(胴体部21、脚部22)及び第2電極体12(胴体部31、脚部32)は、安定した検出精度を確保する観点から、電気伝導性及び熱伝導性の良好な導電性材料であることが好ましい。一例として、第1電極体11及び第2電極体12として、銅、銅系合金等を使用することができる。銅の中では、無酸素銅(C1020)を使用することが好ましい。第1電極体11と第2電極体12とは、互いに同一のものを使用できる。
【0016】
第1電極体11における胴体部21は、抵抗体10の+X方向の端面と略同形状の端面を有し、この端面において抵抗体10の+X方向の端面と突き合わされた態様で接合している。胴体部21と抵抗体10との境界部位である接合部13では、抵抗体10と胴体部21との境界に段差がなく平坦であり、抵抗体10と胴体部21とは滑らかに連続している。すなわち、接合部13の表面は、抵抗体10と胴体部21との境界全周に亘って平坦(段差がない状態)に形成されている。
【0017】
第2電極体12における胴体部31は、抵抗体10の-X方向の端面と略同形状の端面を有し、この端面において抵抗体10の-X方向の端面と突き合わされた態様で接合している。胴体部31と抵抗体10との境界部位である接合部14では、抵抗体10と胴体部31との境界に段差がなく平坦であり、抵抗体10と胴体部31とは滑らかに連続している。すなわち、接合部14の表面は、抵抗体10と胴体部31との境界全周に亘って平坦(段差がない状態)に形成されている。
【0018】
脚部22は、抵抗器1の実装面、即ち胴体部21の回路基板側から-Z方向に向けて延出した部材である。脚部22は、胴体部21よりもX方向の長さが短くなっているが、+X方向の側面は胴体部21の+X方向の側面と同一平面を形成している。
【0019】
脚部32は、抵抗器1の実装面、即ち胴体部31の回路基板側から-Z方向に向けて延出した部材である。脚部32は、胴体部31よりもX方向の長さが短くなっているが、-X方向の側面は胴体部31の-X方向の側面と同一平面を形成している。
【0020】
本実施形態において、抵抗体10と第1電極体11との接合部13、及び抵抗体10と第2電極体12との接合部14の各々は、互いにクラッド接合(固相接合)にて接合している。すなわち、接合面の各々は、抵抗体10と第1電極体11の金属原子が互いに拡散した拡散接合面、抵抗体10と第2電極体12の金属原子が互いに拡散した拡散接合面、となっている。
【0021】
抵抗器1は、脚部22及び脚部32が回路基板側に突出するように回路基板上に実装されることにより、抵抗体10が回路基板から離間した状態で回路基板に実装される。
【0022】
胴体部21において-X方向側に突出した部分は突出部211であり、突出部211が抵抗体10に接合している。同様に、胴体部31において+X方向側に突出した部分は突出部311であり、突出部311が抵抗体10に接合している。
【0023】
抵抗器1の長手方向(X方向)の長さL(図1参照)を一定としたとき、突出部211のX方向の長さ(胴体部21の長さ、図1参照)、又は突出部311のX方向の長さ(胴体部31のX方向の長さ、図1)を任意に調整し、抵抗体10のX方向の長さL0(図1参照)をL0=L-(L1+L2)として調整することができる。したがって、抵抗器1の寸法Lを変更することなく、また脚部22,32の形状を変更することなく、抵抗器1の抵抗値を任意に調整することができる。または、抵抗器1の寸法Lを変更することなく、突出部211,311の突出量を大きくしても、脚部22と脚部32との距離を確保することができるため、ランドパターン間距離を確保しつつ、抵抗器1の設計自由度を高くすることができる。
【0024】
ここで、抵抗体10の長手方向(X方向)における抵抗体10の長さL0と、第1電極体11のX方向の長さL1と、第2電極体12のX方向の長さL2の比は、任意に設定することができる。ただし、TCR(抵抗温度係数[ppm/℃])の増加を抑制しつつ、抵抗値を小さくする観点から、L1:L0:L2=1:2:1、若しくは1:2:1近傍であることが好ましい。
【0025】
更に、放熱性を高めるとともに、抵抗値を小さくする観点から、抵抗器1の長さL(=L1+L0+L2)に対する抵抗体10の長さL0の比率は、50%以下であることが好ましい。
【0026】
本実施形態において、抵抗器1は、表面に、筋状凹凸15(図1(拡大図)、図2(拡大図))を有する。本実施形態においては、筋状凹凸15は、抵抗器1の+Y方向に対向する側面、及び-Y方向に対向する側面以外の側面においてY方向に沿って延びるように形成されている。
【0027】
筋状凹凸15の凹部と凸部による表面粗さは、算術平均粗さ(Ra)で約0.2~0.3μmとすることができる。
【0028】
本実施形態において、X方向における抵抗器1の長さLは、3.2mm以下になるように形成されている。また、抵抗器1の抵抗値が2mΩ以下になるように調整されている。
【0029】
本実施形態においては、高密度回路基板に適合させる観点から、X方向における抵抗器1の長さLが、3.2mm以下、Y方向における抵抗器1の長さ(幅)Wが1.6mm以下(製品規格3216サイズ)とすることができる。よって、本実施形態の抵抗器1のサイズとしては、製品規格2012サイズ(L:2,0mm、W:1.2mm)、製品規格1608サイズ(L:1.6mm,W:0.8mm)、製品規格1005サイズ(L:1.0mm、W:0.5mm)にも適用可能である。本実施形態の抵抗器1の長さLは、後述する製造方法における取り扱い性、例えば抵抗器1の基となる抵抗器母材100(図14参照)の破断防止の観点から、上記の製品規格1005サイズ以上のサイズとすることができる。
【0030】
本実施形態においては、抵抗器1の抵抗値は、小型且つ低抵抗を実現する観点から上記のいずれのサイズにおいても2mΩ以下となるように調整可能であり、例えば0.5mΩ以下となるように調整可能である。ここでの低抵抗とは、一般的な抵抗器(例えば、特開2002-57009号公報のタイプの抵抗器)の寸法から想定される抵抗値よりも低い抵抗値を含む概念である。
【0031】
本実施形態において、抵抗器1のY方向に延びる縁辺である角部分Pは、いずれも面取り形状を有している。本実施形態では、角部分Pの曲率半径は、R=0.1mm以下であることが好ましい。
【0032】
また、図2に示すように、抵抗器1の実装面側(実装面のみならず、抵抗器1のY方向に対向する側面であって実装面に近傍の領域を含む)の接合部13上、及び接合部14上には酸化膜5(5a,5b,5c,5d)が形成されている。これについては図3乃至図6を参照して後述する。
【0033】
<酸化膜5>
図3は、本実施形態の抵抗器1に形成された酸化膜5(5a)を示す図である。図4は、本実施形態の抵抗器1に形成された酸化膜5(5b)の第1変形例を示す図である。図5は、本実施形態の抵抗器1に形成された酸化膜5(5c)の第2変形例を示す図である。図6は、本実施形態の抵抗器1に形成された酸化膜5(5d)の第3変形例を示す図である。
【0034】
図3乃至図6に示すように、本実施形態の抵抗器1の実装面側には酸化膜5(5a,5b,5c,5d)が形成されている。酸化膜5(5a,5b,5c,5d)は、抵抗体10、第1電極体11、第2電極体12、のいずれかの実装面側の表面にレーザ照射して加熱することで形成される熱酸化膜である。
【0035】
図3では、抵抗器1の実装面側において、抵抗体10と第1電極体11との接合部13から抵抗体10側においてX方向に所定の幅で且つY方向全体に行き渡るように酸化膜5a(5)が形成されている。また図示は省略しているが、抵抗器1の実装面側において、抵抗体10と第2電極体12との接合部14から抵抗体10側においてX方向に所定の幅で且つY方向全体に行き渡るように酸化膜5a(5)が形成されている。
【0036】
図4に示す第1変形例では、抵抗器1の実装面側において、抵抗体10と第1電極体11との接合部13から第1電極体11側においてX方向に所定の幅で且つY方向全体に行き渡るように酸化膜5b(5)が形成されている。また図示は省略しているが、抵抗器1の実装面側において、抵抗体10と第2電極体12との接合部14から第2電極体12側においてX方向に所定の幅で且つY方向全体に行き渡るように酸化膜5b(5)が形成されている。
【0037】
図5に示す第2変形例では、抵抗器1の実装面側において、抵抗体10と第1電極体11との接合部13を覆うようにX方向に所定の幅で且つY方向全体に行き渡るように酸化膜5c(5)が形成されている。また図示は省略しているが、抵抗器1の実装面側において、抵抗体10と第2電極体12との接合部14を覆うようにX方向に所定の幅で且つY方向全体に行き渡るように酸化膜5c(5)が形成されている。
【0038】
図6に示す第3変形例における酸化膜5d(5)は、上記の第2変形例の酸化膜5c(5)が抵抗器1の側面(+Y方向に対向する面、及び-Y方向に対向する面)にまで延長したものである。また酸化膜5d(5)は、接合部13、接合部14において全周に亘って形成してもよい。この第3変形例は、図3に示す酸化膜5a(5)、及び図4に示す酸化膜5b(5)にも適用可能である。
【0039】
このように、酸化膜5(5a,5b,5c,5d)を形成する理由について説明する。
【0040】
抵抗器1を回路基板に実装してリフロー工程を行うと、半田が第1電極体11の脚部22、及び第2電極体12の脚部32を伝って、抵抗体10の実装面側にまで這い上がろうとする。しかし、酸化膜5(5a,5b,5c,5d)は、半田に対する濡れ性が低い。よって、抵抗体10と回路基板との間隔が狭く設定されていても半田は酸化膜5(5a,5b,5c,5d)を這い上がりにくくなる。したがって、半田が酸化膜5(5a,5b,5c,5d)を超えて抵抗体10にまで這い上がることを阻止できる。
【0041】
図3のように酸化膜5a(5)を形成することにより、酸化膜5a(5)の脚部22側の縁辺、すなわち第1電極体11の突出部211と接合部13と重なる位置において半田のさらなる這い上がりを阻止できる。また図示は省略するが、酸化膜5a(5)の脚部32側の縁辺、すなわち第2電極体12の突出部311と接合部14と重なる位置で半田のさらなる這い上がりを阻止できる。
【0042】
図4,5,6のように酸化膜5b,5c,5d(5)を形成することにより、酸化膜5b,5c,5d(5)の脚部22側の縁辺、すなわち第1電極体11の突出部211の脚部22側において-X方向の途中まで移動した位置で半田のさらなる這い上がりを阻止できる。また図示は省略するが、酸化膜5b,5c,5d(5)の脚部32側の縁辺、すなわち脚部32の付け根となる位置から胴体部31において+X方向の途中まで移動した位置で半田のさらなる這い上がりを阻止できる。
【0043】
図3に示した酸化膜5a(5)の配置では、半田の這い上がりが、実装面の第1電極体11の抵抗体10との接合位置(接合部13)、実装面の第2電極体12の抵抗体10との接合位置(接合部14)まで及ぶので、第1電極体11及び第2電極体12のTCRの温度変化を、図4乃至図6の酸化膜5b,5c,5d(5)の配置に比べて、より効果的に相殺することができる。
【0044】
図7は、本実施形態の抵抗器1を半田実装したときの断面写真である。図7に示す抵抗器1は、上記と同様に抵抗体10の端面と第1電極体11の端面を突き合わせ、抵抗体10の端面と第2電極体12の端面とを突き合わせてクラッド接合により形成したものである。ここで、抵抗器1の実装面側において、第2電極体12と抵抗体10との接合部14を跨ぐ境界部位には酸化膜5(図2等参照)を形成しているが、第1電極体11と抵抗体10との接合部13を跨ぐ境界部位には酸化膜5は形成していない。
【0045】
そして、リフロー工程により抵抗器1を半田9を介して回路基板7に実装した。その結果、右側の第1電極体11の脚部22に接触した半田9は、当該脚部22を這い上がり、実装面において突出部211を経て抵抗体10にまで這い上がり、抵抗体10に接触した状態となっている。一方、第2電極体12の脚部32に接触した半田9は当該脚部32を這い上がり実装面において突出部311にまで這い上がるものの、酸化膜5に接触する位置で這い上がりが阻止されている。したがって、実際の抵抗器1において、第2電極体12と抵抗体10との接合部14を跨ぐ境界部位、及び第1電極体11と抵抗体10との接合部13を跨ぐ境界部位に酸化膜5をそれぞれ形成することにより、半田9の抵抗体10への這い上がりを阻止可能であることが容易に理解できる。
【0046】
<トリミング>
図8は、本実施形態の抵抗器1にトリミングを行う場合の模式図である。図9は、トリミング後の抵抗器1の実装面を示す図である。図10は、トリミング後の抵抗器1の側面図である。
【0047】
本実施形態の抵抗器1において、抵抗体10をトリミングすることで抵抗値を調整することができる。トリミングはレーザ光を抵抗体10に照射して抵抗体10の一部を削り取ることにより行われる。また抵抗体10のトリミング箇所には上記の酸化膜5が形成される。よって、トリミング箇所を工夫することで、抵抗値の調整と、半田の這い上がりを阻止する加工とを同時に行うことができる。なお、図3乃至図6に示す酸化膜5を形成する際もレーザ照射を行うが、この場合のレーザ強度はトリミングが発生しない程度に抑制されている。
【0048】
図8に示すように、抵抗器1の実装面において、接合部13、及び接合部14に対してレーザを照射する。
【0049】
ところで、本実施形態の抵抗器1は、後述のように(図11図12参照)、抵抗体母材10Aを電極体母材11A,12Aで挟み込んだ状態でクラッド接合(固相接合)した抵抗器母材100をダイス300に挿通して断面積を縮小させつつ断面形状を抵抗器1の断面形状に変形させ、ダイス300に挿通後の抵抗器母材100を切断することで形成される。よって、接合部13(境界部位)及び接合部14(境界部位)は、通常平面(直線)となるが、わずかに蛇行する場合がある。この場合、接合部13及び接合部14のみを狙ってレーザ照射を行うことは困難である。
【0050】
そこで、図8の拡大図に示すように、接合部13において抵抗体10及び第1電極体11にレーザが照射され、接合部14において抵抗体10及び第2電極体12にレーザが照射されるようにレーザの照射エリア51(X方向の幅:0.1mm~0.15mm)がそれぞれ設定される。
【0051】
図8の拡大図中の矢印(レーザの照射位置の軌跡)で示すように、レーザは、例えば照射エリア51の-X方向の端部であって平面視で抵抗器1から離間した位置から+Y方向に移動して抵抗器1上を照射して平面視で抵抗器1から離間した位置まで移動する。その後レーザは、+X方向にわずかに移動(移動量はレーザの抵抗器1上のスポット径よりも小さい)して-Y方向に移動して抵抗器1上を照射して平面視で抵抗器1から離間した位置まで移動する。以後同様の動作を繰り返して照射エリア51全体にレーザを照射する。
【0052】
レーザは、その出力が発振直後に過大または過少となるなど安定しない虞があるので、上記のように、平面視で抵抗器1から離間した位置(抵抗器1にレーザが照射されない位置)からレーザの発振を開始して出力が安定したレーザを抵抗器1に照射することが望ましい。また、レーザは照射エリア51の+Y方向(-Y方向)の端部から-Y方向(+Y方向)の端部まで途切れることなく照射することが望ましい。
【0053】
また抵抗器1にレーザを照射しているときは、抵抗値が安定しないので、レーザ照射後に抵抗値を測定し、当該抵抗値が所望の抵抗値になるまでレーザ照射と抵抗値の測定を繰り返すことになる。
【0054】
上記のように照射エリア51全体にレーザを照射することで、図9、及び図10に示すように、接合部13、及び接合部14に沿って凹部6が形成される。凹部6はY方向に延びるとともにY方向から見た断面形状が略半円形(若しくは矩形、不定形)となる。このように凹部6を形成することで抵抗器1の抵抗値は高抵抗側にシフトする。また上記のように凹部6は照射エリア51の端部から端部まで形成することで、その内壁を中心に熱反応により表面が改質された酸化膜5が形成されるので、リフロー工程の際に半田が抵抗体10にまで這い上がることを阻止できる。よって、一対の酸化膜5間に位置する抵抗体10には、母材の抵抗体10が露出した状態でも、半田が抵抗体10まで這い上がる心配がない。
【0055】
<変形例>
図11は、本実施形態の抵抗器1の変形例を示す図である。本実施形態の抵抗器1の変形例は、第1電極体11の脚部22、第2電極体12の脚部32がなく、抵抗器1の実装面が平坦となっている。一方、回路基板7には電極71,72が配置され、電極71,72は、回路基板7から突出するように配置されている。電極71には第1電極体11が半田(不図示)により実装されており、電極72には第2電極体12が半田(不図示)により実装されている。このとき、抵抗体10は、回路基板7から離間して配置されている。
【0056】
上記と同様に抵抗器1の実装面において、例えば接合部13,14を覆うように酸化膜5が配置されている。このため、リフロー工程において、第1電極体11を伝ってきた半田が接合部13に形成された酸化膜5を超えて抵抗体10にまで這い上がること、及び第2電極体12を伝ってきた半田が接合部14に形成された酸化膜5を超えて抵抗体10にまで這い上がることを阻止できる。なお、この変形例においても、上記の凹部6(酸化膜5)を形成してもよい。
【0057】
<本実施形態の効果>
次に、本実施形態による作用効果について説明する。
【0058】
本実施形態の抵抗器1によれば、抵抗体10と、抵抗体10に接続された一対の電極(第1電極体11、第2電極体12)と、を備え、基板(回路基板)に実装した場合に少なくとも抵抗体10が基板(回路基板)から離間して配置される抵抗器1であって、抵抗器1の実装面(実装面側)の抵抗体10と電極(第1電極体11、第2電極体12)との境界部位(接合部13、接合部14)のうち、抵抗体10及び電極(第1電極体11、第2電極体12)の少なくとも一方に酸化膜5を有する。
【0059】
上記構成により、抵抗体10と抵抗体10に接続された一対の電極(第1電極体11、第2電極体12)に構成されるので小型且つ低抵抗な抵抗器1が実現できる。また、酸化膜5は半田に対する濡れ性が低い。よって、抵抗体10と基板(回路基板)との間隔が狭くなっても半田が酸化膜5によって這い上がりにくくなるので、半田が酸化膜5を超えて抵抗体10まで這い上がることを阻止できる。したがって、抵抗体10を樹脂で覆う場合に比べて、製造歩留まりを高め、且つ製造コストを抑制することができる。
【0060】
本実施形態において、酸化膜5は、少なくとも抵抗体10に形成されている(図3図5参照)。これにより、半田の這い上がりが電極(第1電極体11、第2電極体12)と抵抗体10との接合位置(接合部13、接合部14)まで及ぶので、電極(第1電極体11、第2電極体12)のTCRの温度変化を、効果的に相殺することができる。
【0061】
本実施形態において、抵抗体10の表面は、酸化膜5が形成された部位を除き母材の抵抗体が露出している。すなわち、酸化膜5が電極(第1電極体11、第2電極体12)に形成されている場合(図4など)において、抵抗体10の表面は母材の抵抗体である金属材が露出している。これにより、抵抗体10の表面、特には抵抗体10の実装面、さらには例えば抵抗体10の側面の実装面側を樹脂で覆うことなく抵抗体10への半田の這い上がりを阻止できる。
【0062】
本実施形態において、電極(第1電極体11、第2電極体12)は、抵抗体10に接続する胴体部21,31と、基板(回路基板)の方向に突出した脚部22,32と、を有するとともに抵抗体10と胴体部21,31(突出部211、311)により境界部位(接合部13、接合部14)が形成され、酸化膜5は、抵抗体10と胴体部21,31(突出部211、311)との境界部位(接合部13、接合部14)のうち、少なくとも胴体部21,31(図4参照)に形成されている。これにより、脚部22,32と半田との接合を確保しつつ抵抗体10への半田の這い上がりを阻止できる。
【0063】
本実施形態において、境界部位(接合部13、接合部14)において、凹部6を有し、酸化膜5は凹部6、または凹部6の内壁を中心とする凹部6周辺に形成されている。これにより、抵抗値の調整と、半田の這い上がりを阻止する加工とを同時に行うことができる。
【0064】
本実施形態において、境界部位(接合部13、接合部14)において、凹部6を有し、酸化膜5は凹部6、又は凹部6の内壁を中心とする凹部6周辺に形成され、凹部6は、胴体部21,31(突出部211、311)と抵抗体10の双方に亘って形成されている。これにより、抵抗値の調整と、半田の這い上がりを阻止する加工とを同時に且つ安定的に行うことができる。
【0065】
本実施形態の抵抗器1の製造方法は、抵抗体10と、抵抗体10に接続された一対の電極(第1電極体11、第2電極体12)と、を備え、基板(回路基板)に実装した時に少なくとも抵抗体10が基板(回路基板)から離間して配置される抵抗器1の製造方法であって、抵抗器1の実装面側の抵抗体10と電極(第1電極体11、第2電極体12)との境界部位(接合部13、接合部14)にレーザを照射することで、抵抗体10及び電極(第1電極体11、第2電極体12)の少なくとも一方に酸化膜5を形成する。
【0066】
上記方法により、抵抗体10と抵抗体10に接続された一対の電極(第1電極体11、第2電極体12)に構成されるので小型且つ低抵抗な抵抗器1が実現できる。また、酸化膜5は半田に対する濡れ性が低い。よって、抵抗体10と基板(回路基板)との間隔が狭くなっても半田が酸化膜5に這い上がりにくくなるので、半田が酸化膜5を超えて抵抗体10まで這い上がることを阻止できる。したがって、抵抗体10を樹脂で覆う場合に比べて、製造歩留まりを高め、且つ製造コストを抑制することができる。
【0067】
その他、本実施形態の抵抗器1は、以下のような構成・作用・効果を有する。
【0068】
本実施形態の抵抗器1によれば、抵抗体10と、抵抗体10に接続された一対の電極(第1電極体11、第2電極体12)と、を備えた抵抗器1であって、抵抗体10の端面と、電極の端面(第1電極体11、第2電極体12)とが、突き合わせて接合され、電極(第1電極体11、第2電極体12)は、胴体部21,31と胴体部21,31から実装面に突出した脚部22,32と、を含み、抵抗器1の長辺の長さ寸法(L)は、3.2mm以下であり、抵抗値は2mΩ以下である。
【0069】
上記構成により、抵抗体10と抵抗体10に接続された一対の電極(第1電極体11、第2電極体12)により胴体部21,31から実装面に突出した脚部22,32が構成され、検出端子からの引き出しが脚部22,32間で行えるため、小型の抵抗器1が実現できる。また、抵抗体10の両端に電極(第1電極体11、第2電極体12)が接合された形態であり、抵抗体10の(X方向の)寸法は抵抗器1の(X方向の)寸法よりも小さくなるので、抵抗体10の下面に一対の電極を接合したタイプの抵抗器よりも低抵抗な抵抗器1を実現できる。以上より、小型化(長辺寸法3.2mm以下、3216サイズ以下)を実現しつつ従来にはないさらなる低抵抗(2mΩ以下)を実現可能な抵抗器1となる。
【0070】
なお、抵抗体と電極体とを電子ビームなどにより溶接して形成された抵抗器であれば、このサイズでは抵抗値に当該溶接によるビードの影響を考慮する必要があるが、本実施形態の抵抗器1は、後述のように、抵抗体10と第1電極体11、及び抵抗体10と第2電極体12とがそれぞれ拡散接合により接合可能であるため、このように小型に設計しても抵抗値等の特性を安定させることができる。
【0071】
本実施形態において、抵抗器1の実装面のうち、抵抗体10と胴体部21,31との境界部位(接合部13,14)は平坦である。電子ビームなどの溶接による溶接ビードを有していないことにより、抵抗体10と胴体部21,31との境界が明確になり、良否判断を容易に行うことができる。また、抵抗器1をシャント抵抗器として用いた場合、抵抗体10と胴体部21,31との境界(接合部13,14)で段差が生じることにより発生する電流の検出精度の低下を抑制できる。更に、抵抗値、熱特性の安定性を向上させることができる。
【0072】
本実施形態において、抵抗体10と胴体部21,31とは固相接合により接合されている。これにより、抵抗体10と第1電極体11、及び抵抗体10と第2電極体12とが互いに強固に接合されるため、良好な電気的特性が得られる。また、抵抗器1では、抵抗体10と第1電極体11、及び抵抗体10と第2電極体12との接合には電子ビームなどによる溶接が用いられていないため、接合部13,14には溶接ビード(凹凸形状の溶接痕)がない。したがって、抵抗器1の表面にワイヤーボンディング等を施す場合にボンディング性を損なうことがない。
【0073】
本実施形態において、胴体部21,31は、抵抗体側に突出した突出部211,311を有する。これにより、抵抗器1の長手方向(X方向)の長さ(L)を一定としたとき、突出部211のX方向の長さ(胴体部21の長さL1)、又は突出部311のX方向の長さ(胴体部31のX方向の長さL2)を任意に調整し、抵抗体10のX方向の長さ(L0)をL0=L-(L1+L2)として調整することができる。したがって、脚部22,32の形状を変更することなく、抵抗器1の抵抗値を任意に調整することができる。
【0074】
本実施形態において、抵抗器1の抵抗体10及び電極(第1電極体11、第2電極体12)の並び方向(X方向)における脚部22,32の実装面側の端部は、面取り形状となっている。
【0075】
従来の抵抗器では、面取りされていない角部分において電流密度が大となり、エレクトロマイグレーションと呼ばれる現象が発生したり、同様にして角部分に熱応力が集中したりすることにより、抵抗器の欠損が発生しやすくなっていた。また、このエレクトロマイグレーションは、回路サイズが微小化するにつれて無視できない影響を及ぼすため、抵抗器が小型になるほど、エレクトロマイグレーションが顕著化することが懸念されていた。
【0076】
これに対して、抵抗器1は、角部分Pが面取りされていることにより、角部分Pにおける電流密度の偏りが緩和される。これにより、エレクトロマイグレーションの発生を抑制することができる。また、同様にして、熱応力集中が緩和できるため、ヒートサイクル耐性を向上することができる。
【0077】
本実施形態において、抵抗器1の抵抗体10及び電極(第1電極体11、第2電極体12)の並び方向(X方向)及び抵抗器1の実装方向に垂直な方向(Z方向)を幅方向(Y方向)とし、抵抗体10の表面、及び/又は、電極(第1電極体11、第2電極体12)の表面には幅方向(Y方向)に沿って延びる筋状の凹凸面(筋状凹凸15)が形成されている。これにより、抵抗器1の表面積を大きくして放熱性を高めることができ、また電極(第1電極体11、第2電極体12)に形成した場合は抵抗器1を回路基板に固定する半田の接合強度を高めることができる。
【0078】
本実施形態において、抵抗体10は、直方体(又は立方体)に形成されている。抵抗体10が直方体(又は立方体)であると、抵抗体10の端面と略同形状に形成され、抵抗体10の端面に接合された第1電極体11及び第2電極体12から抵抗体10を流れる電流の経路が直線的になるため抵抗値を安定にすることができる。また、抵抗器1では、抵抗体10が第1電極体11と第2電極体12の間に接合されているため、抵抗体10の体積を必要最小限にして抵抗値を調整することが可能である。
【0079】
[抵抗器の製造方法の説明]
図12は、本実施形態の抵抗器1の製造方法を説明する模式図である。
【0080】
本実施形態の抵抗器1の製造方法は、材料を準備する工程(a)と、材料を接合する工程(b)と、形状を加工する工程(c)と、個々の抵抗器1に切断(個片化)する工程(d)と、レーザを用いて抵抗器1の抵抗値を調整する工程(e)とを備える。
【0081】
材料を準備する工程(a)では、抵抗体10の母材となる抵抗体母材10Aと、第1電極体11の母材である電極体母材11Aと、第2電極体12の母材である電極体母材11A,12Aを準備する。抵抗体母材10Aと、電極体母材11A,12Aは平角状の長尺の線材である。本実施形態では、抵抗器1のサイズ、抵抗値及び加工性の観点から、抵抗体母材10A(抵抗体10)の材料として銅・マンガン系合金を使用し、電極体母材11A,12A(第1電極体11、第2電極体12)の材料として無酸素銅(C1020)を使用することが好ましい。
【0082】
材料を接合する工程(b)では、電極体母材11Aと抵抗体母材10Aと電極体母材12Aとを、この順で重ね、重ね方向に圧力を加えて接合して抵抗器母材100を形成する。
【0083】
すなわち、工程(b)では、いわゆる異種金属材料間におけるクラッド接合(固相接合)が行われる。クラッド接合された電極体母材11Aと抵抗体母材10Aとの接合面、及び電極体母材12Aと抵抗体母材10Aとの接合面は、双方の金属原子が互いに拡散した拡散接合面となっている。
【0084】
これにより、従来のような電子ビームによる溶接等を行うことなく、抵抗体母材10Aと電極体母材11Aとの接合面、及び抵抗体母材10Aと電極体母材12Aとの接合面を互いに強固に接合することができる。また、抵抗体母材10A(抵抗体10)と電極体母材11A(第1電極体11)との接合面及び抵抗体母材10A(抵抗体10)と電極体母材12A(第2電極体12)との接合面において、良好な電気的特性が得られる。
【0085】
図13は、図12に示す工程(c)に用いられるダイス300を引き抜き方向Fの上流側から見た正面図である。図14は、図13のB-B線断面図であって、本実施形態の抵抗器1の製造方法における形状を加工する工程を説明する模式図である。工程(c)では、クラッド接合によって得られた抵抗器母材100をダイス300に通過させる。本実施形態の抵抗器1を製造するにあたっては、一例として、図13に示すダイス300を用いることができる。
【0086】
ダイス300には、開口部301が形成されている。開口部301は、抵抗器母材100が挿入可能な寸法に設定された入口開口302と、抵抗器母材100の外形寸法よりも小さい寸法に設定された出口開口303と、入口開口302から出口開口303に向けてテーパ状に形成された挿通部304とを有する。本実施形態においては、開口部301は、角部分が面取り形状に加工された矩形に形成されている。
【0087】
このような形状のダイス300に抵抗器母材100を通過させることにより、抵抗器母材100を全方向から圧縮変形させることができる。これにより抵抗器母材100の断面形状はダイス300(出口開口303)の外形に倣った形状となる。
【0088】
また、本実施形態では、工程(c)において、抵抗器母材100をダイス300に通過させる際、抵抗器母材100をつかみ具400によって引き抜く、引き抜き工法が適用される。
【0089】
工程(c)では、開口部301のサイズを異ならせた複数のダイス300を用意して、これら複数のダイス300を段階的に通過させる引き抜き加工を施してもよい。
【0090】
また、工程(c)では、ダイス300の開口部301の形状を変更することにより、本実施形態の抵抗器1を製造することができる。
【0091】
抵抗器1を製造するにあたっては、一例として、開口部301(入口開口302、出口開口303)の一の辺における一部に、開口中央に向けて矩形に突出した形状の突出部300aを有するダイス300を適用する。抵抗器母材100には、矩形形状の出口開口303に設けられた突出形状により、引き抜き方向に連続する矩形溝105が形成される。
【0092】
抵抗器母材100を個々に切断した際に、この矩形溝105は、抵抗体10と第1電極体11の胴体部21と脚部22、第2電極体12の胴体部31と脚部32によって囲まれる凹部を構成する。
【0093】
図12に戻り、工程(c)に続く工程(d)では、設計されたY方向の長さWになるように、抵抗器母材100から抵抗器1を切り出す。また、本実施形態では、工程(d)において、抵抗器母材100において矩形溝105が形成された面100aから反対面100bに向けて切断することが好ましい。これにより、金属のバリ(Burr)は抵抗器1の上面から上方に向けて延びる形に形成され、脚部22,32において-Z方向(図1図2)に延びるバリ(回路基板に向けて延びるバリ)が発生することはない。これにより、抵抗器1の回路基板への実装を確実に行うことができる。
【0094】
以上の工程を経ることにより、抵抗器母材100から個片の抵抗器1を得ることができる。更に、工程(e)では、レーザ照射により抵抗体10のトリミングを行って抵抗器1の抵抗値を所望の抵抗値に設定する。トリミングの詳細については上記の通りである(図8乃至図10参照)。なお、図1、2に示す、角部分Pはダイス300の開口部301の形状に倣って形成され、筋状凹凸15は抵抗器母材100がダイス300の内壁(出口開口303)に圧接した状態で摺動するときに抵抗器母材100の長さ方向に形成される筋状の摺動痕である。
【0095】
<本実施形態のダイス300を用いた抵抗器1の製造方法の効果>
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
【0096】
本実施形態のダイス300を用いた抵抗器1の製造方法によれば、電極体母材11Aと抵抗体母材10Aと電極体母材12Aとを並列に重ねて圧力を加えて、クラッド接合(固相接合)により一体化した構造(すなわち並接クラッド構造)の抵抗器母材100(抵抗器1)が得られる。これにより、電子ビームによる溶接等を用いること無く、抵抗体母材10A(抵抗体10)と電極体母材11A(第1電極体11)の接合強度、及び抵抗体母材10A(抵抗体10)と電極体母材12A(第2電極体12)の接合強度を高めることができる。
【0097】
また、本実施形態の上記製造方法によれば、抵抗器母材100をダイス300に通して全方向から圧縮することにより、抵抗器母材100の外形状を成型することができる。このため、抵抗器母材100が形成された後は、工程(d)を経るだけで個別の抵抗器1を製造できる。したがって、抵抗器1の製造によって生じる個体差を抑えることができる。また、これに加えて、抵抗器母材100をダイス300に通すことにより、抵抗体10と第1電極体11との接合強度、及び抵抗体10と第2電極体12との接合強度を更に高めることができる。
【0098】
抵抗器母材100を全方向から圧縮する方法としては、例えば、抵抗器母材100が方形であれば、抵抗器母材100を厚み方向(Z)から加圧する一対のローラによって第1段の圧接を施して、その後、幅方向(Y)から加圧する一対のローラによって第2段の圧接を施す方法がある。
【0099】
しかし、この方法では、第1段の圧接工程において、抵抗器母材100は、厚み方向(Z)に圧縮されるものの、幅方向(Y)には膨張してしまう。また、続く第2段の圧接工程において、抵抗器母材100は、幅方向(Y)に圧縮されるものの、厚み方向(Z)には膨張してしまう。この結果、寸法精度が低下し、個々の抵抗器のばらつきや抵抗器への電力印加時の温度分布のばらつき等が大きくなってしまう。
【0100】
これに対して、本実施形態の上記製造方法によれば、抵抗器母材100をダイス300に通過させる引き抜き工程を行うことにより、抵抗器母材100を長さ方向(X)及び厚み方向(Z)に一様に圧縮できる。
【0101】
このため、ローラを用いて一方向からの圧縮と他方向からの圧縮とを繰り返すことで得られた抵抗器母材に比べて、抵抗器母材100は、電気的に有利な接合界面が形成されると考えられる。したがって、完成品としての抵抗器1の特性差を抑えることができる。
【0102】
本実施形態の上記製造方法では、特に、開口部301の異なる複数のダイス300を段階的に用いて、抵抗器母材100のサイズを段階的に小さくなるように圧縮成型することにより、抵抗器母材100やダイス300への負荷を低減しつつ、抵抗器母材100を長さ方向(X)及び厚み方向(Z)に一様に圧縮できる。これにより、完成品としての抵抗器1の特性のバラツキを抑えることができる。
【0103】
また、本実施形態の上記製造方法では、抵抗器母材100をダイス300に通す工程(c)において、引き抜き工程が適用されることにより、押し出し工法に比べて完成品の精度が高められる。この製造方法を用いることにより、抵抗器1としての特性の安定化を実現できる。
【0104】
特に、ダイス300の開口部301の、少なくとも出口開口303は曲線により連続して形成されている。これにより、抵抗器母材100が開口を通過する際に抵抗器母材100に印加される応力を緩和することができ、抵抗器母材100やダイス300への負荷を低減することができる。これにより、完成品としての抵抗器1の特性のバラツキを抑えることができる。
【0105】
これに加え、少なくとも出口開口303は曲線により連続して形成されているので、ダイス300を通過して得られた抵抗器1の角部分P(縁辺)は面取りされることになる。これにより、角部分Pにおいて抵抗器1に生じるエレクトロマイグレーションを抑制することができる。また、抵抗器1のヒートサイクル耐性を高めることができる。
【0106】
また、本実施形態の上記製造方法によれば、第1電極体11と抵抗体10と第2電極体12とが互いに拡散接合(固相接合)により接合されているため、溶接ビードがない。従来の電子ビームなどの溶接による接合では、抵抗器が小型化されるにつれて溶接ビードが抵抗値特性に無視できない影響を与えることがあった。しかし、本実施形態の上記製造方法によって得られた抵抗器1には、その懸念がない。
【0107】
このように、本実施形態の上記製造方法は、抵抗体母材10A及び電極体母材11A,12Aをクラッド接合(固相接合)して得られる抵抗器母材100をダイス300に通して成型するため、例えば電子ビームによる溶接を用いなくとも材料間の接合強度を高めることが可能であり、高い寸法精度を確保することができるため、小型の抵抗器1の製造に好適である。
【0108】
抵抗器1を製造するにあたって、工程(d)では、抵抗器母材100において矩形溝105が形成された面100aから反対面100bに向けて切断することが好ましい。これにより、切断によって生じるバリの、実装面側での形成を阻止できる。
【0109】
また、本実施形態の上記製造方法において、形状を加工する工程(c)の前段に、クラッド接合された抵抗器母材100のサイズをダイス300に挿通可能なサイズに調整する工程が含まれていてもよい。
【0110】
また、本実施形態の上記製造方法において、酸化膜5の形成にレーザ照射を用いるとしたが、金属表面を改質させた酸化膜5が形成できればレーザに限定するものではなく、例えば酸化剤を供給することにより酸化膜5を形成してもよい。
【0111】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。例えば、本実施形態では抵抗器母材100をダイス300に通して個片化した抵抗器1について説明したが、ダイス300を通すことなく抵抗体と電極体とをクラッド接合した抵抗器や、プレス加工により成型された抵抗器にも適用できる。
【符号の説明】
【0112】
1 抵抗器
10 抵抗体
11 第1電極体
12 第2電極体
13 接合部
14 接合部
5 酸化膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14