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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】模型眼システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 3/00 20060101AFI20240201BHJP
   A61B 3/16 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A61B3/00
A61B3/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020028450
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021132671
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【弁理士】
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】丸山 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】雜賀 誠
【審査官】佐藤 秀樹
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-327632(JP,A)
【文献】国際公開第2020/036537(WO,A1)
【文献】特開2015-085042(JP,A)
【文献】特表2010-538699(JP,A)
【文献】今村仂,薄膜マノメーターでGoldmann眼圧計を検証する,日眼会誌,1994年06月10日,Vol.98, No.6,pp.590-595
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00ー3/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を収容する収容室を有する眼圧測定用の模型眼と、前記模型眼の眼圧を調整する眼圧調整装置と、を備える模型眼システムにおいて、
前記眼圧調整装置が、
前記液体を収容し且つ前記収容室に連通しているマノメータであって、前記液体の水位に応じた圧力を前記収容室内の前記液体に加えるマノメータと、
前記マノメータと前記収容室とを接続する前記液体の通路に設けられ、前記マノメータの前記水位を圧力として検出する圧力計と、
前記水位の高さを調整する水位調整部と、
を備え
前記模型眼が、前記収容室の壁面に開口した開口部を覆うレンズを有し、
前記レンズが、前記収容室内の前記液体を、前記液体に接するレンズ裏面から前記レンズ裏面とは反対側のレンズおもて面に浸透させ、
前記レンズが、メタクリル酸メチル及びN-ビニルピロリドンを含む共重合体で形成されている模型眼システム
【請求項2】
前記水位調整部が、前記通路に連通し且つ前記マノメータ内の前記水位の高さを調整する請求項1に記載の模型眼システム
【請求項3】
前記水位調整部が、前記液体を収容し且つ前記通路に連通しているシリンジと、前記シリンジを駆動するアクチュエータと、を備える請求項2に記載の模型眼システム
【請求項4】
前記水位調整部が、前記マノメータの上下方向の位置を調整する請求項1に記載の模型眼システム
【請求項5】
前記圧力計の検出結果に基づき、前記水位調整部を駆動して、前記水位を前記圧力計の検出結果が予め定めた設定値に一致する高さに調整する制御部を備える請求項2から4のいずれか1項に記載の模型眼システム
【請求項6】
前記レンズが、前記液体を前記レンズおもて面に浸透させる浸透量と、前記レンズおもて面から蒸発する前記液体の蒸発量とが等しくなる素材で形成されている請求項1から5のいずれか1項に記載の模型眼システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼圧測定用の模型眼の眼圧調整装置及び模型眼システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、眼科では、非接触式眼圧計(気体噴射式眼圧計)或いはゴールドマントノメータのような接触式眼圧計を用いて被検眼の眼圧の測定が行われている。非接触式眼圧計及び接触式眼圧計はそれぞれ異なる測定方式で被検眼の眼圧測定を行う。この際に、例えば米国のFDA(Food and Drug Administration)のような医療機器の認証機関では、非接触式眼圧計及び接触式眼圧計でそれぞれ同じ測定対象を測定した場合に同じ眼圧値の測定結果が得られるように眼圧計の規格を定めている。
【0003】
このため、特許文献1に記載されているように、非接触式眼圧計及び接触式眼圧計が規格通りの測定性能を有する否かの検定等[評価、検査、調整、校正を含む]を行うために模型眼が用いられる。この模型眼は例えば涙液に模した液体を収容する収容室と、収容室内の液体を加圧するピストン軸とを有しており、この収容室内の液体に加える圧力を調整することで模型眼の眼圧を調整可能である。そして、上述の各眼圧計の検定等では各眼圧計により所定の眼圧に調整された模型眼の眼圧測定が実行され、この眼圧測定結果に基づき検定等が行われる。また、模型眼の眼圧を調整する方法として、模型眼における角膜相当部位(レンズ)の厚みを調整する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平6-327632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
模型眼の眼圧を発生させる方法として、上記特許文献1に記載のピストン軸を用いたり、或いはレンズの厚みを調整したりする等の方法が知られているが、模型眼の眼圧調整をより容易に実行可能にすることが求められている。また、模型眼の眼圧調整の際には、眼圧計の校正等のトレーサビリティ確保の観点から模型眼の実際の眼圧(模型眼内の液体の圧力)を数値化することが求められている。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、模型眼の眼圧調整と眼圧の数値化とを容易に実行可能な眼圧調整装置及び模型眼システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するための眼圧調整装置は、液体を収容する収容室を有する眼圧測定用の模型眼の眼圧を調整する眼圧調整装置において、液体を収容し且つ収容室に連通しているマノメータであって、液体の水位に応じた圧力を収容室内の液体に加えるマノメータと、マノメータと収容室とを接続する液体の通路に設けられ、マノメータの水位を圧力として検出する圧力計と、水位の高さを調整する水位調整部と、を備える。
【0008】
この眼圧調整装置によれば、マノメータ内の液体の水位に応じて模型眼の眼圧を調整し、且つ模型眼の眼圧を数値化することができる。
【0009】
本発明の他の態様に係る眼圧調整装置において、水位調整部が、通路に連通し且つマノメータ内の水位の高さを調整する。これにより、模型眼の眼圧を調整することができる。
【0010】
本発明の他の態様に係る眼圧調整装置において、水位調整部が、液体を収容し且つ通路に連通しているシリンジと、シリンジを駆動するアクチュエータと、を備える。これにより、模型眼の眼圧を調整することができる。
【0011】
本発明の他の態様に係る眼圧調整装置において、水位調整部が、マノメータの上下方向の位置を調整する。これにより、模型眼の眼圧を調整することができる。
【0012】
本発明の他の態様に係る眼圧調整装置において、圧力計の検出結果に基づき、水位調整部を駆動して、水位を圧力計の検出結果が予め定めた設定値に一致する高さに調整する制御部を備える。これにより、模型眼の眼圧を自動で目標値に設定及び維持することができる。
【0013】
本発明の目的を達成するための模型眼システムは、液体を収容する収容室を有する眼圧測定用の模型眼と、上述の眼圧調整装置と、を備える。
【0014】
本発明の他の態様に係る模型眼システムにおいて、模型眼が、収容室の壁面に開口した開口部を覆うレンズを有し、レンズが、収容室内の液体を、液体に接するレンズ裏面からレンズ裏面とは反対側のレンズおもて面に浸透させる。これにより、所定の温湿度環境下(眼圧測定環境下)においてレンズの乾燥及び硬化が防止される。その結果、接触式の眼圧計においても模型眼の眼圧を正確に測定することができるので、非接触式及び接触式の眼圧計で同じ模型眼を測定した場合に同じ眼圧値の測定結果が得られる。
【0015】
本発明の他の態様に係る模型眼システムにおいて、レンズが、液体をレンズおもて面に浸透させる浸透量と、レンズおもて面から蒸発する液体の蒸発量とが等しくなる素材で形成されている。これにより、レンズの乾燥及び硬化が防止されると共に、レンズおもて面を覆う液体の量が過多になることも防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、模型眼の眼圧調整と眼圧の数値化とを容易に実行することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態の模型眼システムの概略図である。
図2】模型眼の断面図である。
図3】模型眼の分解断面図である。
図4】角膜模型レンズの拡大図である。
図5図4中の点線円Q内に示した角膜模型レンズのレンズおもて面の拡大図である。
図6】第2実施形態の模型眼システムの眼圧調整装置の概略図である。
図7】第3実施形態の模型眼システムの眼圧調整装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
[第1実施形態]
図1は、眼圧計2により眼圧測定される第1実施形態の模型眼システム9の概略図である。図1に示すように、模型眼システム9は、模型眼10と眼圧調整装置20とにより構成される。模型眼10は、眼圧調整装置20にセットされており、眼圧調整装置20により眼圧(模型眼10内の液体50の圧力)が調整されている。この模型眼10は、眼圧計2の検定等の際に眼圧計2により眼圧測定される。
【0019】
眼圧計2は、図中に例示した接触式眼圧計に限定されるものではなく、非接触式眼圧計も含まれる。このため、模型眼10は、測定方式が異なる非接触式眼圧計及び接触式眼圧計の両方の眼圧測定に対応している。なお、眼圧計2は、被検眼の眼圧測定の他に公知の各種測定(例えばレフ測定、ケラト測定、及び角膜圧測定等)を実行可能な複合機であってもよい。
【0020】
[眼圧調整装置]
眼圧調整装置20は、模型眼支持部22と、主管路24と、マノメータ26と、第1分岐管路28と、第1接続管路30と、圧力計32と、第2分岐管路34と、第2接続管路36と、第3分岐管路38と、メンテナンスポート40と、水位調整部42と、水位コントローラ44と、排水管路46と、を備える。
【0021】
模型眼支持部22は模型眼10を支持する。この模型眼支持部22は、模型眼10の高さ位置がベースラインL0に一致(略一致を含む)するように模型眼10を支持する。
【0022】
主管路24は、本発明の通路に相当するものであり、水平方向に延びた形状を有する。この主管路24は、その一端が模型眼10の収容室18(図2参照)に接続され、その他端がマノメータ26に接続されている。
【0023】
マノメータ26(水柱マノメータともいう)は、上下方向に延びた形状を有し、その上端が大気開放され且つその下端が主管路24に接続されている。従って、マノメータ26は、主管路24を介して模型眼10の収容室18(図2参照)に接続している。このマノメータ26は、収容室18内に液体50を供給すると共に、マノメータ26内の液体50の水位(液面高さ)に応じた圧力を収容室18内の液体50に加える。これにより、マノメータ26内の液体50の水位の高さ調整することで、模型眼10の眼圧を調整することができる。なお、マノメータ26内での液体50の比重及び重力加速度は一定であるとする。
【0024】
液体50は、例えば水、生理食塩水、人工涙液(人眼の涙液を模した液)、及び水銀(液体金属)等が用いられる。なお、眼圧測定用の模型眼10に収容(充填)される液体50であればその種類は特に限定はされない。また、液体50中に空気が含まれていてもよい。
【0025】
第1分岐管路28は、主管路24の途中に設けられたT字状の管路であり、主管路24から第1接続管路30を分岐させている。第1接続管路30はその一端が第1接続管路30に接続し且つその他端が圧力計32に接続している。
【0026】
圧力計32(水圧計)は、マノメータ26内の液体50の水位を圧力として検出(圧力表示)する。この圧力計32は、マノメータ26内の液体50の水位がベースラインL0に一致している場合の圧力を「0(mmHg)」として(すなわち大気圧を0(mmHg)として)、マノメータ26により加圧される液体50の圧力を検出する。これにより、マノメータ26の液体50の水位を圧力(ゲージ圧)として検出することができる。その結果、マノメータ26内の液体50の水位の読み取りと、この水位に対応した圧力の演算と、を行うことなく、マノメータ26により加圧される収容室18内の液体50の圧力(模型眼10の眼圧)を数値化することができる。
【0027】
第2分岐管路34は、主管路24の途中で且つ第1分岐管路28とマノメータ26との間に設けられたT字状の管路であり、主管路24から第2接続管路36を分岐させている。第2接続管路36は、その一端が第2分岐管路34に接続し且つその他端が水位調整部42に接続している。なお、第2接続管路36の途中には、T字形状の第3分岐管路38を介してメンテナンスポート40が接続されている。
【0028】
水位調整部42は、シリンジ42a(シリンダ)とアクチュエータ42bとを備える。シリンジ42aは、第2接続管路36を介して主管路24内への液体50の注入或いは主管路24内からの液体50の吸引を行うことで、マノメータ26内の液体50の水位を調整する。従って、シリンジ42aを駆動することで模型眼10の眼圧を調整することができる。
【0029】
ここで、マノメータ26内の液体50の水位は、大気開放されているマノメータ26の上端側から液体50が蒸発したり、或いは後述の模型眼10の角膜模型レンズ14(図2参照)から液体50が染み出したりすることで減少する。このため、マノメータ26内の液体50の水位が下がったとしても、シリンジ42aから主管路24内へ液体50を注入することでマノメータ26の液体50の水位を一定に保つ、すなわち模型眼10の眼圧を一定に調整することができる。
【0030】
アクチュエータ42bは、例えばモータ駆動機構或いはリニアモータ等のようなシリンジ42aを駆動可能な各種駆動機構が用いられる。このアクチュエータ42bは、オペレータによる水位コントローラ44への入力操作(水位調整操作)に応じてシリンジ42aを駆動することで、マノメータ26の液体50の水位の高さを調整、すなわち模型眼10の眼圧を調整する。
【0031】
なお、水位調整部42は、主管路24内への液体50の注排水(加減圧)が可能であれば、シリンジ42aを有するものに限定されず、公知の各種注排水機構を採用してもよい。
【0032】
排水管路46は、模型眼10の収容室18(図2参照)に接続されており、この収容室18内からの液体50の排出に用いられる。
【0033】
なお、主管路24の途中で且つ第1分岐管路28と第2分岐管路34との間、第2管路の途中、メンテナンスポート40、及び排水管路46の途中には、各管路の開閉を切り替えるストップコック52が設けられている。
【0034】
[模型眼]
図2は、模型眼10の断面図である。図3は模型眼10の分解断面図である。図2及び図3に示すように、模型眼10は、ケーシング12と、角膜模型レンズ14(本発明のレンズに相当)と、内蓋15と、外蓋16と、を備える。
【0035】
ケーシング12は、中空構造であり、土台部12a及びレンズ載置部12bを含む。これら土台部12a及びレンズ載置部12bの内面(内壁面)により、液体50を収容する収容室18が形成されている。
【0036】
土台部12aには、主管路24及び排水管路46の各々の端部が接続されており且つ収容室18内で各々の端部が開口している。これにより、既述の眼圧調整装置20により収容室18内に液体50を収容(加圧)したり或いは収容室18内から液体50を排出(減圧)したりすることができる。また、土台部12aのレンズ載置部12b側の先端面上には、内蓋15の位置決め用の位置決めピン13が突設されている。さらに、土台部12aの外周面には、外蓋16の取り付け用のネジ溝19aが形成されている。
【0037】
レンズ載置部12bは、土台部12aの一面から鉛直方向に延びた略円筒形状に形成されている。このレンズ載置部12bの先端部は、後述の角膜模型レンズ14に沿う略半球状に形成されている。そして、レンズ載置部12bの先端部の壁面(すなわち収容室18の壁面)には、開口部12cが形成されている。
【0038】
角膜模型レンズ14は、軟性で且つ略角膜形状(所謂コンタクトレンズ型)のレンズであり、レンズ載置部12b上に載置(セット)される。これにより、角膜模型レンズ14は、開口部12cの外側からこの開口部12cを覆うようにレンズ載置部12b上に載置される(図5参照)。この角膜模型レンズ14は、ケーシング12における開口部12cの周縁部に当接する環状のレンズ縁部14aと、開口部12cを覆うレンズ中央部14bと、を有する。また、角膜模型レンズ14は、開口部12cを通して収容室18内の液体50に接するレンズ裏面S1と、レンズ裏面S1とは反対側の面であって眼圧計2に対向するレンズおもて面S2とを有する。なお、角膜模型レンズ14の素材及び機能については後述する。
【0039】
内蓋15は、後述の外蓋16と共に本発明の蓋を構成するものであり、角膜模型レンズ14をレンズ載置部12bに押さえ付ける押え蓋である。内蓋15は、レンズ載置部12b及び角膜模型レンズ14を覆うように、土台部12aに着脱自在に載置される。内蓋15は、略円筒形状に形成されており、その一端側(土台部12a側)の端部は略鍔形状に形成されている。この内蓋15の一端側の端部には、位置決めピン13が挿通される挿通穴(図示は省略)が形成されている。これにより、ケーシング12に対して内蓋15が位置決めされる。
【0040】
また、内蓋15の一端側とは反対の他端側には、第1露出窓15aとレンズ押え部15bとが設けられている。第1露出窓15aは、内蓋15がケーシング12に取り付けられた場合に、レンズ中央部14bを外部に露出させる。
【0041】
レンズ押え部15bは、内蓋15の中で第1露出窓15aの周縁部を構成する。レンズ押え部15bは、内蓋15がケーシング12に取り付けられた場合に、開口部12cの周縁部との間でレンズ縁部14aを挟持固定する。なお、蓋押え部16bは、内蓋15がケーシング12から取り外された場合にはレンズ縁部14aの挟持固定を解除する。
【0042】
外蓋16は、内蓋15を覆うように、土台部12aに着脱自在に取り付けられる。この外蓋16は、略円筒形状に形成されており、その一端側(土台部12a側)の内周面にはネジ溝19aと螺合する係合爪19bが形成されている。係合爪19bをネジ溝19aに係合させることにより、外蓋16が土台部12aに着脱自在に取り付けられる。この際に、外蓋16は角膜模型レンズ14に接触していないので、外蓋16を回転させながらケーシング12に取り付けたとしても、角膜模型レンズ14の変形及び破損が防止される。
【0043】
また、外蓋16の一端側とは反対の他端側には、第2露出窓16aと蓋押え部16bとが設けられている。第2露出窓16aは、外蓋16がケーシング12に取り付けられた場合に、第1露出窓15aを通してレンズ中央部14bを外部に露出させる。これにより、眼圧計2による模型眼10の眼圧測定が可能になる。
【0044】
蓋押え部16bは、外蓋16の中で第2露出窓16aの周縁部を構成する。蓋押え部16bは、外蓋16がケーシング12に取り付けられた場合に、レンズ押え部15bをレンズ載置部12bに向けて押さえ付けることにより、内蓋15をケーシング12に固定する。これにより、レンズ押え部15b及びレンズ押え部15bと、開口部12cの周縁部と、の間でレンズ縁部14aが挟持固定される。
【0045】
なお、蓋押え部16bは、外蓋16がケーシング12から取り外された場合には、ケーシング12に対する内蓋15の固定を解除する。これにより、ケーシング12から内蓋15を取り外してレンズ縁部14aの挟持固定を解除することができる。その結果、ケーシング12からの角膜模型レンズ14が取り外し可能になる。従って、角膜模型レンズ14の経時変化時には、ケーシング12から外蓋16及び内蓋15を順番に取り外すだけで角膜模型レンズ14を簡単に交換することができる。
【0046】
[角膜模型レンズ]
図4は、図2中の角膜模型レンズ14の拡大図である。また、図5は、図4中の点線円Q内に示した角膜模型レンズ14のレンズおもて面S2の拡大図である。なお、図4及び図5では、図面の煩雑化を防止するために内蓋15及び外蓋16の図示を省略している。
【0047】
上記特許文献1に記載のレンズ素材であるHEMA(Hydroxyethyl methacrylate)は含水率(重量含水率)が40%以下の低含水性素材である。このため、仮に角膜模型レンズ14をHEMAで形成すると、収容室18内の液体50はレンズ裏面S1からレンズおもて面S2側に向けて浸透するまでの間に蒸発してしまうので、角膜模型レンズ14が乾燥硬化してしまう。
【0048】
そこで、図4に示すように本実施形態では、角膜模型レンズ14を、収容室18内の液体50をレンズ裏面S1からレンズおもて面S2まで浸透可能な高含水性素材(人眼と同等の親水性材料)で形成している。この高含水性素材とは、レンズ裏面S1からレンズおもて面S2に浸透する液体50の浸透量をP1とし且つレンズおもて面S2側から蒸発する液体50の蒸発量をP2とした場合に、角膜模型レンズ14の単位面積当たりの浸透量P1及び蒸発量P2が、所定の温湿度環境下で浸透量P1≒蒸発量P2を満たすような含水率の素材である。従って、高含水性素材の含水率には所定の下限値がある。この下限値は実験及びシミュレーション等により定められる。なお、所定の温湿度環境下とは、一般的な眼圧測定環境下であり、例えば温度10~40℃、湿度10~95%(結露なきこと)である。
【0049】
図5に示すように、浸透量P1がレンズおもて面S2側からの液体50の蒸発量と等しくなる(略等しくなることを含む)高含水性素材(浸透量P1≒蒸発量P2を満たす高含水性素材)で角膜模型レンズ14を形成することで、収容室18内からレンズおもて面S2に浸透した液体50により少なくともレンズ中央部14bのレンズおもて面S2を覆うことができる。これにより、レンズおもて面S2上に涙液層を模した液体層50aを形成することができるので、角膜模型レンズ14の乾燥硬化が防止される。その結果、角膜模型レンズ14が乾燥硬化した状態において接触式の眼圧計2による眼圧測定が行われることが防止される。
【0050】
また、接触式の眼圧計2による模型眼10の眼圧測定では、レンズおもて面S2を覆う液体50の量が過小である場合だけではなく過多である場合にも正確な眼圧測定が困難になる。このため、既述の所定の温湿度環境下において液体層50aの厚みが接触式の眼圧計2による眼圧測定に適した一定範囲内に収まることが好ましい。すなわち、高含水性素材の含水率に上限値を定めることが好ましい。この上限値についても実験及びシミュレーション等により定められる。このため、上述の浸透量P1≒蒸発量P2を満たす含水率の素材で角膜模型レンズ14を形成することが好ましい。
【0051】
本実施形態の高含水性素材としては、MMA(メタクリル酸メチル:Methyl Methacrylate Monomer)及びN-VP(N-ビニルピロリドン:N-Vinylpyrrolidone)を主体とする共重合体(コポリマー)が例として挙げられる。より具体的には、DMMA(N,N-ジメチルアクリルアミド)及びN-VPの共重合体が例として挙げられる。なお、本実施形態の高含水性素材は、上述の共重合体に限定されるものではなく、上述の浸透量P1及び蒸発量P2の関係を満たす素材、すなわち液体50がレンズおもて面S2まで浸透する素材であれば特に限定はされない。なお、仮に上述の共重合体を一部に含んでいたとしても、液体50がレンズおもて面S2まで浸透せずに蒸発してしまう素材、すなわち角膜模型レンズ14が乾燥硬化するような素材は除かれる。
【0052】
[模型眼システムの作用]
図1に戻って、上記構成の模型眼システム9の眼圧調整装置20による模型眼10の眼圧調整処理の流れについて説明する。オペレータは、模型眼10を眼圧調整装置20にセットした後、メンテナンスポート40及び排水管路46のストップコック52を閉塞し、他のストップコック52を開放する。これにより、マノメータ26が、その内部の液体50の水位に応じた圧力を収容室18内の液体50に加える。その結果、収容室18内の液体50の圧力、すなわち模型眼10の眼圧が上昇する。
【0053】
また同時に、圧力計32がマノメータ26内の液体50の水位を圧力として検出し、この圧力を表示する。これにより、マノメータ26により加圧される模型眼10の実際の眼圧(すなわち眼圧計2により眼圧測定される眼圧の目標値)を数値化することができる。その結果、眼圧計の校正等のトレーサビリティが確保されるので、FDA等の認証機関により定められる国際規格にも適合可能である。
【0054】
オペレータは、圧力計32に表示される圧力値に基づき、この圧力が予め定められた模型眼10の眼圧の目標値(設定値)に一致するように、水位コントローラ44を操作して水位調整部42のアクチュエータ42bを駆動することでマノメータ26内の液体50の水位を調整する。これにより、模型眼10の眼圧を所定の目標値に調整することができる。このように本実施形態では、マノメータ26内の液体50の水位を調整、すなわち1つのパラメータを調整するだけで模型眼10の眼圧を簡単に調整することができる。
【0055】
以下、公知の手法で眼圧計2による模型眼10の眼圧測定が実行される。この際に、本実施形態では上述の高含水性素材で角膜模型レンズ14を形成しているので、レンズおもて面S2上に液体層50aを常時形成することができる。これにより、所定の温湿度環境下(眼圧測定環境下)において角膜模型レンズ14の乾燥及び硬化が防止される。その結果、接触式の眼圧計2においても模型眼10の眼圧を正確に測定することができる。このため、非接触式及び接触式の眼圧計2で同じ模型眼10を測定した場合に同じ眼圧値の測定結果が得られる。そして、眼圧計2による模型眼10の眼圧測定結果に基づき、眼圧計2の校正等が実行される。
【0056】
[本実施形態の効果]
以上のように本実施形態では、模型眼10の眼圧調整にマノメータ26を使用することでこのマノメータ26内の液体50の水位に応じて模型眼10の眼圧を調整することができる。また、本実施形態では圧力計32により模型眼10の実際の眼圧を数値化することができる。その結果、模型眼10の眼圧調整と眼圧の数値化とを容易に実行することができる。
【0057】
[第2実施形態]
図6は、第2実施形態の模型眼システム9の眼圧調整装置20の概略図である。上記第1実施形態の模型眼システム9では模型眼10の眼圧を手動操作で目標値に設定するが、第2実施形態の模型眼システム9では模型眼10の眼圧を自動で目標値に設定する。
【0058】
図6に示すように、第2実施形態の模型眼システム9は、眼圧調整装置20が制御装置60を備える点を除けば、上記第1実施形態と基本的に同じ構成である。このため、上記第1実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0059】
制御装置60(本発明の制御部に相当)は、例えばパーソナルコンピュータのような演算装置により構成されており、眼圧調整装置20の各部の動作を統括制御する。この制御装置60は、各種のプロセッサ(Processor)及びメモリ等から構成された演算回路を備える。各種のプロセッサには、CPU(Central Processing Unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及びプログラマブル論理デバイス[例えばSPLD(Simple Programmable Logic Devices)、CPLD(Complex Programmable Logic Device)、及びFPGA(Field Programmable Gate Arrays)]等が含まれる。なお、制御装置60の各種機能は、1つのプロセッサにより実現されてもよいし、同種または異種の複数のプロセッサで実現されてもよい。
【0060】
制御装置60には、圧力計32及び水位調整部42のアクチュエータ42bが接続されている。制御装置60は、圧力計32による圧力検出結果に基づき、この圧力検出結果(模型眼10の眼圧)が予め定めた目標値に一致するように、水位調整部42を駆動して、マノメータ26内の液体50の水位を調整する所謂フィードバック制御を行う。
【0061】
具体的には制御装置60は、圧力計32の圧力検出結果が目標値よりも高い場合には、水位調整部42を駆動してマノメータ26内の液体50の水位を下げる。また逆に、制御装置60は、圧力計32の圧力検出結果が目標値よりも高い場合には、水位調整部42を駆動してマノメータ26内の液体50の水位を上げる。
【0062】
以上のように、第2実施形態では、圧力計32による圧力検出結果に基づき、水位調整部42を駆動するフィードバック制御を実行することで、模型眼10の眼圧を自動で目標値に設定及び維持することができる。これにより、オペレータの手間を減らすことができる。
【0063】
[第3実施形態]
図7は、第3実施形態の模型眼システム9の眼圧調整装置20の概略図である。上記各実施形態の模型眼システム9では、マノメータ26内の液体50の水位を調整することで模型眼10の眼圧を調整するが、第3実施形態の模型眼システム9ではマノメータ26の上下方向の位置を調整することで模型眼10の眼圧を調整する。
【0064】
図7に示すように、第3実施形態の模型眼システム9は、眼圧調整装置20がマノメータ26及び水位調整部42の代わりに、マノメータ26A、マノメータ接続管路27、及び水位調整部42Aを備える点を除けば上記第2実施形態と基本的に同じ構成である。このため、上記第2実施形態と機能又は構成上同一のものについては同一符号を付してその説明は省略する。
【0065】
マノメータ26Aは、上記各実施形態のマノメータ26と基本的に同じものであり、後述の水位調整部42Aのマノメータ支持部62により上下方向に移動可能に支持されている。
【0066】
マノメータ接続管路27は、例えばゴム管路等の軟性の管路であり、マノメータ26Aの下端側と既述の主管路24の他端側と接続している。これにより、マノメータ接続管路27及び主管路24を介して、マノメータ26Aと収容室18とが連通するため、マノメータ26Aにより収容室18内の液体50に圧力が加えられる。また、マノメータ接続管路27の長さに余裕を持たせることで、後述の水位調整部42Aによるマノメータ26Aの上下方向の位置調整が可能となる。
【0067】
水位調整部42Aは、マノメータ支持部62及びアクチュエータ64により構成されており、マノメータ26Aの上下方向の位置を調整する。
【0068】
マノメータ支持部62は、上下方向に延びた柱形状を有しており、マノメータ26Aを上下方向に移動自在に支持している。
【0069】
アクチュエータ64は、例えばモータ駆動機構或いはリニアモータ等のリニア駆動機構であり、マノメータ支持部62に支持されているマノメータ26Aを上下方向に移動させる。これにより、マノメータ26Aの上下方向の位置を調整することで、ベースラインL0等を基準とした液体50の水位(液面高さ)の位置を調整可能である。その結果、マノメータ26Aは、液体50の水位の高さ位置に応じた圧力を収容室18内の液体50に圧力を加える。これにより、上記各実施形態と同様に、模型眼10の眼圧を調整することができる。
【0070】
第3実施形態の制御装置60は、模型眼10の眼圧の手動調整を行う場合においては、オペレータによる水位コントローラ44への入力操作(水位調整操作)に応じてアクチュエータ64を駆動することで、マノメータ26Aと一体にその内部の液体50の水位の位置を調整する。これにより、上記第1実施形態と同様に、模型眼10の眼圧を手動調整することができる。
【0071】
また、第3実施形態の制御装置60は、模型眼10の眼圧の自動調整を行う場合においては、圧力計32による圧力検出結果に基づき、この圧力検出結果(模型眼10の眼圧)が予め定めた目標値に一致するように、アクチュエータ64を駆動して、マノメータ26Aと一体にその内部の液体50の水位の位置を調整するフィードバック制御を行う。これにより、第2実施形態と同様に、模型眼10の眼圧を自動で目標値に設定及び維持することができるので、オペレータの手間を減らすことができる。
【0072】
以上のように第3実施形態では、マノメータ26Aと一体にその内部の液体50の水位の位置を調整することにより、上記各実施形態と同様に模型眼10の眼圧を調整することができるので、上記各実施形態と同様の効果が得られる。
【0073】
なお、上記第3実施形態では、アクチュエータ64によりマノメータ26Aを上下方向に移動させているが、オペレータが直接的に上下方向に移動させてもよい。
【0074】
[その他]
上記各実施形態では、眼圧調整装置20にマノメータ26,26Aの液体50の水位を調整する水位調整部42,42Aが設けられているが、水位の調整が不要である場合には水位調整部42,42Aが省略されていてもよい。また、上記各実施形態では、各管路が硬性管で形成されているが軟性管で形成されていてもよい。さらに、眼圧調整装置20の各部の位置、形状、及び構成も適宜変更可能である。
【0075】
上記実施形態では、模型眼10のケーシング12及び外蓋16を図2等で例示しているが、ケーシング12、内蓋15、及び外蓋16の形状(構造)は図2に示した形状に限定されるものではなく、適宜変更可能である。また、上記実施形態では、内蓋15を介して外蓋16によりケーシング12に対して角膜模型レンズ14を着脱自在に固定しているが、外蓋16のみで角膜模型レンズ14の固定を行ったり、或いは内蓋15及び外蓋16以外の各種固定部材或いは各種押え部材を用いて角膜模型レンズ14の固定を行ったりしてもよい。
【0076】
上記実施形態では、ケーシング12の開口部12cに着脱自在に角膜模型レンズ14が設けられているが、例えば模型眼10がディスポーザブル型の場合には開口部12cに着脱不能に角膜模型レンズ14が設けられていてもよい。また、上記実施形態では、角膜模型レンズ14が開口部12cの外側から開口部12cを覆っているが、開口部12cの内側(収容室18の内壁面側)から開口部12cを覆ってもよい。
【0077】
上記実施形態では、角膜形状の角膜模型レンズ14を有する模型眼10を例に挙げて説明したが、例えば凸レンズ形状等の各種形状のレンズを有する眼圧測定用の模型眼10に本発明を適用可能である。
【0078】
上記実施形態の角膜模型レンズ14は透光性を有するが、本発明のレンズとは、接触式眼圧計が接触或いは非接触式眼圧計から気体が噴射される各種の角膜模型(角膜表面模型、角膜相当物)であり、各眼圧計での眼圧測定の対象となり得るものであれば遮光性を有していてもよく、必ずしも光学素子に限定はされない。また、角膜模型レンズ14の素材は高含水性素材に限定されるものではなく、低含水性素材、疎水性素材(シリコンゴム等)、及び非含水性素材等で形成されていてもよい。
【0079】
上記実施形態では、接触式及び非接触の眼圧計2での眼圧測定に共用される模型眼システム9を例に挙げて説明したが、接触式及び非接触のいずれか一方の眼圧計2(特に接触式)の眼圧測定のみに用いられる模型眼システム9にも本発明を適用可能である。
【符号の説明】
【0080】
2 眼圧計
9 模型眼システム
10 模型眼
12 ケーシング
12a 土台部
12b レンズ載置部
12c 開口部
14 角膜模型レンズ
14a レンズ縁部
14b レンズ中央部
15 内蓋
15a 第1露出窓
15b レンズ押え部
16 外蓋
16a 第2露出窓
16b 蓋押え部
18 収容室
19a ネジ溝
19b 係合爪
20 眼圧調整装置
22 模型眼支持部
24 主管路
26,26A マノメータ
27 マノメータ接続管路
28 第1分岐管路
30 第1接続管路
32 圧力計
34 第2分岐管路
36 第2接続管路
38 第3分岐管路
40 メンテナンスポート
42 水位調整部
42A 水位調整部
42a シリンジ
42b アクチュエータ
44 水位コントローラ
46 排水管路
50 液体
50a 液体層
52 ストップコック
60 制御装置
62 マノメータ支持部
64 アクチュエータ
L0 ベースライン
P1 浸透量
P2 蒸発量
S1 レンズ裏面
S2 レンズおもて面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7