(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】壁構造
(51)【国際特許分類】
E04B 2/96 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
E04B2/96
(21)【出願番号】P 2020035680
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】二木 秀也
(72)【発明者】
【氏名】西村 章
(72)【発明者】
【氏名】小塚 裕一
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特公昭61-030102(JP,B2)
【文献】特開平09-273264(JP,A)
【文献】特開昭54-154120(JP,A)
【文献】特開平11-293831(JP,A)
【文献】実開平01-131717(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 2/56 - 2/70;2/88 - 2/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨を含んで構成された支持体と、
上端部から下端部に渡って複数個所をアンカーボルトで前記支持体を構成する前記鉄骨に背面が接合された壁体と、
前記支持体の上下方向の中間部を躯体に面外方向に回転可能に
且つ横方向に移動可能に支持させる中間部取付機構部と、
前記支持体の上端部及び下端部の少なくとも一方を、上下方向及び面内方向の移動を許容して前記躯体に取り付ける端部取付機構部と、
を備えた壁構造。
【請求項2】
前記中間部取付機構部は、前記支持体から面外方向に突出し、前記躯体上に載置される載置部を有している、
請求項1に記載の壁構造。
【請求項3】
前記端部取付機構部は、
前記支持体に設けられ、上下方向を軸方向とする軸部材と、
前記躯体に設けられ、前記軸部材が挿通する左右方向に長い長孔が形成された挿通部と、
を有している、
請求項1又は請求項2に記載の壁構造。
【請求項4】
前記壁体は、石壁である、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の壁構造。
【請求項5】
前記アンカーボルトは、前記壁体の上下方向における少なくとも上端部、下端部、中間部、前記上端部と前記中間部との間及び前記中間部と前記下端部との間に埋め込まれ、前記壁体の背面から突出している、
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の壁構造。
【請求項6】
前記支持体は、
格子状に組まれた前記鉄骨と、
上下方向に沿って設けられると共に左右方向に間隔をあけて設けられた鉄筋と、
前記鉄骨で構成された格子内に設けられたブレース材と、
を有して構成されている、
請求項1~請求項5のいずれか1項に記載の壁構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、プレキャストコンクリートパネルのカーテンウォールをボルト・ナット及びファスナーを用いて躯体側に取り付ける構造に関する技術が開示されている。この先行技術では、プレキャストコンクリートパネル及び外壁パネルの上下方向の中間部を躯体に回転可能に支持させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
意匠壁等の耐震壁でない壁体が躯体に剛接されている場合、壁体の剛性が高いと、壁体が地震時の建物の変形を阻害し、建物の耐震性能が低下する虞がある。
【0005】
特許文献1の技術では、プレキャストコンクリートパネル及び外壁パネルは躯体に剛接されていないので、壁体が地震時の建物の変形を阻害しない。しかし、壁体を直接に躯体に取り付ける構造のため、壁体の取付部位に鉛直荷重が直接作用し、応力が集中する。よって、壁体の取付部位への応力集中による取付部位の破損等の対応が必要となる場合がある。特に、壁体が石壁等で重い場合は、取付部位への応力集中による取付部位の破損等の影響が大きくなる。
【0006】
本発明は、上記事実に鑑み、壁体への局部的な応力集中を抑制しつつ、壁体を面外方向に回転可能に躯体に支持させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第一態様は、壁体と、前記壁体の背面に上端部から下端部に渡って設けられた支持体と、前記支持体の上下方向の中間部を躯体に面外方向に回転可能に支持させる中間部取付機構部と、前記支持体の上端部及び下端部の少なくとも一方を、上下方向及び面内方向の移動を許容して前記躯体に取り付ける端部取付機構部と、を備えた壁構造である。
【0008】
第一態様の壁構造では、中間部取付機構部が、壁体の背面に設けられた支持体の中間部を面外方向に回転可能に躯体に支持させる。端部取付機構部が、支持体の上端部及び下端部の少なくとも一方を上下方向及び面内方向の移動を許容して躯体に取り付ける。
【0009】
このように、建物の躯体に壁体を剛接しないで取り付けるので、壁体が地震時に建物の変形を阻害しない。
【0010】
また、壁体の背面に設けられた支持体の上下方向の中間部を躯体に面外方向に回転可能に支持させて回転支点とするので、支持体の上端部又は下端部を支持して回転支点とする場合と比較し、端部取付機構部に作用する力及び支持体に作用する曲げ応力が抑制される。
【0011】
ここで、仮に壁体の背面に支持体を設けなかった場合、壁体における躯体への取付部位に鉛直荷重による応力が集中する。
【0012】
これに対して、壁体の背面に上端部から下端部に渡って支持体を設け、この支持体を躯体に支持させることで、壁体への局部的な応力集中が抑制される。
【0013】
したがって、壁体への局部的な応力集中を抑制しつつ、壁体を面外方向に回転可能に躯体に支持させることができる。
【0014】
第二態様は、前記中間部取付機構部は、前記支持体から面外方向に突出し、前記躯体上に載置される載置部を有している、第一態様に記載の壁構造である。
【0015】
第二態様の壁構造では、支持体から突出した載置部が躯体上に載置されることで、支持体を容易に面外方向に回転可能に躯体に支持させることができる。
【0016】
第三態様は、前記端部取付機構部は、前記支持体に設けられ、上下方向を軸方向とする軸部材と、前記躯体に設けられ、前記軸部材が挿通する左右方向に長い長孔が形成された挿通部と、を有している、第一態様又は第二態様に記載の壁構造である。
【0017】
第三態様の壁構造では、支持体に設けられた上下方向を軸方向とする軸部材を、躯体に設けられた挿通部に形成された左右方向に長い長孔に挿通することで、容易に支持体を上下方向及び面内方向の移動を許容しつつ中間部取付機構部を支点とする壁体の回転を制限するように躯体に取り付けられる。
【0018】
第四態様は、前記壁体は、石壁である、第一態様~第三態様のいずれか一態様に記載の壁構造である。
【0019】
第四態様の壁構造では、重くて硬い石壁であっても、地震時に建物の変形を阻害しないように設けられる。壁体の背面に設けられた支持体の上下方向の中間部を支持して回転支点とするので、壁体が重く硬い石壁であっても、端部取付機構部に作用する力及び支持体に作用する曲げ応力が抑制されるので、好適である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、壁体への局部的な応力集中を抑制しつつ、壁体を面外方向に回転可能に躯体に支持させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】壁構造をX方向から見た側面を模式的に示す側面図である。
【
図3】(A)は端部取付機構部の上側機構部を一部断面で示す平面図であり、(B)は一部断面で示す正面図である。
【
図4】(A)は端部取付機構部の下側機構部を一部断面で示す正面図であり、(B)は一部断面で示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
<実施形態>
本発明の一実施形態の壁構造について説明する。なお、鉛直方向をZ方向とし、鉛直方向と直交する水平方向の互いに直交する二方向をX方向及びY方向とする。また、後述する壁体50の面外方向がY方向であり、Y方向から見た場合が正面視であり、正面視におけるX方向が左右方向である。なお、
図2では、壁体50は、想像線(二点鎖線)で図示している。
【0023】
[構成]
まず、第一実施形態の壁構造の構成について説明する。
【0024】
図1及び
図2に示すように、壁構造100は、壁体50と、支持体110と、中間部取付機構部120(
図1参照)と、端部取付機構部130と、を有している。
【0025】
本実施形態の壁体50は、意匠性の高い琉球石灰岩石等の石で構成された石壁であり、意匠壁である。本実施形態の壁体50の上下方向高さは、建物10の複数層、本実施形態では二層分となっている。また、支持体110は、壁体50の背面52(
図1参照)の上端部50Aから下端部50Bに渡って設けられている。なお、壁体50の上下方向の中間部を中間部50Cとする。
【0026】
図2に示すように、本実施形態の支持体110は、鋼製の鉄骨112と鉄筋114とブレース材116とで構成されている。支持体110を構成する鉄骨112は、格子状に組まれている。鉄筋114は、上下方向に沿って設けられると共に左右方向に間隔をあけて配置され、それぞれ鉄骨112と接続されている。ブレース材116は、鉄骨112の格子内に設けられている。なお、支持体110の構成は、一例であって、このような構成に限定されるものではない。
【0027】
また、支持体110は、壁体50の背面52(
図1参照)に接合されている。なお、両者の接合方法は、どのような方法であってもよいが、本実施形態では、次のように接合している。
【0028】
図1に示すように、壁体50の複数箇所にアンカーボルト70が埋め込まれている。アンカーボルト70は、背面52から突出している。そして、複数のアンカーボルト70が支持体110の鉄骨112(
図2参照)にボルト締結されることで、壁体50の背面52に支持体110が接合されている。なお、本実施形態では、アンカーボルト70は、壁体50の上下方向における少なくとも上端部50A、下端部50B、中間部50C、上端部50Aと中間部50Cとの間及び中間部50Cと下端部50Bとの間に埋め込まれている。
【0029】
図1に示すように、中間部取付機構部120は、壁体50の背面52に接合された支持体110の上下方向の中間部110Cを、建物10の躯体20に、面外方向に回転可能に支持させている。また、端部取付機構部130は、支持体110の上端部110A及び下端部110Bを、それぞれ上下方向及び面内方向の移動を許容して躯体20に取り付けている。
【0030】
なお、本実施形態では、壁体50の背面52に設けられた支持体110は、建物10の躯体20を構成する第二層12の天井を構成するスラブ22の端部に接合された梁32、第一層11の天井を構成するスラブ21の端部に接合された梁31及び第一層11の床部を構成するスラブ30に取り付けられている。
【0031】
中間部取付機構部120は、支持体110の中間部110CからY方向に突出する載置部122を有し、この載置部122が、梁31の上に載置されている。
【0032】
図1及び
図2に示すように、端部取付機構部130は、支持体110の上端部110Aを第二層12の上側の梁32に取り付ける上側機構部140(
図3も参照)と、支持体110の下端部110Bを第一層11の床部を構成するスラブ30に取り付ける下側機構部160(
図4も参照)と、を有している。
【0033】
図1及び
図3に示すように、上側機構部140は、上側軸部材142と上側挿通部150とを有している。上側軸部材142は、支持体110の上端部110A(
図1参照)に設けられ、上方に突出している。上側挿通部150は、縦板部152と横板部153とで構成され、X方向から見た側面視でL字状とされている。上側挿通部150の縦板部152は、梁32の側面33に固定されている。上側挿通部150の横板部154は、X方向(左右方向)に長い長孔156が形成され、この長孔156に上側軸部材142が挿通している。
【0034】
図1及び
図4に示すように、下側機構部160は、下側軸部材162と下側挿通部170とを有している。下側軸部材162は、支持体110の下端部110B(
図1参照)に設けられ、下方に突出している。下側挿通部170は、板状の固定部172と箱状部174とで構成されている。固定部172は、スラブ30に固定されている。箱状部174の上面部175には、左右方向に長い長孔176が形成され、この長孔176に下側軸部材162が挿通している。
【0035】
なお、
図1に示すように、本実施形態では、支持体110は、上端部110Aが梁32の側面33に接触又は近接し、中間部110Cが梁31の側面34に接触又は近接している。
【0036】
[作用及び効果]
次に本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0037】
中間部取付機構部120の載置部122が梁31の上に載置されることで、支持体110の中間部110Cが面外方向に回転可能に梁31に支持されている。
【0038】
上側機構部140の上側軸部材142が梁32に固定された上側挿通部150の長孔156に挿通することで、支持体110の上端部110Aが上下方向及び面内方向の移動を許容して梁32に取り付けられている。また、下側機構部160の下側軸部材162がスラブ30に固定された下側挿通部170の長孔176に挿通することで、支持体110の下端部110Bが上下方向及び面内方向の移動を許容してスラブ30に取り付けられている。これらにより、支持体110を、上下方向及び面内方向の移動を許容しつつ、載置部122を支点とする壁体50の回転を制限するように、躯体20に取り付けられる。
【0039】
このように、建物10の躯体20を構成する梁32、31及びスラブ30に壁体50を剛接合しないで取り付けるので、壁体50が地震時に建物10の変形を阻害しない。
【0040】
また、壁体50の背面52に設けられた支持体110の上下方向の中間部110Cを面外方向に回転可能に支持させて回転支点とするので、支持体110の上端部110A又は下端部110Bを回転支点とする場合と比較し、端部取付機構部130の上側機構部140及び下側機構部160に作用する力及び支持体110に作用する曲げ応力が抑制される。
【0041】
ここで、仮に壁体50の背面52に支持体110を設けなかった場合、壁体50における躯体20への取付部位に鉛直荷重による応力が集中する。
【0042】
これに対して、壁体50の背面52に上端部110Aから下端部110Bに渡って支持体110を設け、この支持体110を躯体20に支持させることで、壁体50への局部的な応力集中が抑制される。
【0043】
したがって、壁体50への局部的な応力集中を抑制しつつ、壁体50を面外方向に回転可能に躯体20に支持させることができる。
【0044】
また、支持体110の中間部110Cから突出した載置部122が梁31上に載置されることで、支持体110を容易に面外方向に回転可能に躯体20に支持させることができる。
【0045】
また、支持体110に設けられた上下方向を軸方向とする上側軸部材142及び下側軸部材162を、それぞれ上側挿通部150の長孔156及び下側挿通部170の長孔176に挿通することで、容易に支持体110を上下方向及び面内方向の移動を許容しつつ中間部取付機構部120の載置部122を支点とする壁体50の回転を制限するように躯体20に取り付けられる。
【0046】
また、本実施形態では、本実施形態の壁体50は重くて硬い石壁であるが、前述のように、地震時に建物10の変形を阻害しないように設けられるので、好適である。
【0047】
また、前述のように、壁体50の背面52に設けられた支持体110の上下方向の中間部110Cを回転支点とするので、壁体50が重く硬い石壁であっても、端部取付機構部130の上側機構部140及び下側機構部160に作用する力及び支持体110に作用する曲げ応力が抑制されるので、好適である。
【0048】
また、本実施形態では、壁体50は、第一層11と第二層12とに跨って設けられている。よって、例えば、壁体50を中間部50Cで上下に分割して第一層11及び第二層12にそれぞれに取り付けた場合のように、中間部50Cに目地が生じない。したがって、壁体50に目地が生じることによる意匠性の低下が防止される。
【0049】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0050】
例えば、上記実施形態の中間部取付機構部120、端部取付機構部130の上側機構部140及び下側機構部160は、一例であって、これに限定されない。中間部取付機構部は、支持体の上下方向の中間部を躯体に面外方向に回転可能に支持させる機構であればよい。また、端部取付機構部は、支持体の上端部及び下端部の少なくとも一方を上下方向及び面内方向の移動を許容して躯体に取り付ける機構であればよい。また、支持体は、梁及びスラブ以外の躯体に取り付けてもよい。
【0051】
なお、壁体が複数層に跨って設けられている場合は、支持体の上端部及び下端部の両方に端部取付機構部を設けることが望ましい。
【0052】
また、例えば、上記実施形態は、壁体50は、石壁であったが、これに限定されない。石壁以外の壁体であってもよい。別の観点から説明すると、意匠壁等の耐震壁以外の壁体全般に本発明を適用することができる。
【0053】
また、例えば、支持体110の構造及び支持体110の壁体50の背面52への接合構造は、上記実施形態に限定されない。支持体110の構造及び支持体110の壁体50の背面52への接合構造は、壁体50への局部的な応力集中が抑制される構造であれば、どのような構造であってもよい。別の観点から説明すると、壁体の背面の上端部から下端部に渡って設けた支持体を躯体に支持及び取り付けることで、壁体を直接躯体に支持及び取り付けた場合と比較し、壁体への局部的な応力集中が抑制されればよい。
【0054】
また、三層以上に跨って設けられる壁体にも適用可能であるし、一層のみに設けられた壁体にも適用可能である。
【0055】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0056】
10 建物
20 躯体
30 スラブ
31 梁
32 梁
50 壁体
50A 上端部
50B 下端部
50C 中間部
52 背面
100 壁構造
110 支持体
110A 上端部
110B 下端部
110C 中間部
120 中間部取付機構部
122 載置部
130 端部取付機構部
140 上側機構部
142 上側軸部材(軸部材の一例)
150 上側挿通部(挿通部の一例)
156 長孔
160 下側機構部
162 下側軸部材(軸部材の一例)
170 下側挿通部(挿通部の一例)
176 長孔