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特許7429568固体酸化物型燃料電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】固体酸化物型燃料電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20240201BHJP
   H01M 4/88 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 4/90 20060101ALI20240201BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240201BHJP
   H01M 8/1226 20160101ALI20240201BHJP
【FI】
H01M4/86 U
H01M4/86 T
H01M4/88 T
H01M4/90 M
H01M8/12 101
H01M8/1226
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2020040847
(22)【出願日】2020-03-10
(65)【公開番号】P2021144795
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】李 新宇
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-511795(JP,A)
【文献】国際公開第2019/198372(WO,A1)
【文献】特開2015-191810(JP,A)
【文献】特開2013-118177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を主成分とする支持体と、
前記支持体上に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された混合層と、
前記混合層上に設けられ、電子伝導性セラミックスを含有する中間層と、
前記中間層上に設けられ、酸化物イオン伝導性セラミックスおよびNiを含むアノードと、を備え、
前記混合層における前記金属材料の比率よりも、前記中間層における金属成分の比率が低いことを特徴とする固体酸化物型燃料電池。
【請求項2】
前記中間層における前記金属成分の比率は、3wt%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項3】
前記中間層において、空隙率は、10%以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項4】
前記中間層は、前記アノードに含まれる前記酸化物イオン伝導性セラミックスを備えることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項5】
前記中間層の断面において、前記電子伝導性セラミックスの面積比率は、20%以上であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項6】
前記中間層は、1μm以上の厚みを有することを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項7】
前記支持体、前記混合層、前記中間層および前記アノードにおける空隙率は、前記支持体>前記混合層≧前記中間層>前記アノードの関係を有することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項8】
前記電子伝導性セラミックスは、組成式がABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、AがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BがTi、Crの群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の固体酸化物型燃料電池。
【請求項9】
金属材料粉末を含む支持体グリーンシートと、金属材料粉末とセラミックス材料の粉末とを含む混合層グリーンシートと、電子伝導性セラミックス粉末を含む中間層グリーンシートと、酸化物イオン伝導性セラミックス粉末およびNi成分粉末を含むアノードグリーンシートとが積層された積層体を準備する工程と、
前記積層体を焼成する工程と、を含み、
前記中間層グリーンシートには酸化されていない金属成分を含んでいないか、前記中間層グリーンシートにおける前記金属成分の添加量が前記混合層グリーンシートにおける前記金属成分の添加量未満であることを特徴とする固体酸化物型燃料電池の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物型燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車などで使用可能な固体酸化物型燃料電池システムを開発するためには、振動に耐えられかつ急速昇温でも割れないセルを開発することが望まれている。そこで、メタルサポートタイプの固体酸化物型燃料電池が開発されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-115506号公報
【文献】国際公開第2019/159276号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
メタルサポートタイプの固体酸化物型燃料電池において、金属支持体とアノードとの密着性を向上させるために、アノード層がセラミックスと金属材料とを含むことが考えられる。触媒能を求めるため、一般的にはアノードにおける金属としてNiあるいはNi合金が用いられている。しかしながら、金属支持体の酸化防止のために還元雰囲気における焼成で当該固体酸化物型燃料電池を作製しようとすると、アノードに含まれるNi成分が金属支持体と合金化する。このとき、合金粒子中のNiの比率が50%以下になると、アノード触媒能が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、アノードのNi成分の合金化を抑制することができる燃料電池およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池は、金属を主成分とする支持体と、前記支持体上に設けられ、金属材料とセラミックス材料とが混合された混合層と、前記混合層上に設けられ、電子伝導性セラミックスを含有する中間層と、前記中間層上に設けられ、酸化物イオン伝導性セラミックスおよびNiを含むアノードと、を備え、前記混合層における前記金属材料の比率よりも、前記中間層における金属成分の比率が低いことを特徴とする。
【0007】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記中間層における前記金属成分比率は、3wt%以下としてもよい。
【0008】
上記固体酸化物型燃料電池における前記中間層において、空隙率は、10%以上としてもよい。
【0009】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記中間層は、前記アノードに含まれる前記酸化物イオン伝導性セラミックスを備えていてもよい。
【0010】
上記固体酸化物型燃料電池における前記中間層の断面において、前記電子伝導性セラミックスの面積比率は、20%以上としてもよい。
【0011】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記中間層は、1μm以上の厚みを有していてもよい。
【0012】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記支持体、前記混合層、前記中間層および前記アノードにおける空隙率は、前記支持体>前記混合層≧前記中間層>前記アノードの関係を有していてもよい。
【0013】
上記固体酸化物型燃料電池において、前記電子伝導性セラミックスは、組成式がABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、AがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BがTi、Crの群から選ばれる少なくとも1種としてもよい。
【0014】
本発明に係る固体酸化物型燃料電池の製造方法は、金属材料粉末を含む支持体グリーンシートと、金属材料粉末とセラミックス材料の粉末とを含む混合層グリーンシートと、電子伝導性セラミックス粉末を含む中間層グリーンシートと、酸化物イオン伝導性セラミックス粉末およびNi成分粉末を含むアノードグリーンシートとが積層された積層体を準備する工程と、前記積層体を焼成する工程と、を含み、前記中間層グリーンシートには酸化されていない金属成分を含んでいないか、前記中間層グリーンシートにおける前記金属成分の添加量が前記混合層グリーンシートにおける前記金属成分の添加量未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、アノードのNi成分の合金化を抑制することができる燃料電池およびその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】燃料電池の積層構造を例示する模式的断面図である。
図2】支持体、混合層、中間層およびアノードの詳細を例示する拡大断面図である。
図3】SEM像を模式的に描いた図である。
図4図2の拡大断面図の他の例である。
図5】燃料電池の製造方法のフローを例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しつつ、実施形態について説明する。
【0018】
図1は、固体酸化物型の燃料電池100の積層構造を例示する模式的断面図である。図1で例示するように、燃料電池100は、一例として、支持体10上に、混合層20、中間層30、アノード40、電解質層50、反応防止層60、およびカソード70がこの順に積層された構造を有する。複数の燃料電池100を積層させて、燃料電池スタックを構成してもよい。
【0019】
電解質層50は、酸化物イオン伝導性を有する固体酸化物を主成分とし、ガス不透過性を有する緻密層である。電解質層50は、スカンジア・イットリア安定化酸化ジルコニウム(ScYSZ)、YSZ(イットリア安定化酸化ジルコニウム)、Gd(ガドリニウム)がCeOにドープされたGDC(Gdドープセリア)などを主成分とすることが好ましい。ScYSZを用いる場合、Y+Scの濃度は6mol%~15mol%の間で酸化物イオン伝導性が最も高く、この組成の材料を用いることが望ましい。また、電解質層50の厚みは、20μm以下であることが好ましく、より望ましいのは10μm以下である。電解質は薄いほど良いが、両側のガスが漏れないように製造するためには、1μm以上の厚みが望ましい。
【0020】
カソード70は、カソードとしての電極活性を有する電極であり、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有する。例えば、カソード70は、電子伝導性および酸化物イオン伝導性を有するLSC(ランタンストロンチウムコバルタイト)などである。LSCは、Sr(ストロンチウム)がドープされたLaCoOである。
【0021】
反応防止層60は、電解質層50とカソード70との反応を防止する成分を主成分とする。例えば、反応防止層60は、GDC(例えば、Ce0.8Gd0.22-x)などを主成分とする。一例として、電解質層50がScYSZを含有し、カソード70がLSCを含有する場合には、反応防止層60は、以下の反応を防止する。
Sr+ZrO→SrZrO
La+ZrO→LaZr
【0022】
図2は、支持体10、混合層20、中間層30およびアノード40の詳細を例示する拡大断面図である。図2で例示するように、支持体10は、ガス透過性を有するとともに、混合層20、中間層30、アノード40、電解質層50、反応防止層60およびカソード70を支持可能な部材である。支持体10は、金属を主成分とする金属多孔体であり、例えば、Fe-Cr合金の多孔体などである。
【0023】
アノード40は、アノードとしての電極活性を有する多孔質状の電極であり、酸化物イオン伝導性セラミックス41とNi成分42とを含む。Ni成分42は、金属Niとして含まれていてもよいが、NiOのように酸化物として含まれていてもよい。NiOは、燃料電池100の使用時には水素ガスによって還元されるため、金属Niとして存在するようになる。金属Niは、電子伝導およびアノード触媒としての機能を有する。
【0024】
混合層20は、金属材料21とセラミックス材料22とを含有する。混合層20において、金属材料21とセラミックス材料22とがランダムに混合されている。したがって、金属材料21の層とセラミックス材料22の層とが積層されたような構造が形成されているわけではない。混合層20も多孔質状であり、複数の空隙が形成されている。金属材料21は、金属であれば特に限定されるものではない。図2の例では、金属材料21として、支持体10と同じ金属材料が用いられている。例えば、セラミックス材料22として、ScYSZ、GDC、SrTiO系材料、LaCrO系材料などを用いることができる。SrTiO系材料およびLaCrO系材料は高い電子伝導性を有するため、混合層20におけるオーム抵抗を小さくすることができる。セラミックス材料22として、電子伝導性セラミックス31と同じ酸化物を用いることが好ましい。
【0025】
支持体10の酸化を抑制するために、支持体10、混合層20、およびアノード40を還元雰囲気で焼成しようとすると、アノード40に含まれるNi成分42が金属Niとなり、混合層20に含まれる金属材料21と合金化するおそれがある。この場合、アノード触媒能が低下し、アノード40における反応抵抗が増大するおそれがある。また、合金成分の熱膨張率と他層の熱膨張率との差異が大きいと、割れなどが生じるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態においては、中間層30が設けられている。中間層30は、アノード40に含まれるNi成分42と、混合層20に含まれる金属材料21との合金化を抑制するために設けられた層である。ただし、中間層30は、電子伝導性を有することが求められる。そこで、中間層30は、電子伝導性セラミックス31を含んでいる。電子伝導性セラミックス31として、例えば、組成式がABOで表されるペロブスカイト型酸化物であって、AサイトがCa、Sr、Ba、Laの群から選ばれる少なくとも1種であり、BサイトがTi、Crから選ばれる少なくとも1種であるペロブスカイト型酸化物を用いることができる。AサイトとBサイトのモル比は、B≧Aであってもよい。具体的には、電子伝導性セラミックス31として、LaCrO系材料、SrTiO系材料などを用いることができる。
【0027】
中間層30は、アノード40に含まれるNi成分42の合金化を抑制するために設けられた層であるため、酸化されていない金属成分を含んでいないことが好ましい。中間層30に酸化されていない金属成分が含まれている場合には、中間層30における金属成分の比率は、断面のSEM-EDS定量分析で3wt%以下であることが好ましい。少なくとも、中間層30における金属成分の比率が混合層20における金属材料21の比率よりも低ければ、中間層30を設けない場合と比較してNi成分42の合金化を抑制することができる。
【0028】
なお、断面のSEM-EDS定量分析では、各元素のX線スペクトルグラフを得る。スペクトルグラフの各元素の面積から元素の重量比が得られる。中間層30における金属の割合は下記のように定義することができる。
金属含有量(%)={金属(合金の場合)の各元素の総重量}/{セラミックス材料の各元素の総重量+金属の各元素の総重量}
金属の各元素の総重量は、本実施形態では、例えば、Fe重量比+Cr重量比+その他元素重量比とすることができる。セラミックス材料の各元素の総重量は、例えば、La重量比+Cr重量比+Sr重量比+Ti重量比+その他元素重量比とすることができる。
【0029】
燃料電池100は、以下の作用によって発電する。カソード70には、空気などの、酸素を含有する酸化剤ガスが供給される。カソード70においては、カソード70に到達した酸素と、外部電気回路から供給される電子とが反応して酸化物イオンになる。酸化物イオンは、電解質層50を伝導してアノード40側に移動する。一方、支持体10には、水素ガス、改質ガスなどの、水素を含有する燃料ガスが供給される。燃料ガスは、支持体10、混合層20および中間層30を介してアノード40に到達する。アノード40に到達した水素は、アノード40において電子を放出するとともに、カソード70側から電解質層50を伝導してくる酸化物イオンと反応して水(HO)になる。放出された電子は、外部電気回路によって外部に取り出される。外部に取り出された電子は、電気的な仕事をした後に、カソード70に供給される。以上の作用によって、発電が行われる。
【0030】
以上の発電反応において、Ni成分42が還元されて得られた金属Niは、水素と酸化物イオンとの反応における触媒として機能する。電子伝導性セラミックス31は、水素と酸化物イオンとの反応によって得られる電子の伝導を担う。
【0031】
本実施形態によれば、金属を主成分とする支持体10が備わっていることから、燃料電池100は、熱衝撃、機械的衝撃等に強い構成を有している。混合層20は、金属材料21とセラミックス材料22とを含有することから、金属の材料性質とセラミックスの材料性質とを併せ持つ。したがって、混合層20は、支持体10との間に高い密着性を有するとともに、中間層30との間も高い密着性を有する。したがって、層間剥がれを抑制することができる。また、上述したように、中間層30が電子伝導性セラミックス31を備え、中間層30における金属成分比率が混合層20における金属材料21の比率未満となっていることから、アノード40に含まれるNi成分42の合金化が抑制されるとともに電子伝導性が確保される。Ni成分42の合金化が抑制されることで、Ni成分42の触媒能の低下を抑制することができる。
【0032】
中間層30において、空隙率が低いと、十分なガス透過性が得られないおそれがある。そこで、中間層30において、空隙率に下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、例えば、中間層30における空隙率は、10%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。空隙率は、試料断面SEM像(例えば、図3)に基づき、中間層全体の厚みを確認できる倍率で5か所以上の写真をとり、画像から見積った空隙の面積と全体の面積の比の平均値によって計算した数字である。
【0033】
中間層30において、空隙率が高いと、構造が崩れてセルが割れるおそれがある。そこで、中間層30において、空隙率に上限を設けることが好ましい。本実施形態においては、例えば、中間層30における空隙率は、80%以下であることが好ましく、70%以下であることがより好ましく、65%以下であることがさらに好ましい。
【0034】
中間層30において電子伝導性セラミックス31の比率が低いと、十分な電子伝導性が得られないおそれがある。そこで、中間層30における電子伝導性セラミックス31の比率に、下限を設けることが好ましい。本実施形態においては、例えば、積層方向の中間層30の断面において、電子伝導性セラミックス31の面積比率は、20%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、50%以上であることがさらに好ましい。
【0035】
中間層30が薄いと、混合層20における金属粒子(数μm)は積層する際に中間層30を破り、アノード40におけるNi粒子と接触するおそれがある。また、接触があった場合に、元素拡散のパスが形成され、合金化は加速される現象が発生する。そこで、中間層30の厚みに下限を設けることが好ましい。例えば、中間層30は、1μm以上の厚みを有していることが好ましく、5μm以上の厚みを有していることがより好ましく、10μm以上の厚みを有していることがさらに好ましい。
【0036】
また、支持体10における空隙率、混合層20における空隙率、中間層30における空隙率、アノード40における空隙率との間には、(支持体10>混合層20≧中間層30>アノード40)の関係が成立することが好ましい。この関係が成立することで、支持体10においては十分なガス透過性が得られる。アノード40は、比較的低い空隙率を有することによって、ガス透過性を保ちつつ、高い電子伝導性と高い酸化物イオン伝導性が得られる。混合層20では、ガス透過性が得られるとともに、支持体10との接触面積が得られて支持体10との密着性が得られるようになる。中間層30では、ガス透過性が得られるとともに、Niと金属粒子との接触を遮断するという効果が得られる。
【0037】
図4で例示するように、中間層30に、アノード40に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックスと同じ組成の酸化物イオン伝導性セラミックス32がさらに含まれていると、中間層30とアノード40との密着性が向上する。したがって、中間層30は、アノード40に含まれる酸化物イオン伝導性セラミックスを備えていることが好ましい。
【0038】
以下、燃料電池100の製造方法について説明する。図5は、燃料電池100の製造方法のフローを例示する図である。
【0039】
(支持体用材料の作製工程)
支持体用材料として、金属粉末(例えば、粒径が10μm~100μm)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、消失材(有機物)、バインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。支持体用材料は、支持体10を形成するための材料として用いる。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と金属粉末との体積比は、例えば1:1~20:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。
【0040】
(混合層用材料の作製工程)
混合層用材料として、セラミックス材料22の原料であるセラミックス材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、金属材料21の原料である小粒径の金属材料粉末(例えば、粒径が1μm~10μm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と、セラミックス材料粉末および金属材料粉末と、の体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。セラミックス材料粉末は、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末とを含んでいてもよい。この場合、電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、1:9~9:1の範囲とすることが好ましい。また、電子伝導性材料の代わりに電解質材料ScYSZ、GDCなどを用いても界面のはがれが無く、セルの作製が可能である。ただし、オーム抵抗を小さくする観点から、電子伝導性材料と金属粉末とを混合することが好ましい。
【0041】
(中間層用材料の作製工程)
中間層用材料として、セラミックス材料粉末、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。合金化防止層を構成するセラミックス材料粉末として、電子伝導性セラミックス31の原料である電子伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)、酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、粒径が100nm~10μm)などを用いてもよい。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)と電子伝導性材料粉末との体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。電子伝導性材料粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、3:7~7:3の範囲とする。
【0042】
中間層30は、アノード40に含まれるNi成分42の合金化を抑制するために設けられた層であるため、中間層用材料は、酸化されていない金属成分を含んでいないことが好ましい。中間層用材料に酸化されていない金属成分が含まれている場合には、中間層用材料における金属成分の添加量は、3wt%以下であることが好ましい。少なくとも、中間層用材料における金属成分の添加量が混合層用材料における金属材料の添加量よりも低ければ、中間層30を設けない場合と比較してNi成分42の合金化を抑制することができる。
【0043】
(アノード用材料の作製工程)
アノード用材料として、Ni金属粉末あるいはNiO粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末(ScYSZ粉末)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、消失材(有機物)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。Ni原料である粉末はNi金属粉末を用いてもよいし、NiO粉末を用いてもよい(例えば、粒径が100nm~10μm)、いずれの粉末も還元焼成を行うと金属Niに還元されるため、特に限定しない。酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、ScYSZ粉末、粒径が100nm~10μm)などを用いてもよい。有機成分(消失材、バインダ固形分、可塑剤)とNi(NiO)粉末および酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比は、例えば1:1~5:1の範囲とし、空隙率に応じて有機成分量を調整する。また、空隙の孔径は、消失材の粒径を調整することによって制御される。Ni(NiO)粉末と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比率は、例えば、3:7~7:3の範囲とする。
【0044】
(電解質層用材料の作製工程)
電解質層用材料として、酸化物イオン伝導性材料粉末(例えば、ScYSZ、YSZ、GDCなどであって、粒径が10nm~1000nm)、溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%)、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と酸化物イオン伝導性材料粉末との体積比は、例えば6:4~3:4の範囲とする。
【0045】
(カソード用材料の作製工程)
カソード用材料として、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC:LaSrCoO)の粉末を溶剤(トルエン、2-プロパノール(IPA)、1-ブタノール、ターピネオール、酢酸ブチル、エタノールなどで、粘度に応じて20wt%~30wt%、可塑剤(例えば、シートの密着性を調整するため、1wt%~6wt%まで調整)、およびバインダ(PVB、アクリル樹脂、エチルセルロースなど)を混合してスラリとする。有機成分(バインダ固形分、可塑剤)と、LSC粉末との体積比は、例えば6:4~1:4の範囲とする。
【0046】
(焼成工程)
まず、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム上に、支持体用材料を塗工することで、支持体グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、混合層用材料を塗工することで、混合層グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、中間層用材料を塗工することで、中間層グリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、アノード用材料を塗工することで、アノードグリーンシートを作製する。別のPETフィルム上に、電解質層用材料を塗工することで、電解質層グリーンシートを作製する。例えば、支持体グリーンシートを複数枚、混合層グリーンシートを1枚、中間層グリーンシートを1枚、アノードグリーンシートを1枚、電解質層グリーンシートを1枚の順に積層し、所定の大きさにカットし、酸素分圧が10-20atm以下の還元雰囲気において1100℃~1300℃程度の温度範囲で焼成する。それにより、支持体10、混合層20、中間層30、アノード40、および電解質層50を備えるハーフセルを得ることができる。
【0047】
(反応防止層形成工程)
反応防止層60として、例えば、PVDにより、Ce0.8Gd0.22-xを、厚みが1μmとなるように成膜させることができる。
【0048】
(カソード形成工程)
次に、反応防止層60上に、スクリーン印刷等により、カソード用材料を塗布し、乾燥させる。その後、熱処理によってカソード70を焼結させる。以上の工程により、燃料電池100を作製することができる。
【0049】
本実施形態に係る製造方法によれば、金属を主成分とする支持体10を形成することができることから、熱衝撃、機械的衝撃等に強い構成を実現することができる。混合層用材料に金属材料とセラミックス材料とが含まれていることから、焼成後の混合層20は、金属材料21とセラミックス材料22とを含有するようになる。それにより、混合層20は、金属の材料性質とセラミックスの材料性質とを併せ持つ。したがって、支持体10とアノード40との間の層間剥がれを抑制することができる。また、中間層用材料に電子伝導性セラミックスが含まれ、中間層用材料における金属成分添加量が混合層用材料における金属材料の添加量未満となっていることから、アノード用材料に含まれるNi成分の合金化が抑制されるとともに電子伝導性が確保される。
【実施例
【0050】
上記実施形態に係る製造方法に従って、燃料電池100を作製した。
【0051】
(実施例1)
上からカソード70、反応防止層60、電解質層50、アノード40、中間層30、混合層20、支持体10の順で積層することで、セルを作製した。中間層30は、LaSrCrOのみから構成した。発電実験を行った結果、インピーダンス測定による各抵抗値を分離し、このセルのオーム抵抗は0.25Ω・cmであり、アノード40の反応抵抗は0.1Ω・cmである。結果を表1に示す。断面を見ると、アノード40におけるNiの合金化は抑えられ、金属粒子におけるNi量(1つの合金粒子をSEM-EDSで分析したときのNiと金属成分とのピーク面積の比率)は60%以上であった。これは、酸化されていない金属成分が中間層30に含まれていなかったからであると考えられる。これによって、十分なアノード触媒能を発揮できたため、アノード40の反応抵抗が小さくなったと考えられる。なお、以下の実施例2よりもオーム抵抗が低くなった。これは、中間層30を電子伝導性セラミックスのみで構成したことによって、中間層30は高い電子伝導性を有していると考えられる。
【表1】
【0052】
(実施例2)
上からカソード70、反応防止層60、電解質層50、アノード40、中間層30、混合層20、支持体10の順で積層することで、セルを作製した。中間層30はLaSrCrOとScYSZとから構成した。SEM-EDSの断面を確認したところ、LaSrCrOとScYSZとの面積比は1:1であった。発電実験を行った結果、インピーダンス測定による各抵抗値を分離し、このセルのオーム抵抗は0.28Ω・cmであり、アノード40の反応抵抗は0.1Ω・cmであった。断面を見ると、アノードにおけるNiの合金化は抑えられ、金属粒子におけるNi量は60%以上であった。これは、酸化されていない金属成分が中間層30に含まれていなかったからであると考えられる。これによって、十分なアノード触媒能を発揮できたため、アノード40の反応抵抗が小さくなったと考えられる。
【0053】
(比較例1)
上からカソード70、反応防止層60、電解質層50、アノード40、混合層20、支持体10の順で積層することで、セルを作製した。中間層を設けなかった。発電実験を行った結果、インピーダンス測定による各抵抗値を分離し、このセルのオーム抵抗は0.25Ω・cmであり、アノード40の反応抵抗は20Ω・cmであった。実施例1と比較して、アノード40の反応抵抗は大幅に増大した。また、断面を見ると、アノード40におけるNiの合金化がかなり進行し、金属粒子におけるNi量は35%以下であった。これは、中間層を設けなかったからであると考えられる。Niの含有量が少ないため、合金のアノード触媒能は大幅に低下し、結果的にアノード40の反応抵抗は大幅に増大したと考えられる。
【0054】
(比較例2)
上からカソード70、反応防止層60、電解質層50、アノード40、支持体10の順で積層することで、セルを作製した。中間層および混合層を設けなかった。比較例1と比較して、Niの合金化はさらに進行し、Ni,Fe,Crの相互拡散によって、支持体10のアノード40側はNiが30%以下の合金化のみの層が形成された(SEM-EDSによって確認できた)。これは、中間層を設けなかったからであると考えられる。この合金層の熱膨張率は他の材料と大きく異なり、焼成後のセルは顕著なひび割れが発生し、発電実験を行うことができない状態となった。
【0055】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明は係る特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 支持体
20 混合層
21 金属材料
22 セラミックス材料
30 中間層
40 アノード
41 酸化物イオン伝導性セラミックス
42 Ni成分
50 電解質層
60 反応防止層
70 カソード
100 燃料電池
図1
図2
図3
図4
図5