(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】いちごの栽培方法
(51)【国際特許分類】
A01G 22/05 20180101AFI20240201BHJP
A01G 7/00 20060101ALI20240201BHJP
A01G 9/00 20180101ALI20240201BHJP
【FI】
A01G22/05 A
A01G7/00 601A
A01G9/00 J
(21)【出願番号】P 2020041682
(22)【出願日】2020-03-11
【審査請求日】2022-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000166432
【氏名又は名称】戸田建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090387
【氏名又は名称】布施 行夫
(74)【代理人】
【識別番号】100090398
【氏名又は名称】大渕 美千栄
(72)【発明者】
【氏名】田中 徹
(72)【発明者】
【氏名】中島 広志
(72)【発明者】
【氏名】冨貴 丈宏
(72)【発明者】
【氏名】三浦 玄太
(72)【発明者】
【氏名】長幡 逸佳
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-176321(JP,A)
【文献】特開2010-233494(JP,A)
【文献】特開2003-000066(JP,A)
【文献】特開2015-057965(JP,A)
【文献】特開2014-064479(JP,A)
【文献】特開2018-164441(JP,A)
【文献】特開2018-085966(JP,A)
【文献】特開2006-296202(JP,A)
【文献】特許第3809475(JP,B2)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0087492(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00 - 7/02
A01G 9/00 - 9/08
A01G 22/05
A01G 31/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工光源を利用する植物工場内におけるいちごの栽培方法であって、
苗の植え替えは、いちごの収穫開始から収量減少による収穫終了までの第1収穫期の後、収穫が終了した苗をポットから取り出し、当該苗のクラウンの生長点が埋まらない程度まで前記クラウンを培地内に埋まるようにポットに当該苗を植え替え、
前記苗の植え替えは、8カ月~10カ月ごとに2回行い、
前記第1収穫期の後、前記苗の植え替えを挟んでいちごが収穫できる第2収穫期及び第3収穫期を有する、いちごの栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工光源を利用する植物工場内におけるいちごの栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、いちごの栽培は、親株から延びるランナーの先端にできた子株をポットやプランター等の培地に定植して栽培する(特許文献1参照)。
【0003】
また、近年、人工光源を利用した植物工場が増えている(特許文献2参照)。植物工場は、照明、温度、湿度、空気などが適切に制御された施設内で植物を生育させるため、天候や害虫などの影響を受けることなく、いちごの苗を年間通して栽培することが期待される。
【0004】
植物工場におけるいちご栽培は、ビニールハウス等で行われる高設栽培と同様に、ベッドに培地を充填して苗を定植する方法が一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-294478号公報
【文献】国際公開番号WO2018/037577号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、植物工場におけるいちごの栽培においても、ハウス栽培と同様に定植後9カ月ほどで徐々に草勢が低下し、いちごの収量が低減する。そのため、一般のハウス栽培であれば、収穫期が終わると害虫の発生や気温の上昇により次の定植時期までのおよそ3カ月間は苗の定植は行われないが、植物工場であれば、いちごの収量が減少すると、古い苗を廃棄すると共に、新たな苗を定植することでいちごの収量をより安定的に確保することができる。したがって、植物工場にあっては、収穫期の間に、いちごを収穫している苗とは別に、新しい苗を同時に育成しなければならない。そのため、収穫作業と並行してその新しい苗の育苗のための作業が必要となり、収量が減少するたびに古い苗から新しい苗への植え替え作業が必要となる。
【0007】
そこで、本発明は、新しい苗の育成や植え替え作業にかかる労働時間及び人件費を削減する植物工場におけるいちごの栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
[1]本発明に係るいちごの栽培方法の一態様は、
人工光源を利用する植物工場内におけるいちごの栽培方法であって、
苗の植え替えは、いちごの収穫開始から収量減少による収穫終了までの第1収穫期の後、収穫が終了した苗をポットから取り出し、当該苗のクラウンの生長点が埋まらない程度まで前記クラウンを培地内に埋まるようにポットに当該苗を植え替え、
前記苗の植え替えは、8カ月~10カ月ごとに2回行い、
前記第1収穫期の後、前記苗の植え替えを挟んでいちごが収穫できる第2収穫期及び第3収穫期を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、これまで1回の収穫期の後に廃棄していた苗を利用して少なくとも2回の収穫期を得られるので、育苗や植え替え作業にかかる労働時間及び人件費を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図2】本発明の第1実施形態に係るいちごの栽培方法のスケジュールを説明する図である。
【
図3】第1実施形態に係るいちごの栽培方法を説明する図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係るいちごの栽培方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態は、特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではない。また、以下で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0014】
本実施形態に係るいちごの栽培方法の一態様は、人工光源を利用する植物工場内におけるいちごの栽培方法において、いちごの収穫開始から収量減少による収穫終了までの第1収穫期の後、苗をポットから取り出し、当該苗のクラウンの生長点が埋まらない程度まで前記クラウンを培地内に埋まるように他のポットに当該苗を植え替えることを特徴とする。
【0015】
また、本実施形態に係るいちごの栽培方法の一態様は、人工光源を利用する植物工場内におけるいちごの栽培方法において、いちごの収穫開始から収量減少による収穫終了までの第1収穫期の後、ポット内の培地から突出したクラウンを有する苗に対し、前記クラウンの生長点が埋まらない程度まで前記クラウンが埋まるように前記培地の上に培土を追加することを特徴とする。
【0016】
1.第1実施形態
図1~
図3を用いて第1実施形態に係るいちごの栽培方法について説明する。
図1は植物工場10を説明する模式図であり、
図2は第1実施形態に係るいちごの栽培方法のスケジュールを説明する図であり
図3は第1実施形態に係るいちごの栽培方法を説明する図である。
図1では、植物工場10の内部がわかるように植物工場10を縦断面図で示す。また、
図3及び
図4では、ポット20の内部がわかるようにポット20を縦断面図で示す。
【0017】
図1に示すように、いちごの栽培方法に用いる人工光源12を利用する植物工場10は、内部に設置された栽培棚14の上に載置されたポット20を備える。ポット20の上方には人工光源12があり、ポット20内で栽培されるいちごの苗30の光合成を促進させる。
【0018】
人工光源12は、例えばLED(Light Emitting Diode)素子を採用することができる。植物工場10は、図示しないが、その内部に苗30に養分および
水分を供給するかん水チューブを備える。また、植物工場10は、温度、湿度、二酸化炭素などの内部環境が図示しない設備でコントロールされる。
【0019】
ポット20は、例えば合成樹脂製の容器であり、内部に成分を調整された培地22を有する。植え替え作業の合理化を考慮して一つの収容部を有するポット20を用いた例について説明するが、一つのトレイに設けられた複数の収容部のそれぞれに一本の苗30を定植するものでもよい。ポット20の上部開放端からは苗30が伸び、下部には図示しない排水孔を有する。ポット20は、例えば薄いシート状で横断面が円形の植木鉢形状であり、いちご栽培に用いられる公知の容器を採用することができる。
【0020】
図2に示すように、本実施形態に係るいちごの栽培方法は、定植時期T10、第1生育期S10、第1収穫期S12、第1植え替え期S14、第2生育期S20、第2収穫期S22、第2植え替え期S24、第3生育期S30、第3収穫期S32、定植時期T12によって構成される。
【0021】
定植時期T10は、例えば9月にいちごの苗30をポット20に定植し、植物工場10の栽培棚14上に設置する。定植する苗30は、植物工場10とは別の施設で育成してもよいし、同じ植物工場10内で育成してもよい。
図2では9月から定植を開始しているが、これに限らず、苗30の育成状況に応じて定植時期T10を設定してもよい。
第1生育期S10は、定植された苗30の手入れや開花後の受粉作業などを行う。なお、受粉作業は収穫期も継続して行われる。
【0022】
第1収穫期S12は、いちごの収穫開始から収量減少による収穫終了までの期間である。ポット20に定植した苗30は、いちごが収穫できるようになるまで例えば3カ月程度を要する。そして、いちごの収穫が開始されてからいちごの収量が減少するまでのおよそ5カ月~6カ月間が第1収穫期S12となる。
【0023】
図3の(A)に示すように、苗30のクラウン32が培地22の表面24から伸びて大きく突出すると、いちごの収量が減少する。収穫終了の時期は、いちごの収量減少に合わせて適宜判断することができる。
図2の例では、第1収穫期S12を5カ月に設定しているが、これに限るものではない。
【0024】
本発明者等は、鋭意研究の結果、成長したクラウン32を培土の中に再度埋め戻すことにより、いちごの収量が回復することを見出した。
【0025】
第1植え替え期S14は、
図3の(B)に示すように、第1収穫期S12の後、苗30をポット20から取り出し、
図3の(C)に示すように、その苗30のクラウン32の生長点34が埋まらない程度までクラウン32を培地22内に埋まるようにポット20に苗30を植え替える作業を行う。ここで、植え替え後の苗30が定植されるポット20(
図3の(C)におけるポット20)は、植え替え前に使用していたポット20(
図3の(A)におけるポット20)を用いてもよいし、別のポット20を用いてもよい。苗30をそのまま利用するので、新しい苗30を準備するための労働時間の削減と人件費を削減できる。
【0026】
生長点34は、クラウン32の頂部付近に存在する。また、生長点34は、クラウン32のえき芽にも存在する。そして、植え替え後は、第2生育期S20となり、生長点34から苗30が成長し、およそ3か月後に第2収穫期S22を迎える。第2生育期S20は、第1生育期S10と同様の作業が行われる。
【0027】
第2収穫期S22は、いちごの収穫が再開されてからいちごの収量が減少するまでのお
よそ5カ月~6カ月間である。第2収穫期S22が終了すると、第2植え替え期S24となる。
【0028】
苗30の植え替えは、例えば8カ月~10カ月ごとに2回行うことができる。本実施形態では、5カ月の第1収穫期S12の後、苗30の植え替え(1カ月)を挟んでいちごが収穫できる第2収穫期S22及び第3収穫期S32(各5カ月)を有する。
【0029】
第2植え替え期S24は、
図3の(B)及び(C)を用いて説明したように、第1植え替え期S14と同様の作業を行う。そして、植え替え後は、第3生育期S30となり、生長点34から苗30がさらに成長し、およそ3か月後に第3収穫期S32を迎える。第3生育期S30は、第2生育期S20と同様の作業を行う。
【0030】
第3収穫期S32は、いちごの収穫が再開されてからいちごの収量が減少するまでのおよそ5カ月~6カ月間である。第3収穫期S32が終了すると、定植時期T12となる。
【0031】
定植時期T12は、新たな苗30をポット20に定植する。3回の収穫期を経た苗30は、廃棄される。そのため、新たな苗30は、定植時期T12の数カ月前から別のポット20で育苗されて、定植時期T12に合わせて準備される。
【0032】
このように、これまで1回の収穫期の後に廃棄していた苗30を利用して2回以上の収穫期を得られるので、育苗や植え替え作業にかかる労働時間及び人件費を削減することができる。
【0033】
2.第2実施形態
図4を用いて、第2実施形態に係るいちごの栽培方法について説明する。
図4は、第2実施形態に係るいちごの栽培方法を説明する図である。
【0034】
第2実施形態に係るいちごの栽培方法は、定植時期、第1生育期、第1収穫期、培土追加期、第2生育期、第2収穫期、定植時期によって構成される。
図4は、培土追加期の作業を説明する図である。培土追加期の作業以外は、第1実施形態と基本的に同様であるので重複する説明は省略する。
【0035】
図4の(A)に示すように、いちごの収穫開始から収量減少による収穫終了までの第1収穫期の後、いちごの苗30は、ポット20内の培地22からクラウン32が突出した状態となる。ポット20は、例えば内容量の2/3程度まで培地22が充填されており、表面24の上方には培土を追加できる空間があらかじめ残されている。
図4の(A)のように、苗30のクラウン32が培地22の表面24から大きく突出すると、いちごの収量が減少する。
【0036】
図4の(B)に示すように、培土追加期は、培地22の表面24からクラウン32が突出している苗30に対し、クラウン32の生長点34が埋まらない程度までクラウン32が埋まるように培地22の上に培土26を追加する作業を行う。そして、植え替え後は、生長点34から苗30が成長し、およそ3か月後に第2収穫期を迎える。
【0037】
ポット20は、一般的にいちご栽培に用いられるポットよりも深いものが好ましく、第1収穫期の後におけるクラウン32を培土で埋め戻すことができる程度の深さを有してもよい。
【0038】
このように、培土追加期を設けることによって、一つの苗30で二度の収穫期にわたっていちごを収穫することができるので、育苗や植え替え作業にかかる労働時間及び人件費
を削減することができる。
【0039】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能であり、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(機能、方法、及び結果が同一の構成、あるいは目的及び効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0040】
10…植物工場、12…人工光源、14…栽培棚、20…ポット、22…培地、24…表面、26…培土、30…苗、32…クラウン、34…生長点、S10…第1生育期、S12…第1収穫期、S14…第1植え替え期、S20…第2生育期、S22…第2収穫期、S24…第2植え替え期、S30…第3生育期、S32…第3収穫期、T10,T12…定植時期