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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】植物賦活剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 37/42 20060101AFI20240201BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20240201BHJP
   A01N 37/36 20060101ALI20240201BHJP
   A01G 7/06 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
A01N37/42
A01P21/00
A01N37/36
A01G7/06 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020045771
(22)【出願日】2020-03-16
(65)【公開番号】P2021102594
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2022-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2019226365
(32)【優先日】2019-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020001056
(32)【優先日】2020-01-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000158
【氏名又は名称】イビデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝也
(72)【発明者】
【氏名】植村 謙太
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-113139(JP,A)
【文献】国際公開第2018/168860(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸またはその塩と、
9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸またはその塩、および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸またはその塩から選ばれる少なくとも一種以上と、
フェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸およびトコフェロールから選ばれる少なくとも一種以上とを含むことを特徴とする植物賦活剤。
【請求項2】
前記フェノール系抗酸化剤が、ブチルヒドロキシアニソールである請求項1記載の植物賦活剤。
【請求項3】
植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる請求項1または2記載の植物賦活剤。
【請求項4】
前記植物賦活剤は、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される請求項1~のいずれか1項に記載の植物賦活剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物賦活剤に関する。
【背景技術】
【0002】
穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させること等を目的として、植物の生長を調整する技術が開発されてきた。温度条件や日照条件の最適化や施肥などの対策に加え、生長促進、休眠抑制、ストレス抑制等の植物生長調節作用を有する植物賦活剤を用いて植物を賦活させる方法が報告されている。
【0003】
特許文献1には、オキソ脂肪酸誘導体またはその塩もしくはエステルを有効成分として含むことを特徴とする植物賦活剤が報告されている。特許文献1に記載の植物賦活剤は、優れた抵抗性誘導効果および生長促進効果を有するが、非常に不安定ですぐに分解してしまうという問題があった。
【0004】
分解は、酸化によるものと推測されるが、この分解を抑制するための有効な手立てがなく、酸化を防止するための技術が強く望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2018/168860号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の方法で製造される植物賦活剤は、大気中で容易に酸化されるといった課題がある。長期的に安定して植物賦活剤としての効果を発現させるために、容易に酸化されず、植物賦活剤としての効果を維持することのできる植物賦活剤が求められている。
【0007】
本発明は、酸化を防止するための抗酸化剤を含むが、優れた病害抵抗性および生長促進効果のある植物賦活剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と、
以下の式(I)および/または(II)
HOOC-(R1)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R2 (I)
HOOC-(R1)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R2 (II)
(式中、
1は、4個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
2は、2個~8個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と、
フェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸およびトコフェロールから選ばれる少なくとも一種以上とを含むことを特徴とする植物賦活剤に関する。ここで、特に、R1は、-(CH2n-(ただし、nは4~12である整数)であることが好ましい。
【0009】
前記フェノール系抗酸化剤が、ブチルヒドロキシアニソールであることを特徴とする植物賦活剤が好ましい。
【0010】
前記フェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸およびトコフェロールから選ばれる少なくとも一種以上が、有効成分量に対して重量比で1/2~5倍量の割合で添加されている植物賦活剤が好ましい。
【0011】
前記水酸化脂肪酸が、前記水酸化脂肪酸のR1の炭化水素基が6個~8個の炭素原子を有し、R2の炭化水素基が4個~6個の炭素原子を有する水酸化脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0012】
前記水酸化脂肪が、前記水酸化脂肪酸のR1が、-(CH2n-(nは4~12である整数)の構造であり、R2が、Cn2n+1-(nは2~8である整数)の構造である水酸化脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0013】
前記水酸化脂肪酸が、前記水酸化脂肪酸のR1が、炭素数7のアルキレン基(-(CH27-)であり、R2が、炭素数5のアルキル基(CH3CH2CH2CH2CH2-)である水酸化脂肪酸である植物賦活剤が好ましい。
【0014】
前記水酸化脂肪酸が、ヒドロキシオクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0015】
前記水酸化脂肪酸が、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0016】
前記水酸化脂肪酸が、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0017】
なお、「オクタデカエン酸」は慣用的な表記であり(例えば、特開平3-14539号公報等)、上述の「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」は、「9,10,13-トリヒドロキシオクタデカ-11-エン酸」または「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデセン酸」とも表記される。同様に、上述の「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」は、「9,12,13-トリヒドロキシオクタデカ-10-エン酸」または「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデセン酸」とも表記される。なお、実施例では、かっこ書きで製造元の表記も併記している。また、上記説明は、本明細書、特許請求の範囲、図面および要約書中で使用される「オクタデカエン酸」全てに適用される。
【0018】
「9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(1)で示されるものである。
【0019】
【化1】
【0020】
「9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸」の構造式は、下記構造式(2)で示されるものである。
【0021】
【化2】
【0022】
前記オキソ脂肪酸が、ケトオクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0023】
前記オキソ脂肪酸が、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸である植物賦活剤が好ましい。
【0024】
なお、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の誘導体としては、それぞれ、オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸のエステルが望ましい。また、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを使用できる。
【0025】
前記植物賦活剤が、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として用いられる植物賦活剤であることが好ましい。
【0026】
前記植物賦活剤が、アブラナ科、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、またはアオイ科植物から選択される植物に対して使用される植物賦活剤であることが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の植物賦活剤は、有効成分の安定性に優れ、かつ、優れた病害抵抗性および生長促進効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0028】
植物賦活剤
本発明の植物賦活剤は、
オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と
以下の式(I)および/または(II)
HOOC-(R1)-CH(OH)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-R2 (I)
HOOC-(R1)-CH(OH)-CH=CH-CH(OH)-CH(OH)-R2 (II)
(式中、
1は、4個~12個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない、
2は、2個~8個の炭素原子を含む、直鎖または分岐の炭化水素基であって、1つまたはそれ以上の二重結合および/またはOH基を含んでいてもよく、二重結合を含んでいる場合、二重結合の位置は限定されない)
の構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と、
フェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸およびトコフェロールから選ばれる少なくとも一種以上とを含むことを特徴とする。特に、R1は、-(CH2n-(ただし、nは4~12である整数)であることが好ましい。なお、オキソ脂肪酸や上記式(I)および/または(II)で示される構造式を有する化合物としては、そのすべての幾何異性体および立体異性体を含む。
【0029】
本発明における「植物賦活」とは、何らかの形で植物の生長活動を活性化または維持するように調整することを意味するものであり、生長促進(茎葉の拡大、塊茎塊根の生長促進等を包含する概念である)、休眠抑制、植物のストレス(例えば病害など)に対する抵抗性を誘導、付与し、抗老化等の植物生長調節作用を包含する概念である。
【0030】
本発明の植物賦活剤は、植物を賦活させるための有効成分として、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とを含む。例えば、オキソ脂肪酸としてはケトオクタデカジエン酸などが挙げられる。例えば、ケトオクタデカジエン酸としては、具体的には、9-オキソ-10,12-オクタデカジエン酸(9-oxoODA)、13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)、5-オキソ-6,8-オクタデカジエン酸、6-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、8-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、10-オキソ-8,12-オクタデカジエン酸、11-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸、12-オキソ-9,13-オクタデカジエン酸および14-オキソ-9,12-オクタデカジエン酸ならびにそれらの異性体等が挙げられる。
【0031】
本発明者らは、上述の式(I)および/または(II)で示されるような構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩を植物体に接種することにより、植物体において、未処理植物と比較して、顕著な、植物の生長指標である葉の長さおよび数ならびに葉および株の重さの増加、株当たりの茎数の増加、塊茎または塊根の生長促進を確認しており、上述のような構造式を有する水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩に優れた植物賦活効果があることを見出している。例えば、水酸化脂肪酸としてはヒドロキシオクタデカエン酸などが挙げられる。例えば、ヒドロキシオクタデカエン酸としては、具体的には、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸および9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸ならびにそれらの異性体等が挙げられる。
【0032】
本明細書における「有効成分」とは、このようなオキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸を意味している。ケトオクタデカジエン酸のようなオキソ脂肪酸およびヒドロキシオクタデカエン酸のような水酸化脂肪酸には植物の生長を活性化する優れた特性があり、したがって、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とを有効成分として含む本発明の植物賦活剤を植物の茎葉または根の一部に接触させることで、植物に非常に高い植物生長促進効果を付与することができる。
【0033】
なお、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の誘導体としては、エステルが望ましい。また、前記オキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを使用できる。
【0034】
しかしながら、水酸化脂肪酸は、大気中で酸化されてしまう。また、オキソ脂肪酸は大気中の酸素や水と反応することで、水酸化脂肪酸に変化してしまう。水酸化脂肪酸が酸化される速度よりもオキソ脂肪酸が水酸化脂肪酸に変化する速度の方が早いため、その結果、両者が共存している場合、時間とともに、水酸化脂肪酸の量が増えていってしまうのである。
【0035】
本発明の植物賦活剤に含有されるフェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸およびトコフェロールから選ばれる少なくとも一種以上は、植物賦活剤中の有効成分であるオキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩の分解を抑制する抗酸化剤として作用している。この結果、本発明の植物賦活材が安定化される。すなわち、このような抗酸化剤を含有することにより、植物賦活剤の製剤化時の処理や、流通、保存に対して、賦活効果の低下や、保存安定性の低下が防止され、植物賦活剤施用時の植物賦活剤としての有効性が確保される。例えば、植物賦活剤の安定化に寄与する抗酸化剤の好ましい例は、フェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸(ビタミンC)およびトコフェロール(ビタミンE)である。しかし、トコフェロールに限定されず、他のビタミンE、例えば天然または合成の、ビタミンE同族体、抗酸化活性を有するビタミンEの種々の誘導体や類縁化合物も使用し得る。また、本発明のアスコルビン酸(ビタミンC)は、アスコルビン酸の酸化型や異性体を含む。また、フェノール系抗酸化剤の例としては、ブチルヒドロキシアニソールが挙げられる。しかし、抗酸化性を有する他のフェノール類抗酸化物質も使用可能である。
【0036】
本発明の抗酸化剤の添加によっても、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とを含む植物賦活剤が有する優れた生長促進効果が、低下したり、失われたりすることはない。さらに、抗酸化剤の添加は、施用される植物体に対して悪影響を及ぼさない。したがって、本発明の抗酸化剤の添加によって、オキソ脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩と、水酸化脂肪酸またはその誘導体もしくはその塩とを含む植物賦活剤の優れた賦活効果はそのままで、植物賦活剤中での有効成分の分解が抑制されることによって、植物賦活剤における長期にわたる安定した賦活効果の維持が達成され得る。
【0037】
本発明において、抗酸化剤は、植物賦活剤中の有効成分量に対して重量比で5倍量以下程度の割合で、添加され得る。本発明の植物賦活剤中に含まれ得る抗酸化剤の好ましい濃度は、施用する植物種とその状態に依存し得るが、割合が5倍量を超える場合は、施用される植物体に薬害を生じる恐れがある。抗酸化剤の濃度の下限は特に限定されないが、有効成分量に対して重量比で1/2倍量以上程度が好ましい。本発明の好ましい一実施形態において、抗酸化剤の割合は、有効成分量に対して重量比で1/2~5倍量である。
【0038】
ここで、本発明における有効成分量とは、本発明の植物賦活剤に含有されるオキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸またはそれらの誘導体もしくはそれらの塩の量の合計量を示すものである。例えば本発明の植物賦活剤の有効成分量は、0.2~2.0g/L程度である。本発明の植物賦活剤は、このような有効成分量に対して、重量比で1/2~5倍量である抗酸化剤を含有している。この程度の抗酸化剤を添加することにより、有効成分の植物賦活剤中での分解が顕著に抑制され、その賦活効果が長期間維持され得る。
【0039】
本発明の植物賦活剤には、必要に応じて、植物賦活剤として使用するのに適した相溶性の界面活性剤および/または希釈剤もしくは担体が含有されていてもよい。これらの添加成分としては、農業上容認可能な薬剤であれば特に限定されない。また、界面活性剤や希釈剤、担体以外の、農薬製剤などに通常用いられる成分がさらに含有されていてもよい。
【0040】
本発明の植物賦活剤は、任意の方法で植物に施用することができる。例えば、植物の茎葉もしくは根に接触させる噴霧剤もしくは浸漬用薬剤、または、土壌灌注用薬剤として使用され得る。また、本発明の植物賦活剤は、多孔質構造体やカプセル内に包含されたり、シート等に含侵されたりして、徐放性の薬剤として使用されてもよい。施用された植物において、本発明の植物賦活剤は、植物生長促進効果を付与する。
【0041】
本発明の植物賦活剤を施用することのできる植物は、特に限定されるものではなく、植物一般に対して良好に用いることができるが、例えば、イネ科、マメ科、ナス科、バラ科、ヒユ科、アオイ科またはアブラナ科の植物が挙げられる。例えば、イネ科の植物として、例えば芝、稲、小麦、トウモロコシなど、マメ科の植物として、例えばダイズ、ソラマメ、インゲン豆、カンゾウなど、ナス科の植物として、例えばトマト、ナス、唐辛子、ピーマン、ジャガイモなど、バラ科の植物として、例えばイチゴなど、ヒユ科の植物として、例えばホウレンソウなど、アオイ科の植物として、例えば綿花、オクラなど、アブラナ科の植物として、例えばコマツナ、水菜など、の植物の生長が効果的に促進される。また、施用の対象となる植物は野生型の植物に限定されず、例えば変異体や形質転換体等であってもよい。また、それぞれの植物の品種も特に限定されない。
【0042】
また、本発明の植物賦活剤は、強力な抵抗性誘導効果を示す植物賦活剤として利用できることを見出しており、さまざまな植物の成長促進効果や果実の収量増加効果、病害抑制効果を示すことを知見している。例えば病害抑制に関して効果のある具体的な例としては、キュウリ、スイカ、メロン、カボチャなどウリ科の葉の灰色カビ病、つる割れ病、つる枯病、ベト病、トマト、ナス、ジャガイモなどナス科の青枯れ病、萎凋病、半身萎凋病、立枯病、褐色根腐病、バラやイチゴなどバラ科植物のうどん粉病、黒星病、灰色カビ病、炭疽病、ホウレンソウなどヒユ科のベト病、ハクサイ、キャベツ、コマツナなどアブラナ科の黒腐病、軟腐病、斑点細菌病、リゾクトニア病、ニンジンなどセリ科の白絹病、イネ科植物のいもち病などに有効である。
【実施例
【0043】
本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
植物賦活剤の調製
水酸化脂肪酸として、ヒドロキシオクタデカエン酸である、9,10,13-トリヒドロキシ-11-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),10(S),13(S)-trihydroxy-11(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)、および、9,12,13-トリヒドロキシ-10-オクタデカエン酸(ラローダンファインケミカルズ社製、9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸(英語表記で9(S),12(S),13(S)-trihydroxy-10(E)-octadecenoic acid)、200mg/L エタノール溶液)を2:1で混合した混合物を用いて、ヒドロキシオクタデカエン酸を含む水溶液を調製した。すなわち、9(S),10(S),13(S)-トリヒドロキシ-11(E)-オクタデセン酸は、75mLのエタノール溶液を水1Lに溶解させ、濃度15mg/Lとし、さらにこの水溶液に9(S),12(S),13(S)-トリヒドロキシ-10(E)-オクタデセン酸のエタノール溶液35mLを溶解させ、濃度7mg/Lに調整した。この水溶液778mLに13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸(13-oxoODA)((9Z,11E)-13-オキソ-9,11-オクタデカジエン酸、ケイマンケミカル社製、100μg/100μLエタノール溶液)を222mL添加して、得られた溶液を試験用植物賦活剤とした。
【0045】
ビタミンCおよびビタミンEの添加および加速試験
上記で得られた試験用植物賦活剤1L(有効成分量 239mg)に、680mgのビタミンC(関東化学(株)製)および480mgのビタミンE(ナカライテスク(株)製)を添加した。得られた溶液をバイオシェーカー(登録商標)(タイテック(株)製のBR-23UM)を用いて、54℃の加速試験を行い、5週間放置した(25℃換算で約2年相当。吉岡澄江著、「医薬品の安定性」を参考)。加速試験の前後で有効成分濃度をUVで測定し、加速試験の前の有効成分濃度に対する加速試験後の有効成分濃度の割合(有効成分濃度変化%)を、加速試験の前後のUVの面積比から算出した。
【0046】
実施例2
上記で得られた試験用植物賦活剤1L(有効成分量 239mg)に、フェノール系抗酸化剤であるブチルヒドロキシアニソール(キシダ化学(株)製)を480mg添加し、実施例1の植物賦活剤とした。得られた植物賦活剤をバイオシェーカー(登録商標)(タイテック(株)製のBR-23UM)を用いて、54℃の加速試験を行い、5週間放置した(25℃換算で約2年相当。吉岡澄江著、「医薬品の安定性」を参考)。加速試験の前後で有効成分濃度をUVで測定し、加速試験の前の有効成分濃度に対する加速試験後の有効成分濃度の割合(有効成分濃度変化%)を、加速試験の前後のUVの面積比から算出した。
【0047】
実施例3
上記で得られた試験用植物賦活剤1L(有効成分量 239mg)に、ビタミンCを1110mg添加した。得られた溶液をバイオシェーカー(登録商標)(タイテック(株)製のBR-23UM)を用いて、54℃の加速試験を行い、5週間放置した(25℃換算で約2年相当。吉岡澄江著、「医薬品の安定性」を参考)。加速試験の前後で有効成分濃度をUVで測定し、加速試験の前の有効成分濃度に対する加速試験後の有効成分濃度の割合(有効成分濃度変化%)を、加速試験の前後のUVの面積比から算出した。
【0048】
実施例4
上記で得られた試験用植物賦活剤1L(有効成分量 239mg)に、ビタミンEを120mg添加した。得られた溶液をバイオシェーカー(登録商標)(タイテック(株)製のBR-23UM)を用いて、54℃の加速試験を行い、5週間放置した(25℃換算で約2年相当。吉岡澄江著、「医薬品の安定性」を参考)。加速試験の前後で有効成分濃度をUVで測定し、加速試験の前の有効成分濃度に対する加速試験後の有効成分濃度の割合(有効成分濃度変化%)を、加速試験の前後のUVの面積比から算出した。
【0049】
比較例1
上記で得られた試験用植物賦活剤1L(有効成分量 239mg)をバイオシェーカー(登録商標)(タイテック(株)製のBR-23UM)を用いて、54℃の加速試験を行い、5週間放置した(25℃換算で約2年相当。吉岡澄江著、「医薬品の安定性」を参考)。加速試験の前後で有効成分濃度をUVで測定し、加速試験の前の有効成分濃度に対する加速試験後の有効成分濃度の割合(有効成分濃度変化%)を、加速試験の前後のUVの面積比から算出した。
【0050】
実施例1~4および比較例1で得られた有効成分濃度変化%の結果を次の表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
表1に示されるように、抗酸化剤を添加しなかった比較例1では、植物賦活剤中のオキソ脂肪酸の濃度は、加速試験5週間後に著しく低下しており、オキソ脂肪酸が加速試験後にはほぼ分解してしまっていることがわかる。これに伴い、水酸化脂肪酸の濃度は加速試験前と比較して加速試験後に約2倍に増加しており、オキソ脂肪酸が分解して水酸化脂肪酸へと変化したことがわかる。一方、本発明の抗酸化剤を添加した実施例1~4の植物賦活剤では、オキソ脂肪酸の濃度は、加速試験5週間後でも良好に維持されていた。これは、実施例1~4では、抗酸化剤の添加によりオキソ脂肪酸の分解が顕著に抑制されたことを示している。また、実施例1~4では、水酸化脂肪酸の濃度の増加も少ししか観察されず、すなわち、オキソ脂肪酸の分解および水酸化脂肪酸への変化が抑制されていた。この結果から、本発明の抗酸化剤を含む植物賦活剤が植物を賦活させるための有効成分であるオキソ脂肪酸および水酸化脂肪酸の安定化に対して優れた効果を示していることがわかる。
【0053】
上記の結果より、本発明のフェノール系抗酸化剤、アスコルビン酸およびトコフェロールから選ばれる少なくとも一種以上を含む植物賦活剤が有効成分の安定化に対して顕著な効果を示していることがわかる。