(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】弾性表面波フィルタ及び弾性表面波デバイス
(51)【国際特許分類】
H03H 9/145 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
H03H9/145 D
H03H9/145 Z
(21)【出願番号】P 2020110678
(22)【出願日】2020-06-26
【審査請求日】2022-12-19
(73)【特許権者】
【識別番号】320009163
【氏名又は名称】NDK SAW devices株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002756
【氏名又は名称】弁理士法人弥生特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 貴大
【審査官】石田 昌敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-023044(JP,A)
【文献】特開平06-260876(JP,A)
【文献】国際公開第2009/106906(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/104598(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/156232(WO,A1)
【文献】特開2004-140738(JP,A)
【文献】特開2020-096226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H 9/145-9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電基板と、
信号入力用の導電路、信号出力用の導電路に各々接続されて前記圧電基板に設けられるIDT電極と、
前記信号入力用の導電路または前記信号出力用の導電路を構成するように前記圧電基板に設けられた導電パターンである第1の櫛歯部と、
前記第1の櫛歯部と共にキャパシタを形成するように前記圧電基板に設けられると共に接地される導電パターンであり、当該第1の櫛歯部の各歯間にてその歯が形成された第2の櫛歯部と、
前記第1の櫛歯部の歯及び前記第2の櫛歯部の歯に各々設けられ、且つ前記第1の櫛歯部及び前記第2の櫛歯部のうちの少なくとも一方の櫛歯部の各歯には複数設けられる狭幅部と、
前記第1の櫛歯部の歯及び前記第2の櫛歯部の歯に各々設けられ、且つ前記第1の櫛歯部及び前記第2の櫛歯部のうちの少なくとも他方の櫛歯部の各歯には複数設けられる前記狭幅部よりも幅広の拡幅部と、
前記第1の櫛歯部の各歯及び前記第2の櫛歯部の各歯の配列方向、当該配列方向に対する垂直方向の夫々において、前記狭幅部、前記拡幅部が交互に位置することと、
を備え
、
前記信号入力用の導電路が接続される信号入力用のポートから前記信号出力用の導電路が接続される信号出力用のポートへ向けて見て、前記キャパシタと前記IDT電極とが直列に接続される弾性表面波フィルタ。
【請求項2】
前記第1の櫛歯部の拡幅部と前記第2の櫛歯部の拡幅部とは、前記垂直方向に見て重ならならず、
隣り合う前記第1の櫛歯部及び前記第2の櫛歯部について、前記各歯の配列方向における前記第1の櫛歯部の拡幅部の前記第2櫛歯部側の端と、前記第2の櫛歯部の拡幅部の前記第1櫛歯部側の端と、の位置が異なる請求項1記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項3】
前記IDT電極は複数設けられ、当該IDT電極の配列方向は、前記キャパシタの各歯の配列方向である請求項1または2記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項4】
前記第1の櫛歯部は、信号入力用の導電路を構成する請求項1ないし3のいずれか一つに記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項5】
前記狭幅部、前記拡幅部は、前記第1の櫛歯部の各歯及び前記第2の櫛歯部の各歯に複数ずつ設けられる請求項1ないし4のいずれか一つに記載の弾性表面波フィルタ。
【請求項6】
互いに接続された第1の
弾性表面波フィルタ及び第1の共振子を備える第1のフィルタ部と、
互いに接続された第2の弾性表面波フィルタ及び第2の共振子を備える第2のフィルタ部と、を備え、
前記第1のフィルタ部及び前記第2のフィルタ部は共通の前記圧電基板に設けられ、
当該圧電基板には前記第1のフィルタ部及び前記第2のフィルタ部に共通の入力端子が設けられ、
前記第1の弾性表面波フィルタ及び第2の弾性表面波フィルタの少なくとも一方が、請求項1ないし5のいずれか一つに記載の弾性表面波フィルタであり、
前記キャパシタは前記圧電基板に形成された前記第1のフィルタ部に固有の導電路または前記第2のフィルタ部に固有の導電路に設けられる弾性表面波デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、弾性表面波フィルタ及び弾性表面波フィルタを含む弾性表面波デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
SAW(Surface Acoustic Wave:弾性表面波)デバイスとして、SAWフィルタが知られており、特許文献1には当該SAWフィルタの一例について示されている。
【0003】
SAWフィルタについては、終端インピーダンスに対する整合のためにマッチング回路の接続を必要とすることが多い。当該マッチング回路を構成する要素をSAWフィルタが実装される実装基板に導電パターンとして設けるケースが増えてきている。これは、実装基板の外部における上記のマッチング回路をなす回路部品の部品点数の削減を目的としている。そのように実装基板に形成する導電パターンとしては、SAWフィルタに並列接続されるインダクタが有り、そのインダクタンス値が大きいほど当該インダクタについての実装基板における占有面積が増える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のインダクタのインダクタンス値を減少させて、導電パターンの実装基板における占有面積が小さくなるように、SAWフィルタの入力側に当該インダクタと並列なキャパシタが設けられる場合が有る。このキャパシタとして、SAWフィルタを構成するチップをなす圧電基板上に、櫛歯状のパターンが描画される。しかし、このキャパシタが共振することでSAWフィルタの特性に不要なリップルが現れてしまう場合が有る。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、圧電基板にキャパシタをなす導電パターンが設けられる弾性表面波フィルタにおいて、当該キャパシタの共振を抑制し、良好な特性を得ることである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の弾性表面波フィルタは、圧電基板と、
信号入力用の導電路、信号出力用の導電路に各々接続されて前記圧電基板に設けられるIDT電極と、
前記信号入力用の導電路または前記信号出力用の導電路を構成するように前記圧電基板に設けられた導電パターンである第1の櫛歯部と、
前記第1の櫛歯部と共にキャパシタを形成するように前記圧電基板に設けられると共に接地される導電パターンであり、当該第1の櫛歯部の各歯間にてその歯が形成された第2の櫛歯部と、
前記第1の櫛歯部の歯及び前記第2の櫛歯部の歯に各々設けられ、且つ前記第1の櫛歯部及び前記第2の櫛歯部のうちの少なくとも一方の櫛歯部の各歯には複数設けられる狭幅部と、
前記第1の櫛歯部の歯及び前記第2の櫛歯部の歯に各々設けられ、且つ前記第1の櫛歯部及び前記第2の櫛歯部のうちの少なくとも他方の櫛歯部の各歯には複数設けられる前記狭幅部よりも幅広の拡幅部と、
前記第1の櫛歯部の各歯及び前記第2の櫛歯部の各歯の配列方向、当該配列方向に対する垂直方向の夫々において、前記狭幅部、前記拡幅部が交互に位置することと、
を備え、
前記信号入力用の導電路が接続される信号入力用のポートから前記信号出力用の導電路が接続される信号出力用のポートへ向けて見て、前記キャパシタと前記IDT電極とが直列に接続される。
【発明の効果】
【0008】
本発明の弾性表面波フィルタによれば、第1の櫛歯部と第2の櫛歯部とからなるキャパシタについての共振が抑制されることで、良好な特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態に係るSAWフィルタの平面図である。
【
図2】前記SAWフィルタを構成するキャパシタをなす導電パターンの平面図である。
【
図3】前記SAWフィルタの特性を示すグラフ図である。
【
図4】前記SAWフィルタの特性を示すグラフ図である。
【
図5】前記SAWフィルタのスミスチャート図である。
【
図6】前記導電パターンの他の例を示す平面図である。
【
図7】前記SAWフィルタを含むダイプレクサの平面図である。
【
図9】前記ダイプレクサのフィルタ特性を示すフィルタ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の弾性表面波フィルタの一実施形態に係るSAWフィルタ1について、平面図である
図1を参照しながら説明する。このSAWフィルタ1は多重モードを利用する縦結合型のフィルタである。10は圧電基板であり、例えば42°回転YカットX方向伝搬のリチウム酸タンタル(LiTaO
3)などの圧電材料により構成されている。
【0011】
圧電基板10にて、SAWの伝搬方向に沿って上記の5つのIDT(Interdigital Transducer)電極が形成されており、当該5つのIDT電極について圧電基板10の一方側から他方側に向けて順に11、12、13、14、15として示す。また、圧電基板10には2つの反射器16が、IDT電極11~15を挟むように設けられている。圧電基板10の表面において、IDT電極11~15及び反射器16の配列方向を左右方向とし、圧電基板10の表面においてこの左右方向に対する垂直方向を前後方向と記載する場合が有る。左右方向についてはIDT電極11側、IDT電極15側を夫々左側、右側とする。なお、SAWフィルタ1の構成の説明の便宜上、このように前後左右の方向を定義するが、SAWフィルタ1はどのような向きで使用してもよい。
【0012】
IDT電極11~15の各々を構成するバスバーについて、当該バスバーを含むIDT電極を表す符号の後にAまたはBを付して示す。Aが前方側のバスバー、Bが後方側のバスバーである。つまり、IDT電極11を例に挙げて述べると、当該IDT電極11を構成する前方側のバスバーを11A、後方側のバスバーを11Bとする。そのように各バスバーに符号を付すため、バスバー11A~15Aが左右に並んで設けられ、バスバー11B~15Bが左右に並んで設けられている。また、IDT電極11~15を構成し、バスバー11A~15A、11B~15Bから後方、前方に夫々伸び出す電極指を17として示している。
【0013】
バスバー12B、14Bは図示しない導電パターンを介して信号出力ポート21に接続されており、バスバー11B、13B、15Bは接地されている。圧電基板10において、バスバー11A~15Aから各々圧電基板10の前方へ向けて引き出されるように金属膜である導電パターンが形成されている。一のバスバーであるバスバー11A、13A,15Aから引き出された導電パターンの端部は、他のバスバーであるバスバー12A、14Aから引き出された導電パターンよりも前方側の位置に向かう。そして、バスバー11A、15Aから引き出された導電パターンは夫々右側、左側へ向かい、バスバー13Aから引き出された導電パターンと合流する。このように合流した導電パターンを31とすると、当該導電パターン31は信号入力ポート22に接続されており、信号入力用の導電路をなす。また、バスバー12A、14Aから引き出された導電パターンを32とすると、当該導電パターン32は接地される。
【0014】
導電パターン31は、各導電パターン32の前端に向かうように後方へ伸び出す電極指33を備えている。この電極指33は左右に間隔を空けて多数設けられることで、IDT電極を形成している。つまり、多数の電極指33により櫛歯状のパターン(第1の櫛歯部)が形成され、電極指33の各々が櫛歯の歯をなす。
【0015】
また各導電パターン32はその前端側に、導電パターン31に向かうように前方へ伸び出す電極指34を備えている。この電極指34は左右に間隔を空けて多数設けられることで、IDT電極を形成している。つまり、多数の電極指33により櫛歯状のパターン(第2の櫛歯部)が形成され、電極指34の各々が櫛歯の歯をなす。そして、電極指34は隣り合う2つの電極指33の間に進入するように設けられている。左右方向に見ると、電極指33、電極指34が間隔を空けて交互に繰り返し、一定の周期で配置されている。そのように配列される電極指33、34により、キャパシタ30が形成される。キャパシタ30は、発明が解決しようとする課題の項目で説明したように、SAWフィルタ1に対して並列接続されるインダクタのインダクタンス値を低減させる役割を果たす。
【0016】
図2において、キャパシタ30をなす電極指33、34を拡大して示している。電極指33、34は、伸長する方向が前後逆であることを除いて互いに同様の形状を有するので、代表して電極指33について説明する。電極指33については先端に向かう途中の部位及び先端部が、左右に各々山型をなすように膨らむことで、拡幅部35として構成される。電極指33における拡幅部35以外の領域を狭幅部36とする。従って、電極指33の基端側から先端側に向かって狭幅部36、拡幅部35が交互に2つずつ設けられている。従って、狭幅部36及び拡幅部35は前後方向(つまりSAWの伝搬方向に対する垂直方向)に見て、交互に位置している。
【0017】
電極指33、電極指34の位置関係についてさらに説明する。左右方向(つまりSAWの伝搬方向)において電極指33の拡幅部35と電極指34の狭幅部36とが隣り合うと共に、電極指34の拡幅部35と電極指33の狭幅部36とが隣り合う。つまり左右方向に見ると、拡幅部35と狭幅部36とが交互に繰り返し配置されている。
【0018】
図2中、隣り合う電極指33、34の位置関係を明確にするために仮想の直線L1、L2を引いている。より詳しく述べると、当該直線L1、L2は、電極指33における拡幅部35の電極指34側の端、電極指34における拡幅部35の電極指33側の端を夫々通過するように前後方向に引いている。直線L1、L2によって示されるように電極指33の拡幅部35と電極指34の拡幅部35とは、前後方向に見て互いに重ならない。
【0019】
SAWが伝搬するにあたり、拡幅部35と狭幅部36とではその幅の違いにより、SAWの伝搬速度が互いに異なる。既述のように左右方向、前後方向の夫々において拡幅部35、狭幅部36が交互に並んで設けられることで、SAWが、電極指33、34が互いに交差する領域を進行するにあたり、各拡幅部35及び各狭幅部36でその速度が変位する結果として、SAWに乱れが生じて電極指33、34の共振が防止されると考えられる。
【0020】
このように共振を防ぐ目的のために、拡幅部35の最も幅が大きい箇所の大きさをW1、狭幅部36の最も幅が狭い箇所の大きさをW2とすると、例えばW1/W2=1.5以上であり、より確実に共振を防止するためにW1/W2=2以上であると好ましい。また、上記したように電極指33の拡幅部35と電極指34の拡幅部35とが前後方向に互いに重ならない。仮に重なっているとすると、各拡幅部35がIDT電極として機能し、これらの拡幅部35が共振してしまうと考えられるが、重ならないことでそのような拡幅部35の共振が防止される。
【0021】
以下、SAWフィルタ1の特性を検証するために行われたシミュレーションによる実験について説明する。実験はキャパシタ30を設けないか、キャパシタ30の静電容量値が0.3pF、0.6pFあるいは1.2pFとなるようにして行った。
図3及び
図4は、フィルタ特性を表すグラフである。この
図3、
図4のグラフについて、横軸は正規化した周波数を示しており、縦軸はS21特性(単位:dB)を示している。
図4は、
図3のグラフにおける正規化した周波数が0.95~1.05における範囲を拡大して示したものである。
図5はS11のスミスチャートである。静電容量値の変更によって、当該スミスチャート中の曲線の形状に大きな変化は無く、静電容量値の増加によって当該曲線の位置が下方側に移動している。
【0022】
図3、
図4に示すように、キャパシタ30を設けることによって高帯域側の減衰曲線の降下が急峻になり、静電容量値が大きいほどその降下がより急峻なものとなることが確認された。また、フィルタの通過帯域においては、静電容量値がいずれの値であってもキャパシタ30を設けない場合と同じくリップルが発生していない。従って、キャパシタ30の共振が防止されていると考えられる。
【0023】
また、静電容量値が0.3pF、0.6pFである場合には、キャパシタ30を設けない場合の挿入損失に対して殆ど劣化が見られず、SAWフィルタ1に対するマッチングを調整することで、当該挿入損失は十分に補償可能である。以上に述べたことから分かるようにSAWフィルタ1によれば、背景技術で説明したSAWフィルタ1が搭載される実装基板のインダクタのインダクタンス値を抑制して当該インダクタの縮小化を図ることができ、且つ通過帯域におけるリップルの発生及び挿入損失の劣化が抑制される。
【0024】
ところでSAWフィルタ1において、電極指33、34の上記の拡幅部35、狭幅部36については2つずつ設けることに限られず、より多くの数の拡幅部35及び狭幅部36を設けて、前後方向に見て拡幅部35、狭幅部36が交互に繰り返し設けられていてもよい。また
図6は、電極指33については、前後方向に狭幅部36、拡幅部35、狭幅部36が順に設けられ、電極指34については、前後方向に拡幅部35、狭幅部36、拡幅部35が順に設けられた例を示している。このように電極指33、34が、拡幅部35及び狭幅部36のうち一方を2つ、他方を1つのみ備えていても、SAWの進行を十分に乱すことができると考えられる。つまり、拡幅部35及び狭幅部36を各電極指において前後方向に交互に設けるにあたり、複数ずつ設けることには限られない。
【0025】
なお、上記したように電極指33、34の各部の幅の違いにより、SAWに乱れが生じればよいと考えられるので、拡幅部35の形状としては図示した形状に限られず、例えば角型の形状であってもよい。さらに、電極指33、34は既述の向きで形成されることに限られず、例えば左右方向に向く(即ち、伸長方向が左右方向である)ように形成されてもよい。
【0026】
ところで
図1では示していないが、例えば信号出力ポート21とIDT12、14との間には、バスバー12B、14Bから引き出されて圧電基板10上に形成された導電パターンが信号出力用の導電路として介在する。また、バスバー11B、13B、15Bから引き出されるように圧電基板10上に導電パターンが形成され、当該導電パターンについては接地される。既述した位置に電極指33、34を設ける代りに、そのように信号出力ポート21に接続される導電パターン、接地される導電パターンに夫々電極指33、34を夫々形成してもよい。つまり、SAWフィルタ1の入力側の代わりに、SAWフィルタ1の出力側にキャパシタ30を設けてもよい。ただし通常、SAWフィルタ1の出力側のマッチングは、SAWフィルタ1の後段に接続されるデバイスで行うことになっており、発明が解決しようとする課題の項目で説明した実装基板に設けられるマッチング用のインダクタを縮小化するような効果が得られない。即ち、実用性の観点から、キャパシタ30についてはSAWフィルタ1の入力側に設けることが好ましい。
【0027】
続いてSAWフィルタ1が適用されたSAWデバイスであるダイプレクサ4について、
図7の平面図及び
図8の回路図を参照して説明する。ダイプレクサ4は第1のフィルタ部5Aと第2のフィルタ部5Bと、を備えており、これらフィルタ部については入力側が共通であり、出力側が個別である。
【0028】
第1のフィルタ部5Aは、SAW共振子51A~54A及びSAWフィルタ1(便宜上、1Aとする)を備え、第2のフィルタ部5Bは、SAW共振子51B~55B及びSAWフィルタ1(便宜上、1Bとする)を備えている。これらのSAW共振子及びSAWフィルタを互いに接続する導電パターン61が、圧電基板10に形成されている。従って、第1のフィルタ部5A及び第2のフィルタ部5Bは、共通の圧電基板10に形成されている。当該圧電基板10において、左右の中央部から右端部に亘って第1のフィルタ部5Aが、左右の中央部から左端部に亘って第2のフィルタ部5Bが、夫々形成されている。
図7では導電パターン61に多数のドットを付して示しており、
図1で述べた導電パターン31、32はこの導電パターン61の一部をなす。
【0029】
なお、SAW共振子51A~54A、51B~55Bは、IDT電極と、IDT電極を左右から挟んで配置された反射器とにより形成されるが、
図7では詳細な構成の表示は省略し、1つのIDT、1つの反射器を各々四角枠として示している。また、SAWフィルタ1A、1BについてもSAW共振子と同様に、
図7では詳細な構成の表示は省略している。
【0030】
上記の導電パターン61は、圧電基板10における左右方向の中央の前端部に形成された入力端子62と、圧電基板10における右側後端部、左側後端部に夫々形成された出力端子63A、63Bとを含む。入力端子62は、第1のフィルタ部5A、5Bに共有され、信号入力ポート22に接続されている。出力端子63A、63Bは、第1のフィルタ部5A、第2のフィルタ部5Bを夫々構成し、導電パターン61によって入力端子62から出力端子63A、63Bに夫々至る導電路66A、66Bが形成されている。従って、当該導電路66A、66Bは第1のフィルタ部5A、第2のフィルタ部5Bに夫々固有の導電路である。出力端子63A、63Bは信号出力ポート21A、21Bに夫々接続される。これらの信号出力ポート21A、21Bは、
図1で示した信号出力ポート21に相当する。また、
図7に示すように導電パターン61の複数箇所については、接地端子として構成されている。
【0031】
信号入力ポート22と入力端子62との間に、第1のフィルタ部5A及び第2のフィルタ部5Bに対して並列に設けられるインダクタ71を示している。当該インダクタ71は、背景技術の項目等にて述べたマッチング用のインダクタである。
【0032】
第1のフィルタ部5Aの構成を説明すると、直列腕であるSAW共振子51A、52Aが出力側に向けて順に設けられ、これらSAW共振子51A、52A間にSAWフィルタ1Aが設けられる。そしてSAW共振子51AとSAWフィルタ1Aとの間、SAW共振子52Aの後段側に、並列腕であるSAW共振子53A、54Aが夫々設けられる。
【0033】
第2のフィルタ部5Bの構成を説明すると、直列腕であるSAW共振子51B、52Bが出力側に向けて順に設けられ、これらSAW共振子51B、52B間にSAWフィルタ1Bが設けられる。そして、SAW共振子51BとSAWフィルタ1Bとの間、SAWフィルタ1BとSAW共振子52Bとの間、SAW共振子52Bの後段側に、並列腕であるSAW共振子53B、54B、55Bが夫々設けられる。
【0034】
SAW共振子51Bの前段とSAW共振子53Bの後段との間に、導電パターン61によってキャパシタ65が形成されている。キャパシタ65は、キャパシタ30と同様に圧電基板10に形成される櫛歯状のパターンを備えるが、
図7に示すように櫛歯は横向き(左右向き)であると共に各歯の幅は均一である。つまり、キャパシタ65には拡幅部35及び狭幅部36が設けられていない。
【0035】
インダクタ71のインダクタンス値を調整することでマッチングを調整することができるが、第1のフィルタ部5A、第2のフィルタ部5Bのマッチングが共に変更されることになる。ダイプレクサ4では導電路66A、66Bに夫々個別にキャパシタ30が設けられている。各キャパシタ30の静電容量値を適切に設定することで、第1のフィルタ部5A、第2のフィルタ部5Bのマッチングを個別に調整し、適切なものとなるようにしている。
【0036】
ところでキャパシタ65については、縦波の伝搬により共振が発生することになる。キャパシタ65の歯の向きとしては圧電基板10におけるIDT電極としての本来の向き(前後向き)でないのでQ値が低いため、共振によって若干のリップルが発生する。このようにキャパシタの歯を横向きに形成した場合に生じるリップルとしては有用に利用できる場合も有るが、発明が解決しようとする課題の項目でも述べたように邪魔となってしまう場合も多い。上記のキャパシタ30については、パターンを描画するスペースの都合で櫛歯が前後方向を向いているが、既述したように共振が防止され、リップルの発生が防止される。即ち、拡幅部35及び狭幅部36を備えるキャパシタ30の構成によれば、共振が防止されることで当該キャパシタを設ける向きの自由度が高くなり、限られたスペースにキャパシタを設けることができるという効果が有る。
【0037】
なお、設置スペースを確保できればキャパシタ30は既述の位置に設けられることに限られず、例えば共振子51A、51Bよりも信号入力ポート22寄りに各々設けられるようにしてもよい。ところで、第1のフィルタ部5A、第2のフィルタ部5Bの両方にキャパシタ30を設けるように説明してきたが、いずれか一方のみにキャパシタ30を設けてもよい。
【0038】
図9は、第1のフィルタ部5Aについての特性の実測試験によって得られた結果について、
図3と同様に示したグラフである。この実測試験においては、上記のキャパシタ30を設けた場合、設けていない場合の夫々について行っている。キャパシタ30を設けた場合の方が、キャパシタ30を設けない場合に比べて、減衰曲線の勾配が若干急であった。なお、挿入損失についてはインダクタ71によるマッチングによって、互いに同等となっている。つまり、キャパシタ30を設けるにあたり、挿入損失の劣化を抑制しつつ減衰特性を改善することができることが確認された。
【0039】
今回開示された実施形態については、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。例えばフィルタを構成するIDT電極の数や形状、各導電パターンの形状、ダイプレクサをなすSAW共振子の数や接続などは適宜変更可能である。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲及びその趣旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更または組み合わせが行われてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 SAWフィルタ
10 圧電基板
11~15 IDT
30 キャパシタ
31、32、導電パターン
33、34 電極指
35 拡幅部
36 狭幅部