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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】センサ
(51)【国際特許分類】
   G01R 33/24 20060101AFI20240201BHJP
   G01N 24/00 20060101ALI20240201BHJP
   G01R 19/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01R33/24
G01N24/00 E
G01R19/00 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020140807
(22)【出願日】2020-08-24
(65)【公開番号】P2022036541
(43)【公開日】2022-03-08
【審査請求日】2023-05-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)公開日 令和1年11月13日 (第33回ダイヤモンドシンポジウム予稿集,第230頁-第231頁,オーラルセッション6 314 自動車電池モニタに向けたダイヤモンド量子センサの開発) (2)発表日 令和1年11月15日 (第33回ダイヤモンドシンポジウム オーラルセッション6 314 自動車電池モニタに向けたダイヤモンド量子センサの開発,国立大学法人東京工業大学蔵前会館、東京都目黒区大岡山2-12-1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業、量子計測・センシング技術研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006895
【氏名又は名称】矢崎総業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021417
【氏名又は名称】国立大学法人東京工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145908
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 信雄
(74)【代理人】
【識別番号】100136711
【弁理士】
【氏名又は名称】益頭 正一
(72)【発明者】
【氏名】申 在原
(72)【発明者】
【氏名】波多野 雄治
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-63960(JP,A)
【文献】国際公開第2018/155504(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/24
G01N 24/00
G01R 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カラーセンタを有する素子と、
前記素子にマイクロ波を放射するアンテナと、
前記素子に励起光を照射する光学系と、
前記素子から発生する蛍光の強度を検出する光センサと、
前記マイクロ波を発振する第1マイクロ波発振器と、
前記マイクロ波を発振する第2マイクロ波発振器と、
前記第1マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第1接続状態と、前記第2マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第2接続状態とを切り替える第1スイッチと、
前記光センサの検出信号が入力する第1ロックインアンプと、
前記光センサの検出信号が入力する第2ロックインアンプと、
前記第1ロックインアンプと前記光センサとを接続する第3接続状態と、前記第2ロックインアンプと前記光センサとを接続する第4接続状態とを切り替える第2スイッチと、
前記第1ロックインアンプの出力を積分する第1積分回路と、
前記第2ロックインアンプの出力を積分する第2積分回路と、
前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調すると共に前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第1変調信号を発生する変調信号発生部と、
前記第1スイッチを前記第1接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第3接続状態に設定し、前記第1スイッチを前記第2接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第4接続状態に設定するスイッチ制御部と
を備え、
前記第1積分回路の出力信号が、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第2変調信号として前記第1マイクロ波発振器に入力し、
前記第2積分回路の出力信号が、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第3変調信号として前記第2マイクロ波発振器に入力するセンサ。
【請求項2】
カラーセンタを有する素子と、
前記素子にマイクロ波を放射するアンテナと、
前記素子に励起光を照射する光学系と、
前記素子から発生する蛍光の強度を検出する光センサと、
前記マイクロ波を発振する第1マイクロ波発振器と、
前記マイクロ波を発振する第2マイクロ波発振器と、
前記第1マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第1接続状態と、前記第2マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第2接続状態とを切り替える第1スイッチと、
前記光センサの検出信号が入力する第1ロックインアンプと、
前記光センサの検出信号が入力する第2ロックインアンプと、
前記第1ロックインアンプと前記光センサとを接続する第3接続状態と、前記第2ロックインアンプと前記光センサとを接続する第4接続状態とを切り替える第2スイッチと、
前記第1ロックインアンプの出力及び前記第2ロックインアンプの出力の第1の線型演算結果を積分する第1積分回路と、
前記第1ロックインアンプの出力及び前記第2ロックインアンプの出力の第2の線型演算結果を積分する第2積分回路と、
前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調すると共に前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第1変調信号を発生する変調信号発生部と、
前記第1スイッチを前記第1接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第3接続状態に設定し、前記第1スイッチを前記第2接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第4接続状態に設定するスイッチ制御部と
を備え、
前記第1積分回路の出力信号及び前記第2積分回路の出力信号の第3の線型演算結果が、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第2変調信号として前記第1マイクロ波発振器に入力し、
前記第1積分回路の出力信号及び前記第2積分回路の出力信号の第4の線型演算結果が、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第3変調信号として前記第2マイクロ波発振器に入力するセンサ。
【請求項3】
前記第1積分回路の出力信号はアナログ信号であり、
前記第2積分回路の出力信号はアナログ信号である請求項1又は2に記載のセンサ。
【請求項4】
前記第1積分回路の出力信号をAD変換する第1AD変換部と、
前記第2積分回路の出力信号をAD変換する第2AD変換部と、
前記第1AD変換部から出力された第1デジタル信号に基づいて、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の基準周波数を調整する第1帰還制御部と、
前記第2AD変換部から出力された第2デジタル信号に基づいて、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の基準周波数を調整する第2帰還制御部と
を備える請求項3に記載のセンサ。
【請求項5】
前記第1変調信号の振幅は、前記光センサによって検出される前記蛍光の強度の分布のピークに対する半値全幅以下である請求項4に記載のセンサ。
【請求項6】
前記第1帰還制御部は、前記第1積分回路の出力が、前記光センサによって検出される前記蛍光の強度の分布のピークに対する半値半幅の1未満の一定割合以上である場合に、前記第1AD変換部から出力された前記第1デジタル信号に基づいて、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の前記基準周波数を変化させ、
前記第2帰還制御部は、前記第2積分回路の出力が、前記光センサによって検出される前記蛍光の強度の分布のピークに対する半値半幅の1未満の一定割合以上である場合に、前記第2AD変換部から出力された前記第2デジタル信号に基づいて、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の前記基準周波数を変化させる請求項5に記載のセンサ。
【請求項7】
前記第1スイッチと前記アンテナとの間に設けられたパワーアンプと、
前記光センサと前記第2スイッチとの間に設けられたプリアンプと
を備える請求項1~6の何れか1項に記載のセンサ。
【請求項8】
前記第1スイッチはダイオードスイッチである請求項1~7の何れか1項に記載のセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサに関する。
【背景技術】
【0002】
NVセンタを有するダイヤモンド素子を用いて光検出磁気共鳴(ODMR:Optically Detected Magnetic Resonance)の原理により磁界を計測するセンサが知られている(例えば、特許文献1、及び非特許文献1~4参照)。このセンサでは、励起光としての緑色光をNVセンタに照射すると共にマイクロ波をNVセンタに照射し、NVセンタから発せられる赤色蛍光を検出する。このセンサでは、共鳴周波数のマイクロ波がNVセンタに照射されると、NVセンタにおいて電子スピン共鳴が生じてNVセンタから発せられる赤色蛍光の輝度が低下する。ここで、磁界がNVセンタにゼーマン分裂を生じさせることにより、少なくとも2点の赤色蛍光の輝度低下点が生じる。NVセンタにおけるゼーマン分裂は、磁界強度に比例した大きさで生じるので、2点の赤色蛍光の輝度低下点(以下、ODMRのピークという)のマイクロ波周波数の差は、磁界強度に比例して大きくなる。これにより、この2点のODMRのピークの周波数のスプリットの大きさに基づいて磁界強度を検出できる。
【0003】
特許文献1に記載のセンサでは、マイクロ波の周波数掃引により、上記2点のODMRのピークを検出する。それに対して、非特許文献1~4に記載のセンサでは、マイクロ波の周波数変調により、上記2点のODMRのピークを検出する。
【0004】
非特許文献1~4では、周波数変調を利用してODMRのピークを検出して磁場を計測する技術を報告している。非特許文献1は、2つのピークの相対的な動きを計測することにより、磁場または温度を計測する方法を示している。非特許文献2は、複数のピークの動きを同時に計測することにより、ベクトル磁場を計測する方法を示している。非特許文献3は、2つのピークを交互に計測することにより、磁場及び温度を、間欠的に長時間計測する方法を示している。非特許文献4は、ピークの検出を2次元的に行うことにより磁気イメージングを行う方法を示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2015/107907号
【0006】
【文献】I. Fescenko, A. Jarmola, I. Savukov, P. Kehayias, J. Smits, J. Damron, N. Risto, N. Mosavian, V. Acosta, “Diamond magnetometer enhanced by ferrite flux concentrators”, arXiv.1911.05070
【文献】J. Schloss, J. Barry, M. Turner, R. Walsworth, “Simultaneous Broadband Vector Magnetometry Using Solid-State Spins”, PHYSICAL REVIEW APPLIED 10, 034044 (2018)
【文献】H. Clevenson, L. M. Pham, C. Teale, K. Johnson, D. Englund, D. Braje, “Robust high-dynamic vector magnetometry with nitrogen-vacancy centers in diamond”, Appl. Phys. Lett. 112, 252406 (2018)
【文献】R. S. Schoenfeld, W. Harneit, “Real Time Magnetic Sensing Imaging Using Spin in Diamond”,PHYSICAL REVIEW LETTERS 106, 030802 (2011)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、電動車(xEV)の電池残量を計測する電池センサに上述のセンサを用いて電池残量や電池温度を高精度に測定するためには、ODMRのピークの検出の応答速度を高める必要がある。ここで、マイクロ波の周波数変調によりODMRのピークを検出する方法は、マイクロ波の周波数掃引によりODMRのピークを検出する方法に比して、ODMRのピークの検出の応答速度に優れる。
【0008】
非特許文献1~4では、周波数変調を利用してODMRのピークを検出して磁場を計測する技術が開示されているが、電池残量や電池温度を高精度に測定するために必要な、ODMRの2つのピークを同時に高精度で連続計測する方法は開示されていない。2つのピークを交互に検出するとして、ピークを検出するためのFM変調周波数を上げれば検出に必要な時間は一般的には短縮可能ではある。さらに、FM変調周波数を上げるほど、1/fノイズやAC電源ノイズの低次高調波が除去される。しかしながら、FM変調周波数を上げるほど、フォトダイオードの出力も漸減するので、信号対雑音比の最適値を追求するのが難しくなる。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、ODMRのピークを高い応答速度で検出できると共に、雑音の影響を低減できるセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のセンサは、カラーセンタを有する素子と、前記素子にマイクロ波を放射するアンテナと、前記素子に励起光を照射する光学系と、前記素子から発生する蛍光の強度を検出する光センサと、前記マイクロ波を発振する第1マイクロ波発振器と、前記マイクロ波を発振する第2マイクロ波発振器と、前記第1マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第1接続状態と、前記第2マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第2接続状態とを切り替える第1スイッチと、前記光センサの検出信号が入力する第1ロックインアンプと、前記光センサの検出信号が入力する第2ロックインアンプと、前記第1ロックインアンプと前記光センサとを接続する第3接続状態と、前記第2ロックインアンプと前記光センサとを接続する第4接続状態とを切り替える第2スイッチと、前記第1ロックインアンプの出力を積分する第1積分回路と、前記第2ロックインアンプの出力を積分する第2積分回路と、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調すると共に前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第1変調信号を発生する変調信号発生部と、前記第1スイッチを前記第1接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第3接続状態に設定し、前記第1スイッチを前記第2接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第4接続状態に設定するスイッチ制御部とを備え、前記第1積分回路の出力信号が、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第2変調信号として前記第1マイクロ波発振器に入力し、前記第2積分回路の出力信号が、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第3変調信号として前記第2マイクロ波発振器に入力する。
【0011】
本発明の他の形態に係るセンサは、カラーセンタを有する素子と、前記素子にマイクロ波を放射するアンテナと、前記素子に励起光を照射する光学系と、前記素子から発生する蛍光の強度を検出する光センサと、前記マイクロ波を発振する第1マイクロ波発振器と、前記マイクロ波を発振する第2マイクロ波発振器と、前記第1マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第1接続状態と、前記第2マイクロ波発振器と前記アンテナとを接続する第2接続状態とを切り替える第1スイッチと、前記光センサの検出信号が入力する第1ロックインアンプと、前記光センサの検出信号が入力する第2ロックインアンプと、前記第1ロックインアンプと前記光センサとを接続する第3接続状態と、前記第2ロックインアンプと前記光センサとを接続する第4接続状態とを切り替える第2スイッチと、前記第1ロックインアンプの出力及び前記第2ロックインアンプの出力の第1の線型演算結果を積分する第1積分回路と、前記第1ロックインアンプの出力及び前記第2ロックインアンプの出力の第2の線型演算結果を積分する第2積分回路と、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調すると共に前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第1変調信号を発生する変調信号発生部と、前記第1スイッチを前記第1接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第3接続状態に設定し、前記第1スイッチを前記第2接続状態に設定している時に前記第2スイッチを前記第4接続状態に設定するスイッチ制御部とを備え、前記第1積分回路の出力信号及び前記第2積分回路の出力信号の第3の線型演算結果が、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第2変調信号として前記第1マイクロ波発振器に入力し、前記第1積分回路の出力信号及び前記第2積分回路の出力信号の第4の線型演算結果が、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の周波数を変調する第3変調信号として前記第2マイクロ波発振器に入力する。
【0012】
本発明のセンサにおいて、前記第1積分回路の出力信号はアナログ信号であって、前記第2積分回路の出力信号はアナログ信号であってもよい。
【0013】
本発明のセンサにおいて、前記第1積分回路の出力信号をAD変換する第1AD変換部と、前記第2積分回路の出力信号をAD変換する第2AD変換部と、前記第1AD変換部から出力された第1デジタル信号に基づいて、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の基準周波数を調整する第1帰還制御部と、前記第2AD変換部から出力された第2デジタル信号に基づいて、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の基準周波数を調整する第2帰還制御部とを備えてもよい。
【0014】
本発明のセンサにおいて、前記第1変調信号の振幅は、前記光センサによって検出される前記蛍光の強度の分布のピークに対する半値全幅以下であってもよい。
【0015】
本発明のセンサにおいて、前記第1帰還制御部は、前記第1積分回路の出力が、前記光センサによって検出される前記蛍光の強度の分布のピークに対する半値半幅の1未満の一定割合以上である場合に、前記第1AD変換部から出力された前記第1デジタル信号に基づいて、前記第1マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の前記基準周波数を変化させてもよい。また、前記第2帰還制御部は、前記第2積分回路の出力が、前記光センサによって検出される前記蛍光の強度の分布のピークに対する半値半幅の1未満の一定割合以上である場合に、前記第2AD変換部から出力された前記第2デジタル信号に基づいて、前記第2マイクロ波発振器が発振する前記マイクロ波の前記基準周波数を変化させてもよい。
【0016】
本発明のセンサにおいて、前記第1スイッチと前記アンテナとの間に設けられたパワーアンプと、前記光センサと前記第2スイッチとの間に設けられたプリアンプとを備えてもよい。
【0017】
本発明のセンサにおいて、前記第1スイッチはダイオードスイッチであってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ロックインアンプ、積分回路、マイクロ波発振器の順序の閉ループが2系統設けられ、一対のマイクロ波発振器が第1のスイッチにより切り替えられるのに同期して、一対のロックインアンプが第2のスイッチにより切り替えられ、上記の単一の変調信号に同期している一対のロックインアンプの出力が積分回路に入力する。それぞれの上記閉ループでは、積分回路の出力信号が変調信号としてマイクロ波発振器に入力する。これにより、一対のODMRのピークを高い応答速度で検出することができる。さらに、単一の変調信号により一対のマイクロ波発振器のマイクロ波の周波数を変調することにより、複数の変調信号により複数のマイクロ波発振器の周波数を変調する場合に比して、信号対雑音比の最適化が容易になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るセンサの概略を示す図である。
図2図2は、NVセンタを有するダイヤモンド素子の構造を模式的に示す図である。
図3図3は、NVセンタを有するダイヤモンド素子を備え光検出磁気共鳴の原理により磁界強度等を計測するダイヤモンド量子センサの原理を説明するための図である。
図4図4は、ODMRのピークの周波数と磁界強度との関係を示すグラフである。
図5図5は、2点のODMRのピークの周波数と磁界強度と温度との関係を示すグラフである。
図6図6は、2点のODMRのピークの検出方法を説明するための波形図である。
図7図7は、矩形波発生器とタイミング制御器との制御信号を説明するためのタイミングチャートである。
図8図8は、2系統の閉ループを切り替えるタイミングを説明するためのタイミングチャートである。
図9図9は、共鳴周波数が変動した場合における積分回路のアナログ出力及び基準周波数の変動を示すタイミングチャートである。
図10図10は、図1に示すセンサのうち、第1積分回路、第2積分回路、第1AD変換器、第2AD変換器、及びMC(マイクロコントローラ)の部分の他の実施形態を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を好適な実施形態に沿って説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す実施形態においては、一部構成の図示や説明を省略している箇所があるが、省略された技術の詳細については、以下に説明する内容と矛盾点が発生しない範囲内において、適宜公知又は周知の技術が適用されていることはいうまでもない。
【0021】
図1は、本発明の一実施形態に係るセンサ1の概略を示す図である。この図に示すように、センサ1は、NVセンタを有するダイヤモンド素子2と、励起光としての緑色光GLをダイヤモンド素子2に照射する光学系3と、NVセンタの電子スピン共鳴に起因して生じる光信号を検知する光センサ4と、ダイヤモンド素子2に周波数可変のマイクロ波を照射するアンテナ5と、アンテナ5にマイクロ波を供給するマイクロ波発生装置10と、マイクロ波発生装置10を制御する制御装置100とを備える。
【0022】
センサ1は、緑色光GLをNVセンタに照射すると共にマイクロ波に周波数変調をしながらマイクロ波をNVセンタに照射させ、ODMRの原理により、計測対象の磁界強度、電界強度、温度等を計測する。
【0023】
ダイヤモンド素子2は、方形の板状に形成されている。一方、アンテナ5は、ダイヤモンド素子2に面して又はダイヤモンド素子2を包囲するように設けられたコイル等である。光センサ4はフォトダイオードである。マイクロ波発生装置10と制御装置100とについては後述する。
【0024】
図2は、NVセンタを有するダイヤモンド素子の構造を模式的に示す図である。この図に示すように、NVセンタは、ダイヤモンド格子中の炭素の置換位置に入った窒素(Nitrogen)と、この窒素に隣接する炭素原子が抜けた空孔(Vacancy)との対からなる複合不純物欠陥である。このNVセンタは、中性電荷状態NV0から電子を1個捕獲してNVとなると、磁気量子数m=-1、0、+1の電子スピン3重項状態を形成する。ダイヤモンド量子センサは、この電子スピン3重項状態を用いて磁界や電界や温度や歪み等を計測する。
【0025】
図3は、NVセンタを有するダイヤモンド素子2を備え光検出磁気共鳴の原理により磁界強度等を計測するダイヤモンド量子センサの原理を説明するための図である。図2及び図3に示すように、NVセンタは、励起光としての緑色光GLを照射されると赤色蛍光RLを発する。この赤色蛍光RLの強度(輝度)は、NVセンタが基底状態(電子スピンの磁気量子数m=0の状態)から励起された場合には大きいのに対して、NVセンタが電子スピン共鳴が生じる準位(電子スピンの磁気量子数m=±1の状態)から励起された場合には小さくなる。
【0026】
ここで、磁界強度が0の場合に共鳴周波数(約2.87GHz)のマイクロ波MWをNVセンタに照射すると、NVセンタが電子スピン共鳴(ESR:Electron Spin Resonance)が生じる準位(m=±1)に遷移する。この準位から励起された電子の一部は、無輻射遷移を経て基底状態に戻ることにより発光に寄与しない。従って、上述のように、NVセンタが電子スピン共鳴が生じる準位から励起された場合、赤色蛍光RLの強度は低下する。
【0027】
図4は、ODMRのピークの周波数と磁界強度Bとの関係を示すグラフである。このグラフに示すように、磁界強度Bが0の場合には、ODMRのピークは1点のみであるのに対し、磁界強度Bが0より大きな値B,B,B(B>B>B>0)である場合には、ODMRのピークは2点存在する。ここで、2点のODMRのピークに対応するマイクロ波MWの周波数のスプリットΔf(f-f)は、磁界強度Bに比例して大きくなる。
【0028】
図5は、2点のODMRのピークの周波数と磁界強度(磁場)と温度との関係を示すグラフである。このグラフに示すように、計測対象の温度変化に応じて、2点のODMRのピークが同様に遷移する。即ち、計測対象の温度変化に応じて、一方のODMRのピークが低周波側に変動した場合、他方のODMRのピークも低周波側に同じ周波数だけ変動する。逆に、計測対象の温度変化に応じて、一方のODMRのピークが高周波側に変動した場合、他方のODMRのピークも高周波側に同じ周波数だけ変動する。従って、計測対象の温度変化は、2点のODMRの周波数の中央値((L1+L2)/2)を変化させる。
【0029】
ところで、本実施形態のセンサ1は、電動車の電池残量を計測する電池センサとして使用される。ここで、電動車の電池残量は、バッテリのバスバを流れる電流の積算値に基づいて算出される。バスバに近接してセンサ1を配置し、磁界強度(磁場)を計測することにより電流値を計測可能である。そのため、バッテリのバスバの電流値の変化に対する応答速度を高めて時刻毎の電流値の計測精度を向上させることにより、電流値の累積値に基づく電池残量の計測精度を向上させることが要求される。さらに、電動車の停止時における微量の漏洩電流の電流値を高精度に計測すると共に、電動車の急加速時や急減速時に生じる数百アンペアの電流値の変動に応答してこの時の電流値を高精度に計測することが要求される。そこで、本実施形態に係るセンサ1では、以下に説明するマイクロ波発生装置10、ロックイン検出装置20、及び周波数制御装置100が用いられている。
【0030】
図1に示すように、マイクロ波発生装置10は、第1マイクロ波発振器11と、第2マイクロ波発振器12と、スイッチ13と、パワーアンプ14とを備える。第1マイクロ波発振器11の出力端子Foutは、スイッチ13の第1入力端子MW1に接続され、第2マイクロ波発振器12の出力端子Foutは、スイッチ13の第2入力端子MW2に接続されている。スイッチ13の出力端子は、パワーアンプ14の入力端子に接続されている。スイッチ13は、ダイオードスイッチであり、第1マイクロ波発振器11とパワーアンプ14とを接続する第1接続状態と、第2マイクロ波発振器12とパワーアンプ14とを接続する第2接続状態とを所定の周期で切り替える。パワーアンプの出力端子は、アンテナ5の入力端子に接続されている。
【0031】
スイッチ13の第1接続状態において、第1マイクロ波発振器11が発振したマイクロ波が、パワーアンプ14により増幅されてアンテナ5に入力する。他方で、スイッチ13の第2接続状態において、第2マイクロ波発振器12が発振したマイクロ波が、パワーアンプ14により増幅されてアンテナ5に入力する。
【0032】
第1マイクロ波発振器11と第2マイクロ波発振器12とは、FM(Frequency Modulation)変調入力端子FMaと、FM変調入力端子FMbと、基準周波数入力端子FDとを備える。
【0033】
ロックイン検出装置20は、プリアンプ101と、スイッチ102と、第1ロックインアンプ103と、第2ロックインアンプ104とを備える。プリアンプ101の入力端子は、光センサ4の出力端子に接続されている。
【0034】
プリアンプ101の出力端子は、スイッチ102の入力端子に接続されている。スイッチ102の第1出力端子LI1は、第1ロックインアンプ103の入力端子に接続され、スイッチ102の第2出力端子LI2は、第2ロックインアンプ104の入力端子に接続されている。スイッチ102は、アナログスイッチであり、第1ロックインアンプ103とプリアンプ101とを接続する第3接続状態と、第2ロックインアンプ104とプリアンプ101とを接続する第4接続状態とを所定の周期で切り替える。
【0035】
スイッチ102の第3接続状態において、光センサ4から出力された赤色蛍光の強度の検出信号が、プリアンプ101により増幅されて第1ロックインアンプ103に入力する。他方で、スイッチ102の第4接続状態において、光センサ4から出力された赤色蛍光の強度の検出信号が、プリアンプ101により増幅されて第2ロックインアンプ104に入力する。
【0036】
周波数制御装置100は、第1AD変換器107と、第2AD変換器108と、MC(マイクロコントローラ)110と、矩形波発生器15と、タイミング制御器16とを備える。矩形波発生器15の出力端子は、第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMaと第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMaとに接続されており、矩形波発生器15により発生された矩形波が、第1変調信号MODとして第1マイクロ波発振器11と第2マイクロ波発振器12とに入力する。
【0037】
第1ロックインアンプ103と第2ロックインアンプ104とには、矩形波発生器15から出力された周波数Fmodの信号が入力する。第1ロックインアンプ103と第2ロックインアンプ104とは、矩形波発生器15の出力信号に同期して、後述の微分ODMRのアナログ信号を出力する。
【0038】
第1ロックインアンプ103の出力端子には第1積分回路105の入力端子が接続され、第2ロックインアンプ104の出力端子には第2積分回路106の入力端子が接続されている。第1積分回路105の出力端子は、第1AD変換器107の入力端子と、第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMbに接続されている。他方で、第2積分回路106の出力端子は、第2AD変換器108の入力端子と、第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMbに接続されている。第1ロックインアンプ103から出力されたアナログ信号は、第1積分回路105で積分されて第1AD変換器107と第1マイクロ波発振器11とに入力する。他方で、第2ロックインアンプ104から出力されたアナログ信号は、第2積分回路106で積分されて第2AD変換器108と第2マイクロ波発振器12とに入力する。
【0039】
第1AD変換器107は、第1積分回路105から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。第2AD変換器108は、第2積分回路106から出力されたアナログ信号をデジタル信号に変換する。
【0040】
第1ロックインアンプ103と第2ロックインアンプ104とには、矩形波発生器15から出力された周波数Fmodの矩形波信号が入力する。第1ロックインアンプ103と第2ロックインアンプ104とは、矩形波発生器15から出力された矩形波信号に同期して、プリアンプ101からの入力信号を検出する。MC(マイクロコントローラ)110は、監視部111と、第1帰還制御部112と、第2帰還制御部113とを備える。
【0041】
第1帰還制御部112の出力端子は、第1マイクロ波発振器11の基準周波数入力端子FDに接続されている。第1帰還制御部112は、第1AD変換器107から出力された第1デジタル信号に基づいて、第1マイクロ波発振器11の基準周波数FD1を算出して第1マイクロ波発振器11に出力する。基準周波数FD1は、ODMRのピーク(共鳴周波数1)の近似値に設定される。
【0042】
第2帰還制御部113の出力端子は、第2マイクロ波発振器12の基準周波数入力端子FDに接続されている。第2帰還制御部113は、第2AD変換器108から出力された第2デジタル信号に基づいて、第2マイクロ波発振器12の基準周波数FD2を算出して第2マイクロ波発振器12に出力する。基準周波数FD2は、ODMRのピーク(共鳴周波数2)の近似値に設定される。
【0043】
第1帰還制御部112から出力された基準周波数FD1と第2帰還制御部113から出力された基準周波数FD2とは、監視部111に入力する。監視部111は、第1帰還制御部112から出力された基準周波数FD1と、第1AD変換器107から出力されて第1帰還制御部112に入力した周波数(第1積分回路105のアナログ出力がAD変換されたものであり第1帰還制御部112の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。他方で、監視部111は、第2帰還制御部113から出力された基準周波数FD2と、第2AD変換器108から出力されて第2帰還制御部113に入力した周波数(第2積分回路106のアナログ出力がAD変換されたものであり第2帰還制御部113の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。
【0044】
第1マイクロ波発振器11には、第1帰還制御部112のデジタル出力である基準周波数FD1の信号と、矩形波発生器15のアナログ出力である第1変調信号MODと、第1積分回路105のアナログ出力である第2変調信号B1とが入力される。第1マイクロ波発振器11は、基準周波数FD1の信号を第1変調信号MODと第2変調信号B1とで周波数変調したFM変調波を出力する。
【0045】
第2マイクロ波発振器12には、第2帰還制御部113のデジタル出力である基準周波数FD2の信号と、矩形波発生器15のアナログ出力である第1変調信号MODと、第2積分回路106のアナログ出力である第3変調信号B2とが入力される。第2マイクロ波発振器12は、基準周波数FD2の信号を第1変調信号MODと第3変調信号B2とで周波数変調したFM変調波を出力する。
【0046】
図6は、2点のODMRのピークの検出方法を説明するための波形図である。図6の上段の波形は、ODMRの蛍光強度のスペクトルを示し、図6の下段の波形は、基準周波数FD1の信号を第1変調信号MODで周波数変調した場合に得られるODMRの蛍光強度の変化率(以下、微分ODMRという)のスペクトルを示す。この図の左側のODMRのピークの周波数(共鳴周波数1)は、基準周波数FD1の近似値であり、この図の右側のODMRのピークの周波数(共鳴周波数2)は、基準周波数FD2の近似値である。
【0047】
図6の下段左側に示す微分ODMRが0になる周波数は共鳴周波数1と一致する。図6の下段左側に示す微分ODMRは、第1ロックインアンプ103の出力信号である。他方で、図6の下段右側に示す微分ODMRが0になる周波数は共鳴周波数2と一致する。図6の下段右側に示す微分ODMRは、第2ロックインアンプ104の出力信号である。
【0048】
そこで、本実施形態に係るセンサ1では、第1ロックインアンプ103から出力される微分ODMRが0になる点(すなわち共鳴周波数1)を第1の動作点L1とし、第1ロックインアンプ103から出力される微分ODMRを第1積分回路105で積分してFM変調入力端子FMbから第1マイクロ波発振器11に入力するという帰還をかけることにより、第1マイクロ波発振器11から出力されるマイクロ波の周波数を第1の動作点L1にロックする。他方で、第2ロックインアンプ104から出力される微分ODMRが0になる点(すなわち共鳴周波数2)を第2の動作点L2とし、第2ロックインアンプ104から出力される微分ODMRを第2積分回路106で積分してFM変調入力端子FMbから第2マイクロ波発振器12に入力するという帰還をかけることにより、第2マイクロ波発振器12から出力されるマイクロ波の周波数を第2の動作点L2にロックする。
【0049】
ここで、計測対象の電流値と温度とを同時に計測するためには、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数を第1の動作点L1にロックすることと、第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数を第2の動作点L2にロックすることとを同時に実現する必要がある。そのために、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波と第2マイクロ波発振器12のマイクロ波とを相互に異なる変調信号で周波数変調することも考えられる(非特許文献2参照)。しかしながら、変調信号の周波数を上げるとフォトダイオードの出力が漸減することから、信号対雑音比の最適値を追及するためには、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波と第2マイクロ波発振器12のマイクロ波とを単一の変調信号で周波数変調する方が好適と考えられる。そこで、本実施形態では、単一の矩形波発生器15で発生する単一の第1変調信号MODを時分割で用いて第1マイクロ波発振器11のマイクロ波と第2マイクロ波発振器12のマイクロ波とを周波数変調する。
【0050】
本実施形態に係るセンサ1では、単一の第1変調信号MODを用いて、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数を第1の動作点L1にロックすることと、第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数を第2の動作点L2にロックすることとを同時に実現するために、図1に示すマイクロ波発生装置10、ロックイン検出装置20、及び周波数制御装置100の構成を採用している。ここで、本実施形態に係るセンサ1では、ロックインアンプ、積分回路、FM変調入力端子、マイクロ波発振器の順序の閉ループが2系統設けられ、プリアンプ101と第1及び第2ロックインアンプ103,104との間にアナログスイッチであるスイッチ102が設けられ、パワーアンプ14と第1及び第2マイクロ波発振器11,12との間にダイオードスイッチであるスイッチ13が設けられている。上記2系統のループが、スイッチ102,13により、第1変調信号MODの周期よりは低周期で切り替えられる。
【0051】
図7は、矩形波発生器15とタイミング制御器16との制御信号を説明するためのタイミングチャートである。矩形波発生器15とタイミング制御器16とは同期しており、両者の原振周波数は10MHzである。第1及び第2積分回路105,106の時定数は例えば3msである。
【0052】
図7のタイミングチャートに示すように、矩形波発生器15が出力する第1変調信号MODの周波数Fmodは例えば5kHzであり、第1マイクロ波発振器11と第2マイクロ波発振器12とを切り替える信号の周波数は例えば1kHzである。スイッチ13により第1マイクロ波発振器11とパワーアンプ14とが接続される第1接続状態と、スイッチ102によりプリアンプ101と第1ロックインアンプ103とが接続される第3接続状態とは、同期する。他方で、スイッチ13により第2マイクロ波発振器12とパワーアンプ14とが接続される第2接続状態と、スイッチ102によりプリアンプ101と第2ロックインアンプ104とが接続される第4接続状態とは、同期する。
【0053】
アナログスイッチであるスイッチ102は、上述の切り替える信号の周波数に十分追随する製品が有る。ダイオードスイッチであるスイッチ13も、上述の切り替える信号の周波数に十分追随し、共鳴周波数(磁界強度が0の場合に約2.87GHz)前後のマイクロ波MWを損失無く切り替え可能な製品が有る。
【0054】
矩形波発生器15が出力する第1変調信号MODの振幅は、図1に示す第1マイクロ波発振器11及び第2マイクロ波発振器12の周波数変調幅が、図6に示すODMRのピークに対する半値全幅H程度になるように設定されている。本実施形態では、第1変調信号MODの振幅は例えば±3.5MHz程度である。
【0055】
図8は、2系統の閉ループを切り替えるタイミングを説明するためのタイミングチャートである。このタイミングチャートに示すように、周波数が例えば5kHz、振幅が第1及び第2マイクロ波発振器11,12の周波数変調幅としてODMRのピークに対する半値全幅H程度に相当する値の第1変調信号MODが連続して矩形波発生器15から第1及び第2マイクロ波発振器11,12に出力される。第1の動作点L1と第2の動作点L2との切り替えは、動作周波数が例えば1kHzのスイッチ13により行われる(図5参照)。
【0056】
本実施形態に係るセンサ1では、第1マイクロ波発振器11の基準周波数FD1が第1の動作点L1の周波数の近似値に設定され、第2マイクロ波発振器12の基準周波数FD2が第2の動作点L2の周波数の近似値に設定される。この状態で、振幅が第1及び第2マイクロ波発振器11,12の周波数変調幅として上記半値全幅H程度の第1変調信号MODが矩形波発生器15から第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMa及び第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMaに入力される。さらに、この状態で、第1変調信号MODを同期信号とする第1ロックインアンプ103の出力が第1積分回路105で積分されて第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMbに入力され、第1変調信号MODを同期信号とする第2ロックインアンプ104の出力が第2積分回路106で積分されて第2マイクロ波発振器12のFM変調入力端子FMbに入力される。これにより、第1のマイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数が第1の動作点L1にロックされ、第2のマイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数が第2の動作点L2にロックされる。
【0057】
ここで、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数を第1の動作点L1にロックし、第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数を第2の動作点L2にロックするためには、第1マイクロ波発振器11のマイクロ波の周波数の動作点L1からの変化分と第2マイクロ波発振器12のマイクロ波の周波数の動作点L2からの変化分とが、それぞれODMRのピークに対する半値半幅H/2程度以内である必要がある。半値全幅Hの値は、ダイヤモンド素子4のNVセンタの特性により異なるが、一般的には数百kHz~数MHzの範囲である。
【0058】
他方で、電動車の出力電流のレンジの拡大に伴う測定レンジの拡大に対応するために、第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波の周波数を、第1の動作点L1及び第2の動作点L2の1GHz以上の変動に追随して遷移させる必要がある。そこで、本実施形態に係るセンサ1では、以下説明するように、第1積分回路105のアナログ出力を、共鳴周波数1の変動時間よりは十分に短い一定時間毎に、第1AD変換器107によりAD変換し、第1マイクロ波発振器11の基準周波数FD1に帰還制御する。また、第2積分回路106のアナログ出力を、共鳴周波数2の変動時間よりは十分に短い一定時間毎に、第2AD変換器108によりAD変換し、第2マイクロ波発振器12の基準周波数FD2に帰還制御する。
【0059】
図9は、共鳴周波数1が変動した場合における第1積分回路105のアナログ出力及び基準周波数FD1の変動を示すタイミングチャートである。なお、共鳴周波数1が変動した場合における第1積分回路105のアナログ出力及び基準周波数FD1の変動について説明するが、共鳴周波数2が変動した場合における第2積分回路106のアナログ出力及び基準周波数FD2の変動も同様である。
【0060】
図9のタイミングチャートに示すように、共鳴周波数1の変化量がODMRのピークの半値半幅H/2以内であれば、第1積分回路105のアナログ出力は、共鳴周波数1に必ず追随して変化する。しかしながら、共鳴周波数1の変化量が半値半幅H/2を超える場合は、第1積分回路105のアナログ出力は、共鳴周波数1に追随できなくなる場合が生じる。そこで、共鳴周波数1の変化量が半値半幅H/2の一定割合以上の場合には、基準周波数FD1を半値半幅H/2の一定割合だけ変化させる。ここで一定割合とは1未満の定数である。これにより第1積分回路105のアナログ出力は0に戻る。共鳴周波数1の変化量がさらに増大して半値半幅H/2の一定割合に達する場合には、基準周波数FD1をさらに半値半幅H/2の一定割合だけ変化させる。これにより第1積分回路105のアナログ出力は0に戻る。このように共鳴周波数1の変化量に合わせて基準周波数FD1を変化させることを繰り返すことにより、第1積分回路105の出力を、第1マイクロ波発振器11の周波数変調幅として、ODMRのピークの半値半幅H/2の一定割合に対応した値以内に抑えることができる。
【0061】
ここで、第1積分回路105から第1マイクロ波発振器11のFM変調入力端子FMbへの制御パスはアナログ信号であることから、共鳴周波数1,2の変化に高速に追随できる。しかしながら、帰還制御、基準周波数FD1の更新、基準周波数FD1の更新に基づく第1マイクロ波発振器11の周波数の変化は、第1AD変換器107におけるAD変換とその結果のデジタル信号処理を伴うデジタル信号のパスであることから、一定の遅延を伴う。このため、基準周波数FD1を監視するだけでは第1の動作点L1を監視していることにはならない。
【0062】
そこで、本実施形態に係るセンサ1では、電池残量を正確に計測するために、監視部111が、第1帰還制御部112から出力された基準周波数FD1と、第1AD変換器107から出力されて第1帰還制御部112に入力した周波数(第1積分回路105のアナログ出力がAD変換されたものであり第1帰還制御部112の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。他方で、監視部111は、第2帰還制御部113から出力された基準周波数FD2と、第2AD変換器108から出力されて第2帰還制御部113に入力した周波数(第2積分回路106のアナログ出力がAD変換されたものであり第2帰還制御部113の入力)との合計値を積算し、該積算値を監視する。即ち、監視部111は、帰還制御出力のみならず、その誤差としての入力である第1及び第2AD変換器107,108からの出力も合計して積算する。
【0063】
以上説明したように、本実施形態に係るセンサ1によれば、ロックインアンプ、積分回路、マイクロ波発振器の順序の閉ループが2系統設けられ、第1及び第2マイクロ波発振器11,12がスイッチ13により切り替えられるのに同期して、第1及び第2ロックインアンプ103,104がスイッチ102により切り替えられ、単一の第1変調信号MODに同期している第1及び第2ロックインアンプ103,104の出力が第1及び第2積分回路105,106に入力する。それぞれの上記閉ループでは、積分回路の出力信号が変調信号としてマイクロ波発振器に入力する。これにより、一対のODMRのピークを高い応答速度で検出することができる。さらに、単一の第1変調信号MODにより第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波の周波数を変調することにより、複数の変調信号により複数のマイクロ波発振器の周波数を変調する場合に比して、信号対雑音比の最適化が容易になる。
【0064】
また、本実施形態に係るセンサ1によれば、それぞれの上記閉ループにおいて、積分回路からのアナログ出力がマイクロ波発振器に第2及び第3変調信号B1,B2として入力するので、積分回路のアナログ出力をAD変換してマイクロ波発振器の基準周波数に帰還制御する場合に比して、ODMRのピークを高い応答速度で検出することができる。
【0065】
また、本実施形態に係るセンサ1によれば、それぞれの上記閉ループにおいて、積分回路からのアナログ出力をマイクロ波発振器に第2及び第3変調信号として入力するのに加えて、積分回路からのアナログ出力をAD変換したデジタル信号に基づいてマイクロ波発振器のマイクロ波の基準周波数を調整するので、ODMRのピークの変動レンジが大きい場合でも、ODMRのピークの変動に追随してマイクロ波発振器のマイクロ波の周波数を調整することが可能になる。
【0066】
また、本実施形態に係るセンサ1によれば、第1変調信号MODの振幅を第1及び第2マイクロ波発振器11,12の周波数変調幅としてODMRのピークの半値全幅H以内としていることにより、それぞれの上記閉ループにおいて、微分ODMRが0になる点を第1及び第2の動作点L1,L2とし、微分ODMRを積分してFM変調入力端子FMbからマイクロ波発振器に入力するという帰還をかけることで、マイクロ波発振器のマイクロ波の周波数を第1及び第2の動作点L1,L2にロックすることができる。
【0067】
また、本実施形態に係るセンサ1によれば、それぞれの上記閉ループにおいて、積分回路の出力が、第1及び第2マイクロ波発振器11,12の周波数変調幅としてODMRの半値全幅H以上である場合に、AD変換器から出力されたデジタル信号に基づいてマイクロ波発振器のマイクロ波の基準周波数を変化させる。これにより、ODMRのピークの変動レンジがODMRのピークの半値半幅H/2を超える程大きい場合でも、ODMRのピークの変動に追随してマイクロ波発振器のマイクロ波の周波数を調整することができる。
【0068】
また、本実施形態に係るセンサ1によれば、第1及び第2マイクロ波発振器11,12の個別にではなく共通のパワーアンプ14により第1及び第2マイクロ波発振器11,12のマイクロ波が増幅されることで、体積及び電力が大きいパワーアンプが1個で済むので、装置全体の小型化・集積化に効果が有る。また、プリアンプ101により光センサ4の出力信号がアナログスイッチであるスイッチ102を経由する前に増幅されることにより、スイッチ102によるスイッチング雑音の影響を緩和可能であり、センサ1の感度を向上できる。
【0069】
さらに、本実施形態に係るセンサ1によれば、第1及び第2マイクロ波発振器11,12の第1接続状態と第2接続状態とを切り替えるスイッチ13をダイオードスイッチとしたことにより、第1及び第2マイクロ波発振器11,12の出力のオン・オフを交互に繰り返す制御を行う場合に比して、第1の動作点L1と第2の動作点L2との切り替えの遅延によるセンサ1の応答速度の低下を抑制できる。
【0070】
図10は、図1に示すセンサ1のうち、第1積分回路105、第2積分回路106、第1AD変換器107、第2AD変換器108、及びMC(マイクロコントローラ)110の部分の他の実施形態を示すブロック図である。
【0071】
バッテリのバスバの電流(により発生する磁場)とバスバの温度とを同時に計測する電動車応用において、ODMRのピークの周波数変化に関しては、温度によるものよりは電流変化によるものの方が急速な場合がある。電流変化は、電動車の急発進・急減速により短時間で大振幅の変化が生じるのに対し、温度変化は、電動車の動作温度範囲やバスバの熱容量から限定されている。ここで、ODMRの2つの共鳴周波数L1,L2(図6参照)の変動のうち、両者が同符号に動く場合を同相の変動、逆符号に動く場合を逆相の変動とする。このため、第1及び第2ロックインアンプ103,104からの出力のうち、磁場を反映する逆相成分は、温度を反映する同相成分よりも変化が急峻になり得る。このため、第1及び第2ロックインアンプ103,104からの出力を逆相成分と同相成分とに分け、逆相成分に対応した積分回路の時定数を、同相成分に対応した積分回路の時定数よりも小さくすることにより同相雑音を極力除いて、逆相成分を極力広帯域に計測することが可能となる。積分回路は、その時定数よりも高周波の雑音は除くため、必要な信号帯域ぎりぎりで極力大きい時定数にすることが低雑音化に有効なのである。
【0072】
図10に示すように、第1減算回路121は、第1ロックインアンプ103からの出力から第2ロックインアンプ104からの出力を減算して上記した逆相成分を抽出し、第1積分回路105に出力する。一方、第1加算回路122は、第1ロックインアンプ103からの出力と第2ロックインアンプ104からの出力を加算して上記した同相成分を抽出し、第2積分回路106に出力する。第1積分回路105の時定数は第2積分回路106の時定数よりも小さい。第2加算回路123は、上記した逆相成分を積分した第1積分回路105の出力及び上記した同相成分を積分した第2積分回路106の出力を加算して第1マイクロ波発振器11の第2変調信号B1を抽出する。同様に、第2減算回路124は、上記した逆相成分を積分した第1積分回路105の出力を上記した同相成分を積分した第2積分回路106の出力から減算して第2マイクロ波発振器12の第2変調信号B2を抽出する。逆相成分に対応した第1積分回路105の時定数を、同相成分に対応した第2積分回路106の時定数よりも小さくすることができる。同様に、第1帰還制御部112は、第1積分回路105の出力をAD変換する第1AD変換器107の出力及び第2積分回路106の出力をAD変換する第2AD変換器108の出力から第1マイクロ波発振器11の基準周波数FD1を内部のデジタル演算により抽出する。同様に、第2帰還制御部113は、内部のデジタル演算により第2マイクロ波発振器12の基準周波数FD2を抽出する。
【0073】
ここで、第1積分回路105のアナログ出力を、共鳴周波数1及び共鳴周波数2の磁場を反映する逆相成分の変動時間よりは十分に短い一定時間毎に、第1AD変換器107によりAD変換する。また、第2積分回路106のアナログ出力を、共鳴周波数1及び共鳴周波数2の温度を反映する同相成分の変動時間よりは十分に短い一定時間毎に、第2AD変換器108によりAD変換する。これにより、バスバー電流の急変動による磁場の急変動に対しても第1帰還制御部112及び第2帰還制御部113にて追随した基準周波数FD1及び基準周波数FD2を生成することが可能になるとともにバスバー電流の正確な積算を可能にし、電池残量を正確に算出することが可能になる。
【0074】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、変更を加えてもよいし、適宜公知や周知の技術を組み合わせてもよい。
【0075】
例えば、本実施形態では、励振対象のカラーセンタを有する素子をNVセンタを有するダイヤモンド素子としたが、当該素子を、スズ(Sn)と空孔とからなるSnVカラーセンタを有するダイヤモンド素子、シリコン(Si)と空孔とからなるSiVカラーセンタを有するダイヤモンド素子、又はゲルマニウム(Ge)と空孔とからなるGeVカラーセンタを有するダイヤモンド素子等の他のものにしてもよい。
【符号の説明】
【0076】
1 :センサ
2 :ダイヤモンド素子(素子)
3 :光学系
4 :光センサ
5 :アンテナ
11 :第1マイクロ波発振器
12 :第2マイクロ波発振器
13 :スイッチ(第1スイッチ)
14 :パワーアンプ
15 :矩形波発生器(変調信号発生部)
16 :タイミング制御器(スイッチ制御部)
101 :プリアンプ
102 :スイッチ(第2スイッチ)
103 :第1ロックインアンプ
104 :第2ロックインアンプ
105 :第1積分回路
106 :第2積分回路
107 :第1AD変換器(第1AD変換部)
108 :第2AD変換器(第2AD変換部)
112 :第1帰還制御部
113 :第2帰還制御部
MOD :第1変調信号
B1 :第2変調信号
B2 :第3変調信号
H/2 :半値半幅
FD1 :基準周波数
FD2 :基準周波数
GL :緑色光(励起光)
RL :赤色蛍光(蛍光)
MW :マイクロ波
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10