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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】光学ガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/068 20060101AFI20240201BHJP
   C03C 3/23 20060101ALI20240201BHJP
   C03B 3/02 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C03C3/068
C03C3/23
C03B3/02
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020142987
(22)【出願日】2020-08-26
(65)【公開番号】P2022038465
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2023-05-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000128784
【氏名又は名称】株式会社オハラ
(74)【代理人】
【識別番号】100137589
【弁理士】
【氏名又は名称】右田 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100160864
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 政治
(74)【代理人】
【識別番号】100158698
【弁理士】
【氏名又は名称】水野 基樹
(72)【発明者】
【氏名】桃野 浄行
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-074558(JP,A)
【文献】特開2011-088897(JP,A)
【文献】特表2008-532910(JP,A)
【文献】特開2007-153734(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142936(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/058185(WO,A1)
【文献】特開2009-263190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 1/00 -14/00
C03B 3/02
INTERGLAD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス原料を熔融する光学ガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料は、酸化物換算の質量%で、
La23成分を30.0~65.0%、
23成分を3.0~15.0
含有し、
TiO 2 成分、Nb 2 5 成分、WO 3 成分を少なくとも一つ以上含有し、質量和TiO 2 +Nb 2 5 +WO 3 が15.5%以上35.0%以下であり、
還元剤及び塩素を添加することを特徴とする、光学ガラスの製造方法。
【請求項2】
前記ガラス原料は、酸化物換算の質量%で、
SiO2成分が20.0%以下である、
請求項1に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項3】
前記塩素を外割りで0.01%以上添加することを特徴とする、
請求項1又は2に記載の光学ガラスの製造方法。
【請求項4】
前記光学ガラスは、白金の含有量が8ppm以下である、
請求項1~3に記載の光学ガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、光学系を使用する機器のデジタル化や高精細化が急速に進んでおり、デジタルカメラやビデオカメラ等の撮影機器や、プロジェクタやプロジェクションテレビ等の画像再生(投影)機器等の各種光学機器の分野では、光学系で用いられるレンズやプリズム等の光学素子の枚数を削減し、光学系全体を軽量化及び小型化する要求が強まっている。
【0003】
光学ガラスを製造する中で坩堝などによく用いられる白金は、融点が1700℃超と高くガラスの熔解に適している反面、酸素と反応して劣化しやすいため酸化された白金や白金イオンがガラス中に溶け出してしまう。ガラス中に溶け出した白金は可視光を吸収するため、最終製品である光学ガラスの着色を招く。
【0004】
また、光学ガラスの最終製品においては泡の混入が少ないことが望まれる。例えば、泡が混入した光学ガラスをレンズにした場合、投影した画像に泡が映り込んだり、泡による散乱光の影響で映像の乱れを招く。
【0005】
光学ガラスにどの程度の泡を含有しているかを表す指標としては、日本光学硝子工業会規格JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」が用いられている。
日本光学硝子工業会規格JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」では、光学ガラス中に存在する気泡で直径が30μm以上のものを泡としている。
【0006】
しかし、規格上問題にならないような直径が30μm未満の微細な泡でも、その数が多いと内部品質が悪化し、直径が30μm以上の泡と同等またはそれ以上に最終製品へ影響を与えることがある。
他方で、光学ガラスの白金由来の着色を低減させ、ガラス中の泡を減らすために、以下に記載するような方法が提言されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-019050号公報
【文献】特開2016-074558号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1では、熔解工程において水分量を高めることで白金由来の着色が低減されたガラスが得られることを見出している。
特許文献2では、ガラスを熔融する際に硫黄成分を酸化剤として用いることで、脱泡効果の高いガラスが得られることを見出している。
【0009】
光学ガラスを熔解する際は、ガラスの熔解量や使用する原料、生産設備、熔融条件などで白金由来のガラスへの着色やガラス中の泡の発生を抑制するための最適な方法が異なるため、当業者は様々な方法を適宜選択できることが求められている。
また、規格上問題にならないような微細な泡を低減させる方法については、従来の発明では見出されていなかった。
【0010】
本発明は上記実状に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、熔解過程で酸化してガラス中に溶け出した白金によるガラスの着色を抑制しながら、微細な泡の発生が低減された光学ガラスを得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意試験研究を重ねた結果、B成分及びLa成分を含む原料に、還元剤及び塩素を添加することによって、ガラスを熔解する過程で酸化してガラス中に溶け出した白金によるガラスの着色を抑制しながら、微細な泡の発生を低減した、光学ガラスの製造方法を見出した。
【0012】
具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0013】
(1)ガラス原料を熔融する光学ガラスの製造方法であって、
前記ガラス原料は、酸化物換算の質量%で、
La成分を30.0~65.0%、
成分を3.0~25.0%、
含有し、
還元剤及び塩素を添加することを特徴とする、光学ガラスの製造方法。
【0014】
(2)前記ガラス原料は、酸化物換算の質量%で、
SiO成分が20.0%以下であり、
TiO成分、Nb成分、WO成分を少なくとも一つ以上
含有する、
(1)に記載の光学ガラスの製造方法。
【0015】
(3)塩素を0.01%以上添加することを特徴とする、
(1)又は(2)に記載の光学ガラスの製造方法。
【0016】
(4)前記光学ガラスは、白金の含有量が8ppm以下である、
(1)~(3)に記載の光学ガラスの製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、La成分及びB成分を含む原料に、還元剤及び塩素を添加することによって、ガラスを熔解する過程で酸化してガラス中に溶け出した白金によるガラスの着色を抑制しながら、微細な泡の発生を低減した、光学ガラスの製造方法を提供することである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の光学ガラスの製造方法によれば、酸化物換算の質量%で、La成分を30.0~65.0%、B成分を3.0~25.0%含有し、ガラスの原料に還元剤及び塩素を添加することで、ガラスを熔解する過程で酸化してガラス中に溶け出した白金によるガラスの着色を抑制しながら、微細な泡の発生を抑制した光学ガラスを得ることができる。
【0019】
以下、本発明の光学ガラス及び光学ガラスの製造方法の実施形態について詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所について適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0020】
[ガラス成分]
本明細書中において各成分の含有量は特に断りがない場合、全て酸化物換算組成の全質量に対する質量%で表示されるものとする。ここで、「酸化物換算組成」は、本発明のガラス構成成分の原料として使用される酸化物、複合塩、金属弗化物等が熔融時に全て分解され酸化物へ変化すると仮定した場合に、当該生成酸化物の総質量を100質量%として、ガラス中に含有される各成分を表記した組成である。
【0021】
La成分は、ガラスの屈折率を高めるとともに、ガラスの化学的耐久性を向上する成分であり、本発明のガラス中の必須成分である。特に、La成分の含有率を65.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつアッベ数を大きくすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは65.0%以下を上限とし、より好ましくは62.0%以下、最も好ましくは59.0%以下を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLa成分の含有率は、好ましくは30.0%以上、より好ましくは35.0%以上、最も好ましくは40.0%以上を下限とする。
【0022】
成分は、安定なガラスの形成を促すことで耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス中の必須成分である。特に、B成分の含有率を25.0%以下にすることで、B成分による屈折率の低下が抑えられるため、高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは20.0%以下、さらに好ましくは15.0%以下を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するB成分の含有率は、好ましくは3.0%以上、より好ましくは4.0%以上、最も好ましくは5.0%以上を下限とする。
【0023】
Nb成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率及びアッベ数を高める成分であり、一方、Nb成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの安定性を高め、耐失透性を高めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNb成分の含有率は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは13.0%以下、最も好ましくは11.0%以下を上限とする。
【0024】
SiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの着色を低減することで短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、安定なガラス形成を促すことでガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、SiO成分の含有率を20.0%以下にすることで、SiO成分による屈折率の低下が抑えられるため、高屈折率を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、最も好ましくは9.0%以下を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSiO成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、最も好ましくは2.0%以上を下限とする。
【0025】
TiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つガラスの化学的耐久性を高める成分であり、本発明のガラスの任意成分である。特に、TiO成分を含むことで、高屈折率を得ることができる。一方、TiO成分の含有率を25.0%以下にすることで、過剰な含有による失透を抑制し、かつ透過率の劣化を抑えることができる。酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは3.0%以上、最も好ましくは6.0%以上を下限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するTiO成分の含有率は、好ましくは25.0%以下、より好ましくは20.0%以下、最も好ましくは15.0%以下を上限とする。
【0026】
Al成分は、0%超含有する場合に、ガラスの化学的耐久性を向上しつつ、ガラス熔融時の粘度を高める成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、Al成分の含有率を10.0%以下にすることで、ガラスの熔融性を高めつつ、ガラスの失透傾向を弱めることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するAl成分の含有率は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0027】
成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を大きくする成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、Y成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ所望の光学数を得ることが可能である。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有率は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、最も好ましくは11.0%以下を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するY成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは3.0%以上、最も好ましくは5.0%以上を下限とする。
【0028】
Gd成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を大きくする成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、Gd成分の含有率を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めつつ所望の光学数を得ることが可能である。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するGd成分の含有率は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0029】
ZrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの着色を低減して短波長の可視光に対する透過率を高めるとともに、安定なガラス形成を促してガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。一方で、ZrO成分の含有量を15.0%以下にすることで、ZrO成分の過剰な含有による失透を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは15.0%以下を上限とし、より好ましくは12.0%以下、最も好ましくは9.0%以下を上限とする。一方、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZrO成分の含有率は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%以上、最も好ましくは3.0%以上を下限とする。
【0030】
WO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を上げる成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、WO成分の含有率を15.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高めるとともに、短波長の可視光に対するガラスの透過率の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するWO成分の含有率は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは10.0%以下、最も好ましくは5.0%以下を上限とする。
【0031】
ZnO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、且つガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、ZnO成分の含有率を15.0%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するZnO成分の含有率は、好ましくは15.0%以下、より好ましくは12.0%以下、最も好ましくは9.0%以下を上限とする。
【0032】
MgO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める任意成分であり、且つ、可視光に対する透過率を低下し難くする成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、MgO成分の含有率を10.0%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するMgO成分の含有率は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0033】
CaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、CaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができ、且つガラスの耐失透性及び化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するCaO成分の含有率は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、最も好ましくは10.0%以下を上限とする。
【0034】
SrO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの液相温度を下げ、ガラスの耐失透性を高める成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、SrO成分の含有率を10.0%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができ、且つガラスの耐失透性及び化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するSrO成分の含有率は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0035】
BaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、ガラスの耐失透性を高める成分であり、且つ、可視光に対する透過率を低下し難くする成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、BaO成分の含有率を20.0%以下にすることで、高屈折率及び低分散を得易くすることができ、且つ耐失透性及び化学的耐久性の低下を抑えることができる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するBaO成分の含有率は、好ましくは20.0%以下、より好ましくは15.0%以下、最も好ましくは10.0%以下を上限とする。
【0036】
LiO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔解温度を下げる成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、LiO成分の含有率を10.0%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するLiO成分の含有率は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0037】
NaO成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔解温度を下げる成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、NaO成分の含有率を10.0%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するNaO成分の含有率は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、最も好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0038】
O成分は、0%超含有する場合に、ガラスの熔解温度を下げる成分であり、本発明のガラス中の任意成分である。特に、KO成分の含有率を10.0%以下にすることで、高屈折率を得易くすることができ、且つガラスの安定性を高めて失透等の発生を低減できる。従って、酸化物換算組成のガラス全質量に対するKO成分の含有率は、好ましくは10.0%以下、より好ましくは5.0%以下、さらに好ましくは3.0%以下を上限とする。
【0039】
Ta成分は、0%超含有する場合にガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を高められる成分である。Ta成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0040】
成分は、0%超含有する場合にガラスの液相温度を下げて耐失透性を高められる成分である。P成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0041】
GeO成分は、0%超含有する場合にガラスの屈折率を高められ、且つ耐失透性を向上できる成分である。GeO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0042】
Ga成分は、0%超含有する場合にガラスの化学的耐久性を向上でき、且つ熔融ガラスの耐失透性を向上できる成分である。Ga成分の含有量は、5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0043】
Bi成分は、0%超含有する場合に屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる成分である。Bi成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0044】
TeO成分は、0%超含有する場合に屈折率を高められ、且つガラス転移点を下げられる成分である。TeO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0045】
SnO成分は、0%超含有する場合に熔融ガラスの酸化を低減して清澄し、且つガラスの可視光透過率を高められる成分である。SnO成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0046】
F成分は、0%超含有する場合にガラスの熔融性を高めることができる成分であるが、一方で含有量が多いとF成分の揮発による失透を招いてしまう。F成分の含有量は、好ましくは5.0%以下、より好ましくは3.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下を上限とする。
【0047】
Sb成分は、0%超含有する場合に熔融ガラスを脱泡できる成分である。
他方で、Sb成分の含有量が多すぎると、可視光領域の短波長領域における透過率が悪くなる。従って、Sb成分の含有量は、好ましくは1.0%以下、より好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.3%以下を上限とする。
【0048】
Ln成分(式中、LnはLa、Y、Gd、Ybからなる群より選択される1種以上)は、含有量の和(質量和)を、30.0%以上65.0%以下とする場合に、耐失透性を高めることができる。
従って、Ln成分の和は、好ましくは30.0%以上、より好ましくは32.0%以上、より好ましくは35.0%以上、より好ましくは38.0%以上、より好ましくは42.0%以上、さらに好ましくは45.0%以上、さらに好ましくは47.5%以上を下限とする。
他方で、Ln成分の含有量の和(質量和)は、好ましくは65.0%以下、より好ましくは62.0%以下、さらに好ましくは60.0%以下を上限とする。
【0049】
SiO成分、B成分、Al成分の合計含有量である、質量和SiO+B+Alは、8.0%以上28.0%以下とすることで、ガラスの安定性を高めることができる。
従って、質量和SiO+B+Alは、好ましくは8.0%以上、より好ましくは9.0%以上、より好ましくは10.0%以上、より好ましくは11.5%以上、さらに好ましくは13.0%以上を下限とする。
他方で、質量和SiO+B+Alは、好ましくは28.0%以下、より好ましくは26.0%以下、さらに好ましくは24.0%以下を上限とする。
【0050】
SiO成分、B成分、Al成分の合計量に対するLn成分の含有量の和の比率である、質量比Ln/(SiO+B+Al)は6.0以下とすることで、耐失透性を高めることができる。
従って、質量比Ln/(SiO+B+Al)は、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5.0以下、さらに好ましくは4.5以下を上限とする。
【0051】
TiO成分、Nb成分、WO成分の合計含有量である、質量和TiO+Nb+WOは、5.0%以上35.0%以下とすることで、屈折率(n)を高めながら、高屈折率化成分由来の還元色を低減することができる。
従って、質量和TiO+Nb+WOは、好ましくは5.0%以上、より好ましくは7.0%以上、より好ましくは12.0%以上、より好ましくは15.5%以上、さらに好ましくは20.0%以上を下限とする。
他方で、質量和TiO+Nb+WOは、好ましくは35.0%以下、より好ましくは30.0%以下、さらに好ましくは27.0%以下を上限とする。
【0052】
本発明において、以下の成分を合計して95.0%以上、97.0%以上、98.0%以上の順に含有していることが好ましい。
La成分、Y成分、Gd成分、Yb成分、SiO成分、B成分、Al成分、TiO成分、Nb成分、WO成分、Bi成分、ZnO成分、ZrO成分、MgO成分、CaO成分、SrO成分、BaO成分、LiO成分、NaO成分、KO成分、Ta成分。
【0053】
<含有すべきでない成分について>
次に、本発明の光学ガラスに含有すべきでない成分、及び含有することが好ましくない
成分について説明する。
【0054】
他の成分を本願発明のガラスの特性を損なわない範囲で必要に応じ、添加することができる。ただし、Ti、Zr、Nb、W、La、Gd、Y、Yb、Luを除く、Nd、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Ag及びMo等の各遷移金属成分は、それぞれを単独又は複合して少量含有した場合でもガラスが着色し、可視域の特定の波長に吸収を生じる性質があるため、特に可視領域の波長を使用する光学ガラスにおいては、実質的に含まないことが好ましい。
【0055】
また、PbO等の鉛化合物及びAs等の砒素化合物は、環境負荷が高い成分であるため、実質的に含有しないこと、すなわち、不可避な混入を除いて一切含有しないことが望ましい。
【0056】
さらに、Th、Cd、Tl、Os、Be、及びSeの各成分は、近年有害な化学物質として使用を控える傾向にあり、ガラスの製造工程のみならず、加工工程、及び製品化後の処分に至るまで環境対策上の措置が必要とされる。従って、環境上の影響を重視する場合には、これらを実質的に含有しないことが好ましい。
【0057】
本発明の光学ガラスは、還元剤を添加することを特徴とする。還元剤を添加することにより、ガラス中への白金混入を抑え、透過率を向上させることができる。還元剤の含有量は外割りで、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.0%以下、最も好ましくは0.8%以下を上限とする。一方、還元剤の含有量は外割りで、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.1%以上、より好ましくは0.2%以上、最も好ましくは0.3%以上を下限とする。還元剤としては、例えば、カーボン、S等の単元素、スクロース等の有機化合物、また、硫酸アンモニウム等の熱分解時に還元性ガスを発生させる原料が挙げられる。
【0058】
本発明の光学ガラスは、塩素を添加することを特徴とする。白金坩堝を使用することの多い光学ガラスにおいては、塩素は白金と反応し塩化白金となるため、却って白金量を増やしてしまう成分である。
本発明は還元剤と共に塩素を添加することにより、白金の混入を抑えながら、微細な泡の発生を抑制することができる。塩素の含有量は外割りで、好ましくは2.0%以下、より好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.5%以下、さらに好ましくは0.4%以下、最も好ましくは0.3%以下を上限とする。一方、塩素の含有量は外割りで、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.03%以上、より好ましくは0.05%以上、より好ましくは0.08%以上、最も好ましくは0.1%以上を下限とする。塩素の含有量を調整することで、光学特性や透過率λ70に影響を与えずに微細な泡を低減することができる。塩素としては特に限定されないが、例えば、塩化物原料や、塩化ガス等が挙げられる
【0059】
[製造方法]
本発明の光学ガラスは、例えば以下のように作製される。すなわち、上記原料を各成分が所定の含有量の範囲内になるように均一に混合し、作製した混合物を白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度や熔融規模に応じて公知のガラスの製造方法に従って作製すればよい。還元剤及び塩素を添加するタイミングは、原料として添加させる方法や、ガラス原料の熔解工程で還元雰囲気や塩素バブリングさせる方法が挙げられる。
【0060】
[物性]
本発明の光学ガラスは、屈折率(n)は、1.75000以上が好ましい。本発明のガラスの屈折率(n)は、好ましくは1.75000以上、より好ましくは1.80000以上、さらに好ましくは1.85000以上を下限とする。この屈折率(n)は、好ましくは2.10000以下、より好ましくは2.07000以下、さらに好ましくは2.05000以下を上限としてもよい。また、本発明のガラスのアッベ数(ν)は、好ましくは20.00以上、より好ましくは23.00以上、さらに好ましくは25.00以上を下限とする。このアッベ数(ν)は、好ましくは45.00以下、より好ましくは40.00以下、さらに好ましくは37.00以下を上限とする。
【0061】
本発明の光学ガラスは、可視光透過率、特に可視光のうち短波長側の光の透過率が高く、それにより着色が少ないことが好ましい。
本発明のガラスの厚み10mmのサンプルで分光透過率70%を示す最も短い波長(λ70)は、好ましくは470nm以下、より好ましくは450nm以下、さらに好ましくは430nm以下、さらに好ましくは420nm以下を上限とする。
【0062】
本発明の光学ガラスは、白金量が少なく、それにより着色が少ないことが好ましい。
特に、本発明の光学ガラスにおける、白金量は、好ましくは8ppm以下、より好ましくは7ppm以下、さらに好ましくは6ppm以下を上限とする。これにより、白金による着色が抑制され、可視光に対するガラスの透明性が高められるため、この光学ガラスを、レンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0063】
本発明の光学ガラスは、微細な泡が少ないことを特徴とする。本発明において、微細な泡とは、直径で30μm未満のものをいう。
特に本発明の光学ガラスにおける微細な泡の数は、好ましくは53.5個以下、より好ましくは45.0個以下、さらに好ましくは35.0個以下、さらに好ましくは25.0個以下である。微細な泡の数は、縦1.4cm×横2.4cm×厚さ1.0cmのガラスを用いて算出を行う。これにより、内部品質の悪化を抑制することができるため、この光学ガラスをレンズ等の光を透過させる光学素子に好ましく用いることができる。
【0064】
[プリフォーム及び光学素子]
作製された光学ガラスから、例えば研磨加工の手段、又は、リヒートプレス成形や精密プレス成形等のモールドプレス成形の手段を用いて、ガラス成形体を作製することができる。すなわち、光学ガラスに対して研削及び研磨等の機械加工を行ってガラス成形体を作製したり、光学ガラスからモールドプレス成形用のプリフォームを作製し、このプリフォームに対してリヒートプレス成形を行った後で研磨加工を行ってガラス成形体を作製したり、研磨加工を行って作製したプリフォームや、公知の浮上成形等により成形されたプリフォームに対して精密プレス成形を行ってガラス成形体を作製したりすることができる。なお、ガラス成形体を作製する手段は、これらの手段に限定されない。
【0065】
このように、本発明の光学ガラスは、様々な光学素子及び光学設計に有用である。その中でも特に、本発明の光学ガラスからプリフォームを形成し、このプリフォームを用いてリヒートプレス成形や精密プレス成形等を行い、レンズやプリズム等の光学素子を作製することが好ましい。これにより、径の大きなプリフォームの形成が可能になるため、光学素子の大型化を図りながらも、カメラやプロジェクタ等の光学機器に用いたときに高精細で高精度な結像特性及び投影特性を実現できる。
【実施例
【0066】
本発明のガラスの実施例及び比較例の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(n)、アッベ数(ν)、分光透過率が70%及び5%を示す波長(λ70、λ)の結果、ガラス中の白金量(ppm)、及び、ガラス中の泡(気泡)の測定値を表に示す。以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0067】
本発明の実施例及び比較例のガラスは、いずれも各成分の原料として各々相当する酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、弗化物、メタ燐酸化合物等の通常の光学ガラスに使用される高純度原料、還元剤および塩化物原料を選定し、表に示した各実施例の組成および還元剤、塩素の割合になるように秤量して、均一に混合した後、白金坩堝に投入し、ガラス原料の熔解難易度に応じて電気炉で1100~1500℃の温度範囲で30分~2時間熔解させた後、攪拌均質化してから金型等に鋳込み、徐冷して作製した。
【0068】
本発明のガラスの実施例及び比較例には、還元剤、塩素、硫酸を表に示した量を添加している。ここでは、硫酸は脱泡剤としての役割を担っている。
【0069】
実施例及び比較例のガラスの屈折率(n)は、JIS B 7071-2:2018に規定されるVブロック法に準じて、ヘリウムランプのd線(587.56nm)に対する測定値で示した。また、アッベ数(ν)は、上記d線の屈折率と、水素ランプのF線(486.13nm)に対する屈折率(n)、C線(656.27nm)に対する屈折率(n)の値を用いて、アッベ数(ν)=[(n-1)/(n-n)]の式から算出した。そして、求められた屈折率(n)及びアッベ数(ν)の値から、関係式n=-a×ν+bにおける、傾きaが0.01のときの切片bを求めた。
【0070】
実施例及び比較例のガラスの透過率は、日本光学硝子工業会規格JOGIS02-2003に準じて測定した。なお、本発明においては、ガラスの透過率を測定することで、ガラスの着色の有無と程度を求めた。具体的には、厚さ10±0.1mmの対面平行研磨品をJISZ8722に準じ、200~800nmの分光透過率を測定し、光線透過率(分光透過率)、λ70(透過率70%時の波長)を求めた。
【0071】
実施例及び比較例のガラス中の白金量(ppm)は、ICP-MS(誘導結合プラズマ質量分析計)を使用し、測定を行った。
【0072】
実施例及び比較例のガラス中の泡の測定は、日本光学硝子工業会規格JOGIS12-2012「光学ガラスの泡の測定方法」に基づいて行った。
【0073】
実施例及び比較例のガラス中の微細な泡の数は、縦1.4cm×横2.4cm×厚さ1.0cmのガラスサンプルを用いて、オリンパス株式会社製の実体顕微鏡SZ61を使用し、算出を行った。
直径が30μm未満の微細な泡の数が53.5個以下のガラスサンプルは「〇」、微細な泡の数が53.5個を超えるガラスサンプルは「×」としている。
【0074】
【表1】
【0075】
本発明の実施例の本発明のガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が450nm以下であった。より詳細には、本発明の実施例の本発明のガラスは、いずれもλ70(透過率70%時の波長)が420nm以下だった。一方で、塩素のみを含有している比較例Bのガラスは、λ70が450nmより大きかった。このため、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて着色し難いことが明らかになった。
【0076】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも白金量が8ppm以下だった。一方で、塩素のみを含有している比較例Bのガラスは、白金量が8ppmを超えるものだった。このため、本発明の実施例のガラスは比較例のガラスに比べて白金量が少ないことが明らかになった。
【0077】
本発明の実施例の光学ガラスは、いずれも泡評価が1級であるが、本発明の実施例の光学ガラスは、比較例のガラスに比べて微細な泡が少ないため、内部品質が良いガラスであることが明らかになった。
【0078】
従って、本発明の実施例の光学ガラスは、還元剤及び塩素を添加することによって、ガラスを熔解する過程で酸化してガラス中に溶け出した白金によるガラスの着色を抑制しながら、微細な泡の発生を抑制されたことが明らかになった。
【0079】
以上、本発明を例示の目的で詳細に説明したが、本実施例はあくまで例示の目的のみであって、本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を当業者により成し得ることが理解されよう。