(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
(21)【出願番号】P 2020177281
(22)【出願日】2020-10-22
【審査請求日】2023-05-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 徹
(72)【発明者】
【氏名】中塚 孝太朗
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-032797(JP,A)
【文献】実開昭50-061253(JP,U)
【文献】特開2018-194148(JP,A)
【文献】特開2005-140258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34-15/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、
前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、前記回転密封環が摺動することでスラリ流体を機内領域に密封する静止密封環を有する静止側ユニットと、を備え、
前記静止側ユニットには、前記機内領域にフラッシング流体を導入する導入路が形成され、前記機内領域における前記回転密封環と前記静止密封環との摺動部付近を前記フラッシング流体の雰囲気とするメカニカルシールであって、
前記機内領域において前記ケーシング側に設けられ、ラビリンス隙間である第1隙間が前記回転軸との間に形成される第1円筒部と、
前記第1円筒部の軸方向奥側に連続して配置されるように前記ケーシング側に設けられ、前記第1隙間よりも大きい第2隙間が前記回転軸との間に形成される第2円筒部と、
前記第2円筒部の軸方向奥側に連続して配置されるように前記ケーシング側に設けられ、前記回転軸の回転によって前記フラッシング流体を前記第2隙間から前記機内領域の軸方向奥側へ送り出す流れを発生させる第3隙間が前記回転軸との間に形成される第3円筒部と、を備えるメカニカルシール。
【請求項2】
前記第3円筒部は、前記第3隙間を形成するために、前記回転軸を軸方向手前側から見た場合の前記回転軸の回転方向が締め付け方向となる雌ねじが内周に形成されている、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記第1円筒部、前記第2円筒部、及び前記第3円筒部は、単一の部材で構成されている、請求項1又は請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記単一の部材は、前記静止側ユニットの一部として構成されている、請求項3に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記静止側ユニットは、
前記静止密封環を前記回転密封環側へ押圧する軸方向に伸縮自在なベローズと、
前記回転軸の径外側において前記ケーシング側に設けられ、前記ベローズの伸縮をガイドするガイド部材と、をさらに有し、
前記ガイド部材が、前記単一の部材とされている、請求項4に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器の内部において、鉄屑、砂、石等の固形粒子を多量に含むスラリ流体を密封するものとして、
図4に示すメカニカルシール100が知られている。かかるメカニカルシール100は、回転軸101側に一体回転可能に設けられた回転密封環102と、ケーシング103側に設けられて回転密封環102が摺動する静止密封環104と、静止密封環104を回転密封環102側に押圧するベローズ105と、を備えている(特許文献1参照)。
【0003】
このようなメカニカルシール100には、スラリ流体が密封されている機内領域106に、スラリ流体とは別の清浄な流体であるフラッシング流体(エキスターナルフラッシング)を常に導入するための導入路107が形成されている。導入路107から機内領域106に導入されたフラッシング流体は、ケーシング103に設けられた環状のネックブッシュ108と回転軸101との間の環状隙間109を通過して機内領域106の軸方向奥側へ排出される。その際、環状隙間109におけるフラッシング流体の流速が高くなることで、ネックブッシュ108よりも軸方向奥側にあるスラリ流体が、環状隙間109を通過して回転密封環102と静止密封環104との摺動部付近に流れ込むのを抑制している。これにより、機内領域106における回転密封環102と静止密封環104との摺動部付近は、フラッシング流体の雰囲気とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のメカニカルシール100では、ネックブッシュ108と回転軸101との環状隙間109におけるフラッシング流体の流速が低くなると、
図5に示すように、ネックブッシュ108よりも軸方向奥側のスラリ流体が、環状隙間109を通過して回転密封環102と静止密封環104との摺動部付近へ流れ込み易くなる。そうすると、前記摺動部にスラリ流体中の固形粒子が噛み込み易くなり、スラリ流体が漏洩するおそれがある。また、スラリ流体中の固形粒子がベローズ105に堆積し易くなるので、ベローズ105の押圧力が不足して静止密封環104の追従不良が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、回転密封環と静止密封環との摺動部付近にスラリ流体が流れ込むのを抑制することができるメカニカルシールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明は、回転軸に一体回転可能に設けられ、回転密封環を有する回転側ユニットと、前記回転軸を包囲しているケーシングに設けられ、前記回転密封環が摺動することでスラリ流体を機内領域に密封する静止密封環を有する静止側ユニットと、を備え、前記静止側ユニットには、前記機内領域にフラッシング流体を導入する導入路が形成され、前記機内領域における前記回転密封環と前記静止密封環との摺動部付近を前記フラッシング流体の雰囲気とするメカニカルシールであって、前記機内領域において前記ケーシング側に設けられ、ラビリンス隙間である第1隙間が前記回転軸との間に形成される第1円筒部と、前記第1円筒部の前記機内領域の軸方向奥側に連続して配置されるように前記ケーシング側に設けられ、前記第1隙間よりも大きい第2隙間が前記回転軸との間に形成される第2円筒部と、前記第2円筒部の前記軸方向奥側に連続して配置されるように前記ケーシング側に設けられ、前記回転軸の回転によって前記フラッシング流体を前記第2隙間から前記機内領域の軸方向奥側へ送り出す流れを発生させる第3隙間が前記回転軸との間に形成される第3円筒部と、を備えるメカニカルシールである。
【0008】
本発明によれば、静止側ユニットの導入路から機内領域に導入されたフラッシング流体は、第1隙間(ラビリンス隙間)により、回転密封環と静止密封環との摺動部付近から軸方向奥側へ流れにくくなる。これにより、前記摺動部付近をフラッシング流体の雰囲気に維持することができる。また、前記摺動部付近から第1隙間内に流れ込んだフラッシング流体が第1隙間よりも大きい第2隙間に流れ込むことで、第2隙間内ではフラッシング流体の乱流が発生する。さらに、第3隙間内では、回転軸の回転により第2隙間から軸方向奥側へフラッシング流体を送り出す流れが発生する。したがって、第3隙間よりも軸方向奥側のスラリ流体は、第3隙間内でのフラッシング流体を軸方向奥側へ送り出す流れ、第2隙間内でのフラッシング流体の乱流、及び第1隙間のラビリンス隙間によって、これらの隙間を通過して前記摺動部付近に流れ込むのを抑制することができる。
【0009】
(2)前記第3円筒部は、前記第3隙間を形成するために、前記回転軸を軸方向手前側から見た場合の前記回転軸の回転方向が締め付け方向となる雌ねじが内周に形成されているのが好ましい。
この場合、回転軸が回転することで、第3円筒部と回転軸との間においてフラッシング流体が雌ねじの溝に沿って軸方向奥側へ送り出される。これにより、フラッシング流体を軸方向奥側へ送り出す流れを発生させる第3隙間S3を容易に形成することができる。
【0010】
(3)前記第1円筒部、前記第2円筒部、及び前記第3円筒部は、単一の部材で構成されているのが好ましい。
この場合、メカニカルシールの構成を簡素化することができる。
【0011】
(4)前記単一の部材は、前記静止側ユニットの一部として構成されているのが好ましい。
この場合、ケーシングに静止側ユニットを設けることで第1~第3隙間をそれぞれ形成することができるので、メカニカルシールの組み付けを容易に行うことができる。
【0012】
(5)前記静止側ユニットは、前記静止密封環を前記回転密封環側へ押圧する軸方向に伸縮自在なベローズと、前記回転軸の径外側において前記ケーシング側に設けられ、前記ベローズの伸縮をガイドするガイド部材と、をさらに有し、前記ガイド部材が、前記単一の部材とされているのが好ましい。
この場合、ベローズの伸縮をガイドするガイド部材が、第1~第3隙間を形成する単一の部材を兼ねるので、メカニカルシールの構成をさらに簡素化することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転密封環と静止密封環との摺動部付近にスラリ流体が流れ込むのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係るメカニカルシールを示す断面図である。
【
図2】前記メカニカルシールにおいてネックブッシュよりも軸方向奥側のスラリ流体が環状隙間を通過して機内領域の軸方向手前側へ流れ込んでいる状態を示す断面図である。
【
図4】従来のメカニカルシールを示す断面図である。
【
図5】従来のメカニカルシールにおいてネックブッシュよりも軸方向奥側のスラリ流体が環状隙間を通過して機内領域の軸方向手前側へ流れ込んでいる状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の好ましい実施形態について添付図面を参照しながら説明する。
[全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係るメカニカルシールの断面図である。
図1において、メカニカルシール1は、鉄屑、砂、石等の固形粒子が多量に含まれたスラリ流体(被密封流体)を取り扱うポンプ等の回転機器に用いられる。メカニカルシール1は、回転機器の回転軸71と、回転軸71を包囲しているケーシング72との間において、回転軸71の軸方向(以下、単に「軸方向」という)に沿って配置されている。
【0016】
本実施形態のメカニカルシール1は、ダブルメカニカルシールであり、回転軸71に一体回転可能に設けられた回転側ユニット2と、ケーシング72に設けられた静止側ユニット3とを備えている。なお、本明細書において、
図1の左側を軸方向手前側といい、
図1の右側を軸方向奥側という(
図2、
図3についても同様)。
【0017】
[回転側ユニット]
回転側ユニット2は、主な構成要素として、スリーブ11、第1ドライブリング12、第1回転密封環(回転密封環)13、第2ドライブリング14、及び第2回転密封環15を備えている。スリーブ11は、回転軸71の軸方向手前側の端部の外周に嵌合して固定された円筒状のスリーブ本体11aと、スリーブ本体11aの軸方向途中部から径外側に延びる環状のフランジ部11bと、を有している。スリーブ本体11aの内周面と回転軸71の外周面71aとの間は、Oリング16によりシール(二次シール)されている。
【0018】
第1ドライブリング12は、フランジ部11bの軸方向奥側に隣接してスリーブ本体11aの外周に嵌合されている。第1ドライブリング12は、ボルト17によりフランジ部11bに固定されている。第1回転密封環13は、第1ドライブリング12の軸方向奥側の内周に嵌合して固定されている。第1回転密封環13の軸方向奥側の端面にはシール面13aが形成されている。
【0019】
第1回転密封環13の軸方向手前側には、ピン溝13bが周方向に所定間隔をあけて複数(
図1では1個のみ図示)形成されている。各ピン溝13bには、第1ドライブリング12に突設されたピン18が挿入されている。これにより、第1回転密封環13は、第1ドライブリング12に対する相対回転が規制されている。スリーブ本体11aの軸方向奥側の外周面と第1回転密封環13の内周面との間は、Oリング19によりシール(二次シール)されている。
【0020】
第2ドライブリング14は、フランジ部11bよりも軸方向手前においてスリーブ本体11aの外周に嵌合されている。第2ドライブリング14の軸方向奥側には、セットスクリュー20が周方向に所定間隔をあけて複数(
図1では1個のみ図示)螺合されている。これらのセットスクリュー20を締め付けることで、第2ドライブリング14はスリーブ本体11aに固定されている。スリーブ本体11aの軸方向手前側の外周面と第2ドライブリング14の内周面との間は、Oリング21によりシール(二次シール)されている。
【0021】
第2回転密封環15は、第2ドライブリング14の軸方向手前側の内周に嵌合して固定されている。第2回転密封環15の軸方向手前側の端面にはシール面15aが形成されている。第2回転密封環15の軸方向奥側には、ピン溝15bが周方向に所定間隔をあけて複数(
図1では1個のみ図示)形成されている。各ピン溝15bには、第2ドライブリング14に突設されたピン22が挿入されている。これにより、第2回転密封環15は、第2ドライブリング14に対する相対回転が規制されている。
【0022】
[静止側ユニット]
静止側ユニット3は、主な構成要素として、第1シールケース30、第1ベローズ(ベローズ)31、第1静止密封環(静止密封環)32、第1ガイド部材(ガイド部材)33、第2シールケース34、第2ベローズ35、第2静止密封環36、及び第2ガイド部材37、備えている。第1シールケース30及び第2シールケース34は、それぞれ円筒状に形成されており、機外領域Aと機内領域Bとを区画する区画領域に配置されている。
【0023】
具体的には、第1シールケース30は、ケーシング72の軸方向手前側の端部に配置されている。第2シールケース34は、第1シールケース30の軸方向手前側に配置されている。第1シールケース30及び第2シールケース34は、図示しないボルトによりケーシング72に固定されている。第1シールケース30と第2シールケース34との間は、Oリング38によりシール(二次シール)されている。
【0024】
第1シールケース30は、ケーシング72の軸方向手前側の側面に配置された外ケース部30aと、ケーシング72の軸方向手前側の内周面に嵌合された内ケース部30bと、内ケース部30bの軸方向奥側の端部から径内側へ突出する環状の突出部30cと、を有している。内ケース部30bとケーシング72との間は、Oリング39によりシール(二次シール)されている。
【0025】
第1ベローズ31は、インコネルやステンレス等の金属で作製された円筒状の部材である。第1ベローズ31は、固定部31aと、伸縮部31bと、連結部31cと、を有している。固定部31aは、突出部30cの軸方向手前側に隣接して内ケース部30bの内周に嵌合して固定されている。伸縮部31bは、蛇腹状に形成されており、軸方向に伸縮自在である。伸縮部31bの軸方向奥側の端部は、固定部31aに連結されている。伸縮部31bの軸方向手前側の端部は、連結部31cに連結されている。連結部31cは、伸縮部31bが伸縮することで固定部31aに対して軸方向へ移動するようになっている。
【0026】
第1静止密封環32は、第1ベローズ31の連結部31cの軸方向手前側の内周に嵌合して固定されている。第1静止密封環32は、第1ベローズ31の付勢力により軸方向手前側に付勢されている。第1静止密封環32の軸方向手前側の端面にはシール面32aが形成されている。第1静止密封環32のシール面32aは、第1ベローズ31の付勢力により第1回転密封環13のシール面13aに押圧されている。これにより、第1回転密封環13のシール面13aは、第1静止密封環32のシール面32aに押圧されながら摺動する。
【0027】
第1ガイド部材33は、第1ベローズ31の伸縮をガイドするものであり、第1ベローズ31と回転軸71との間に配置されている。第1ガイド部材33は、第1シールケース30の突出部30cに固定された環状のフランジ部33aと、フランジ部33aの内周端において軸方向に延びる円筒部33bと、を有している。円筒部33bは、内ケース部30bにおける軸方向奥側の端部の径内側から、第1静止密封環32の径内側まで延びて形成されている。
【0028】
円筒部33bの外周面33b1には、第1ベローズ31の連結部31cの内周側に突出して形成された被ガイド部31dが、軸方向にスライド自在に当接している。被ガイド部31dは、連結部31cの周方向に間隔をあけて複数(
図1では1個のみ図示)形成されている。これにより、第1ガイド部材33は、円筒部33bの外周面33b1に被ガイド部31dが当接しながらスライドすることで、第1ベローズ31の伸縮をガイドする。
【0029】
第2ベローズ35は、第1ベローズ31と同様に、インコネルやステンレス等の金属で作製された円筒状の部材である。第2ベローズ35は、固定部35aと、伸縮部35bと、連結部35cと、を有している。固定部35aは、第2シールケース34の軸方向手前側の内周に固定されている。伸縮部35bは、蛇腹状に形成されており、軸方向に伸縮自在である。伸縮部35bの軸方向手前側の端部は、固定部35aに連結されている。伸縮部35bの軸方向奥側の端部は、連結部35cに連結されている。連結部35cは、伸縮部35bが伸縮することで固定部35aに対して軸方向へ移動するようになっている。
【0030】
第2静止密封環36は、第2ベローズ35の連結部35cの軸方向奥側の内周に嵌合して固定されている。第2静止密封環36は、第2ベローズ35の付勢力により軸方向奥側に付勢されている。第2静止密封環36の軸方向奥側の端面にはシール面36aが形成されている。第2静止密封環36のシール面36aは、第2ベローズ35の付勢力により第2回転密封環15のシール面15aに押圧されている。これにより、第2回転密封環15のシール面15aは、第2静止密封環36のシール面36aに押圧されながら摺動する。
【0031】
第2ガイド部材37は、第2ベローズ35の伸縮をガイドするものであり、第2ベローズ35とスリーブ本体11aとの間に配置されている。第2ガイド部材37は、第2シールケース34に固定されている(図示省略)。第2ガイド部材37は、軸方向に延びる円筒部37bを有している。円筒部37bは、第2シールケース34における軸方向手前側の端部の径内側から、第2静止密封環36の径内側まで延びて形成されている。
【0032】
円筒部37bの外周面37b1には、第2ベローズ35の連結部35cの内周側に突出して形成された被ガイド部35dが、軸方向にスライド自在に当接している。これにより、第2ガイド部材37は、円筒部37bの外周面37b1に被ガイド部35dが当接しながらスライドすることで、第2ベローズ35の伸縮をガイドする。
【0033】
[封液]
機外領域Aと機内領域Bとの間には、密封及び冷却用の封液(水又は油等)が導入される環状の封液領域Cが形成されている。封液領域Cは、第1ベローズ31の径外側から第2ベローズ35の径外側まで形成されている。第1回転密封環13及び第1静止密封環32は、これらの両シール面13a,32aが摺動することで、機内領域Bと封液領域Cとの間をシールしている。これにより、スラリ流体は、機内領域Bに密封されている。第2回転密封環15及び第2静止密封環36は、これらの両シール面15a,36aが摺動することで、機外領域Aと封液領域Cとの間をシールしている。
【0034】
第2シールケース34には、封液領域Cに封液を供給する供給路34aが形成されている。第1シールケース30には、封液領域C内の封液を外部に排出する排出路30dが形成されている。回転機器の運転中に供給路34aから封液領域Cに供給された封液は、第2回転密封環15と第2静止密封環36との摺動部である両シール面15a,36aを冷却する。また、封液領域Cに供給された封液は、第1回転密封環13と第1静止密封環32との摺動部である両シール面13a,32aを冷却する。前記各摺動部分を冷却した封液は、排出路30dから外部に排出される。以下、第1回転密封環13と第1静止密封環32との摺動部を、摺動部13a,32aともいう。
【0035】
[フラッシング流体]
第1シールケース30には、機内領域Bにフラッシング流体を常に導入する導入路40が形成されている。フラッシング流体としては、封液とは異なる種類の流体であり、かつ、機内領域B内のスラリ流体と混ざっても支承がない清浄な流体(水又は油等)が用いられる。導入路40は、封液の排出路30dよりも軸方向奥側において径方向に延びる第1路部40aと、第1路部40aの径内端から軸方向奥側に向かって延びる第2路部40bと、第2路部40bの軸方向奥側の端部から径内側に向かって延びる第3路部40cと、を有している。
【0036】
第1路部40aは、外ケース部30aに形成されている。第2路部40bは、外ケース部30aの径内側から、内ケース部30bの外周側においてケーシング72の内周面に沿って軸方向奥側に延びて形成されている。第3路部40cは、内ケース部30bの軸方向奥側の端部から突出部30cの内部を貫通して形成されている。
【0037】
これにより、フラッシング流体は、第1路部40a、第2路部40b、及び第3路部40cを順に通過する。第3路部40cを通過したフラッシング流体は、第1ベローズ31と第1ガイド部材33の円筒部33bとの間を通過し、機内領域Bの摺動部13a,32a付近に導入される。摺動部13a,32a付近に導入されたフラッシング流体は、第1ガイド部材33の円筒部33bと回転軸71との間を通過した後、ネックブッシュ73と回転軸71との間を通過して、機内領域Bの軸方向奥側へ排出される。
【0038】
ネックブッシュ73は、ケーシング72の内周面に取り付けられた環状の部材である。ネックブッシュ73と回転軸71との間には、ネックブッシュ73の軸方向両側におけるケーシング72と回転軸71との間よりも狭い環状隙間74が形成されている。この環状隙間74を通過するフラッシング流体の流速を高くすることで、ネックブッシュ73よりも軸方向奥側にあるスラリ流体が、環状隙間74を通過して摺動部13a,32a付近に流れ込むのを抑制している。これにより、機内領域Bの摺動部13a,32a付近を、フラッシング流体の雰囲気とすることができる。
【0039】
機内領域B内において、スラリ流体の圧力は、フラッシング流体の圧力よりも高く設定されている。これにより、機内領域Bの軸方向奥側にあるスラリ流体が、機内領域Bの軸方向手前側へ流れ込むのを抑制している。また、封液領域C内の封液の圧力は、機内領域B内のスラリ流体の圧力よりも高く設定されている。これにより、機内領域Bのスラリ流体及びフラッシング流体が封液領域Cに漏洩するのを抑制している。
【0040】
ところで、ネックブッシュ73と回転軸71との間の環状隙間74におけるフラッシング流体の流速が低くなると、
図2に示すように、ネックブッシュ73よりも軸方向奥側のスラリ流体が、環状隙間74を通過して機内領域Bの軸方向手前側へ流れ込む場合がある。そうすると、摺動部13a,32aにスラリ流体中の固形粒子が噛み込み易くなり、スラリ流体が漏洩するおそれがある。また、スラリ流体中の固形粒子が第1ベローズ31の伸縮部31bに堆積し易くなるので、第1ベローズ31の押圧力が不足して第1静止密封環32の追従不良が生じるおそれがある。
【0041】
本実施形態のメカニカルシール1では、環状隙間74におけるフラッシング流体の流速が低くなり、ネックブッシュ73よりも軸方向奥側のスラリ流体が環状隙間74を通過しても、スラリ流体が摺動部13a,32a付近へ流れ込むのを抑制する対策が施されている。具体的には、機内領域Bにおいて環状隙間74と摺動部13a,32aとの間に配置されている第1ガイド部材33の内周側に、スラリ流体が軸方向奥側から軸方向手前側へ流れ込みにくくする対策が施されている。以下、その詳細について説明する。
【0042】
[第1ガイド部材]
図3は、第1ガイド部材33を示す拡大断面図である。
図2及び
図3において、第1ガイド部材33の円筒部33bは、軸方向手前側から軸方向奥側へ向かって順に、第1円筒部331と、第2円筒部332と、第3円筒部333と、を有している。
【0043】
第1円筒部331の内周には、環状凹部331a及び環状凸部331bが軸方向全体にわたって交互に複数形成されている。そして環状凸部331bの内径は、回転軸71の外径よりも少しだけ大きい。これにより、第1円筒部331の内周には、回転軸71の外周面71aとの間にラビリンス隙間からなる第1隙間S1が環状に形成されている。
【0044】
第1隙間S1により、導入路40から機内領域Bに導入されたフラッシング流体が、摺動部13a,32a付近から軸方向奥側へ流れ込むのを抑制することができる。その結果、摺動部13a,32a付近をフラッシング流体の雰囲気に維持することができる。また、第1隙間S1により、スラリ流体が第1隙間S1の軸方向奥側から軸方向手前側へ流れるのも抑制することができる。
【0045】
第2円筒部332は、第1円筒部331の軸方向奥側に連続して配置されている。第2円筒部332は、断面視において平坦に形成された内周面332aを有している。内周面332aの直径D2は、第1円筒部331の環状凹部331aの直径D1よりも大きい。これにより、第2円筒部332の内周面332aと回転軸71の外周面71aとの間には、第1隙間S1よりも大きい第2隙間S2が環状に形成されている。その結果、摺動部13a,32a付近から第1隙間S1に流れ込んだフラッシング流体が第1隙間S1よりも大きい第2隙間S2に流れ込むことで、第2隙間S2内ではフラッシング流体の乱流が発生する。このような乱流が発生することで、軸方向奥側から第2隙間S2に流れ込んだスラリ流体が第1隙間S1へ流れ込むのを抑制することができる。
【0046】
第3円筒部333は、第2円筒部332の軸方向奥側に連続して配置されている。第3円筒部333の内周には、回転軸71の外周面71aとの間に第3隙間S3が環状に形成されている。第3隙間S3は、回転軸71の回転によってフラッシング流体を第2隙間S2から機内領域Bの軸方向奥側へ送り出す流れを発生させるように形成されている。
【0047】
本実施形態では、このような第3隙間S3を形成するために、第3円筒部333の内周に雌ねじ333aが形成されている。雌ねじ333aの締め付け方向は、回転軸71を軸方向手前側から見た場合の回転軸71の回転方向となっている。雌ねじ333aの直径D3は、第2円筒部332の内周面332aの直径D2よりも小さい。これにより、第3円筒部333の雌ねじ333aと回転軸71の外周面71aとの間には、第2隙間S2よりも小さい第3隙間S3が環状に形成されている。
【0048】
第3隙間S3により、回転軸71の回転に伴って、フラッシング流体を第2隙間S2から雌ねじ333aの溝に沿って軸方向奥側へ送り出す流れが発生する。このようなフラッシング流体の流れが発生することで、第3隙間S3よりも軸方向奥側のスラリ流体が第3隙間S3へ流れ込むのを抑制することができる。
【0049】
なお、本実施形態では、第1隙間S1の軸方向の長さよりも、第2隙間S2の軸方向の長さが長い。また、第2隙間S2の軸方向の長さよりも第3隙間S3の軸方向の長さが長い。
【0050】
以上により、回転軸71との間に第1~第3隙間S1~S3をそれぞれ形成する第1円筒部331、第2円筒部332、及び第3円筒部333は、単一の部材である第1ガイド部材33で構成されている。これにより、第1円筒部331、第2円筒部332、及び第3円筒部333は、静止側ユニット3の一部として構成されている。
【0051】
[本実施形態の作用効果]
本実施形態のメカニカルシール1によれば、第1シールケース30の導入路40から機内領域Bに導入されたフラッシング流体は、第1隙間S1(ラビリンス隙間)により、第1回転密封環13と第1静止密封環32との摺動部13a,32a付近から軸方向奥側へ流れにくくなる。これにより、摺動部13a,32a付近をフラッシング流体の雰囲気に維持することができる。また、第3隙間S3よりも軸方向奥側のスラリ流体は、第3隙間S3内でのフラッシング流体を軸方向奥側へ送り出す流れ、第2隙間S2内でのフラッシング流体の乱流、及び第1隙間S1のラビリンス隙間によって、これらの隙間S3,S2,S1を通過して摺動部13a,32a付近に流れ込むのを抑制することができる。
【0052】
また、第3円筒部333の内周に、回転軸71を軸方向手前側から見た場合の回転軸71の回転方向が締め付け方向となる雌ねじ333aを形成することで、回転軸71の回転により第3円筒部333と回転軸71との間においてフラッシング流体が雌ねじ333aの溝に沿って軸方向奥側へ送り出される。これにより、フラッシング流体を軸方向奥側へ送り出す流れを発生させる第3隙間S3を容易に形成することができる。
【0053】
また、第1~第3円筒部331~333は、単一の部材で構成されているので、メカニカルシール1の構成を簡素化することができる。
また、第1~第3円筒部331~333は、静止側ユニット3の一部として構成されているので、ケーシング72に静止側ユニット3を設けることで第1~第3隙間S1~S3をそれぞれ形成することができる。これにより、メカニカルシール1の組み付けを容易に行うことができる。
【0054】
また、第1ベローズ31の伸縮をガイドする第1ガイド部材33が、第1~第3隙間S1~S3を形成する第1~第3円筒部331~333を兼ねるので、メカニカルシール1の構成をさらに簡素化することができる。
【0055】
[その他]
本実施形態では、第3円筒部333よりも軸方向手前側に、第1円筒部331と第2円筒部332を1つずつ設けているが、第1円筒部331と第2円筒部332を交互に複数設けてもよい。また、第3円筒部333の内周には、フラッシング流体を第2隙間S2から軸方向奥側へ送り出す流れを発生させる第3隙間S3を形成することができれば、雌ねじ333a以外に、螺旋溝等の他の形状が形成されていてもよい。
【0056】
上記実施形態の第1~第3円筒部333は、単一の部材(第1ガイド部材33)で構成されているが、それぞれ別部材で構成されていてもよい。また、上記実施形態の第1~第3円筒部333は、静止側ユニット3の第1ガイド部材33に設けられているが、静止側ユニット3の他の部材、ケーシング72、又はネックブッシュ73に設けられていてもよい。また、本発明のメカニカルシールは、ダブルメカニカルシールに限定されるものではなく、シングルメカニカルシールにも適用することができる。
【0057】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1 メカニカルシール
2 回転側ユニット
3 静止側ユニット
13 第1回転密封環(回転密封環)
13a,32a 摺動部
31 第1ベローズ(ベローズ)
32 第1静止密封環(静止密封環)
33 第1ガイド部材(ガイド部材)
40 導入路
71 回転軸
72 ケーシング
331 第1円筒部
332 第2円筒部
333 第3円筒部
333a 雌ねじ
B 機内領域
S1 第1隙間
S2 第2隙間
S3 第3隙間