(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】耐力壁の剛性を増大させた木造住宅及び耐力壁の耐力を増大させる方法
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20240201BHJP
【FI】
E04H9/02 321A
(21)【出願番号】P 2020193087
(22)【出願日】2020-11-20
【審査請求日】2020-11-20
【審判番号】
【審判請求日】2022-02-28
(73)【特許権者】
【識別番号】592040826
【氏名又は名称】住友不動産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108327
【氏名又は名称】石井 良和
(74)【復代理人】
【識別番号】100102635
【氏名又は名称】浅見 保男
(72)【発明者】
【氏名】和泉沢 忠晴
(72)【発明者】
【氏名】赤坂 英司
(72)【発明者】
【氏名】森山 宜典
【合議体】
【審判長】居島 一仁
【審判官】住田 秀弘
【審判官】土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-199759(JP,A)
【文献】特開2021-25353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
E04B 2/56 - 2/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
木造住宅の耐力壁が設置される箇所における基礎の上面の鉛直方向の位置を耐力壁を設けない箇所の基礎の上面の鉛直方向の位置より高く
すると共に、
前記基礎の下面の高さをほぼ平坦として、基礎の上面の鉛直方向の位置を高くした箇所の基礎の上面の鉛直方向の位置を高くした分だけ高さを低くした耐力壁を設けた木造住宅。
【請求項2】
木造住宅の耐力壁が設置される箇所
における基礎の上面の鉛直方向の位置を耐力壁を設けない箇所の基礎の上面の鉛直方向の位置より高くすると共に、前記基礎の下面の高さをほぼ平坦として、基礎の上面の鉛直方向の位置を高くした箇所の基礎の上面の鉛直方向の位置を高くした分だけ耐力壁の高さを低くすることによって耐力壁の剛性を高めて
耐力壁の耐力を増大させる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は木造住宅の耐力壁に関し、補強金物を使用することなく耐力壁の剛性を高くし、地震に強い建築物を低コストで得られるようにすると共に、意匠的にも変化に富んだ住宅を提供できるようにするものである。
【背景技術】
【0002】
耐力壁は地震や風など、横方向・水平方向からの荷重に対抗するための壁であり、地震の多い日本においては、地震による住宅の崩壊を防ぐために重要な部材である。
木造建築物の構法としては、軸組構法(在来木造構法)とツーバイフォー構法(枠組壁工法)及び木質プレハブ構造(パネル式構造)等が挙げられる。
これらの各構法は、それぞれに特徴を有しており、軸組構法は、軸組及び耐力壁により鉛直荷重及び水平荷重を負担するため、特に、屋内の間取りの自由度が高く、改築も容易である。
【0003】
一方、ツーバイフォー構法は、基本的に、枠組に板材を貼り付けて構成した壁体及び床体により鉛直荷重及び水平荷重を負担するため、建築物の構築には面状の壁体及び床体の存在が必須である。
同様に、パネル式構造等の木質プレハブ構造も、パネルにより構成した壁体及び床体により鉛直荷重及び水平荷重を負担するため、建築物の構築には面状の壁体及び床体が必須となる。
【0004】
耐力壁強度が強いだけでは補強壁を取り囲む部材を破壊する恐れがあるため、耐力壁に粘りをもたせるために特許文献1(特許第4218754号公報)に開示されているように、柱、土台、梁(胴差し)により構成される枠材に切込みを設けて切込み枠を形成し、この切込み枠に構造用板材を周縁に5~10mmの遊間を設けて嵌め込んで固定することによって粘りを持たせた耐力壁が提案されており、 柱、土台、梁の枠材と構造用板材が一体となって耐力壁として機能し、限界を超える外力が作用した場合、切込みと構造用板材との間の遊間によって耐力壁が崩壊することなく枠が変形するので、急激に破壊するということがなく、粘りのある構造物とするということが提案されている。
【0005】
軸組構法では、筋交いにより耐力壁を設ける場合には、水平力に対する十分な強度を得るための筋交いの傾斜角度を考慮すると、耐力壁の壁倍率には限度があり、耐力壁の幅をあまり小さなものとすることはできない。
耐力壁の耐力を十分大きなものとするために、補強材の配置や種々の補強金物が提案されている。
【0006】
木造建築における耐震性を向上させ、水平荷重に対する耐力を強化するために耐力壁が必要であり、軸組構法では、垂直材の柱と土台及び胴差し等からなる横架材との間に筋交いを設けて耐力壁を構成する。そして、柱、土台、胴差し等の軸組により鉛直荷重を負担し、筋交いにより水平荷重を負担し、地震、台風等の際の水平力に対抗させている。更に、床組、及び小屋組(小屋梁面) の隅角に火打ち材を設けることによって水平力に対抗させている。
【0007】
一方、意匠上の観点から外壁に窓等の開口幅をできるだけ大きくすることが望まれており、そして、屋内においては、間仕切り部分の開口幅をできるだけ大きくしたいという要望もあることから、外壁及び内壁の幅をできるだけ小さくして開口部を大きなものとすることが多い。
しかしながら、構造物としての建築物の外壁及び内壁は、地震、台風等の際に生じる水平荷重に対する十分な耐力を得るため、所定の壁量を確保する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来、軸組木造住宅やツーバイフォー構法住宅であっても、木造建築物の基礎の高さは建築現場のサイトが水平の場合、一般的に一定の高さであって、耐力壁は基礎に設けた土台から軒までの高さとすることが通常行われていた。
本発明は、軸組構法及びツーバイフォー構法等の構法を問わずに適用でき、壁自体の構造的な改造によって耐力壁の強度を増大させるという考えから離れ、発想を変えて耐力壁の耐力を増大させることができる木造建築用耐力壁構造を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
木造住宅の耐力壁が設置される箇所の基礎の上面の高さ位置を耐力壁を設けない箇所の基礎の上面の高さ位置より高くすることによって耐力壁の剛性を高めて木造住宅の耐力を増大させる方法である。
剛性を高めるための補助部材や補助金具を追加することなく、耐力壁の耐力を増大させることができるので木造建築物の耐震性を低コストで改善することができる。
また、耐力壁に対する引抜力が小さくなるので、柱と基礎を連結するアンカーやホールダウン金物の設計が容易となりコストを低減することが可能となると共に、引抜力が小さくなるので高壁倍率の耐力壁の設計が容易となる。
更に、基礎の上面の高さ位置を高くする住宅における平面的位置を適宜に配置することによって建築物に意匠的アクセントを付加することができることになる。
【発明の効果】
【0011】
耐力壁を設置する部分の基礎の上面の高さ位置を他の基礎部分上面の高さ位置より高くしたことにより、必然的に耐力壁の高さは低いものとなる。耐力壁の高さに反比例して剛性が増大するものであるので耐力壁の変形量が小さくなる。
図示のように、耐力壁の高さを3分の1にすると剛性は3倍となり、変形量は3分の1となる。
剛性を高めるための補助部材や補助金具を追加することなく耐力壁の耐力を増大させることができるので木造建築物の耐震性を低コストで改善することができるのである。
また、耐力壁に対する引抜力が小さくなるので、柱と基礎を連結するアンカーやホールダウン金物の設計が容易となり、コストを低減することが可能となる。
また、同様に引抜力が小さくなるので高壁倍率の耐力壁の設計が容易となる。
更に、基礎の高さを高くする平面的位置を適宜に配置することによって建築物に意匠的アクセントを付加することができることになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】軸組構法の耐力壁の従来技術及び本発明の正面図。
【
図2】ツーバイフォー構法の耐力壁の従来技術及び本発明の正面図。
【
図4】本発明の耐力壁を適用した木造建築物の実施例の正面図・側面図。
【
図5】本発明の耐力壁を適用した他の木造建築物の実施例の正面図・側面図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1(1)は従来の軸組構法の耐力壁2であり、
図1(2)は本発明の軸組構法の耐力壁2の正面図であり、それぞれ概念的に示すものであって、耐力壁2が設置してある部分を抽出して示したものである。
図1(1)、(2)のどちらの例においても、基礎1は、鉄筋コンクリート製の基礎であり、軸組構法の耐力壁2が基礎1の上に土台3を介して梁4まで延びて固定されて耐力壁2としてある。
【0014】
図1(1)の従来の耐力壁においては、基礎1の高さは一定であるのに対し、
図1(2)の本発明においては、耐力壁2が設置される部分の基礎1の高さを高くしてあり、従って、耐力壁の高さを従来の耐力壁に比較して2分の1~3分の1に小さくしてある。
本発明に用いる耐力壁自体の構造は特に限定されるものでなく、どのような構造であっても構わないが、耐力を増大するための補強金具や土台、柱への固定手段であるアンカーやホールダウン金物の耐力を大きなものとする必要がなくなり、コストダウンを図ることができる。
【0015】
図2に示した耐力壁2は、本発明を適用したツーバイフォー構法の耐力壁2であって、
図1の軸組構法と同様な考え方に基づくものである。
図2(1)は従来の耐力壁2であり、
図2(2)は本発明に基づく耐力壁2であって、基礎1に設けた土台3に耐力壁2が固定してあり、耐力壁2の上部は床組6に固定してある。
図1の軸組構法と同様に、耐力壁2を設置する部分の基礎が部分的に高さを高くした基礎10としてある。
【0016】
図3(1)、(2)は地震時等の水平力が作用したときの耐力壁2の変形状態を概念的に示したものである。
図3(1)の従来技術では、基礎1の高さを一定にし、耐力壁の高さをHとした場合の水平力による変形量をDで示している。
図3(2)の本発明においては、耐力壁2を設置する部分の基礎1の高さを高くして耐力壁2の高さを従来のものに比して3分の1の高さ(H/3)とした場合、耐力壁2の変形量はD/3となり、耐力が大きくなることを視覚的に示したものである。
【0017】
図4、
図5に本発明の耐力壁を適用した木造建築物の実施例の外観二例を示す。木造建築物の構造は軸組構法でもツーバイフォー構法のどちらでも構築可能である。
図4の例は、建築物の玄関部分の基礎1の高さは通常の高さであり、コーナー部分には高さを高くした基礎10が形成してあり、高さの低い耐力壁2、2がコーナーを挟んで設けてある。高さの異なる基礎1、10を強調するためグレーで描いてあり、耐力壁2は点線で示してある。壁面や基礎の表面には適宜の化粧を施すことができる。高い基礎10の存在を隠したい場合は、基礎10を適宜の壁材で覆うようにしてもよい。
図5に示した例は、耐力壁2をコーナーだけでなく、壁面の中間部にも耐力壁2を設けた例である。開口部には耐力壁を設けないので基礎1の高さを高くする必要はないが、高い基礎10を連続させた例である。
耐力壁2の配置は実施例に限られるものでなく、建設地の地形、建築物の形状に応じて総合的に水平力に対抗できるように配置すればよい。
【符号の説明】
【0018】
1 基礎
10 高さを高くした基礎
2 耐力壁
3 土台
4 梁
5 柱
6 床組