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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-31
(45)【発行日】2024-02-08
(54)【発明の名称】金属微粒子分散体
(51)【国際特許分類】
   C08F 290/06 20060101AFI20240201BHJP
   C08F 220/28 20060101ALI20240201BHJP
   C08L 33/14 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 3/08 20060101ALI20240201BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08F290/06
C08F220/28
C08L33/14
C08K3/08
H01B1/22 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020504915
(86)(22)【出願日】2019-02-21
(86)【国際出願番号】 JP2019006487
(87)【国際公開番号】W WO2019171968
(87)【国際公開日】2019-09-12
【審査請求日】2021-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2018041312
(32)【優先日】2018-03-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000214250
【氏名又は名称】ナガセケムテックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】弁理士法人河崎特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡部 功治
(72)【発明者】
【氏名】山口 善之
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2008/149676(WO,A1)
【文献】特表平06-503114(JP,A)
【文献】特開2013-103945(JP,A)
【文献】特開2010-065145(JP,A)
【文献】特開2013-058403(JP,A)
【文献】特開2010-235689(JP,A)
【文献】国際公開第2009/031663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00-290/14
C08F 2/00-2/60
C08F 20/00-20/70
C08K 3/00-13/08
C08L 33/00-33/26
H01B 1/00-1/24
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル樹脂と、金属微粒子と、分散媒と、を含み、
前記アクリル樹脂は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAの単位と疎水基を有する(メタ)アクリレートモノマーBの単位とを含み、かつ、少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有し、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーAの単位の含有量が、10~30質量%であり、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーBの単位の含有量が、50~85質量%であり、
前記アクリル樹脂は、更に複素環を有するモノマーCの単位を含み、
前記アクリル樹脂は、前記モノマーCの単位として、前記複素環を有するヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレートモノマーの単位を少なくとも含み、
前記金属微粒子が、銀を含み、
前記金属微粒子の平均粒子径は、5~100nmである、金属微粒子分散体。
【請求項2】
アクリル樹脂と、金属微粒子と、分散媒と、を含み、
前記アクリル樹脂は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAの単位と疎水基を有する(メタ)アクリレートモノマーBの単位とを含み、かつ、少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有し、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーAの単位の含有量が、10~30質量%であり、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーBの単位の含有量が、50~85質量%であり、
前記アクリル樹脂は、更に複素環を有するモノマーCの単位を含み、
前記アクリル樹脂は、前記モノマーCの単位として、前記複素環を有するヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレートモノマーの単位を少なくとも含み、
前記金属微粒子が、銀および銅より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記金属微粒子の平均粒子径は、5~500nmであり、
樹脂基板に塗布される、金属微粒子分散体。
【請求項3】
アクリル樹脂と、金属微粒子と、分散媒と、を含み、
前記アクリル樹脂は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAの単位と疎水基を有する(メタ)アクリレートモノマーBの単位とを含み、かつ、少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有し、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーAの単位の含有量が、10~30質量%であり、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーBの単位の含有量が、50~85質量%であり、
前記アクリル樹脂は、更に複素環を有するモノマーCの単位を含み、
前記アクリル樹脂は、前記モノマーCの単位として、前記複素環を有するヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレートモノマーの単位を少なくとも含み、
前記金属微粒子が、銀および銅より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記金属微粒子の平均粒子径は、5~500nmであり、
ーコーターでガラス基板上に塗布し、送風乾燥機により120℃で30分間焼成することにより得られる導電膜の体積抵抗率が20μΩ・cm以下である、金属微粒子分散体。
【請求項4】
アクリル樹脂と、金属微粒子と、分散媒と、を含み、
前記アクリル樹脂は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAの単位と、疎水基を有する(メタ)アクリレートモノマーBの単位と、複素環を有するモノマーCの単位とを含み、かつ、少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有し、
前記金属微粒子が、銀および銅より選ばれる少なくとも1種を含み、
前記金属微粒子の平均粒子径は、5~500nmであり、
前記アクリル樹脂は、前記モノマーCの単位として、前記複素環を有するヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレートモノマーの単位を少なくとも含み、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーAの単位の含有量が、10~30質量%であり、
前記アクリル樹脂における前記(メタ)アクリレートモノマーBの単位の含有量が、50~85質量%であり、
前記アクリル樹脂における前記複素環を有するモノマーCの単位の含有量が、1~30質量%である、金属微粒子分散体。
【請求項5】
前記アクリル樹脂は、前記モノマーCの単位として、酸素含有環を有するヒドロキシ化合物の(メタ)アクリレートモノマーの単位を少なくとも含む、請求項4に記載の金属微粒子分散体。
【請求項6】
前記アクリル樹脂は、前記モノマーCの単位として、フルフリル(メタ)アクリレートモノマー単位を少なくとも含む請求項4または5に記載の金属微粒子分散体。
【請求項7】
前記(メタ)アクリレートモノマーAは、ポリアルキレングリコールの一方の末端の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換され、他方の末端の水酸基が-OR(Rは炭化水素基を示す)で置換されたモノマーを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の金属微粒子分散体。
【請求項8】
前記ポリアルキレングリコール部位におけるアルキレングリコール単位の繰り返し数が、4~120である、請求項1~7のいずれか1項に記載の金属微粒子分散体。
【請求項9】
前記ポリアルキレングリコール部位が、ポリエチレングリコール部位を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の金属微粒子分散体。
【請求項10】
前記疎水基が、アルキル基である、請求項1~9のいずれか1項に記載の金属微粒子分散体。
【請求項11】
前記アクリル樹脂の重量平均分子量は、5,000~100,000である、請求項1~10のいずれか1項に記載の金属微粒子分散体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば金属微粒子分散体の分散剤として用いられるアクリル樹脂およびその製造方法、ならびに金属微粒子分散体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品の微細な電極、回路などを形成するために、粒径が数nm~数十nm程度の金属微粒子(金属ナノ粒子)を分散媒中に分散させた金属微粒子分散体を用いることが提案されている。金属微粒子分散体は、金属インク、金属ペーストなどとも称される。金属ペーストは、バインダー樹脂を含む導電性のペーストである。金属微粒子分散体を基板上に塗布した後、熱、光等のエネルギーを付与することによって、金属微粒子同士が焼結し、もしくはバインダー樹脂が硬化して、導電膜が形成される。
【0003】
活性の高い金属微粒子は、低温でも焼結が進みやすく、粒子として不安定である。そのため、金属微粒子同士の焼結や凝集を防止して、保存安定性を向上させる方法が種々検討されている。
【0004】
例えばバインダー樹脂として、特定の構造を有するアクリル樹脂を用いる方法が検討されている。特許文献1には、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレートモノマーを含むモノマー混合物を重合させて得られる、ガラス転移温度が50℃以下の(メタ)アクリル樹脂を用いる方法が提案されている。また、特許文献2では、(メタ)アクリレートモノマーに由来するセグメントからなる主鎖を有し、ω位にリン酸系成分を有するポリマーからなる導電性ペースト用バインダー樹脂が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2010-135180号公報
【文献】国際公開第2011/001908号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
金属微粒子分散体を塗布する基板としては、ガラス、セラミックスのほか、樹脂(ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)も用いられる。このような樹脂を基板として用いる場合には、焼成温度を100~200℃程度の低温にすることが必要となる。
【0007】
しかし、金属微粒子の分散性および保存安定性が高いほど、低温での金属微粒子の焼成は進みにくい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAの単位を含み、かつ、少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有する、アクリル樹脂に関する。
【0009】
本発明の別の側面は、上記アクリル樹脂と、金属微粒子と、分散媒と、を含む、金属微粒子分散体に関する。
【0010】
本発明の更に別の側面は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAと、重合開始剤と、連鎖移動剤と、を含み、前記連鎖移動剤および前記重合開始剤の少なくとも一方が、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される少なくとも一種の官能基を有する、重合液を調製する工程と、前記重合液中で前記(メタ)アクリレートモノマーAを重合させて、前記(メタ)アクリレートモノマーAの単位を含み、かつ、少なくとも1つの末端に前記官能基を有するアクリル樹脂を合成する工程と、を含む、アクリル樹脂の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るアクリル樹脂を用いることにより、金属微粒子の分散性および保存安定性が高められるとともに、金属微粒子の焼成が低温でも進行し得る金属微粒子分散体を得ることができる。
【0012】
本発明の新規な特徴を添付の請求の範囲に記述するが、本発明は、構成および内容の両方に関し、本発明の他の目的および特徴と併せ、図面を照合した以下の詳細な説明によりさらによく理解されるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態に係るアクリル樹脂は、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマー単位Aを含み、かつ、少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有する。
【0014】
なお、本明細書中、アクリル樹脂とは、メタクリル樹脂を包含する意味で用いる。また、アクリレートおよびメタクリレートをまとめて(メタ)アクリレートと称することがある。
【0015】
ポリアルキレングリコール部位を有するだけでなく、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を主鎖の少なくとも1つの末端に有することにより、アクリル樹脂は、電極、回路などの形成に用いられる金属微粒子分散体の分散剤として優れた性能を発揮する。主鎖の末端のカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基は、金属微粒子と適度な相互作用を有すると考えられる。
【0016】
(メタ)アクリレートモノマーAの単位に加え、疎水基を有する(メタ)アクリレートモノマーBの単位を含むアクリル樹脂は、親水性と疎水性のバランスに特に優れた分散剤として機能し得る。親水性を有するポリアルキレングリコール部位は、金属微粒子表面と相互作用していると考えられる。一方、疎水性を有する部位が、金属微粒子から見てポリアルキレングリコール部位よりも外側に配されることで、金属微粒子間の距離が保たれるものと考えられる。この結果、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなると考えられる。
【0017】
カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基が、アクリル樹脂の主鎖の少なくとも1つの末端に存在すると、主鎖の末端に存在しない場合に比べて、立体障害が小さくなると考えられる。これにより、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基と、金属微粒子との相互作用が強くなりやすいと考えられる。そのため、アクリル樹脂の親水性と疎水性のバランスと、主鎖の末端に存在するカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基との相乗作用によって、金属微粒子の高い分散性および保存安定性が得られると考えられる。さらに、金属微粒子は、アクリル樹脂の主鎖の末端とのみ比較的強い相互作用を有していると考えられ、アクリル樹脂は金属微粒子から外れやすく、低温でも焼成が進行しやすくなると考えられる。
【0018】
以下、本発明の実施形態に係るアクリル樹脂およびその製造方法、ならびに、アクリル樹脂を用いた金属微粒子分散体について、より詳細に説明する。
【0019】
[アクリル樹脂]
アクリル樹脂には、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーA(以下、モノマーAと称する場合もある。)に由来する単位が含まれる。モノマーAは、アクリル樹脂の原料モノマーである。モノマーAとしては、ポリアルキレングリコール部位を有するモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。ポリアルキレングリコール部位に対応するポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコールとプロピレングリコールとの共重合体などが挙げられる。モノマーAは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、一種のモノマーA中に、二種以上のポリアルキレングリコール部位を有していてもよい。
【0020】
ポリアルキレングリコール部位を有するモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、例えば、ポリアルキレングリコールの一方の末端の水酸基が(メタ)アクリロイルオキシ基で置換されたモノマー、ポリアルキレングリコールの一方の末端の水酸基が、(メタ)アクリロイルオキシ基で置換され、他方の末端の水酸基が-OR(Rは、置換基を有していてもよい炭化水素基など)で置換されたモノマーなどが挙げられる。Rとしては、アルキル基(C1-26アルキル基またはC1-20アルキル基など)、脂環式炭化水素基(シクロアルキル基など)、およびアリール基(C6-14アリール基など)などが挙げられる。Rが有する置換基としては、例えば、水酸基、アルコキシ基、および/またはエステル基などが挙げられる。
【0021】
ポリアルキレングリコール部位を有するモノ(メタ)アクリレートとしては、特に限定されないが、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、オクトキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ラウロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ステアロキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、アリルオキシポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、水酸基末端ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。なお、「ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール」とは、エチレングリコールとプロピレングリコールとのブロック共重合部位を意味する。
【0022】
また、ライトエステル130MA、ライトエステル041MA(いずれも共栄社化学(株)製);NKエステルM-90G、NKエステルM-230G(いずれも新中村化学工業(株)製);ブレンマーPME、ブレンマーAME、ブレンマー50POEP-800B、ブレンマー50AOEP-800B、ブレンマーALE、ブレンマーPSE、ブレンマーASEP、ブレンマーPKEP、ブレンマーAKEP、ブレンマーPME、ブレンマーAME、ブレンマーPE-350(いずれも日油(株)製)の商品名で市販されている(メタ)アクリレートも用いることもできる。
【0023】
アクリル樹脂を金属微粒子分散体の分散剤として用いることを考慮すると、アクリル樹脂は、ポリエチレングリコール部位を含む(メタ)アクリレートモノマーの単位を少なくとも含むことが好ましい。また、アクリル樹脂に含まれるモノマーAの単位において、ポリアルキレングリコール部位は、少なくともポリエチレングリコール部位を含むことが好ましい。ポリエチレングリコール部位を有するモノマーAの重合は安定に進行しやすく、かつ得られるアクリル樹脂に金属微粒子の分散剤として所望の親水性部位を容易に付与し得る。そのため、得られるアクリル樹脂を金属微粒子分散体の分散剤として用いると、金属微粒子の分散性および保存安定性が高められる。
【0024】
ポリアルキレングリコール部位におけるアルキレングリコール単位(またはオキシアルキレン単位)の繰り返し数は、4~120であることが好ましく、9~90であることがより好ましい。このようなポリアルキレングリコール部位を有するモノマーAは重合が安定に進行しやすく、かつ得られるアクリル樹脂に金属微粒子の分散剤として所望の親水性部位を容易に付与し得る。そのため、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなる。一種のモノマーA中に、二種以上のポリアルキレングリコール部位を有するとき(例えば、モノマーAが異なるアルキレングリコールのブロック共重合部位を含む場合)は、アルキレングリコール単位の繰り返し数の合計が、上記の範囲内であることが好ましい。
【0025】
アクリル樹脂は、モノマーAに由来する単位のほかに、疎水基を有する(メタ)アクリレートモノマーB(以下、モノマーBと称する場合もある。)に由来する単位を有することが好ましい。モノマーBは、アクリル樹脂の原料モノマーである。モノマーBに由来する単位により、アクリル樹脂に金属微粒子の分散剤として望ましい疎水性部位を容易に付与し得る。疎水基としては、炭化水素基(脂肪族、脂環族または芳香族炭化水素基など)が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、例えば、アルキル基が挙げられる。アルキル基としては、例えば、C1-26アルキル基が挙げられ、C1-20アルキルであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、デシル、ステアリル基などが挙げられる。脂環族炭化水素基としては、シクロアルキル基(C4-10シクロアルキル基またはC5-8シクロアルキル基(例えば、シクロペンチル、シクロヘキシル基など)など)、架橋環式炭化水素基(C6-20架橋環式炭化水素基(例えば、ボルニル、イソボルニル基など)など)などが挙げられる。芳香族炭化水素基としては、アリール基(C6-20アリール基またはC6-14アリール基など)が挙げられる。アリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられる。脂肪族炭化水素基(アルキル基など)は、置換基として、脂環族基炭化水素基および/または芳香族炭化水素基を有していてもよい。脂環族炭化水素基および芳香族炭化水素基は、それぞれ、置換基として脂肪族炭化水素基を有していてもよい。置換基としてのこれらの炭化水素基としては、上記例示の炭化水素基から選択され、例えば、C1-4アルキル基、C5-8シクロアルキル基、C6-10アリール基などが挙げられる。
【0026】
モノマーBとしては、アルキル(メタ)アクリレート、脂肪族炭化水素基を有する(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートなどが好ましい。これらのモノマーは置換基を有していてもよい。アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n-ブチル(メタ)アクリレート、tert-ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n-ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。脂環族炭化水素基を有する(メタ)アクリレートとしては、例えば、シクロアルキル(メタ)アクリレート(シクロヘキシル(メタ)アクリレートなど)、架橋環式炭化水素基を有する(メタ)アクリレート(イソボルニル(メタ)アクリレートなど)などが挙げられる。アリール(メタ)アクリレートとしては、例えば、フェニル(メタ)アクリレート、トリル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。ただし、モノマーBは、これらに限定されるものではない。モノマーBは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
これらのモノマーBの中では、疎水基がアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。疎水基がアルキル基であるとき、得られるアクリル樹脂は、金属微粒子の分散剤としてより望ましい疎水性を示す。そのため、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなる。また、得られるアクリル樹脂が、金属微粒子からより容易に脱離しやすくなり、低温での焼成が進行しやすくなる。
【0028】
アクリル樹脂は、モノマーAに由来する単位およびモノマーBに由来する単位とは異なるモノマーCに由来する単位を有してもよい。モノマーCとしては、モノマーAおよびモノマーBから得られる親水性および疎水性や、アクリル樹脂の分散剤としての性能(例えば熱分解性)への影響の少ないモノマーが選択される。モノマーCとしては、モノマーAおよび/またはモノマーBと重合可能であればよく、アクリル系のモノマーに特に限定されるものではないが、モノマーAおよび/またはモノマーBと重合し易い観点からは、アクリル系モノマー((メタ)アクリレートなど)が好ましい。モノマーCとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリセリンモノメタクリレート、N,N,N-トリメチル-N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)-アンモニウムクロライド、ウレタンアクリレートなどが選択され得る。
【0029】
モノマーCとしては、複素環を有するモノマーを用いてもよい。アクリル樹脂が複素環を有するモノマーに由来する単位を有する場合、基材に対する高い密着性を確保することができる。複素環が有するヘテロ原子としては、例えば、酸素原子、窒素原子、および硫黄原子が挙げられる。複素環は、ヘテロ原子を一種有していてもよく、二種以上有していてもよい。複素環に含まれるヘテロ原子の個数は特に制限されず、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。複素環に含まれるヘテロ原子の個数は、例えば、4つ以下または3つ以下であってもよい。これらの下限値と上限値とは任意に組み合わせることができる。複素環は飽和または不飽和のいずれであってもよい。複素環は、例えば、3員環以上であってもよく、4員環以上または5員環以上であってもよい。複素環は、例えば、3員環以上8員環以下(または6員環以下)であってもよく、4員環以上8員環以下(または6員環以下)であってもよく、5員環以上8員環以下(または6員環以下)であってもよい。
【0030】
複素環を有するモノマーCとしては、複素環を有する(メタ)アクリレートなどが挙げられる。複素環を有するモノマーCとしては、例えば、複素環を有するヒドロキシ化合物(複素環を有するアルキルアルコールなど)の(メタ)アクリレートなどが挙げられる。複素環としては、酸素含有環(テトラヒドロフラン、ジオキソラン、フラン、テトラヒドロピラン、ジオキサンなど)、窒素含有環(ピロリジン、ピロール、イミダゾリン、ピリミジンなど)、硫黄含有環(テトラヒドロチオフェン、チオフェンなど)、二種以上のヘテロ原子を有する複素環(例えば、オキサゾール、チアゾール、モルホリンなど)などが挙げられる。アルキルアルコールとしては、例えば、C1-10アルキルアルコール(C1-6アルキルアルコールまたはC1-4アルキルアルコールなど)などが挙げられる。アルキルアルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2-プロパノール、ブタノール、ヘキサノールなどが挙げられる。中でも、酸素含有環を有する(メタ)アクリレート(例えば、フルフリル(メタ)アクリレートなど)は入手も容易で、基材に対する高い密着性が確保し易いため好ましい。
【0031】
モノマーA、モノマーB、必要に応じてその他のモノマーCの単位を含むアクリル樹脂において、モノマーAの単位の含有量は、10質量%~50質量%であることが好ましく、15質量%~30質量%であることがより好ましい。このとき、アクリル樹脂は、金属微粒子分散体の分散剤としてより好適な親水性を示す。また、アクリル樹脂を合成する際、親水性が高くなり過ぎず、モノマーの重合が安定に進行する。なお、モノマーAの単位の含有量は、アクリル樹脂の原料モノマーの総量に占めるモノマーAの質量割合に相当する。
【0032】
モノマーBの単位の含有量は、50質量%~90質量%であることが好ましく、70質量%~85質量%であることがより好ましい。このとき、アクリル樹脂は、金属微粒子分散体の分散剤としてより好適な疎水性を示す。モノマーBの単位の含有量は、アクリル樹脂の原料モノマーの総量に占めるモノマーBの質量割合に相当する。
【0033】
モノマーCの単位の含有量は、例えば、30質量%以下であり、10質量%以下が好ましい。高い密着性を確保し易い観点からは、モノマーCの単位の含有量は、1質量%以上が好ましい。モノマーCの単位の含有量は、アクリル樹脂の原料モノマーの総量に占めるモノマーCの質量割合に相当する。
【0034】
アクリル樹脂は、主鎖の少なくとも1つの末端に、カルボン酸基およびカルボン酸塩基からなる群より選択される官能基を有する。カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基の数は、特に限定されないが、アクリル樹脂は、主鎖の1つの末端にカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有することが好ましい。このとき、金属微粒子分散体中で、アクリル樹脂の疎水性を有する部分が空間的により広がりやすくなり、金属微粒子間の距離が適度に保たれやすい。なお、アクリル樹脂は、側鎖に上記の官能基を有していてもよいが、金属微粒子間の適度な距離を保持し易い観点からは、官能基の数は少ない方が好ましく、側鎖に上記の官能基を有さないことがより好ましい。
【0035】
カルボン酸塩基としては、アンモニウム塩、金属塩などが挙げられる。金属塩としては、例えば、アルカリ金属塩(ナトリウム塩、カリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(カルシウム塩など)などが挙げられる。
【0036】
アクリル樹脂の主鎖の少なくとも1つの末端に、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基が導入されていることは、例えば、下記の方法によって、アクリル樹脂の酸価またはアミン価を測定することにより確認できる。アクリル樹脂の主鎖の少なくとも1つの末端に、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基が導入されているとき、酸価またはアミン価は、例えば、3mg/g~15mg/gとなる。
【0037】
(酸価)
試料となるアクリル樹脂1gを、イソプロパノール100gに溶解させる。得られる溶液に対して、フェノールフタレインを指示薬に用いて、0.1N水酸化カリウム水溶液で中和滴定を行い、アクリル樹脂1gを中和するのに必要な水酸化カリウムの量(mg)を測定することにより、アクリル樹脂の酸価を求めることができる。
【0038】
(アミン価)
試料となるアクリル樹脂1gを、イソプロパノール100gに溶解させる。得られる溶液に対して、メチルオレンジを指示薬に用いて、0.1N塩酸水溶液で中和滴定を行い、アクリル樹脂1gを中和するのに必要な酸と当量の水酸化カリウムの量(mg)を測定することにより、アクリル樹脂のアミン価を求めることができる。
【0039】
アクリル樹脂の重量平均分子量は、5,000~10万であることが好ましく、1万~5万であることがより好ましい。アクリル樹脂を含む金属微粒子分散体の粘度が高くなりすぎず、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなるからである。また、低温で分解しやすいため、金属微粒子の低温での焼成が進みやすくなる。なお、重量平均分子量は、例えば、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、ポリスチレン換算により求めることができる。
【0040】
[アクリル樹脂の製造方法]
本実施形態に係るアクリル樹脂の製造方法は、例えば、ポリアルキレングリコール部位を有する(メタ)アクリレートモノマーAと、重合開始剤と、連鎖移動剤とを含み、連鎖移動剤および重合開始剤の少なくとも一方が、少なくとも1つのカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有する重合液を調製する工程と、重合液中でモノマーAを重合させて、モノマーAの単位を含み、かつ、少なくとも1つの末端にカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有するアクリル樹脂を合成する工程とを含む。
【0041】
重合液はモノマーAを含み、必要に応じて、モノマーBを含み、その他のモノマーCを含ませることもできる。
【0042】
モノマー全体におけるモノマーAの含有量およびモノマーBの含有量は、所望のアクリル樹脂の構造に応じて選択すればよい。
【0043】
重合液に対するモノマー全体の含有量(モノマー濃度)は、30質量%~80質量%であることが好ましく、40質量%~70質量%であることがより好ましい。モノマーの重合反応が進行しやすいからである。
【0044】
主鎖の少なくとも1つの末端に、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を導入する方法は、特に限定されないが、例えば、アクリル樹脂を合成する際に、少なくとも1つのカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有する重合開始剤、少なくとも1つのカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有する連鎖移動剤などを用いる方法を挙げることができる。このような重合開始剤および連鎖移動剤のいずれか一方を用いてもよく、重合開始剤および連鎖移動剤を併用してもよい。また、アクリル樹脂の主鎖の一方の末端にのみカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を導入してもよく、主鎖の両末端にカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を導入してもよい。
【0045】
アクリル樹脂は、モノマーA、モノマーB、必要に応じてその他のモノマーCを、ラジカル重合やカチオン重合のような公知の重合方法により重合させることによって合成される。熱や光によって分解してラジカルやイオンを発生する重合開始剤によって重合が開始される。そのため、アクリル樹脂の合成においては、熱や光によって分解してラジカルやイオンを発生する重合開始剤が用いられる。
【0046】
少なくとも1つのカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有する重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、ジコハク酸ペルオキシド、4、4′-アゾビス(4-シアノバレリック酸)、およびこれらの塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)が挙げられる。また、パーロイルSA(日本油脂(株)製)、V-501(和光純薬工業(株)製)の商品名で市販されている開始剤を用いることもできる。これらの重合開始剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、開始剤効率が高い点で、ジコハク酸ペルオキシドが好ましい。
【0047】
少なくとも1つのカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有する連鎖移動剤としては、特に限定されないが、例えば、メルカプトカルボン酸(2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、メルカプト酢酸、メルカプトコハク酸など)、およびこれらの塩(アンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩など)が挙げられる。これらの連鎖移動剤は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、アクリル樹脂の重量平均分子量の調節がしやすい点で、3-メルカプトプロピオン酸が好ましい。
【0048】
重合液に含まれる重合開始剤および連鎖移動剤としては、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有する重合開始剤または連鎖移動剤以外に、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有しない重合開始剤および連鎖移動剤を用いることもできる。このような重合開始剤および連鎖移動剤としては、例えば、公知のものが使用できる。
【0049】
カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有しない重合開始剤としては、特に限定されず、通常の(メタ)アクリレートモノマーの重合に用いられる重合開始剤を用いることができる。例えば、アゾ系重合開始剤(アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)など)、有機過酸化物系重合開始剤(パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、パーオキシジカーボネート、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステルなど)などが挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0050】
重合液に含まれる重合開始剤の含有量は、モノマーの合計量100質量部に対し0.1質量部~5質量部であることが好ましく、0.2質量部~3質量部であることがより好ましい。これにより重合率が高くなり、過剰な未反応の開始剤が重合後に残存しにくくなる。
【0051】
カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有しない連鎖移動剤としては、特に限定されず、例えば、チオール化合物が挙げられる。このような連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン(例えば、n-ブチルメルカプタン、t-ブチルメルカプタン n-オクチルメルカプタン、t-オクチルメルカプタン、n-ドデシルメルカプタン、t-ドデシルメルカプタンなど)、メルカプトカルボン酸のエステル(例えば、アルキルメルカプトプロピオネート(2-エチルヘキシル-3-メルカプトプロピオネート、n-オクチル-3-メルカプトプロピオネート、メトキシブチル-3-メルカプトプロピオネート、ステアリル-3-メルカプトプロピオネートなど)など)が挙げられる。これらは、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
重合液中に含まれる連鎖移動剤の含有量は、モノマーの合計量100質量部に対して0.1~10質量部であることが好ましく、0.2~5質量部であることがより好ましい。これにより、所望の重量平均分子量を有するアクリル樹脂を合成しやすくなる。
【0053】
重合液には、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤の他に、必要に応じて、例えば、溶媒を含ませることもできる。溶媒の種類は、モノマーなどに応じて公知の溶媒から適宜選択される。例えば、エステル(酢酸エチル、酢酸ブチルなど)、炭化水素(トルエンなど)、エーテル(メチルセロソルブ、ジオキサン、ブチルカルビトールなど)、ケトン(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、テルペン類(テルペンアルコール(ジヒドロターピネオール、ターピネオールなど)、テルペンアルコールのエステル(酢酸ジヒドロターピネオールなど)など)が用いられる。溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
重合液を調製する際、モノマー、重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒などは、同時に混合してもよく、順番に加えていってもよく、一部の成分を混合した後、残りの成分を加えてもよい。例えば、モノマー、連鎖移動剤、溶媒を含む重合液を室温で混合した後、加熱してから重合開始剤を加えてもよい。
【0055】
重合は、重合開始剤によって開始する。重合液中で少なくともモノマーAを重合させ、主鎖の重合反応を連鎖移動剤で停止させることによって、モノマーAの単位を含むアクリル樹脂が合成される。このとき、連鎖移動剤および重合開始剤の少なくとも一方が、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を有することにより、アクリル樹脂の主鎖の少なくとも1つの末端にカルボン酸基および/またはカルボン酸塩基が導入される。
【0056】
重合液の調製方法および重合液の重合方法は、特に限定されない。例えば、攪拌機、冷却器、温度計、湯浴および窒素ガス導入口を備えたセパラプルフラスコに、モノマー、連鎖移動剤、溶媒などを所定量入れ、攪拌することにより、重合液が調製される。
【0057】
重合液を、窒素ガスを用いてバブリングすることにより重合液中の溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し、攪拌しながら所定の温度まで昇温する。次いで、重合開始剤を溶媒で希釈した溶液を重合液中に加え、重合を開始する。重合開始から所定時間後、反応液を室温まで冷却して重合を終了させ、溶媒を乾燥させて除去することにより、アクリル樹脂が得られる。
【0058】
重合温度は、モノマーの種類などによって適宜決定されるが、例えば、60℃~100℃である。また、重合時間は、モノマーの種類、重合温度などによって適宜決定されるが、例えば、2時間~24時間である。
【0059】
[金属微粒子分散体]
本実施形態に係るアクリル樹脂は、金属微粒子分散体の分散剤として好適に用い得る。金属微粒子分散体は、金属微粒子と、分散剤と、分散媒とを含む。
【0060】
本実施形態の金属微粒子分散体は、ポリアルキレングリコール部位を有するだけでなく、カルボン酸基および/またはカルボン酸塩基を主鎖の少なくとも1つの末端に有するアクリル樹脂を分散剤として用いていることから、金属微粒子の分散性および保存安定性が高い。また、金属微粒子分散体を焼成すると、金属微粒子から分散剤が外れやすく、低温でも焼成が進行しやすい。したがって、本実施形態の金属微粒子分散体は、電子部品の微細な電極、回路などを形成するために使用される金属インクや金属ペーストとして好適に用い得る。
【0061】
一般的に、金属インクと、金属ペーストとは、含まれる分散媒量が異なる。分散媒の配合量が多く、粘度の低いものが金属インクと呼ばれる。また、分散媒の配合量が少なく、粘度の高いものが金属ペーストと呼ばれる。したがって、金属微粒子分散体は、用途に応じて、金属インクであってもよく、金属ペーストであってもよい。
【0062】
金属微粒子を形成する金属材料としては、金属単体や合金などが用いられる。金属単体または合金に含まれる金属元素としては、典型金属元素、遷移金属元素などが挙げられる。典型金属元素としては、例えば、亜鉛(Zn)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、アンチモン(Sb)、ビスマス(Bi)などが挙げられる。遷移金属元素としては、例えば、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、銀(Ag)、銅(Cu)、金(Au)などが挙げられる。合金は、これらの金属元素を二種以上含むものが好ましい。特に、銀および銅より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましく、金属材料としては、Ag単体、Ag合金、Cu単体、Cu合金などが好ましい。また、金属微粒子として、材料が異なる2種以上の金属微粒子を含んでいてもよい。
【0063】
金属微粒子の平均粒子径は、5nm~500nmであることが好ましく、5nm~100nmであることがより好ましい。このような平均粒子径を有する金属微粒子を用いることで、低温での焼結が進行しやすくなり、形成される導電膜の導電性も高くなる。
【0064】
平均粒子径は、体積粒度分布の累積体積50%における粒径(D50)である。平均粒子径(D50)は、レーザー回折式の粒度分布測定装置を用いて、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0065】
金属微粒子の形状は、特に制限されず、球状、楕円球状、多角柱状、多角錐状、扁平形状(薄片状、鱗片状、フレーク状など)、またはこれらの類似する形状などのいずれの形状であってもよい。金属微粒子間の接触を高めやすい観点からは、球状、楕円球状、扁平形状、もしくはこれらに類似する形状であることが好ましい。
【0066】
金属微粒子としては、市販のものを用いてもよく、金属材料を蒸発させることにより形成したものを用いてもよい。また、液相や気相中で化学反応を利用して作製した金属微粒子を用いてもよい。
【0067】
金属微粒子分散体中に含まれる金属微粒子は、分散性が高くなる点で、10質量%~80質量%であることが好ましく、20質量%~70質量%であることがより好ましい。
【0068】
金属微粒子分散体中に含まれるアクリル樹脂(分散剤)の含有量は、金属微粒子(または後述の金属微粒子のコロイド)100質量部に対して0.5質量部~10質量部であることが好ましく、1質量部~5質量部であることがより好ましい。アクリル樹脂の含有量が前記範囲のとき、金属微粒子の分散性および保存安定性が高くなり、焼成時のアクリル樹脂の分解も起こりやすい。
【0069】
金属微粒子分散体の分散媒としては、液状の分散媒が挙げられ、例えば、アルコール、エーテル、エステル、ケトン、炭化水素などが例示できる。分散媒には、テルペン類も含まれる。分散媒は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、シクロヘキサノールなどが挙げられる。エーテルとしては、例えば、脂肪族エーテル(鎖状エーテル、例えば、ジエチルエーテル、ブチルカルビトール、メチルセロソルブなど)、環状エーテル(テトラヒドロフランなど)などが挙げられる。エステルとしては、例えば、脂肪族エステル(酢酸エチル、酢酸ブチル、酪酸エチルなど)などが挙げられる。ケトンとしては、例えば、脂肪族ケトン(鎖状ケトン、例えば、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、脂環族ケトン(シクロヘキサノンなど)などが挙げられる。炭化水素としては、例えば、脂肪族炭化水素(ヘキサンなど)、脂環式炭化水素(シクロヘキサンなど)、芳香族炭化水素(ベンゼン、トルエンなど)などが挙げられる。テルペン類としては、例えば、テルペンアルコール(ジヒドロターピネオール、ターピネオールなど)、テルペンアルコールのエステル(酢酸ジヒドロターピネオールなど)などが挙げられる。
【0071】
金属微粒子分散体は、金属微粒子、分散剤、分散媒以外に、安定剤を含んでもよい。安定剤を用いることで、金属微粒子分散体中で金属微粒子同士が凝集せず、適度な距離を保つことができ、金属微粒子を安定化することができる。
【0072】
安定剤は、金属微粒子分散体を調製する際に添加してもよいが、金属微粒子に配位させた状態(金属コロイド)で使用することが好ましい。安定剤は、金属微粒子とともに混合し、必要により加熱することで金属微粒子に配位させてもよく、金属微粒子の作製過程で安定剤を用いることにより金属微粒子に配位させてもよい。
【0073】
安定剤としては、例えば、金属微粒子に配位する極性の官能基と疎水性の有機基とを有する有機化合物が用いられる。極性の官能基としては、例えば、アミノ基、メルカプト基、酸素含有基(ヒドロキシ基(フェノール性ヒドロキシ基を含む)、カルボニル基、エステル基、カルボキシ基など)などが挙げられる。安定剤は、極性の官能基を一種含んでいてもよく、二種以上含んでいてもよい。
【0074】
中でも、室温安定性の点で、アミノ基を含む化合物である有機アミンを用いることが好ましい。有機アミンは、一級アミン、二級アミン、三級アミンのいずれであってもよく、環状アミンおよび鎖状アミンのいずれであってもよい。金属微粒子に配位しやすい点では、一級アミン(中でも、一級鎖状アミン)が好ましい。有機アミンとしては、例えば、アルキルアミン(ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、ミリスチルアミンなど)が好ましい。金属微粒子の分散安定性が高く、焼成過程で除去しやすい点で、C6-14アルキルアミンまたはC8-12アルキルアミンが好ましい。
【0075】
炭素数の少ないアミンは、反応性が高いため、保存安定性が低下する場合がある。しかし、分散剤として本発明のアクリル樹脂を用いる場合は、このような炭素数が少ないアミンを用いても、高い保存安定性を確保することができる。
【0076】
安定剤は、焼成過程の適当な段階で除去されることが好ましいため、低分子化合物(例えば、分子量500以下の化合物)であることが好ましい。
【0077】
金属微粒子分散体中に含まれる安定剤(好ましくは、金属微粒子に配位した安定剤)の量は、金属微粒子100質量部に対して、例えば、0.1質量部~5質量部であり、0.2質量部~2質量部であることが好ましい。安定剤の量が前記範囲である場合、金属微粒子分散体中で金属微粒子を安定化しやすく、焼成時の除去も容易である。
【0078】
金属微粒子分散体は、必要に応じて、公知の添加剤(例えば、レベリング剤、密着性付与剤など)を含んでもよい。
【0079】
本発明に係る金属微粒子分散体は、金属微粒子の分散性および保存安定性が高い。例えば、調製した金属微粒子分散体は、25℃の条件下で1か月間保管した後にも沈殿が確認されない。
【0080】
本発明に係る金属微粒子分散体は、金属微粒子の焼成が100~200℃程度の低温でも十分に進行する。そのため、金属微粒子分散体を塗布する基板として、樹脂基板(例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどの樹脂で形成された基板など)を用いることができる。
【0081】
低温でも焼成が十分に進行することは、例えば、金属微粒子分散体を下記の方法で焼成し、体積抵抗率を測定することにより確認することができる。体積抵抗率が20μΩ・cm以下の低い値を示す場合、焼成が十分に進行していると評価される。
【0082】
(焼成)
バーコーターでガラス基板上に金属微粒子分散体を塗布し、送風乾燥機により120℃で30分間加熱焼成する。
【0083】
(体積抵抗率)
低抵抗率計により4探針法で表面抵抗率を測定し、接触式膜厚計で測定した膜厚で換算することにより、体積抵抗率を測定する。
【実施例
【0084】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1]
(1)アクリル樹脂(分散剤)の合成
攪拌機、冷却器、温度計、湯浴および窒素ガス導入口を備えた1Lセパラプルフラスコに、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(モノマーA、商品名「ライトエステル041MA」、共栄社化学(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=30)22質量% 、イソブチルメタクリレート(IBMA、モノマーB)78質量%を含有するモノマー混合物100質量部、3-メルカプトプロピオン酸(連鎖移動剤)1質量部、ブチルカルビトール(溶媒)100質量部を混合し、重合液を得た。
【0086】
重合液を、窒素ガスを用いて20分間バブリングすることにより溶存酸素を除去した後、セパラブルフラスコ系内を窒素ガスで置換し攪拌しながら80℃まで昇温した。次いで、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN、重合開始剤)0.5質量部をブチルカルビトールで希釈した溶液を重合液中に加えた。重合開始から15時間後、反応液を室温まで冷却して重合を終了させ、アクリル樹脂のブチルカルビトール溶液を得た。得られた溶液に2,000質量部の水を加え、攪拌後、ろ過して乾燥することで、ブチルカルビトールを除去した。
【0087】
得られたアクリル樹脂について、次の手順で評価を行った。
得られたアクリル樹脂について、カラム(製品名「GPC KF-802」、昭和電工(株)製)を用い、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による分析を行った。ポリスチレン換算による重量平均分子量は、15,000であった。また、アクリル樹脂が、式(1):
【0088】
【化1】
【0089】
に示す構造を有することを、核磁気共鳴装置(1H-NMR、400MHz、日本電子(株)製)による測定と、上記した方法による酸価の測定によって確認した。式(1)は、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートと、イソブチルメタクリレートとが、ランダム共重合していることを示す。式(1)中、nは30である。酸価は8mg/gであった。
【0090】
(2)金属微粒子分散体(金属インク)の調製
(2-1)銀コロイドの作製
硝酸銀20gと、イソブタノール100gと、ドデシルアミン(安定剤)100gとを混合した。混合物を、その温度が100℃になるまで加熱し、次いで5時間還流した。得られた混合物中の固形分を遠心分離で沈降させて回収した。回収した固形分を、メタノールで3回洗浄した後、遠心分離することにより、銀微粒子にドデシルアミンが配位した銀コロイドを回収した。
【0091】
(2-2)銀微粒子分散体の調製
(2-1)で作製した銀コロイドを100質量部、(1)で調製したアクリル樹脂を1質量部、シクロヘキサノール(分散媒)を100質量部となるように混合した。ホモジナイザーで攪拌した後、1μmフィルターでろ過精製して、銀微粒子分散体を調製した。銀微粒子分散体中、銀微粒子は50質量%、ドデシルアミンは銀微粒子100質量部に対して、0.2質量部であった。
【0092】
銀微粒子の平均粒子径は、40nmであった。なお、レーザー回折式の粒度分布測定装置(製品名「Nanotrac WaveII-EX150」、マイクロトラック・ベル(株)製)を用いて、レーザー回折散乱法によって測定することができる体積粒度分布の累積体積50%における粒径(D50)を平均粒子径とした。
【0093】
(3)銀粒子分散体の評価
(3a)分散安定性の評価
得られた銀微粒子分散体を、25℃の条件下、1か月間保管した後に沈殿の有無を確認した。沈殿がない場合はA、沈殿がある場合をBとして評価した。
【0094】
(3b)低温焼成の評価
バーコーターでガラス基板上に銀微粒子分散体を塗布し、送風乾燥機により120℃で30分間加熱焼成した。低抵抗率計(製品名「ロレスターAX MCP-T370」、(株)三菱ケミカルアナリテック製)により4探針法で表面抵抗率を測定し、接触式膜厚計(製品名「Dektak XT-E」、Bruker Corporation製)で測定した膜厚で換算して、体積抵抗率を測定した。
【0095】
(3c)基材密着性の評価
JIS K5600-5-6:1999に準拠したクロスカット法により基材に対する銀微粒子分散体の被膜の密着性を評価した。具体的には、バーコーターでガラス基板上に銀微粒子分散体を塗布し、120℃で30分乾燥させることにより厚み2μmの被膜を形成した。被膜にカッターで1マス2mm×2mmのサイズに切り込みを入れた(クロスカットした)。切り込みを入れた部分の中心付近に約75mmの長さにカットした幅25mmの透明感圧付着テープの長さ方向の中心付近が当たるように貼り付けた。このとき、テープの中心付近の少なくとも長さ20mmの部分が平らになるように、テープを被膜の切り込みを入れた部分に指で押しつけ、擦った。テープを付着させてから5分以内に、90°の角度で一気に引き剥がした。このとき、テープを貼り付けたカット部分において、剥離せずに残った部分の割合(%)を求め、この割合に基づき基材密着性を評価した。この割合が大きいほど基材密着性が高いことを示す。
【0096】
[実施例2]
アクリル樹脂の配合量を3質量部とした以外は、実施例1と同様にして、銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
【0097】
[実施例3]
アクリル樹脂の配合量を5質量部とした以外は、実施例1と同様にして、銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
【0098】
[実施例4]
アクリル樹脂を合成する際に、連鎖移動剤の量を0.2質量部とした以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。合成したアクリル樹脂は、式(1)に示す構造を有し、nは30、酸価は3mg/g、重量平均分子量は45,000であった。
【0099】
[実施例5]
アクリル樹脂を合成する際に、連鎖移動剤の量を5質量部とした以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。合成したアクリル樹脂は、式(1)に示す構造を有し、nは30、酸価は15mg/g、重量平均分子量は9,000であった。
【0100】
[実施例6]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAとして、「ライトエステル041MA」に代えて、「ライトエステル130MA」(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、共栄社化学(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=9)を用いた以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂は、式(1)に示す構造を有し、nは9、酸価は9mg/g、重量平均分子量は16,000であった。
【0101】
[実施例7]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAとして、「ライトエステル041MA」に代えて、「NKエステルM-230G」(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、新中村化学工業(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=23)を用いた以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂は、式(1)に示す構造を有し、nは23、酸価は7mg/g、重量平均分子量は17,000であった。
【0102】
[実施例8]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAとして、「ライトエステル041MA」に代えて、「ブレンマーPME4000」(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、日油(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=90)を用いた以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
【0103】
合成したアクリル樹脂は、式(1)に示す構造を有し、nは90、酸価は7mg/g、重量平均分子量は19,000であった。
【0104】
[実施例9]
アクリル樹脂を合成する際に、開始剤として、AIBNに代えてジコハク酸ペルオキシド(商品名「パーロイルSA」、日本油脂(株)製)を用いた。連鎖移動剤としては、3-メルカプトプロピオン酸に代えてドデカンチオールを用いた。これら以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
【0105】
合成したアクリル樹脂は、式(2):
【0106】
【化2】
【0107】
に示す構造を有していた。式(2)は、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートと、イソブチルメタクリレートとが、ランダム共重合していることを示す。式(2)中、nは30である。酸価は8mg/g、重量平均分子量は20,000であった。
【0108】
[実施例10]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAとして、「ライトエステル041MA」に代えて、「ライトエステル130MA」(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、共栄社化学(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=9)を用いた以外は、実施例9と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂は、式(2)に示す構造を有し、nは9、酸価は9mg/g、重量平均分子量は21,000であった。
【0109】
[実施例11]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAとして、「ライトエステル041MA」に代えて、「NKエステルM-230G」(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、新中村化学工業(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=23)を用いた以外は、実施例9と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂は、式(2)に示す構造を有し、nは23、酸価は10mg/g、重量平均分子量は19,000であった。
【0110】
[実施例12]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAとして、「ライトエステル041-MA」に代えて、「ブレンマーPME4000」(メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、日油(株)製、オキシエチレンの繰り返し数=90)を用いた。これ以外は、実施例9と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂は、式(2)に示す構造を有し、nは90、酸価は7mg/g、重量平均分子量は17,000であった。
【0111】
[比較例1]
銀コロイド10質量部およびシクロヘキサノール90質量部を混合し、ホモジナイザーで攪拌した後、1μmフィルターでろ過精製して、銀微粒子分散体を調製した。銀微粒子分散体には、アクリル樹脂を配合しなかった。調製した銀微粒子分散体について実施例1と同様に評価を行った。
【0112】
[比較例2]
アクリル樹脂を合成する際に、連鎖移動剤として、3-メルカプトプロピオン酸に代えて、ドデカンチオールをモノマー混合物100質量部に対して2質量部用いた以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
【0113】
[比較例3]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAを用いなかった以外は、実施例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
【0114】
[比較例4]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーAの量を21質量部およびモノマーBの量を77質量部にするとともに、さらにモノマーとしてメタクリル酸(MA)2質量部を用いた。これら以外は、比較例2と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂は、式(3):
【0115】
【化3】
【0116】
に示す構造を有していた。式(3)は、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレートと、イソブチルメタクリレートと、メタクリル酸とが、ランダム共重合していることを示す。式(3)中、nは30である。酸価は10mg/g、重量平均分子量は16,000であった。
【0117】
[実施例13]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーBの量を73質量部にするとともに、さらに、他のモノマーCとして「ライトエステルTHF(1000)」(テトラヒドロフルフリルメタクリレート、共栄社化学(株)製)を用いた。これら以外は、実施例5と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂の酸価は15mg/gであり、重量平均分子量は34,000であった。
【0118】
[実施例14]
アクリル樹脂を合成する際に、モノマーBの量を73質量部にするとともに、さらに、他のモノマーCとして、「SR611」(アルコキシ化テトラヒドロフルフリルアクリレート、サートマー社製)を用いた。これら以外は、実施例5と同様にして、アクリル樹脂および銀微粒子分散体を調製し、評価を行った。
合成したアクリル樹脂の酸価は15mg/gであり、重量平均分子量は23,000であった。
【0119】
実施例および比較例の分散剤の組成を表1に示す。実施例および比較例の結果を表2に示す。表1には、分散剤の原料および量(仕込み量)、銀コロイドに対する分散剤の配合量も合わせて示す。
【0120】
【表1】
【0121】
【表2】
【0122】
表に示されるようにポリアルキレングリコール部位を有し、かつ主鎖の末端にカルボン酸基を有するアクリル樹脂を分散剤として用いた実施例1~14の金属微粒子分散体は、25℃の条件下で1か月保存しても、沈殿が見られず、高い分散性および保存安定性を示していた。また、焼成後の体積抵抗率が低く、低温での焼成が十分に進行していることがわかった。
【0123】
一方、比較例2~4は、分散剤を用いなかった比較例1の金属微粒子分散体と同様に、25℃の条件下で1か月保存した後、沈殿が見られ、分散安定性および保存安定性が低かった。また、焼成後の表面抵抗率は高く、測定不能であった。このことから、低温での焼成も不十分であることがわかった。
【0124】
以上のことから、ポリアルキレングリコール部位を有し、かつ主鎖の末端にカルボン酸基を有するアクリル樹脂を用いた金属微粒子分散体は、高い分散性および保存安定性を有することが明らかになった。また、このような金属微粒子分散体は、低温で焼成しても、金属微粒子の焼成が低温でも十分に進行することがわかった。
【0125】
また、複素環を有するモノマー単位を含む実施例13および14では、基材に対する高い密着性を確保できた。
【0126】
本発明を現時点での好ましい実施態様に関して説明したが、そのような開示を限定的に解釈してはならない。種々の変形および改変は、上記開示を読むことによって本発明に属する技術分野における当業者には間違いなく明らかになるであろう。したがって、添付の請求の範囲は、本発明の真の精神および範囲から逸脱することなく、すべての変形および改変を包含する、と解釈されるべきものである。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本発明に係るアクリル樹脂を用いることにより、金属微粒子の分散性および保存安定性が高く、さらに金属微粒子分散体に含まれる金属微粒子の焼成が低温でも十分に進行する金属微粒子分散体を得ることができる。得られる金属微粒子分散体は、電子部品の微細な電極、回路などを形成に用いられる金属インクや金属ペーストなどに有用である。しかし、これらの用途に限定されるものではなく、アクリル樹脂は、様々な用途に利用できる。